説明

電解加工方法並びに電解加工装置

【課題】電解加工の研磨精度並びに研磨レートの向上を図る。
【解決手段】ウェーハWの被加工対象膜と電解加工装置10の電極31との間のギャップGを電解液の静圧或いは動圧を利用して極小に制御する。電解液33は誘電体微粒子を含有したものを用い、電解液をギャップ間へ供給しつつ通電して電解加工を行う。ギャップ中の誘電体微粒子が被加工対象膜に近接、または接触した箇所の電位勾配が急峻となり、その部分に活性化エネルギーが集中して除去加工が進行する。誘電体微粒子は分布確率の一様性に応じて被加工対象膜の全面に均等に作用し、表面が荒れることなく鏡面が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、材料表面の平滑化処理を行う電解加工方法並びに電解加工装置に関するものであり、特に、加工精度の向上を図った電解加工方法並びに電解加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超LSIにおいては、超微細多層配線化を進める中で層問絶縁膜のLow-k化(低誘電率化)が必須となりつつある。Low-k材料は空隙率が高いため、従来一般的な平坦化手法であるCMP(Chemical Mechanical Polishing)では、研摩圧力による被加工膜の破壊や剥離が起こり易く、より低圧の研磨技術が要求されることとなった。
【0003】
被加工膜へ直接に工具の圧力がかからない加工方法としては電解加工があり、電解加工とCMPを組合わせて低圧で効率的に研磨を行う電解CMPも知られている(特許文献1、2、3など)。電解CMPにおいては、化学機械的に改質される過程と電解溶出によって除去される過程とが競合し、さらに、それとは別に機械的な除去作用も同時に関係する。そのため、加工メカニズムが複雑になって制御が難しい。例えば、研磨レートが低下した場合において、その原因が電解プロセスにおける電気二重層の成長などに起因する電気エネルギー伝達ロスによるものか、化学プロセスによる表面酸化によるものか、或いは、単に研磨パッドの目詰まりによるものかを判断することが困難で、安定した加工を行うことは容易ではない。また、物理的接触による被加工薄膜の損傷や破壊の虞が完全に解消されるものではない。つまり、電解溶出作用と、化学的に改質する作用、機械的に除去する作用が混在し、それぞれが独立して作用して加工除去していくため、その3つの作用においてそれぞれの加工の分担量も制御しながらも精度良く制御管理することは不可能である。
【0004】
また、電解加工において、純粋に電解溶出の要素だけを利用して加工を行う場合、被加工面全体の電解加工が等方的に進行するので、微小凹凸の修正は困難であり、平坦化を進行させるためには機械的な除去加工を要する。そのため、化学機械的研磨によって平坦化を行い、その後電解加工を行うなどの2段の工程を組む場合が多い。しかし、導電膜の研磨の工程が一つ多くなることや、電解加工の効率が悪くなるため、生産性の点から良いとはいえない。
【0005】
また、等方的な電解加工において、加工の進行は純粋な電解溶出によるものであるが、電解溶出が起こる場合は、被加工物から格子欠陥などのエネルギー的に活性な点付近や溶液内のイオン濃度の高い部分に電解集中が起こる。その電界集中により、さらに、その付近にイオンが集結する。その結果、イオンが凝集した被加工物の付近から選択的に溶出が進行する。それに対して、その周りはイオンが少なくなり、加工されにくい部分も付随的に生まれる。加工が進む部分と進まない部分がばらついて存在し、結果として面荒れが大きくなる。このようにイオンを含む溶液に対して電界がかけられた中では、溶液内のゆらぎや材料表面の格子欠陥などの状態によって電解溶出が先に起こる部分と起こりにくい部分が存在してしまい、微視的に一様な鏡面加工の進行は困難であって、電解溶出した表面は荒れた表面になり、配線部分の断面積も小さくなる(例えば、特許文献4)。
【0006】
また、同様に、電解加工のウェーハ全面における平面精度の向上を図った技術としては、被加工面よりも小さい対向電極部材を被加工面に対して相対的に移動して、平面度を検知しつつ選択的に研磨することにより加工精度の向上を図った電解加工方法及び電解加工装置が知られている(特許文献5)。しかし、この装置においても、電極とウェーハの間の電極間ギャップの形成方法について、どのような方法で凸部と凹部の電極間ギャップを形成し、それを厳密に制御するかについての記述はない。
【0007】
また、ウェーハの平坦化を行う上で微小なパターンの凸部と凹部において、配線ルールがミクロンオーダーかサブミクロンオーダーであるため、微小な凹凸の起伏もミクロンオーダーかサブミクロンオーダーであり、これを平坦化することが目標とされる。その一方、ウェーハの全体の反りや厚みむらなどによる全体的なうねりによる起伏は、数十ミクロンか、反りにおいては、例えば、直径300mmウェーハの場合は100μmに及ぶ場合もある。こうしたロングレンジのうねりに対して、電極とウェーハとの接触を避けるためには数百ミクロン程度のギャップが必要となる。
【0008】
しかし、実際に数百ミクロンの電極間ギャップを設けた場合、ウェーハの微小な凹凸がミクロンオーダーであるのに対して、電極間ギャップは相対的に非常に大きくなるため、実質的には先に述べたように等方的に加工が進行にすることになる。
【0009】
尚、こうした微小凹凸の凸部を選択的に加工する方法として、キレート膜を導電性膜上に形成させて、キレート膜上の凸部をまず機械的に除去して、電解加工を行うことにより、凸部を他と比べて選択的に加工を進行させて、平坦化を行うとしている。平面と平面で機械加工する場合、ウェーハ全面が完全に均一に接触するのではなく、接触点と非接触点が現れ、真実接触点はごく一部である。この真実接触点の部分において加工が進行する。よって、加工する現象は瞬間的にはまばらに加工が進行するが、ある程度の長い時間加工すると、真実接触点のウェーハ面内の確率密度分布が平均化されるため、見かけ上ウェーハ全面が均一に加工されるのである。
【0010】
しかし、キレート膜を除去する工程で考えた場合、真実接触点が確率分布により平均化される十分な時間を要するものではなく、極短い時間で除去されることが予測されるため、上述したような真実接触点部分でキレート膜が除去される部分とキレート膜が除去されない部分がウェーハ面内でまばらに存在することになる。キレート膜が除去された部分は、銅表面が露出して急激に導電率が向上するため、その部分は選択的に加工が進行する。一方、ウェーハ面内で凸部でありながらも、真実接触部分として接触しなかった部分は、依然としてキレート膜が表面を保護している状態になるため、加工は進行しないままである。よって、短時間で見た場合、接触点と非接触点の加工ばらつきの差が顕著になることが予測され、実際に理想的な加工が進行するとは考えられない。
【0011】
さらに、本公報では、事前に測定して得たウェーハの膜厚に応じて除去すべき被研磨膜の量を算出し、それに応じて陰極部材の移動時間を制御するとしている。しかし、通常の電解研磨の場合、その陽極側では、電解溶出で銅が電気分解する一方、水が電気分解されて陽極酸化も進行する。
【0012】
【化1】

【0013】
よって、活性酸素が生まれるため、陽極はすぐに酸化が進行し、CuO の酸化第二銅がすぐに形成されてしまう。
【0014】
以上のことから、普通に加工を行う場合、すべての電流が電解溶出加工に消費されるのではなく、水が電気分解することにも使用されるので、使用した電流量で加工量を精密に見積もることは困難である。
【0015】
特許文献6の電解加工方法及び電解加工装置によれば、イオン交換体を使用して、超純水を水素イオンH+ と水酸化物イオンOH-とに分けて、そのうちの水酸化物イオンOH-を使用してウェーハ表面を加工するものである。
【0016】
しかし、この水酸化物イオンOH-は先にも述べたように、陽極部分では活性な酸素原子が形成され、この酸素原子によって陽極の銅はすぐに酸化される、いわゆる陽極酸化が進行する。そのため、Cuの純粋な電解溶出と陽極酸化が競合して安定した加工が進行しない問題が予測される。
【0017】
さらに、この電解加工方法の基本原理は、水酸化物イオンという化学種が表面に作用することによって加工が進行する方式である。イオンやプラズマといった化学種が表面に作用して加工が進行する場合、その化学種は、被加工物表面のエネルギー的に活性な点から選択的に加工が行われる。たとえば、化学液によるエッチングなどが顕著な例であるが、化学的にエッチングされる場合、エッチングが進行する場所が格子欠陥などのエネルギー活性点になるため、結果として、エッチングは面内で制御性が無く、被加工対象物の表面エネルギー状態に応じてまばらに加工が進行し、鏡面にはならないと考えられる。
【0018】
以上のように、公知例中の水による電解加工では、水酸化物イオンが陽極で酸素を作り、陽極酸化を促進し、電解溶出を阻害する問題があり、化学種と被加工物との加工では、エッチングと同様に、活性点から順に加工が進行して面が荒れてしまう問題がある。
【0019】
本願出願人の提案である特許文献7の電解加工方法及び電解加工装置は、被加工面とこれに対向する電極とのギャップを極めて小さくし、電解作用のギャップ依存性を大きくすることによって電解加工の研磨精度の向上を図ったものである。つまり、電極間ギャップが大きい場合に比して電極間ギャップが微小な場合は、対向電極と被加工面の凹と凸の距離の差が相対的に大きくなることにより、凸部の研磨がより効果的に行われるという着想に基づくものである。
【0020】
特許文献5に関する説明で述べたように、ウェーハ全体の反りなどによるうねりは数十ミクロンから数百ミクロンもあり、通常はウェーハと電極間のギャップをうねり以上とするのに対して、特許文献7の電解加工方法及び電解加工装置は、流体の応力を利用して電極をウェーハに対して浮上させてギャップを形成することにより、ミクロンオーダーおよびサブミクロンオーダーの起伏を有する微小な凹凸を平坦化することができるようにしたものである。
【0021】
これにより、数十ミクロンから数百ミクロンもあると考えられるウェーハ表面のうねりに追従しながらも、自動的に流体の応力によって、ウェーハに対する電極位置が決定し、場合によっては、微小な凹凸に見合ったサブミクロンオーダーのギャップを形成することも可能とすると考えられる。
【0022】
しかし、特許文献7の電解加工方法及び電解加工装置は、電極位置をウェーハに対する位置に対して制御することは問題ないが、先に述べたように化学種による電解加工によって加工が進行するため、次の問題が考えられる。
1. イオンによる加工のため活性点から順に加工が進行し表面が荒れやすい
2. 銅が電解溶出する際に、同時に一部にイオンが集積して電解集中が起こり、そのため電解集中ポイントでは、銅の電解溶出のみならず水の電気分解も進行する。結果として、水酸化物イオンにより酸素が発生するため、銅の表面を酸化させてしまう陽極酸化が進行する。
【0023】
また、特許文献2に記載の装置においては、以下の問題がある。
1. 加工の3要素が独立して作用して競合する部分もあるため、それぞれの要素による加工の分担量を制御しにくく、結果として加工の制御性が悪い。
2. ウェーハ面とパッド面の接触状態は、完全に均一に接触するものではなく、真実接触状態は一部である。そのため、電気が供給される部分もごく一部から供給され、その接触抵抗は非常に大きくなるほか、その接触状態をウェーハの枚数やパッドの処理枚数に関わらず、接触状態を絶えず安定して保ちつつ、接触抵抗を安定して管理することは非常に難しい。
3. パッドが非常に大きい場合、パッド面内でも電位分布が発生してウェーハとの電位差がパッド面内で一定ではなくなり、ウェーハの均一性に多大な影響が出る。
これらの3つの要素が加工の安定性を考えた上では問題になる。
【0024】
また、特許文献3に記載の装置においては、ウェーハ表面を陽極にするうえで、ボール部分から電気が給電されるが、先に述べたような真実接触状態がごく一部になり一様にならない問題や、電極のボール部分とウェーハ表面の間の接触抵抗が大きく影響し、運動する形態の中ではその抵抗変化などを制御することができなくなり、結果として安定した電解溶出を起こすことが不可能になるという問題が予測される。
【0025】
特許文献8は、リテーナ内周面に陽極を配し、この陽極に当接する外周シード膜を介して、Cu膜に通電する方法を開示している。Cu膜通電と同時にCu膜表面にパッドを摺動させて払拭し、Cu膜を除去するものである。しかし、研磨中に研磨時によって働くCu表面における摩擦抵抗によって、Cu外周部とリテーナ内周部との間の通電状態は大きくばらつくことになる。
【0026】
たとえば、陽極側から供給された電気は、必ずしもウェーハのみに給電されるわけではない。リテーナ内周部とウェーハ外周にはスラリー(または電解液)が入り込む。このスラリーを介して漏電する量も無視できない。このスラリーは、ウェーハのリーディングエッジ側(ウェハから見てパッドが流れてくる上流側)とウェーハのトレーリングエッジ側(ウェハから見てパッドが流れ去る下流側)では、スラリーの侵入する度合いも大きく変わる。そのため、スラリーを介して漏電する量もウェーハの位置によって変化することになる。場合によっては、通電状態が絶えず連続的である保証もなく、スラリーの侵入する影響によっては通電が断続的になる可能性もある。
【0027】
さらに、ウェーハがパッドに対して全面で同時接触して研磨される場合、必ずしも均一に研磨されるとは限らない。例えば、ウェーハの外周部がウェーハの内周部に対して、程度の差はあれ、速く加工されることもある。この場合、ウェーハ外周部付近の導電性膜は、内周部の導電性膜よりも先に除去が完了してしまうことになる。このとき、導電性膜表面にはリテーナ内周面から通電させて電気を供給しているが、ウェーハ外周部の導電性膜が先に除去されてしまうと、残されたウェーハ内周面の導電性膜には電気が通電できなくなるため、結果として膜が取り残されてしまうことになる。
【特許文献1】特開2001-196335号公報
【特許文献2】特開2005-340600号公報
【特許文献3】米国特許第7084064号明細書
【特許文献4】特表2002-520850号公報
【特許文献5】特開2002-93761号公報
【特許文献6】特開2003-205428号公報
【特許文献7】特開2006-233253号公報
【特許文献8】特開2003-347243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
以上述べた従来の電解加工の問題点をふまえて本発明は、以下の事項を目的とする。
1. 3つの作用(機械、化学、電解)が混在して加工の制御性が低下することを防止する。
2. イオン密度の場所むらによって生じる電界強度ばらつきによる加工ばらつきをなくす。
3. 水が電気分解することによって生じる酸素原子により、陽極である銅表面が酸化することを防止する。
4. パッド面内の電位ばらつきや、ウェーハ保持状態による電界強度の不安定な状態を生じないように、ウェーハのうねりに対して電極が追従して移動し、微小ギャップで安定して均一な電位勾配を形成して、微小な凹凸の平坦化を実現する。
5. 上記のように、微小ギャップを形成して微小な電流を制御する電解加工において、連続的かつ安定して電気を給電するシステムを形成する。
【課題を解決するための手段】
【0029】
この発明は、上記目的を達成するために提案するものであり、請求項1記載の発明は、ウェーハに被加工対象膜を形成した被加工対象物を平滑化加工する電解加工方法であって、ウェーハの被加工対象膜へ微小な一定のギャップを介して導電性の電解加工工具を対向させ、固体粒子を分散させた電解液を被加工対象物の表面へ供給しつつ、被加工対象物を電解加工工具に対して相対的に運動させ、前記電解液を前記ギャップに流入させた状態で、電解加工工具と被加工対象物とに通電して電解加工を行う電解加工方法を提供するものである。
【0030】
これにより、被加工対象物と電解加工工具が一定のギャップを有しているため、機械的な作用は働かない。また、表面を酸化させる酸化剤なども含めていないため、表面が大きく酸化することは無く、純粋に電解溶出効果だけが作用する。そのため、従来の問題にあるように、機械作用と化学作用と電解溶出作用が3つ独立して混在し、その加工の分担割合が複雑化することは無い。
【0031】
また、単純な電解溶出作用では、被加工対象物表面に格子欠陥などのエネルギー的に活性な点付近や溶液内のイオン濃度の高い部分に電解集中が起こる。その電界集中により、その付近にさらにイオンが集結して電解集中が増大し、その結果、イオンが凝集した被加工物の付近から選択的に溶出が進行する。
【0032】
一方、本発明の方式の場合は、電極間のギャップ部分に微粒子を介在させる。これは、導電性微粒子や絶縁体の誘電体の微粒子であってもよい。図9は、微粒子による電位勾配形成原理を説明する図で、1は電解加工工具(陰極電極)、2は被加工対象物(陽極電極)であり、電解加工工具1と被加工対象物2との間隙は、固体微粒子を含有した電解液Sで満たされている。(a)は微粒子が被加工対象物に作用した場合を示し、(b) に示すような微粒子が存在しない他の部分と比べて電位勾配曲線cが急峻になる。その結果、微粒子が作用した部分が局所的に電解溶出を起こして加工されることになる。
【0033】
微粒子が被加工物表面に接触ないしは近接することが、その付近の電位勾配を大きくして加工の進行に寄与することであるが、微粒子の被加工物表面への作用する確率分布は、ウェーハ上の表面状態によらず均一になる。言い換えれば、たとえ表面に格子欠陥などが存在したとしても、微粒子は、流線に乗って表面の格子欠陥の有無に関わらず、一様に作用する。その微粒子が作用した被加工物表面は、機械的に除去されるのではなく、電気化学的に電解溶出加工される。
【0034】
よって、加工の素過程は化学的でありながらも、その化学的な加工が起こる箇所の確率密度分布は、表面の格子欠陥有無などによるエネルギー状態に依存することなく、絶えず微粒子の衝突確率に依存するため、原理的に均一な分布となる。その結果、面荒れの小さい極めて鏡面となる表面を得ることができる。特に被加工物、この場合は銅等の配線材料における表面の鏡面化は、ウェーハのあらゆる箇所の配線断面積をむらなく十分確保する上でも重要になる。
【0035】
また、溶液中に微粒子が存在し、その微粒子を介して急峻な電位勾配が形成される場合では、電解溶出加工を起こす上での十分な活性化エネルギーを得ることができるため、電解溶出加工のみが進行し、副作用となる水の電気分解は起こりにくい。
【0036】
水の電気分解が起こる場合は、先にも述べたように、陽極である被加工物表面で水酸化物イオンから酸素原子が生成され、その酸素原子によって被加工物表面の酸化、いわゆる陽極酸化が進行する。特に、銅やアルミニウムなどの金属では、表面が酸化されやすい。また、Cuの下層に堆積するバリア膜に使用されるTa(タンタル)などに至っては、表面が酸化されると非常に緻密な酸化膜TaO2が形成され、導電率が著しく劣化する。そのため、陽極酸化が起こる状態で電解加工することは、表面に緻密な酸化膜が形成されるため、加工は極めて困難になる。
【0037】
本発明のように、微粒子を介在させた場合、副作用となる水の電気分解を抑えることができるため、陽極酸化を防ぐことが可能となり、被加工物表面が緻密な酸化膜で覆われることなく、絶えず安定して導体表面からの電解溶出加工が安定して進行し、均一で鏡面となる電解加工を行うことが可能となる。
【0038】
また、請求2項記載の発明は、前記固体粒子は誘電体微粒子である電解加工方法を提供するものである。
【0039】
誘電体微粒子を介在させることにより、いわゆるコンデンサに誘電体を差し挟んだ状態と同様の状態になる。誘電体を挟んだことにより、誘電体が介在する部分の電位勾配は、他と比べて大きくなることから、微粒子が作用した部分は局所的に加工が進行することになる。水の電気分解を起こすことがないため、水の電気分解によって陽極部分である被加工物付近に生じる酸素原子が被加工物表面を酸化することはなく、安定した電解溶出加工を行うことが可能となる。
【0040】
また、請求項3記載の発明は、前記固体粒子は導電性微粒子である電解加工方法を提供するものである。
【0041】
導電性微粒子を介在させることにより、この場合も先と同様にコンデンサに導体を差し挟んだ状態と同様の状態となる。導体を差し挟んだことにより、見かけ上の電極間ギャップがさらに小さくなる。その結果、さらに大きい電位勾配が形成されることになり、微粒子が作用した部分は局所的に加工が進行することになる。先と同様に水の電気分解による陽極酸化が進行しないため、安定した加工を行うことが可能となる。
【0042】
また、請求項4記載の発明は、上記電解加工工具を上下へフレキシブルに変位するように支持し、被加工対象物と電解加工工具との間に流入した固体粒子を含有する電解液の静圧もしくは動圧により電解加工工具を被加工対象物に対して浮上させるか或いは完全に導通しない程度に半接触させて微小なギャップを形成する電解加工方法を提供するものである。
【0043】
これによれば、たとえ、被加工対象物(ウェーハ)全体におけるうねり形状が100μm以上もある状態の中であっても、その中に形成されるサブミクロンオーダーの微小凹凸を平坦化することが可能となる。ウェーハより小さい電解加工工具を流体の応力によって浮上させることによって、100μm近いうねりを有する表面に追従しながらも、被加工対象物(ウェーハ)と電解加工工具のギャップをサブミクロンオーダーに設定することができる。
【0044】
よって、そのギャップは、ウェーハ表面に形成されている凹凸の段差と同程度になる。表面の凸部に電界が大きくなり、凹部はそれに比べて電界強度が比較的小さくなるため、凸部から相対的に加工が進行するようになる。
【0045】
電解液が電解加工工具を浮上させる応力は、一般的な潤滑理論によって説明できる。例えば、被加工対象物(ウェーハ)の表面と、これに対向した電解加工工具の電極による滑動面との間の流体膜による動圧状態下の流体の応力は、図10に示すように、電極41のウェーハWへ対向する滑動面が、ウェーハWに対して傾いている場合、電極41の対向面へ働く電解液Sの圧力Pは次式(1)によって表される。
【0046】
【数1】

【0047】
ただし、l(L)は電極41の前後幅、h1は電極前端における電極41とウェーハWとのギャップ、h2は電極後端における電極41とウェーハWとのギャップでh1 >h2 の関係にあり、k=h1 /h2 である。この圧力Pが電極41にかかる研磨荷重と釣り合うことになる。一定の粘性を持つ流体下で、ウェーハWの表面が電極41に対して一定速度Uで運動している場合には、圧力Pに対して各部の間隔h1 、h2は一意に形成される。
【0048】
この潤滑理論に基づく原理により、ウェーハと電極との間の間隔は、非常に微小な距離でありながら、常に一定に保つことが可能となる。ウェーハと電極との間の間隔が保たれることで、ウェーハと電極との間の抵抗の変動が極めて小さくなり、絶えず一定の電流が流れる。これにより、ウェーハの表面では、厳密に制御された電流により、安定して電解溶出される。
【0049】
また、図11に示すように、電極31の中心部に電解液供給口を設け、電解液供給口からウェーハWの表面上へ排出する電解液Sの静圧によって電極を浮上させる場合の電解液流量Qは、次式(2)によって表される。cは流量係数、dは電解液供給口の直径、h3はウェーハと電極との間隔 、PC は供給口内圧力、P0 は大気の圧力、γは流体の単位体積重量を表す。
【0050】
【数2】

【0051】
この式より、電解液を一定の圧力で電極31の中心の電解液供給口から排出することで、電極31とウェーハWとの間隔h3 は絶えず一定の値になることが示される。よって、電極とウェーハとの間には一定の電流が流れ、安定した電解溶出が行なわれる。
【0052】
従来、純粋な化学的効果による電解加工においては、等方的に加工が進行することになっていた。しかし、本発明によれば電解加工工具をウェーハ表面に追従させながらも、流体の応力によって自然に微小ギャップを形成しながら、加工を行うことが可能となるため、うねりを有するウェーハに対しても、電解溶出加工という反応の素過程は化学的でありながら凸部を選択的に加工できる。
【0053】
また、請求項5記載の発明は、上記電解加工工具を被加工対象物に対して半径方向へ移動し、且つ移動速度制御手段により、電解加工工具の被加工対象物上の各半径位置における滞在時間割合を適正化する電解加工方法を提供するものである。
【0054】
上記の制御手段により、電解加工工具の適正な時間割合を設定することで、研磨対象材料の全面に亘って電解加工を完了させつつ電解加工工具を移動させることが可能となる。また緩やかな凹凸であってもその表面に追従して微小な凹凸を選択的に加工することが可能である。
【0055】
また、請求項6記載の発明は、上記電解加工工具を被加工対象物の中央部から半径方向へ移動し、且つ移動速度制御手段により、電解加工工具の被加工対象物上の各半径位置における滞在時間割合を適正化し、被加工対象物の中央部から順に導電性膜を除去しながら、除去の完了とともに半径方向へ移動していく電解加工方法を提供するものである。
【0056】
電解加工工具をウェーハ中央部から電解加工を行いつつ、中央部から電解加工を完了させながら外周部へ電解加工工具を移動させていくことで、ウェーハ上で導電性膜が取り残されることはない。加工が完了した部分は、一部の溝に埋め込まれた導電性膜を除いて、導電性膜が除去されていくが、ウェーハ中央部から順番に加工していくことによって、通電できなくなる部分が存在しないからである。
【0057】
また、請求項7記載の発明は、ウェーハに被加工対象膜を形成した被加工対象物をウェーハチャックにて保持し、且つウェーハチャックに設けた給電電極を通じて被加工対象膜へ給電するとともに、前記給電電極部分をシールし、電解液による電極の消耗を防止した電解加工方法を提供するものである。
【0058】
これにより、従来のような被加工対象物とリテーナ間で通電状況が変化して、断続的な電気の供給になることがない。またスラリーを介して漏電することはなく、安定して電気を供給するとともに、微小な電極間ギャップ形成と誘電粒子の均一な分散供給かにおいて、極微小な電流制御の要求に対しても安定して電気を供給することが可能となる。この安定した通電状態により、絶えず安定した電位勾配が電極間で形成され、極度な電位勾配の形成などによって生じる水の電気分解を起こすことはない。これによって、陽極付近で酸素原子が生成されて陽極である被加工対象物表面を酸化することもない。また、ウェーハチャックの給電部分の腐食も防止することができ、長期に亘って安定した加工が可能になる。
【0059】
請求項8記載の発明は、ウェーハに被加工対象膜を形成した被加工対象物を平滑化加工する電解加工装置であって、ウェーハの被加工対象膜へ微小なギャップを介して対向する導電性の電解加工工具と、前記被加工対象膜に通電するための給電電極と、固体粒子若しくは誘電体固体粒子を分散させた電解液を被加工対象物の表面へ供給する手段と、被加工対象物を電解加工工具に対して相対的に運動する手段を備え、前記電解液を被加工対象物の表面へ供給しつつ、相対的に運動する手段により被加工対象物を運動させ、前記電解液を前記ギャップに流入させた状態で、電解加工工具と被加工対象物とに通電して電解加工を行う電解加工装置を提供するものである。
【0060】
上記の電解加工装置は、請求項1記載の電解加工方法を実施するための装置であって、固体粒子の研磨促進作用によって研磨レートの向上が期待できる。また、電解液に誘電体微粒子を含有させることにより、電極ギャップ間に誘電体微粒子が存在する箇所の電位勾配が急峻になり、微粒子が作用した部分が局所的に加工される。微粒子が、被加工物表面に衝突する確率分布の一様性に基づいて、被加工物表面のエネルギー状態に関係することなく、一様な加工が進行し、結果として鏡面の表面を得る。また、水の電気分解によって生じる酸素原子による表面酸化も起こりにくく、安定した電解加工が進行する。
【0061】
また、請求項9記載の発明は、上記電解加工工具を上下へフレキシブルに変位するように支持し、被加工対象物と電解加工工具との間に流入した固体粒子を含有する電解液の静圧もしくは動圧により電解加工工具を被加工対象物に対して浮上させるか或いは完全に導通しない程度に半接触させて微小なギャップを形成する電解加工装置を提供するものである。
【0062】
上記の電解加工装置は、請求項4記載の電解加工方法を実施するための装置であって、前述したように、ギャップに流入する電解液によって被加工対象物と電解加工工具とのギャップが微小且つ一定に維持され、うねりを有するウェーハに対しても、電解加工工具がウェーハ表面に一定のギャップで追従し、凸部を選択的に加工できる。
【0063】
請求項10記載の発明は、上記電解加工工具を被加工対象物に対して、半径方向へ移動する機構と、電解加工工具の被加工対象物上の各半径位置における滞在時間割合を適正化する制御手段を備えた請求項8記載の電解加工装置を提供するものである。
【0064】
上記の電解加工装置は、請求項5記載の電解加工方法を実施するための装置であって、 上記の制御手段により、電解加工工具の適正な時間割合を設定することで、研磨対象材料の全面に亘って電解加工を完了させつつ電解加工工具を移動させることができ、均一な鏡面を形成できる。
【0065】
請求項11記載の発明は、上記電解加工工具を被加工対象物に対して、半径方向へ移動する機構と、電解加工工具の被加工対象物上の各半径位置における滞在時間割合を適正化する制御手段を備え、被加工対象物の中央部から順に導電性膜を除去しながら、除去の完了とともに移動していくように構成した電解加工装置を提供するものである。
【0066】
上記の電解加工装置は、請求項6記載の電解加工方法を実施するための装置であって、ウェーハ中央部から電解加工を行いつつ、電解加工工具を外周部へ移動させていくことで、ウェーハ上で導電性膜が取り残されることはない。
【0067】
請求項12記載の発明は、ウェーハに被加工対象膜を形成した被加工対象物を保持するウェーハチャックと、ウェーハチャックから被加工対象膜へ給電する電極と、前記ウェーハチャックの被加工対象物に給電する電極部分を覆うシールとを備え、電極部分が電解液に接触しないように形成した電解加工装置を提供するものである。
【0068】
上記の電解加工装置は、請求項7記載の電解加工方法を実施するための装置であって、従来のように被加工対象物の通電状況が変化して電気の供給が不安定になったり、電解液を介して漏電したりすることはなく、安定して電気を供給することができる。また、ウェーハチャックの給電部分の腐食も防止することができ、長期に亘って安定した加工が可能になる。
【発明の効果】
【0069】
本発明は、被加工薄膜の破壊の虞がない電解加工方法並びに電解加工装置において、電極間のギャップを極小とし、且つギャップに固体粒子を含有した電解液を介在させて電解研磨するので、固体粒子の研磨促進作用によって高い研磨レートが得られる。特に、誘電率の高い固体粒子を用いた場合は、誘電体固体粒子が存在する箇所の電極間の電位勾配が急峻になって、さらに研磨レートが向上し、誘電体微粒子は分布確率の一様性に応じて被加工対象膜の全面に均等に作用するので、高精度且つ生産性のよい電解加工が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0070】
本発明は、ウェーハに被加工対象膜を形成した被加工対象物を平滑化加工する電解加工方法であって、ウェーハの被加工対象膜へ微小なギャップを介して導電性の電解加工工具を対向させ、固体粒子を分散させた電解液を被加工対象物の表面へ供給しつつ、被加工対象物を回転手段により回転駆動し、前記電解液を前記ギャップに流入させた状態で、電解加工工具と被加工対象物とに通電して電解加工を行うことにより、被加工薄膜の破壊の虞がなく、研磨精度並びに研磨レートが高く、制御が容易で安定した加工を行える電解加工方法を提供するという目的を達成した。
【実施例1】
【0071】
以下、先に電解加工装置の構成を説明し、その作用説明とともに電解加工方法の詳細を記す。図1に示すように、電解加工装置10は、円盤状の定盤12と加工ヘッド部30とを備えている。表面にCuやTa等の導電性膜が形成されたシリコンのウェーハWは定盤12の上面に載置されて固定される。定盤12の下部には、スピンドル18が連結されており、スピンドル18はモータ20の出力軸に連結されていて、モータ20の回転とともにスピンドル18と定盤12は矢印A方向に回転する。
【0072】
図2に示すように加工ヘッド部30には、電極31、電解液33の供給手段としての供給ノズル32、及び電極31の微小移動量を測定するレーザ測定器36が設けられている。加工ヘッド部30は、図示しない駆動装置により矢印B方向に回転される。更に、リニアガイドなどの直動機構(図示せず)によりX方向又はY方向へ往復駆動される。
【0073】
電極31と定盤12との間には直流電源34が備わっており、これにより定盤12上に載置されたウェーハと電極31の間へ電圧を印加する。ウェーハと電極31の間に流れる電流値が、電解加工装置10の制御部(図示せず)に設定されている電流値の範囲を超えた場合は、制御部が加工ヘッド部30を上昇退避させて加工を停止したり、警告を表示したりする。
【0074】
電極31の上部中央には錘35が載置され、電極31は錘35と共に、錘35上部に設けられたバネ37によりZ方向へ微小移動可能に支持されている。加工中の電極31の微小移動量は、レーザ測定器36により計測される。
【0075】
電極31は、表面がカーボン、白金又はその他の導電性の金属で形成され、電解加工を行なう前のウェーハWの表面に形成された導電性膜の微小な凹凸よりも平滑に形成されており、ウェーハWと対向する面には図3の(a)と(b)とに示すように中心より放射状に溝が形成されている。
【0076】
図2に示すように、電極31、錘35及びバネ37の中央部には電解液33が供給される供給口31Aが設けられている。電解液33は、例えばNaNO3の0.5%〜1%水溶液の中に固体粒子を一様に分散させたもので、供給ノズル32より供給口31Aへ一定の圧力を加えて供給された電解液33は供給口31Aを通り矢印F1のように流れ、ウェーハWと電極31の間へ流入する。
【0077】
電極31は、ウェーハWとの間に流入した電解液33の静圧状態下の応力によりウェーハWの面上から僅かに浮上し、ウェーハWと電極31の間には一定の微小ギャップGが発生し維持される。この微小ギャップGはウェーハ表面に形成される凹凸に対して同等か、もしくは一桁大きい程度である。
【0078】
ギャップGの値は、ウェーハWの位置が固定されているので、レーザ測定器36により測定される電極31の微小移動量より測定可能である。ギャップGの値が、電解加工装置10の制御部に設定されているギャップGの許容範囲を超えた場合、加工ヘッド部30を上昇退避させ加工を停止するか、或いは警報を発する。
【0079】
加工ヘッド部の他の実施形態を図4(a)(b)に示す。加工ヘッド部40には、電極41、電極41を支持する弾性体42、弾性体42を取り付けるベース43、及び電解液33をウェーハの表面へ供給する供給ノズル44が設けられている。電極41と定盤12との間にはウェーハWと電極41との間に電圧を印加する直流電源34が備わっている。
【0080】
電極41は、ウェーハWと対向する面の形状が平面又は曲面であり、平面の場合はウェーハWの回転方向に対向する面の上流側を面取りしてある。電極41の表面はカーボン、またはプラチナなどの導電性金属で形成され、電解加工を行なう前のウェーハWの表面に形成された導電性膜の凹凸よりも平滑に形成されている。
【0081】
ベース43に取り付けられた弾性体42は、ゴム等の弾性体、又はバネ機構を有した金属等で構成され、電極41をウェーハWの表面から接離可能に支持している。ベース43は、加工中Y方向に往復運動し、電極41もそれに伴ってウェーハW上を往復運動する。
【0082】
電解加工工具は往復運動しても良いが、ウェーハ中央部から順に加工してもよい。最終的に、ウェーハ表面において、外周部の導電性膜が先に除去されてしまうと、内周部の導電性膜には通電されなくなる。そのため、内周部の導電性膜を電解加工によって除去することが難しくなる。こうしたことから、初期は電解加工工具をウェーハ半径方向に往復運動させても良いが、最終的に導電性膜を除去する間際においては、ウェーハ内周部から順に電解加工工具をスキャンさせて、導電性膜の取り残しなく、除去していくことが望ましい。半径方向に電解加工工具をスキャンする速度割合の一例は、別の表に示すが、これに限らず、銅などの導電性膜の除去状態に合わせて好適に制御することは可能である。例えば、ウェーハ表面上に分光器に連結された光モニタセンサ(図示しない)を対向させ、ウェーハ内周部から導電性膜が除去されたことを確認して、電解加工工具のスキャン速度に対応させてもよい。
【0083】
供給ノズル44からウェーハW上に供給された電解液33は、ウェーハWの回転に連れ回ってウェーハWの表面へ、矢印F2のように均一に移動していく。そのため、電極41は電解液33の動圧状態下の応力によりウェーハWの面上から僅かに浮上し、ウェーハWと電極41の間には一定の微小ギャップGが発生する。
【0084】
次に、定盤12のウェーハチャック機構を説明する。図5及び図6に示すように、定盤12の外周部には6個のウェーハチャック51〜56が等間隔に取り付けられている。各ウェーハチャック51〜56はウェーハWに対して給電部を構成するものであって、ウェーハチャック51〜56の内側(ウェーハW側)には、ウェーハWに電気を供給するための給電電極A〜Fが設けられている。後述するが、この給電電極A〜Fは、加工作業時に処理液等が侵入しないように周囲をシールしてウェーハWへ接触する。尚、この例では、図1の例とは加工ヘッド部の移動機構が異なり、加工ヘッド部61はアーム(可動部材)62の先端部に取り付けられ、アーム62の基端部は、高さ調整可能な鉛直軸63の上部に回動可能に取り付けられている。加工ヘッド部61は鉛直軸63を中心として円弧状に回動し、加工ヘッド部61はウェーハWの半径方向に移動することができる。
【0085】
相互に隣接する給電電極A〜Fは、図6に示すように、それぞれ導線71〜76により相互に接続されており、各導線71〜76には電気抵抗を測定するためのテスタ81〜86が設けられている。テスタ81〜86の測定値はコントローラ64に送信されて各給電電極A〜Fの導通状態が評価判定され、その結果はモニタ装置65に表示される。導通不良が生じた場合、複数の給電電極A〜Fのうちの何れが導通不良となったかが特定されてアラームにより自動的に報知される。
【0086】
図1に示すように、ウェーハWの上方には加工センサ66がウェーハWの半径方向へ移動可能に配設されている。加工センサ66はウェーハW上面の加工変化点を指向する投光部及び受光部を備えており、電解加工中におけるウェーハWの加工変化点が光学的に検出される。加工センサ66の検出信号はコントローラ64へ送信されて加工進行状況が解析され、その結果はモニタ装置65に表示される。
【0087】
続いて、給電電極A〜Fの封止機構について説明する。なお、給電電極A〜Fの封止機構は全て同一構造であるので、給電電極Aを例にとってその構造を説明する。図7に示すように、ウェーハチャック51の内側には断面逆L形の電極保持部57が設けられている。電極保持部57の内側には断面逆L形の給電電極Aが装着され、この給電電極Aの下端部がウェーハWの外周部上面に接触して電気的に導通する。
【0088】
ウェーハチャック51と給電電極Aの間にはシリコーンゴム等の薬品耐性を有する弾性体58が介装され、この弾性体58の内面の所定箇所にはウェーハWを保持するための係合溝59が形成されている。係合溝59へ係合したウェーハWは弾性体58の弾力によりがたつきなく保持される。電解加工時に、給電電極A〜Fは弾性体58にてウェーハWの外周部へ適度な押圧力で弾接するので、給電電極A〜FからウェーハWへの電気の供給が常に安定し、ウェーハWに対して均一な平坦加工が行われる。また、給電電極A〜Fの周囲は弾性体58にて封止されていて電解液が接触しないので、電解液によって給電電極A〜Fが酸化する虞がない。
【0089】
次に、本発明の電解加工方法について説明する。本発明は、ワークと対向電極とのギャップを極小として、ギャップに固体粒子、好ましくは誘電率の高い固体粒子を含有するスラリー状の電解液を流入させて電解加工を行うことを要旨としている。
【0090】
図2に示す電解加工装置10では、定盤12上に載置され回転するウェーハWと、回転する加工ヘッド部30の電極31との間へ、電解液33を供給口31Aから一定の圧力を加えて供給する。供給された電解液33は、ウェーハWと電極31の間に流入し、ウェーハWの表面上に広がる。このとき、電極31は電解液33の静圧状態下の応力によりウェーハW上から浮上し、ウェーハWとの間に微小なギャップGが生じる。
【0091】
また、図4に示す電解加工装置においては、回転するウェーハWに連れ回って電解液33が移動し、均一に広がる。ウェーハWと電極41との間に流入する電解液33の動圧により、電極41はウェーハW上から浮上し、ウェーハWとの間に微小なギャップGが生じる。
【0092】
電解液33により電極31,41とウェーハWは流体潤滑状態となっており、ギャップGは、電解液33の種類、状態、及び供給する圧力や温度等の条件、又は電極31,41にかける荷重等によって決まる所定の微小値に保たれる。
【0093】
ウェーハWと電極31,41の間へ電圧を印加すると、ウェーハW上に電気二重層が生成されるが、ギャップGはウェーハWと電極31,41間に生成される電気二重層の厚さよりも小さいことから、電極31,41とウェーハW間の電流状態は、位置による電気二重層の厚さの偏差の影響を受けず、電流分布が安定である。また、ギャップが広い場合に比較して、微小なギャップGにおいてはウェーハW表面の凹凸の相対的な距離差が大きいので、電界がより凸部に集中することになり、凸部が選択的に電解加工される。
【0094】
電極31,41は加工ヘッド部30,40と共にX方向、又はY方向へ往復移動し、ウェーハWの表面全体に形成されている凸部が、すべて選択的に加工されることとなる。
【0095】
加工中に直流電源34より流れた電流量は、電解加工装置10の制御部で積算される。制御部は、積算された電流量と、レーザ測定器36により測定された電極31の微小移動量より算出されるウェーハWの加工量から単位電流量あたりの加工量を算出する。これに基づき、順次加工ヘッド部30,40を移動し、電解加工工具の被加工対象物上の各半径位置における滞在時間割合を適正化して、全面に均一な加工を施す。
【0096】
上記の加工プロセスは、電解液33の質を除いて、前述した特許文献7記載の電解加工装置と同一であるが、ここでは、固体粒子を含有した電解液33を用いることにより、通常の電解液を用いた場合よりも研磨レートが向上し、また、副作用である陽極参加は起こらない。
【0097】
その効果を実証するためと、固体粒子の物的適性を探るため、種々の材料の固体粒子を用いて加工実験を行った。
【0098】
NaNO3の0.5%水溶液に対して、少量のTiO2粒子を0.3g加え、3Vの電圧を与えて、電解加工を行った。電極間距離は10μmとして、電極とウェーハは相対運動させずに行った。陰極側の電極は0.15mmの導電性ワイヤーの先端とした。
【0099】
図8はその実験結果を示し、(a1)は上記の条件による被加工膜の表面の写真、(a2)は(a1)におけるX方向断面の電解加工深さのグラフである。また、(b1)はTiO2粒子を添加しない場合の被加工膜の表面の写真、(b2)は(b1)におけるX方向断面の電解加工深さのグラフである。
【0100】
明らかに、微粒子がある場合とない場合とでは、加工状態が異なる。微粒子を混在させた場合は、微粒子入りの電解液が存在した領域は大きく加工されている(加工段差量70nm)。それに対して、微粒子がない電解液で加工した場合は、微粒子有無以外は同一条件であるにも関わらず、加工量は非常に小さい(加工段差量40nm)。
【0101】
また、微粒子がない場合は、外周部が黒く、おそらく水の一部が電気分解して、陽極側の銅の表面を酸化させたと考えられる。それに対して、微粒子が存在する場合は、微粒子が介在したことによる急峻な電位勾配の形成によって、水の電気分解による陽極の加工対象物表面の酸化を防ぎ、純粋に銅の電解溶出加工が効率よく進行し、安定して除去加工が行われる。
【0102】
このように、誘電体の微粒子の有無によって、加工レートが大きく変化し、電解加工に有効であることを確認した。非誘電体の固体微粒子、或いは誘電率の低い固体微粒子の場合であっても、微粒子の機械的研磨作用による研磨レートの上昇は期待できるが、誘電率が高い固体微粒子ほど研磨レートが上昇することが実験結果に表れていて、その理由は誘電体微粒子とワークの表面間の電解液によるギャップ間の電場勾配が、誘電体の無い場合に比べて極めて大きくなるためと考えられる。
【0103】
つまり、微粒子が電極間ギャップに進入し、微粒子が研磨対象材料に衝突、もしくは近接した部分だけが電位勾配が急峻になり、その部分は実質的な電極間のギャップが小さくなって電界強度(電位勾配)が大きくなる。そのため、その部分に電解溶出のための活性化エネルギーが集中して除去加工が進行する。また、anatase TiO2等は半導体でもあり、固体粒子内の電子移動は電解液中より高速となるので、固体粒子がワークへ直接接触する場合はその効果も大きくなるものとも考えられる。電解液中に分散させた微粒子は、分布確率の一様性に応じて研磨対象材料の全面にくまなく作用し、欠陥部分であってもなくても均等に作用することになる。そのため、表面は荒れることなく、鏡面が形成される。
【0104】
以上のように、電極間ギャップに固体微粒子、好ましくは高誘電率の固体微粒子を介在させることにより、被研磨面に大きな電位勾配を作用させて、微粒子が電解加工のトリガーを与える効果を示す結果が得られた。
【0105】
図に示すような装置において実際に電解加工を行う場合、例えば次のような実験条件を使用することで実施することが可能である。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
加工時間については、銅の膜厚などにもよるが、微粒子を介在させた電解液を使用することによって安定した加工を行うことが可能である。
【0109】
尚、この発明は上記の実施形態に限定するものではなく、この発明の技術的範囲内において種々の改変が可能であり、この発明がそれらの改変されたものに及ぶことは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明の一実施例を示し、電解加工装置の斜視図。
【図2】(a)は電解加工装置の、(b)は電解加工装置の正面断面図。
【図3】(a)、(b)はそれぞれ電極の底面図。
【図4】電解加工装置の他の実施例を示し、(a)は平面図、(b)は正面図。
【図5】定盤のウェーハチャック機構を示す電解加工装置の斜視図。
【図6】図5の電解加工装置の平面図。
【図7】ウェーハチャック機構の断面図。
【図8】(a1)は本発明の電解加工方法並びに電解加工装置により加工実験した被加工膜の表面の写真、(a2)は(a1)におけるX方向断面の電解加工深さのグラフであり、(b1)は電解液に誘電体粒子を添加しない場合の被加工膜の表面の写真、(b2)は(b1)におけるX方向断面の電解加工深さのグラフである。
【図9】電位勾配形成原理図であり、(a) は微粒子が被加工対象物に作用した場合の電位勾配を示し、(b)は微粒子が存在しない場合の電位勾配を示す解説図である。
【図10】電解液の動圧による電解加工工具浮上作用の解説図。
【図11】電解液の静圧による電解加工工具浮上作用の解説図。
【符号の説明】
【0111】
10 電解加工装置
12 定盤
30 加工ヘッド部
31 電極
31a 供給口
32 供給ノズル
33 電解液
34 直流電源
40 加工ヘッド部
41 電極
42 弾性体
43 ベース
44 供給ノズル
51〜56 ウェーハチャック
57 電極保持部
58 弾性体
59 係合溝
61 加工ヘッド部
62 アーム
63 鉛直軸
64 コントローラ
65 モニタ装置
66 加工センサ
71〜76 導線
81〜86 テスタ
W ウェーハ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェーハに被加工対象膜を形成した被加工対象物を平滑化加工する電解加工方法であって、ウェーハの被加工対象膜へ微小なギャップを介して導電性の電解加工工具を対向させ、固体粒子を分散させた電解液を被加工対象物の表面へ連続的に供給しつつ、被加工対象物を電解加工工具に対して相対的に運動させ、前記電解液を前記ギャップに流入させた状態で、電解加工工具と被加工対象物とに通電して電解加工を行う電解加工方法。
【請求項2】
前記固体粒子は、誘電体微粒子である請求項1記載の電解加工方法。
【請求項3】
前記固体粒子は、導電性微粒子である請求項1記載の電解加工方法。
【請求項4】
上記電解加工工具を上下へフレキシブルに変位するように支持し、被加工対象物と電解加工工具との間に流入した固体粒子を含有する電解液の静圧もしくは動圧により電解加工工具を被加工対象物に対して浮上させるか或いは完全に導通しない程度に半接触させて微小なギャップを形成する請求項1記載の電解加工方法。
【請求項5】
上記電解加工工具を被加工対象物に対して半径方向へ移動し、且つ移動速度制御手段により、電解加工工具の被加工対象物上の各半径位置における滞在時間割合を適正化する請求項1記載の電解加工方法。
【請求項6】
上記電解加工工具を被加工対象物の中央部から半径方向へ移動し、且つ移動速度制御手段により、電解加工工具の被加工対象物上の各半径位置における滞在時間割合を適正化し、被加工対象物の中央部から順に導電性膜を除去しながら、除去の完了とともに半径方向へ移動していく請求項1記載の電解加工方法。
【請求項7】
ウェーハに被加工対象膜を形成した被加工対象物をウェーハチャックにて保持し、且つウェーハチャックに設けた給電電極を通じて被加工対象膜へ給電するとともに、前記給電電極部分をシールし、電解液による電極の消耗を防止した請求項1記載の電解加工方法。
【請求項8】
ウェーハに被加工対象膜を形成した被加工対象物を平滑化加工する電解加工装置であって、ウェーハの被加工対象膜へ微小なギャップを介して対向する導電性の電解加工工具と、前記被加工対象膜に通電するための給電電極と、固体粒子若しくは誘電体固体粒子を分散させた電解液を被加工対象物の表面へ供給する手段と、被加工対象物を電解加工工具に対して相対的に運動する手段を備え、
前記電解液を被加工対象物の表面へ供給しつつ、相対的に運動する手段により被加工対象物を運動させ、前記電解液を前記ギャップに流入させた状態で、電解加工工具と被加工対象物とに通電して電解加工を行う電解加工装置。
【請求項9】
上記電解加工工具を上下へフレキシブルに変位するように支持し、被加工対象物と電解加工工具との間に流入した固体粒子を含有する電解液の静圧もしくは動圧により電解加工工具を被加工対象物に対して浮上させるか或いは完全に導通しない程度に半接触させて微小なギャップを形成する請求項8記載の電解加工装置。
【請求項10】
上記電解加工工具を被加工対象物に対して、半径方向へ移動する機構と、電解加工工具の被加工対象物上の各半径位置における滞在時間割合を適正化する制御手段を備えた請求項8記載の電解加工装置。
【請求項11】
上記電解加工工具を被加工対象物に対して、半径方向へ移動する機構と、電解加工工具の被加工対象物上の各半径位置における滞在時間割合を適正化する制御手段を備え、
被加工対象物の中央部から順に導電性膜を除去しながら、除去の完了とともに移動していくように構成した請求項8記載の電解加工装置。
【請求項12】
ウェーハに被加工対象膜を形成した被加工対象物を保持するウェーハチャックと、ウェーハチャックから被加工対象膜へ給電する電極と、前記ウェーハチャックの被加工対象物に給電する電極部分を覆うシールとを備え、電極部分が電解液に接触しないように形成した請求項8記載の電解加工装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−52061(P2009−52061A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217590(P2007−217590)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年3月20日〜22日 社団法人 精密工学会主催の「2007年度精密工学会春季大会」に文書をもって発表
【出願人】(000151494)株式会社東京精密 (592)
【出願人】(508179589)
【Fターム(参考)】