説明

電子部品およびその電子部品を用いた電力変換器

【課題】スイッチング素子としてSiC半導体装置はモータ等の負荷を駆動、制御する電力変換器に用いられているが、SiC半導体装置に内在するボディダイオードに還流が流れ、SiC半導体装置の結晶劣化が進行するのを防止するためショットキバリアダイオードSBDを還流ダイオードを備える技術が示されているが、還流電流の増大化に対して充分な構成ではないという問題点を解消するため、還流時の電圧を検知して、しきい値以上のとき、SiC−FETをONしてSBDと分流する。
【解決手段】SBDの電圧を検出して、SBDのON開始電圧値とSiC半導体装置に内在するボディダイオードのON開始電圧値との間のしきい値以上となったとき、SiC半導体装置のSiC−FETをONし、検出時電圧より小さく0Vよりも大きいしきい値以下にSBDの電圧が下がったときSiC−FETをOFFする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はスイッチング素子として、SiC半導体装置を備えた電子部品に関するものであり、特にSiC半導体装置にSiC−FETとSiCショットキバリアダイオードを用いたスイッチング用電子部品に係るものである。
【背景技術】
【0002】
Siに代わるパワー半導体デバイスとして、SiC半導体装置の開発が盛んである。このSiC半導体装置はSi半導体装置に比較して、高温での動作が可能であること、低損失での動作が可能であることなどの利点があり、より小型の半導体装置を実現することができる。しかしながら、SiC−FETをスイッチング素子として例えばモータ等の負荷を駆動制御する電力変換器等に用いる場合、SiC−FETに内在するダイオード(ボディダイオード)を還流ダイオードとして用いると、ボディダイオードによるバイポーラ動作によりSiC半導体装置の結晶劣化が進行すると考えられている(例えば、非特許文献1)。SiC半導体装置の結晶劣化が進行すると、ボディダイオードのON電圧が上昇し、さらにはSiC−FETそのものが破壊する可能性がある。このような問題点に対して、還流ダイオードをSiC−FETと逆並列に接続し、還流モード時にはボディダイオードを用いずに還流ダイオードに電流を流すことが示されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
【非特許文献1】荒井和雄、吉田貞史 共編、SiC素子の基礎と応用(オーム社、2003)
【特許文献1】特開2002−299625号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に示されたSiC半導体装置は、還流ダイオードにSiCのショットキバリアダイオード(SBD)を用いている。SBDはON開始電圧がボディダイオードに比較して低いため、還流電流としてのSBDの通電電流値が小さいときはボディダイオードに還流電流の流れることは無い。
しかしながら、前記特許文献1に示された構成では順方向の還流電流増加に伴い、SBDのON電圧が増大すると、ボディダイオードのON開始電圧を越える場合があり、このような場合にはボディダイオードに還流電流が流れ、その結果、SiC−FETの故障率が上昇するという問題点がある。このような問題点を解消するには、SBDの面積を大きくすればボディダイオードに通電されないようにすることができるが、半導体装置の微細化に逆行し、またコスト高となるという問題点が派生する。また特許文献1に示された構成のSiC−FETを電力変換器に用いると、SiC−FETの故障率が上昇し、信頼性の低い電力変換器となるという問題点がある。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、スイッチング素子にSiC−FETを用いる場合、還流時に還流ダイオードに発生する電圧を検出して、この電圧が所定のしきい値電圧を越えたときにSiC−FETをONすることでSiC−FETのボディダイオードの還流を抑制し、故障率の低いSiC−FET装置を備えたスイッチング用の電子部品およびその電子部品を用いた電力変換器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る電子部品は、スイッチング素子用SiC−FETと、このSiC−FETに逆並列に接続されたSiCショットキバリアダイオードとで構成されるSiC半導体装置と、SiC−FETを駆動する駆動回路と、SiCショットキバリアダイオードの電圧を検出する電圧検出回路とを備え、電圧検出回路に設けられた電圧検出手段がSiCショットキバリアダイオードの電圧を検出するとともに、この検出電圧が電圧検出手段につながるヒステリシス付き比較器に設定された、SiCショットキバリアダイオードのON開始電圧値とSiC−FETに内在するボディダイオードのON開始電圧値との間の第1のしきい値電圧以上の値になった時、ヒステリシス付き比較器は駆動回路を介してSiC−FETをONする信号を出力し、その後検出電圧がSiC−FETをONした時の検出電圧値よりも小さく、0Vよりも大きい第2のしきい値以下となった時、ヒステリシス付き比較器は駆動回路を介して前記SiC−FETをOFFする信号を出力するものである。
【0007】
また、この発明に係る電力変換器は、3相交流電源をダイオードで整流し、負荷につながるスイッチング素子を有する電子部品を備え、ダイオードの出力にはコンデンサと、3相毎に、複数の直列接続の電子部品が並列に接続されるとともに、複数の電子部品の直列接続の中間点が負荷に接続されており、この負荷は複数の電子部品が動作することで制御されるものであり、複数の電子部品は、スイッチング素子用SiC−FETと、このSiC−FETに逆並列に接続されたSiCショットキバリアダイオードとで構成されるSiC半導体装置と、SiC−FETを駆動する駆動回路と、SiC半導体装置に直列に接続された電流・電流変化率検出回路とを備え、
電流・電流変化率検出回路はSiC半導体装置に流れる還流が増加する時の電流/電圧変換手段の出力電圧値とSiCショットキバリアダイオードのON開始電圧値とSiC−FETに内在するボディダイオードのON開始電圧値との間に設定されたしきい値電圧とを比較して、出力電圧値>しきい値電圧値の場合に、駆動回路を介してSiC−FETをONする信号を出力する第1の信号出力回路と、SiC半導体装置に流れる還流が減少する時の電流/電圧変換手段の出力電圧値を微分し、この微分値が予め設定された値と比較して微分値<しきい値の場合に、駆動回路を介してSiC−FETをOFFする信号を出力する第2の信号出力回路とを備えているものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係る電子部品は、電圧検出回路に設けられた電圧検出手段がSiCショットキバリアダイオードの電圧を検出するとともに、この検出電圧がヒステリシス付き比較器に設定された、SiCショットキバリアダイオードのON開始電圧値とSiC−FETに内在するボディダイオードのON開始電圧値との間の第1のしきい値電圧以上の値になった時、ヒステリシス付き比較器は駆動回路を介してSiC−FETをONする信号を出力し、その後、検出電圧がSiC−FETをONした時の検出電圧値よりも小さく、0Vよりも大きい第2のしきい値以下となった時、ヒステリシス付き比較器は駆動回路を介してSiC−FETをOFFする信号を出力するので、ボディダイオードがONするまでの電流値が増えるとともにSiC−FETとSiCショットキバリアダイオードに分流されてSiC−FETのボディダイオードへの還流が抑制され、SiC−FETの故障率を低くしたスイッチング用の電子部品を実現できる。
【0009】
またこの発明に係る電力変換器は、3相交流を整流するダイオードの出力する3相毎に複数の直列接続のスイッチング素子を有する電子部品が並列接続され、この電子部品の中間点が負荷に接続されており、電子部品の電流・電流変化率検出回路はSiC半導体装置に流れる還流が増加する時の電流/電圧変換手段の出力電圧値と、SiCショットキバリアダイオードのON開始電圧とSiC−FETに内在するボディダイオードのON開始電圧との間に設定されたしきい値電圧とを比較して、出力電圧値>しきい値電圧値の場合に、駆動回路を介してSiC−FETをONする信号を出力する第1の信号出力回路と、SiC半導体装置に流れる還流が減少する時の電流/電圧変換手段の出力電圧値を微分し、この微分値が予め設定された値と比較して微分値<しきい値の場合に、駆動回路を介してSiC−FETをOFFする信号を出力する第2の信号出力回路とを備えているので、ボディダイオードがONするまでの電流値が増加するとともに、還流がSiC−FETとSBDに分流するので、ボディダイオードへの還流が抑制され、SiC−FETの故障率を低くするとともに、SiC−FETのOFFを還流電流が小さくなり始めるときの電流変化率を規定しているため、SiC−FETのOFFを早くすることができ、電力変換器の相手アームとの同時ONを防ぐことが可能となり、短絡電流による損傷を防止した安定した動作の電力変換器となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1を図に基づいて説明する。
図1は、例えば交流電源を整流し、モータ負荷を駆動する電力変換器等に用いられるスイッチング素子としての半導体装置50を備えた電子部品100を示すブロック図である。
図において、半導体装置50を構成するSiC−FET1にはボディダイオード2が内在し、SiC−FET1と逆並列に還流ダイオードとしてSiC半導体のショットキバリアダイオード3(以下、SBDと称す)が接続されている。制御信号に従ってSiC−FET1を駆動する駆動回路4がSiC−FET1の制御端子に接続されている。SBD3のアノードとカソード間電圧Vakを電圧検出手段24が検知して駆動回路4にON信号を送る電圧検出回路5がSBD3と並列に接続される。SBD3とボディダイオード2の電圧電流特性を図2に示す。電圧検出回路5は、SBD3のON開始電圧VSBD_thとボディダイオード2のON開始電圧VBD_thの間に位置するしきい電圧Vth(後述するVth_upに相当する)とVakを比較し、Vakが大きければON信号を駆動回路4に送る。そのため、電圧検出回路5は電圧検出手段24と、しきい電圧Vthに設定された基準電圧源12を有するヒステリシス付き比較器8からなる。ここで、ボディダイオード2を内在するSiC−FET1およびSBD3は同一基板上に形成されたSiC半導体装置50を構成するものであり、駆動回路4、電圧検出回路5とを合わせてモジュール化することによって電子部品100を構成している。
【0011】
ここで、SiC−FET1のボディダイオード2のON開始電圧VBD_thに関して述べる。バイポーラ動作が結晶劣化の進行を進める原因と考えられることから、バイポーラ動作が開始する電流値に対応する電圧値をVBD_thとするのが自然である。そもそもバイポーラ動作とは電子とホールが同時に電気伝導を荷っている状態である。パワーデバイスにおいてはバイポーラ動作で使用するときは、電子濃度nとホール濃度nがほぼ等しい状態である(例えば、非特許文献2)。
上記の電子濃度とホール濃度が等しいという条件と、PN接合ダイオードに関するショックレーモデル(例えば、非特許文献3)及び電荷制御モデル(例えば、非特許文献4)からSiC−FET1のボディダイオード2のON開始電圧VBD_thを以下の式で示すことが出来る。
【0012】
【数1】

【0013】
ここで、k:ボルツマン定数、T:絶対温度、q:電荷素量、N:ドリフトn層のドーパント濃度、d:ドリフト層膜厚、L:ホール拡散長、D:ホール拡散係数、Pn0:ドリフトn層での熱平衡状態におけるホール濃度、τ:ホールのライフタイム、である。
【0014】
同様にSiC−FET1のボディダイオード2の電流電圧特性を計算した結果を図3に示す。但し、τ=0.7μs、N/Pn0=1.3×1033(125℃)、d=12.5×10−4[cm]、D/L=5550[cm/s](125℃)とした。図3では、SiC−FET1のボディダイオード2の温度が25℃、125℃、275℃の電流電圧特性とそれぞれのON開始電圧VBD_th(25℃)、VBD_th(125℃)、VBD_th(275℃)を示している。また、ON開始電圧VBD_th以上における電流電圧特性を線形近似した直線と電流密度ゼロでの交点の電圧をV´BD_th(25℃)、V´BD_th(125℃)、V´BD_th(275℃)としている。25℃、125℃、275℃におけるVBD_thとV´BD_thの値を表1に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
表1からそれぞれの温度におけるVBD_thとV´BD_thがほぼ一致することが判る。ON開始電圧VBD_thは電子濃度nとホール濃度nが等しくなる状態であり、キャリア密度が大きくなり電気伝導度が急激に増大する。この現象は伝導度変調として知られている(例えば、非特許文献5)。従って、VBD_thは電気伝導度が急激に増大する電圧と見なすことができ、電流電圧特性においてその特性が大きく変化する点である。そのため導通開始電圧VBD_th以上における電流電圧特性を線形近似した直線から求めた電圧V´BD_thとVBD_thは良く一致すると考えられる。
【0017】
以上の考察から、ボディダイオード2の導通開始電圧VBD_thは電流電圧特性においてその特性が大きく変化する点であり、その点に対応する電圧以上における電流電圧特性を線形近似した直線から求めた電圧V´BD_thとしてもよい。たとえば、図2で示したボディダイオード2の電圧‐電流特性と導通開始電圧VBD_thの関係は上記考察に基づいたものである。
【0018】
電圧検出回路5の詳細を図4に示す。前述した図1では、SBD3のアノードとカソード間電圧Vakを分圧しない例を示したが、この図4では、Vakを分圧して分圧回路6に取り込んだ場合を示している。
図に示すように電圧検出手段24の分圧回路6でVakを分圧し、差動増幅回路7で増幅した信号VAMPをヒステリシス付き比較器8で比較する。ヒステリシス付き比較器8には、第1しきい値電圧Vth−UPと第2のしきい値電圧Vth−LOが設定されている。この第1しきい値電圧Vth−UPはSBD3のON開始電圧値VSBD_thと、SiC−FET1に内在するボディダイオード2のON開始電圧値VBD_thとの間の値としている。ここで、SBD3のON開始電圧値VSBD_th<ボディダイオード2のON開始電圧値VBD_thである。上記の差動増幅回路7からの信号VAMPをヒステリシス付き比較器8が第1のしきい値電圧Vth−UP(前述したVthに相当する)を有する基準電圧源12の出力と比較し、VAMP>Vth−UPのとき、ON信号を駆動回路4に出力し駆動回路4はSiC−FET1をONするよう信号出力する。
一方、第2のしきい値電圧Vth−LOは、前記電圧検出回路5と駆動回路4との信号によって前記SiC−FET1がONした時の差動増幅回路7の出力電圧よりも小さく、0Vよりも大きい電圧に設定されており、上記SiC−FET1がONされた後に分圧回路6を介し、差動増幅回路7からの出力信号VAMPが第2のしきい値Vth−LO以下となった時、駆動回路4を介してSiC−FET1をOFFする信号を出力する。
ヒステリシス付き比較器8は比較器11、基準電圧源12、抵抗9,10から構成される。分圧回路6は、図5(a)〜(d)に示すいずれかの回路のように抵抗、あるいは抵抗とコンデンサで構成される。
【0019】
このような構成にすれば、ボディダイオード2に還流電流が流れ出す前に、電圧検出回路5が駆動回路4にON指令を送りSiC−FET1がONする。SiC−FET1とSBD3の二つの電流経路を有するので、還流ダイオードのみを用いる場合と比べて、ボディダイオード2がONするまでの電流値は図2に示すとおり、ISBD,MAXからID,MAX分だけ大きく保つことができ、また還流がSiC−FET1とSBD3に分流するのでボディダイオード2の電流が抑制されるので、SiC−FET1の故障率を低く保てる。
【0020】
【非特許文献2】S. M. Sze, Physica of Semiconductor Devices 2nd, JOHN WILEY & SONS, New York, 1981, 37.
【非特許文献3】S. M. Sze, Physica of Semiconductor Devices 2nd, JOHN WILEY & SONS, New York, 1981, 84-87.
【非特許文献4】B. J. Baliga, Power Semiconductor Devices, PWS PUBLISHING COMPANY, Boston, 1996, 172.
【非特許文献5】B. J. Baliga, Power Semiconductor Devices, PWS PUBLISHING COMPANY, Boston, 1996, 159.
【0021】
実施の形態2.
図6は、この発明の実施の形態2によるSiC半導体装置50を備えた電子部品100を示すブロック図である。図において、図1と同一符号は同一または相当部分を表すので説明を省略する。
実施の形態1では、SBD3のアノードとカソード間電圧VakをもとにSiC−FET1をONさせたが、本実施の形態2では電流値IALLをもとにSiC−FET1をONさせる。図6に示すように、半導体装置50を構成するSiC−FET1、SBD3と直列に電流検出回路13を接続する。電流検出回路13はSiC−FET1、SBD3すなわち半導体装置50に流れる還流電流の和IALLを検知して駆動回路4にON信号を送る。実施の形態1で述べた第1のしきい値電圧Vth-UPと同じ値の電圧値をしきい値Vthとし、このしきい値VthとIALLを比較し、IALLの方が大きければON信号を駆動回路4に送る。
【0022】
電流検出回路13の詳細な回路を図7に示す。電流/電圧変換手段をなす検出抵抗14の両端電圧を差動増幅回路7で増幅した信号VIALLを、比較器11でしきい値電圧Vthに設定された参照電圧を有する基準電圧源12と比較する。基準電圧源12の電圧値Vthよりも差動増幅回路7の出力が大きければON信号を駆動回路4に出力し、SiC−FET1をONする。その後、SiC半導体装置50に流れる還流電流を検出する電流/電圧変換手段の検出電圧が、前記しきい値電圧Vth以下となった時に比較器11は駆動回路4を介してSiC−FET1をOFFする信号を出力する。この実施の形態2は前述した実施の形態1のVakに代替して、SiC−FET1、SBD3に流れる電流値IALLを電流/電圧変換手段で電圧に変換した値をVIALLとしているものである。
【0023】
また、図8に他の電流検出回路13の構成を示す。この構成ではホール素子15で電流を検出し、上述と同様な動作を行う。ホール素子15を用いているため非接触で電流を検出するため、主回路において損失が生じない利点がある。
【0024】
このような構成にすれば、ボディダイオード2に還流電流が流れ出す前に、電流検出回路13が駆動回路4にON指令を送りSiC−FET1がONする。還流電流がSiC−FET1とSBD3の二つの電流経路を有するので、還流ダイオードのみを用いる場合と比べて、ボディダイオード2がONするまでの電流値を図3に示すとおり、ISBD,MAXからID,MAX分だけ大きく保つことができ、また還流がSiC−FET1とSBD3に分流するのでボディダイオード2の電流が抑制されるので、SiC−FET1の故障率を低く保てる。
【0025】
実施の形態3.
次に実施の形態3による半導体スイッチ回路50を備えた電子部品と、この電子部品複数個でモータ負荷を駆動する電力変換器に用いた形態について説明する。
この実施の形態3による電子部品を組み合わせることで図9に示すような電力変換器300が構成される。図9では、交流電源31をダイオード整流器32で整流し、コンデンサ33で平滑し、複数の電子部品100a1〜100a6で構成される電力変換器300でモータ負荷34を駆動している。
ダイオード整流器32の出力側にはコンデンサと3相毎に複数、図9の例では2個に直列接続された半導体スイッチ回路100a1〜100a6が3並列接続されており、直列接続の中間点はそれぞれ負荷34に接続されている。図9を用いてSiC−FET1と逆並列に接続されたSBD3に電流が流れる様子を説明する。半導体スイッチ回路である電子部品100a1と100a5、100a6がONしていると、コンデンサ33とこれらの半導体スイッチ100a1、100a5、100a6とモータ負荷34からなる閉ループに電流が流れる。この状態から半導体スイッチ回路100a1がOFFすると、モータ負荷34に流れている電流がそのまま流れ続けようとするため、半導体スイッチ回路100a4のダイオードがONし、半導体スイッチ回路100a4、100a5、100a6とモータ負荷34からなる閉ループに電流が流れる。このように、モータ負荷34のようなインダクタンス成分を持つ負荷を駆動する電力変換器300では、必ず半導体スイッチに対向するボディダイオード2とSBD3に電流が流れるパターンが存在する。なお、ボディダイオード2とSBD3に電流が流れるのは、図10の電力変換器300に限ったものではなく、あらゆる電力変換器に適用可能である。
【0026】
上記した電力変換器300に用いられる半導体スイッチ回路である電子部品100を構成するSiC半導体装置50を図10に示す。図10において、実施の形態2の図6と同一符号は同一部分または相当部分を表すので説明を省略する。
この実施の形態3では、SiC半導体装置50に流れる還流電流を電流・電流変化率検出回路23が検出して電圧に変換し、その値がしきい値以上となったらSiC−FET1をONする点は、前述した実施の形態2と同様であるが、この実施の形態3ではその後、SiC−FET1とSBD3に流れる還流電流IALLを電流・電流変化率検出回路23が検出し、微分回路が電流変化率を求め、所定の電流変化率に達したときに、SiC−FET1をOFFする機能を備えている。以下、構成の詳細と動作を説明する。
【0027】
図10において、SiC半導体装置50を構成するSiC−FET1とSBD3と直列に、電流・電流変化率検出回路23が設けられており、その詳細を図11に示す。
図9に示した電力変換器300における、例えば半導体スイッチ回路100a1が制御信号によりOFF状態にあるとする。このとき図11の電流/電圧変換手段を構成する検出抵抗14で検出される電圧を差動増幅回路7で増幅し、SBD3のON開始電圧値とボディダイオード2のON開始電圧値との間の電圧値をしきい値電圧値Vthとして設定された基準電圧源12を有する第1の比較器11aは、差動増幅回路7の出力信号がVth以上となったらハイレベル信号をOR回路22に出力し、駆動回路4を介してSiC−FET1をONする。
【0028】
SiC−FET1がONされた後、後述する図12(a)に示すP点を境に還流電流が減少始める。電流・電流変化率検出回路23はSiC−FET1、SBD3に流れる還流電流の和IALLを検出抵抗14で電圧検出し、差動増幅回路7で増幅しその出力はバッファ16を通り、コンデンサ17、抵抗18で構成される微分回路で微分される。微分された電圧値の内、負の微分電圧値は基準電圧源19に設定されている所定のしきい値電圧と比較され、負の微分電圧値<しきい値電圧のとき、第2の比較器20はハイレベル信号を出力し、NOT回路21で反転された後、OR回路22に出力され駆動回路4を介してSiC−FET1をOFFする。
図12は電子部品100a1の半導体装置50に流れる還流電流波形を模式的に示す図である。図12(a)はSBD3のしきい値ISBD_thを越えたSiC−FET1、SBD3の電流和IALLを示し、P点より還流電流が減少始める。図12(b)は差動増幅器7が図12(a)と相似な電圧波形VIALLを出力する波形を示す。第1の比較器11aではVIALLと基準電圧源12で設定されるVthと比較し、VthよりVIALLが大きければハイレベル信号を出力する(図12(f))。図12(c)は図12(b)を微分回路で微分した波形で、しきい値電圧dI/dt(th)を合わせて示している。図12(d)は第2の比較器20の出力波形を、図12(e)は、NOT回路21での反転波形を示す。
【0029】
このような実施の形態3の構成を備えた電子部品100は、還流電流がしきい値以上となったとき、SiC−FET1をONさせるので、SiC−FET1とSBD3との電流経路を有することとなり、前述した図2に示すようにボディダイオード2がONするまでの電流値をISBD,MAXからID,MAX分だけ大きくすることができるとともに、ボディダイオード2への電流を抑制することができ、SiC−FET1の故障率を低くすることができる。また、上記SiC−FET1をONの状態からOFFする時期を還流電流が減少し始めるときの電流変化率で規定しているため、OFF動作を早くすることができる。ここでSiC−FETのOFFが遅い半導体スイッチング素子を備えた電子部品を電力変換器300に用いた場合の問題点を図9を用いて説明する。
【0030】
図9において、半導体スイッチ回路の電子部品100a1、100a5、100a6がONしていると、コンデンサ33とこれら電子部品100a1、100a5、100a6とモータ負荷34からなる閉ループに電流が流れる。この状態から電子部品100a1がOFFするとモータ負荷に流れている電流がそのまま流れ続けようとするため、電子部品100a4をONさせ、電子部品100a4、100a5、100a6とモータ負荷34からなる閉ループに電流が流れる。この状態から電子部品100a4をOFFさせた後、再び電子部品100a1をONする制御パターンがあるが、電子部品100a4のSiC−FET1のOFF動作が遅いと、上アームである電子部品100a1のと、下アームである電子部品100a4が同時ONする期間が生じ、過大な短絡電流が流れて損失する恐れがある。しかしながらこの実施の形態3による電子部品100を採用した電力変換器300では、上下アームの同時ONを防止することが可能であり、SiC−FET1の故障率を低下させた優れた電力変換器を提供することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
この発明の実施の形態1、2の電子部品は、SiC半導体装置を用いたスイッチング素子に適用でき、実施の形態3の電子部品はモータ等の負荷を制御する電力変換器に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施の形態1の電子部品を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1〜3のSiC−FET、SBD、ボディダイオードの電圧−電流特性を説明する図である。
【図3】ボディダイオードの電圧・電流特性を説明する図である。
【図4】実施の形態1の電圧検出回路を示すブロック図である。
【図5】実施の形態1の分圧回路の構成を示す図である。
【図6】実施の形態2の電子部品を示すブロック図である。
【図7】実施の形態2の電流検出回路を示すブロック図である。
【図8】実施の形態2の他の電流検出回路を示すブロック図である。
【図9】実施の形態3の電子部品を用いた電力変換器を示すブロック図である。
【図10】実施の形態3の電子部品を示すブロック図である。
【図11】実施の形態3の電流・電流変化率検出回路を示すブロック図である。
【図12】実施の形態3の電流波形を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0033】
1 SiC−FET、2 ボディダイオード、
3 ショットキバリアダイオード(SBD)、4 駆動回路、5 電圧検出回路、
6 分圧回路、7 差動増幅回路、8 ヒステリシス付き比較器、12 基準電圧源、
13 電流検出回路、18 抵抗、23 電流・電流変化率検出回路、
24 電圧検出手段、31 交流電源、32 ダイオード、33 コンデンサ、
34 負荷、50 半導体装置、100,100a1〜100a6 電子部品、
300 電力変換器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子用SiC−FETと、このSiC−FETに逆並列に接続されたSiCショットキバリアダイオードとで構成されるSiC半導体装置と、前記SiC−FETを駆動する駆動回路と、前記SiCショットキバリアダイオードの電圧を検出する電圧検出回路とを備えた電子部品において、前記電圧検出回路に設けられた電圧検出手段が前記SiCショットキバリアダイオードの電圧を検出するとともに、この検出電圧が前記電圧検出手段につながるヒステリシス付き比較器に設定された、前記SiCショットキバリアダイオードのON開始電圧値と前記SiC−FETに内在するボディダイオードのON開始電圧値との間の第1のしきい値電圧以上の値になった時、前記ヒステリシス付き比較器は前記駆動回路を介して前記SiC−FETをONする信号を出力し、その後SiCショットキバリアダイオードから検出される電圧が前記SiC−FETをONした時の前記検出電圧値よりも小さく、0Vよりも大きい第2のしきい値電圧以下となった時、前記ヒステリシス付き比較器は前記駆動回路を介して前記SiC−FETをOFFする信号を出力することを特徴とする電子部品。
【請求項2】
スイッチング素子用SiC−FETと、このSiC−FETに逆並列に接続されたSiCショットキバリアダイオードとで構成されるSiC半導体装置と、前記SiC−FETを駆動する駆動回路と、前記SiC半導体装置に直列接続された電流検出回路とを備えた電子部品において、前記電流検出回路に設けられた電流/電圧変換手段が前記SiC半導体装置に流れる還流電流を検出して電圧に変換するとともに、この変換電圧が前記電流/電圧変換手段につながる比較器に設定された、前記SiCショットキバリアダイオードのON開始電圧値と前記SiC−FETに内在するボディダイオードのON開始電圧値との間のしきい値電圧以上の値になった時、前記比較器は前記駆動回路を介して前記SiC−FETをONする信号を出力し、その後前記電流/電圧変換手段で検出される電圧が前記しきい値以下となった時、前記比較器は前記駆動回路を介して前記SiC−FETをOFFする信号を出力することを特徴とする電子部品。
【請求項3】
スイッチング素子用SiC−FETと、このSiC−FETに逆並列に接続されたSiCショットキバリアダイオードとで構成されるSiC半導体装置と、前記SiC−FETを駆動する駆動回路と、前記SiC半導体装置に直列に接続された電流・電流変化率検出回路とを備えた電子部品において、
前記SiC半導体装置に流れる還流が増加する時、前記電流・電流変化率検出回路に設けられた電流/電圧変換手段の出力する電圧値と、前記SiCショットキバリアダイオードのON開始電圧と前記SiC−FETに内在するボディダイオードのON開始電圧との間に設定されたしきい値電圧とを比較して、前記出力電圧値>しきい値電圧値の場合に、前記駆動回路を介してSiC−FETをONする信号を出力する第1の信号出力回路と、前記SiC半導体装置に流れる還流が減少する時の前記電流/電圧変換手段の出力電圧値を微分し、この微分値が予め設定された値と比較して微分値<しきい値の場合に、前記駆動回路を介してSiC−FETをOFFする信号を出力する第2の信号出力回路とを備えたことを特徴とする電子部品。
【請求項4】
3相交流電源をダイオード整流器で整流し、負荷につながるスイッチング素子を有する電子部品を備えた電力変換器において、
前記ダイオード整流器の出力にはコンデンサと、3相毎に、複数の直列接続の前記電子部品が並列に接続されるとともに、前記複数の電子部品の直列接続の中間点が前記負荷に接続されており、この負荷は前記複数の電子部品が動作することで制御されるものであり、前記複数の電子部品に前記請求項3に記載の電子部品が用いられていることを特徴とする電力変換器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2008−17237(P2008−17237A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−187299(P2006−187299)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】