説明

電子デバイスの製造方法

【課題】遷移金属の酸化物からなる正孔注入層上に、アルカリ溶液を用いるフォトリソグラフィ法にてバンクを形成したときに、正孔注入層の溶解などによるダメージを抑制することを目的とする。それにより、高品質な電子デバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】遷移金属の酸化物からなる薄膜上に配置された感光性樹脂膜82を、フォトリソグラフィプロセスにてパターニングして、有機樹脂層を形成する工程を含む、電子デバイスの製造方法であって、前記フォトリソグラフィプロセスにおいて用いる現像液は、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイドと、強酸の塩とを含む水溶液であり、かつpHが10.5〜11.5である、電子デバイスの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトリソグラフィプロセスなどを用いて樹脂膜をパターニングする工程を含む、電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光デバイスや、太陽電池や、その他半導体デバイスなどの様々な電子デバイスに関する研究・開発が活発に行なわれている。なかでも、有機機能層を有する有機電子デバイスの一つである有機ELデバイスは、次世代の薄型ディスプレイとしてのアプリケーションが有望視されており、近年非常に活発に研究が行なわれている。
【0003】
有機ELデバイスは、陽極と陰極とで、発光層を含む有機機能層を挟んだ構造を有し、陽極から正孔を、陰極から電子を発光層に注入し、発光層内でそれらを再結合させて発光を取り出すデバイスである。有機ELデバイスは、自己発光のため視認性が高く、かつ、完全固体素子であることから、耐衝撃性に優れるなどの特徴を有しており、各種表示装置における発光デバイスとしての利用が注目されている(例えば、特許文献1参照)。すでに、携帯電話のメインディスプレイをはじめとして、各種用途への応用が始まっている。
【0004】
現状の開発及び応用段階では、低分子有機材料を発光層として用いた有機ELデバイスの開発が先行している。これは、低分子有機材料を発光層として用いた場合、発光効率が高いことや寿命が長いことに起因している(例えば、特許文献2、3参照)。低分子有機材料の発光層は、真空蒸着などの真空プロセスを用いて作製される。
【0005】
しかしながら、この真空プロセスを用いた有機EL製造技術で、100インチ級の大型の有機ELパネルを量産レベルで作製するのは困難である。発光層を蒸着法で形成するときに用いる色(例えば、R、G、B)毎のマスクの配置を、精度よく保つことが困難であるからである。
【0006】
これに対して、有機機能層を印刷法で形成する製造技術も知られている。印刷法は、材料使用効率と製造時間、製造装置のコスト面などで優位である。また印刷法は、ディスプレイの製造への応用において、大面積パネルに配置された画素を塗り分けられるため、真空蒸着のような面内不均一の問題や蒸着層のパターニングに用いるメタルマスクのたわみに起因する問題が生じない。
【0007】
そこで、印刷法を用いて形成された有機機能層を有する有機ELデバイスも開発されている(例えば、特許文献4参照)。特許文献4では、基板上の電極上にインクジェット法により水性の有機物質PEDOT:PSS(3,4エチレンジオキシチオフェン:ポリスチレンスルホン酸)からなる正孔注入層を形成し;その上に、架橋剤を含む正孔輸送性の材料を有機溶媒とともに塗布成膜し、膜を熱処理して架橋して不溶化し;次に、発光性の有機材料からなる第3層を有機溶媒とともに成膜して発光層を形成し;最後に、陰極を蒸着により形成して素子を形成している。塗布成膜は、バンクで規定された領域に材料溶液を塗布して、それを乾燥させることが多い。
【0008】
一方、有機ELデバイスには、陽極と発光層との間に正孔注入層を配置することがある。正孔注入層は、前述のPEDOT:PSSなどの有機層であることもあるが、無機層であることもある。PEDOT:PSS層は、発光層中にスルホン酸が拡散することで、デバイス特性を劣化させることが懸念される。さらには、PEDOT:PSS層の電導度は高すぎるために、PEDOT:PSS層と陰極とが接触してしまうとリーク電流が増大する。そのため、無機の正孔注入層が望まれる場合がある。
【0009】
無機の正孔注入層として、イオン化ポテンシャルが大きく、エネルギーレベルの観点から正孔注入が有利である金属酸化物層を用いることが提案されている(例えば、特許文献5〜7を参照)。この正孔注入層としての金属酸化物層は、正孔を有機発光層へ注入しやすいことが必要条件であり、イオン化ポテンシャルが大きい材料でなくてはならない。これに好適な材料として、モリブデン酸化物、タングステン酸化物、およびモリブデンとタングステンとの混合物の酸化物などがある。
【0010】
特許文献7に開示された有機ELデバイスの構造断面図が図4に示される。図4には、ガラス基板100上に配置された有機ELデバイスが示される。有機EL素子は、陽極(Al)111、酸化モリブデン層(遷移金属酸化物層)115、電荷ブロック層116、発光層112、陰極113を形成してトップエミッション型の有機ELデバイスを形成している。つまり、陽極111と正孔注入層115とは別個に形成されており、発光層112は画素規制層114で開口面積を規定されている。また、陰極113は、Ba−Al超薄膜:113aと、ITO膜:113bとの2層構造とされており、ストライプ状に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−171951号公報
【特許文献2】特開2007−288071号公報
【特許文献3】特開2002−222695号公報
【特許文献4】特表2007−527542号公報
【特許文献5】特許第3369615号公報
【特許文献6】特開平9−63771号公報
【特許文献7】特開2007−335737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記の通り、タングステンやモリブデンなどの遷移金属の酸化物膜は正孔注入能を有するため、陽極から発生した正孔を受け取り、それを前記酸化物膜に隣接する層に注入を促進する。例えば、陽極と有機発光層と陰極とを有する有機発光素子において、陽極と有機発光層との間に遷移金属の酸化物膜を配置すれば、陽極から発生した電子の有機発光層への注入を促進することができる。
【0013】
また、電子デバイスの有機機能層(例えば、有機ELデバイスの有機発光層)は、インクジェットなどの印刷法により形成されることがある。有機層を印刷法で作製するには、印刷領域をバンクと呼ばれる隔壁により規定しておき、当該領域内に有機層を形成することが多い。
【0014】
バンクと呼ばれる隔壁は、樹脂から構成されることが多く、感光性樹脂膜をフォトリソグラフィ法によりパターニング形成することが多い。より具体的には、感光性樹脂材料を塗布して、溶剤乾燥のためのプリベークなどを行って、樹脂膜を形成し;樹脂膜の一部に選択的に光(例えば紫外線)を照射して、樹脂材料の架橋反応を促進させ;現像液で未架橋部を溶解させることで、所望のパターニングを得て(現像);パターニングされた材料の強度を増すためにポストベークして、バンクは形成される。
【0015】
フォトリソグラフィ法の現像工程において用いる現像液は、pHが12〜13程度であるアルカリ溶液を用いることが多い。なかでも、一般的なアルカリ現像液として、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(以下、TMAHと略す)を含む水溶液が知られている。
【0016】
したがって、陽極と、有機発光層と、陰極と、陽極と有機発光層との間に配置された遷移金属の酸化物膜と、を有する有機発光素子の、有機発光層を印刷法で形成する場合には、遷移金属の酸化物膜上にバンクをフォトリソグラフィ法にて形成しなければならない場合がある。この場合には、バンクを形成する過程において、遷移金属の酸化物膜は現像液に接触せざるを得ない。
【0017】
ところが、タングステンやモリブデンなどの遷移金属の酸化物膜は、アルカリ現像液によって溶解しやすいことが明らかになった。つまり、遷移金属の酸化物膜を正孔注入層とし、その上にバンクを形成しようとすると、現像液によって、正孔注入層が溶解してしまうことがわかった。溶解により正孔注入層の表面粗さが大きくなり、正孔注入層上に塗布形成された有機層にピンホールができてしまい、場合によっては、電極同士で短絡してしまうなどの、デバイスとして不具合が発生することがわかった。
【0018】
以上の通り、有機ELデバイスにおいて、正孔注入層としての遷移金属の酸化物と、印刷法による機能層形成のためのバンクとを具備したデバイスにおいては、正孔注入層がバンク形成のための現像液に溶解してしまうという問題が明らかになった。前述の特許文献7には、正孔注入層としての遷移金属の酸化物と、バンクとを有する有機ELデバイスが開示されているが、バンク形成時に遷移金属酸化物からなる正孔注入層が溶解するという課題は示唆されない。
【0019】
本発明は、遷移金属の酸化物からなる正孔注入層上に、アルカリ溶液を用いるフォトリソグラフィ法にてバンクを形成したときに、正孔注入層の溶解などによるダメージを抑制することを目的とする。それにより、高品質な電子デバイスの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は以下に記載する電子デバイスの製造方法に関する。
[1] 遷移金属の酸化物からなる薄膜上に配置された感光性樹脂膜を、フォトリソグラフィプロセスにてパターニングして、有機樹脂層を形成する工程を含む、電子デバイスの製造方法であって、
前記フォトリソグラフィプロセスにおいて用いる現像液は、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイドと、強酸の塩とを含む水溶液であり、かつpHが10.5〜11.5である、電子デバイスの製造方法。
[2] 前記テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイドは、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドである、[1]に記載の電子デバイスの製造方法。
[3] 前記強酸は、硝酸、硫酸および塩酸のいずれかである、[1]または[2]に記載の電子デバイスの製造方法。
【0021】
[4] 前記遷移金属は、タングステン、モリブデンのいずれか、もしくはその混合物である、[1]〜[3]のいずれかに記載の電子デバイスの製造方法。
【0022】
[5] 前記電子デバイスは、前記有機樹脂層で領域を規定された有機機能層を有する有機電子デバイスである、[1]〜[4]のいずれかに記載の電子デバイスの製造方法。
[6] 前記電子デバイスは、基板と、前記基板上に配置された第一電極と、前記陽極上に配置された正孔注入層と、前記正孔注入層上に配置されたバンクと、前記バンクで規定され、かつ正孔注入層上に配置された有機発光層を含む有機機能層と、前記有機機能層上に配置された第二電極と、を具備する有機ELデバイスであって、[1]における前記遷移金属の酸化物からなる薄膜は、前記正孔注入層であり、かつ[1]における前記有機樹脂層は、前記バンクである、[1]〜[4]のいずれかに記載の電子デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明の電子デバイスの製造方法によれば、バンクを形成するための現像液のpHを適切に調整することで正孔注入層の溶解を抑制することができ、特性の優れた電子デバイスを、塗布法にて製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態におけるアクティブマトリクス型有機ELデバイスの構造断面図である。
【図2】本発明の実施の形態における有機ELデバイスの構造断面図である。
【図3】本発明の実施の形態における有機ELデバイスの製造方法のフローを示す図である。
【図4】従来の有機ELデバイスの一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の製造方法により得られる電子デバイス(本発明における電子デバイス)は、有機機能層と、前記有機機能層の領域を規定する有機樹脂層(つまり、樹脂バンク)と、を有することが好ましい。有機機能層は、電子デバイスに応じて適宜選択される。つまり、有機ELデバイスである場合には、有機機能層は有機発光層や中間層(インターレイヤー、正孔輸送層ともいう)などであり;太陽電池である場合には、有機機能層は受光層などである。また、有機機能層は塗布法により形成されることが好ましく、有機機能材料を含む溶液を樹脂バンクで規定された領域に提供することにより形成される。塗布法の例には、インクジェット法、ディスペンサー法、スピンコート法、グラビア印刷法、凸版印刷法などが含まれる。有機機能層は、一層であってもよいし、異なる機能を有する二層以上の層の組み合わせであってもよい。
【0026】
有機機能層の領域を規定する樹脂バンクの表面は、有機機能材料を含む溶液(インク)に対する撥液性が求められる。樹脂バンク表面への撥液性の付与手段は、大別して二種類ある。一つ目は、バンクを形成した後、フッ素ガスを用いたプラズマ処理を行い、バンク表面にフッ素化合物を付着させることで撥液化する方法である。一つ目の方法では、画素領域にもフッ素化合物が微量ながら付着する。これによって、フッ素成分が有機機能層に拡散し、デバイス特性を劣化させることがある。
【0027】
バンクへの撥液性の付与手段の二つ目は、フッ素化合物が配合された樹脂材料を用いてバンクを形成する方法である。フッ素化合物が配合された樹脂材料を用いれば、形成されたバンクに撥液化処理を行なうことなく、バンク表面の撥液性が得られる。よって、バンクの撥液化は二つ目の方法で行なうことが望ましい場合がある。
【0028】
本発明の製造方法により得られる電子デバイスの有機機能層の一方の面には陽極が配置され、もう一方の面には陰極が配置されうる。陽極および陰極はそれぞれ、有機機能層に接触して配置されてもよいし、任意の層を介して配置されていてもよい。本発明における電子デバイスは、特に、陽極と有機機能層との間に、遷移金属の酸化物からなる正孔注入層が配置されていることを特徴とする。
【0029】
バンクで規定された領域に形成された有機機能層よりも下側に正孔注入層を配置するには、正孔注入層の表面にバンクの樹脂材料からなる樹脂膜を配置し、それをパターニングして、バンクとすることが好ましい。バンクの樹脂材料が感光性樹脂であれば、フォトリソグラフィプロセスによって樹脂膜をバンクにパターニングすることができる。その後、バンクで規定された領域に有機機能層を塗布形成すれば、有機機能層よりも下側に正孔注入層が配置される。
【0030】
一方、有機機能層よりも下側に正孔注入層を配置するために、バンクを形成した後に、バンクで規定された領域に正孔注入層を形成して、さらに有機機能層を形成することも考えられる。しかしながら、この場合は、撥液化されたバンク上に正孔注入層が形成されるので、バンクの撥液性が失われ、バンクとして機能しなくなる。よって、前記の通り、正孔注入層を形成した後に、バンクを形成することが求められる。
【0031】
バンクを形成するには、感光性樹脂膜をフォトリソグラフィプロセスによってバンクにパターニングすることが好ましいが、感光性樹脂はネガ型であってもポジ型であってもよい。いずれにしても、感光性樹脂はアルカリ溶解型であることが好ましく、ネガ型感光性樹脂である場合には、非光照射部がアルカリ現像液によって除去され;ポジ型感光性樹脂である場合には、光照射部がアルカリ現像液によって除去される。
【0032】
アルカリ現像液のpHは、10.5〜11.5であることが好ましい。また、アルカリ現像液にはテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド、好ましくはテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)を含むことが好ましい。テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイドは、リソグラフィ用のアルカリ現像液の成分としてよく知られており、現像工程においてアミンを発生させる。アルカリ現像液に含まれるテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイドの濃度は、0.05質量%〜2.38質量%であることが好ましく、0.1〜1.5質量%であることがより好ましい。テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイドの濃度が低すぎると、現像時間が過剰に長くなり現像性が低下する。一方、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイドの濃度が高すぎると、現像時間が過剰に短くなり、現像時間に対するマージンが小さくなるばかりか、過剰現像が起こることがある。
【0033】
アルカリ現像液には、さらに強酸の塩が含まれることが好ましい。強酸とは、pKaが負である酸をいい、硫酸(pKa=−3)、塩酸(pKa=−8)および硝酸(pKa=−1.32)などが例示される。
【0034】
つまり、本発明におけるアルカリ現像液は、0.05質量%〜2.38質量%のTMAHを含む水溶液に、強酸を添加することでpHを10.5〜11.5に調整することで調製されうる。
【0035】
本発明の電子デバイスには、樹脂バンクの下に、遷移金属の酸化物薄膜が配置される。したがって、バンクを形成するべくアルカリ現像液で現像を行おうとすると、アルカリ現像液が遷移金属の酸化物薄膜に接触する。本発明者は、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイドを含有するアルカリ現像液によって、遷移金属の酸化物薄膜が溶解することがあること;しかしながら、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイドを含有するアルカリ現像液のpHを調整し、好ましくは強酸の塩を含有させることで、遷移金属の酸化物薄膜の溶解を抑制できることを見出した。
【0036】
遷移金属の酸化物膜の溶解の抑制メカニズムは限定されないが、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイドの分解により生じたアミンが、強酸と反応して「アミン強酸塩」となるためであると考えられる。
【0037】
TMAHを含む現像液により、モリブデン酸化物の溶解抑制メカニズムを具体的に説明する。TMAHを含む現像液により、モリブデン酸化物はモリブデン酸イオンとして溶解し、TMAHと中和してモリブデン酸アミン塩となる。モリブデン酸イオン⇔モリブデン酸アミン塩の平衡反応を考えると、平衡をモリブデン酸アミン塩生成の方向に進めないようにするには、モリブデン酸より強い酸を添加すればよい。したがって、強酸であるほどモリブデン酸アミン塩の生成が抑制され、それによりモリブデン酸イオンの生成が低減され、つまりモリブデン酸化物の溶解量が少なくなる。
【0038】
また、感光性樹脂膜をパターニングするための現像液は、その現像性能を確保するため、一定以上のpHが求められ、具体的にはpH10.5以上であることが必要となる。アルカリ現像液の現像性能が低いと、バンクの現像残渣が発生する。バンクの現像残渣が正孔注入層上に存在すると、ホール注入性が低下する。またバンク材料は絶縁物であるため、抵抗成分が多くなり、デバイスの駆動電圧が上昇してしまう。これにより、同じ輝度を得るために電圧が上昇してしまう結果、デバイスの寿命も低下してしまう。
【0039】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。具体的には、電子デバイスとして有機ELデバイスを例にして説明する。以下の図面においては、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素を同一の参照符号で示す。なお、本発明は以下の実施の形態に限定されない。
【0040】
図1には、実施の形態に係る有機ELデバイス1の構造断面図が示される。図1に示される有機ELデバイス1は、基板40と、基板40の上に形成されたトランジスタ素子50(50A、50B)と、その上に形成された有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)部60とから構成されている。
【0041】
基板40の例には、透明な無機基板(例えば、ガラス基板)、非透明の無機基板(例えば、シリコン基板)、樹脂基板(フレキシブルであってもよい)などが含まれる。基板40に配置された2つのトランジスタ素子50(50Aと50B)は、薄膜トランジスタ(TFT)である。各トランジスタ素子50(50Aと50B)は、ソース・ドレイン電極51と、ソース・ドレイン電極51に接触して形成される半導体層52と、半導体層52の上に形成されたゲート絶縁膜53と、ゲート絶縁膜53の上に配置されたゲート電極54とを含む。2つのトランジスタ素子50(50Aと50B)は、配線55によって互いに電気的に接続されている。この構造により、有機ELデバイス1は、アクティブマトリクス型の構造を有する。
【0042】
基板40には、トランジスタ素子50を覆うように平坦化膜57が形成されている。平坦化膜57の上面は、平坦にされている。基板40と、トランジスタ素子50と、平坦化膜57とで、基板構造体であるTFT基板10を構成している。
【0043】
平坦化膜57を含むTFT基板10の上には、有機EL部60が形成されている。有機EL部60は、陽極12と、正孔注入層13と、中間層14と、有機発光層15と、バンク層16と、電子注入層18と、透明陰極20と、透明封止膜22とを有する。
【0044】
図1に記載された有機ELデバイス1は、トップエミッション構造を有している。つまり、有機EL部60に電圧を印加すると、有機発光層15で発光が生じ、透明陰極20および透明封止膜22を通じて光70は外に(上方に)出射する。また、有機発光層15で生じた発光のうち、TFT基板10側に向かった光は、陽極12で反射され、透明陰極20および透明封止膜22を通じて光70として外に(上方に)出射する。したがって、陽極12は光反射性を有することが重要である。
【0045】
トップエミッション構造の有機ELデバイス1は、一般的なボトムエミッション構造の有機ELデバイスと比較して、発光面積率を大きくすることができる。つまり、トップエミッション構造であれば、有機EL部60の下にトランジスタ素子50などを配置できるのに対し;ボトムエミッション構造の場合には、トランジスタ素子50などを有機EL部60と同一平面に配置しなければならないからである。
【0046】
陽極12は、TFT基板10の表面上に積層され、透明陰極20に対して正の電圧を有機ELデバイス1に印加する電極である。陽極12を構成する陽極材料の例には、反射率の高い金属であるAl、Ag、またはそれらの合金(例えばAPC)などが含まれる。陽極12の厚さは、例えば、100〜300nmである。また、陽極12は、後述する正孔注入層13とともに、スパッタ成膜法により形成されることが好ましい。これにより、陽極12と正孔注入層13とを同一の真空層により形成することが可能となり、製造プロセスの簡略化が実現される。
【0047】
正孔注入層13は、陽極12の表面上に形成され、正孔を安定的に、または正孔の生成を補助して、有機発光層15へ正孔を注入する機能を有する。これにより、有機ELデバイス1の駆動電圧が低電圧化され、正孔注入の安定化により素子が長寿命化される。正孔注入層13には、正孔注入性の他に、光透過性および表面平担性も要求される。
【0048】
正孔注入層13の光透過性は、有機発光層15で生じた光を陽極12へ、陽極12から反射してきた光を透明陰極20の方向へロスなく透過させるために必要である。つまり、正孔注入層13の光透過性が高いと、有機ELデバイス1の発光効率が向上する。膜厚が大きくなるほど、正孔注入層13の光透過性は低下するので、正孔注入層13の膜厚は、例えば、10nm〜100nm程度にすることが好ましい。陽極12と正孔注入層13との積層膜の、可視光領域の光反射率は80%以上であることが好ましい。
【0049】
正孔注入層13の表面平坦性は、正孔注入層13上に形成される有機発光層15(または中間層14)を、平坦かつ均一に作製するために求められる。これにより、画素内での有機発光層15の厚さのばらつきが抑制され、両極間での電界の偏りと、これに起因する劣化の加速、画素内の局所発光やショートを防止することができる。
【0050】
また、正孔注入層のイオン化ポテンシャル(Ip)が、隣接する陽極12のIpと有機発光層15(中間層14が存在する場合は中間層14)のIpとの間にあることが好ましい。これにより陽極12から有機発光層15(または中間層14)への正孔注入障壁を低減し、駆動電圧を低下させることが可能となる。
【0051】
このような正孔注入層に求められる条件に合致する材料として、遷移金属の酸化物があげられる。遷移金属の酸化物の例には、酸化モリブデン(MoOx)、酸化タングステン(WOx)、酸化モリブデンと酸化タングステンとの混合物が含まれる。
【0052】
正孔注入層の物質として、酸化モリブデンや酸化タングステンが好ましい理由は、これらの金属酸化物はそれぞれ、高いIpを有し、正孔注入性能に優れるからである。すなわち、酸化タングステンのIpは5.5eVであり、酸化モリブデンのIpは5.6eVである。一方、他の金属酸化物材料、例えば、Ag2O、CuOx、TiOx、ZnOx、RuOx、VOxのIpは、いずれも5.0V未満である。例えば、Ag2OのIpは、4.6eVである。さらには、酸化モリブデンや酸化タングステンは、PEDOT:PSSのIpよりも高い。
【0053】
前記の通り、正孔注入層13の材質は、酸化モリブデン(MoOx)、酸化タングステン(WOx)、酸化モリブデンと酸化タングステンとの混合物が好ましいが、なかでも、酸化モリブデンと酸化タングステンとの混合物が好ましい場合がある。まず、酸化タングステンは、酸化モリブデンと比較して、水への溶解性が低い。そのため、正孔注入層13には、酸化タングステンが含まれることが好ましい。一方で、酸化タングステンのみからなる膜は表面粗さが高くなりやすいが、酸化モリブデンと酸化タングステンとの混合物からなる膜は表面粗さが低下する。そのため、正孔注入層13には、酸化モリブデンが含まれることが好ましい。
【0054】
このように、正孔注入層13には、酸化モリブデンと酸化タングステンの混合物が含有されることが好ましい。より具体的には、モリブデン原子とタングステン原子の総量に対するモリブデン原子の割合が、9原子%以上35原子%以下となるように、酸化モリブデンと酸化タングステンとの混合物とすることが好ましい。
【0055】
酸化タングステンからなる膜と、酸化モリブデンと酸化タングステンとの混合物からなる膜(モリブデン原子の割合が10原子%)を、スパッタ成膜法により、フラットITO基板(ガラス上にITOが成膜されたもの)上に形成した。膜厚はいずれも50nmとした。スパッタ成膜条件は、出力250W(Ar流量100SCCM/O2流量100SCCM、ガス圧4.5Pa)とした。それぞれの膜の表面粗さ(RaおよびRmax)を測定した。その結果、酸化タングステンからなる膜のRaは1.64nm,Rmaxは21.62nmであり;酸化モリブデンと酸化タングステンとの混合物からなる膜のRaは0.81nm,Rmaxは10.89nmであった。
【0056】
酸化モリブデンや酸化タングステンからなる正孔注入層は、蒸着温度を高く設定する必要がある蒸着成膜法よりも、スパッタ成膜法で作製することが好ましい。パネルの大型化や量産性の観点からである。
【0057】
中間層(インターレイヤー)14は、正孔注入層13の表面に形成される。中間層14は、正孔注入層13から注入された正孔を有機発光層15内へ効率良く輸送し、有機発光層15と正孔注入層13との界面での励起子の失活防止をし、さらには電子をブロックする正孔輸送層としての機能を有する。中間層14の材質は、正孔輸送性を有する有機材料であることが好ましい。正孔輸送性を有する有機材料とは、陽極で生じた正孔を分子間の電荷移動反応により伝達する性質を有する有機物質である。正孔輸送性を有する有機材料は、p−型の有機半導体と呼ばれることもある。中間層14の材質は、高分子材料でも低分子材料であってもよく、トリフェニルアミン、ポリアニリンなどが挙げられる。
【0058】
中間層14は、印刷法で成膜されることが好ましい。中間層14の厚さは、例えば、5〜50nm程度である。
【0059】
また、中間層14を構成する有機材料は、架橋剤で架橋されていることが好ましい。中間層14の上層となる有機発光層15を印刷法で形成する際に、中間層14が溶解することを抑制するためである。
【0060】
中間層14を形成する印刷法としては、特に限定されるものではないが、インクジェット法に代表されるノズルジェット法や、ディスペンサー法を用いることができる。インクジェット法では、インク化した有機成膜材料をノズルから正孔注入層13の表面へ噴射して、中間層14を形成する。
【0061】
ただし中間層14は、その隣接層である正孔注入層13や有機発光層15の性能により、省略される場合もある。
【0062】
有機発光層15は、中間層14の表面上に形成される。有機発光層15には正孔と電子が注入され、再結合することにより励起状態が生成され発光する機能を有する。
【0063】
有機発光層15の材質は、発光性の有機材料であればよい。有機発光層15は、インクジェットやスピンコートのような印刷法で成膜されることが好ましく、それにより大画面の基板に対して、簡易で均一な成膜が可能となる。発光性の有機材料は、低分子有機材料であっても、高分子有機材料であってもよいが、好ましくは高分子有機材料である。高分子有機材料とすることで、有機発光層の信頼性を高め、低電圧でデバイスを駆動することができ、さらにはデバイス構造を簡易化することができる場合がある。
【0064】
有機発光層15を構成する高分子有機材料は、蛍光性を有し、芳香環または縮合環などを有するπ共役系高分子でありうる。有機発光層15を構成する高分子発光材料の具体例には、ポリフェニレンビニレン(PPV)またはその誘導体(PPV誘導体)、ポリフルオレン(PFO)またはその誘導体(PFO誘導体)、ポリスピロフルオレン誘導体、ポリチオフェンまたはその誘導体などが含まれる。
【0065】
バンク層16は、正孔注入層13の表面上に形成され、かつ中間層14および有機発光層15の配置領域を規定する。つまり、中間層14および有機発光層15は、バンクが規定する領域内に、印刷法を用いて形成される。
【0066】
バンク層16の材質は、特に限定されるものではないが、体積抵抗率が10Ω・cm以上の物質であることが好ましい。体積抵抗率が10Ω・cm以下の材料であると、バンク層16が、陽極と陰極との間のリーク電流あるいは隣接画素間のリーク電流の原因となり、消費電力の増加などの様々な問題を生じうる。
【0067】
バンク層16の材質は、無機物質および有機樹脂物質のいずれであってもよいが、有機樹脂物質の方が、一般的に撥液性が高く、より好ましく用いることができる。また、有機樹脂物質はフォトリソグラフィによりパターニングすることができるので、バンク層16の作製が容易になる。有機樹脂物質の例には、ポリイミド樹脂、ポリアクリル樹脂などが含まれる。
【0068】
バンク層16の表面は撥液性を有する。バンク層16の表面が撥液性を有しないと、中間層14や有機発光層15を塗布法で形成することが困難となる。バンク層16の表面を撥液性とするには、バンク層の材質自体を撥液性物質としてもよいし、バンク層の表面に撥液化処理を施してもよい。撥液性物質の例には、フッ素原子を分子構造に導入された有機樹脂、フッ素成分を含有する有機樹脂が含まれる。撥液化処理の例には、フッ素プラズマ処理が含まれる。
【0069】
バンク層16の厚さは、例えば、100〜3000nm程度であればよい。
【0070】
バンク層16は所定の形状にパターニングされて、塗布領域に相当する領域が開口している。パターニング方法は、特に限定されるものではないが、感光性材料からなる膜を、フォトリソグラフィ法にて現像パターン化することが好ましい。本発明では、このフォトリソグラフィ法による現像パターン化における現像液を、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイドを含み、pHが10.5〜11.5である水溶液としていることを特徴とする。具体的なフォトリソグラフィのフローは後述する。
【0071】
電子注入層18は、有機発光層15の上に形成され、有機発光層15への電子注入の障壁を低減し、有機EL素子1の駆動電圧を低電圧化し、励起子失活を抑制する機能を有する。これにより、電子注入を安定化し素子を長寿命化し、透明陰極20との密着を強化して発光面の均一性を向上させ、素子欠陥を減少させうる。
【0072】
電子注入層18は、特に限定されるものではないが、好ましくはバリウム、アルミニウム、フタロシアニン、フッ化リチウム、さらに、バリウム−アルミニウム積層体などからなる。電子注入層18の厚さは、例えば、2〜50nm程度である。
【0073】
透明陰極20は、電子注入層18の表面上に積層され、陽極12に対して負の電圧を有機ELデバイス1に印加し、電子を素子内(具体的には有機発光層15)に注入する機能を有する。透明陰極20は、特に限定されるものではないが、透過率の高い物質および構造を用いることが好ましい。これにより、発光効率が高いトップエミッション有機ELデバイスを実現することができる。
【0074】
透明陰極20の構成は、特に限定されるものではないが、金属酸化物層が用いられる。この金属酸化物層の例には、インジウム錫酸化物(ITO)からなる層、インジウム亜鉛酸化物(IZO)からなる層などが含まれる。透明陰極20の厚さは、例えば5〜200nm程度である。
【0075】
透明封止膜22は、透明陰極20の表面上に形成され、素子内への水分や酸素の浸入を抑制する機能を有する。透明封止膜22が形成されないと、水分や酸素によって電極と有機層との剥離等が進行し、ダークスポット(暗欠陥点)と称される点状または円状の無発光の欠陥が成長する。透明封止膜22は、透明であることが要求される。透明封止膜22の材質の例には、窒化シリコン(SiN)、窒化酸化シリコン(SiON)、および透明有機樹脂が含まれる。透明封止膜22の厚さは、例えば、20〜5000nm程度である。
【0076】
次に、本発明の電子デバイスの製造方法を、有機ELデバイスの製造方法を例にして説明する。図2は、本発明の実施の形態に係る有機ELデバイスの断面図であり、図3(a)〜図3(k)は、本発明の実施の形態に係る有機ELデバイスの製造方法を説明する工程図である。
【0077】
まず、図3(a)に示されたように、TFT基板10を用意する。TFT基板10は、図1に示されるような基板構造体であり、つまり基板40(例えばガラス基板)の上に、TFT50及び平坦化膜57が配置された基板でありうる。
【0078】
次に、TFT基板10の上に陽極12となる金属膜12’を形成する(図3(b))。金属膜12’は、例えば、AlまたはAgあるいはそれらの合金からなる膜を、スパッタ成膜法により形成することが好ましい。ここでのスパッタ成膜法の条件(成膜条件)は、例えば、Ag合金ターゲットとTFT基板10とをチャンバー内に設置し;チャンバー内を真空状態にしたのち、アルゴン(Ar)や窒素(N)などのガスを導入し;ターゲットと基板の間に電圧をかける。これにより、イオンが発生し、このイオンがAg合金ターゲットに衝突し、ターゲット粒子がはじき飛ばされて基板に付着し、Ag合金膜が形成されて、金属膜12’となる。
【0079】
金属膜12’の上に、レジストマスク81を形成する(図3(c))。レジストマスク81は、陽極12の形成領域(位置・形状)を規定する。レジストマスク81は、金属膜12’の上に形成されたフォトレジストを、フォトリソグラフィ法によってパターニングすることによって形成する。
【0080】
レジストマスク81をマスクとして、ウェットエッチングによって、金属膜12’をパターニングして陽極12を形成する(図3(d))。ここでのウェットエッチングの条件は、例えば、工程仕掛かり品を、燐酸と硝酸と酢酸の酸系混合液中に浸漬させる。これにより、金属膜12’がエッチングされる。
【0081】
次に、レジストマスク81を除去する(図3(e))。レジストマスク81の除去は、例えば、工程仕掛かり品をアセトンやジメチルホルムアミド、市販のレジスト剥離液中に浸漬させて溶解する。これにより、レジストが除去される。レジストを除去した後、基板をイソプロピルアルコール(IPA)や純水を用いて洗浄する。このようにしてレジスト剥離工程が実行される。
【0082】
次に、陽極12の上に、陽極12を覆うように正孔注入層13をスパッタ成膜法によって成膜する(図3(f))。正孔注入層13は、遷移金属の酸化物層である。ここでのスパッタ成膜法による成膜は、例えば、ターゲットとして遷移金属(MoまたはWあるいはMoW混合物など)を、工程仕掛かり品とともにチャンバー内に配置し;チャンバー内を真空状態にしたのち、Arガス及びO2ガスを導入し;ターゲットと基板の間に電圧をかけて行う。これにより、Arイオンが発生し、このイオンがターゲットに衝突し、ターゲット粒子がはじき飛ばされる。はじき飛ばされたターゲット粒子が基板に付着するまでの間または付着後に、O2と反応し、基板上に遷移金属の酸化物膜(モリブデン酸化膜、タングステン酸化膜、モリブデン−タングステン酸化膜など)が形成される。
【0083】
形成された正孔注入層13はエッチングされて、所望の領域にのみ配置されてもよい。また、金属膜12’と正孔注入層13とを成膜し、その後、レジストマスクを配置して、正孔注入層13のエッチングと金属膜12’のエッチング(図3(d))とを同時に行ってもよい。
【0084】
次に、バンク層16を形成する。まず、正孔注入層13を覆うようにTFT基板10の上に、バンク用の感光性樹脂をスリットコート法やスピンコート法を用いて塗布して、感光性樹脂層82を成膜する(図3(g))。次に、プリベークを行ない、感光性樹脂層82に含まれる溶媒を除去する。
【0085】
次に、開口部85を規定するマスク(不図示)を介して、感光性樹脂層82に紫外光を照射し、感光性樹脂を光硬化させる(ネガ型感光性樹脂の場合)。次に、アルカリ性である現像液に基板を浸漬させることで、材料の未硬化部を除去する。それにより、感光性樹脂層82をパターニングして、開口部85を形成し、バンク層16とする(図3(h))。
【0086】
ここで現像液として、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイドを含有し、pHが10.5〜11に調整された水溶液を用いることを特徴とする。正孔注入層13が、現像液によって溶解することを抑制するためである。
【0087】
バンク層16や正孔注入層13の表面をプラズマ処理して、濡れ性を制御してもよい。後述の有機材料の塗布(図3(i))の精度を高めるためである。
【0088】
次に、バンク層16の開口部85に、有機機能層を構成する有機材料を塗布する。図3(i)では、有機発光材料を塗布して、有機発光層15を形成する。有機材料の塗布は、例えばインクジェット法を用いて行う。インクジェット法とは、成膜材料を含有するインク化をノズルから噴射して、膜形成する手法である。インクジェット法によって塗布された有機発光材料を乾燥する。それにより、バンク層16によって規定された凹部もしくは溝部内に、有機発光層15が形成される。
【0089】
有機発光層15の形成前に、中間層14を、同様に塗布形成してもよい(図1参照)。
【0090】
次に、有機発光層15の上に電子注入層18を形成する(図3(j))。電子注入層18は、例えば蒸着法によって形成する。ここでの蒸着法の条件は、次の通りである。まず、例えばBa原料をるつぼ内に配置し;膜を形成する基板とともにチャンバー内に配置し;次に、チャンバー内を真空状態にしたのち、るつぼを加熱する。これにより、Baが蒸発し、基板に付着しBa膜が形成される。このときのるつぼ加熱方法は、抵抗加熱式、電子ビーム式、高周波誘導式などがある。
【0091】
次に、電子注入層18の上に透明陰極20を形成する(図3(k))。透明陰極20は、蒸着法やスパッタ成膜法によって電子注入層18を覆う層(ベタ層)を形成することによって得られる。ここでの蒸着法の条件(成膜条件)は、次の通りである。まず、例えばITO原料をるつぼ内に配置し、膜を付ける基板とともにチャンバー内に配置し;チャンバー内を真空状態にしたのち、るつぼを電子ビームで加熱することによりITOを蒸発させ、基板に付着させてITO膜を形成する。その後、必要に応じて所定のパターニングを行う。
【0092】
最後に、透明陰極20の上に透明封止膜22を形成すると(図1参照)、本実施の形態の有機ELデバイス1が得られる。透明封止膜22の形成は、スパッタ成膜法によって透明陰極20を覆う層(ベタ層)を形成することによって行えばよい。ここでのスパッタ成膜法の条件(成膜条件)は、例えば、SiNターゲットを、膜を付ける基板とともにチャンバー内に配置し;チャンバー内を真空状態にしたのち、Arガスを導入し;SiNターゲットと基板の間に電圧をかける。これにより、Arイオンが発生し、このイオンがターゲットに衝突し、ターゲット粒子がはじき飛ばされて基板に付着し、SiN膜が形成される。その後、必要に応じて所定のパターニングを行う。なおパターニングにおいてはウェットエッチングに限らずドライエッチングでもよい。
【0093】
以上説明した製造方法により、本実施の形態の有機ELデバイスを製造することができる。本発明の製造方法によれば、バンク層16を形成するときの現像液による、遷移金属の酸化物からなる正孔注入層13の溶解が抑制される。したがって、正孔注入性能の高い正孔注入層を有しつつ、塗布法により形成された有機機能層(例えば有機発光層)を有する有機ELデバイスを作製することができる。塗布法を採用することで、大型の有機ELパネル(例えば、100インチ級)を作製することが容易となり、その大型の有機ELパネルを量産レベルで製造することが可能となる。
【実施例】
【0094】
次に、実施例及び比較例を参照して本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例によって限定して解釈されない。
【0095】
まず、実施例1〜2、および比較例1〜4に示される現像液を調製した。溶液のpH測定は、株式会社佐藤商事製デジタルpH計PH−201を使用した。
【0096】
(実施例1)
実施例1では、0.2質量%のTMAH水溶液(東京応化製NMD−3)に硝酸(関東化学製特級)を少量添加して、pHを11に調製した薬液を現像液とした。
(実施例2)
実施例2では、0.2質量%のTMAH水溶液に硝酸を少量添加して、pH11.5に調製した薬液を現像液とした。
【0097】
(比較例1)
比較例1では、0.2質量%のTMAH水溶液(pH=12.5)を現像液とした。
(比較例2)
比較例2では、0.2質量%のTMAH水溶液に硝酸を少量添加して、pHを12に調製した薬液を現像液とした。
(比較例3)
比較例3では、0.2質量%のTMAH水溶液にギ酸(関東化学製特級)を少量添加して、pHを11に調製した薬液を現像液とした。
(比較例4)
比較例4では、0.2%のTMAH水溶液に酢酸(関東化学製特級)を少量添加して、pHを11に調製した薬液を現像液とした。
【0098】
実施例1および2、比較例1〜4にて調製された現像液に関して、正孔注入層の溶解量を評価した。
【0099】
評価に使用した正孔注入層は、フラットITO基板上に、RF電力500Wで反応性スパッタリング法にて成膜したモリブデンタングステン混合物膜である(膜厚:100nm)。モリブデンタングステン混合物膜の元素組成は、Mo/W=35/65とした(Mo含有率:35atom%)。成膜後に200℃30分の熱処理を行い、耐薬品性を向上させた。以下、成膜した正孔注入層をMoWOx膜と呼ぶ。
【0100】
このMoWOx膜を、上記のように調製した現像液に30秒間浸漬させて、10秒間純水(導電率:1〜10MΩ・cm程度)で洗浄し、Nガスをブローすることで水分を除去した。浸漬実験は室温(23℃)にて行なった。
【0101】
MoWOx膜の溶解量は、現像液への浸漬前後の膜厚をそれぞれ測定することにより算出した。膜厚の測定には、東朋テクノロジー株式会社製の光学式膜厚測定機、NanoSpec6500Aを用いた。ただし、MoWOx膜は純水にはわずかしか溶解しないため、今回の実験では純水での溶解量は無視した。
【0102】
表1には、実施例1〜2および比較例1〜4のそれぞれのMoWOx膜の溶解量と、薬液(現像液)条件と、添加された酸の酸性度を表すpKaの値(文献値)とをまとめた。pKaは酸の強さを定量的に表すための指標のひとつであり、酸解離定数または、酸性度定数という。酸から水素イオンが放出される解離反応についての、その平衡定数をKa、平衡定数の負の常用対数をpKaという。Kaが大きいほど、またはpKaが小さいほど強い酸であることを示す。
【0103】
【表1】

【0104】
実施例1の現像液に、MoWOx膜を30秒間浸漬させると、溶解により厚み9.5nm減少した。表1には、浸漬時間を1分間としたときの溶解量の換算値(18.9nm/min)を示してある。また、実施例2の現像液に、MoWOx膜を浸漬させた場合の溶解量は、25.0nm/minであった。
【0105】
一方、比較例1の現像液に、MoWOx膜を浸漬させた場合には、即溶解して、1秒以内に膜が消失した。また、比較例2の現像液に、MoWOx膜を浸漬させた場合の溶解量は、120nm/minであった。
【0106】
MoWOx膜は、アルカリ溶液に可溶ではあるが、これらの結果から示されるように、アルカリ溶液のpH値を適切に調整すれば、その溶解量を低減できることが示唆される。
【0107】
上記の実施例および比較例では、ITO基板上に露出したMoWOx膜を現像液に浸漬させているため、MoWOx膜と現像液との接触時間が長い。一方、MoWOx膜を現像液で現像するべき樹脂膜で被覆した状態で、現像液に浸漬させれば、MoWOx膜と現像液との接触時間は短縮され、溶解量も低減する。
【0108】
そこで、前述と同様に、フラットITO基板にMoWOx膜を形成し、さらにMoWOx膜上にアルカリ可溶型のネガ型感光性アクリル樹脂(旭硝子株式会社製)の樹脂膜(厚み:1μm)を形成したサンプルを用意した。このサンプルを実施例1および2の現像液に浸漬(30秒間)させたところ、MoWOx膜の溶解量はほぼ0であった。一方、同様のサンプルを比較例1および2の現像液に、同条件にて浸漬させたところ、MoWOx膜の溶解が確認された。つまり、pHが11.5以下であれば、MoWOx膜の溶解を抑制できることがわかる。
【0109】
また、実施例1の現像液による溶解量は18.9nm/minであり、比較例3の現像液による溶解量は29.8nm/minであり、比較例4の現像液に夜溶解量は36.9nm/minであった。
【0110】
実施例1の現像液、比較例3の現像液および比較例4の現像液は、いずれもpHが11であるが、添加した酸の種類が異なる。実施例1で添加した硝酸、比較例3で添加したギ酸、および比較例4で添加した酢酸のpKaはそれぞれ、−1.32、3.75および4.8であり、硝酸>ギ酸>酢酸の順番で酸性度が高い。すなわち、現像液によるMoWOx膜の溶解を抑制するには、現像液のpHが同一であっても、強酸を添加することが好ましいことがわかった。
【0111】
アルカリ現像液には、感光性樹脂をパターンエッチングしてバンクを形成する役割がある。アルカリ現像液のpHが低すぎると現像性能が低下するので、一般に、感光性樹脂膜のパターン現像のための現像液のpHは10.5以上であることが求められる。以上から、バンクの現像性の確保と正孔注入層の溶解抑制を両立させるためには、用いる現像液のpHが10.5から11.5であることが求められる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明により、有機ELデバイスの製造コストの低減及び大面積化が実現される。ディスプレイデバイスの画素発光源、液晶ディスプレイのバックライト、各種照明光源として有用であり、特に、TFTと組み合わせたアクティブマトリクス有機ELディスプレイパネルへの応用に適性がある。
【符号の説明】
【0113】
1、2 有機ELデバイス
10 TFT基板
12 陽極
13 正孔注入層
14 中間層
15 有機発光層
16 バンク層
18 電子注入層
20 透明陰極
22 透明封止膜
40 基板
50 トランジスタ素子
50A、50B TFT
51 ソース・ドレイン電極
52 半導体層
53 ゲート絶縁膜
54 ゲート電極
55 配線
57 平坦化膜
60 有機EL部
70 光
81 レジストマスク
82 感光性樹脂層
85 開口部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属の酸化物からなる薄膜上に配置された感光性樹脂膜を、フォトリソグラフィプロセスにてパターニングして、有機樹脂層を形成する工程を含む、電子デバイスの製造方法であって、
前記フォトリソグラフィプロセスにおいて用いる現像液は、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイドと、強酸の塩とを含む水溶液であり、かつpHが10.5〜11.5である、電子デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイドは、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドである、請求項1に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記強酸は、硝酸、硫酸および塩酸のいずれかである、請求項1に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記遷移金属は、タングステン、モリブデンのいずれか、もしくはその混合物である、請求項1に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記電子デバイスは、前記有機樹脂層で領域を規定された有機機能層を有する有機電子デバイスである、請求項1に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記電子デバイスは、基板と、前記基板上に配置された第一電極と、前記陽極上に配置された正孔注入層と、前記正孔注入層上に配置されたバンクと、前記バンクで規定され、かつ正孔注入層上に配置された有機発光層を含む有機機能層と、前記有機機能層上に配置された第二電極と、を具備する有機ELデバイスであって、
請求項1における前記遷移金属の酸化物からなる薄膜は、前記正孔注入層であり、かつ
請求項1における前記有機樹脂層は、前記バンクである、
請求項1に記載の電子デバイスの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−107476(P2011−107476A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263183(P2009−263183)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】