説明

電子放出素子、電子源、画像表示装置および電子放出素子の製造方法

【課題】電子ビームの集束性に優れ、リーク電流を抑制し、変形の起こりにくい構成を有する電子放出素子、ならびに、当該電子放出素子を利用した電子源、及び、該電子源を利用した、画質が良好で高精細な画像表示装置を提供する。
【解決手段】電子放出素子は、カソード電極2、ゲート電極4、絶縁部材6、及び、電子放出材5を備え、前記絶縁部材6は、前記ゲート電極に接し、かつ、前記ゲート電極の開口と略同じ大きさの開口を有する第1の絶縁層6aと、前記第1の絶縁層よりも前記カソード電極側に位置し、かつ、前記ゲート電極の開口より大きい開口を有する第2の絶縁層6bと、を含む3つ以上の絶縁層が積層されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子放出素子およびその製造方法に関するものであり、さらに、それを使用した、電子源および画像表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、カソード電極−ゲート電極間に絶縁層を備え、ゲート電極と絶縁層とのそれぞれに、互いに連通する開口が設けられた電子放出素子が一般に用いられている。そのような電子放出素子における電子放出材は、カソード電極上に形成されており、ゲート電極と絶縁層の開口内に少なくとも一部が露出している。
【0003】
そのような電子放出素子の例として、カソード電極上に円錐状もしくは円筒状で先端に小さな曲率からなる突起を設けた電子放出材や、カソード電極上にほぼ平坦で低電界放出の電子放出材を備えた電子放出素子がある。カソード電極上に円錐状もしくは円筒状で先端に小さな曲率からなる突起を設けた電子放出材を備えた電子放出素子では、当該突起の先端部より選択的に電界放出がなされる。
【0004】
カソード電極上にほぼ平坦で低電界放出の電子放出材を備えた電子放出素子は、上述した円錐状もしくは円筒状の電子放出材を備える電子放出素子に比べ、電子ビームの集束性に優れた電子放出素子となる可能性が期待されている。
【0005】
カソード電極上にほぼ平坦で低電界放出の電子放出材を備えた電子放出素子において、カソード電極の形状を変更することによって電子ビームの集束性をよくする方法がある。そのような技術は、たとえば、特許文献1〜6に開示されている。
【0006】
図15に特許文献1に開示された例を示す。これは、電子放出面(電子放出材において電子が放出される面)が、カソード電極層の絶縁層側の面より微細孔内で深い位置に存在する構成である。
【0007】
図15では、電子放出素子は、基板11上のカソード電極層32、絶縁層15、ゲート電極層14で構成され、微細孔20内の底面(カソード電極上)に、電子放出材16が配置されている。電子放出材16の表面(電子放出面)を、カソード電極層32と絶縁層15との界面より深い位置とするために、カソード電極層32には溝が掘り込まれている。
【0008】
図16に特許文献6に開示された例を示す。本構成では、電子放出膜34上にカソード電極35が設けられている。
【0009】
また、電極構造ではなく、開口内の電位分布を工夫し、電子ビーム径を小さくする技術がある。
【0010】
図17に特許文献7に開示された例を示す。本構成は、絶縁層が誘電率の異なる二層となっている例である。
【0011】
図18に特許文献8に開示された例を示す。本構成は、開口径を工夫したもの(カソード電極の表面からゲート電極側に向かうにつれ徐々に開口径を大きくしたもの)である。
【0012】
以上のように、集束性に優れた電子放出素子を作製し、その電子放出素子を平面基板上に多数配置した電子源を作製し、それを利用して画像表示装置を構成するという、高精細
な画像表示装置を形成するための開発が行われている。
【0013】
電子放出素子には、良好な電気特性が必要であり、カソード電極−ゲート電極間の無効電流、いわゆるリーク電流の発生は問題である。
【0014】
リーク電流のうち、開口で生じるリーク電流の原因としては、製造工程時の残渣物がある。残渣物としては、パーティクル(電極材料、電子放出材)の付着、エッチング工程で2次的に発生するもの(ドライエッチングによる側壁生成物)などがある。これらは、極力取り除くことが望まれる。
【0015】
また、電子放出素子は、長時間の安定な駆動が期待される。
【0016】
駆動の安定性においても、残渣物の影響がある。残渣物がパーティクルの場合は、開口内の強電界によりパーティクルがチャージして移動し、その際に、放電が起こる場合がある。放電により、開口内に一時的でも過度な温度上昇があれば、開口の変形が起こる。
【0017】
このためには、温度上昇に強い構造、材料の選択、各層間の密着性の向上が必要であり、開口は変形しにくい構造であることが望まれる。
【0018】
また、残渣物が導電性の付着物であった場合、開口内の電位分布は曲げられ、その曲がりは、側壁部(絶縁層)への不要な電子の入射を引き起こす可能性がある。電子の入射による絶縁層の帯電現象は、ゲート電極−カソード電極の絶縁耐圧を減少させる場合がある。
【0019】
絶縁耐圧を上げる方法としては、ゲート電極−カソード電極間の沿面距離を長くするなどの方法がある。
【0020】
また、リーク電流のない良好な電子放出素子であっても、放出された電子が周辺のガスをイオン化するため、イオン化したガスにより電子放出特性が劣化する。これを防止するために、開口を工夫した例がある。
【0021】
図19,20に特許文献9に開示された例を示す。本構成は、側壁構造を工夫し、電子放出素子の長期安定性を狙った例である。この電子放出素子の場合、電子放出材先端に曲率を設けた構造であり、絶縁層下縁側が開口に対し、後方に後退したものである。
【0022】
このように開口内は、製造工程の残渣物が除去された状態であり、かつ、開口内の電位分布の変化を抑制するような構造であることなどが重要である。
【特許文献1】特開平8−115654号公報
【特許文献2】特開平8−293244号公報
【特許文献3】特開平10−125215号公報
【特許文献4】特開2000−67736号公報
【特許文献5】米国特許第5473218号明細書
【特許文献6】特開平8−55564号公報
【特許文献7】特表2002−536802号公報
【特許文献8】特開2000−156147号公報
【特許文献9】特開平10−308163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は上記の従来技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするとこ
ろは、電子ビームの集束性に優れ、リーク電流を抑制し、変形の起こりにくい構成を有する電子放出素子を提供することにある。
【0024】
また、本発明の更なる目的は、そのような電子放出素子を利用した電子源、及び、該電子源を利用した、画質が良好で高精細な画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明に係る電子放出素子は、カソード電極、ゲート電極、絶縁部材、及び、電子放出材を備え、前記ゲート電極は、前記カソード電極の上方に位置し、前記絶縁部材は、前記ゲート電極と前記カソード電極の間に位置し、前記ゲート電極と前記絶縁部材のそれぞれに、互いに連通する開口が設けられており、前記電子放出材は、前記カソード電極上に設けられ、かつ、前記ゲート電極と前記絶縁部材の開口内に少なくとも一部が露出する電子放出素子であって、前記絶縁部材は、前記ゲート電極に接し、かつ、前記ゲート電極の開口と略同じ大きさの開口を有する第1の絶縁層と、前記第1の絶縁層よりも前記カソード電極側に位置し、かつ、前記ゲート電極の開口より大きい開口を有する第2の絶縁層と、を含む3つ以上の絶縁層が積層されたものであることを特徴とする。
【0026】
また、本発明に係る電子放出素子の製造方法は、カソード電極、ゲート電極、絶縁部材、及び、電子放出材を備え、前記ゲート電極は、前記カソード電極の上方に位置し、前記絶縁部材は、前記ゲート電極と前記カソード電極の間に位置し、前記ゲート電極と前記絶縁部材のそれぞれに、互いに連通する開口が設けられており、前記電子放出材は、前記カソード電極上に設けられ、かつ、前記ゲート電極と前記絶縁部材の開口内に少なくとも一部が露出する電子放出素子の製造方法であって、前記ゲート電極に接する第1の絶縁層と、前記第1の絶縁層よりも前記カソード電極側に位置する第2の絶縁層と、を含む3つ以上の絶縁層を積層することによって前記絶縁部材を形成する第1の工程と、前記第2の絶縁層の開口を、前記ゲート電極の開口より大きくする第2の工程と、を有することを特徴とする。
【0027】
また、本発明に係る電子源は、上記電子放出素子を複数備えることを特徴とする。
【0028】
また、本発明に係る画像表示装置は、上記電子源と、該電子源から放出された電子によって画像を形成する画像形成部材と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、電子ビームの集束性に優れ、リーク電流を抑制し、変形の起こりにくい構成を有する電子放出素子を提供することができる。
【0030】
更に、そのような電子放出素子を利用した電子源、及び、該電子源を利用した、画質が良好で高精細な画像表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。また、カソード、ゲート、アノード電極に印加される電圧、駆動波形等の条件も特に特定的な記載がない限りはそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0032】
図1〜3を参照して本発明の実施の形態に係る電子放出素子について説明する。
【0033】
図1は本実施形態に係る電子放出素子の構成を示す模式図である。図1(a)は平面図
である。図1(b)は図1(a)におけるA−A´の断面図(ゲート電極に垂直であり、かつ、ゲート電極と絶縁部材の開口の中心を通るような平面における断面であり、以後、断面とはこのことを意味する)である。
【0034】
図2は、図1に示す電子放出素子の駆動状態の詳細を示す図である。
【0035】
図1、図2において、1は基板、2はカソード電極、4はゲート電極、5は電子放出材、6は絶縁部材である。ここで、ゲート電極4はカソード電極の上方に位置し、絶縁部材6は、ゲート電極4とカソード電極2の間に位置する。ゲート電極4と絶縁部材6のそれぞれには、互いに連通する開口が設けられており、電子放出材5はカソード電極上に設けられ、かつ、ゲート電極4と絶縁部材6の開口内に少なくとも一部が露出している。なお、ゲート電極4と絶縁部材6のそれぞれに設けられる開口は、互いに同心的に連通していることが好ましい。
【0036】
絶縁部材6は、第1の絶縁層と第2の絶縁層とを含む3つ以上の絶縁層が積層されたものである。第1の絶縁層は、ゲート電極に接し、かつ、ゲート電極の開口と略同じ大きさの開口を有する絶縁層である。第2の絶縁層は、第1の絶縁層よりもカソード電極側に位置し、かつ、ゲート電極の開口より大きい開口を有する絶縁層である。図1の例では、絶縁部材6が3つの絶縁層(絶縁層6a〜6c)から形成されており、ゲート電極4に接している絶縁層6cを第1の絶縁層とし、中間に位置する絶縁層6bを第2の絶縁層とする。
【0037】
カソード電極2とゲート電極4間には駆動電圧Vgが与えられる。
【0038】
7は、電子放出素子の上方に距離Hだけ離れて配置されたアノード電極であり、アノード電圧Vaが与えられる。距離Hとは通常はカソード電極2の位置を基準とすればよい。
【0039】
アノード電極7では電子が補足され、電子放出電流Ieが検出される。
【0040】
駆動電圧Vgがかかると、カソード電極−ゲート電極間にゲート電流Igが流れる。Igは、ゲート電極4と絶縁部材6とのそれぞれに連通するように設けられた開口周辺(開口の側壁や絶縁部材内部)の導電パスを介して流れるものと、電子放出材5から真空に放出された電子がゲート電極4に再入射して流れるものとがある。いずれも、アノード電極7に到達しない電流であり、無効電流となる。
【0041】
電子放出素子の効率は、駆動電圧Vgを印加することにより流れる全ての電流(全電流)のうち、アノード電極に到達する電流(電子電流)をIeとし、アノード電極に到達しない電流(無効電流)をIgとすると、
電子放出効率=電子電流/全電流=Ie/(Ig+Ie)
と定義できる。
【0042】
すなわち、カソード電極−ゲート電極間のゲート電流Igが少ない程効率がよい。また、リーク電流がなく、ゲート電極に入射する電子がなければ、効率は1となり理想的である。
【0043】
上述したように、ゲート電極4と絶縁部材6とのそれぞれは、互いに連通する開口を有している。開口の形状はどのようなものであってもよく、具体的には、円形、多角形、長方形などがある(なお、開口の形状が円形以外の場合には、ゲート電極4と絶縁部材6との開口が互いに同心的であり、かつ、形状の向きも互いにほぼ同じであることが好ましい。)。
【0044】
開口の形状は、円形の場合、一般的に、開口径(直径)w、開口深さhで表される。
【0045】
その他、開口径wとしては、多角形の場合は外接円の直径で、長方形の場合は短辺の長さで考えるのが一般的である(長方形の長辺の長さは開口幅として区別される)。
【0046】
図2中の点線はこの電子放出素子を駆動させたときの等電位面を示したものである。駆動条件により等電位面の形状は異なるが、図2中の点線は本実施形態に係る電子放出素子を一般的な駆動条件で駆動させたときの等電位面である。
【0047】
本実施形態に係る電子放出素子では、電子放出材5のすぐ上(ゲート電極側)の等電位面を、図2のように、断面図で(カソード電極側に)凹型の等電位面とすることで、集束性に優れた電子放出構造が作製できる。
【0048】
一方、ゲート電極4の開口付近における等電位面は中央部で(ゲート電極側に)膨らんだ凸型となる。したがって、電子は、図2のように、ゲート電極の開口よりも外側に広がるように放出され、アノード電極に到達する。
【0049】
このような等電位面を得るには、複数の方法がある。
【0050】
一つは絶縁層の形状、絶縁層の誘電率を工夫する方法であり、図1に示す電子放出素子の構成はそれら両方を工夫した例である。換言すれば、図1に示す電子放出素子は、駆動時に図2に示すような等電位面を得るために、第2の絶縁層を備えている。図2に示すような等電位面にするためにどのように工夫すればよいのかについては後で詳しく説明する。
【0051】
また、別の方法としては、電子放出材の露出領域(露出している領域)の端での電位を電子放出材の露出領域の中央での電位よりも高くするために、カソード電極の形状、構成を工夫する方法であり、これについても後述する。
【0052】
本実施形態において有効な電子放出素子(集束性に優れた電子放出素子)とするためには、放出された電子をゲート電極4および絶縁部材6へ衝突しないようにする必要がある。電子がゲート電極に衝突すると、衝突した電子の一部が再放出され、電子軌道が異なった電子ビームとなり、アノード電極に到達する。そのような電子の到達量は少ないが、到達位置が、ゲート電極に衝突せずにアノード電極に到達した電子の到達位置に比べ、より外側の位置となる。即ち、集束性が劣化した電子放出素子となる。
【0053】
アノード電極に到達する電子のビーム径は、放出される電子を総合したビーム径となり、図2のPで表される径となる。
【0054】
図3は、図1に示す本実施形態に係る電子放出素子の製造方法の一例を示す図である。
【0055】
以下、図3を参照して、本実施形態に係る電子放出素子の製造方法の一例を説明する。
【0056】
まず、図3(a)に示すように、基板1上にカソード電極2を積層する。基板1としては、石英ガラス、Na等の不純物含有量を減少させたガラス、青板ガラス、シリコン基板、シリコン基板等にスパッタ法等によりSiOを積層した積層体、アルミナ等セラミックスの絶縁性基板などを用いることができる。また、基板1の表面は、予め十分に洗浄されていることが望ましい。
【0057】
カソード電極2は一般的に導電性を有しており、蒸着法、スパッタ法等の一般的な真空成膜技術、フォトリソグラフィー技術により形成される。カソード電極2の材料は、金属、合金、炭化物、硼化物、窒化物、半導体、有機高分子材料、アモルファスカーボン、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンドを分散した炭素及び炭素化合物等から適宜選択される。金属としては、例えば、Be,Mg,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Al,Cu,Ni,Cr,Au,Pt,Pd等を用いればよく、合金もまたそれら金属を用いて生成されたものを用いればよい。炭化物としては、TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC等、硼化物としては、HfB,ZrB,LaB,CeB、YB,GdB等、窒化物としては、TiN,ZrN,HfN等、そして、半導体としては、Si,Ge等を用いればよい。カソード電極2の厚さとしては、数十nmから数mmの範囲で設定され、好ましくは数百nmから数μmの範囲で選択される。
【0058】
また、絶縁性シリコン基板の一部をドーピングして導電性としてカソード電極2としてもよい。カソード電極2は組成の違う多層構成にしてもよい。カソード電極2、その一部が高抵抗体で積層されていてもよい。
【0059】
次に、カソード電極上に、電子放出材5を形成(積層)する(図3(a))。
【0060】
電子放出材5は蒸着法、スパッタ法、プラズマCVD法等の一般的な成膜技術などで形成される。電子放出材5の材料は、低仕事関数の材料を選択するのが好ましい。例えば、アモルファスカーボン,グラファイト,ダイヤモンドライクカーボン,ダイヤモンドを分散した炭素及び炭素化合物等から適宜選択される。
【0061】
電子放出材5の膜厚としては、数nmから数百nmの範囲で設定され、好ましくは数nmから数十nmの範囲で選択される。
【0062】
電子放出材5は、カソード電極2と電気的に接続される必要があり、導電性を有していることが望ましい。例えば、絶縁性の材料であればドーピングによる導電性の付加などが必要である。また、電子放出材5自体が導電性であってもよい。
【0063】
その後、絶縁部材6(絶縁層6a〜6c)及びゲート電極4を順次堆積する(図3(b))。
【0064】
絶縁部材6は、スパッタ法等の一般的な真空成膜法、CVD法、真空蒸着法で形成され、その厚さとしては、数nmから数μmの範囲で設定され、好ましくは数十nmから数百nmの範囲で選択される。
【0065】
絶縁層を3つ以上積層したものを絶縁部材とすることにより、有効な効果(集束性に優れた電子ビーム)を得ることが可能となる。なお、本実施形態では、図3(b)の工程に、第1の絶縁層よりもエッチングレートの高い材料で第2の絶縁層を形成する工程を含むものとする。エッチングレートの違いは、例えば、組成の違い(構成材、ドーピング量)や、製造手法の違い(密度、結合の違い)によってもたらされる。このように絶縁層を3層以上積層することによって(絶縁層6a〜6cを積層することによって)絶縁部材6を形成する工程が本発明において特徴的な第1の工程である。
【0066】
2種類以上の絶縁層の組み合わせにおいて、組成の違いの例としては、SiO/SiN、SiO/Al、その他SiONの組成違いなどがある。また、成膜手法による違いの例としては、プラズマCVD法によって成膜されたSiO/スパッタ法によって成膜されたSiOなどがある。
【0067】
ゲート電極4は、カソード電極2と同様に導電性を有しており、蒸着法、スパッタ法等の一般的な真空成膜技術、フォトリソグラフィー技術により形成される。ゲート電極4の材料は、金属、合金、炭化物、硼化物、窒化物、半導体、有機高分子材料等から適宜選択される。金属としては、例えば、Be,Mg,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Al,Cu,Ni,Cr,Au,Pt,Pd等であり、合金もまたそれら金属を用いて生成される。炭化物としては、TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC等、硼化物としては、HfB,ZrB,LaB,CeB、YB,GdB等、窒化物としては、TiN,ZrN,HfN等、そして、半導体としては、Si,Ge等を用いればよい。
【0068】
次に、フォトリソグラフィー技術によりマスクパターン31を形成する(図3(c))。
【0069】
そして、図3(d)に示すように、マスクパターン31を利用して、ゲート電極4と絶縁層6の一部を取り除く。これにより、ゲート電極と絶縁部材のそれぞれに、互いに連通する開口を設けることができる。なお、このように設けられたゲート電極と絶縁部材の開口の大きさ、形状、及び、(その形状の)向きは、互いに略等しくなる。これら開口の作製は、ゲート電極、絶縁層の材料、厚さにより、ドライエッチング法、ウエットエッチング法などが適宜選択される。また、場合により集束イオンビームエッチング、などの部分的な微細加工などを適宜選択してもよい。
【0070】
次に、図3(e)に示すように、マスクパターン31を剥離する。
【0071】
そして、図3(f)に示すように、絶縁部材6の開口を所望の側壁構造にする。当該工程が本発明において特徴的な第2の工程である。具体的には、第2の絶縁層の開口をゲート電極の開口より大きくする。本実施形態では、当該工程を、ウエットエッチング法を用いて行う。当該工程をウエットエッチング法により行えば、ゲート電極4と絶縁部材6との開口が互いに同心的であり、かつ、形状の向きも互いにほぼ同じになる。
【0072】
本実施形態において有効な絶縁層(集束性に優れ、長期間安定して駆動することのできる電子放出素子とするための絶縁層)の構造について説明する。
【0073】
ゲート電極4に接する第1の絶縁層(絶縁層6c)には、2つの役目がある。
【0074】
ひとつはゲート電極4の支持体としての役目である。ゲート電極4は、開口に有効な電位を与えるために最低限の厚さを必要とする。一方、ゲート電極4の厚さを厚くしていくと、開口高さhが大きくなり、電子放出効率が低くなる。すなわち、集束性と電子放出効率とを両立させるためには、ゲート電極4は適度な厚さがよい。しかしながら、そのような厚さでは、ゲート電極4の十分な機械的強度を得ることができない。そのため、第1の絶縁層(絶縁層6c)の開口がゲート電極4の開口より大きい場合、開口内に形成される電界により、ゲート電極4に変形が生じる恐れがある。そこで、第1の絶縁層(絶縁層6c)の開口を、ゲート電極4の開口と略同じ大きさにすることにより、そのような変形に強くすることができる。
【0075】
もう一つは、プロセス時に起こるリーク電流を低減させる役目である。このようなリーク電流は開口作製時の側壁にエッチングによる残渣物(付着物)が付着することによって生じる。これを取り除くためには、側壁部分の表面をエッチングするのが効果的である。この工程を、ウエットエッチング法を用いて行う場合、ゲート電極にプロセス耐性がなければ、ゲート電極としての抵抗が増大したり、ゲート電極の密着性が低下したりしてしま
う。また、ゲート電極自体に耐性があっても、ゲート電極の一部にピンホールがあると、エッチング溶液がゲート電極のピンホール部より絶縁部材を侵食し、そこがリーク電流の起源となり、絶縁耐圧の低下につながる。ゲート電極に接する第1の絶縁層(絶縁層6c)がエッチング耐性のある構造(エッチングに用いる液体に対して溶けにくい材料;エッチングレートの低い材料)であれば、ゲート電極上部からのエッチング溶液の侵食を防止でき、リーク電流の発生を抑制できる。
【0076】
図3(f)において第2の絶縁層(絶縁層b)の開口をゲート電極の開口よりも大きくすることにも2つの役目がある。以下に、図3の例を用いて説明する。
【0077】
ひとつは、第2の絶縁層よりカソード電極側の絶縁層(図3の例では最下層である絶縁層6a)との組み合わせによって集束性を向上させる役目を持つ。具体的には、開口の大きさを、
絶縁層6aの開口 < 絶縁層6bの開口
とすることで、電子ビームの集束性に優れた凹型の等電位面とすることができる。
【0078】
もうひとつは、リーク電流の低減である。ゲート電極や絶縁部材の開口周辺の導電パスを介して流れるカソード電極−ゲート電極間のリーク電流を防ぐためには、絶縁部材の開口に付着した残渣物(付着物)を取り除けばよい。絶縁部材を多層にして、いずれかの層の付着物を取り除くことで、そのようなリーク電流を低減することができる。具体的には、図3(f)に示す工程にウエットエッチング法を用いることにより、いずれかの絶縁層の表面を溶解し、付着物を取り除くことができる。また、このような構造にすることで絶縁部材の沿面距離が長くなるため、絶縁部材の絶縁耐圧も上がる。
【0079】
以上のように、絶縁部材を多層にすることにより、集束性に優れ、長期間安定して駆動することのできる電子放出素子が構成可能となる。なお、このような絶縁部材を形成するためには、ウエットエッチング法を用いて所望の形状になるように、各層のエッチング耐性を考慮すればよい。具体的には、絶縁層6bには絶縁層6aや絶縁層6cよりもエッチングレートの高い材料を用いればよい。
【0080】
さらには、上述したような構成の電子放出素子は、積層を繰り返すだけの非常に単純な構成であるため、製造プロセスが容易であり、歩留まり良く製造できる。
【0081】
図3の例において、上記第1の絶縁層と第2の絶縁層の役割を考慮すると、以下の方法で集束性に優れ、長期間安定して駆動することのできる電子放出素子の構造が決定できる。
【0082】
まず、十分な集束性を得るための絶縁層6a(第3の絶縁層;第2の絶縁層よりカソード電極側の絶縁層)と絶縁層6b(第2の絶縁層)の厚さt1、t2を決める。
【0083】
そして、絶縁層6bの開口径w2を決める。絶縁層6bの後退距離(エッチング量)も集束性に影響するパラメータであり、その後退距離の大きさは、第1の絶縁層6aが支持体としての十分な役割を保持できるならば、大きい方がよい。当該後退距離によって開口径w2は変動する。
【0084】
一方、絶縁層6cは集束性にあまり関連しないため、プロセス耐性を考慮し、材質と厚さを適宜決定する。
【0085】
このようにして、図1に示すような電子放出素子が完成する。
【0086】
ゲート電極の開口の大きさ(開口径w)は、ビーム径の大きさを左右する因子であり、数μm程度であれば、開口径が小さい程ビーム径が小さくなる。好ましくは、数百nmから数十μmである。さらに好ましくは、100nmから3μmである。
【0087】
ゲート電極の開口が電子放出材の露出している領域(露出領域)よりも大きいこと、具体的には、電子放出材の設置位置から電子が放出される側に向かうにつれて開口が大きくなることもまた、集束性を左右する因子である。なお、各層のそれぞれの開口がそのような形状を有することも集束性を左右する。
【0088】
全ての開口の大きさが等しい、すなわち、開口に傾斜がなく、基板に対して垂直な開口を傾斜角90度(開口の外側からの角度)とすると、90度付近の開口は作製しやすい。90度以上の傾斜(逆テーパ構造)は、プロセスにおいて、側壁付着物が増えるなど、問題が起こりやすい。
【0089】
そのため、製造プロセスで一般的な開口は、45度以上90度程度となる。傾斜している開口は、90度の開口より、より優れた集束性を得ることができる。ただし、上述したように、優れた集束性を得るには、開口径を小さくすることが効果的である。開口の傾斜が大きい構造は、開口径wが大きい構造と等価であるため、電界がかかりにくく、集束性の劣った構造となる。従って、開口内に良好な電界分布をつけるためには、傾斜を60度以上90度以下とすることが好ましい。なお、本実施形態では、電子放出素子の断面において、ゲート電極の端と電子放出材の露出領域の端とを交差しないように結んだ仮想的な2つの直線(仮想直線)を考える。そして、それぞれ仮想直線の基板に対する開口の外側からの角度を開口の傾斜角度とする。
【0090】
<応用例>
本実施形態に係る電子放出素子の応用例について以下に述べる。本実施形態に係る電子放出素子は、例えば、複数個を基体上に配列することにより電子源を構成することができる。そして、当該電子源を用いて画像表示装置を構成することができる。
【0091】
電子放出素子の配列については、種々のものが採用される。一例として、電子放出素子をX方向及びY方向に行列状に複数配する。同じ行に配された複数の電子放出素子の電極の一方を、X方向の配線に共通に接続し、同じ列に配された複数の電子放出素子の電極の他方を、Y方向の配線に共通に接続する。これを単純マトリクス配置という。以下単純マトリクス配置について詳述する。
【0092】
図4、図5において、51、61は電子源基体、52、62はX方向配線、53、63はY方向配線である。64は本実施形態の電子放出素子である。
【0093】
X方向配線62は、Dx1,Dx2,・・・Dxmのm本の配線からなり、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等を用いて形成された導電性金属等で構成することができる。配線の材料、膜厚、幅は、適宜設計される。Y方向配線63は、Dy1,Dy2,・・・Dynのn本の配線よりなり、X方向配線62と同様に形成される。これらm本のX方向配線62とn本のY方向配線63との間には、層間絶縁層(不図示)が設けられており、両者は電気的に分離されている(m,nは、共に正の整数)。
【0094】
層間絶縁層(不図示)は、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等を用いて形成されたSiO等で構成される。例えば、X方向配線62を形成した電子源基体61の全面或いは一部に所望の形状で形成される。特に、X方向配線62とY方向配線63の交差部の電位差に耐え得るように、膜厚、材料、製法が適宜設定される。X方向配線62とY方向配線63は、それぞれ外部端子として引き出されている。
【0095】
電子放出素子64を構成するm本のX方向配線62は、カソード電極2を兼ねる場合があり、n本のY方向配線63は、ゲート電極4を兼ねる場合があり、層間絶縁層は絶縁部材6を兼ねる場合がある。
【0096】
X方向配線62には、不図示の走査信号印加手段が接続される。走査信号印加手段は、選択されたX方向配線に接続されている電子放出素子64に走査信号を印加する。一方、Y方向配線63には、不図示の変調信号発生手段が接続される。変調信号発生手段は、電子放出素子64の各列に、入力信号に応じて変調された変調信号を印加する。各電子放出素子に印加される駆動電圧は、それぞれ、電子放出素子に印加される走査信号と変調信号の差電圧として供給される。
【0097】
このように、本実施形態に係る電子放出素子を複数備える電子源を作製することができる。上記構成においては、単純なマトリクス配線を用いて、電子放出素子を個別に選択し、独立に駆動可能とすることができる。上記電子源を用いて構成した画像表示装置について、図6を用いて説明する。図6は、画像表示装置の表示パネルの一例を示す模式図である。
【0098】
図6において、71は電子放出素子、80は電子源基板、91はリアプレート、96はフェースプレート、92は支持枠である。電子源基板80には電子放出素子71が複数配されており、リアプレート91には電子源基板80が固定されている。フェースプレート96はガラス基体93、蛍光膜94、メタルバック95等によって形成されている。蛍光膜94、メタルバック95はガラス基体93の内側に設けられている。図6の例では、ガラス基体93の内面(内側表面)に蛍光膜94が設けられており、蛍光膜94の内面にメタルバック95が設けられている。支持枠92には、リアプレート91とフェースプレート96がフリットガラスなどを用いて接続される。
【0099】
外囲器(パネル)98は、フェースプレート96、支持枠92、リアプレート91で構成される。リアプレート91は、主に電子源基板80の強度を補強する目的で設けられるため、電子源基板80自体が十分な強度を持つ場合には、別体のリアプレート91は不要とすることができる。換言すれば、電子源基板80とリアプレート91は、一体構成の部材であっても構わない。
【0100】
フェースプレート96と、リアプレート91と、支持枠92とは、夫々の接合する面(接着面)にフリットガラスを塗布し、所定の位置で合わせ、固定し、加熱してフリットガラスを焼成することにより封着される。
【0101】
また、そのような加熱するための手段としては、赤外線ランプ等を用いたランプ加熱、ホットプレート等、種々のものが採用できるが、これらに限定されるものではない。
【0102】
また、外囲器を構成する複数の部材を加熱接着する接着材料は、フリットガラスに限るものではなく、封着工程後、十分な真空状態を保つことができる種々の接着材料を採用することができる。
【0103】
上述した外囲器は、本発明の一実施態様であり、限定されるものではなく、種々のものが採用できる。
【0104】
他の例として、電子源基板80に直接支持枠92を封着し、フェースプレート96、支持枠92及び電子源基板80で外囲器98を構成しても良い。また、フェースプレート96、リアプレート91間に、スペーサーとよばれる不図示の支持体を設置することにより
、大気圧に対して十分な強度をもつ外囲器98を構成することもできる。
【0105】
また、図7にフェースプレート96に形成された蛍光膜94の模式図を示す。蛍光膜94は、電子源から放出された電子によって画像を形成する画像形成部材である。蛍光膜94は、モノクロームの場合は蛍光体85のみから構成することができる。カラーの蛍光膜の場合は、ブラックストライプ(図7(a))、ブラックマトリクス(図7(b))などと呼ばれる黒色導電材86と蛍光体85とから構成することができる。
【0106】
ブラックストライプ、ブラックマトリクスを設ける目的は2つある。1つ目は、カラー表示の場合、必要となる三原色蛍光体の各蛍光体85間の塗り分け部を黒くすることで混色等を目立たなくすることである。そして2つ目は、蛍光膜94における外光反射によるコントラストの低下を抑制することにある。ブラックストライプの材料としては、通常用いられている黒鉛を主成分とする材料の他、導電性があり、光の透過及び反射が少ない材料を用いることができる。
【0107】
ガラス基体93に蛍光体を塗布する方法は、モノクローム、カラーによらず、沈澱法、印刷法等が採用できる。蛍光膜94の内面側には、通常メタルバック95が設けられる。メタルバックを設ける目的は3つあり、1つは、蛍光体の発光のうち内面側への光をフェースプレート96側へ鏡面反射させることにより輝度を向上させることにある。そして、電子ビーム加速電圧を印加するための電極として作用させること、外囲器内で発生した負イオンの衝突によるダメージから蛍光膜94を保護すること等も、メタルバックを設ける目的である。メタルバック95は、蛍光膜作製後、蛍光膜の内面側表面の平滑化処理(通常、「フィルミング」と呼ばれる。)を行い、その後Alを真空蒸着等を用いて堆積させることで作製できる。
【0108】
フェースプレート96には、蛍光膜94の導電性を高めるため、更に、蛍光膜94の外面側に透明電極(不図示)を設けてもよい。
【0109】
本実施形態に係る画像表示装置において、電子放出素子71が直上に電子ビームを放出するため、蛍光膜94は電子放出素子71の直上に配置される。
【0110】
次に、封着工程を施した外囲器(パネル)を真空封止するための真空封止工程について説明する。
【0111】
真空封止工程は、まず、外囲器(パネル)98を加熱して、80〜250℃に保持しながら、イオンポンプ、ソープションポンプなどの排気装置によりの排気管(不図示)を通じて排気する。そして、有機物質の十分に少ない雰囲気にした後、排気管をバーナーで熱して溶解させて封じ切る。外囲器98の封止後の圧力を維持するために、ゲッター処理を行うこともできる。これは、外囲器98の真空封止を行う直前あるいは封止後に、抵抗加熱あるいは高周波加熱等を用いた加熱により、外囲器98内の所定の位置(不図示)に配置されたゲッターを加熱し、蒸着膜を形成する処理である。ゲッターは通常Ba等が主成分であり、該蒸着膜の吸着作用により、外囲器98内の雰囲気を維持するものである。
【0112】
以上の工程によって製造された単純マトリクス配置の電子源を用いて構成した画像表示装置は、各電子放出素子に、容器外端子Dox1〜Doxm、Doy1〜Doynを介して電圧を印加することにより、電子放出が生ずる。
【0113】
高圧端子97を介してメタルバック95、あるいは透明電極(不図示)に高圧を印加することで、電子ビームは加速する。
【0114】
加速された電子は、蛍光膜94に衝突し、発光が生じて画像が形成される。
【0115】
図8はNTSC方式のテレビ信号に応じて表示を行うための駆動回路の一例を示すブロック図である。
【0116】
図13の駆動回路について説明する。この回路は、内部にM個のスイッチング素子を備えたもので(図中,S1ないしSmで模式的に示している)ある。各スイッチング素子は、直流電圧源Vx1の出力電圧もしくは直流電圧源Vx2のいずれか一方を選択し、表示パネル1301の容器外端子Dox1ないしDoxmと電気的に接続される。S1乃至Smの各スイッチング素子は、制御回路1303が出力する制御信号Tscanに基づいて動作するものであり、例えばFETのようなスイッチング素子を組み合せることにより構成することができる。直流電圧源Vx1は、電子放出素子の特性に基づき設定されている。
【0117】
制御回路1303は、外部より入力する画像信号に基づいて適切な表示が行なわれるように各部の動作を整合させる機能を有する。制御回路1303は、同期信号分離回路1306より送られる同期信号Tsyncに基づいて、各部に対してTscanおよびTsftおよびTmryの各制御信号を発生する。
【0118】
同期信号分離回路1306は、外部から入力されるNTSC方式のテレビ信号(NTSC信号)から同期信号成分と輝度信号成分とを分離する為の回路で、一般的な周波数分離(フィルター)回路等を用いて構成できる。同期信号分離回路1306によりNTSC信号から分離された同期信号は、垂直同期信号と水平同期信号より成るが、ここでは説明の便宜上Tsync信号として図示した。NTSC信号から分離された画像の輝度信号成分は便宜上DATA信号と表した。該DATA信号はシフトレジスタ1304に入力される。
【0119】
シフトレジスタ1304は、時系列的にシリアルに入力されるDATA信号を、画像の1ライン毎にシリアル/パラレル変換するためのもので、制御回路1303より送られる制御信号Tsftに基づいて変換する。即ち、制御信号Tsftは,シフトレジスタ1304のシフトクロックであるということもできる。シリアル/パラレル変換された画像1ライン分(電子放出素子N個分の駆動データに相当)のデータは、Id1乃至IdnのN個の並列信号として出力され、ラインメモリ1305に入力される。
【0120】
ラインメモリ1305は、画像1ライン分のデータを必要時間の間だけ記憶する為の記憶装置であり、制御回路1303より送られる制御信号Tmryに従って適宜Id1乃至Idnの内容を記憶する。記憶された内容は、Id´1乃至Id´nとして出力され、変調信号発生器1307に入力される。
【0121】
変調信号発生器1307は、画像データId´1乃至Id´nの各々に応じて本実施形態の電子放出素子の各々を適切に駆動変調する為の変調信号の信号源である。変調信号発生器1307からの出力信号は、端子Doy1乃至Doynを通じて表示パネル1301内の電子放出素子に印加される。
【0122】
本電子放出素子にパルス状の電圧を印加する場合、例えば、電子放出電圧以下の電圧を印加しても電子放出は生じないが、電子放出電圧以上の電圧を印加すると電子ビームが出力される。その際、パルスの波高値Vmを変化させる事により出力電子ビームの強度を制御することが可能である。また、パルスの幅Pwを変化させることにより出力される電子ビームの電荷の総量を制御する事が可能である。
【0123】
従って、入力信号に応じて、電子放出素子を変調する方式としては、電圧変調方式、パルス幅変調方式等が採用できる。電圧変調方式を実施するに際しては、変調信号発生器1307として、一定長さの電圧パルスを発生し、入力されるデータに応じて適宜パルスの波高値を変調するような電圧変調方式の回路を用いることができる。
【0124】
パルス幅変調方式を実施するに際しては、変調信号発生器1307として、一定の波高値の電圧パルスを発生し、入力されるデータに応じて適宜電圧パルスの幅を変調するようなパルス幅変調方式の回路を用いることができる。
【0125】
シフトレジスタ1304やラインメモリ1305は、デジタル信号式あるいはアナログ信号式のものを採用できる。画像信号のシリアル/パラレル変換や記憶が所定の速度で行なわれれば良いからである。
【0126】
デジタル信号式を用いる場合には、同期信号分離回路1306の出力信号DATAをデジタル信号化する必要があるが、これには1306の出力部にA/D変換器を設ければ良い。これに関連してラインメモリ1305の出力信号がデジタル信号かアナログ信号かにより、変調信号発生器1307に用いられる回路が若干異なったものとなる。具体的には、デジタル信号を用いた電圧変調方式の場合、変調信号発生器1307には、例えばD/A変換回路を用い、必要に応じて増幅回路などを付加する。パルス幅変調方式の場合、変調信号発生器1307には、例えば、高速の発振器、当該発振器の出力する波数を計数する計数器(カウンタ)、及び、計数器の出力値とラインメモリの出力値を比較する比較器(コンパレータ)を組み合せた回路を用いる。必要に応じて、比較器の出力するパルス幅変調された変調信号を、本実施形態における電子放出素子の駆動電圧にまで電圧増幅するための増幅器を付加することもできる。
【0127】
アナログ信号を用いた電圧変調方式の場合、変調信号発生器1307には、例えばオペアンプなどを用いた増幅回路を採用でき、必要に応じてレベルシフト回路などを付加することもできる。パルス幅変調方式の場合には、例えば、電圧制御型発振回路(VCO)を採用でき、必要に応じて本発明の電子放出素子の駆動電圧まで電圧増幅するための増幅器を付加することもできる。
【0128】
ここで述べた画像表示装置の構成は、本発明を適用可能な画像表示装置の一例であり、本発明の技術思想に基づいて種々の変形が可能である。入力信号については、NTSC方式を挙げたが入力信号はこれに限られるものではなく、PAL,SECAM方式などの他、これよりも多数の走査線からなるTV信号(例えば、MUSE方式をはじめとする高品位TV)方式をも採用できる。
【0129】
また表示装置の他、感光性ドラム等を用いて構成された光プリンターとしての画像形成装置等としても用いることができる。
【0130】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0131】
<実施例1>
図1のような電子放出素子を複数備える図4の電子源の製造方法の具体例を、本実施形態における第1実施例として説明する。
【0132】
(工程1)
まず、基板1としてPD200ガラスを用いた。十分洗浄を行った後、カソード電極2として厚さ800nmのTaを形成した。
【0133】
(工程2)
次にプラズマCVD法でダイヤモンドライクカーボンの電子放出材5を所望の場所にマスク材を用いて厚さ30nm程度堆積したあと、マスクを取り除いた。反応ガスとしてはCHガスを用いた。
【0134】
(工程3)
さらに絶縁部材6として厚さ400nmのSi(絶縁層6a)、厚さ300nmのSiO(第2の絶縁層;絶縁層6b)、厚さ300nmのSi(第1の絶縁層;絶縁層6c)を、順に堆積した。
【0135】
また、比較例として、絶縁部材6が、厚さ1μmのSiOであるものも同時に作製した。
【0136】
さらに、ゲート電極4として厚さ100nmのPtを堆積した。
【0137】
(工程4)
さらに、フォトリソグラフィー法を利用してレジストのマスクパターン31を形成した。本実施例では、レジスト材を硬化するためにレジスト材をUVキュアした。
【0138】
(工程5)
次に、マスクパターン31をマスクとして、Ptのゲート電極4をArプラズマエッチングで除去し、さらに絶縁層6a〜6cを、CFガスを用いてそれぞれドライエッチングした。
【0139】
(工程6)
そして、マスクパターン31を剥離し、十分な洗浄を行った。ここでカソード電極−ゲート電極間抵抗をテスタにより測定した。本実施例の電子放出素子、比較例の電子放出素子とも、プロセス残渣により、100kΩの抵抗であった。
【0140】
(工程7)
次に、HF:NHF=1:16のバッファードフッ酸でウエットエッチングを行った。本溶液に対して、SiO(絶縁層6b)のエッチングレートは、50nm/分であり、Si(絶縁層6a、絶縁層6c)のエッチングレートよりも高く、SiO:Si=100:1以上であった。
【0141】
エッチング溶液の濃度とエッチング時間を制御することで、絶縁部材の側壁構造として様々な構造を作製することができる。本実施例の電子放出素子では、絶縁層6bのみがエッチングに用いた溶液に対して高いエッチングレートを有していたため、図3(f)のように絶縁層6bの開口が、絶縁層6a及び絶縁層6cの開口よりも大きい構成となった。また、比較例の電子放出素子では、絶縁部材全体の開口が、ゲート電極の開口より大きくなった。
【0142】
本実施例の電子放出素子では、開口はほぼ垂直90度に形成された。具体的には、w=3μm=w1=w3、w2=6μmであった。
【0143】
ここで、本実施例の電子放出素子と比較例の電子放出素子を観察したが、両者ともゲート電極4の上部にエッチングなどの製造プロセスによる形態の変化がみられた。また、ゲート電極4の一部が、剥離されているものが比較例の電子放出素子では発生したが、本実施例の電子放出素子ではそのようなものはなかった。
【0144】
これは、(工程6)のエッチング溶液が、比較例の電子放出素子では、ゲート電極のピンホールから、その下の絶縁部材6のSiOを侵食したため、ゲート電極の密着性が劣化し、剥離したものと考えられる。実施例1の電子放出素子では、ゲート電極4のピンホールの発生頻度は同じだが、第3の絶縁層6cのSiは侵食されず、ゲート電極の剥離は起こらなかった。
【0145】
さらに、これら電子放出素子のカソード電極−ゲート電極間抵抗を、テスタを用いて測定した。実施例1、比較例とも抵抗は100MΩ以上であり、プロセス残渣による抵抗低下はなくなった。
【0146】
以上のようにして作製した実施例1の電子放出素子と比較例の電子放出素子とを、それぞれ、図2のように、H=2mmとして配置した。Va=10kV、Vg=50Vとした。
【0147】
ここで、アノード電極7として蛍光体を塗布した電極を用い、電子ビームのサイズを観察した。ここでいう電子ビームサイズとは、発光した蛍光体でのピーク輝度の10%の領域までのサイズである。
【0148】
実施例1の電子放出素子の電子放出効率は、0.5〜0.9であり、比較例の電子放出素子では、0.1〜0.5であった。
【0149】
これは、比較例の電子放出素子では、電子放出材5の露出領域の一部が、ゲート電極4の直下に位置しており、ゲート電極直下の電界は強いため、当該位置から電子放出しやすくなっているためである。具体的には、ゲート電極4の直下から放出された電子が、ゲート電極4に入射するため、カソード電極−ゲート電極間に電流が流れる。そのため、無効電流が増加し、効率が低下したものと考えられる。本実施例の電子放出素子では、電子放出材5がゲート電極4の直下ではなく、ゲート電極の開口内に露出している。更に、本実施例の電子放出素子では、絶縁層6aと絶縁層6bで形成された集束電位構造の効果により、ゲート電極に入射する電子はほとんど存在しないため、効率がよくなったと考えられる。
【0150】
実施例1の電子放出素子では、比較例の電子放出素子に比べビーム径は75%であり、集束性に優れていた。また、比較例の電子放出素子のみ、輝度比は最大輝度の1%未満であるが、主要ビームの周辺に、ビームの広がりが観察された。
【0151】
これは、比較例の電子放出素子では、ゲート電極4に入射した電子の一部が、散乱により再放出され、アノード電極に到達したため、主要ビーム周辺に輝度の低いビームが観察されたものと考えられる。
【0152】
さらに、本実施例の電子放出素子と比較例の電子放出素子とを、10時間駆動した。その結果、比較例の電子放出素子では、駆動直後には電子が出やすかったものの、その後劣化する電子放出素子が発生した。比較例の電子放出素子をとりだして観察したところ、ゲート電極が開口付近で開口内に屈曲して折れ曲がっているものがあった。
【0153】
さらに、10時間駆動後にリーク電流の増加率と発生頻度を測定した。リーク電流が初期に比べ10%以上増えたものの発生頻度は、実施例1の電子放出素子では、比較例の電子放出素子に比べ1/5に軽減されていた。
【0154】
<実施例2>
図9に第2実施例の電子放出素子を示す。本実施例は、開口に傾斜がある例(ゲート電
極の開口が電子放出材の露出領域よりも大きい場合の例)である。図9(a)は平面図であり、図9(b)は図9(a)におけるA−A´の断面図である。図10に本実施例の電子放出素子の製造方法を示す。
【0155】
(工程1)
まず、基板1としてPD200ガラスを用いた。十分洗浄を行った後、カソード電極2として厚さ800nmのTaを形成した。
【0156】
(工程2)
次にプラズマCVD法でダイヤモンドライクカーボンの電子放出材5を所望の場所にマスク材を用いて厚さ30nm程度堆積したあと、マスクを取り除いた。反応ガスはCHガスを用いた(図10(a))。
【0157】
(工程3)
そして、電位放出材上に、第2のカソード電極3として、厚さ100nmのTaを積層した。さらに、第2のカソード電極上に、絶縁部材6として、厚さ300nmのSi(絶縁層6a)、厚さ500nmのSiO(絶縁層6b;第2の絶縁層)、厚さ200nmのSi(絶縁層6c;第1の絶縁層)を、順に堆積した。さらに、ゲート電極4として厚さ100nmのPtを堆積した(図10(b))。第2のカソード電極3は、カソード電極2と電気的に接続されており、このような第2のカソード電極3を設けることにより集束性に優れた電子放出素子を作製することができる。
【0158】
(工程4)
さらにフォトリソグラフィー法を利用してレジストのマスクパターン31を形成した(図10(c))。
【0159】
レジスト形状は矩形とした。実施例1では、レジスト材を硬化するためにUVキュアしたが、実施例2ではUVキュアをしなかった。
【0160】
(工程5)
マスクパターン31をマスクとして、Ptのゲート電極4をArプラズマエッチングで除去した。さらに、絶縁層6c、絶縁層6b、絶縁層6a、第2のカソード電極3をCHFもしくはCHF+Oガスを用いてそれぞれドライエッチングした(図10(d))。
【0161】
酸素ガスを付加したことにより、開口に傾斜をつけた状態でエッチングを進行させることができた。
【0162】
(工程6)
マスクパターン31を剥離し、十分な洗浄を行った(図10(e))。
【0163】
(工程7)
次に、HF:NHF=1:16のバッファードフッ酸でウエットエッチングを行った。
【0164】
第1実施例より、エッチング時間を短くし、本実施例では、図10(f)のような構成の電子放出素子が作製できた。
【0165】
本実施例の電子放出素子では、開口の傾斜角θ1は75度であった。また、wbottom=3μm、wtop=3.6μmであり、w1=3μm、w2=4μm、w3=3.
5μmで、、h=1.2μm、h1=0.1、h2=1μm、h3=0.1μmであった。また、t1=0.3μm、t2=0.5μm、t3=0.2μmであった。
【0166】
本実施例では、集束性は3つの構成によりもたらされている。一つは、実施例1で示した、絶縁層6aと絶縁層6bの形状であり、さらに、実施例2では、第2のカソード電極3を電子放出材の上面に配置したことと、開口の傾斜角でビームの集束性が高まっている。
【0167】
更に、実施例2では、集束性が第2のカソード電極の膜厚で制御できるため、絶縁層6bの後退量は、集束性を確保するためというより、むしろリーク電流の低減と支持体としての効果を両立できれば十分である。即ち、実施例1では、集束性を確保するために、絶縁層6bの後退量を大きくする必要があったが、実施例2では、実施例1より絶縁層6bの後退量が少なくても高い集束性の電子放出素子を作製できる。それにより、実施例1よりも高い安定性を有し、実施例1と同様の集束性を確保できる。
【0168】
<実施例3>
図11に第3実施例の電子放出素子を示す。以下、本実施例の電子放出素子の製造方法について説明する。
【0169】
(工程1)
まず、基板1としてPD200を用いた。十分洗浄を行った後、カソード電極2として厚さ650nmのTiNを形成した。
【0170】
(工程2)
さらに絶縁部材6として厚さ100nmのSiON(絶縁層6a)、厚さ800nmのSiO(絶縁層6b;第2の絶縁層)、厚さ100nmのSi(絶縁層6c;第1の絶縁層)を、順に堆積した。さらに、ゲート電極4として厚さ100nmのPtを堆積した。
【0171】
(工程3)
さらにフォトリソグラフィー法を利用してレジストのマスクパターン31を形成した。
【0172】
(工程4)
マスクパターン31をマスクとして、Ptのゲート電極4をArプラズマエッチングで、絶縁部材6をCHF+Oガスで、TiNのカソード電極2を150nmの深さまでBClガスで、それぞれドライエッチングした。このとき、開口の傾斜角は85度であった。
【0173】
(工程5)
次にホットフィラメントCVD法でダイヤモンドライクカーボンの電子放出材5を厚さ50nm程度堆積した。反応ガスはCHガスを用いた。基板には、バイアス電圧をかけるため、放出材の堆積は、マスク上とカソード電極2上に堆積した。
【0174】
(工程6)
次に、ゲート電極上の放出材をレジストマスクごと剥離して取り除いた。
【0175】
(工程7)
次に、バッファードフッ酸でウエットエッチングを行った。ここで、絶縁層6bが後退し、絶縁層6aのSiONもわずかに後退した。これは、エッチングレートがSiO>SiON>Siであるためである。またこの時、開口の側壁に付着していたドライ
エッチングの残渣物と、放出材の残渣物が、絶縁層6aと絶縁層6bとともに取り除かれた。すなわち、この工程により、電子放出素子の断面において、絶縁部材が、ゲート電極の開口の端と電子放出材の露出領域の端とを結ぶ仮想的な直線(仮想直線)を2辺とする四角形よりも外側に位置するようになった。当該断面とは、ゲート電極に垂直であり、かつ、ゲート電極と絶縁部材の開口の中心を通るような平面における断面である。このような構成にすれば、沿面距離を更に増すことができるため、よりリーク電流を低減することができる。
【0176】
本実施例では、第2の実施例におけるカソード電極2と第2のカソード電極3が1つのカソード電極2で形成されている。すなわち、本実施形態においても、第2の実施例におけるカソード電極2と第2のカソード電極3を同電位となるように接続したのと同様の効果が得られる。
【0177】
本実施例では、電子放出材5を、開口の形成後に成膜することで、放出領域を開口内部に限定することができる。また、カソード電極と保護層を密着性のよい材料を選択し、素子構造を強固にすることができる。また、放出材を開口形成後に作製するため、開口製造時のプロセス劣化を考慮しなくてもよく、放出材の選択範囲が広がる。
【0178】
一方、放出材を開口形成後に形成する場合には、放出材が開口内に残りやすくリーク電流の発生要因となっていたが、本実施例のように、絶縁層の一部をエッチングにより取り除くことにより、電子放出材によるリーク電流も低減させることができる。
【0179】
<実施例4>
図12に第4実施例の電子放出素子を示す。本実施例は、電子放出材の一部に保護絶縁層41を有する構造である。ただし、この保護絶縁層41は絶縁部材を形成する絶縁層には含まれないものとする。
【0180】
(工程1)
まず、基板1としてPD200を用いた。十分洗浄を行った後、カソード電極2として厚さ500nmのTiNを形成した。
【0181】
(工程2)
次にプラズマCVD法でダイヤモンドライクカーボンの電子放出材5を所望の場所にマスク材を用いて厚さ30nm程度堆積し、引き続きSiOの保護絶縁層41を厚さ50nm積層し、その後マスクを取り除いた。
【0182】
(工程3)
さらに第2カソード電極3として、TiNを厚さ70nm堆積した。さらに絶縁部材6として厚さ400nmのSi(絶縁層6a)、厚さ300nmのSiO(絶縁層6b;第2の絶縁層)、厚さ300nmのSi(絶縁層6c;第1の絶縁層)を、順に堆積した。さらに、ゲート電極4として厚さ100nmのTiNを堆積した。
【0183】
(工程4)
さらにフォトリソグラフィー法を利用してレジストのマスクパターン31を形成した。
【0184】
(工程5)
マスクパターン31をマスクとして、TiNのゲート電極4をBClガスで、絶縁部材6をCFガスで、TiNの第2カソード電極をBClガスで、それぞれドライエッチングした。
【0185】
(工程6)
マスクパターン31を剥離し、十分な洗浄を行った。
【0186】
(工程7)
次に、バッファードフッ酸でウエットエッチングを行った、これにより、保護絶縁層41が取り除かれ、電子放出材が開口内に露出した。また、絶縁層6bが後退した。
【0187】
本実施例では、集束構造が、保護絶縁層と第2のカソード電極からなっている点が異なっているが、その他の効果は同じである。保護絶縁層41を用いることで、プロセス中に電子放出材が露出することを防げるため、放出材の劣化を防ぐことが可能である。
【0188】
<実施例5>
図13に第5実施例の電子放出素子を示す。
【0189】
本実施例の電子放出素子の製造方法は、図9で示した実施例2の電子放出素子のものと同じであるが、絶縁部材6の構成が違うものであり、5つの絶縁層から構成されている。即ち、第2の絶縁層を3つ備える。
【0190】
絶縁部材6としてSi(絶縁層6a)、SiON(絶縁層6ba;第2の絶縁層)、SiO(絶縁層6bb;第2の絶縁層)、SiON(絶縁層6bc;第2の絶縁層)、Si(絶縁層6c;第1の絶縁層)を積層した。当該積層は、プラズマCVD法で、それぞれの絶縁層について、使用ガスと、パワーなどの成膜条件を変えることで行なった。ここで、絶縁層6aの厚さを100nm、絶縁層6baの厚さを200nm、絶縁層6bbの厚さを400nm、絶縁層6bcの厚さを200nm、絶縁層6cの厚さを100nmとした。
【0191】
本構成では、絶縁層の数を増やすことにより、より精度よく電界分布を定義することができる。
【0192】
<実施例6>
図14に第6実施例の電子放出素子を示す。
【0193】
本実施例では、カソード電極3上に、交互に異なる絶縁層を複数積層している。
【0194】
絶縁部材6の構成(形成方法)について説明する。まず、最下層として厚さ250nmのAl(絶縁層6a)を堆積した。そして、その上に厚さ70nmのSiO(絶縁層6ba;第2の絶縁層)と厚さ70nmのSi(絶縁層6bb;第2の絶縁層)とを交互に3回繰り返し積層した。更に、厚さ70nmのSiO(絶縁層6ba;第2の絶縁層)、厚さ250nmのAl(絶縁層6c;第1の絶縁層)を積層することで絶縁部材6を形成した。各層はスパッタ法により順に堆積された。
【0195】
開口形成は、ドライエッチングにより行い、Alのエッチングには、Arプラズマエッチングを用いた。
【0196】
ウエットエッチングは、バッファードフッ酸を用いたが、Alはエッチングされなかった。
【0197】
したがって、エッチング工程の条件変更で、図14の電子放出素子が形成できる。
【0198】
本電子放出素子では、Al絶縁層が組成として絶縁耐圧が高いため、第2実施例
の電子放出素子と比較してリーク電流の発生量が少なかった。また、本実施例では、カソード電極−ゲート電極間の沿面距離が大きくとれるため、絶縁層の耐圧を更に高くすることができ、長期間の駆動の安定性が向上した。
【0199】
<実施例7>
次に、実施例1と同じ構成で、絶縁部材の組成が逆の構成である例を示す。
【0200】
絶縁部材6として厚さ400nmのSiO(絶縁層6a)、厚さ300nmのSi(絶縁層6b;第2の絶縁層)、厚さ300nmのSiO(絶縁層6c;第1の絶縁層)を、順に堆積した
【0201】
開口の形成は、CFのドライエッチングで行った。
【0202】
ウエットエッチングは、熱燐酸を用いた。これによりSiがエッチングされ、SiOはエッチングされなかった。
【0203】
本実施例のように、絶縁層の構成は、エッチング溶液を変更することで、その構成を変えることができる。SiOとSiの順序を第1実施例と反対にすると、両者の誘電率の違いが電位分布に影響を与えるが、本実施例では、第2の絶縁層6bが後退しているという形状の効果の方が大きく、等電位面がカソード電極付近で凹となる集束電位の効果は維持できる。また、このようにエッチング溶液を変更すれば、ゲート電極直下の絶縁層を変えることができるので、ゲート電極の材料として、より密着性のよい材質を選択することも可能となる。
【0204】
以上説明したように、本実施形態に係る電子放出素子は、電子ビーム径が小さく駆動の安定した電子放出素子であり、このような電子放出素子を電子源や画像表示装置に適用すると、性能に優れた電子源及び画像表示装置を実現できる。
【0205】
なお、本実施形態では絶縁部材を形成する3つの絶縁層それぞれの開口の大きさについて詳しく説明しているが、当然、3つの絶縁層それぞれの誘電率を工夫することと組み合せれば、更に電子ビーム径を小さくすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0206】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る電子放出素子の構成を示す模式図であり、図1(a)は平面図であり、図1(b)は図1(a)におけるA−A´の断面図である。
【図2】図2は、図1に示す電子放出素子の駆動状態の詳細を示す図である。
【図3】図3は、図1に示す電子放出素子の製造方法の一例を示す図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態に係る電子源の一例を示す図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態に係る電子源の一例を示す図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態に係る画像表示装置の一例を示す図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態に係る画像表示装置における蛍光膜の模式図であり、図7(a)はブラックストライプを設けた例であり、図7(b)はブラックマトリクスを設けた例である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態に係る画像表示装置の駆動回路の一例を示すブロック図である。
【図9】図9は、第2実施例の電子放出素子を示す図である。
【図10】図10は、第2実施例の電子放出素子の製造方法を示す図である。
【図11】図11は、第3実施例の電子放出素子を示す図である。
【図12】図12は、第4実施例の電子放出素子を示す図である。
【図13】図13は、第5実施例の電子放出素子を示す図である。
【図14】図14は、第6実施例の電子放出素子を示す図である。
【図15】図15は、従来の電子放出素子を模式的に示した図である。
【図16】図16は、従来の電子放出素子を模式的に示した図である。
【図17】図17は、従来の電子放出素子を模式的に示した図である。
【図18】図18は、従来の電子放出素子を模式的に示した図である。
【図19】図19は、従来の電子放出素子を模式的に示した図である。
【図20】図20は、従来の電子放出素子を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0207】
1 基板
2 カソード電極
3 第2のカソード電極
4 ゲート電極
5 電子放出材
6 絶縁部材
6a 第1の絶縁層
6b,6ba〜6bc 第2の絶縁層
6c 第3の絶縁層
7 アノード電極
31 マスクパターン
41 保護絶縁層
51,61 電子源基体
52,62 X方向配線
53,63 Y方向配線
64 電子放出素子
71 電子放出素子
80 電子源基板
85 蛍光体
86 黒色導電材
91 リアプレート
92 支持枠
93 ガラス基体
94 蛍光膜
95 メタルバック
96 フェースプレート
97 高圧端子
98 外囲器
1301 表示パネル
1303 制御回路
1304 シフトレジスタ
1305 ラインメモリ
1306 同期信号分離回路
1307 変調信号発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード電極、ゲート電極、絶縁部材、及び、電子放出材を備え、
前記ゲート電極は、前記カソード電極の上方に位置し、
前記絶縁部材は、前記ゲート電極と前記カソード電極の間に位置し、
前記ゲート電極と前記絶縁部材のそれぞれに、互いに連通する開口が設けられており、
前記電子放出材は、前記カソード電極上に設けられ、かつ、前記ゲート電極と前記絶縁部材の開口内に少なくとも一部が露出する
電子放出素子であって、
前記絶縁部材は、
前記ゲート電極に接し、かつ、前記ゲート電極の開口と略同じ大きさの開口を有する第1の絶縁層と、
前記第1の絶縁層よりも前記カソード電極側に位置し、かつ、前記ゲート電極の開口より大きい開口を有する第2の絶縁層と、
を含む3つ以上の絶縁層が積層されたものである
ことを特徴とする電子放出素子。
【請求項2】
前記第2の絶縁層は、前記3つ以上の絶縁層のうち中間に位置する絶縁層である
ことを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項3】
前記ゲート電極に垂直であり、かつ、前記ゲート電極と前記絶縁部材の開口の中心を通るような平面における断面において、
前記絶縁部材は、前記ゲート電極の開口の端と前記電子放出材の露出領域の端とを結ぶ仮想直線を2辺とする四角形よりも外側に位置する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子放出素子。
【請求項4】
前記ゲート電極の開口は、前記電子放出材の露出領域よりも大きい
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電子放出素子。
【請求項5】
前記電子放出材と前記絶縁部材の間に、前記カソード電極と電気的に接続された第2のカソード電極を備える
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電子放出素子。
【請求項6】
前記第2の絶縁層は、前記第1の絶縁層よりもエッチングレートの高い材料からなる
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電子放出素子。
【請求項7】
カソード電極、ゲート電極、絶縁部材、及び、電子放出材を備え、
前記ゲート電極は、前記カソード電極の上方に位置し、
前記絶縁部材は、前記ゲート電極と前記カソード電極の間に位置し、
前記ゲート電極と前記絶縁部材のそれぞれに、互いに連通する開口が設けられており、
前記電子放出材は、前記カソード電極上に設けられ、かつ、前記ゲート電極と前記絶縁部材の開口内に少なくとも一部が露出する
電子放出素子の製造方法であって、
前記ゲート電極に接する第1の絶縁層と、前記第1の絶縁層よりも前記カソード電極側に位置する第2の絶縁層と、を含む3つ以上の絶縁層を積層することによって前記絶縁部材を形成する第1の工程と、
前記第2の絶縁層の開口を、前記ゲート電極の開口より大きくする第2の工程と、
を有することを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項8】
前記第1の工程は、前記第1の絶縁層よりもエッチングレートの高い材料で前記第2の
絶縁層を形成する工程を含み、
前記第2の工程は、前記複数の絶縁層をウエットエッチングする工程である
ことを特徴とする請求項7に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の電子放出素子を複数備える
ことを特徴とする電子源。
【請求項10】
請求項9に記載の電子源と、
前記電子源から放出された電子によって画像を形成する画像形成部材と、
を備えることを特徴とする画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−110755(P2009−110755A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280201(P2007−280201)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】