説明

電池制御装置および電力装置

【課題】異常信号を伝送するための系が故障した場合であっても、上位コントローラから異常が発生していることを検知することが可能な電池制御装置および電力装置を提供する。
【解決手段】電池セルBC1〜BC4の診断を行い診断結果を表す1ビットの異常信号を出力するセルコントローラ80と、異常信号を異常信号の変化の有無に係わらず時間変化する変換後異常信号にエンコードして出力するエンコーダ30と、異常信号と変換後異常信号とを上位コントローラ110へ送信するバッテリコントローラ20とを備える直流電源システム1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池制御装置および電力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用回転電機の駆動システムは直流電力を供給するための二次電池と前記二次電池から供給された直流電力を3相交流電力に変換するインバータ装置とを備えており、前記3相交流電力は車両に搭載された回転電機に供給される。前記3相交流の回転電機は一般には電動機の機能と発電機の機能とを備えており、回生制動運転など前記3相交流の回転電機が発電機として運転される場合には、前記回転電機が発電した3相交流電力は前記インバータ装置により直流電力に変換され、該直流電力が前記二次電池に供給され、前記二次電池により前記発電電力が蓄積される。
【0003】
前記二次電池として小型で大電力が蓄電できる観点からリチウム電池モジュールが適している。リチウム電池モジュールは直列接続された多数のリチウム電池セルを有しており、各リチウム電池セルの充電状態をそれぞれ検出し、過充電状態にならないように管理することが望ましい。なお前記充電状態はSOC(State Of Charge)と以下記載する。各リチウム電池セルは、例えば過放電状態にならないように充放電を管理することが望ましく、仮に過放電状態に維持されると最悪の場合、異常な発熱が生じる恐れがある。
【0004】
各リチウム電池セルの過充電を防止するために、各リチウム電池セルの端子電圧を検出し、各リチウム電池セルが過充電とならないように監視することが行われている。車両用電源は、常に振動が加わる状態で、しかも温度変化の激しい条件で長期間使用される可能性があり、信頼性に対し十分な配慮が望まれる。このような監視を行う直流電源システムが特許文献1に記載されている。この直流電源システムは、電池セルに異常が発生した場合にセルコントローラからバッテリコントローラへ電池セルの異常を表す異常信号を出力する。バッテリコントローラはこの異常信号を、CANを通じて上位コントローラへ送信するので、上位コントローラは電池セルに異常が発生したことを検知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−89487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている直流電源システムは、セルコントローラやバッテリコントローラ、あるいは異常信号の伝送路など、異常信号を伝送するための系が故障した場合、異常信号を上位コントローラに伝送できないため、上位コントローラから異常が発生していることを正しく検知することができない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、電池セルの診断を行い診断結果を表す1ビットの第1信号を出力する診断手段と、第1信号を、第1信号の変化の有無に係わらず時間変化する第2信号にエンコードして出力するエンコード手段と、第1信号と第2信号とを外部装置へ送信する送信手段と、を備えることを特徴とする電池制御装置である。
請求項4に係る発明は、電池セルの診断を行い診断結果を表す1ビットの第1信号を出力する診断手段と、第1信号を第1信号の変化の有無に係わらず時間変化する第2信号にエンコードして出力するエンコード手段と、第1信号と第2信号とを所定の伝送路へ送信する送信手段と、を有する電池制御装置と、所定の伝送路を通じて送信手段が送信した第1信号および第2信号を受信する受信手段と、受信手段が受信した第2信号に基づいて、受信手段が受信した第1信号の信頼性を判定する判定手段と、を有する信頼性判定装置と、を備えることを特徴とする電力装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、異常信号を伝送するための系が故障した場合であっても、異常信号を伝送する手段の異常を検知でき、上位コントローラは異常が発生していることを検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】車両用回転電機の駆動システムに使用される直流電源システムのブロック図である。。
【図2】前記集積回路3Aの一実施例を示す電子回路のブロック図である。。
【図3】図1に基づき上述した直流電源システムを車両用回転電機の駆動システムに適用した回路図である。
【図4】エンコーダ30の内部構造を示すブロック図である。
【図5】バッテリコントローラ20が正常に動作している場合のエンコーダ30の出力信号を示す図である。
【図6】バッテリコントローラ20に異常が発生した場合のエンコーダ30の出力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1の実施の形態)
本発明の一実施の形態である、直流電源システムについて説明する。この直流電源システムは、車両用回転電機の駆動システムに使用される。
【0011】
〈セルコントローラの説明〉
図1は、車両用回転電機の駆動システムに使用される直流電源システムのブロック図である。図1に示した直流電源システムは、リレーRLP,RLNに接続された負荷(例えばインバータ装置)へ直流電力を供給する。リレーRLPが供給される直流電力の正極側となり、リレーRLNが負極側となる。
【0012】
図1に示した直流電源システムは、リレーRLP,RLNに加えて、電池モジュール9,セルコントローラ(C/C)80,バッテリコントローラ20,エンコーダ30,電流計Si,および電圧計Vdを備える。電流計Siおよび電圧計Vdは、それぞれ電池モジュール9からリレーRLP,RLNに接続された負荷に供給される直流電流量および直流電圧量を検知する。検知結果はそれぞれバッテリコントローラの端子CUR,VALLへ出力される。
【0013】
電池モジュール9は複数個の電池セルのグループGB1,…,GBM,…,GBNを有している。前記各グループは複数個の直列接続された電池セルBC1〜BC4を有している。すなわち、電池モジュール9は直列に接続された多数の電池セルを有している。本実施形態では、電池セルは例えば数十個〜百数十個存在している。また、本実施形態において各電池セルはリチウムイオン電池である。
【0014】
各電池セルの端子電圧はその電池セルの充電状態で変化する。例えば、30%程度の充電状態では、開放端子電圧(OCV)は約3.3V程度となり、70%程度の充電状態では約3.8V程度となる。電池セルが過放電状態のとき、放電時のセル端子電圧は例えば2.5V以下になる場合があり、また過充電状態では充電時のセル端子電圧が4.2V以上になる場合がある。すなわち、電池セルBC1〜BC4はそれぞれ、セル端子電圧を計測することにより、充放電時の充電状態(SOC、State Of Charge)を把握できる。
【0015】
本実施形態では、端子電圧の計測を行い易くする等の理由により、1グループを4個の電池セルで構成している。すなわち、グループBG1〜GBNをそれぞれ4個の電池セルBC1〜BC4で構成している。なお、図1において、グループBG1とグループGBMとの間、およびグループGBMとグループGBNとの間にはさらに複数のグループが存在しているが、これらのグループはグループBG1と同様の構成であるので、説明の煩雑さを避けるために省略する。
【0016】
セルコントローラ80は、電池モジュール9を構成する各グループに対応して複数の集積回路(IC)を有している。図1では、グループGB1,…,GBM,…,GBNに対応する集積回路をそれぞれ3A,…,3M,…,3Nとして記載している。なお、上述した電池セルのグループと同様に、図1において、集積回路3Aと集積回路3Mとの間、および集積回路3Mと集積回路3Nとの間にはさらに複数の集積回路が存在しているが、これらの集積回路は集積回路3Aと同様の構成であるので、説明の煩雑さを避けるために省略する。
【0017】
集積回路3A〜3Nは、各電池セルの端子電圧を検出するために電圧検出用の端子V1〜V4,B1〜B4,およびGNDを備えている。端子V1〜V4,B1〜B4,およびGNDは、各々の集積回路に対応するグループの電池セルBC1〜BC4の正極および負極にそれぞれ接続されている。集積回路3A〜3Nは、それぞれ対応するグループGB1〜GBNの電池セルBC1〜BC4の電圧を検出するとともに、全グループの全電池セルのSOCを均一化するため、電池セルBC1〜BC4のSOCを個別に調整するための充電状態調整用抵抗R1〜R4が、スイッチ素子を介して各電池セルと並列に接続される構成となっている。前記スイッチ素子は図2を用いて後述する。
【0018】
集積回路3A〜3Nは信号伝送のための送受信端子TR,TX,FFI,およびFFOを有している。送信端子TXは、図1において下方向に隣り合う集積回路の受信端子TRと接続されており、集積回路3A〜3Nを直列に接続する信号伝送路52を構成している。送信端子FFOについても同様に、図1において下方向に隣り合う集積回路の受信端子FFIと接続されており、集積回路3A〜3Nを直接に接続する信号伝送路54を形成している。図1において最上部に位置している集積回路3Aの受信端子TRおよびFFIは、それぞれバッテリコントローラ20の送信端子TXおよびFFTESTに接続されている。同様に、図1において最下部に位置している集積回路3Nの送信端子TXおよびFFOは、それぞれバッテリコントローラ20の受信端子RXおよびFFに接続されている。
【0019】
集積回路3A〜3Nは更に、それぞれ対応するグループGB1〜GBNの電池セルBC1〜BC4の異常状態を検出する機能を有している。本実施形態において電池セルの異常状態とは、電池セルの過充電や過放電、および温度の異常上昇などを指す。
【0020】
集積回路3A〜3Nと上位のバッテリコントローラ20との信号の送受は、通信ハーネス50を介して行われる。バッテリコントローラ20は車両のシャーシ電位をグランド(GND)電位とし、12V以下の低電圧で動作するようになっている。一方、集積回路3A〜3Nは、対応するグループの電池セルの電位がそれぞれ異なる。従って、集積回路3A〜3Nは、それぞれ異なる電位に保持され、異なる電位で動作する。前述の通り、電池セルの端子電圧はSOCにより変化するので、電池モジュール9の最低電位に対する各々のグループの電位は、各々の電池セルのSOCに基づいて変化する。
【0021】
集積回路3A〜3Nは、それぞれ対応するグループの電池セルの端子電圧の検出、あるいは、対応するグループの電池セルのSOCの調整のための放電制御等を行うので、対応するグループの電位に基づいて集積回路3A〜3Nの基準電位を変化させる方が、集積回路3A〜3Nに加わる電圧差が小さくなる。集積回路3A〜3Nに加わる電圧差が小さい方が、集積回路3A〜3Nの耐圧をより小さくできる、あるいは安全性や信頼性が向上するなどの効果があるので、本実施形態では対応するグループの電位に基づいて集積回路3A〜3Nの基準電位を変化させるようにしている。具体的には、集積回路3A〜3Nの基準電位となるGND端子を、対応するグループの電池セルのどこかに接続することにより、集積回路の基準電位を対応するグループの電位に基づいて変化させることが可能となる。本実施形態では、各グループの最低位電位となる電池セルの負極を集積回路のGND端子と接続している。
【0022】
また、集積回路3A〜3Nがその内部で集積回路の内部回路を動作させる基準電圧や電源電圧を発生させるために、各集積回路は対応するグループの最高位電位となる電池セルの正極と集積回路のVcc端子とを接続している。このような構成により、各集積回路は、対応するグループの最高位電位と最低位電位との間の電位差すなわち電圧を受けて動作する。
【0023】
バッテリコントローラ20の電源系統とセルコントローラ80の電源系統とは電位関係が異なっており、また電圧の値も大きく異なるので、バッテリコントローラ20に接続される通信ハーネス50は、各集積回路3A〜3Nの送受信端子が直列接続されている伝送路52,54と電気的に絶縁されていることが必要となる。このため、通信ハーネス50と伝送路52,54とを電気的に絶縁するための絶縁回路が集積回路3A〜3Nで構成される伝送路52,54の入口側と出口側とにそれぞれ設けられている。図1では、伝送路52,54の入口側に設けた絶縁回路を入口側インタフェースINT(E)で、出口側に設けた絶縁回路を出口側インタフェースINT(O)でそれぞれ示している。
【0024】
これら各インタフェースINT(E),INT(O)は、電気信号が一旦光信号に変換され、その後再び電気信号に変換される回路を有する。バッテリコントローラ20とセルコントローラ80との間の情報の伝送はこの回路を介して行われるので、バッテリコントローラ20の電気回路とセルコントローラ80の電気回路との間の電気的な絶縁が維持される。入口側のインタフェースINT(E)はフォトカプラPH1,PH2を有している。フォトカプラPH1はバッテリコントローラ20の送信端子TXと高電位側の集積回路3Aの受信端子TRとの間に設けられている。フォトカプラPH2はバッテリコントローラ20の送信端子FFTESTと集積回路3Aの受信端子FFIとの間に設けられている。入口側インタフェースINT(E)内のフォトカプラPH1,PH2は上述のバッテリコントローラ20の各送信端子TX,FFTESTと集積回路3Aの受信端子TRやFFIとの間の電気的な絶縁を維持している。
【0025】
同様に、バッテリコントローラ20の受信端子RX,FFと低電位側の集積回路3Nとの間には、出口側インタフェースINT(O)のフォトカプラPH3,PH4がそれぞれ設けられ、バッテリコントローラ20の受信端子と集積回路3Nの各送信端子との間の電気的な絶縁が維持されている。詳述すると、集積回路3Nの送信端子TXとバッテリコントローラ20の受信端子RXとの間にフォトカプラPH3が設けられ、集積回路3Nの送信端子FFOとバッテリコントローラ20の受信端子FFとの間にフォトカプラPH4が設けられている。
【0026】
前述の通り、集積回路3A〜3Nは送受信端子TX,TRにより直列接続され、信号伝送路52を構成している。バッテリコントローラ20の送信端子TXから送信された信号は、入口側インタフェースINT(E)内のフォトカプラPH1を介して集積回路3Aの受信端子RXで受信される。その後、この信号は、各々の集積回路3A〜3Nの送信端子TXから順に送信され、隣り合う集積回路の受信端子RXにより順に受信される。この信号は最終的に、集積回路3Nの送信端子TXから送信されて出口側インタフェースINT(O)のフォトカプラPH3を介してバッテリコントローラ20の受信端子RXで受信される。バッテリコントローラ20と集積回路3A〜3Nとの間には、以上のようなループ状の通信路が設けられており、このループ状の通信路を介してシリアル通信が行われる。バッテリコントローラ20はこのシリアル通信により、各電池セルBC1〜BC4の端子電圧や温度などの計測値を受信する。集積回路3A〜3Nは更に、この伝送路を介してコマンドを受信すると自動的に動作状態になるように構成されている。従って、バッテリコントローラ20から通信コマンドが伝送されると、各集積回路3A〜3Nはそれぞれスリープ状態から動作状態に状態遷移する。
【0027】
集積回路3A〜3Nはさらに電池セルBC1〜BC4の異常診断を行い、電池セルの異常状態を検出した場合に次の伝送路を介して1ビット信号を伝送する。集積回路3A〜3Nは、自分自身が異常状態を検出した場合、あるいは他の集積回路から異常状態を表す信号(以下、異常信号と呼ぶ)を受信端子FFIで受信した場合に、送信端子FFOから異常信号を送信する。一方、既に受信端子FFIで受信していた異常信号が消えたり、あるいは自分自身の異常判断が変わり異常状態ではなくなったりした場合に、送信端子FFOから伝送される異常信号は消える。本実施形態では、この異常信号は1ビット信号である。原則的にはバッテリコントローラ20は異常信号を集積回路3Aに送信しない。しかしながら、異常信号の伝送路が正しく動作することが重要であるので、バッテリコントローラ20は伝送路の診断のために擬似的な異常信号であるテスト信号をバッテリコントローラ20の端子FFTESTから送信する。以下、このテスト信号の伝送路について説明する。
【0028】
前述の通り、集積回路3A〜3Nは送受信端子FFO,FFIにより直列接続され、信号伝送路54を構成している。バッテリコントローラ20の送信端子FFTESTから送信された擬似的な異常信号であるテスト信号は、入口側インタフェースINT(E)内のフォトカプラPH2を介して集積回路3Aの受信端子FFIで受信される。その後、この信号は、各々の集積回路3A〜3Nの送信端子FFOから順に送信され、隣り合う集積回路の受信端子FFIにより順に受信される。この信号は最終的に、集積回路3Nの送信端子FFOから送信されて出口側インタフェースINT(O)のフォトカプラPH4を介してバッテリコントローラ20の受信端子FFで受信される。このようにテスト信号をバッテリコントローラ20が送受することで異常信号のための通信路の診断ができ、システムの信頼性が向上する。また上述のとおり、バッテリコントローラ20からの送信依頼が無くても、異常状態を検出した集積回路が次の集積回路に異常信号を送ることで、異常状態が速やかにバッテリコントローラ20に伝達される。これにより、異常状態の発生に対する対応策を速やかに実行することができる。
【0029】
なお上述の説明では、信号の伝送は、何れも電池モジュール9の電位の高いグループに対応する集積回路3Aから電位の低いグループに対応する集積回路3Nに向けて行われたが、これは一例である。この逆に、例えばバッテリコントローラ20から電池モジュール9の電位の低いグループに対応する集積回路3Nに信号を送信し、受信した信号を順次電位の高いグループに対応した各集積回路(集積回路3Mを含む)に送り、最高電位のグループに対応した集積回路3Aからバッテリコントローラ20に信号を送るようにしても良い。
【0030】
図1に示す直流電源システムは正極側のリレーRLPと負極側のリレーRLNを介してインバータ装置などの負荷に直流電力を供給する。これらのリレーRLP,RLNはバッテリコントローラ20およびインバータ装置から開閉を制御できるよう構成されている。従って、集積回路が異常を検知したことに応じて、バッテリコントローラ20もしくはインバータ装置がリレーRLP,RLNの開閉を制御することが可能である。
【0031】
またバッテリコントローラ20は電流センサSiの出力を受け、電池モジュール9全体からインバータ装置に供給される電流を検知し、また電圧計Vdの出力により、電池モジュール9からインバータ装置に供給される直流電圧を検知する。
【0032】
バッテリコントローラ20には、エンコーダ30が接続されている。エンコーダ30は2ビット計数回路を備える。この2ビット計数回路は、受信端子CLKが受信するクロック信号に従いカウントアップを繰り返す。受信端子CLKは、バッテリコントローラ20の送信端子FFCLKに接続されており、バッテリコントローラ20はこの端子からクロック信号を出力する。エンコーダ30は2ビット計数回路の出力を送信端子CO0,CO1から出力する。送信端子CO0,CO1はそれぞれバッテリコントローラ20の受信端子CI0,CI1に接続されている。
【0033】
エンコーダ30は更に、集積回路3Nが送信端子FFOから送信する1ビットの異常信号をエンコードして送信端子EFFOから出力する。具体的には、2ビット計数回路の出力の最下位ビットと、集積回路3Nが送信端子FFOから送信する1ビットの異常信号との排他的論理和を演算し、演算結果を送信端子EFFOから出力する。送信端子EFFOは、バッテリコントローラ20の受信端子EFFIに接続されている。バッテリコントローラ20は、送信端子FFCLKから送信するクロック信号に同期して周期的に、受信端子CI0,CI1,EFFI,FFでそれぞれ受信した4つの信号をサンプリングする。そして、サンプリングしたこれら4つの信号を、何ら手を加えることなく、上位のコントローラへCANを通じて送信する。
【0034】
〈集積回路〉
図2は、前記集積回路3Aの一実施例を示す電子回路のブロック図である。上述したように、前記各集積回路3A、…、3M、…3Nはそれぞれ同一の構造となっている。したがって、集積回路3A以外の他の集積回路においても図2に示す構成と同じである。図2に示す集積回路3Aは、その集積回路に対応する電池モジュール9のグループGB1に含まれる各電池セルBC1〜BC4と接続されている。集積回路3Aを代表例として説明しているが、集積回路3A以外の集積回路はそれぞれ対応する電池モジュール9のグループと接続され、同様の動作を行う。
【0035】
集積回路3Aの入力側端子はグループGB1を構成する電池セルBC1からBC4に接続されており、電池セルBC1の正極端子は、入力端子V1を介して選択回路120に接続されている。この選択回路120は、例えばマルチプレクサによって構成され、スイッチ120A、120B、120C、120D、120Eを有している。前記入力端子V1はスイッチ120Aの一方の端子に接続され、該スイッチ120Aの他方の端子は電源回路121およびアナログデジタル変換器で構成される電圧検出回路122に接続されている。電池セルBC1の負極端子であって電池セルB2の正極端子は、入力端子V2を介して選択回路120のスイッチ120Bの一方の端子に接続され、該スイッチ120Bの他方の端子は前記電圧検出回路122に接続されている。電池セルB2の負極端子であって電池セルB3の正極端子は、入力端子V3を介して選択回路120のスイッチ120Cの一方の端子に接続され、該スイッチ120Cの他方の端子は前記電圧検出回路122に接続されている。電池セルB3の負極端子であって電池セルBC4の正極端子は、入力端子V4を介して選択回路120のスイッチ120Dの一方の端子に接続され、該スイッチ120Dの他方の端子は前記電圧検出回路122に接続されている。
【0036】
電池セルBC4の負極端子は集積回路のGND端子に接続され、前記GND端子を介して選択回路120のスイッチ120Eの一方の端子に電池セルBC4の負極端子が接続され、該スイッチ120Eの他方の端子は前記電圧検出回路122に接続されている。
【0037】
前記電源回路121は、たとえばDC/DCコンバータ等で構成され、各電池セルBC1〜BC4からの電力を所定の定電圧に変換し、これらの電圧は集積回路3A内の各回路に駆動電源として供給され、あるいは状態を判断するために比較回路に比較基準電圧として供給される。
【0038】
前記電圧検出回路122は、各電池セルBC1〜BC4のそれぞれの端子間電圧をデジタル値に変換する回路を有しており、デジタル値に変換された各端子間電圧はIC制御回路123に送られ、内部の記憶回路125に保持される。これらの電圧は診断などに利用されたり、図1に示すバッテリコントローラ20に通信回路127から送信されたりする。
【0039】
前記IC制御回路123は、演算回路を有し演算機能を有すると共に、記憶回路125や電源管理手段124、各種電圧の検知や状態診断を周期的に行うタイミング制御回路252を有している。前記記憶回路125は、例えばレジスタ回路で構成されており、前記電圧検出器122で検出した各電池セルBC1〜BC4の各端子間電圧を各電池セルBC1〜BC4に対応づけて記憶する、その他検出値を予め定められたアドレスに読出し可能に保持する作用をする。前記電源管理手段124は前記電源回路121における状態を管理するように構成されている。
【0040】
前記IC制御回路123には、通信回路127が接続され、この通信回路127を介して当該集積回路3Aの外部から信号を受信できる。例えば前記バッテリコントローラ20から、前記入口側インタフェースINT(E)のフォトカプラPH1を介し、RX端子で通信コマンドを受信する。前記通信コマンドは通信回路127からIC制御回路123に送られ、ここで通信コマンドの内容が解読され、通信コマンド内容に応じた処理が行われる。例えば前記通信コマンドは、各電池セルBC1〜BC4の端子間電圧の計測値を要求する通信コマンド、各電池セルBC1〜BC4の充電状態を調整するための放電動作を要求する通信コマンド、当該集積回路3Aの動作を開始する通信コマンド(Wake UP)、動作を停止する通信コマンド(スリープ)、アドレス設定を要求する通信コマンド、等を含んでいる。
【0041】
図2で、前記電池セルBC1の正極端子は、抵抗R1を介して端子BC1に接続され、この端子BC1はスイッチの動作状態検出回路128Aの一方の端子に接続され、該スイッチの動作状態検出回路128Aの他方の端子は端子V2を介して電池セルBC1の負極端子に接続されている。さらに、前記抵抗R1とバランシングスイッチ129Aとの直列回路が電池セルBC1の端子間に接続されている。このバランシングスイッチ129Aは放電制御回路132によって開閉が制御される。同様に、前記電池セルB2の正極端子は、抵抗R2を介して端子B2に接続され、この端子B2はスイッチの動作状態検出回路128Bの一方の端子に接続されており、該スイッチの動作状態検出回路128Bの他方の端子は端子V3を介して電池セルB2の負極端子に接続されている。さらに、前記抵抗R2とバランシングスイッチ129Bとの直列回路が電池セルB2の端子間に接続されている。このバランシングスイッチ129Bは前記放電制御回路132によって開閉が制御される。
【0042】
前記電池セルB3の正極端子は、抵抗R3を介して端子B3に接続され、この端子B3はスイッチの動作状態検出回路128Cの一方の端子に接続されており、該スイッチの動作状態検出回路128Cの他方の端子は端子V4を介して電池セルB3の負極端子に接続されている。前記抵抗R3とバランシングスイッチ129Cとの直列回路が電池セルB3の端子間に接続されている。このバランシングスイッチ129Cは前記放電制御回路132によって開閉制御される。前記電池セルBC4の正極端子は、抵抗R4を介して端子BC4に接続され、この端子BC4はスイッチの動作状態検出回路128Dの一方の端子が接続されており、該スイッチの動作状態検出回路128Dの他方の端子は端子GNDを介して電池セルBC4の負極端子に接続されている。前記抵抗R4とバランシングスイッチ129Dとの直列回路が電池セルBC4の端子間に接続されている。このバランシングスイッチ129Cは前記放電制御回路132によって開閉が制御される。
【0043】
前記スイッチの動作状態検出回路128A〜128Dは、それぞれ各バランシングスイッチ129A〜129Dの両端電圧を所定周期で繰り返し検出し、前記各バランシングスイッチ129A〜129Dが正常であるかどうかを検出する。前記バランシングスイッチ129A〜129Dは電池セルBC1〜電池セルBC4の充電状態を調整するスイッチで、これらスイッチが異常の場合、電池セルの充電状態を制御できなくなり、一部の電池セルが過充電あるいは過放電になる恐れがある。各バランシングスイッチ129A〜129Dの異常検出は例えば、あるバランシングスイッチが導通している状態にも拘わらず、対応するバランシングスイッチの端子間電圧が電池セルの端子電圧を示す場合である。この場合は、前記バランシングスイッチが制御信号に基づく導通状態になっていないこととなる。一方あるバランシングスイッチが開放状態であるにも拘わらず、対応するバランシングスイッチの端子間電圧が電池セルの端子電圧に比べて低い値である場合、この場合は、前記バランシングスイッチは制御信号に関係なく導通していることとなる。これらスイッチの動作状態検出回路128A〜128Dとしては、差動アンプ等で構成される電圧検出回路が用いられ、後述の異常判断回路131で上記判断を行う所定電圧と比較される。
【0044】
前記バランシングスイッチ129A〜129Dは、たとえばMOS型FETで構成され、それぞれ対応する電池セルBC1〜BC4に蓄積された電力を放電させる作用をする。多数の電池セルが直列接続されている電池モジュール9に対してインバータなどの電気負荷が接続され、前記電気負荷に対する電流の供給は直列接続された多数の電池セルの全体で行われる。また電池モジュール9が充電される状態では、前記電気負荷からの電流の供給は直列接続された多数の電池セルの全体に対して行われる。直列接続された多数の電池セルが異なるSOCにあると、前記電気負荷への電流の供給は多数の電池セルの内の最も放電状態にある電池セルの状態により制限される。一方前記電気負荷から電流が供給される場合、多数の電池セルの内の最も充電されている電池セルによって前記電流の供給が制限される。
【0045】
このため直列接続された多数の電池セルの内、例えば平均状態を越えた充電状態にある電池セルに対して、前記電池セルに接続されているバランシングスイッチ129を導通状態とし、直列接続されている抵抗を介して放電電流を流す。これにより直列接続された電池セルの充電状態が互いに近づく方向に制御されることとなる。また他の方法として、最も放電状態にある電池セルを基準セルとし、前記基準セルとの差に基づき放電時間を決める方法がある。他にもSOCを調整する色々の方法がある。前記充電状態は電池セルの端子電圧を基に演算で求めることができる。電池セルの充電状態とその電池セルの端子電圧は相関関係が有るので、各電池セルの端子電圧を近づけるように前記バランシングスイッチ129を制御することで、電池セルの充電状態を近づけることができる。
【0046】
前記スイッチの動作状態検出回路128A〜128Dによって検出される各FETのソースとドレーン間の電圧は、電位変換回路130に出力される。各FETのソースとドレーン間の電位は集積回路3Aの基準電位に対してそれぞれ異なっており、このままでは比較判断が難しいので、電位変換回路130で電位をそろえ、次に異常判定回路131で異常判定する。電位変換回路130はまた診断すべきバランシングスイッチ129を前記IC制御回路123からの制御信号に基づき選択する機能も有している。選択されたバランシングスイッチ129の電圧が異常判定回路131に送られ、異常判定回路131はIC制御回路123から制御信号に基づき、前記電位変換回路130からの信号である診断すべきバランシングスイッチ129の端子間電圧を判定電圧と比較し、各バランシングスイッチ129A1〜129Dが異常か否かを判定する。
【0047】
放電制御回路132にはIC制御回路123から放電させるべき電池セルに対応したバランシングスイッチ129を導通させるための指令信号が送られ、この指令信号に基づき、前記放電制御回路132から、上述したようにMOS型FETから構成されるバランシングスイッチ129A〜129Dの導通を行うゲート電圧に相当する信号が出力される。IC制御回路123は、図1のバッテリコントローラ20から、電池セルに対応した放電時間の指令を通信により受け、前記放電の動作を実行する。
【0048】
前記異常判定回路131において、バランシングスイッチ129A〜129Dに異常があると検出した場合、前記スイッチ駆動回路133からの信号によって、どのバランシングスイッチ129A〜129Dに異常があるかを特定し、その情報が前記IC制御回路123に出力される。
【0049】
該IC制御回路123は、バランシングスイッチ129A〜129Dの異常を通信回路127の1ビット送信端子FFOから出力し、他の集積回路の通信回路127を介して前記バッテリコントローラ20に送信する。また、該IC制御回路123は、バランシングスイッチ129A〜129Dの異常と、その異常であるバランシングスイッチを特定する情報を、通信回路127の送信端子TXを介して前記バッテリコントローラ20に送信する。
【0050】
〈車両用電源システム〉
図3は、図1に基づき上述した直流電源システムを車両用回転電機の駆動システムに適用した回路図である。電池モジュール9を構成する電池セルは高電位側ブロック10と低電位側ブロック11の2つのブロックに分けられ、分けられた各ブロックのうち一方の高電位側ブロック10と低電位側ブロック11はスイッチとヒューズとが直列接続された保守・点検用のSD(サービスディスコネクト)スイッチ6を介して直列接続されている。
【0051】
前記高電位側ブロック10の正極は正極強電ケーブル81とリレーRLPを介してインバータ装置220の正極に接続されている。また低電位側ブロック11の負極は負極強電ケーブル82とリレーRLNを介してインバータ装置220の負極に接続されている。前記高電位側ブロック10と前記低電位側ブロック11はSDスイッチ6を介して直列接続され、例えば公称電圧340V、容量5.5Ahの強電バッテリ(2つの電池モジュール9が直列接続された電源システムのバッテリ)を構成している。なお、SDスイッチ6のヒューズには、例えば、定格電流が125A程度のものを用いることができる。このような構成により高い安全性を維持できる。
【0052】
前述のとおり、低電位側ブロック11の負極とインバータ装置220との間にリレーRLNが設けられ、また高電位側ブロック10の正極とインバータ装置220との間にリレーRLPが設けられている。前記リレーRLPと並列に、抵抗RPREとプリチャージリレーRLPREとの並列回路が接続されている。前記正極側メインリレーRLPとインバータ装置220との間にはホール素子等の電流センサSiが挿入され、前記電流センサSiはジャンクションボックス内に内蔵されている。なお、電流センサSiの出力線はバッテリコントローラ20に導かれ、リチウム電池直流電源から供給される電流量をインバータ装置が常時モニタできる構成となっている。
【0053】
前記リレーRLPやリレーRLNは、例えば、定格電流が80A程度のものが使用され、プリチャージリレーRLPREには、例えば、定格電流が10A程度のものを用いることができる。また、抵抗RPREには、例えば、定格容量が60W、抵抗値が50Ω程度のもの、電流センサSiには、例えば、定格電流が±200A程度のものを用いることができる。
【0054】
上述した負極強電ケーブル82および正極強電ケーブル81は、リレーRLPやリレーRLNおよび出力プラグを介して、ハイブリッド車のモータ230を駆動するインバータ装置220に接続される。このような構成とすることで高い安全性が維持できる。
【0055】
インバータ装置220は、340Vの強電バッテリの電源から供給される直流電力を、モータ230を駆動するための3相交流電力に変換するインバータを構成しているパワーモジュール226と、MCU222と、パワーモジュール226を駆動するためのドライバ回路224と、約700μF〜約2000μF程度の大容量の平滑キャパシタ228とを有している。
【0056】
MCU222は、上位コントローラ110の命令に従い、モータ230の駆動時に、負極側のリレーRLNを開状態から閉状態とした後に、プリチャージリレーRLPREを開状態から閉状態とし、平滑キャパシタを充電し、その後に正極側のリレーRLPを開状態から閉状態として電源システム1の強電バッテリからインバータ装置への電力の供給を開始する。なお、インバータ装置220は、モータ230の回転子に対するパワーモジュール226により発生する交流電力の位相を制御してハイブリッド車の制動時にはモータ230をジェネレータとして動作させすなわち回生制動制御を行い、ジェネレータ運転により発電された電力を強電バッテリに回生し強電バッテリを充電する。また、電池モジュール9の充電状態が基準状態より低下した場合、インバータ装置220は上記モータ230を発電機として運転し、上記モータ230で発電された3相交流はパワーモジュール226により直流電力に変換されて強電バッテリである電池モジュール9に供給され、充電される。
【0057】
上述のとおりインバータ装置220はパワーモジュール226を有しており、インバータ装置220は直流電力と交流電力との間の電力変換を行う。上位コントローラ110の命令に従い、モータ230をモータとして運転する場合はモータ230の回転子の回転に対して進み方向の回転磁界を発生するようにドライバ回路224を制御し、パワーモジュール226のスイッチング動作を制御する。この場合は電池モジュール9から直流電力がパワーモジュール226に供給される。一方、モータ230の回転子の回転に対して遅れ方向の回転磁界を発生するようにドライバ回路224を制御し、パワーモジュール226のスイッチング動作を制御する。この場合はモータ230から電力がパワーモジュール226に供給され、パワーモジュール226の直流電力が電池モジュール9へ供給される。結果的にモータ230は発電機として作用することとなる。
【0058】
上記インバータ装置220の動作開始状態は平滑キャパシタ228の電荷は略ゼロであり、リレーRLPを閉じると大きな初期電流が流れ込む。強電バッテリから平滑キャパシタ228への初期流れ込み電流が大きくなるので、負極側メインリレーRLNおよび正極側メインリレーRLPが融着して破損するおそれがある。この問題を解決するため、MCU222は、負極側のリレーRLNを開状態から閉状態とした後に、正極側のリレーRLPを開状態に維持したまま、プリチャージリレーRLPREを開状態から閉状態として抵抗RPREを介して最大電流を制限しながら上述した平滑キャパシタ228を充電する。この平滑キャパシタ228が所定の電圧まで充電された後は、初期状態は解除され、プリチャージリレーRLPREおよび抵抗RPREは使用されず、上述したように、負極側のリレーRLNと正極側のリレーRLPを閉状態として電源システム1からパワーモジュール226へ直流電力を供給する。このような制御を行うことでリレー回路を保護すると共に、リチウム電池セルやインバータ装置220を流れる最大電流を所定値以下に低減でき、高い安全性を維持できる。
【0059】
電源システム1の強電バッテリの負極と負極側のリレーRLNとの接続線および強電バッテリの正極と正極側のリレーRLPとの接続線には、ケースグランド(車両のシャーシと同電位)との間にそれぞれキャパシタCN、CPが挿入されている。これらのキャパシタCN、CPは、インバータ装置220が発生させるノイズを除去して、弱電系回路の誤作動やC/C80を構成するICのサージ電圧による破壊を防止するものである。インバータ装置220はノイズ除去フィルタを有しているが、これらのキャパシタCN、CPは、バッテリコントローラ20やC/C80の誤作動を防止する効果をさらに高め、電源システム1の耐ノイズの信頼性をさらに高めるために挿入されている。なお、図3において、電源システム1の強電系回路は太線で示している。これらの線には断面積の大きい平角の銅線が使用される。
【0060】
なお、図3において、ブロアファン17は、電池モジュール9を冷却するためのファンで、バッテリコントローラ20からの指令によってONするリレー16を介して動作するようになっている。
【0061】
〈エンコーダの説明〉
図4は、エンコーダ30の内部構造を示すブロック図である。エンコーダ30は、2つのDフリップフロップ(D−FF)33,34から成る2ビットのカウンタ回路31と、1つの排他的論理和(XOR)ゲート32と、を備える。エンコーダ30はこれらの回路を用いて、セルコントローラ80が出力する異常信号の変換を行う。
【0062】
エンコーダ30は受信端子CLK,RST,FFIと、送信端子CO0,CO1,EFFOを備える。受信端子CLKはエンコーダ30を駆動するクロック信号が入力される端子である。受信端子CLKは図1に示すようにバッテリコントローラ20のクロック送信端子FFCLKと接続される。すなわち、エンコーダ30とバッテリコントローラ20とは同期して動作する。
【0063】
受信端子RSTはエンコーダ30の初期化を行うための信号が入力される端子であり、バッテリコントローラ20のリセット出力(不図示)が接続される。受信端子FFIはセルコントローラ80からの異常信号を受信する端子である。受信端子FFIは図1に示すように集積回路3Nの送信端子FFOと接続され、異常信号を受信する。
【0064】
送信端子CO0,CO1は、カウンタ回路31のカウント結果を送信するための端子である。カウント結果の上位ビットが端子CO1から、下位ビットが端子C0から送信される。以下、これら2つの端子から出力される信号を、カウント信号と呼ぶ。送信端子EFFOは、カウンタ回路31のカウント結果の下位ビットと、セルコントローラ80からの異常信号との排他的論理和を行った結果が送信される端子である。以下、この端子から出力される信号を変換後異常信号と呼ぶ。カウンタ回路31のカウント結果は時間の経過に伴い変化するので、端子EFFOから送信される変換後異常信号は、異常信号の変化の有無によらず刻々と変化する。
【0065】
送信端子CO0,CO1,EFFOは全てバッテリコントローラ20と接続されている。バッテリコントローラ20はこれら3つの端子から送信される信号と、集積回路3Nの端子FFOから送信される信号と、の計4つの信号を、何ら手を加えずにCANを通じて上位コントローラ110へ送信する。すなわち、バッテリコントローラ20は、異常信号と、変換後異常信号と、カウント信号と、を上位コントローラ110へ送信する。
【0066】
なお、CANを通じて送信されるこれらの信号は、CANに接続されている上位コントローラ110以外の装置も受信することが可能である。従って、これらの信号を用いて上位コントローラ110が行う処理は、例えばインバータ装置220など、上位コントローラ110以外の装置も実行することができる。説明を簡単にするため、以下では、これらの信号を用いて行われる処理は上位コントローラ110のみが実行するものとして説明を行う。
【0067】
図5は、バッテリコントローラ20が正常に動作している場合のエンコーダ30の出力信号を示す図である。図5は横軸が時間の経過を、縦軸が信号の振幅を表している。信号S1は受信端子FFCLKに入力されるクロック信号を表す。信号S2はリセット端子RSTに入力されるリセット信号を表す。信号S3,S4はそれぞれ送信端子CO1,CO0から出力されるカウント信号を表す。信号S5は送信端子EFF0から出力される変換後異常信号を表す。信号S6は受信端子FFIに入力される異常信号を表す。図5中の点Pは、バッテリコントローラ20が受信端子へ入力された信号のサンプリングおよびサンプリングした信号をCANへ送信するタイミングを示している。
【0068】
図5では、まず始めに受信端子RSTの信号レベルをLにすることでエンコーダ30の初期化が行われている。その後、前述の通りクロック信号の変化に応じて送信端子CO0,CO1から送信されるカウント信号が刻々と変化している。端子CO0の信号を下位ビット、端子CO1の信号を上位ビットとする2ビットの数値を考えたとき、この数値はクロック信号の変化に応じて0,1,2,3という順で繰り返し変化する。
【0069】
受信端子FFIへの入力は通常はHとなり、いずれかの電池セルに異常が発生したときLとなる。図5では、時刻t1,t2において電池セルに異常が発生している。送信端子EFFOの信号は、受信端子FFIへの入力信号と、送信端子CO0からの出力信号との排他的論理和であるので、カウンタ回路31の出力と異常信号とに応じて変化している。
【0070】
上位コントローラ110は、CANを通じて受信した信号を参照することにより、電池セルに異常が発生したことを検出することが可能である。前提として、上位コントローラ110は、電池セルに異常が発生していない場合にどのような信号がCANを通じて送信されるかを把握しているものとする。以下、電池セルに異常が発生したことを検出する具体的な手順について説明する。
【0071】
上位コントローラ110は、送信端子EFFOからの変換後異常信号が送信端子CO0からのカウント信号と送信端子FFOからの異常信号との排他的論理和になっていることを確認する。これらの信号がすべて期待通りであれば、各種配線やエンコーダ30,バッテリコントローラ20に異常が発生していないと判定する。すなわち、バッテリコントローラ20が送信した異常信号の信頼性に問題がないと判定する。上位コントローラ110はその後、送信端子FFOからの信号を参照し、この信号がLになっていれば、電池セルに異常が発生していると判定する。
【0072】
次に、異常信号を伝送するための周辺回路に異常が生じた場合の動作について説明する。本実施形態では、上位コントローラ110は、CANを通じて受信した変換後異常信号を参照することにより、例えば異常信号を伝送するための伝送路や、バッテリコントローラ20の内部に異常が発生したことを検知することが可能である。すなわち、上位コントローラ110は、CANを通じて受信した異常信号の信頼性を判定することが可能である。
【0073】
図6は、バッテリコントローラ20に異常が発生した場合のエンコーダ30の出力を示す図である。図6では、例えばバッテリコントローラ20内部のCPUが暴走する等の理由により、バッテリコントローラ20の送信端子FFCLKからクロック信号が出力されなくなった状況を想定している。ただし、受信端子CI0,CI1,EFFI,FFIへの信号のサンプリングならびにCANを通じた上位コントローラへの送信については問題なく行える状態であるとする。また、受信端子RST,FFOにはそれぞれ図5に示した信号S2,S6と同一の信号が入力されているものとする。
【0074】
エンコーダ30の受信端子CLKへクロック信号が送信されないので、リセット後のカウンタ回路31の出力は常に0となる。すなわち、送信端子CO1,CO0から送信されるカウント信号S3’,S4’は常にLとなる。従って、送信端子EFFOから送信される変換後異常信号は、受信端子FFIで受信した異常信号そのものとなる。
【0075】
上位コントローラ110は、前述の通り、まず送信端子EFFOからの変換後異常信号が送信端子CO0からのカウント信号と送信端子FFOからの異常信号との排他的論理和になっていることを確認する。図6ではこれらの信号が期待通りの状態になっていないため、上位コントローラ110は、異常信号を伝送するための伝送路、エンコーダ30、バッテリコントローラ20など、異常信号を伝送するための系に何らかの異常が発生していると判定する。すなわち、バッテリコントローラ20が送信した異常信号の信頼性に問題があると判定する。
【0076】
異常信号の信頼性に問題があると判定された場合、上位コントローラ110は更に、送信端子CO0,CO1からのカウント信号が時系列順に期待通りに変化していることを確認する。この確認結果により、異常信号を伝送するための系のうち異常が発生している箇所を特定することが可能である。具体的には、これらの信号がすべて期待通りであれば、セルコントローラ80とバッテリコントローラ20との間の異常信号の伝送路に異常が発生しているということになる。他方、これらの信号が期待通りではなければ、それ以外の箇所に異常が発生しているということになる。
【0077】
図6では、上位コントローラ110は、送信端子CO1,CO0からのカウント信号S3’,S4’が時間の経過により変化しないことから、エンコーダ30、バッテリコントローラ20などに何らかの異常が発生していると判定する。
【0078】
バッテリコントローラ20において、内部のCPUが暴走する以外の異常が発生した場合についても、図6と同様に正常時とは異なる信号がCANを通じて送信されるので、上位コントローラ110は異常の発生を知ることができる。このような異常の例としては、バッテリコントローラ20内部のセルコントローラ80との入出力回路の故障、CANの入出力回路の故障、などが挙げられる。異常信号を伝送するための伝送路が故障した場合についても同様である。
【0079】
上述した第1の実施の形態による直流電源システムによれば、次の作用効果が得られる。
(1)バッテリコントローラ20は、エンコーダ30が送信端子EFFOから出力する、異常信号の変化の有無に係わらず時間変化する変換後異常信号を、異常信号と共に上位コントローラ110へ送信する。これにより、セルコントローラ80、バッテリコントローラ20、エンコーダ30など、異常信号を伝送するための系が故障した場合であっても、上位コントローラ110は異常が発生していることを検知することができる。
【0080】
(2)上位コントローラ110は、異常信号および変換後異常信号と共にカウント信号を受信し、異常信号が信頼できないと判定した場合に、変換後異常信号とカウント信号とに基づき、直流電源システム1における該判定の原因箇所を特定する。これにより、異常の原因を速やかに修正することが可能となる。
【0081】
次のような変形も本発明の範囲内であり、変形例の一つ、もしくは複数を上述の実施形態と組み合わせることも可能である。
【0082】
(変形例1)
エンコーダ30とバッテリコントローラ20は同期して動作しなくてもよい。この場合、バッテリコントローラ20がエンコーダ30からの信号をサンプリングする周期が、少なくとも送信端子FFCLKから出力されるクロック信号の周期以上であれば、第1の実施の形態と同様の作用効果が得られる。
【0083】
(変形例2)
エンコーダ30は、2ビット計数回路以外の回路により異常信号のエンコードを行ってもよい。また、エンコーダ30が出力する信号は、時系列的に変化し且つ上位コントローラ110にとって既知であれば、第1の実施の形態に示したものとは異なる信号であってもよい。
【0084】
本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0085】
BC1〜BC4…電池セル、3A〜3N…集積回路、9…電池モジュール、20…バッテリコントローラ、30…エンコーダ、52…伝送路(シリアル通信)、54…伝送路(フラグ通信)、80…セルコントローラ、220…インバータ装置、222…MCU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池セルの診断を行い診断結果を表す1ビットの第1信号を出力する診断手段と、
前記第1信号を、前記第1信号の変化の有無に係わらず時間変化する第2信号にエンコードして出力するエンコード手段と、
前記第1信号と前記第2信号とを外部装置へ送信する送信手段と、
を備えることを特徴とする電池制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電池制御装置において、
時間変化するカウント信号を出力するカウンタを更に備え、
前記エンコード手段は、前記カウント信号を用いて前記第1信号を前記第2信号にエンコードすることを特徴とする電池制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電池制御装置において、
前記エンコード手段は、前記カウント信号と前記第1信号との排他的論理和による演算を行うことにより、前記第1信号を前記第2信号にエンコードすることを特徴とする電池制御装置。
【請求項4】
電池セルの診断を行い診断結果を表す1ビットの第1信号を出力する診断手段と、
前記第1信号を前記第1信号の変化の有無に係わらず時間変化する第2信号にエンコードして出力するエンコード手段と、
前記第1信号と前記第2信号とを所定の伝送路へ送信する送信手段と、
を有する電池制御装置と、
前記所定の伝送路を通じて前記送信手段が送信した前記第1信号および前記第2信号を受信する受信手段と、
前記受信手段が受信した前記第2信号に基づいて、前記受信手段が受信した前記第1信号の信頼性を判定する判定手段と、
を有する信頼性判定装置と、
を備えることを特徴とする電力装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電力装置において、
前記判定手段は、所定の信号パターンと前記第2信号とを比較することにより、前記第1信号の信頼性を判定することを特徴とする電力装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電力装置において、
時間変化するカウント信号を出力するカウンタを更に備え、
前記エンコード手段は、前記カウント信号と前記第1信号との排他的論理和による演算を行うことにより、前記第1信号を前記第2信号にエンコードすることを特徴とする電力装置。
【請求項7】
請求項6に記載の電力装置において、
前記送信手段は、前記第1信号および前記第2信号と共に前記カウント信号を前記所定の伝送路へ送信し、
前記受信手段は、前記第1信号および前記第2信号と共に前記カウント信号を受信し、
前記判定手段は、前記第1信号が信頼できないと判定した場合に、前記第2信号と前記カウント信号とに基づき、前記電池制御装置における前記判定の原因箇所を特定することを特徴とする電力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−61927(P2011−61927A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207050(P2009−207050)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(505083999)日立ビークルエナジー株式会社 (438)
【Fターム(参考)】