説明

電動ブレーキ

【課題】短時間のうちにピストンとディスクとを当接させることができ、かつピストンがディスクに接触するときの衝撃を和らげることができる電動ブレーキを提供すること。
【解決手段】
車輪と共に回転する回転ディスク6と、回転不能に支持され回転ディスク6に向けて変位可能である非回転ディスク4と、非回転ディスク4に向けて進退可能であるピストン28と、ピストン28を直線移動させる電動モータ21と、操縦者が前記コントローラに制動指令を行うためのブレーキペダルとを備える電動ブレーキ100であって、ブレーキペダルからの制動指令を検出する操作検出手段と、ピストン28を非回転ディスク4に向けてクリアランス分だけ移動させて当接させるピストン当接手段と、ピストン28が非回転ディスク4に当接する際に前記ピストンを減速する減速手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪の制動部材を電動モータで駆動する電動ブレーキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、航空機に搭載される油圧源を縮小若しくは廃止するために、車輪を制動するブレーキを油圧ブレーキから電動ブレーキに替える傾向がある。
【0003】
ところで、ディスク形式のブレーキでは制動解除時にピストンがディスクに当接しないように、ピストンとディスクとの間に所定のクリアランスが設けられる。このクリアランスによって、電動ブレーキを操作してから制動し始めるまでに時間がかかり、航空機はその間空走することとなる。そのため、ピストンをディスクに近付けて当接させるまでの動作をできるだけ短時間のうちに行う必要がある。
【0004】
特許文献1には、電動ブレーキを備えたブレーキシステムにおけるサーボコントロールの方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−232270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、短時間でピストンをディスクに当接させるためにピストンを高速で移動させると、ピストンとディスクとが接触するときに衝撃力が発生する。この衝撃力によって、ブレーキ力が瞬間的に過大に上昇するおそれがあった。
【0007】
そこで、本発明では短時間のうちにピストンをディスクに当接させることができ、かつピストンがディスクと接触するときの衝撃を和らげることのできる電動ブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車輪と共に回転する回転ディスクと、機体に対して回転不能に支持され、前記回転ディスクに向けて変位可能である制輪手段と、前記制輪手段に向けて進退可能であるピストンと、前記ピストンを直線移動させる電動アクチュエータと、前記電動アクチュエータの作動を制御するコントローラと、操縦者によって操作され、その操作に基づいて前記コントローラに対して制動指令を出力する制動指令装置と、を備え、前記電動アクチュエータが前記ピストンを介して前記制輪手段を前記回転ディスクに向けて押圧することによって制動トルクを発生する電動ブレーキであって、前記ピストンと前記制輪手段との間のクリアランスを記憶するクリアランス記憶手段と、前記制動指令装置が出力する制動指令を検出する操作検出手段と、前記操作検出手段が制動指令を検出すると、前記クリアランス記憶手段が記憶しているクリアランスに基づいて前記ピストンを前記制輪手段に向けて移動させて当接させるピストン当接手段と、前記ピストンが前記制輪手段に当接する際に前記ピストンを減速する減速手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、制動指令装置から制動指令が入力され、制動指令によってピストン当接手段がピストンをクリアランス分だけ移動させ非回転ディスクに当接させる際に、減速手段によってピストンを減速する。そのため、ピストンがディスクに接触するときに衝撃力が発生することを防止できる。
【0010】
したがって、短時間のうちにピストンをディスクに近接させることができ、かつピストンがディスクと接触するときの衝撃を和らげることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係る電動ブレーキの中心軸より上半分を断面で示した図である。
【図2】電動ブレーキの制御のブロック図である。
【図3】電動ブレーキ作動時における時間に対するピストン変位のグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態に係る電動ブレーキ100について説明する。
【0013】
まず、図1を参照しながら電動ブレーキ100の構成について説明する。図1における中心軸Oは、図示しない機体に固定されている図示しない機体シャフト(以下、「車軸」という。)の中心軸である。
【0014】
電動ブレーキ100は、車輪(図示省略)の内側に設けられる多板ディスク形式のブレーキである。電動ブレーキ100は、航空機の車輪を制動するブレーキとして用いられる。
【0015】
車輪は、ホイール(図示省略)の外周にタイヤ(図示省略)が取り付けられて構成される。ホイールは、軸受(図示省略)を介して車軸に取り付けられる。つまり、ホイールが回転しても車軸は回転しない。
【0016】
電動ブレーキ100は、車輪と一体に回転する回転ディスク6と、車軸に取り付けられて回転しない非回転ディスク4とを備える。電動ブレーキ100は、回転ディスク6と非回転ディスク4とを当接させるように押圧し、摩擦力によって制動トルクを発生する。
【0017】
回転ディスク6は、所定の間隔をおいて複数枚設けられる。回転ディスク6の両面には、非回転ディスク4が設けられる。よって、非回転ディスク4もまた、所定の間隔をおいて複数枚設けられる。電動ブレーキ100では、4枚の非回転ディスク4の間に3枚の回転ディスク6が挟まれるように配置されている。この非回転ディスク4,回転ディスク6のそれぞれの枚数は、要求される制動力などによって設定するものであるため、この枚数に限られるものではない。
【0018】
回転ディスク6は、中心に円形の穴が形成される円盤形状である。回転ディスク6は、外周がホイールの内周に支持され、車輪と一体として回転する。回転ディスク6は、ホイールに対して車軸方向に変位可能に、即ちスライド可能に支持される。
【0019】
非回転ディスク4は、中心に円形の穴が形成される円盤形状である。非回転ディスク4は、内周がトルクチューブ3を介して車軸に支持される。非回転ディスク4は、車輪が回転しても回転しない。非回転ディスク4は、車軸方向に変位可能に、即ちスライド可能に支持される。この非回転ディスク4が制輪手段に該当する。電動ブレーキ100のようにマルチディスクタイプではなく、例えばキャリパータイプのディスクブレーキの場合には、制輪手段として、ブレーキパッドを設けることも可能である。
【0020】
トルクチューブ3は、円筒形の円筒部3aの軸方向両端に円盤状の鍔部3b,3cが設けられたボビン形状である。鍔部3b、3cは円盤状でなくてもよく、例えばピストン28及びディスク押え3dが設けられる位置に対応した突起を複数形成してもよい。トルクチューブ3は、円筒部3aの外周に複数の非回転ディスク4を支持する。トルクチューブ3と回転ディスク6との間には隙間が設けられ、トルクチューブ3と回転ディスク6とは接触しない。つまり、回転ディスク6の径方向中心に形成される穴の径は、トルクチューブ3と接触しないような大きさで形成されるため、非回転ディスク4の径方向中心に形成される穴の径よりも大きく形成される。
【0021】
トルクチューブ3の一方の鍔部3cは、ハウジング2を介して車軸に取り付けられる。トルクチューブ3の他方の鍔部3bには、ディスク押え3dが設けられる。ハウジング2から突出するピストン28とディスク押え3dとの間で、回転ディスク6と非回転ディスク4とは互いに当接するように押圧される。よって、トルクチューブ3は、回転ディスク6と非回転ディスク4とを押圧する力の反力を受ける。
【0022】
ハウジング2は車軸に固定され、電動ブレーキ100を駆動する電動アクチュエータとしての電動モータ21と、電動モータ21の回転を減速してボールスクリュ25に伝達する減速機構24と、ボールスクリュ25によって押し出されるピストン28とを内部に備える。
【0023】
ピストン28は、非回転ディスク4に向けて進退可能に、非回転ディスク4と対峙して設けられる。ピストン28は、ボールスクリュ・ナット機構27のボールナット26と一体に形成される。図1中のX0は、ピストン28と非回転ディスク4とのクリアランスである。即ち、ピストン28は、非回転ディスク4との間にクリアランスX0だけ離れて対峙する。ピストン28は、電動モータ21によって非回転ディスク4に対して進退するように駆動される。ピストン28は、車輪の回転周方向に所定の間隔をあけて複数配置される。ピストン28の個数,電動モータ21の個数は、電動ブレーキ100に要求される制動力等に応じて任意に設定される。
【0024】
電動ブレーキ100の制動解除時におけるピストン28と非回転ディスク4との間のクリアランスX0は、非回転ディスク4と回転ディスク6の摩耗量によって変化する。即ち、非回転ディスク及び回転ディスク6の厚さが摩耗によって減少すると、ピストン28が戻ったときのピストン28と非回転ディスク4との間のクリアランスX0が大きくなる。そのため、電動ブレーキ100の制動前にクリアランスX0を確認しておく必要がある。
【0025】
電動ブレーキ100では、前回制動時におけるピストン28と非回転ディスク4との間のクリアランスX0、即ち制動を解除したときにピストン28が非回転ディスク4から離間した距離をクリアランス記憶手段としてのクリアランス測定部34(図2参照)に記憶しておく。これにより、直近の制動時に記憶しておいたX0に基づいて電動ブレーキ100の制御を行うことが可能である。ピストン28と非回転ディスク4とのクリアランスX0を所定の値に保つように制御するような場合には、所定の値であるX0を記憶させておく。
【0026】
電動モータ21は、ハウジング2内部にピストン28の個数に対応して複数個(例えば4〜6個)設けられる。電動モータ21が減速機構24を介してピストン28を直線移動させ、ピストン28を非回転ディスク4に押し付けることにより非回転ディスク4と回転ディスク6が互いに当接するように押圧される。これにより、非回転ディスク4と回転ディスク6との摺動面部分で摩擦力が発生し、制動トルクが得られるように構成されている。
【0027】
電動モータ21は、回転角度及び回転数を検出できる回転角検出手段としての回転角センサ21a(図2参照)を備える。電動モータ21には、ACサーボモータやステッピングモータのように回転角検出手段を備えるモータを使用する。電動モータ21とは別部材として、ロータリエンコーダなどの回転角検出手段を設ける構成にしてもよい。
【0028】
減速機構24は、電動モータ21の回転をボールスクリュ25に伝達するように構成されている。減速機構24は、電動モータ21のモータシャフト29に連結されるドライブギア22と、ボールスクリュ25の基端部に連結されるドリブンギア23とを備える。減速機構24は、ドライブギア22の回転をドリブンギア23に伝達する。電動ブレーキ100では、歯数が少なく径の小さなギアをドライブギア22として用い、ドライブギア22よりも歯数が多く径の大きなギアをドリブンギア23として用いる。つまり、電動モータ21の回転は減速されてボールスクリュ25へと伝達される。
【0029】
ボールスクリュ・ナット機構27は、ピストン28の内側に介装される。ボールスクリュ・ナット機構27は、ピストン28の内側へと突出しドリブンギア23に固定されて一体として回転するボールスクリュ25と、ピストン28に固定されて非回転ディスク4に対して進退するボールナット26とを備える。ボールナット26は、ボールスクリュ25に多数のボール(図示省略)を介して螺合する。ボールスクリュ・ナット機構27は、ボールスクリュ25の回転運動を直線運動に変換し、ピストン28を非回転ディスク4に対して進退させる。
【0030】
ところで、航空機の制御系は、パイロットによって操作される制動指令装置としてのブレーキペダル(図示省略)の操作量等に応じて制動指令を出力する。航空機には、出力された制動指令に基づいて電動モータ21の作動を制御するコントローラ30が設けられる。
【0031】
コントローラ30は、電動ブレーキ100の制御を行うものであり、CPU(中央演算処理装置)、ROM(リードオンリメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、及びI/Oインターフェース(入出力インターフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。RAMはCPUの処理におけるデータを記憶し、ROMはCPUの制御プログラム等を予め記憶し、I/Oインターフェースは接続された機器との情報の入出力に使用される。CPUやRAMなどをROMに格納されたプログラムに従って動作させることによって電動ブレーキ100の制御が実現される。
【0032】
CPUには、I/Oインターフェースを介してブレーキペダルからの信号が入力される。CPUでは、入力された信号に応じたピストン押付力指令値信号を演算する。CPUは、I/Oインターフェースを介してピストン押付力指令値信号に応じた指令駆動電流ioを電動モータ21に出力し、電動モータ21は回転作動させられる。電動モータ21の駆動力は、減速機構24とボールスクリュ・ナット機構27とを介してピストン28に伝達され、ピストン押付力が発生する。このとき、電動モータ21のモータシャフト29の回転角θが回転角センサ21aにより検出され、電動モータ21の実際の駆動電流iと共にコントローラ30に入力される。図2に示す電流センサ21bは、コントローラ30の内部に設けられる。ピストン押付力の制御については、後で図2を参照しながら詳細に説明する。
【0033】
電動ブレーキ100では、コントローラ30からの出力によって電動モータ21が正方向に回転することにより、ピストン28が非回転ディスク4に当接して各非回転ディスク4を各回転ディスク6に押付け、制動トルクが得られる。一方、指令駆動電流ioにより電動モータ21が逆方向に回転することにより、ピストン28が非回転ディスク4から離間し、各非回転ディスク4を各回転ディスク6に押付けることがなくなり、制動が解除される。
【0034】
以下、図2及び図3を参照しながら、電動ブレーキ100のピストン押付力の制御について説明する。
【0035】
ペダル入力センサ31は、パイロットによるブレーキペダルからの入力、即ち制動指令を検出する。ペダル入力センサ31は、ブレーキペダルからの入力があったことの検出のみでなく、ブレーキペダルの踏み込み量や踏み込み加速度の検出も可能である。
【0036】
ブレーキ指令・ピストンストローク変換部32では、ブレーキペダルから入力されたブレーキ指令に基づいてピストン28の作動ストロークを算出する。ピストン28の作動ストロークは、ブレーキ指令に比例して作動ストロークが大きくなるマップによって予め定められている。マップは複数あってもよく、その中から状況によって最適のものが選択される。
【0037】
ブレーキ指令をピストン28の作動ストロークに変換するマップは、例えば図2に示すようにブレーキ指令に対して作動ストロークが比例的に増加するものである。ブレーキペダルの踏み込み量が小さい場合には、ピストン28の作動ストロークは小さくなり、ブレーキペダルの踏み込み量が大きい場合には、ピストン28の作動ストロークは大きくなる。
【0038】
ペダル入力判定部33では、パイロットによるペダル入力があったか否かを判定する。ペダル入力判定部33では、ペダルの踏み込み量や踏み込み加速度を検出するのを待たずに、制動指令を出力し得る最小限の量だけブレーキペダルが操作されたか否かのみを判定する。具体的には、最小限の量として予め設定したブレーキペダルの操作量を、実際のブレーキペダルの操作量が超えたか否かを判定する。このペダル入力判定部33が操作検出手段に該当する。ブレーキペダルからの入力があったと判定した場合には、スイッチ40が切り換えられる。
【0039】
スイッチ40は、通常の状態ではゼロ入力部41に導通している。ゼロ入力部41は常に0を出力している。スイッチ40が切り換えられると、クリアランス測定部34からの信号をローパスフィルタ50に伝達することが可能になる。
【0040】
クリアランス測定部34は、前回制動時におけるクリアランスX0の値を記憶しておき、またクリアランスX0の分だけピストン28を移動させる信号を発する。この信号は、図3に破線で示すようなステップ入力である。クリアランス測定部34とスイッチ40とがピストン当接手段に該当する。
【0041】
ローパスフィルタ50は、スイッチ40と加算部35との間に設けられる。このローパスフィルタ50が減速手段に該当する。ローパスフィルタ50は、設定された周波数以上の高周波の周波数をカットする。その結果、図3に実線で示すようなステップ入力に対して一次遅れ系の出力を得ることができる。ローパスフィルタ50を設けずに、コントローラ30内のソフトウェア処理により同様の制御を行うことも可能である。
【0042】
ローパスフィルタ50を設けることによって、比例的に増加していたピストン28の作動ストロークは、徐々に増加量が少なくなる。そして、所定の値に達するころには充分に緩やかな曲線を描くこととなる。よって、ピストン28は非回転ディスク4と当接する際には作動ストロークの増加量、即ち移動速度が極めて小さくなり、ピストン28が非回転ディスク4に当接するときに衝撃力が発生することを防止できる。
【0043】
加算部35では、ブレーキ指令・ピストンストローク変換部32からの信号と、ローパスフィルタ50を通って流れてきた信号とを加算して設定値X1を出力する。設定値X1は、PID(Proportional,Integral,Differential:比例,積分,微分)タイプの2つの伝達関数G,Hによってフィードバック制御されながら電動モータ21へと指示される。
【0044】
伝達関数G,Hでは、加算部35から出力された設定値X1及び電動モータ21を駆動するための指令駆動電流ioと、ピストン28の実際の位置及び駆動電流iとを比較しながらフィードバック制御を行う。具体的には以下の通りである。
【0045】
電動モータ21に設けられる回転角センサ21aによって、モータシャフト29の回転角を検出し、ピストン28の実際の位置を算出する。加算部35から出力された設定値X1からピストン28の実際の位置を減ずることにより、制御偏差εxが算出される。この制御偏差εxが伝達関数Gによって処理され、電流設定値i1に変換される。
【0046】
この電流設定値i1を、電流値検出手段によって検出した電動モータ21の実際の電流値から減ずることによって、制御偏差εiが算出される。この制御偏差εiは伝達関数Hによって処理され、出力値である指令駆動電流ioが電動モータ21に入力される。
【0047】
以下、電動ブレーキ100の作用について説明する。
【0048】
パイロットによってブレーキペダルが操作されていない場合は、スイッチ40はゼロ入力部41側と接続されている。このとき、クリアランス測定部34からクリアランスX0の分だけピストン28を移動させるための信号が発せられているが、ゼロ入力部41によって信号は0となり、ローパスフィルタ50へは何も入力されていない状態となる。
【0049】
ブレーキ指令・ピストンストローク変換部32は、ブレーキペダルが操作されていないのでブレーキ指令が無いと判断して信号を発しない。
【0050】
以上より、クリアランスX0の分だけピストン28を移動させるための信号は0であり、ブレーキ指令・ピストンストローク変換部32からの信号は発せられていないため、電動モータ21には指令駆動電流ioが付加されない。即ち、電動ブレーキ100は作動しない。
【0051】
パイロットによってブレーキペダルが操作されると、ペダル入力判定部33は、制動指令を出力し得る最小限の量だけブレーキペダルが操作されたことを判定してスイッチ40を切り換える。スイッチ40は、クリアランス測定部34からの信号が伝達される側に切り換えられ、クリアランス測定部34からの信号がローパスフィルタ50に入力される。
【0052】
クリアランス測定部34から発せられたピストン28を非回転ディスク4に当接させるためのステップ入力信号は、ローパスフィルタ50によって一次遅れ系に変換される。そのため、図3に破線で示す入力信号が実線の信号に変換されて出力される。
【0053】
ローパスフィルタ50で一次遅れ系に変換された作動ストロークは、ブレーキ指令・ピストンストローク変換部32で変換された作動ストロークと併され、伝達関数G,Hでフィードバック処理されて電動モータ21へと出力される。
【0054】
以上より、ブレーキペダルからブレーキ指令が入力されると、まずはローパスフィルタ50によって一次遅れ系に変換された信号によってピストン28と非回転ディスク4との間のクリアランスX0だけピストン28は移動させられる。よって、ピストン28は非回転ディスク4に当接させられる。
【0055】
このとき、ローパスフィルタ50によって得られた一次遅れ系の信号により、ピストン28が非回転ディスク4と当接する際の作動ストロークの増加量、即ち移動速度は極めて小さくなり、ピストン28が非回転ディスク4に当接するときに衝撃力が発生することを防止できる。
【0056】
その後、ブレーキペダルから入力された制動指令の態様に対応してブレーキ指令・ピストンストローク変換部32から出力されるマップに従い、ピストン28の作動ストロークは制御される。
【0057】
以上の実施の形態によれば、以下のような効果を奏する。
【0058】
ブレーキペダルから制動指令が入力され、その制動指令によってピストン28をクリアランスX0の分だけ移動させ非回転ディスク4に当接させる際に、ローパスフィルタ50によって得られた一次遅れ系の信号によってピストン28は減速される。これにより、ピストン28が非回転ディスク4に接触するときに衝撃力が発生することを防止できる。
【0059】
また、ブレーキペダルの踏み込み量や踏み込み加速度を検出するのを待たずに、制動指令を出力し得る最小限の量だけブレーキペダルが操作されたか否かのみを判定して、記憶しておいたクリアランスX0の分だけピストン28を移動させるものである。よって、制動指令があってから電動ブレーキ100が制動するまでの時間を短くすることができる。
【0060】
したがって、短時間のうちにピストン28を非回転ディスク4に近接させることができ、かつピストン28が非回転ディスク4と接触するときの衝撃を和らげることができる。
【0061】
また、ローパスフィルタ50は一次遅れ系のフィルタであるため、ピストン28が非回転ディスク4へと当接するときの速度は、クリアランスX0の大きさが変化したとしても、ほぼ同じ速度となる。よって、クリアランスX0が変化した場合でもフィルタ特性を変更する必要がない。そのため、1つのローパスフィルタ50を設けることによって、クリアランスX0の調節を行わなくても電動ブレーキ100の制動までの空走距離を抑制でき、かつピストン28が非回転ディスク4に接触するときの衝撃力を緩和できる。
【0062】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る電動ブレーキは、航空機用の車輪を制動するものに限らず、他の車両や機械等に設けられるものや、キャリパ型等の他の形式の電動ブレーキにも利用できる。
【符号の説明】
【0064】
100 電動ブレーキ
3 トルクチューブ
4 非回転ディスク
6 回転ディスク
21 電動モータ
24 減速機構
27 ボールスクリュ・ナット機構
28 ピストン
30 コントローラ
31 ペダル入力センサ
32 ブレーキ指令・ピストンストローク変換部
33 ペダル入力判定部
34 クリアランス測定部
50 ローパスフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転する回転ディスクと、
機体に対して回転不能に支持され、前記回転ディスクに向けて変位可能である制輪手段と、
前記制輪手段に向けて進退可能であるピストンと、
前記ピストンを直線移動させる電動アクチュエータと、
前記電動アクチュエータの作動を制御するコントローラと、
操縦者によって操作され、その操作に基づいて前記コントローラに対して制動指令を出力する制動指令装置と、を備え、
前記電動アクチュエータが前記ピストンを介して前記制輪手段を前記回転ディスクに向けて押圧することによって制動トルクを発生する電動ブレーキであって、
前記ピストンと前記制輪手段との間のクリアランスを記憶するクリアランス記憶手段と、
前記制動指令装置が出力する制動指令を検出する操作検出手段と、
前記操作検出手段が制動指令を検出すると、前記クリアランス記憶手段が記憶しているクリアランスに基づいて前記ピストンを前記制輪手段に向けて移動させて当接させるピストン当接手段と、
前記ピストンが前記制輪手段に当接する際に前記ピストンを減速する減速手段と、を備えることを特徴とする電動ブレーキ。
【請求項2】
前記制輪手段は、非回転ディスクであることを特徴とする請求項1に記載の電動ブレーキ。
【請求項3】
前記操作検出手段は、制動指令を出力し得る最小限の量だけ前記制動指令装置が操作されたことを検出することを特徴とする請求項1又は2に記載の電動ブレーキ。
【請求項4】
前記クリアランス記憶手段は、前回の制動解除後における前記ピストンと前記非回転ディスクとの間のクリアランスを記憶することを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の電動ブレーキ。
【請求項5】
前記減速手段は、ローパスフィルタであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の電動ブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−203562(P2010−203562A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51694(P2009−51694)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】