説明

静電チャック

【課題】 本発明の課題は、プラズマにさらされた後も平滑な面が維持できその結果、シリコンウェハ等の被吸着物に対するパーティクル汚染を抑制でき、かつ被吸着体の吸着、離脱特性の優れ、低温焼成で作製することが容易な静電チャックを提供することである。
【解決手段】 本発明では、アルミナが99.4wt%以上、酸化チタンが0.2wt%より大きく0.6wt%以下、体積抵抗率が室温において10〜1011Ωcmかつアルミナ粒子の粒界に酸化チタンが偏析した構造の静電チャック用誘電体を備えた静電チャックとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体ウエハおよびFPD用ガラス基板等の被吸着物を静電力で吸着固定する静電チャックに関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来の静電チャックセラミック誘電体は、その電気特性を制御することを目的として構成されていた(例えば、特許文献1参照)。
このような場合、プラズマ環境下にセラミック組織がさらされた場合、組織が侵食を受け表面粗さが悪くなりその結果、静電チャック表面とウェハ間の接触状態が変化することによる経時変化が生じたり、焼結体から粒子が脱粒しパーティクルとして発塵しLSIの配線間ショートを引き起こすなどの原因となる場合があった。
【0003】
また、粒子径が2μm以下、相対密度99.9%であって耐プラズマ性を向上させたアルミナセラミック材料で静電チャックに適用した例もある(例えば、特許文献2参照。)。しかし、この場合も耐プラズマ性は良好であってもその電気物性に関しての記載がなく大きな吸着力が発現するいわゆるジョンセンッラーベック型静電チャックの基本的な機能を発揮させられない。
【0004】
また、酸化チタンが0.1〜1wt%含有し、体積抵抗率を10〜10Ωcmを示すアルミナセラミックが開示されている(例えば、特許文献3参照。)。しかし、この場合静電チャックとしての機能を発揮させるような電気特性を得ることができない。
【0005】
また、アルミナセラミックに酸化チタンを0.5〜2wt%添加することにより誘電体の体積抵抗率を低くした静電チャックが開示されている。(例えば、特許文献4参照。)この場合、0.5wt%より低いと抵抗が下がらず、2wt%以上添加すると電流が流れすぎることが開示されている。さらに酸化チタンはアルミナセラミックスの粒界に析出することが開示されている。すなわち体積抵抗率を下げるには少なくとも0.5wt%以上の添加物が必要であり、被吸着物に対する不純物の混入に厳しい制約のある静電チャックとしては添加物の量が多い。
【0006】
また、アルミナが99%以上、平均粒子径が1〜3μmであり、300〜500℃においてその体積抵抗率が10〜1011Ωcmとなるような静電チャックが開示されている。(例えば、特許文献5)しかし、それ以外の温度例えば100℃以下の比較的低温で使用される静電チャックに必要な誘電体の物性に関する記載はない。
【特許文献1】特許第3084869号公報
【特許文献2】特開平10−279349号公報
【特許文献3】特開平2004−18296号公報
【特許文献4】特公平6−97675号公報
【特許文献5】特開平11−312729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、プラズマにさらされた後も平滑な面が維持できその結果、シリコンウェハ等の被吸着物に対するパーティクル汚染を抑制でき、かつ被吸着体の吸着、離脱特性の優れ、低温焼成で作製することが容易な静電チャックを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明においては、アルミナが99.4wt%以上、酸化チタンが0.2wt%より大きく0.6wt%以下、体積抵抗率が室温において10〜1011Ωcmかつアルミナ粒子の粒界に酸化チタンが偏析した構造の静電チャック用誘電体を備えた静電チャックを開示した。その結果静電チャック誘電体の耐プラズマ性の向上と静電チャックの基本機能の高度な両立を可能とするとともに、安価に製造できるようにした。
【0009】
体積抵抗率を10〜1011Ωcmにする必要があるのは、静電チャックの吸着力としてジョンセン・ラーベック効果を用いるためである。ジョンセン・ラーベック効果を用いることにより非常に大きな吸着力が発生しその結果として静電チャックの表面に凸部を設けることにより被吸着物との接触面積を吸着面の面積に対して1〜10%と少なくすることができる。
【0010】
更に、表面に設けた凸部の高さを5〜15μmにすることによって被接触部でも吸着力がはたらかせることができる。その結果凸部の面積を吸着面の面積に対して0.001%以上0.5%未満にすることができる。被吸着物の温度は凸部の接触面積が小さくなるにつれ接触部を介して伝熱がなされるため、例え凸部の組織がプラズマによる侵食を受けてもその影響は小さくなる。従って、プラズマ耐性をあげることと、被吸着物との接触を極力少なくすることで結果的に経時変化の少ない静電チャックが実現できる。
【0011】
また、上記の吸着力の応答特性をよくするためには以下の式の値を小さくする必要がある。
ts=1.731×10-11×ρ(εr+d/h) (秒)
ここで、tsは初期の吸着力を100%としてそれが2%まで崩壊するまでの時間(秒)、ρは誘電層の体積抵抗率(Ωm)、εrは誘電層の比誘電率、dは誘電層の厚み(m)、hは凸部の高さ(m)である。この式の値が0.001から0.6でかつ凸部の高さが5〜15μmであれば凸部の面積を吸着面に対して0.001〜0.5%にまですることができかつ吸着力の電圧印加、除荷に対する応答性の良い静電チャックとすることができる。
上記の式は図1の等価回路より解析的に計算し〔数1〕から〔数4〕を導出して得られるものである。ここでq1は電荷密度、Sは電極面積、Cは静電容量、Gはコンダクタンス、Vは印加電圧、tは時間(変数)、Tは電圧印加時間である。
【0012】
【数1】

【0013】
【数2】

【0014】
【数3】

【0015】
【数4】

【0016】
また、本発明の他の実施形態においては、アルミナが99.4wt%以上、酸化チタンが0.2wt%より大きく0.6wt%以下、かさ密度が3.97g/cm3以上、体積抵抗率が室温において10〜1011Ωcmかつアルミナ粒子の粒界に酸化チタンが偏析した構造の静電チャック用誘電体を備えた静電チャックを開示した。その結果、この静電チャックはその組織の気孔率が少なく更に耐プラズマ性の向上と静電チャックの基本機能の高度な両立を可能とするとともに、安価に製造できるようにした。
【0017】
本発明の好ましい形態においては、100℃以下の低温で使用される静電チャックとした。
【0018】
本発明の好ましい形態においては、複数の凸部が形成され被吸着体を該凸部上面に載置する平滑な表面を有する誘電体から構成され、前記複数の凸部上面の合計の面積と前記誘電体表面の面積との比率が0.001%以上0.5%未満でありかつ凸部の高さが5〜15μmであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の静電チャックを開示した。その結果、被吸着物との接触部分のプラズマによる侵食による表面の荒れの影響による被吸着物への吸着状態の変化の影響を最小限にすることができる。このとき接触面積の比率が0.001%以下になると凸部1ケあたりの寸法が微細になりすぎ加工が困難になる。また1%より大きくなると被吸着体と接触する凸部の面のプラズマに対する浸食の影響が無視できなくなってくる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、プラズマにさらされた後も平滑な面が維持できその結果、シリコンウェハ等の被吸着物に対するパーティクル汚染を抑制でき、かつ被吸着体の吸着、離脱特性の優れ、低温焼成で作製することが容易な静電チャックを製作できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
原料としてアルミナ、酸化チタン、その他遷移金属酸化物を表1に示す配合比で造粒した。アルミナは平均粒子径0.1μm、純度99.99%以上のものを準備した。酸化チタンは、純度98%以上のものを用いた。
【0021】
(スラリー調整、造粒、生加工)
上記原料を表1に示す配合比で混合粉砕し、アクリル系バインダーを添加、調整後スプレードライヤーで造粒し顆粒粉を作製した。顆粒粉はゴム型に詰めた後CIP(圧力1ton/cm)を実施してインゴットを作製し、その後所定の形状に加工し生成形体を作製した。混合にはイオン交換水等を用いなるべく不純物が混入しないようにした。
(焼成)
上記生加工体を窒素、水素ガス還元雰囲気下で焼成した。焼成温度は1150〜1350℃、焼成時間は1〜8時間とし、もっともかさ密度が高い条件を選択した。このとき脱脂のために加湿ガスを使用している。還元焼成を行うのは酸化チタンの非化学量論組成化をねらい、体積抵抗率の調節をねらうためである。
(HIP処理)
さらにHIP処理をおこなった。HIP条件はArガス1500気圧とし、温度は焼成温度と同一または30℃下げた温度とした。
(物性測定)
上記HIP処理により得られたものは焼成かさ密度、焼成体組織SEM観察による平均粒子径測定、体積抵抗率測定、真空中での摩擦力測定、残留時間測定を行った。摩擦力測定および残留時間測定にはセラミックス誘電層の厚みを1mmとした。吸着電圧は200V印加とし、さらに残留時間測定には1分間電圧印可後に電源をオフし、残留する摩擦力の減衰を測定した。被吸着物はシリコンウェハミラー面とした。残留時間は電源オフ後摩擦力が2%にまで減衰する時間を残留時間とした。
また、実際にプラズマを照射しセラミックスの表面粗さ(中心線平均粗さRa)変化を測定した。初期状態では表面粗さはRa0.05μm以下にした。プラズマはリアクティブイオンエッチング装置、エッチングガスはCF4+O2で1000W、5時間プラズマ放電させた。
また、サンプルの一部につき静電チャックの実用的な吸着力の評価として吸着している被吸着体との間にHeガスの圧力を負荷して被吸着体がはがれるときの圧力(POPOFF吸着力)を記録した。このときの吸着電圧は1000Vである。
(比較品)
また比較のため従来の製法によるアルミナセラミックスを例示した。その配合は比較品1が平均粒子径0.5μmのアルミナ98wt%、酸化チタン2wt%、比較品2がアルミナ99wt%、酸化チタン1wt%で、焼成温度は1580℃である。尚、比較品1の表面粗さは初期状態でRa0.23μmであった。比較品2の表面粗さは初期状態でRa0.2μmであった。比較品はHIP処理はしていない。
【0022】
上記試験の結果を表1、表2に示す。焼成温度をコントロールすれば酸化チタン0.2wt%より大きく、0.6wt%以下の添加量で、かさ密度が3.97g/cm以上で静電チャックとして機能する体積抵抗率が得られることがわかった。従来、粒子径が50μm以上ある場合に添加していた量に比べ非常に少ない添加量で同等の効果が得られることがわかった。従来の製法では焼成温度が1580℃と高いために添加した酸化チタンはアルミナと反応してチタン酸アルミニウム(Al2TiO5)等の化合物になっているのに対して、本発明では平均粒子径0.2μm未満、純度99.9%以上の高純度で微粒のアルミナ原料を用いることにより焼成温度が1300℃以下と低くなっているために、添加した酸化チタンはアルミナと反応せずに酸化チタンのまま存在していることがX線回折より確認された。チタン酸アルミニウムは体積抵抗率が比較的高いことが知られており、アルミナの体積抵抗率を下げるためには酸化チタンよりも効率が悪く、より多くの添加量が必要になるものと考えられる。次に、本発明の静電チャック用誘電体の微構造として、焼成温度に対して80〜150℃程度低い温度でサーマルエッチングを行なったサンプルのSEM写真を図4に示す。平均粒子径2μm以下のアルミナ粒子(写真の黒い部分)の粒界に酸化チタン(写真の白い部分)が偏析し連続的につながった構造になっていることがわかった。この酸化チタンが形成するネットワークにより効率的に体積抵抗率を下げることができたものと考えられる。以上の結果より、本発明の静電チャック用誘電体が従来のものと比較して微量の酸化チタンの添加により体積抵抗率を下げることができたのは、添加した酸化チタンがアルミナと反応せずに酸化チタンのまま存在していること、および酸化チタンがアルミナ粒子の粒界に偏析し、連続的につながった構造を形成することによるものである。なお、酸化チタンは還元焼成により非化学量論組成になることで、さらに導電性が良くなっているものと考えられる。このように微量の酸化チタンにより体積抵抗率の制御が可能になり、シリコンウェハ等に対するケミカル汚染も従来に比べ格段に抑制することができたと考えられた。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

電気特性の評価の結果、酸化チタン単独または酸化チタン+遷移金属酸化物の添加割合によって10〜1016Ωcmの広範囲で制御できることがわかった。
【0025】
レジストを使用する場合には、その耐熱温度を考えると、静電チャックは100℃以下で使用されるのが望ましい。
静電チャック用の誘電体に要求される電気特性は、静電チャックを使用する温度において体積抵抗率が10〜1011Ωcmが望ましい。下限値の10Ωcm未満ではウェハへ流れ込む電流が過大になりすぎデバイスの損傷のおそれがあり、上限値の1011Ωcmより大きいと、ウェハの吸着、脱離の電圧印加に対するレスポンスが低下する。
例えば100℃以下のプロセスエッチングのようなプロセスでは下限値が10〜1011Ωcm程度であることが望ましい。
【0026】
酸化チタンが0.6wt%より多いと体積抵抗率が10Ωcm未満となり、ウェハへ流れ込む電流が過大になりすぎデバイスの損傷のおそれがある。また、0.2wt%以下だと酸化チタン添加による体積抵抗率の低下の効果が小さくなる。
【0027】
耐プラズマ性はプラズマ中のイオンのエネルギーが過大であればどのような物質であってもエッチングされてしまうため表面粗さの変化で評価した。
その結果、本発明によるセラミック誘電体は表面粗さの変化が従来のものに比べ顕著に小さかった。このことは発塵するパーティクルの大きさが小さいことと推定された。
【0028】
複数の凸部が形成され被吸着体を該凸部上面に載置する平滑な表面を有し、体積抵抗率が109.3Ωcmである静電チャック用誘電体を含む静電チャックの凸部上面の合計の面積と前記誘電体表面の面積との比率が0.089%である静電チャックを作製した。このとき表面にはφ0.25mmの凸部を一辺が8mmの正三角形の各頂点に連続して配置
している。凸部の高さは10μmである。
【0029】
その結果、プラズマ照射後の表面粗さの変化が少なかったことおよび、被吸着物との接触面積が非常に少ないことが重畳し、被吸着物であるシリコンウェハのプロセス時の温度変化の経時変化がきわめて少なくすることができた。
【0030】
POPOFF吸着力は全てのサンプルにおいて100torr以上を記録した。すなわちシリコンウェハ等の被吸着体を吸着するには十分に実用的な力が得られていることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の静電チャックを表す図である。
【図2】本発明の静電チャックの等価回路を表す図である。
【図3】本発明の静電チャックの表面パターンの拡大図である。
【図4】本発明の静電チャック用誘電体の構造を示す電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0032】
1…凸部
2…凸部底面
3…ガス供給孔
4…リング状凸部(シールリング)
5…凹部(ガス拡散用溝)
6…電極
7…誘電層
8…被吸着体
9…電気的接続手段
10…基盤
11…電源



【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナが99.4wt%以上、酸化チタンが0.2wt%より大きく0.6wt%以下、体積抵抗率が室温において10〜1011Ωcm、かつアルミナ粒子の粒界に酸化チタンが偏析した構造の静電チャック用誘電体を備えたことを特徴とする静電チャック。
【請求項2】
アルミナが99.4wt%以上、酸化チタンが0.2wt%より大きく0.6wt%以下、かさ密度が3.97g/cm以上、体積抵抗率が室温において10〜1011Ωcm、かつアルミナ粒子の粒界に酸化チタンが偏析した構造の静電チャック用誘電体を備えたことを特徴とする静電チャック。
【請求項3】
前記アルミナ粒子の粒内および粒界にチタン酸アルミニウム(AlTiO)が存在しないことを特徴とする請求項1または2に記載の静電チャック。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の静電チャックであって、100℃以下の低温で使用されることを特徴とする静電チャック。
【請求項5】
複数の凸部が形成され被吸着体を該凸部上面に載置する平滑な表面を有する誘電体から構成され、前記複数の凸部上面の合計の面積と前記誘電体表面の面積との比率が0.001%以上0.5%未満でありかつ凸部の高さが5〜15μmであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の静電チャック。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−214287(P2007−214287A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−31545(P2006−31545)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】