説明

電気制御式ブレーキ装置

本発明は、手段(2)に作用することによりパッド(3)を迅速に動かしてディスク(4)又はドラムと接触させることができる電気モータ(1)と、ディスク又はドラムに対してパッドを締め付ける力を発生することができる磁歪アクチュエータからなるブレーキ装置に関する。磁歪アクチュエータは、ホルダ(5a)上の少なくとも1本の磁性材料の巻線(5)からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概してブレーキの技術分野に関し、とりわけ電気制御式のブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、公知の方法では、この種のブレーキの大部分は電気モータの形態の少なくとも1つのアクチュエータを利用しており、これは、例えば2つのパッドを迅速に移動させてブレーキディスク又はドラムに接触させることができなければならず、且つ、ディスク又はドラムの表面にパッドを締め付けるブレーキトルクを生じさせるために大きな力を発揮しなければならない。移動と締め付けのこれら2つの機能を行わせるためには、単一のアクチュエータの使用では不十分である。よって、公知の解決方法においては、迅速な移動機能を発揮するために電気モータとボールねじを使用し、締め付け力機能を発揮するために磁歪アクチュエータを使用することが多い。
【0003】
この解決方法により、ディスク又はドラムに接触する前にパッドを迅速に動かすのに必要且つ限定的な低出力用に電気モータを設計することができる。よってパッドによる抵抗は非常に小さい。こうして、コンパクトでありながら高速で円形する、従来の特性を有する電気モータを利用することができる。
【0004】
ボールねじの機能は、電気モータから到来する力がパッドを移動させることを可能にし、一方これらのパッドから生じる力がいずれの側にも移動を生じないように、装置の不可逆性を保証するものである。磁歪アクチュエータは、パッドの側に設置され、モータがディスク又はドラムに対するパッドの押し付けを終了したときに作動される。
【0005】
パッドがディスク又はドラムに押し付けられると、電気モータが受ける抵抗はモータの許容限度を超える。電気モータのスイッチが切られ、代わりに磁歪アクチュエータがパッドの締め付け機能を発揮するように提供される。
【0006】
なお、当業者にとって周知の方法では、定義によれば限定的な動きに大きな力を発揮可能とすることから、ブレーキ分野では磁歪を用いることが好都合である。磁歪効果は、ニッケル及びコバルト、並びにそれらと鉄との合金などの、特定の磁性材料から得られる。ただし、希土類、及びそれらと鉄との合金により、さらに良好な結果が得られる。有利には、鉄、ジスプロシウム及びテルビウムの合金であるTerfenol−Dを挙げることができる。
【0007】
公知の解決方法及びブレーキの技術分野において、磁歪アクチュエータは、電磁石によって長手方向に磁化された単純な棒状のTerfenol−Dからなる。
【0008】
この種の解決方法は特許文献1に教示されている。この解決方法では、締め付け力の下でのパッドの変形と両立可能な伸びを得るために、バーの有意な長さを磁化する必要がある。これには大きな磁歪力を利用する必要があり、よって例えば鉄及びコバルトは除外される。一方、優れた特性を持つTerfenol−Dの使用は、統合及びコストの問題を生じさせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許第0988467号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、これらの不都合を、簡単、確実、効果的、且つ合理的な方法で改善することを目的とする。
【0011】
本発明が解決を提案する問題は、小型で、製造コストが低く、エネルギ性能が高く、低消費で、広帯域幅ながら、上述の機能を発揮する電気制御式ブレーキ装置を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような問題を解決するために、本発明による磁歪アクチュエータは、ベース上の少なくとも1本の磁性材料の巻線からなる。
【0013】
なお、電気制御式ブレーキ装置は、手段に作用することによりパッドを迅速に動かしてディスク又はドラム接触させることができる電気モータと、ディスク又はドラムに対してパッドを締め付ける力を発生させることができる磁歪アクチュエータを備える種類のものである。
【0014】
本発明のこの基本的特徴によれば、材料は、鉄とコバルトの合金、よって低コストで中程度のかさの巻線から構成することができるか、又はかさの小さい巻線を得るためにTerfenol−Dから作ることができる。
【0015】
他の特徴によれば、巻線材料の磁化は、電磁石又は永久磁石によって行われる。
【0016】
短絡による磁気損失を減少させるという課題を解決するために、巻線は、長手方向に薄く、半径方向に厚い矩形断面を有する。
【0017】
磁歪アクチュエータの製造には、さまざまな実施例が考えられる。
【0018】
例えば、磁歪アクチュエータは、可変形状を有し且つ任意の種類のアクチュエータ、特に電気モータによって動作される円形磁気回路又は線形磁気回路を有する。
【0019】
あるいは、他の実施例において、磁歪アクチュエータは、非常に強力で短い磁化電流パルスの通過する電磁石によって囲まれた永久磁石を有する固定磁気回路である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
後述では、添付の図面を参照して本発明についてより詳しく説明する。
【図1】本発明による磁歪アクチュエータの原理を示す。
【図2】可変円形形状を有し、電気モータによって作動される磁気回路を有する磁歪アクチュエータの場合の、電気ブレーキ装置の代表的実施例を示す概略図である。
【図3】可変線形形状を有し、電気モータによって作動される磁気回路を有する磁歪アクチュエータの場合の、図2と同様の図。
【図4】可変形状の磁気回路が、非常に強力且つ非常に短い磁化電流パルスの通過する電磁石によって囲まれた固定の永久磁石を有する磁気回路に置換された、図2に対応する図を示す。
【図5】図4と同様の図であり、磁歪材料が、直流電流によって恒久的に給電される電磁石によって磁化されている。
【図6】ドラムブレーキへの本装置の適用を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
公知の方法では、図面に模式的に示すように、電気制御式ブレーキ装置は、ディスク(4)又は他の構成要素と相互作用するように設計されたブレーキパッド(3)を迅速に動かすことができるように、例えばボールねじ(2)と組み合わせて設置された電気モータ(1)を有する。モータ(1)と組み合わせて、装置は、ディスク(4)又はドラムに対してパッド(3)を締め付ける力を発生することができる磁歪アクチュエータ(5)を有する。図面では、(1a)がモータあるいは他の移動アクチュエータの固定子を示し、参照番号(1b)がアクチュエータ(1)のロータを示し、このロータはボールねじ(2)と組み合わせて設置されている。
【0022】
本発明の1つの基本的な特徴によれば、磁歪アクチュエータは、ガイドとして機能するコア(5a)上に設置された巻線(5)からなる。ガイド(5a)はまた、例えばボールねじ(6)又は他の構成要素と組み合わせて設置される。図面に示すように、巻線(5)は、短絡による磁気損失を制限するために、各巻きの間にエアギャップを有する。よって、長手方向に薄く、半径方向に厚い矩形断面を有する巻線が特に適している。
【0023】
上述のように、巻線(5)は、鉄とコバルトの混合物から作ることができる。望ましくは、このような巻線は約5cmの長さに収められる。巻線(5)は同様にTerfenol−Dから作ることもでき、この場合およそ2mmの溝を得ることができる。
【0024】
一般的には、巻線(5)は、磁場の影響下で変形する合金から作られる。
【0025】
磁歪巻線(5)は、電磁石又は永久磁石によって磁化することができる。この点に関し、電磁石が制御の容易な磁場を発生させる結果、磁歪巻線が発揮する力も制御が容易である。一方で電磁石は、多くのエネルギを消費する。
【0026】
永久磁石はエネルギ消費がゼロであり、電力供給のないことや材料自体のおかげで極めてコンパクトである。磁場の制御は非常に不便で、後述の説明で述べるように、可変形状の磁気回路によって行われる。
【0027】
その磁性材料が永久磁石で磁化される磁歪アクチュエータの場合、可変形状の磁気回路を用いることが好都合と考えられる。
【0028】
さまざまな解決方法が考えられる。
【0029】
図2では、磁気回路(MC)は可変円形形状を有し、電気モータ(7)によって作動される。永久磁石は(8)で示される。可動分路(9)を動作させるこの電気モータ(7)は、明らかに、電磁プランジャ、電気活性ポリマ、熱膨張アクチュエータ、フィジオエレクトリック(physioelectric)アクチュエータなどの他の種類のアクチュエータによって置換可能である。
【0030】
図3では、磁気回路(MC)が可変線形形状を有し、電気モータ(7)、あるいは上述のような他の種類のアクチュエータによって作動される。
【0031】
一実施例では、可変形状の磁気回路(MC)が、固定磁気回路と、短く且つ強力な電流パルスの通過する電磁石(11)によって囲まれた永久磁石(10)で置換される。磁化用電磁石(11)は、電子制御要素(12)に従属する。なお、パルスは、所望の磁場値を印加することによって磁石を磁化する。本実施例では、フェライトやアルニコなどの従来の磁石を用いることが好ましい。なお本実施例では、電磁石(11)を直に磁気回路に巻きつけることもできる。
【0032】
ドラムブレーキの場合、磁歪巻線(5)はガイド上にある。巻線は、磁場の発生によって作動されるブレーキの場合、磁場の影響下で伸長する材料か、又は磁場の影響下で収縮する材料(磁場の途絶によって作動されるブレーキ)を使用する。磁歪巻線(5)及び磁気回路(MC)間における力の伝達にはケーブル又はロッドが用いられる。プリテンショナ・スプリング(13)は圧縮状態で、すなわちパッド(14)をドラム(15)に押し付けることによって動作する。このスプリングは、磁歪巻線に従属している。
【0033】
このようなドラムブレーキへの適用において、ディスクブレーキの場合について記述及び説明したさまざまな実施例に従って磁気回路(MC)を作ることができる。
【0034】
本発明の装置は、比較的大きな隙間を埋めた後にパーツを締め付ける必要がある全ての場合、又は制動が必要な全ての場合において適用可能である。
【0035】
これらさまざまな用途のうち、下記を挙げることができる。
・自動車、バイク、トラック、バス、列車、飛行機といったあらゆる種類の乗り物のブレーキで、好ましくはコンパクトさ、軽さ、及び/又は広い帯域幅を必要とする分野
・デフォルトで与えられたブレーキを用いたエレベータのブレーキ
・クラッチ動作式のチェアリフト及びケーブルカー
・オートマチックギアボックス用のブレーキ及びクラッチ
・産業用ロボットのはさみ:移動アクチュエータが、さまざまなサイズのパーツの把持を可能とし、パーツを放した後にはさみがパーツから遠ざかることを許容するように操作にゆとりを残す。磁歪アクチュエータは、重いパーツ及び/又は滑りやすいパーツ(グリースで覆われた平滑な表面)を保持するために強力な締め付けを行う。
【0036】
利点は説明から明らかである。念のため、下記を特に強調する。
・磁歪巻線が、特に長さ方向にさらに小型化できるという、小型性の課題が達成される。スペース要求が等しい場合、磁歪巻線は、長い方の材料を使用することができ、その結果、締め付け時にアクチュエータの移動を増大することができる。
・鉄コバルト合金が使用可能であることによりコストに関する課題が達成される。
・可変形状の磁気回路の場合、小型で大パワーのアクチュエータ、移行フェーズ限定のエネルギ消費、回路の磁化で消費されるエネルギを回復することが可能であることにより、エネルギ性能及び低電力消費の課題が達成される。
また、装置の低エネルギ消費は、より低い14VのDC電圧で給電し、燃料消費を大きく抑えることを考慮可能とする。
・20kHzを超え、磁歪アクチュエータの帯域幅が本質的に磁場を印加する装置の帯域幅に依存するとの事実から、ハイブリッド・アクチュエータの設計を可能とする広帯域幅の課題が達成される。帯域幅は、電流パルスで磁化された磁石によってさらに広げることができる。非常に広い帯域幅の利用は、低振幅の力が印加されるESP(電子安定プログラム)式の供用を可能とする。
・低出力電気モータが使用可能であることによる電子機器と関連したコスト削減の課題が達成される。電子機器の低エネルギ消費及び低エネルギ散逸は、冷却におけるストレスの減少を可能とし、熱的観点からすれば、キャリパ自体に電子機器を設置し、コスト削減に寄与することが可能である。
・磁歪によって生じる締め付け力の大きさに関する課題が達成される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
手段(2)に作用することによりパッド(3)を迅速に動かしてディスク(4)又はドラムと接触させることができる電気モータ(1)と、ディスク又はドラムに対してパッドを締め付ける力を発生することができる磁歪アクチュエータとを備え、磁歪アクチュエータが、ベース(5a)上の少なくとも1つの磁性材料の巻線(5)から構成されることを特徴とする、電気制御式ブレーキ装置。
【請求項2】
材料が磁場の影響下で変形する合金であることを特徴とする、請求項1記載の装置。
【請求項3】
磁性材料(5)が鉄とコバルトの合金であることを特徴とする、請求項2記載の装置。
【請求項4】
磁性材料(5)がTerfenol−Dからなることを特徴とする、請求項2記載の装置。
【請求項5】
磁性材料が電磁石によって磁化されることを特徴とする、請求項1記載の装置。
【請求項6】
磁性材料が永久磁石によって磁化されることを特徴とする、請求項1記載の装置。
【請求項7】
巻線(5)が、長手方向に薄く、半径方向に厚い矩形断面を有することを特徴とする、請求項1記載の装置。
【請求項8】
永久磁石が、その磁場を制御可能な手段と組み合わせて設置されていることを特徴とする、請求項6記載の装置。
【請求項9】
磁歪アクチュエータ(5)が、主に電気モータによって作動される、可変形状の円形磁気回路を有していることを特徴とする、請求項1記載の装置。
【請求項10】
磁歪アクチュエータ(5)が、主に電気モータによって動作される、可変形状の線形磁気回路を有していることを特徴とする、請求項1記載の装置。
【請求項11】
磁歪アクチュエータ(5)が、固定磁気回路と、非常に強力な短い電流パルスの通過する電磁石(12)によって囲まれた永久磁石(10)とを有することを特徴とする、請求項1記載の装置。
【請求項12】
磁歪材料が、直流電流によって恒久的に給電される電磁石によって磁化されることを特徴とする、請求項1記載の装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2010−517867(P2010−517867A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−549449(P2009−549449)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際出願番号】PCT/FR2008/050188
【国際公開番号】WO2008/104682
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(507308902)ルノー・エス・アー・エス (281)
【Fターム(参考)】