説明

静電容量媒体、及び静電容量式傾斜角センサ

【課題】 性能劣化の抑止及び誘電率の向上を図ることができる静電容量媒体を提供する。
【解決手段】 静電容量媒体23は、液状の基剤23aと、該基剤23aに混入された微粒子23bによって構成されている。基剤23aは、シリコーン分子の側鎖や末端基の一部を化学的に他の分子に置き換えた変性シリコーンオイルによって構成されている。粒径が数十nmとなるように形成されたナノ粒子であり、静電容量媒体23の3〜10%程度を占めるように基剤23a内に混入されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンデンサなどに収容される静電容量媒体、及び、例えば測量器や車両などに搭載されて傾斜角を検出する静電容量式傾斜角センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液状の静電容量媒体を用いた具体例として、例えば特許文献1に記載の静電容量式傾斜角センサ(以下、単に「傾斜角センサ」という)が提案されている。この傾斜角センサは、オイルケースと、そのオイルケース内に収容された液状の静電容量媒体と、該オイルケース内に配設され、静電容量媒体に浸漬された部分によってそれぞれコンデンサを構成する2つの差動電極及び共通電極とを備えている。こうした傾斜角センサの水平状態においては、各差動電極における静電容量媒体に浸漬された部分の面積(浸漬面積)がほぼ同一となるため、各コンデンサの静電容量はほぼ同一となる。これに対し、傾斜角センサが傾斜されると、一方の差動電極の浸漬面積が増して他方の差動電極の浸漬面積が減るため、各コンデンサの静電容量に差が生じる。そして、傾斜角センサは、この静電容量の差に基づいて、傾斜角度を算出するようになっている。また、この傾斜角センサでは、静電容量媒体としてシリコーンオイルが用いられている。一般に、シリコーンオイルは性質が安定しており、耐熱性、耐寒性、耐酸化性などに優れている。このため、静電容量媒体としてシリコーンオイルを用いることにより、性能劣化を抑止した信頼性の高い傾斜角センサを実現している。
【特許文献1】特開平08−261757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、こうした従来の傾斜角センサは体積が数cm3〜百数十cm3と大きいことから、近年では該傾斜角センサの小型化が要望されている。しかし、こうしたニーズに応えようとして傾斜角センサを単純に小型化すると、オイルケース内に収容される静電容量媒体の量が少なくなるとともに差動電極の浸漬面積が減少するため、コンデンサの静電容量が低下してしまうこととなる。特に、シリコーンオイルの比誘電率は2.7程度と低いため、静電容量媒体としてシリコーンオイルを用いた場合には、傾斜角センサを単純に小型化すると、傾斜時における静電容量の変化量が小さくなってしまう。その結果、傾斜角センサの検出信頼性、検出分解能などが低下してしまうといった問題が生じてしまう。また、シリコーンオイルよりも誘電率の高い有機溶剤を静電容量媒体として用いた場合には、こうした問題は生じにくくなるものの、耐熱性、耐寒性、耐酸化性などが低下するため性能劣化が生じやすくなってしまう。
【0004】
本発明はこうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、性能劣化の抑止及び誘電率の向上を図ることができる静電容量媒体を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、性能劣化や性能低下を防止しつつ小型化を図ることができる静電容量式傾斜角センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明では、変性シリコーンオイルからなる液状の基剤に、その基剤よりも高い誘電率の微粒子が混入されてなることを要旨とする。
【0006】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の静電容量媒体において、前記微粒子は、前記基剤内でブラウン運動により浮遊可能な大きさに設定されていることを要旨とする。
請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の静電容量媒体において、前記変性シリコーンオイルは、反応性シリコーンオイルであることを要旨とする。
【0007】
請求項4に記載の発明では、請求項1〜3のいずれか1項に記載の静電容量媒体と、その静電容量媒体を収容するケースと、該ケースの対向内壁面に設けられてコンデンサを構成し、一部分が前記静電容量媒体によって浸漬された差動電極及び共通電極とを備え、前記ケースの傾きに応じて前記コンデンサの静電容量を変化させるようにしたことを要旨とする。
【0008】
以下、本発明の「作用」について説明する。
請求項1に記載の発明によると、変性シリコーンオイルに、該変性シリコーンオイルよりも高い誘電率の微粒子を混入することにより、静電容量媒体の誘電率を確実且つ容易に高くすることが可能となる。また、基剤として変性シリコーンオイルを用いることにより、静電容量媒体の耐熱性、耐寒性、耐酸化性なども維持されるため、該静電容量媒体の性能劣化も抑止される。しかも、基剤として変性シリコーンオイルを用いることにより微粒子に対する基剤の界面張力を低くすることができるため、基剤に混入される微粒子の分散安定性を向上させることができる。よって、静電容量媒体の誘電率のバラツキなどを生じにくくすることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明によると、微粒子は基剤内でブラウン運動を生じるため、基剤内に浮遊して万遍なく拡散される。よって、静電容量媒体の誘電率のバラツキなどをいっそう生じにくくすることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明によると、基剤として反応性シリコーンオイルを用いることにより、基剤内における微粒子の分散安定性をより向上させることが可能となる。
請求項4に記載の発明によると、静電容量媒体の誘電率を確実且つ容易に高くすることが可能となるため、静電容量式傾斜角センサを小型化しても、高い静電容量を確保することができ、検出信頼性、検出分解能などが低下してしまうことがない。また、基剤として変性シリコーンオイルを用いることにより、静電容量媒体の耐熱性、耐寒性、耐酸化性なども維持されるため、該静電容量媒体の性能劣化も抑止される。しかも、基剤として変性シリコーンオイルを用いることにより、基剤に混入される微粒子の分散安定性を向上させることができ、静電容量媒体の高い誘電率を確保することができる。よって、性能劣化や性能低下を防止しつつ小型化を図ることができる静電容量式傾斜角センサを実現可能となる。
【発明の効果】
【0011】
以上詳述したように、請求項1〜3に記載の発明によれば、性能劣化の抑止及び誘電率の向上を図ることができる静電容量媒体を提供することができる。
また、請求項4に記載の発明によれば、性能劣化や性能低下を防止しつつ小型化を図ることができる静電容量式傾斜角センサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を静電容量式傾斜角センサとして具体化した一実施形態を図1〜図5に基づき詳細に説明する。
図1(a)は、本実施形態の静電容量式傾斜角センサ(以下、単に「傾斜角センサ」という)1の一部を断面とした正面図である。また、図1(b)は、該傾斜角センサ1の一部を破断した断面図である。なお、図1(b)における断面位置は図1(a)のA−A線位置であり、図1(a)における断面位置は図1(b)のB−B線位置である。
【0013】
図1に示すように、傾斜角センサ1は、ケース11を備えている。このケース11は、合成樹脂製の第1壁部12、第2壁部13及び第3壁部14を備えている。図1(b)に示すように、第1壁部12と第2壁部13とは対向して配置され、第3壁部14は、両壁部12,13に間に配置されている。第1壁部12及び第2壁部13は、縦横4〜6mm程度の板材によって構成されている。
【0014】
図2に併せ示すように、第1壁部12において第2壁部13と対向する壁面には共通電極15a,15bが設けられ、第2壁部13において第1壁部12と対向する壁面には差動電極16a,16bが設けられている。これら共通電極15a,15b及び差動電極16a,16bはそれぞれ略半円状をなし、共通電極15a,15b間と差動電極16a,16bとが対向配置されている。これら電極15a,15b,16a,16bは、ホットエンボス加工、印刷、蒸着などといった加工技術を用いて形成されている。また、図1及び図2に示すように、共通電極15a,15bにはそれぞれ端子部15c,15dが形成され、差動電極16a,16bにはそれぞれ端子部16c,16dが形成されている。
【0015】
第3壁部14はリング状をなし、共通電極15a,15bと差動電極16a,16bとの間に設けられている。第3壁部14の外周は、共通電極15a,15b及び差動電極16a,16bの外周と一致するように形成されている。この第3壁部14は、共通電極15a,15bと差動電極16a,16bとの間隔が所定間隔H(本実施形態では30〜40μm)となるように形成されている。また、第3壁部14は、図1(a)に示す内径Rが3〜5mm程度となるように形成されている。こうした構成により、ケース11は円形カップ状をなし、内部に収容空間Cが設けられている。
【0016】
収容空間C内における中央部には、凸状部としての第1柱状物21が配設されている。この第1柱状物21は円柱状をなし、中心が収容空間Cの中心Oと一致するように設けられている。この第1柱状物21の上面は共通電極15a,15bや第1壁部12における第2壁部13との対向内壁面に接続され、下面は差動電極16a,16bや第2壁部13における第1壁部12との対向内壁面に接続されている。また、第1柱状物21の外周面と第3壁部14の内周面との間の距離を複数等分(ここでは4等分)する第1柱状物21の同心円周上には、それぞれ第1柱状物よりも小径に設定された複数の凸状部としての第2柱状物22が設けられている。これら第2柱状物22は円柱状をなし、上面が共通電極15a,15bや第1壁部12の前記対向内壁面に接続され、下面が差動電極16a,16bや第2壁部13の前記対向内壁面に接続されている。本実施形態において各第2柱状物22は、各円周上において等間隔に設けられている。また、各第2柱状物22は、他の円周上の最も近接する第2柱状物22同士を結ぶ直線(例えば図1(a)に示す直線L)が、前記中心Oを通るように配設されている。なお、本実施形態において、各円周上における第2柱状物22は、それぞれ中心Oに対して10゜ずれた位置毎に設けられている。また、図1(a)及び図5においては、図面の簡略化を図るために、第2柱状物22の一部のみを示す。
【0017】
そして、収容空間C内には、液状の静電容量媒体23が収容空間Cの半分程度を占める割合となるように収容されている。このため、傾斜角センサ1の水平状態(図1(a)に示す状態)にあっては、共通電極15a,15b及び差動電極16a,16bの半分程度が静電容量媒体23によって浸漬された状態となる。よって、その浸漬された部分がコンデンサとして機能するようになる。詳しくは、共通電極15a及び差動電極16aにおいて静電容量媒体23に浸漬された部分からなる第1コンデンサと、共通電極15b及び差動電極16bにおいて静電容量媒体23に浸漬された部分からなる第2コンデンサとがそれぞれ構成される。そして、傾斜角センサ1が水平に保たれた状態にあるとき、共通電極15a,15b及び差動電極16a,16bにおいて静電容量媒体23に浸漬された部分の面積はほぼ同等となるため、各コンデンサの静電容量はほぼ同等となる。
【0018】
図3に示すように、静電容量媒体23は、絶縁体からなる液状の基剤23a(分散媒)と、その基剤23a内に混入された絶縁体からなる微粒子23b(分散質)とから構成されている。
【0019】
基剤23aは、シリコーン分子の側鎖や末端基の一部を化学的に他の分子に置き換えた変性シリコーンオイルによって構成されている。詳しくは、基剤23aは、反応性シリコーンオイルや非反応性シリコーンオイルといった変性シリコーンオイル(比誘電率εa=2.7程度)からなり、側鎖型、両末端型、片末端型、側鎖両末端型のうちのいずれかの変性構造となっている。なお、反応性シリコーンオイルとしては、アミノ変性、エポキシ変性、カルボキシル変性、メタクリル変性、メルカプト変性、フェノール変性、異種官能基変性されたシリコーンオイルなどが挙げられる。また、非反応性シリコーンオイルとしては、ポリエーテル変性、メチルスチリル変性、アルキル変性、高級脂肪酸エステル変性、親水性特殊変性、高級アルコキシ変性、高級脂肪酸含有、フッ素変性されたシリコーンオイルなどが挙げられる。
【0020】
微粒子23bは、粒径が数十nmとなるように形成されたナノ粒子であり、静電容量媒体23の3〜10%程度を占めるように基剤23a内に混入されている。このように微粒子23bは非常に微小に形成されているため、基剤23a内においてブラウン運動により浮遊する。よって、微粒子23bは、基剤23a内に浮遊して万遍なく均一に混入された状態となっている。特に、基剤23aとして変性シリコーンオイルが用いられているため、微粒子23bが基剤23a内に均一に混ざりやすい。
【0021】
ちなみに、ジメチルシリコーンオイル(比誘電率εa=2.7)にアルミナ(比誘電率εb=8.9)を8%混入した場合、その混合物の比誘電率εc=は、3.1となることが確認されている。このため、基剤23aとして変性シリコーンオイルを用い、微粒子23bとしてアルミナを用い、該基剤23aに対する微粒子23bの混入率を8%とした場合での静電容量媒体23の比誘電率εcも、3.1程度となると推測される。すなわち、この場合には、基剤23aのみを静電容量媒体23とした場合に比べて、比誘電率εcが約15%高くなる。よって、静電容量媒体23の比誘電率εcを確実且つ容易に高くすることができる。
【0022】
また、微粒子23bとして適用される物質としては、アルミナの他、例えばアルミナやジルコニア(比誘電率εb=50)などの非導電体や、例えば金、銀、銅、ニッケルなどの導電体が挙げられる。そして、例えば、微粒子としてチタン酸バリウム(比誘電率εb=1000以上)を用いた場合、静電容量媒体23の比誘電率εcが計算上では約135となる。よって、同静電容量媒体23が基剤23aのみによって構成されている場合に比べて約50倍の比誘電率となると推測される。
【0023】
ところで、図1(a)に示すように、収容空間C内に収容された静電容量媒体23の液面の表面張力は、ケース11の内壁面と、第1柱状物21と、液面に最も近接する第2柱状物22とに作用する。このため、静電容量媒体23の液面は、略水平状態となる。換言すれば、収容空間C内に第1柱状物21及び第2柱状物を設けることにより、静電容量媒体23の液面を常に略水平状態に維持することが可能となる。よって、傾斜角センサ1を傾斜させると、静電容量媒体23に浸漬する各差動電極16a,16bの面積に差が生じ、各コンデンサの静電容量にも差が生じる。それゆえ、該コンデンサの静電容量の差分に基づいて傾斜角センサ1の傾斜角を確実に求めることが可能となる。
【0024】
図1に示すように、ケース11における第2壁部13の外壁面には、処理基板31が配設されている。処理基板31におけるケース11側面には、第1〜第3端子部32a〜32cが設けられている。そして、第1端子部32aは、差動電極16aの端子部16cと、ワイヤ33aを介して電気的に接続されている。同様に、第2端子部32bは、差動電極16bの端子部16dと、ワイヤ33bを介して電気的に接続されている。また、第3端子部32cは、共通電極15a,15bの端子部15c,15dと、ワイヤ33cを介して電気的に接続されている。
【0025】
この処理基板31には、前記第1及び第2コンデンサの静電容量の差分(=「第1コンデンサの静電容量」−「第2コンデンサの静電容量」)を電圧差分に変換し、その電圧差分に基づいた検出電圧Voutを外部に出力するための検出回路が配設されている。詳しくは、図4に示すように、この検出回路は、傾斜角センサ1が水平状態のとき、すなわち電圧差分が「0」のとき、所定の基準電圧Vsを検出電圧Voutとして出力するようになっている。一方、傾斜角センサ1の傾斜により、例えば第1コンデンサの静電容量が増して第2コンデンサの静電容量が減少した場合、電圧差分はプラス側に変移する。そして、この場合、検出回路は、変移電圧ΔVを基準電圧Vsに加えた電圧(Vs+ΔV)を検出電圧Voutとして出力する。また、例えば第1コンデンサの静電容量が減少して第2コンデンサの静電容量が増した場合、電圧差分はマイナス側に変移する。そして、この場合、検出回路は、変移電圧ΔVを基準電圧Vsから減じた電圧(Vs−ΔV)を検出電圧Voutとして出力する。
【0026】
図1に示すように、こうしたケース11及び処理基板31は、合成樹脂製またはセラミック製のパッケージ材34によって封止された状態となっている。
次に、このように構成された傾斜角センサ1の作用について説明する。
【0027】
まず、傾斜角センサ1が水平に保持されている場合、前述したように共通電極15a,15b及び差動電極16a,16bにおいて静電容量媒体23に浸漬された部分の面積はほぼ同等となる。このため、第1コンデンサの静電容量と第2コンデンサの静電容量とはほぼ同等となり、両コンデンサの静電容量の差分に基づく電圧差分はほぼ「0」となる。この場合、傾斜角センサ1は、前記基準電圧Vsを検出電圧Voutとして出力する。
【0028】
一方、例えば図5に示すように、水平状態から同図に示す左方向に所定角度θ(同図ではθ=30゜の場合を示す)だけ傾斜角センサ1が傾斜されると、第1コンデンサの静電容量が増加する一方、第2コンデンサの静電容量が減少する。このため、第1コンデンサの静電容量と第2コンデンサの静電容量との差は、傾斜角度θに比例した変移量でプラス側に変移する。よって、両コンデンサの静電容量の差分に基づく電圧差分はプラス側に変移する。その結果、傾斜角センサ1は、傾斜角度θに比例した変移電圧ΔVθを基準電圧Vsに加えた電圧(Vs+ΔVθ)を、検出電圧Voutとして出力する。また、水平状態から右方向に所定角度θだけ傾斜角センサ1が傾斜された場合、両コンデンサの静電容量の差分に基づく電圧差分はマイナス側に変移する。その結果、傾斜角センサ1は、傾斜角度θに比例した変移電圧ΔVθを基準電圧Vsから減じた電圧(Vs−ΔVθ)を、検出電圧Voutとして出力する。
【0029】
よって、傾斜角センサ1から出力される検出電圧Voutの値は傾斜角度に応じて変移することとなり、この検出電圧Voutに基づいて傾斜角センサ1の傾斜角度を求めることが可能となる。すなわち、傾斜角センサ1は、傾斜角度を検出電圧Voutとして出力する。
【0030】
<実施例及び比較例>
次に、本実施形態を具体化した実施例及びそれに対する比較例を紹介する。
(実施例1〜4)
実施例1では、平均粒径が200nmのジルコニア(ZrO2)を、両末端型のカルビノール変性シリコーンオイルに混入して静電容量媒体23とした。
【0031】
実施例2では、平均粒径が200nmのジルコニア(ZrO2)を、両末端型のアミノ変性シリコーンオイルに混入して静電容量媒体23とした。
実施例3では、平均粒径が200nmの酸化チタン(TiO2)を、両末端型のカルビノール変性シリコーンオイルに混入して静電容量媒体23とした。
【0032】
実施例2では、平均粒径が200nmの酸化チタン(TiO2)を、両末端型のアミノ変性シリコーンオイルに混入して静電容量媒体23とした。
なお、各実施例1〜4において、静電容量媒体23におけるジルコニアまたは酸化チタンの含有率を5%とした。
【0033】
(比較例1,2)
比較例1では、平均粒径が200nmのジルコニア(ZrO2)を、ジメチルシリコーンオイルに混入して静電容量媒体23とした。
【0034】
比較例2では、平均粒径が200nmの酸化チタン(TiO2)を、ジメチルシリコーンオイルに混入して静電容量媒体23とした。
なお、各比較例1,2において、静電容量媒体23におけるジルコニアまたは酸化チタンの含有率を5%とした。
【0035】
(比較試験の方法及び結果)
静電容量媒体23を撹拌して微粒子23bを基剤23a内に万遍なく分散させた後、該静電容量媒体23を室温環境で静置することで微粒子23bの分散安定性を測定した。具体的には、微粒子23bが基剤23a内に分散してから沈降するまでの時間(分散維持時間)を測定し、該時間が長い程、分散安定性が高いものとして評価した。なお、微粒子23bが基剤23a内に均一に混ざっている状態を「分散状態」として判断し、静電容量媒体23に上澄みが生じた時点で「沈降状態」として判断し、該沈降状態となるまでの時間を分散維持時間として測定した。そして、各実施例及び比較例における分散安定性の結果を表1に示す。この表1における「評価」の欄には、分散安定性の結果に基づき、◎:96時間以上、○:12時間以上〜96時間未満、△:3時間以上〜12時間未満、×:3時間未満として示す。
【0036】
【表1】

その結果、比較例1では分散維持時間が3時間未満であったのに対し、実施例1では96時間以上、実施例2,3では12時間以上、実施例4では3時間以上の分散維持時間となった。よって、実施例1〜4の何れの場合においても高い分散安定性が得られた。すなわち、これら実施例1〜4からも明らかなように、基剤23aとして変性シリコーンオイルを用いると、微粒子23bの分散性が向上する。特に、基剤23aとしてカルビノール変性シリコーンオイルを用いた場合や、微粒子23bとしてジルコニアを用いた場合に、高い分散安定性が得られた。そして、カルビノール変性シリコーンオイルにジルコニアを分散させた場合に、最も高い分散安定性が得られることが判った。こうした結果から、基剤23aとして反応性シリコーンオイルを用いると、微粒子23bの分散安定性が飛躍的に向上すると推測される。
【0037】
したがって、本実施形態によれば以下のような効果を得ることができる。
(1)変性シリコーンオイルを基剤23aとして用いるとともに、該変性シリコーンオイルよりも高い誘電率の微粒子を基剤23aに混入して静電容量媒体23とすることにより、静電容量媒体23の誘電率を確実且つ容易に高くすることができる。また、基剤23aとして変性シリコーンオイルを用いることにより、静電容量媒体23の耐熱性、耐寒性、耐酸化性なども維持されるため、該静電容量媒体23の性能劣化も抑止することができる。しかも、基剤23aとして変性シリコーンオイルを用いることにより微粒子23bに対する基剤23aの界面張力を低くすることができるため、基剤23aに混入される微粒子23bの分散安定性を向上させることができる。よって、静電容量媒体23の誘電率のバラツキなどを生じにくくすることができる。
【0038】
(2)微粒子23bは、基剤23a内でブラウン運動可能な大きさに設定されている。特に本実施形態において微粒子23bの大きさはナノスケールとなっているため、基剤23a内において確実にブラウン運動を生じる。よって、基剤23aに微粒子23bを攪拌させるための外力を加えなくても、微粒子23bは基剤23aに内に万遍なく均一に拡散される。よって、静電容量媒体23の部位毎に誘電率のバラツキが生じるといった不都合をより確実に抑止することができる。
【0039】
(3)静電容量媒体23の基剤23aとして反応性シリコーンオイルを用いることにより、基剤23a内における微粒子23bの分散安定性をより向上させることができる。
(4)静電容量媒体23の誘電率を確実且つ容易に高くすることが可能となるため、静電容量式傾斜角センサ1を小型化しても、高い静電容量を確保することができ、検出信頼性、検出分解能などが低下してしまうことがない。また、基剤23aとして変性シリコーンオイルを用いることにより静電容量媒体23の耐熱性、耐寒性、耐酸化性なども維持されるため、該静電容量媒体23の性能劣化も抑止することができる。しかも、基剤23aとして変性シリコーンオイルを用いることによって静電容量媒体23の高い誘電率を確保することができるため、傾斜各センサ1の性能劣化や性能低下を防止しつつ小型化を図ることができる。
【0040】
なお、本発明の実施形態は以下のように変更してもよい。
・ 静電容量媒体23は、傾斜角センサ1に限らず、例えばコンデンサや化学電池などに用いられてもよい。
【0041】
・ 前記実施形態において、微粒子23bは、基剤23a内でブラウン運動により浮遊可能な程度の大きさであれば、粒径数十nmに限らず、例えば粒径数nm〜数百nmの範囲内となるようなナノスケールであってもよい。また、微粒子23bは、基剤23a内で浮遊可能であれば、粒径数μm〜十数μm程度のマイクロスケールとなる大きさで形成されていてもよい。なお、粒径が数nm〜100nmの範囲内で形成されている場合、微粒子23bは、基剤23a内でブラウン運動により確実に浮遊状態となることが本願発明者によって確認されている。
【0042】
・ 基剤23aに対する微粒子23bの混入率は、3〜10%程度であることが適しており、5〜8%程度であることがより望ましい。
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0043】
(1) 請求項1〜3のいずれか1項に記載の静電容量媒体において、前記基剤は、側鎖型の変性シリコーンオイルであること。この技術的思想(1)に記載の発明によれば、基剤に対する微粒子の分散安定性をいっそう向上させることができる。
【0044】
(2) 請求項1〜3、技術的思想(1)のいずれか1項に記載の静電容量媒体において、前記微粒子の大きさは、数nm〜数百nmの範囲内となるようなナノスケールに設定されていること。この技術的思想(2)に記載の発明によれば、基剤内で微粒子を確実に浮遊させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】(a)は本発明の一実施形態の静電容量式傾斜角センサの一部を断面として示す正面図、(b)は同実施形態の静電容量式傾斜角センサの断面図。
【図2】同実施形態の共通電極及び差動電極を示す斜視図。
【図3】同実施形態の静電容量媒体の詳細を示す説明図。
【図4】同実施形態の静電容量式傾斜角センサの出力特性図。
【図5】同実施形態の静電容量式傾斜角センサの傾斜状態を示す正面図。
【符号の説明】
【0046】
1…静電容量式傾斜角センサ、11…ケース、15a,15b…共通電極、16a,16b…差動電極、23…静電容量媒体、23a…基剤、23b…微粒子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性シリコーンオイルからなる液状の基剤に、その基剤よりも高い誘電率の微粒子が混入されてなることを特徴とする静電容量媒体。
【請求項2】
前記微粒子は、前記基剤内でブラウン運動により浮遊可能な大きさに設定されていることを特徴とする請求項1に記載の静電容量媒体。
【請求項3】
前記変性シリコーンオイルは、反応性シリコーンオイルであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の静電容量媒体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の静電容量媒体と、その静電容量媒体を収容するケースと、該ケースの対向内壁面に設けられてコンデンサを構成し、一部分が前記静電容量媒体によって浸漬された差動電極及び共通電極とを備え、前記ケースの傾きに応じて前記コンデンサの静電容量を変化させるようにしたことを特徴とする静電容量式傾斜角センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−12555(P2006−12555A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186818(P2004−186818)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【出願人】(800000057)財団法人新産業創造研究機構 (99)
【Fターム(参考)】