説明

電極合剤ペースト塗布方法及び塗布装置

【課題】 塗布厚を精度良く調整できつつ芯材を溶接しながら連続生産した場合でも溶接箇所の噛み込みによる生産トラブルの発生を回避できる電極合剤ペーストの塗布方法を提供する。
【解決手段】 開孔金属薄板からなる帯状の芯材1をその長手方向に走行させつつその両面に電極合剤ペースト5を塗布し、電極合剤ペースト5が塗布された芯材1の両面を押圧ローラ15a、15bにて片面づつ交互に1回以上押圧した後、電極合剤ペースト5が塗布された芯材1を、櫛歯状の突起部17a又は17a、17bにて芯材1の位置を規制するようにした一対の掻き落とし治具16a、16b間の隙間に通して電極合剤ペースト5の塗布厚を調整することにより、突起部17a、17b間の間隔を芯材1の溶接箇所が通過できる程度に広げても塗布厚が精度良く調整されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電極合剤ペースト塗布方法及び塗布装置に関し、特に開孔金属薄板から成る芯材の両面に電極合剤ペーストを所望の塗布厚で精度の良く塗布できかつ生産トラブルの発生を回避できる塗布方法及び塗布装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルカリ蓄電池やリチウムイオン二次電池などの電池は、ポータブル機器や電動工具、あるいは電気自動車用の電源として広く用いられている。中でも、比較的エネルギー密度が高く、耐久性に優れるニッケル水素蓄電池は、電気自動車用電源を中心にその用途が広がりつつある。
【0003】
ニッケル水素蓄電池は、一般的に三次元金属多孔体に水酸化ニッケルその他を充填してなる正極と、パンチングメタルなどの開孔金属薄板から成る芯材に水素吸蔵合金その他からなる電極合剤ペーストを塗布してなる負極とを主構成要素としている。その中で、負極は、その工法上連続生産が可能であり、高効率な工程により製造できるので注目されている。具体的には、芯材を電極合剤ペーストに浸漬してその両面に電極合剤ペーストを塗布した後、電極合剤ペーストを塗布した芯材を一対の掻き落し治具の間の隙間に通すとともに、一対の掻き落し治具に設けられた複数の突起部を芯材の表面に接触させ、芯材を位置規制して掻き落とし治具間の中心を通るようにすることで、電極合剤ペーストの塗布厚を調整するようにされている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平9−134722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電気自動車用電源として、上述した電池を用いる場合、高電圧を確保するために、車1台当たり100〜200セルを直列して搭載する必要がある。このように多量の電極を製造する場合、例えば全長数百mの芯材を生産途中で溶接しながら、数千mにわたって連続生産することにより、電極合剤ペーストの塗布厚の調整回数を減らす工夫がなされている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の塗布方法では、一対の掻き落し治具間の隙間の大きさによって塗布厚を調整するとともに、掻き落し治具に設けた突起部を芯材の表面に接触させて芯材の位置を規制しているため、通常の2倍の厚みになる溶接箇所が掻き落し治具を通過する際に、溶接箇所が掻き落し治具の突起部に噛み込んで塗布工程が停止してしまうという問題がある。
【0006】
また、この問題を解決するために、仮に一対の掻き落し治具の突起部間の距離を芯材の厚みの2倍以上に広げると、芯材が走行中に変位して両面の塗布厚を均一に調整することが不可能となる。しかるに、上述の電気自動車用途の電池では、100〜200セル直列して搭載するので、塗布厚精度が低下すると、セル間の容量ばらつきに端を発して、低容量セルからガス発生や発熱が生じるなどの不具合が予想されるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑み、塗布厚を精度良く調整できつつ芯材を溶接しながら連続生産した場合でも溶接箇所の噛み込みによる生産トラブルの発生を回避できる電極合剤ペーストの塗布方法及び塗布装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電極合剤ペーストの塗布方法は、開孔金属薄板からなる帯状の芯材をその長手方向に走行させつつその両面に電極合剤ペーストを塗布する塗布工程と、電極合剤ペーストが塗布された芯材の両面を片面づつ交互に1回以上押圧する均一化工程と、電極合剤ペーストが塗布された芯材を一対の掻き落し治具間の隙間に通すとともに、少なくとも一方の掻き落し治具に設けられた櫛歯状の突起部にて芯材位置を規制して電極合剤ペーストの塗布厚を調整する塗布厚調整工程とを備えたものである。
【0009】
この構成によると、電極合剤ペーストが塗布された芯材の両面を片面づつ交互に押圧することにより、塗布された電極合剤ペーストが芯材の孔を介して押し出される動作が繰り返されるので、塗布された電極合剤ペースト中の気泡が押し出されるとともにペースト性状が均一化される。よって後続する一対の掻き落し治具間の隙間を、芯材の溶接箇所が円滑に通過するように、一対の掻き落し治具に設けた櫛歯状の突起部の間隔を芯材の厚さの2倍以上に設定した場合でも、櫛歯状突起部による位置規制が両側で均等に作用することで芯材の位置規制が精度良く行われる。その結果として、塗布厚を精度良く調整できるとともに芯材を溶接しながら連続生産した場合でも溶接箇所の噛み込みによる生産トラブルの発生を回避することができる。
【0010】
また、一方の掻き落し治具に設けられた櫛歯状の突起部に芯材の一方の表面を接触させて芯材位置を規制すると、芯材が高い精度で位置規制されるとともに、走行安定性が増すので、塗布厚をより精度良く調整することができる。
【0011】
また、一対の掻き落し治具に直近の押圧部材を、一対の掻き落し治具間の隙間の芯材走行方向に沿う中心線に対して、櫛歯状の突起部が設けられている掻き落し治具側に変位させて配置すると、芯材が確実に一方の掻き落し治具に設けられている櫛歯状の突起部に接触して走行するので、塗布厚を安定的により精度良く調整することができる。
【0012】
また、本発明の電極合剤ペーストの塗布装置は、コイル状に巻かれた芯材を巻き出すアンコイラー部と、芯材を浸漬してその両面に電極合剤ペーストを塗布する塗布部と、電極合剤ペーストの塗布厚を調整する塗布厚調整部と、電極合剤ペーストを乾燥する乾燥部と、電極合剤ペーストが塗布され乾燥された芯材をコイル状に巻き取るコイラー部とを備え、塗布厚調整部は、電極合剤ペーストが塗布された芯材の両面を交互に押圧する少なくとも一対の押圧部材と、芯材位置を規制する櫛歯状の突起部を少なくとも一方に有し、両者間の隙間に電極合剤ペーストが塗布された芯材を通す一対の掻き落し治具とを備えているものである。
【0013】
この構成によると、アンコイラー部に芯材コイルを設置して塗布装置を作動すると、上記塗布方法により芯材の両面に塗布厚が精度良く調整されて電極合剤ペーストが塗布されるとともに、芯材コイルの芯材を溶接しながら連続生産した場合でも、溶接箇所の噛み込みによる生産トラブルの発生を回避することができ、コイラー部にて電極合剤ペーストが塗布され乾燥された芯材のコイルを得ることができる。
【0014】
また、芯材の一方の表面に接触させて芯材位置を規制する櫛歯状の突起部が一方の掻き落し治具に設けられ、かつ一対の掻き落し治具に直近の押圧部材が、一対の掻き落し治具間の隙間の芯材走行方向に沿う中心線に対して、櫛歯状の突起部が設けられている掻き落し治具側に変位させて配置すると、芯材が確実に一方の掻き落し治具に設けられている櫛歯状の突起部に接触して走行するので、塗布厚を安定的により精度良く調整することができる。
【0015】
また、アンコイラー部と塗布部との間に、芯材同士を接合する溶接部を配設すると、塗布装置の作動中に芯材を溶接して連続生産することができ、塗布厚の調整回数を低減できて生産効率を向上することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電極合剤ペーストの塗布方法によれば、電極合剤ペーストが塗布された芯材の両面を片面づつ交互に押圧することにより、ペースト性状が均一化されるため、一対の掻き落し治具間の隙間に通して電極合剤ペーストの塗布厚を調整する際に、一対の掻き落し治具における芯材位置規制端の間隔を芯材の厚さの2倍以上に設定した場合でも、芯材の位置規制が精度良く行われる。従って、塗布厚を精度良く調整できるとともに芯材を溶接しながら連続生産した場合でも溶接箇所の噛み込みによる生産トラブルの発生を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の電極合剤ペーストの塗布方法及び塗布装置の一実施形態について、図1〜図5を参照して説明する。
【0018】
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態について、図1〜図3を参照して説明する。
【0019】
図1は、本実施形態に係る塗布装置100の全体概略構成を示す斜視図である。塗布装置100は、開孔金属薄板から成る帯状の芯材1を巻回した芯材コイル2を保持して芯材1を巻き出すアンコイラー部3を備えている。芯材1はアンコイラー部3から水平方向に引き出され、ガイドローラ4に90°巻き付けられて垂直上方に向けて方向転換して走行して塗布部7に導かれる。塗布部7は、電極合剤ペースト5を満たしたペースト槽6を備え、そのペースト槽6の中を芯材1が貫通して走行するように構成されており、この塗布部7で芯材1の両面全面に電極合剤ペースト5が塗布される。
【0020】
電極合剤ペースト5が塗布された芯材1は、そのまま垂直上方に走行して塗布厚調整部8を通過する間に電極合剤ペースト5の塗布厚が調整されて電極ペースト塗布シート10となる。電極ペースト塗布シート10は、ガイドローラ9に90°巻き付けられ、水平方向に方向転換して走行し、乾燥部11に導かれ、電極合剤ペースト5が乾燥されて電極シート12となり、この電極シート12がコイラー部13で巻き取られて電極コイル14が製造される。
【0021】
なお、芯材コイル2の芯材1が無くなった時にアンコイラー部3に新たに芯材コイル2を供給し、芯材1の両端同士を溶接して連続生産できるようにするため、アンコイラー部3と塗布部7の間に、溶接手段(図示せず)が配設されている。この溶接手段には、銅を電極としたシーム溶接方法を適用したものが好適である。
【0022】
塗布厚調整部8は、図2に詳細に示すように、電極合剤ペースト5が塗布された芯材1の両面を、交互に片面づつ押圧する1対又は複数対の押圧ローラ15a、15bと、両者間の隙間に電極合剤ペーストが塗布された芯材1を通して電極合剤ペースト5の塗布厚を調整する一対の掻き落し治具16a、16bにて構成されている。一対の掻き落し治具16a、16bの内、一方の掻き落し治具16aには、芯材1の表面が接触して走行することで芯材1の位置を規制する複数の薄板状の突起部17aが、図3に示すように、櫛歯状に突設されている。なお、他方の掻き落し治具16bにも櫛歯状の突起部を設けてもよく、その場合は突起部の先端間の距離が芯材1の厚さの2倍以上となるようにする。
【0023】
また、本実施形態では、掻き落とし治具16a、16bに直近の押圧ローラ15bが、一対の掻き落とし治具16a、16b間の隙間の芯材走行方向に沿う中心線18に対して、突起部17aが設けられている掻き落とし治具16a側に変位させて配置されている。また、突起部17aを有する一方の掻き落し治具16aが可動に構成され、他方の掻き落し治具16bは固定設置され、一方の掻き落し治具16aを位置調整することで、掻き落し治具16a、16b間の間隔を調整し、塗布厚の調整を行うように構成されている。なお、両方の掻き落し治具16a、16bを可動に構成して位置調整するようにしても良い。
【0024】
この塗布厚調整部8における作用について、図2を参照して説明する。電極合剤ペースト5を塗布された芯材1は、まず押圧ローラ15aにて片側から押圧されることで、電極合剤ペースト5は芯材1の孔を通して押圧ローラ15aとは反対側に押し出される。次いで、芯材1が押圧ローラ15bにて反対側から押圧されることで、電極合剤ペースト5は芯材1の孔を通して押圧ローラ15bとは反対側に押し出される。このように電極合剤ペースト5を芯材1の孔を介して交互に押し出す動作を少なくとも1回以上繰り返すことにより、塗布された電極合剤ペースト中の気泡が押し出されるとともにペースト性状が均一化される。
【0025】
引き続いて、電極合剤ペースト5を塗布された芯材1は一対の掻き落し治具16a、16bの間の隙間を通過する。その際、掻き落し治具16a、16bに直近の押圧ローラ15bが隙間の中心線18に対して突起部17aを有する掻き落し治具16a側に変位して配設されているので、芯材1は確実に突起部17aに接触した状態で走行し、芯材1は安定的に位置規制されて走行する。
【0026】
この状態で電極合剤ペースト5を塗布された芯材1が一対の掻き落し治具16a、16bの間の隙間に侵入することで、押圧ローラ15bにて押し出されていた電極合剤ペースト5は他方の掻き落し治具16bにて押圧され、位置規制された芯材1の孔を通して一方の掻き落し治具16a側に押し出され、その後一対の掻き落し治具16a、16bにて最終的に余分な電極合剤ペースト5が掻き落とされる。かくして、芯材1が精度良く位置規制された状態でその両面にペースト性状が均一化された所要の厚さの電極合剤ペースト5が塗布され、塗布厚が精度良く調整された電極ペースト塗布シート10が形成される。
【0027】
また、一方の掻き落し治具16aに設けられた突起部17aと他方の掻き落し治具16bの先端間の間隔は芯材1の厚さの2倍以上あるため、芯材1の両端同士を溶接した溶接箇所の厚さが芯材1の厚さの2倍程度あっても、その溶接箇所も一対の掻き落し治具16a、16bに引っ掛かることなく円滑に通過することができ、生産トラブルを生じる恐れもない。
【0028】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について、図4を参照して説明する。なお、第1の実施形態と同一の構成要素については、同一参照符号を付して説明を省略し、相違点についてのみ説明する。
【0029】
上記第1の実施形態では、一対の掻き落し治具16a、16bに直近の押圧ローラ15bを、掻き落し治具16a、16b間の隙間の中心線18に対して一方の掻き落し治具16a側に変位させて配設した例を示したが、本実施形態では、押圧ローラ15bをほぼ中心線18上に配設している。
【0030】
本実施形態の構成においても、他方の掻き落し治具16bにより、押圧ローラ15bにて押し出されていた電極合剤ペースト5とともに芯材1も、掻き落し治具16a側に押し付けられるので、芯材1は突起部17aに接触し、突起部17aにて位置規制される状態となる。かくして、芯材1が精度良く位置規制された状態でその両面にペースト性状が均一化された所要の厚さの電極合剤ペースト5が塗布され、塗布厚が精度良く調整された電極ペースト塗布シート10が形成される。また、芯材1の両端同士を溶接した溶接箇所の厚さが芯材1の厚さの2倍程度あっても、その溶接箇所も一対の掻き落し治具16a、16bに引っ掛かることなく円滑に通過することができ、生産トラブルを生じる恐れもない。なお、芯材1をより確実に突起部17aに接触させるという点では、第1の実施形態の方が安定性がある。
【0031】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について、図5を参照して説明する。なお、第1及び第2の実施形態と同一の構成要素については、同一参照符号を付して説明を省略し、相違点についてのみ説明する。
【0032】
本実施形態では、上記第2の実施形態の押圧ローラ15bと一対の掻き落し治具16a、16bとの間に、芯材1の両面に電極合剤ペースト5がほぼ均等な厚さに塗布された状態となるように、塗布厚を調整する複数の押圧ローラ15c、15dが配設されている。また、一対の掻き落し治具16a、16bのそれぞれに、芯材1の位置を規制する複数の突起部17a、17bが櫛歯状に突設されている。これらの突起部17a、17bの先端間の距離は、芯材1の厚さの2倍以上に調整されている。
【0033】
本実施形態の構成によれば、押圧ローラ15a、15bにて電極合剤ペースト5を芯材1の孔を介して交互に押し出す動作を少なくとも1回以上繰り返すことにより、塗布された電極合剤ペースト中の気泡が押し出されるとともにペースト性状が均一化され、その後押圧ローラ15c、15dにて芯材1の両面の電極合剤ペースト5がほぼ均等な塗布厚とされる。そして、その状態で一対の掻き落とし治具16a、16bの間の隙間に侵入することで、芯材1の位置規制が突起部17a、17bによって、突起部17a、17bの先端と芯材1との間の微小な隙間に均質なペーストが介在した状態で間接的になされるとともに、一対の掻き落とし治具16a、16bにて芯材1の両面の余分な電極合剤ペースト5が掻き落とされる。かくして、芯材1が精度良く位置規制された状態でその両面にペースト性状が均一化された所要の厚さの電極合剤ペースト5が塗布され、塗布厚が精度良く調整された電極ペースト塗布シート10が形成される。
【0034】
また、一対の掻き落とし治具16a、16bの突起部17a、17b間には、芯材1の厚さの2倍以上の隙間が形成されているので、芯材1の両端同士を溶接した溶接箇所の厚さが芯材1の厚さの2倍程度あっても、その溶接箇所も突起部17a、17bに引っ掛かることなく円滑に通過することができ、生産トラブルを生じる恐れもない。
【0035】
以上の実施形態の説明から分かるように、本発明は芯材が開孔金属薄板である限り、負極に限定されないのは言うまでも無く、例えばアルカリ蓄電池の焼結式ニッケル正極の前駆体であるシンター基板や、開孔金属薄板としてラスメタルを用いたリチウムポリマー電池の正負極にも適用可能である。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明をニッケル水素蓄電池の負極(水素吸蔵合金電極)に適用した実施例と比較例について説明する。
【0037】
(実施例1)
組成式MmNi3.55Co0.75Mn0.4 Al0.3 で表される水素吸蔵合金を湿式ボールミルにより水中で平均粒径30μmに粉砕して水素吸蔵合金粉末を得た。この水素吸蔵合金粉末をアルカリ水溶液に浸漬して表面処理した後、この水素吸蔵合金粉末100kgに対し、固形分比1.5%のカルボキシメチルセルロース水溶液10kg及びケッチェンブラック0.4kgを加えて混練し、さらに固形分比40%のスチレン−ブタジエン共重合体ゴム粒子の水溶液1.75kgを加えて攪拌することにより、電極合剤ペーストを作製した。
【0038】
この電極合剤ペーストを、厚さ60μm、幅300mm、パンチング孔径1mm、開口率40%のニッケルメッキを施した鉄製パンチングメタルから成る芯材1(芯材コイル2の全長200m)の両面に、幅260mm、塗布後の総厚が260μmとなるよう、両側縁20mmづつ電極合剤ペースト5を掻き取りながら、5m/分の速度で塗布した。具体的には、図2に示すように芯材1と各構成部を配設し、突起部17aの突出量は100μm、突起部17aと掻き落し治具16bとの距離を160μmに設定した。塗布は1000mにわたって行い、途中4回の芯材溶接を行った。塗布を行っている間、掻き落し治具16a、16bに芯材1が噛み込むトラブルは発生しなかった。
【0039】
電極ペースト塗布シート10から、1m毎に1箇所、直径40mmの打抜き器で打抜いてサンプルを採取した。これらのサンプルに対し、1コイル毎(200m毎/1コイル当たり200データ)に表裏の塗布厚差の平均値を求めた結果、計5つのデータは、塗布開始から順に1,3,2,4,2μmであった。
【0040】
(実施例2) 押圧ローラ15bと芯材1との接触状態を図4に示したようにした以外は、実施例1と同様に電極合剤ペースト5を塗布した。なお、実施例1と同様に塗布を行っている間、掻き落し治具16a、16bに芯材1が噛み込むトラブルは発生しなかった。
【0041】
電極ペースト塗布シート10から、実施例1と同様に採取したサンプルに対し、1コイル毎に表裏の塗布厚差の平均値を求めた結果、計5つのデータは、塗布開始から順に6,3,5,6,4μmであった。
【0042】
(実施例3) 芯材1と各構成部を図5に示すように配設し、突起部17a、17bの突出量を共に70μmとし、突起部17a、17bの先端間の距離を120μmとした以外は、実施例1と同様に電極合剤ペースト5を塗布した。なお、実施例1と同様に塗布を行っている間、掻き落し治具16a、16bに芯材1が噛み込むトラブルは発生しなかった。
【0043】
電極ペースト塗布シート10から、実施例1と同様に採取したサンプルに対し、1コイル毎に表裏の塗布厚差の平均値を求めた結果、計5つのデータは、塗布開始から順に15,20,18,13,16μmであった。
【0044】
(比較例1)
実施例3に対し、押圧ローラ15a〜15dを除去し、図6に示すように芯材1を走行させた以外は、実施例1と同様に電極合剤ペースト5を塗布した。なお、実施例1と同様に塗布を行っている間、掻き落し治具16a、16bに芯材1が噛み込むトラブルは発生しなかった。
【0045】
電極ペースト塗布シート10から、実施例1と同様に採取したサンプルに対し、1コイル毎に表裏の塗布厚差の平均値を求めた結果、計5つのデータは、塗布開始から順に36,28,41,32,45μmであった。
【0046】
(比較例2)
比較例1に対し、掻き落し治具16a、16bにおける突起部17a、17b間の距離を65μmにした以外は、比較例1と同様に電極合剤ペースト5を塗布した。なお、芯材1同士を溶接した箇所が最初に掻き落し治具16a、16b間を通った際に、芯材1が噛み込むトラブルが発生したので、その時点で塗布を中止した。因みに、電極ペースト塗布シート10から、実施例1と同様に採取したサンプルに対し、表裏の塗布厚差の平均値を求めた結果、1コイル目のデータは2μmであった。
【0047】
以上の説明から明らかなように、本発明の塗布方法は、比較例1のように表裏の塗布ばらつきが増大することもない上に、比較例2のように芯材1の溶接箇所に由来するトラブルも回避できる。中でも、実施例1、2のように、芯材1を一方の掻き落し治具16aの突起部17aにのみ接触させることにより、芯材1の走行安定性が増し、塗布厚をより精度良く調節することができることが分かる。さらに、実施例1のように、掻き落とし治具16a、16bに直近の押圧ローラ15bを、一対の掻き落とし治具16a、16b間の隙間の芯材走行方向に沿う中心線18に対して、突起部17aが設けられている掻き落とし治具16a側に変位させて配置することにより、芯材1を確実に突起部17aに接触させて走行させることができるので、より好ましい結果が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の電極合剤ペーストの塗布方法により、電気自動車用途などの多数のセルを直列に配置する蓄電池の電極を、大量かつ精度良く生産することが可能となるので、種々の電池の電極製造技術として利用可能性が高く、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池などの各種電池の電極製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る電極合剤ペーストの塗布装置の第1の実施形態の構成を模式的に示す斜視図。
【図2】同実施形態における塗布厚調整部の構成を示す側面図。
【図3】同実施形態における一方の掻き落とし治具の部分斜視図。
【図4】本発明の第2の実施形態における塗布厚調整部の構成を示す側面図。
【図5】本発明の第3の実施形態における塗布厚調整部の構成を示す側面図。
【図6】比較例における塗布厚調整部の構成を示す側面図。
【符号の説明】
【0050】
1 開孔金属薄板から成る芯材
3 アンコイラー部
5 電極合剤ペースト
7 塗布部
8 塗布厚調整部
10 電極ペースト塗布シート
11 乾燥部
13 コイラー部
15a、15b 押圧ローラ
16a、16b 掻き落し治具
17a、17b 突起部
100 塗布装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開孔金属薄板からなる帯状の芯材をその長手方向に走行させつつその両面に電極合剤ペーストを塗布する塗布工程と、電極合剤ペーストが塗布された芯材の両面を片面づつ交互に1回以上押圧する均一化工程と、電極合剤ペーストが塗布された芯材を一対の掻き落し治具間の隙間に通すとともに、少なくとも一方の掻き落し治具に設けられた櫛歯状の突起部にて芯材位置を規制して電極合剤ペーストの塗布厚を調整する塗布厚調整工程とを備えたことを特徴とする電極合剤ペーストの塗布方法。
【請求項2】
一方の掻き落し治具に設けられた櫛歯状の突起部に芯材の一方の表面を接触させて芯材位置を規制することを特徴とする請求項1記載の電極合剤ペーストの塗布方法。
【請求項3】
一対の掻き落し治具に直近の押圧部材を、一対の掻き落し治具間の隙間の芯材走行方向に沿う中心線に対して、櫛歯状の突起部が設けられている掻き落し治具側に変位させて配置することを特徴とする請求項2記載の電極合剤ペーストの塗布方法。
【請求項4】
コイル状に巻かれた芯材を巻き出すアンコイラー部と、芯材を浸漬してその両面に電極合剤ペーストを塗布する塗布部と、電極合剤ペーストの塗布厚を調整する塗布厚調整部と、電極合剤ペーストを乾燥する乾燥部と、電極合剤ペーストが塗布され乾燥された芯材をコイル状に巻き取るコイラー部とを備え、塗布厚調整部は、電極合剤ペーストが塗布された芯材の両面を交互に押圧する少なくとも一対の押圧部材と、芯材位置を規制する櫛歯状の突起部を少なくとも一方に有し、両者間の隙間に電極合剤ペーストが塗布された芯材を通す一対の掻き落し治具とを備えていることを特徴とする電極合剤ペーストの塗布装置。
【請求項5】
芯材の一方の表面に接触させて芯材位置を規制する櫛歯状の突起部が一方の掻き落し治具に設けられ、かつ一対の掻き落し治具に直近の押圧部材が、一対の掻き落し治具間の隙間の芯材走行方向に沿う中心線に対して、櫛歯状の突起部が設けられている掻き落し治具側に変位させて配置したことを特徴とする請求項4記載の電極合剤ペーストの塗布装置。
【請求項6】
アンコイラー部と塗布部との間に、芯材同士を接合する溶接部を配設したことを特徴とする請求項4又は5に記載の電極合剤ペーストの塗布装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−302810(P2006−302810A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−126289(P2005−126289)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】