説明

電気自動車

【課題】快適な操作性能を確保するとともに、走行安定性に優れた電気自動車を提供する。
【解決手段】電気自動車1は、前輪側の左右輪に制駆動力を伝達する前輪用モータ3fと、後輪側の左右輪に制駆動力を伝達する後輪用モータ3rと、前輪用モータ3fを駆動する前輪用インバータ8fと、後輪用モータ3rを駆動する後輪用インバータ8rとを備え、前輪用モータ3f及び後輪用モータ3rは、車体の中心25aに対して線対称又は点対称に配置され、前輪用インバータ8f及び後輪用インバータ8rは、前輪用モータ3f及び後輪用モータ3rが線対称に配置されているときは線対称に配置され、前輪用モータ3f及び後輪用モータ3rが点対称に配置されているときは点対称に配置された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前後輪を2つの電気モータで独立に駆動する電気自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者が乗車した時に重心が車体の中心線上に位置するようにした電動車両が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この電動車両は、乗降性を向上させるために運転席を車体の中心線からずらして配置し、複数の個別バッテリからなる集合バッテリの重心を車体の中心線から運転席と反対方向にオフセットするように配置し、電動モータを運転席の後方近傍に配置したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−309343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の電動車両によれば、電動モータが運転席に近い位置に配置されているため、電動モータの振動やモータ音が運転者に伝達され易く、快適な操作性能が確保され難い。
【0006】
そこで、本発明は、快適な操作性能を確保するとともに、走行安定性に優れた電気自動車を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記課題を解決するため、前輪側の左右輪に制駆動力を伝達する第1の電気モータと、後輪側の左右輪に制駆動力を伝達する第2の電気モータと、前記第1の電気モータを駆動する第1のインバータと、前記第2の電気モータを駆動する第2のインバータとを備え、前記第1及び第2の電気モータは、車体の中心に対して線対称又は点対称に配置され、前記第1及び第2のインバータは、前記第1及び第2の電気モータが線対称に配置されているときは線対称に配置され、前記第1及び第2の電気モータが点対称に配置されているときは点対称に配置された電気自動車を提供する。
【0008】
上記構成によれば、上記第1及び第2の電気モータ、及び第1及び第2のインバータを上記のように配置することにより、電気自動車全体の重心が車体の中心にほぼ位置し、安定した走行が可能になる。ここで、前輪用の第1の電気モータを運転席から離すことにより、第1の電気モータから発生する振動やモータ音が運転者に伝達し難くなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、快適な操作性能を確保するとともに、走行安定性に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る電気自動車の構成を概念的に示すブロック図である。
【図2】図2は、H型配線部の構造を説明するための図であり、(a)は前方配線部の断面図、(b)は後方配線部の断面図、(c)は中央配線部の断面図である。
【図3】図3は、コントローラを機能的に示すブロック図である。
【図4】図4は、駆動力及び制動力とスリップ率との関係を示す図である。
【図5】図5は、制動力の前輪及び後輪への分配方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の実施の形態に係る電気自動車の構成を概念的に示すブロック図である。なお、同図では、構成要素の位置が前輪側か後輪側か、前輪側の右側か左側か、後輪側の右側か左側かを示す付加記号f、r、fr、fl、rr、rlを構成要素に付している。また、構成要素の位置を特に区別する必要がない場合には、上記付加記号や位置を示す「前輪用」、「後輪用」の語を省略することもある。
【0012】
(全体の構成)
この電気自動車1は、前輪2fr、2flを第1の差動装置としての前輪用差動装置4f及び車軸5fr、5flを介して駆動する第1の電気モータとしての前輪用モータ3fと、後輪2rr、2rlを第2の差動装置としての後輪用差動装置4r及び車軸5rr、5rlを介して駆動する第2の電気モータとしての後輪用モータ3rと、電気自動車1の駆動エネルギー源としての主電源部6と、電気自動車1の電子機器用の低電圧バッテリ7と、主電源部6からの電力を交流電力に変換してモータ3f、3rに供給する前輪用インバータ8f及び後輪用インバータ8rと、車体25の中心線Lcよりも左右のいずれか一方(本実施の形態では右側)に配置された運転席9と、目標トルクに応じた信号をインバータ8f、8rに出力するとともに、前輪用モータ3f及び後輪用モータ3rの制駆動力を独立に制御するコントローラ10と、モータ3f、3r等を冷却するラジエター11と、車軸5fr、5fl、5rr、5rlの回転を制動する機械ブレーキ18fr、18fl、18rr、18rlと、機械ブレーキ18fr、18fl、18rr、18rlに液圧を供給して摩擦制動を生じさせる圧力調整ユニット12とを備えた、前後輪独立駆動型の電気自動車である。
【0013】
また、この電気自動車1は、運転者が操作するアクセルペダル、ブレーキペダル、及び前進や後進を指定するためのシフトレバー等の操作手段と、前輪用モータ3f及び後輪用モータ3rの回転数をそれぞれ検出するエンコーダ16f、16rと、車体25の前方側に設けられた2つのカメラ20fr、20rlと、車体25の後方側に設けられたカメラ21と、モータ3f、3rの温度をそれぞれ検出する温度センサ27f、27rと、車輪2の回転速度を検出する車輪速センサ28fr、28fl、28rr、28rlとを備える。
【0014】
なお、本明細書において、「制駆動力」は、自動車を減速させる制動力と、自動車を加速させる駆動力の両方を意味する場合や一方のみを意味する場合がある。
【0015】
(電源系)
主電源部6は、互いに並列に接続された一対のバッテリ60r、60lと、高電圧バッテリ60r、60lのそれぞれの出力側に並列に接続された一対の平滑コンデンサ(例えば6500μF)61r、61lとを備える。
【0016】
高電圧バッテリ60r、60lは、前輪用モータ3f及び後輪用モータ3rを駆動するための電力を出力することができる高電圧バッテリである。なお、電気自動車1の駆動エネルギー源として、バッテリの他に、乾電池等の一次電池、燃料電池等を用いてもよい。
【0017】
一対の高電圧バッテリ60r、60lは、ブスバー62によって後述するH型配線部13の中央配線部132内に設けられた端子部に電気的に接続可能に構成されている。端子部は、電源ケーブル142に接続されている。高電圧バッテリ60r、60lを交換するときは、車体25の側方からブスバー62に着脱することで容易に行うことができる。
【0018】
前輪用モータ3f及び後輪用モータ3rは、例えば同期モータ(Synchronous Motor)、誘導モータ(Induction Motor)等の各種のモータを用いることができる。前輪側及び後輪側それぞれにおいて、モータ3の回転は、差動装置4を介して車軸5に伝達される。車軸5は車輪2と一体的に回転する。すなわち、電気自動車1は、前輪2fr、2flと、後輪2rr、rlを互いに独立に制御可能に前輪2fr、2fl及び後輪2rr、rlに対応して2つのトルク発生源を有している。
【0019】
インバータ8は、高電圧バッテリ60からの電力を交流電力に変換し、コントローラ10からの信号に応じた電流をモータ3に出力してモータ3を駆動する。また、インバータ8は、モータ3により発電された交流電力を直流電力に変換してコンデンサ61を介して高電圧バッテリ60を充電する。
【0020】
低電圧バッテリ7は、主電源部6の直流の高電圧を図示しないDC/DCコンバータにより変換して直流の低電圧(例えば12V)に変換して出力するものである。低電圧バッテリ7として、例えば電気二重層キャパシタ(EDLC:Electric Double Layer Capacitor)を用いることができる。
【0021】
コントローラ10は、前輪用モータ3fの1次巻線の電流をそれぞれ検出する後述する電流センサ15a〜15c、及び後輪用モータ3rの1次巻線の電流をそれぞれ検出する後述する電流センサ17a〜17cからの電流検出信号を受信し、目標トルクに応じた信号をインバータ8f、8rに出力する。
【0022】
差動装置4f、4rは、例えば車軸5fr、5fl、5rr、5rlに連結された一対のサイドギヤ、これら一対のサイドギヤに噛み合う複数のピニオンギヤ、及び複数のピニオンギヤを自転可能に支持するデフケースを備えた所謂オープンデフを用いることができる。前輪用モータ3fの制駆動力は、前輪用差動装置4fにより右前輪2fr及び左前輪2flに配分される。また、後輪用モータ3rの制駆動力は、後輪用差動装置4rにより右後輪2rr及び左後輪2rlに配分される。なお、差動装置は、前輪側の車軸5fr、5flへの制駆動力の配分率、又は後輪側の車軸5rr、5rlへの制駆動力の配分率をコントローラ10により制御可能な機構を備えたものでもよい。
【0023】
(ブレーキ系)
電気自動車1では、電気ブレーキと機械ブレーキとが併用される。すなわち、電気自動車1では、駆動源としてのモータ3により制動力を発生可能である。電気ブレーキは、例えば、制動エネルギーを熱エネルギーに変換する発電ブレーキ、及び制動により発生する電気を回生する回生ブレーキである。本実施の形態では、主として回生ブレーキを用いるが、低速領域では発電ブレーキを用いる場合もある。回生ブレーキは、モータ3が発電した電力をコンデンサ61r、61lを介して高電圧バッテリ60r、60lに回生し、これにより制動力を発生させる。
【0024】
機械ブレーキ18は、例えばドラムブレーキやディスクブレーキであり、圧力調整ユニット12からの加圧液体によりブレーキシューを被制動部材に押し付けて摩擦力による摩擦制動を得るものである。機械ブレーキ18の動作は、コントローラ10により各車輪2に対して独立に制御される。なお、ブレーキシューをモータ等のアクチュエータにより被制動部材に押し付けてもよい。
【0025】
圧力調整ユニット12は、コントローラ10からの信号により機械ブレーキ18に加圧液体を分配して機械ブレーキ18毎に異なる制動力を付与可能に構成されている。なお、圧力調整ユニット12及び機械ブレーキ18は、摩擦ブレーキ機構を構成する。
【0026】
(撮像系)
前方のカメラ20fr、20flは、電気自動車1の前方側の路面を撮像し、撮像した画像をコントローラ10に出力する。コントローラ10は、カメラ20fr、20flから取得した画像に基づいて路面の変化を検出して、制駆動に関する処理を実行する。前方のカメラ20fr、20flは、その撮像領域は互いに少なくとも一部が重複している。カメラ20fr、20flは、例えばCCD(Charge Coupled Device)カメラにより構成されている。
【0027】
後方のカメラ21は、電気自動車1の後方側の路面を撮像し、撮像した画像をコントローラ10に出力する。コントローラ10は、カメラ21から取得した画像に基づいて路面の変化を検出して、制駆動に関する処理を実行する。カメラ21は、例えばCCDカメラにより構成されている。
【0028】
(各部品の配置)
この電気自動車1は、運転者(例えば体重75kg)が運転席に乗車したときに、電気自動車1の全体の重心Gが車体25の中心25aにほぼ位置(例えば中心25aから10cm又は20cm以内)するように電気自動車1を構成する部品、例えば前輪及び後輪駆動系を構成する部品の位置を定めている。すなわち、前輪用モータ3f及び後輪用モータ3rは、車体25の中心25aに対して線対称又は点対称に配置され、前輪用インバータ8f及び後輪用インバータ8rは、前輪用モータ3f及び後輪用モータ3rが線対称に配置されているときは、線対称に配置され、前輪用モータ3f及び後輪用モータ3rが点対称に配置されているときは点対称に配置されている。本実施の形態は、前輪用モータ3f及び後輪用モータ3rが車体25の中心25aに対して点対称に配置され、前輪用インバータ8f及び後輪用インバータ8rは、車体25の中心25aに対して点対称に配置されている。
【0029】
また、前輪用モータ3f、後輪用モータ3r、及び前輪用インバータ8f及び後輪用インバータ8rを車体25の中心25aに対して線対照又は点対照に配置したときの車体25の中心25aを通る軸(横方向のx軸、縦方向のy軸)の周りのモーメントを打ち消すようにラジエター11、コントローラ10及び一対の高電圧バッテリ60r、60lを含む前輪及び後輪駆動系を配置して電気自動車1の全体の重心Gが車体25の中心25aにほぼ位置するようにしてもよい。
【0030】
また、電気自動車1を構成する各部品を次のように配置してもよい。すなわち、前輪用モータ3fは、車体25の中心25aよりも前方であって運転席9と反対側に配置されている。後輪用モータ3rは、前輪用モータ3fに対して点対照の位置に配置されている。また、前輪用インバータ8fは、車体25の中心25aよりも前方であって運転席9の側に配置されている。後輪用インバータ8rは、前輪用インバータ8fに対して点対照の位置に配置されている。主電源部6を構成する一対の高電圧バッテリ60f、60r及び一対の平滑コンデンサ61f、61rは、中心線Lcに対して線対称の位置に配置されている。また、前輪用モータ3f、前輪用インバータ8f、ラジエター11、コントローラ10、低電圧バッテリ7及び圧力調整ユニット12は、前輪側の左右輪2fr、2flよりも前方に配置されている。
【0031】
なお、電気自動車1を構成する各部品の配置は、運転者の体重を考慮しなくてもよいし、運転者(例えば体重75kg)と助手席(例えば体重75kg)に乗車する者の体重を考慮してもよい。また、予め定められた体重の運転者が運転席に乗車したとき、運転者が乗車していないときよりも電気自動車全体の重心が車体25の中心25aに移動するように電気自動車1を構成する部品を配置してもよい。
【0032】
前輪用モータ3f、後輪用モータ3r、前輪用インバータ8f、後輪用インバータ8rの重量をそれぞれW3f、W3r、W8f、W8rとすると、これらの関係は、本実施の形態では次のようになる。
W3r>W3f>W8r>W8f
なお、W3r=W3f>W8r>W8f、又はW3f>W3r>W8f>W8rでもよい。
【0033】
(H型配線部の構造)
上記のように配置した各部品等へのケーブルは、H型配線部13を用いて配線している。H型配線部13は、前方の車軸5fr、5flに沿って設けられた前方配線部130と、後方の車軸5rr、5rlに沿って設けられた後方配線部131と、前方配線部130の中央と後方配線部131の中央部とを接続する中央配線部132とから構成されている。H型配線部13の詳細については、図面を参照して説明する。
【0034】
図2は、H型配線部13の構造を説明するための図であり、(a)は前方配線部130の断面図、(b)は後方配線部131の断面図、(c)は中央配線部132の断面図である。H型配線部13は、上壁13a、下壁13b、側壁13c、13dで覆われ、内部は仕切り壁13eによって仕切られている。
【0035】
図2(a)に示すように、前方配線部130の仕切り壁13eの上段は、信号ケーブル141が収容される信号ケーブル配線領域130aであり、仕切り壁13eの下段は、電源ケーブル142が収容される電源ケーブル配線領域130bである。
【0036】
図2(b)に示すように、後方配線部131の仕切り壁13eの上段は、信号ケーブル141が収容される信号ケーブル配線領域131aであり、仕切り壁13eの下段は電源ケーブル142が収容される電源ケーブル配線領域131bである。
【0037】
図2(c)に示すように、中央配線部132の仕切り壁13eの上段は、信号ケーブル141が収容される信号ケーブル配線領域132aであり、仕切り壁13eの下段は電源ケーブル142が収容される電源ケーブル配線領域132bである。そして、信号ケーブル配線領域132aは、仕切り仕切り壁13fによって2つの信号ケーブル配線領域132a、132aに区分けされている。
【0038】
上壁13a、下壁13b、側壁13c、13d及び仕切り壁13e、13fは、例えばアルミニウム、銅、ステンレススチール等の金属から形成されている。信号ケーブル141と電源ケーブル142とを仕切り壁13eによって仕切ることにより、信号ケーブル141によって伝送される信号に電源ケーブル142からのノイズが混入するのを抑制することができる。
【0039】
車体25の中心25aに対し、右前方に位置する前輪用インバータ8f、機械ブレーキ18fr、車輪速センサ28fr等の部品からの信号ケーブル141及び電源ケーブル142は、前方配線部130、中央配線部132等を介して他の部品に接続される。
【0040】
車体25の中心25aに対し、左前方に位置する前輪用モータ3f、エンコーダ16f、電流センサ15a〜15c、機械ブレーキ18fl、温度センサ27f、車輪速センサ28fl等の部品からの信号ケーブル141及び電源ケーブル142は、前方配線部130、中央配線部132等を介して他の部品に接続される。
【0041】
車体25の中心25aに対し、左後方に位置する後輪用インバータ8r、機械ブレーキ18rl、車輪速センサ28rl等の部品からの信号ケーブル141及び電源ケーブル142は、後方配線部131、中央配線部132等を介して他の部品に接続される。
【0042】
車体25の中心25aに対し、右後方に位置する後輪用モータ3r、エンコーダ16r、電流センサ17a〜17c、機械ブレーキ18rr、温度センサ27r、車輪速センサ28rr等の部品からの信号ケーブル141及び電源ケーブル142は、後方配線部131、中央配線部132等を介して他の部品に接続される。
【0043】
図示は省略するが、ラジエター11からの水冷却用のパイプは、中央配線部132内を通って後輪用モータ3rに導かれて後輪用モータ3rを冷却するとともに、水冷却用のパイプを前輪用モータ3fに直接導かれて前輪用モータ3fを冷却している。なお、ラジエター11からの冷却水によりモータ3のみならず、インバータ8f、8r等の電気系統を前後独立に冷却してもよい。
【0044】
H型配線部13を車体構造の一部として機能するように車体ベースに取り付けてもよい。これにより車両の剛性アップを図ることができる。
【0045】
(制御系)
図3は、コントローラ10を機能的に示すブロック図である。コントローラ10は、例えばコンピュータにより構成され、CPU100と、半導体メモリ、ハードディスク等の記憶部110と、前輪用インバータ8fを駆動する前輪用駆動回路9fと、後輪用インバータ8rを駆動する後輪用駆動回路9rとを有する。
【0046】
コントローラ10には、前記カメラ20fr、20flと、前記エンコーダ16f、16rと、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサ22と、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキセンサ23と、シフトセンサ24と、加速度センサ(加速度検出部)26と、前記車輪速センサ28fr、28fl、28rr、28rlと、操舵角センサ29とが接続されている。
【0047】
エンコーダ16f、16rは、前輪側及び後輪側のそれぞれにおいて、モータ3f、3rの回転数を検出し、検出した回転数に応じた信号をコントローラ10に出力する。
【0048】
アクセルセンサ22は、アクセルペダルの踏み込み量を検出し、検出した踏み込み量に応じた信号をコントローラ10に出力する。
【0049】
ブレーキセンサ23は、ブレーキペダルの踏み込み量を検出し、検出した踏み込み量に応じた信号をコントローラ10に出力する。
【0050】
シフトセンサ24は、シフトレバーの位置を検出し、検出した位置に応じた信号をコントローラ10に出力する。
【0051】
加速度センサ26は、車体25の中心(電気自動車1の重心Gでもある)25aに設けられ、車体25の推進前後方向、横方向、重心軸回りの回転方向(旋回方向)の3方向の加速度a、a、aθを検出する3軸加速度センサであり、検出した加速度a、a、aθに応じた信号をコントローラ10に出力する。
【0052】
車輪速センサ28fr、28fl、28rr、28rlは、車輪の回転速度ωを検出し、検出した回転速度ωに応じた信号をコントローラ10に出力する。
【0053】
操舵角センサ29は、ステアリングホイールの操作角γを検出し、検出した操舵角γに応じた信号をコントローラ10に出力する。
【0054】
コントローラ10は、運転者がアクセルペダル、ブレーキペダル等の操作手段を操作することによって発生する操作入力情報に応じた加速、減速等の動作を行うための動作指令を前輪用駆動回路9f、後輪用駆動回路9r、機械ブレーキ18に出力し、前輪駆動系及び後輪駆動系の駆動トルク(駆動力)及び制動トルク(制動力)を制御する。これにより、電気自動車1は、運転者の操作に従って走行することができる。
【0055】
コントローラ10は、各センサ22、23、24からの信号等に応じて前輪用モータ3fの目標トルク及び後輪用モータ3Rrの目標トルクをそれぞれ算出し、前輪用駆動回路9f、後輪用駆動回路9rに出力する。前輪側及び後輪側それぞれにおいて、駆動回路9は、コントローラ10から指令された目標トルクに応じた信号をインバータ8に出力する。
【0056】
記憶部110には、路面パターン111、μ−SrLimitテーブル112、後述する図4に示すような制駆動力とスリップ率の関係情報等の各種のデータと、制駆動プログラム113等の各種のプログラムが格納されている。
【0057】
CPU100は、制駆動プログラム113に従って動作することにより、路面摩擦係数μ推定手段(推定部)101、スリップ率上限値設定手段(設定部)102、スリップ率演算手段(演算部)103、制動力制御手段(制御部)104等として機能する。
【0058】
(路面摩擦係数μ推定手段)
路面摩擦係数μ推定手段101は、前方のカメラ20fr、fl(車両後退時は後方のカメラ21)が撮像した画像に基づいて、自動車1の走行する路面が、乾燥路面、湿潤路面、凍結・雪路路面等のいずれかであるかを判定し、路面の摩擦係数μを推定する。これらの路面は、摩擦係数μが大きく異なる代表的な路面である。当該判定は、撮像した画像と、予め各路面状況において撮像された路面パターン111とのパターンマッチングにより行う。路面パターン111は、路面の摩擦係数μに関連付けて記憶部110に記憶されている。なお、当該判定を輝度等が所定の閾値を超えたか否かの判断により行うなど、公知の技術を適宜用いて行ってもよい。
【0059】
(スリップ率上限値設定手段)
図4は、駆動力及び制動力とスリップ率との関係を示す図である。実線L1は、乾路路面、実線L2は湿潤路面、実線L3は凍結・雪路路面の場合を示している。これらの各路面は、摩擦係数が大きく異なる代表的な路面である。摩擦係数は、例えば、乾路路面では0.75、湿潤路面では0.4、凍結・雪路路面では0.2である。記憶部110には、図4に示すように、路面の摩擦係数μとスリップ率上限値SrLimitとの関係を示すμ−SrLimitテーブル112が記憶されている。μ−SrLimitテーブル112には、例えば、乾路路面(μ=0.75)に対応してスリップ率上限値SrLimit1(|Sr|=0.16)が記憶され、湿潤路面(μ=0.4)に対応してスリップ率上限値SrLimit2(|Sr|=0.14)が記憶され、凍結・雪路路面(μ=0.2)に対応してスリップ率上限値SrLimit3(|Sr|=0.12)が記憶されている。
【0060】
スリップ率上限値設定手段102は、路面摩擦係数μ推定手段101が推定した路面の摩擦係数μに基づいて、記憶部110内のμ−SrLimitテーブル112を参照し、所定の値としてのスリップ率上限値SrLimitを設定する。スリップ率上限値SrLimitは、例えば、図4における各路面状況に応じて発揮し得る制駆動力の最大値付近の値に設定されるが、最大値付近の値に限られない。スリップ率上限値SrLimitは、例えば路面の摩擦係数に応じて発揮し得る最大制動力の70〜90%よりも高い制駆動力が発揮されるスリップ率に設定することができる。
【0061】
(スリップ率演算手段)
スリップ率演算手段103は、車体速度をV、車輪2の回転速度をω、車輪2の半径をRとしたとき、駆動時の車輪2のスリップ率Srを以下の式により算出する。
Sr=(Rω−V)/Rω ・・・・式(1)
【0062】
また、スリップ率演算手段103は、制動時の車輪2のスリップ率Srを以下の式により算出する。
Sr=(Rω−V)/V ・・・・式(2)
【0063】
式(1)から理解されるように、駆動時においてスリップ率Srが1.0になる場合は、V=0であり、ホイルスピンが生じている状態である。式(2)から理解されるように、制動時においてスリップ率Srが−1.0になる場合は、ω=0であり、ホイルロックが生じている状態である。すなわち、スリップ率Srの絶対値が1である状態は、いずれも路面に制駆動力(駆動力又は制動力)を伝えられない状態である。また、スリップ率Srが0である状態は、車輪2と路面との間に滑りがない状態である。
【0064】
(制駆動力制御手段)
制駆動力制御手段104は、μ−SrLimitテーブル112、図4に示すような制駆動力とスリップ率の関係情報等に基づいて、スリップ率をある目標値に制御するスリップ率制御、荷重移動に伴うホイールロック、ホイールスピンの抑制制御等を行う。以下、それらの制御について説明する。
【0065】
<スリップ率制御>
制駆動力制御手段104は、左右輪同士でスリップ率|Sr|を比較し、大きい方のスリップ率|Sr|が設定されたスリップ率上限値SrLimitとなるようにモータ3f、3rの駆動力、又はモータ3f、3rの電気ブレーキ及び機械ブレーキ18の制動力を制御する。また、制駆動力制御手段104は、アクセルペダル又はブレーキペダルの踏み込み量による制駆動力を超えない範囲で制駆動力を制御する。
【0066】
<荷重移動に伴うホイールロック、ホイールスピンの抑制制御>
図5は、電気自動車1における制動力の前輪2fr、2fl及び後輪2rr、2rlヘの分配方法を説明するための図である。
【0067】
図5に示すように、電気自動車1が加速度aで減速するときの制動力Fcarは、
Fcar=M×a ・・・式(3)
となる。ここで、Mは、電気自動車1全体の質量(車体質量)である。
【0068】
そのときの荷重移動量Zは、制動力Fcarによって生じる電気自動車1の重心G回りのモーメントを前輪2fr、2fl及び後輪2rr、2rlの接地点における垂直荷重に換算した次式(4)により得られる。
Z=Fcar×Hcar/Lcar ・・・式(4)
ここで、Hcarは、電気自動車1の重心Gの接地面からの高さであり、Lcarは、電気自動車1のホイールベースである。
【0069】
また、電気自動車1が停止しているときの前輪荷重をWf、後輪荷重をWr、路面の摩擦係数をμとすると、摩擦力と釣り合う前輪及び後輪の制動力、すなわち、前輪2fr、2flの最大制動力Ffmax及び後輪2rr、2rlの最大制動力Frmaxは、それぞれ次式(5)、(6)により表される。
Ffmax=μ(Wf+Z) ・・・式(5)
Frmax=μ(Wr−Z) ・・・式(6)
【0070】
従って、前輪側及び後輪側のそれぞれにおけるモータ3及び機械ブレーキ18による制動力が、最大制動力Ffmax及び最大制動力Frmaxとなるように、モータ3及び機械ブレーキ18の動作を制御すれば、電気自動車1全体として最も制動力が大きくなり、ホイールロックを抑制することができる。以上は減速時の説明であるが、加速時も同様であり、荷重移動に基づいて最適な駆動力となるように制御することにより、ホイールスピンを抑制することができる。
【0071】
例えば、電気自動車1の前進時における減速時には、加速度の大きさに応じた荷重移動によって前輪側の荷重が増加し、後輪側の荷重が減少する。制動力制御手段104は、前輪のスリップ率上限値SrLimitを、例えば車輪荷重の増加に応じて発揮し得る最大制動力の70〜90%よりも高い制動力が発揮されるスリップ率に設定することができる。また、後輪側のスリップ率上限値SrLimitを後輪側の荷重の減少分に応じて制動力を制限するように補正することによって、前輪側に後輪側よりも大きな制動力を発生させ、より適切な制動力を各車輪2に付与することができる。
【0072】
また、電気自動車1の前進時における加速時には、加速度の大きさに応じた荷重移動によって前輪側の荷重が減少し、後輪側の荷重が増加する。制動力制御手段104は、後輪のスリップ率上限値SrLimitを、例えば車輪荷重の増加に応じて発揮し得る最大制動力の70〜90%よりも高い駆動力が発揮されるスリップ率に設定することができる。また、前輪側のスリップ率上限値SrLimitを前輪側の荷重の減少分に応じて駆動力を制限するように補正することによって、後輪側に前輪側よりも大きな駆動力を発生させ、より適切な駆動力を各車輪2に付与することができる。
【0073】
(実施の形態の効果)
本実施の形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)モータ3f、3r、インバータ8f、8rを点対称に配置し、一対の高電圧バッテリ60r、60lを線対称に配置することにより、重心Gが車体25の中心25aにほぼ位置し、走行安定性に優れたものとなる。
(2)中心線Lcに対し前輪用モータ3fを運転席9と反対側に配置して、前輪用モータ3fを運転席から離すことにより、前輪用モータ3fが破損したときの運転者の安全を確保することができ、前輪用モータ3fから発生する振動やモータ音が運転者に伝達し難くなる。このため、快適な操作性能を確保することができる。
(3)前輪側の左右輪2fr、2flよりも前方には、ラジエター11、コントローラ10、低電圧バッテリ7及び圧力調整ユニット12等を配置しているので、前方のボンネットを開けて制御系の点検が容易になる。
(4)一対の高電圧バッテリ60r、60lは、互いに並列に接続されているので、一対の高電圧バッテリ60r、60lのうち一方が故障しても他方の高電圧バッテリ60から直流電力を供給することができる。
(5)高電圧バッテリ60r、60lを交換するときは、車体25の側方からブスバー62に着脱することで容易に行うことができる。
(6)信号ケーブル141と電源ケーブル142とは、H型配線部13の仕切り壁13e、13fによって分離することができるため、電源ケーブル142から発生する電磁波ノイズが信号ケーブル141を伝送する信号に混入するのを抑制することができる。
【0074】
本発明は、上記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々に変形実施が可能である。例えば、各手段101〜104をCPU100と制駆動プログラム113によって実現したが、ASIC(Application Specific IC)等のハードウエアによって実現してもよい。
【0075】
また、制駆動プログラム113は、CD−ROM等の記録媒体からコントローラ10内に取り込んでもよく、サーバ装置等からネットワークを介してコントローラ10内に取り込んでもよい。
【0076】
また、上記実施の形態では、ラジエターを車体の前方に配置したが、車体の前方と後方にそれぞれ配置してもよい。
【符号の説明】
【0077】
1…電気自動車、2…車輪、2fr、2fl…前輪、2rr、rl…後輪、3f…前輪用モータ、3r…後輪用モータ、4f、4r…差動装置、5fr、5fl、5rr、5rl…車軸、6…主電源部、7…低電圧バッテリ、8f…前輪用インバータ、8r…後輪用インバータ、9f…前輪用駆動回路、9r…後輪用駆動回路、10…コントローラ、11…ラジエター、12…圧力調整ユニット、13…H型配線部、13a…上壁、13b…下壁、13c、13d…側壁、13e、13f…仕切り壁、15a〜15c…電流センサ、16f、16r…エンコーダ、17a〜17c…電流センサ、18fr、18fl、18rr、18rl…機械ブレーキ、20fr、20fl…カメラ、21…カメラ、22…アクセルセンサ、23…ブレーキセンサ、24…シフトセンサ、25…車体、25a…車体の中心、26…加速度センサ、27f、27r…温度センサ、28fr、28fl、28rr、28rl…車輪速センサ、29…操舵角センサ、60r、60l…高電圧バッテリ、61r、61l…平滑コンデンサ、62…ブスバー、100…CPU、101…路面摩擦係数μ推定手段、102…スリップ率上限値設定手段、103…スリップ率演算手段、104…制動力制御手段、110…記憶部、111…路面パターン、112…μ−SrLimitテーブル、113…制駆動プログラム、130…前方配線部、131…後方配線部、132…中央配線部、141…信号ケーブル、130a、131a、132a、132a…信号ケーブル配線領域、130b、131b、132b…電源ケーブル配線領域、142…電源ケーブル、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪側の左右輪に制駆動力を伝達する第1の電気モータと、
後輪側の左右輪に制駆動力を伝達する第2の電気モータと、
前記第1の電気モータを駆動する第1のインバータと、
前記第2の電気モータを駆動する第2のインバータとを備え、
前記第1及び第2の電気モータは、車体の中心に対して線対称又は点対称に配置され、
前記第1及び第2のインバータは、前記第1及び第2の電気モータが線対称に配置されているときは線対称に配置され、前記第1及び第2の電気モータが点対称に配置されているときは点対称に配置された電気自動車。
【請求項2】
前輪側の左右輪に第1の差動装置を介して制駆動力を伝達する第1の電気モータと、
後輪側の左右輪に第2の差動装置を介して制駆動力を伝達する第2の電気モータと、
前記第1の電気モータを駆動する第1のインバータと、
前記第2の電気モータを駆動する第2のインバータと、
前記第1及び/又は第2の電気モータを冷却するラジエターと、
前記第1及び第2のインバータを制御して前記第1及び第2の電気モータが出力する制駆動力を制御するコントローラと、
互いに並列に接続され、前記第1及び第2のインバータに直流電力を供給する一対のバッテリとを備えた前輪及び後輪駆動系を有し、
前記第1及び第2の電気モータは、車体の中心に対して線対称又は点対称に配置され、前記第1及び第2のインバータは、前記第1及び第2の電気モータが線対称に配置されているときは線対称に配置され、前記第1及び第2の電気モータが点対称に配置されているときは点対称に配置され、前記第1及び第2の電気モータ、及び前記第1及び第2のインバータを前記車体の中心に対して線対照又は点対照に配置したときの前記車体の中心を通る軸の周りのモーメントを打ち消すように前記ラジエター、前記コントローラ及び前記一対のバッテリを含む前記前輪及び後輪駆動系を配置した電気自動車。
【請求項3】
前記第1の電気モータは、前記車体の中心よりも前方であって、前記車体の前後方向に沿う中心線から一方にずれて配置された運転席と反対側に配置され、
前記第2の電気モータは、前記第1の電気モータに対して点対照の位置に配置され、
前記第1のインバータは、前記車体の中心よりも前方であって前記運転席の側に配置され、
前記第2のインバータは、前記第1のインバータに対して点対照の位置に配置された請求項1又は2に記載の電気自動車。
【請求項4】
前記一対のバッテリが出力する電圧よりも低い電圧を出力する低電圧バッテリを更に備え、
前記第1の電気モータ、前記第1のインバータ、前記ラジエター、前記低電圧バッテリ、前記コントローラを前記前輪側の左右輪よりも前方に配置した請求項2又は3に記載の電気自動車。
【請求項5】
前記第1及び第2の電気モータ、前記第1及び第2のインバータ、前記一対のバッテイリ、前記低電圧バッテリ、及び前記コントローラは、H型配線部を介して配線される請求項4に記載の電気自動車。
【請求項6】
前記H型配線部は、前輪側の車軸に平行な前方配線部と、後輪側の車軸に平行な後方配線部と、前記前方配線部の中央と前記後方配線部の中央とを接続する中央配線部とを備え、
前記一対のバッテリは、車体の側面方向から前記中央配線部に対して着脱可能に構成された請求項5に記載の電気自動車。
【請求項7】
前記ラジエターからの水パイプは、前記H型配線部の前記中央配線部を介して第2の電気モータに導かれた構成の請求項6に記載の電気自動車。
【請求項8】
前記H型配線部は、電源ケーブルと信号ケーブルを仕切り壁によって分離した請求項5、6又は7に記載の電気自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−135172(P2012−135172A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287392(P2010−287392)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(510073383)
【出願人】(000154347)株式会社ユニバンス (132)
【Fターム(参考)】