説明

面状発熱体の製造方法及び面状発熱体

【課題】透水性および通気性を有する線面タイプの面状発熱体を確実かつ効率的に製造する方法を提供すること。
【解決手段】導電性糸を有する横糸2と、絶縁性の縦糸3と、電極線4,4と、が織り込まれた平織の織布5を有する面状発熱体1を製造する方法であって、前記導電性糸の両端部を除く部分に絶縁性ポリマー8との密着性を高めるための表面処理を施す工程と、行列状に目開き孔が形成されるように、横糸2、縦糸3および電極線4,4を織り込んで織布5を作製する工程と、織布5に織り込まれた電極線4,4の表面に接着剤を塗布する工程と、目開き孔が塞がれることなく表裏面を貫通する貫通孔9となるように、織布5に絶縁性ポリマー8を含む被覆液を塗布して乾燥することにより、導電性糸および電極線4,4の周囲を絶縁被覆する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面状発熱体の製造方法及び面状発熱体に関し、さらに詳しくは、並列に配置された電極間に線状の発熱素子が並列に配置されたタイプの面状発熱体であって、表裏面間における透水性および通気性を有するものを確実かつ効率的に製造する方法及び面状発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
面状発熱体としては、種々のタイプのものが知られているが、電極形状により分類すると、直列電極タイプの面状発熱体と、並列電極タイプの面状発熱体とがある。直列電極タイプの面状発熱体では、ニクロム線などの線状の発熱素子が、蛇行状に配置されて面を形成し、その線状の発熱素子の両端に電圧を印加して、線状の発熱素子を発熱させる。
【0003】
並列電極タイプの面状発熱体には、二つのタイプの面状発熱体がある。一つは、並列に配置された一対の電極間に、面状の導電フィルムなどからなる発熱素子を配置するタイプ(純粋面状タイプ)である。もう一つは、並列に配置された一対の電極間に、線状の発熱素子を並列に配置するタイプ(線面タイプ)である。
【0004】
直列電極タイプの面状発熱体では、線状発熱素子の長手方向の一部が切断されると、発熱体の全体に電流が流れなくなり、面状発熱体としての機能を有しなくなるという課題を有する。これに対して、並列電極タイプの面状発熱体では、面状の発熱素子または線状の発熱素子の一部が切断されても、その他の発熱素子に電流が流れ、面状発熱体としての機能を維持することができる。
【0005】
ところが、並列電極タイプの一つである純粋面状タイプの面状発熱体では、発熱素子の発熱量が一般に小さく、十分な発熱量を得ることが困難である。また、この純粋面状タイプの面状発熱体では、面状の発熱素子の一部に破損が生じると、その破損が生じた部分の周囲に電界が集中し、電流が流れすぎることにより異常発熱を生じやすいという課題がある。
【0006】
それに対して、線面タイプの面状発熱体では、線状の発熱素子を用いているために比較的に大きな発熱量を得ることができる。また、線状の発熱素子の一本が切れたとしても、その切れた発熱素子には、電流が流れず、発熱しなくなるのみであり、他の線状の発熱素子には電界が集中することもなく、正常に発熱し続ける。
【0007】
そこで、並列電極で線面タイプの面状発熱体が、様々な分野において好ましく用いられている。ところが、従来の線面タイプの面状発熱体は、たとえば特許文献1および2に示すように、縦糸と横糸とを密に織り込んだ織布を樹脂フィルムで被覆して構成してある。このために、従来の線面タイプの面状発熱体は、水などを透過しない構成である。
【0008】
そのため、従来の線面タイプの面状発熱体を、植物育成用の地中ヒータや、道路融雪用の埋設ヒータとして用いる場合には、水捌けが悪くなると言う課題を有している。
【0009】
このような課題を解決するため、本出願人は、横糸と縦糸と電極線とを行列状に目開き孔が形成されるように織り込んだ織布を絶縁被覆層で被覆するとともに、織布を構成する縦糸と横糸とで囲まれる平面に位置する絶縁被覆層に、表裏面を貫通する貫通孔を形成してある面状発熱体を提案している(特許文献3参照)。ここに、貫通孔を形成する方法としては、樹脂フィルム(絶縁被覆層)で織布を被覆した後にパンチングやレーザーカッターによる穴開け加工を行う方法、絶縁被覆層を形成するための樹脂溶液(絶縁性ポリマーを含む被覆液)中に織布を浸漬する方法などがある。
【0010】
しかし、パンチングやレーザーカッターによる穴開け加工は煩雑であり製造効率の点から好ましくない。また、加工時の位置決めが不正確であったり、織布を構成する糸が蛇行していたりすると、当該糸を傷つけてしまい、これにより、強度低下や漏電を招くこともある。
【0011】
また、樹脂溶液中に織布を浸漬する方法において、織布を構成する導電性糸の表面は、通常、導電性塗料の塗膜が形成されていることから、樹脂溶液の濡れ性が劣り、樹脂溶液をはじきやすい。このため、導電性糸の周囲を十分に絶縁被覆することができす、導電性糸の表面が露出する、という問題がある。また、金属製糸からなる電極線の表面も樹脂溶液の濡れ性およびポリマーとの接着性に劣る。
【特許文献1】実公昭62−40389号公報
【特許文献2】特開平1−30265号公報
【特許文献3】特開2005−108636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、透水性および通気性を有する線面タイプの面状発熱体を確実かつ効率的に製造する方法を提供することにある。本発明の他の目的は、そのような製造方法により得られる面状発熱体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の製造方法は、導電性糸を有し、所定間隔で配置される横糸と、前記横糸に交差して配置される絶縁性の縦糸と、前記横糸の両端部に電気的に接続するように配設された電極線と、が織り込まれた平織の織布を有する面状発熱体を製造する方法であって、前記導電性糸の両端部を除く部分にポリマーとの密着性を高めるための表面処理を施す工程と、行列状に目開き孔が形成されるように、前記表面処理が施された導電性糸を有する前記横糸、縦糸および電極線を織り込んで、前記織布を作製する工程と、前記織布に織り込まれた電極線の表面に接着剤を塗布する工程と、前記目開き孔が塞がれることなく表裏面を貫通する貫通孔となるように、前記織布に絶縁性ポリマーを含む被覆液を塗布して乾燥することにより、前記導電性糸および前記電極線の周囲を絶縁被覆する工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
横糸を構成する導電性糸の両端部を除く部分に表面処理を施すことにより、当該部分は被覆液の濡れ性(馴染み性)および絶縁性ポリマーに対する密着性が向上する。この結果、各導電性糸の周囲を絶縁性ポリマーによって確実に絶縁被覆することができ、漏電などの発生を防止することができる。また、織布を作製する前の導電性糸に表面処理を施すので、表面処理剤による織布の目詰まりを回避することができる。また、織布に織り込まれた電極線の表面に接着剤を塗布することによって、電極線の表面に絶縁性ポリマーを確実に接着固定することができ、電極線の周囲を安定的に絶縁被覆することができる。さらに、絶縁性ポリマーによる被覆工程において、行列状に形成された織布の目開き孔は塞がれることなく、表裏面を貫通する貫通孔となるので、面状発熱体の透水性および通気性を確保することができる。
【0015】
前記導電性糸の両端部を除く部分に施す表面処理としては接着剤の塗布が好ましい。
【0016】
また、目開き孔の横方向間隔が3〜50mmとなり、目開き孔の縦方向間隔が3〜50mmとなるように、前記縦糸と横糸とを織り込むことによれば、十分な発熱性と、透水性および通気性とをバランスよく兼ね備えた面状発熱体を得ることができる。
【0017】
本発明の面状発熱体は、導電性糸を有し、所定間隔で配置される横糸と、前記横糸に交差して配置される絶縁性の縦糸と、前記横糸の両端部に電気的に接続するように配設された電極線と、が織り込まれた平織の織布を有する面状発熱体であって、前記導電性糸の両端部を除く部分には、ポリマーとの密着性を高めるための表面処理が施され、行列状に目開き孔が形成されるように、前記表面処理が施された導電性糸を有する前記横糸、縦糸および電極線が織り込まれて前記織布が作製されており、前記織布に織り込まれた電極線の表面には接着剤が塗布されており、前記導電性糸および前記電極線の周囲が絶縁性ポリマーにより絶縁被覆され、かつ、前記目開き孔が塞がれることなく表裏面を貫通する貫通孔となることを特徴とする。
【0018】
本発明の面状発熱体は、横糸を構成する導電性糸および電極線の周囲が絶縁性ポリマーにより確実に絶縁被覆されているので、漏電などを発生させることはない。また、織布に形成された目開き孔が塞がれることなく、表裏面を貫通する貫通孔となるので、透水性および通気性が確保される。本発明の面状発熱体は、本発明の製造方法により確実かつ効率的に製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造方法によれば、織布の横糸を構成する導電性糸および電極線の周囲を絶縁性ポリマーにより確実に絶縁被覆することができるとともに、織布に形成された目開き孔は、絶縁性ポリマーによる被覆工程で塞がれることなく、表裏面を貫通する貫通孔となるので、漏電などを発生させることがなくて透水性および通気性を有する面状発熱体を確実に製造することができる。また、煩雑な穴開け加工を行うことがないので、製造効率に優れ、織布を構成する糸を傷つけることもない。
【0020】
本発明の面状発熱体は、織布の横糸を構成する導電性糸および電極線の周囲が絶縁性ポリマーにより確実に絶縁被覆されているとともに、織布に形成された目開き孔が塞がれることなく、表裏面を貫通する貫通孔となっているので、漏電などを発生させることがなく、透水性および通気性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る面状発熱体を構成する織布の要部平面図、
図2は本発明の一実施形態に係る面状発熱体の要部平面図、
図3は面状発熱体の使用例を示す要部断面図である。
【0022】
本実施形態によって製造される面状発熱体は、図1に示すような織布5を有する。この織布5は、導電性糸からなり、所定間隔で配置される横糸2と、この横糸2に交差して配置される絶縁性の縦糸3と、横糸2の両端部に電気的に接続するように配設された電極線4,4と、が織り込まれた平織の織布である。
【0023】
導電性糸からなる横糸2は、面状発熱体の長手方向Lに沿ってほぼ等間隔に配置されている。また、面状発熱体の長手方向Lに直交する幅方向Wに沿って、縦糸3の密集部6がほぼ等間隔に配置されている。これにより、織布5には、行列状に目開き孔7が形成される。ここに、「縦糸3の密集部6」とは、隣接する縦糸3が幅方向Wに密接した状態で織り込まれた部分をいう。
【0024】
横糸2を構成する導電性糸は、たとえば絶縁性フィラメントの外周を導電性塗料で被覆したものである。この導電性糸は、単線でも撚り線でも良い。絶縁性フィラメントの材質としては、特に限定されないが、ポリウレタン、ポリエステル、コットン、ナイロン、ガラス繊維などである。導電性塗料としては、たとえばポリウレタンなどの樹脂やエラストマーの溶液中に、導電性粒子を混入して得られる温度依存性の高い正温度特性(PTC)型の導電性塗料などが用いられる。
【0025】
PTC型の導電性塗料を構成する導電性粒子としては、高温になるにつれて、抵抗が増大し、良好な自己温度調節機能を発揮するものであれば特に限定されず、たとえば金属粒子、カーボン粒子(カーボンブラック粒子、カーボングラファイト粒子、黒鉛粒子)、さらに好ましくはカーボン粒子が用いられる。このような導電性塗料中に、絶縁性フィラメントを浸漬して乾燥させれば、本実施形態の導電性糸が得られる。
【0026】
絶縁性の縦糸3は、たとえば導電性塗料で被覆されていない以外は同様な導電性糸の芯材として用いられる絶縁性フィラメントで構成される。また、例えば金属線を絶縁被覆したものでも良い。この縦糸3も、単線でも撚り線でも良い。
【0027】
横糸2の両端部に配設された電極線4,4は、織布5を構成するものとして一体的に織り込まれた複数の金属製糸から構成され、各横糸2と電気的に接続してある。電極線4,4を構成する金属製糸は、たとえば銅、鉄、ステンレスなどからなる。金属製糸は、単線でも撚り線でも良い。この金属製糸の線径は、縦糸3および横糸2の線径と略同じであり、好ましくは10〜1000μmである。
【0028】
本実施形態においては、先ず、横糸2となる導電性糸の両端部を除く部分に、ポリマーとの密着性を高めるための表面処理を施す。これにより、当該部分は、絶縁性ポリマーを含む被覆液の濡れ性および絶縁性ポリマーに対する密着性が向上する。なお、導電性糸の両端部については、電極線4,4と接続される部分であるため表面処理を施さない。
【0029】
導電性糸の表面処理方法としては、ポリマーとの密着性を高めるための方法であれば、特に限定されるものでなく、表面処理剤の塗布、接着剤の塗布などが挙げられる。導電性糸に表面処理剤または接着剤を塗布するための方法としては、特に限定されないが、表面処理剤(接着剤も同様)の液中に導電性糸を浸漬する方法が好ましい。刷毛塗りにより表面処理剤(接着剤も同様)を導電性糸に塗布する方法に比較して、効率的に塗布が可能である。
【0030】
ここに、表面処理剤としては、各種ポリマーの分散液を挙げることができ、具体的には、ポリウレタン系表面処理剤、アクリル系表面処理剤、塩化ビニル系表面処理剤、オレフィン系表面処理剤などを例示することができる。
【0031】
また、接着剤としては、ポリウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、オレフィン系接着剤、酢酸ビニル系接着剤、ゴム系接着性などを挙げることができる。
【0032】
次に、行列状の目開き孔が形成されるように、両端部を除く部分を表面処理した導電性糸からなる横糸2、縦糸3および電極線4,4を織り込んで、平織の織布5を作製する。
【0033】
図1に示す織布5において、隣り合う横糸2の配置間隔L1は3〜50mmであることが好ましく、さらに好ましくは5〜40mmである。また、縦糸3の密集部6の配置間隔W1は3〜50mmであることが好ましく、さらに好ましくは5〜40mmである。また、縦糸3の密集部6の幅W2は2〜50mmであることが好ましく、さらに好ましくは3〜30mmである。
【0034】
配置間隔L1および/または配置間隔W1が狭すぎると、これにより形成される目開き孔7(L1×W1)が、絶縁性ポリマーによる被覆工程において塞がれて貫通孔の形成が困難になる傾向にある。横糸2の配置間隔L1が広すぎると、十分な発熱能力のある面状発熱体を製造することができない。なお、縦糸3は、ほとんど発熱に寄与しないため、織布5としての強度を保持できる限り、縦糸3の密集部6の配置間隔W1は、横糸2の配置間隔L1よりも広くすることができる。ただし、織布5を作製する際の作業性を考慮すると、配置間隔W1と配置間隔L1とは、実質的に同じ程度が好ましい。
【0035】
次に、織布5に織り込まれた電極線4,4の表面に接着剤を塗布する。これにより、電極線4,4と絶縁性ポリマーとの間の接着力が向上して、電極線の表面に絶縁性ポリマーを確実に接着固定することができ、電極線の周囲を安定的に絶縁被覆することができる。電極線4,4の表面に塗布される接着剤としては、前記導電性糸の表面処理に使用されるものと同一のものを使用することができる。
【0036】
次に、織布5の目開き孔7が塞がれることなく表裏面を貫通する貫通孔となるように、織布5に絶縁性ポリマーを含む被覆液を塗布して乾燥する。これにより、図2に示すように、横糸2、縦糸3および電極線4,4の各周囲に絶縁性ポリマー8が付着し、横糸2を構成する導電性糸および電極線4,4が絶縁被覆され、かつ、目開き孔が塞がれずに貫通孔9となる面状発熱体1が得られる。
【0037】
織布5に塗布する絶縁性ポリマーを含む被覆液としては、導電性糸および電極線4,4を絶縁被覆できるものであれば特に限定されるものではないが、塩化ビニル系ゾル、アクリル系ゾルなどを挙げることができ、粘度調整が容易である観点から塩化ビニル系ゾルが特に好ましい。
【0038】
ここに、被覆液として好適な塩化ビニル系ゾルの調製方法の一例を示せば、塩化ビニル(平均重合度=1,500)100質量部とフタル酸ジイソノニル(DINP)80質量部と炭酸カルシウム20質量部と熱安定剤3質量部とを混練して得られる液状分散体に、混練を継続しながら炭化水素油(ミネラルスピリット)を徐々に添加し、さらに混練して液状の均一分散体を得、これを真空脱泡して気泡および水分を除去する方法を挙げることができる。
【0039】
織布5への被覆液の塗布方法としては特に限定されるものではないが、ディップコーティング法が好ましい。ディップコーティング法の一例(連続法)を示せば、ロールに巻回されている長尺の織布5を巻き出し、これをディップ槽内の被覆液に浸漬して、織布5に被覆液を含浸させ、これを引き上げてスクイザーロールで過剰量の被覆液を絞り出すことにより、横糸2、縦糸3および電極線4,4の周囲に絶縁被覆に十分な量の被覆液を付着させるとともに、織布5の目開き孔7が塞がれることなく表裏面の貫通孔9が確保されるという好適な塗布状態とし、次いで、これを乾燥炉に搬送して乾燥することにより面状発熱体1を得る。ここに、好ましい乾燥条件としては100〜260℃で1〜30分間とされ、さらに好ましくは150〜200℃で5〜20分間とされる。このようにして得られる面状発熱体1はロールに巻き取られる。
【0040】
本実施形態により得られる面状発熱体1において、横糸2を構成する導電性糸の両端部を除く部分に表面処理を施しているので、当該部分は被覆液の濡れ性(馴染み性)および絶縁性ポリマーに対する密着性が向上する。この結果、各導電性糸の周囲を絶縁性ポリマー8によって確実に絶縁被覆することができ、漏電などの発生を防止することができる。また、織布5を作製する前の導電性糸に対して表面処理を施すので、表面処理剤または接着剤による織布5の目詰まりを回避することができる。
【0041】
また、織布5に織り込まれた電極線4,4の表面には接着剤を塗布しているので、その表面に絶縁性ポリマー8を確実に接着固定することができ、電極線4,4の周囲を安定的に絶縁被覆することができる。
【0042】
さらに、絶縁性ポリマーによる被覆工程において、行列状に形成された織布5の目開き孔7は塞がれることなく、表裏面を貫通する貫通孔9となるので、面状発熱体1の透水性および通気性を確保することができる。
【0043】
本実施形態に係る面状発熱体1は、並列電極タイプで、いわゆる線面タイプの面状発熱体である。そのため、面状発熱体1の一部に破損が生じて、横糸2の一部が切断されたとしても、他の横糸2には電流が供給され、発熱を維持することができる。また、切断された横糸2は、電流が流れずに発熱しないのみであり、他の横糸に印加される電圧も変化せず、異常発熱などが発生するおそれもない。
【0044】
しかも、本実施形態に係る面状発熱体1には、織布5の目開き孔7による貫通孔9が形成されている。そのため、表裏面間における透水性および通気性が確保される。これにより、面状発熱体1の表裏面を貫通する貫通孔9を通して、水などの液体が流通するので、面状発熱体1を設置しても水はけが良くなる。したがって、植物育成用の地中ヒータなどとして好適に用いることができる。
【0045】
図3は、本実施形態に係る面状発熱体1を、たとえば植物育成用の地中ヒータとして用いる例を示す。図3に示すように、植物を育成するための培地32を収容している長手方向Lに細長い透水性容器30と培地32との間に、本実施形態の面状発熱体1を、長手方向Lに沿って隙間無く配置することができる。その結果、培地32は、均一に加熱されることが可能になる。
【0046】
しかも、培地32の上部に配置してある給水パイプ40から培地32に供給される水は、面状発熱体1の上に貯まらず、面状発熱体1の貫通孔9および透水性容器30を通して、排水装置34の排水口36から効率的に排水される。植物育成用の透水性容器30は、一般に、長手方向に細長い形状を有している。本実施形態の面状発熱体1も、長手方向Lに細長く形成することができるので都合がよい。
【0047】
また、本実施形態に係る面状発熱体1の有する通気性を利用して、空気の温度調節の用途に供することも可能である。
【0048】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。例えば、所定間隔で配置される横糸の一部として、絶縁性糸のみからなるものを配置してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る面状発熱体は、植物育成用の地中ヒータ、空気の温度調節、敷布、マット、定温倉庫の床、コンクリート構造体、タンクなどの加温や保温、あるいは、融雪、霜取り、融氷、凍結防止、台所、風呂場、トイレ、洗面所の暖房などの用途にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態に係る面状発熱体を構成する織布の要部平面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る面状発熱体の要部平面図である。
【図3】面状発熱体の使用例を示す要部断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 面状発熱体
2 横糸
3 縦糸
4 電極線
5 織布
6 縦糸の密集部
7 目開き孔
8 絶縁性ポリマー
9 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性糸を有し、所定間隔で配置される横糸と、
前記横糸に交差して配置される絶縁性の縦糸と、
前記横糸の両端部に電気的に接続するように配設された電極線と、が織り込まれた平織の織布を有する面状発熱体を製造する方法であって、
前記導電性糸の両端部を除く部分にポリマーとの密着性を高めるための表面処理を施す工程と、
行列状に目開き孔が形成されるように、前記表面処理が施された導電性糸を有する前記横糸、縦糸および電極線を織り込んで、前記織布を作製する工程と、
前記織布に織り込まれた電極線の表面に接着剤を塗布する工程と、
前記目開き孔が塞がれることなく表裏面を貫通する貫通孔となるように、前記織布に絶縁性ポリマーを含む被覆液を塗布して乾燥することにより、前記導電性糸および前記電極線の周囲を絶縁被覆する工程と、
を有する面状発熱体の製造方法。
【請求項2】
前記導電性糸の両端部を除く部分に施す表面処理として、接着剤を塗布する請求項1に記載の面状発熱体の製造方法。
【請求項3】
前記目開き孔の横方向間隔が3〜50mmとなり、前記目開き孔の縦方向間隔が3〜50mmとなるように、前記縦糸と横糸とを織り込む請求項1または2に記載の面状発熱体の製造方法。
【請求項4】
導電性糸を有し、所定間隔で配置される横糸と、
前記横糸に交差して配置される絶縁性の縦糸と、
前記横糸の両端部に電気的に接続するように配設された電極線と、が織り込まれた平織の織布を有する面状発熱体であって、
前記導電性糸の両端部を除く部分には、ポリマーとの密着性を高めるための表面処理が施され、
行列状に目開き孔が形成されるように、前記表面処理が施された導電性糸を有する前記横糸、縦糸および電極線が織り込まれて前記織布が作製されており、
前記織布に織り込まれた電極線の表面には接着剤が塗布されており、
前記導電性糸および前記電極線の周囲が絶縁性ポリマーにより絶縁被覆され、かつ、前記目開き孔が塞がれることなく表裏面を貫通する貫通孔となる面状発熱体。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかの方法により得られる請求項4に記載の面状発熱体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−234246(P2007−234246A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−50941(P2006−50941)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】