説明

面外角度付構造部を有する構造体の作製方法

【課題】面外角度付構造部を有する構造体の作製において構造部の角度をつける際に、精度良く、所望の角度がつけられる作製方法を提供する。
【解決手段】構造部003を基板の主面と平行な面A1,A2に対し角度をつけた構造体001を作成するために第一の工程で、構造部003の塑性変形を行う被加工部003に、基板の主面と平行な面に対して交差する方向に突出した突出部004を設ける。そして第2の工程で、前記構造部の突出部004に型により力を加えることにより、被加工部003を塑性変形させ基板の主面A1,A2に対し角度をつける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばMEMS技術によって作製されるセンサやアクチュエータなどに用いられる櫛歯構造に代表される梁状構造を有する構造体の作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
垂直櫛歯構造体(VC)とは、櫛歯構造体の1対の櫛歯構造部が互いに噛み合うように配置され、いずれか片方の櫛歯構造部が面外方向に変位可能であるように弾性体によって支持されている構造体である。(VC:Vertical Comb structure)このような構造体は、MEMSと呼ばれる半導体加工を応用した微細加工技術を用いることにより、例えば1本の櫛歯の幅が5μm程度であるような非常に微細な構造体として作製されることが可能である。(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems)
MEMSによって作製された垂直櫛歯構造体は、例えば光路変換用のマイクロミラーや無線通信機器用の可変コンデンサなどにおいて採用されている。具体的な一例としては、微小な振動構造体を静電気力で駆動させる静電櫛歯アクチュエータの電極部として用いることが可能である。
【0003】
垂直櫛歯構造体を用いた静電櫛歯アクチュエータにおいては、櫛歯構造体を初期位置から変位させるために大きな駆動力を発生させる必要がある。そのために、駆動力を増大させることが可能な櫛歯構造体として、角度付櫛歯構造体(AVC)とその作製方法が公開されている(特許文献1、2、3参照)。(AVC:Angular Vertical Comb structure)
AVCの構造例を、図14を用いて以下に説明する。
【0004】
AVCにおいて、櫛歯構造体300の1対の櫛歯構造部301、302は、上面からみると図14(a)のように互いに噛み合うように配置されている。一方、側面から見ると、図14(b)のようにいずれか一方の櫛歯構造部(ここでは櫛歯構造部302)がもう片方の櫛歯構造部(ここでは櫛歯構造部301)の存在する平面の外(面外)に傾いた状態で配置されている。櫛歯構造部301、302の間に電圧を印加すると、傾いた櫛歯構造部302は静電気力により櫛歯構造部301に引き寄せられ、図14(c)のようにねじりバネ303を中心とした回転方向に変位する。
【0005】
AVCの作製方法としては、以下のような作製方法が公開されている。
1.櫛歯構造体の櫛歯構造部に切り欠き部を形成し、切り欠き部に樹脂を充填した後に、型を押し当てて櫛歯構造部を折り曲げ、樹脂を硬化させて折り曲げられた切り欠き部を固定する方法(特許文献1)。
2.室温よりも高温の環境下で櫛歯構造部上に樹脂部を形成した後に室温まで冷却することにより、樹脂と櫛歯構造部の材料との熱収縮差による張力で櫛歯を曲げる方法(特許文献2)
3.高温下において可塑性を示す弾性材料(例えば単結晶シリコンなど)を用いて作製した櫛歯構造体を、高温下で型を押し当てることにより塑性変形させる方法(特許文献3)。
【0006】
上記1の作製方法の概要を図15を用いて簡単に説明する。
【0007】
上記1のAVCは図15(a)のような構成となっている。AVC310は図15(b)のように櫛歯構造部311の支持基板312の一部に切り欠き313を有している。
【0008】
櫛歯構造部311を傾斜させる方法を以下に示す。支持基板312を、斜面を有する型314に押し当て、切り欠き313の部分で支持基板312を櫛歯構造部311と一緒に折り曲げることにより、櫛歯構造部311を傾斜させる。切り欠きに313には、例えば樹脂などからなる補強部材315が詰められており、これにより折り曲げられた部分が補強されている。
【0009】
上記2の作製方法の概要を図16を用いて簡単に説明する。
【0010】
上記2のAVCは図16(a)のような構成となっている。AVC320は櫛歯構造部321がヒンジ322を介して支持部323に連結された構造を有している。ヒンジ322は、加熱によって硬化する樹脂材料からなる。
【0011】
櫛歯構造部321を傾斜させる方法を図16(b)及び(c)に示す。まず、図16(b)のように櫛歯構造部321と支持部323の間に前記の樹脂材料からなるヒンジ322を形成する。次にヒンジ322を加熱して硬化させると、ヒンジは硬化に伴い収縮し、櫛歯構造部321の上面を支持部323の方向に引っ張る。このような樹脂材料の収縮硬化により、櫛歯構造部321は図16(c)のように傾斜した状態で固定される。
【0012】
上記3の作製方法の概要を図17を用いて簡単に説明する。
【0013】
上記3のAVCは図17(a)のような構成となっている。AVC330は、ねじりバネ332に軸支され回転方向に振動可能な振動板333の片側に櫛歯構造部331を有している。また、このねじりバネ332は単結晶シリコンなどのような、加熱することにより塑性変形させることが可能な材料からなる。
【0014】
櫛歯構造部331を傾斜させる方法を図17(b)及び(c)に示す。
【0015】
図17(b)のように、ピラー334を有する型335を、ピラー334が振動板333の櫛歯構造部311を有する側と反対側の上面に接触するように、図中直線矢印の方向に押し当てて加熱する。これにより、振動板333は図中曲線矢印方向に回転し、ねじりバネ332は振動板333の回転角度を保つような形状に塑性変形する。その後冷却して型335を外すと、図17(c)のように振動板333は傾いたままとなり、振動板333の側面に形成された櫛歯構造部331も振動板333と一緒に傾斜した状態を保っている。
【特許文献1】日本国特許 特開2004−219839号公報
【特許文献2】米国特許 第7085122号公報
【特許文献3】米国特許 第7089666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
基板の主面と平行な面に対して角度を有する構造部を有する構造体においては、角度を有する構造部が設計された角度に対して精度良く一致して傾斜するように作製されることが望ましい。
【0017】
しかし、特許文献1、2の作製方法では、櫛歯構造部の曲げ角度が、補強部材やヒンジの材料である樹脂材料の密度や量、さらには硬化温度や雰囲気などの環境条件に依存するため曲げ角度の制御が難しい。また、樹脂材料は櫛歯構造部の主材料であるシリコンと比較して熱膨張係数や吸湿量が大きいので、作製後の櫛歯構造部の曲げ角度が温度や湿度等の外部環境によって変化しやすい。
【0018】
また、特許文献3の作製方法では、ピラーを振動板に当接させる際に、設計した位置とズレが生じる可能性が高く、ズレが生じた場合には所望の角度を得ることが難しい。
【0019】
そこで、本発明の目的は、傾斜させたい構造部を任意の角度に曲げることができ、かつ、その曲げ角度も幾何的な条件で決定できる、曲げ角度の制御が容易な構造体の作製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、基板と、該基板の主面と平行な面に対して角度を有する構造部を有する構造の作製方法であって、前記構造部の塑性変形を行う被加工部に、前記基板の主面と平行な面に対して交差する方向に突出した突出部を設ける工程と、前記被加工部の突出部に力を加えることで、前記被加工部を塑性変形させる工程とを含む構造体の作製方法によって上記課題を解決する。
【0021】
(作用)
本発明によれば、従来技術である特許文献3の方法と比較したときに、被加工部の曲げ角度の制御において次のような利点がある。
【0022】
特許文献3の方法を用いた場合と本発明を用いた場合の各々における被加工部の曲げ角度の制御に関わる部分の概略を図に示して説明する。
【0023】
特許文献3の方法を用いた場合における被加工部の曲げ角度の制御に関わる部分の概略図を図12に示す。点線で描かれた図形は、被加工部401が図中曲線矢印方向に曲げ変形を起こす直前における被加工部401及びピラー402の位置を表す。特許文献3の方法を用いて本願の被加工部401を曲げる際に、ピラー402を図中直線矢印方向に押し上げる量をdとする。また、被加工部401が曲がる基点Pの位置から、被加工部401が曲がる前のピラー402と被加工部401とが接触する点Qまでの長さをsとする。すると図12より、式(1)のような被加工部401の曲げ角度θを決定する式が成立する。
【0024】
【数1】

【0025】
ピラー402を押し上げる量dの精度は、被加工部401を有する構造体とピラー402を有する型との突き当て部分における形状の加工精度に依存する。一方、基点Pから点Qまでの距離は、前記の構造体と前記型との間の位置合わせ(アライメント)の精度に依存する。よって、式(1)より、被加工部401の曲げ角度θの精度は、前記構造体及び前記型の形状の加工精度と、前記構造体と前記型との間の位置合わせ(アライメント)の精度に依存することがわかる。
【0026】
一方、本発明の方法を用いた場合における被加工部の曲げ角度の制御に関わる部分の概略図を図13に示す。点線で描かれた図形は、被加工部411が図中曲線矢印方向に曲げ変形を起こす直前における被加工部411及び被加工部の突出部412の位置を表す。本発明の方法を用いて本願の被加工部411を曲げる際に被加工部の突出部412を図中直線矢印方向に押し上げる量をdとする。また、被加工部411が曲がる基点Pから被加工部の突出部412の根元にあたる点Rまでの距離をrとし、被加工部の突出部412の長さをLとする。すると図13より、式(2)のような被加工部411の曲げ角度θとd、r、Lとの間の関係式が成立する。
【0027】
【数2】

【0028】
被加工部の突出部412を押し上げる量d及び基点Pから点Rまでの距離r、被加工部の突出部412の長さLの精度は、被加工部411及び被加工部の突出部412を有する構造体と型の形状の加工精度に依存する。よって、式(2)より、被加工部411の曲げ角度θの精度は、前記構造体及び前記型の形状の加工精度に依存することがわかる。
【0029】
一般に、圧力を加えて構造体に型を押し当てながら構造体と型との間の位置合わせ(アライメント)を行うと、その位置合わせの精度は構造体や型の加工精度と比較して低くなる。特許文献3の方法を用いた場合には、構造体と型との間の位置合わせの精度が被加工部の曲げ角度θの精度に支配的な影響を及ぼす。一方、本発明の方法を用いた場合には、構造体と型との間の位置合わせの精度は被加工部の曲げ角度θの精度に影響を及ぼさない。
【0030】
以上のことから、本発明の方法を用いた場合、特許文献3の方法を用いた場合と比較して被加工部の曲げ角度θの精度を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0031】
本発明における、基板の主面と平行な面に対して角度を有する構造部を有する構造体の作製方法では、傾斜させるべき構造部(被加工部)に突出部が設けられている。
【0032】
そのため、被加工部の所望の位置に力を加えることが可能となる。
【0033】
また、被加工部を曲げる際に樹脂等を用いていないため、樹脂の密度や量、又は、温度や湿度等の外部環境から受ける影響を少なくすることが可能となる。
【0034】
以上のことから、曲げ角度を設定する際に、幾何的な条件によって被加工部を所望の角度に精度よく作製することが可能となる。
【0035】
本発明を実施することにより、被加工部を所望の角度に高精度に形成することが可能となり、例えばAVCなどのような構造体を作製する際に、櫛歯の角度を従来よりも高精度に制御して作製することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明における基板の主面と平行な面に対して角度を有する構造部を有する構造体の作製方法の概要を図1(a)及び(b)を用いて以下に説明する。
【0037】
本発明における基板の主面と平行な面に対して角度を有する構造部を有する構造体の作製方法は、主に以下の(a)及び(b)の2つの工程からなる。
【0038】
(a)基板002を加工し構造体001を作製する。
【0039】
この際、基板002の主面に平行な面(図1中のA1−A2の一点鎖線)の外に傾けるべき構造部(以下、被加工部)003に、基板002の主面に平行な面と交差する方向に突出した被加工部の突出部004を設ける。ここで、基板002の主面とは、基板002のうち主に加工を施される面のことをさす。
【0040】
また、被加工部003を塑性変形させ易いように、塑性変形の基点としたい位置に加工を施してもよい。例えば凹部005を設ける等して、その部分の強度が周りよりも弱くなるような加工を施しても良い。
【0041】
(b)被加工部003に設けられた被加工部の突出部004に力を加えることにより、被加工部003を塑性変形させる。
力の加え方は、被加工部003を基板002の主面に平行な面(図1中のA1−A2の一点鎖線)の外に傾けることができれば、特に制約はない。例えば、被加工部の突出部004を押し上げるようにしてもよいし、引っ張るようにしてもよい。あるいは、被加工部の突出部004を押し広げるようにしてもよいし、押し狭めるようにしてもよい。被加工部の突出部004に力を加え、被加工部003を塑性変形できれば、前記の方法に限らずどのような方法を用いてもよい。
【0042】
また、被加工部003を塑性変形させ易いように、被加工部003の一部、又は、全体を加熱してもよい。加熱するタイミングは、被加工部003を変形させる前でもよいし、被加工部003を変形させている途中でもよい。
【0043】
本工程において、力を加える手段に型006を用いて押し上げる場合、図2(a)及び(b)に示すように、被加工部の突出部004を塑性変形の基点からの位置を変えて設けることで被加工部003の角度を変えることができる。あるいは、図3(a)及び(b)に示すように、被加工部の突出部004の長さを変えても同様に被加工部003の角度を変えることができる。
【0044】
上記の例では構造体の可動部007から張り出した被加工部003の加工例を示した。
【0045】
図4(a)及び(b)のように、構造体011の支持部017から張り出した被加工部013も、被加工部の突出部014を設けることにより、上記の例と同様にして加工することが可能である。
【0046】
上記の作製方法の具体的な実施例を以下に示す。
【0047】
(第1の実施例)
本実施例では、基板の主面と平行な平面に対して面外方向に角度を有する傾斜構造部を有する構造体の作製方法の例を説明する。ただし、作製方法はこれに限られるものではない。
【0048】
本実施例の構造体の作製方法を表す工程図を図5に示す。図5中の番号(a)〜(i)は、工程(a)〜(i)に対応している。
【0049】
まず、以下の(a)〜(i)の工程により、被加工部101、102と被加工部の突出部103、104を形成する。
【0050】
(a)基板111のデバイス層112の表面にマスク層115を形成する。
基板111は、2つの層の間に絶縁材料からなる層が挟まれた構造を有しており、本明細書ではこれらの層を上から順にデバイス層、絶縁層、支持層と呼ぶことにする。基板111としては、例えば単結晶シリコンからなる2つの層(デバイス層112、支持層114)の間に二酸化シリコンからなる絶縁層113が挟まれた構造を有するSOI(Silicon On Insulator)基板を用いることが可能である。
【0051】
(b)デバイス層112に凹部116を形成する。
このとき、凹部116の深さ方向の長さはデバイス層112の厚さよりも小さくなるようにする。
【0052】
凹部116の形成方法としては、例えば反応性イオンエッチングなどの垂直エッチング技術を用いるのが好適である。凹部116の深さはエッチング時間の長さで制御することが可能である。
【0053】
(c)デバイス層112の表面に、マスク層117を形成する。
【0054】
(d)デバイス層112に貫通口118を形成する。
貫通口118の形成方法としては、凹部116の形成方法と同じく、例えば反応性イオンエッチングなどの垂直エッチング技術を用いるのが好適である。反応性イオンエッチングを用いた場合、エッチングガスとして基板111の絶縁層113とは反応しにくいガスを用いることにより、貫通口118を確実に形成することが可能である。
【0055】
(e)デバイス層112をマスクとして絶縁層113に貫通口119を形成する。
例えば基板111としてSOI基板を用いた場合、フッ化水素酸や四フッ化炭素ガスなどのような二酸化シリコンを選択的にエッチングすることが可能なエッチャントあるいはエッチングガスを用いることで絶縁層113のみをエッチングすることが可能である。
【0056】
(f)支持層114の下面にマスク層120を形成する。
【0057】
(g)支持層114に貫通口121を形成する。
【0058】
次に、以下の(h)及び(i)の工程により、別の基板131を用いて被加工部101、102を傾斜させる型134を作製する。
【0059】
型134は、基板111に押し当てることや加熱することを考えると、基板111と同程度あるいはそれ以上の剛性を有し、熱膨張係数が基板111のデバイス層112の材料に近い材料であれば良いと考えられる。
【0060】
また、基板111がSOI基板である場合、基板131の材料はデバイス層112と同じシリコンとするのが良いと考えられる。
【0061】
(h)基板131の上面にマスク層132を形成する。
【0062】
(i)基板131の上面に型の凸部133を形成する。
型の凸部133の形成方法としては、例えば反応性イオンエッチングなどのエッチング技術を用いて、基板131の上面のうち、型の凸部133の周囲の部分をエッチングすることにより形成することが可能である。
【0063】
最後に、以下の(j)〜(l)の工程により、被加工部101、102に仰角をつけ、その後、被加工部の突出部103、104を除去する。
【0064】
(j)デバイス層112の凹部116を加熱し、支持層114の下面及び被加工部の突出部103、104に型134を押し当てることにより凹部116を塑性変形させる。
加熱する温度は、例えば基板111としてSOI基板を用いた場合にはシリコンを塑性変形させるために必要な600℃以上に設定するのが好適である。加熱する方法としては、例えば凹部116の周辺を通るような電流路に電流を流すことで発生するジュール熱により凹部116とその周辺を局所的に加熱する方法を用いることが可能である。電流路としては融点が十分に高い導体薄膜などを適当な絶縁膜を介して蒸着したものを用いる、あるいはデバイス層112が導電性を有する場合はデバイス層112そのものを電流路として用いることが可能である。
【0065】
また、基板111と型134を接合した後に適切な加熱炉を用いて基板111及び型134の全体を加熱することによりデバイス層112の凹部116を加熱することも可能である。基板111と型134を接合する手段としては、例えば基板111としてSOI基板を用いた場合、型134の上面に二酸化シリコンの層を形成し、陽極接合により基板111の下面と型134の上面とを接合することが可能である。
【0066】
(k)冷却した後、型134を外す。
【0067】
(l)絶縁層113のうち、絶縁層126以外の部分を除去する。
被加工部の突出部103、104は絶縁層113のみを介して被加工部101、102に固定されているので、この工程により被加工部の突出部103、104は絶縁層113と共に除去される。
【0068】
絶縁層113を除去する方法としては、例えば基板111としてSOI基板を用いた場合、フッ化水素酸や四フッ化炭素などのような二酸化シリコンを選択的かつ等方的にエッチングすることが可能な、エッチャントあるいはエッチングガスを用いて絶縁層113のみをエッチングする方法を用いることが可能である。このとき、エッチングの時間を調節することにより、絶縁層126の部分を残し、かつ被加工部の突出部103、104の近傍の絶縁層113を除去することが可能である。
【0069】
さらに、工程(j)にて基板111と型134とを二酸化シリコン層を介した陽極接合で接合した場合、工程(k)の型を外す工程と工程(l)の絶縁層113を除去する工程は同時に行うことが可能である。
【0070】
また、被加工部の突出部を押し上げるときに用いる型として、一様に平坦な面を有する基板を用いることも可能である。その作製方法の例を図6に示す。
【0071】
本作製方法は、以下の工程(a1)〜(l1)からなり、図6中の番号(a1)〜(l1)は、工程(a1)〜(l1)に対応する。
(a1)支持層114の下面にマスク層141を形成する。
(b1)支持層114の下面に凹部142を形成する。
【0072】
工程(c1)〜(g1)は、前記の工程(a)〜(e)と同一であるので説明は省略する。
(h1)支持層114の下面にマスク層120を形成する。
(i1)支持層114に貫通口121を形成する。
【0073】
工程(j1)〜(l1)は、前記の工程(j)〜(l)と略同一であるので、説明は省略する。
【0074】
このような作製方法を用いると、被加工部の突出部103、104が型143の上面のどの位置に接触してもよいので、基板111に型143を押し当てる際に水平方向の位置合わせを不要とすることができる。
【0075】
本実施例の作製方法によって作製された構造体の例を図7に示す。
【0076】
図7は基板111に水平な基準面に対して上方向に傾斜した複数の可動櫛歯171、172を有するAVCを用いた振動構造体である。可動櫛歯171と固定櫛歯173の間に例えばパルスや正弦波などの波形で電圧が変化する電圧信号源175を接続することにより振動板177を振動させることが可能である。
【0077】
(第2の実施例)
第1の実施例において、工程の一部分を変えることにより、複数の被加工部を異なる曲げ角度で加工することが可能である。本実施例ではその方法を2通り説明する。
【0078】
1つ目の方法は、被加工部の突出部103、104を被加工部101、102の曲げ加工の基準点からそれぞれ異なる距離の位置に設ける方法である。
【0079】
実施例1における構造体の作製方法において、工程(f)あるいは(h1)でマスク層120を形成する領域を変えることにより、工程(g)あるいは(i1)で貫通口121を形成する領域を変えることによって作製可能である。
【0080】
なお、支持層114の下面及び被加工部の突出部103、104に型134を押し当てたときの様子は図2(b)のようになる。
【0081】
2つ目の方法は、長さの異なる被加工部の突出部103、104を形成する方法である。その方法を以下に示す。
【0082】
まず、図8(a2)及び(b2)のように、被加工部の突出部103、104を形成すべき長さと位置に合わせた位置にマスク層151を形成し、支持層114に凹部152を形成する。凹部152の深さは、支持層114の厚さから形成すべき被加工部の突出部103あるいは104の長さを差し引いた長さに合わせる。図8(b2)では、被加工部の突出部103の長さが支持層114の厚さと同じ長さに、被加工部の突出部104の長さが支持層114の厚さよりも短い長さになるように凹部152が形成されている。凹部152を形成する方法については第1の実施例の(b)で行ったデバイス層の凹部形成の工程と同様にして形成することが可能である。
【0083】
次に、デバイス層112、絶縁層113を加工することにより傾ける前の被加工部101、102を形成する。デバイス層112、絶縁層113の加工については第1の実施例の(a)〜(e)の工程と同様にして行うことが可能である。
【0084】
次に、図8(c2)及び(d2)のように、支持層114の下面にマスク層153を形成し、貫通口121を形成する。貫通口121を形成する方法については第1の実施例の(g)の工程と同様にして形成することが可能である。
【0085】
以降の型134を作る工程、被加工部120、121に仰角をつける工程、被加工部の突出部103、104を除去する工程についてはそれぞれ第1の実施例の(h)〜(l)の工程と同様にして行うことが可能である。なお、支持層114の下面及び被加工部の突出部103、104に型134を押し当てたときの様子は図3(b)のようになる。
【0086】
また、図8(a2)〜(d2)に示した工程のかわりに、図9(a3)〜(d3)に示すような工程によっても長さの異なる被加工部の突出部103、104を形成することが可能である。
【0087】
まず、図9(a3)及び(b3)のように、基板111にマスク層161を形成し、支持層114に凹部162を形成する。凹部162の深さは、支持層114の厚さから形成すべき被加工部の突出部103あるいは104の長さを差し引いた長さに合わせる。
【0088】
次に、デバイス層112、絶縁層113を加工することにより傾ける前の被加工部101、102を形成する。
【0089】
次に、図9(c3)及び(d3)のように、マスク層163を形成し、支持層114に貫通口121を形成する。
【0090】
(第3の実施例)
本実施例では、基板の主面と平行な面に対して上下両側の面外方向にわたって各々異なる角度を有する被加工部を有する構造体の作製方法を説明する。
【0091】
本実施例の構造体の作製方法を表す工程図を図10(a)〜(o)に示す。
【0092】
図10中の番号(a)〜(o)は、工程(a)〜(o)に対応する。
【0093】
まず、以下の(a)〜(j)の工程により、傾ける前の被加工部201、202と被加工部の突出部203、204を形成する。
【0094】
(a)基板211のデバイス層212の表面にマスク層215を形成する。
基板211は第1の実施例で用いた基板111と同じ3層構造(デバイス層212、絶縁層213、支持層214)の基板であり、例えばSOI基板などを用いることが可能である。
【0095】
(b)デバイス層212に凹部216を形成する。
凹部216の深さはデバイス層212の厚さよりも小さくする。
【0096】
(c)デバイス層212の表面に、絶縁層217を形成する。
絶縁層217を形成する方法としては、例えば二酸化シリコンなどの絶縁材料を蒸着することにより形成することが可能である。
【0097】
(d)絶縁層217の上面にマスク層218を形成する。
【0098】
(e)絶縁層217に貫通口219を形成する。
貫通口219を形成する方法としては、例えば絶縁層217が二酸化シリコンからなる場合、フッ化水素酸や四フッ化炭素などのような二酸化シリコンを選択的にエッチングすることが可能な、エッチャントあるいはエッチングガスを用いて絶縁層217のみをエッチングする方法を用いることが可能である。
【0099】
(f)絶縁層217をマスクとしてデバイス層212に貫通口220を形成する。
【0100】
(g)基板211の絶縁層213に貫通口221を形成する。
【0101】
(h)絶縁層217の上面に基板231を接合する。
基板231は、3層からなる基板211の支持層214と同じ基板である。例えば、基板211としてSOI基板を用いた場合、基板231は単結晶シリコンからなる基板を用いることが可能である。
また、基板231として単結晶シリコン基板を用いた場合、接合の方法として陽極接合を用いることが可能である。
【0102】
(i)基板231の上面にマスク層232を、基板211の支持層214の下面にマスク層222を形成する。
【0103】
(j)基板231に貫通口233を、支持層214に貫通口223を形成する。
【0104】
次に、以下の(k)及び(l)の工程により、被加工部201、202を傾斜させる型244、245を作製する(すなわち、型は2個作製する)。
【0105】
(k)基板241にマスク層242を形成する。
【0106】
(l)基板241の上面に突出部243を形成する。
【0107】
最後に、以下の(m)〜(o)の工程により、被加工部201、202に角度をつけ、その後被加工部の突出部203、204を除去する。
【0108】
(m)基板211のデバイス層212の凹部216を加熱し、基板211の支持層214の下面及び被加工部の突出部203に型244を押し当てる。同時に、基板231の上面及び被加工部の突出部204にも型245を上下逆にして押し当てる。これにより、凹部216を塑性変形させる。
【0109】
加熱する温度や方法としては、第1の実施例の工程(j)と略同一であるので、説明は省略する。
【0110】
尚、本実施例では2個の型を用いて支持層214と基板231の両方の側から同時に塑性変形させているが、1個の型を用いて片側ずつ塑性変形させることも可能である。
【0111】
(n)冷却した後、型244、245を外す。
【0112】
(o)絶縁層213、217のうち、絶縁層224、234以外の部分を除去する。
被加工部の突出部203、204はそれぞれ絶縁層213、217のみを介して被加工部201、202に固定されているので、この工程により、被加工部の突出部203、204は絶縁層213、217と共に除去される。
【0113】
絶縁層213、217を除去する方法としては、第1の実施例の工程(l)と略同一であるので、説明は省略する。
【0114】
上記の作製方法によって作製された構造体の例を図11に示す(構造を見やすくするために、基板231及び絶縁層217を破線F1−F2を通る鉛直面で切断した図を示す)。
【0115】
図11は、基板211の主面に水平な面に対して上下両方の方向に傾斜した複数の櫛歯251、253を有するAVCである。本発明により、このような複雑な形状の構造体も高精度な位置合わせ技術を要することなく作製することが可能である。
【0116】
本実施例で示した作製方法により、前記発明の効果及び第1及び第2の実施例で述べた効果に加えて以下のような効果を得ることが可能となる。
【0117】
傾斜構造部を構造体の基板に水平な基準面に対して上下の両方向に傾けることが可能となり、仰角の設計自由度をさらに広げることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明における構造体の作製方法の概要を示す工程図
【図2】本発明における構造体の作製方法の概要を示す工程図
【図3】本発明における構造体の作製方法の概要を示す工程図
【図4】本発明における構造体の作製方法の概要を示す工程図
【図5】本発明の第1の実施例における構造体の作製方法を表す工程図
【図6】本発明の第1の実施例における構造体の別の作製方法を示す部分的な工程図
【図7】本発明の第1の実施例における構造体の作製方法によって作製された構造体の一例を示す図
【図8】本発明の第2の実施例における構造体の作製方法を示す部分的な工程図
【図9】本発明の第2の実施例における構造体の別の作製方法を示す部分的な工程図
【図10】本発明の第3の実施例における構造体の作製方法を示す工程図
【図11】本発明の第3の実施例における構造体の作製方法によって作製された構造体の一例を示す図
【図12】従来技術の特許文献3の構造体の作製方法を用いた場合における、被加工部の曲げ角度の制御に関わる部分の概略図
【図13】本発明の構造体の作製方法を用いた場合における、被加工部の曲げ角度の制御に関わる部分の概略図
【図14】AVCの一例を示す図
【図15】従来技術の特許文献1におけるAVCを示す図
【図16】従来技術の特許文献2におけるAVC及び作製方法の概略を示す図
【図17】従来技術の特許文献3におけるAVC及び作製方法の概略を示す図
【符号の説明】
【0119】
001、011 構造体
002、012、111、131、211、231、241 基板
003、013、101、102、201、202 被加工部
004、014、103、104、203、204 被加工部の突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板の主面と平行な面に対して角度を有する構造部とを有する構造体の作製方法であって、
前記構造部の塑性変形を行う被加工部に、前記基板の主面と平行な面に対して交差する方向に突出した突出部を設ける工程と、
前記被加工部の突出部に力を加えることで、前記被加工部を塑性変形させる工程とを含む
ことを特徴とする構造体の作製方法。
【請求項2】
前記構造体は1つの又は複数の前記被加工部を有しており、
塑性変形すべき前記被加工部に設けられた突出部は、前記基板の主面と平行な面に対して一方向側に設けられる
ことを特徴とする請求項1に記載の構造体の作製方法。
【請求項3】
前記構造体は少なくとも2つの前記被加工部を有しており、
前記少なくとも2つの被加工部に設けられた突出部のうち1つは、前記基板の主面と平行な面に対して残りの前記突出部のうち少なくとも1つと反対方向側に設けられる
ことを特徴とする請求項1に記載の構造体の作製方法。
【請求項4】
前記被加工部に凹部を設ける工程を含む
ことを特徴とする請求項1から3に記載の構造体の作製方法。
【請求項5】
前記構造体のうち少なくとも前記被加工部の一部を加熱する
工程を含むことを特徴とする請求項1から4に記載の構造体の作製方法。
【請求項6】
前記被加工部を塑性変形させる工程は、型を押し当てることにより前記被加工部の突出部に力を加える工程を含む
ことを特徴とする請求項1から5に記載の構造体の作製方法。
【請求項7】
前記被加工部の突出部は、傾けるべき構造部の角度に対応した位置に設けられる
ことを特徴とする請求項6に記載の構造体の作製方法。
【請求項8】
前記被加工部の突出部は、傾けるべき構造部の角度に対応した長さを有する
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の構造体の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−254110(P2008−254110A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−98294(P2007−98294)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】