説明

電気自動車のバッテリ充電状態表示装置および電気自動車の制御装置

【課題】バッテリの充電状態の表示を適正化し、車両挙動と適切に整合させる。
【解決手段】電気自動車のバッテリ充電状態表示装置20は、バッテリ11から所定の要求出力を発生可能かつ温度が低下することに伴い増大傾向に変化する下限SOCを取得する下限SOC設定部32と、バッテリセル11の劣化を抑制する上限SOCを設定する上限SOC設定部34と、複数のバッテリセル11aの最小SOCと下限SOCとの差を使用可能残SOCとする使用可能残SOC演算部33と、使用可能残SOCと、上限SOCと複数のバッテリセル11aの最大SOCとの差と、を加算して使用可能全SOCとする使用可能全SOC演算部35と、使用可能全SOCに対する使用可能残SOCの割合を表示用SOCとする表示用SOC演算部36と、表示用SOCを表示する表示器17とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気自動車のバッテリ充電状態表示装置および電気自動車の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばバッテリの残容量を初期容量から放電電流の積算値を減算することにより演算し、この演算結果に対して、バッテリの出力電力が大きくなることに伴い、補正量が増大傾向に変化するように、かつ補正後の残容量が低下傾向に変化するように補正を行ない、補正後の残容量を表示する装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−55903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来技術に係る装置によれば、バッテリの出力電力が急激に変化すると、出力電力に応じた補正量も急激に変化し、この補正量による補正で得られる補正後の残容量が急激に変化する。
このため、単に、補正後の残容量を表示するだけでは、バッテリの出力電力の急激な変化に伴って、表示される残容量も急減に変化してしまい、車両の乗員に違和感を与えてしまうという問題が生じる。
【0005】
また、例えばバッテリの残容量が車両の要求出力を確保することができる下限残容量の周辺まで低下している状態では、バッテリの温度変化に伴って下限残容量が変動することに起因して車両挙動に変化が生じる場合がある。
この場合に、単に、バッテリの温度に応じた内部抵抗値の補正などによる補正後の残容量を表示するだけでは、表示される補正後の残容量に車両の要求出力が確保されているか否かについては反映されていないことから、表示される残容量の変化と車両挙動の変化との間の整合性を確保することはできず、例えば表示される残容量が低いときに、車両挙動がバッテリの温度によって異なってしまい、乗員に違和感を与えてしまうという問題が生じる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、バッテリの充電状態の表示を適正化し、充電状態の表示と車両挙動とを適切に整合させることが可能な電気自動車のバッテリ充電状態表示装置および電気自動車の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、本発明の第1態様に係る電気自動車のバッテリ充電状態表示装置は、電動機(例えば、実施の形態での電動機12)と、該電動機への供給電力を蓄電可能な複数のバッテリセル(例えば、実施の形態でのバッテリセル11a)から成るバッテリ(例えば、実施の形態でのバッテリ11)とを搭載する電気自動車(例えば、実施の形態での電気自動車10)のバッテリ充電状態表示装置(例えば、実施の形態でのバッテリ充電状態表示装置20)であって、前記複数のバッテリセルの電圧および電流を取得する取得手段(例えば、実施の形態での状態検出部21)と、各前記複数のバッテリセル毎の満充電状態での状態量に対する実際の充電状態での状態量の割合を示す充電状態値(例えば、実施の形態でのSOC)を、前記電圧および前記電流に基づいて各前記複数のバッテリセル毎に検知する充電状態値検知手段(例えば、実施の形態でのSOC推定部31)と、前記バッテリの温度を取得する温度取得手段(例えば、実施の形態での状態検出部21)と、前記バッテリから所定の要求出力を発生可能な下限充電状態値(例えば、実施の形態での下限SOC)であって、前記バッテリの温度が低下することに伴い増大傾向に変化する前記下限充電状態値を、前記バッテリの温度に基づき取得する下限充電状態値取得手段(例えば、実施の形態での下限SOC設定部32)と、前記バッテリセルの劣化を抑制するようにして前記バッテリセルに対して許容する上限充電状態値(例えば、実施の形態での上限SOC)を設定する上限充電状態値設定手段(例えば、実施の形態での上限SOC設定部34)と、前記充電状態値検知手段により検知された前記複数のバッテリセルの前記充電状態値のうち最小の充電状態値(例えば、実施の形態での最小SOC)を示す前記バッテリセルの前記充電状態値と前記下限充電状態値との差を使用可能残充電状態値(例えば、実施の形態での使用可能残SOC)とする使用可能残充電状態値演算手段(例えば、実施の形態での使用可能残SOC演算部33)と、前記使用可能残充電状態値と、前記上限充電状態値と前記充電状態値検知手段により検知された前記複数のバッテリセルの前記充電状態値のうち最大の充電状態値(例えば、実施の形態での最大SOC)を示す前記バッテリセルの前記充電状態値との差と、を加算して得られる値を、使用可能全充電状態値(例えば、実施の形態での使用可能全SOC)とする使用可能全充電状態値演算手段(例えば、実施の形態での使用可能全SOC演算部35)と、前記使用可能全充電状態値に対する前記使用可能残充電状態値の割合を表示用充電状態値(例えば、実施の形態での表示用SOC)とする表示用充電状態値演算手段(例えば、実施の形態での表示用SOC演算部36)と、前記表示用充電状態値を表示する表示手段(例えば、実施の形態での表示器17)とを備える。
【0008】
また、本発明の第2態様に係る電気自動車の制御装置は、電動機(例えば、実施の形態での電動機12)と、該電動機への供給電力を蓄電可能な複数のバッテリセル(例えば、実施の形態でのバッテリセル11a)から成るバッテリ(例えば、実施の形態でのバッテリ11)とを搭載する電気自動車(例えば、実施の形態での電気自動車10)のバッテリ充電状態表示装置(例えば、実施の形態でのバッテリ充電状態表示装置20)であって、前記複数のバッテリセルの電圧および電流を取得する取得手段(例えば、実施の形態での状態検出部21)と、各前記複数のバッテリセル毎の満充電状態での状態量に対する実際の充電状態での状態量の割合を示す充電状態値(例えば、実施の形態でのSOC)を、前記電圧および前記電流に基づいて各前記複数のバッテリセル毎に検知する充電状態値検知手段(例えば、実施の形態でのSOC推定部31)と、前記バッテリの温度を取得する温度取得手段(例えば、実施の形態での状態検出部21)と、前記バッテリから所定の要求出力を発生可能な下限充電状態値(例えば、実施の形態での下限SOC)であって、前記バッテリの温度が低下することに伴い増大傾向に変化する前記下限充電状態値を、前記バッテリの温度に基づき取得する下限充電状態値取得手段(例えば、実施の形態での下限SOC設定部32)と、前記バッテリセルの劣化を抑制するようにして前記バッテリセルに対して許容する上限充電状態値(例えば、実施の形態での上限SOC)を設定する上限充電状態値設定手段(例えば、実施の形態での上限SOC設定部34)と、前記充電状態値検知手段により検知された前記複数のバッテリセルの前記充電状態値のうち最小の充電状態値(例えば、実施の形態での最小SOC)を示す前記バッテリセルの前記充電状態値と前記下限充電状態値との差を使用可能残充電状態値(例えば、実施の形態での使用可能残SOC)とする使用可能残充電状態値演算手段(例えば、実施の形態での使用可能残SOC演算部33)と、前記バッテリの全容量を取得する全容量取得手段(例えば、実施の形態での全容量取得部37)と、前記全容量に基づき前記使用可能残充電状態値を制御用残容量に変換する残容量演算部(例えば、実施の形態での制御用残容量演算部38)と、前記制御用残容量に基づいて前記電動機を制御する制御手段(例えば、実施の形態での車両制御部39)とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の請求項1に係る電気自動車のバッテリ充電状態表示装置によれば、充電状態値は、例えばバッテリセルの満充電状態で蓄積されている電気量(あるいは電力量など)を100%として、実際にバッテリセルに蓄積されている電気量(あるいは電力量など)の割合を示すSOC(State Of Charge)などである。
【0010】
そして、所定の要求出力を発生可能な下限充電状態値はバッテリの温度が低下することに伴い増大傾向に変化し、表示用充電状態値は、最小の充電状態値を示すバッテリセルの充電状態値と下限充電状態値との差である使用可能残充電状態値に基づき算出されている。
これにより、バッテリの温度が変化した場合であっても、表示用充電状態値と車両挙動(例えば、出力など)との間の整合性を確保することができ、例えば表示用充電状態値が低い値(例えば、10%など)のときに、車両挙動がバッテリの温度によって異なることを防止することができ、表示される表示用充電状態値と実際の車両挙動との対応関係に不整合が生じて乗員に違和感を与えてしまうことを防止することができる。
【0011】
また、表示用充電状態値は、所定の要求出力を発生可能な下限充電状態値に基づき算出されているので、例えばバッテリの出力電力が急激に変化する場合であっても、これに伴って表示用充電状態値が急激に変化して乗員に違和感を与えてしまうことを防止することができる。
【0012】
しかも、使用可能全充電状態値は、複数のバッテリセルの充電状態値のうち最小および最大の充電状態値に基づき算出されていることから、複数のバッテリセルの充電状態値にばらつきが生じる場合であっても、所定の要求出力を発生可能であることを確保するとともに、バッテリセルの過充電による劣化の防止を確保した適正な表示用充電状態値を表示することができる。
【0013】
また、本発明の請求項2に係る電気自動車の制御装置によれば、充電状態値は、例えばバッテリセルの満充電状態で蓄積されている電気量(あるいは電力量など)を100%として、実際にバッテリセルに蓄積されている電気量(あるいは電力量など)の割合を示すSOC(State Of Charge)などである。
【0014】
そして、所定の要求出力を発生可能な下限充電状態値はバッテリの温度が低下することに伴い増大傾向に変化し、電動機を制御するための制御用残容量は、最小の充電状態値を示すバッテリセルの充電状態値と下限充電状態値との差である使用可能残充電状態値に基づき算出されている。
これにより、バッテリの温度が変化した場合であっても、車両挙動(例えば、出力など)との間の整合性が確保されている制御用残容量によって電動機を制御することができ、例えばバッテリの温度に応じて異なる実際の残容量と車両挙動との対応関係を示す複数のマップなどが必要となったり、例えばバッテリの温度に応じて制御処理の内容の変更が必要となることを防止し、制御を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係る電気自動車の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る電気自動車の制御装置の構成図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るSOCおよび表示用SOCの時間変化の一例を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る下限SOCの温度依存性を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る使用可能残SOCと制御用残容量との対応関係を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るバッテリ限界出力および車両許可出力と実残容量および制御用残容量との対応関係の例を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る電気自動車の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る電気自動車のバッテリ充電状態表示装置および電気自動車の制御装置について添付図面を参照しながら説明する。
【0017】
本実施の形態による電気自動車10は、例えば充電ケーブルによる接続あるいは非接触で外部給電装置(図示略)から供給される電力により充電可能なバッテリ11を搭載し、このバッテリ11に蓄電された電力を、走行駆動力を発生する電動機12へ供給可能な電気自動車(EV:Electrical Vehicle)である。
【0018】
この電気自動車10は、例えば図1に示すように、例えば、バッテリ11と、電動機12と、パワードライブユニット(PDU)13と、ダウンバータ(D/V)14と、12Vバッテリ15と、制御装置16と、表示器17とを備えて構成されている。
【0019】
バッテリ11は、例えばリチウムイオン2次電池などであって、複数のバッテリセル11a,…,11aが接続されて構成され、PDU13およびD/V14との間で電気エネルギーの授受が可能である。
【0020】
電動機12は、例えば3相のDCブラシレスモータなどであって、トランスミッション(T/M)を介して駆動輪Wに動力を伝達可能な車両走行駆動用の電動機であって、PDU13によって駆動制御されている。
【0021】
また、電動機12は、例えば電気自動車10の減速時などにおいて駆動輪W側から電動機12側に駆動力が伝達されると、発電機として機能していわゆる回生制動力を発生し、車体の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収する。
【0022】
PDU13は、例えばパルス幅変調(PWM)によるPWMインバータなどを備え、電動機12の駆動時には、バッテリ11から供給される直流電力を交流電力に変換して電動機12に供給する。
また、PDU13は、例えば電動機12の発電時には、電動機12から出力される交流の発電(回生)電力を直流電力に変換してバッテリ11を充電する。
【0023】
各種補機類からなる電気負荷を駆動するための低圧の12Vバッテリ15は、例えばDC/DCコンバータなどを備えるD/V14に接続されている。
D/V14は、バッテリ11の電圧あるいはPDU13の電圧を所定の電圧値まで降圧して12Vバッテリ15を充電可能である。
【0024】
なお、例えばバッテリ11のSOC(State Of Charge)(%)が低下している場合などにおいて、D/V14は、12Vバッテリ15の電圧を昇圧してバッテリ11を充電可能であってもよい。
【0025】
制御装置16は、PDU13の電力変換動作を制御することで電動機12の駆動および発電を制御する。
また、制御装置16は、D/V14の電力変換動作を制御することで12Vバッテリ15の充電を制御する。
【0026】
さらに、制御装置16は、バッテリ11の充電状態を検知して、この検知結果に応じたバッテリ11の充電状態を表示器17に表示するとともに、この検知結果に応じて電動機12の出力などを制御する。
【0027】
制御装置16の一部を成すバッテリ充電状態表示装置20は、例えば図2に示すように、状態検出部21と、処理部22とを備えて構成されている。
【0028】
状態検出部21は、例えば、各バッテリセル11aの電圧を検出する電圧センサ21aと、各バッテリセル11aの電流を検出する電流センサ21bと、バッテリ11の温度を検出する温度センサ21cとを備えて構成されている。
【0029】
処理部22は、例えばCPU(Central Processing Unit)などから成り、SOC推定部31と、下限SOC設定部32と、使用可能残SOC演算部33と、上限SOC設定部34と、使用可能全SOC演算部35と、表示用SOC演算部36と、全容量取得部37と、制御用残容量演算部38と、車両制御部39とを備えて構成されている。
【0030】
SOC推定部31は、各複数のバッテリセル11a,…,11a毎の充電状態に係る充電状態値として、SOC(State Of Charge)を各複数のバッテリセル11a,…,11a毎に推定する。
なお、バッテリセル11aのSOC(State Of Charge)(%)は、例えば、バッテリセル11aの満充電状態で蓄積されている電気量(Ah)(あるいは電力量(Wh)など)を100%として、実際にバッテリセル11aに蓄積されている電気量(Ah)(あるいは電力量(Wh)など)の割合を百分率で示す値である。
【0031】
例えば、SOC推定部31は、先ず、電圧センサ21aから出力されるバッテリセル11aの電圧の検出結果と、電流センサ21bから出力されるバッテリセル11aの電流の検出結果とに基づき、バッテリセル11aの内部抵抗を推定する。
次に、SOC推定部31は、バッテリセル11aの内部抵抗の推定結果に基づき、バッテリセル11aの開路電圧(つまり、バッテリセル11aの無負荷状態での電圧)を推定する。
次に、SOC推定部31は、予め設定されているバッテリセル11aの開路電圧とSOCとの対応関係を示す所定のマップまたは数式などのデータを用いて、開路電圧の推定結果に対応するSOCを推定する。
【0032】
なお、SOC推定部31は、開路電圧に基づきSOCを推定する処理に限らず、他の処理によってSOCを推定してもよい。
【0033】
例えば電流積算の処理では、SOC推定部31は、バッテリセル11aの電圧が所定の上限電圧と下限電圧との間の電圧範囲にある状態で、バッテリセル11aの充電電流および放電電流を所定期間毎に積算して積算充電量および積算放電量を算出し、これらの積算充電量および積算放電量を、初期状態あるいは充放電開始直前のSOCに加算または減算することで現時点のSOCを算出する。
そして、SOC推定部31は、電流積算に伴う誤差の累積をリセットするために、バッテリセル11aの電圧が所定の上限電圧または所定の下限電圧に到達したときに、SOCを所定の上限値または所定の下限値にリセットする。
【0034】
下限SOC設定部32は、例えば図3に示すような、バッテリ11から所定の要求出力(例えば、電気自動車10の走行動力源である電動機12に対して要求される出力を確保するために必要な出力など)を発生可能なSOCである下限SOCを、温度センサ21cから出力されるバッテリ11の温度の検出結果に基づいて設定する。
【0035】
下限SOC設定部32は、例えば図4に示すような、予め作成された所定のマップを記憶しており、この所定のマップに対して、温度センサ21cから出力されるバッテリ11の温度に基づくマップ検索を行なうことで、下限SOCを取得する。
なお、この所定のマップにおいて、下限SOCは、バッテリ11の温度が低下することに伴い、増大傾向に変化するように設定されている。
【0036】
使用可能残SOC演算部33は、SOC推定部31により推定された複数のバッテリセル11a,…,11aのSOCのうち最小のSOC(最小SOC)を示すバッテリセル11aのSOCと、下限SOC設定部32により設定された下限SOCとの差(=最小SOC−下限SOC)を演算して、この演算結果を使用可能残SOCとする。
【0037】
この使用可能残SOCは、例えば図3に示すように、バッテリ11から所定の要求出力を発生可能な状態を確保しつつ放電可能なSOC(放電可能SOC)を示しており、少なくとも最小SOCを示すバッテリセル11aのSOCが下限SOC以上である状態(例えば、図3に示す時刻t2以前)にて算出されるものとされている。
【0038】
上限SOC設定部34は、バッテリセル11aの劣化を抑制するようにしてバッテリセル11aに対して許容する所定のSOCである上限SOCを設定する。
【0039】
使用可能全SOC演算部35は、SOC推定部31により推定された複数のバッテリセル11a,…,11aのSOCのうち最大のSOC(最大SOC)を示すバッテリセル11aのSOCと、上限SOC設定部34により設定された上限SOCとの差(=上限SOC−最大SOC)を演算して、この演算結果を充電可能SOCとする。
そして、この差(=上限SOC−最大SOC)と、使用可能残SOC演算部33により算出された使用可能残SOCとを加算して得られる値(=使用可能残SOC+(上限SOC−最大SOC))を、使用可能全SOCとする。
【0040】
なお、最大SOCと上限SOCとの差(=上限SOC−最大SOC)は、例えば図3に示すように、バッテリセル11aの過充電による劣化の防止を確保しつつ充電可能なSOC(充電可能SOC)を示しており、少なくとも最大SOCを示すバッテリセル11aのSOCが上限SOC以下である状態(例えば、図3に示す時刻t1以降)にて算出されるものとされている。
【0041】
表示用SOC演算部36は、使用可能全SOC演算部35により算出された使用可能全SOCに対する使用可能残SOCの割合を百分率で示す表示用SOC(=使用可能残SOC/使用可能全SOC×100)を演算する。
【0042】
この表示用SOCは、例えば図3に示すように、少なくとも、バッテリ11から所定の要求出力を発生可能であることを確保するとともに、バッテリセル11aの過充電による劣化の防止を確保した状態(例えば、図3に示す時刻t1から時刻t2に到るまでの期間)にて算出される。
【0043】
そして、表示用SOCは、最大SOCを示すバッテリセル11aのSOCが上限SOCに到達するタイミング(例えば、図3に示す時刻t1)での上限SOCに対応する値を100%とし、最小SOCを示すバッテリセル11aのSOCが下限SOCに到達するタイミング(例えば、図3に示す時刻t2)での下限SOCに対応する値を0%とし、時間の経過に伴い上限SOCに対応する値(=100%)から下限SOCに対応する値(=0%)に向かい滑らかに変化する。
【0044】
また、表示用SOCは、最大SOCを示すバッテリセル11aのSOCが上限SOCよりも大きくなる状態(例えば、図3に示す時刻t1より前のタイミング)では100%を維持し、最小SOCを示すバッテリセル11aのSOCが下限SOC未満となる状態(例えば、図3に示す時刻t2より後のタイミング)では0%を維持する。
【0045】
全容量取得部37は、例えば予め記憶しているバッテリ11の全容量、つまり蓄電可能な最大の電気量(Ah)を取得する。
【0046】
制御用残容量演算部38は、全容量取得部37により取得された全容量(Ah)に基づき、使用可能残SOC演算部33により算出された使用可能残SOC(%)を制御用残容量に変換する。
例えば図5に示すように、制御用残容量演算部38は、全容量(Ah)に使用可能残SOC(%)を乗算して得られる値(=使用可能残SOC(%)×全容量(Ah))を、制御用残容量(Ah)とする。
【0047】
車両制御部39は、制御用残容量演算部38により算出された制御用残容量に基づいてPDU13を制御することによって、電動機12の駆動および発電を制御する。
【0048】
例えば図6に示すように、車両制御部39は、バッテリ11の実際の残容量(実残容量)に応じて変化するバッテリ限界出力(つまりバッテリ11から出力可能な限界出力)に対して、電気自動車10に許可される出力(車両許可出力)を、バッテリ限界出力よりも所定の程度だけ小さな値に設定している。
【0049】
このバッテリ限界出力は、バッテリ11の温度に応じて変化することから、車両許可出力もバッテリ11の温度に応じて変化することになる。
なお、車両許可出力は、実残容量の増大に伴い、バッテリ11の温度には依らない所定の最大出力PVに収束するようにして、いわば一意的な変化形状を有するように設定されている。
【0050】
このため、例えば実残容量に基づいて電動機12の制御が実行される場合には、実残容量と車両許可出力との対応関係がバッテリ11の温度に応じて変化することから、例えば複数の温度毎に異なる実残容量と車両許可出力との対応関係を示す複数のマップ、あるいはバッテリ11の温度と実残容量と車両許可出力との対応関係を示すマップなどが必要となる。
【0051】
これに対して、制御用残容量演算部38により算出された制御用残容量に基づいて電動機12の制御が実行される場合には、既に、下限SOC設定部32により算出された下限SOCにバッテリ11の温度が反映されていることから、バッテリ11の温度に依らずに、制御用残容量に応じた車両許可出力を同一の対応関係で設定することができる。
【0052】
例えば図6に示すように、バッテリ11の温度が常温時における実残容量に応じた車両許可出力では、実残容量が所定の実残容量Caから増大することに伴って、車両許可出力がゼロから最大出力PVに向かい増大傾向に変化することに対して、バッテリ11の温度が常温時における制御用残容量に応じた車両許可出力では、制御用残容量がゼロから増大することに伴って、車両許可出力がゼロから最大出力PVに向かい増大傾向に変化する。
【0053】
また、バッテリ11の温度が低温時における実残容量に応じた車両許可出力では、実残容量が所定の実残容量Cbから増大することに伴って、車両許可出力がゼロから最大出力PVに向かい増大傾向に変化することに対して、バッテリ11の温度が低温時における制御用残容量に応じた車両許可出力では、制御用残容量がゼロから増大することに伴って、車両許可出力がゼロから最大出力PVに向かい増大傾向に変化する。
【0054】
つまり、制御用残容量と車両許可出力との対応関係は、バッテリ11の温度に依らずに一定であり、車両制御部39は、制御用残容量と車両許可出力との対応関係を示す単一のマップのみを予め記憶しておくだけで、電動機12を制御することができる。
【0055】
本実施の形態による電気自動車10の制御装置16および電気自動車10のバッテリ充電状態表示装置20は上記構成を備えており、次に、電気自動車10の制御装置16および電気自動車10のバッテリ充電状態表示装置20の動作について説明する。
【0056】
先ず、例えば図7に示すステップS01においては、各バッテリセル11aの電圧および電流および温度を取得する。
次に、ステップS02においては、各バッテリセル11aのSOCを推定する。
次に、ステップS03においては、複数のバッテリセル11a,…,11aのSOCのうち、最小のSOC(最小SOC)を示すバッテリセル11aのSOCおよび最大のSOC(最大SOC)を示すバッテリセル11aのSOCを取得する。
【0057】
次に、ステップS04においては、過充電によるバッテリセル11aの劣化を抑制するようにしてバッテリセル11aに対して許容する上限SOCと、バッテリ11から所定の要求出力を発生可能な下限SOCとを取得する。
【0058】
次に、ステップS05においては、使用可能残SOC(=最小SOC−下限SOC)を演算する。
次に、ステップS06においては、使用可能全SOC(=使用可能残SOC+(上限SOC−最大SOC))を演算する。
【0059】
次に、ステップS07においては、表示用SOC(=使用可能残SOC/使用可能全SOC×100)を演算する。
次に、ステップS08においては、表示用SOCを表示器17に表示する。
【0060】
次に、ステップS09においては、バッテリ11の全容量(Ah)を取得する。
次に、ステップS10においては、使用可能残SOC(%)を制御用残容量(Ah)に変換(制御用残容量(Ah)←使用可能残SOC(%)×全容量(Ah))する。
次に、ステップS11においては、制御用残容量に基づいてPDU13および電動機12を制御する車両制御を実行し、エンドに進む。
【0061】
上述したように、本実施の形態による電気自動車10のバッテリ充電状態表示装置20によれば、所定の要求出力を発生可能な下限SOCはバッテリ11の温度が低下することに伴い増大傾向に変化し、表示用SOCは、最小のSOC(最小SOC)を示すバッテリセル11aのSOCと下限SOCとの差である使用可能残SOCに基づき算出されている。
これにより、バッテリ11の温度が変化した場合であっても、表示用SOCと車両挙動(例えば、出力など)との間の整合性を確保することができ、例えば表示用SOCが低い値(例えば、10%など)のときに、車両挙動がバッテリ11の温度によって異なることを防止することができ、表示器17に表示される表示用SOCと実際の車両挙動との対応関係に乗員が違和感をいだくことを防止することができる。
【0062】
また、表示用SOCは、所定の要求出力を発生可能な下限SOCに基づき算出されているので、例えばバッテリ11の出力電力が急激に変化する場合であっても、これに伴って表示用SOCが急激に変化して乗員に違和感を与えてしまうことを防止することができる。
【0063】
しかも、使用可能全SOCは、複数のバッテリセル11a,…,11aのSOCのうち最小および最大のSOCに基づき算出されていることから、複数のバッテリセル11a,…,11aのSOCにばらつきが生じる場合であっても、所定の要求出力を発生可能であることを確保するとともに、バッテリセル11aの過充電による劣化の防止を確保した適正な表示用SOCを、滑らかに変化するように表示することができる。
【0064】
また、本実施の形態による電気自動車10の制御装置16によれば、所定の要求出力を発生可能な下限SOCはバッテリ11の温度が低下することに伴い増大傾向に変化し、電動機12を制御するための制御用残容量は、最小のSOC(最小SOC)を示すバッテリセル11aのSOCと下限SOCとの差である使用可能残SOCに基づき算出されている。
これにより、バッテリ11の温度が変化した場合であっても、車両挙動(例えば、出力など)との間の整合性が確保されている制御用残容量によって電動機12を制御することができ、例えばバッテリ11の温度に応じて異なる実際の残容量(実残容量)と車両挙動との対応関係を示す複数のマップなどが必要となったり、例えばバッテリ11の温度に応じて制御処理の内容の変更が必要となることを防止し、車両制御を簡素化することができる。
【符号の説明】
【0065】
10 電気自動車
12 電動機
11a バッテリセル
11 バッテリ
17 表示器(表示手段)
20 バッテリ充電状態表示装置
21 状態検出部(取得手段、温度取得手段)
31 SOC推定部(充電状態値検知手段)
32 下限SOC設定部(下限充電状態値取得手段)
34 上限SOC設定部(上限充電状態値設定手段)
33 使用可能残SOC演算部(使用可能残充電状態値演算手段)
35 使用可能全SOC演算部(使用可能全充電状態値演算手段)
36 表示用SOC演算部(表示用充電状態値演算手段)
37 全容量取得部(全容量取得手段)
39 車両制御部(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と、該電動機への供給電力を蓄電可能な複数のバッテリセルから成るバッテリとを搭載する電気自動車のバッテリ充電状態表示装置であって、
前記複数のバッテリセルの電圧および電流を取得する取得手段と、
各前記複数のバッテリセル毎の満充電状態での状態量に対する実際の充電状態での状態量の割合を示す充電状態値を、前記電圧および前記電流に基づいて各前記複数のバッテリセル毎に検知する充電状態値検知手段と、
前記バッテリの温度を取得する温度取得手段と、
前記バッテリから所定の要求出力を発生可能な下限充電状態値であって、前記バッテリの温度が低下することに伴い増大傾向に変化する前記下限充電状態値を、前記バッテリの温度に基づき取得する下限充電状態値取得手段と、
前記バッテリセルの劣化を抑制するようにして前記バッテリセルに対して許容する上限充電状態値を設定する上限充電状態値設定手段と、
前記充電状態値検知手段により検知された前記複数のバッテリセルの前記充電状態値のうち最小の充電状態値を示す前記バッテリセルの前記充電状態値と前記下限充電状態値との差を使用可能残充電状態値とする使用可能残充電状態値演算手段と、
前記使用可能残充電状態値と、前記上限充電状態値と前記充電状態値検知手段により検知された前記複数のバッテリセルの前記充電状態値のうち最大の充電状態値を示す前記バッテリセルの前記充電状態値との差と、を加算して得られる値を、使用可能全充電状態値とする使用可能全充電状態値演算手段と、
前記使用可能全充電状態値に対する前記使用可能残充電状態値の割合を表示用充電状態値とする表示用充電状態値演算手段と、
前記表示用充電状態値を表示する表示手段と
を備えることを特徴とする電気自動車のバッテリ充電状態表示装置。
【請求項2】
電動機と、該電動機への供給電力を蓄電可能な複数のバッテリセルから成るバッテリとを搭載する電気自動車のバッテリ充電状態表示装置であって、
前記複数のバッテリセルの電圧および電流を取得する取得手段と、
各前記複数のバッテリセル毎の満充電状態での状態量に対する実際の充電状態での状態量の割合を示す充電状態値を、前記電圧および前記電流に基づいて各前記複数のバッテリセル毎に検知する充電状態値検知手段と、
前記バッテリの温度を取得する温度取得手段と、
前記バッテリから所定の要求出力を発生可能な下限充電状態値であって、前記バッテリの温度が低下することに伴い増大傾向に変化する前記下限充電状態値を、前記バッテリの温度に基づき取得する下限充電状態値取得手段と、
前記バッテリセルの劣化を抑制するようにして前記バッテリセルに対して許容する上限充電状態値を設定する上限充電状態値設定手段と、
前記充電状態値検知手段により検知された前記複数のバッテリセルの前記充電状態値のうち最小の充電状態値を示す前記バッテリセルの前記充電状態値と前記下限充電状態値との差を使用可能残充電状態値とする使用可能残充電状態値演算手段と、
前記バッテリの全容量を取得する全容量取得手段と、
前記全容量に基づき前記使用可能残充電状態値を制御用残容量に変換する残容量演算部と、
前記制御用残容量に基づいて前記電動機を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする電気自動車の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−173250(P2012−173250A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38247(P2011−38247)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】