説明

難燃性樹脂組成物及び被覆電線

【課題】高い耐熱性及び難燃性を有するとともに、加工性、及び柔軟性又は靱性に優れ、特に電線などを被覆するのに有用な難燃性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、(B)熱可塑性ポリエステルエラストマー25〜150重量部、(C)平均粒子径が10μm以下のホスフィン酸塩、ジホスフィン酸塩、及びこれらの重合物から選択された少なくとも一種のホスフィン酸類5〜40重量部、(D)エポキシ化合物0.5〜20重量部、及び(E)酸化防止剤0.1〜5重量部とで構成される難燃性樹脂組成物であって、酸化防止剤(E)がフェノール系酸化防止剤(e−1)を必須成分とし、更にホスファイト系酸化防止剤(e−2)、ホスフォナイト系酸化防止剤(e−3)及びチオエーテル系酸化防止剤(e−4)から選択された少なくとも一種を含有する難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン系の難燃剤などを含まないにも拘わらず、高い耐熱性及び難燃性を有するとともに、柔軟性、耐久性(耐加水分解性など)、成形性(押出性など)に優れる難燃性樹脂組成物、特に電線などを被覆するのに有用な難燃性樹脂組成物及び被覆電線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車分野では、燃費、居住性、安全性などを改善するため、種々の用途に多くの電装部品が使用されている。この用途は、例えば、ECU(EIectricaI Control Unit)に代表される燃焼又は走行系の各種電子制御機器やセンサー類、室内外の照明関連機器、空調機器、ワイパーやパワーウインドウ等のモーター駆動機器等、多岐に渡っている。電装部品の増加に伴って、電装部品を駆動するために電力や制御信号を電送するための自動車内配線も増加している。このような配線用材料(配線被覆材料など)には、高い耐久性や難燃性が要求される。
【0003】
従来、耐久性や難燃性に優れる材料として、ポリ塩化ビニル樹脂が使用されてきた。また、難燃化の点では、ハロゲン系難燃剤を用いると、樹脂などを高度に難燃化できることが知られている。しかし、環境負荷の点から、非ハロゲン系材料、例えば、難燃性を有するポリオレフィンやポリエステルエラストマー等をベースとする材料(特に、ハロゲン系難燃剤を含まない材料)などが注目されている。
【0004】
このような材料として、例えば、特開平9−53007号公報(特許文献1)には、ハードセグメントとしてのポリブチレンテレフタレートと、ソフトセグメントとしての芳香族ジカルボン酸及び炭素数5〜12の長鎖ジオールを主たる構成成分とするポリエステルとで構成されたポリエステルブロック共重合体(A)、及び必要によりポリアルキレンテレフタレート樹脂(B)の混合物100重量部に対して、リン化合物及び/又はトリアジン化合物(C)5〜150重量部を含有する難燃性樹脂組成物、並びにこの樹脂組成物を電線被覆材として導電体の外部に被覆として有する電線が開示されている。また、特開2002−30204号公報(特許文献2)には、結晶性芳香族ポリエステル単位を含む高融点結晶性重合体セグメント(a)と、脂肪族ポリエーテル単位を含む低融点重合体セグメント(b)とを主たる構成成分とするポリエーテルエステルブロック共重合体(A)100重量部に対して、リン系化合物(B)1〜50重量部、モノカルボジイミド化合物(C)及び/又はポリカルボジイミド化合物(D)0.01〜10重量部を含む難燃性ポリエステルエラストマー樹脂組成物が、電線又は光ファイバー被覆用に適していることが開示されている。
【0005】
しかし、このような樹脂組成物は、耐加水分解性が低い上、難燃性を高めるためには難燃剤を大量に添加する必要があり、樹脂の特性が大きく損なわれる。そのため、自動車分野において幅広い用途に必要とされる特性、例えば、靭性、耐熱性、耐加水分解性及び耐燃焼性などを有する材料が求められている。
【0006】
また、特開2002−358837号公報(特許文献3)には、(A)熱可塑性芳香族ポリエステル100重量部に対して、(B)ハードセグメントとしてのポリテトラメチレンテレフタレートと、ソフトセグメントしての芳香族ジカルボン酸及び炭素数5〜12の長鎖ジオールのポリエステルとで構成されたポリエステルブロック共重合体10〜120重量部、並びに(C)グリシジル化合物で変性されたオレフィン−アクリル酸エステル共重合体1〜50重量部を含むポリエステル樹脂組成物からなる絶縁被覆を有するフラットケーブルが開示されている。この文献には、リン系難燃剤やポリカルボジイミド化合物を含んでもよいことも開示されている。しかし、このような樹脂組成物は、耐摩耗性や耐燃性が不十分である。
【0007】
また、特開2001−256836号公報(特許文献4)には、テレフタル酸及び/又はそのエステル誘導体を主成分とするジカルボン酸成分とテトラメチレングリコール及びポリテトラメチレンオキシドグリコールを主成分とするジオール成分とを重合してなり、固有粘度が1.0〜1.7で末端カルボキシル基含有量が30μeq/g以下のポリエステルエーテル樹脂100重量部に対し、熱安定剤0.05〜3重量部及び潤滑剤0.05〜5重量部を含有するポリエステルエーテル樹脂を被覆してなる樹脂被覆電線が開示されている。この文献には、熱安定剤としてホスファイト化合物、ヒンダードフェノール化合物及びチオエーテル系化合物を使用する方法が提案されている。しかし、このような樹脂組成物は、難燃性が不十分である。
【0008】
一方、特表2004−537630号公報(特許文献5)には、ポリエステル樹脂に10μm以下の平均粒度(d50−値)を有するホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩及び/又はそのポリマー1〜40質量%を使用する方法が提案されている。しかしながら、このような樹脂組成物では、難燃性は付与できるものの、柔軟性や靱性が不十分である。特にこれら特性の不足から、電線被覆用途には適さない。
【特許文献1】特開平9−53007号公報(請求項1及び2)
【特許文献2】特開2002−30204号公報(請求項1及び12)
【特許文献3】特開2002−358837号公報(請求項1及び4〜6)
【特許文献4】特開2001−256836号公報(請求項1及び4〜5)
【特許文献4】特表2004−537630号公報(請求項1〜4及び7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、高い耐熱性及び難燃性を有するとともに、加工性、及び柔軟性又は靱性に優れる難燃性樹脂組成物、特に電線などを被覆するのに有用な難燃性樹脂組成物を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、耐久性、耐熱性及び押出加工性に優れ、電線被覆用途に有用な難燃性樹脂組成物、この難燃性樹脂組成物で被覆された被覆電線を提供することにある。
【0011】
本発明の更に他の目的は、ブツ等の成形品表面の外観不良がなく、高温環境下においてもブリードアウトが抑制され、優れた特性を維持できる難燃性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、特定の5成分を組み合わせると、非ハロゲン系であっても高い難燃性を有すると共に、押出加工性などの成形性、及び柔軟性又は靱性に優れ、電線被覆などに適した樹脂組成物が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、(B)熱可塑性ポリエステルエラストマー25〜150重量部、(C)平均粒子径が10μm以下のホスフィン酸塩、ジホスフィン酸塩、及びこれらの重合物から選択された少なくとも一種のホスフィン酸類5〜40重量部、(D)エポキシ化合物0.5〜20重量部、及び(E)酸化防止剤0.1〜5重量部とで構成される難燃性樹脂組成物であって、酸化防止剤(E)がフェノール系酸化防止剤(e−1)を必須成分とし、更にホスファイト系酸化防止剤(e−2)、ホスフォナイト系酸化防止剤(e−3)及びチオエーテル系酸化防止剤(e−4)から選択された少なくとも一種を含有する難燃性樹脂組成物、及び
電線の表面が上記難燃性樹脂組成物で被覆されている被覆電線である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の難燃性樹脂組成物は、特定の5成分を組み合わせるので、非ハロゲン系の樹脂組成物であっても高い難燃性を有すると共に、加工性、及び柔軟性又は靱性に優れる。また、本発明の難燃性樹脂組成物は、耐久性(耐加水分解性など)、耐熱性、表面平滑性、及び押出加工性にも優れるため、電線被覆用途において有用である。また、本発明の難燃性樹脂組成物は、高温環境下においてもブリードアウトが抑制され、優れた特性を維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の難燃性樹脂組成物は、特定の5成分、すなわち、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)熱可塑性ポリエステルエラストマー、(C)ホスフィン酸類、(D)エポキシ化合物、及び(E)酸化防止剤で構成されている。
(A)ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂
ベース樹脂であるPBT樹脂としては、ブチレンテレフタレートを主成分(例えば、50〜100重量%、好ましくは60〜100重量%、さらに好ましくは70〜100重量%程度)とするホモポリエステル又はコポリエステル(ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートコポリエステル)などが挙げられる。
【0016】
コポリエステル(ブチレンテレフタレート共重合体又は変性PBT樹脂)における共重合可能なモノマー(以下、単に共重合性モノマーと称する場合がある)としては、テレフタル酸を除くジカルボン酸、1,4−ブタンジオールを除くジオール、オキシカルボン酸、ラクトンなどが挙げられる。共重合性モノマーは一種で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0017】
ジカルボン酸としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸(例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ダイマー酸などのC4-40ジカルボン酸、好ましくはC4-14ジカルボン酸)、脂環式ジカルボン酸(例えば、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ハイミック酸などのC8-12ジカルボン酸)、テレフタル酸を除く芳香族ジカルボン酸(例えば、フタル酸、イソフタル酸;2,6−ナフタレンジカルボン酸などのナフタレンジカルボン酸;4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸などのC8-16ジカルボン酸)、又はこれらの反応性誘導体[エステル形成性誘導体、例えば、低級アルキルエステル(ジメチルフタル酸、ジメチルイソフタル酸(DMI)などのフタル酸又はイソフタル酸のC1-4アルキルエステルなど);酸クロライド;酸無水物;アルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体などのエステル形成可能な誘導体]などが挙げられる。中でもイソフタル酸が用いられることが多い。
【0018】
ジオールには、例えば、1,4−ブタンジオールを除く脂肪族アルキレングリコール(例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール(1,6−ヘキサンジオールなど)、オクタンジオール(1,3−オクタンジオールなど)、デカンジオールなどの低級アルキレングリコール(C2-12アルキレングリコール、好ましくはC2-10アルキレングリコールなど)、ポリオキシアルキレングリコール[複数のオキシC2-4アルキレン単位を有するグリコール、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジテトラメチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど]、脂環族ジオール(例えば、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールAなど)、芳香族ジオール[例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、ナフタレンジオールなどのC6-14芳香族ジオール;ビフェノール(4,4’−ジヒドロキシビフェニルなど);ビスフェノール類;キシリレングリコールなど]、及びこれらの反応性誘導体(アルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体などのエステル形成性誘導体など)などが挙げられる。
【0019】
PBT樹脂としては、共重合性モノマーの割合(変性量)が30モル%以下(例えば、0〜30モル%)であるPBT樹脂[ホモポリエステル(ポリブチレンテレフタレート)及び/又はコポリエステル(共重合体)]が好ましい。共重合体において、共重合性モノマーの割合は、例えば、0.01〜30モル%程度の範囲から選択でき、通常、1〜30モル%、好ましくは3〜25モル%、さらに好ましくは5〜20モル%(例えば、5〜15モル%)程度である。PBT樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0020】
PBT樹脂の固有粘度(IV)は、特に制限されず、o−クロロフェノール中、35℃で測定したとき、例えば、0.6〜1.4程度であってもよい。耐加水分解性や押出加工性の点では、前記固有粘度は、好ましくは0.8〜1.3、さらに好ましくは0.85〜1.2程度であってもよい。固有粘度が低すぎると、所望の耐加水分解性や押出加工性(メルトテンション)が得られない場合がある。また、固有粘度が高すぎると、押出加工時の負荷が高くなる虞がある。
【0021】
PBT樹脂は、テレフタル酸又はその反応性誘導体と1,4−ブタンジオールと必要により共重合可能なモノマーとを、慣用の方法、例えば、エステル交換、直接エステル化法などにより共重合(重縮合)することにより製造できる。
(B)熱可塑性ポリエステルエラストマー
熱可塑性ポリエステルエラストマーは、一般に、硬質ポリエステルブロック(芳香族ポリエステルなどのハードブロック又はハードセグメント)と、軟質ポリエステルブロック(ソフトブロック又はソフトセグメント)とがエステル結合により結合した構造を有するブロック共重合体である。熱可塑性ポリエステルエラストマーは軟質ブロックの種類によってポリエーテル型とポリエステル型の2種類に分類でき、いずれのタイプも本発明に使用できる。
【0022】
前記硬質ブロックを構成する硬質ポリエステルは、前記PBT樹脂と同様に、ジカルボン酸類とジオール類との重縮合、オキシカルボン酸の重縮合などにより得ることができ、通常、少なくとも芳香族モノマー成分[前記PBT樹脂の項で例示の芳香族ジオール及びその反応性誘導体、前記PBT樹脂の項で例示の芳香族ジカルボン酸及びテレフタル酸(及びこれらの芳香族ジカルボン酸の反応性誘導体も含む)、及び/又は芳香族オキシカルボン酸(オキシ安息香酸、オキシナフトエ酸、4−カルボキシ−4’ヒドロキシ−ビフェニルなどの他、これらのオキシカルボン酸の誘導体(アルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体など)など)など]を用いた芳香族ポリエステルが使用できる。前記芳香族モノマー成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。芳香族ポリエステルには、必要により共重合可能なモノマー(前記PBT樹脂の項で例示の共重合性モノマーの他、1,4−ブタンジオール、テレフタル酸なども含む)を併用してもよい。
【0023】
前記芳香族ポリエステルは、モノマー成分として、少なくとも芳香族モノマー成分を用いればよく、例えば、全芳香族ポリエステル(芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとのポリエステルや芳香族オキシカルボン酸のポリエステルなど)であってもよく、芳香族ジカルボン酸と非芳香族ジオール(1,4−ブタンジオール、前記PBT樹脂の項で例示の脂肪族ジオールや脂環族ジオールなど)とのポリエステル、非芳香族ジカルボン酸(前記PBT樹脂の項で例示の脂肪族ジカルボン酸など)と芳香族ジオールとのポリエステル、芳香族オキシカルボン酸と非芳香族オキシカルボン酸(グリコール酸やオキシカプロン酸などの脂肪族オキシカルボン酸)とのポリエステルなどであってもよい。
【0024】
前記硬質ポリエステルのうち、結晶性の芳香族ポリエステル[例えば、ポリアルキレンアリレート(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどのポリC2-4アルキレンアリレート、共重合成分(イソフタル酸などの前記例示の共重合性モノマー)1〜30モル%(例えば、3〜25モル%、好ましくは5〜20モル%程度の割合)で変性又は共重合された変性ポリC2-4アルキレンアリレート)など]、液晶ポリエステル、特に、ポリブチレンテレフタレートなどが好ましい。
【0025】
前記ポリエステル型エラストマーの軟質ブロックを構成する軟質ポリエステルは、前記PBT樹脂と同様に、ジカルボン酸類とジオール類との重縮合、オキシカルボン酸やラクトンの重縮合などにより得ることができる。前記軟質ポリエステルは、前記硬質ブロックを構成する硬質ポリエステルより、柔軟であればよく、通常、少なくとも脂肪族モノマー成分[脂肪族ジオール(1,4−ブタンジオール、前記PBT樹脂の項で例示の脂肪族ジオール及びその反応性誘導体など)、脂肪族ジカルボン酸(前記PBT樹脂の項で例示の脂肪族ジカルボン酸及びその反応性誘導体など)、脂肪族オキシカルボン酸(グリコール酸、オキシカプロン酸など)、前記PBT樹脂の項で例示のラクトンなど]を用いたポリエステルなどが使用できる。必要により、脂肪族モノマー成分には、共重合性単量体(通常、非芳香族性モノマー成分、例えば、前記PBT樹脂の項で例示の脂環族ジオールや脂環族ジカルボン酸、及びこれらの反応性誘導体など)を併用してもよい。
【0026】
軟質ポリエステルのうち、非晶性ポリエステル、例えば、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを用いた脂肪族ポリエステルや、ポリラクトン(前記ラクトンの開環重合体)が好ましい。
【0027】
前記ポリエーテル型エラストマーのソフトセグメントは、少なくともポリエーテル単位を有していればよく、ポリエーテル[例えば、ポリオキシアルキレン単位を有する脂肪族ポリエーテル(前記PBT樹脂の項で例示のポリオキシアルキレングリコール、好ましくはポリC2-6アルキレングリコールなど)など]やこのポリエーテルを用いたポリエステルなどで構成できる。前記ポリエーテルのうち、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、及びポリオキシテトラメチレングリコールなどのポリC2-4アルキレングリコールが好ましい。前記ポリエーテルを用いたポリエステルとしては、前記ポリエーテル(ポリオキシアルキレングリコールなど)と、ジカルボン酸[通常、非芳香族性ジカルボン酸、例えば、前記PBT樹脂の項で例示の脂肪族又は脂環族ジカルボン酸、及びこれらの反応性誘導体など]とのポリエステルなどが挙げられる。
【0028】
これらの軟質ブロックのうち、ポリエーテル単位(脂肪族ポリエーテル単位、脂肪族ポリエーテルを用いたポリエステル単位)、及び脂肪族ポリエステル単位から選択された少なくとも一種の単位を有する軟質ポリエステルブロックが好ましい。
【0029】
熱可塑性ポリエステルエラストマー(B)の具体例としては、例えば、ポリエステル型(すなわち、ポリエステルーポリエステル型)熱可塑性エラストマー[例えば、ポリC2-4アルキレンアリレート(特にポリブチレンテレフタレート単位を有する単独重合体、又は共重合成分(エチレングリコール、イソフタル酸など)を共重合した共重合体)などの芳香族系結晶性ポリエステルや液晶ポリエステルで構成されたハードセグメントと、脂肪族ポリエステル(ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペートなどのC2-6アルキレングリコールとC6-12アルカンジカルボン酸とのポリエステルなど)で構成されたソフトセグメントとのブロック共重合体]、ポリエーテル型(すなわち、ポリエステルーポリエーテル型)熱可塑性エラストマー[例えば、前記芳香族系結晶性ポリエステル又は液晶ポリエステルで構成されたハードセグメントと、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのポリオキシC2-4アルキレングリコールなどのポリエーテルで構成されたソフトセグメント(ポリオキシアルキレングリコールとジカルボン酸とのポリエステルなど)とのブロック共重合体]などが例示できる。
【0030】
前記ポリエステルエラストマー(B)のうち、(b−1)硬質ポリアルキレンアリレートブロックと、(b−2)ポリカプロラクトン、オキシC2-6アルキレン単位を有する脂肪族ポリエーテル(ポリC2-6アルキレングリコールなど)や脂肪族ポリエステルで構成された軟質ポリエステルブロックとのブロック共重合体が好ましい。前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(B)は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0031】
熱可塑性エラストマーにおいて、ハードセグメント(又は硬質成分)とソフトセグメント(又は軟質成分)との重量割合は、通常、前者/後者=10/90〜90/10、好ましくは20/80〜80/20、さらに好ましくは30/70〜70/30(例えば、40/60〜60/40)程度である。
【0032】
熱可塑性ポリエステルエラストマー(B)は、電線被覆用途など、柔軟性が必要とされる用途では、例えば、曲げ弾性率が1000MPa以下、好ましくは50〜400MPa(特に100〜300MPa)程度の範囲にあるのが好ましい。このような用途では、曲げ弾性率が小さすぎると、加工上の取り扱い性に問題が生じ、大きすぎると十分な柔軟性が得られない虞がある。
(C)ホスフィン酸類
ホスフィン酸類としては、例えば、ホスフィン酸、ジホスフィン酸、又はこれらの重合物(又は縮合物、例えばポリホスフィン酸など)などの塩[金属塩の他;ホウ素塩(ボリル化合物など)、アンモニウム塩、アミノ基含有窒素含有化合物との塩など)など]が挙げられる。ホスフィン酸類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。尚、ホスフィン酸類は、鎖状及び環状のいずれの構造を有していてもよい。
【0033】
塩を形成するホスフィン酸、ジホスフィン酸又はこれらの重合物としては、有機基を有しないホスフィン酸、ジホスフィン酸などであってもよいが、通常、有機ホスフィン酸、有機ジホスフィン酸、有機ジホスフィン酸の重合物(又は縮合物)などである場合が多い。前記塩は、これらのホスフィン酸を一種含有してもよく、二種以上組み合わせて含有してもよい。
【0034】
上記ホスフィン酸類のうち、特に金属塩が好ましい。塩を形成する金属としては、アリカリ金属(カリウム、ナトリウムなど)、アリカリ土類金属(マグネシウム、カルシウムなど)、遷移金属(鉄、コバルト、ニッケル、銅など)、周期表第12族金属(亜鉛など)、周期表第13族金属(アルミニウムなど)などが挙げられる。前記金属塩は、これらの金属を一種含有してもよく、二種以上組み合わせて含有してもよい。前記金属のうち、アリカリ土類金属(マグネシウム、カルシウムなど)及び周期表第13族金属(アルミニウムなど)が好ましい。
【0035】
金属の価数は特に制限されず、例えば1〜4価程度であってもよいが、好ましくは2〜4価、更に好ましくは2又は3価である。
【0036】
前記ホスフィン酸金属塩としては、具体的に、下記式(1)で表される化合物が挙げられ、ジホスフィン酸金属塩が下記式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0037】
【化2】

【0038】
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ同一又は相異なって、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を示し、Rはアルキレン基、脂環族二価基又は芳香族二価基を示す。R及びRは互いに結合して隣接するリン原子とともに環を形成してもよい。Mm+は価数mの金属を示し、mは2〜4の整数である。Mn+は価数nの金属を示し、nは2〜4の整数である。)
〜Rで表される炭化水素基としては、アルキル基(例えば、メチル、エチル、イソプロピル、n−ブチル、t−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキル基)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基などのC5-8シクロアルキル基など)、アリール基(フェニル基などのC6-10アリール基など)、アラルキル基(ベンジル基などのC6-10アリール−C1-4アルキル基など)などが挙げられる。これらの基のうち、通常、アルキル基(好ましくはC1-4アルキル基など)、アリール基(フェニル基など)などが好ましい。
【0039】
及びRが結合して隣接するリン原子とともに形成する環は、環を構成するヘテロ原子として前記リン原子を有するヘテロ環(リン原子含有ヘテロ環)であり、通常、4〜20員ヘテロ環、好ましくは5〜16員ヘテロ環が挙げられる。また、前記リン原子含有ヘテロ環は、ビシクロ環であってもよい。前記リン原子含有ヘテロ環は、置換基を有していてもよい。
【0040】
で表される二価の炭化水素基としては、アルキレン基(又はアルキリデン基、例えば、メチレン、エチレン、フェニルエチレン、プロピレン、トリメチレン、1,4−ブタンジイル、1,3−ブタンジイル基などのC6-10アリール基などの置換基を有していてもよい直鎖状又は分岐鎖状C1-10アルキレン基など)、脂環族二価基(シクロヘキシレン基、シクロヘキサジメチレン基などのC5-8脂環族二価基など)、芳香族二価基[フェニレン基、トリレン基などのC1-4アルキル基などの置換基を有していてもよいC6-10アリーレン基;キシリレン基などのアレーン環にメチル基などのC1-4アルキル基を有していてもよいC6-10アリーレンジC1-4アルキレン基;アレーン環にメチル基などのC1-4アルキル基を有していてもよいビスアリール基(例えば、ビフェニレン基;メタジフェニレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルカン−ジC6-10アリーレン基;ジフェニルエーテルなどのC6-10アリールエーテルに対応する二価基;ジフェニルケトンなどのジC6-10アリールケトンに対応する二価基;ジフェニルスルフィドなどのジC6-10アリールスルフィドに対応する二価基など)など]などが挙げられる。これらの二価炭化水素基のうち、アルキレン基(特にC1-6アルキレン基など)が好ましい。
【0041】
好ましい金属塩(1)及び(2)は、金属Mの価数(m及びn)がそれぞれ2〜3である多価金属塩である。
【0042】
ホスフィン酸の金属塩(1)の具体例としては、例えば、ジメチルホスフィン酸Ca、メチルエチルホスフィン酸Ca、ジエチルホスフィン酸Caなどのジアルキルホスフィン酸Ca塩(ジC1-10アルキルホスフィン酸Ca塩など)、フェニルホスフィン酸Ca、ジフェニルホスフィン酸Caなどのアリールホスフィン酸Ca塩(モノ又はジC6-10アリールホスフィン酸Ca塩など)、メチルフェニルホスフィン酸Caなどのアルキルアリールホスフィン酸Ca塩(C1-4アルキル−C6-10アリールホスフィン酸Ca塩など)、1−ヒドロキシ−1H−ホスホラン−1−オキシドCa塩、2−カルボキシ−1−ヒドロキシ−1H−ホスホラン−1−オキシドCa塩などの置換基を有していてもよいアルキレンホスフィン酸のCa塩(C3-8アルキレンホスフィン酸Ca塩など)、これらのCa塩に対応するAl塩の他、他の金属塩などが挙げられる。
【0043】
ジホスフィン酸の金属塩(2)の具体例としては、例えば、エタン−1,2−ビス(ホスフィン酸)Ca塩などのアルカンビス(ホスフィン酸)Ca塩[C1-10アルカンビス(ホスフィン酸)Ca塩など]、エタン−1,2−ビス(メチルホスフィン酸)Ca塩などのアルカンビス(アルキルホスフィン酸)Ca塩[C1-10アルカンビス(C1-6アルキルホスフィン酸)Ca塩など]、これらのCa塩に対応するAl塩の他、他の金属塩などが挙げられる。
【0044】
ホスフィン酸の金属塩には、これらのホスフィン酸の多価金属塩及び/又はジホスフィン酸の多価金属塩の重合物又は縮合物も含まれる。
【0045】
ホスフィン酸類としては、ホスフィン酸の多価金属塩、ジホスフィン酸の多価金属塩、及びジホスフィン酸の重合物(又は縮合物)の多価金属塩から選択された少なくとも一種が好ましい。
【0046】
好ましいホスフィン酸類は、上記式(1)又は(2)で示される金属塩のうち、特にジアルキルホスフィン酸金属塩(Ca塩、Al塩など)、アルカンビスホスフィン酸金属塩(Ca塩、Al塩など)などである。
【0047】
ホスフィン酸類の平均粒子径は10μm以下であることが必要であり、好ましくは8μm以下、更に好ましくは5μm以下である。平均粒子径が10μmを超えると成形品の表面粗さを悪化させる原因となるだけでなく、靱性及び難燃性改善効果が不十分となる虞がある。
【0048】
ホスフィン酸類の平均粒子径は、レーザー回折/散乱式の粒度分布測定装置などによりメジアン径として得られる。
(D)エポキシ化合物
エポキシ化合物(D)としては、多官能エポキシ化合物、例えば、エポキシ樹脂(d−1)、及びグリシジル基を有するビニル系共重合体(d−2)などが挙げられる。エポキシ化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
(d−1)エポキシ樹脂
エポキシ樹脂(d−1)としては、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂(ジグリシジルフタレート、ジグリシジルテトラヒドロフタレート、ジグリシジルヘキサヒドロフタレート、ジメチルグリシジルフタレート、ジメチルグリシジルヘキサヒドロフタレート、ダイマー酸グリシジルエステル、アロマティックジグリシジルエステル、シクロアリファティックジグリシジルエステルなど)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジル−パラアミノフェノール、トリグリシジル−メタアミノフェノール、ジグリシジルトルイジン、テトラグリシジルメタキシリレンジアミン、ジグリシジルトリブロムアニリン、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサンなど)、複素環式エポキシ樹脂(トリグリシジルイソシアヌレート(TGIC)、ヒダントイン型エポキシ樹脂など)、環式脂肪族エポキシ樹脂(ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、アリサイクリックジエポキシアセタール、アリサイクリックジエポキシアジペート、アリサイクリックジエポキシカルボキシレートなど)、エポキシ化ポリブタジエンなどが挙げられる。
【0049】
前記グリシジルエーテル型エポキシ樹脂には、ポリヒドロキシ化合物のグリシジルエーテル[ビスフェノール型エポキシ樹脂(例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールAD型、又はビスフェノールF型エポキシ樹脂など)、レゾルシン型エポキシ樹脂などの芳香族ポリヒドロキシ化合物のグリシジルエーテル;脂肪族エポキシ樹脂(アルキレングリコールやポリオキシアルキレングリコールのグリシジルエーテルなど)など]、ノボラック型エポキシ樹脂(フェノールノポラック型、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂など)などが含まれる。
【0050】
前記エポキシ樹脂(d−1)のうち、芳香族エポキシ樹脂(ビスフェノール型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂など)、環式脂肪族エポキシ樹脂が好ましい。中でも、グリシジルエーテル型芳香族エポキシ樹脂、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂などが好ましい。
【0051】
前記エポキシ樹脂のエポキシ当量は、例えば、250〜1200g/eq、好ましくは300〜1100g/eq、さらに好ましくは400〜1000g/eq程度であってもよい。
【0052】
エポキシ樹脂(d−1)の数平均分子量は、例えば、200〜50,000、好ましくは300〜10,000、さらに好ましくは400〜6,000程度であってもよい。
(d−2)グリシジル基含有ビニル系共重合体(グリシジル基を有するビニル系共重合体)
グリシジル基を有するビニル系共重合体(d−2)は、グリシジル基を有する重合性単量体(グリシジル基を有するビニル系単量体など)と、他の共重合性単量体との共重合体で構成される。
【0053】
グリシジル基を有する重合性単量体は、グリシジル基とともに、少なくとも1つの重合性基(エチレン性不飽和結合(ビニル基など)、アセチレン結合など)を有している。このような単量体としては、アリルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル、カルコングリシジルエーテル、2−シクロヘキセン−1−グリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル;グリシジル(メタ)アクリレート、マレイン酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、ビニル安息香酸グリシジルエステル、アリル安息香酸グリシジルエステル、ケイ皮酸グリシジルエステル、シンナミリデン酢酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル、エポキシ化ステアリルアルコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのエステル、脂環式グリシジルエステル(シクロヘキセン−4,5−ジグリシジルカルボキシレートなど)などのグリシジル又はエポキシエステル(特に、α,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルなど);エポキシヘキセン、リモネンオキシドなどのエポキシ化された不飽和の鎖状又は環状オレフィン;N−[4−(2,3−エポキシプロポキシ)−3,5−ジメチルベンジル]アクリルアミドなどが挙げられる。これらの単量体のうち、グリシジル基を有するビニル系単量体、例えば、α,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルが好ましい。これらのグリシジル基含有重合性単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0054】
前記α,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルには、例えば、下記式(3)で表されるグリシジル基を有するビニル系単量体が含まれる。
【0055】
【化3】

【0056】
(式中、Rは水素原子、又はグリシジルエステル基で置換されていてもよいアルキル基を示す)
前記式(3)において、Rで表されるアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル基などの低級アルキル基(例えば、C1-6アルキル基など)などが挙げられる。グリシジルエステル基を置換基として有するアルキル基において、グリシジルエステル基の個数は特に制限されず、例えば、1〜3個、通常1又は2個程度であってもよい。
【0057】
α,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルのうち、グリシジル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0058】
前記グリシジル基を有する重合性単量体と共重合可能な前記他の共重合性単量体としては、オレフィン系単量体(エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセンなどのα−オレフィンなど)、ジエン系単量体(ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエンなど)、芳香族ビニル系単量体(スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのスチレン系単量体など)、アクリル系単量体((メタ)アクリル酸、メタクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル、アクリロニトリルなど)、ビニルエステル類(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど)、ビニルエーテル類などが挙げられる。共重合性単量体は、α,β−不飽和二重結合を有する単量体であるのが好ましい。これらの共重合性単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。前記共重合性単量体のうち、オレフィン系単量体、アクリル系単量体((メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなど)などが好ましい。
【0059】
グリシジル基を有する共重合体(d−2)において、前記グリシジル基を有する重合性単量体の割合は、1〜50重量%、好ましくは2〜40重量%、さらに好ましくは2〜30重量%程度であってもよい。なお、共重合性単量体として、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、(メタ)アクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン系単量体などの比較的重合性の低い単量体を用いる場合には、グリシジル基を有する重合性単量体の割合を少なくしてもよい(例えば、1〜40重量%程度)。
【0060】
グリシジル基を有する共重合体(d−2)は、少なくとも前記共重合性単量体としてオレフィン系単量体(エチレンなどのC2-4オレフィンなど)を用いて得られる共重合体が好ましく、必要により(メタ)アクリル系単量体((メタ)アクリル酸C1-4アルキルエステルなど)を組み合わせてもよい。前記共重合体の具体例としては、例えば、エチレン−メタクリル酸グリシジルエステル共重合体などのC2-4オレフィン−(メタ)アクリル酸グリシジルエステル共重合体;エチレン−アクリル酸メチル−メタクリル酸グリシジルエステル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−メタクリル酸グリシジルエステル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル−メタクリル酸グリシジルエステル共重合体、エチレン−メタクリル酸エチル−メタクリル酸グリシジルエステル共重合体などのC2-4オレフィン−(メタ)アクリル酸C1-4アルキルエステル−(メタ)アクリル酸グリシジルエステル共重合体などが挙げられる。
(E)酸化防止剤
酸化防止剤(E)としては、フェノール系酸化防止剤(e−1)を必須成分とし、更にホスファイト系酸化防止剤(e−2)、ホスフォナイト系酸化防止剤(e−3)及びチオエーテル系酸化防止剤(e−4)から選択された少なくとも一種を含有することが必要である。耐熱性向上のためには、フェノール系酸化防止剤(e−1)とチオエーテル系酸化防止剤(e−4)の組み合わせが好ましい。更には、フェノール系酸化防止剤(e−1)とチオエーテル系酸化防止剤(e−4)に加え、ホスファイト系酸化防止剤(e−2)を併用することが好ましい。
(e−1)フェノール系酸化防止剤
フェノール系酸化防止剤(e−1)は、その分子構造中にアルキルフェノール基を1個以上有する化合物である。フェノール系酸化防止剤の具体例としては、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ステアリル(3,5−ジ−メチル−4−ヒドロキシベンジル)チオグリコレート、ステアリル−β−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、ジステアリル−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ホスホネート、ステアリル−(4−ヒドロキシ−3−メチル−5−t−ブチル)ベンジルマロネート、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、
4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス[6−(1−メチルシクロヘキシル)−p−クレゾール]、ビス[3,3−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)ブチリックアシド]グリコールエステル、4,4’−ブチリデンビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2,4,6−トリメチルベンゼン、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、2−オクチルチオ−4,6−ジ(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチル)フェノキシ−1,3,5−トリアジン、4,4’−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキシルジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス−オクチルチオ−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ジヒドロシンナマミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレイト、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,4−ビス[(オクチルチオ)メチル]−oクレゾールなどが挙げられる。
【0061】
これらは一種又は二種以上を併用して用いることができる。
(e−2)ホスファイト系酸化防止剤
ホスファイト系酸化防止剤としては、下記一般式(4)又は(5)で示されるものが挙げられる。
【0062】
【化4】

【0063】
一般式(4)中、R、R、R及びR10は、C1-25アルキル基、置換アルキル基、アリール基又は置換アリール基であり、それぞれ同一でも相異なっていてもよい。これらの例を示せば、メチル基、エチル基、ブチル基、オクチル基、デシル基、ラウリル基、トリデシル基、ステアリル基、フェニル基、アルキル及び/又はアルコキシ置換フェニル基などである。
【0064】
また、R11は、C4-33アルキレン基、置換アルキレン基、アリーレン基又は置換アリーレン基であり、その例を示せば、ブチレン基、オクチレン基、フェニレン基、ジフェニレン基、次式
【0065】
【化5】

【0066】
で示される基(式中、Xはオキシ基、スルホニル基、カルボニル基、メチレン基、エチリデン基、ブチリデン基、イソプロピレン基、ジアゾ基など)などである。特に好ましいホスファイト化合物としては、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ジフェニレンホスファイトが挙げられる。
【0067】
また、一般式(5)中、Ar及びAr’はC6-35アリール基又は置換アリール基であり、それぞれ同一でも相異なっていてもよい。これらの例を示せば、フェニル基、ナフチル基、ジフェニル基など或いはこれらのアルキル、ヒドロキシ及び/又はアルコキシ置換体等である。具体的な化合物の一例を示せば、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、4−フェノキシ−9−α−(4−ヒドロキシフェニル)−p−クメルオキシ−3,5,8,10−テトラオキサ−4,9−ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン等が挙げられる。特にこれらの中で、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましい。
(e−3)ホスフォナイト系酸化防止剤
ホスフォナイト系酸化防止剤としては、下記一般式(6)で示されるものが挙げられる。
【0068】
【化6】

【0069】
一般式(6)中、R12、R13、R14及びR15は、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基又はアルコキシ基であり、それぞれ同一でも相異なっていてもよい。中でも、R12〜R15は、C6以上のアルキル基、置換アルキル基、アルコキシ基か、或いはアリール基、置換アリール基であることが加工中の安定性の見地から好ましく、アリール基、置換アリール基が特に好ましい。
【0070】
また、R16は、アルキレン基、置換アルキレン基、アリーレン基又は置換アリーレン基であり、アリーレン基又は置換アリーレン基が好ましく、その例を示せば、フェニレン基、ナフタレン基、ビフェニレン基、ターフェニレン基、或いはこれらのアルキル、ヒドロキシ及び/又はアルコキシ置換体等である。
【0071】
具体的な化合物の一例を示せば、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスフォナイトが代表例として挙げられる。
(e−4)チオエーテル系酸化防止剤
チオエーテル系酸化防止剤(e−4)は分子構造中に少なくとも1個のチオエーテル結合を有する化合物である。その例としては、テトラキス[メチレン−3−(ドデシルチオ)プロピオネート]メタン、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネートなどが挙げられ、これらは一種又は二種以上を併用して用いることができる。
(F)ポリカルボジイミド化合物
本発明では更に、耐久性、特に耐加水分解性を改善する目的でポリカルボジイミド化合物(F)を使用できる。
【0072】
ポリカルボジイミド化合物(F)は、分子内に少なくとも2つの(−N=C=N−)で表されるカルボジイミド基を有する化合物であり、一般的に良く知られた方法で合成されたものを使用することができ、例えば、触媒として有機リン系化合物又は有機金属化合物を用い、各種ポリイソシアネート(ジイソシアネート)を約70℃以上の温度で、無溶媒又は不活性溶媒中で、脱炭酸縮合反応に付することにより合成することができる。ポリカルボジイミド化合物の製造方法としては、米国特許第2941956号明細書、特公昭47−33279号公報、J.Org.Chem.28,2069-2075(1963)、Chemical Review 1981.Vol.81.No.4.p619-621等に記載のものが公知である。
【0073】
ポリカルボジイミド化合物の製造における合成原料である有機ジイソシアネートとしては、例えば、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネートやこれらの混合物を挙げることができ、具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート等を例示することができる。
【0074】
また、上記ポリカルボジイミド化合物の場合は、重合反応を冷却等により途中で停止させ、適当な重合度に制御することができる。この場合、末端はイソシアネートとなる。更に、適当な重合度に制御するには、モノイソシアネート等の脂肪族系ポリカルボジイミド化合物の末端イソシアネートと反応する化合物を用いて、残存する末端イソシアネートの全て又は一部を封止する方法もある。重合度を制御することにより、ポリマーへの相溶性向上や保存安定性を高めたりすることができ、品質向上の点で好ましい。
【0075】
このようなポリカルボジイミド化合物の末端を封止して重合度を制御するモノイソシアネートとしては、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ジメチルフェニルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、ブチルイソシアネート等を例示することができる。
【0076】
本発明に用いる好ましいポリカルボジイミド化合物は、数平均分子量が1000〜30000、好ましくは2000〜20000、更に好ましくは3000〜15000のものである。数平均分子量が小さすぎると耐熱性に劣る虞があり、大きすぎると樹脂への分散不良や耐加水分解性向上効果が十分得られない虞がある。
【0077】
また、耐加水分解性や耐熱性の高い要求から、分子鎖骨格に芳香族成分を含む芳香族ポリカルボジイミドが特に好ましく用いられ、例えば、p−フェニレン−ビス−o−トリイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−p−クロルフェニルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミドなどの芳香族ジカルボジイミド化合物、ポリ(4,4’−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)などの芳香族ポリカルボジイミド化合物などが挙げられる。
(各成分の割合)
本発明の樹脂組成物において、熱可塑性ポリエステルエラストマー(B)の割合は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、例えば、25〜150重量部、好ましくは50〜140重量部、さらに好ましくは80〜130重量部程度であってもよい。(B)成分の割合が少なすぎると、柔軟性に乏しく、屈曲によって亀裂が生じやすくなる虞があり、多すぎると、耐熱性や耐加水分解性、耐燃焼性の低下が顕著となり、ポリブチレンテレフタレートの効果が十分得られない虞がある。
【0078】
ホスフィン酸類(C)の割合は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、例えば、5〜40重量部、好ましくは10〜35重量部、さらに好ましくは10〜30重量部程度であってもよい。(C)成分の割合が少なすぎると、難燃性改善効果が不十分となる虞があり、多すぎると、柔軟性や耐加水分解性の低下が顕著となり、ポリブチレンテレフタレートの効果が十分得られない虞がある。
【0079】
エポキシ化合物(D)の割合は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、例えば、0.5〜20重量部、好ましくは0.5〜15重量部、さらに好ましくは0.8〜12重量部程度であってもよい。さらに、エポキシ樹脂(d−1)は0.8〜5重量部、グリシジル基を有するビニル系共重合体(d−2)は3〜12重量部であることが好ましい。前記割合が、少なすぎると加工のために必要な樹脂の溶融張力が不十分となる可能性があり、多すぎると樹脂の粘度が増加するなど、成形上の問題が生じる虞がある。
【0080】
酸化防止剤(E)の割合は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、例えば、0.1〜5重量部、好ましくは0.3〜4重量部、さらに好ましくは0.5〜3重量部程度であってもよい。前記割合が、少なすぎると十分な耐熱安定性、長期物性を得ることができず、多すぎると不経済であるのみならず、耐熱安定性の改良効果は飽和に達し、逆に成形性の低下、強度低下等が生じる虞がある。
【0081】
ポリカルボジイミド化合物(F)は、必要に応じてポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、5重量部まで配合される。ポリカルボジイミド化合物(F)が多すぎると不経済であるのみならず、プロセス時にガス発生量が増加し、外観を損ねる。
【0082】
本発明の代表的態様では、前記難燃性樹脂組成物において、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)が固有粘度0.8〜1.3dl/gを有しており、熱可塑性ポリエステルエラストマー(B)が硬質ポリブチレンテレフタレートブロック(b−1)と、ポリエーテル単位、及び脂肪族ポリエステル単位から選択された少なくとも一種の単位を有する軟質ポリエステルブロック(b−2)とのブロック共重合体であり、エポキシ化合物(D)が、(d−1)エポキシ当量250〜1200g/eqを有する芳香族エポキシ樹脂、及び(d−2)グリシジル基を有するビニル系単量体とα,β−不飽和結合を有する共重合性単量体との共重合体から選択された少なくとも一種である場合である。
【0083】
本発明の樹脂組成物には、慣用の添加剤、例えば、上記以外の安定剤(紫外線吸収剤、光安定剤など)、帯電防止剤、滑剤、離型剤、他の難燃剤、難燃助剤、結晶化核剤、着色剤(染料又は顔料など)、潤滑剤、可塑剤、充填剤、ドリッピング防止剤などを添加してもよい。
【0084】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の樹脂成分、例えば、アクリル系樹脂、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、スチレン系樹脂(ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂など)などの熱可塑性樹脂;エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などの軟質熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂(不飽和ポリエステルなど)、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂などを添加してもよい。これらの他の樹脂は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0085】
本発明の樹脂組成物は、粉粒体混合物や溶融混合物であってもよく、溶融混合物が固化した成形体(シート又はフィルム状組成物など)であってもよい。前記粉粒体混合物は、(A)PBT樹脂、(B)熱可塑性ポリエステルエラストマー、(C)ホスフィン酸類、(D)エポキシ化合物、(E)酸化防止剤、並びに必要により(F)ポリカルボジイミド化合物、添加剤及び/又は他の樹脂成分を慣用の方法で混合することにより調製できる。例えば、(1)各成分を混合して、一軸又は二軸の押出機により混練し押出してペレットを調製した後、成形する方法、(2)一旦、組成の異なるペレット(マスターバッチ)を調製し、そのペレットを所定量混合(希釈)して成形に供し、所定の組成の成形品を得る方法、(3)成形機に各成分の1又は2以上を直接仕込む方法などが採用できる。なお、成形品に用いられる組成物の調製において、樹脂成分(成分(A)、(B)又は(D)の他、前記他の樹脂など)の粉粒体と、他の成分とを混合して溶融混練すると、他の成分の分散を向上させるのに有利である。
【0086】
本発明の樹脂組成物を、溶融混練し、押出成形、射出成形、圧縮成形などの慣用の方法で成形することにより、成形体を得ることができる。前記樹脂組成物は、難燃性及び成形加工性に優れているため、種々の成形体の製造に利用できるとともに、種々の用途、例えば、電気・電子部品、機械機構部品、自動車部品、包装材料やケースなどに好適に用いることができる。
【0087】
特に、本発明の樹脂組成物は、耐燃焼性、耐熱性、耐加水分解性、柔軟性などの性質に優れるため、電線(銅線、白金線など)などを被覆するのに有用である。前記樹脂組成物は、特に、耐燃焼性、耐熱性などに加え、耐加水分解性及び柔軟性にも優れ、さらに、導体(電線)に対する適度な密着性を付与できるため、電線や光ファイバーケーブルなどの送電又は送信(送波)線を被覆する用途において(例えば、電線被覆用難燃性樹脂組成物などとして)有用である。
【0088】
電線を、前記樹脂組成物を用いて被覆することにより被覆電線を製造できる。被覆方法は特に制限されず、慣用の被覆方法、例えば、押出成形、プレス加工などにより被覆処理することができる。例えば、必要により、電線をシート又はフィルム状の樹脂組成物で挟んで、プレス加工することにより被覆電線を製造してもよい。
【0089】
また、本発明では、前記樹脂組成物で被覆した送電又は送信(送波)線(電線、光ファイバーケーブルなど)も開示する。
【実施例】
【0090】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1〜13及び比較例1〜8
表1及び2に示す各成分を表に示す割合でドライブレンドし、φ30mmのスクリューを有する二軸押出機を用いて、260℃で溶融混練したのちペレット化し、ペレット状の樹脂組成物を得た。樹脂ペレットは140℃で3時間乾燥した後、成形加工に用いた。
【0091】
得られたペレット状樹脂組成物を用いて厚さ1.0mmのASTM 4号タイプ引張試験片を作成した。
【0092】
また、得られたペレット状樹脂組成物を用いて、φ20mmのスクリューを有するプラストミル単軸押出機を用いて260℃で溶融混練し、φ0.9mmの銅線に0.2mmの被覆厚みで被覆を行い、被覆電線を作成した。
【0093】
特性評価の測定法は次の通りである。
<ASTM 4号タイプ引張試験片による評価>
[引張強さ及び引張破断伸び]
ASTM D−638に準拠して、引張強さ(MPa)及び引張破断伸び(%)を測定した。
[耐加水分解性(湿熱試験処理後の引張強さ及び引張破断伸び)]
121℃/2気圧のプレッシャークッカー試験機に48時間暴露した後、ASTM D−638に準拠して、引張強さ(MPa)及び引張破断伸び(%)を測定し、耐加水分解性を評価した。
[耐熱老化性]
125℃又は150℃の熱風オーブン中で所定時間加熱処理した後、ASTM D−638に準拠して、引張強さ(MPa)を測定した。耐熱老化性は、処理サンプルの引張強さが80%に低下するまでの時間(日数)で評価した。
【0094】
<被覆電線による評価>
[押出加工性]
0.9mm銅線に樹脂組成物を被覆(押出成形)するときの押出状況を目視にて下記の2段階で評価した。尚、得られた押出成形品ではブリードアウトは見られなかった。
O:樹脂組成物が均一に被覆されている
×:樹脂組成物の被覆状態が不均一であり、銅線がむき出しの箇所がある
[被覆電線表面性]
0.9mm銅線に樹脂組成物を被覆した電線表面を目視にて下記の2段階で評価した。
O:電線表面が平滑で凝集塊が観測されない
×:電線表面が十分平滑でなく一部表面に凝集塊が確認される箇所がある
[難燃性]
ISO6722−12項に準拠し、45度傾斜燃焼試験を行い、樹脂組成物の燃焼性を評価した。燃焼時間が短いほど難燃性に優れることを示す。
[エージング処理後の自己径巻き付け試験]
ISO6722−10.2項に準拠し、125℃のオーブンにて3000時間処理後、巻き付け試験を実施した。クラック等が認められないものを○、クラックの発生が認められたものを×とした。
[耐加水分解処理後の自己径巻き付け試験]
121℃/2気圧にて72時間処理後、巻き付け試験を実施した。クラック等が認められないものを○、クラックの発生が認められたものを×とした。
【0095】
実施例及び比較例の結果を表1及び2に示す。なお、実施例及び比較例において、下記の成分を用いた。
(A)PBT樹脂
(A−1)ポリブチレンテレフタレート(固有粘度IV=1.20dl/g、ウィンテックポリマー(株)製)
(B)熱可塑性ポリエステルエラストマー
(B−1)(株)東洋紡製、「ペルプレンGP300」
硬質ブロック;ポリブチレンテレフタレート、軟質ブロック;ポリエーテル型軟質ポリエステル
(B−2)帝人化成(株)製、「ヌーベランP4110AN」
硬質ブロック;ポリブチレンテレフタレート、軟質ブロック;ポリエステル型軟質ポリエステル
(C)ホスフィン酸類
(C−1)下記の方法により調製した1,2−ジエチルホスフィン酸アルミニウム塩
2106g(19.5モル)の1,2−ジエチルホスフィン酸を6.5リットルの水に溶解し、この溶液を激しく攪拌しながら507g(6.5モル)の水酸化アルミニウムを加え、得られた混合物を85℃に加熱した。混合物を80〜90℃で合計65時間攪拌し、次に60℃に冷却し、吸引濾過した。質量が一定となるまで120℃の真空乾燥キャビネット中で乾燥した後、300℃以下では溶融しない微粒子粉末2140gが得られた。収率は理論値の95%であった。得られた粒子粉末をジェットミルにて粉砕し、平均粒子径4μmの1,2−ジエチルホスフィン酸アルミニウム塩を調製した。
粒子径の測定はレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置((株)堀場製作所製、LA−920)を用い、分散媒として蒸留水を用いて測定し、得られたメジアン径を粒子径とした。
(C−2)下記の方法により調製した1,3−エタン−1,2−ビスメチルホスフィン酸カルシウム塩
325.5g(1.75モル)のエタン−1,2−ビスメチルホスフィン酸を500mlの水に溶解し、この溶液を激しく攪拌しながら129.5g(1.75モル)の水酸化カルシウムを数回に分割して1時間かけて添加した。次に、混合物を90〜95℃で数時間攪拌後、冷却し、吸引濾過した。質量が一定となるまで150℃の真空乾燥キャビネット中で乾燥したところ、335gの生成物が得られた。これは380℃以下では溶融しないものであった。収率は理論値の85%であった。得られた粒子粉末をジェットミルにて粉砕し、平均粒子径4μmの1,3−エタン−1,2−ビスメチルホスフィン酸カルシウム塩を調製した。
(C−3)1,2−ジエチルホスフィン酸アルミニウム塩の未粉砕物
(C−1)に記載の粉砕工程前の1,2−ジエチルホスフィン酸アルミニウム塩。平均粒子径は55μmであった。
(D)エポキシ化合物
(D−1)アトフィナジャパン(株)製、「ロタダ−AX8930」
エチレン/アクリル酸/グリシジルメタクリレートコポリマー
(D−2)住友化学(株)製、「ボンドファーストBF7M」
エチレン/グリシジルメタクリレート/アクリル酸メチルコポリマー
(D−3)油化シェルエポキシ(株)製、「エピコート1004」
エポキシ樹脂(エポキシ当量875〜975g/eq)
(E)酸化防止剤
(E−1)フェノール系酸化防止剤;チバスペシャリティケミカルズ(株)製、「イルガノックス1010」
(E−2)ホスファイト系酸化防止剤;アデカ(株)製、「アデカスタブPEP−24G」
(E−3)ホスフォナイト系酸化防止剤;クラリアント(株)製、「SANDSTAB P−EPQ」
(E−4)チオエーテル系酸化防止剤;アデカ(株)製、「アデカスタブAO412S」
(F)ポリカルボジイミド化合物
(F−1)脂肪族ポリカルボジイミド;日清紡(株)製、「カルボジライトHMV−8CA」
(F−2)芳香族ポリカルボジイミド;ラインケミージャパン(株)製、「スタバックゾールP」
【0096】
尚、比較例5、7においては、押出加工性が不十分であったため、被覆電線表面性、難燃性の評価を行っていない。比較例8においては、燃焼時間が180秒を超え、難燃性に劣る結果となった。
【0097】
【表1】

【0098】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、(B)熱可塑性ポリエステルエラストマー25〜150重量部、(C)平均粒子径が10μm以下のホスフィン酸塩、ジホスフィン酸塩、及びこれらの重合物から選択された少なくとも一種のホスフィン酸類5〜40重量部、(D)エポキシ化合物0.5〜20重量部、及び(E)酸化防止剤0.1〜5重量部とで構成される難燃性樹脂組成物であって、酸化防止剤(E)がフェノール系酸化防止剤(e−1)を必須成分とし、更にホスファイト系酸化防止剤(e−2)、ホスフォナイト系酸化防止剤(e−3)及びチオエーテル系酸化防止剤(e−4)から選択された少なくとも一種を含有する難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
更に(F)ポリカルボジイミド化合物を5重量部以下(対(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部)配合してなる請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
熱可塑性ポリエステルエラストマー(B)が、硬質ポリブチレンテレフタレートブロック(b−1)と、ポリエーテル単位、及び脂肪族ポリエステル単位から選択された少なくとも一種の単位を有する軟質ポリエステルブロック(b−2)とのブロック共重合体である請求項1又は2記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
ホスフィン酸類(C)において、ホスフィン酸塩が下記式(1)で表され、ジホスフィン酸塩が下記式(2)で表される請求項1〜3の何れか1項記載の難燃性樹脂組成物。
【化1】

(式中、R、R、R及びRは、それぞれ同一又は相異なって、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を示し、Rはアルキレン基、脂環族二価基又は芳香族二価基を示す。R及びRは互いに結合して隣接するリン原子とともに環を形成してもよい。Mm+は価数mの金属を示し、mは2〜4の整数である。Mn+は価数nの金属を示し、nは2〜4の整数である。)
【請求項5】
エポキシ化合物(D)が、(d−1)エポキシ当量250〜1200g/eqを有する芳香族エポキシ樹脂、及び(d−2)グリシジル基を有するビニル系単量体とα,β−不飽和結合を有する共重合性単量体との共重合体から選択された少なくとも一種である請求項1〜4の何れか1項記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
電線の表面が請求項1〜5の何れか1項記載の難燃性樹脂組成物で被覆されている被覆電線。

【公開番号】特開2009−215347(P2009−215347A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57526(P2008−57526)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(501183161)ウィンテックポリマー株式会社 (54)
【Fターム(参考)】