説明

電力変換装置

【課題】スイッチング損失を抑制できる電力変換装置を提供する。
【解決手段】電力変換装置140において、制御回路172は、モータジェネレータ192の回転状態に応じた電気角ごとのパルス波形を表すPHMパルスを、U相、V相、W相の各相について生成する。そして、生成した各相のPHMパルスに基づいて、U相、V相、W相のうちPHMパルスの電圧値が他の2相とは異なるいずれか1相を特定し、その特定した1相について、PHMパルスの電圧値を所定のゼロベクトルトリガ信号の周期ごとに反転させ、その反転後のPHMパルスおよび他の2相のPHMパルスに基づくゼロベクトル再配置型PHMパルス信号を、制御信号としてドライバ回路174へ出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電力を交流電力に、または交流電力を直流電力に変換する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直流電力を受け、上記直流電力を回転電機などの電気的な負荷に供給するための交流電力に変換する電力変換装置は、複数のスイッチング素子を備えており、上記スイッチング素子がスイッチング動作を繰り返すことにより、供給された直流電力を交流電力に変換する。上記電力変換装置の多くは、さらに上記スイッチング素子のスイッチング動作により、回転電機に誘起された交流電力を直流電力に変換するためにも使用される。上述のスイッチング素子は、一定の周波数で変化する搬送波を使用したパルス幅変調方式(以下PWM方式と記す)に基づいて制御されているものが一般的である。PWM方式では、搬送波の周波数を高くすることにより、制御精度が向上し、また回転電機の発生トルクが滑らかになる傾向がある。
【0003】
しかし上記スイッチング素子は遮断状態から導通状態への切り替り時、あるいは導通状態から遮断状態への切り替り時に電力損失が増大し、発熱量が増大する。
【0004】
電力変換装置の一例は、特開昭63−234878号公報(特許文献1参照)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−239868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のスイッチング素子の電力損失を低減することが望ましく、また電力損失を低減することにより、スイッチング素子の発熱量を低減できる。そのためには上記スイッチング素子のスイッチング回数を低減することが望ましい。しかし上述のとおり、一般に使用されているPWM方式では、上記スイッチング素子の単位時間当たりのスイッチング回数を低減するために搬送波の周波数を低くすると、電力変換装置から出力される電流の歪が大きくなり、トルク脈動の増大につながる。
【0007】
本発明は、スイッチング損失の低減を図ることができる電力変換装置を提供すること、あるいはスイッチング損失の低減を図ることができる電力変換装置の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による電力変換装置は、直流電力を受け、回転電機(またはモータ)を駆動するための交流電力を発生するインバータ回路と、直流電力をインバータ回路に供給するための平滑用コンデンサと、インバータ回路を制御するための制御回路と、制御回路の出力に基づきインバータ回路を駆動するためのドライバ回路と、を備える。インバータ回路は、U相とV相とW相の各上アームを構成するための複数のスイッチング素子と、U相とV相とW相の各下アームを構成するための複数のスイッチング素子とを有し、上アームと下アームとの間に回転電機(またはモータ)の固定子巻線が接続されることにより構成される直列回路に平滑用コンデンサからの直流電力が供給され、上アームおよび下アームのU相とV相とW相の各スイッチング素子が順に導通および遮断を繰り返すことにより、回転電機(またはモータ)を駆動するための交流電力を発生する。制御回路は、交流電力の所定高調波を低減して上アームおよび下アームの各スイッチング素子をそれぞれ制御するための、回転電機(またはモータ)の回転状態に応じた電気角ごとのパルス波形を、U相、V相、W相の各相について生成し、生成した各相のパルス波形に基づいて、U相、V相、W相のうちパルス波形の電圧値が他の2相とは異なるいずれか1相を特定し、特定した1相についてパルス波形の電圧値を所定のトリガ周期ごとに反転させ、その反転後のパルス波形および他の2相のパルス波形に基づく制御信号をドライバ回路へ出力する。ドライバ回路は、制御回路からの制御信号に基づいて、上アームおよび下アームの各スイッチング素子の動作を制御する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スイッチング損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ハイブリッド車の制御ブロックを示す図である。
【図2】電気回路の構成を示す図である。
【図3】制御モードの切替を示す図である。
【図4】PWM制御と矩形波制御を説明する図である。
【図5】矩形波制御において生じる高調波成分の例を示す図である。
【図6】一実施の形態に係る制御回路によるモータ制御系を示す図である。
【図7】PWM制御用のパルス変調器の構成を示す図である。
【図8】PHM制御のパルス生成器(位相カウンタ)の構成を示す図である。
【図9】PHM制御のパルス生成器(タイマーカウンタ)の構成を示す図である。
【図10】テーブル検索によるパルス生成の手順を示すフローチャートである。
【図11】リアルタイム演算によるパルス生成の手順を示すフローチャートである。
【図12】パルスパターン演算の手順を示すフローチャートである。
【図13】位相カウンタによるパルスの生成方法を示す図である。
【図14】PHM制御モードにおける線間電圧波形(3次、5次、7次高調波削除の線間電圧)の一例を示す図である。
【図15】線間電圧のパルス幅が他のパルス列と不等である場合の説明図である。
【図16】PHM制御モードにおける線間電圧波形(3次、5次、7次高調波削除の線間電圧)の一例を示す図である。
【図17】図16の線間電圧波形に対応する相電圧波形の一例を示す図である。
【図18】線間電圧と相端子電圧の変換表を示す図である。
【図19】矩形波制御モードにおける線間電圧パルスを相電圧パルスに変換した例を示す図である。
【図20】図14の線間電圧パルスを相電圧パルスに変換した例を示す図である。
【図21】変調度を変化させたときの線間電圧パルスにおける基本波と削除対象の高調波成分の振幅の大きさを示した図である。
【図22】PHM制御モードにおける線間電圧波形(3次、5次高調波削除の線間電圧)の一例を示す図である。
【図23】図22の線間電圧波形に対応する相電圧波形の一例を示す図である。
【図24】PWMパルス信号の生成方法を説明するための図である。
【図25】PWM制御モードにおける線間電圧波形の一例を示す図である。
【図26】PWM制御モードにおける相電圧波形の一例を示す図である。
【図27】PHMパルス信号による線間電圧パルス波形とPWMパルス信号による線間電圧パルス波形とを比較する図である。
【図28】PWM制御とPHM制御とにおけるパルス形状の違いについて説明するための図である。
【図29】モータ回転速度とPHMパルス信号による線間電圧パルス波形との関係を示す図である。
【図30】PHM制御とPWM制御において生成される線間電圧パルス数および相電圧パルスとモータ回転速度との関係を示す図である。
【図31】一実施の形態に係る制御回路によって行われるモータ制御のフローチャートを示す図である。
【図32】ゼロベクトル再配置型PHM制御のパルス生成器の構成を示す図である。
【図33】リミッタが行う演算を示す図である。
【図34】相電圧PHMパルスから相電圧ゼロベクトルパルス及びゼロベクトルモードへの変換表を示す図である。
【図35】パルス生成の手順を示すフローチャートである。
【図36】パルス生成の手順を示すフローチャートである。
【図37】パルス生成の基本原理を示す図である。
【図38】スイッチングのオン(立上がり)、オフ(立下がり)位相のテーブルの例を示す図である。
【図39】従来のPHM制御の相電圧パルスからPHM外郭パルスを作成するための相電圧パルスを抜き出す様子を示す図である。
【図40】図39で抜き出した相電圧パルスからPHM外郭パルスに変換する過程を示す図である。
【図41】ゼロベクトル判定器が行うゼロベクトル判定を説明する図である。
【図42】ゼロベクトル決定器が行うゼロベクトル決定を説明する図である。
【図43】ゼロベクトル決定におけるラッチの有無を説明する図である。
【図44】切替器が行う切替判定を説明する図である。
【図45】ラッチ無しゼロベクトル決定の場合に切替器から出力される相電圧パルスの例を示す図である。
【図46】ラッチ有りゼロベクトル決定の場合に切替器から出力される相電圧パルスの例を示す図である。
【図47】PWM制御における電流制御器(ACR)周期と電流サンプリングタイミング及び相電圧パルスの関係を示す図である。
【図48】変調度とトルク・回転数の関係を示す図である。
【図49】パルス連続性補償を行わない場合に出力されるパルス波形の例を示す図である。
【図50】パルス連続性補償を行った場合に出力されるパルス波形の例を示す図である。
【図51】最小パルス幅制限を行った場合に出力されるパルス波形の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上記発明が解決しようとする課題の欄や発明の効果の欄に記載の内容に加え、以下の実施の形態では、製品化の上で望ましい課題が解決でき、また製品化の上で望ましい効果を奏する。その幾つかを次に記載すると共に実施の形態の説明でも、具体的な課題の解決や具体的な効果について説明する。
【0012】
〔スイッチング素子のスイッチング回数の低減〕
以下の実施の形態で説明する電力変換装置では、一定の周波数で変化する搬送波を使用したパルス幅変調方式であるPWM制御モードと、直流電力から変換される交流出力の波形の角度すなわち位相に基づいて、スイッチング素子のスイッチング動作を制御するために、駆動回路から駆動信号をスイッチング素子に供給し、上記スイッチング素子が、変換される交流電力の位相に対応付けられて導通あるいは遮断のスイッチング動作を行い、前記スイッチング素子のスイッチング回数がPWM制御よりも少ない制御モードと、を適切に切り替えて回転電機を駆動している。このような構成および作用により、上記スイッチング素子のスイッチング動作の単位時間当たりの回数あるいは交流電力の1サイクル当たりのスイッチング回数を、一般のPWM方式に比べ低減できる。
【0013】
なお、スイッチング素子としては、動作速度が速く、また制御信号に基づき導通および遮断動作の両方を制御できる素子が望ましく、このような素子として例えばinsulated gate bipolar transistor(以下IGBTと記す)や電界効果トランジスタ(MOSトランジスタ)があり、これらの素子は応答性や制御性の点から望ましい。
【0014】
上記電力変換装置から出力される交流電力は回転電機などで構成されるインダクタンス回路に供給され、インダクタンスの作用に基づいて交流電流が流れる。以下の実施の形態ではインダクタンス回路としてモータやジェネレータの作用を為す回転電機を例に挙げ説明している。回転電機を駆動する交流電力を発生するために本発明を使用することは、効果の点から、最適であるが、回転電機以外のインダクタンス回路に交流電力を供給する電力変換装置としても使用できる。
【0015】
以下の実施の形態では、回転電機の回転速度の速いまたは制御回路が出力しようとする交流出力周波数の速い第1の動作範囲では、出力しようとする交流波形の位相に基づいて、スイッチング素子のスイッチング動作を発生し、一方上記第1の動作範囲より回転電機の回転速度が遅いまたは制御回路が出力しようとする交流電圧周波数の遅い第2の動作領域では、一定周波数の搬送波に基づいてスイッチング素子の動作を制御するPWM方式で上記スイッチング素子を制御する。上記第2の動作領域には上記回転電機の回転子が停止状態を含めることができる。なお、以下の実施の形態では回転電機としてモータおよび発電機として使用されるモータジェネレータを例に説明する。
【0016】
〔基本的制御〕
以下に説明の実施の形態では、基本的制御として、交流電力を供給する回転電機の低速運転状態あるいは供給しようとする交流出力の周波数が低い状態ではPWM制御で、上記交流電力を発生し、回転電機の回転速度が上昇した状態あるいは供給しようとする交流周波数の周波数が高い状態では、以下に説明するPHM制御又は本実施形態のゼロベクトル再配置型PHM制御による交流電力の発生制御に移行する。これにより歪の影響をできるだけ押さえ、スイッチング素子のスイッチング回数低減を実現できる。
【0017】
また上記基本制御とは別の観点で、以下の実施の形態で説明の如く、回転電機の高速運転状態または高出力運転では、PHM制御の内のスイッチング回数が最少の矩形波制御に移行できる。
【0018】
以下に説明のPHM制御では、出力する交流波形の位相に対応してスイッチングタイミングが制御され、変調度を高くするにつれて交流出力、例えば交流電圧の半周期(電気角のゼロからπ、あるいはπから2π)におけるスイッチング回数が徐々に減少し、最後は、半周期に1回導通するだけとなる矩形波制御に移行する。同様にPHM制御では、モータ線間電圧から削除する削除対象高調波次数の数を減らしていくと、交流出力、例えば交流電圧の半周期(電気角のゼロからπ、あるいはπから2π)におけるスイッチング回数が徐々に減少し、最後は、半周期に1回導通するだけとなる矩形波制御に移行する。例えば、最初は3次、5次、7次、11次および13次の高調波を削除対象とし、次に3次、5次、7次および11次の高調波を削除対象とし、次に3次、5次および7次の高調波を削除対象とし、次に3次および5次の高調波を削除対象とし、最後に削除対象とする高調波なし(矩形波制御)とすることで、PHM制御における削除対象高調波次数を次第に減らしていくことができる。このように以下の実施の形態では、スイッチング素子のスイッチング回数が最少となる矩形波制御にスムーズに移行できるメリットもあり、このため制御性に優れている。
【0019】
本発明の実施形態に係る電力変換装置について、図面を参照しながら以下詳細に説明する。本発明の実施形態に係る電力変換装置は、ハイブリッド用の自動車(以下HEVと記す)や純粋な電気自動車(以下EVと記す)の回転電機を駆動する為の交流電力を発生する電力変換装置に適用した例である。HEV用の電力変換装置もEV用の電力変換装置も基本的な構成や制御において共通するところが多く、代表例として、本発明の実施形態に係る電力変換装置をハイブリッド自動車に適用した場合の制御構成と電力変換装置の回路構成について、図1と図2を用いて説明する。図1はハイブリッド自動車の制御ブロックを示す図である。
【0020】
本発明の実施形態に係る電力変換装置では、自動車に搭載される車載電機システムの車載用の電力変換装置について説明する。特に、車両駆動用電機システムに用いられ、搭載環境や動作的環境などが大変厳しい車両駆動用電力変換装置を例に挙げて説明する。車両駆動用電力変換装置は、車両駆動用の回転電機を駆動する制御装置として車両駆動用電機システムに備えられる。この車両駆動用の電力変換装置は、車載電源を構成する車載バッテリ或いは車載発電装置から供給された直流電力を所定の交流電力に変換し、得られた交流電力を上記回転電機に供給して上記回転電機を駆動する。また、上記回転電機は電動機の機能に加え発電機としての機能も有しているので、上記電力変換装置は運転モードに応じ、直流電力を交流電力に変換するだけでなく、上記回転電機が発生する交流電力を直流電力に変換する動作も行う。変換された直流電力は車載バッテリに供給される。
【0021】
なお、本実施形態の構成は、自動車やトラックなどの車両駆動用の電力変換装置として最適である。しかし、これら以外の電力変換装置、例えば電車や船舶、航空機などの電力変換装置、さらに工場の設備を駆動する回転電機、例えばファンやポンプに供給する交流電力を発生する為の産業用の電力変換装置、或いは家庭の太陽光発電システムや家庭の電化製品を駆動する回転電機の制御装置に用いられたりする電力変換装置に対しても適用可能である。
【0022】
図1において、HEV110は1つの電動車両であり、2つの車両駆動用システムを備えている。その1つは、内燃機関であるエンジン120を動力源としたエンジンシステムである。エンジンシステムは、主としてHEVの駆動源として用いられる。もう1つは、モータジェネレータ192,194を動力源とした車載電機システムである。車載電機システムは、主としてHEVの駆動源及びHEVの電力発生源として用いられる。モータジェネレータ192,194は例えば同期機あるいは誘導機などの回転電機の一例であり、運転方法によりモータとしても発電機としても動作するので、ここではモータジェネレータと記すこととする。
【0023】
車体のフロント部には前輪車軸114が回転可能に軸支されている。前輪車軸114の両端には1対の前輪112が設けられている。車体のリア部には後輪車軸(図示省略)が回転可能に軸支されている。後輪車軸の両端には1対の後輪が設けられている。本実施形態のHEVでは、動力によって駆動される主輪を前輪112とし、連れ回される従輪を後輪とする、いわゆる前輪駆動方式を採用しているが、この逆、すなわち後輪駆動方式や四輪駆動方式を採用しても構わない。
【0024】
前輪車軸114の中央部には前輪側ディファレンシャルギア(以下、「前輪側DEF」と記述する)116が設けられている。前輪車軸114は前輪側DEF116の出力側に機械的に接続されている。前輪側DEF116の入力側には変速機118の出力軸が機械的に接続されている。前輪側DEF116は、変速機118によって変速されて伝達された回転駆動力を左右の前輪車軸114に分配する差動式動力分配機構である。変速機118の入力側にはモータジェネレータ192の出力側が機械的に接続されている。モータジェネレータ192の入力側には動力分配機構122を介してエンジン120の出力側及びモータジェネレータ194の出力側が機械的に接続されている。尚、モータジェネレータ192,194及び動力分配機構122は、変速機118の筐体の内部に収納されている。
【0025】
モータジェネレータ192,194は、回転子に永久磁石を備えた同期機である。固定子の電機子巻線に供給される交流電力が電力変換装置140,142によって制御されることにより、モータジェネレータ192,194の駆動が制御される。電力変換装置140,142にはバッテリ136が電気的に接続されている。バッテリ136と電力変換装置140,142との相互において電力の授受が可能である。
【0026】
本実施形態の車載電機システムは、モータジェネレータ192及び電力変換装置140からなる第1電動発電ユニットと、モータジェネレータ194及び電力変換装置142からなる第2電動発電ユニットとの2つを備えており、運転状態に応じてそれらを使い分けている。すなわち、エンジン120からの動力によって車両を駆動している場合において、車両の駆動トルクをアシストする場合には、第2電動発電ユニットを発電ユニットとしてエンジン120の動力によって作動させて発電させ、その発電によって得られた電力によって第1電動発電ユニットを電動ユニットとして作動させる。また、同様の場合において、車両の車速をアシストする場合には、第1電動発電ユニットを発電ユニットとしてエンジン120の動力によって作動させて発電させ、その発電によって得られた電力によって第2電動発電ユニットを電動ユニットとして作動させる。
【0027】
また、本実施形態では、バッテリ136の電力によって第1電動発電ユニットを電動ユニットとして作動させることにより、モータジェネレータ192の動力のみによって車両の駆動ができる。さらに、本実施形態では、第1電動発電ユニット又は第2電動発電ユニットを発電ユニットとしてエンジン120の動力或いは車輪からの動力によって作動させて発電させることにより、バッテリ136を充電できる。
【0028】
バッテリ136はさらに補機用のモータ195を駆動するための電源としても使用される。補機用のモータとしては、例えばエアコンディショナーのコンプレッサを駆動するモータ、あるいは制御用の油圧ポンプを駆動するモータである。バッテリ136から電力変換装置43に直流電力が供給され、電力変換装置43で交流の電力に変換されてモータ195に供給される。電力変換装置43は、電力変換装置140や142と同様の機能を持ち、モータ195に供給する交流の位相や周波数、電力を制御する。例えばモータ195の回転子の回転に対し進み位相の交流電力を供給することにより、モータ195はトルクを発生する。一方、遅れ位相の交流電力を発生することで、モータ195は発電機として作用し、回生制動状態の運転となる。このような電力変換装置43の制御機能は、電力変換装置140や142の制御機能と同様である。モータ195の容量はモータジェネレータ192や194の容量より小さいので、電力変換装置43の最大変換電力は電力変換装置140や142より小さい。しかし、電力変換装置43の回路構成および動作は基本的に電力変換装置140や142の回路構成や動作と類似している。
【0029】
電力変換装置140や142および電力変換装置43さらにコンデンサモジュール500は電気的に密接な関係にある。さらに発熱に対する対策が必要な点が共通している。また装置の体積をできるだけ小さく作ることが望まれている。これらの点から以下で詳述する電力変換装置は、電力変換装置140や142および電力変換装置43さらにコンデンサモジュール500を電力変換装置の筐体内に内蔵している。この構成により、小型で信頼性の高い装置が実現できる。
【0030】
また電力変換装置140や142および電力変換装置43さらにコンデンサモジュール500を一つの筐体に内蔵することで、配線の簡素化やノイズ対策で効果がある。またコンデンサモジュール500と電力変換装置140や142および電力変換装置43との接続回路のインダクタンスを低減でき、スパイク電圧を低減できると共に、発熱の低減や放熱効率の向上を図ることができる。
【0031】
次に、図2を用いて電力変換装置140や142あるいは電力変換装置43の電気回路構成を説明する。尚、図1〜図2に示す実施形態では、電力変換装置140や142あるいは電力変換装置43をそれぞれ個別に構成する場合を例に挙げて説明する。電力変換装置140や142あるいは電力変換装置43は同様の構成で同様の作用を為し、同様の機能を有している。ここでは、代表例として電力変換装置140の説明を行う。
【0032】
本実施形態に係る電力変換装置200は、電力変換装置140とコンデンサモジュール500とを備える。電力変換装置140は、パワースイッチング回路144と制御部170とを有している。また、パワースイッチング回路144は、上アームとして動作するスイッチング素子と下アームとして動作するスイッチング素子を有している。この実施の形態ではスイッチング素子としてIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)を使用している。上アームとして動作するIGBT328はダイオード156と並列接続されており、下アームとして動作するIGBT330はダイオード166と並列接続されている。上下アームの直列回路150を複数有し(図2の例では3つの上下アームの直列回路150,150,150)、それぞれの上下アームの直列回路150の中点部分(接続点169)から交流端子159を通してモータジェネレータ192への交流電力線(交流バスバー)186と接続する構成である。また、制御部170はパワースイッチング回路144を駆動制御するドライバ回路174と、ドライバ回路174へ信号線176を介して制御信号を供給する制御回路172と、を有している。
【0033】
上アームと下アームのIGBT328や330は、スイッチング素子であり、制御部170から出力された駆動信号を受けて動作し、バッテリ136から供給された直流電力を三相交流電力に変換する。この変換された電力はモータジェネレータ192の電機子巻線に供給される。上述のとおり、電力変換装置140はモータジェネレータ192が発生する三相交流電力を直流電力に変換する動作も行う。
【0034】
本実施形態に係る電力変換装置200は、図1に記載の如く電力変換装置140と142さらに電力変換装置43とコンデンサモジュール500を有している。上述のとおり電力変換装置140と142さらに電力変換装置43は同様の回路構成であるので、ここでは電力変換装置140を代表として記載し、電力変換装置142と電力変換装置43は、既に上述したとおり省略した。
【0035】
パワースイッチング回路144は3相のブリッジ回路により構成されているインバータ回路である。バッテリ136の正極側と負極側には、直流正極端子314と直流負極端子316が電気的に接続されている。直流正極端子314と直流負極端子316の間には、各相に対応する上下アームの直列回路150,150,150がそれぞれ電気的に並列に接続されている。ここで、上下アームの直列回路150をアームと記載する。各アームは、上アーム側のスイッチング素子328及びダイオード156と、下アーム側のスイッチング素子330及びダイオード166とを備えている。
【0036】
本実施形態では、スイッチング素子としてIGBT328や330を用いることを例示している。IGBT328や330は、コレクタ電極153,163、エミッタ電極(信号用エミッタ電極端子155,165)、ゲート電極(ゲート電極端子154,164)を備えている。IGBT328,330のコレクタ電極153,163とエミッタ電極との間には、ダイオード156,166が図示するように電気的に並列に接続されている。ダイオード156,166は、カソード電極及びアノード電極の2つの電極を備えている。IGBT328,330のエミッタ電極からコレクタ電極に向かう方向が順方向となるように、カソード電極がIGBT328,330のコレクタ電極に、アノード電極がIGBT328,330のエミッタ電極にそれぞれ電気的に接続されている。スイッチング素子としては、MOSFET(金属酸化物半導体型電界効果トランジスタ)を用いてもよい。この場合は、ダイオード156やダイオード166は不要となる。
【0037】
上下アームの直列回路150は、3相のモータジェネレータ192に供給する交流電力の各相に対応しており、各直列回路150,150,150は、IGBT328のエミッタ電極とIGBT330のコレクタ電極163を接続する接続点169はそれぞれU相、V相、W相の交流電力を出力するのに使用される。各相の上記接続点169がそれぞれ交流端子159とコネクタ188を介して、モータジェネレータ192のU相、V相、W相の電機子巻線(同期電動機では固定子巻線)と接続されることにより、上記電機子巻線にU相、V相、W相の電流が流れる。上記上下アームの直列回路同士は電気的に並列接続されている。上アームのIGBT328のコレクタ電極153は、正極端子(P端子)157を介してコンデンサモジュール500の正極側コンデンサ電極に、下アームのIGBT330のエミッタ電極は、負極端子(N端子)158を介してコンデンサモジュール500の負極側コンデンサ電極に、それぞれ直流バスバーなどを介して電気的に接続されている。
【0038】
コンデンサモジュール500は、IGBT328,330のスイッチング動作によって生じる直流電圧の変動を抑制する平滑回路を構成するためのものである。コンデンサモジュール500の正極側コンデンサ電極にはバッテリ136の正極側が、コンデンサモジュール500の負極側コンデンサ電極にはバッテリ136の負極側が、それぞれ直流コネクタ138を介して電気的に接続されている。これにより、コンデンサモジュール500は、上アームIGBT328のコレクタ電極153とバッテリ136の正極側との間と、下アームIGBT330のエミッタ電極とバッテリ136の負極側との間で接続され、バッテリ136と上下アームの直列回路150に対して電気的に並列接続される。
【0039】
制御部170は、IGBT328,330を導通や遮断の作動を制御する働きをし、制御部170は、他の制御装置やセンサなどからの入力情報に基づいて、IGBT328,330のスイッチングタイミングを制御するためのタイミング信号を生成する制御回路172と、制御回路172から出力されたタイミング信号に基づいて、IGBT328,330をスイッチング動作させるためのドライブ信号を生成するドライバ回路174とを備えている。
【0040】
制御回路172は、IGBT328,330のスイッチングタイミングを演算処理するためのマイクロコンピュータを備えている。このマイクロコンピュータには、入力情報として、モータジェネレータ192に対して要求される目標トルク値、上下アームの直列回路150からモータジェネレータ192の電機子巻線に供給される電流値、及びモータジェネレータ192の回転子の磁極位置が入力される。目標トルク値は、不図示の上位の制御装置から出力された指令信号に基づくものである。電流値は、電流センサ180から出力された検出信号に基づいて検出されたものである。磁極位置は、モータジェネレータ192に設けられた回転磁極センサ193から出力された検出信号に基づいて検出されたものである。本実施形態では3相の電流値を検出する場合を例に挙げて説明するが、2相分の電流値を検出するようにしても構わない。
【0041】
制御回路172内のマイクロコンピュータは、入力された目標トルク値に基づいてモータジェネレータ192のd,q軸の電流指令値を演算し、この演算されたd,q軸の電流指令値と、検出されたd,q軸の電流値との差分に基づいてd,q軸の電圧指令値を演算し、このd,q軸の電圧指令値からパルス状の駆動信号を生成する。制御回路172は後述するように2種類の方式の駆動信号を発生する機能を有する。この2種類の方式の駆動信号は、インダクタンス負荷であるモータジェネレータ192の状態に基づいて、あるいは変換しようとする交流電力の周波数、などに基づいて、選択される。
【0042】
上記2種類の方式の内の1つは、出力しようとする交流波形の位相に基づいて、スイッチング素子であるIGBT328、330のスイッチング動作を制御する変調方式(PHM方式として後述する)である。上記2種類の方式の内の他の1つは、一般にPWM(Pulse Width Modulation)と呼ばれる変調方式である。
【0043】
ドライバ回路174は、下アームを駆動する場合、パルス状の変調波の信号を増幅し、これをドライブ信号として、対応する下アームのIGBT330のゲート電極に出力する。また、上アームを駆動する場合、パルス状の変調波の信号の基準電位のレベルを上アームの基準電位のレベルにシフトしてからパルス状の変調波の信号を増幅し、これをドライブ信号として、対応する上アームのIGBT328のゲート電極に出力する。これにより、各IGBT328,330は、入力されたドライブ信号に基づいてスイッチング動作する。こうして制御部170からの駆動信号(ドライブ信号)に応じて行われる各IGBT328,330のスイッチング動作により、電力変換装置140は、直流電源であるバッテリ136から供給される電圧を、電気角で2π/3 rad毎にずらしたU相、V相、W相の各出力電圧に変換し、3相交流モータであるモータジェネレータ192に供給する。なお、電気角とは、モータジェネレータ192の回転状態、具体的には回転子の位置に対応するものであって、0から2πの間で周期的に変化する。この電気角をパラメータとして用いることで、モータジェネレータ192の回転状態に応じて、各IGBT328,330のスイッチング状態、すなわちU相、V相、W相の各出力電圧を決定することができる。
【0044】
また、制御部170は、異常検知(過電流、過電圧、過温度など)を行い、上下アームの直列回路150を保護している。このため、制御部170にはセンシング情報が入力されている。例えば各アームの信号用エミッタ電極端子155,165からは各IGBT328,330のエミッタ電極に流れる電流の情報が、対応する駆動部(IC)に入力されている。これにより、各駆動部(IC)は過電流検知を行い、過電流が検知された場合には対応するIGBT328,330のスイッチング動作を停止させ、対応するIGBT328,330を過電流から保護する。上下アームの直列回路150に設けられた温度センサ(不図示)からは上下アームの直列回路150の温度の情報がマイクロコンピュータに入力されている。また、マイクロコンピュータには上下アームの直列回路150の直流正極側の電圧の情報が入力されている。マイクロコンピュータは、それらの情報に基づいて過温度検知及び過電圧検知を行い、過温度或いは過電圧が検知された場合には全てのIGBT328,330のスイッチング動作を停止させ、上下アームの直列回路150、引いては、この回路150を含む半導体モジュール、を過温度或いは過電圧から保護する。
【0045】
図2において、上下アームの直列回路150は、上アームのIGBT328及び上アームのダイオード156と、下アームのIGBT330及び下アームのダイオード166との直列回路である。IGBT328,330は、スイッチング用半導体素子である。パワースイッチング回路144の上下アームのIGBT328,330の導通および遮断動作が一定の順で切り替わる。この切り替わり時のモータジェネレータ192の固定子巻線の電流は、ダイオード156,166によって作られる回路を流れる。
【0046】
上下アームの直列回路150は、図示するように、Positive端子(P端子、正極端子)157、Negative端子(N端子158、負極端子)、上下アームの接続点169からの交流端子159、上アームの信号用端子(信号用エミッタ電極端子)155、上アームのゲート電極端子154、下アームの信号用端子(信号用エミッタ電極端子)165、下アームのゲート端子電極164、を備えている。また、電力変換装置200は、入力側に直流コネクタ138を有し、出力側に交流コネクタ188を有して、それぞれのコネクタ138と188を通してバッテリ136とモータジェネレータ192にそれぞれ接続される。また、モータジェネレータへ出力する3相交流の各相の出力を発生する回路として、各相に2つの上下アームの直列回路を並列接続する回路構成の電力変換装置であってもよい。
【0047】
制御部170の制御回路172は、2種類の方式の駆動信号を発生する機能を有している。上記2種類の方式の内の1つは、出力しようとする交流波形の位相に基づいて、スイッチング素子であるIGBT328、330のスイッチング動作を制御する変調方式(PHM方式として後述する)である。上記2種類の方式の内の他の1つは、一般にPWM(Pulse Width Modulation)と呼ばれる変調方式である。
【0048】
図3を用い、電力変換装置140において行われる制御モードの切り替えについて説明する。電力変換装置140は、モータすなわちモータジェネレータ192の回転速度または出力しようとする交流電力の周波数に応じて、PWM制御方式と後述のPHM制御方又はゼロベクトル再配置型PHM制御、を切り替えて使用する。図3は、電力変換装置140における制御モードの切り替えの様子を示している。図3の横軸はモータジェネレータの回転数(r/min)、または出力しようとする交流電力の周波数(Hz)を表しており、縦軸はモータジェネレータのトルク(Nm)を表している。
【0049】
出力しようとする交流電力の周波数とモータジェネレータ回転数は、以下の式(1)のように表すことができる。
(出力しようとする交流電力周波数)
=(モータジェネレータ極対数)×(回転数)/60 (Hz)・・・・(1)
【0050】
なお、制御モードを切り替える回転速度または周波数は任意に変更可能である。またPHM制御モードと後に説明する本発明のゼロベクトル再配置型PHM制御モードの切替は、電力変換装置と組み合わされる回転電機や回転電機以外のインダクタンス回路の特性に合わせて適宜切替えれば良い。
【0051】
以下に説明するPHM制御は、モータジェネレータ192の回転速度が停止状態を含む低速状態では、PWM制御に比べスイッチング素子のスイッチング回数が少ない。そのため、出力する交流電力の大きさによっては、モータジェネレータ192のインダクタンス回路に流れる電流波形の歪が大きくなり制御性に問題が生じる場合がある。しかし、モータジェネレータ192のインダクタンス負荷が大きくなる中高速度域では、出力しようとする交流出力から特定の高調波成分を削除すれば、残留するスイッチング回数を低減しても、インダクタンス回路に流れる電流波形歪みは低減できる。よってスイッチング素子の電力損失を低減できるといった効果がある。
【0052】
以下に説明するゼロベクトル再配置型PHM制御は、PHM制御よりは若干スイッチング回数が増えるものの、PWM制御よりも少ないスイッチング回数でスイッチング損失を低減できるといった効果がある。さらにモータ電流から削除対象高調波を削除しつつPHM制御よりもモータ電流歪みを少なくしトルク脈動を低減することが出来るといった効果がある。さらに前記トルク脈動を低減できることから、従来PHM制御が適用できずPWM制御を行っていた低回転速度または低周波領域へゼロベクトル再配置型PHM制御の適用を拡大できるといった効果がある。
【0053】
そこで、PHM制御またはゼロベクトル再配置型PHM制御をPWM制御方式による制御と組み合わせることで、上記のようなPHM制御やゼロベクトル再配置型PHM制御の欠点を補うことができる。
【0054】
例えば自動車が停止状態から走行を開始する場合に、前記モータジェネレータ192は停止状態で大きなトルクを発生することが必要である。また車両の高級感を出すためには、滑らかな発進と加速が望ましい。車両の発進時および加速時は、滑らかな加速を実現する為に、前記モータジェネレータ192に供給する交流電力の歪を少なくすることが望ましく、PWM制御方式でパワースイッチング回路144が有するスイッチング素子のスイッチング動作を制御する。
【0055】
前記モータジェネレータ192の低速運転状態では、供給できる交流電流に限界が有り、最大発生トルクを抑えた制御を行う。前記モータジェネレータ192の回転速度が増加するにつけて内部誘起電圧が高くなり、電流の供給量が減少する傾向となる。このため前記モータジェネレータ192の出力トルクは回転速度が増大すると低下する傾向となる。
【0056】
PWM方式による制御とPHM制御又は本発明のゼロベクトル再配置型PHM制御との切り換えのモータジェネレータの回転速度は特に制限されるものではないが、モータジェネレータ192のインダクタンス負荷の大きい中高速領域はPHM方式の制御に大変適する運転領域である。この領域では、PWM方式による制御に対してPHM方式の制御の方がスイッチング素子のスイッチング回数が少なく、損失の低減効果が大きい。もしモータジェネレータ192の特性上インダクタンス負荷が十分大きくならない場合、つまり従来のPHM制御ではトルク脈動が大きくなってしまう場合は、本発明のゼロベクトル再配置型PHM制御に切替えれば良い。この運転領域は市街地走行において利用され易い運転領域であり、PHM方式の制御は生活に密着した運転領域において大きな効果を発揮する。
【0057】
本実施例では、PWM制御方式で制御するモード(以下PWM制御モード)は、モータジェネレータ192の回転速度が比較的低い領域で使用し、一方比較的回転速度が高い領域では後述するPHM制御モード又は本発明のゼロベクトル再配置型制御モードを使用する。PWM制御モードにおいて、電力変換装置140は前述したようなPWM信号を用いた制御を行う。すなわち、制御回路172内のマイクロコンピュータにより、入力された目標トルク値に基づいてモータジェネレータ192のd,q軸の電圧指令値を演算し、これをU相、V相、W相の電圧指令値に変換する。そして、各相の電圧指令値に応じた正弦波を基本波として、これを搬送波である所定周期の三角波と比較し、その比較結果に基づいて決定したパルス幅を有するパルス状の変調波をドライバ回路174に出力する。この変調波に応じた駆動信号をドライバ回路174から各相の上下アームにそれぞれ対応するIGBT328,330へ出力することにより、バッテリ136から出力された直流電圧が3相交流電圧に変換され、モータジェネレータ192へ供給される。
【0058】
PHMの内容については後で詳しく説明する。PHM制御モード及び本発明のゼロベクトル再配置型PHM制御において制御回路172により生成された変調波は、ドライバ回路174に出力される。これにより、当該変調波に応じた駆動信号がドライバ回路174から各相の対応するIGBT328,330へ出力される。その結果、バッテリ136から出力された直流電圧が3相交流電圧に変換され、モータジェネレータ192へ供給される。
【0059】
電力変換装置140のようにスイッチング素子を用いて直流電力を交流電力に変換する場合、単位時間当たりあるいは交流電力の所定位相あたりのスイッチング回数を少なくすると、スイッチング損失を低減することができる反面、変換される交流電力に高調波成分が多く含まれる傾向があるためにトルク脈動が増大し、モータジェネレータ制御の応答性が悪化する可能性がある。そこで本発明では、上記のようにPWM制御モードとPHM制御モード又は本発明のゼロベクトル再配置型PHM制御モードとを、変換しようとする交流電力の周波数あるいはこの周波数と関連があるモータジェネレータの回転速度に応じて切り替えることで、低次の高調波の影響を受けにくいモータジェネレータ回転域、すなわち中高速回転域ではPHM制御方式又は本発明のゼロベクトル再配置型PHM制御を適用し、トルク脈動の発生しやすい低速回転域ではPWM制御方式を適用するようにしている。このようにすることで、トルク脈動の増大を比較的低く抑えることができ、スイッチング損失の低減が出来る。また、本発明のゼロベクトル再配置型PHM制御は従来のPHM制御よりもより低回転域においてもトルク脈動が少なく、スイッチング回数がPWM制御よりも少ないために、スイッチング損失を低減できるモータジェネレータ動作領域を拡大できる。
【0060】
なお、スイッチング回数が最小となるモータジェネレータの制御状態として、モータの電気角2πごとに各相のスイッチング素子を1回ずつオンオフする矩形波による制御状態がある。この矩形波による制御状態は、上記のPHM制御方式又は本発明のゼロベクトル再配置型PHM制御においては、変換される交流出力波形における変調度の増大に従って減少する半周期あたりのスイッチング回数の最終的な状態として、PHM制御または本発明のゼロベクトル再配置型PHM制御方式の一制御形態として捉えることができる。この点については後で詳しく説明する。
【0061】
次にPHM制御方式を説明するために、先ず始めにPWM制御と矩形波制御について図4を参照して説明する。PWM制御の場合は一定周波数の搬送波と出力しようとする交流波形との大小比較に基づいて、スイッチング素子の導通や遮断のタイミングを定め、スイッチング素子を制御する方式である。PWM制御を用いることで変換される交流波形は略正弦波となり脈動の少ない交流電力をモータに供給でき、トルク脈動が少ないモータ制御が可能となる。一方単位時間当たりあるいは交流波形の周期毎のスイッチング回数が多いためにスイッチング損失やコモンモード電流によるコモンモードノイズが大きい欠点がある。これに対して、極端な例として、1パルスの矩形波を用いてスイッチング素子を制御する場合は、スイッチング回数が少ないためにスイッチング損失を少なくできる。その一方で、変換される交流波形はインダンタンス負荷の影響を無視すると矩形波状となり、正弦波に対して5次、7次、11次、・・・等の高調波成分が含まれた状態と見ることができる。矩形波をフーリエ展開すると基本正弦波に加え、5次、7次、11次、・・・等の高調波成分があらわれる。この高調波成分がトルク脈動の原因となる電流歪を生じることとなる。このように、PWM制御と矩形波制御は互いに対極的な関係にある。
【0062】
矩形波状にスイッチング素子の導通および遮断を制御したと仮定した場合に、交流電力に生じる高調波成分の例を図5に示す。図5(a)は、矩形波状に変化する交流波形を基本波である正弦波と5次、7次、11次、・・・等の高調波成分に分解した例である。図5(a)に示す矩形波のフーリエ級数展開は、式(2)のように表される。
f(ωt)=4/π×{sinωt+(sin3ωt)/3+(sin5ωt)/5+(sin7ωt)/7+・・・} (2)
【0063】
式(2)は、4/π・(sinωt)で表される基本波の正弦波と、これの高調波成分である3次、5次、7次・・・の各成分とにより、図5(a)に示す矩形波が形成されることを示している。このように、基本波に対してより高次の高調波を合成していくことで矩形波に近づくことが分かる。
【0064】
図5(b)は、基本波、3次高調波、5次高調波の各振幅をそれぞれ比較した様子を示している。図5(a)の矩形波の振幅を1とすると、基本波の振幅は1.27、3次高調波の振幅は0.42、5次高調波の振幅は0.25とそれぞれ表される。このように、高調波の次数が上がるほどその振幅は小さくなるため、矩形波制御における影響が小さくなることが分かる。
【0065】
矩形波形状にスイッチング素子を導通および遮断した場合に発生する可能性があるトルク脈動の観点から、影響の大きい低次の高調波成分を削除しつつ、一方影響が小さい高次の高調波成分は残留させることで、スイッチング回数を低減し、スイッチング損失が少なくしかもトルク脈動の増大を低く抑えることができる電力変換装置を実現できる。本実施の形態で使用するPHM制御では、特に振幅の大きい5次や7次といった低次高調波を削除し、交流電流が有する高調波成分を制御の状態に応じてある程度削減した交流電力を出力する。モータジェネレータ線間電圧に高次高調波成分が残留しても、インダクタンス負荷のフィルタリング(抑制)効果により、モータジェネレータ交流電流からは高次高調波成分がフィルタリング(抑制)される。前記フィルタリング効果はモータジェネレータそのものの巻線インダクタンス大きい程、また電力変換装置の出力しようと交流電力の周波数が大きい程、効果が大きくなる。これにより、モータ制御のトルク脈動の影響を小さくし、一方使用上問題が無い範囲でモータジェネレータ交流電流に高調波成分が含まれている状態とすることで、スイッチング回数を低減し、スイッチング損失を低減するようにしている。このような制御方式を、上述のとおり、この明細書ではPHM制御方式と記載している。
【0066】
さらに以下の実施の形態では、PHM制御方式における高調波の影響が大きいあるいは制御性が悪くなるモータジェネレータ低回転域、つまり低周波の交流電力を出力している状態で、PWM制御方式を使用するようにしている。具体的には、PWM制御とPHM制御とをモータの回転速度に応じて切り替え、回転速度の低い領域でPWM方式を使用して制御することで、低速回転域と高速回転域のそれぞれにおいて望ましいモータ制御を行うようにしている。または、PWM制御とPHM制御とを出力しようとしている交流出力、例えば交流電圧の周波数に応じて切り替え、周波数の低い領域でPWM方式を使用して制御することで、低周波数域と高周波数域のそれぞれにおいて望ましいモータ制御を行うようにしている。
【0067】
本発明の一実施の形態に係る制御回路172によるモータ制御系を図6に示す。制御回路172には、上位の制御装置より、目標トルク値としてのトルク指令T*が入力される。トルク指令・電流指令変換器410は、入力されたトルク指令T*と、回転磁極センサ193により検出された磁極位置信号θに基づく回転速度情報とに基づいて、予め記憶されたトルク−回転速度マップのデータを用いて、d軸電流指令信号Id*およびq軸電流指令信号Iq*を求める。トルク指令・電流指令変換器410において求められたd軸電流指令信号Id*およびq軸電流指令信号Iq*は、電流制御器(ACR)420、421および422にそれぞれ出力される。
【0068】
電流制御器(ACR)420、421および422は、トルク指令・電流指令変換器410から出力されたd軸電流指令信号Id*およびq軸電流指令信号Iq*と、電流センサ180により検出されたモータジェネレータ192の相電流検出信号lu、lv、lwが制御回路172上の図示しない3相2相変換器において回転センサ−からの磁極位置信号によりd,q軸上に変換されたId,Iq電流信号とに基づいて、モータジェネレータ192を流れる電流がd軸電流指令信号Id*およびq軸電流指令信号Iq*に追従するように、d軸電圧指令信号Vd*およびq軸電圧指令信号Vq*をそれぞれ演算する。電流制御器(ACR)420において求められたd軸電圧指令信号Vd*およびq軸電圧指令信号Vq*は、従来のPHM制御用のパルス変調器430へ出力される。また、電流制御器(ACR)422において求められたd軸電圧指令信号Vd*およびq軸電圧指令信号Vq*は、ゼロベクトル再配置型PHM制御用のパルス変調器470へ出力される。一方、電流制御器(ACR)421において求められたd軸電圧指令信号Vd*およびq軸電圧指令信号Vq*は、PWM制御用のパルス変調器440へ出力される。
【0069】
PHM制御用のパルス変調器430は、電圧位相差演算器431、変調度演算器432、パルス生成器434により構成される。電流制御器420から出力されたd軸電圧指令信号Vd*およびq軸電圧指令信号Vq*は、パルス変調器430において電圧位相差演算器431と変調度演算器432に入力される。
【0070】
電圧位相差演算器431は、モータジェネレータ192の磁極位置とd軸電圧指令信号Vd*およびq軸電圧指令信号Vq*が表す電圧位相との位相差、すなわち電圧位相差を算出する。この電圧位相差をδとすると、電圧位相差δは式(3)で表される。
δ=arctan(-Vd*/Vq*) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
【0071】
電圧位相差演算器431は、さらに上記の電圧位相差δに回転磁極センサ193からの磁極位置信号θが表すロータ位相を加算することで、電圧位相を算出する。そして、算出した電圧位相に応じた電圧位相信号θvをパルス生成器434へ出力する。この電圧位相信号θvは、磁極位置信号θが表すロータ位相をθreとすると式(4)で表される。
θv=δ+θre+π・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
【0072】
変調度演算器432は、d軸電圧指令信号Vd*およびq軸電圧指令信号Vq*が表すベクトルの大きさをバッテリ136の電圧で正規化することにより変調度を算出し、その変調度に応じた変調度信号aをパルス生成器434へ出力する。この実施の形態では、上記変調度信号aは、図2に示すパワースイッチング回路144に供給される直流電圧であるバッテリ電圧に基づいて定められることになり、バッテリ電圧が高くなると変調度aは小さくなる傾向となる。また指令値の振幅値が大きくなると変調度aは大きくなる傾向となる。具体的にはバッテリ電圧をVdcとすると式(5)で表される。なお、式(5)において、Vdはd軸電圧指令信号Vd*の振幅値、Vqはq軸電圧指令信号Vq*の振幅値をそれぞれ表す。
a=(√(2/3))(√(Vd^2+Vq^2))/ (Vdc/2)・・・・・・・・・・・・・・・(5)
【0073】
パルス生成器434は、電圧位相差演算器431からの電圧位相信号θvと、変調度演算器432からの変調度信号aとに基づいて、U相、V相、W相の各上下アームにそれぞれ対応する6種類のPHM制御に基づくパルス信号を生成する。そして、生成したパルス信号を切換器450へ出力する。このパルス信号が切換器450からドライバ回路174へ出力されることにより、各スイッチング素子に駆動信号が出力される。なお、PHM制御に基づくパルス信号(以下PHMパルス信号と記す)の発生方法については、後で詳しく説明する。
【0074】
ゼロベクトル再配置型PHM制御用のパルス変調器470は、前述のPHM制御用のパルス変調器430と同じ電圧位相差演算器431および変調度演算器432と、パルス生成器438とにより構成される。パルス変調器470において、電圧位相差演算器431と変調度演算器432は前述のように、電流制御器422から出力されたd軸電圧指令信号Vd*およびq軸電圧指令信号Vq*に基づいて、電圧位相信号θvと変調度信号aをパルス生成器438へそれぞれ出力する。
【0075】
パルス生成器438は、電圧位相差演算器431からの電圧位相信号θvと、変調度演算器432からの変調度信号aとに基づいて、U相、V相、W相の各上下アームにそれぞれ対応する6種類のパルス信号を生成する。そして、生成したパルス信号を切換器450を介してドライバ回路174へ出力する。これにより、各スイッチング素子に駆動信号が出力される。なお、パルス生成器438は、前述のPHM制御用のパルス変調器430におけるパルス生成器434とは異なる方法により、PHM制御に基づくパルス信号を生成する。このパルス信号(以下ゼロベクトル再配置型PHMパルス信号)の生成方法については、後で詳しく説明する。
【0076】
一方、PWM制御用のパルス変調器440は、電流制御器421から出力されたd軸電圧指令信号Vd*およびq軸電圧指令信号Vq*と、回転磁極センサ193からの磁極位置信号θが表すロータ位相θreとに基づいて、周知のPWM方式により、U相、V相、W相の各上下アームにそれぞれ対応する6種類のPWM制御に基づくパルス信号(以下PWMパルス信号と記す)を生成する。そして、生成したPWMパルス信号を切換器450へ出力する。このパルス信号が切換器450からドライバ回路174に供給されることにより、ドライバ回路174から駆動信号が各スイッチング素子に供給される。
【0077】
図7はPWM制御用のパルス変調器440の構成を示す図である。PWM制御用パルス変調器440は、電流制御器421からのd軸電圧指令Vd*およびq軸指令電圧Vqと、回転磁極センサ193からの磁極位置信号θが表すロータ位相θreとを受け、2軸の指令電圧を3相の電圧指令信号に変換する2相3相変換器490と、特定の周波数の三角波キャリアを発生させる搬送波発生器492と、3相の電圧指令信号と三角波キャリアを比較して、各相のスイッチング素子の導通または遮断するパルス信号を切換器450に出力する比較器491を有する。
【0078】
切換器450は、PHM制御用のパルス変調器430から出力されたPHMパルス信号、ゼロベクトル再配置型PHM制御用のパルス変調器470から出力されたゼロベクトル再配置型PHMパルス信号、またはPWM制御用のパルス変調器440から出力されたPWMパルス信号のいずれかを選択する。この切換器450によるパルス信号の選択は、前述のようにモータジェネレータ192の回転速度または電力変換装置140が出力しようとする交流電力周波数に応じて行われる。すなわち、モータジェネレータ192の回転速度が切替ラインとして設定された所定のしきい値よりも低い場合は、PWMパルス信号を選択することにより、電力変換装置140においてPWM制御方式が適用されるようにする。また、モータジェネレータ192の回転速度がしきい値よりも高い場合は、PHMパルス信号またはゼロベクトル再配置型PHMパルス信号を選択することにより、電力変換装置140において従来のPHM制御方式またはゼロベクトル再配置型PHM制御が適用されるようにする。こうして切換器450において選択されたPHMパルス信号、ゼロベクトル再配置型PHMパルス信号、またはPWMパルス信号は、ドライバ回路174へ出力される。
【0079】
上記のように切換器450は、PHM制御用のパルス変調器430から出力されたPHMパルス信号、ゼロベクトル再配置型PHM制御用のパルス変調器470から出力されたゼロベクトル再配置型PHMパルス信号、またはPWM制御用のパルス変調器440から出力されたPWMパルス信号のいずれかを選択する。この切換器450によるパルス信号の選択は、前述の式(1)で表される制御回路172の出力しようとする交流出力、例えば交流電圧の周波数に応じて行ってもよい。すなわち、モータジェネレータ192へ制御回路172が出力しようとする周波数が切替ラインとして設定された所定のしきい値よりも低い場合は、PWMパルス信号を選択することにより、電力変換装置140においてPWM制御方式が適用されるようにする。また、モータジェネレータ192へ制御回路172が出力しようとする周波数がしきい値よりも高い場合は、PHMパルス信号またはゼロベクトル再配置型PHMパルス信号を選択することにより、電力変換装置140において従来のPHM制御方式またはゼロベクトル再配置型PHM制御が適用されるようにする。こうして切換器450において選択されたPHMパルス信号、ゼロベクトル再配置型PHMパルス信号、またはPWMパルス信号は、ドライバ回路174へ出力される。
【0080】
以上説明したようにして、制御回路172からドライバ回路174に対して、PHMパルス信号、ゼロベクトル再配置型PHMパルス信号、またはPWMパルス信号が変調波として出力される。この変調波に応じて、ドライバ回路174よりパワースイッチング回路144の各IGBT328,330へ駆動信号が出力される。
【0081】
ここで図6のPHM制御のパルス生成器434の詳細について説明する。パルス生成器434は、たとえば図8に示すように、PHMパルス位相検索器435と、パルス補正器437と、位相カウンタ比較を行うパルス出力器436によって実現される。または、たとえば図9に示すように、PHMパルス位相検索器435と、パルス補正器437と、位相/時間変換器およびタイマカウンタ比較器によって構成されるパルス出力器436’によって実現される。
【0082】
PHMパルス位相検索器435は、電圧位相差演算器431からの電圧位相信号θv、変調度演算器432からの変調度信号aおよび、回転磁極センサー193からの磁極位置信号θが表すロータ位相θre、および角速度演算器460からの電気角速度信号ωreに基づいて、予め記憶されたスイッチングパルスの位相情報のテーブルから、スイッチングパルスを出力すべき立上がり位相θonおよび立下がり位相θoffをU相、V相、W相の上下各アームについて検索し、その検索結果の情報をパルス補正器437へ出力する。
【0083】
パルス補正器437は、PHMパルス位相検索器435でデータ検索による演算で求められた立上がり位相θonおよび立下がり位相θoffに対して、最小パルス幅制限とパルス連続性補償を行うためのパルス補正処理などの補正すなわち微調整を施し、その結果をパルス補正後の立上がり位相θon'および立下がり位相θoff'としてパルス出力器436へ出力する。最小パルス幅制限とは、スイッチングのオン(立上がり)位相θonおよびオフ(立下がり)位相θoffに応じたパルス幅が所定の最小パルス幅未満となるような場合に、そのパルス幅を最小パルス幅として出力することである。このときの最小パルス幅は、スイッチング素子であるIGBT328、330の応答速度などに応じて定められる。一方、パルス連続性補償とは、一制御周期前の予測に基づいて生成されたパルス波形と今回の制御周期で生成すべきパルス波形との間でパルスパターンが変化しており、そのままではパルス連続性が保てなくなるような場合に、パルス連続性が保たれるようにパルス波形を変化して出力することである。なお、こうしたパルスパターンの変化は、外乱等の要因でモータジェネレータ192の状態が急峻に変化したときや、制御モードを切り替えたときなどに生じる。これらのパルス補正処理の具体的な内容については、後で詳しく説明する。
【0084】
図8のパルス出力器436は、パルス補正器437から出力されたパルス補正後の立上がり位相θon'および立下がり位相θoff'に基づいて、位相カウンタとのコンペアマッチ機能を用いて、U相、V相、W相の上下各アームに対するスイッチング指令としてのPHMパルス信号をそれぞれ生成する。パルス出力器436により生成された各相の上下各アームに対する6種類のPHMパルス信号は、前述のように切換器450へ出力される。
【0085】
一方、図9のパルス出力器436’は、位相/時間変換器により、パルス補正器437から出力されたパルス補正後の立上がり位相θon'および立下がり位相θoff'を、立上がり時間Tonおよび立下がり時間Toffにそれぞれ変換する。そして、タイマカウンタ比較器により、立上がり時間Tonおよび立下がり時間Toffに基づいて、タイマカウンタとのコンペアマッチ機能を用いて、U相、V相、W相の上下各アームに対するスイッチング指令としてのPHMパルス信号をそれぞれ生成する。パルス出力器436’により生成された各相の上下各アームに対する6種類のPHMパルス信号は、図8の場合と同様に切換器450へ出力される。
【0086】
図8または図9に示したようなパルス生成器434によるパルス生成の手順を詳細に説明したフローチャートを図10に示す。パルス生成器434のPHMパルス位相検索器435は、ステップ801において変調度信号aを入力信号として取り込み、ステップ802においてパルス変調器430の電圧位相差演算器431から出力される電圧位相信号θvを入力信号として取り込む。このとき図37に示すように、まずはじめに電流制御器(ACR)420の現制御周期Tnの先頭に電圧位相差演算機431によりロータ位相θreが取得される。このロータ位相θreに基づいて、電圧位相差演算器431において前述の式(4)により電圧位相θvが演算され、電圧位相信号θvがパルス生成器434に出力される。
【0087】
PHMパルス位相検索器435は、続くステップ803において角度演算器460からの電気角速度信号ωreと磁極位置信号θが表すロータ位相θreを入力信号として取り込む。
【0088】
PHMパルス位相検索器435は、続くステップ804において、入力された電圧位相信号θv、ロータ位相θreおよび電気角速度信号ωreに基づいて、制御遅れ時間を考慮して、次の制御周期に対応する電圧位相の範囲を演算する。ここでは、電気角速度ωreに制御周期Tnの長さを乗算することで、図37の一制御周期Tn当りの位相変化量θnを算出する。その後、電圧位相信号θvと角速度演算器460からの電気角速度信号ωreから、次の制御周期Tn+1の開始位相θv1および終了位相θv2を算出する。具体的には、電圧位相θvに位相変化量θnを加えることで、制御周期Tnの終了位相、すなわち次の制御周期Tn+1の開始位相θv1を求める。また、位相変化量θnを2倍した値を電圧位相θvに加えることで、次の制御周期Tn+1の終了位相θv2を求める。
【0089】
その後ステップ805において、PHMパルス位相検索器435はROM検索を行う。このROM検索では、入力された変調度信号aに基づいて、ステップ804で演算された次の制御周期Tn+1の電圧位相の範囲θv1〜θv2において、ROM(不図示)に予め記憶されたテーブルより、スイッチングのオンのタイミングを規定する立上がり位相θonとスイッチングオフのタイミングを規定する立下がり位相θoffとをU相、V相、W相各相分について検索する。尚、図37の実施例では電圧位相の範囲θv1〜θv2でスイッチングオンオフの位相が各1回合計2回であったが、回数は2回に限定されるものではない。
【0090】
このROM検索において用いられる立上がり、立下がり位相のテーブルの例を図38に示す。ここでは、a1からanまでの各変調度について立上がり位相と立下がり位相をテーブル化した例を示している。
【0091】
PHMパルス位相検索器435は、ステップ805のROM検索によって得られた次制御周期Tn+1に対応する電圧位相の範囲のスイッチングのオンとオフの位相をそれぞれ表す立上がり位相θonおよび立下がり位相θoffを、ステップ806においてパルス補正器437へ出力する。パルス補正器437は、ステップ872において、立上がり位相θonおよび立下がり位相θoffに対して、最小パルス幅制限とパルス連続性補償を行うためのパルス補正処理を行い、パルス補正後の立上がり位相θon'および立下がり位相θoff'をパルス出力器436(図8の場合)またはパルス出力器436’(図9の場合)へ出力する。
【0092】
パルス出力器436、436’は、ステップ873において、現制御周期Tn期間で演算されパルス補正器437から出力されたパルス補正後の立上がり位相θon'および立下がり位相θoff'に基づいて、パルス信号を出力する目標位相値を更新する。この目標位相値の更新は、次の制御周期Tn+1の先頭で行う。
【0093】
その後、制御周期Tn+1でパルス出力器436(図8の場合)は、ステップ807において、ステップ873で更新された目標位相値を位相カウンタと比較し、その比較結果に基づいてPHMパルス信号を生成する。一方、制御周期Tn+1でパルス出力器436’(図9の場合)は、ステップ807において、位相/時間変換器により、ステップ873で更新された目標位相値を立上がり時間Tonおよび立下がり時間Toffを表す目標時間値に変換する。そして、タイマカウンタ比較器により、目標時間値をタイマカウンタと比較し、その比較結果に基づいてPHMパルス信号を生成する。
【0094】
パルス出力器436、436’は、ステップ807で生成したPHMパルス信号を、次のステップ808において切換器450へ出力する。以上説明したステップ801〜808の処理がパルス生成器434において行われることにより、PHMパルス信号が生成される。
【0095】
あるいは、図10のフローチャートにかえて、図11のフローチャートに示す処理をパルス生成器434において実行することにより、パルス生成を行うようにしてもよい。この処理は、図10のフローチャートに示したように予め記憶しているテーブルを用いてスイッチング位相を検索するテーブル検索方式を使わず、電流制御器(ACR)の制御周期毎にスイッチング位相を生成する方式である。
【0096】
パルス生成器434のPHMパルス位相検索器435は、ステップ801において変調度信号aを入力信号として取り込み、ステップ802においてパルス変調器430の電圧位相差演算器431から出力される電圧位相信号θvを入力信号として取り込む。このとき図37に示すように、まずはじめに電流制御器(ACR)420の現制御周期Tnの先頭に電圧位相差演算機431によりロータ位相θreが取得される。このロータ位相θreに基づいて、電圧位相差演算器431において前述の式(4)により電圧位相θvが演算され、電圧位相信号θvがパルス生成器434に出力される。
【0097】
PHMパルス位相検索器435は、続くステップ803において角度演算器460からの電気角速度信号ωreと磁極位置信号θが表すロータ位相θreを入力信号として取り込む。
【0098】
PHMパルス位相検索器435は、続くステップ804において、入力された電圧位相信号θv、ロータ位相θreおよび電気角速度信号ωreに基づいて、制御遅れ時間を考慮して、次の制御周期に対応する電圧位相の範囲を演算する。ここでは、電気角速度ωreに制御周期Tnの長さを乗算することで、図37の一制御周期Tn当りの位相変化量θnを算出する。その後、電圧位相信号θvと角速度演算器460からの電気角速度信号ωreから、次の制御周期Tn+1の開始位相θv1および終了位相θv2を算出する。具体的には、電圧位相θvに位相変化量θnを加えることで、制御周期Tnの終了位相、すなわち次の制御周期Tn+1の開始位相θv1を求める。また、位相変化量θnを2倍した値を電圧位相θvに加えることで、次の制御周期Tn+1の終了位相θv2を求める。θv2−θv1が次制御周期Tn+1の電圧位相の範囲となる。
【0099】
続いてステップ820でPHMパルス位相検索器435はスイッチングのオンとオフの位相をそれぞれ表す立上がり位相θonおよび立下がり位相θoffを電流制御器(ACR)420の制御周期毎に決定するためのパルスパターン演算(演算内容は後で説明する。)を行う。パルスパターン演算を行ったら、パルス生成器434は、図10のステップ806を実行した後と同様に、次制御周期Tn+1に対応する電圧位相の範囲のスイッチングのオンとオフの位相をそれぞれ表す立上がり位相θonおよび立下がり位相θoffを出力し、ステップ872、873、807および808の処理を、パルス補正器437とパルス出力器436、436’により行う。
【0100】
ステップ820におけるパルスパターン演算処理の詳細を図12のフローチャートに示す。パルス生成器434は、ステップ821において、回転速度や動作状態に基づいてモータジェネレータ線間電圧から削除する高調波次数を指定する。こうして指定された高調波次数に従って、パルス生成器434は続くステップ822において行列演算などの処理を行い、ステップ823においてパルス基準角度を出力する。
【0101】
ステップ821〜823までのパルス生成過程は、以下の式(6)〜(9)で示す行列式に則って演算される。
【0102】
ここでは、一例として、3次、5次、7次成分を消去する場合を取り上げる。
【0103】
パルス生成器434は、削除する高調波次数として3次、5次、7次の高調波成分をステップ821において指定すると、次のステップ822において行列演算を行う。
【0104】
ここで3次、5次、7次の消去次数に対して式(6)のような行ベクトルを作る。
【0105】
【数1】


・・・(6)
【0106】
式(6)の右辺括弧内の各要素はk1/3、k2/5、k3/7となっている。k1、k2、k3は任意の奇数を選択することができる。ただし、k1=3,9,15、k2=5,15,25、k3=7,21,35などを選択してはならない。この条件下で、3次、5次、7次成分は完全に消去される。
【0107】
上記をより一般的に記すと、分母の値を削除する高調波次数とし、分子の値を分母の奇数倍を除く任意の奇数とすることで、式(6)の各要素の値を決定することができる。ここで式(6)の例では、消去次数が3種類(3次、5次、7次)であるため行ベクトルの要素数を3つとしている。同様に、N種類の消去次数に対して要素数Nの行ベクトルを設定し、各要素の値を決定することができる。
【0108】
なお、式(6)において、各要素の分子と分母の値を上記のもの以外とすることで、高調波成分を削除するかわりに、そのスペクトルを整形することもできる。そのため、高調波成分の削除ではなくスペクトル整形を主な目的として、各要素の分子と分母の値を任意に選択してもよい。その場合、分子と分母の値は必ずしも整数である必要はないが、分子の値として分母の奇数倍を選択してはならない。また、分子と分母の値は定数である必要はなく、時間に応じて変化する値でもよい。
【0109】
上記のように、分母と分子の組み合わせでその値が決定される要素が3つの場合は、式(6)のように3列のベクトルを設定することができる。同様に、分母と分子の組み合わせでその値が決定される要素数Nのベクトル、すなわちN列のベクトルを設定することができる。以下では、このN列のベクトルを高調波準拠位相ベクトルと呼ぶこととする。
【0110】
高調波準拠位相ベクトルが式(6)のように3列のベクトルである場合は、その高調波準拠位相ベクトルを転置して式(7)の演算をする。その結果、S1〜S4までのパルス基準角度が得られる。
【0111】
パルス基準角度S1〜S4は、電圧パルスの中心位置を表わすパラメータであり、後述する三角波キャリアと比較される。このようにパルス基準角度が4個(S1〜S4)である場合、一般的には、線間電圧一周期当たりのパルス数は16個となる。
【0112】
【数2】


・・・(7)
【0113】
また、式(6)のかわりに式(8)のように高調波準拠位相ベクトルが4列の場合は、行列演算式(9)を施す。
【0114】
【数3】


・・・(8)
【0115】
【数4】


・・・(9)
【0116】
その結果、S1〜S8までのパルス基準角度出力が得られる。このとき線間電圧一周期当たりのパルス数は32個となる。
【0117】
モータジェネレータの線間電圧から削除する高調波成分の数とパルス数との関係は、一般的には次のとおりである。すなわち、削除する高調波成分が2つである場合、線間電圧一周期当たりのパルス数は8パルスであり、削除する高調波成分が3つである場合、線間電圧一周期当たりのパルス数は16パルスであり、削除する高調波成分が4つである場合、線間電圧一周期当たりのパルス数は32パルスであり、削除する高調波成分が5つである場合、線間電圧一周期当たりのパルス数は64パルスである。同様に、削除する高調波成分の数が1つ増すにつれて、線間電圧一周期当たりのパルス数が2倍になる。ここで、通常モータジェネレータ線間電圧では3の倍数の高次高調波はお互いに打ち消し合うため、削除する高調波成分に加えなくても良い。しかしながら、本PHMパルス生成算出過程においては、便宜上3次高調波のみ削除対象の高調波成分に含めている。
【0118】
ただし、線間電圧で正のパルスと負のパルスが重畳するようなパルス配置の場合、パルス数は上記とは異なる場合がある。
【0119】
上記のようにしてパルス生成器434において生成されるPHMパルス信号により、UV線間電圧、VW線間電圧、WU線間電圧の3種類の線間電圧においてパルス波形がそれぞれ形成される。これらの各線間電圧のパルス波形は、それぞれ2π/3の位相差を有する同一のパルス波形である。したがって、以下では各線間電圧を代表して、UV線間電圧のみを説明する。
【0120】
ここで、UV線間電圧の基準位相θuvlと電圧位相信号θvおよびロータ位相θreとの間には、式(10)の関係がある。
【0121】
θuvl=θv+π/6=θre+δ+7π/6 [rad] ・・・・・・・・・・・・・・・(10)
【0122】
式(10)で表されるUV線間電圧の波形は、θuvl=π/2,3π/2の位置を中心に線対称であり、かつ、θuvl=0,πの位置を中心に点対称となる。したがって、UV線間電圧パルスの1周期(θuvlが0から2πまで)の波形は、θuvlが0からπ/2までの間のパルス波形を元に、これをπ/2毎に左右対称または上下対称に配置することによって表現できる。
【0123】
これを実現するひとつの方法が、0≦θuvl≦π/2の範囲におけるUV線間電圧パルスの中心位相を4チャンネルの位相カウンタと比較し、その比較結果に基づいて、1周期すなわち0≦θuvl≦2πの範囲についてUV線間電圧パルスを生成するアルゴリズムである。その概念図を図13に示す。
【0124】
図13は0≦θuvl≦π/2の範囲における線間電圧パルスが4つである場合の例を示している。図13において、パルス基準角度S1〜S4は、その4つのパルスの中心位相を表す。
【0125】
carr1(θuvl),carr2(θuvl),carr3(θuvl),carr4(θuvl)は、4チャンネルの位相カウンタの各々を表している。これらの各位相カウンタは、いずれも基準位相θuvlに対して2π radの周期を持つ三角波である。また、carr1(θuvl) とcarr2(θuvl)は振幅方向にdθの偏差を持ち、carr3(θuvl)とcarr4(θuvl)の関係も同様である。
【0126】
dθは線間電圧パルスの幅を表している。このパルス幅dθに対して基本波の振幅が線形に変化する。
【0127】
線間電圧パルスは、各位相カウンタcarr1(θuvl),carr2(θuvl),carr3(θuvl),carr4(θuvl)と、0≦θuvl≦π/2の範囲におけるパルスの中心位相を表すパルス基準角度S1〜S4との各交点に形成される。これにより、90度毎に対称的なパターンのパルス信号が生成される。
【0128】
より詳細には、carr1(θuvl),carr2(θuvl)とS1〜S4とがそれぞれ一致した点において、正の振幅を有する幅dθのパルスが生成される。一方、carr3(θuvl),carr4(θuvl) とS1〜S4とがそれぞれ一致した点において、負の振幅を有する幅dθのパルスが生成される。
【0129】
以上説明したような方法を用いて生成した線間電圧の波形を変調度毎に描いた一例を図14に示す。図14では、式(6)のk1、k2、k3の値として、k1=1、k2=1、k3=3をそれぞれ選択し、変調度を0から1.0まで変化させたときの線間電圧パルス波形の例を示している。図14により、変調度の増加とほぼ比例してパルス幅が増加していることが分かる。こうしてパルス幅を増加させることで、電圧の実効値を増加させることができる。ただし、θuvl=0,π,2π付近のパルスは、変調度0.4以上において、変調度が変化してもパルス幅は変化していない。このような現象は、正の振幅を有するパルスと負の振幅を有するパルスが重なり合うことで生じるものである。
【0130】
上述したように、上記実施の形態では、ドライバ回路174から駆動信号をパワースイッチング回路144の各スイッチング素子に送ることにより、各スイッチング素子は出力しようとする交流電力の位相に基づいてスイッチング動作を行う。交流電力の一周期におけるスイッチング素子のスイッチング回数は、除去しようとする高調波の種類が増えるほど、増える傾向となる。
【0131】
また別の観点で見ると、供給される直流電力の電圧が低下すると変調度が増加し、導通している各スイッチング動作の導通期間が長くなる傾向となる。またモータなどの回転電機を駆動する場合に回転電機の発生トルクを大きくする場合には変調度が大きくなり、結果的に各スイッチング動作の導通期間が長くなり、回転電機の発生トルクを小さくする場合には、各スイッチング動作の導通期間が短くなる。導通期間が増大し、遮断時間が短くなった場合、つまりスイッチング間隔がある程度短くなった場合には、安全にスイッチング素子を遮断できない可能性が有り、その場合は遮断させないで導通状態のままそれに続く導通期間につながる制御が行われる。逆に、各スイッチング動作の導通期間が短くなり通電期間が短縮した場合にも、安全にスイッチング素子を通電できない可能性があり、その場合は通電させないで遮断期間に繋がる制御が行われる。
【0132】
また別の観点で見ると、出力される交流出力の歪の影響が大きくなる周波数の低い状態、特に回転電機が停止状態あるいは回転速度が非常に低い状態では、PHM方式の制御ではなく、定周期の搬送波を利用するPWM方式でパワースイッチング回路144を制御し、回転速度が増加した状態で従来のPHM方式またはゼロベクトル再配置型PHM方式に切り換えてパワースイッチング回路144を制御する。本発明を自動車駆動用の電力変換装置の適用した場合には、車が停止状態から発進して加速する段階は、車の高級感に影響するなどの理由で特にトルク脈動の影響を少なくすることが望ましい。このため少なくとも車が停止状態から発進する状態はPWM方式でパワースイッチング回路144を制御し、ある程度加速した後従来のPHM方式またはゼロベクトル再配置型PHM方式の制御に切り換える。このようにすることで、少なくとも発進時はトルク脈動の少ない制御が実現でき、少なくとも通常の運転である定速走行に移った状態ではスイッチングロスの少ないPHM方式で制御することか可能となり、トルク脈動の影響を抑えながら損失の少ない制御を実現できる。
【0133】
本発明において用いられるPHMパルス信号によると、上記のように変調度を固定したときに、例外を除き、パルス幅が等しいパルス列による線間電圧波形を形成することを特徴とする。なお、例外的に線間電圧のパルス幅が他のパルス列と不等である場合とは、上記のように正の振幅をもつパルスと負の振幅をもつパルスが重なった場合である。この場合、パルスが重なった部分を正の振幅をもつパルスと負の振幅をもつパルスに分解すると、パルスの幅は全域で必ず等しい。つまり、パルス幅の変化で変調度が変化する。
【0134】
ここで、例外的に線間電圧のパルス幅が他のパルス列と不等である場合について、さらに図15を用いて詳細に説明する。図15の上部には、図14において変調度1.0のときの線間電圧パルス波形のうち、π/2≦θuvl≦3π/2の範囲を拡大したものを示している。この線間電圧パルス波形では、中心付近の2つのパルスが他のパルスとは異なるパルス幅を有している。
【0135】
図15の下部には、こうしたパルス幅が他とは異なる部分を分解した様子を示している。この図から、当該部分では、他のパルスと同じパルス幅をそれぞれ有する正の振幅をもつパルスと負の振幅をもつパルスとが重なっており、これらのパルスが合成されることによって他とは異なるパルス幅のパルスが形成されていることが分かる。すなわち、こうしてパルスの重なりを分解することで、PHMパルス信号に応じて形成される線間電圧のパルス波形は、一定のパルス幅を有するパルスによって構成されていることが分かる。
【0136】
本発明において従来のPHM制御により生成されるPHMパルス信号による線間電圧パルス波形の他の一例を図16に示す。ここでは、式(6)のk1、k2、k3の値として、k1=1、k2=3、k3=3をそれぞれ選択し、変調度を0から1.27まで変化させたときの線間電圧パルス波形の例を示している。図16では、変調度が1.18以上になると、θuvl=π/2、3π/2の位置において、互いに隣接する左右対称の2つのパルス間の隙間がなくなっている。したがって、変調度が1.18未満の範囲では狙った高調波成分を削除できるが、変調度がこれ以上になると高調波成分を有効に削除できないことが分かる。さらに変調度を大きくしていくと、他の位置においても隣接するパルス間の隙間がなくなっていき、最終的に変調度1.27において矩形波の線間電圧パルス波形となる。
【0137】
尚、本線間電圧パルス波形例でもパルス幅が一定でないところがあるが、図15で説明した原理と同様に、同じパルス幅をそれぞれ有する正の振幅をもつパルスと負の振幅をもつパルスとが重なって、これらのパルスが合成されることによって他とは異なるパルス幅のパルスが形成されていることは同じである。
【0138】
図16に示した線間電圧パルス波形を対応する相電圧パルス波形で表した例を図17に示す。図17でも図16と同様に、変調度が1.18以上になると隣接する2つのパルス間の隙間がなくなっていくことが分かる。なお、図17の相電圧パルス波形と図16の線間電圧パルス波形との間には、π/6の位相差がある。
【0139】
図16に示すように、変調度を大きくして出力する交流電圧の波高値を増大するとき、制御回路172は変調度が1.18未満の範囲において、線間電圧パルス数を変えずにパルスの幅を増大する。これにより、スイッチング素子の導通回数および遮断回数を同じとして、その導通幅を増大するように制御する。一方、変調度を大きくして出力する交流電力の波高値を増大させていくと、それに応じて線間電圧パルスが0である期間、すなわちスイッチング素子の遮断幅が狭くなっていき、変調度が1.18以上になるとスイッチング素子を遮断できない状態になる。このような状態において制御回路172は、線間電圧パルス同士が重なる部分を1つのパルスに合成してパルス数を減少していく。これにより、当該期間においてスイッチング素子の導通状態を続けるようにして、スイッチング素子の導通回数および遮断回数を少なくする。PHMパルス信号による線間電圧パルス波形はこのような特徴を有している。
【0140】
次に、線間電圧パルスを相電圧パルスに変換する方法について説明する。図18は、線間電圧パルスから相電圧パルスへの変換において用いられる変換表の例を示している。この表中で左端の列に記載されている1〜6の各モードは、取り得るスイッチング状態ごとに番号を割り当てたものである。モード1〜6では、線間電圧から出力電圧への関係が1対1に決まっている。これらの各モードは、直流側と3相交流側の間でエネルギー授受のあるアクティブな期間に対応している。なお、図18の表中に記載されている線間電圧は、異なる相の電位差として取りうるパターンをバッテリ電圧Vdcで正規化して整理したものである。
【0141】
図18において、たとえば、モード1ではVuv→1、Vvw→0、Vu→−1と示されているが、これはVu−Vv=Vdc、Vv−Vw=0、Vw−Vu=−Vdcとなる場合を正規化して示している。このときの相電圧すなわち相端子電圧(ゲート電圧に比例)は、図18の表によるとVu→1(U相の上アームをオン、下アームをオフ)、Vv→0(V相の上アームをオフ、下アームをオン)、Vw→0(W相の上アームをオフ、下アームをオン)となる。すなわち、図18の表では、Vu=Vdc、Vv=0、Vw=0となる場合を正規化して示している。モード2〜6も、モード1と同様の考え方で成り立っている。
【0142】
図18の変換表を用いて矩形波の状態でパワースイッチング回路144を制御するモードにおける線間電圧パルスを相電圧パルスに変換した例を図19に示す。図19において、上段は線間電圧の代表例としてUV線間電圧Vuvを示しており、その下にU相端子電圧Vu、V相端子電圧Vv、W相端子電圧Vwを示している。図19に示すように、矩形波制御モードでは図18の変換表に示したモードが1から6まで順番に変化する。なお、矩形波制御モードでは後述する3相短絡期間(モード0,7)は存在しない。
【0143】
図20は、図14に例示した線間電圧パルス波形を図18の変換表に従って相電圧パルスに変換する様子を示している。図20において、上段は線間電圧の代表例としてUV線間電圧パルスを示しており、その下にU相端子電圧Vu、V相端子電圧Vv、W相端子電圧Vwを示している。
【0144】
図20の上部には、モード(直流側と3相交流側の間でエネルギー授受のあるアクティブな期間)の番号、および3相短絡となっている期間を示している。3相短絡の期間では3相の上アームをすべてオンにするか3相の下アームをすべてオンにするかのいずれかであるが、スイッチング損失や導通損失の状況に応じて、どちらかのスイッチモードを選択すればよい。
【0145】
たとえば、UV線間電圧Vuvが1のときは、U相端子電圧Vuが1、V相端子電圧Vvが0である(モード1,6)。UV線間電圧Vuvが0のときは、U相端子電圧VuとV相端子電圧Vvが同じ値、すなわちVuが1かつVvが1(モード2、3相短絡)、またはVuが0かつVvが0(モード5、3相短絡)のいずれかである。UV線間電圧Vuvが−1のときは、U相端子電圧Vuが0、V相端子電圧Vvが1である(モード3,4)。このような関係に基づいて、相電圧すなわち相端子電圧の各パルス(ゲート電圧パルス)が生成される。
【0146】
図20において、線間電圧パルスと各相の相端子電圧パルスのパターンは、位相θuvlに対して、π/3を最小単位として準周期的に繰り返されるパターンとなっている。つまり、0≦θuvl≦π/3の期間のU相端子電圧の1と0を反転させたパターンは、π/3≦θuvl≦2π/3のW相端子電圧のパターンと同じである。また、0≦θuvl≦π/3の期間のV相端子電圧の1と0を反転させたパターンは、π/3≦θuvl≦2π/3のU相端子電圧のパターンと同じであり、0≦θuvl≦π/3の期間のW相端子電圧の1と0を反転させたパターンは、π/3≦θuvl≦2π/3のV相端子電圧のパターンと同じである。モータの回転速度と出力が一定である定常状態においては、こうした特徴が特に顕著に表れる。
【0147】
ここで、上記のモード1〜6を、異なる相で上アーム用のIGBT328と下アーム用のIGBT330をそれぞれオンさせて直流電源であるバッテリ136からモータジェネレータ192に電流を供給する第1の期間として定義する。また、3相短絡期間を、全相で上アーム用のIGBT328または下アーム用のIGBT330のいずれか一方をオンさせてモータジェネレータ192に蓄積されたエネルギーでトルクを維持する第2の期間と定義する。図20に示す例では、これら第1の期間と第2の期間を電気角に応じて交互に形成していることが分かる。
【0148】
さらに図20では、たとえば0≦θuvl≦π/3の期間において、第1の期間としてのモード6および5を、第2の期間としての3相短絡期間を間に挟んで交互に繰り返している。ここで図18から分かるように、モード6では、V相において下アーム用のIGBT330をオンする一方で、他のU相、W相では、V相と異なる側、すなわち上アーム用のIGBT328をオンしている。他方、モード5では、W相において上アーム用のIGBT328をオンする一方で、他のU相、V相では、W相と異なる側、すなわち下アーム用のIGBT330をオンしている。すなわち、第1の期間では、U相、V相、W相のうちいずれか1相(モード6ではV相、モード5ではW相)を選択し、この選択した1相について、上アーム用のIGBT328または下アーム用のIGBT330をオンさせると共に、他の2相(モード6ではU相およびW相、モード5ではU相およびV相)について、選択した1相とは異なる側のアーム用のIGBT328,330をオンさせる。また、第1の期間ごとに選択する1相(V相、W相)を交替している。
【0149】
0≦θuvl≦π/3以外の期間でも上記と同様に、第1の期間としてのモード1〜6のいずれかを、第2の期間としての3相短絡期間を間に挟んで交互に繰り返す。すなわち、π/3≦θuvl≦2π/3の期間ではモード1および6を、2π/3≦θuvl≦πの期間ではモード2および1を、π≦θuvl≦4π/3の期間ではモード3および2を、4π/3≦θuvl≦5πの期間ではモード4および3を、5π/3≦θuvl≦2πの期間ではモード5および4を、それぞれ交互に繰り返す。これにより、上記と同様に、第1の期間では、U相、V相、W相のうちいずれか1相を選択し、選択した1相について、上アーム用のIGBT328または下アーム用のIGBT330をオンさせると共に、他の2相について、選択した1相とは異なる側のアーム用のIGBT328,330をオンさせる。また、第1の期間ごとに選択する1相を交替する。
【0150】
以上説明したように、U相、V相、W相のうちいずれか2相の上アーム用のIGBT328が導通状態であるときは、他の1相の上アーム用のIGBT328を導通状態とすることで3相短絡期間となり、遮断状態とすることでいずれかのモードとなる。すなわち、制御回路172は当該IGBT328の導通および遮断によって3相短絡期間を制御することができる。また、U相、V相、W相のうちいずれか2相の下アーム用のIGBT330が導通状態であるときも同様に、他の1相の下アーム用のIGBT330を導通状態とすることで3相短絡期間となり、遮断状態とすることでいずれかのモードとなる。すなわち、制御回路172は当該IGBT330の導通および遮断によって3相短絡期間を制御することができる。
【0151】
ところで、上記の第1の期間すなわちモード1〜6の期間を形成する電気角位置と、この期間の長さとは、モータジェネレータ192に対するトルクや回転速度などの要求指令に応じて変化させることができる。すなわち前述のように、モータの回転速度やトルクの変化に伴って削除する高調波の次数を変化させるために、第1の期間を形成する特定の電気角位置を変化させる。あるいは、モータの回転速度やトルクの変化に応じて、第1の期間の長さすなわちパルス幅を変化させ、変調度を変化させる。これにより、モータを流れる交流電流の波形、より具体的には交流電流の高調波成分を所望の値に変化させ、この変化により、バッテリ136からモータジェネレータ192に供給する電力を制御することができる。なお、特定の電気角位置と第1の期間の長さは、いずれか一方のみを変化させてもよいし、両方を同時に変化させてもよい。
【0152】
ここで、パルスの形状と電圧には以下の関係がある。図示したパルスの幅は電圧の実効値を変化させる効果があり、線間電圧のパルス幅が広いときには電圧の実効値は大きく、狭いときには電圧の実効値が小さい。また、削除する高調波の個数が少ない場合は、電圧の実効値が高いため、変調度の上限が矩形波に近づく。この効果は、回転電機(モータジェネレータ192)の誘起電圧が高い回転域で有効であり、通常のPWMで制御した場合の線間電圧よりも高い電圧を回転電機に供給することができる。すなわち、直流電源であるバッテリ136からモータジェネレータ192に電力を供給する第1の期間の長さと、この第1の期間を形成する特定の電気角位置とを変化させることで、モータジェネレータ192に印加する交流電圧の実効値を変化させ、モータジェネレータ192の回転状態に応じた出力を得ることができる。
【0153】
また、図20に示す駆動信号のパルス形状は、U相、V相およびW相の各相について、任意のθuvlすなわち電気角を中心に左右非対称となっている。さらに、パルスのオン期間またはオフ期間のうち少なくとも一方がθuvl(電気角)でπ/3以上にわたって連続する期間を含んでいる。たとえばU相では、θuvl=π/2付近を中心に前後それぞれπ/6以上のオン期間と、θuvl=3π/2付近を中心に前後それぞれπ/6以上のオフ期間とを有している。同様に、V相では、θuvl=π/6付近を中心に前後それぞれπ/6以上のオフ期間と、θuvl=7π/6付近を中心に前後それぞれπ/6以上のオン期間とを有しており、W相では、θuvl=5π/6付近を中心に前後それぞれπ/6以上のオフ期間と、θuvl=11π/6付近を中心に前後それぞれπ/6以上のオン期間とを有している。上述したようにU相,V相,W相各相の電気角2π当りのパルス数は、線間電圧のパルス数に応じて順次決定されるが、電気角2π間の各パルス間隔は不均一である。このようなパルス形状の特徴を有している。
【0154】
以上説明したように、本実施形態の電力変換装置によれば、PHM制御モードが選択されているときに、直流電源からモータに電力を供給する第1の期間と、3相フルブリッジの全相上アームをオン或いは全相下アームをオンさせる第2の期間を、電気角に応じた特定のタイミングで交互に発生させる。これにより、PWM制御モードが選択されている場合に比べて、スイッチングの頻度が1/7から1/10以下で済む。したがって、スイッチング損失を低減することができる。
【0155】
次に、図16で例示したように変調度を変化させたときの線間電圧パルス波形における高調波成分の削除の様子について説明する。図21は、変調度を変化させたときの線間電圧パルスにおける基本波と削除対象の高調波成分の振幅の大きさを示した図である。
【0156】
図21(a)では、3次および5次の高調波を削除対象とした線間電圧パルスにおける基本波と各高調波の振幅の例を示している。この図によると、変調度が1.2以上の範囲では5次高調波が削除しきれずに現れることが分かる。図21(b)では、3次、5次および7次の高調波を削除対象とした線間電圧パルスにおける基本波と各高調波の振幅の例を示している。この図によると、変調度が1.18以上の範囲では5次および7次の高調波が削除しきれずに現れることが分かる。
【0157】
なお、図21(a)に対応する線間電圧パルス波形と相電圧パルス波形の例を図22、23にそれぞれ示す。ここでは、要素数が2である行ベクトルを設定し、各要素(k1/3、k2/5)におけるk1、k2の値としてk1=1、k2=3をそれぞれ選択して、変調度を0から1.27まで変化させたときの線間電圧パルス波形と相電圧波形の例を示している。また、図21(b)は、図16、17にそれぞれ示した線間電圧パルス波形と相電圧パルス波形に対応している。
【0158】
上記の説明から、変調度がある一定の値を超えると、削除対象とした高調波が削除しきれずに現れ始めることが分かる。また、削除対象とする高調波の種類(数)が多いほど、低い変調度で高調波を削除しきれなくなることが分かる。
【0159】
次に、図6に示したPWM制御用のパルス変調器440におけるPWMパルス信号の生成方法について、図24を参照して説明する。図24(a)は、U相、V相、W相の各相における電圧指令信号と、PWMパルスの生成に用いる三角波キャリアとの波形を示している。各相の電圧指令信号は、位相を互いに2π/3ずつずらした正弦波の指令信号であり、変調度に応じて振幅が変化する。この電圧指令信号と三角波キャリア信号とをU、V、Wの各相についてそれぞれ比較し、両者の交点をパルスのオンオフのタイミングとすることで、図24(b)、(c)、(d)にそれぞれ示すようなU相、V相、W相の各相に対する電圧パルス波形が生成される。なお、これらのパルス波形におけるパルス数は、いずれも三角波キャリアにおける三角波パルス数に等しい。
【0160】
図24(e)は、UV線間電圧の波形を示している。このパルス数は、三角波キャリアにおける三角波パルス数の2倍、すなわち各相に対する上記の電圧パルス波形におけるパルス数の2倍に等しい。なお、他の線間電圧、すなわちVW線間電圧およびWU線間電圧についても同様である。
【0161】
図25は、PWMパルス信号によって形成される線間電圧の波形を変調度毎に描いた一例を示している。ここでは、変調度を0から1.27まで変化させたときの線間電圧パルス波形の例を示している。図25では、変調度が1.17以上になると、互いに隣接する2つのパルス間の隙間がなくなり、合わせて1つのパルスとなっている。こうしたパルス信号は過変調PWMパルスと呼ばれる。最終的には変調度1.27において、矩形波の線間電圧パルス波形となる。
【0162】
図25に示した線間電圧パルス波形を対応する相電圧パルス波形で表した例を図26に示す。図26でも図25と同様に、変調度が1.17以上になると隣接する2つのパルス間の隙間がなくなっていくことが分かる。なお、図26の相電圧パルス波形と図25の線間電圧パルス波形との間には、π/6の位相差がある。
【0163】
ここで、PHMパルス信号による線間電圧パルス波形とPWMパルス信号による線間電圧パルス波形とを比較する。図27(a)は、PHMパルス信号による線間電圧パルス波形の一例を示している。これは、図14において変調度0.4の線間電圧パルス波形に相当する。一方、図27(b)は、PWMパルス信号による線間電圧パルス波形の一例を示している。これは、図25において変調度0.4の線間電圧パルス波形に相当する。
【0164】
図27(a)と図27(b)とをパルス数について比較すると、図27(a)に示すPHMパルス信号による線間電圧パルス波形の方が、図27(b)に示すPWMパルス信号による線間電圧パルス波形よりも大幅にパルス数が少ないことが分かる。したがって、PHMパルス信号を用いると、生成される線間電圧パルス数が少ないために制御応答性はPWM信号の場合よりも低下するが、PWM信号を用いた場合よりもスイッチング回数を大幅に減らすことができる。その結果、スイッチング損失も大幅に低減することができる。
【0165】
次に、PWM制御とPHM制御とにおけるパルス形状の違いについて、図28を参照して説明する。図28(a)は、PWMパルス信号の生成に用いられる三角波キャリアと、このPWMパルス信号によって生成されるU相電圧、V相電圧およびUV線間電圧とを示している。図28(b)は、PHMパルス信号によって生成されるU相電圧、V相電圧およびUV線間電圧を示している。これらの図を比較すると、PWMパルス信号を用いた場合はUV線間電圧の各パルスのパルス幅が一定ではないのに対して、PHMパルス信号を用いた場合はUV線間電圧の各パルスのパルス幅が一定であることが分かる。なお、前述のようにパルス幅が一定とはならない場合もあるが、これは正の振幅をもつパルスと負の振幅をもつパルスとが重なることによるものであり、パルスの重なりを分解すれば全てのパルスで同じパルス幅となる。また、PWMパルス信号を用いた場合は三角波キャリアがモータ回転速度の変動に関わらず一定であるため、UV線間電圧の各パルスの間隔もモータ回転速度によらず一定であるのに対して、PHMパルス信号を用いた場合はUV線間電圧の各パルスの間隔がモータ回転速度に応じて変化することが分かる。
【0166】
図29は、モータ回転速度とPHMパルス信号による線間電圧パルス波形との関係を示している。図29(a)は、所定のモータ回転速度におけるPHMパルス信号による線間電圧パルス波形の一例を示している。これは、図14において変調度0.4の線間電圧パルス波形に相当するものであり、電気角(UV線間電圧の基準位相θuvl)2π当たり16パルスを有する。
【0167】
図29(b)は、図29(a)のモータ回転速度を2倍としたときのPHMパルス信号による線間電圧パルス波形の一例を示している。なお、図29(b)の横軸の長さは、時間軸に対して図29(a)と等価となるようにしている。図29(a)と図29(b)とを比較すると、電気角2π当たりのパルス数は16パルスで変わらないが、同一時間内のパルス数が図29(b)では2倍となっていることが分かる。
【0168】
図29(c)は、図29(a)のモータ回転速度を1/2倍としたときのPHMパルス信号による線間電圧パルス波形の一例を示している。なお、図29(c)の横軸の長さも、図29(b)と同様に時間軸に対して図29(a)と等価となるようにしている。図29(a)と図29(c)とを比較すると、図29(c)では電気角π当たりのパルス数が8パルスであるため、電気角2π当たりのパルス数では16パルスで変わらないが、同一時間内のパルス数が図29(c)では1/2倍となっていることが分かる。
【0169】
以上説明したように、PHMパルス信号を用いた場合は、モータ回転速度に比例して線間電圧パルスの単位時間当たりのパルス数が変化する。すなわち、電気角2π当たりのパルス数を考えると、これはモータ回転速度によらず一定である。一方、PWMパルス信号を用いた場合は、図28で説明したように、モータ回転速度によらず線間電圧パルスのパルス数は一定である。すなわち、電気角2π当たりのパルス数を考えると、これはモータ回転速度が上昇するほど低減する。
【0170】
図30(a)は、PHM制御とPWM制御においてそれぞれ生成される電気角2π当たり(すなわち線間電圧一周期当たり)の線間電圧パルス数と、モータ回転速度との関係を示している。図30(b)は、PHM制御とPWM制御においてそれぞれ生成される電気角2π当たり(すなわち相電圧一周期当たり)の相電圧パルス数と、モータ回転速度との関係を示している。なお図30(a)、(b)では、8極モータ(極対数4)を用いて、PHM制御において削除対象とする高調波成分を3,5,7次の3つとし、正弦波PWM制御で用いる三角波キャリアの周波数を10kHzとした場合の例を示している。このように電気角2π当たりの線間電圧パルス数および相電圧パルス数は、PWM制御の場合はモータ回転速度が上昇するほど減少していくのに対して、PHM制御の場合はモータ回転速度によらず一定であることが分かる。なお、PWM制御における線間電圧パルス数は、式(11)で求めることができる。
【0171】
(線間電圧パルス数)
=(三角波キャリアの周波数)/{(極対数)×(モータ回転速度)/60}×2
・・・(11)
【0172】
なお、図30(a)、(b)では、PHM制御において削除対象とする高調波成分を3つとした場合の線間電圧一周期当たりの線間電圧パルス数が16であり、相電圧パルス数が11であることを示したが、前記線間電圧パルス数は削除対象とする高調波成分の数に応じて前述のように変化する。すなわち、削除対象の高調波成分が2つである場合は8、削除対象の高調波成分が4つである場合は32、削除対象の高調波成分が5つである場合は64のように、削除対象とする高調波成分の数が1つ増すにつれて、線間電圧一周期当たりのパルス数が2倍になる。
【0173】
以上説明した実施の形態に係る制御回路172によって行われるモータ制御のフローチャートを図31に示す。ステップ901において、制御回路172はモータジェネレータ192の回転速度情報を取得する。この回転速度情報は、回転磁極センサ193から出力される磁極位置信号θに基づいて求められる。
【0174】
ステップ902において、制御回路172は、ステップ901で取得した回転速度情報に基づいて、モータ回転速度が所定の切替回転速度以上であるか否かを判定する。モータ回転速度が切替回転速度以上であればステップ904へ進み、切替回転速度未満であればステップ903へ進む。
【0175】
ステップ904において、制御回路172は、PHM制御において削除対象とする高調波の次数を決定する。ここでは前述のように、3次、5次、7次などの高調波を削除対象として決定することができる。なお、モータ回転速度に応じて削除対象とする高調波の数を変化させてもよい。たとえば、モータ回転速度が比較的低い場合は3次、5次および7次の高調波を削除対象とし、モータ回転速度が比較的高い場合は3次および5次の高調波を削除対象とする。このように、モータ回転速度が高くなるほど削除対象とする高調波の数を少なくすることで、高調波によるトルク脈動の影響を受けにくい高速回転域ではPHMパルス信号のパルス数を減らして、スイッチング損失をより一層効果的に減少させることができる。
【0176】
ステップ905において、制御回路172は、ステップ904で決定した次数の高調波を削除対象とするPHM制御を行う。このとき、削除対象の高調波の次数に応じたPHMパルス信号が前述のような生成方法に従ってPHM制御用のパルス変調器430により生成されると共に、そのPHMパルス信号が切換器450によって選択され、制御回路172からドライバ回路174へ出力される。または、ゼロベクトル再配置型PHM制御用のパルス変調器470により後述するような方法に従って生成されるゼロベクトル再配置型PHMパルス信号を切換器450において選択し、制御回路172からドライバ回路174へ出力されるようにしてもよい。ステップ905を実行したら、制御回路172はステップ901へ戻り、上記のような処理を繰り返す。
【0177】
ステップ906において、制御回路172は矩形波制御を行う。矩形波制御は、前述のようにPHM制御の一形態、すなわちPHM制御において変調度を最大としたもの、または削除対象の高調波次数が無いものと考えることができる。矩形波制御では高調波を削除することはできないが、スイッチング回数を最小とすることができる。なお、矩形波制御に用いられるパルス信号は、PHM制御の場合と同様にパルス変調器430によって生成することができる。このパルス信号が切換器450によって選択され、制御回路172からドライバ回路174へ出力される。ステップ906を実行したら、制御回路172はステップ901へ戻り、上記のような処理を繰り返す。
【0178】
ステップ903において、制御回路172はPWM制御を行う。このとき、所定の三角波キャリアと電圧指令信号との比較結果に基づいて、前述のような生成方法によりPWMパルス信号がパルス変調器440において生成されると共に、そのPWMパルス信号が切換器450によって選択され、制御回路172からドライバ回路174へ出力される。ステップ903を実行したら、制御回路172はステップ901へ戻り、上記のような処理を繰り返す。
【0179】
次に本発明のゼロベクトル再配置型PHM制御方式を説明するために、基本となるPHM外郭パルス波形の選定について説明する。すでに前述したように、従来のPHM制御では変調度がある一定の閾値を超えると、削除対象とした高調波が削除しきれずに現れ始める。例えば、図16は従来のPHM制御モードにおける3次、5次、7次高調波削除の線間電圧波形の一例を示す図で、図17は図16に対応する従来のPHM制御モードにおける相電圧波形の一例を示す図である。この場合、図21(b)からも分かるように変調度1.18が前記閾値となる。
【0180】
図39は図17と同じ相電圧波形の例を示すものである。本発明のゼロベクトル再配置型PHM制御では、図39に示すように、従来のPHM制御の相電圧パルス波形から変調度1.18の相電圧パルス波形をPHM外郭パルス作成のために抜き出す。
【0181】
続いて、前記抜き出した相電圧パルスをお互いπ/3の位相差を持ってUVW3相に展開すると、図40の様になる。このUVW各相の相電圧パルスをUphm、Vphm、Wphmとする。図40の上側の図に示すように、変調度1.18のUVW各相の相電圧パルス波形Uphm、Vphm、Wphmでは、上アーム全部オン(図18のモード7)または下アーム全部オン(図18のモード0)となる三相短絡期間が適宜配置されている。
【0182】
変調度1.18から徐々に変調度を上げていくと、相電圧パルス波形Uphm、Vphm、Wphmにおいて前記三相短絡期間が徐々に短くなり、変調度1.20のところでは、図40の下側の図に示すように三相短絡期間が無くなる。すなわち、図40の下側の図に示す変調度1.20における相電圧パルス波形Uphm、Vphm、Wphmは、前記変調度1.18における相電圧パルス波形Uphm、Vphm、Wphmから前記三相短絡期間を削除した波形である。
【0183】
本発明のゼロベクトル再配置型PHM制御では、変調度0〜1.20間における相電圧パルス波形を図40の下側の図に示すような変調度1.20の相電圧パルス波形に固定して、この波形を基本となるPHM外郭パルスとして用いる。すなわち、従来のPHM制御では、図16、17の様に変調度の増減に応じて線間電圧パルス、相電圧パルスの各パルス幅や位相が変化するが、本発明のゼロベクトル再配置型PHM制御では、変調度0〜1.20の間では変調度が変わっても、基本となるPHM外郭パルス波形は図40の下側の図に示す変調度1.20の波形のまま変化しない。変調度0〜1.20の間の変調度の調整には、後に詳しく説明するゼロベクトルを挿入することで対応する。
【0184】
尚、変調度1.20以上は従来のPHM制御と同じである。
【0185】
尚、本実施例ではPHM外郭パルスを3次5次7次高調波削除PHM相電圧パルスから作成したが、本発明が適用されるシステムの特性に合わせて、別の高調波次数削除PHMパルス、例えば3次5次高調波削除パルスや3次5次7次11次高調波削除パルスから作成しても良い。
【0186】
図6の制御回路172に設けられたゼロベクトル再配置型PHM制御用のパルス変調器470において、パルス生成器438により実現される本発明のゼロベクトル再配置型PHMパルス信号の生成方法の詳細について説明する。本実施形態におけるパルス生成器438の構成を図32に示す。図6に示したモータ制御系では、システム性能からの要求などに応じて、モータジェネレータ192に対する制御周期として、たとえば数百μs程度の制御周期が予め定められている。パルス生成器438は、この制御周期ごとに、スイッチング素子であるIGBT328、330の状態を繰り返し演算する。この演算結果に応じて、次の制御周期におけるPHMパルス信号を生成し、切換器450へ出力する。
【0187】
ゼロベクトル再配置型PHM制御用のパルス変調器470に備えられたパルス生成器438は、例えば図32に示すように、リミッタ463、PHMパルス位相検索器464、三角波発生器461、比較器462、ゼロベクトル判定器465、ゼロベクトル決定器466、切替器467、パルス補正器468、パルス出力器469により実現される。
【0188】
ここで図35及び36は本発明のパルス生成器438によるパルス生成手段を詳細に説明したフローチャートである。図32、図35および図36を用いて、本実施例の制御内容を説明する。図35のステップ801において、ゼロベクトル再配置型PHM制御用のパルス変調器470の変調度演算器432からパルス生成器438に変調度信号aが入力される。以降では、説明の便宜上、リミッタ463入力前の変調度をain(この場合、変調度aと変調度ainは等しくなる)、リミッタ463出力後の変調度をaoutと表記する。
【0189】
ステップ801aにおいて、リミッタ463は変調度ainを入力信号として取り込み、図33に示す演算を行う。変調度ainは0〜1.27の任意の値を取るが、リミッタ463は図33に示すように、入力される変調度がain<1.20ならば、ainの値に関わらず出力値aout=1.20を出力する。一方、入力される変調度がain≧1.20ならば、ainの値をそのまま出力値aout(=ain)として出力する。なお、本実施例では、リミッタ463によるリミット値を1.20とし、ain<1.20ならばリミッタ463からaout=1.20が出力されることとしたが、削除する高調波の次数によって、そのリミット値は変化させても良い。例えば、本実施例では削除する高調波次数が3次、5次、7次であったが、削除する高調波次数が変わって、例えば3次、5次、7次、11次となった場合にリミット値が変化しても構わない。しかし、所望の高調波を除くことができる限界の変調度の相電圧波形から3相短絡期間(ゼロベクトルモード)を削除してできるPHM外郭パルスの変調度をリミット値として用いる場合のほうが、高出力を出すことができる変調度が基となってゼロベクトル再配置型PHMパルス信号の生成が行われるので、無駄な出力低下が無く、リミット値の設定としてはより好ましい。このように出力される変調度a outを制御することによって、所望の高調波を抑制しつつ、導通回数を限界まで低減した導通パターンを元に、実際に出力される駆動信号を出力することが可能となる。
【0190】
PHMパルス位相検索器464は、ステップ802において、ゼロベクトル再配置型PHM制御用のパルス変調器470の電圧位相差演算器431から出力される電圧位相信号θvを入力信号として取り込む。このとき図37に示すように、まずはじめに制御周期Tnの先頭において、電圧位相差演算器431によりロータ位相θreが取得される。このロータ位相θreに基づいて、電圧位相差演算器431において前述の式(4)により電圧位相θvが演算され、電圧位相信号θvがパルス生成器438へ出力されている。
【0191】
PHMパルス位相検索器464は、続くステップ803において、角速度演算器460からの電気角速度信号ωreと磁極位置信号θが表すロータ位相θreを入力信号として取り込む。
【0192】
PHMパルス位相検索器464は、ステップ804において、入力された電圧位相信号θv、ロータ位相θreおよび電気角速度信号ωreに基づいて、次の制御周期に対応する電圧位相の範囲を演算する。ここでは、電気角速度ωreに制御周期Tnの長さを乗算することで、一制御周期Tn当たりの位相変化量θnを算出する。その後、電圧位相信号θvと角速度演算器460からの電気角速度信号ωreから、次の制御周期Tn+1の開始位相θv1および終了位相θv2を算出する。具体的には、電圧位相θvに位相変化量θnを加えることで、制御周期Tnの終了位相、すなわち次の制御周期Tn+1の開始位相θv1を求める。また、位相変化量θnを2倍した値を電圧位相θvに加えることで、次の制御周期Tn+1の終了位相θv2を求める。θv2−θv1が次制御周期Tn+1の電圧位相の範囲となる。
【0193】
さらに、ステップ805において、PHMパルス位相検索器464はROM検索を行う。このROM検索では、入力された変調度信号aoutに基づいて、ステップ804で演算された次の制御周期Tn+1の電圧位相の範囲θv1〜θv2において、ROM(不図示)に予め記憶されたテーブルより、スイッチングオンのタイミングを規定する立上がり位相θonと、スイッチングオフのタイミングを規定する立下がり位相θoffとをU相、V相、W相各相分について検索する。
【0194】
このROM検索において用いられる立上がり、立下がり位相のテーブルの例を図38に示す。ここでは、a1からanまでの各変調度について立上がり位相と立下がり位相をテーブル化した例を示している。このテーブルは従来のPHM制御でも使用しており、本発明のゼロベクトル再配置型PHM制御では主にリミッタ463のリミット値以上の変調度aout部分が使われる。
【0195】
PHMパルス検索器464は、ステップ806において、ステップ805のROM検索によって得られたUVW各相のスイッチングのオンとオフの位相の情報、すなわち立上がり位相θonおよび立下がり位相θoffの情報を、PHMパルスUphm、Vphm、Wphmとして、ゼロベクトル判定器465及び切替器467に出力する。
【0196】
ここで、PHMパルス位相検索器464がステップ806で出力するPHMパルスは、変調度aによって異なる。例えば、変調度a≦1.20の場合はROM検索によりPHM外郭パルス(変調度a=1.20相当)がUphm、Vphm、Wphmとして出力され、変調度a>1.20の場合はROM検索により従来のPHMパルスがUphm、Vphm、Wphmとして出力される。
【0197】
三角波発生器461は、ステップ850において、電流制御器(ACR)422の制御周期に同期した三角波を発生し、比較器462に出力する。なお、本実施例では、三角波発生器461が発生する三角波とPHMパルス位相検索器464が出力するPHMパルスとは非同期である。しかし、これらを同期させてもよい。たとえば、三角波発生器461に電圧位相差演算器431からの電圧位相信号θvを入力信号として取り込んで、同期PWMと同様に電気角一周期当りの三角波パルス数を任意に決めることで、三角波発生器461が発生する三角波とPHMパルス位相検索器464が出力するPHMパルスとを同期させることが可能である。この場合、三角波発生器461が発生する三角波は、電流制御器(ACR)422の制御周期とは非同期となる。
【0198】
比較器462は、ステップ851において、変調度演算器432からパルス生成器438に入力された変調度ainと、三角波発生器461から出力された三角波とを入力信号として取り込み、これらを比較する。この比較結果に基づいて、ステップ852においてゼロベクトルトリガ信号を生成し、ゼロベクトル決定器466および切替器467へ出力する。なお、前述のように三角波発生器461が発生する三角波の周期は、電流制御器(ACR)422の制御周期に同期すなわち略一致しているため、比較器462が発生するゼロベクトルトリガ信号の周期も同様に、電流制御器(ACR)422の制御周期に同期すなわち略一致している。
【0199】
図42を用いて、比較器462におけるゼロベクトルトリガ信号の生成方法を説明する。比較器462では、三角波発生器461で作られた三角波と変調度ainとを比較する。なお図42では、変調度ainが0.9である場合の例を示している。その結果、図42において下側の図に示すように、三角波より変調度ainが大きい場合はゼロベクトルトリガ信号として1(High)を出力し、三角波より変調度ainが小さい場合はゼロベクトルトリガ信号として0(Low)を出力する。このようにして、出力しようとする交流電力に応じた変調度ainに基づいて、ゼロベクトルトリガ信号が1(High)である期間とゼロベクトルトリガ信号が0(Low)である期間の幅をそれぞれ決定する。なお、比較器462において、三角波の振幅に対応する変調度ainの最大値はリミッタ463のリミット値1.20に設定されている。従って、仮に1.20以上の変調度ainが比較器462に入力された場合は、三角波よりも変調度が常に大きいため、ゼロベクトルトリガ信号は1(High)のみが出力される。
【0200】
ゼロベクトル判定器465は、ステップ806でPHMパルス位相検索器464から出力されるPHMパルスUphm、Vphm、Wphmを入力信号として取り込み、ステップ860において、図34の変換表に示す規則に従ってゼロベクトル判定を行う。そして、ステップ860のゼロベクトル判定結果を表すゼロベクトルモード信号Aをステップ861においてゼロベクトル決定器466に出力する。上述のように、入力信号Uphm、Vphm、Wphmは図40にて示されたPHM外郭パルスまたは従来のPHMパルスのいずれかである。
【0201】
図41を参照して、ゼロベクトル判定器465が行うゼロベクトル判定について詳細に説明する。ゼロベクトル判定器465は、PHMパルス位相検索器464からステップ806で出力されたPHMパルスUphm、Vphm、Wphmの各波形を、図41に示すように、図34の変換表が表すモード1〜6にそれぞれ対応する複数の領域に分割する。ここで図41では、図40の下側の図に示した変調度1.20のPHM外郭パルスがPHMパルスUphm、Vphm、WphmとしてPHMパルス位相検索器464からゼロベクトル判定器465に入力された場合の例を示している。なお、図40で示すように、PHM外郭パルスにはモード7及び0のゼロベクトルモード(三相短絡)が含まれていない。
【0202】
続いてゼロベクトル判定器465は、図34の変換表に示す規則に従って、モード1〜6の各領域毎にゼロベクトルモード0または7のいずれが対応するかを判定する。図34の変換表には、モード1〜6の各々について、最少のスイッチング回数で移行できるゼロベクトルモードがモード0とモード7のどちらであるかが示されている。この変換表に基づいて、PHMパルスUphm、Vphm、Wphmの各波形を分割したモード1〜6の各領域毎に対応するゼロベクトルモードをそれぞれ判定することで、ゼロベクトル判定を行う。そして、判定結果をゼロベクトルモード信号Aとしてゼロベクトル決定器466へ出力する。
【0203】
例えば、図41に範囲1で示した領域はモード5なので、
U相:上アームオフ/下アームオン→0
V相:上アームオフ/下アームオン→0
W相:上アームオン/下アームオフ→1
となり、各アームの状態をU相、V相、W相の順に並べると、(001)と表すことが出来る。この(001)の状態から選択できるゼロベクトルモードはモード0(000)とモード7(111)があるが、各アームの状態変化数を比較すると、
モード5(001)→モード0(000) W相のみ状態変化、
モード5(001)→モード7(111) U相とV相が状態変化、
となり、状態変化すなわちスイッチング回数が最少で移行できるゼロベクトルモードは、U、V、W相の各ゼロベクトルパルスがZVu=0、ZVv=0、ZVw=0であり、W相のみ状態変化させればよいモード0(000)となる。
【0204】
同様に図41に範囲2で示した領域はモード6なので、
U相:上アームオン/下アームオフ→1
V相:上アームオフ/下アームオン→0
W相:上アームオン/下アームオフ→1
となり、各アームの状態をU相、V相、W相の順に並べると、(101)と表すことが出来る。この(101)の状態から選択できるゼロベクトルモードはモード0(000)とモード7(111)があるが、各アームの状態変化数を比較すると、
モード6(101)→モード0(000) U相とW相が状態変化、
モード6(101)→モード7(111) V相のみ状態変化、
となり、状態変化すなわちスイッチング回数が最少で移行できるゼロベクトルモードは、U、V、W相の各ゼロベクトルパルスがZVu=1、ZVv=1、ZVw=1であり、V相のみ状態変化させればよいモード7(111)となる。
【0205】
以上説明したのと同様の演算を繰り返すことで、ゼロベクトル判定器465はゼロベクトル判定を行う。こうしてゼロベクトル判定が行われることにより、U相、V相、W相のうち、ゼロベクトルモードに移行するときのスイッチング回数を最少とするために状態変化すべきいずれか1相、すなわちパルス波形の電圧値が他の2相とは異なるいずれか1相が特定される。
【0206】
ゼロベクトル決定器466は、ステップ861でゼロベクトル判定器465から出力されたゼロベクトルモード信号Aと、ステップ852で比較器462から出力されたゼロベクトルトリガ信号とを入力信号として取り込み、ステップ862においてこれらの入力信号を比較することにより、ゼロベクトル決定を行う。具体的には、ゼロベクトルトリガ信号が0(Low)の期間におけるゼロベクトルモード信号Aが表すゼロベクトルモードを判定し、そのゼロベクトルモードをPHMパルスに挿入すべきゼロベクトルモードとして決定することにより、ゼロベクトル決定を行う。そして、ステップ863において、ステップ862のゼロベクトル決定結果を表すゼロベクトルモード信号Bを切替器467へ出力する。
【0207】
図42を参照して、ゼロベクトル決定器466が行うゼロベクトル決定を説明する。ゼロベクトル決定器466は、ゼロベクトルトリガ信号が0(Low)であるときのゼロベクトル判定器465からのゼロベクトルモード信号Aがモード0とモード7のいずれのゼロベクトルモードであるかを判定することで、その時点でPHMパルスに挿入すべきゼロベクトルモードを決定する。そして、決定したゼロベクトルモードをゼロベクトルモード信号Bとして切替器467へ出力する。すなわち、ゼロベクトルトリガ信号が0(Low)の期間がゼロベクトルモード7の範囲に有る場合は、ゼロベクトルモード信号Bとしてゼロベクトルモード7を出力する。一方、ゼロベクトルトリガ信号が0(Low)の期間がゼロベクトルモード0の範囲に有る場合は、ゼロベクトルモード信号Bとしてゼロベクトルモード0を出力する。
【0208】
図43を参照して、さらにゼロベクトル決定器466が行うゼロベクトル決定におけるラッチの有無を説明する。図43では、説明を分かりやすくするため、図42よりも変調度を小さくした場合の例を示している。三角波発生器461で発生する三角波は前述のように電流制御器(ACR)422の制御周期に同期しているが、PHMパルス位相検索器464が出力するPHMパルスとは非同期であるため、ゼロベクトルトリガ信号が0(Low)の期間にゼロベクトルモード信号Aが1種類のゼロベクトルモードのみを表すとは限らない。例えば、図43に期間A〜Fとして示した6期間では、ゼロベクトルトリガ信号が0(Low)の期間において、ゼロベクトルモード信号Aが複数(本実施例では2種類)のゼロベクトルモードをそれぞれ表している。このような場合、ゼロベクトル決定器466では、複数のゼロベクトルモードをそのままPHMパルスに挿入すべきゼロベクトルモードとして決定するゼロベクトル決定の方法(ラッチ無しゼロベクトル決定)、または、最初のゼロベクトルモードをPHMパルスに挿入すべきゼロベクトルモードとして決定するゼロベクトル決定の方法(ラッチ有りゼロベクトル決定)のいずれかを用いる。なお、ラッチ有りゼロベクトル決定を用いる場合は、これを実現するためのラッチ回路がゼロベクトル決定器466内に設けられる(不図示)。
【0209】
ラッチ無しゼロベクトル決定では、ゼロベクトルトリガ信号が0(Low)の期間にゼロベクトルモード信号Aが複数種類のゼロベクトルモードを表している場合であっても、そのゼロベクトルモードをそのままゼロベクトルモード信号Bとしてゼロベクトル決定器466から出力する。例えば、図43に示すように、期間Aではゼロベクトルモード信号Aがモード0と7の2種類のゼロベクトルモードを表しているが、ゼロベクトル決定器466は、そのままゼロベクトルモード信号Bとしてモード0と7をステップ863にて出力する。同様に、期間Bではモード0と7、期間Cではモード7と0、期間Dではモード7と0、期間Eではモード0と7、期間Fではモード0と7を、それぞれゼロベクトルモード信号Bとしてゼロベクトル決定器466から出力する。
【0210】
一方、ラッチ有りゼロベクトル決定では、ゼロベクトルトリガ信号が0(Low)の期間にゼロベクトルモード信号Aが複数種類のゼロベクトルモードを表している場合、すなわち、ゼロベクトル判定器465のゼロベクトル判定により状態変化すべき相として特定された1相がゼロベクトルトリガ信号0(Low)の期間内で変化している場合は、最初のゼロベクトルモードのみをゼロベクトルモード信号Bとしてゼロベクトル決定器466から出力する。例えば、図43に示すように、期間Aではゼロベクトルモード信号Aがモード0と7の2種類のゼロベクトルモードを表しているが、ゼロベクトル決定器466は、ベクトルトリガ信号が0(Low)の期間に最初に入るゼロベクトルモード信号Aの値、すなわちモード0をゼロベクトルモード信号Bとして出力する。同様に、期間Bではモード0、期間Cではモード7、期間Dではモード7、期間Eではモード0、期間Fではモード0を、それぞれゼロベクトルモード信号Bとしてゼロベクトル決定器466からステップ863にて出力する。なお、こうしたゼロベクトル決定におけるラッチ有無の効果に関しては後で説明する。
【0211】
切替器467は、ステップ870において、ステップ806でPHMパルス位相検索器464から出力されるPHMパルスUphm、Vphm、Uphmと、ステップ863でゼロベクトル決定器466から出力されるゼロベクトルモード信号Bと、ステップ852で比較器462から電流制御器(ACR)422の制御周期に同期して出力されるゼロベクトルトリガ信号とを入力信号として取り込み、これらの入力信号に基づいて、PHMパルス(PHM外郭パルス含む)を出力するのかゼロベクトルパルスを出力するのかを決定するための切替判定を行う。そして、この切替判定の結果に応じて、ステップ871において、PHMパルス(PHM外郭パルス含む)又はゼロベクトルパルスを相電圧パルスU、V、Wとしてパルス補正器468へ出力する。
【0212】
図44を参照して、切替器467が行う切替判定について説明する。切替器467は、比較器462からのゼロベクトルトリガ信号をトリガーとして、PHMパルス位相検索器464からのPHMパルスUphm、Vphm、Uphm、またはゼロベクトル決定器466からのゼロベクトルモード信号Bが表すゼロベクトルモードに応じたゼロベクトルパルスのいずれかを選択することで、切替判定を行う。そして、選択したパルスを相電圧パルスU、V、Wとしてパルス補正器468へ出力する。なお、図44では、ゼロベクトルモード信号Bが図42に示した値である場合の例を示している。
【0213】
具体的には、ゼロベクトルトリガ信号が1(High)の期間では、PHMパルス位相検索器464からのPHMパルスUphm、Vphm、Uphm、すなわち、ステップ805のROM検索で得られた、UVW各相のスイッチングのオンとオフの位相の情報であるPHMパルス(PHM外郭パルス含む)を選択し、相電圧パルスU、V、Wとしてパルス補正器468に出力する。一方、ゼロベクトルトリガ信号が0(Low)の期間では、ゼロベクトルモード信号Bに応じたゼロベクトルパルスを強制的に選択する。すなわち、UVW各相の全上アームオン(モード7)又は全下アームオン(モード0)となるように、UVW各相のスイッチングのオンとオフの位相の情報を、相電圧パルスU、V、Wとしてパルス補正器468に出力する。
【0214】
以上説明したように、切替器467により、ゼロベクトルトリガ信号が1(High)の期間はPHMパルスを選択し、ゼロベクトルトリガ信号が0(Low)の期間はゼロベクトルモード信号Bが表すゼロベクトルモードに応じたゼロベクトルパルスを選択することで、ゼロベクトルトリガ信号の周期ごとに、PHMパルスUphm、Vphm、Uphmのうちいずれか1つのパルス波形の電圧値が反転される。このとき反転される相は、前述のようにゼロベクトル判定器465がステップ860でゼロベクトル判定を行うことによって特定した相であり、反転される期間すなわち電気角の幅は、ゼロベクトルトリガ信号が0(Low)である期間の幅に応じて決定される。なお、ゼロベクトル決定器466において前述のようなラッチ有りゼロベクトル決定が行われている場合は、ゼロベクトルトリガ信号が0(Low)である期間の幅内でゼロベクトル判定の結果が変化しても、ゼロベクトルモードの挿入開始時点、すなわちゼロベクトルトリガ信号の立下り時点におけるゼロベクトル判定の結果に応じて、PHMパルスUphm、Vphm、Uphmのうちいずれか1つのパルス波形の電圧値が反転され、その反転後の電圧値と他の2相の電圧値とがゼロベクトルトリガ信号が0(Low)である期間の幅内でそれぞれ維持される。このようにして、PHMパルスUphm、Vphm、Uphmに対してゼロベクトルモードが電流制御器(ACR)422の制御周期に同期して挿入されることになる。
【0215】
上記のようにゼロベクトルモードを電流制御器(ACR)422の制御周期に同期して挿入することの利点に関して、図47を用いて以下に説明する。一般にPWM制御では、電流制御周期に同期した搬送波(本実施例では三角波キャリア)と電圧指令を比較することで相電圧パルスを生成している。図47に示した相電流波形のように、スイッチングオン期間に電流が増加し、オフ期間に減少する。そのため、PWM制御では通常、三角波キャリアの山または谷、または山谷両方のタイミングでモータに流れる電流値をサンプリングして、電流フィードバックに使用している。このようにすることで、相電圧パルスと電流サンプリングタイミングが同期するので、常に安定したタイミング、つまり各相電圧パルスの真ん中で電流値をサンプリング出来る利点があり、サンプリングした電流値を電流フィードバックに使用できる。
【0216】
上記のPWM制御と同様に、本発明のPHM制御では、ゼロベクトルトリガ信号の周期を電流制御器(ACR)422による電流制御周期に同期すなわち略一致させている。このようにすることで、PHMパルスに挿入されるゼロベクトルパルスと電流サンプリングタイミングが同期するので、常に安定したタイミングでサンプリングした電流値を電流フィードバックに使用できる。
【0217】
次に、ゼロベクトル決定器466が行うゼロベクトル決定におけるラッチ有無の効果について説明する。図45は、ゼロベクトル決定器466がラッチ無しゼロベクトル決定を用いた場合に切替器467から出力されるUVW各相の相電圧パルスの例を示したものである。また、図46は、ゼロベクトル決定器466がラッチ有りゼロベクトル決定を用いた場合に切替器467から出力されるUVW各相の相電圧パルスの例を示している。
【0218】
図45および図46に示すように、ゼロベクトルトリガ信号に同期して、PHMパルス位相検索器464からPHMパルスUphm、Vphm、Uphmとして出力されるPHM外郭パルスに適宜ゼロベクトルモードに応じたゼロベクトルパルスが挿入される。こうしてゼロベクトルパルスが挿入された後のUVW各相電圧パルス数を一周期(電気角2π)の半周期間(電気角π)当りで比較すると、図45のラッチ無しゼロベクトル決定の場合は10パルスであり(図中の□で囲まれた数字はゼロベクトルモードBの0又は7のどちらによって生成されたパルスなのかを意味する)、図46のラッチ有りゼロベクトル決定の場合は8パルスとなっている。すなわち、ラッチ有りゼロベクトル決定を用いた場合の方が、ラッチ無しゼロベクトル決定を用いた場合よりもスイッチング回数を低減できるため、スイッチング損失の低減を図ることができる。
【0219】
ここで、PHM外郭パルスにゼロベクトル期間が重なった場合、切替器467ではゼロベクトルモード信号Bに応じたゼロベクトルパルスが強制的に選択されるため、切替器467から出力される相電圧パルスU、V、Wは、図45、46の破線楕円部に示す様に、元のPHM外郭パルスの波形から若干変形する。その結果、PHMパルスの誤差が増加し、狙った削除対象高調波が徐々に出現する。この傾向は、変調度が低くなりゼロベクトルトリガ信号が0(Low)期間が長くなると顕著となる。
【0220】
図48は、変調度とモータジェネレータ192のトルク及び回転速度との関係を示している。図48に示すように、変調度はトルク指令と回転速度に概略比例する。そのため、前述のPHMパルス誤差が許容できないほど増加する場合は、回転速度だけでなく変調度によっても、本発明のゼロベクトル再配置型PHM制御から適宜PWM制御に切り替えたり、従来のPHM制御に切り替えたりすれば良い。
【0221】
パルス補正器468は、ステップ871で切替器467から出力された相電圧パルスU、V、Wのパルス補正処理をステップ872において行う。このパルス補正処理は、図10、11で説明したパルス補正処理と同様のものである。すなわち、切替器467より出力されたU、V、W各相電圧パルスのスイッチングのオン(立上がり)位相θonとオフ(立下がり)位相θoffに対して、最小パルス幅制限とパルス連続性補償を行うためのパルス補正処理をステップ872で行う。そして、パルス補正後のスイッチングのオン(立上がり)位相θon'およびオフ(立下がり)位相θoff'を補正後の相電圧パルスU’、V’、W’としてパルス出力器468へ出力する。このパルス補正処理の具体的な内容は後で詳しく説明する。
【0222】
ステップ873では、パルス出力器469により、現制御周期Tn期間で演算されパルス補正器468から出力された補正後の相電圧パルスU’、V’、W’に基づいて、パルス信号を出力する目標位相値を更新する。この目標位相値の更新は、図10、11で説明したのと同様に、次の制御周期のTn+1先頭で行う。
【0223】
ステップ807では、パルス出力器469により、ステップ873で更新された目標位相値に基づいてパルス信号を生成するための位相カウンタ比較またはタイマカウンタ比較を行う。すなわち、位相カウンタ比較の場合は、位相カウンタの値をステップ873で設定された目標位相値と比較する。この比較結果に基づいて、パルス補正後のスイッチングのオン(立上がり)位相θon'においてパルス信号を立ち上げると共に、パルス補正後のスイッチングのオフ(立下がり)位相θoff'においてパルス信号を立ち下げることで、相電圧パルス信号を生成する。一方、タイマカウンタ比較の場合は、位相/時間変換器(不図示)により、ステップ873で設定された目標位相値を立上がり時間Tonおよび立下がり時間Toffを表す目標時間値に変換する。そして、タイマカウンタ比較器により、タイマカウンタの値を設定された目標時間値と比較する。この比較結果に基づいて、スイッチングのオン(立上がり)時間Tonにおいてパルス信号を立ち上げると共に、スイッチングのオフ(立下がり)時間Toffにおいてパルス信号を立ち下げることで、相電圧パルス信号を生成する。
【0224】
ステップ808では、パルス出力器469により、ステップ807で生成した相電圧パルス信号をゼロベクトル再配置型PHMパルス信号として切換器450へ出力する。
【0225】
以上説明した処理がパルス生成器438において行われることにより、ゼロベクトル再配置型PHM制御用のパルス変調器470から出力されるゼロベクトル再配置型PHMパルス信号としての相電圧パルス信号が生成される。
【0226】
次に、図49、50、51を用いて、ステップ872で実行されるパルス補正処理について説明する。前述したようにパルス補正処理は、PHM制御用のパルス変調器430が有するパルス生成器434に含まれる図8,9のパルス補正器437、および、ゼロベクトル再配置型PHM制御用のパルス変調器470が有するパルス生成器438に含まれる図32のパルス補正器468において、生成される相電圧パルスに対して最小パルス幅制限とパルス連続性補償を施すために実行される。
【0227】
最小パルス幅制限とは、PHMパルス位相検索器435(パルス補正器437の場合)または切替器467(パルス補正器468の場合)から出力されたスイッチングのオン(立上がり)位相θonおよびオフ(立下がり)位相θoffに応じたパルス幅が所定の最小パルス幅未満となるような場合に、そのパルス幅を最小パルス幅として出力することである。このときの最小パルス幅は、スイッチング素子であるIGBT328、330の応答速度などに応じて定められる。一方、パルス連続性補償とは、一制御周期前の予測に基づいて生成されたパルス波形と今回の制御周期で生成すべきパルス波形との間でパルスパターンが変化しており、そのままではパルス連続性が保てなくなるような場合に、パルス連続性が保たれるようにパルス波形を変化して出力することである。なお、こうしたパルスパターンの変化は、外乱等の要因でモータジェネレータ192の状態が急峻に変化したときや、制御モードを切り替えたときなどに生じる。
【0228】
図49は、パルス連続性補償を行わない場合に出力されるパルス波形の例を示している。制御周期Tn-1において、前述のような方法によりスイッチングのオン(立上がり)位相θonが算出され、制御周期Tnにおけるパルス波形11aが出力されたとする。このパルス波形11aは、制御周期Tnにおいて変更することはできない。その後、制御周期Tnにおいてパルスパターンが変化し、次の制御周期Tn+1におけるパルス波形11bが演算されたとする。このパルス波形11bは、制御周期Tn+1の期間では常にオフでありパルスが存在しないため、制御周期Tn+1においてスイッチングのオン(立上がり)位相θonおよびオフ(立下がり)位相θoffは設定されない。しかし、制御周期Tnで既に出力されたパルス波形11aでは、位相θv1においてオフではなくオンとなっている。そのため、実際の出力パルス波形11cでは、制御周期Tn+1において本来はオフとすべきところがオンとなってしまう。このように、パルス連続性補償を行わないと、パルスパターンが途中で変化したときにパルスの連続性が保てなくなってしまうことがある。
【0229】
図50は、パルス連続性補償を行った場合に出力されるパルス波形の例を示している。この場合、制御周期Tnで次の制御周期Tn+1のパルス波形12bを演算したら、そのパルス波形12bの開始位相θv1におけるオンオフ状態、すなわちスイッチング素子であるIGBT328、330の導通または遮断の制御状態を確認し、制御周期Tnのパルス波形12aと比較する。その結果、パルス波形12aとパルス波形12bのオンオフ状態が位相θv1において一致しておらず、両パルス波形が不連続な関係となっている場合は、補正後のパルス波形12cのオンオフ状態を位相θv1で強制的に切り替える。これにより、パルスの連続性が保たれるようにすることができる。
【0230】
すなわち、図50に示すように位相θv1においてパルス波形12aがオンであり、パルス波形12bがオフである場合は、位相θv1において補正後のパルス波形12cを強制的にオフとする。この場合、位相θv1がパルス補正後のスイッチングのオフ(立下がり)位相θoff'として新たに設定される。一方、50とは反対に、位相θv1においてパルス波形12aがオフであり、パルス波形12bがオンである場合は、位相θv1において補正後のパルス波形12dを強制的にオンとする。この場合、位相θv1がパルス補正後の立上がり位相θon'として新たに設定される。なお、パルス波形12aとパルス波形12bのオンオフ状態が位相θv1において一致しており、両パルス波形が連続している場合は、このようなパルス連続性補償は行われない。
【0231】
なお、パルス連続性補償によって補正後のパルス波形を強制的にオンまたはオフする場合は、最小パルス幅制限により、そのパルス幅が前述の最小パルス幅未満とならないようにデッドタイムを考慮してパルスが出力される。
【0232】
図51は、最小パルス幅制限を行った場合に出力されるパルス波形の例を示している。制御周期Tn-1において制御周期Tnのスイッチングのオン(立上がり)位相θonが算出されてパルス波形13aが出力された後、制御周期Tnにおいてパルスパターンが変化し、次の制御周期Tn+1におけるパルス波形13bが演算されたとする。この場合、上記のようなパルス連続性補償により、位相θv1において補正後のパルス波形13cが強制的にオフとされるが、このときのパルス幅が最小パルス幅未満であったとする。このような場合、最小パルス幅制限が行われ、パルス幅が最小パルス幅まで拡大される。その結果、位相θv1からずらしたタイミングにおいてオフとなる補正後のパルス波形13dが出力される。このとき、拡大後のパルス幅に応じた位相がパルス補正後のスイッチングのオフ(立下がり)位相θoff'として新たに設定される。なお、図51では補正後のパルス波形を強制的にオフする場合の例を示したが、強制的にオンする場合もこれと同様である。
【0233】
以上説明した実施の形態の電力変換装置140によれば、既に説明した様々な作用効果に加えて、次のような作用効果を奏することができる。
【0234】
(1)インバータ回路であるパワースイッチング回路144は、U相とV相とW相の各上アームを構成するためのスイッチング素子である複数のIGBT328と、U相とV相とW相の各下アームを構成するためのスイッチング素子である複数のIGBT330とを有する。そして、上アームと下アームとの間にモータジェネレータ192の固定子巻線が接続されることにより構成される直列回路にコンデンサモジュール500からの直流電力が供給され、上アームおよび下アームのU相とV相とW相の各IGBT328,330が順に導通および遮断を繰り返すことにより、モータジェネレータ192を駆動するための交流電力を発生する。制御回路172は、PHMパルス検索器464により、パワースイッチング回路144により発生される交流電力の所定高調波を低減して上アームおよび下アームの各IGBT328,330をそれぞれ制御するための、モータジェネレータ192の回転状態に応じた電気角ごとのパルス波形を表すPHMパルスUphm、Vphm、Wphmを、U相、V相、W相の各相について生成する。そして、生成した各相のPHMパルスUphm、Vphm、Wphmに基づいて、ゼロベクトル判定器465が行うゼロベクトル判定により、U相、V相、W相のうちPHMパルスの電圧値が他の2相とは異なるいずれか1相を特定し、その特定した1相について、切替器467により、PHMパルスUphm、VphmまたはWphmの電圧値を所定のゼロベクトルトリガ信号の周期ごとに反転させ、その反転後のPHMパルスおよび他の2相のPHMパルスに基づくゼロベクトル再配置型PHMパルス信号を、制御信号としてドライバ回路174へ出力する。ドライバ回路174は、制御回路172からの制御信号に基づいて、上アームおよび下アームの各IGBT328,330の動作を制御する。このようにしたので、スイッチング損失の低減を図ることができる電力変換装置を提供でき、また、スイッチング損失の低減を図ることができる電力変換装置の制御方法を提供できる。
【0235】
(2)パワースイッチング回路144は、電流センサ180によりU相、V相、W相の各相の電流を検出する。制御回路172は、電流センサ180により検出された各相の電流と、外部の制御装置から入力される目標トルク値としてのトルク指令T*とに基づいて、トルク指令・電流指令変換器410および電流制御器(ACR)422により、d軸電圧指令信号Vd*およびq軸電圧指令信号Vq*を所定の制御周期ごとに演算して出力する。このとき、ゼロベクトルトリガ信号の周期は、電流制御器(ACR)422による制御周期と略一致するようにした。これにより、常に安定したタイミングで各相の電流を検出し、制御回路172の制御における電流フィードバックに使用できるため、モータジェネレータ192の駆動を適切に制御することができる。
【0236】
(3)制御回路172は、リミッタ463およびPHMパルス検索器464により、所定高調波を低減可能な変調度の上限値に応じた相電圧パルス波形から、U相、V相、W相の各相の電圧値が全て一致する3相短絡期間のパルスを除去することにより、PHM外郭パルスである相電圧パルス波形Uphm、Vphm、Wphmを生成する。このようにしたので、所望の高調波を抑制しつつ、上アームおよび下アームの各IGBT328,330の導通回数を減らしてスイッチング損失の低減を図ることができる。
【0237】
(4)制御回路172は、パワースイッチング回路144により発生する交流電力に応じた変調度ainに基づいて、ゼロベクトルトリガ信号が0(Low)である期間の幅を比較器462において決定する。これにより、ゼロベクトル判定で特定された1相について切替器467がPHMパルスUphm、VphmまたはWphmの電圧値をゼロベクトルトリガ信号の周期ごとに反転させる電気角の幅を決定するようにした。そのため、出力しようとする交流電力に応じた適切な電気角の幅でPHMパルスUphm、VphmまたはWphmの電圧値を反転させ、ゼロベクトルパルスを挿入することができる。
【0238】
(5)制御回路172は、比較器462において、変調度ainを三角波発生器461が発生する所定周期の三角波と比較することにより、ゼロベクトルトリガ信号の周期と、切替器467がPHMパルスUphm、VphmまたはWphmの電圧値をゼロベクトルトリガ信号の周期ごとに反転させる電気角の幅、すなわちゼロベクトルトリガ信号が0(Low)である期間の幅とを決定する。このようにしたので、ゼロベクトルトリガ信号の周期およびゼロベクトルトリガ信号が0(Low)である期間の幅を適切かつ容易に決定することができる。
【0239】
(6)制御回路172は、ゼロベクトル決定器466においてラッチ有りゼロベクトル決定を行うことができる。その場合、ゼロベクトル判定器465が行うゼロベクトル判定で特定された1相が、ゼロベクトルトリガ信号の周期の開始時点から、切替器467がPHMパルスUphm、VphmまたはWphmの電圧値をゼロベクトルトリガ信号の周期ごとに反転させる電気角の幅、すなわちゼロベクトルトリガ信号が0(Low)である期間の幅以内で変化する場合は、ゼロベクトルトリガ信号の周期の開始時点で特定された1相についてPHMパルスUphm、VphmまたはWphmの電圧値を反転させ、その反転後の電圧値と他の2相の電圧値とをゼロベクトルトリガ信号が0(Low)である期間の幅内でそれぞれ維持するようにした。これにより、さらにスイッチング回数を少なくしてスイッチング損失の低減を図ることができる。
【0240】
(7)パワースイッチング回路144により発生される交流電力において低減する高調波は、5次高調波を少なくとも含むことが好ましい。このようにすれば、モータジェネレータ192のトルク脈動に対する影響が大きい低次の高調波成分を低減できるため、トルク脈動を効果的に抑制することができる。
【符号の説明】
【0241】
43 電力変換装置
110 電動車両
112 前輪
114 前輪車軸
116 前輪側ディファレンシャルギア(前輪側DEF)
118 変速機
120 エンジン
122 動力分配機構
136 バッテリ
138 直流コネクタ
140 電力変換装置
142 電力変換装置
144 パワースイッチング回路
150 上下アーム直列回路
153 コレクタ電極
154 ゲート電極
155 エミッタ電極
156 ダイオード
157 正極端子(P端子)
158 負極端子(N端子)
159 交流端子
163 コレクタ電極
164 ゲート電極
165 エミッタ電極
166 ダイオ−ド
169 接続点
170 制御部
172 制御回路
174 ドライバ回路
186 交流電力線
180 電流センサ
188 交流コネクタ
192 モータジェネレータ
193 回転磁極センサ
194 モータジェネレータ
195 補機用のモータ
200 電力変換装置
314 直流正極端子
316 直流負極端子
328 IGBT
330 IGBT
410 トルク指令・電流指令変換器
420 電流制御器(ACR)
421 電流制御器(ACR)
422 電流制御器(ACR)
430 PHM制御用のパルス変調器
431 電圧位相差演算器
432 変調度演算器
434 パルス生成器
435 PHMパルス位相検索器
436 パルス出力器
436’ パルス出力器
437 パルス補正器
438 パルス生成器
440 PWM制御用のパルス変調器
450 切換器
460 角速度演算器
461 三角波発生器
462 比較器
463 リミッタ
464 PHMパルス位相検索器
465 ゼロベクトル判定器
466 ゼロベクトル決定器
467 切替器
468 パルス補正器
469 パルス出力器
470 ゼロベクトル再配置型PHM制御用のパルス変調器
490 2相3相変換器
491 比較器
492 搬送波発生器
500 コンデンサモジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を受け、回転電機(またはモータ)を駆動するための交流電力を発生するインバータ回路と、
直流電力を前記インバータ回路に供給するための平滑用コンデンサと、
前記インバータ回路を制御するための制御回路と、
前記制御回路の出力に基づき前記インバータ回路を駆動するためのドライバ回路と、を備え、
前記インバータ回路は、U相とV相とW相の各上アームを構成するための複数のスイッチング素子と、U相とV相とW相の各下アームを構成するための複数のスイッチング素子とを有し、上アームと下アームとの間に前記回転電機(またはモータ)の固定子巻線が接続されることにより構成される直列回路に前記平滑用コンデンサからの直流電力が供給され、前記上アームおよび前記下アームのU相とV相とW相の各スイッチング素子が順に導通および遮断を繰り返すことにより、前記回転電機(またはモータ)を駆動するための交流電力を発生し、
前記制御回路は、前記交流電力の所定高調波を低減して前記上アームおよび前記下アームの各スイッチング素子をそれぞれ制御するための、前記回転電機(またはモータ)の回転状態に応じた電気角ごとのパルス波形を、前記U相、V相、W相の各相について生成し、生成した前記各相のパルス波形に基づいて、前記U相、V相、W相のうち前記パルス波形の電圧値が他の2相とは異なるいずれか1相を特定し、前記特定した1相について前記パルス波形の電圧値を所定のトリガ周期ごとに反転させ、その反転後のパルス波形および前記他の2相のパルス波形に基づく制御信号を前記ドライバ回路へ出力し、
前記ドライバ回路は、前記制御回路からの制御信号に基づいて、前記上アームおよび前記下アームの各スイッチング素子の動作を制御することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記U相、V相、W相の各相の電流を検出する電流検出手段をさらに備え、
前記制御回路は、前記電流検出手段により検出された各相の電流と、外部から入力されるトルク指令とに基づいて、電圧指令信号を所定の制御周期ごとに演算して出力し、
前記トリガ周期は、前記制御周期と略一致することを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電力変換装置において、
前記制御回路は、前記所定高調波を低減可能な変調度の上限値に応じたパルス波形から、前記U相、V相、W相の各相の電圧値が全て一致する3相短絡期間のパルスを除去することにより、前記パルス波形を生成することを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電力変換装置において、
前記制御回路は、前記交流電力に応じた変調度に基づいて、前記特定した1相について前記パルス波形の電圧値を前記トリガ周期ごとに反転させる電気角の幅を決定することを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電力変換装置において、
前記制御回路は、前記変調度を所定周期の三角波と比較することにより、前記トリガ周期および前記電気角の幅を決定することを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の電力変換装置において、
前記制御回路は、前記特定した1相が前記トリガ周期の開始時点から前記決定した電気角の幅以内で変化する場合は、前記トリガ周期の開始時点で特定した1相について前記パルス波形の電圧値を反転させ、その反転後の電圧値と他の2相の電圧値とを前記決定した電気角の幅内でそれぞれ維持することを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の電力変換装置において、
前記所定高調波は、5次高調波を少なくとも含むことを特徴とする電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【公開番号】特開2012−165495(P2012−165495A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21925(P2011−21925)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】