説明

面を粗面化するときに使用するための変形溶接トーチ

【課題】 高効率で広い表面領域を処理する溶接トーチを提供する。
【解決手段】
溶接トーチ(20)は、トーチ本体(22)及びトーチヘッド(28)を含み、トーチヘッドは、密集アレイとして配列された複数のトーチ火口(30)を有する。被覆される面を粗面化する方法は、(a)火口(30)のアレイが装着されたトーチヘッド(22)を有する反転切換えアーク溶接トーチ(20)を提供することと、(b)前記火口(30)と被覆される面との間に溶接アークを発生することなく、前記面に沿って前記溶接トーチ(20)を移動し、それにより、前記面を粗面化することとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆される面を粗面化するために使用される変形反転切換えアーク溶接トーチに関する。
【背景技術】
【0002】
摩耗、浸食、腐食、酸化に対する耐性を向上するため又は表面温度を低下するために、金属面に被覆膜が塗布されることが多い。金属の酸化及び腐食に対する防護は、アルミニウム及びクロムなどの保護酸化物を形成する元素を面に拡散させる能力に基づく。保護高温酸化被覆膜は、溶射技術及び拡散技術により塗布でき、各々の方法に長所と短所が見られる。熱障壁被覆膜(TBC)は、基板に接合するボンドコートと、イットリア、マグネシア又はセリアにより部分安定化されたジルコニアのトップコートとを含む。ジルコニアのトップコート層は、種々の技術により塗布できるが、一般には、エアプラズマ溶射(APS)又は電子ビーム物理気相成長(EB‐PVD)により塗布される。EB‐PVDなどの技術は、アルミナイド面(PtAl、単純なアルミナイド、アルミナイズMCrAlY)への安定化ジルコニアなどのセラミック被覆膜の塗布においては商業的に成功を収めている。EB‐PVDによるTBCジルコニア柱状微細構造は、ひずみに対する耐性を示し、高熱サイクル用途に対するTBC塗布寿命に関して、履歴上、エアプラズマ溶射ジルコニアに優る。更に、米国特許第5,830,586号公報(特許文献1)にすでに開示されたように、エアプラズマ方法により形成される微細構造は、ひずみ耐性及びTBC循環破砕寿命を改善する垂直亀裂を有する。しかし、被覆される表面が滑らかであると、面への接着が不足するため、アルミナイド被覆膜面にエアプラズマ付着セラミックを塗布しようとする試み(基板又はMCrAlY上の上層アルミナイドへの拡散被覆)は、不首尾に終わっていた。
【0003】
接合に備えて面を準備するために面から酸化物を除去する目的で、反転極性アーク溶接としても知られる反転切換えアーク溶接が使用されてきた。例えば、米国特許第5,512,318号公報(特許文献2)、第5,466,905号公報(特許文献3)及び第5,462,609号公報(特許文献4)を参照。米国特許第6,042,898号公報(特許文献5)においては、MCrAlY被覆膜から酸化物を除去するために、反転切換えアーク溶接が利用される。除去後、アルミナスケールが熱成長され、続いて、TBCを製造するためにジルコニアトップコートが塗布される。
【特許文献1】米国特許第5,830,586号公報
【特許文献2】米国特許第5,512,318号公報
【特許文献3】米国特許第5,466,905号公報
【特許文献4】米国特許第5,462,609号公報
【特許文献5】米国特許第6,042,898号公報
【発明の開示】
【0004】
本発明によれば、後続の被覆工程に備えて表面を粗面化する目的でも反転切換えアーク溶接トーチを使用できるが、一般の工業用トーチは、広い表面領域を処理するには効率が悪い。従って、本発明は、後続の被覆工程に備えて広い表面領域を有効に準備するために、他の点では一般的なトーチ(例えば、タングステンイナートガス(TIG)溶接トーチ)を変形することに関する。
【0005】
具体的には、典型的なTIG溶接トーチは、大きさが可変である単一の小型火口を有する。本発明は、小型火口のアレイを含むようにトーチのヘッドを変形する。火口のアレイは、広い表面領域の粗面化を容易にし、それにより、被覆工程の効率を向上し且つコストを低減する。
【0006】
粗面化工程においては、例えば、アルゴンシールドガスを利用する反転アーク切換え溶接技術が採用されるが、アークが発生されないように、トーチは、工作物表面からある離間距離(例えば、1.3センチメートル)をおいた位置に維持される。その結果発生するイオンホンバードメントは、工作物表面を、塗布される被覆膜の良好な接着を確保するのに要求される程度まで十分に粗面化する。
【0007】
従って、1つの面においては、本発明は、トーチ本体及びトーチヘッドを具備し、トーチヘッドが、密集アレイとして配列された複数のトーチ火口を有する溶接トーチに関する。
【0008】
別の面においては、本発明は、被覆される面を粗面化する方法であって、a)火口のアレイを装着されたトーチヘッドを有する反転切換えアーク溶接トーチを提供することと;b)火口と被覆される面との間にアークを発生することなく、面に沿って溶接トーチを移動し、それにより面を粗面化することとから成る方法に関する。
【0009】
以下に、添付の図面に関連させて本発明を詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は部品10を示す。部品10は、セラミック被覆膜が塗布されるガスタービン又はディーゼル機関の高温部品、あるいは他の任意の金属物品であってもよい。部品10は、下方に位置する金属基板12を具備し、金属基板12の上にアルミナイド層14、すなわち、ボンドコートが塗布される。特に、好適な一実施形態においては、基板は、Ni系合金、Ti系合金又はCo系合金などの金属合金である。しかし、互いに密着する連続柱状粒微細構造の形成に好都合な条件を助長するのに十分な熱を基板12が伝導可能であれば、基板は、他の金属合金、金属マトリクス複合材料又は他の材料であってもよい。ボンドコート14は、トップコート、すなわち、TBC16の基板12への接合を助長する材料であれば、どのような材料から形成されてもよく、例えば、単純なアルミナイド、PtAl、あるいは基板12又は基板上の金属被覆膜の中へアルミニウムを拡散させることにより形成されるアルミニウムを豊富に含有する任意の表面層などを含んでもよい。
【0011】
TBC16は、プラズマ溶射セラミック材料から形成されてもよい。好適な一実施形態においては、セラミック材料は、6〜8重量%のイットリアと、APSにより蓄積された残部ジルコニア(通常は複数の層)とを含む組成を有するイットリア安定化ジルコニアなどの金属酸化物である。しかし、金属炭化物、金属窒化物及び他のセラミック材料を含む他のTBC材料も可能である。
【0012】
トップコート16が塗布される前に、ボンドコートの表面は、本明細書において説明するように粗面化される。粗面は、図中符号18により誇張された形で示される。
【0013】
図2は、特にボンドコート14の表面を粗面化するときに使用するのに適するように変形された溶接トーチ20を示した概略図である。トーチは、トーチ本体22とトーチヘッド28とを含む。トーチ本体22は、トーチ本体22から後方へ延出する電力ケーブル24、26を有する。トーチヘッド28は、規則的な密集アレイ、この場合には、複数の整列された行及び列から成る矩形アレイとして配列された複数の相対的に小型のタングステン火口30を含むように形成される。図示される実施形態においては、各々が8つの火口を有する4つの行が互いに平行に配列され、各行の火口が隣接する行の火口と整列されているため、各々が4つの火口を有する列が8つ形成されている。火口のアレイの厳密な構成は、特定の用途に適合するように変更されてもよい。例えば、隣接する行の火口は、千鳥配列で配列されてもよく且つ/又はアレイ全体の形状は変形されてもよい。
【0014】
使用中、溶接トーチ20は反転切換えアーク工程で利用される。その場合、その他の点では通常の溶接工程において、電極と導電性の工作物との間に、アンペア数の低い直流アークが発生される。この工程において、電極は第1の電気極性にあり、工作物の面は、第1の極性とは逆の第2の極性にある。電流範囲は、約0.5〜45Aと低い。極性サイクルを規定するために、同一の電流範囲で、電気極性が電極と工作物の面との間で反転される。この極性反転は、毎秒約1〜1,000サイクル(cps)の低周波数で、あらかじめ選択されたパターンに従って繰り返される。しかし、本発明の粗面化方法においては、溶接トーチを部品10から十分な離間距離(例えば、2分の1インチ)をおいて保持することにより、アークは維持されない。従って、トーチは高周波発生器として使用される。火口30のアレイが表面領域(露出金属面又は被覆された金属面のいずれであってもよい)に沿って移動される間に、露出された酸化面はイオンボンバードメントにより粗面化され、後続の被覆工程の準備が整う。粗面化の程度は、様々に異なっていてよいが、少なくとも200〜500RAの粗さ係数を実現すべきである。
【0015】
以上、ボンドコートの上にセラミックトップコートを塗布することに関連して本発明を説明したが、本明細書において開示された変形溶接トーチを使用する表面粗面化技術は、母材又は他の被覆基板を粗面化する目的にも同様に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に従ってアルミナイドボンドコート層の上に塗布されたセラミックトップコート層を有する部品を示した横断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に従った変形溶接トーチを示した概略図である。
【符号の説明】
【0017】
20…溶接トーチ、22…トーチ本体、28…トーチヘッド、30…タングステン火口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーチ本体(22)とトーチヘッド(28)とを具備し、前記トーチヘッドが、密集アレイとして配列された複数のトーチ火口(30)を有する溶接トーチ(20)。
【請求項2】
前記密集アレイは、複数の整列された行及び列を具備する請求項1記載の溶接トーチ。
【請求項3】
複数の行と少なくとも1つの列とを含む請求項2記載の溶接トーチ。
【請求項4】
各行は複数の火口(30)を含む請求項2記載の溶接トーチ。
【請求項5】
前記火口(30)の数は2から100を超える数まで可変である請求項4記載の溶接トーチ。
【請求項6】
前記溶接トーチはタングステンイナートガス溶接トーチである請求項1記載の溶接トーチ。
【請求項7】
被覆される面を粗面化する方法において、
a)火口(30)のアレイが装着されたトーチヘッド(22)を有する反転切換えアーク溶接トーチ(20)を提供することと;
b)前記火口(30)と被覆される面との間に溶接アークを発生することなく、前記面に沿って前記溶接トーチ(20)を移動し、それにより、前記面を粗面化することとから成る方法。
【請求項8】
前記被覆される面は、露出金属面、めっきされた金属面又は被覆された金属面である請求項7記載の方法。
【請求項9】
工程b)の間、前記面は200〜500RAの粗さ係数まで粗面化される請求項7記載の方法。
【請求項10】
工程a)は、複数の行及び列を成して配列された火口の矩形の密集アレイを有する前記溶接ヘッドを提供することを含む請求項7記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−160307(P2007−160307A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−333401(P2006−333401)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】