説明

電力増幅器

【課題】ドハティ増幅器を用いる場合に、小信号レベルと中信号レベルにおいて、ピーク増幅器の利得を高める構成を採用することで、ピークファクタの大きい変調波信号の信号振幅が存在するダイナミックレンジにおける効率低下を抑えることのできる電力増幅器を得ること。
【解決手段】ドハティ増幅器におけるピーク増幅器を、入力される高周波信号の信号レベルの中信号レベルから増幅動作を行う第1の増幅器と前記第1の増幅器が増幅動作を開始した後に増幅動作を行う第2の増幅器とのドハティ増幅器構成とし、高周波信号の信号レベルに応じて、ドハティ増幅器のキャリア増幅器及びドハティ増幅器構成ピーク増幅器の各増幅器への印加電圧を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ドハティ増幅器を用いた電力増幅器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信信号としてOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplex)など、包絡線の振幅変動の大きい変調波信号が採用されるようになっている。例えば、OFDM変調波信号では、平均電力と最大瞬時電力との比であるピークファクタが10dBと相当に大きい。そのような包絡線の振幅変動の大きい変調波信号(以降「OFDM変調波信号」と記す)を電力増幅する場合でも、一定包絡線の変調波信号の電力増幅と同様程度の高い線形性が求められている。
【0003】
A級やAB級にバイアスされた線形増幅器でピークファクタの大きいOFDM変調波信号を増幅すると、ドレイン効率は最大効率時に比べて大きく低下する。そのため、OFDM変調波信号を用いる通信システムでの電力増幅器には、飽和電力に対する出力バックオフ量を大きくとることのできるドハティ増幅器が適用されることが多くなってきた。
【0004】
ドハティ増幅器は、基本的には、並列に配置されるキャリア増幅器及びピーク増幅器、それら2個の増幅器に入力電力を分配する電力分配器、それら2個の増幅器の出力インピーダンスを調整して出力するインピーダンス変換器(電力合成器)で構成される。キャリア増幅器は、A級やAB級にバイアスされた線形増幅器であり、常時増幅動作を行う。一方、ピーク増幅器はC級にバイアスされた非線形増幅器であり、振幅レベルが大きいときに増幅動作を行う。
【0005】
このいわゆる2ステージの増幅器を有する従来の2−WAYドハティ増幅器では、飽和出力時に加えて、飽和出力から6dB低い平均電力出力時のときも最大動作効率を達成できる。つまり、従来のドハティ増幅器での平均電力効率の最大点は、出力バックオフ量が6dBのときにピーク電力時(飽和出力時)の効率最大点と同じレベルとなるので、バックオフをとった平均電力地点において高効率が得られる。
【0006】
ところが、OFDM変調波信号のピークファクタは、上記のように、10dB程度であるので、従来のドハティ増幅器での出力バックオフ量は4dBずれていて不十分である。そのため、OFDM変調波信号を増幅対象とする電力増幅器に適用するドハティ増幅器では、ドレイン効率を向上させるために、ドハティ増幅器のバックオフ量をさらに大きくとり、OFDM変調波信号のピークファクタと同程度の10dBとすることが望ましいと言える。
【0007】
ドハティ増幅器のバックオフ量を多くとる手法としては、キャリア増幅器とピーク増幅器とを複数用いるマルチステージドハティ増幅器がよく知られている(例えば、非特許文献1)。
【0008】
【特許文献1】特表2001−502493号公報
【非特許文献1】A Fully Matched N-WAY Doherty Amplifier With Optimized Linerity,YouNgoo Yang,IEEE Transactions On Microwave Theory And Techniques,Vol.51,No.3,March 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記したバックオフ量を多くとる手法を適用する従来のマルチステージドハティ増幅器では、ピーク増幅器は依然としてC級にバイアスされた増幅器であるので、ピーク増幅器が動作を開始する中信号レベル付近で大きな利得低下が起こり、所望の出力電力が得られないという問題がある。
【0010】
なお、上記の特許文献1では、入力信号レベルに基づいて個別に増幅器ネットワークを構成し、入力信号レベルに応じて個々の増幅器にバイアスを印加することで、効率を改善する技術が提案されている。また、上記の非特許文献1では、ピーク増幅器を単体増幅器の並列合成で構成する技術が提案されている。
【0011】
しかし、上記の特許文献1に提案される技術では、ピーク増幅器は、上記と同様に、C級にバイアスされた増幅器であるので、利得そのものは低いという問題がある。そして、利得を上げようとバイアスを浅くすると、ピーク増幅器が電流を消費してしまい、却って効率が低下し問題となる。さらに、多数の増幅器ネットワークが必要になるので、構成が複雑になることも問題である。
【0012】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであり、ドハティ増幅器を用いる場合に、小信号レベルから中信号レベルに切り替わる付近において、ピーク増幅器の利得を高める構成を採用することで、ピークファクタが大きい変調波信号の信号振幅が存在するダイナミックレンジにおける効率低下を抑えることのできる電力増幅器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した目的を達成するために、この発明にかかる電力増幅器は、高周波信号が並列に入力されるキャリア増幅器及びピーク増幅器を有するドハティ増幅器と、前記高周波信号の信号レベルに応じて前記キャリア増幅器及びピーク増幅器への印加電圧を制御する制御器とを備え、前記ピーク増幅器は、入力される前記高周波信号の信号レベルの中信号レベルから増幅動作を行う第1の増幅器と前記第1の増幅器が増幅動作を開始した後に増幅動作を行う第2の増幅器とのドハティ増幅器構成であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、ピーク増幅器をドハティ増幅器構成とするので、小信号レベルから中信号レベルに切り替わる付近において、ピーク増幅器の利得を高めることができ、ピークファクタが大きい変調波信号の信号振幅が存在するダイナミックレンジにおける効率低下を抑えることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に図面を参照して、この発明にかかる電力増幅器の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0016】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による電力増幅器の構成を示すブロック図である。図1において、この実施の形態1による電力増幅器10は、電力分配器である方向性結合器(CPL)101と、方向性結合器(CPL)101の分岐出力を受ける遅延器102及び検波器113と、遅延器102の出力を受けるいわゆるマルチステージのドハティ増幅器103と、検波器113の出力に基づきドハティ増幅器103が備えるキャリア増幅器104,109及びピーク増幅器111への制御電圧を制御するバイアス制御器112とで構成されている。
【0017】
ドハティ増幅器103は、遅延器102の出力を2分岐する電力分配器114と、電力分配器114の一方の分岐出力を受ける移相器116と、移相器116の出力を受ける上記のキャリア増幅器104と、キャリア増幅器104の出力を受けるインピーダンス変換器105と、電力分配器114の他方の分岐出力を受ける移相器106と、移相器106の出力を受けるピーク増幅器107と、ピーク増幅器107の出力を受ける調整用線路117と、インピーダンス変換器105と調整用線路117との出力を合成して信号出力ポート119へ送出する電力合成器119とを備えている。
【0018】
ピーク増幅器107は、移相器106の出力を2分岐する電力分配器115と、電力分配器115の一方の分岐出力を受ける上記のキャリア増幅器109と、キャリア増幅器109の出力を受けるインピーダンス変換器110と、電力分配器115の他方の分岐出力を受ける移相器108と、移相器108の出力を受ける上記のピーク増幅器111とで構成され、インピーダンス変換器110とピーク増幅器111との各出力が調整用線路117に入力される。つまり、ピーク増幅器107は、第1の増幅器であるキャリア増幅器109と第2の増幅であるピーク増幅器111とが並置されるドハティ増幅器構成になっている。
【0019】
次に、動作について説明する。信号入力ポート100から入力される高周波信号(以降「RF信号」と記す)は、方向性結合器101にて遅延器102と検波器113とに電力分配される。
【0020】
検波器113は、方向性結合器101から入力されたRF信号の振幅包絡線を抽出し、それを電圧信号に変換してバイアス制御器112に出力する。バイアス制御器112は、入力された電圧信号のレベルによって制御テーブル120からキャリア増幅器104と、ピーク増幅器107を構成するキャリア増幅器109及びピーク増幅器111とに対する制御電圧を取り出し、それをキャリア増幅器104の給電回路、キャリア増幅器109の給電回路及びピーク増幅器111の給電回路へそれぞれ出力する。
【0021】
遅延器102は、方向性結合器101から入力されたRF信号を、検波器113の処理時間及びバイアス制御器112が各増幅器の給電回路へ制御電圧を印加する処理時間の和に相当する遅延時間の経過後に電力分配器114に入力させる。
【0022】
ドハティ増幅器103では、電力分配器114が一方の分岐出力端から送出したRF信号が、移相器116にて所定の移相が行われた後、キャリア増幅器104にて電力増幅され、インピーダンス変換器105に入力される。また、電力分配器114が他方の分岐出力端から送出したRF信号が、移相器106にて所定の移相が行われた後、ピーク増幅器107の電力分配器115に入力される。
【0023】
ピーク増幅器107では、電力分配器115の一方の分岐出力端から出力されたRF信号が、キャリア増幅器109にて電力増幅され、インピーダンス変換器110を介して調整用線路117に出力される。また、電力分配器115の他方の分岐出力端から出力されたRF信号が、移相器108にて所定の移相が行われた後に、ピーク増幅器111にて電力増幅され、調整用線路117に出力される。以上のように電力増幅されたRF信号は、電力合成器118によってドハティ増幅器103の信号出力ポート119から外部へ出力される。
【0024】
(この実施の形態で実現する増幅特性)
図2は、この実施の形態で実現する出力バックオフ量に対するドレイン効率特性を説明する図である。図3は、従来のドハティ増幅器によって得られる出力バックオフ量に対するドレイン効率特性を説明する図である。
【0025】
図2において、横軸は出力バックオフ量であり、縦軸はドレイン効率[%]である。符号205は、飽和電力地点での効率極大点であり、符号203は、所望の出力バックオフ量をとった平均電力地点での効率極大点であり、両者のドレイン効率は同じ値である。そして、この実施の形態によるドハティ増幅器103では、以上の構成によって、平均電力地点での効率極大点203と飽和電力地点での効率極大点205との間を結ぶ下に湾曲した曲線で示す特性線201に沿って増幅動作を行うようになっている。
【0026】
この効率極大点203,205及び特性線201は、前記非特許文献1にて示されるマルチステージドハティ増幅器の出力バックオフ量に対するドレイン効率特性(理論値)として示されている。しかし、従来のマルチステージドハティ増幅器では、ピーク増幅器がC級にバイアスされた増幅器であるので、ピーク増幅器が動作を開始する中信号レベル付近で大きな利得低下が起こり、平均電力地点での効率極大点が効率極大点203から効率極大点204に低下する。そして、この低下した平均電力地点での効率極大点204と飽和電力地点での効率極大点205との間を結ぶ右肩上がり特性線202に沿って増幅動作を行うので、所望の出力電力が得られない。その理由とこの実施の形態1による改善策とを図3を参照して具体的に説明する。
【0027】
図3において、横軸は入力電力であり、縦軸は利得である。図3(1)は、キャリア増幅器とピーク増幅器の各増幅器の入力電力と利得との関係特性を示す。図3(1)では、キャリア増幅器の利得特性301と、ピーク増幅器の利得特性302,303とが示されている。利得特性302は改善前の特性であり、利得特性303は改善後の特性である。図3(2)は、ドハティ増幅器としての入力電力と利得との関係特性を示す。図3(2)では、実線で示す利得特性312は改善前の特性であり、破線で示す利得特性311は改善後の特性である。
【0028】
図3において、入力電力に対するキャリア増幅器の利得特性が特性301であり、ピーク増幅器の利得特性が特性302であるとすると、ピーク増幅器が動作し始める中信号レベルから大信号レベルにかけて大きな利得低下(特性312)が見られるので、ドハティ増幅器としての利得特性は、実線で示すように、大きな利得低下(特性312)が見られる領域313を含む特性となる。この実線で示す利得特性では、利得低下(特性312)が見られる領域313において、入力電力に対してドハティ増幅器の利得が十分に得られないため、所望の出力電力が得られないので、図2に示す特性線202のように効率が低下する問題が生じる。
【0029】
そこで、この実施の形態では、ピーク増幅器107をドハティ増幅器構成とするとともに、各増幅器(109,111)への印加電圧を入力レベルに応じて制御できるように構成する。これによって、ピーク増幅器の小→中信号領域における利得を特性302から持ち上げて特性303のように改善し、ドハティ増幅器103の利得特性として利得低下の極めて少ない特性311が得られるようにしている。すなわち図2に示す平均電力効率極大点204を持ち上げて平均電力効率極大点203に改善できるようにしている。以下、図4、図5を参照して具体的に説明する。
【0030】
なお、以下では、理解を容易にするため、図2、図3に示した「小→中信号領域における利得特性の改善」に焦点を当てて説明する。つまり、ピーク増幅器107の動作を中心に説明し、キャリア増幅器104への言及は少ないが、この発明による電力増幅器では、この特性改善をベースにして、実際の運用に応じて、キャリア増幅器104を含めた各種の特性改善が実現できるものである。
【0031】
(小→中信号領域における利得特性の改善動作)
図4は、図1に示すバイアス制御器112が備える制御テーブル120の一例を説明する図である。図5は、図1に示すドハティ増幅器の信号入力レベルに応じた動作を説明する等価回路図である。
【0032】
図4に示すように、制御テーブル120には、ドハティ増幅器103の動作領域を、小信号領域401と中信号領域402と大信号領域403とに分けて、それぞれの動作領域でのピーク増幅器107における電圧制御プロファイル411,412が、検波器113が抽出したRF信号の振幅包絡線から得られる小・中・大の各入力信号レベルに基づき設定されている。
【0033】
電圧制御プロファイル411は、キャリア増幅器109に対するプロファイルであり、電圧制御プロファイル412は、ピーク増幅器111に対するプロファイルである。図4ではキャリア増幅器104に対する電圧制御プロファイルは省略してある。また、ここでは、ゲート電圧を制御する場合を示す。
【0034】
小信号領域401では、キャリア増幅器109の制御電圧Vgpcとピーク増幅器111の制御電圧Vgppは、共にピンチオフ電圧以下であるが、キャリア増幅器109の制御電圧Vgpcは、ピーク増幅器111の制御電圧Vgppよりも高く、Vgpc>Vgppと設定してある。
【0035】
中信号領域402では、キャリア増幅器109の制御電圧Vgpcとピーク増幅器111の制御電圧Vgppとは、小信号領域401と同様の大小関係を維持して、包絡線電圧に比例して増加する。この場合、キャリア増幅器109の制御電圧Vgpcは、比較的早い立ち上がりで上昇し、中信号領域402の中間付近で早々と飽和出力を得るAB級バイアスの最大値に到達するプロファイルになっている。一方、ピーク増幅器111の制御電圧Vgppは、比較的緩やかに上昇し、中信号領域402の幅一杯を使って飽和出力を得るAB級バイアスの最大値に到達するプロファイルになっている。
【0036】
大信号領域403では、ピーク増幅器107としての飽和出力が大きくなるように、キャリア増幅器109の制御電圧Vgpcとピーク増幅器111の制御電圧Vgppとは、共に、AB級程度にバイアスした状態を維持するプロファイルになっている。
【0037】
この制御テーブル120を用いた制御によって実現されるドハティ増幅器103の入力信号レベル毎の動作は、図5に示すようになる。
【0038】
図5(1)は、入力信号が小信号レベルの場合でのドハティ増幅器103の信号経路を示す。入力信号が小信号レベルの場合には、ドハティ増幅器構成のピーク増幅器107でのキャリア増幅器109及びピーク増幅器111は、共にバイアス制御器112によりC級バイアスとなっており、動作しない。
【0039】
したがって、入力信号が小信号レベルの場合でのドハティ増幅器103の信号経路は、図5(1)に示すように、移相器116、キャリア増幅器104、インピーダンス変換器105の経路となり、キャリア増幅器401のみが動作する。このため、キャリア増幅器104が見込むインピーダンス変換器105は高負荷となり、キャリア増幅器104の利得が高くなることで、高効率動作を行うことができる。
【0040】
図5(2)は、入力信号が中信号レベルになった時点付近でのドハティ増幅器103の信号経路を示す。入力信号が中信号レベルの場合には、バイアス制御器112が備える制御テーブル120では、図4での中信号領域402に示すように、キャリア増幅器109の制御電圧Vgpcは、ピーク増幅器111の制御電圧Vgppよりも高く設定されているので、ドハティ増幅器構成のピーク増幅器107では、まず、キャリア増幅器109が比較的に早い立ち上がりで信号を出力し始める。
【0041】
入力信号が中信号レベルである場合は、バイアス制御器112は、図4に示した制御テーブル120に従い、入力信号レベルに応じて、キャリア増幅器109及びピーク増幅器111の給電回路への印加電圧を高くする制御を行うので、ピーク増幅器111は、キャリア増幅器109の動作後に、緩やかな立ち上がりで信号を出力し始める経過をとる。
【0042】
したがって、入力信号が中信号レベルになった時点付近でのドハティ増幅器103の信号経路は、ピーク増幅器111は動作しないので、図5(2)に示すように、図5(1)に示す経路と並列に、移相器106、キャリア増幅器109、インピーダンス変換器110の経路が加わった2経路となり、キャリア増幅器104に加えてキャリア増幅器109が動作を開始する。この状況では、キャリア増幅器109の出力負荷は大きくなるので、利得が高くなり、キャリア増幅器109は高効率動作を行うことができる。
【0043】
図5(3)は、入力信号が大信号レベルの場合でのドハティ増幅器103の信号経路を示す。ドハティ増幅器103の信号経路は、図5(2)に示すキャリア増幅器109の経路に並列に、移相器108、ピーク増幅器111の経路が加わった3経路となる。キャリア増幅器109及びピーク増幅器111は,バイアス制御器112によって完全にAB級バイアスに制御される。よって、飽和電力時には最大出力を得ることができる。
【0044】
ここで、ドハティ増幅器103では、キャリア増幅器104の飽和出力電力Pcmaxとピーク増幅器107の飽和出力電力Ppmaxとの比F(F=20×log(Pcmax/(Pcmax+Ppmax))と、適用される変調波信号のピークファクタ[dB]とが同程度になるようにすることで、ドハティ増幅器103のバックオフをとった平均電力地点の効率極大点と変調波のピークファクタとを同程度(OFDM変調波で言えば10dB)とすることができる。
【0045】
上記の説明では、キャリア増幅器104を含めて増幅器のドレイン電圧を一定にしてゲート電圧を制御しているが、出力バックオフ量の設定においては、キャリア増幅器104では、ドレイン電圧を下げることにより、飽和出力電力を下げて最大効率となる出力電力を下げる方法を適用してもよい。
【0046】
つまり、キャリア増幅器104のドレイン電圧Vdcを下げて、ピーク増幅器107を構成するキャリア増幅器109のドレイン電圧Vdpc及びピーク増幅器111のドレイン電圧Vdppとアンバランスにするのである。但し、Vdc<Vdpc=Vdppである。
【0047】
また、ピーク増幅器107を構成するキャリア増幅器109のドレイン電圧Vdpc及びピーク増幅器111のドレイン電圧Vdppとの比を適切に設定することで、前述のとおり、ピーク増幅器107のバックオフをとった地点での平均電力効率極大点を調整することが可能となる。この結果、ドハティ増幅器103の平均電力効率極大点設定の自由度が大きくなるという利点がある。但し、Vdc≦Vdpc≦Vdppである。
【0048】
ここで、バイアス制御器112のキャリア増幅器104,109及びピーク増幅器111に対する制御態様としては、キャリア増幅器104,109及びピーク増幅器111の全てを制御する態様でもよく、一部の増幅器、つまり改善効果の大きい増幅器を選択して制御する態様でもよい。後者の制御態様を採る場合は、バイアス制御器112の構成、引いてはドハティ増幅器103の構成を簡素化することができる。
【0049】
また、バイアス制御器112のキャリア増幅器104,109及びピーク増幅器111への印加電圧を制御する態様としては、各増幅器のゲート電極給電回路への印加電圧を制御する態様でもよく、ドレイン電極給電回路への印加電圧を制御する態様でもよい。
【0050】
ゲート電圧制御を適用する場合には、各増幅器のバイアス級を変更できる効果が得られる。また,ドレイン電圧制御を行う場合は、増幅器の飽和出力電力を変更できることができ、飽和電力を出力する際の最大効率点を適切に設定することが可能となる効果が得られる。これらの措置によって、ドハティ増幅器103としての効率改善効果を得ることが可能となる。
【0051】
以上のように、この実施の形態1によれば、ドハティ増幅器103を構成するキャリア増幅器104、キャリア増幅器109及びピーク増幅器111への印加電圧を入力信号レベルに応じて制御するようにしたので、動作レベルに応じた最適な制御電圧を印加できる効果が得られる。これによって、小信号レベルから中信号レベルに切り替わる付近において、ピーク増幅器の利得を高くすることができるので、ドハティ増幅器の消費電力を削減できる。また、ドハティ増幅器103のバックオフをとった平均電力地点の平均電力効率極大点において効率が改善できるので、この平均電力効率極大点から飽和出力地点での効率極大点までの効率改善効果が得られる。つまり、変調波の信号振幅が存在するダイナミックレンジにおける効率低下を抑えることができるようになる。
【0052】
実施の形態2.
図6は、この発明の実施の形態2による電力増幅器の構成を示すブロック図である。なお、図6では、図1(実施の形態1)に示した構成要素と同一ないしは同等である構成要素には同一の符号が付されている。ここでは、この実施の形態2に関わる部分を中心に説明する。
【0053】
図6に示すように、この実施の形態2による電力増幅器20は、図1(実施の形態1)に示した構成において、ドハティ増幅器103に代えてドハティ増幅器601が設けられている。
【0054】
ドハティ増幅器601は、ピーク増幅器107と同様のドハティ増幅器構成のピーク増幅器の複数個(図6では、符号602,603の2つが示されている)を並列に配置した構成になっている。追加したドハティ増幅器構成のピーク増幅器602,603は、ドハティ増幅器構成のピーク増幅器107と同様に、入力端が移相器604,605を介して電力分配器114の他方の分岐出力端に接続されている。また、追加したドハティ増幅器構成のピーク増幅器602,603は、ドハティ増幅器構成のピーク増幅器107と同様に、出力端が調整用線路606,607を介して電力合成器118の他方の合成入力端に接続されている。
【0055】
そして、ドハティ増幅器601における本来のキャリア増幅器104と、複数のピーク増幅器107,602,603におけるキャリア増幅器及びピーク増幅器とに印加する制御電圧をそれぞれ制御するバイアス制御器608が設けられている。バイアス制御器608は、図4に示したような各増幅器に対する電圧制御プロファイルが設定された制御テーブル609を備えている。
【0056】
この実施の形態2によれば、ドハティ増幅器本来のキャリア増幅器に対し、ドハティ増幅器構成のピーク増幅器を複数設ける構成としたので、キャリア増幅器全体としての出力電力の和と、ピーク増幅器全体としての出力電力の和との比を変えることが可能となる。この結果、平均電力の最大効率点のバックオフ量を大きくすることができる効果と、バックオフ量を適切に設定できる効果とが得られる。
【0057】
なお、実施の形態2では、ドハティ増幅器本来のキャリア増幅器に対して、ドハティ増幅器構成のピーク増幅器を複数設ける構成を示したが、さらにドハティ増幅器本来のキャリア増幅器も、複数個を並列に配置する構成を採用してもよい。
【0058】
実施の形態3.
図7は、この発明の実施の形態3による電力増幅器の構成を示すブロック図である。なお、図7では、図1(実施の形態1)に示した構成要素と同一ないしは同等である構成要素には同一の符号が付されている。ここでは、この実施の形態3に関わる部分を中心に説明する。
【0059】
図7に示すこの実施の形態3による電力増幅器30は、図1(実施の形態1)に示した構成において、方向性結合器101と遅延器102に代えて、入力ポート100とドハティ増幅器103の入力端との間に、ADC701、歪み補償制御器702、DAC703及び低域フィルタ704がこの順に配置されている。
【0060】
そして、歪み補償制御器702とキャリア増幅器104,109及びピーク増幅器111の各給電回路との間に、検波器113とバイアス制御器112に代えて、包絡線振幅検出器705、制御信号生成器706、DAC707、低域フィルタ708及び制御ドライバ709がこの順に設けられている。
【0061】
この実施の形態3では、増幅器の3次(相互変調)歪補償機能を有する歪み補償制御器702をもつ印加電圧制御の例を示している。信号入力ポート100からのアナログ信号であるRF信号は、ADC701にてディジタル信号に変換される。歪み補償制御器702は、ADC701にて変換されたディジタル信号を用いて、ドハティ増幅器103の非線形歪を打ち消すための逆歪信号を生成し、それをADC701にて変換されたディジタル信号に付加してDAC703と包絡線振幅検出器705とに出力する。
【0062】
DAC703は、逆歪信号が付加されたディジタル信号をアナログ信号へ変換する。低域フィルタ704は、DAC703にて変換されたアナログ信号の中の主信号のみをろ波してドハティ増幅器103に出力する。
【0063】
また、包絡線振幅検出器705は,歪み補償制御器702からのディジタル信号から包絡線振幅を抽出し、制御信号生成器706に出力する。制御信号生成器706は、バイアス制御器112と同様に、制御テーブル710を備えている。制御テーブル710の内容は、例えば図4に示すようになっている。
【0064】
制御信号生成器706は、この制御テーブル710に従って、制御ディジタル信号を生成する。この制御ディジタル信号は、DAC707にて制御アナログ信号に変換され、低域フィルタ708にて主信号がろ波され、制御ドライバ709により、キャリア増幅器104、キャリア増幅器109及びピーク増幅器111の給電回路に印加される。
【0065】
要するに、この実施の形態3では、電力増幅器の入力系をディジタル信号処理系で構成し、実施の形態1,2に示した検波器113とバイアス制御器112とをディジタル回路で構成したのに相当する例が示されている。このようにすれば、複雑かつ精度の高い制御が可能となるので、実施の形態1,2よりも高い増幅器改善効果が得られる。
【0066】
なお、この実施の形態3においても実施の形態2と同様に、ドハティ増幅器構成のピーク増幅器107の複数個を並列に配置する構成も同様に採用することができ、さらに、キャリア増幅器104の複数個を並列に配置する構成も同様に採用することができる。
【0067】
実施の形態4.
図8は、この発明の実施の形態4による電力増幅器の構成を示すブロック図である。なお、図8では、図1(実施の形態1)に示した構成要素と同一ないしは同等である構成要素には同一の符号が付されている。ここでは、この実施の形態4に関わる部分を中心に説明する。
【0068】
図8に示すように、この実施の形態4による電力増幅器40では、図1(実施の形態1)に示した構成において、方向性結合器101、遅延器102、検波器113、及びバイアス制御器112を除いた構成である。すなわち、この実施の形態4による電力増幅器40は、ドハティ増幅器103のみで構成されている。
【0069】
このドハティ増幅器103のみで構成される電力増幅器40では、次のような動作が行われる。ドハティ増幅器構成のピーク増幅器107では、キャリア増幅器109がインピーダンス変換器110を見込むインピーダンスは,ドハティ増幅器103へのRF信号が小信号レベルの場合、ピーク増幅器111の出力電力が零であることから、原理上高負荷となっている。
【0070】
このことによって、キャリア増幅器109の利得が高くなり、高効率動作を行う。したがって、ピーク増幅器107としても高効率動作をすることになる。その結果、ドハティ増幅器103へのRF信号の信号レベルが、小信号レベルから中信号レベルへの切り替わり付近である場合において、ピーク増幅器107の消費電力が低減できるので、ドハティ増幅器103として高効率動作を行うことができる。
【0071】
なお、ドハティ増幅器103において、電力分配器114を不当分配器とすることで、キャリア増幅器104並びにピーク増幅器107への信号入力の電力比を最適化してもよい。これによって、キャリア増幅器104,109及びピーク増幅器111の動作点を最適化することができる。
【0072】
また、ドハティ増幅器構成のピーク増幅器107でのキャリア増幅器109とピーク増幅器111とのトランジスタサイズ(出力電力比)を、ピーク増幅器111の方が大きくなるように設定してもよい。これによって、ピーク増幅器107の動作点を最適化することができる。
【0073】
以上のように、実施の形態4によれば、バックオフをとった平均電力地点、つまり平均電力効率極大点において効率が改善されるので、この平均電力効率極大点から飽和出力電力地点までの効率改善効果が得られる。
【0074】
また、この実施の形態4での構成は、印加電圧制御を行わない分、図1に示す方向性結合器101、遅延器102、検波器113、バイアス制御器112を除くことができるため、実施の形態1よりも装置を簡素化できる効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
以上のように、この発明にかかる電力増幅器は、変調波の信号振幅が存在するダイナミックレンジにおける効率低下を抑えることのできる電力増幅器として有用であり、特に、包絡線の振幅変動の大きい変調波信号を線形性良く増幅する電力増幅器に適している。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】この発明の実施の形態1による電力増幅器の構成を示すブロック図である。
【図2】この実施の形態で実現する出力バックオフ量に対するドレイン効率特性を説明する図である。
【図3】従来のドハティ増幅器によって得られる出力バックオフ量に対するドレイン効率特性を説明する図である。
【図4】図1に示すバイアス制御器が備える制御テーブルの一例を説明する図である。
【図5】図1に示すドハティ増幅器の信号入力レベルに応じた動作を説明する等価回路図である。
【図6】この発明の実施の形態2による電力増幅器の構成を示すブロック図である。
【図7】この発明の実施の形態3による電力増幅器の構成を示すブロック図である。
【図8】この発明の実施の形態4による電力増幅器の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0077】
10,20,30,40 電力増幅器
100 信号入力ポート
101 方向性結合器
102 遅延器
103 ドハティ増幅器
104 キャリア増幅器
105 インピーダンス変換器
106 移相器
107 ピーク増幅器
108 移相器
109 キャリア増幅器(第1の増幅器)
110 インピーダンス変換器
111 ピーク増幅器(第2の増幅器)
112 バイアス制御器(制御器)
113 検波器
114,115 電力分配器
116 移相器
117 調整用線路
118 電力合成器
119 信号出力ポート
120,609,710 制御テーブル
201,202 出力バックオフ量に対するドレイン効率特性
203,204 バックオフをとった平均電力地点での効率極大点
205 飽和電力地点での効率極大点
301 キャリア増幅器の利得特性
302,303 ピーク増幅器の利得特性
311 ドハティ増幅器としての利得特性
312 利得低下点
313 利得低下領域
401 小信号領域
402 中信号領域
403 大信号領域
411 ピーク増幅器におけるキャリア増幅器の制御電圧プロファイル
412 ピーク増幅器におけるピーク増幅器の制御電圧プロファイル
601 ドハティ増幅器
602,603 ピーク増幅器
604,605 移相器
606,607 調整用線路
608 バイアス制御器(制御器)
701 AD変換器
702 歪み補償制御器
703 DA変換器
704 低域フィルタ
705 包絡線振幅検出器
706 制御信号生成器
707 DA変換器
708 低域フィルタ
709 制御ドライバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波信号が並列に入力されるキャリア増幅器及びピーク増幅器を有するドハティ増幅器と、
前記高周波信号の信号レベルに応じて前記キャリア増幅器及びピーク増幅器への印加電圧を制御する制御器と、を備え、
前記ピーク増幅器は、入力される前記高周波信号の信号レベルの中信号レベルから増幅動作を行う第1の増幅器と前記第1の増幅器が増幅動作を開始した後に増幅動作を行う第2の増幅器とのドハティ増幅器構成である、
ことを特徴とする電力増幅器。
【請求項2】
高周波信号が並列に入力されるキャリア増幅器及びピーク増幅器を有するドハティ増幅器と、
前記高周波信号の信号レベルに応じて前記キャリア増幅器及びピーク増幅器への印加電圧を制御する制御器と、を備え、
前記ピーク増幅器は、入力される前記高周波信号の信号レベルの中信号レベルから増幅動作を行う第1の増幅器と前記第1の増幅器が増幅動作を開始した後に増幅動作を行う第2の増幅器とのドハティ増幅器構成の複数個を並列に配置した構成である、
ことを特徴とする電力増幅器。
【請求項3】
前記キャリア増幅器は、並列に配置した複数個のキャリア増幅器で構成されている、ことを特徴とする請求項2に記載の電力増幅器。
【請求項4】
前記高周波信号を検波して、その検波信号を前記信号レベルとして前記制御器に出力する検波器、を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の電力増幅器。
【請求項5】
前記高周波信号について歪み補償のディジタル処理を行った後、アナログ変換して前記ドハティ増幅器へ出力する際に、前記歪み補償の過程で得られる包絡線振幅に応じた前記信号レベルを前記制御器に出力するディジタル処理回路、を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の電力増幅器。
【請求項6】
前記制御器は、前記信号レベルに応じて前記キャリア増幅器と前記第1の増幅器と前記第2の増幅器との全部または一部に印加する電圧値を定めた制御テーブルを備えている、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の電力増幅器。
【請求項7】
前記制御器は、前記制御テーブルの内容に従って、前記キャリア増幅器と前記第1の増幅器と前記第2の増幅器のゲート電極またはドレイン電極への印加電圧を制御する、ことを特徴とする請求項6に記載の電力増幅器。
【請求項8】
高周波信号が並列に入力されるキャリア増幅器及びピーク増幅器を有するドハティ増幅器を備える電力増幅器において、
前記ピーク増幅器は、入力される前記高周波信号の信号レベルの中信号レベルから増幅動作を行う第1の増幅器と前記第1の増幅器が増幅動作を開始した後に増幅動作を行う第2の増幅器とのドハティ増幅器構成である、
ことを特徴とする電力増幅器。
【請求項9】
高周波信号が並列に入力されるキャリア増幅器及びピーク増幅器を有するドハティ増幅器を備える電力増幅器において、
前記ピーク増幅器は、入力される前記高周波信号の信号レベルの中信号レベルから増幅動作を行う第1の増幅器と前記第1の増幅器が増幅動作を開始した後に増幅動作を行う第2の増幅器とのドハティ増幅器構成の複数個を並列に配置した構成である、
ことを特徴とする電力増幅器。
【請求項10】
前記キャリア増幅器は、並列に配置した複数個のキャリア増幅器で構成されている、ことを特徴とする請求項9に記載の電力増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−260658(P2009−260658A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107211(P2008−107211)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】