電気自動車の前部車体構造
【課題】電気自動車の前部車体構造において、サスペンションクロスメンバ上方の空間を確保しつつ、良好な衝撃吸収が可能な車体構造を提供する。
【解決手段】左右の前輪15a,15bを駆動するためのモータ部3a,3bと、モータ部3a,3bから出力された動力を当該前輪15a,15bに伝達する減速ギヤ部5a,5bと、左右の前輪15a,15bのサスペンション装置S,Sをそれぞれ支持するサスペンションクロスメンバ9と、車体の左右両側で前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム21a,21bと、を備えた電気自動車1の前部車体構造である。モータ部3a,3bは、前輪15a,15bの駆動軸75よりも後方でサスペンションクロスメンバ9に取り付けられている。サスペンションクロスメンバ9の上方に左右一対のフロントサイドフレーム21a,21bを連結する連結部材33が設けられている。
【解決手段】左右の前輪15a,15bを駆動するためのモータ部3a,3bと、モータ部3a,3bから出力された動力を当該前輪15a,15bに伝達する減速ギヤ部5a,5bと、左右の前輪15a,15bのサスペンション装置S,Sをそれぞれ支持するサスペンションクロスメンバ9と、車体の左右両側で前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム21a,21bと、を備えた電気自動車1の前部車体構造である。モータ部3a,3bは、前輪15a,15bの駆動軸75よりも後方でサスペンションクロスメンバ9に取り付けられている。サスペンションクロスメンバ9の上方に左右一対のフロントサイドフレーム21a,21bを連結する連結部材33が設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを備えた電気自動車の前部車体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車の前面衝突時に、衝突による荷重が車室に伝播しないように、従来から様々な電気自動車の車体構造が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、駆動モータユニットの前側が前側モータマウントを介してサスペンションメンバ(サスペンションクロスメンバ)に取り付けられた電気自動車において、駆動モータユニットの前方斜め上方に、前側モータマウントよりも上方かつ前方に空気コンプレッサを配設した駆動モータ取付構造が開示されている。この駆動モータ取付構造によれば、車両の前面衝突時において、駆動モータユニットよりも先に空気コンプレッサに衝突荷重が入力され、この空気コンプレッサから駆動モータユニットに荷重が伝達されて駆動モータユニットが下方に押されて落下することから、車室に伝播される衝突荷重が大幅に低減することができるとされている。
【0004】
また、特許文献1のものでは、オフセット衝突時等、空気コンプレッサに衝突荷重が直接に入力されない場合であっても、サイドメンバ(フロントサイドフレーム)から入力された衝突荷重が前側モータマウントに入力され、当該前側モータマウントを変形させることで、駆動モータユニット及び空気コンプレッサを下方に移動させ、車両室内側に向けて移動することを効果的に阻止することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−161260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1のものは、駆動モータユニットがサスペンションクロスメンバの車両前後方向中央部に位置し且つステアリングラックの前方に位置することから、空気コンプレッサは駆動軸よりも前方でフロントサイドフレームよりも上方に飛び出している(特許文献1の図9参照)。このため、特許文献1のものでは、前輪の駆動軸よりも前側におけるサスペンションクロスメンバ上方の空間を有効に利用することが困難になるという問題がある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、モータを備えた電気自動車の前部車体構造において、サスペンションクロスメンバ上方の空間を確保しつつ、オフセット衝突時において、良好な衝撃吸収が可能な車体構造を実現する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明では、モータを前輪の駆動軸よりも後方でサスペンションクロスメンバに搭載して、左右一対のフロントサイドフレームを連結する連結部材を設けるための空間を駆動軸の上方に確保するようにしている。
【0009】
第1の発明は、左右の前輪を駆動するためのモータと、当該モータから出力された動力を当該前輪に伝達する減速ギヤと、当該左右の前輪のサスペンションをそれぞれ支持するサスペンションクロスメンバと、車体の左右両側で前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、を備えた電気自動車の前部車体構造であって、上記モータは、上記前輪の駆動軸よりも後方で上記サスペンションクロスメンバに取り付けられており、上記サスペンションクロスメンバの上方に、上記左右一対のフロントサイドフレームを連結する連結部材が設けられていることを特徴とするものである。
【0010】
第1の発明によれば、左右の前輪を駆動するためのモータが、前輪の駆動軸よりも後方でサスペンションクロスメンバに取り付けられているので、サスペンションクロスメンバの上方に、空間を確保することができる。そうして、このように確保されたサスペンションクロスメンバの上方の空間に、左右一対のフロントサイドフレームを連結する連結部材を設けることにより、オフセット衝突時に一方のフロントサイドフレームに入力した荷重を、他方のフロントサイドフレームに伝達することが可能となる。
【0011】
以上により、サスペンションクロスメンバ上方の空間を確保しつつ、オフセット衝突時において、良好な衝撃吸収が可能な前部車体構造を実現することが可能になる。
【0012】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記モータ及び上記減速ギヤは、上記左右の前輪に対してそれぞれ1つずつ設けられており、上記左右のモータは、出力軸が車両前後方向に延びるようにそれぞれ配設されており、上記左右の減速ギヤは、上記左右のモータの前方にそれぞれ連結されていることを特徴とするものである。
【0013】
ところで、最大トルクや最高回転速度等のモータの出力特性は、総磁束、巻線数等のモータの大きさにより規定される。したがって、モータ1個当たりの大きさを小さくすると、モータの出力特性が低下することになる。
【0014】
ここで、第2の発明では、モータが、左右の前輪に対して1つずつ、すなわち、2つ設けられているので、モータを1つしか設けていない場合に比べてモータ1個当たりの高さを低くしつつ、同等の出力特性を維持することができる。さらに、左右の減速ギヤが左右のモータの前方にそれぞれ連結されているので、減速ギヤとモータとを上下に重ねて配置するものに比べて、モータ及び減速ギヤの高さを低くすることができる。
【0015】
これらにより、サスペンションクロスメンバ全面に亘って、その上方に空間を確保することが可能となる。
【0016】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記左右のモータの出力軸の回転方向が互いに逆向きであることを特徴とするものである。
【0017】
第3の発明によれば、左右のモータは出力軸が車両前後方向に延びるようにそれぞれ配設され、且つ、これら左右のモータの出力軸の回転方向が互いに逆向きであることから、例えば、一方のモータによって生じる、車両正面視で時計回りの捩れと、他方のモータによって生じる、車両正面視で反時計回りの捩れとを互いに相殺させることができる。
【0018】
第4の発明は、上記第1〜第3のいずれか1つの発明において、上記モータは、その上端が上記左右一対のフロントサイドフレームの上面よりも低くなるように設定されていることを特徴とするものである。
【0019】
第4の発明によれば、左右一対のフロントサイドフレームを例えばその上面で連結すれば、連結部材をモータの上方に設けることができる。さらに、質量の大きいモータが低位置にレイアウトされているので、車両の重心を低くすることができる。
【0020】
第5の発明は、上記第1〜第4のいずれか1つの発明において、上記連結部材の上方の空間が、当該連結部材がその底面を構成する荷室として用いられることを特徴とするものである。
【0021】
第5の発明によれば、左右一対のフロントサイドフレームを連結する連結部材を荷室の底面とすることにより、簡単な構造で、連結部材の上方に荷室を形成することができる。このように、荷室を車両前部に形成することにより、後方駐車した場合等における、荷室へのアクセス性が向上する。
【0022】
第6の発明は、上記第1〜第4のいずれか1つの発明において、上記連結部材は、ボンネットとの間に空間を形成するように設けられており、上記空間は、歩行者保護のための空間として用いられることを特徴とするものである。
【0023】
第6の発明によれば、連結部材をボンネットとの間に空間を形成するように設け、当該空間に例えば緩衝材等を配置することにより、当該空間を歩行者保護のための空間として用いることができる。これにより、車両の利便性及び安全性のみならず、歩行者に対する安全性を高めることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る電気自動車の前部車体構造によれば、モータが、前輪の駆動軸よりも後方でサスペンションクロスメンバに搭載されているので、サスペンションクロスメンバの上方に空間を確保することができる。そうして、このように確保された空間に、左右一対のフロントサイドフレームを連結する連結部材を設けることにより、オフセット衝突時に一方のフロントサイドフレームに入力した荷重を、他方のフロントサイドフレームに伝達することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る前部車体構造を有する電気自動車を模式的に示す平面図である。
【図2】電気自動車を模式的に示す側面図である。
【図3】モータ、減速ギヤ、バッテリ、インバータ、サスペンション装置が取り付けられたサスペンションクロスメンバ及びバッテリ搭載フレームを示す斜視図である。
【図4】モータ、減速ギヤ、バッテリ、インバータ、サスペンション装置が取り付けられたサスペンションクロスメンバ及びバッテリ搭載フレームを示す図であり、同図(a)は平面図であり、同図(b)は側面図である。
【図5】モータ、減速ギヤ、バッテリ、インバータ、サスペンションクロスメンバ及びバッテリ搭載フレームの分解斜視図である。
【図6】モータ、減速ギヤ、バッテリ、インバータをサスペンションクロスメンバに取り付けるためのマウント部材の分解斜視図である。
【図7】モータ、減速ギヤ、バッテリ、インバータをマウント部材によってサスペンションクロスメンバに取り付けた状態を示す図であり、同図(a)は平面図であり、同図(b)は側面図である。
【図8】変形例1に係るサスペンションクロスメンバを示す斜視図である。
【図9】変形例1に係るサスペンションクロスメンバを示す平面図である。
【図10】変形例2に係るサスペンションクロスメンバ及びバッテリ搭載フレームを示す斜視図である。
【図11】実施形態2に係る前部車体構造を有する電気自動車を模式的に示す平面図である。
【図12】電気自動車を模式的に示す側面図である。
【図13】サスペンションクロスメンバとバッテリ搭載フレームとの連結部を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0027】
(実施形態1)
図1は、本発明に係る前部車体構造を有する電気自動車を模式的に示す平面図であり、図2は、電気自動車を模式的に示す側面図である。なお、図1では、図を見易くするためにフロアトンネル19、ダッシュパネル35、前後のシート41a,41b、ブレーキユニット77、トランクルームTのパネル91等を図示省略している。また、図2では、図を見易くするために、フレーム部材67a,67b、フロアサイドフレーム25a,25b、コイルスプリング89等を図示省略している連結部材33にハッチングを付して示してある。
【0028】
この電気自動車1は、左右の前輪(駆動輪)15a,15bをそれぞれ駆動するための左右のモータ部(モータ)3a,3bを動力源として備えており、エンジン及びモータを動力源とする所謂パラレルハイブリッド車両とは異なり、当該電気自動車1が動くための動力は全てモータ部3a,3bに頼るようになっている。この電気自動車1では、左右の前輪15a,15bが、図1及び図2の二点鎖線で示す従来の前輪115a,115bよりも前側に取り付けられており、これによりホイールベース(前輪15a,15bの駆動軸75,75と後輪15c,15dの駆動軸との距離)が長くなっている。
【0029】
また、この電気自動車1では、図1及び図2に示すように、車室Rの前壁を構成するダッシュパネル35の前方且つ車体の左右両側で、車両前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム21a,21bが車幅方向に間隔をあけて配設されている一方、車体後部で前後方向に延びるリアサイドフレーム23a,23bが車幅方向に間隔をあけて左右両側に配設されている。フロントサイドフレーム21a,21b同士はバンパーレインフォースメント29で連結されている一方、リアサイドフレーム23a,23b同士はクロスメンバ31で連結されている。
【0030】
これらフロントサイドフレーム21a,21bとリアサイドフレーム23a,23bとは、車幅方向中央部で車両前後方向に延びる左右のフロアサイドフレーム25a,25bによって接続されているとともに、サイドシルを形成するフレーム部材67a,67bにそれぞれ接続されている。また、左右のフロアサイドフレーム25a,25bの間には、車両前後方向に延びるフロアトンネル19が、上方に膨出するように形成されている。
【0031】
電気自動車1は、モータ部3a,3bの他に、各々左右の前輪15a,15bに連結され、且つ、各モータ部3a,3bから出力された動力を左右の前輪15a,15bにそれぞれ伝達する左右の減速ギヤ部(減速ギヤ)5a,5bと、左右の前輪15a,15bのストラット式のサスペンション装置S,Sをそれぞれ支持するサスペンションクロスメンバ9と、左右のモータ部3a,3bに電力を供給するためのバッテリ部(バッテリ)11と、当該バッテリ部11を搭載するためのバッテリ搭載フレーム17と、左右のモータ部3a,3bを駆動するためのインバータ部(インバータ)13と、を備えている。
【0032】
図3は、モータ部、減速ギヤ部、バッテリ部、インバータ部、サスペンション装置が搭載されたサスペンションクロスメンバ及びバッテリ搭載フレームを示す斜視図であり、図4(a)は平面図であり、図4(b)は側面図である。また、図5は、モータ部、減速ギヤ部、バッテリ部、インバータ部、サスペンションクロスメンバ及びバッテリ搭載フレームの分解斜視図である。なお、図4(b)では、図を見易くするためにサスペンション装置S,Sを図示省略している。
【0033】
各サスペンション装置S,Sは、ダンパ(ショックアブソーバ)87と、コイルスプリング89と、コントロールアーム7と、前輪15a(15b)を回転自在に支持するナックル43と、を備えたストラット式のサスペンション装置であって、以下のようにして車体本体側に連結されている。すなわち、コントロールアーム7の車幅方向外側の端部は、不図示のボールジョイントを介してナックル43に揺動自在に連結されている。そして、コントロールアーム7は、車幅方向内側では前側アーム部と後側アーム部とに分岐しており、これら前側アーム部及び後側アーム部は、サスペンションクロスメンバ9の内部に挿入され、不図示のラバーブッシュ等を介してサスペンションクロスメンバ9に回動自在に枢支されている。
【0034】
また、ナックル43は、ブレーキユニット77によって制動されるブレーキディスク45を介して前輪15a(15b)に取り付けられる一方、駆動軸75が回転自在なるようにダンパ87に連結されている。これにより、ナックル43は、コントロールアーム7とダンパ87とによって上下方向に揺動可能に支持される一方、前輪15a(15b)を回転自在に支持するようになっている。
【0035】
さらに、サスペンション装置S,Sは、サスペンションクロスメンバ9の前端部中央に配置され且つステアリングホイール51bと連結されているステアリングギアボックス47と、このステアリングギアボックス47から車幅方向外方に延びてナックル43,43に取り付けられるタイロッド49,49と、を有している。これにより、ステアリングホイール51bから入力された回転運動は、ステアリングギアボックス47によって往復運動に変換され、タイロッド49,49を介して左右の前輪15a,15bを操舵するようになっている。
【0036】
このように、ステアリングギアボックス47を車幅方向中央部に配置することにより、より詳しくは、ステアリングギアボックス47を、左右の減速ギヤ部5a,5bの前方、且つ、車両前後方向から見て当該左右の減速ギヤ部5a,5bの中間に配設することにより、右ハンドル仕様車(ステアリングホイール51b参照)と左ハンドル仕様車(ステアリングホイール51a参照)とでステアリングギアボックス47の共通化を図ることができるとともに、左右均等な操舵力を発生させて操舵性を向上させることが可能となる。
【0037】
これらのサスペンション装置S,Sをそれぞれ支持するサスペンションクロスメンバ9には、図5に示すように、車幅方向両端部に、上方に開口して車両前後方向に延びる凹部が形成されているとともに、車幅方向中央部に、当該サスペンションクロスメンバ9の後端まで延びる溝部9cが形成されている。左右の凹部は、左右の減速ギヤケース65a,65bを取り付けるための前側凹部9a,9aと、左右のモータケース63a,63bを取り付けるための後側凹部9b,9bとからなっており、車幅方向における後側凹部9b,9bの幅は、車幅方向における前側凹部9a,9aの幅よりも狭くなっている。また、サスペンションクロスメンバ9の後端部には、各々車幅方向に延びる貫通孔9eを有する、当該サスペンションクロスメンバ9を上記バッテリ搭載フレーム17に回動可能に連結するための左右一対のブラケット9d,9dが形成されている。
【0038】
上記各減速ギヤ部5a,5bは、減速ギヤケース65a,65bと、当該各減速ギヤケース65a,65bに収容される複数のギヤ(図示せず)とを有している。左右の減速ギヤ部5a,5bは、減速ギヤケース65a,65bの下端部が左右の前側凹部9a,9aにそれぞれ嵌められることでサスペンションクロスメンバ9上に搭載されるとともに、後述する第1及び第2マウント部材55,59によって当該サスペンションクロスメンバ9に取り付けられ、且つ、左右のモータ3a,3bの前方にそれぞれ連結されている。これら左右の減速ギヤ部5a,5bは、各々左右の前輪15a,15bに連結されおり、各モータ部3a,3bから出力された動力を左右の前輪15a,15bにそれぞれ伝達するようになっている。
【0039】
これら左右の減速ギヤ部5a,5bの間には、フェールセーフ用のクラッチ53が設けられている。このクラッチ53は、2つのモータ部3a,3bが正常に機能している場合には切断されており、各モータ部3a,3bから出力された動力を各前輪15a,15bに個別に伝達させるが、一方のモータ(例えば右側モータ部3b)が故障した場合には繋がるようになっており、他方のモータ(例えば左側モータ部3a)から出力された動力を左右両方の前輪15a,15bに伝達させるように構成されている。これにより、モータのフェールセーフ性を向上させることが可能となっている。
【0040】
上記各モータ部3a,3bは、モータケース63a,63bと、不図示のステータ、ロータと、ロータシャフト(出力軸)3c,3dとを有していて、その上端が左右一対のフロントサイドフレーム21a,21bの上面よりも低くなるように設定されている。左右のモータ部3a,3bは、モータケース63a,63bの下端部が左右の後側凹部9b,9bにそれぞれ嵌められることでサスペンションクロスメンバ9上に搭載されるとともに、減速ギヤ部5a,5bと同様、第1及び第2マウント部材55,57によって当該サスペンションクロスメンバ9に取り付けられている。より詳しくは、これらのモータ部3a,3bは、図4(a)に示すように、各々左右の前輪15a,15bに連結された左右の減速ギヤ部5a,5bの後方(車両前後方向内側)で、換言すると、前輪15a,15bの駆動軸75,75よりも後方で、ロータシャフト3c,3dが車両前後方向に延びるようにそれぞれ配設されている。このように、モータ部3a,3bを減速ギヤ部5a,5bの後方にそれぞれ配設することで、ヨー慣性モーメントが低減されて走行性能が向上する。
【0041】
ところで、最大トルクや最高回転速度等のモータの出力特性は、総磁束、巻線数等のモータの大きさにより規定される。したがって、モータ1個当たりの大きさを小さくすると、モータの出力特性が低下することになる。そして、本実施形態では、モータ部3a,3bが2つ設けられているので、モータを1つしか設けていない場合に比べてモータ1個当たりの高さを低くしつつ、同等の出力特性を維持することができる。このように、質量の大きいモータ部3a,3bの重心を低くすることで、車両の重心が下がって走行性能が向上することになる。
【0042】
さらに、左右のモータ部3a,3bは、そのロータシャフト3c,3dの回転方向が互いに逆向きになるように設定されている。より詳しくは、左側モータ部3aは、そのロータシャフト3cが車両正面視で反時計回りに回転することで、図3に示す白抜き矢印の方向に捩れを生じさせる一方、右側モータ部3bは、そのロータシャフト3dが車両正面視で時計回りに回転することで、図3に示す黒抜き矢印の方向に捩れを生じさせるが、左右のモータ部3a,3bをそのロータシャフト3c,3dの回転方向が互いに逆向きになるように配置することにより、これらの捩れを相殺させることができる。
【0043】
上記バッテリ搭載フレーム17は、図2及び図5に示すように、フロアトンネル19内で車両前後方向に延びる前側搭載部27と、後部シート41bの下で車幅方向に延びる後側搭載部37とを有しており、平面視で略T字状に形成されている。前側搭載部27は、車両前後方向に延びる矩形状の底板部27aと、この底板部27aの車幅方向両側縁部から上方に延びる側板部27b,27bと、両側板部27b,27bの上縁からそれぞれ車幅方向外側に延びるフランジ部27c,27cと、底板部27aの底面における車両前後方向中央部から車幅方向外側に延びる、車幅方向両端部に貫通孔27e,27eがそれぞれ形成された連結板27dとを有している。一方、後側搭載部37は、車幅方向に延びる略矩形状の底板部37aと、前側搭載部27の底板部27aと連結している部分を除くこの底板部37aの周縁部から上方に延びる側板部37bと、両側板部37bの上縁からそれぞれ外側に延びる、7つの貫通孔37d,37d,…が形成された略C字状のフランジ部37cとを有している。
【0044】
これら前側搭載部27及び後側搭載部37が一体に形成されたバッテリ搭載フレーム17は、前側搭載部27の連結板27dが貫通孔27e,27eに挿通されたボルト(図示せず)で上記フロアサイドフレーム25a,25bに締結されるとともに、後側搭載部37のフランジ部37cが貫通孔37d,37d,…に挿通されたボルト(図示せず)で上記リアサイドフレーム23a,23bに締結されることによって、車体に強固に取り付けられている。このように、バッテリ搭載フレーム17を車体にボルト締結することにより、車体剛性を高めることが可能となる。
【0045】
また、前側搭載部27の側板部27b,27bの前端部には、上記サスペンションクロスメンバ9を回動可能に連結するための、車幅方向に延びる貫通孔27gをそれぞれ有する左右一対のブラケット27f,27fが形成されている。これら左右一対のブラケット27f,27fは、サスペンションクロスメンバ9とバッテリ搭載フレーム17とを連結する際、左右のブラケット27f,27fの外面がサスペンションクロスメンバ9の左右のブラケット9d,9dの内面と対向するようになっている。そうして、前側搭載部27の左側ブラケット27fの貫通孔27gとサスペンションクロスメンバ9の左側ブラケット9dの貫通孔9eとに挿通されたヒンジボルト99と、前側搭載部27の右側ブラケット27fの貫通孔27gとサスペンションクロスメンバ9の右側ブラケット9dの貫通孔9eとに挿通されたヒンジボルト99とによって、サスペンションクロスメンバ9とバッテリ搭載フレーム17とは回動可能に連結されている。
【0046】
このように、サスペンションクロスメンバ9とバッテリ搭載フレーム17とを連結することで、車体剛性がさらに上がるとともに、モータ部3a,3bやサスペンション装置S,Sからの揺れをバッテリ搭載フレーム17で吸収することが可能となる。また、サスペンションクロスメンバ9は、ヒンジボルト99,99を枢軸として、バッテリ搭載フレーム17に対して回動可能に連結されているので、サスペンション装置S,Sの緩衝装置としての機能を阻害し難くなっている。
【0047】
バッテリ部11は、バッテリケース71と、当該バッテリケース71に収納された充電式電池とを有している。このバッテリ部11は、図3及び図5に示すように、車両前後方向に延びるバッテリ前側部11bと、当該バッテリ前側部11bの前端からさらに車両前後方向前側に延びるバッテリ先端部11aと、当該バッテリ前側部11bの後端と連続し、車幅方向に延びるバッテリ後側部11cとを有しており、平面視で略T字状に形成されている。バッテリ前側部11b及びバッテリ後側部11cは、それぞれバッテリ搭載フレーム17の前側及び後側搭載部27,37に搭載されている。一方、バッテリ先端部11aは、下端部が溝部9cに嵌められることで、左右のモータ部3a,3bの間でサスペンションクロスメンバ9上に搭載されている。また、このバッテリ先端部11aは、後述の如く、第2マウント部材57によって左右のモータ部3a,3bと連結されている。
【0048】
上記インバータ部13は、インバータケース73と、当該インバータケース73に収容された、直流電力を三相交流に変換してモータ部3a,3bへ供給するインバータ回路を実装したプリント基板等を有している。このインバータ部13は、図3に示すように、左右のモータ部3a,3bの間で、サスペンションクロスメンバ9上にバッテリ先端部11aを介して取り付けられている。インバータ部13は、後述する第3マウント部材59,59によって左右のモータ部3a,3bと連結されている。このように、インバータ部13をモータ部3a,3bの近傍に配置することにより、インバータ部13からモータ部3a,3bへの電力供給を容易に行うことができるとともに、インバータ部13とモータ部3a,3bとを同一の冷却経路で冷却することが可能となる。
【0049】
次に、モータ部3a,3b、減速ギヤ部5a,5b、バッテリ部11及びインバータ部13をサスペンションクロスメンバ9に取り付けるためのマウント部材55,57,59について、図6及び図7を用いて説明する。なお、図6及び図7以外の図では、図を見易くするために、マウント部材55,57,59は図示省略している。
【0050】
マウント部材は、減速ギヤケース65a,65bの車両前後方向前側に配置される第1マウント部材55と、モータケース63a,63bの左右両側に配置される第2マウント部材57,57と、インバータケース73の左右両側に配置される第3マウント部材59,59とからなっている。
【0051】
第1マウント部材55は、略凸字状の底壁部55aと、この底壁部55aの車幅方向両端部から上方にそれぞれ延びる外側壁部55b,55bと、これら外側壁部55b,55bの後端部から車幅方向内側にそれぞれ延びる竪壁部55c,55cと、これら竪壁部55c,55cの内側端部から後方にそれぞれ延びる内側壁部55d,55dと、竪壁部55c,55cの上端部から前方にそれぞれ延びる頂壁部55e,55eとを備えている。
【0052】
この第1マウント部材55は、外側壁部55b,55bの外側面が減速ギヤケース65a,65bの段差部65c,65cに、竪壁部55c,55cの後側面が減速ギヤケース65a,65bの前面に、内側壁部55d,55dの外側面が減速ギヤケース65a,65bの内側面にそれぞれ接触した状態でサスペンションクロスメンバ9に配置されている。そうして、第1マウント部材55は、底壁部55aに形成された貫通孔55f,55fに挿通されたボルト(図示せず)によって、サスペンションクロスメンバ9に締結されている一方、頂壁部55e,55eに形成された貫通孔55g,55gに挿通されたボルト(図示せず)によって、減速ギヤケース65a,65bに形成されたブラケット65d,65dに締結されている。
【0053】
各第2マウント部材57,57は、略コ字状の底壁部57aと、この底壁部57aの車両前後方向に延びる中央部位の内側端部から上方に延びる外側壁部57bと、この外側壁部57bの前端部から車幅方向内側に延びる前側壁部57cと、この前側壁部57cの内側端部から前方に延びる支持壁部57dと、外側壁部57bの後端部から車幅方向内側に延びる後側壁部57eと、この後側壁部57eの内側端部から後方に延びる内側壁部57fと、外側壁部57bの上端部から車幅方向外側に延びる頂壁部57gとを備えている。
【0054】
第2マウント部材57,57は、支持壁部57d,57dの内側面が減速ギヤケース65a,65bの外側面に、前側壁部57c,57cの後側面がモータケース63a,63bの前側面に、外側壁部57b,57bの内側面がモータケース63a,63bの外側側面に、後側壁部57e,57eの前側面がモータケース63a,63bの後側面に、内側壁部57f,57fの内側面がバッテリ先端部11aの外側側面にそれぞれ接触した状態でサスペンションクロスメンバ9に配置されている。そうして、各第2マウント部材57,57は、底壁部57aに形成された貫通孔57h,57h,…に挿通されたボルト(図示せず)によってサスペンションクロスメンバ9に締結されている一方、頂壁部57gに形成された貫通孔57i,57iに挿通されたボルト(図示せず)によってモータケース63a,63bに形成されたブラケット63cに締結されている。
【0055】
各第3マウント部材59,59は、矩形状の底壁部59aと、この底壁部59aの内側端部から上方に延びる竪壁部59bとを備えている。第3マウント部材59,59は、底壁部59a,59aの下面がモータケース63a,63bの上面に、竪壁部59b,59bの内側面がインバータケース73の外側側面にそれぞれ接触した状態で配置されており、底壁部59a,59aに形成された貫通孔59c,59c,59cに挿通されたボルト(図示せず)によってモータケース63a,63bに締結されている一方、竪壁部59b,59bに形成された貫通孔59d,59dに挿通されたボルト(図示せず)によってインバータケース73に締結されている。
【0056】
以上のように第1〜第3マウント部材55,57,59を配置することで、減速ギヤ部5a,5b及びモータ部3a,3bは、第1マウント部材55の竪壁部55c,55cと、第2マウント部材57,57の後側壁部57e,57eとで挟まれることによって、車両前後方向においてサスペンションクロスメンバ9に取り付けられているとともに、互いに連結されている。さらに、減速ギヤ部5a,5bは、第1マウント部材55の外側及び内側壁部55b,55b,55d,55dと、第2マウント部材57,57の支持壁部57d,57dとで挟まれることによって、また、モータ部3a,3b及びバッテリケース71は、第2マウント部材57,57の外側壁部57b,57bと内側壁部57f,57fとで挟まれることによって、車幅方向においてサスペンションクロスメンバ9に取り付けられている。また、モータ部3a,3bとインバータ部13とは、各第3マウント部材59,59で連結される。このように、左右のモータ部3a,3bがバッテリ部11及びインバータ部13と連結されることにより、モータ部3a,3bにより生じる捩れがバッテリケース71及びインバータケース73で吸収される。なお、モータケース63a,63b、減速ギヤケース65a,65b及び第1〜第3マウント部材55,57,59と、サスペンションクロスメンバ9とは、例えば両者の間に不図示のラバーシートを介在させることにより、モータ部3a,3bや減速ギヤ部5a,5bの振動がサスペンションクロスメンバ9に伝わり難い構造となっている。
【0057】
以上のように構成された、本実施形態の前部車体構造では、モータ部3a,3b、バッテリ部11等の重量物が車幅方向中央部に配置されることかロール慣性モーメントが低減されるので、走行性能が向上する。
【0058】
さらに、この電気自動車1には、図1に示すように、ボンネット81との間に空間を形成するように、駆動軸75の上方で左右一対のフロントサイドフレーム21a,21bを連結する矩形板状の連結部材33が設けられている。この連結部材33は、車両前後方向で、フロントサイドフレーム21a,21bの前端からモータ部3a,3bの前端まで延びており、サスペンションクロスメンバ9上に取り付けられた減速ギヤ部5a,5b等と、空間39とを区画している。
【0059】
かかる構造について詳述すると、上述の如くモータ部3a,3bを減速ギヤ部5a,5bの上方ではなくその後方に配設するとともに、モータ部3a,3bの1つ当たりの高さを低くすることにより、図2に示すように、サスペンションクロスメンバ9の上方には、全面に亘って空間39が形成されている。このように、サスペンションクロスメンバ9の上方に空間39が形成されることにより、左右のフロントサイドフレーム21a,21bを、従来の車両に比して車幅方向内側に配置するとともに、フロントサイドフレーム21a,21bを大断面とすることが可能となる。
【0060】
そうして、左右のフロントサイドフレーム21a,21bが車幅方向内側に配置されることにより、ホイールベースを長くしているにも拘わらず最小回転半径が確保される。また、フロントサイドフレーム21a,21bが大断面化されることにより、衝突安全性能が向上する。さらに、かかる左右のフロントサイドフレーム21a,21bを連結部材33で連結することにより、一方のフロントサイドフレーム(例えば左側のフロントサイドフレーム21a)に入力された衝撃荷重を他方のフロントサイドフレーム(例えば右側のフロントサイドフレーム21b)に伝達することが可能となるので、フルラップ衝突時のみならずオフセット衝突時においても衝撃が良好に吸収される構造となっている。
【0061】
加えて、サスペンションクロスメンバ9の上方の空間39を、当該連結部材33がその底面を構成するトランクルーム(収容部)として用いることが可能となっている。具体的には、トランクルームTは、図2に示すように、当該トランクルームTを区画するパネル91の下端部と連結部材33とを繋ぐことにより形成されている。これにより、簡単な構造で、車両前部にトランクルームTを形成することが可能となり、後方駐車した場合等における、荷室へのアクセス性が向上する。また、かかる空間39は、その中に緩衝材やエアバック等を配設することにより、歩行者保護のための空間としても用いられる。これにより、車両の利便性及び安全性のみならず、歩行者に対する安全性を高めることができる。
【0062】
ところで、電気自動車においては、走行風を後方へ逃がしたり、不図示のラジエータ及び電動ファンの後方に生じる熱やモータ部3a,3b、インバータ部13及びブレーキなどで生じる熱を逃がしたり、モータルーム内における熱のこもりによる熱害を防止したりする必要がある。しかしながら、サスペンションクロスメンバ9の上方にトランクルームを設けた場合、モータルームの空間が狭くなり、グリルから入った空気を逃がすための流路(空気の通り道及び通気口)が狭くなる。
【0063】
ここで、本実施形態の車体構造では、上述の如く、左右の前輪15a,15bを従来の前輪115a,115bよりも前側に取り付けることで、図1及び図2に示すように、前輪15a,15bのタイヤとサイドシルの間に空間15e,15fを設けている。これにより、空気の通り道が確保されるので、白抜き矢印の方向からグリルを通ってモータルームに入った空気が、図中の太線矢印で示すようにこの空間15e,15fから抜けることにより、モータルーム内の空気抵抗を低減することができるとともに、ラジエータ、電動ファン、モータ部3a,3b、インバータ部13及びブレーキなどで生じる熱を逃がすことができる。
【0064】
−効果−
本実施形態によれば、左右の前輪15a,15bを駆動するための2つのモータ部3a,3bが、前輪15a,15bの駆動軸75よりも後方でサスペンションクロスメンバ9に取り付けられているので、サスペンションクロスメンバ9の上方に、空間39を確保することができる。そうして、このように確保された駆動軸75の上方の空間39に、左右一対のフロントサイドフレーム21a,21bを連結する矩形板状の連結部材33を設けることにより、オフセット衝突時に一方のフロントサイドフレーム21a(21b)に入力した荷重を、他方のフロントサイドフレーム21b(21a)に伝達することが可能となる。
【0065】
また、モータ部3a,3bが2つ設けられているので、モータ部3a,3bを1つしか設けていない場合に比べてモータ部3a,3b一個当たりの高さを低くすることができる。さらに、左右の減速ギヤ部5a,5bが左右のモータ部3a,3bの前方にそれぞれ連結されているので、減速ギヤ部5a,5bとモータ部3a,3bとを上下に重ねて配置するものに比べて、モータ部3a,3b及び減速ギヤ部5a,5bの高さを低くすることができる。
【0066】
これらにより、前輪15a,15bの駆動軸75よりも前方におけるサスペンションクロスメンバ9上方の空間のみならず、サスペンションクロスメンバ9全面に亘って、その上方に空間39を確保することが可能となる。
【0067】
さらに、左右のモータ部3a,3bはロータシャフト3c,3dが車両前後方向に延びるようにそれぞれ配設され、且つ、これら左右のモータ部3a,3bのロータシャフト3c,3dの回転方向が互いに逆向きであることから、左側モータ部3aによって生じる、車両正面視で時計回りの捩れと、右側モータ部3bによって生じる、車両正面視で反時計回りの捩れとを互いに相殺させることができる。
【0068】
また、モータ部3a,3bはその上端が左右一対のフロントサイドフレーム21a,21bの上面よりも低くなるように設定されているので、左右一対のフロントサイドフレーム21a,21bを連結する連結部材33をモータ部3a,3bの上方に設けることができるとともに、質量の大きいモータ部3a,3bが低位置にレイアウトされているので、車両の重心を低くすることができる。
【0069】
(変形例1)
上記実施形態1では、左右の減速ギヤ部5a,5bの間にフェールセーフ用のクラッチ53を設けたが、これに限らず、以下に述べるようにしてもよい。なお、この変形例1の前部車体構造では、ウォータポンプ61が配設されていることを除いて、上記実施形態のものと同じなので、以下、同一部材には同一の符号を付してその説明は省略する。
【0070】
そして、変形例1では、図8に示すように、左右の減速ギヤ部5a,5bの間に、クラッチ53のみならず、クラッチ53の後方に当該クラッチ53に隣接するようにウォータポンプ(補機)61が配設されている。このウォータポンプ61は、モータ部3a,3bから出力された動力により駆動される。具体的には、クラッチ53及びウォータポンプ61の車幅方向右側には、図9に示すように、第1歯車69aと、この第1歯車69aと噛み合う第2歯車69bとを備えた動力伝達装置69が設けられている。そうして、第1歯車69aが右側減速ギヤ部5bとクラッチ53とを連結する駆動軸と繋がっている一方、第2歯車69bがウォータポンプ61と繋がっている。これにより、ウォータポンプ61は、モータ部3a,3bから出力された動力によって駆動するので、ウォータポンプ61による電力消費を抑制して、航行距離を延長することが可能となる。
【0071】
なお、クラッチ53の前方に当該クラッチ53に隣接するようにウォータポンプ61を配設してもよいし、また、クラッチ53及びウォータポンプ61の車幅方向左側に動力伝達装置を設けてもよい。
【0072】
(変形例2)
上記実施形態1では、左右のモータ部3a,3bの間にインバータ部13及びバッテリ先端部11aを配置したが、これに限らず、以下に述べるようにしてもよい。なお、この変形例2の前部車体構造では、インバータ部13及びバッテリ先端部11aがサスペンションクロスメンバ9上に取り付けられていないことを除いて、上記実施形態のものと同じなので、以下、同一部材には同一の符号を付してその説明は省略する。
【0073】
そして、変形例2では、図10に示すように、左右のモータ部3a,3bは、左右のモータケース63a,63bが連結継手83によって連結された一体構造をなすものである。このようにすれば、簡単な構造で、左右のモータ部3a,3b相互間で互いのトルク反力を低減することができる。
【0074】
(実施形態2)
本実施形態は、矩形板状の連結部材33ではなく角パイプ材からなる前後一対の連結部材93a,93bで左右一対のフロントサイドフレーム21a,21bを連結している点が実施形態1と異なるものである。以下、実施形態1と異なる点について説明する。
【0075】
図11及び図12に示すように、連結部材は前側連結部材93aと後側連結部材93bとからなり、前側連結部材93aはフロントサイドフレーム21a,21bの前端部(バンパーレインフォースメント29の直ぐ後)に取り付けられている一方、後側連結部材93bは、モータ部3a,3bの前端部の上方で、フロントサイドフレーム21a,21bに連結されている。このため、後側連結部材93bとの干渉を避けるように、本実施形態では、上記インバータ部13が上記バッテリ先端部11a上から取り外されている。そうして、トランクルームTはこれら前側及び後側連結部材93a,93bに載置され且つ固定されたバスタブ状のパネル体95で構成されている。
【0076】
このように、後側連結部材93bによって、矩形板状の連結部材33の後端よりも後側で、フロントサイドフレーム21a,21bを連結することにより、上記実施形態1と比べて、フロントサイドフレーム21a,21bの剛性を高めることができるとともにトランクルームTを広くすることができる。
【0077】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0078】
上記実施形態では、モータ3a,3bを2つ用いたが、モータが前輪15a,15bの駆動軸75よりも後方でサスペンションクロスメンバ9に取り付けられている限り、例えば、モータを1つとしてもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、サスペンションクロスメンバ9を、ヒンジボルト99,99を枢軸としてバッテリ搭載フレーム17に対して回動可能に連結したが、これに限らず、例えば、図13に示すように、サスペンションクロスメンバ9の後端部に水平且つ後方に延びるブラケット9fを形成し、当該ブラケット9fとバッテリ搭載フレーム17とを、上側取付部85aと下側取付部85bとをゴム弾性体85cで連結した防振装置85を介して連結するようにしてもよい。
【0080】
さらに、上記実施形態では、バッテリ先端部11aを介してインバータ部13をサスペンションクロスメンバ9上に取り付けるようにしたが、これに限らず、例えば、インバータ部13をサスペンションクロスメンバ9上に直接取り付けるようにしてもよい。
【0081】
また、上記変形例1では、補機として、左右の減速ギヤ部5a,5bの間にウォータポンプ61を配設したが、これに限らず、例えば、空調用コンプレッサを配設してもよい。
【0082】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上説明したように、本発明は、モータを備えた電気自動車の前部車体構造等について有用である。
【符号の説明】
【0084】
1 電気自動車
3a 左側モータ部(モータ)
3b 右側モータ部(モータ)
3c ロータシャフト(出力軸)
3d ロータシャフト(出力軸)
5a 左側減速ギヤ部(減速ギヤ)
5b 右側減速ギヤ部(減速ギヤ)
9 サスペンションクロスメンバ
15a 左側の前輪
15b 右側の前輪
21a 左側のフロントサイドフレーム
21b 右側のフロントサイドフレーム
33 連結部材
39 空間
75 駆動軸
81 ボンネット
S サスペンション装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを備えた電気自動車の前部車体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車の前面衝突時に、衝突による荷重が車室に伝播しないように、従来から様々な電気自動車の車体構造が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、駆動モータユニットの前側が前側モータマウントを介してサスペンションメンバ(サスペンションクロスメンバ)に取り付けられた電気自動車において、駆動モータユニットの前方斜め上方に、前側モータマウントよりも上方かつ前方に空気コンプレッサを配設した駆動モータ取付構造が開示されている。この駆動モータ取付構造によれば、車両の前面衝突時において、駆動モータユニットよりも先に空気コンプレッサに衝突荷重が入力され、この空気コンプレッサから駆動モータユニットに荷重が伝達されて駆動モータユニットが下方に押されて落下することから、車室に伝播される衝突荷重が大幅に低減することができるとされている。
【0004】
また、特許文献1のものでは、オフセット衝突時等、空気コンプレッサに衝突荷重が直接に入力されない場合であっても、サイドメンバ(フロントサイドフレーム)から入力された衝突荷重が前側モータマウントに入力され、当該前側モータマウントを変形させることで、駆動モータユニット及び空気コンプレッサを下方に移動させ、車両室内側に向けて移動することを効果的に阻止することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−161260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1のものは、駆動モータユニットがサスペンションクロスメンバの車両前後方向中央部に位置し且つステアリングラックの前方に位置することから、空気コンプレッサは駆動軸よりも前方でフロントサイドフレームよりも上方に飛び出している(特許文献1の図9参照)。このため、特許文献1のものでは、前輪の駆動軸よりも前側におけるサスペンションクロスメンバ上方の空間を有効に利用することが困難になるという問題がある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、モータを備えた電気自動車の前部車体構造において、サスペンションクロスメンバ上方の空間を確保しつつ、オフセット衝突時において、良好な衝撃吸収が可能な車体構造を実現する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明では、モータを前輪の駆動軸よりも後方でサスペンションクロスメンバに搭載して、左右一対のフロントサイドフレームを連結する連結部材を設けるための空間を駆動軸の上方に確保するようにしている。
【0009】
第1の発明は、左右の前輪を駆動するためのモータと、当該モータから出力された動力を当該前輪に伝達する減速ギヤと、当該左右の前輪のサスペンションをそれぞれ支持するサスペンションクロスメンバと、車体の左右両側で前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、を備えた電気自動車の前部車体構造であって、上記モータは、上記前輪の駆動軸よりも後方で上記サスペンションクロスメンバに取り付けられており、上記サスペンションクロスメンバの上方に、上記左右一対のフロントサイドフレームを連結する連結部材が設けられていることを特徴とするものである。
【0010】
第1の発明によれば、左右の前輪を駆動するためのモータが、前輪の駆動軸よりも後方でサスペンションクロスメンバに取り付けられているので、サスペンションクロスメンバの上方に、空間を確保することができる。そうして、このように確保されたサスペンションクロスメンバの上方の空間に、左右一対のフロントサイドフレームを連結する連結部材を設けることにより、オフセット衝突時に一方のフロントサイドフレームに入力した荷重を、他方のフロントサイドフレームに伝達することが可能となる。
【0011】
以上により、サスペンションクロスメンバ上方の空間を確保しつつ、オフセット衝突時において、良好な衝撃吸収が可能な前部車体構造を実現することが可能になる。
【0012】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記モータ及び上記減速ギヤは、上記左右の前輪に対してそれぞれ1つずつ設けられており、上記左右のモータは、出力軸が車両前後方向に延びるようにそれぞれ配設されており、上記左右の減速ギヤは、上記左右のモータの前方にそれぞれ連結されていることを特徴とするものである。
【0013】
ところで、最大トルクや最高回転速度等のモータの出力特性は、総磁束、巻線数等のモータの大きさにより規定される。したがって、モータ1個当たりの大きさを小さくすると、モータの出力特性が低下することになる。
【0014】
ここで、第2の発明では、モータが、左右の前輪に対して1つずつ、すなわち、2つ設けられているので、モータを1つしか設けていない場合に比べてモータ1個当たりの高さを低くしつつ、同等の出力特性を維持することができる。さらに、左右の減速ギヤが左右のモータの前方にそれぞれ連結されているので、減速ギヤとモータとを上下に重ねて配置するものに比べて、モータ及び減速ギヤの高さを低くすることができる。
【0015】
これらにより、サスペンションクロスメンバ全面に亘って、その上方に空間を確保することが可能となる。
【0016】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記左右のモータの出力軸の回転方向が互いに逆向きであることを特徴とするものである。
【0017】
第3の発明によれば、左右のモータは出力軸が車両前後方向に延びるようにそれぞれ配設され、且つ、これら左右のモータの出力軸の回転方向が互いに逆向きであることから、例えば、一方のモータによって生じる、車両正面視で時計回りの捩れと、他方のモータによって生じる、車両正面視で反時計回りの捩れとを互いに相殺させることができる。
【0018】
第4の発明は、上記第1〜第3のいずれか1つの発明において、上記モータは、その上端が上記左右一対のフロントサイドフレームの上面よりも低くなるように設定されていることを特徴とするものである。
【0019】
第4の発明によれば、左右一対のフロントサイドフレームを例えばその上面で連結すれば、連結部材をモータの上方に設けることができる。さらに、質量の大きいモータが低位置にレイアウトされているので、車両の重心を低くすることができる。
【0020】
第5の発明は、上記第1〜第4のいずれか1つの発明において、上記連結部材の上方の空間が、当該連結部材がその底面を構成する荷室として用いられることを特徴とするものである。
【0021】
第5の発明によれば、左右一対のフロントサイドフレームを連結する連結部材を荷室の底面とすることにより、簡単な構造で、連結部材の上方に荷室を形成することができる。このように、荷室を車両前部に形成することにより、後方駐車した場合等における、荷室へのアクセス性が向上する。
【0022】
第6の発明は、上記第1〜第4のいずれか1つの発明において、上記連結部材は、ボンネットとの間に空間を形成するように設けられており、上記空間は、歩行者保護のための空間として用いられることを特徴とするものである。
【0023】
第6の発明によれば、連結部材をボンネットとの間に空間を形成するように設け、当該空間に例えば緩衝材等を配置することにより、当該空間を歩行者保護のための空間として用いることができる。これにより、車両の利便性及び安全性のみならず、歩行者に対する安全性を高めることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る電気自動車の前部車体構造によれば、モータが、前輪の駆動軸よりも後方でサスペンションクロスメンバに搭載されているので、サスペンションクロスメンバの上方に空間を確保することができる。そうして、このように確保された空間に、左右一対のフロントサイドフレームを連結する連結部材を設けることにより、オフセット衝突時に一方のフロントサイドフレームに入力した荷重を、他方のフロントサイドフレームに伝達することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る前部車体構造を有する電気自動車を模式的に示す平面図である。
【図2】電気自動車を模式的に示す側面図である。
【図3】モータ、減速ギヤ、バッテリ、インバータ、サスペンション装置が取り付けられたサスペンションクロスメンバ及びバッテリ搭載フレームを示す斜視図である。
【図4】モータ、減速ギヤ、バッテリ、インバータ、サスペンション装置が取り付けられたサスペンションクロスメンバ及びバッテリ搭載フレームを示す図であり、同図(a)は平面図であり、同図(b)は側面図である。
【図5】モータ、減速ギヤ、バッテリ、インバータ、サスペンションクロスメンバ及びバッテリ搭載フレームの分解斜視図である。
【図6】モータ、減速ギヤ、バッテリ、インバータをサスペンションクロスメンバに取り付けるためのマウント部材の分解斜視図である。
【図7】モータ、減速ギヤ、バッテリ、インバータをマウント部材によってサスペンションクロスメンバに取り付けた状態を示す図であり、同図(a)は平面図であり、同図(b)は側面図である。
【図8】変形例1に係るサスペンションクロスメンバを示す斜視図である。
【図9】変形例1に係るサスペンションクロスメンバを示す平面図である。
【図10】変形例2に係るサスペンションクロスメンバ及びバッテリ搭載フレームを示す斜視図である。
【図11】実施形態2に係る前部車体構造を有する電気自動車を模式的に示す平面図である。
【図12】電気自動車を模式的に示す側面図である。
【図13】サスペンションクロスメンバとバッテリ搭載フレームとの連結部を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0027】
(実施形態1)
図1は、本発明に係る前部車体構造を有する電気自動車を模式的に示す平面図であり、図2は、電気自動車を模式的に示す側面図である。なお、図1では、図を見易くするためにフロアトンネル19、ダッシュパネル35、前後のシート41a,41b、ブレーキユニット77、トランクルームTのパネル91等を図示省略している。また、図2では、図を見易くするために、フレーム部材67a,67b、フロアサイドフレーム25a,25b、コイルスプリング89等を図示省略している連結部材33にハッチングを付して示してある。
【0028】
この電気自動車1は、左右の前輪(駆動輪)15a,15bをそれぞれ駆動するための左右のモータ部(モータ)3a,3bを動力源として備えており、エンジン及びモータを動力源とする所謂パラレルハイブリッド車両とは異なり、当該電気自動車1が動くための動力は全てモータ部3a,3bに頼るようになっている。この電気自動車1では、左右の前輪15a,15bが、図1及び図2の二点鎖線で示す従来の前輪115a,115bよりも前側に取り付けられており、これによりホイールベース(前輪15a,15bの駆動軸75,75と後輪15c,15dの駆動軸との距離)が長くなっている。
【0029】
また、この電気自動車1では、図1及び図2に示すように、車室Rの前壁を構成するダッシュパネル35の前方且つ車体の左右両側で、車両前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム21a,21bが車幅方向に間隔をあけて配設されている一方、車体後部で前後方向に延びるリアサイドフレーム23a,23bが車幅方向に間隔をあけて左右両側に配設されている。フロントサイドフレーム21a,21b同士はバンパーレインフォースメント29で連結されている一方、リアサイドフレーム23a,23b同士はクロスメンバ31で連結されている。
【0030】
これらフロントサイドフレーム21a,21bとリアサイドフレーム23a,23bとは、車幅方向中央部で車両前後方向に延びる左右のフロアサイドフレーム25a,25bによって接続されているとともに、サイドシルを形成するフレーム部材67a,67bにそれぞれ接続されている。また、左右のフロアサイドフレーム25a,25bの間には、車両前後方向に延びるフロアトンネル19が、上方に膨出するように形成されている。
【0031】
電気自動車1は、モータ部3a,3bの他に、各々左右の前輪15a,15bに連結され、且つ、各モータ部3a,3bから出力された動力を左右の前輪15a,15bにそれぞれ伝達する左右の減速ギヤ部(減速ギヤ)5a,5bと、左右の前輪15a,15bのストラット式のサスペンション装置S,Sをそれぞれ支持するサスペンションクロスメンバ9と、左右のモータ部3a,3bに電力を供給するためのバッテリ部(バッテリ)11と、当該バッテリ部11を搭載するためのバッテリ搭載フレーム17と、左右のモータ部3a,3bを駆動するためのインバータ部(インバータ)13と、を備えている。
【0032】
図3は、モータ部、減速ギヤ部、バッテリ部、インバータ部、サスペンション装置が搭載されたサスペンションクロスメンバ及びバッテリ搭載フレームを示す斜視図であり、図4(a)は平面図であり、図4(b)は側面図である。また、図5は、モータ部、減速ギヤ部、バッテリ部、インバータ部、サスペンションクロスメンバ及びバッテリ搭載フレームの分解斜視図である。なお、図4(b)では、図を見易くするためにサスペンション装置S,Sを図示省略している。
【0033】
各サスペンション装置S,Sは、ダンパ(ショックアブソーバ)87と、コイルスプリング89と、コントロールアーム7と、前輪15a(15b)を回転自在に支持するナックル43と、を備えたストラット式のサスペンション装置であって、以下のようにして車体本体側に連結されている。すなわち、コントロールアーム7の車幅方向外側の端部は、不図示のボールジョイントを介してナックル43に揺動自在に連結されている。そして、コントロールアーム7は、車幅方向内側では前側アーム部と後側アーム部とに分岐しており、これら前側アーム部及び後側アーム部は、サスペンションクロスメンバ9の内部に挿入され、不図示のラバーブッシュ等を介してサスペンションクロスメンバ9に回動自在に枢支されている。
【0034】
また、ナックル43は、ブレーキユニット77によって制動されるブレーキディスク45を介して前輪15a(15b)に取り付けられる一方、駆動軸75が回転自在なるようにダンパ87に連結されている。これにより、ナックル43は、コントロールアーム7とダンパ87とによって上下方向に揺動可能に支持される一方、前輪15a(15b)を回転自在に支持するようになっている。
【0035】
さらに、サスペンション装置S,Sは、サスペンションクロスメンバ9の前端部中央に配置され且つステアリングホイール51bと連結されているステアリングギアボックス47と、このステアリングギアボックス47から車幅方向外方に延びてナックル43,43に取り付けられるタイロッド49,49と、を有している。これにより、ステアリングホイール51bから入力された回転運動は、ステアリングギアボックス47によって往復運動に変換され、タイロッド49,49を介して左右の前輪15a,15bを操舵するようになっている。
【0036】
このように、ステアリングギアボックス47を車幅方向中央部に配置することにより、より詳しくは、ステアリングギアボックス47を、左右の減速ギヤ部5a,5bの前方、且つ、車両前後方向から見て当該左右の減速ギヤ部5a,5bの中間に配設することにより、右ハンドル仕様車(ステアリングホイール51b参照)と左ハンドル仕様車(ステアリングホイール51a参照)とでステアリングギアボックス47の共通化を図ることができるとともに、左右均等な操舵力を発生させて操舵性を向上させることが可能となる。
【0037】
これらのサスペンション装置S,Sをそれぞれ支持するサスペンションクロスメンバ9には、図5に示すように、車幅方向両端部に、上方に開口して車両前後方向に延びる凹部が形成されているとともに、車幅方向中央部に、当該サスペンションクロスメンバ9の後端まで延びる溝部9cが形成されている。左右の凹部は、左右の減速ギヤケース65a,65bを取り付けるための前側凹部9a,9aと、左右のモータケース63a,63bを取り付けるための後側凹部9b,9bとからなっており、車幅方向における後側凹部9b,9bの幅は、車幅方向における前側凹部9a,9aの幅よりも狭くなっている。また、サスペンションクロスメンバ9の後端部には、各々車幅方向に延びる貫通孔9eを有する、当該サスペンションクロスメンバ9を上記バッテリ搭載フレーム17に回動可能に連結するための左右一対のブラケット9d,9dが形成されている。
【0038】
上記各減速ギヤ部5a,5bは、減速ギヤケース65a,65bと、当該各減速ギヤケース65a,65bに収容される複数のギヤ(図示せず)とを有している。左右の減速ギヤ部5a,5bは、減速ギヤケース65a,65bの下端部が左右の前側凹部9a,9aにそれぞれ嵌められることでサスペンションクロスメンバ9上に搭載されるとともに、後述する第1及び第2マウント部材55,59によって当該サスペンションクロスメンバ9に取り付けられ、且つ、左右のモータ3a,3bの前方にそれぞれ連結されている。これら左右の減速ギヤ部5a,5bは、各々左右の前輪15a,15bに連結されおり、各モータ部3a,3bから出力された動力を左右の前輪15a,15bにそれぞれ伝達するようになっている。
【0039】
これら左右の減速ギヤ部5a,5bの間には、フェールセーフ用のクラッチ53が設けられている。このクラッチ53は、2つのモータ部3a,3bが正常に機能している場合には切断されており、各モータ部3a,3bから出力された動力を各前輪15a,15bに個別に伝達させるが、一方のモータ(例えば右側モータ部3b)が故障した場合には繋がるようになっており、他方のモータ(例えば左側モータ部3a)から出力された動力を左右両方の前輪15a,15bに伝達させるように構成されている。これにより、モータのフェールセーフ性を向上させることが可能となっている。
【0040】
上記各モータ部3a,3bは、モータケース63a,63bと、不図示のステータ、ロータと、ロータシャフト(出力軸)3c,3dとを有していて、その上端が左右一対のフロントサイドフレーム21a,21bの上面よりも低くなるように設定されている。左右のモータ部3a,3bは、モータケース63a,63bの下端部が左右の後側凹部9b,9bにそれぞれ嵌められることでサスペンションクロスメンバ9上に搭載されるとともに、減速ギヤ部5a,5bと同様、第1及び第2マウント部材55,57によって当該サスペンションクロスメンバ9に取り付けられている。より詳しくは、これらのモータ部3a,3bは、図4(a)に示すように、各々左右の前輪15a,15bに連結された左右の減速ギヤ部5a,5bの後方(車両前後方向内側)で、換言すると、前輪15a,15bの駆動軸75,75よりも後方で、ロータシャフト3c,3dが車両前後方向に延びるようにそれぞれ配設されている。このように、モータ部3a,3bを減速ギヤ部5a,5bの後方にそれぞれ配設することで、ヨー慣性モーメントが低減されて走行性能が向上する。
【0041】
ところで、最大トルクや最高回転速度等のモータの出力特性は、総磁束、巻線数等のモータの大きさにより規定される。したがって、モータ1個当たりの大きさを小さくすると、モータの出力特性が低下することになる。そして、本実施形態では、モータ部3a,3bが2つ設けられているので、モータを1つしか設けていない場合に比べてモータ1個当たりの高さを低くしつつ、同等の出力特性を維持することができる。このように、質量の大きいモータ部3a,3bの重心を低くすることで、車両の重心が下がって走行性能が向上することになる。
【0042】
さらに、左右のモータ部3a,3bは、そのロータシャフト3c,3dの回転方向が互いに逆向きになるように設定されている。より詳しくは、左側モータ部3aは、そのロータシャフト3cが車両正面視で反時計回りに回転することで、図3に示す白抜き矢印の方向に捩れを生じさせる一方、右側モータ部3bは、そのロータシャフト3dが車両正面視で時計回りに回転することで、図3に示す黒抜き矢印の方向に捩れを生じさせるが、左右のモータ部3a,3bをそのロータシャフト3c,3dの回転方向が互いに逆向きになるように配置することにより、これらの捩れを相殺させることができる。
【0043】
上記バッテリ搭載フレーム17は、図2及び図5に示すように、フロアトンネル19内で車両前後方向に延びる前側搭載部27と、後部シート41bの下で車幅方向に延びる後側搭載部37とを有しており、平面視で略T字状に形成されている。前側搭載部27は、車両前後方向に延びる矩形状の底板部27aと、この底板部27aの車幅方向両側縁部から上方に延びる側板部27b,27bと、両側板部27b,27bの上縁からそれぞれ車幅方向外側に延びるフランジ部27c,27cと、底板部27aの底面における車両前後方向中央部から車幅方向外側に延びる、車幅方向両端部に貫通孔27e,27eがそれぞれ形成された連結板27dとを有している。一方、後側搭載部37は、車幅方向に延びる略矩形状の底板部37aと、前側搭載部27の底板部27aと連結している部分を除くこの底板部37aの周縁部から上方に延びる側板部37bと、両側板部37bの上縁からそれぞれ外側に延びる、7つの貫通孔37d,37d,…が形成された略C字状のフランジ部37cとを有している。
【0044】
これら前側搭載部27及び後側搭載部37が一体に形成されたバッテリ搭載フレーム17は、前側搭載部27の連結板27dが貫通孔27e,27eに挿通されたボルト(図示せず)で上記フロアサイドフレーム25a,25bに締結されるとともに、後側搭載部37のフランジ部37cが貫通孔37d,37d,…に挿通されたボルト(図示せず)で上記リアサイドフレーム23a,23bに締結されることによって、車体に強固に取り付けられている。このように、バッテリ搭載フレーム17を車体にボルト締結することにより、車体剛性を高めることが可能となる。
【0045】
また、前側搭載部27の側板部27b,27bの前端部には、上記サスペンションクロスメンバ9を回動可能に連結するための、車幅方向に延びる貫通孔27gをそれぞれ有する左右一対のブラケット27f,27fが形成されている。これら左右一対のブラケット27f,27fは、サスペンションクロスメンバ9とバッテリ搭載フレーム17とを連結する際、左右のブラケット27f,27fの外面がサスペンションクロスメンバ9の左右のブラケット9d,9dの内面と対向するようになっている。そうして、前側搭載部27の左側ブラケット27fの貫通孔27gとサスペンションクロスメンバ9の左側ブラケット9dの貫通孔9eとに挿通されたヒンジボルト99と、前側搭載部27の右側ブラケット27fの貫通孔27gとサスペンションクロスメンバ9の右側ブラケット9dの貫通孔9eとに挿通されたヒンジボルト99とによって、サスペンションクロスメンバ9とバッテリ搭載フレーム17とは回動可能に連結されている。
【0046】
このように、サスペンションクロスメンバ9とバッテリ搭載フレーム17とを連結することで、車体剛性がさらに上がるとともに、モータ部3a,3bやサスペンション装置S,Sからの揺れをバッテリ搭載フレーム17で吸収することが可能となる。また、サスペンションクロスメンバ9は、ヒンジボルト99,99を枢軸として、バッテリ搭載フレーム17に対して回動可能に連結されているので、サスペンション装置S,Sの緩衝装置としての機能を阻害し難くなっている。
【0047】
バッテリ部11は、バッテリケース71と、当該バッテリケース71に収納された充電式電池とを有している。このバッテリ部11は、図3及び図5に示すように、車両前後方向に延びるバッテリ前側部11bと、当該バッテリ前側部11bの前端からさらに車両前後方向前側に延びるバッテリ先端部11aと、当該バッテリ前側部11bの後端と連続し、車幅方向に延びるバッテリ後側部11cとを有しており、平面視で略T字状に形成されている。バッテリ前側部11b及びバッテリ後側部11cは、それぞれバッテリ搭載フレーム17の前側及び後側搭載部27,37に搭載されている。一方、バッテリ先端部11aは、下端部が溝部9cに嵌められることで、左右のモータ部3a,3bの間でサスペンションクロスメンバ9上に搭載されている。また、このバッテリ先端部11aは、後述の如く、第2マウント部材57によって左右のモータ部3a,3bと連結されている。
【0048】
上記インバータ部13は、インバータケース73と、当該インバータケース73に収容された、直流電力を三相交流に変換してモータ部3a,3bへ供給するインバータ回路を実装したプリント基板等を有している。このインバータ部13は、図3に示すように、左右のモータ部3a,3bの間で、サスペンションクロスメンバ9上にバッテリ先端部11aを介して取り付けられている。インバータ部13は、後述する第3マウント部材59,59によって左右のモータ部3a,3bと連結されている。このように、インバータ部13をモータ部3a,3bの近傍に配置することにより、インバータ部13からモータ部3a,3bへの電力供給を容易に行うことができるとともに、インバータ部13とモータ部3a,3bとを同一の冷却経路で冷却することが可能となる。
【0049】
次に、モータ部3a,3b、減速ギヤ部5a,5b、バッテリ部11及びインバータ部13をサスペンションクロスメンバ9に取り付けるためのマウント部材55,57,59について、図6及び図7を用いて説明する。なお、図6及び図7以外の図では、図を見易くするために、マウント部材55,57,59は図示省略している。
【0050】
マウント部材は、減速ギヤケース65a,65bの車両前後方向前側に配置される第1マウント部材55と、モータケース63a,63bの左右両側に配置される第2マウント部材57,57と、インバータケース73の左右両側に配置される第3マウント部材59,59とからなっている。
【0051】
第1マウント部材55は、略凸字状の底壁部55aと、この底壁部55aの車幅方向両端部から上方にそれぞれ延びる外側壁部55b,55bと、これら外側壁部55b,55bの後端部から車幅方向内側にそれぞれ延びる竪壁部55c,55cと、これら竪壁部55c,55cの内側端部から後方にそれぞれ延びる内側壁部55d,55dと、竪壁部55c,55cの上端部から前方にそれぞれ延びる頂壁部55e,55eとを備えている。
【0052】
この第1マウント部材55は、外側壁部55b,55bの外側面が減速ギヤケース65a,65bの段差部65c,65cに、竪壁部55c,55cの後側面が減速ギヤケース65a,65bの前面に、内側壁部55d,55dの外側面が減速ギヤケース65a,65bの内側面にそれぞれ接触した状態でサスペンションクロスメンバ9に配置されている。そうして、第1マウント部材55は、底壁部55aに形成された貫通孔55f,55fに挿通されたボルト(図示せず)によって、サスペンションクロスメンバ9に締結されている一方、頂壁部55e,55eに形成された貫通孔55g,55gに挿通されたボルト(図示せず)によって、減速ギヤケース65a,65bに形成されたブラケット65d,65dに締結されている。
【0053】
各第2マウント部材57,57は、略コ字状の底壁部57aと、この底壁部57aの車両前後方向に延びる中央部位の内側端部から上方に延びる外側壁部57bと、この外側壁部57bの前端部から車幅方向内側に延びる前側壁部57cと、この前側壁部57cの内側端部から前方に延びる支持壁部57dと、外側壁部57bの後端部から車幅方向内側に延びる後側壁部57eと、この後側壁部57eの内側端部から後方に延びる内側壁部57fと、外側壁部57bの上端部から車幅方向外側に延びる頂壁部57gとを備えている。
【0054】
第2マウント部材57,57は、支持壁部57d,57dの内側面が減速ギヤケース65a,65bの外側面に、前側壁部57c,57cの後側面がモータケース63a,63bの前側面に、外側壁部57b,57bの内側面がモータケース63a,63bの外側側面に、後側壁部57e,57eの前側面がモータケース63a,63bの後側面に、内側壁部57f,57fの内側面がバッテリ先端部11aの外側側面にそれぞれ接触した状態でサスペンションクロスメンバ9に配置されている。そうして、各第2マウント部材57,57は、底壁部57aに形成された貫通孔57h,57h,…に挿通されたボルト(図示せず)によってサスペンションクロスメンバ9に締結されている一方、頂壁部57gに形成された貫通孔57i,57iに挿通されたボルト(図示せず)によってモータケース63a,63bに形成されたブラケット63cに締結されている。
【0055】
各第3マウント部材59,59は、矩形状の底壁部59aと、この底壁部59aの内側端部から上方に延びる竪壁部59bとを備えている。第3マウント部材59,59は、底壁部59a,59aの下面がモータケース63a,63bの上面に、竪壁部59b,59bの内側面がインバータケース73の外側側面にそれぞれ接触した状態で配置されており、底壁部59a,59aに形成された貫通孔59c,59c,59cに挿通されたボルト(図示せず)によってモータケース63a,63bに締結されている一方、竪壁部59b,59bに形成された貫通孔59d,59dに挿通されたボルト(図示せず)によってインバータケース73に締結されている。
【0056】
以上のように第1〜第3マウント部材55,57,59を配置することで、減速ギヤ部5a,5b及びモータ部3a,3bは、第1マウント部材55の竪壁部55c,55cと、第2マウント部材57,57の後側壁部57e,57eとで挟まれることによって、車両前後方向においてサスペンションクロスメンバ9に取り付けられているとともに、互いに連結されている。さらに、減速ギヤ部5a,5bは、第1マウント部材55の外側及び内側壁部55b,55b,55d,55dと、第2マウント部材57,57の支持壁部57d,57dとで挟まれることによって、また、モータ部3a,3b及びバッテリケース71は、第2マウント部材57,57の外側壁部57b,57bと内側壁部57f,57fとで挟まれることによって、車幅方向においてサスペンションクロスメンバ9に取り付けられている。また、モータ部3a,3bとインバータ部13とは、各第3マウント部材59,59で連結される。このように、左右のモータ部3a,3bがバッテリ部11及びインバータ部13と連結されることにより、モータ部3a,3bにより生じる捩れがバッテリケース71及びインバータケース73で吸収される。なお、モータケース63a,63b、減速ギヤケース65a,65b及び第1〜第3マウント部材55,57,59と、サスペンションクロスメンバ9とは、例えば両者の間に不図示のラバーシートを介在させることにより、モータ部3a,3bや減速ギヤ部5a,5bの振動がサスペンションクロスメンバ9に伝わり難い構造となっている。
【0057】
以上のように構成された、本実施形態の前部車体構造では、モータ部3a,3b、バッテリ部11等の重量物が車幅方向中央部に配置されることかロール慣性モーメントが低減されるので、走行性能が向上する。
【0058】
さらに、この電気自動車1には、図1に示すように、ボンネット81との間に空間を形成するように、駆動軸75の上方で左右一対のフロントサイドフレーム21a,21bを連結する矩形板状の連結部材33が設けられている。この連結部材33は、車両前後方向で、フロントサイドフレーム21a,21bの前端からモータ部3a,3bの前端まで延びており、サスペンションクロスメンバ9上に取り付けられた減速ギヤ部5a,5b等と、空間39とを区画している。
【0059】
かかる構造について詳述すると、上述の如くモータ部3a,3bを減速ギヤ部5a,5bの上方ではなくその後方に配設するとともに、モータ部3a,3bの1つ当たりの高さを低くすることにより、図2に示すように、サスペンションクロスメンバ9の上方には、全面に亘って空間39が形成されている。このように、サスペンションクロスメンバ9の上方に空間39が形成されることにより、左右のフロントサイドフレーム21a,21bを、従来の車両に比して車幅方向内側に配置するとともに、フロントサイドフレーム21a,21bを大断面とすることが可能となる。
【0060】
そうして、左右のフロントサイドフレーム21a,21bが車幅方向内側に配置されることにより、ホイールベースを長くしているにも拘わらず最小回転半径が確保される。また、フロントサイドフレーム21a,21bが大断面化されることにより、衝突安全性能が向上する。さらに、かかる左右のフロントサイドフレーム21a,21bを連結部材33で連結することにより、一方のフロントサイドフレーム(例えば左側のフロントサイドフレーム21a)に入力された衝撃荷重を他方のフロントサイドフレーム(例えば右側のフロントサイドフレーム21b)に伝達することが可能となるので、フルラップ衝突時のみならずオフセット衝突時においても衝撃が良好に吸収される構造となっている。
【0061】
加えて、サスペンションクロスメンバ9の上方の空間39を、当該連結部材33がその底面を構成するトランクルーム(収容部)として用いることが可能となっている。具体的には、トランクルームTは、図2に示すように、当該トランクルームTを区画するパネル91の下端部と連結部材33とを繋ぐことにより形成されている。これにより、簡単な構造で、車両前部にトランクルームTを形成することが可能となり、後方駐車した場合等における、荷室へのアクセス性が向上する。また、かかる空間39は、その中に緩衝材やエアバック等を配設することにより、歩行者保護のための空間としても用いられる。これにより、車両の利便性及び安全性のみならず、歩行者に対する安全性を高めることができる。
【0062】
ところで、電気自動車においては、走行風を後方へ逃がしたり、不図示のラジエータ及び電動ファンの後方に生じる熱やモータ部3a,3b、インバータ部13及びブレーキなどで生じる熱を逃がしたり、モータルーム内における熱のこもりによる熱害を防止したりする必要がある。しかしながら、サスペンションクロスメンバ9の上方にトランクルームを設けた場合、モータルームの空間が狭くなり、グリルから入った空気を逃がすための流路(空気の通り道及び通気口)が狭くなる。
【0063】
ここで、本実施形態の車体構造では、上述の如く、左右の前輪15a,15bを従来の前輪115a,115bよりも前側に取り付けることで、図1及び図2に示すように、前輪15a,15bのタイヤとサイドシルの間に空間15e,15fを設けている。これにより、空気の通り道が確保されるので、白抜き矢印の方向からグリルを通ってモータルームに入った空気が、図中の太線矢印で示すようにこの空間15e,15fから抜けることにより、モータルーム内の空気抵抗を低減することができるとともに、ラジエータ、電動ファン、モータ部3a,3b、インバータ部13及びブレーキなどで生じる熱を逃がすことができる。
【0064】
−効果−
本実施形態によれば、左右の前輪15a,15bを駆動するための2つのモータ部3a,3bが、前輪15a,15bの駆動軸75よりも後方でサスペンションクロスメンバ9に取り付けられているので、サスペンションクロスメンバ9の上方に、空間39を確保することができる。そうして、このように確保された駆動軸75の上方の空間39に、左右一対のフロントサイドフレーム21a,21bを連結する矩形板状の連結部材33を設けることにより、オフセット衝突時に一方のフロントサイドフレーム21a(21b)に入力した荷重を、他方のフロントサイドフレーム21b(21a)に伝達することが可能となる。
【0065】
また、モータ部3a,3bが2つ設けられているので、モータ部3a,3bを1つしか設けていない場合に比べてモータ部3a,3b一個当たりの高さを低くすることができる。さらに、左右の減速ギヤ部5a,5bが左右のモータ部3a,3bの前方にそれぞれ連結されているので、減速ギヤ部5a,5bとモータ部3a,3bとを上下に重ねて配置するものに比べて、モータ部3a,3b及び減速ギヤ部5a,5bの高さを低くすることができる。
【0066】
これらにより、前輪15a,15bの駆動軸75よりも前方におけるサスペンションクロスメンバ9上方の空間のみならず、サスペンションクロスメンバ9全面に亘って、その上方に空間39を確保することが可能となる。
【0067】
さらに、左右のモータ部3a,3bはロータシャフト3c,3dが車両前後方向に延びるようにそれぞれ配設され、且つ、これら左右のモータ部3a,3bのロータシャフト3c,3dの回転方向が互いに逆向きであることから、左側モータ部3aによって生じる、車両正面視で時計回りの捩れと、右側モータ部3bによって生じる、車両正面視で反時計回りの捩れとを互いに相殺させることができる。
【0068】
また、モータ部3a,3bはその上端が左右一対のフロントサイドフレーム21a,21bの上面よりも低くなるように設定されているので、左右一対のフロントサイドフレーム21a,21bを連結する連結部材33をモータ部3a,3bの上方に設けることができるとともに、質量の大きいモータ部3a,3bが低位置にレイアウトされているので、車両の重心を低くすることができる。
【0069】
(変形例1)
上記実施形態1では、左右の減速ギヤ部5a,5bの間にフェールセーフ用のクラッチ53を設けたが、これに限らず、以下に述べるようにしてもよい。なお、この変形例1の前部車体構造では、ウォータポンプ61が配設されていることを除いて、上記実施形態のものと同じなので、以下、同一部材には同一の符号を付してその説明は省略する。
【0070】
そして、変形例1では、図8に示すように、左右の減速ギヤ部5a,5bの間に、クラッチ53のみならず、クラッチ53の後方に当該クラッチ53に隣接するようにウォータポンプ(補機)61が配設されている。このウォータポンプ61は、モータ部3a,3bから出力された動力により駆動される。具体的には、クラッチ53及びウォータポンプ61の車幅方向右側には、図9に示すように、第1歯車69aと、この第1歯車69aと噛み合う第2歯車69bとを備えた動力伝達装置69が設けられている。そうして、第1歯車69aが右側減速ギヤ部5bとクラッチ53とを連結する駆動軸と繋がっている一方、第2歯車69bがウォータポンプ61と繋がっている。これにより、ウォータポンプ61は、モータ部3a,3bから出力された動力によって駆動するので、ウォータポンプ61による電力消費を抑制して、航行距離を延長することが可能となる。
【0071】
なお、クラッチ53の前方に当該クラッチ53に隣接するようにウォータポンプ61を配設してもよいし、また、クラッチ53及びウォータポンプ61の車幅方向左側に動力伝達装置を設けてもよい。
【0072】
(変形例2)
上記実施形態1では、左右のモータ部3a,3bの間にインバータ部13及びバッテリ先端部11aを配置したが、これに限らず、以下に述べるようにしてもよい。なお、この変形例2の前部車体構造では、インバータ部13及びバッテリ先端部11aがサスペンションクロスメンバ9上に取り付けられていないことを除いて、上記実施形態のものと同じなので、以下、同一部材には同一の符号を付してその説明は省略する。
【0073】
そして、変形例2では、図10に示すように、左右のモータ部3a,3bは、左右のモータケース63a,63bが連結継手83によって連結された一体構造をなすものである。このようにすれば、簡単な構造で、左右のモータ部3a,3b相互間で互いのトルク反力を低減することができる。
【0074】
(実施形態2)
本実施形態は、矩形板状の連結部材33ではなく角パイプ材からなる前後一対の連結部材93a,93bで左右一対のフロントサイドフレーム21a,21bを連結している点が実施形態1と異なるものである。以下、実施形態1と異なる点について説明する。
【0075】
図11及び図12に示すように、連結部材は前側連結部材93aと後側連結部材93bとからなり、前側連結部材93aはフロントサイドフレーム21a,21bの前端部(バンパーレインフォースメント29の直ぐ後)に取り付けられている一方、後側連結部材93bは、モータ部3a,3bの前端部の上方で、フロントサイドフレーム21a,21bに連結されている。このため、後側連結部材93bとの干渉を避けるように、本実施形態では、上記インバータ部13が上記バッテリ先端部11a上から取り外されている。そうして、トランクルームTはこれら前側及び後側連結部材93a,93bに載置され且つ固定されたバスタブ状のパネル体95で構成されている。
【0076】
このように、後側連結部材93bによって、矩形板状の連結部材33の後端よりも後側で、フロントサイドフレーム21a,21bを連結することにより、上記実施形態1と比べて、フロントサイドフレーム21a,21bの剛性を高めることができるとともにトランクルームTを広くすることができる。
【0077】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0078】
上記実施形態では、モータ3a,3bを2つ用いたが、モータが前輪15a,15bの駆動軸75よりも後方でサスペンションクロスメンバ9に取り付けられている限り、例えば、モータを1つとしてもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、サスペンションクロスメンバ9を、ヒンジボルト99,99を枢軸としてバッテリ搭載フレーム17に対して回動可能に連結したが、これに限らず、例えば、図13に示すように、サスペンションクロスメンバ9の後端部に水平且つ後方に延びるブラケット9fを形成し、当該ブラケット9fとバッテリ搭載フレーム17とを、上側取付部85aと下側取付部85bとをゴム弾性体85cで連結した防振装置85を介して連結するようにしてもよい。
【0080】
さらに、上記実施形態では、バッテリ先端部11aを介してインバータ部13をサスペンションクロスメンバ9上に取り付けるようにしたが、これに限らず、例えば、インバータ部13をサスペンションクロスメンバ9上に直接取り付けるようにしてもよい。
【0081】
また、上記変形例1では、補機として、左右の減速ギヤ部5a,5bの間にウォータポンプ61を配設したが、これに限らず、例えば、空調用コンプレッサを配設してもよい。
【0082】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上説明したように、本発明は、モータを備えた電気自動車の前部車体構造等について有用である。
【符号の説明】
【0084】
1 電気自動車
3a 左側モータ部(モータ)
3b 右側モータ部(モータ)
3c ロータシャフト(出力軸)
3d ロータシャフト(出力軸)
5a 左側減速ギヤ部(減速ギヤ)
5b 右側減速ギヤ部(減速ギヤ)
9 サスペンションクロスメンバ
15a 左側の前輪
15b 右側の前輪
21a 左側のフロントサイドフレーム
21b 右側のフロントサイドフレーム
33 連結部材
39 空間
75 駆動軸
81 ボンネット
S サスペンション装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の前輪を駆動するためのモータと、当該モータから出力された動力を当該前輪に伝達する減速ギヤと、当該左右の前輪のサスペンションをそれぞれ支持するサスペンションクロスメンバと、車体の左右両側で前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、を備えた電気自動車の前部車体構造であって、
上記モータは、上記前輪の駆動軸よりも後方で上記サスペンションクロスメンバに取り付けられており、
上記サスペンションクロスメンバの上方に、上記左右一対のフロントサイドフレームを連結する連結部材が設けられていることを特徴とする電気自動車の前部車体構造。
【請求項2】
請求項1記載の電気自動車の前部車体構造において、
上記モータ及び上記減速ギヤは、上記左右の前輪に対してそれぞれ1つずつ設けられており、
上記左右のモータは、出力軸が車両前後方向に延びるようにそれぞれ配設されており、
上記左右の減速ギヤは、上記左右のモータの前方にそれぞれ連結されていることを特徴とする電気自動車の前部車体構造。
【請求項3】
請求項2記載の電気自動車の前部車体構造において、
上記左右のモータの出力軸の回転方向が互いに逆向きであることを特徴とする電気自動車の前部車体構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の電気自動車の前部車体構造において、
上記モータは、その上端が上記左右一対のフロントサイドフレームの上面よりも低くなるように設定されていることを特徴とする電気自動車の前部車体構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の電気自動車の前部車体構造において、
上記連結部材の上方の空間が、当該連結部材がその底面を構成する荷室として用いられることを特徴とする電気自動車の前部車体構造。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の電気自動車の前部車体構造において、
上記連結部材は、ボンネットとの間に空間を形成するように設けられており、
上記空間は、歩行者保護のための空間として用いられることを特徴とする電気自動車の前部車体構造。
【請求項1】
左右の前輪を駆動するためのモータと、当該モータから出力された動力を当該前輪に伝達する減速ギヤと、当該左右の前輪のサスペンションをそれぞれ支持するサスペンションクロスメンバと、車体の左右両側で前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、を備えた電気自動車の前部車体構造であって、
上記モータは、上記前輪の駆動軸よりも後方で上記サスペンションクロスメンバに取り付けられており、
上記サスペンションクロスメンバの上方に、上記左右一対のフロントサイドフレームを連結する連結部材が設けられていることを特徴とする電気自動車の前部車体構造。
【請求項2】
請求項1記載の電気自動車の前部車体構造において、
上記モータ及び上記減速ギヤは、上記左右の前輪に対してそれぞれ1つずつ設けられており、
上記左右のモータは、出力軸が車両前後方向に延びるようにそれぞれ配設されており、
上記左右の減速ギヤは、上記左右のモータの前方にそれぞれ連結されていることを特徴とする電気自動車の前部車体構造。
【請求項3】
請求項2記載の電気自動車の前部車体構造において、
上記左右のモータの出力軸の回転方向が互いに逆向きであることを特徴とする電気自動車の前部車体構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の電気自動車の前部車体構造において、
上記モータは、その上端が上記左右一対のフロントサイドフレームの上面よりも低くなるように設定されていることを特徴とする電気自動車の前部車体構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の電気自動車の前部車体構造において、
上記連結部材の上方の空間が、当該連結部材がその底面を構成する荷室として用いられることを特徴とする電気自動車の前部車体構造。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の電気自動車の前部車体構造において、
上記連結部材は、ボンネットとの間に空間を形成するように設けられており、
上記空間は、歩行者保護のための空間として用いられることを特徴とする電気自動車の前部車体構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−195057(P2011−195057A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65045(P2010−65045)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]