説明

電力変換回路の保護制御装置

【課題】ハードウェアによる過電圧検出およびCPU演算処理の組み合わせによる電力変換回路の保護制御において、過電圧発生時の機器保護を十分に図る。
【解決手段】ECU60は、CPU61からの遮断指令信号SDWNと、論理回路101♯が発生する遮断指令信号とのそれぞれを、別個のゲート遮断指令信号CSDN1,CSDN2として出力する。CPU61からの遮断指令信号および論理回路101♯が発生する遮断指令信号の各々は、過電圧信号OVL,OVHと、CPU演算処理の組み合わせにより発生される。そして、ゲート遮断指令信号CSDN1,CSDN2は、別個の信号線110および111によって、IPM上のコンバータゲート駆動回路11へ伝達される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電力変換回路の保護制御装置に関し、より特定的には、過電圧発生に対する機器の保護制御に関する。
【背景技術】
【0002】
電力用半導体スイッチング素子(以下、単に「スイッチング素子」とも称する)を含んで構成された電力変換回路において、当該電力変換回路内に過電圧が発生した場合には、各スイッチング素子を強制的にターンオフすることによって、過電圧が電力変換回路の内部あるいは外部に伝達されることによる機器破壊が起こらないように保護制御を行なうことが一般的である。
【0003】
このような保護制御において、特開2007−236013号公報(特許文献1)では、ハイブリッド自動車に搭載された電動機駆動装置において、過電圧の発生時には、電圧測定値に基づき発生される過電圧信号OVLと、電子制御装置(ECU)からの遮断許可信号RGとの論理積に基づいて、インバータの遮断信号DWNを発生する構成が示されている。
【0004】
このように構成すると、通常時には、ECUにより遮断許可信号RGを論理ハイレベル(以下、単にHレベルとも表記)とすることによって、過電圧発生時には過電圧信号OVLに応答して、直ちにインバータの各スイッチング素子を強制的にオフして、ゲート遮断状態とすることができる。さらに、一旦ゲート遮断状態として安全を確保した後、ハイブリッド自動車による退避走行が可能な条件が整っていると判断されると、ECU(CPU:Central Processing Unit)での演算処理により遮断許可信号RGを論理ローレベル(以下、単にLレベルとも表記)に変化させることにより、インバータを再び動作可能として、モータジェネレータの出力による退避走行を行なうことができる。
【0005】
また、特開2005−261127号公報(特許文献2)には、電動車両の異常判定装置として、電動機械と、指令値を受けて駆動信号を発生させる駆動信号発生処理部と、駆動信号を受けるとともに電流を発生させて電動機械に供給するインバータと、駆動信号発生処理部とインバータとの間を接続する駆動用ラインとを備えて構成において、駆動用ラインから分岐され、電源と接続された判定用ラインの信号に基づいて駆動用ラインに異常が発生したかどうかを判断することが記載されている。このようにすると、駆動信号発生処理部からの駆動信号をインバータに送る必要がないので、電動機械が駆動されて回転が出力されることなく、駆動用ラインに異常が発生したかどうかを判断することができる。
【特許文献1】特開2007−236013号公報
【特許文献2】特開2005−261127号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2の駆動ラインのような機器と制御装置との間を接続するラインに断線等の異常が発生すると、特許文献1の構成において、インバータに対してゲート遮断の指令信号(DWN)が入力できなくなるため、機器保護上問題のある状態となる。
【0007】
すなわち、特許文献1に記載された電動機駆動装置の構成では、単一の遮断許可信号DWNがインバータへ入力される構成とされているため、ゲート遮断後にECUからの出力に応答してインバータを再び動作させることによって退避走行を可能とする柔軟な保護制御が実現される一方で、遮断許可信号DWNの伝達ラインに断線が発生すると、ゲート遮断指令がインバータに入力不能となるため、機器保護に問題を生じる可能性がある。
【0008】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、この発明の目的は、ハードウェアによる過電圧検出およびCPU演算処理の組み合わせによる電力変換回路の保護制御において、過電圧発生時の機器保護を十分に図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明による電力変換回路の保護制御装置は、電源配線に接続された電力用半導体スイッチング素子を含んで構成された電力変換回路の保護制御装置であって、過電圧検出回路と、演算装置と、論理回路と、第1の信号線と、第2の信号線とを備える。過電圧検出回路は、電源配線の過電圧検出時に過電圧信号を発生する。演算装置は、過電圧検出回路からの過電圧信号に基づく所定の演算処理によって、電力用半導体スイッチング素子の強制的な遮断指令信号を発生する。論理回路は、演算装置からの出力信号と過電圧検出回路からの出力信号とに基づいて、過電圧信号が発生されたときに、電力用半導体スイッチング素子の強制的な遮断指令信号を発生する。第1の信号線は、演算装置により発生された遮断指令信号を電力変換回路へ伝達する。第2の信号線は、第1の信号線とは別個に設けられ、論理回路により発生された遮断指令信号を電力変換回路へ伝達する。
【0010】
上記電力変換回路の保護制御装置によれば、ハードウェアによる過電圧検出およびCPU演算処理の組み合わせによって発生される遮断指令信号を、演算装置および論理回路のそれぞれで発生させ、かつ、別個の信号線によって電力変換回路へ伝達する二重系を構成することができる。この結果、一方の信号線に断線等の異常が発生しても、遮断指令信号を電力変換回路に確実に伝達できるので、過電圧発生時の機器保護を十分に図ることができる。
【0011】
好ましくは、電力変換回路は、2本の電源配線間に接続されて、両電源配線間での電力変換を実行するように構成され、論理回路は、第1から第3の論理演算器を含む。そして、第1の論理演算器は、演算装置からの出力信号と、過電圧検出回路が2本の電源配線のうちの第1の電源配線の過電圧検出時に発生する過電圧信号とを入力とするように構成される。第2の論理演算器は、演算装置からの出力信号と、過電圧検出回路が2本の電源配線のうちの第2の電源配線の過電圧検出時に発生する過電圧信号とを入力とするように構成される。第3の論理演算器は、第1および第2の論理演算器の出力信号を入力として、遮断指令信号を出力するように構成される。
【0012】
さらに好ましくは、電力変換回路は、交流回転電機によって車両駆動力の少なくとも一部を発生するように構成された電動車両に搭載される。そして、電力変換回路は、第1の電源配線と接続された蓄電装置と、第2の電源配線と接続されたインバータとの間で直流電圧変換を行なうコンバータにより構成され、交流回転電機は、インバータによって変換された交流電力の供給を受けて駆動される。
【0013】
好ましくは、演算装置は、過電圧信号が発生されていても、過電圧検出回路による誤検出であると判断される場合には、演算装置からの遮断指令信号を非発生とし、かつ、論理回路において遮断指令信号が非発生とされるように出力信号を設定するように構成される。
【0014】
また好ましくは、演算装置から論理回路への出力信号は、過電圧信号の発生前には、過電圧信号の発生に応答して論理回路が遮断指令信号を発生するように設定される一方で、過電圧信号の発生後には、過電圧検出回路による誤検出であると判断される場合には、過電圧信号にかかわらず論理回路が遮断指令信号を非発生とするように設定される。
【0015】
このようにすると、過電圧信号発生時には電力変換回路(コンバータ)を速やかにゲート遮断して安全性を確保する一方で、過電圧信号が誤検出により発生されたものと判断できる場合には、制御装置でのCPU演算処理によって遮断指令信号を非発生として、電力変換回路の動作を再開できる。これにより、電動車両では、交流回転電機による車両駆動力を用いた退避走行が可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電力変換回路の保護制御装置によれば、ハードウェアによる過電圧検出およびCPU演算処理の組み合わせによる電力変換回路の保護制御において、過電圧発生時の機器保護を十分に図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下において、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は原則として繰返さないものとする。
【0018】
図1は、この発明の実施の形態による電力変換回路の保護制御装置が搭載された電動車両の一例として示されるハイブリッド自動車の概略ブロック図である。
【0019】
図1を参照して、このハイブリッド自動車100は、車輪2と、動力分割機構3と、エンジン4と、モータジェネレータMG1,MG2と、電子制御装置(Electronic Control Unit;以下「ECU」とも称する。)60とを備える。
【0020】
ECU60は、CPU61、ROM(Read Only Memory)62およびRAM(Random Access Memory)を含む。CPU61は、各センサから送信された信号や情報、ROM62に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて演算処理を行ない、ハイブリッド自動車100が所望の運転状態となるように、機器類を制御する。あるいは、ECU60の少なくとも一部は、電子回路等のハードウェアにより所定の数値・論理演算処理を実行するように構成されてもよい。以下の説明で明らかになるように、ECU60の一部機能として、本発明による電力変換回路の保護制御装置が実現される。
【0021】
また、ハイブリッド自動車100は、蓄電装置Bと、システムメインリレー(System Main Relay;以下「SMR」とも称する。)5と、コンバータ10と、インバータ20,30と、コンデンサC1,C2と、電源ラインPL1,PL2と、接地ラインSLと、電圧センサ75,77と、電流センサ76,78とをさらに備える。
【0022】
動力分割機構3は、エンジン4とモータジェネレータMG1,MG2とに結合されてこれらの間で動力を分配する。たとえば、動力分割機構3としては、サンギヤ、プラネタリキャリヤおよびリングギヤの3つの回転軸を有する遊星歯車機構を用いることができる。この3つの回転軸がエンジン4およびモータジェネレータMG1,MG2の各回転軸にそれぞれ接続される。たとえば、モータジェネレータMG1のロータを中空としてその中心にエンジン4のクランク軸を通すことで動力分割機構3にエンジン4とモータジェネレータMG1,MG2とを機械的に接続することができる。
【0023】
なお、モータジェネレータMG2の回転軸は、図示されない減速ギヤや作動ギヤによって車輪2に結合されている。また、動力分割機構3の内部にモータジェネレータMG2の回転軸に対する減速機をさらに組込んでもよい。
【0024】
そして、モータジェネレータMG1は、エンジン4によって駆動される発電機として動作し、かつ、エンジン4の始動を行ない得る電動機として動作するものとしてハイブリッド自動車100に組込まれ、モータジェネレータMG2は、駆動輪である車輪2を駆動する電動機としてハイブリッド自動車100に組込まれる。
【0025】
蓄電装置Bは、充放電可能な直流電源であり、たとえば、ニッケル水素やリチウムイオン等の二次電池からなる。蓄電装置Bは、SMR5を介して電源ラインPL1へ直流電力を供給する。また、蓄電装置Bは、コンバータ10から電源ラインPL1へ出力される直流電力を受けて充電される。なお、蓄電装置Bとして、大容量のキャパシタを用いてもよい。
【0026】
SMR5は、リレーRY1,RY2を含む。リレーRY1は、蓄電装置Bの正極と電源ラインPL1との間に接続される。リレーRY2は、蓄電装置Bの負極と接地ラインSLとの間に接続される。リレーRY1,RY2は、ECU60からの信号SEが活性化されると、蓄電装置Bを電源ラインPL1および接地ラインSLと接続する。
【0027】
コンデンサC1は、電源ラインPL1と接地ラインSLとの間の電圧変動を平滑化する。電圧センサ75は、コンデンサC1の両端の電圧VLを検出し、その検出した電圧VLをECU60へ出力する。
【0028】
電源ラインPL1および接地ラインSLの間には、電源ラインPL1の電圧を、補機8の駆動用電源電圧に電圧変換するためのDCDCコンバータ6が接続される。
【0029】
コンバータ10は、電力用半導体スイッチング素子(スイッチング素子)Q1,Q2と、ダイオードD1,D2と、リアクトルLとを含む。スイッチング素子Q1,Q2は、電源ラインPL2と接地ラインSLとの間に直列に接続される。ダイオードD1,D2は、それぞれスイッチング素子Q1,Q2に逆並列に接続される。リアクトルLは、電源ラインPL1とスイッチング素子Q1,Q2の接続点との間に接続される。
【0030】
コンバータ10は、ECU60からの信号PWCに基づいて、電源ラインPL1の電圧を昇圧して電源ラインPL2へ出力する。具体的には、コンバータ10は、スイッチング素子Q2のオン時に流れる電流をリアクトルLに磁場エネルギーとして蓄積し、スイッチング素子Q2のオフ時にダイオードD1を介して蓄積エネルギーを電源ラインPL2へ放出することによって電源ラインPL1の電圧を昇圧する。
【0031】
なお、スイッチング素子Q2のオンデューティーを大きくすることによりリアクトルLにおける電力蓄積が大きくなるため、より高電圧の出力を得ることができる。一方、スイッチング素子Q1のオンデューティーを大きくすることにより電源ラインPL2の電圧が下がる。そこで、スイッチング素子Q1,Q2のデューティー比を制御することで、電源ラインPL2の電圧を電源ラインPL1の電圧以上の任意の電圧に制御することができる。
【0032】
この発明の実施の形態において、電力用半導体スイッチング素子(スイッチング素子)としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、電力用MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタあるいは、電力用バイポーラトランジスタ等を用いることができる。スイッチング素子Q1,Q2に対しては、逆並列ダイオードD1,D2が配置されている。また、コンバータ10により、本実施の形態において保護制御の対象となる「電力変換回路」が構成される。
【0033】
コンデンサC2は、電源ラインPL2と接地ラインSLとの間の電圧変動を平滑化する。電圧センサ77は、コンデンサC2の両端の電圧VHを検出し、その検出した電圧VHをECU60へ出力する。
【0034】
インバータ20,30は、それぞれモータジェネレータMG1,MG2に対応して設けられる。インバータ20は、ECU60からの信号PWM1に基づいてモータジェネレータMG1を力行モードまたは回生モードで駆動する。同様に、インバータ30は、ECU60からの信号PWM2に基づいてモータジェネレータMG2を力行モードまたは回生モードで駆動する。
【0035】
電流センサ76は、モータジェネレータMG1に流れるモータ電流MCRT1を検出し、その検出したモータ電流MCRT1をECU60へ出力する。電流センサ78は、モータジェネレータMG2に流れるモータ電流MCRT2を検出し、その検出したモータ電流MCRT2をECU60へ出力する。
【0036】
ECU60は、電圧センサ75,77からそれぞれ電圧VL,VHを受け、電流センサ76,78からそれぞれモータ電流MCRT1,MCRT2を受ける。また、ECU60は、図示されない外部ECUからトルク指令値TR1,TR2およびモータ回転数MRN1,MRN2を受ける。
【0037】
そして、ECU60は、これらの信号に基づいて、コンバータ10およびモータジェネレータMG1,MG2をそれぞれ駆動するための信号PWC,PWM1,PWM2を生成し、その生成した信号PWC,PWM1,PWM2をそれぞれコンバータ10およびインバータ20,30へ出力する。また、ECU60は、車両システムが起動されると、SMR5をオンするように信号SEを発生させる一方で、車両システムが遮断されると、信号SEを非発生とする。
【0038】
図1から理解されるように、電源ラインPL2(VH)に過電圧が発生した場合には、スイッチング素子Q1を確実にオフしなければ、電源ラインPL1に電源ラインPL2の過電圧が伝達されて、DCDCコンバータ6等に機器故障が発生してしまう可能性がある。また、電源ラインPL1(VL)に過電圧が発生した場合にも、過電流の発生を防止するためにスイッチング素子Q2を確実にオフする必要がある。また、過電圧が電源ラインPL1に伝達されないようにするために、スイッチング素子Q1についてもオフする必要がある。
【0039】
このように、電源ラインPL1(VL)および/または電源ラインPL2(VH)に過電圧が発生した場合には、コンバータ10に強制的な遮断指令を与えて、各スイッチング素子Q1,Q2を速やかに強制的にターンオフするゲート遮断状態とする必要がある。
【0040】
過電圧発生時には、インバータ20,30についてもゲート遮断状態とされる。そして、ゲート遮断状態中は、コンデンサC2と並列に接続された放電抵抗(図示せず)による電力消費や、補機8による電力消費によって、電源ラインPL2およびPL1の電圧が低下する。
【0041】
そして、過電圧が発生した電源ラインの電圧が低下した後には、退避走行可能な状況であることが確認されれば、コンバータ10においてスイッチング素子Q1のみを常時オンすることにより、蓄電装置Bからの直流電圧をインバータ20および/または30により交流電圧に変換することによってモータジェネレータMG1および/またはMG2を駆動制御して、退避走行のための車両駆動力を発生することが可能となる。
【0042】
このため、機器保護の観点からは過電圧発生に応答して速やかにゲート遮断指令を発生する一方で、過電圧検出回路の故障等による過電圧の誤検出であることが判明した場合には、一旦設定したゲート遮断状態を解除できるような柔軟な制御構成とすることが好ましい。
【0043】
図2は、図1に示したECU60の機能ブロック図である。図2を参照して、ECU60は、コンバータ制御部71と、第1および第2のインバータ制御部72,73と、ゲート遮断制御部74とを含む。
【0044】
コンバータ制御部71は、トルク指令値TR1,TR2およびモータ回転数MRN1,MRN2に基づいて電源ラインPL2の電圧指令を演算し、電圧VL,VHに基づいてフィードバック電圧指令を演算する。そして、コンバータ制御部71は、フィードバック電圧指令に基づいてスイッチング素子Q1,Q2のデューティー比を演算し、スイッチング素子Q1,Q2をオン/オフするためのPWM(Pulse Width Modulation)信号を生成して信号PWCとしてコンバータ10へ出力する。
【0045】
第1のインバータ制御部72は、トルク指令値TR1、電圧VHおよびモータ電流MCRT1に基づいて、インバータ20を駆動するためのPWM信号を生成し、その生成したPWM信号を信号PWM1としてインバータ20へ出力する。同様に、第2のインバータ制御部73は、トルク指令値TR2、電圧VHおよびモータ電流MCRT2に基づいて、インバータ30を駆動するためのPWM信号を生成し、その生成したPWM信号を信号PWM2としてインバータ30へ出力する。
【0046】
ゲート遮断制御部74は、電源ラインPL1での過電圧発生時に生成される過電圧信号OVLと、電源ラインPL2での過電圧発生時に生成される過電圧信号OVHと、電圧センサ75,77の検出電圧VL,VHに基づいて、電源ラインPL1,PL2の過電圧発生時にコンバータ10をゲート遮断状態とするため保護制御に関連する信号SDWN,OVL−RG,OVL−HGを生成する。
【0047】
なお、ハイブリッド自動車100全体では、上記過電圧発生以外の異常発生時にも、コンバータ10をゲート遮断状態する保護制御が実行されるが、本実施の形態では、過電圧発生に係る保護制御について説明する。
【0048】
次に、図3〜図5を用いて、本発明の実施の形態による電力変換回路の保護装置による過電圧検出および、過電圧検出に応答したゲート遮断指令の発生および伝達に関する制御構成について説明する。
【0049】
図3は、本発明の実施の形態の比較例として示される電力変換回路の保制御構成を説明するブロック図である。
【0050】
図3を参照して、IPM(Intelligent Power Module)には、コンバータ10およびインバータ20,30を構成するスイッチング素子および、ECU60からの制御信号に従ってこれらスイッチング素子のオン/オフを制御するためのゲート駆動回路が搭載される。特に、コンバータ10を構成するスイッチング素子Q1,Q2のオン/オフは、コンバータゲート駆動回路11により制御される。
【0051】
OVL検出回路90は、IPM上にハードウェアで構成され、電圧センサ75により検出される電圧VLが所定の上限電圧を超えたときに、過電圧信号OVLをHレベルに設定する。同様に、OVH検出回路95は、電圧センサ77により検出される電圧VHが所定の上限電圧を超えたときに、過電圧信号OVLをHレベルに設定する。なお、以下では、各信号について、Hレベルに設定することを「当該信号を発生する」とも表現し、Lレベルに設定することを「当該信号を非発生とする」とも表現する。
【0052】
OVL検出回路90およびOVH検出回路95は、たとえば、電圧センサ75,77からの出力電圧と、所定の上限電圧との電圧差を増幅出力する差動増幅回路等により構成することができる。
【0053】
ハードウェアで構成した過電圧検出回路(OVL検出回路90およびOVH検出回路95を総称するもの、以下同じ)を用いることにより、CPU61が電圧センサ75,77による検出電圧のデジタル変換値に基づいた演算処理によって過電圧信号OVL,OVHを発生する構成と比較して、過電圧信号OVL,OVHをより高速に生成することができる。
【0054】
過電圧信号OVLおよびOVHは、ECU60内のCPU61に入力される。CPU61は、本発明での「演算装置」に対応し、図4に示すフローチャートに従う演算処理(CPU処理)を所定周期毎に実行することにより、遮断指令信号SDWNの発生/非発生を制御する。
【0055】
図4を参照して、CPU61は、ステップS100により、過電圧検出回路によって過電圧信号OVHおよびOVL信号の少なくとも一方が発生されたかどうかを判定する。そして、過電圧信号の発生時(S100のYES判定時)には、CPU61は、処理をステップS110に進めて、過電圧信号OVL,OVHの発生が、過電圧検出回路の故障等による誤検出であるか否かを判定する。たとえば、電圧センサ75,77による検出電圧と、過電圧信号OVL,OVHとの比較に基づき、具体的には、一定期間を超えて、検出電圧が正常範囲であるのに過電圧信号が発生されているようなケースに、過電圧信号の誤検出が発生していると判断できる。
【0056】
そして、CPU61は、過電圧信号が正常と判断されるとき(S110のNO判定時)には、CPU61は、処理をステップS120に進めて、遮断指令信号SDWNをHレベルに設定する。すなわち、遮断指令信号SDWNが発生される。
【0057】
一方、CPU61は、過電圧信号OVH,OVL信号のいずれも発生してないとき(S100のNO判定時)または、過電圧信号OVH,OVL信号の少なくとも一方が発生されても、それが誤検出によるものと判断されるとき(S110のYES判定時)には、処理をステップS130に進めて、遮断指令信号SDWNをLレベルに設定する。すなわち、遮断指令信号SDWNは発生されない。
【0058】
再び図3を参照して、CPU61は、信号OVL−RGを、通常時にはHレベルに設定する一方で、過電圧信号OVLが発生され、かつ、その発生が誤検出によるものと判断されるときに、Lレベルに設定する。同様に、CPU61は、信号OVH−RGを、通常時にはHレベルに設定する一方で、過電圧信号OVHの発生によりコンバータ10が一旦ゲート遮断状態とされた後に、過電圧信号OVHが発生され、かつ、その発生が誤検出によるものと判断されるときに、Lレベルに設定する。
【0059】
論理回路101は、CPU61からの出力信号OVL−RG,OVH−RGおよびIPMにより生成された過電圧信号OVL,OVHに応答して、最終的なゲート遮断指令信号CSDNを発生する。
【0060】
論理回路101は、CPU61からの信号OVH−RGおよび過電圧信号OVHの論理積演算結果を出力する論理ゲート102と、CPU61からの信号OVL−RGおよび過電圧信号OVLの論理積演算結果を出力する論理ゲート104と、論理ゲート102および104の出力信号ならびにCPU61からの遮断指令信号SDWNの論理和演算結果を、ゲート遮断指令信号CSDNとして出力する論理ゲート106とを有する。
【0061】
論理ゲート106から出力されたゲート遮断指令信号CSDNは、信号線110によって、ECU60からIPM上のコンバータゲート駆動回路11へ伝達される。さらに、CPU61は、図2のコンバータ制御部71の機能部分により、通常時にコンバータ10を制御するための信号PWC(図1)を発生し、信号線115によってコンバータゲート駆動回路11へ伝達する。
【0062】
コンバータゲート駆動回路11は、通常動作時には、信号線115によって伝達された信号PWCに応答して、スイッチング素子Q1およびQ2のオン/オフを制御する。一方、コンバータゲート駆動回路11は、信号線110を介してゲート遮断指令信号CSDNを受けた場合には、スイッチング素子Q1およびQ2を強制的にターンオフして、ゲート遮断状態とする。
【0063】
図3の構成によれば、過電圧の発生時には、ハードウェアで構成した過電圧検出回路により高速に発生される過電圧信号OVLおよび/またはOVHに基づき、論理ゲート102および/または104の出力により、ゲート遮断指令信号CSDNを発生できる。また、一旦、ゲート遮断状態とした後では、電圧VH,VLが電力消費により低下して過電圧状態が解消されると、過電圧信号OVLおよび/またはOVHが非発生となることに応答して、ゲート遮断指令信号CSDNを非発生とすることによりゲート遮断状態を解除できる。
【0064】
さらに、過電圧検出回路の故障等により、過電圧信号OVL,OVHの発生が誤検出に基づくものである場合には、電圧センサ75,77による検出値が正常範囲であれば、CPU61からの信号SDWN,OVL−RG,OVL−HGによって、ゲート遮断状態を解除できる。
【0065】
なお、ゲート遮断状態の解除後には、コンバータ10を動作させてコンバータ10のスイッチング素子Q1をオンすることにより、蓄電装置B(図1)からインバータ20,30に対して電力を供給するための経路を形成することが可能となる。これにより、たとえば、故障状況情報に基づいて、蓄電装置Bからの電力を用いてモータジェネレータMG2を駆動して走行するための機器群が使用可能と判断される場合、あるいは、退避走行を指示するスイッチ等が運転者により操作された場合には、コンバータ10の動作を伴う退避走行が実行できる。
【0066】
しかしながら、図3に示した構成では、ECU60からIPMに対するゲート遮断指令信号の伝達経路が一重系であるため、信号線110が断線した場合には、過電圧が発生しても、コンバータ10をゲート遮断状態にすることができなくなる。
【0067】
このような状態が発生すると、図1からも理解されるように、たとえばスイッチング素子Q1および/またはQ2がオンすることによって、電源ラインPL1またはPL2に発生した過電圧により、DCDCコンバータ6、コンデンサC1,C2を始めとした、電力変換回路の内部および/または外部の部品に、過電圧による機器損傷が発生する可能性がある。
【0068】
図5は、この点を解決するために提案された、本発明の実施の形態による電力変換回路の保護制御装置による制御構成を示すブロック図である。
【0069】
図5を参照して、本発明の実施の形態による制御構成によれば、ECU60は、図3に示した論理回路101に代えて、論理回路101♯を有する。論理回路101♯は、図3と同様の論理ゲート102,104に加えて、論理ゲート106に代えて論理ゲート108を有する。論理ゲート108は、論理ゲート102および104からの出力信号の論理和演算結果を出力する。図5のその他の部分の構成は、図3と同様であるので、その説明は繰り返さない。
【0070】
ECU60は、CPU61からの遮断指令信号SDWNと、論理ゲート108によって生成された遮断指令信号とのそれぞれを、別個のゲート遮断指令信号CSDN1,CSDN2として出力する。そして、ゲート遮断指令信号CSDN1,CSDN2は、別個の信号線110および111によって、IPM上のコンバータゲート駆動回路11へ伝達する。
【0071】
すなわち、ゲート遮断指令信号の発生および、ECU60からIPM(コンバータゲート駆動回路11)への伝達が、信号線110および111により二重系を構成する。そして、コンバータゲート駆動回路11は、ゲート遮断指令信号CSDN1およびCSDN2の少なくとも一方が発生されているときに、スイッチング素子Q1,Q2を強制的にオフとして、コンバータ10をゲート遮断状態とする。
【0072】
なお、上記のように、CPU61からの遮断指令信号SDWNは、過電圧信号OVH,OVLに基づき、図4に示したフローチャートに従って発生されるので、ハードウェアによる過電圧検出およびCPU演算処理の組み合わせによって発生されている。同様に、論理回路101♯についても、過電圧信号OVH,OVLと、CPU61からの信号OVL−RG,OVH−RGに基づいて発生されるので、ハードウェアによる過電圧検出およびCPU演算処理の組み合わせによって発生されている。
【0073】
このように、本実施の形態による電力変換回路の保護制御装置によれば、信号線110,111の一方に断線が発生しても、ゲート遮断指令をECU60からコンバータ10へ確実に伝達できるので、ECU60によってコンバータ10を確実にゲート遮断状態とすることにより、過電圧発生時の機器保護性能を向上させることができる。
【0074】
さらに、CPU61が発生する信号SDWN,OVH−RG,OVL−RGによって、過電圧が誤検出と判断できる場合には、ゲート遮断指令信号CSDN1,2の各々を非発生(Lレベル)とできる点についても図3と同様である。すなわち、ハードウェアによる過電圧検出およびCPU演算処理の組み合わせによってゲート遮断指令を発生することにより、過電圧検出回路の故障等による過電圧の誤検出であることが判明した場合には、一旦設定したゲート遮断状態を解除できるような柔軟な制御構成は維持されている。
【0075】
なお、本実施の形態では、過電圧発生に対する保護制御のみを取り上げて説明したが、上述のように、実際には、過電圧発生を含む予め定められた複数の異常状態のうちのいずれかが検出された場合にゲート遮断指令が生成される点について、確認的に記載する。また、インバータ20,30へのゲート遮断指令についても、コンバータ10と同様に構成できる点についても確認的に記載する。
【0076】
また、上記の実施の形態では、エンジンおよびモータジェネレータ(MG2)の双方が車輪駆動力を発生できるパラレルハイブリッド構成のハイブリッド自動車を例示したが、エンジンがモータへの電力供給源としてのみ動作し直接の車輪駆動はモータによって行なわれるシリーズハイブリッド構成のハイブリッド自動車においても、電力変換回路の過電圧からの保護制御について本発明を適用することが可能である。
【0077】
同様に、上記の実施の形態では、エンジン4およびモータジェネレータMG1,MG2が遊星歯車機構を介して接続されて、この遊星歯車機構によりエネルギー分配を行なう機械分配式のハイブリッド自動車を例示したが、いわゆる電気分配式のハイブリッド自動車にも本発明を適用することが可能である。また、エンジンを搭載しない電気自動車を含め、車輪駆動力発生用の電動機を搭載する電動車両全般について、この電動機制御のための電力変換回路での機器保護について、本発明を適用することができる点について確認的に記載する。
【0078】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】この発明の実施の形態による電力変換回路の保護制御装置が搭載された電動車両の一例として示されるハイブリッド自動車の概略ブロック図である。
【図2】図1に示したECUの機能ブロック図である。
【図3】この発明の実施の形態の比較例として示される電力変換回路の保護制御構成を示すブロック図である。
【図4】CPUによる演算処理を説明するフローチャートである。
【図5】この発明の実施の形態による電力変換回路の保護制御装置による制御構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0080】
4 エンジン、6 DCDCコンバータ(補機用)、8 補機、10 コンバータ(電力変換回路)、11 コンバータゲート駆動回路、20,30 インバータ、71 コンバータ制御部、72,73 インバータ制御部、74 ゲート遮断制御部(過電圧)、75,77 電圧センサ、76,78 電流センサ、90 OVL検出回路(過電圧検出回路)、95 OVH検出回路(過電圧検出回路)、100 ハイブリッド自動車、101,101♯ 論理回路、102,104,106,108 論理ゲート、110,111 信号線(ゲート遮断指令信号)、115 信号線(スイッチング制御信号)、B 蓄電装置、C1,C2 コンデンサ、CSDN,CSDN1,CSDN2 ゲート遮断指令信号、D1,D2 ダイオード、L リアクトル、MCRT1,MCRT2 モータ電流、MG1,MG2 モータジェネレータ、MRN1,MRN2 モータ回転数、OVH,OVL 過電圧信号、OVL−RG,OVH−RG 出力信号(CPU)、PL1,PL2 電源ライン、PWC,PWM1,PWM2 信号(スイッチング制御)、Q1,Q2 電力用半導体スイッチング素子、RY1,RY2 リレー、SDWN 遮断指令信号(CPU)、SL 接地ライン、TR1,TR2 トルク指令値、VL センサ検出電圧(電源ラインPL1)、VH センサ検出電圧(電源ラインPL2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源配線に接続された電力用半導体スイッチング素子を含んで構成された電力変換回路の保護制御装置であって、
前記電源配線の過電圧検出時に過電圧信号を発生する過電圧検出回路と、
前記過電圧検出回路からの前記過電圧信号に基づく所定の演算処理によって、前記電力用半導体スイッチング素子の強制的な遮断指令信号を発生する演算装置と、
前記演算装置からの出力信号と前記過電圧検出回路からの出力信号とに基づいて、前記過電圧信号が発生されたときに、前記電力用半導体スイッチング素子の強制的な遮断指令信号を発生するための論理回路と、
前記演算装置により発生された前記遮断指令信号を前記電力変換回路へ伝達するための第1の信号線と、
前記論理回路により発生された前記遮断指令信号を前記電力変換回路へ伝達するための、前記第1の信号線とは別個に設けられた第2の信号線とを備える、電力変換回路の保護制御装置。
【請求項2】
前記電力変換回路は、2本の前記電源配線間に接続されて、両電源配線間での電力変換を実行するように構成され、
前記論理回路は、
前記演算装置からの出力信号と、前記過電圧検出回路が前記2本の電源配線のうちの第1の電源配線の過電圧検出時に発生する過電圧信号とを入力とする第1の論理演算器と、
前記演算装置からの出力信号と、前記過電圧検出回路が前記2本の電源配線のうちの第2の電源配線の過電圧検出時に発生する過電圧信号とを入力とする第2の論理演算器と
前記第1および前記第2の論理演算器の出力信号を入力として、前記遮断指令信号を出力する第3の論理演算器とを含む、請求項1記載の電力変換回路の保護制御装置。
【請求項3】
前記電力変換回路は、交流回転電機によって車両駆動力の少なくとも一部を発生するように構成された電動車両に搭載され、
前記電力変換回路は、前記第1の電源配線と接続された蓄電装置と、前記第2の電源配線と接続されたインバータとの間で直流電圧変換を行なうコンバータにより構成され、
前記交流回転電機は、前記インバータによって変換された交流電力の供給を受けて駆動される、請求項2記載の電力変換回路の保護制御装置。
【請求項4】
前記演算装置は、前記過電圧信号が発生されていても、前記過電圧検出回路による誤検出であると判断される場合には、前記演算装置からの前記遮断指令信号を非発生とし、かつ、前記論理回路において前記遮断指令信号が非発生とされるように前記出力信号を設定するように構成される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電力変換回路の保護制御装置。
【請求項5】
前記演算装置から前記論理回路への前記出力信号は、前記過電圧信号の発生前には、前記過電圧信号の発生に応答して前記論理回路が前記遮断指令信号を発生するように設定される一方で、前記過電圧信号の発生後には、前記過電圧検出回路による誤検出であると判断される場合には、前記過電圧信号にかかわらず前記論理回路が前記遮断指令信号を非発生とするように設定される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電力変換回路の保護制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−201195(P2009−201195A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37716(P2008−37716)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】