説明

電荷増倍素子を用いた高感度・高速度の競技用電子判定装置

【課題】電荷増倍素子を用いた高感度・高速度の競技用電子判定装置およびシステムを提供する。
【解決手段】CCD素子の後方に電荷増倍部を持つラインセンサーを用いて感度を高め、雑音を抑えることにより、夕方や夜間の低照度条件、及び/または10,000ライン/秒の高速度撮影条件においても撮像可能とした競技用電子判定装置を用い、ラインセンサーの出力画像を位置方向(長手方向)のみにスムージングを行って電荷増倍部でランダムに発生するインパルス性ノイズを除去した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、競馬、競輪、競艇、オート等の競技(レース)における改良された高感度・高速度の電子判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、競馬等においてゴールライン上を連続してラインセンサーで撮像し、該撮像された画像から競馬等の着順判定やタイム表示を行うシステムが知られている。
前記競技用の電子判定装置にはラインセンサー(直線状のCCDセンサー)が用いられており、該ラインセンサーは、レース場のゴールライン上を一定のスリット間隔でライン状に撮像し、該ライン状の画像を連続してモニター上に表示することにより着順判定画像としている。
【0003】
これは、従来スリット・カメラでほぼ対象物(例えば、馬)の速度とほぼ同じ速度でフィルムを走らせて連続して撮影し、これを表示することにより着順判定画像としていたものをCCDラインセンサーとモニターにより電子的に実現したものである。
【0004】
しかし、従来のラインセンサーは感度が低く、最近行われるナイター競馬とか、曇天の夕方のレースとかの低照度状態の時に撮像すると像がぼやけてしまい、鮮明度が落ちると共に分解能も劣化して僅差(例えば、鼻の差)の着順判定には不満足な場合が多く生じていた。
【0005】
また、高速で通過する競馬等のゴールライン上での鼻の差等の僅差の着順判定には、高速処理に適したより精度の高い電子判定装置が望まれている。
従来の電子判定装置では、その目となるラインセンサーの各受光素子には一般のCCDあるいはCMOS素子を用いていたため、夕方あるいは夜間などの低照度状態ではラインセンサーの感度が十分でなく、低輝度、高雑音の判定用画像となり見難く、着順判定の妨げとなっていた。
【0006】
また、高速撮影画像として鮮明度は必ずしも十分ではなく、従来の写真判定に置き換わる信頼度を獲得できていない状況がある。
一方、電荷増倍素子を有するCCDセンサー自体は従来周知であるが、これを競技用電子判定システムに応用したものは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3224735号公報
【特許文献2】特開平6−276526号公報
【特許文献3】特開2003−347317号公報
【特許文献4】USP5,337,340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、電荷増倍素子を用いた高感度・高速度の改良された競技用電子判定装置およびシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の競技用電子判定装置は、CCD素子の後方に電荷増倍部を持つラインセンサーを用いて感度を高め、かつ雑音を抑えることにより、通常のCCDあるいはCMOSセンサーでは撮像不可能な夕方や夜間の低照度条件、及び/または10,000ライン/秒の高速度撮影条件においても撮像可能としたことを特徴とする。
また、前記ラインセンサーが、オーバーフロードレインを持ったラインセンサーであり、スミアの発生を少なくしたことを特徴とする。
【0010】
また、前記ラインセンサーの素子背面にペルチェ素子を装着し、零℃以下に冷却することにより熱雑音の発生を少なくして、判定用画像の画質を改善したことを特徴とする。
また、前記電荷増倍機能を有するラインセンサーの出力画像を位置方向(長手方向)のみに、加重移動平均での代替や中央値選択法によりスムージングを行い、時間軸方向には一切該スムージング処理を行わずに上記電荷増倍部でランダムに発生するインパルス性ノイズを除去したことを特徴とする。
【0011】
あるいは、本発明の競技用電子判定システムは、CCD素子の後方に電荷増倍部を持つラインセンサーを用いて感度を高め、雑音を抑えることにより、通常のCCDあるいはCMOSセンサーでは撮像不可能な夕方や夜間の低照度条件、及び/または10,000ライン/秒の高速度撮影条件においても撮像可能とした競技用電子判定装置を用い、該電子判定装置のCCD電子カメラ制御装置と表示用パソコン間をGイーサネット(登録商標)で接続することを特徴とする。
【0012】
さらに、前記電子カメラ制御装置の内部にフレームバッファー部を設け、該フレームバッファー部において前記ラインセンサーの画像を標準の2次元画像のごときフォーマットに構築し伝送することにより、Gイーサネットで標準にサポートされている2次元カメラ伝送のルールに基づいてラインセンサーの映像情報及びデジタル情報(スタートからの経過時間、開催日、開催地等)をGイーサネットの通常のルールの範囲で伝送し、前記表示用パソコン内部で上記伝送されてきたラインセンサーの映像情報及びデジタル情報を再構築して表示したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の装置では、ラインセンサーとしてCCD素子の後方に電荷増倍部をもつラインセンサーを使うことで、感度を高め、雑音を抑え、低輝度でも良好な電子判定画像が得られた。
【0014】
また同様に、本発明の装置では、ラインセンサーとしてCCD素子の後方に電荷増倍部をもつラインセンサーを使うことで、感度を高め、雑音を抑えることで、高速度(10,000ライン/秒)でも良好な電子判定画像が得られた。
【0015】
従って、この発明の高感度・高速度の改良された競技用電子判定装置およびシステムによれば、通常のCCDあるいはCMOSセンサーでは撮像不可能な夕方や夜間の低照度条件、及び/または10,000ライン/秒の高速度撮影条件においても、感度を高め、雑音を抑えることにより撮像可能となった。
【0016】
このことにより、上記電子判定装置の利便性が高まると共に、判定の精度が向上することにより電子判定装置の信頼性が向上した。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来のCCDセンサーの模式図である。
【図2】本発明で用いる電子増倍型のセンサーの模式図である。
【図3】電子増倍型のセンサーの概念図である。
【図4】電子増倍型のセンサーの細部の構造を示す図である。
【図5】電子増倍型のセンサーの動作原理の説明図である。
【図6】飽和光量の4000倍の入力光での実験結果を示す図である。
【図7】オーバーフロードレインの説明図である。
【図8】Gイーサネットの接続図である。
【図9】電子増倍型のセンサーの冷却構造を示す図である。
【図10】本発明の競技用電子判定システムの具体的実施例を示す図である。
【図11】本発明の競技用電子判定システムのGイーサネットの概念図である。
【図12】本発明の競技用電子判定システムの縦横変換の説明図である。
【図13】本発明の競技用電子判定システムの受信側パソコン処理の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の電子判定装置では、ラインセンサーとしてCCD素子の後方に電荷増倍部をもつラインセンサーを用いる。該電荷増倍型ラインセンサーを用いることで、感度を高め、雑音を抑え、低輝度でも良好な電子判定画像が得られる。
【0019】
また一方、従来の電子判定装置では、その目となるラインセンサーの各受光素子には一般のCCDあるいはCMOS素子を用いていたため、高速度での撮影では光量不足となり2,000ライン/秒程度が実用限界であったが、本発明の電子判定装置では、ラインセンサーとしてCCD素子の後方に電荷増倍部をもつラインセンサーを使うことで、感度を高め、雑音を抑えることで、高速度(10,000ライン/秒)でも良好な電子判定画像が得られる。
【0020】
本発明は、競馬等競技の着順判定装置のラインセンサーとして、例えば特開2003−347317号公報やUSP5,334,340号公報に開示されている、テキサス・インスツルメンツ株式会社の開発した電荷増倍型のCCDセンサー(以下、IMPACTRONデバイスという。)を用いることを特徴としている。
【0021】
IMPACTRONデバイスは、チップ内の転送中の電荷に対し、二次電子を誘発させるブースト構造を持たせた新しい構造のCCDである。該デバイスは、読出しアンプの手前において電荷を増幅し、理論的には光の1粒子をも検知する超高感度CCDビデオカメラの実現を可能にしたものである。
【0022】
その動作原理の詳細は、特開2003−347317号公報やUSP5,337,340号公報に記載されているが、その概要は以下のとおりである。図1は前記従来のCCDセンサーの模式図、図2は本発明で用いる電子増倍型のセンサーの模式図を示す。
【0023】
従来のCCDセンサーは、図1に示されるように受光部(CCD)1に読み出しアンプ2が接続されているが、電子増倍型のセンサーは図2に示すように受光部3の後段で、かつ従来の読み出しアンプ5の前に、電荷増倍部4を有する。
【0024】
電子増倍型のセンサー3は、図3に概念図を示すように、センサー部10で受光し光電変換した電荷が蓄積転送される時(図3の11,12)電荷増倍部13で電荷増倍されてから読み出しアンプに入力されるものである。図4にその細部の構造を示す。図4の14の模式図において、P2の信号電荷15をP4で形成された深いポテンシャル16に転送する。このP4ゲートヘの転送時に、ポテンシャルの差によるインパクト・イオン化現象(電荷がSiに衝突し、電子―正孔を生成する)を利用し、二次電子を取り出す。さらに、これをこのインパト・イオン化チップ内で繰り返すことで、読み出しノイズが重畳されることなく信号電荷の増倍が可能となる。
【0025】
従って、電子増倍型のラインセンサーは、図5に示すように、信号は増倍された後CCD読み出しアンプに入力するので、電荷を電圧変換する前に増幅が完了しているから上記アンプの内部雑音の影響は非常に少ない。
【0026】
以下、IMPACTRONデバイスの特徴を列記すると、以下のとおりである。
A.チャージマルチプライヤー内蔵
CCD上の蓄積電荷を直接増幅するオンチップチャージマルチプライヤーを内蔵している。
B.高電圧不要
数KVを要する光電子加速タイプの増倍機構とは異なり、15VのBoost電圧振幅で約100倍以上の増幅が可能である。
C.高解像度
素子前面に蛍光発光や、ファイバープレートがなく、光電子をダイレクトに受光するため、高解像度で残像がない。
D.出力アンプ前に増幅を行うため、低ノイズとなる。
E.カラー化が可能。
F.冷却ペルチェ内蔵により、素子暗出力の低減を実現した。
G.このTI社製CCDは、紫外〜近赤外まで対応できる。
H.固体デバイスのため、小型で高信頼性が実現できる。
I.焼きつきの問題がなく、高い信頼性と長寿命を実現できる。
【0027】
以下、各項目について詳述する。
・オーバーフロードレイン
従来の電子判定装置では、その目となるラインセンサーの各受光素子において強い光が入射することで受光素子内部で限界量を超えた電荷が蓄積された場合に、その余剰電荷に対する対応がしてないセンサーを使用していた為、隣の画素にその余剰電荷が流れ込み、適正な画像が取得できないでいた。
【0028】
その結果、従来型の電子判定装置としては、馬の蹄鉄、自転車のリムなどの位置から強い光を受けて、ライン方向に白っぽい筋が映像として現れ、判定の妨げとなっていた。本発明では各受光素子に隣接して、余剰電荷を逃がすための道を準備し、限界量を超えた電荷をこの道に流すことで隣の画素への流れ込みを無くす考慮がされたラインセンサーを使うことで、強い光が入射しても過剰な電荷が排除され良好な電子判定画像が得られる。
【0029】
図7にその具体的構成を示す。
スミアとは、撮像エリアに非常に高輝度の被写体が存在した場合、垂直転送中に光電変換される電荷量が無視できなくなり、高輝度の被写体を中心に縦いっぱいに白っぽい筋が現れる現象である。
【0030】
撮像エリアに非常に高輝度の被写体が存在した場合、垂直転送中に光電変換される電荷量が無視できなくなり、高輝度の被写体を中心に縦いっぱいに白っぽい筋が現れる。図6の写真は、飽和光量の4000倍の入力光での実験結果を示す。
【0031】
このように、スミアはCCDの撮像面に強い光が入ると、そこで発生した余剰電荷が、その画素の周辺の画素にあふれ出るために発生する現象で、周囲に光がにじみ出たような画像になる。これはアンチブルーミング機構をCCD素子に設け余剰な電荷を排出する事で抑制する。前記TI社のものは、図7に示されるLOD(横形オーバーフロードレイン)機構22を採用している。
【0032】
・Gイーサネット
従来は、電子判定装置の撮像を担当するカメラ部と表示を担当するパソコン部分をアナログ映像情報で伝送するケースやIEEE1394等ビデオ信号向けに開発されたデジタル伝送で伝送するケースが主だった。
【0033】
これは、カメラからのアナログ出力信号を、パソコン内に装着したカメラ入力用インターフェイスで取得する方法であり、旧来から行われている最もポピュラーな方法である。このIEEE1394規格のデジタル信号で接続する方法は以下のとおりである。
【0034】
この方法は、米国Apple社が最初に提唱したカメラやビデオ装置、パソコン間で画像情報を伝送する方法であり、この方法は400MBit /秒までしか現状実用化されておらず、主にNTSCとかPALと言った従来の放送規格程度の画像信号の伝送用として開発されたものである(日本国内で始まったハイビジョンには適応できない)、したがって、今回のような400M Bit/秒をはるかに超える高速なカメラでは適用することができない。
【0035】
参考:今回のカメラの概略画像情報発生量
10,000ライン/秒*4000画素/ライン*3(RGB)
=120MByte/秒=約1200M Bit/秒
(1Byte=8Bit で換算すべきであるが、伝送路でのパケットの前後にいろいろなヘッダー情報が付加されるので、このことを加味してここでは1Byte=約10Bit で換算した)
【0036】
本発明においては、図8に示すように、カメラからパソコンへの画像伝送を、Gイーサネットを用いて伝送することを提案している。
Gイーサネットは、CSMA/CD(搬送波感知多重アクセス/衝突検出)方式を用い、フレームの送信前にデータ路が空いているかどうかを確認してフレームを送信する方式である。一方、映像信号は高速であり、途中で停止できない性質のため、本発明の電子判定システムは、前記電子カメラ制御装置の内部にフレームバッファー部を設け、該フレームバッファー部において前記ラインセンサーの画像を標準の2次元画像のごときフォーマットに構築し伝送する。あたかも標準の2次元画像のごときフォーマットに再構築し伝送することで、Gイーサネットの標準でサポートされている2次元カメラ伝送のルールを守りながらも、ラインセンサーの映像情報+デジタル情報(スタートからの経過時刻、開催日、開催地など)をGイーサネットの通常のルールの範囲(たとえば240×240画素)で伝送することでパソコンに送り、パソコン内部のアプリケーションソフトは普通の2次元画像フォーマットで伝送されてきた画像を構築し直すことで、Gイーサネットのとっては変則のラインセンサーの画像でも受けとり、表示するようにしている。
【0037】
なお、従来の一般的方法は、複数のパソコンをイーサネット(登録商標)規格の伝送インターフェイスで接続し、それぞれのパソコンがイーサネット上の固有のアドレスを持つことで送信主から目的の受信主に電文を送る方法で、インターネットにはこのイーサネット規格を使って接続してるのが大半の接続形態である。イーサネットは初期においては10M Bit/秒程度の伝送速度で始まったが、100M Bit/秒、1000M Bit/秒と伝送速度は速まり、最近のパソコンではこの1000M Bit/秒の伝送速度の機能を標準で持つパソコンが多くなってきた。この1000M Bit/秒の速度のイーサネットを簡略化してGイーサネットと呼んでいる。
【0038】
イーサネットでは基本は送り主がイーサネット上に伝送したいパケットを受信主のアドレスもつけて送り出し、同イーサネット上に該当アドレスを持つ受信主が存在した場合には、受信主が応答を返すことで成立する伝送方法であり、また同時刻に別の送信主が別の受信主に送る場合があることも許している伝送方法(衝突を許す)なので、カメラのような一定時間に一定のデータを伝送したい端末からの画像情報の伝送手段としては、その情報が確実に受信主に渡るという意味では不向きである。が、世の中のパソコンは、そのほとんどがこの安価で高速な伝送手段であるイーサネットを標準装備しておりインターネットなどに接続しポピュラーに使われているのでこの通信手段を使えば非常に便利である。
【0039】
以下、本発明のGイーサネットでの具体的接続方法を説明する。
なお、従来普通の2次元カメラ(エリアセンサー)を用いた場合であって、おおむね256(水平方向)×240(垂直方向)、あるいは640(水平方向)×480(垂直方向)の解像度を持つカラーの2次元カメラや1024*1024の解像度を持つモノクロカメラをGイーサネットで伝送する方法は存在する。
【0040】
256画素*240ライン*60フレーム/秒*3(RGB)=約11Mbyte/秒
640画素*480ライン*30フレーム/秒*3(RGB)=約28Mbyte/秒
1024画素*1024ライン*30フレーム*1(モノクロ)=約32MByte/秒
これはGイーサネットの伝送能力に比べて十分余裕のある伝送量であるので実用化されているが、現実にはパソコン上で負荷の多くなるアプリケーションソフトウエアが実行されていた場合には、取り込みミスすることを承知で行っている方法である。
【0041】
しかし、本発明のシステムは競技用電子判定装置であり、たとえ1ラインでも欠落は許されない。そこで本システムでは、図11のようにカメラ制御部内にバッファー73を設け、欠落なく伝送できるようにしている。
【0042】
(1)カメラヘッド70内のラインセンサーから出力されたアナログの画像信号はカメラ制御部80に送られ、最低限のアナログ処理(GAIN調整等)を行ってAD変換される。
(2)AD変換されたラインセンサー画像は、必要な画像処理(ノイズ除去、ガンマ変換、ホワイトバランス調整等)を行ない、画像の先頭に時刻情報、開催場所情報などの情報を加え、さらにこのままパソコンに送ったのではパソコン上ではラスター方向(水平方向)になってしまうので、競技用で使う垂直方向に変換する必要がありこの部分で縦横変換する(72)。
(3)Gイーサネット経由でのパソコンからの指示、あるいはカメラ制御部に直接接続されたタイムスタート、記録開始、記録一時停止、記録終了等のボタンの指示に従って、カメラ制御部内のCPU81は各部に指示を出し、図12に示されるように縦横変換された画像を1レース分を格納するに十分なバッファーメモリー73に記録停止指示がくるまで上記画像情報を記録する。
(4)バッファーメモリー73にGイーサネット82で送り出し可能な量の上記画像情報が格納されたことが確認できたら“1次元→2次元変換ならびにシーケンシャル番号付加回路”74は、バッファーメモリーから画像情報を読み出し開始し、1次元情報から2次元情報に組立てしなおす。このとき、図13に示すように先頭にシーケンシャル番号を付加する(より安全にするためにチェックサムをつけるとよい)。
(5)2次元情報に組立った画像情報はGイーサネット82にて、パソコンに向けて送出される。
【0043】
(6)パソコン79上のアプリケーションソフトはGイーサネットから、あたかも2次元カメラ情報として送られてきた本装置からの画像情報を取得するたびに、先頭のシーケンシャル番号を確認する(図11の78)。シーケンシャル番号は該当レースの記録開始直後が0、あとは連続に+1された値である(シーケンシャル番号にチェックサムをつけておけばより安全となる)。あるときアプリケーションソフトが取得した画像のシーケンシャル番号がnだとして、その次に取得した番号がn+2だとしたら、n+1の画像が伝送路で消失したことになる。n+mだとしたら、n+1〜n+m−1までの画像が伝送路で消失したことになる。この場合にはアプリケーションソフトはカメラ制御部のCPU81にGイーサネットを経由して、その消失情報を送る。受けたCPU81は該当ラインを再送するが、シーケンシャル番号の1部に再送画像であることのフラッグをつけて再送する。こうすることで、正常に送られた画像は、パソコン内の格納メモリーの所定位置に配置され、再送で後ほど送られた画像でも格納メモリーの位置は後でも特定できるので、その場所に挿入される。
シーケンシャル番号チェック(78)で期待されない値の場合は、アプリケーションソフトは捨て去る。(たとえば今n+1を期待しているのに、n−mみたいな画像あるいはチェックサムが会わない画像など)
【0044】
(7)なぜ、上記(6)のようなことを行うかといえば、画像の高速伝送速度とアプリケーションソフトの応答速度の関係でこうするのが最もよい。画像は2次元画像が256X240画素のカラー画像解釈だとして30MHz程度のクロックで送出すると約6mSで1画像がパソコンに届く。一方アプリケーションソフトの応答は速くても数mSに1回程度しかOSから実行権を受けれない。一旦実行権を受ければ、mS以下の高速作業も可能である。
【0045】
パソコン79にもイーサネットから受けた画像を一時滞留する十分大きなバッファーを確保し、OS配下にあるドライバーソフトに任せて本装置から次々と送られてくる画像を蓄える。アプリケーションソフトとしては時々このバッファーが半分以上溜まったかみて、それ以上になったらGイーサネット経由で、カメラ制御部に伝送を止めるように指示する。あるいは殆ど無くなったらカメラ制御部に伝送を再開するように指示する。(概ねバッファーサイズの5%未満を検出して指示するとよい)
【0046】
カメラ制御部はアプリソフトからの伝送停止命令があるまでは連続で画像フレームを送り出す。ドライバーソフトウエアは、この伝送に応じて次々とパソコン79内のバッファーに格納するが、パソコンの実行負荷によっては、ある画像フレームが消失している(Gイーサネットが保証していない)。そこで、上記のようなシーケンシャル番号を付加することで、画像が全て正しく到着したか確認する必要がある。こうしてカメラのような一定速度で伝送してくる装置からも安価で高速ではあるが、画像消失が行われるGイーサネットでも安全に伝送することができる。
以上のことにより、世間で一般的に使われているGイーサネットを使うにもかかわらず、映像信号を連続的かつ安定して伝送している。
【0047】
本発明の競技用電子判定システムの具体的実施例(以下、CDV−Xシステムという。)を図10に示す。
図10において、CDV−Xシステムはメモリボックス(以下、DCUという。)56を中心とし、センサーカメラ50、専用CCDライン59、光ファイバー57、ギガビットイーサネット(以下、Gイーサネットという。)58、PC(パソコン)55、メイン/サブ操作卓60.61及びUXGA解像度(1600×1200)の液晶モニター62からなっている。
【0048】
DCU56はカメラヘッドからのアナログ信号をコンディショニングして、A/D変換を行う。DCU内で記憶容量が2GBあるバッファメモリーに画像データを蓄積しながらフォーマット変換してPC55に転送する。PC55では受け取ったレースデータをPC画面上に表示し、拡大縮小や画像処理を行い最終的にデジタルデータとしてハードディスクに記録する。
【0049】
DCU56内のバッファメモリーが1レース分あるので、万一PC55側で事故が発生しても1レース前まで遡ってレースデータを再取得することが可能である。
PC55とDCU56との制御通信は、カメラリンクインターフェース中のシリアル通信ラインで行う。ボーレートは38.4Kbpsである。
DCU56内には、アナログプロセス基板とデジタル処理基板が設けられており、各基板の役割は以下のとおりである。
【0050】
・アナログプロセス基板
カメラ動作に必要なクロック、同期信号を発生する。
PC55からの設定をDCU56内のCPU(SH−4)で受信し、その設定に基づいたタイミング信号を発生する。
【0051】
カメラヘッドより接続されたアナログ信号はゲイン調整、オフセット調整、フィルターなどの処理を経て10BITのA/D変換器に入力され、デジタルデータに変換される。
データはアルテラFPGA内に入力され、様々な信号処理を経てデジタル処理基板にLVDS信号として接続される。
【0052】
・デジタル処理基板
上記アナログプロセス基板より、デジタル化された画像データを受け取り、まず縦横変換を行い縦スキャンのデータをラスタースキャンのデータに変更する。ただし、バッファメモリー容量及びカメラリンク送出時の都合により縦スキャン16ライン毎のブロックで変換を行う。
【0053】
つまり、16ライン分のデータが横16画素×縦3600画素のラスタ・スキャンデータに変換される。また、このときに、画像には縦1ライン毎にタイムコードが埋め込まれる。
【0054】
次に、画像データは2GBを有するバッファメモリーに書き込まれる。
また、このデータは次レースデータ取得時及び電源切断時以外はデータを保持し続ける。従って、PCへの転送が何らかの原因で失敗してもPCへの最送出が可能である。
【0055】
バッファメモリーに書き込まれたデータは順次読み出され、256×226画素のエリアスキャン・カメラデータとしてカメラリンク・アダプターに送出される。
また、この基板にはルネサス社製SH−4CPUを搭載しており外部入力並びにPCよりのトリガー信号を制御して画像取り込みの様々な制御及び各所内部設定およびカメラヘッドCPUとの通信管理などを行う。
【0056】
・カメラリンク←→ギガビットイーサネットメディアコンバータ
デジタル処理基板よりカメラリンクインターフェースで出力されたレースデータはプレオラ社製「カメラリンクtoギガビットイーサネット」変換器52に入力されギガビットイーサネット信号にて出力される。
転送レートは最大100MByte/Sec で、本装置では最大60MByte/Sec 程度のスピードを目標で使用している。
【0057】
・ギガビットイーサネット←→光ファイバメディアコンバータ
ギガビットイーサネット信号はさらにギガビットイーサネットto光ファイバ変換器53に入力され光ファイバ信号にて出力される。
信号はシングルモード伝送で到達距離は1km以上となっている。
【0058】
・素子の冷却
従来の電子判定装置では、その目となるラインセンサーの各受光素子には一般のCCDあるいはCMOS素子でかつ素子の冷却を行っていなかったため、低照度あるいは高速度での撮影では熱雑音が支配的な判定用画像となり判定の妨げとなっていた。
【0059】
本発明の装置では、図9に示すようにラインセンサーの素子41の背面にペルチェ素子44を装着し、約零℃以下まで冷却することで、素子の温度を下げて熱雑音の発生を少なくさせ、判定用画像の画質を改善して判定作業を簡単にする。
【0060】
・量子雑音対策
電荷増倍機能をもったラインセンサーからの出力画像は、増倍比率を上げれば上げるほど増倍にともない量子雑音が無視できなくなり、そのまま画像化しても判定用画像としてはノイズの多い画像となり判定の妨げとなっていた。
【0061】
本発明の装置では、電荷増倍機能を持ったラインセンサーからの出力画像を時間方向には影響しないように列方向のみで、ある注目画素の近傍の画素との比較で中央値を示す値で代替することで、雑音を取り除く処理を行い画質改善することで判定作業をし易くした。
【0062】
・光ショットノイズ対策
暗い被写体は光子の量も少なくなってくると、光の持つ揺らぎの成分まで撮像するレベルになり、レスポンスの速いCCDカメラは、ランダムノイズによる画像品質劣化が生じてくる。これはCCDに残像がない特徴が、かえって悪影響を及ぼすためである。
【0063】
レスポンスの速さから来る弊害をなくすために、イメージインテンシファイアの蛍光面の持つ特性と同様に、信号のアベレージングをするようなスムーズ処理を後段に接続することで画質改善が可能である。
【0064】
この具体的態様は以下のごとくなる。
まず、この発明において重要なことは、上記スムージングにおいて時間方向の加工処理は行わないことである。
【0065】
通常のセンサのショット・ノイズ対策は、一定領域内の上下、左右の画素を取って、その平均値を採用する。このことにより画素の連続性がスムーズになりクリック性のノイズが除去される。
【0066】
しかし、本発明のラインセンサーの主たる目的はゴールライン上の着順判定であるため、時間軸上で前後の平均値を取ると画像の正確な位置が崩れることになり好ましくない。
従って、この発明では、画質より判定の正確さの方が優先されて、上記スムージング処理を上下の位置間(センサー長手方向)についてのみ行い、時間軸でずれた画素間、すなわちスキャンの異なる連続画素間のスムージングは一切行わない。このことにより、時間軸上の判定精度が向上することになる。
【0067】
このスムージング処理は、センサーからの画像をD1,D2,・・・Dn,・・・とADコンバータでデジタル化した後、
例えば、
イ.加重移動平均(例は3位置法、5,7,9位置でも同じ要領)
DnNEW=(a*Dn−1+b*Dn+c*Dn+1)/(a+b+c)
Dn:R,G,Bと3種類あり0〜4096(12Bit のADコンバータを使った場合)の値を示す入力画像データ
a,b,c:0〜256内の任意の値
(主に、熱雑音を除去する場合に使う。)
ロ.単純中央値選択法(例は3位置法、5,7,9位置でも同じ要領)
GnNEW=SORT(Gn−1,Gn,Gn+1)
RnNEW=SORT(Rn−1,Rn,Rn+1)
BnNEW=SORT(Bn−1,Bn,Bn+1)
ここでのSORT関数は与えられたDATAを大きい順あるいは小さい順に並び替えて、その中央値を左辺の値とする関数。たとえばGn−1=100,Gn=120,Gn+1=110だとして、小さい順に並べると、100(Gn−1),110(Gn+1),120(Gn)となり、中央値として110(Gn+1)が採用される。なお、上記式ではカラー画像を前提に説明している。
(電荷増倍部でランダムに発生するインパルス性ノイズの除去に使う。)
【0068】
ハ.緑基準中央値選択法
GnNEW=SORT(Gn−1,Gn,Gn+1)
RnNEW=GnNEWの候補になった位置のRn
BnNEW=GnNEWの候補になった位置のBn
上記式ではカラー画像を前提に説明している。
(電荷増倍部でランダムに発生するインパルス性ノイズの除去に使う。)
等を用いる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、夜間とか、夕方の低照度状態の競技や、高速度撮影を可能にし、高分解能を実現したので、従来信頼性が低かった電子判定装置の信頼性が向上し、従来写真判定に頼っていたゴールライン上の着順判定に本発明の電子判定装置が用いられる可能性が高くなった。
【0070】
また、着順判定作業が正確かつ容易になると共に合理化が図られ、手作業に頼る写真判定の作業も軽減される効果がある。さらにまた、電子化により記録や再生の作業が非常に簡便になる効果が大きく、夜間等の低照度状態や高速度撮像可能な、高分解能の上記本発明の電子判定装置の産業上の利用性は高い。
【符号の説明】
【0071】
1 受光部
2 アンプ
3 受光部
4 電荷増倍部
5 アンプ
10 センサー部
11,12 電荷転送部
13 電荷増倍部
20,21 受光素子
22 オーバーフロードレイン
30,35 カメラヘッド
31,36 カメラ制御部
32,37 パソコン
33,38 モニター
41 受光部
44 ペルチェ素子
50 CCDカメラ
55 PC
56 DCU
70 カメラヘッド
73 バッファーメモリー
79 PC
80 カメラ制御部
81 PC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CCD素子の後方に電荷増倍部を持つラインセンサーを用いて感度を高め、かつ雑音を抑えることにより、通常のCCDあるいはCMOSセンサーでは撮像不可能な夕方や夜間の低照度条件、及び/または10000ライン/秒の高速度撮影条件においても撮像可能とした競技用電子判定装置において、
前記電荷増倍機能を有するラインセンサーの出力画像を位置方向(長手方向)のみに、加重移動平均での代替や中央値選択法によりスムージングを行い、時間軸方向には一切該スムージング処理を行わずに上記電荷増倍部でランダムに発生するインパルス性ノイズを除去したことを特徴とする競技用電子判定装置。
【請求項2】
CCD素子の後方に電荷増倍部を持つラインセンサーを用いて感度を高め、雑音を抑えることにより、通常のCCDあるいはCMOSセンサーでは撮像不可能な夕方や夜間の低照度条件、及び/または10、000ライン/秒の高速度撮影条件においても撮像可能とした前記請求項1記載の競技用電子判定装置を用い、該電子判定装置のCCD電子カメラ制御装置と表示用パソコン間をGイーサネットで接続することを特徴とする競技用電子判定システム。
【請求項3】
前記電子カメラ制御装置の内部にフレームバッファー部を設け、該フレームバッファー部において前記ラインセンサーの画像を標準の2次元画像のごときフォーマットに構築し伝送することにより、Gイーサネットで標準にサポートされている2次元カメラ伝送のルールに基づいてラインセンサーの映像情報及びデジタル情報(スタートからの経過時間、開催日、開催地等)をGイーサネットの通常のルールの範囲で伝送し、前記表示用パソコン内部で上記伝送されてきたラインセンサーの映像情報及びデジタル情報を再構築して表示したことを特徴とする前記請求項2記載の競技用電子判定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−85324(P2012−85324A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258376(P2011−258376)
【出願日】平成23年11月27日(2011.11.27)
【分割の表示】特願2006−317883(P2006−317883)の分割
【原出願日】平成18年11月26日(2006.11.26)
【出願人】(000144670)株式会社山口シネマ (9)
【Fターム(参考)】