説明

難溶解性付着物の洗浄剤、遠心薄膜乾燥機、及びその洗浄方法

【課題】機器や配管等の金属表面に付着したカルシウム塩のスケールを良好に洗浄する難溶解性付着物の洗浄技術を提供する。
【解決手段】難溶解性付着物の洗浄剤は少なくともギ酸を成分に有し、金属表面に付着したカルシウム塩のスケールを洗浄する。遠心薄膜乾燥機20においてこの洗浄剤を供給する供給タンク31が接続されている。例えば、乾燥処理の対象となる廃液が、ホウ酸カルシウムを主成分とする懸濁液である場合、洗浄剤のギ酸濃度が0.5〜10wt%、好ましくは1〜5wt%の範囲に調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難溶解性であるカルシウム塩のスケールが付着した金属表面の洗浄技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラーや熱交換器等の金属表面に付着するスケールは、熱媒体等の流量の低下や熱伝導率の悪化等を引き起こし、機器の性能低下や故障の原因となる。機器の性能を維持するために、これら付着物を定期的に洗浄することが必要であり、短時間でかつ機器材料を傷めずに実施できる洗浄技術が求められている。
【0003】
一般産業機器において除去が検討されるスケールの主成分は、酸化鉄や炭酸カルシウムなどである場合が多い。
また、原子力施設では、例えば加圧水型原子炉(PWR)において、ホウ酸を含む廃液が発生し、この廃液を乾燥・粉体化する遠心式薄膜乾燥機が用いられている。この廃液に対しカルシウムを添加してホウ酸を不溶化する処理がなされるため、遠心式薄膜乾燥機には、ホウ酸カルシウムを主成分とするスケールが付着する。
【0004】
このように、ボイラー、熱交換器、遠心式薄膜乾燥機といった機器等の金属表面には、カルシウム塩のスケールが付着する。これらスケールは、これら機器の伝熱性能を低下させるだけでなく、回転体を有する機器については、スケールが多量に付着することにより回転体の重量バランスが悪化し、回転の抵抗力が増加し、機器に振動や騒音を発生させ、モータ負荷が上昇し、安定した運転を阻害する原因となる。
【0005】
このために、機器の金属表面を腐食させることなく、付着したスケールを効果的に除去する技術がこれまでに数多く検討されてきた。
遠心薄膜乾燥機に関して、定格運転の期間中に粉体付着の最も多い軸方向中央部分に温水をスプレーして付着物を溶解洗浄する工程を設けるスケールの除去技術が開示されている(例えば、特許文献1,2)
蒸発装置に関して、高圧水を吹き付けてカルシウム塩のスケールを除去する技術が開示されている(例えば、特許文献3)。
【0006】
難溶解性付着物の洗浄剤に関して、イソプレンスルホン酸系薬剤を炭酸カルシウムのスケールの除去に適用する技術が開示されている(例えば、特許文献4)。
また、強酸に属さない酸性洗浄剤として、グリシン型両性界面活性剤、乳酸、ノニオン界面活性剤、ヒドロキシアルキルセルロース又はキサンタンガム等の混合物が開示され(例えば、特許文献5)、その他にもホスホン酸、カルボキシル基を2個以上持つ有機酸とキレート剤の混合物(例えば、特許文献6)、有機酸のクエン酸と無機酸のスルファミン酸の混合物(例えば、特許文献7)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平8−24802号公報
【特許文献2】特公平6−79641号公報
【特許文献3】特開平6−269602号公報
【特許文献4】特開平6−63590号公報
【特許文献5】特開2010−84087号公報
【特許文献6】特開平6−154790号公報
【特許文献7】特開2006−305509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前記した特許文献1〜3に開示されている洗浄方法では、付着物が温水や冷水に対し高い溶解度を示す場合に有効であるが、溶解度が低い場合はスケールの除去効果が不十分となる。
原子力施設で用いられる遠心薄膜乾燥機の場合、前記した洗浄方法は定格運転における性能維持の観点から実施されるもので、機器の分解点検時に残留付着物から作業員が受ける放射線の被曝量を低減させることについては考慮されていない。
【0009】
前記した特許文献4〜6に開示されている洗浄剤は、分解不可能な無機化合物や難分解性のキレート剤等を含み、廃液処理により二次廃棄物を発生させたり、環境に放出された際に悪影響を及ぼしたりすることが懸念される。
原子力施設で用いられる遠心薄膜乾燥機の場合、放射性二次廃棄物の増加は避けたいところである。また、廃棄物をコンクリートで固化処分する際に、キレート剤は、核種の閉じ込め性に悪影響を与える場合があることから、キレート剤を含む洗浄剤の使用も避けたいところである。
【0010】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、機器や配管等の金属表面に付着したカルシウム塩のスケールを良好に洗浄する難溶解性付着物の洗浄技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の難溶解性付着物の洗浄剤は、少なくともギ酸を成分に有し金属表面に付着したカルシウム塩のスケールを洗浄することを特徴とする。
また、遠心薄膜乾燥機において、この洗浄剤を供給する供給タンクが接続されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、機器や配管等の金属表面に付着したカルシウム塩のスケールを良好に洗浄する難溶解性付着物の洗浄技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る遠心薄膜乾燥機の洗浄方法の実施形態を示すフローチャート。
【図2】本発明に係る遠心薄膜乾燥機において廃液を粉体化する乾燥工程の実施形態を示す概略図。
【図3】本発明に係る遠心薄膜乾燥機において定格運転期間における簡易洗浄工程の実施形態を示す概略図。
【図4】本発明に係る遠心薄膜乾燥機において分解工程に先立って実施する徹底洗浄工程の実施形態を示す概略図。
【図5】徹底洗浄工程の他の実施形態を示す概略図。
【図6】本発明に係る難溶解性付着物の洗浄剤の実施形態の効果を実証するための比較実験グラフ。
【図7】本発明に係る難溶解性付着物の洗浄剤の実施形態の効果を実証するための比較実験グラフ。
【図8】ギ酸溶媒の初期濃度に対するカルシウム塩のスケールの溶解率、及び生成したカルシウム塩の溶液の水素イオン濃度を示すテーブル。
【図9】洗浄剤に含まれるギ酸及びスケールに含まれるカルシウムのモル比に対するスケールの溶解率を示すグラフ。
【図10】ギ酸溶媒の温度に対するスケールの溶解率を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に示すように実施形態に係る遠心薄膜乾燥機の洗浄方法は、この遠心薄膜乾燥機に廃液を投入して粉体化する粉体化工程(S11)、この粉体化工程のインターバルに遠心薄膜乾燥機を簡易洗浄する工程(S12,S13;NO)、分解工程(S15)に先立って遠心薄膜乾燥機を洗浄剤で徹底洗浄する工程(S13;YES,S14)、を含む。
そして、徹底洗浄工程(S14)の終了後、遠心薄膜乾燥機を分解し(S15)、構成部品の点検、修理、交換、組み立て等といった検査工程を実施する(S15,S16)。
【0015】
乾燥処理の対象となる廃液は、例えば、加圧水型原子炉(PWR)から排出されるホウ酸廃液を、水酸化ナトリウムで中和して生成したホウ酸ナトリウムに、水酸化カルシウムを添加した難溶解性のホウ酸カルシウム(Ca(BO2)2)を主成分とする懸濁液である。
【0016】
図2に基づいて乾燥工程(図1;S11)を説明する。
廃液供給部12から供給される廃液は、弁14を介して、遠心薄膜乾燥機20の投入口21に投入される。この遠心薄膜乾燥機20に投入された廃液は、伝熱面23を濡らしながら降下する間に加熱され、廃液中の液体は蒸発し固形分はこの伝熱面23に付着する。
なお、この伝熱面23は、加熱蒸気17が入口24から流入して出口25から排出することにより、連続的に熱供給される。
【0017】
遠心薄膜乾燥機20の中心で回転する回転軸26には、回転翼27が設けられている。この回転翼27と伝熱面23との間隔は0.5mm程度であるため、伝熱面23に付着した固形分(Ca(BO2)2)は、回転翼27で掻き落とされることになる。
この掻き落とされた固形分は、乾燥粉体となって遠心薄膜乾燥機20の下部排出口22から排出され、弁16を介して粉体蓄積部42に蓄積される。そしてこの粉体蓄積部42に蓄積された乾燥粉体は、放射性廃棄物としてコンクリートで固化処分される。
【0018】
また廃液中の液体が蒸発した蒸気は、上部排出口28から排出された後に凝縮部15で液体となり、液体蓄積部43に蓄積される。そしてこの液体蓄積部43に蓄積された液体は、洗浄液供給部13で再利用することができる。
【0019】
図3に基づいて簡易洗浄工程(図1;S12)を説明する。
廃液に含まれる固形分のうち一部は、下部排出口22から排出されることなく、回転軸26及び回転翼27に付着し、その付着量は粉体化工程(図1;S11)の進行とともに増大していく。すると、遠心薄膜乾燥機20の運転の安定性が次第に低下していく。
そこで、粉体化工程(図1;S11)のインターバルに、遠心薄膜乾燥機を洗浄液(水又は水を加温した温水)で簡易洗浄する工程(S12)を実行する。
【0020】
洗浄液供給部13から供給される洗浄液は、弁14を介して、遠心薄膜乾燥機20の投入口21に投入される。この遠心薄膜乾燥機20に投入された洗浄液は、伝熱面23、回転軸26及び回転翼27を濡らし、付着している固形分を剥離させる。
この剥離した固形分は、洗浄液とともに遠心薄膜乾燥機20の下部排出口22から排出され、弁16を介して洗排液蓄積部41に蓄積される。
この洗排液蓄積部41の蓄積物は、廃液供給部12にフィードバックされて、次回の粉体化工程(S11)において遠心薄膜乾燥機20で再処理されることになる。
【0021】
図4に基づいて徹底洗浄工程(図1;S14)を説明する。
遠心薄膜乾燥機20の定格運転が終了すると、次に遠心薄膜乾燥機20の定期検査が実行される。定期検査直前における遠心薄膜乾燥機20の回転軸26及び回転翼27の表面には、簡易洗浄工程(図3)では落としきれない固形分がスケールとして付着している。
定期検査は、機器の分解・組み立ての作業(図1;S15)を伴うため、作業員の被曝量を極力低減するために、回転軸26及び回転翼27の表面に付着するスケールを徹底洗浄する。なお、徹底洗浄とは上述した簡易洗浄に使用する洗浄液よりもカルシウム塩のスケールの溶解能が高い洗浄剤を使用する洗浄である。
【0022】
徹底洗浄工程(S14)において、遠心薄膜乾燥機20の上部及び下部(図1では投入口21及び下部排出口22)へ両端が接続する循環路30に、洗浄剤が循環する。この洗浄剤は、供給タンク31に蓄積されており、ポンプ32及び弁33を介して循環路30に供給される。
【0023】
洗浄剤は、少なくともギ酸を成分に有し、回転軸26及び回転翼27の金属表面に付着したカルシウム塩のスケールを洗浄するものである。
ここで洗浄剤は、ギ酸の濃度が0.5〜10wt%、好ましくは1〜5wt%の範囲に調整されている。
洗浄剤のギ酸濃度が0.5wt%未満であると、遠心薄膜乾燥機20に付着するスケールを除去するのに必要な洗浄剤が大量となりその処理負担が大きくなる。また洗浄剤のギ酸濃度が10wt%を超えると、揮発により作業環境が悪化する。
【0024】
また使用する洗浄剤の組成は、ギ酸単体の水溶液である場合の他に、乳酸、クエン酸、アスコルビン酸及びグルコン酸のうち少なくとも一つとギ酸との混酸溶媒である場合も含まれる。これら有機酸は、金属表面を腐食させることなく、スケールの溶解能が高く、また使用後に分解処理することも容易である。
また使用する洗浄剤の量は、金属表面に付着するスケール中のカルシウムの想定量に対し、有機酸のモル比が2倍以上になるように設定することが望ましい。
【0025】
循環路30には、洗浄剤を循環させるポンプ34と、洗浄剤の水素イオン濃度を検出するpH検出部35と、循環している洗浄剤中の固形物を濾過するフィルタ36と、洗浄剤を加熱して温度設定する加熱部37とが設けられている。
前記したギ酸の水溶液は、高温であるほどカルシウム塩のスケールの溶解度が向上するために、洗浄剤の温度は、60℃以上に設定されることが望ましい。
【0026】
また、カルシウム塩のスケールの溶解が進行するに伴い、洗浄剤のギ酸濃度が低下するので、pH検出部35で検出される水素イオン濃度を監視することにより、スケール除去の進行状況を把握することができる。
また、このpH検出部35の検出値に基づいて、新規にギ酸(有機酸)を投入して、洗浄剤を適正濃度に制御することができる。
【0027】
図5に基づいて徹底洗浄工程(図1;S14)の他の実施形態を説明する。
図4では洗浄剤を循環させる徹底洗浄工程を示したが、図5は洗浄剤をワンパスで流動させる徹底洗浄工程を示している。
この場合、遠心薄膜乾燥機20の内部を洗浄剤で満たし、回転軸26及び回転翼27をドブ付けした状態で間欠的に低速回転させることが望ましい。
これにより、スケールの付着した金属表面に対し、洗浄剤が流動接触することとなり、洗浄剤を循環させた場合と同様の洗浄効果を得ることができる。
【実施例】
【0028】
次に、本発明の効果を確認したビーカーレベルの実施例について説明する
スケールのサンプルは、次のように作製した。まず、ホウ酸溶液を水酸化ナトリウムで中和しホウ酸ナトリウムを形成させ、さらに水酸化カルシウムを添加してホウ酸カルシウムCa(BO2)2を主成分とした模擬廃液を作製した。
作製した模擬廃液を、遠心式薄膜乾燥機のモックアップに投入して乾燥処理を実行し、その金属表面にスケールを付着させた。そしてこの付着したスケールを剥離させて実験用のスケールサンプルとした。
【0029】
溶媒としてそれぞれ0.25wt%に濃度設定されたギ酸(実施例1)、スルファミン酸(比較例1)、EDTA・2Na[エチレンジアミン四酢酸2ナトリウム塩](比較例2)、3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸4ナトリウム(比較例3)を用いた。
これら各種溶媒100mLを60℃に設定し、スケールサンプル3gとともにスターラーで10時間撹拌した。撹拌終了後、孔径0.45μmのシリンジフィルタを通してサンプリングした溶液のカルシウム濃度を測定し、スケールサンプルの溶解率を算出した結果を図6に示す。
【0030】
この図6で選抜された溶媒は、カルシウム塩に対し溶解能を有する化合物のうち、有機酸としてギ酸、無機酸としてスルファミン酸、キレート剤としてEDTA・2Na(エチレンジアミン四酢酸2ナトリウム塩)、生分解性キレート剤として3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸4ナトリウムを選択した。
図6の結果から、カルシウム塩のスケールの溶解能は、有機酸であるギ酸が一番優れるといえる。
【0031】
有機酸は、過酸化水素などの酸化剤により、二酸化炭素と水に分解可能であるため、高濃度で用いても廃液処理による二次廃棄物が発生しない。そこで、さらに高濃度の有機酸を溶媒としてスケールサンプルの溶解試験を行った。
有機酸溶媒としてそれぞれ2.5wt%に濃度設定されたギ酸(実施例2)、クエン酸(比較例4)、L−アスコルビン酸(比較例5)を用い、参考例として水溶媒も用いた。
これら各種溶媒に対し、図6と同じ条件でスケールサンプルを溶解させ溶解率を算出した結果を図7に示す。
【0032】
この図7で選抜された溶液は、カルシウム塩に対し溶解能を有する有機酸である。なお有機酸としてシュウ酸が、原子力施設の除染剤として一般に用いられるが、シュウ酸はカルシウムと反応して溶解度の低いシュウ酸カルシウムを生成するため、洗浄性は期待できず検討対象外とした。
図7の結果から、カルシウム塩のスケールの溶解能は、有機酸のなかでもギ酸が一番優れ、スケールサンプルの全量溶解が確認された。
【0033】
図8は、ギ酸溶媒の初期濃度に対するカルシウム塩のスケールの溶解率、及び生成したカルシウム塩の溶液の水素イオン濃度(pH)を示している。なお実験条件は、図6,図7と同様である。
図8より、カルシウム塩のスケールの溶解が進行するのに伴ってギ酸は消費され、スケールを全部溶解させるのに必要なギ酸量が不足するほど、溶液のpHはアルカリ側にシフトしていくことが判る。
これより、カルシウム塩の溶液(洗浄剤)のpHを監視することで、スケールの溶解反応に対するギ酸量の過不足を把握することができる。そして、この過不足情報に基づいてギ酸量を適宜追加制御して、遠心薄膜乾燥機を効率的に洗浄することが可能になる。
【0034】
図9は、洗浄剤に含まれるギ酸及びスケールに含まれるカルシウムのモル比に対するスケールの溶解率を示すグラフである。
図9より、ギ酸/カルシウムのモル比が2以上であることにより、ビーカに投入されたスケールサンプルの全量が溶解することを確認した。このことから、機器に付着したスケールのカルシウム当量に対しモル比で2倍以上のギ酸を含む洗浄剤を用いれば、スケールを全量溶解することが可能である。
但し、スケールは全量が溶解しなくても、ある程度溶解し構造が崩れると機器表面から脱落して除去されるために、事情によってはモル比が2倍以上である必要はない。
【0035】
図10は、ギ酸溶媒の温度に対するカルシウム塩のスケールの溶解率を示すグラフである。実験は、23℃,45℃,60℃に温度設定された2.5wt%のギ酸溶媒100mLのそれぞれに対し、撹拌による液流動が有る条件と無い条件で、スケールサンプル3gの浸漬を90分行った。
その結果、スケールサンプルを全溶解させるのに十分なギ酸量の存在下であっても、流動無し条件においては、温度上昇に伴い溶解率が向上する傾向が確認された。さらに、流動有り条件では、温度に依存せずスケールサンプルの全量溶解が確認された。
【0036】
流動無し条件で溶解率に温度依存性が見られたのは、温度上昇により溶解度や溶解速度が向上することや、熱対流により流動が生じることも要因と考えられる。一方、流動有りの条件では、スケールがフレッシュな(不純物の少ない)洗浄剤と接触するために溶解反応が促進され速やかに全量溶解に至ると考えられる。
このことから、洗浄剤を流動させること、又は加温することにより、スケールの溶解が促進されることが実証された。これらの結果より、遠心薄膜乾燥機において、ポンプによる洗浄液の循環や、回転軸を低速回転させることにより、洗浄剤を加温しなくても十分な洗浄性が得られる。また、洗浄液を流動させなくとも、60℃以上に加温することにより洗浄性を向上させることができる。
【0037】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の難溶解性付着物の洗浄剤によれば、金属表面を腐食させることなくカルシウム塩のスケールを良好に洗浄することができるので、原子力施設の遠心薄膜乾燥機に付着した放射性のスケールを徹底的に除去し点検作業員の被曝を低減させることができる。
【0038】
実施形態において遠心薄膜乾燥機の徹底洗浄工程にギ酸溶媒の洗浄剤を用いることを示したが、簡易洗浄工程においてギ酸溶媒の洗浄剤を用いることもできる。
実施形態において遠心薄膜乾燥機に付着したスケールの洗浄方法について例示したが、発明の適用対象は、遠心薄膜乾燥機に限定されるものでなく、ボイラーや熱交換器といった一般産業機器にも適用することができる。
また、適用対象を特に限定せずに、カルシウム塩のスケールを洗浄するための洗浄剤としても発明の保護の範囲が及ぶ。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0040】
12…廃液供給部、13…洗浄液供給部、15…凝縮部、17…加熱蒸気、20…遠心薄膜乾燥機、21…投入口、22…下部排出口、23…伝熱面、26…回転軸、27…回転翼、28…上部排出口、30…循環路、31…供給タンク、35…pH検出部、36…フィルタ、37…加熱部、41…洗排液蓄積部、42…粉体蓄積部、43…液体蓄積部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともギ酸を成分に有し金属表面に付着したカルシウム塩のスケールを洗浄することを特徴とする難溶解性付着物の洗浄剤。
【請求項2】
請求項1に記載の洗浄剤を供給する供給タンクが接続されることを特徴とする遠心薄膜乾燥機。
【請求項3】
請求項2に記載の遠心薄膜乾燥機において、
前記洗浄剤は、ギ酸の濃度が0.5〜10wt%の範囲に調整されていることを特徴とする遠心薄膜乾燥機。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の遠心薄膜乾燥機において、
前記洗浄剤を循環させる循環路を備えることを特徴とする遠心薄膜乾燥機。
【請求項5】
請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の遠心薄膜乾燥機において、
前記洗浄剤を加熱する加熱部を備えることを特徴とする遠心薄膜乾燥機。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の遠心薄膜乾燥機において、
前記循環している洗浄剤の水素イオン濃度を検出するpH検出部を備えることを特徴とする遠心薄膜乾燥機。
【請求項7】
請求項2から請求項6のいずれか1項に記載の遠心薄膜乾燥機に前記廃液を投入して粉体化する粉体化工程と、
前記粉体化工程のインターバルに前記遠心薄膜乾燥機を簡易洗浄する工程と、
分解工程に先立って前記遠心薄膜乾燥機を前記洗浄剤で徹底洗浄する工程と、を含むことを特徴とする遠心薄膜乾燥機の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−75973(P2013−75973A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215980(P2011−215980)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】