説明

電気自動車

【課題】 ブレーキペダル踏込み時のクリープカットを車両状況に応じて適切に行なうことにより、電気自動車の運転性の向上および電力消費削減を図る。
【解決手段】 クリープトルク発生時には、車速に応じてクリープトルク指令値を一次的に設定する(ステップS100)。ブレーキペダルが踏込まれている場合には、ブレーキ踏込み量に応じたトルク上限値を設定し(ステップS140、S145)、一次的なクリープトルク指令値およびトルク上限値の小さい方を最終的なクリープトルク指令値に設定する(ステップS150)。トルク上限値の設定は、車速変化やブレーキ踏込み量変化の車両状況に応じて切換えられる(ステップS130)。特に、車両状況から運転者が減速を意図していることを推定したときには、最終的なクリープトルク指令値値は、一次的に設定されたクリープトルク指令値よりも小さく設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気自動車に関し、より特定的にはクリープトルクを電動機によって発生する電気自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
オートマッチック・トランスミッション(A/T)車両では、走行ポジション(前進あるいは後退)をシフト選択している場合に、アクセルペダルを踏み込んでいなくても、微速で車両を推進するクリープ力が発生される。特に、電動機(モータ)によって車両駆動力を発生する電気自動車(EV)、ならびにエンジンおよび電動機の両方によって車両駆動力を発生するハイブリッド自動車(HEV)では、電動機が発生する駆動力によってクリープ力を発生する構成が採用される(たとえば特許文献1〜3参照)。
【0003】
特に、特許文献1では、ブレーキペダルのオン時にも簡単な制御でスムーズな減速感を得るとともに、回生エネルギの回収効率を高めるために、ブレーキペダルのオン(踏込み時)およびオフ(非踏込み時)に応じてクリープトルク設定を変更する構成が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、適切なクリープ力および制動力を発生するために、ブレーキペダルの踏込み力および車速に応じてクリープ力を調整する構成が開示される。あるいは、特許文献3では、車両の個体差や経時変化、路面勾配や車両重量等の運転状況にかかわらず常に適切なクリープトルクが得られるように、クリープトルクを発生するごとに学習を行なって、次回の制御サイクル時のクリープトルク目標値を増減する構成が開示されている。
【特許文献1】特開2001−218303号公報
【特許文献2】特開平11−285108号公報
【特許文献3】特開平6−261416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1および2では、ブレーキ踏込量に応じてクリープトルクを減少させる構成であるため、無駄なクリープトルクをカットすることにより電力消費量を抑制できる。
【0006】
しかしながら、運転者がその時点でブレーキペダルを踏んでいる場合には、これから減速する意思を持っている状況と、そうでない状況とが混在する。これらの状況をブレーキ踏込み力あるいは踏込量の大きさのみで判断することは困難である。
【0007】
このため、ブレーキ踏込量に応じて単純にクリープトルクを設定する構成では、以下のようなケースで運転性を損なう可能性がある。
【0008】
まず、運転者がその時点でブレーキペダルを踏んでいるものの、そのブレーキペダル踏込み量は減少しており、運転者が減速を意図せず低速での発進を意図している場合には、ブレーキ踏込量のみに応じてクリープトルクを減少させると、運転者の速度調整を困難にしてしまい運転性を損なう場合がある。
【0009】
あるいは、運転者が減速する意思を持っているのに、ブレーキ踏込み量が比較的小さい場合には、クリープトルクカットを十分行なえないため、スムーズな減速感が発揮されず、かつ、電力も無駄に消費されてしまう。
【0010】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、この発明の目的は、クリープ走行時に運転者がブレーキペダルを踏み込んでいる場合には、車両状況をさらに考慮した適切なクリープトルク設定を行なうことによって、運転性の向上および無駄な電力消費削減を図ることが可能な電気自動車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明による電気自動車は、所定条件の成立時に、電動機が発生する駆動力によってクリープトルクを発生する電気自動車であって、ブレーキ検知手段と、車速検出手段と、第1のクリープトルク設定手段と、クリープトルクカット手段とを備える。ブレーキ検知手段は、運転者によるブレーキペダル操作を検出する。車速検出手段は、当該電気自動車の車速を検出する。第1のクリープトルク設定手段は、クリープトルクの発生時に、所定の基本特性線に基づいて、車速に応じてクリープトルク指令値を設定する。クリープトルクカット手段は、クリープトルクの発生時に、運転者によってブレーキペダルが踏込まれているときに、ブレーキペダルの踏込み量に応じてクリープトルクの上限値を設定する。クリープトルクカット手段は、複数のクリープトルク上限値設定手段と、クリープトルク上限値設定選択手段と、第2のクリープトルク設定手段とを含む。複数のクリープトルク上限値設定手段は、ブレーキペダルの踏込み量に応じたクリープトルクの上限値を設定する所定の複数の上限値設定特性線にそれぞれ基づいて、クリープトルクの上限値を設定する。クリープトルク上限値設定選択手段は、当該電気自動車の車両状況に応じて、複数のクリープトルク上限値設定手段のうちの1つを選択する。第2のクリープトルク設定手段は、第1のクリープトルク設定手段によって設定されたクリープトルク指令値が選択されたクリープトルク上限値設定手段によって設定されたトルク上限値よりも大きいときには、該トルク上限値を新たにクリープトルクの指令値とする。
【0012】
この発明による電気自動車では、クリープトルク発生時にブレーキペダルが踏まれている場合には、クリープトルクに上限値を設けることにより、クリープトルクをカット可能であるとともに、車両状況に応じて複数のクリープトルク上限値設定特性線を選択的に使用して当該上限値を設定できる。したがって、ブレーキペダル踏込み時にも車両状況に応じて、適正なクリープトルクを発生させることができるので、運転性の向上や無駄な消費電力の削減を図ることができる。
【0013】
好ましくは、この発明による電気自動車では、クリープトルク上限値設定選択手段は、車両状況から当該電気自動車の運転者が減速を意図していると推定されるときには、第1のクリープトルク設定手段によるクリープトルク指令値よりも小さいトルク上限値が設定されるように、クリープトルク上限値設定手段を選択する。
【0014】
上記電気自動車によれば、運転者が減速の意図を持っているときにクリープトルクがカットされるので、スムーズな減速感を発揮して運転性を高めるとともに、不必要な電力消費を防止できる。特に、ブレーキ踏込み量が比較的小さい領域でも、適切にクリープトルクを抑制できる。
【0015】
さらに好ましくは、この発明による電気自動車では、クリープトルク上限値設定選択手段は、当該電気自動車が減速中であり、かつ、ブレーキペダルの踏込み量が減少していないときに、運転者が減速を意図していると推定する。
【0016】
上記電気自動車によれば、ブレーキ検知手段(ブレーキポジションセンサ)および車速検出手段(車速センサ)に基づいて、特殊なセンサを設けることなく、運転者が減速を意図しているか否かを推定できる。
【0017】
また好ましくは、この発明による電気自動車では、クリープトルク上限値設定選択手段は、車両状況から当該電気自動車の運転者が減速を意図していないと推定されるときには、第1のクリープトルク設定手段によるクリープトルク指令値に従ってクリープトルクが設定されるように、クリープトルク上限値設定手段を選択する。
【0018】
上記電気自動車によれば、ブレーキが踏まれている場合にも、運転者が低速での発進を意図している場合等には、十分なクリープトルクが発生されるので、発進時や微速走行時の速度調整が容易となり、運転性が向上する。
【0019】
あるいは好ましくは、この発明による電気自動車では、所定条件成立後において当該電気自動車が減速していない場合には、ブレーキペダルの同一の踏込み量に対応してより大きいトルク上限値が設定されるように、クリープトルク上限値設定手段が選択される。
【0020】
また好ましくは、この発明による電気自動車では、所定条件成立後においてブレーキペダルの踏込み量が減少している場合には、ブレーキペダルの同一の踏込み量に対応してより大きいトルク上限値が設定されるように、クリープトルク上限値設定手段が選択される。
【0021】
これらの電気自動車によれば、予め設定した複数の上限値設定特性線を車両状況に応じて選択的に用いてトルク上限値を設定する簡易な制御構成により、適正なクリープトルクを発生させることができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明による電気自動車は、クリープ走行時に運転者がブレーキペダルを踏み込んでいる場合には、車両状況の推移に応じて適切なクリープトルク設定を行なうことにより、運転性を向上するとともに、無駄な電力消費を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下において、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお以下において図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は原則として繰返さないものとする。
【0024】
図1は、この発明の実施の形態による電気自動車20の構成の示す概略ブロック図である。
【0025】
この発明の実施の形態による電気自動車20は、駆動輪22a,22bと、駆動輪22a,22bにディファレンシャルギヤ24を介して接続された駆動軸26と、駆動軸26へ車輪駆動用の動力を出力する走行用のモータ30と、このモータ30にインバータ34を介して電力を供給するバッテリ36と、電気自動車20全体をコントロールする電子制御ユニット(ECU)40とを備える。
【0026】
モータ30は、たとえば周知の永久磁石(PM)型同期発電電動機として構成されており、インバータ34からの3相交流電力により駆動される。インバータ34も、6個のスイッチング素子を有する周知のインバータ回路として構成されており、バッテリ36からの直流電力をPWM(Pulse Width Modulation)制御等により擬似的な3相交流電力としてモータ30へ供給する。
【0027】
ECU40は、CPU(Central Processing Unit)42を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU42の他に処理プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)44と、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)46と、図示しない入出力ポートとを備える。
【0028】
ECU40へは、モータ30の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ32からの検知信号θや、インバータ34の各相に取付けられた図示しない電流センサからの相電流iu,iv,iw、シフトレバー51の動作位置を検出するシフトポジションセンサ52からのシフトポジションSP、アクセルペダル53の踏込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ54からのアクセル開度Acc、ブレーキペダル55の踏込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ56からのブレーキペダル踏込み量BP、車速センサ58からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。ECU40からはインバータ34へのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力されている。
【0029】
このように構成された電気自動車20は、運転者がアクセルペダル53を踏込んだときに、アクセルペダルポジションセンサ54により検出されるアクセル開度Accと、車速センサ58により検出される車速Vとに基づいて設定される要求トルクが、モータ30から出力されるようモータ30を駆動制御することにより走行する。
【0030】
一方、運転者がブレーキペダル55を踏込んだときにブレーキペダルポジションセンサ56により検出されるブレーキペダル踏込み量BPと、車速センサ58により検出される車速Vとに基づいて設定される制動トルクが、モータ30から出力されるようにモータ30を駆動制御することにより制動する。
【0031】
ECU40は、モータ30に対して上記要求トルクや制動トルクを発生するようなモータ電流が供給されるように、インバータ34を構成するスイッチング素子のオン・オフを制御するスイッチング制御信号を生成する。インバータ34は、このスイッチング制御信号に応答した電力変換を行なうことにより、モータ30へ3相交流電力を供給する。
【0032】
次に、図1に示した電気自動車20の動作、特に所定条件成立時におけるクリープ走行時のクリープトルク設定動作について説明する。
【0033】
図2は、ECU40において実行されるクリープトルク設定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【0034】
このルーチンは、所定条件の成立時に所定時間ごとに繰返し実行される。なお、クリープ走行が行なわれる所定条件とは、たとえばシフトポジションSPによって走行ポジション(Dポジション、Rポジション等)が選択され、かつアクセルペダルが踏込まれていない(Acc=0)状況に対応する。
【0035】
図2を参照して、クリープ制御ルーチンが開始されると、ECU40は、車速センサ58によって検出された車速Vに基づいて、図3に示したトルク設定基本特性線100に基づいて、クリープトルク指令値Tsを一次的に設定する(ステップS100)。
【0036】
図3に示されるように、基本的なクリープトルク設定を示すトルク設定基本特性線100は、車速Vに反比例したクリープトルク指令値Tsを設定する。すなわち、車速が低い領域においてより大きなクリープトルク指令値が設定され、車速V=0(停車時)において、クリープトルク指令値TsはT0に設定される。
【0037】
再び図2を参照して、ステップS100によって、クリープトルク指令値Tsが一次的に設定されると、引続き、ブレーキペダルポジションセンサ56からのブレーキペダル踏込み量BPに基づいて、この時点においてブレーキペダルの踏込みが有るかどうかが判定される(ステップS110)。
【0038】
運転者によるブレーキペダルの踏込みが無い場合には(ステップS110におけるNO判定)、ステップS100で設定されたクリープトルク指令値Tsが最終的なトルク指令値Ts♯に決定されて(ステップS105)、クリープトルク設定ルーチンは終了する。
【0039】
一方、ブレーキペダルの踏込みが有る場合には(ステップS110におけるYES判定)、以下に説明するステップS120〜ステップS150を実行することにより、ステップS100で一次的に設定されたクリープトルク指令値Tsに対して、運転状況の推移に応じて設定されるトルク上限値Tupを設けて、必要に応じてクリープトルクを抑制(カット)する。
【0040】
ステップS120では、その時点における車速Vおよびブレーキペダル踏込み量BPがメモリされる。ステップS120でメモリされた、現在の車速Vおよびブレーキペダル踏込み量BPを、前回のクリープ制御ルーチンでメモリされた車速Vおよびブレーキペダル踏込み量BPと比較することにより、ブレーキペダル踏込み後の車両状況が判定される(ステップS130)。
【0041】
なお、初回のクリープ制御ルーチン実行時には、ステップS130において、初期値である車速V=0およびブレーキペダル踏込み量BP=0が比較対象とされる。
【0042】
ステップS130には、車速Vが相対的に減少しているかどうかを判定するステップS132と、ブレーキペダルの踏込み量が相対的に減少しているかどうかを判定するステップS134とが含まれる。
【0043】
車速減少中であり(ステップS132でのYES判定)、かつ、ブレーキペダルの踏込み量が減少していない(ステップS134でのNO判定)場合には、運転者が車両を減速させる意図であるものと推定する。
【0044】
これに対して、車速減少中でない(ステップS132でのNO判定)、あるいは、ブレーキペダルの踏込み量が減少している(ステップS134でのYES判定)場合には、運転者には車両を減速させる意図がないものと推定する。
【0045】
図4に示すように、この発明によるクリープトルク設定では、クリープ走行時に運転者が減速を意図しているかどうかに応じて切換えられるように、2種類のトルク上限値設定線110および120が予め用意されている。
【0046】
図4を参照して、トルク上限値設定線110は、運転者が車両を減速させる意図であると推定したときに用いられ、トルク上限値設定線120は、それ以外のときに用いられる。
【0047】
トルク上限値設定線110は、トルク上限値設定線120と比較して、同一のブレーキペダル踏込み量BPに対応して、トルク上限値Tupをより低く設定する。
【0048】
なお、図3および図4を比較して、車速V=0におけるクリープトルク指令値T0およびトルク上限値T1,T2を比較すれば、トルク上限値T1はトルク指令値T0よりも小さい値に設定され、トルク上限値T2は、トルク指令値T0以上の値に設定されている。
【0049】
再び図2を参照して、ステップS130によって運転者が減速意思を有すると推定した場合には、クリープトルクをカットするために、トルク上限値設定線110に基づいてトルク上限値Tupが設定される(ステップS140)。
【0050】
これに対して、ステップS130において運転者の減速意思が推定されなかった場合には、トルク上限値設定線120に基づいて、トルク上限値Tupが設定される(ステップS145)。このように、ステップS130によって、ブレーキペダル踏込み後の車両状況に応じて、ステップS140およびS145の一方が選択される。
【0051】
さらに、応じてステップS140またはS145で設定されたトルク上限値Tupと、ステップS100で決定されたクリープトルク指令値Tsとの小さい方が、最終的なトルク指令値Ts♯として採用されて(ステップS150)、クリープトルク設定ルーチンは終了する。すなわち、一次的に設定されたトルク指令値Tsがトルク上限値Tupよりも大きい場合には、トルク上限値Tupが最終的なトルク指令値Ts♯に設定される。
【0052】
ECU40は、このように最終的に決定されたトルク指令値Ts♯に応じた3相電流がモータ30へ供給されるように、インバータ34へのスイッチング制御信号を生成する。
【0053】
トルク上限値設定線110は、基本的にはクリープトルクカットを行なうように考慮して、すなわち、トルク上限値がトルク設定基本特性線100によるトルク指令値Tsよりも小さくなるように設計される。このため、運転者の減速意思が推定される場合には、トルク設定基本特性線100により一次的に決定されたトルク指令値Tsよりも小さいトルク指令値Ts♯が設定される。これにより、スムーズな減速感を発揮して運転性を高めるとともに、不必要な電力消費を防止できる。
【0054】
また、トルク上限値設定線120は、実質的にはクリープトルクカットが行なわれないように、すなわち、トルク上限値がトルク設定基本特性線100によるトルク指令値Tsよりも大きくなるように設計される。したがって、運転者の減速意思が推定されなかった場合には、トルク上限値設定線120が選択されて、トルク設定基本特性線100に従って最終的なトルク指令値Ts♯が決定される。この結果、ブレーキが踏まれている場合にも、ブレーキ踏込み量が減少して車両が加速方向に向かうときには、十分なクリープトルクが発生されるので、発進時や微速走行時の速度調整が容易となり、運転性が向上する。
【0055】
なお、この実施の形態では、クリープトルクカットを行なうためのトルク上限値設定線110および、実質的にクリープトルクカットが行なわないためのトルク上限値設定線120による2種類のトルク上限値設定を切換える構成について説明したが、クリープトルクカットの程度を細分化して、3以上のトルク上限値設定線を設けてこれらを車両状況に応じて選択する構成としてもよい。
【0056】
図1に示した構成とこの発明との対応関係を説明すれば、図1のモータ30はこの発明における「電動機」に対応し、図1のブレーキペダルポジションセンサ56および車速センサ58は、この発明における「ブレーキ検知手段」および「車速検出手段」にそれぞれ対応する。
【0057】
また、図2に示したフローチャートとこの発明との対応関係を説明すれば、図2のステップS100はこの発明における「第1のクリープトルク設定手段」または「クリープトルク設定手段」に対応し、図2のステップS120〜S150の組合わせはこの発明における「クリープトルクカット手段」に対応する。
【0058】
特に、図2におけるステップS130は、この発明における「クリープトルク上限値選択手段」に相当し、図2のステップS140およびS145は、この発明における「複数のクリープトルク上限値設定手段」に対応し、図2のステップS150は、この発明における「第2のクリープトルク設定手段」に対応する。
【0059】
以上説明したように、この発明の実施の形態に従う電気自動車20では、クリープ走行時に車両状況に応じてクリープトルクを適切に設定できる。すなわち、運転者に減速の意思がない場合には、車速に応じた十分なクリープトルクを発生する一方で、運転者に減速の意思がある場合には、クリープトルクを抑制して、スムーズな減速感を発揮して運転性を高めるとともに、無駄な電力消費を防止できる。
【0060】
図1には、モータ30のみを駆動力源とする電気自動車20の構成を例示したが、この発明は、このような電気自動車に限定的に適用されるものではなく、駆動輪22a,22bの駆動力を出力可能なモータを備え、かつ、クリープトルクをモータによって発生する構成に対して共通に適用できる。したがって、以下では、この発明によるクリープトルク設定が適用可能な電気自動車の構成のバリエーションについて説明する。
【0061】
図5は、この発明の実施の形態による電気自動車120の構成を示す概略ブロック図である。
【0062】
図5を参照して、この発明の実施の形態による電気自動車120は、エンジン122と、遊星歯車機構124と、遊星歯車機構124に接続された発電可能なモータ126と、インバータ134を介したバッテリ36との電力授受を伴って駆動軸26に動力を入出力するモータ130とを備える。
【0063】
遊星歯車機構124は、エンジン122のクランクシャフトおよび、駆動輪22a,22bに連結された駆動軸26とに接続される。モータ126とバッテリ36との間の電力授受は、インバータ136を介して行われる。
【0064】
電気自動車120では、通常走行は、高効率点で作動されるエンジン122からの駆動力をモータ130からの駆動力によってアシストすることで行なわれる。また、エンジン122の駆動力の少なくとも一部を用いて、モータ126による発電を行ない、モータ126での発電電力により、バッテリ36の充電あるいはモータ130による駆動力発生が行なわれる。
【0065】
電気自動車120では、クリープ走行を含む軽負荷運転は、モータ130からの駆動力によって行われる。すなわち、クリープトルクはモータ130によって発生されるが、クリープトルク設定を、上述の電気自動車20と同様に設定することができる。
【0066】
あるいは、図6に示す電気自動車220のように、エンジン222と、ツインロータ電動機226と、バッテリ36との電力のやり取りによって駆動軸26に動力を入出力するモータ230とを備える構成とすることも可能である。ツインロータ電動機226は、エンジン222のクランクシャフトに取付けられたインナーロータ226aおよび、駆動輪22a,22bに連結された駆動軸26に取付けられたアウターロータ226bの相対的な回転により生じる電磁気的な作用に伴って駆動される。
【0067】
また、図7に示す電気自動車320のように、バッテリ36との電力のやり取りを伴って変速機332を介して駆動輪22a,22bに連結されたモータ330と、このモータ330の回転軸にクラッチを介して接続されたエンジン322と、変速機332とを備える構成とすることも可能である。
【0068】
これらの電気自動車220,320についても、モータ230,330によって発生されるクリープトルク設定を、上述の電気自動車20と同様に設定することができる。
【0069】
なお、この発明の適用において、モータ30,130,230,330は駆動輪22a,22bに動力を出力可能な原動機であれば、その形式を問わず、種々の形式の電動機を適用可能である。さらには、駆動輪22a,22bとは別の車輪にも専用の電動機を追加して設けて、電動の四輪駆動を実現するように構成してもよい。
【0070】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】この発明の実施の形態による電気自動車の第1の構成例を示す概略ブロック図である。
【図2】図1に示した電気自動車におけるクリープトルク設定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】基本的なクリープトルク設定を示す基本特定線を説明する概念図である。
【図4】トルク上限値設定線を説明する概念図である。
【図5】この発明の実施の形態による電気自動車の第2の構成例を示す概略ブロック図である。
【図6】この発明の実施の形態による電気自動車の第3の構成例を示す概略ブロック図である。
【図7】この発明の実施の形態による電気自動車の第4の構成例を示す概略ブロック図である。
【符号の説明】
【0072】
20,120,220,320 電気自動車、22a,22b 駆動輪、24 ディファレンシャルギヤ、26 駆動軸、30,130,230,330 モータ(クリープトルク発生)、34、134,136 インバータ、36 バッテリ、51 シフトレバー、52 シフトポジションセンサ、53 アクセルペダル、54 アクセルペダルポジションセンサ、55 ブレーキペダル、56 ブレーキペダルポジションセンサ、58 車速センサ、100 トルク設定基本特性線、110,120 トルク上限値設定線、122,222,322 エンジン、124 遊星歯車機構、226 ツインロータ電動機、332 変速機、BP ブレーキペダル踏込み量、SP シフトポジション、T0 トルク指令値、T1,T2 トルク上限値、Ts クリープトルク指令値(一次的)、Ts♯ クリープトルク指令値(最終的)、Tup トルク上限値、V 車速。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定条件の成立時に、電動機が発生する駆動力によってクリープトルクを発生する電気自動車であって、
運転者によるブレーキペダル操作を検出するブレーキ検知手段と、
当該電気自動車の車速を検出する車速検出手段と、
前記クリープトルクの発生時に、所定の基本特性線に基づいて、前記車速に応じてクリープトルク指令値を設定する第1のクリープトルク設定手段と、
前記クリープトルクの発生時に、前記運転者によって前記ブレーキペダルが踏込まれているときに、前記ブレーキペダルの踏込み量に応じて前記クリープトルクの上限値を設定するクリープトルクカット手段とを備え、
前記クリープトルクカット手段は、
前記ブレーキペダルの踏込み量に応じた前記クリープトルクの上限値を設定する所定の複数の上限値設定特性線にそれぞれ基づいて、前記クリープトルクの上限値を設定するための複数のクリープトルク上限値設定手段と、
当該電気自動車の車両状況に応じて、前記複数のクリープトルク上限値設定手段のうちの1つを選択するクリープトルク上限値設定選択手段と、
前記第1のクリープトルク設定手段によって設定されたクリープトルク指令値が前記選択されたクリープトルク上限値設定手段によって設定されたトルク上限値よりも大きいときには、該トルク上限値を新たに前記クリープトルクの指令値とする第2のクリープトルク設定手段とを含む、電気自動車。
【請求項2】
前記クリープトルク上限値設定選択手段は、前記車両状況から運転者が減速を意図していると推定されるときには、前記第1のクリープトルク設定手段によるクリープトルク指令値よりも小さい前記トルク上限値が設定されるように、前記クリープトルク上限値設定手段を選択する、請求項1記載の電気自動車。
【請求項3】
前記クリープトルク上限値設定選択手段は、当該電気自動車が減速中であり、かつ、前記ブレーキペダルの踏込み量が減少していないときに、前記運転者が減速を意図していると推定する、請求項2記載の電気自動車。
【請求項4】
前記クリープトルク上限値設定選択手段は、前記車両状況から運転者が減速を意図していないと推定されるときには、前記第1のクリープトルク設定手段によるクリープトルク指令値に従って前記クリープトルクが発生されるように、前記クリープトルク上限値設定手段を選択する、請求項1記載の電気自動車。
【請求項5】
前記所定条件成立後において当該電気自動車が減速していない場合には、前記ブレーキペダルの同一の踏込み量に対応してより大きい前記トルク上限値が設定されるように、前記クリープトルク上限値設定手段が選択される、請求項1記載の電気自動車。
【請求項6】
前記所定条件成立後において前記ブレーキペダルの踏込み量が減少している場合には、前記ブレーキペダルの同一の踏込み量に対応してより大きい前記トルク上限値が設定されるように、前記クリープトルク上限値設定手段が選択される、請求項1記載の電気自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−50811(P2006−50811A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−229481(P2004−229481)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】