説明

電動ブレーキ装置

【課題】摩擦パッドの押圧力を検出するためのセンサが、摩擦パッドとブレーキディスクの間の摩擦熱の影響を受けにくい電動ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】回転軸11の外径面に転がり接触する複数の遊星ローラ12と、軸方向移動を規制されたキャリヤ14と、軸方向に移動可能な外輪部材13と、外輪部材13の軸方向前端に配置された摩擦パッド8とを有し、回転軸11の回転を外輪部材13の軸方向移動に変換し、その外輪部材13で摩擦パッド8を押圧する電動ブレーキ装置1において、外輪部材13で摩擦パッド8を押圧したときに外輪部材13に作用する軸方向後方への反力を受け止める反力受け部材15を外輪部材13の軸方向後方に設け、その反力受け部材15の変位を測定する変位センサ38を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車などに使用される電動ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ブレーキ装置として、摩擦パッドを油圧シリンダで駆動してブレーキディスクを押圧する油圧ブレーキ装置が採用されてきたが、近年、ABS(アンチロックブレーキシステム)等のブレーキ制御の導入に伴い、油圧回路を使用しない電動ブレーキ装置が注目されている。
【0003】
電動ブレーキ装置は、電動モータで駆動する回転軸の回転を直線運動に変換し、その直動機構の直動部材で摩擦パッドを押圧してブレーキディスクに押さえ付けるものである。そして、電動ブレーキ装置においては、制動力を所望の大きさに制御するために、摩擦パッドの押圧力を検出するセンサを組み込むことが多い。
【0004】
このように摩擦パッドの押圧力を検出するセンサを組み込んだ電動ブレーキ装置として、例えば特許文献1〜3に記載のものが知られている。
【0005】
特許文献1に記載の電動ブレーキ装置は、ブレーキディスクを間に挟んで対向する対向片をブリッジで連結したキャリパボディと、キャリパボディに組み込まれた直動機構とを有し、その直動機構の直動部材で摩擦パッドを押圧してブレーキディスクに押さえ付ける。そして、キャリパボディのブリッジ部と対向片の接合位置に歪センサを組み込み、その歪センサで摩擦パッドの押圧力を検出するようにしている。
【0006】
特許文献2に記載の電動ブレーキ装置も、ブレーキディスクを間に挟んで対向する対向片をブリッジで連結したキャリパボディと、キャリパボディに組み込まれた直動機構とを有し、その直動機構の直動部に一対の電極を埋め込み、歪みに応じて変化する電極間の電気抵抗を計測することで摩擦パッドの押圧力を検出するようにしている。
【0007】
特許文献3に記載の電動ブレーキ装置も、ブレーキディスクを間に挟んで対向する対向片をブリッジで連結したキャリパボディと、キャリパボディに組み込まれた直動機構とを有し、その直動機構の直動部材の内部に液圧室を設け、歪みに応じて変化する液圧室の圧力を液圧センサで測定することで摩擦パッドの押圧力を検出するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−287063号公報
【特許文献2】特開2003−014018号公報
【特許文献3】特開2004−204990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、一般に、摩擦パッドとブレーキディスクの間には摩擦熱が生じ、その摩擦熱によって、摩擦パッドの周囲は高温にさらされる。
【0010】
一方、特許文献1に記載の電動ブレーキ装置は、摩擦パッドの押圧力を検出するための歪センサが、キャリパボディのブリッジ部と対向片の接合位置に配置されている。そのため、歪センサが高温となり、センサ信号を処理する回路を歪センサの近くに配置することができず、センサ信号にノイズが入りやすいという問題があった。また、キャリパボディは、高温になったときに温度分布が不均一となって熱歪みを生じる。この熱歪みが誤差となるので、摩擦パッドの押圧力による歪みを高い精度で測定することが難しかった。
【0011】
特許文献2に記載の電動ブレーキ装置も、摩擦パッドの押圧力を検出するための電極が、摩擦パッドを押圧する直動機構の直動部材に配置されているので、電極が高温となり、信号処理回路を電極の近くに配置することができず、信号にノイズが入りやすいという問題があった。また、電極を埋め込んだ直動部材が移動するので、電極までの配線を移動可能に設計する必要があり、コスト高であった。
【0012】
特許文献3に記載の電動ブレーキ装置は、万一、液圧室の作動液が漏れて、エアが液圧室に混入した場合、液圧センサの出力が摩擦パッドの押圧力に対応しなくなるので、長期にわたって信頼性を確保するのが難しい。また、高い信頼性をもって液圧室の液密状態を確保しようとすると、コストが高くなるという問題があった。
【0013】
この発明が解決しようとする課題は、摩擦パッドの押圧力を検出するためのセンサが、摩擦パッドとブレーキディスクの間の摩擦熱の影響を受けにくい電動ブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、電動モータで駆動される回転軸と、その回転軸の回転を直動部材の直線運動に変換する直動機構と、前記直動部材を軸方向にスライド可能に収容する収容孔が設けられたキャリパボディと、前記直動部材の軸方向前端に配置された摩擦パッドとを有し、前記直動部材で摩擦パッドを押圧してブレーキディスクに押さえ付ける電動ブレーキ装置において、前記直動部材で摩擦パッドを押圧したときに直動部材に作用する軸方向後方への反力を受け止める反力受け部材を直動部材の軸方向後方に設け、その反力受け部材の変位を測定する変位センサを設けた構成を採用した。
【0015】
このようにすると、変位センサの位置が、直動機構の直動部材ではなく、直動部材に作用する反力を受け止める部分に配置されているので、摩擦パッドから変位センサまでの距離が長くとれる。そのため、変位センサが、摩擦パッドとブレーキディスクの間の摩擦熱の影響を受けにくく、高い精度で摩擦パッドの押圧力を検出することが可能である。
【0016】
前記収容孔の内周の前記直動部材のスライドする部分よりも軸方向後方に円周溝を設け、その円周溝に、前記反力受け部材の軸方向後方への移動を規制する止め輪を装着することができる。この場合、止め輪で前記反力受け部材の移動を直接規制するようにしてもよいが、前記止め輪と前記反力受け部材の間に弾性部材を挟み込み、その弾性部材を介して反力受け部材の移動を規制すると好ましい。このようにすると、直動部材に作用する軸方向後方への反力を反力受け部材で受け止めたときに、反力受け部材自体の歪みにより反力受け部材が変位するだけでなく、弾性部材の変形によっても反力受け部材が変位するので、止め輪で前記反力受け部材を直接支持した場合よりも反力受け部材の変位が大きくなり、その結果、高い分解能で摩擦パッドの押圧力を検出することが可能となる。
【0017】
前記弾性部材としては、コイルスプリングなどを用いることもできるが、前記止め輪の内径よりも径方向内側の位置で前記反力受け部材に当接する断面L字状の環状金属部材を用いると、短い軸方向長さで大きい軸方向荷重に対応することが可能となり、電動ブレーキ装置の軸方向長さを抑えて、省スペースを実現することができる。
【0018】
また、直動部材に作用する反力を、前記止め輪で軸方向移動を規制された反力受け部材で受け止めたときに、反力受け部材は外径側よりも内径側の方が大きく変形する。そのため、変位センサは、反力受け部材の外径側部分ではなく、反力受け部材の最内径側部分の軸方向変位を測定するように取り付けると、より高い精度で摩擦パッドの押圧力を検出することが可能となる。ここで、変位センサは、半径方向に延びる帯板状の部材などに取り付けてもよいが、前記反力受け部材の軸方向後方に前記回転軸が貫通するリング状のセンサ取付板を固定し、そのセンサ取付板に前記変位センサを取り付けると好ましい。このようにすると、リング状のセンサ取付板は剛性が高く、変位センサの振動が抑えられるので、変位センサの検出精度が安定する。
【0019】
前記変位センサとしては、例えば光学センサを用いることができる。この場合、塵や潤滑油で光学センサの検出部が汚れるのを防止するために、光学センサと前記反力受け部材の間の空間を前記反力受け部材の変位に応じて変形する柔軟部材で覆うと好ましい。このようにすると、光学センサの検出精度を長期にわたって維持することが可能となる。
【0020】
また、前記変位センサとしては、磁気式センサ、渦電流式センサ、静電容量式センサのいずれかを用いてもよい。これらのセンサは塵や潤滑油の影響を受けにくく、低コストでセンサの信頼性を維持することが可能である。
【0021】
軸方向に直交する方向を磁化方向とする複数の永久磁石をN極とS極が軸方向に隣り合うように配置して前記反力受け部材に固定し、軸方向に隣り合う前記N極とS極の境目の近傍に前記変位センサとして磁気センサを設けることができる。このようにすると、変位センサの出力信号は反力受け部材の軸方向変位に対して急峻に変化し、一方、軸方向以外の方向の変位に対してはあまり変化しないという軸方向の指向性を示す。そのため、外部振動の影響を受けにくく、安定した精度でアクチュエータの軸方向荷重の大きさを検出することができる。
【0022】
前記直動機構としては、前記回転軸の外径面に転がり接触する複数の遊星ローラと、その複数の遊星ローラを自転可能かつ公転可能に保持し、軸方向移動を規制されたキャリヤと、前記複数の遊星ローラを囲むように配置された前記直動部材としての外輪部材と、その外輪部材の内径面に設けられた螺旋凸条と、その螺旋凸条と係合するように前記各遊星ローラの外径面に設けられた螺旋溝または円周溝とからなる構成のものを採用することができる。ここで、前記直動部材としての外輪部材が摩擦パッドを軸方向前方に押圧するとき、外輪部材に作用する軸方向後方への反力は、遊星ローラとキャリヤを介して反力受け部材で受け止められる。
【発明の効果】
【0023】
この発明の電動ブレーキ装置は、変位センサの位置が、直動機構の直動部材ではなく、直動部材に作用する反力を受け止める部分に配置されているので、摩擦パッドから変位センサまでの距離が長く、変位センサの周囲が高温になりにくい。そのため、高い精度で摩擦パッドの押圧力を検出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施形態の電動ブレーキ装置を示す断面図
【図2】図1のII−II線に沿った断面図
【図3】図1の電動式直動アクチュエータ近傍の拡大断面図
【図4】図3のIV−IV線に沿った断面図
【図5】図1の電動ブレーキ装置の変形例を示す断面図
【図6】直動機構としてボールねじ機構を採用した例を示す電動ブレーキ装置の拡大断面図
【図7】直動機構としてボールランプ機構を採用した例を示す電動ブレーキ装置の拡大断面図
【図8】図7のVIII−VIII線に沿った断面図
【図9】(a)は図7に示すボールと傾斜溝の関係を示す図、(b)は(a)に示す状態から回転ディスクと直動ディスクが相対回転して両ディスクの間隔が拡大した状態を示す図
【図10】図3に示す変位センサの他の例を示す図
【図11】図10の変位センサ近傍の拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1に、この発明の実施形態の電動ブレーキ装置1を示す。この電動ブレーキ装置1は、
車輪と一体に回転するブレーキディスク2を間に挟んで対向する対向片3,4をブリッジ5で連結した形状のキャリパボディ6と、対向片3に組み付けられた電動式直動アクチュエータ7と、左右一対の摩擦パッド8,9とからなる。
【0026】
摩擦パッド8は、対向片3とブレーキディスク2の間に設けられており、キャリパボディ6に取り付けられたパッドピン(図示せず)でブレーキディスク2の軸方向に移動可能に支持されている。他方の摩擦パッド9は反対側の対向片4に取り付けられている。キャリパボディ6は、スライドピンP(図2参照)でブレーキディスク2の軸方向にスライド可能に支持されている。
【0027】
図1に示すように、電動式直動アクチュエータ7は、電動モータ10で駆動される回転軸11と、複数の遊星ローラ12と、これらの遊星ローラ12を囲むように配置された外輪部材13と、遊星ローラ12を保持するキャリヤ14と、外輪部材13の軸方向後方に配置された反力受け部材15とを有する。
【0028】
回転軸11と電動モータ10は平行に配置されている。図2に示すように、回転軸11に固定された歯車16と、電動モータ10の出力軸17に固定された歯車18が中間歯車19を介して噛み合っており、電動モータ10の出力軸17の回転が、歯車18、中間歯車19、歯車16を順に介して回転軸11に伝達するようになっている。歯車16と中間歯車19と歯車18は、図1に示すように、対向片3に取り付けられた蓋20で覆われている。
【0029】
図3に示すように、外輪部材13の内径面と回転軸11の外径面の間に遊星ローラ12が組み込まれている。遊星ローラ12は、回転軸11の外径面に転がり接触しており、回転軸11が回転したときに遊星ローラ12と回転軸11の間の摩擦によって遊星ローラ12も回転するようになっている。図4に示すように、遊星ローラ12は、周方向に一定の間隔をおいて複数設けられている。
【0030】
図3に示すように、各遊星ローラ12は、キャリヤ14で自転可能かつ公転可能に保持されている。キャリヤ14は、遊星ローラ12を回転可能に支持するキャリヤピン14Aと、その各キャリヤピン14Aの軸方向前端の周方向間隔を一定に保持する環状のキャリヤプレート14Cと、各キャリヤピン14Aの軸方向後端の周方向間隔を一定に保持する環状のキャリヤ本体14Bとからなる。キャリヤプレート14Cとキャリヤ本体14Bは遊星ローラ12を間に軸方向に対向しており、周方向に隣り合う遊星ローラ12の間に配置された連結棒21を介して連結されている。キャリヤ本体14Bは、滑り軸受22を介して回転軸11に支持され、回転軸11に対して相対回転可能となっている。
【0031】
各キャリヤピン14Aは、周方向に間隔をおいて配置された複数のキャリヤピン14Aに外接するように装着された縮径リングばね23で径方向内方に付勢されている。この縮径リングばね23の付勢力によって、遊星ローラ12の外径面は回転軸11の外径面に押さえ付けられ、回転軸11と遊星ローラ12の間の滑りが防止されている。縮径リングばね23の付勢力を遊星ローラ12の軸方向全長にわたって作用させるため、キャリヤピン14Aの両端に縮径リングばね23,23が設けられている。
【0032】
外輪部材13は、キャリパボディ6の対向片3に設けられた収容孔24内に収容され、その収容孔24内を軸方向にスライド可能となっている。外輪部材13の軸方向前端には摩擦パッド8が配置され、その摩擦パッド8の背面に係合凸部25が形成されている。係合凸部25は外輪部材13の軸方向前端に形成された係合凹部26に係合し、その係合によって外輪部材13を回り止めしている。したがって、外輪部材13は、キャリパボディ6に対して回り止めされかつ軸方向に移動可能な状態となっている。
【0033】
外輪部材13の軸方向前側の開口は、シール部材27で塞がれている。シール部材27は金属製の薄板をプレス成形して形成され、外輪部材13内に締め代をもって挿入して固定されている。
【0034】
外輪部材13の内径面には螺旋凸条28が設けられ、遊星ローラ12の外径面には、螺旋凸条28に係合する螺旋溝29が設けられている。螺旋凸条28と螺旋溝29はリード角が異なっており、遊星ローラ12が回転したときに、外輪部材13の螺旋凸条28が螺旋溝29に案内されて、外輪部材13が軸方向に移動するようになっている。この実施形態では遊星ローラ12の外周に螺旋溝29を設けているが、螺旋溝29のかわりにリード角が0度の円周溝を設けてもよい。
【0035】
収容孔24の内周には、外輪部材13のスライドする部分よりも軸方向後方に円周溝30が設けられ、この円周溝30に止め輪31が装着されている。止め輪31は、円弧状に分割された複数の分割体を組み合わせて形成され、環状のリテーナ32で径方向移動を規制することにより円周溝30内に保持されている。
【0036】
反力受け部材15は、回転軸11が貫通するリング状に形成されており、その外周縁を止め輪31で係止することによって軸方向後方への移動が規制されている。そして、この反力受け部材15は、スラスト軸受33と間座34とを介してキャリヤ本体14Bを軸方向に支持することで、キャリヤ14の軸方向後方への移動を規制している。反力受け部材15とキャリヤ14の間に組み込まれたスラスト軸受33は、キャリヤ14の回転が反力受け部材15に伝達するのを遮断している。
【0037】
また、キャリヤ14は、回転軸11の軸方向前端に装着された止め輪35で軸方向前方への移動も規制されている。したがって、キャリヤ14は、軸方向前方と軸方向後方の移動がいずれも規制され、キャリヤ14に保持された遊星ローラ12も軸方向移動が規制された状態となっている。
【0038】
遊星ローラ12とキャリヤ本体14Bの間にはスラスト軸受36が組み込まれている。このスラスト軸受36は、外輪部材13で摩擦パッド8を押圧するときに遊星ローラ12の自転がキャリヤ本体14Bに伝達するのは遮断し、外輪部材13から遊星ローラ12に伝達した軸方向後方への反力はキャリヤ14に伝達する。キャリヤ14に伝達した反力は、間座34とスラスト軸受33を介して上記反力受け部材15で受け止められる。
【0039】
反力受け部材15の軸方向後方には、回転軸11が貫通するリング状のセンサ取付板37が固定されている。この固定は、例えば、対向片3と蓋20の間にセンサ取付板37を挟み込むことによって行うことができる。センサ取付板37には、反力受け部材15の最内径側部分15aの軸方向変位を測定するように変位センサ38が取り付けられている。変位センサ38としては、光学センサ、磁気式センサ、渦電流式センサ、静電容量式センサなどを用いることができる。反力受け部材15の最内径側部分15aは筒状に形成されており、その内径側に組み込まれた転がり軸受39を介して回転軸11を回転可能に支持している。
【0040】
次に電動ブレーキ装置1の動作例を説明する。
【0041】
電動モータ10を作動させると、回転軸11が回転し、遊星ローラ12がキャリヤピン14Aを中心に自転しながら回転軸11を中心に公転する。このとき螺旋凸条28と螺旋溝29の係合によって外輪部材13と遊星ローラ12が軸方向に相対移動するが、遊星ローラ12はキャリヤ14と共に軸方向の移動が規制されているので、遊星ローラ12は軸方向に移動せず、外輪部材13が軸方向に移動する。このようにして、電動ブレーキ装置1は、電動モータ10で駆動される回転軸11の回転を外輪部材13の軸方向移動に変換し、その外輪部材13で摩擦パッド8を押圧してブレーキディスク2に押さえ付けることによって制動力を発生する。
【0042】
ここで、外輪部材13が摩擦パッド8を押圧するとき、外輪部材13には軸方向後方への反力が作用し、その反力は、遊星ローラ12、スラスト軸受36、間座34、スラスト軸受33を介して反力受け部材15で受け止められる。そして、その反力によって反力受け部材15は軸方向に変形し、その変形による反力受け部材15の軸方向の変位が変位センサ38で測定される。この反力受け部材15の変位の大きさは、摩擦パッド8の押圧力に対応している。そのため、変位センサ38の出力信号に基づいて電動ブレーキ装置1の制動力の大きさを求めることができ、変位センサ38の出力信号を用いて電動ブレーキ装置1の制動力を制御することができる。
【0043】
ところで、摩擦パッド8を押圧してブレーキディスク2に押さえ付けたとき、摩擦パッド8とブレーキディスク2の間に摩擦熱が生じ、その摩擦熱によって、摩擦パッド8の周囲は高温にさらされる。そのため、摩擦パッド8の押圧力を検出するためのセンサを、キャリパボディ6のブリッジ5や、電動式直動アクチュエータ7の直動部材(すなわち外輪部材13)に配置すれば、センサが高温となり、センサ信号を処理する回路を歪センサの近くに配置することができず、センサ信号にノイズが入りやすいという問題が生じる。
【0044】
これに対し、上記電動ブレーキ装置1は、摩擦パッド8の押圧力を検出するための変位センサ38を、電動式直動アクチュエータ7の直動部材(外輪部材13)ではなく、直動部材に作用する反力を受け止める部分(反力受け部材15)に配置しているので、摩擦パッド8から変位センサ38までの距離が長く、変位センサ38の周囲が高温になりにくい。そのため、高い精度で摩擦パッド8の押圧力を検出することが可能である。
【0045】
また、上記電動ブレーキ装置1は、キャリヤ14から反力受け部材15への回転の伝達がスラスト軸受33で遮断され、スラスト荷重だけが反力受け部材15に伝達されるので、反力受け部材15の変位量が安定しており、高い精度で摩擦パッド8の押圧力を検出することが可能である。
【0046】
また、外輪部材13に作用する反力を反力受け部材15で受け止めたときに、反力受け部材15は外径側よりも内径側の方が大きく変形する。そのため、変位センサ38は、反力受け部材15の外径側部分ではなく、上記実施形態で示すように反力受け部材15の最内径側部分15aの軸方向変位を測定するように取り付けると、高い精度で摩擦パッド8の押圧力を検出することができる。ここで、変位センサ38を取り付ける部材は、半径方向に延びる帯板状のものなどを採用することも可能であるが、上記実施形態で示すように、リング状のセンサ取付板37を採用すると好ましい。このようにすると、リング状のセンサ取付板37は剛性が高く、変位センサ38の振動が抑えられるので、変位センサ38の検出精度が安定する。
【0047】
変位センサ38として光学センサを用いる場合、塵や潤滑油で光学センサの検出部が汚れるのを防止するために、変位センサ38と反力受け部材15の間の空間を反力受け部材15の変位に応じて変形する柔軟部材(図示せず)で覆うと好ましい。このようにすると、変位センサ38の検出精度を長期にわたって維持することが可能となる。
【0048】
上記実施形態に示すように、反力受け部材15の移動を止め輪31で直接規制するようにしてもよいが、図5に示すように、止め輪31と反力受け部材15の間に弾性部材40を挟み込み、その弾性部材40を介して反力受け部材15の移動を規制するようにしてもよい。このようにすると、外輪部材13に作用する軸方向後方への反力を反力受け部材15で受け止めたときに、反力受け部材15自体の歪みにより反力受け部材15が変位するだけでなく、弾性部材40の変形によっても反力受け部材15が変位するので、止め輪31で反力受け部材15を直接支持した場合よりも反力受け部材15の変位が大きくなり、その結果、高い分解能で摩擦パッド8の押圧力を検出することが可能となる。
【0049】
ここで、弾性部材40としては、コイルスプリングなどを用いることもできるが、図に示すように、止め輪31の内径よりも径方向内側の位置で反力受け部材15に当接する断面L字状の環状金属部材を採用することができる。このようにすると、短い軸方向長さで大きい軸方向荷重に対応することが可能となり、電動ブレーキ装置の軸方向長さを抑えて、省スペースを実現することができる。
【0050】
上記実施形態では、回転軸11の回転を直動部材の直線運動に変換する直動機構として、回転軸11の外径面に転がり接触する複数の遊星ローラ12と、遊星ローラ12を自転可能かつ公転可能に保持し、軸方向移動を規制されたキャリヤ14と、複数の遊星ローラ12を囲むように配置された直動部材としての外輪部材13と、外輪部材13の内径面に設けられた螺旋凸条28と、螺旋凸条28と係合するように各遊星ローラ12の外径面に設けられた螺旋溝29または円周溝とからなる遊星ローラ機構を例に挙げて説明したが、この発明は、他の構成の直動機構を採用した電動ブレーキ装置にも同様に適用することができる。
【0051】
例えば、直動機構としてボールねじ機構を採用した電動ブレーキ装置の例を図6に示す。以下、上記実施形態に対応する部分は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0052】
図6において、電動式直動アクチュエータは、回転軸11と、回転軸11と一体に設けられたねじ軸50と、ねじ軸50を囲むように設けられたナット51と、ねじ軸50の外周に形成されたねじ溝52とナット51の内周に形成されたねじ溝53の間に組み込まれた複数のボール54と、ナット51のねじ溝53の終点から始点にボール54を戻す図示しないリターンチューブと、ナット51の軸方向後方に配置された反力受け部材15とを有する。
【0053】
ナット51は、キャリパボディ6の対向片3に設けられた収容孔24内に、キャリパボディ6に対して回り止めされた状態で軸方向にスライド可能に収容されている。ねじ軸50の軸方向後端にはねじ軸50と一体に回転する間座34が設けられ、その間座34がスラスト軸受33を介して反力受け部材15で支持されている。ここで、反力受け部材15は、間座34とスラスト軸受33とねじ軸50とを介してナット51を軸方向に支持することでナット51の軸方向後方への移動を規制している。
【0054】
この電動式直動アクチュエータは、回転軸11を回転させることによって、ねじ軸50とナット51を相対回転させて、ナット51を軸方向前方に移動させることができる。このとき、ねじ軸50には、軸方向後方への反力が作用し、その反力は、間座34、スラスト軸受33を介して反力受け部材15で受け止められる。そして、その反力によって反力受け部材15は軸方向に変形し、その変形による反力受け部材15の軸方向の変位が変位センサ38で測定され、この変位センサ38の出力信号に基づいて、摩擦パッド8の押圧力を検出することができる。
【0055】
例えば、直動機構としてボールランプ機構を採用した電動ブレーキ装置を適用した例を図7に示す。
【0056】
図7において、電動式直動アクチュエータは、回転軸11と、回転軸の外周に回り止めされた回転ディスク60と、回転ディスク60の軸方向前方に対向して配置された直動ディスク61と、回転ディスク60と直動ディスク61の間に挟まれた複数のボール62と、直動ディスク61の軸方向後方に配置された反力受け部材15とを有する。
【0057】
直動ディスク61は、キャリパボディ6の対向片3に設けられた収容孔24内に、キャリパボディ6に対して回り止めされた状態で軸方向にスライド可能に収容されている。回転ディスク60の軸方向後端には回転ディスク60と一体に回転する間座34が設けられ、その間座34がスラスト軸受33を介して反力受け部材15で支持されている。ここで、反力受け部材15は、間座34とスラスト軸受33とを介して回転ディスク60を軸方向に支持することで回転ディスク60の軸方向後方への移動を規制している。
【0058】
図7、図8に示すように、回転ディスク60の直動ディスク61に対する対向面60aには、周方向の一方向に沿って深さが次第に浅くなる傾斜溝63が形成され、直動ディスク61の回転ディスク60に対する対向面61aには、周方向の他方向に沿って深さが次第に浅くなる傾斜溝64が形成されている。図9(a)に示すように、ボール62は、回転ディスク60の傾斜溝63と直動ディスク61の傾斜溝64の間に組み込まれており、図9(b)に示すように、直動ディスク61に対して回転ディスク60が相対回転すると、傾斜溝63,64内をボール62が転動して、回転ディスク60と直動ディスク61の間隔が拡大するようになっている。
【0059】
この電動式直動アクチュエータは、回転軸11を回転させることによって、直動ディスク61と回転ディスク60を相対回転させて、直動ディスク61を軸方向前方に移動させることができる。このとき、回転ディスク60には、軸方向後方への反力が作用し、その反力は、間座34、スラスト軸受33を介して反力受け部材15で受け止められる。そして、その反力によって反力受け部材15は軸方向に変形し、その変形による反力受け部材15の軸方向の変位が変位センサ38で測定され、この変位センサ38の出力信号に基づいて、摩擦パッド8の押圧力を検出することができる。
【0060】
また、変位センサ38として磁気センサを採用する場合、図10、図11に示すように、軸方向に直交する方向を磁化方向とする2個の永久磁石70をN極とS極が軸方向に隣り合うように配置して反力受け部材15に固定し、軸方向に隣り合うN極とS極の境目の近傍に変位センサ38を設けることができる。このようにすると、変位センサ38の出力信号は反力受け部材15の軸方向変位に対して急峻に変化し、一方、軸方向以外の方向の変位に対してはあまり変化しないという軸方向の指向性を示す。そのため、外部振動の影響を受けにくく、安定した精度で摩擦パッド8の押圧力を検出することが可能となる。
【0061】
図11において、永久磁石70は、円環板状の反力受け部材15の内径側部分から軸方向後方に延びる筒部71の外径面72に固定されている。センサ取付板37には、外径面72と半径方向に対向する内径面73が形成され、この内径面73に変位センサ38が固定されている。
【符号の説明】
【0062】
1 電動ブレーキ装置
2 ブレーキディスク
6 キャリパボディ
8 摩擦パッド
10 電動モータ
11 回転軸
12 遊星ローラ
13 外輪部材
14 キャリヤ
15 反力受け部材
15a 最内径側部分
24 収容孔
28 螺旋凸条
29 螺旋溝
30 円周溝
31 止め輪
33 スラスト軸受
37 センサ取付板
38 変位センサ
40 弾性部材
70 永久磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータ(10)で駆動される回転軸(11)と、その回転軸(11)の回転を直動部材の直線運動に変換する直動機構と、前記直動部材を軸方向にスライド可能に収容する収容孔(24)が設けられたキャリパボディ(6)と、前記直動部材の軸方向前端に配置された摩擦パッド(8)とを有し、前記直動部材で摩擦パッド(8)を押圧してブレーキディスク(2)に押さえ付ける電動ブレーキ装置において、
前記直動部材で摩擦パッド(8)を押圧したときに直動部材に作用する軸方向後方への反力を受け止める反力受け部材(15)を直動部材の軸方向後方に設け、その反力受け部材(15)の変位を測定する変位センサ(38)を設けたことを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項2】
前記収容孔(24)の内周の前記直動部材(13)のスライドする部分よりも軸方向後方に円周溝(30)を設け、その円周溝(30)に、前記反力受け部材(15)の軸方向後方への移動を規制する止め輪(31)を装着した請求項1に記載の電動ブレーキ装置。
【請求項3】
前記止め輪(31)と前記反力受け部材(15)の間に弾性部材(40)を挟み込んだ請求項2に記載の電動ブレーキ装置。
【請求項4】
前記弾性部材(40)として、前記止め輪(31)の内径よりも径方向内側の位置で前記反力受け部材(15)に当接する断面L字状の環状金属部材を用いた請求項3に記載の電動ブレーキ装置。
【請求項5】
前記反力受け部材(15)の最内径側部分(15a)の軸方向変位を測定するように前記変位センサ(38)を取り付けた請求項1から4のいずれかに記載の電動ブレーキ装置。
【請求項6】
前記反力受け部材(15)の軸方向後方に前記回転軸(11)が貫通するリング状のセンサ取付板(37)を固定し、そのセンサ取付板(37)に前記変位センサ(38)を取り付けた請求項1から5のいずれかに記載の電動ブレーキ装置。
【請求項7】
前記変位センサ(38)として光学センサを用いた請求項1から6のいずれかに記載の電動ブレーキ装置。
【請求項8】
前記光学センサと前記反力受け部材(15)の間の空間を前記反力受け部材(15)の変位に応じて変形する柔軟部材で覆った請求項7に記載の電動ブレーキ装置。
【請求項9】
前記変位センサ(38)として磁気式センサ、渦電流式センサ、静電容量式センサのいずれかを用いた請求項1から6のいずれかに記載の電動ブレーキ装置。
【請求項10】
軸方向に直交する方向を磁化方向とする複数の永久磁石(70)をN極とS極が軸方向に隣り合うように配置して前記反力受け部材(15)に固定し、軸方向に隣り合う前記N極とS極の境目の近傍に前記変位センサ(38)として磁気センサを設けた請求項1から6のいずれかに記載の電動ブレーキ装置。
【請求項11】
前記直動機構は、前記回転軸(11)の外径面に転がり接触する複数の遊星ローラ(12)と、その複数の遊星ローラ(12)を自転可能かつ公転可能に保持し、軸方向移動を規制されたキャリヤ(14)と、前記複数の遊星ローラ(12)を囲むように配置された前記直動部材としての外輪部材(13)と、その外輪部材(13)の内径面に設けられた螺旋凸条(28)と、その螺旋凸条(28)と係合するように前記各遊星ローラ(12)の外径面に設けられた螺旋溝(29)または円周溝とからなる請求項1から10のいずれかに記載の電動ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−154482(P2012−154482A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186954(P2011−186954)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】