説明

難燃性ポリブチレンテレフタレート組成物および成形体

【課題】高い難燃性を有し、同時に加水分解に対する安定性が高く、コネクター、リレー部品などの電気・電子部品に好適に使用することが出来る難燃性ポリブチレンテレフタレート組成物を提供する。
【解決手段】ポリブチレンテレフタレート100重量部に対し、臭素化芳香族化合物系難燃剤3〜50重量部と酸化アンチモン化合物1〜30重量部とを配合して成る難燃性ポリブチレンテレフタレート組成物であって、ポリブチレンテレフタレートとして、チタン含量が原子換算で33ppmより多く90ppm以下であり、末端カルボキシル基濃度が10μeq/gより高く30μeq/g以下、固有粘度が0.83dl/gより高いポリブチレンテレフタレートを使用して成る難燃性ポリブチレンテレフタレート組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性ポリブチレンテレフタレート組成物に関し、詳しくは、高い難燃性を有すると共に、加水分解に対する安定性が高く、コネクターやリレー部品などの電気・電子部品に好適に使用することが出来る難燃性ポリブチレンテレフタレート組成物および当該組成物成から成る成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル樹脂の中で代表的なエンジニアリングプラスチックであるポリブチレンテレフタレート(PBTと略記することがある)は、成形加工の容易さ、機械的物性、耐熱性、その他の物理的、化学的特性に優れていることから、自動車部品、電気・電子部品、精密機器部品などの分野で広く使用されている。
【0003】
PBTは、低吸湿性であるために、常温では水の影響を本質的に受けない。しかし、高温では水や水蒸気によってエステル基が加水分解されてヒドロキシル基とカルボキシル基が生成し、カルボキシル基が自己触媒となって更に加水分解を促進するので、湿熱環境下における使用は制限される。このために、加水分解に対する安定性が高く、湿熱環境においても使用可能なPBTが望まれている。
【0004】
また、電気、電子部品、自動車部品その他の電装部品、機械部品などに使用される樹脂材料は、難燃性が求められる。近年、電気、電子部品や電装部品は、各種機器の小型化、軽量化の趨勢から薄肉小型化されてきており、それに利用される各種成形品も小型化と薄肉化が進んでいる。薄肉成形品においては、その最も薄い部分に対応する難燃性が要求される場合が多く、難燃性としてはUL−94に規定されるランクV−0の難燃性が指標とされる。一般に成形品が薄肉になるほど難燃化の達成は困難になる。所定の難燃性を達成するために、難燃剤を多量に配合すると、発生ガスの増加による金属接点腐食および耐加水分解性の悪化がより惹起され易くなる。
【0005】
一般に、PBTの耐加水分解性を改良する手段としては、末端カルボキシル基を低減することが知られている(特許文献1)。また、末端カルボキシル基濃度が30μeq/g以下であり、且つ、降温結晶化温度が175℃以上であるか、または、降温結晶化温度が175℃以上であり、且つ、残存テトラヒドロフラン量が300ppm以下であるPBT100重量部、臭素化芳香族化合物系難燃剤3〜50重量部、アンチモン化合物1〜30重量部、ポリテトラフルオロエチレン0.1〜5重量部および強化充填材0〜150重量部を含有して成る難燃性PBT組成物が提案されている(特許文献2)。斯かる組成物は、高い難燃性を有し、成形サイクルが短く生産性に優れ、電気的接点の腐食がなく、とりわけ加水分解に対する安定性が高く、リレー部品などの電気・電子部品に好適に使用することが出来るとされている。そして、上記の難燃性PBT組成物の製造法に関しては、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールを使用すること、触媒として好ましくはチタン化合物を使用すること、触媒の使用量はエステル化反応ではPBTの理論収量に対し30〜300ppmであり、重縮合工程では300ppm以下であることが提案されている(特許文献2)。しかしながら、PBT中に残存するチタンの量やその効果に関しては言及されていないが、触媒として使用されたチタンは略定量的に樹脂中に残存するから、実施例1として提案された方法について、使用触媒量からPBT中のチタン量を計算すると約194ppmである。
【0006】
【特許文献1】特開平9−316183号公報
【特許文献2】特開2004−91583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高い難燃性を有し、同時に加水分解に対する安定性が高く、コネクター、リレー部品などの電気・電子部品に好適に使用することが出来る難燃性ポリブチレンテレフタレート組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、次の様な知見を得た。すなわち、PBT中のチタンの含量が樹脂の加水分解に影響し、チタン含量が特定範囲のポリブチレンテレフタレートと特定の難燃剤および難燃助剤とを組み合わせるならば、高い難燃性と優れた耐加水分解性を発現するPBT組成物が得られる。本発明は、斯かる知見に基づき達成されたものであり、一群の関連発明から成り、各発明の要旨は次の通りである。
【0009】
すなわち、本発明の第1の要旨は、ポリブチレンテレフタレート100重量部に対し、臭素化芳香族化合物系難燃剤3〜50重量部と酸化アンチモン化合物1〜30重量部とを配合して成る難燃性ポリブチレンテレフタレート組成物であって、ポリブチレンテレフタレートとして、チタン含量が原子換算で33ppmより多く90ppm以下であり、末端カルボキシル基濃度が10μeq/gより高く30μeq/g以下、固有粘度が0.83dl/gより高いポリブチレンテレフタレートを使用して成ることを特徴とする難燃性ポリブチレンテレフタレート組成物に存する。
【0010】
本発明の第2の要旨は、ポリブチレンテレフタレート100重量部に対し、リン酸エステル又はホスホニトリルから選ばれる少なくとも1種の化合物3〜50重量部とシアヌル酸メラミン1〜50重量部とを配合して成る難燃性ポリブチレンテレフタレート組成物であって、ポリブチレンテレフタレートとして、チタン含量が原子換算で33ppmより多く90ppm以下であり、末端カルボキシル基濃度が10μeq/gより高く30μeq/g以下、固有粘度が0.83dl/gより高いポリブチレンテレフタレートを使用して成ることを特徴とする難燃性ポリブチレンテレフタレート組成物に存する。
【0011】
そして、本発明の第3の要旨は、前記の難燃性ポリブチレンテレフタレート組成物から成ることを特徴とする成形体に存する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い難燃性を有し、同時に加水分解に対する安定性が高く、コネクター、リレー部品などの電気・電子部品に好適な難燃性ポリブチレンテレフタレート組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、これらの内容に本発明は限定されるものではない。
【0014】
先ず、本発明で使用するPBTについて説明する。本発明で使用するPBTは、チタン含量が原子換算で33ppmより多く90ppm以下であり、末端カルボキシル基濃度が10μeq/gより高く30μeq/g以下、固有粘度が0.83dl/gより高いという特徴を有する。
【0015】
PBT中のチタンは通常PBTの重合触媒に由来するが、チタン含量が90ppmより多いと耐加水分解性が低下する。その理由は定かではないが、触媒由来のチタン含量が多いと高温でのPBTの分解が促進され、耐加水分解性が低下すると考えられる。一方、チタン含量が33ppm以下となる触媒量であると重合速度が低下するばかりでなく、得られたPBTを使用した組成物の難燃性が低下する。この理由も定かではないが、チタン含量が多い場合は、高温でのPBTの分解を促進し、ドリップし易くなり、PBTが垂れ落ち、燃焼が継続できなくなるが、チタン含量が少ないと、高温でPBTが分解し難くなり、垂れ落ちず、燃焼が継続してしまうため難燃性が低下すると考えられる。
【0016】
本発明で規定するチタン含量のPBTは、例えば、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールに、触媒であるテトラブチルチタネートをPBTの理論収量に対しチタン原子として33ppmより多く90ppm以下となる量添加し、温度150〜280℃の範囲で常圧下にエステル反応させてオリゴマーを得、次いで、210〜230℃、減圧下で重縮合反応させて得ることが出来る。チタン含量は、添加された触媒量から求めることも出来るが、得られたPBTを分析して求めることも出来る。具体的には、原子吸光、原子発光、ICP(inductivery coupled plasma)等の手段によって測定することが出来る。
【0017】
本発明で使用するPBTの末端カルボキシル基濃度は、10μeq/gより高く30μeq/g以下である。末端カルボキシル基濃度の上限は、好ましくは25μeq/g、更に好ましくは20μeq/gである。末端カルボキシル基濃度は、PBTを有機溶媒に溶解し、水酸化アルカリ溶液を使用して滴定することにより求めることが出来る。PBTの末端カルボキシル基濃度が30μeq/g以下であることにより、PBT組成物の耐加水分解性を著しく高めることが出来る。PBT中のカルボキシル基は、加水分解に対して自己触媒として作用するので、30μeq/gを超える末端カルボキシル基が存在する場合は、早期に加水分解が始まり、生成したカルボキシル基が自己触媒となって、連鎖的に加水分解が進行し、樹脂の重合度が急速に低下する。これに対し、末端カルボキシル基濃度が30μeq/g以下のPBTを使用することにより、高温、高湿の条件においても、早期の加水分解が抑制される。
【0018】
本発明で使用するPBTは、固有粘度が0.83dl/gより大きいものである。固有粘度の上限は、通常1.5dl/g、好ましくは1.3dl/g、更に好ましくは1.1dl/gである。PBTの固有粘度が1.5dl/gを超える場合、PBT組成物の溶融粘度が高くなり、流動性が悪化して、成形性が不良となる恐れがある。なお、本発明においてPBTの固有粘度は、フェノール/1,1,2,2−テトラクロルエタン(重量比1/1)の混合溶媒を使用して30℃で測定した溶液粘度から求められる値である。
【0019】
上述の特性を有するPBTの製法は、特に限定されるものではないが、テレフタル酸及び1,4−ブタンジオールを主原料とする連続重合により得ることが出来る。主原料とは、テレフタル酸が全ジカルボン酸成分の50モル%以上を占め、1,4−ブタンジオールが全ジオール成分の50モル%以上を占めることを言う。テレフタル酸は、全ジカルボン酸成分の80モル%以上を占めることが好ましく、95モル%以上を占めることが更に好ましい。1,4−ブタンジオールは、全ジオール成分の80モル%以上を占めることが好ましく、95モル%以上を占めることが更に好ましい。
【0020】
テレフタル酸以外のジカルボン酸成分は、特に制限されず、例えば、フタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸などを使用することが出来る。
【0021】
また、1,4−ブタンジオール以外のジオール成分も、特に制限されず、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1、6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等の脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール等の脂環式ジオール、キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオール等を使用することが出来る。
【0022】
本発明においては、更に、共重合成分として、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール等の三官能以上の多官能成分などを使用することが出来る。
【0023】
本発明で使用するPBTは、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と1,4−ブタンジオールを主成分とするジオール成分とを連続的に重合して得られる樹脂であることが好ましい。連続重合の方法は、特に制限されないが、直列連続槽型反応器を使用して連続的に重合することが好ましい。例えば、先ず、1基または複数基のエステル化反応槽内で、エステル化反応触媒の存在下に、通常150〜280℃、好ましくは180〜265℃、更に好ましくは220〜240℃の温度、通常20〜133kPa、好ましくは40〜101kPa、更に好ましくは50〜90kPaの圧力(絶対圧力、以下同じ)で、2〜5時間エステル化反応を行なう。次いで、得られたエステル化反応生成物であるオリゴマーについて、1基または複数基の重縮合反応槽内で、重縮合反応触媒の存在下に、通常210〜280℃、好ましくは220〜260℃、更に好ましくは230〜250℃の温度で、少なくとも1つの重縮合反応槽においては、通常20kPa以下、好ましくは10kPa以下、更に好ましくは5kPa以下の減圧下で、攪拌下に2〜5時間重縮合反応を行なう。重縮合反応により得られたPBTは、重縮合反応槽の底部からポリマー抜き出しダイに移送されてストランド状に抜き出され、水冷されながら又は水冷された後に、ペレタイザーで切断されてペレット状などの粒状体とされる。
【0024】
エステル化反応槽の型式は、特に制限されず、例えば、縦型攪拌完全混合槽、縦型熱対流式混合槽、塔型連続反応槽などを挙げることが出来る。重縮合反応槽の型式も、特に制限されず、例えば、縦型攪拌重合槽、横型攪拌重合槽、薄膜蒸発式重合槽などを挙げることが出来る。エステル化反応槽および重縮合反応槽は、1基とすることも出来るが、同種または異種の複数基の槽を直列させた複数槽とすることも出来る。
【0025】
エステル化反応触媒として使用するチタン化合物としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等を挙げることが出来る。チタン化合物触媒の使用量は、PBTの理論収量に対し、チタン原子の重量比として33ppmより多く90ppm以下であり、好ましくは35〜85ppm、更に好ましくは40〜70ppm、特に好ましくは40〜50ppm(重量比)である。なお、本発明においては、反応助剤として、錫化合物、リチウム化合物、ナトリウム化合物、カリウム化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、アンチモン化合物などを併用することが出来る。
【0026】
重縮合反応では、新たな触媒の添加を行うことなく、エステル化反応時に添加したチタン触媒を引き続いて重縮合反応触媒として使用することが出来る。また、重縮合反応時に、チタン触媒を更に添加することも出来る。この場合の使用量は、エステル化反応触媒との合計で、PBTの理論収量に対し、チタン原子の重量比として33ppmより多く90ppm以下であり、好ましくは35〜85ppm、更に好ましくは40〜70ppm、特に好ましくは40〜50ppm(重量比)である。
【0027】
エステル化反応および/または重縮合反応においては、抗酸化剤として、2,6−ジ−t−ブチル−4−オクチルフェノール、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3’,5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等のフェノール化合物、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオジプロピオネート)等のチオエーテル化合物、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト等の燐化合物などを添加することが出来る。更に、離型剤として、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、モンタン酸やモンタン酸エステル等の長鎖脂肪酸またはそのエステル、シリコーンオイル等を添加することが出来る。
【0028】
PBTの製造方法には、テレフタル酸ジメチル等と、1,4−ブタンジオールとのエステル交換反応を経る方法と、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールとの直接エステル化反応を経る方法がある。テレフタル酸と1,4−ブタンジオールを出発原料とする直接エステル化反応は、原料コスト面および副生テトラヒドロフランの回収の点で有利である。また、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールを出発原料とする直接エステル化反応によれば、エステル交換反応を経る方法に比べて、結晶化速度が高いPBTを容易に得ることが出来る。
【0029】
PBTの製造方法には、回分式反応と連続式反応がある。テレフタル酸と1,4−ブタンジオールを連続的に重合する方法によれば、反応終了後の反応槽からの抜き出しの時間的経過に伴う分子量低下、末端カルボキシル基濃度の増加、残存テトラヒドロフラン量の増加を回避して、高品質の樹脂を容易に得ることが出来るので好ましい。
【0030】
本発明においては、エステル化反応槽にて、チタン触媒の存在下、少なくとも一部の1,4−ブタンジオールをテレフタル酸とは独立にエステル化反応槽に供給しながら、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールとを連続的にエステル化する工程が好ましく採用される。すなわち、本発明においては、触媒に由来するヘイズや異物を低減し、触媒活性を低下させないため、原料スラリー又は溶液として、テレフタル酸と共に供給される1,4−ブタンジオールとは別に、しかも、テレフタル酸とは独立に1,4−ブタンジオールをエステル化反応槽に供給する。以後、当該1,4−ブタンジオールを「別供給1,4−ブタンジオール」と称することがある。
【0031】
上記の「別供給1,4−ブタンジオール」には、プロセスとは無関係の新鮮な1,4−ブタンジオールを充当することが出来る。また、「別供給1,4−ブタンジオール」は、エステル化反応槽から留出した1,4−ブタンジオールをコンデンサ等で捕集し、そのまま、または、一時タンク等へ保持して反応槽に還流させたり、不純物を分離、精製して純度を高めた1,4−ブタンジオールとして供給したりすることも出来る。以後、コンデンサ等で捕集された1,4−ブタンジオールから構成される「別供給1,4−ブタンジオール」を「再循環1,4−ブタンジオール」と称することがある。資源の有効活用、設備の単純さの観点からは、「再循環1,4−ブタンジオール」を「別供給1,4−ブタンジオール」に充当することが好ましい。
【0032】
また、通常、エステル化反応槽より留出した1,4−ブタンジオールは、1,4−ブタンジオール成分以外に、水、テトラヒドロフラン(以下「THF」と略記する)、ジヒドロフラン、アルコール等の成分を含んでいる。従って、上記の留出1,4−ブタンジオールは、コンデンサ等で捕集した後、または、捕集しながら、水、THF等の成分と分離、精製し、反応槽に戻すことが好ましい。
【0033】
そして、本発明においては、「別供給1,4−ブタンジオール」の内、10重量%以上を反応液液相部に直接戻すことが好ましい。ここで、反応液液相部とは、エステル化反応槽の気液界面の液相側を示し、反応液液相部に直接戻すとは、配管などを使用して「別供給1,4−ブタンジオール」が気相部を経由せずに直接液相部分に供給されることを表す。反応液液相部に直接戻す割合は、通常30重量%以上、好ましくは50重量%以上、更に好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。反応液液相部に直接戻す「別供給1,4−ブタンジオール」が少ない場合は、チタン触媒が失活する傾向にある。
【0034】
また、反応器に戻す際の「別供給1,4−ブタンジオール」の温度は、通常50〜220℃、好ましくは100〜200℃、更に好ましくは150〜190℃である。「別供給1,4−ブタンジオール」の温度が高過ぎる場合はTHFの副生量が多くなる傾向にあり、低過ぎる場合は熱負荷が増すためエネルギーロスを招く傾向がある。
【0035】
また、本発明においては、触媒の失活を防ぐため、エステル化反応に使用されるチタン触媒の内、10重量%以上をテレフタル酸とは独立に反応液液相部に直接供給することが好ましい。ここで、反応液液相部とは、エステル化反応槽の気液界面の液相側を示し、反応液液相部に直接供給するとは、配管などを使用し、チタン触媒が反応器の気相部を経由せずに直接液相部分に供給されることを表す。反応液液相部に直接添加するチタン触媒の割合は、通常30重量%以上、好ましくは50重量%以上、更に好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。
【0036】
チタン触媒は、溶媒などに溶解させたり又は溶解させずに直接エステル化反応槽の反応液液相部に供給することも出来るが、供給量を安定化させ、反応器の熱媒ジャケット等からの熱による変性などの悪影響を軽減するためには、1,4−ブタンジオール等の溶媒で希釈することが好ましい。この際の濃度は、溶液全体に対するチタン触媒の濃度として、通常0.01〜20重量%、好ましくは0.05〜10重量%、更に好ましくは0.08〜8重量%である。また、異物低減の観点から、溶液中の水分濃度は、通常0.05〜1.0重量%とする。溶液調製の際の温度は、失活や凝集を防ぐ観点から、通常20〜150℃、好ましくは30〜100℃、更に好ましくは40〜80℃である。また、触媒溶液は、劣化防止、析出防止、失活防止の点から、別供給1,4−ブタンジオールと配管などで混合してエステル化反応槽に供給することが好ましい。
【0037】
本発明において、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールとのモル比は、以下の式(I)を満たすことが好ましい。
【0038】
【数1】

【0039】
上記の「エステル化反応槽に外部から供給される1,4−ブタンジオール」とは、原料スラリー又は溶液として、テレフタル酸と共に供給される1,4−ブタンジオールの他、これらとは独立に供給する1,4−ブタンジオール、触媒の溶媒として使用される1,4−ブタンジオール等、反応槽外部から反応槽内に入る1,4−ブタンジオールの総和である。
【0040】
上記のBM/TMの値が1.1より小さい場合は、転化率の低下や触媒失活を招き、5.0より大きい場合は、熱効率が低下するだけでなく、THF等の副生物が増大する傾向にある。BM/TMの値は、好ましくは1.5〜4.5、更に好ましくは2.0〜4.0、特に好ましくは3.1〜3.8である。
【0041】
以下、添付図面に基づき、PBTの製造方法の好ましい実施態様を説明する。図1は、本発明で採用するエステル化反応工程またはエステル交換反応工程の一例の説明図、図2は、本発明で採用する重縮合工程の一例の説明図である。
【0042】
図1において、原料のテレフタル酸は、通常、原料混合槽(図示せず)で1,4−ブタンジオールと混合され、原料供給ライン(1)からスラリーの形態で反応槽(A)に供給される。一方、原料がテレフタル酸ジアルキルの場合は通常溶融した液体として1,4−ブタンジオールと独立に反応槽(A)に供給される。また、チタン触媒は、好ましくは触媒調整槽(図示せず)で1,4−ブタンジオールの溶液とした後、触媒供給ライン(3)から供給される。図1では再循環1,4−ブタンジオールの再循環ライン(2)に触媒供給ライン(3)を連結し、両者を混合した後、反応槽(A)の液相部に供給する態様を示した。
【0043】
反応槽(A)から留出するガスは、留出ライン(5)を経て精留塔(C)で高沸成分と低沸成分とに分離される。通常、高沸成分の主成分は1,4−ブタンジオールであり、低沸成分の主成分は、直接重合法の場合は水およびTHFである。
【0044】
精留塔(C)で分離された高沸成分は抜出ライン(6)から抜き出され、ポンプ(D)を経て、一部は再循環ライン(2)から反応槽(A)に循環され、一部は循環ライン(7)から精留塔(C)に戻される。また、余剰分は抜出ライン(8)から外部に抜き出される。一方、精留塔(C)で分離された軽沸成分はガス抜出ライン(9)から抜き出され、コンデンサ(G)で凝縮され、凝縮液ライン(10)を経てタンク(F)に一時溜められる。タンク(F)に集められた軽沸成分の一部は、抜出ライン(11)、ポンプ(E)及び循環ライン(12)を経て精留塔(C)に戻され、残部は、抜出ライン(13)を経て外部に抜き出される。コンデンサ(G)はベントライン(14)を経て排気装置(図示せず)に接続されている。反応槽(A)内で生成したオリゴマーは、抜出ポンプ(B)及び抜出ライン(4)を経て抜き出される。
【0045】
図1に示す工程においては、再循環ライン(2)に触媒供給ライン(3)が連結されているが、両者は独立していてもよい。また、原料供給ライン(1)は反応槽(A)の液相部に接続されていてもよい。
【0046】
図2において、前述の図1に示す抜出ライン(4)から供給されたオリゴマーは、第1重縮合反応槽(a)で減圧下に重縮合されてプレポリマーとなった後、抜出用ギヤポンプ(c)及び抜出ライン(L1)を経て第2重縮合反応槽(d)に供給される。第2重縮合反応槽(d)では、通常、第1重縮合反応槽(a)よりも低い圧力で更に重縮合が進みポリマーとなる。得られたポリマーは、抜出用ギヤポンプ(e)及び抜出ライン(L3)を経てダイスヘッド(g)から溶融したストランドの形態で抜き出され、水などで冷却された後、回転式カッター(h)で切断されてペレットとなる。符号(L2)は第1重縮合反応槽(a)のベントライン、符号(L4)は第2重縮合反応槽(d)のベントラインである。
【0047】
上記の方法により、本発明に規定されるチタン含量、末端カルボキシル基濃度、固有粘度のPBTを得ることが出来る。また、本発明で使用するPBTは、上記と同様に、主原料としてのテレフタル酸と1,4−ブタンジオールを溶融重合し、所望のチタン含量および末端カルボキシル基濃度を有する低分子量PBTを得た後、更に、所望の固有粘度となるまで固相重合する方法によっても得ることが出来る。
【0048】
次に、本発明の第1の要旨に係る難燃性PBT組成物について説明する。この難燃性PBT組成物は、前述のPBTに臭素化芳香族化合物系難燃剤と酸化アンチモン化合物とを配合して成る。
【0049】
本発明で使用する臭素化芳香族化合物系難燃剤は、樹脂に使用される臭素系難燃剤として知られている芳香族系化合物であり、例えば、テトラブロモビスフェノールAのエポキシオリゴマー等の臭素化エポキシ樹脂、ポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)、ポリブロモフェニルエーテル、臭素化ポリスチレン、臭素化イミド、臭素化ポリカーボネート等が挙げられる。中でも、臭素化エポキシ樹脂、ポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)、臭素化ポリカーボネートの群から選ばれる1種は、熱安定性が良好であるため、好適に使用される。これらの臭素化芳香族化合物系難燃剤は、2種以上を併用してもよい。
【0050】
臭素化芳香族化合物系難燃剤の配合量は、PBT100重量部に対し、3〜50重量部である。臭素化芳香族化合物系難燃剤の配合量が3重量部未満の場合は難燃効果が不十分であり、50重量部を超える場合は、機械的強度が低下し、溶融時の熱安定性が低下する。臭素化芳香族化合物系難燃剤の配合量は、PBT100重量部に対し、好ましくは5〜40重量部、更に好ましくは6〜30重量部である。
【0051】
アンチモン化合物としては、例えば、酸化アンチモンやアンチモン酸塩が挙げられ、その具体例としては、三酸化アンチモン(Sb)、四酸化アンチモン(Sb)、五酸化アンチモン(Sb)等の酸化物やアンチモン酸ナトリウム等のアンチモン酸塩が挙げられる。
【0052】
アンチモン化合物の配合量は、PBT100重量部に対し、1〜30重量部である。アンチモン化合物の配合量が1重量部未満の場合は、充分な難燃効果が得られず、30重量部を超える場合は、機械的強度が低下し、溶融時の熱安定性が低下する。アンチモン化合物の配合量は、PBT100重量部に対し、好ましくは2〜25重量部、更に好ましくは3〜20重量部である。
【0053】
次に、本発明の第2の要旨に係る難燃性PBT組成物について説明する。この難燃性PBT組成物は、前述のPBTにリン酸エステル又はホスホニトリルから選ばれる少なくとも1種の化合物とシアヌル酸メラミンとを配合して成る。
【0054】
リン酸エステルとしては、広範囲のリン酸エステルが挙げられる。具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート等が挙げられるが、特に、下記一般式(1)で表されるリン酸エステルが好ましい。
【0055】
【化1】

【0056】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を示し、mは0又は1〜4の整数である。Rは、p−フェニレン基、m−フェニレン基、4,4’’−ビフェニレン基または以下から選ばれる2価の基である。)
【0057】
【化2】

【0058】
前記の一般式(1)において、R〜Rは、PBT組成物の耐加水分解性を向上させる観点から、好ましくは炭素数6以下のアルキル基、更に好ましくは炭素数2以下のアルキル基、特に好ましくはメチル基である。mは、好ましくは1〜3、更に好ましくは1である。Rは、好ましくはp−フェニレン基またはm−フェニレン基、更に好ましくはm−フェニレン基である。
【0059】
また、下記一般式(2)で表される基を有するホスホニトリル化合物も好適に使用し得る。
【0060】
【化3】

【0061】
(式中、Xは、−O−、−S−、−NH−または直接結合を表す。R17及びR18は、炭素数1〜20のアリール基、アルキル基、シクロアルキル基を示す。R17−X−、R18−X−は同一でも異なっていてもよい。nは1〜12の整数を示す。)
【0062】
一般式(2)において、R17及びR18の具体例としては、メチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基、ベンジル基などの置換されていてもよいアルキル基、シクロヘキシル等のシクロアルキル基、フェニル基、ナフチル基などのアリール基が挙げられる。nは、好ましくは3〜10であり、更に好ましくは3又は4である。一般式(2)のホスホニトリル化合物は、線状重合体であっても環状重合体であってもよいが、環状重合体が好ましい。Xは、−O−又は−NH−が好ましく、特に−O−が好ましい。
【0063】
一般式(2)で示されるホスホニトリル化合物の具体例としては、ヘキサフェノキシシクロトリホスファゼン、ヘキサ(ヒドロキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、オクタフェノキシシクロテトラホスファゼン、オクタ(ヒドロキシフェノキシ)シクロテトラホスファゼン等が挙げられる。
【0064】
リン酸エステル又はホスホニトリルの配合量は、PBT100重量部に対し、3〜50重量部、好ましくは10〜40重量部である。リン酸エステル又はホスホニトリルの配合量が3重量部未満の場合は難燃性の高いPBT組成物が得られず、50重量部を超える場合はPBT組成物の機械的強度が低下する。
【0065】
本発明で使用するシアヌル酸メラミンとは、シアヌル酸とメラミンの略等モル反応物であって、例えば、シアヌル酸の水溶液とメラミンの水溶液とを混合し、90〜100℃の温度で攪拌下反応させ、生成した沈澱を濾過することにより得ることが出来る。シアヌル酸メラミンの粒径は、通常0.01〜1000μm、好ましくは0.01〜500μmである。シアヌル酸メラミンのアミノ基または水酸基の幾つかが他の置換基で置換されていてもよい。
【0066】
シアヌル酸メラミンの配合量は、PBT100重量部に対し、1〜50重量部、好ましくは10〜40重量部である。シアヌル酸メラミンの配合量が1重量部未満の場合は難燃性の高いPBT組成物が得られず、50重量部を超える場合はPBT組成物の機械的強度が低下する。
【0067】
前述の本発明の難燃性PBT組成物には、更に、強化充填剤を配合させることが出来る。強化充填剤の種類は、特に制限されず、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、ホウ素繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素チタン酸カリウム繊維、金属繊維などの無機繊維、芳香族ポリアミド繊維、フッ素樹脂繊維などの有機繊維などを挙げることが出来る。これらの強化充填剤は、2種以上を組み合わせて使用することも出来る。これらの中では、無機充填剤、特にガラス繊維が好適である。
【0068】
強化充填剤が無機繊維または有機繊維である場合、その平均繊維径は、通常1〜100μm、好ましくは2〜50μm、更に好ましくは3〜30μm、特に好ましくは5〜20μmである。また、平均繊維長は、通常0.1〜20mm、好ましくは1〜10mm、更に好ましくは2〜0.5mmである。
【0069】
強化充填材は、PBTとの界面密着性を向上させるために、収束剤または表面処理剤で表面処理して使用することが好ましい。収束剤または表面処理剤としては、例えば、エポキシ系化合物、アクリル系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物などの官能性化合物を挙げることが出来る。強化充填材は、収束剤または表面処理剤により予め表面処理しておくことも出来るが、PBT組成物の調製時に収束剤または表面処理剤を添加して表面処理することも出来る。
【0070】
強化充填材の配合量は、PBT100重量部に対し、通常150重量部、好ましくは5〜100重量部、更に好ましくは10〜70重量部である。
【0071】
本発明の難燃性PBT組成物には、強化充填剤と共に他の充填剤を配合することが出来る。他の充填剤としては、例えば、板状無機充填剤、セラミックビーズ、アスベスト、ワラストナイト、タルク、クレー、マイカ、ゼオライト、カオリン、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。板状無機充填剤を配合することにより、成形品の異方性およびソリを低減することが出来る。板状無機充填剤しては、例えば、ガラスフレーク、雲母、金属箔などが挙げられる。これらの中ではガラスフレークが特に好適である。
【0072】
本発明の難燃性PBT組成物には、臭素化芳香族化合物、アンチモン化合物、リン酸エステル、ホスホニトリル及びシアヌル酸メラミン以外の他の難燃剤を配合することが出来る。斯かる難燃剤としては、例えば、フッ素系樹脂、有機塩素系化合物、リン化合物、その他の有機難燃剤、無機難燃剤などが挙げられる。フッ素系樹脂として、例えばポリテトラフルオロエチレン繊維である。リン化合物としては、例えば、リン酸エステル、ポリリン酸、ポリリン酸アンモニウム、赤リン等である。その他の有機難燃剤としては、例えば、メラミン、シアヌール酸などの窒素化合物などである。その他の無機難燃剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ素化合物、ホウ素化合物などである。
【0073】
本発明においては、難燃性能向上の観点から滴下防止剤、中でもフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンを滴下防止剤として使用することが好ましい。フィブリル形成能とは、PBT中に容易に分散し且つそれ自体(ポリテトラフルオロエチレン)同士が結合して繊維状材料を形成する傾向を言う。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンは、ASTM規格でタイプ3に分類され、例えば、ダイキン化学工業(株)の「ポリフロンFA−500」又は「F−201L」、旭硝子(株)の「フルオンCD−123」、三井・デュポンフロロケミカル(株)の「テフロン(登録商標)(R)6J」として商業的に入手出来る。
【0074】
ポリテトラフルオロエチレンの配合量は、PBT100重量部に対し、通常0.1〜5重量部、好ましくは0.2〜4重量部、更に好ましくは0.3〜3重量部である。ポリテトラフルオロエチレンの配合量が0.1重量部未満の場合は、配合による効果が発揮されず、5重量部を超える場合は、押出性、成形性などの加工性が損なわれる。
【0075】
本発明の難燃性PBT組成物には、必要に応じ、この種の樹脂組成物に慣用の添加剤などを配合することが出来る。斯かる添加剤としては、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤などの安定剤、滑剤、離型剤、触媒失活剤、結晶核剤、結晶化促進剤が挙げられる。また、耐加水分解性を更に向上させるために、エポキシ化合物、カルボジイミド、オキサゾリン等を添加することも出来る。更に、PBTに、所望の性能を付与するために、紫外線吸収剤、耐候安定剤などの安定剤、染顔料などの着色剤、帯電防止剤、発泡剤、可塑剤、耐衝撃性改良剤などを配合することも出来る。これらは、重合途中あるいは重合後に添加することが出来る。
【0076】
本発明の難燃性PBT組成物には、必要に応じ、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンオキサイド等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂などの熱硬化性樹脂を配合してもよい。これらの樹脂は、2種以上を併用してもよい。
【0077】
本発明の難燃性PBT組成物の製造方法は、特に制限されず、必要成分を混合し、スクリュー型押出機によって溶融・混練してペレット化する一括ブレンド方法、スクリュー型押出機によってPBTを溶融・混練し、押出機の他の供給口から他の成分を供給し、溶融・混練してペレット化する分割ブレンド方法などが挙げられる。
【0078】
本発明の難燃性PBT組成物の成形体の成形方法は、特に限定されず、熱可塑性樹脂について一般に使用されている成形法、すなわち、射出成形、中空成形、押出し成形、プレス成形などの成形法を適用することが出来る。
【実施例】
【0079】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下のPBTの製造例で使用した採用した物性測定方法は次の通りである。
【0080】
(1)エステル化率:
以下の計算式(II)によって酸価およびケン化価から算出した。酸価は、ジメチルホルムアミドにオリゴマーを溶解させ、0.1NのKOH/メタノール溶液を使用して滴定により求めた。ケン化価は0.5NのKOH/エタノール溶液でオリゴマーを加水分解し、0.5Nの塩酸で滴定し求めた。
【0081】
【数2】

【0082】
(2)末端カルボキシル基濃度:
ベンジルアルコール25mLにPBT又はオリゴマー0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lベンジルアルコール溶液を使用して滴定した。
【0083】
(3)固有粘度([η]):
ウベローデ型粘度計を使用し次の要領で求めた。すなわち、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を使用し、30℃において、濃度1.0g/dLのポリマー溶液および溶媒のみの落下秒数を測定し、以下の式(III)より求めた。
【0084】
【数3】

【0085】
(4)PBT中のチタン濃度:
電子工業用高純度硫酸および硝酸でPBTを湿式分解し、高分解能ICP(Inductively Coupled Plasma)−MS(Mass Spectrometer)(サーモクエスト社製)を使用して測定した。
【0086】
PBTの製造例:
テレフタル酸および1,4−ブタンジオールを原料として、テトラブチルチタネート触媒の量を変えて表1に示す3種類のPBTを製造した。具体的には、図1に示すエステル化工程と図2に示す重縮合工程を使用し、次の要領でPBTの製造を行った。
【0087】
先ず、テレフタル酸1.00モルに対して、1,4−ブタンジオール1.80モルの割合で混合した60℃のスラリーをスラリー調製槽から原料供給ライン(1)を通じ、予め、エステル化率99%のPBTオリゴマーを充填したスクリュー型攪拌機を有するエステル化のための反応槽(A)に、41kg/hとなる様に連続的に供給した。同時に、再循環ライン(2)から185℃の精留塔(C)の塔底成分を30kg/hで供給し、触媒供給ライン(3)から触媒として65℃のテトラブチルチタネートの6.0重量%1,4−ブタンジオール溶液を供給した。供給量(g/h)は、PBT中のTi含有量が表1の通りとなる様に調節した。なお、この溶液中の水分は0.20重量%であった。
【0088】
反応槽(A)の内温は230℃、圧力は78kPaとし、生成する水とテトラヒドロフラン及び余剰の1,4−ブタンジオールを、留出ライン(5)から留出させ、精留塔(C)で高沸成分と低沸成分とに分離した。系が安定した後の塔底の高沸成分は、98重量%以上が1,4−ブタンジオールであり、精留塔(C)の液面が一定になる様に、抜出ライン(8)を通じてその一部を外部に抜き出した。一方、低沸成分は塔頂よりガスの形態で抜き出し、コンデンサ(G)で凝縮させ、タンク(F)の液面が一定になる様に、抜出ライン(13)より外部に抜き出した。
【0089】
反応槽(A)で生成したオリゴマーの一定量は、ポンプ(B)を使用し、抜出ライン(4)から抜き出し、反応槽(A)出口でのエステル化率が96%以上となる様に滞留時間を調節した。抜出ライン(4)から抜き出したオリゴマーは、第1重縮合反応槽(a)に連続的に供給した。
【0090】
第1重縮合反応槽(a)の内温は240℃、圧力2.1kPaとし、滞留時間が120分になる様に液面制御を行った。減圧機(図示せず)に接続されたベントライン(L2)から、水、テトラヒドロフラン、1,4−ブタンジオールを抜き出しながら、初期重縮合反応を行った。抜き出した反応液は第2重縮合反応槽(d)に連続的に供給した。
【0091】
第2重縮合反応槽(d)の条件(内温、圧力、滞留時間)は表1に示す通りに制御した。得られたポリマーは、抜出用ギヤポンプ(e)により抜出ライン(L3)を経由し、ダイスヘッド(g)からストランド状に連続的に抜き出し、回転式カッター(h)でカッティングした。
【0092】
【表1】

【0093】
難燃性PBT組成物の調製に使用した添加成分は次の表2に示す通りである。
【0094】
【表2】

【0095】
【化4】

【0096】
実施例1〜5及び比較例1〜10:
各成分を表3又は表4に示す割合で秤量し、ガラス繊維以外は一括混合した。すなわち、2軸押出機((株)日本製鋼所製、型式TEX30C、スクリュー径30mm)を使用し、シリンダ設定温度255℃、スクリュー回転数200rpmで、ガラス繊維をサイドフィードしながら、各成分を溶融、混練し、ペレット化した。得られたペレットから次の要領で機械的物性測定用ISO試験片を成形した。すなわち、住友重機械(株)製射出成型機(型式SG-75SYCAP-MIII)を使用して、シリンダ温度250℃、金型温度80℃の条件でペレットを成形した。そして、下記の試験方法により性能評価を行ない、結果を表3又は表4に示した。
【0097】
難燃性試験:
UL94試験法に従い、厚さ1/32インチの試験片各5本を使用し、燃焼性を試験した。また、各試験片5本について、各々2回接炎後の燃焼時間の合計を合計燃焼時間とした。合計燃焼時間が長いことは、規格に合格しても、試験片厚さが薄くなったり、また、難燃剤の含量が少ない処方の場合には不合格になり易いことを意味する。
【0098】
耐加水分解性(加水分解試験後の強度保持率):
前述のISO試験片を使用し引張試験を行った(5回平均の引張強度をTSとする)。その後、同じ試験片を、純水を張った圧力容器に直接水に触れない様に入れ(圧力容器の空間部に入れ)、密閉した後、121℃の飽和水蒸気加圧下で100時間処理し、同様に引張試験を行った(処理後の5回平均の引張強度をTS’とする)。これらの値から、以下の式(IV)により強度保持率を算出した。強度保持率が大きいほど耐加水分解性が良好なことを示す。
【0099】
【数4】

【0100】
【表3】

【0101】
【表4】

【0102】
表3及び表4に示す結果から明らかな様に、本発明の実施例の組成物は、何れもV−0の燃焼性を示し、燃焼性が同じV−0の比較例の組成物に比し、UL94合計燃焼時間が小さいので、同じV−0レベルであっても、難燃性に余裕がある。すなわち、実施例の組成物は、難燃剤が少ない配合処方においても、V−0を保持できる可能性が大きい。また耐加水分解試験における強度保持率も対応する比較例より優れており、本発明のPBT組成物は難燃性と耐加水分解性の両者が良好なレベルで保持されていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】ポリブチレンテレフタレートの製造例で採用したエステル化反応工程の一例の説明図
【図2】ポリブチレンテレフタレートの製造例で採用した重縮合工程の一例の説明図
【符号の説明】
【0104】
1:原料供給ライン
2:再循環ライン
3:触媒供給ライン
4:抜出ライン
5:留出ライン
6:抜出ライン
7:循環ライン
8:抜出ライン
9:ガス抜出ライン
10:凝縮液ライン
11:抜出ライン
12:循環ライン
13:抜出ライン
14:ベントライン
A:反応槽
B:抜出ポンプ
C:精留塔
D、E:ポンプ
F:タンク
G:コンデンサ
L1:抜出ライン
L3:抜出ライン
L2、L4:ベントライン
a:第1重縮合反応槽
d:第2重縮合反応槽
c、e:抜出用ギヤポンプ
g:ダイスヘッド
h:回転式カッター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート100重量部に対し、臭素化芳香族化合物系難燃剤3〜50重量部と酸化アンチモン化合物1〜30重量部とを配合して成る難燃性ポリブチレンテレフタレート組成物であって、ポリブチレンテレフタレートとして、チタン含量が原子換算で33ppmより多く90ppm以下であり、末端カルボキシル基濃度が10μeq/gより高く30μeq/g以下、固有粘度が0.83dl/gより高いポリブチレンテレフタレートを使用して成ることを特徴とする難燃性ポリブチレンテレフタレート組成物。
【請求項2】
ポリブチレンテレフタレートにおけるチタン含量が原子換算で40〜70ppmである請求項1に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート組成物。
【請求項3】
更に、強化充填剤を配合して成り、その量がポリブチレンテレフタレート100重量部に対して150重量部以下である請求項1又は2に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート組成物。
【請求項4】
臭素化芳香族化合物系難燃剤が、臭素化エポキシ樹脂、ポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)、臭素化ポリカーボネートの群から選ばれる1種である請求項1〜3の何れかに記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート組成物。
【請求項5】
ポリブチレンテレフタレート100重量部に対し、リン酸エステル又はホスホニトリルから選ばれる少なくとも1種の化合物3〜50重量部とシアヌル酸メラミン1〜50重量部とを配合して成る難燃性ポリブチレンテレフタレート組成物であって、ポリブチレンテレフタレートとして、チタン含量が原子換算で33ppmより多く90ppm以下であり、末端カルボキシル基濃度が10μeq/gより高く30μeq/g以下、固有粘度が0.83dl/gより高いポリブチレンテレフタレートを使用して成ることを特徴とする難燃性ポリブチレンテレフタレート組成物。
【請求項6】
ポリブチレンテレフタレートにおけるチタン含量が原子換算で40〜70ppmである請求項5に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート組成物。
【請求項7】
更に、強化充填剤を配合して成り、その量がポリブチレンテレフタレート100重量部に対して150重量部以下である請求項5又は6に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート組成物。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート組成物から成ることを特徴とする成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−45525(P2006−45525A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−189519(P2005−189519)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】