説明

面発光レーザ、画像形成装置

【課題】作製プロセスにおいて段差構造の形状が変動したとしても、この変動がFFPに与える影響を抑制することができる面発光レーザ、および、該面発光レーザを用いた画像形成装置を提供する。
【解決手段】面発光レーザ100は、半導体基板110上に、下部ミラー112、活性層114、上部ミラー116が積層され、上部ミラー上に凸型の段差構造150が設けられている。その第1の領域160と第2の領域162との間の第3の領域165に遮光部材が配されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光レーザ、および、該面発光レーザを用いた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
面発光レーザは、基板表面に対して垂直方向に光を取り出すことができ、二次元のアレイ化も容易である。この二次元アレイから出射される複数のビームを用いた並列処理により、高密度化および高速化が可能になり、光通信など様々な産業上の応用が期待される。例えば、電子写真プリンタの露光光源として面発光レーザアレイを用いれば、複数のビームによる印字工程の高密度・高速化が可能となる。
【0003】
面発光レーザの特性向上のために、レーザ光の出射面かつ光出射領域内に段差構造を設けた例が知られている。例えば、単一横モード発振を課題として、面発光レーザの表面に段差構造を設けて、上部ミラーの周辺部の反射率よりも、中央部の反射率を高くした例が特許文献1の図1に開示されている。
【0004】
また、特許文献1には、段差構造をエッチング法やリフトオフ法により形成することも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−284722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
面発光レーザの出射面かつ光出射領域内に段差構造が設けられると、レーザの近視野における電場複素振幅分布に変調が加わるため、遠視野における電場複素振幅分布も変調される。この結果、遠視野における光強度分布(FFP:Far Field Pattern)にも変調が加わる。
【0007】
一方、例えばエッチング法やリフトオフ法により作製された段差構造の側面部(保護膜が形成されていない場合には、段差構造と空気の境界。エッジ部分ともいう。)は必ずしも垂直ではなく角度がついており、段差構造はテーパー状の構造となる。この角度は作製方法によるがその制御性は、例えば膜厚の制御性に比べて悪い。このため、段差構造の形状の変化により、FFPが設計値に対し変動してしまうという課題がある。
【0008】
そこで、本願発明は、作製プロセスにおいて段差構造の形状が変動したとしても、この変動がFFPに与える影響を抑制することができる面発光レーザ、および、該面発光レーザを用いた画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明に係る面発光レーザは、基板の上に、下部ミラー、活性層、上部ミラー、を含む積層構造体を有し、波長λで発振する面発光レーザであって、前記上部ミラーの上部の光出射領域内に設けられ、第1の領域と該第1の領域とは異なる第2の領域との間に段差を有する段差構造を備え、前記面発光レーザの外部における前記積層構造体の積層方向に対して垂直な基準面と、前記上部ミラーの上部境界面、との間の光路長に関して、前記第1の領域における前記光路長と、前記第2の領域における前記光路長が異なり、前記上部ミラーの上部であって、前記第1の領域と前記第2の領域との間の第3の領域に遮光部材が配され、該第1の領域および該第2の領域の一部に該遮光部材が配されていないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本願発明によれば、作製プロセスにおいて段差構造の形状が変動したとしても、この変動がFFPに与える影響を抑制することができる面発光レーザ、および、該面発光レーザを用いた画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態1の説明で用いた図である。
【図2】実施形態1の説明で用いた図である。
【図3】実施形態2の説明で用いた図である。
【図4】その他の実施形態の説明で用いた図である。
【図5】その他の実施形態の説明で用いた図である。
【図6】実施形態3の説明で用いた図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態1)
段差構造により、FFPが変動してしまうのは、この段差構造のエッジ部分の傾斜角度が変動しやすく、その傾斜したエッジのある領域を透過した光がFFPに影響を与えるからである。そのため、この段差構造のエッジのある領域からレーザ光が透過しないようにすれば、段差構造の形状の変動がFFPに与える影響を抑制することができる。そこで、本願発明では、段差構造の傾斜角度が変化しうるエッジのある領域に遮光部材を設ける。
【0013】
以下、図を用いて、説明を行う。
【0014】
図1は、本発明の実施例の面発光レーザ100を表す断面模式図である。
面発光レーザ100は、半導体の基板110上に、下部ミラー112、活性層114、上部ミラー116が積層された積層構造体からなる。
【0015】
上部ミラー116と活性層114は一部がエッチングされ、円筒状のメサ構造が形成されている。
【0016】
上部ミラー116中には、周囲の半導体よりも屈折率が低い絶縁領域によって円形領域に電流を制限する電流狭窄構造118が設けられている。例えば、この絶縁領域はメサ構造の側壁から水蒸気を導入して半導体層を酸化することによって作製される。
【0017】
電流狭窄構造118は、半導体領域と、この半導体領域よりも屈折率が低い絶縁領域とから構成されているため、共振モード130を規定するとともに、発光領域も規定する。
【0018】
上部ミラー116上および基板120裏面には、活性層114に電流を注入するための上部電極122、下部電極120が設けられている。
【0019】
上部ミラー116上に、図1に示すように凸型の段差構造150が設けられており、この段差構造150は、第1の領域160と第2の領域162とで光学厚さが異なる。また、段差構造150は、発光する領域である光出射領域内に設けられている。図1に示した第2の領域162は、第1の領域160よりも、光出射領域の中心に対して、遠ざかる位置に配されている。また、第3の領域165は、第1の領域160と第2の領域162との間の領域である。
【0020】
上記のように段差構造150を構成することにより、反射率の制御や、FFPの制御を行うことができる。
【0021】
なお、図1では凸型の段差構造を例として挙げたが、段差構造150は凹型であってもよい。
【0022】
図2に、面発光レーザ100の第1の領域160、第2の領域162、第3の領域165を上方から見た模式図を示す。
第1の領域160、第2の領域162、第3の領域165のそれぞれ少なくとも一部の領域から、それぞれレーザ光が出射され、これらのレーザ光が干渉してFFPを形成する。
【0023】
上部ミラー116の上部境界面142から、基準面144までの光路長は、第1の領域160と第2の領域162で異なっている。すなわち、上記のように、段差構造150は、第1の領域160と第2の領域162とで光学厚さが異なるため、第1の領域160と第2の領域162とで、上部境界面142と基準面144との光路長も異なっている。なお、ここで基準面144とは、面発光レーザの外部に設けられた仮想的な面であり、積層構造体の積層方向に対して垂直な面である。また、図1で面発光レーザ100の置かれている環境の媒質140は空気である。
【0024】
この第1の領域160における光路長と、第2の領域162における光路長との差Lを、例えば(N+1/4)λ<L<(N+3/4)λ (Nは整数)の関係を満たすことで、段差構造150がないときに比べてFFPを大きく変形させることができる。具体的には、FFPの広がり角を広げたり、矩形プロファイルに近づけたりすることができる。Lは例えばλ/2である。
【0025】
第1の領域160と第2の領域162との間に形成されている、第3の領域165において、段差構造150のエッジは傾斜している。
【0026】
第3の領域165であって、段差構造150の上部には、遮光部材155が設けられている。遮光部材155により、段差構造150の傾斜したエッジが存在する領域から出てくる光が、FFPに影響を与える影響を防ぐことができる。すなわち、遮光部材155を設ければ、段差構造のテーパー形状が変動した場合のFFP強度の変動、および、FFP位相の変動を抑制できる。
【0027】
段差構造150のテーパー形状の作製誤差によるFFPへの影響を極力抑えるためには、遮光部材155は、段差構造のエッジ部分も含めた第3の領域165のすべてに設けられていることが好ましい。但し、第3の領域165の一部に遮光部材155が設けられる形態もFFPの変動を抑制できるため、このような構成も本願発明に包含される。
【0028】
遮光部材155は、実質的にレーザ光が透過しないような材料であれば良く、吸収部材であっても良いし、反射部材であっても良い。なお、遮光部材155を金属膜として、上部電極122としての役割を担わせてもよい。
【0029】
遮光部材155による光の散乱を抑えるため、遮光部材155の厚さは、段差構造150の段差の厚さよりも薄いことが好ましい。
【0030】
段差構造150と遮光部材155の屈折率差が20%以下であれば、段差構造150と遮光部材155の間の反射率が1%以下となるため好ましい。例えば、λ=680nmの面発光レーザ100において、段差構造150をSiO2、遮光部材155をAlで形成すれば良い。
【0031】
(作製方法)
面発光レーザ100の作製方法の一例を述べる。
【0032】
半導体の基板110としてGaAs基板110上に、n型半導体からなる下部ミラー112、活性層114、p型半導体からなる上部ミラー116、からなる垂直共振器構造(λ=680nm)をMOCVD法にて形成する。
【0033】
下部ミラー112および上部ミラー116は、低屈折率層であるAl0.9Ga0.1Asと高屈折率層であるAl0.5Ga0.5Asをλ/4厚ずつ交互に積んだ多層膜反射鏡である。例えば、下部ミラー112を70ペアとし、上部ミラー116は35ペアとする。
【0034】
活性層114は、多重量子井戸構造およびクラッド層からなる。多重量子井戸は発振波長λを680nmとすると、GaInP/AlGaInPで構成する。また、クラッド層はAlGaInPで構成する。
【0035】
エッチングにより、直径30μmの円筒状のメサ構造を形成した後、上部ミラー116内の活性層114に近い領域に設けられたAl0.98Ga0.02As層を水蒸気中で酸化することで絶縁化をすると共に、屈折率を低下させ、直径5.2μmの円形状の電流狭窄構造118を形成する。
【0036】
上部ミラー116の表面に、段差構造150が設けられている。段差構造150は半導体または誘電体である。例えば、段差構造150はプラズマCVD法やスパッタ法などにより成膜された屈折率1.5のSiOからなる。第1の領域160は直径3.6μmの円の内側、第2の領域162は直径5.0μmの円の外側である。第1の領域160、第2の領域162の中心は、電流狭窄構造118の中心である光源の光軸136と略同じである。
【0037】
段差構造150の作製方法は以下の通りである。
【0038】
まず、光学厚さ1.5λのSiOを成膜し、第2の領域162に相当する部分をエッチングする。エッチングはウエットエッチングやドライエッチングである。これにより、第3の領域165に傾斜したエッジを持つテーパー形状の構造が形成される。
【0039】
次に全体に0.5λのSiOを成膜する。これにより、第1の領域160に光学厚さ2λ、第2の領域162に光学厚さ0.5λの段差構造150が形成される。この成膜プロセスでもテーパー形状は保持され、第3の領域165には傾斜したエッジが存在する。
【0040】
また段差構造150の別の作製方法として、光学厚さ0.5λのSiOを成膜し、第1の領域160以外の領域にレジストを形成し、1.5λのSiO2を成膜してリフトオフによりレジストを取り除くことで、第1の領域160に光学厚さ2λ、第2の領域162に光学厚さ0.5λの段差構造150が形成される。
【0041】
上記の段差構造150の第3の領域165の上に、例えばリフトオフ法などを利用して、遮光部材155が形成される。図1では段差構造のエッジ部分にも遮光部材155が形成されている。例えば遮光部材155は100nm厚の金属膜であり、例えばAuである。
【0042】
上部ミラー116上にTi/Auからなるp型の上部電極122、および基板110の裏面にAuGe/Auからなるn型の下部電極120を設ける。
【0043】
また、段差構造150が半導体の場合、段差構造は第2の領域162において積層された半導体をエッチングすることにより形成できる。
【0044】
そして、遮光部材155の金属膜を段差構造150の半導体に対してオーミック接触が得られる材料とすることにより、遮光部材155の金属膜を上部電極122とすることもできる。
【0045】
なお、遮光部材155を形成した後に、それを利用して段差構造150を形成することも可能である。例えば、遮光部材155の上から第1の領域160を覆うようにフォトレジストなどを形成し、第2の領域162をエッチングすることで、段差構造150を形成することもできる。
【0046】
(実施形態2)
図3は、本発明の実施例の面発光レーザ102を表す断面模式図である。
【0047】
実施形態2は、実施形態1とは異なり、遮光部材155の上部に段差構造150が形成されているのが特徴である。この場合においても、遮光部材155は第3の領域に設けられている。
【0048】
上部ミラー116上に、内側直径3.7μm、外側直径5.1μmのリング状の金属からなる遮光部材155が形成されている。厚さは例えば100nmである。その上部に、実施例1と同様のSiOからなる段差構造150が形成されている。遮光部材155を上部ミラー116上の水平面上に形成でき、段差構造150により遮光部材155が露出しない点が、実施例1に比べて良い点である。
【0049】
(実施形態3)
図6を用いて、上記で説明した面発光レーザを複数配置した面発光レーザアレイ光源を用いた画像形成装置について説明する。
【0050】
図6(a)は画像形成装置の平面図であり、図6(b)は同装置の側面図である。
【0051】
記録用光源として用いる面発光レーザアレイ光源514から出力されたレーザ光は、コリメータレンズ520を介し、モータ512により回転駆動された回転多面鏡510に向けて照射される。
【0052】
回転多面鏡510に照射されたレーザ光は、回転多面鏡510の回転に伴い、連続的に出射角度を変える偏向ビームとして反射される。この反射光は、f−θレンズ522により歪曲収差の補正等を受け、反射鏡516を経て感光体500に照射される。
【0053】
感光体500は、帯電器502により予め帯電されており、レーザ光の走査により順次露光され、静電潜像が形成される。また、感光体500に形成された静電潜像は、現像器504により現像され、現像された可視像は転写帯電器506により、転写紙に転写される。可視像が転写された転写紙は、定着器508に搬送され、定着を行った後に機外に排出される。
【0054】
(その他の実施形態)
第1の領域160と第2の領域162の配置として、図2のように第1の領域160を第2の領域162が囲んだ例を示したが、本発明はそれに限るものではない。例えば、図4のように第1の領域160と第2の領域162を半円形状とした例において、第3の領域165に遮光部材155を配することができる。すなわち、第2の領域162は、第1の領域160よりも、光出射領域の中心に対して遠ざかる位置に配されていなくてもよい。
【0055】
また、遮光部材155は第3の領域165のすべてに配さず、例えば図5のように一部に配しても良い。
【0056】
また、面発光レーザの材料や形状などは、本発明の範囲内でさまざまなものを取ることができる。
【符号の説明】
【0057】
112 下部ミラー
114 活性層
116 上部ミラー
150 段差構造
155 遮光部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に、下部ミラー、活性層、上部ミラー、を含む積層構造体を有し、波長λで発振する面発光レーザであって、
前記上部ミラーの上部の光出射領域内に設けられ、第1の領域と該第1の領域とは異なる第2の領域との間に段差を有する段差構造を備え、
前記面発光レーザの外部における前記積層構造体の積層方向に対して垂直な基準面と、前記上部ミラーの上部境界面、との間の光路長に関して、
前記第1の領域における前記光路長と、前記第2の領域における前記光路長が異なり、
前記上部ミラーの上部であって、前記第1の領域と前記第2の領域との間の第3の領域に遮光部材が配され、該第1の領域および該第2の領域の一部に該遮光部材が配されていないことを特徴とする面発光レーザ。
【請求項2】
前記第2の領域は、前記第1の領域よりも、前記光出射領域の中心に対して、遠ざかる位置に配されていることを特徴とする請求項1記載の面発光レーザ。
【請求項3】
前記遮光部材が前記第3の領域のすべてに配されていることを特徴とする請求項1記載の面発光レーザ。
【請求項4】
前記遮光部材が前記第3の領域の一部に配されていることを特徴とする請求項1記載の面発光レーザ。
【請求項5】
前記遮光部材の厚さは、前記段差構造の段差の厚さよりも薄いことを特徴とする請求項1記載の面発光レーザ。
【請求項6】
前記遮光部材は、前記段差構造の上部に配されていることを特徴とする請求項1記載の面発光レーザ。
【請求項7】
前記遮光部材は、前記上部ミラーと前記段差構造との間に配されていることを特徴とする請求項1記載の面発光レーザ。
【請求項8】
前記第1の領域における前記光路長と、前記第2の領域における前記光路長との差Lが、以下の関係を満たすことを特徴とする請求項1記載の面発光レーザ。
(N+1/4)λ<L<(N+3/4)λ (Nは整数)
【請求項9】
前記遮光部材は、金属であることを特徴とする請求項1記載の面発光レーザ。
【請求項10】
前記遮光部材と、前記段差構造を形成する材料との屈折率差が、前記段差構造を形成する材料の屈折率の20%以下であることを特徴とする請求項1記載の面発光レーザ。
【請求項11】
請求項1に記載の面発光レーザを複数配置した面発光レーザアレイと、該面発光レーザアレイからの光により静電潜像を形成する感光体と、該感光体を帯電する帯電器と、該静電潜像を現像する現像器と、を有することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−195439(P2012−195439A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58124(P2011−58124)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】