説明

電子放出素子、電子源、電子線装置、及び電子放出素子の製造方法

【課題】十分な量の電子放出が得られると共に、電子線の細径化を図ることができる電子放出素子、電子源、電子線装置、及びこのような電子放出素子の製造方法を提供する。
【解決手段】
電子源10では、導電型がn型のダイヤモンド半導体からなる突起部56を電子放出部48に設けていることから、電子放出部48の電子親和力及び仕事関数を十分に低減させることができ、十分な量の電子放出が得られる。また、マイクロマニピュレーションによって搬送した微細な突起部56を設けることで、突起部56自体に複雑な加工を施すことなく電子放出部48の細径化を実現できるため、電子放出部48から放出される電子線の細径化が図られる。デポジション膜60は、カーボンによって形成され、電子源10の使用状態における電子放出部48の昇温に対して十分に高い融点を有しているため、突起部56と基部52との強固な接合が保たれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド半導体によって形成された突起部を備えた電子放出素子、電子源、電子線装置、及び電子放出素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子放出素子の電子放出部を形成する材料として、LaB、CeB、及びダイヤモンド半導体が着目されている。これらの材料を電子放出部として用いると、電子親和力及び仕事関数を十分に小さくすることができ、真空中に容易に電子を取り出すことが可能となる。
【0003】
このような電子放出素子に関し、例えば特許文献1には、導電型がn型のダイヤモンド半導体からなる電子放出部と接するように電子供給部を形成した電子放出素子が開示されている。また、例えば特許文献2には、導電型がn型のダイヤモンド半導体からなる電子放出部の周囲に、電子通過孔が形成されたゲート電極を配置した電子放出素子が開示されている。
【特許文献1】特開2001−266736号公報
【特許文献2】特開2005−108655号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、電子放出部の素材としてLaB、CeB、及びダイヤモンド半導体を利用することは、電子放出量の増大化を実現できるという利点がある。しかしながら、これらのセラミックス系素材は、その硬度に起因して、自由な加工が難しいという欠点を有している。そのため、電子放出部の形状の自由度が制限され、放出される電子線の細径化を図ることが難しいという解決すべき技術的課題があった。
【0005】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、十分な量の電子放出が得られると共に、電子線の細径化を図ることができる電子放出素子、電子源、電子線装置、及びこのような電子放出素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決のため、本発明に係る電子放出素子は、金属によって形成された基部と、基部の先端に設けられ、ダイヤモンド半導体によって形成された突起部とからなる電子放出部を備え、突起部は、カーボン、タングステン、及び白金の少なくとも一種を含むデポジション膜を介して基部に接合されていることを特徴としている。
【0007】
この電子放出素子では、ダイヤモンド半導体からなる突起部を電子放出部に設けていることから、電子放出部の電子親和力及び仕事関数を十分に低減させることができ、十分な量の電子放出が得られる。また、電子放出部の基部は、金属によって形成されているので、セラミックス系素材であるダイヤモンド半導体によって電子放出部全体を形成する場合と比べて形状の自由度が確保される。このような基部の先端にダイヤモンド半導体からなる突起部を設けることで、突起部自体に複雑な加工を施すことなく電子放出部の細径化を実現できる。従って、電子放出部から放出される電子線の細径化が図られる。ダイヤモンド半導体と金属との接合には、十分に高い融点を有するカーボン、タングステン、及び白金の少なくとも一種を含むデポジション膜が用いられるので、強固な接合が得られる。
【0008】
また、本発明に係る電子放出素子は、金属によって形成された基部と、基部の先端に設けられ、LaB又はCeBによって形成された突起部とからなる電子放出部を備え、突起部は、カーボン、タングステン、及び白金の少なくとも一種を含むデポジション膜を介して基部に接合されていることを特徴としている。
【0009】
この電子放出素子では、LaB又はCeBからなる突起部を電子放出部に設けていることから、電子放出部の電子親和力及び仕事関数を十分に低減させることができ、十分な量の電子放出が得られる。また、電子放出部の基部は、金属によって形成されているので、セラミックス系素材であるLaB又はCeBで電子放出部全体を形成する場合と比べて形状の自由度が確保される。このような基部の先端にLaB又はCeBからなる突起部を設けることで、突起部自体に複雑な加工を施すことなく電子放出部の細径化を実現できる。従って、電子線放出部から放出される電子線の細径化が図られる。LaB又はCeBと金属との接合には、十分に高い融点を有するカーボン、タングステン、及び白金の少なくとも一種を含むデポジション膜が用いられるので、強固な接合が得られる。
【0010】
また、ダイヤモンド半導体の少なくとも一部は、導電型がn型のダイヤモンド半導体であることが好ましい。これにより、電子放出部の電子親和力及び仕事関数を一層低減させることができ、電子放出量の更なる増大化が図られる。
【0011】
また、基部は、タングステンからなる針状部材であることが好ましい。この場合、基部の加工容易性及び導電性が十分に得られるので、電子放出部の細径化を一層容易に実現することができる。
【0012】
また、基部は、タングステンからなるフィラメントであることが好ましい。この場合においても、基部の加工容易性及び導電性が十分に得られるので、電子放出部の細径化を一層容易に実現することができる。
【0013】
また、基部の先端からの突起部の高さは、1μm〜10μmであることが好ましい。このような微細な突起部は、加工時にマイクロマニピュレーションによって容易に取り扱うことができる。したがって、電子放出部の製造の容易化が図られる。
【0014】
また、電子放出素子は、突起部と電気的に接続されていると共に、基部を保持する二つの電極とは独立して突起部に電圧を印加することのできる電極を備えていることが好ましい。この場合、突起部を加熱するための電圧とは独立して、突起部にバイアス電圧を印加することができる。
【0015】
また、本発明に係る電子源は、上述した電子放出素子を備えたことを特徴としている。また、本発明に係る電子線装置は、この電子源を備えたことを特徴としている。この電子源及び電子線装置では、電子放出部の電子親和力及び仕事関数を十分に低減させることができ、十分な量の電子放出が得られる。また、突起部自体に複雑な加工を施すことなく電子放出部の細径化を実現でき、電子線放出部から放出される電子線の細径化が図られる。
【0016】
また、本発明に係る電子放出素子の製造方法は、基板上に、ダイヤモンド半導体によって形成された突起部を形成する工程と、基板上の突起部に、マイクロマニピュレーション用の針を固定する工程と、突起部を基板から切り離し、金属によって形成された基部に向けて、針に固定した突起部を搬送する工程と、カーボン、タングステン、及び白金の少なくとも一種を含むデポジション膜を介して基部の先端に突起部を接合し、電子放出部を形成する工程とを備えたことを特徴としている。
【0017】
この電子放出素子の製造方法では、マイクロマニピュレーションによって突起部を基部側に搬送し、カーボン、タングステン、及び白金の少なくとも一種を含むデポジション膜によって基部の先端に突起部を接合している。このような手法によれば、突起部自体に複雑な加工を施すことなく電子放出部の細径化を実現することができる。これにより、電子放出部から放出される電子線の細径化が図られる。また、突起部と基部との強固な接合が得られる。
【0018】
また、本発明に係る電子放出素子の製造方法は、基板上に、LaB又はCeBによって形成された突起部を形成する工程と、基板上の突起部に、マイクロマニピュレーション用の針を固定する工程と、突起部を基板から切り離し、金属によって形成された基部に向けて、針に固定した突起部を搬送する工程と、カーボン、タングステン、及び白金の少なくとも一種を含むデポジション膜を介して基部の先端に突起部を接合し、電子放出部を形成する工程とを備えたことを特徴としている。
【0019】
この電子放出素子の製造方法では、マイクロマニピュレーションによって突起部を基部側に搬送し、カーボン、タングステン、及び白金の少なくとも一種を含むデポジション膜によって基部の先端に突起部を接合している。このような手法によれば、突起部自体に複雑な加工を施すことなく電子放出部の細径化を実現することができる。これにより、電子放出部から放出される電子線の細径化が図られる。また、突起部と基部との強固な接合が得られる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、十分な量の電子放出が得られると共に、電子線の細径化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る電子放出素子、電子源、電子線装置、及び電子放出素子の製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0022】
[第1実施形態]
図1は、本発明に係る電子源を適用した電子線装置の一例である電子顕微鏡の構成を概略的に示す図である。図1に示すように、電子顕微鏡(電子線装置)20は、例えばチャンバ22と、電子源10と、電子光学系24とを含んで構成された走査型電子顕微鏡(SEM)である。
【0023】
チャンバ22は、例えば金属製の箱型容器であり、使用状態において真空状態とされる。電子源10は、チャンバ22の上部において下向きに配置されている。電子源10の先端部からは、チャンバ22の下部に設けられた収容部26の試料Sに向けて電子線Bが出射される。
【0024】
電子光学系24は、引出電極28と、加速電極30と、集束レンズ32と、走査コイル34と、対物レンズ36とを有し、これらが電子源10からの電子線Bの出射方向に沿って配置されることによって構成されている。電子源10からの電子は、引出電極28と電子源10との間の電界によって放出され、加速電極30による電界によって加速される。
【0025】
電子源10から放出された電子線Bは、集束レンズ32及び対物レンズ36によって、収容部26に収容された試料Sの試料面上に微小な電子プローブを結像させる。試料S面上に結像した電子プローブは、走査コイル34によって走査される。そして、試料Sから放出される二次電子は、収容部26の側部に設けられた検出器38によって検出される。
【0026】
次に、上述した電子源10に用いられる電子放出素子について詳細に説明する。図2は、電子放出素子40の先端部分の構成を示す図である。図2に示すように、電子放出素子40は、電子放出部48と、一対の線状部材(電極)44,44と、一対のフィラメント46,46とを備えている。
【0027】
電子放出部48は、基部52と、突起部56とによって構成されている。基部52は、例えばタングステンによって形成された針状部材である。突起部56は、例えば導電型がn型のダイヤモンド半導体によって形成され、例えば円錐形状をなしている。突起部56は、基部52の先端面64の中央に配置され、突起部56における基部52の先端面64からの高さは、例えば1μm〜10μmとなっている。そして、突起部56の先端66は、基部52の先端面64と垂直に基部52の長手方向に延びている。
【0028】
一対の線状部材44,44は、例えば導電性材料によって形成されている。線状部材44,44は、電子放出部48の基端側において、基部52を挟むように略平行に配置されている。
【0029】
一対のフィラメント46,46は、例えば導電性材料からなる線状部材である。一対のフィラメント46,46は、線状部材44,44の先端側において互いに交差するように配置されている。一対のフィラメント46,46の基端部は、線状部材44,44の先端側にそれぞれ接続されており、これにより一対のフィラメント46,46は、線状部材44,44に保持されている。一対のフィラメント46,46の先端部は、交差部分において基部52の側面に接続されている。この場合、突起部56は、一対のフィラメント46,46及び基部52を介して一対の線状部材44,44から導入される電流が通電されて加熱される。
【0030】
ここで、上述した電子放出部48における、基部52と突起部56との接合構造について説明する。図3は、電子放出部48を拡大して示す斜視図であり、図4は、図3におけるIV−IV線断面図である。
【0031】
図3及び図4に示すように、基部52と突起部56との接合には、デポジション膜60が用いられている。デポジション膜60は、カーボン、タングステン、及び白金のいずれか一つによって形成されている。本実施形態においては、デポジション膜60は、例えばカーボンあるいはタングステンによって形成されている。デポジション膜60は、突起部56の底部を囲むように環状に形成され、基部52と突起部56とを強固に接合している。デポジション膜60は、例えば厚さが10μm以下であり、基部52の先端面64において、例えば50μm角以下の範囲に形成されている。
【0032】
続いて、図5〜図7を用いて、上述した構成を有する電子源10に用いられる電子放出素子40の製造方法について説明する。
【0033】
まず、例えばノンドープダイヤモンドからなる基板68を用意する。基板68は、例えば高温高圧合成法を用いて製造される。次に、例えばホスフィン(PH)をドーパントとして用いるマイクロ波プラズマCVD法により、基板68の主面70にリンをドープしながら、ダイヤモンドをエピタキシャル成長させる。ドープするリンの濃度は、例えば1017〜1020cm−3とされる。さらに、1019〜1020cm−3がより好ましい特性を得る。これにより、基板68の主面70上に、導電型がn型のダイヤモンド半導体層が形成される。
【0034】
次に、例えばアルミニウムからなる厚さ1μm〜2μmの膜を、導電型がn型のダイヤモンド半導体層上に形成する。そして、例えばフォトリソグラフィ又は集束イオンビーム(FIB)法により、突起部56の形成位置に対応して、円形のマスクを例えば5×5のマトリクス状にパターニングする。
【0035】
次に、上述したマスクを用いて、例えば集束イオンビーム(FIB)法により、導電型がn型のダイヤモンド半導体層をエッチングする。これにより、図5(a)に示すように、基板68の主面70において、円形のマスクの形成位置に複数の円錐形の突起部56が形成される。
【0036】
次に、マイクロマニピュレーション用の針72の先端を、基板68の主面70上に形成されている円錐形の突起部56の円錐面に接触させる。そして、図5(b)に示すように、例えばカーボンの場合フェナントレンガス(C1410)、タングステンの場合ヘキサカルボニル・タングステン(W(CO))等の原料ガスを導入しながら、集束イオンビームIを照射することにより、例えばカーボンからなる接着膜74を、針72と突起部56との接触部分に形成する。この接着膜74により、針72が突起部56に固定される。
【0037】
次に、図6(a)に示すように、針72が固定された突起部56の底部に集束イオンビームIを照射し、突起部56を基板68から切り離す。突起部56を基板68から切り離した後、針状部材である基部52を用意する。基部52の先端面64は、集束イオンビーム(FIB)法により、予め平坦化されている。そして、図6(b)に示すように、針72に固定した突起部56を、基部52に向けて搬送し、突起部56の底面を基部52の先端面64に接触させる。
【0038】
次に、図7(a)に示すように、例えばカーボンの場合フェナントレンガス(C1410)、タングステンの場合ヘキサカルボニル・タングステン(W(CO))等の原料ガスを導入しながら、集束イオンビームIを突起部56の底部を囲むように照射する。これにより、例えばカーボンからなるデポジション膜60が、突起部56の底部を囲むように形成され、このデポジション膜60によって、針72を固定した突起部56と基部52とが強固に接合される。
【0039】
次に、接着膜74に集束イオンビームIを照射して、図7(b)に示すように、針72を突起部56より切り離す。そして、基部52の側面における長手方向の略中央と、一対の線状部材44,44の先端側とに、一対のフィラメント46,46をそれぞれ接続することにより、図2に示した電子放出素子40が完成する。
【0040】
以上説明したように、電子顕微鏡20の電子源10に用いられる電子放出素子40では、導電型がn型のダイヤモンド半導体からなる突起部56を電子放出部48に設けている。このように突起部56は、電子親和力及び仕事関数が十分小さな導電型がn型のダイヤモンド半導体によって形成されているため、突起部56の電子親和力及び仕事関数を十分に低減させることができ、十分な量の電子放出が得られる。
【0041】
なお、電子放出素子40では、突起部56と電源(図示せず)とを接続することによって、突起部56にバイアス電圧が印加されていてもよい。導電型がn型のダイヤモンド半導体からなる突起部56は、バンドベンディングが生じ易く、突起部56の表面におけるエネルギーバンドが、エネルギー準位の高い方向にシフトする。しかし、バイアス電圧を突起部56に印加することにより、導電型がn型のダイヤモンド半導体の伝導帯下端に電子が充填され、エネルギーバンドがエネルギー準位の低い方向にシフトする。従って、バンドベンディングによって見かけ上大きくなった仕事関数が低減され、十分な量の電子放出を得ることができる。
【0042】
また、電子放出素子40では、基部52が金属であるタングステンによって形成されているので、ダイヤモンド半導体によって電子放出部48全体を形成する場合と比べて形状の自由度が確保される。そして、この基部52の先端面64に対し、マイクロマニピュレーションによって搬送した微細な突起部56を設けることで、突起部56自体に複雑な加工を施すことなく電子放出部48の細径化を実現できる。これにより、電子放出部48から放出される電子線の細径化が図られる。
【0043】
また、電子放出素子40では、突起部56における基部52の先端面64からの高さは、1μm〜10μmとなっている。このように突起部56を微細な突起として形成することにより、突起部56を加工時にマイクロマニピュレーションによって容易に取り扱うことができる。従って、電子放出部48の製造の容易化が図られる。
【0044】
また、基部52は、タングステンによって形成されているため、基部52は、電子源10の使用時に通電によって昇温する。これによって、突起部56が昇温することとなり、突起部56の先端66から電子が放出され易くなり、電子放出量を一層増大化させることができる。
【0045】
ここで、電子放出部48が昇温すると、基部52と突起部56との接合強度が問題となるが、デポジション膜60は、カーボンによって形成され、電子放出部48の昇温に対して十分に高い融点を有している。従って、電子源10の使用状態において基部52及び突起部56が昇温した場合であっても、デポジション膜60が溶融することはなく、突起部56と基部52との強固な接合が保たれる。
【0046】
また、電子放出素子40では、基部52にデポジション膜60を用いて突起部56を接合しているため、電界放出により磨耗した突起部56を、新たな突起部56に置き換えることにより、電子放出素子40を再び使用することができる。
【0047】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る電子源に用いられる電子放出素子について説明する。図8は、第2実施形態に係る電子放出素子の先端部分の構成を示す図である。図8に示すように、第2実施形態に係る電子放出素子42は、基部54が螺旋状のフィラメントである点で、基部52が針状部材である第1実施形態と異なっている。
【0048】
すなわち、第2実施形態に係る電子放出部50では、基部54は、例えばタングステンからなるフィラメントとして形成されている。基部54の中央部分は、一巻きの螺旋状をなしており、当該部分が、一対の線状部材44,44の先端側に突出して、基部54の先端部76を形成している。基部54の両端部は、一対の線状部材44,44の先端側にそれぞれ接続されている。
【0049】
突起部56は、基部54の先端部76に配置されている。第1実施形態と同様に、デポジション膜62は、突起部56の底部を囲むように環状に形成され、基部54と突起部56とを互いに接合している。
【0050】
電子放出素子42の製造方法については、第1実施形態と同様に、基板68の主面70に形成された突起部56の円錐面にマイクロマニピュレーション用の針72を固定した後、集束イオンビーム(FIB)法により突起部56を基板68から切り離す。次に、針72に固定した突起部56を、集束イオンビーム(FIB)法を用いて平坦化された基部54の先端部76へ搬送する。そして、デポジション膜62を突起部56の底部を囲むように形成することによって、突起部56の底面と基部54の先端部76とを接合する。続いて、基部54の両端部を、一対の線状部材44,44の先端側にそれぞれ接続する。以上により、図8に示した電子放出素子42が完成する。
【0051】
以上説明したように、電子放出素子42においても、第1実施形態と同様に、突起部56は、電子親和力及び仕事関数が十分小さい導電型がn型のダイヤモンド半導体によって形成されているため、突起部56の電子親和力及び仕事関数を十分に低減させることができ、十分な量の電子放出が得られる。
【0052】
また、第1実施形態と同様に、基部54が、金属であるタングステンによって形成されているので、ダイヤモンド半導体によって電子放出部50全体を形成する場合と比べて形状の自由度が確保される。そして、この基部54の先端部76に対し、マイクロマニピュレーションによって搬送した微細な突起部56を設けることで、突起部56自体に複雑な加工を施すことなく電子放出部50の細径化を実現できる。これにより、電子放出部50から放出される電子線の細径化が図られる。
【0053】
また、電子放出素子42においても、デポジション膜62は、カーボンによって形成され、電子放出部50の昇温に対して十分に高い融点を有している。従って、基部52及び突起部56が昇温した場合であっても、デポジション膜62が溶融することはなく、突起部56と基部52との強固な接合が保たれる。
【0054】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態に係る電子源に用いられる電子放出素子について説明する。図9は、第3実施形態に係る電子放出素子の先端部分の構成を示す図である。図9に示すように、第3実施形態に係る電子放出素子90は、電極92が配置されている点で第1実施形態と異なっている。
【0055】
電極92は、例えば導電性材料からなる針状部材である。電極92は、基部52と略平行に配置されており、電極92の先端部は、接続部材94の一端に接続されている。接続部材94は、例えばワイヤ状をなしており、例えばカーボン、タングステン、及び白金のいずれか一つによって形成されている。接続部材94は、デポジション膜60と一定の距離をおくように湾曲して配置されており、接続部材94の他端は、突起部56の底部と電気的に接続されている。接続部材94は、デポジション膜60を形成する場合と同様に、例えば電極92の先端部から、突起部56の底部にかけて集束イオンビームIを照射することにより形成される。
【0056】
このような電子放出素子90においては、一対の線状部材44,44によって突起部56を加熱するための電圧の印加とは独立して、電極92によって突起部56にバイアス電圧を印加することができる。これにより、導電型がn型のダイヤモンド半導体からなる突起部56の表面において、バンドベンディングによって見かけ上大きくなった仕事関数が低減されることとなる。このため、電子放出素子90は、十分な量の電子放出が得られる。
【0057】
なお、突起部にバイアス電圧を印加することのできる電極は、図10に示すように、螺旋状フィラメントからなる基部54を有する電子放出素子96に設けてもよい。この場合、例えば電極98の先端部を、接続部材100の一端に接続し、接続部材100の他端を、突起部56の底部と接続すればよい。
【0058】
上述した各実施形態において、突起部56は、導電型がn型のダイヤモンド半導体に代えて、LaB又はCeBによって形成されていてもよい。LaB又はCeBからなる突起部56では、引出電極28(図1参照)との間に電界が発生することにより、トンネル効果によって電子を放出するため、電界放出型の電子源に好適である。また、LaB又はCeBからなる突起部56では、突起部56が昇温することにより、仕事関数を越えて電子が放出されるため、熱電子放出型の電子源にも好適である。
【0059】
また、各実施形態において、デポジション膜60は、タングステン、カーボン及び白金を複合させて構成されていてもよい。例えばデポジション膜60における、突起部56側の部分をカーボンによって形成すると共に、基部52側の部分をタングステンによって形成し、カーボンとタングステンとの濃度勾配を有するように形成してもよい。この場合、突起部56及びデポジション膜60が接する部分と、基部52及びデポジション膜60が接する部分とにおいて応力が緩和されることとなり、突起部56と基部52との一層強固な接合を得ることができる。
【0060】
[電子源の特性試験結果]
この特性試験では、サンプル群A〜サンプル群Cについて電子源の電子放出特性の試験を行った。サンプル群Aは、第1実施形態に係る電子源と同様の構成をなし、導電型がn型のダイヤモンド半導体からなる突起部を備えている。サンプル群Bは、第2実施形態に係る電子源と同様の構成をなし、導電型がn型のダイヤモンド半導体からなる突起部を備えている。サンプル群Cは、第2実施形態に係る電子源と同様の構成をなし、LaBからなる突起部を備えている。
【0061】
サンプル群Aについては、突起部の高さと突起部の測定温度とを変化させたときのビーム電流、収束性及び電子放出におけるノイズを測定した。サンプル群B及びサンプル群Cについては、突起部の高さと突起部の測定温度とを変化させたときのビーム電流、収束性及び電子源の寿命を測定した。測定は、サンプル群Aについて、加速電圧を15kv、引き出し電圧を3kvとして行った。また、サンプル群B及びサンプル群Cについて、加速電圧を15kvとして行った。
【0062】
図11〜図13は、各特性試験の結果を示す図である。図11に示すように、サンプル群Aについて、突起部を形成することにより、10pA以上のビーム電流及び4nm以下の収束性が得られると共に、電子放出におけるノイズが1rpm以下に抑えられた。図12に示すように、サンプル群Bについては、突起部を形成することにより、1200℃以下の測定温度において、20pA以上のビーム電流、及び8nm以下の収束性が得られると共に、1000時間を越える寿命が得られた。図13に示すように、サンプル群Cについては、突起部を形成することにより、1800℃以下の測定温度において、10pA以上のビーム電流、及び8nm以下の収束性が得られると共に、300時間を越える寿命が得られた。
【0063】
各特性試験の結果により、突起部の高さが1μm〜10μmであるサンプルA4〜サンプルA6、サンプルB4〜サンプルB6及びサンプルC4〜サンプルC6は、突起部が形成されていないサンプルA7〜サンプルC7と比して、ビーム電流及び収束性に優れていることが確認された。突起部の高さが80μmであるサンプルA1〜サンプルC1については、突起部が大きいことからマイクロマニピュレーションによる作業が困難であるため、電子源を作製することができなかった。
【0064】
本発明は、上記実施形態に限られるものではない。例えば、突起部56の先端66は、丸みを帯びた形状であってもよい。また、本発明の製造方法では、2μmよりも厚いマスクを用いることにより、基部52の先端面64からの高さが10μm〜50μmである突起部56を作製することも可能である。
【0065】
また、デポジション膜の配置構成に関しても、種々の変形を適用できる。図14及び図15は、デポジション膜の変形例を示す断面図である。図14(a)に示すように、デポジション膜77が第1実施形態のように突起部56の底部を囲むように形成されておらず、デポジション膜77を突起部56の底部の一部のみに配置してもよい。
【0066】
また、図14(b)に示すように、基部52の先端面64の中央に、例えば断面円形の開口78を設け、この開口78の底部に突起部56を配置した状態で、開口78を塞ぐようにデポジション膜79を形成してもよい。
【0067】
また、例えば突起部56の底面よりも大きな面積を有する円形の土台部80を、基部52と突起部56との間に介在させてもよい。例えば、図15(a)に示すように、土台部80を基部52の先端面64に配置し、突起部56の底部と、突起部56からはみ出る土台部80の縁部とを覆うようにデポジション膜81を形成してもよい。
【0068】
さらに、図15(b)に示すように、基部52の先端面64の中央に形成した開口78の底部に土台部80を配置し、開口78を塞ぐようにデポジション膜83を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係る電子源を適用した電子線装置の一例である電子顕微鏡の構成を概略的に示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る電子放出素子の先端部分の構成を示す図である。
【図3】電子放出部を拡大して示す斜視図である。
【図4】図3におけるIV−IV線断面図である。
【図5】図3及び図4に示した電子放出部の製造方法を示す図である。
【図6】図5の後続の工程を示す図である。
【図7】図6の後続の工程を示す図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る電子放出素子の先端部分の構成を示す図である。
【図9】本発明の第3実施形態に係る電子放出素子の先端部分の構成を示す図である。
【図10】本発明の第3実施形態の変形例に係る電子放出素子の先端部分の構成を示す図である。
【図11】第1実施形態と同様の構成をなす電子源の特性試験結果を示す図である。
【図12】第2実施形態と同様の構成をなし、突起部が導電型がn型のダイヤモンド半導体からなる電子源の特性試験結果を示す図である。
【図13】第2実施形態と同様の構成をなし、突起部がLaBからなる電子源の特性試験結果を示す図である。
【図14】デポジション膜の変形例を示す断面図である。
【図15】デポジション膜の別の変形例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0070】
10…電子源、20…電子顕微鏡(電子線装置)、40,42,90,96…電子放出素子、44…線状部材(電極)、48,50…電子放出部、52,54…基部、56…突起部、60,62,77,79,81,83…デポジション膜、64…先端面、76…先端部、92,98…電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属によって形成された基部と、前記基部の先端に設けられ、ダイヤモンド半導体によって形成された突起部とからなる電子放出部を備え、
前記突起部は、カーボン、タングステン、及び白金の少なくとも一種を含むデポジション膜を介して前記基部に接合されていることを特徴とする電子放出素子。
【請求項2】
金属によって形成された基部と、前記基部の先端に設けられ、LaB又はCeBによって形成された突起部とからなる電子放出部を備え、
前記突起部は、カーボン、タングステン、及び白金の少なくとも一種を含むデポジション膜を介して前記基部に接合されていることを特徴とする電子放出素子。
【請求項3】
前記ダイヤモンド半導体の少なくとも一部は、導電型がn型のダイヤモンド半導体であることを特徴とする請求項1記載の電子放出素子。
【請求項4】
前記基部は、タングステンからなる針状部材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の電子放出素子。
【請求項5】
前記基部は、タングステンからなるフィラメントであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の電子放出素子。
【請求項6】
前記基部の前記先端からの前記突起部の高さは、1μm〜10μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の電子放出素子。
【請求項7】
前記突起部と電気的に接続されていると共に、前記基部を保持する二つの電極とは独立して前記突起部に電圧を印加することのできる電極を備えていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載の電子放出素子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項記載の電子放出素子を備えたことを特徴とする電子源。
【請求項9】
請求項8記載の電子源を備えたことを特徴とする電子線装置。
【請求項10】
基板上に、ダイヤモンド半導体によって形成された突起部を形成する工程と、
前記基板上の前記突起部に、マイクロマニピュレーション用の針を固定する工程と、
前記突起部を前記基板から切り離し、金属によって形成された基部に向けて、前記針に固定した前記突起部を搬送する工程と、
カーボン、タングステン、及び白金の少なくとも一種を含むデポジション膜を介して前記基部の先端に前記突起部を接合し、電子放出部を形成する工程とを備えたことを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項11】
基板上に、LaB又はCeBによって形成された突起部を形成する工程と、
前記基板上の前記突起部に、マイクロマニピュレーション用の針を固定する工程と、
前記突起部を前記基板から切り離し、金属によって形成された基部に向けて、前記針に固定した前記突起部を搬送する工程と、
カーボン、タングステン、及び白金の少なくとも一種を含むデポジション膜を介して前記基部の先端に前記突起部を接合し、電子放出部を形成する工程とを備えたことを特徴とする電子放出素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2009−146705(P2009−146705A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322338(P2007−322338)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】