説明

面発光レーザ、画像形成装置

【課題】 モード制御のための反射率制御を行うために設けられた段差構造を備えた面発光レーザにおいて、遠視野光強度分布の拡がり角を改善した面発光レーザを提供する。
【解決手段】 反射率差を付与する第1の段差構造と、遠視野光強度分布を変化させる第2の段差構造とを備える。第1の段差構造の段差を形成する領域と、第2の段差構造の段差を形成する領域とは所定の関係を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光レーザ、および該面発光レーザを用いた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
垂直共振器型の面発光レーザ(VCSEL:Vartical Cavity Surface Emitting Laser)が電子写真方式の画像形成装置において、その走査光学装置の光源として利用されている。この種の走査光学装置では、光源からの出射光を絞りにより整形し、光偏向器(例えばポリゴンミラー)によって被走査面である感光体に照射し潜像を形成する。
【0003】
面発光レーザを画像形成装置の光源として利用する際、感光体における潜像の単峰性および安定性の観点から、面発光レーザは基本横モードのみで発振することが望ましい。特許文献1には、面発光レーザの光出射面に段差構造を設けることにより、単一の横モードで発振させる技術が開示されている。この段差構造は、発光領域の中央部の反射率が周辺部の反射率よりも高くなるように構成されている。基本横モードは高次の横モードよりも光強度が中央部に分布しているため、この段差構造を設けることにより、基本横モードの光を選択的に発振させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−284722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の段差構造は、発光領域の中央部と周辺部とで反射率が異なることを特徴としている。このような段差構造を設けると、反射率のみならず、発光領域の中央部と周辺部とで光の透過率が異なり、また光路長差も異なる。
【0006】
中央部の反射率が周辺部の反射率よりも高い段差構造において、周辺部から透過するレーザ光の強度は、段差構造がないときに比べて高くなり、また、周辺部を透過した光の位相と、中央部を透過した光の位相は異なることになる。この結果、近視野光強度分布は輪帯状に近づくことになる。
【0007】
図9は、このような近視野光強度分布に対応する遠視野光強度分布を示した図である。段差構造が設けられていないときの遠視野光強度分布920と比較して、段差構造が設けられているときの遠視野光強度分布910は、広がり角中央(例:−5°から+5°)における遠視野光強度分布の半値幅が細くなる。このような面発光レーザを画像形成装置の光源として用いる場合は、画像形成装置の走査光学系への取り付け角度(光源の出射面法線と光学系の光軸との軸合わせ)に要求される精度が厳しくなるため好ましくない。
【0008】
そこで、本発明は、横モード制御のための反射率制御を行うために設けられた段差構造を備えた面発光レーザにおいて、遠視野光強度分布の拡がり角を改善した面発光レーザ、および該面発光レーザを用いた画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
基板の上に、下部ミラー、活性層、上部ミラー、を含む積層構造体を有し、波長λで発振する面発光レーザであって、前記上部ミラーの上部の光出射領域内に設けられ、該光出射領域の中央部に配されている第1の領域と、該第1の領域よりも外側に設けられた第2の領域との間に段差を有する第1の段差構造と、前記上部ミラーの上部の前記光出射領域内に設けられ、前記第1の領域よりも外側に設けられた第3の領域と、該第3の領域よりも外側に設けられた第4の領域との間に段差を有する第2の段差構造と、を備え、前記第2の段差構造の段差は、前記第2の領域内に存在し、前記基板に対して垂直に入射する波長λの光について、前記上部ミラーと、前記第1の段差構造と、前記第2の段差構造からなる構造体の反射率は、前記第2の領域の反射率よりも、前記1の領域の反射率が高く、前記第3の領域の透過光と前記第4の領域の透過光の位相差は、前記第1の領域の透過光と前記第2の領域の透過光の位相差よりも大きくなるように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、横モード制御のための反射率制御を行うために設けられた段差構造を備えた面発光レーザにおいて、遠視野光強度分布の拡がり角を改善した面発光レーザ、および該面発光レーザを用いた画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1に係る面発光レーザの断面模式図。
【図2】実施例1に係る面発光レーザが有する第1の段差構造の断面模式図。
【図3】実施例1に係る面発光レーザが有する第2の段差構造の断面模式図。
【図4】実施例2に係る面発光レーザの断面模式図。
【図5】実施例2に係る面発光レーザが有する第1の段差構造の断面模式図。
【図6】実施例2に係る面発光レーザが有する第2の段差構造の断面模式図。
【図7】実施例1に係る面発光レーザの遠視野光強度分布。
【図8】実施例3に係る画像形成装置の模式図。
【図9】段差構造を有する面発光レーザと段差構造を有しない面発光レーザの遠視野光強度分布。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係る面発光レーザにおいては、反射率差を付与する段差構造(第1の段差構造)に加えて、この第1の段差構造の低反射率領域に遠視野光強度分布を変化させるための段差構造(第2の段差構造)を設ける。
【0013】
第1の段差構造は、その段差の境界により光出射領域を第1の領域と第2の領域に分けられている。例えば、第1の領域は光出射領域の中央部にあり、第2の領域は第1の領域の外側である周辺部に配されている。横モード制御のために、第1の領域の反射率は、第2の領域の反射率よりも高い。
【0014】
(第1の段差構造)
第1の段差構造を構成する第1の材料は、発振波長λの光を少なくとも一部透過させる材料で構成されている。
第1の段差構造の光学厚さは、例えば第1の領域においてλ/2であり、第2の領域においてλ/4である。第1の領域の光学厚さと第2の領域の光学厚さの差がλ/4の奇数倍であるとき、2つの領域の反射率差は大きくなる。反射率の制御性の観点からは、光学厚さの差は小さい方が高精度に作製できるため、光学厚さの差はλ/4であることが好ましい。
【0015】
(第2の段差構造)
第2の段差構造は、上部ミラーおよび第1の段差構造の上部、または、上部ミラーと第1の段差構造の間に配置される。
第2の段差構造を構成する第2の材料は、発振波長λの光を少なくとも一部透過させる材料で構成されている。なぜなら、遠視野光強度分布の拡がり角を改善するためには、第2の段差構造の持つ光路長差によって付与された位相の異なる透過光を遠視野にて干渉させる必要があるからである。
【0016】
また、第2の材料は、第1の段差構造を構成する第1の材料とは、発振波長λにおける屈折率が異なるように構成する。これは、第1の段差構造の機能と、第2の段差構造の機能を分離するためである。例えば、第1の材料を半導体で構成した場合、第2の材料は誘電体で構成する。
【0017】
上記のように、第1の段差構造を設けることにより反射率を制御することができるが、遠視野光強度分布の半値幅が細くなってしまう。そこで、補償のため、第1の段差構造よりも透過光に対して位相差を付与するように、第2の段差構造を構成する。なお、これを「領域」という用語を用いると、「第1の領域の透過光と第3の領域の透過光との位相差よりも、第3の領域の透過光と第4の領域の透過光との位相差が大きい」と表現することが可能である。また、スカラー回折近似のもとで、第2の段差構造が近視野で与える位相差(ラジアン)は、段差の光学厚さから実厚さを引いたものをλで除した値とほぼ等しい。そこで、第2の段差構造の段差の「光路長差」から「実厚さ(屈折率を考慮しない厚さ)の差」を引いた値の絶対値を、第1の段差構造の段差の「光路長差」から「実厚さの差」を引いた値の絶対値よりも大きくなるように構成する。これにより、近視野において、第2の段差構造は、第1の段差構造よりも透過光に対して位相差を付与することができるため、大きな波面の歪みを与えることができ、遠視野光強度分布を大きく変形させることができる。なお、このことを「領域」という用語を用いると、「第1の領域と第3の領域との間の光路長差から実厚さの差を引いた値の絶対値よりも、第3の領域と第4の領域との間の光路長差から実厚さの差を引いた値の絶対値が大きい」と表現することが可能である。
【0018】
なお、第2の段差構造の段差の境界内外での透過光の位相差が、π/2よりも大きくなるように設定すれば、両者の干渉が大きくなり、遠視野光強度分布を大きく変形できる。
【0019】
また、遠視野光強度分布の半値幅をより広げるためには、第2の段差構造の段差の境界内外での透過光の位相差をπに近づけることが好ましい。すなわち、第2の段差構造の第3の領域の透過光と第4の領域の透過光の位相差をπに近づけることが好ましい。そこで、第3の領域の透過光と第4の領域の透過光の位相差は、第1の領域の透過光と第3の領域の位相差よりもπに近くなるように構成してもよい。
【実施例1】
【0020】
図1は本発明にかかる面発光レーザ100の断面模式図である。
【0021】
面発光レーザ100は、基板110上に、下部ミラー120、活性層130、上部ミラー140が積層された積層構造体を有する。
【0022】
上部ミラー140と活性層130は一部がエッチングされ、例えば直径30μmの円筒状のメサ構造が形成されている。
【0023】
例えば、基板110は、n型にドープされた厚さ600μmのGaAs基板である。
【0024】
また、下部ミラー120は、n型にドープされたAl0.5Ga0.5As/AlAsからなり、それぞれの材料を光学厚さλ/4ずつ交互に60ペア積層した多層膜反射鏡である。
【0025】
また、活性層130は、共振波長がλとなるように厚さが調整されている。例えば、合計光学厚さが2λの多重量子井戸構造およびクラッド層からなる。多重量子井戸は共振器の腹に置かれGaInP/AlGaInPで構成する。また、クラッド層はAlGaInPで構成する。
【0026】
また、上部ミラー140は、p型にドープされたAl0.5Ga0.5As/Al0.9Ga0.1Asからなり、それぞれの材料を光学厚さλ/4ずつ交互に34ペア積層した多層膜反射鏡である。上部ミラー140の活性層に近い側のAl0.9Ga0.1Asの一部はAl0.98Ga0.02Asで構成されており、メサ構造の側面から酸化され、酸化領域142となっている。酸化領域142は、電流狭窄構造を形成し、例えば直径5μmの円形電流狭窄構造を形成する。
【0027】
上部ミラー140上の光出射領域内に、半導体からなる第1の段差構造160が形成されている。第1の段差構造160は、発光領域の中央部に位置する第1の領域171と周辺部に位置する第2の領域172との間に段差を持つ構造である。第1の領域171と第2の領域172の境界は例えば直径4μmの円で構成されている。
【0028】
また、第1の段差構造160上に、誘電体からなる第2の段差構造162が形成されている。第2の段差構造162は、第3の領域173と第4の領域174との間に段差を持つ構造である。
【0029】
第3の領域173と第4の領域174との境界は、第2の領域内に存在し、例えば直径4.5μmの円である。例えば、酸化領域142、第1の段差構造160、第2の段差構造162の中心は同軸上にある。
【0030】
第1の段差構造160を構成する第1の材料は、第2の段差構造162を構成する第2の材料よりも屈折率が高い。例えば、第1の材料の屈折率は2.5から4.0の間であり、第2の材料の屈折率は1.0から2.5の間である。
【0031】
また、メサ構造の側壁および底面には保護膜として誘電体膜を成膜してもよい。この誘電体膜は第2の段差構造の材料と同じであっても良い。
【0032】
上部ミラー140または第1の段差構造160に接するように、上部電極152が設けられている。上部電極152は例えばTi/Au(厚さ50nm/1000nm)である。
【0033】
上部電極152は、第2の段差構造の第3の領域と第4の領域の境界よりも広い開口を持つ。上部電極152は発光領域上にないことが出力低下を抑えるために好ましい。
【0034】
基板110に接するように下部電極150が設けられている。下部電極150は例えばAuGe/Ni/Au(厚さ150nm/30nm/200nm)である。
【0035】
上部電極および下部電極に電圧が引加され活性層130にキャリアが注入され発光し、面発光レーザ100は発振にいたる。
【0036】
(第1の段差構造)
図2に第1の段差構造160の形状例を示す。図2(a)から(d)のいずれの場合も、上部ミラー、第1の段差構造、第2の段差構造を含む構造体全体において、垂直に入射する波長λの光について、中央部の反射率は周辺部の反射率よりも高くなるように構成される。
【0037】
第1の段差構造160は、凸型であっても凹型であってもよい。
【0038】
図2(a)は凸型の段差構造であり、例えばAl0.5Ga0.5As層202の光学厚さは、第1の領域171(中央部)ではλ/2、第2の領域172(周辺部)ではλ/4である。
【0039】
図2(b)は凹型の段差構造でありであり、例えばAl0.5Ga0.5As層204の光学厚さは、第1の領域171(中央部)ではλ/2、第2の領域172(周辺部)では3λ/4である。
【0040】
また、第1の段差構造160は、図2(c)および(d)に示すように複数の材料から形成されていても良い。
【0041】
図2(c)では、第2の領域172がλ/4厚のAl0.9Ga0.1As層206で構成されているが、第1の領域171はAl0.9Ga0.1As層206とλ/4厚のAl0.5Ga0.5As層208で構成されている。
【0042】
図2(d)では、第1の領域171がλ/4厚のAl0.9Ga0.1As層210とλ/4厚のAl0.5Ga0.5As層212で構成されている。一方、第2の領域172は、これらの層の上部にλ/4厚のAl0.9Ga0.1As層214がさらに形成されることにより構成されている。
【0043】
このように第1の段差構造を複数の材料で構成すれば、単一の材料の場合よりも第1の領域と第2の領域との間の反射率差を大きくすることができる。
【0044】
(第2の段差構造)
図1において、第2の段差構造162は、第3の領域173と第4の領域174とで光学厚さが異なる段差構造であり、第3の領域173は第4の領域174の内側に位置している。また、第3の領域173と第4の領域174との境界は、第2の領域172に位置する。第1の段差構造は反射率制御のために設けられており、高反射率領域である第1の領域171からは光がさほど出射されない。そのため、透過光に対して所望の位相差を与える第2の段差構造の段差(第3の領域173と第4の領域174との境界)は、低反射率領域である第2の領域172内に設ける必要がある。
【0045】
第1の領域171における第2の段差構造162の光学厚さは、例えば第3の領域173と同じ光学厚さとする。
【0046】
図3は、第2の段差構造162の光学厚さを表す模式図である。第2の段差構造162は、遠視野光強度分布を変化させるための段差構造であり、第3の領域173と第4の領域174とで所望の位相差を付与するための構造である。図1に示すように、第2の段差構造162は第1の段差構造160の上部に形成されるため、第2の段差構造162は、第1の段差構造160の第1の領域171と第2の領域172の段差を継承する。この結果、第2の段差構造162においても、第1の領域171と第2の領域172との間で、底面および上面がずれうる。
【0047】
図3(a)に示すように、第2の段差構造162は、誘電体302の光学厚さを第4の領域174よりも第3の領域173の方を大きくした構造にすることができる。また、逆に、図3(b)に示すように、第2の段差構造162は、誘電体304の光学厚さを第4の領域174よりも第3の領域173の方を小さくした構造としても良い。
【0048】
第3の領域173と第4の領域174における第2の段差構造162の光学厚さは、例えばλ/2またはその整数倍である。この場合、第2の段差構造162による反射率の変化を抑えることができる。つまり、反射率差を付与するのは第1の段差構造だけとし、第2の段差構造は遠視野光強度分布を変化させるために用いられる構成とすることにより、設計を簡略化することができる。
【0049】
第3の領域173の光学厚さは、第2の段差構造162および環境媒質において、第3の領域173と第4の領域174との光路長差を大きくし、所望の透過光位相差が得られるようにする。透過光位相差はπ/2を超えるように取ることが好ましい。段差構造がテーパー状となる場合は、さらに位相差が大きくなるように構成する。例えば、透過光位相差が、πまたは3π/2を超えるように構成する。
【0050】
図3(a)に示す第2の段差構造162は、例えば屈折率1.5のSiOからなり、第4の領域174の光学厚さは0.5λ、第3の領域173(第1の領域171)の光学厚さは1.5λから2.0λの間、例えば2.0λである。
【0051】
図3(b)に示す第2の段差構造162は、例えば屈折率1.5のSiOからなり、第4の領域174の光学厚さは、例えば1.5λまたは2.0λであり、第3の領域173(第1の領域171)の光学厚さは、例えば0.5λである。
【0052】
(計算例)
図7に実施例1の面発光レーザ100の遠視野光強度について計算した結果の例を示す。図7のグラフの横軸はレーザ光の広がり角、縦軸は遠視野の光強度であり、光軸方向の強度で規格化している。
【0053】
グラフ中の3つの曲線は、(a)第1の段差構造と第2の段差構造がともに無い場合、(b)第1の段差構造のみある場合、(c)第1の段差構造および第2の段差構造のある場合、を表す。これらの図を比較することにより、第1の段差構造により細くなった遠視野光強度分布を、第2の段差構造によって広げ、また中心付近において光強度分布を平坦にできることがわかる。
【0054】
ここで、λ=680nmで発振する面発光レーザ100には、酸化領域142により直径5.2μmの円形の電流狭窄領域が形成されている。第1の段差構造160は屈折率3.4の半導体で形成されており、その光学厚さは第1の領域171でλ/2、第2の領域172でλ/4である。第1の段差構造は、第1の領域171と第2の領域172の間で16倍の透過率比を与えている。
【0055】
第1の領域171は電流狭窄領域と中心が同軸である直径3.7μmの円形である。
【0056】
第2の段差構造162は屈折率1.5の誘電体で形成されており、その光学厚さは第3の領域173で2λ、第4の領域174でλ/2である。第2の段差構造162は反射率分布を与えないものである。第3の領域173は電流狭窄領域と中心が同軸である直径4.8μmの円形である。
【0057】
(作製方法)
基板110上にMOCVD法などを用いて、下部ミラー120、活性層130、上部ミラー140を成長させる。また、第1の段差構造160となる半導体層を形成する。ドライエッチング法などを用いて、第1の段差構造となる半導体層、上部ミラーおよび活性層をメサ状にエッチングする。第1の領域171または第2の領域172となる領域を所望の厚さだけエッチングし、第1の段差構造160を形成する。なお、メサと第1の段差構造160の形成において、同時にエッチングするセルフアラインメントプロセスを用いても良い。メサの上部および側壁に誘電体をプラズマCVD法などを用いて成膜する。第1の領域171および第3の領域173または第4の領域174となる領域を所望の厚さだけエッチングし、また必要であればメサの上部に誘電体膜をさらに成膜し、第2の段差構造162を形成する。第2の段差構造162の形成においてリフトオフ法を用いても良い。上部電極152と半導体層とがコンタクトできるようにメサ上面の一部の誘電体層をエッチングし、上部電極をリフトオフ法などを用い、電子ビーム蒸着法または抵抗加熱蒸着法などで形成する。また、基板110の下面に下部電極150を同様に形成する。
【実施例2】
【0058】
実施例2の面発光レーザ400は、上部ミラー140上の第1段差構造と第2の段差構造の積層順が実施例1の面発光レーザ100と異なる。また、実施例2の第2の段差構造は半導体で構成されているのに対して、実施例1の第2の段差構造は誘電体で構成されている点が異なる。
【0059】
図4に、面発光レーザ400の断面模式図を示す。面発光レーザ400の上部ミラー140の上には、半導体からなる第2の段差構造462が設けられており、その上部に誘電体からなる第1の段差構造460が設けられている。
【0060】
第1の段差構造460を構成する第1の材料は、第2の段差構造462を構成する第2の材料よりも屈折率が低い。例えば、第1の材料の屈折率は1.0から2.5の間であり、第2の材料の屈折率は2.5から4.0の間である。
【0061】
第1の段差構造460は、実施例1の第1の段差構造160と同様に、第1の領域471の反射率を第2の領域472よりも高くするものである。
【0062】
第2の段差構造462は、実施例1の第2の段差構造162と同様に、第3の領域473と第4の領域474の間で大きな透過光位相差を付与し、遠視野光強度分布を変形させるものである。
【0063】
(第1の段差構造)
図5は、実施例2に係る面発光レーザ400の第1の段差構造460を表す断面模式図である。上記図3と同様に、図5はあくまで模式図である。このため、第2の段差構造462の上に第1の段差構造460を形成する場合、第1の段差構造460の形状は、第2の段差構造462の段差を継承する。この結果、第1の段差構造460においても、第3の領域473と第4の領域474との間で、底面および上面がずれうる。
【0064】
第1の段差構造460の形状としては、例えば図5(a)(c)(e)に示すように凸型としても良いし、または、図5(b)(d)(f)に示すように凹型としても良い。
【0065】
図5(a)において、第1の段差構造460を構成する部材502の光学厚さは、第1の領域471でλ/2、第2の領域472でλ/4である。
【0066】
図5(b)において第1の段差構造460を構成する部材504の光学厚さは、第1の領域471でλ/2、第2の領域472で3λ/4である。
【0067】
図5(c)において、第1の段差構造460は異なる材料の部材506、508から構成されている。光学厚さλ/4の部材506の上部に、第1の領域471にのみ光学厚さλ/4の部材508が形成されている。第1の領域の反射率を第2の領域の反射率より高めるという観点において、部材506の屈折率よりも部材508の屈折率が高いことが好ましい。
【0068】
図5(d)において、第1の段差構造460は異なる材料の部材510、512、514から構成されている。部材510と514は同じでも良い。光学厚さλ/4の部材510の上部に、光学厚さλ/4の部材512が構成されており、さらにその上部に第2の領域472にのみ光学厚さλ/4の部材514が形成されている。第1の領域の反射率を第2の領域の反射率より高めるという観点において、部材510および部材514の屈折率よりも、部材512の屈折率が高いことが好ましい。
【0069】
図5(e)において、第1の段差構造460は異なる材料の部材516、518から構成されている。光学厚さλ/4の部材516が第1の領域のみに構成されており、それを覆って光学厚さλ/4の部材518が第1の領域471および第2の領域472に形成されている。第1の領域の反射率を第2の領域の反射率より高めるという観点において、部材516の屈折率よりも、部材518の屈折率が高いことが好ましい。
【0070】
図5(f)において、第1の段差構造460は異なる材料の部材520、522、524から構成されている。部材520と524は同じでも良い。光学厚さλ/4の部材520が第2の領域472のみに構成されており、それを覆って光学厚さλ/4の部材522および部材524が、第1の領域471および第2の領域472に形成されている。第1の領域の反射率を第2の領域の反射率より高めるという観点において、部材522の屈折率よりも、部材520および524の屈折率が高いことが好ましい。
【0071】
第1の段差構造は誘電体材料、例えば屈折率が約1.5の酸化シリコン、屈折率が約2.0の窒化シリコンなどで構成される。
【0072】
(第2の段差構造)
図6は、実施例2に係る面発光レーザ400の第2の段差構造462を表す断面模式図である。第2の段差構造462は第3の領域473と第4の領域474とで光学厚さが異なる。第2の段差構造462の形状としては、図6(a)に示すように凸型としても良いし、図6(b)に示すように凹型としても良い。
【0073】
第2の段差構造462と、その上部にある第1の段差構造461との界面による反射により、上部ミラー全体の反射率分布に影響を与えないことが好ましい。そのため、第2の段差構造462の光学厚さはλ/2の整数倍で構成されていることが好ましい。
【0074】
図6(a)に示す第2の段差構造462としての部材602の光学厚さは、例えば第3の領域473で2λ、第4の領域474でλ/2である。また、図6(b)に示す第2の段差構造462としての部材604の光学厚さは、例えば第3の領域473でλ/2、第4の領域474で2λである。
【0075】
第2の段差構造462は、単一材料でも良いし、複数の材料からなっていても良い。第2の段差構造は半導体材料、例えばAlGaAsなどで構成される。これらをエッチングで形成するために、エッチングを止める界面に例えばGaAsやAlGaInPなどのエッチングストップ層を挿入することもできる。
【0076】
実施例2に係る面発光レーザ400は、実施例1に係る面発光レーザ100よりも第2の段差構造の実厚さが抑えられ、面発光レーザの作製精度を上げられることが挙げられる。すなわち、第2の段差構造は透過光に大きな位相差を付与することを目的とするため、光路長差から実厚さの差を引いた値の絶対値を大きくとる必要がある。したがって、第2の段差構造が屈折率の高い材料で構成されていることが実厚さを抑えられる点で好ましい。すなわち、この点において、第2の段差構造が半導体で構成されている実施例2に係る面発光レーザは、第2の段差構造が誘電体で構成されている実施例1に係る面発光レーザより優れている。
【0077】
また、半導体による段差構造は、酸化領域の中心との水平方向の一致が取りやすいというメリットがある。メサエッチング形成の際にセルフアラインメントプロセスを用いて半導体の段差構造を形成できるからである。したがって、段差と酸化領域の中心位置ずれが遠視野に大きな影響を与える第2の段差構造の材料としては、半導体が好ましい。
【0078】
一方、誘電体による段差構造は、既にある段差上に制御された厚さの膜を成膜できるため、図5の(e)や(f)のように反射率差を大きく取れる構造を形成可能である。すなわち、第2の段差構造の上に形成された第1の段差構造の材料として誘電体を用いることができる。
【0079】
なお、第1の段差構造や第2の段差構造の材料・構造は、上記実施例1および2に限るものではなく、本発明の範囲内でさまざまな変更が可能である。
【実施例3】
【0080】
図8を用いて、上記で説明した面発光レーザを複数配置した面発光レーザアレイ光源を用いた画像形成装置について説明する。
【0081】
図8(a)は画像形成装置の平面図であり、図8(b)は同装置の側面図である。
【0082】
記録用光源として用いる面発光レーザアレイ光源814から出力されたレーザ光は、副走査絞り832、コリメータレンズ820、シリンドリカルレンズ821、主走査絞り830を介し、モータ812により回転駆動された回転多面鏡810に向けて照射される。
【0083】
回転多面鏡810に照射されたレーザ光は、回転多面鏡810の回転に伴い、連続的に出射角度を変える偏向ビームとして反射される。この反射光は、f−θレンズ822により歪曲収差の補正等を受け、反射鏡816を経て感光体800に照射される。
【0084】
感光体800は、帯電器802により予め帯電されており、レーザ光の走査により順次露光され、静電潜像が形成される。また、感光体800に形成された静電潜像は、現像器804により現像され、現像された可視像は転写帯電器806により、転写紙に転写される。可視像が転写された転写紙は、定着器808に搬送され、定着を行った後に機外に排出される。
【0085】
なお、本明細書中の面発光レーザや面発光レーザアレイは、ディスプレイなどの他の光学機器や、医用機器の光源として用いてもよい。
【符号の説明】
【0086】
140 上部ミラー
160、460 第1の段差構造
162、462 第2の段差構造
171、471 第1の領域
172、472 第2の領域
173、473 第3の領域
174、474 第4の領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に、下部ミラー、活性層、上部ミラー、を含む積層構造体を有し、波長λで発振する面発光レーザであって、
前記上部ミラーの上部の光出射領域内に設けられ、該光出射領域の中央部に配されている第1の領域と、該第1の領域よりも外側に設けられた第2の領域との間に段差を有する第1の段差構造と、
前記上部ミラーの上部の前記光出射領域内に設けられ、前記第1の領域よりも外側に設けられた第3の領域と、該第3の領域よりも外側に設けられた第4の領域との間に段差を有する第2の段差構造と、を備え、
前記第2の段差構造の段差は、前記第2の領域内に存在し、
前記基板に対して垂直に入射する波長λの光について、前記上部ミラーと、前記第1の段差構造と、前記第2の段差構造からなる構造体の反射率は、前記第2の領域の反射率よりも、前記1の領域の反射率が高く、
前記第3の領域の透過光と前記第4の領域の透過光の位相差は、前記第1の領域の透過光と前記第3の領域の透過光の位相差よりも大きくなるように構成されていることを特徴とする面発光レーザ。
【請求項2】
前記第3の領域と前記第4の領域との間の光路長差から実厚さの差を引いた値の絶対値は、前記第1の領域と前記第3の領域との間の光路長差から実厚さの差を引いた値の絶対値よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の面発光レーザ。
【請求項3】
前記第1の段差構造は、波長λの光の少なくとも一部が透過する第1の材料からなり、前記第2の段差構造は、波長λの光の少なくとも一部が透過する第2の材料からなることを特徴とする請求項1に記載の面発光レーザ。
【請求項4】
前記第1の材料と第2の材料とは屈折率が異なることを特徴とする請求項3に記載の面発光レーザ。
【請求項5】
前記第1の材料は半導体であり、前記第2の材料は誘電体であることを特徴とする請求項3に記載の面発光レーザ。
【請求項6】
前記第1の材料は誘電体であり、前記第2の材料は半導体であることを特徴とする請求項3に記載の面発光レーザ。
【請求項7】
前記半導体は、AlGaAsであることを特徴とする請求項5に記載の面発光レーザ。
【請求項8】
前記誘電体は、酸化シリコン、または、窒化シリコンからなることを特徴とする請求項5に記載の面発光レーザ。
【請求項9】
前記第1の段差構造において、前記第1の領域の光学厚さと、前記第2の領域の光学厚さの差はλ/4の奇数倍であることを特徴とする請求項1に記載の面発光レーザ。
【請求項10】
前記第1の段差構造において、前記第1の領域の光学厚さと、前記第2の領域の光学厚さの差はλ/4であることを特徴とする請求項9に記載の面発光レーザ。
【請求項11】
前記第3の領域の透過光と前記第4の領域の透過光との位相差がπ/2よりも大きくなるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の面発光レーザ。
【請求項12】
前記第3の領域の透過光と前記第4の領域の透過光の位相差が、π/2より大きく、3π/2より小さいことを特徴とする請求項1に記載の面発光レーザ。
【請求項13】
前記第3の領域の透過光と前記第4の領域の透過光の位相差は、πであることを特徴とする請求項1に記載の面発光レーザ。
【請求項14】
請求項1に記載の面発光レーザを複数配置した面発光レーザアレイと、該面発光レーザアレイからの光により静電潜像を形成する感光体と、該感光体を帯電する帯電器と、該静電潜像を現像する現像器と、を有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項15】
基板の上に、下部ミラー、活性層、上部ミラー、を含む積層構造体を有し、波長λで発振する面発光レーザであって、
前記上部ミラーの上部の光出射領域内に設けられ、該光出射領域の中央部に配されている第1の領域と、該第1の領域よりも外側に設けられた第2の領域との間に段差を有する第1の段差構造と、
前記上部ミラーの上部の前記光出射領域内に設けられ、前記第1の領域よりも外側に設けられた第3の領域と、該第3の領域よりも外側に設けられた第4の領域との間に段差を有する第2の段差構造と、を備え、
前記第2の段差構造の段差は、前記第2の領域内に存在し、
前記基板に対して垂直に入射する波長λの光について、前記上部ミラーと、前記第1の段差構造と、前記第2の段差構造からなる構造体の反射率は、前記第2の領域の反射率よりも、前記1の領域の反射率が高く、
前記第3の領域の透過光と前記第4の領域の透過光の位相差は、前記第1の領域の透過光と前記第3の領域の透過光の位相差よりも、πに近くなるように構成されていることを特徴とする面発光レーザ。
【請求項16】
前記第1の段差構造において、前記第1の領域の光学厚さと、前記第2の領域の光学厚さの差はλ/4の奇数倍であることを特徴とする請求項15に記載の面発光レーザ。
【請求項17】
前記第3の領域の透過光と前記第4の領域の透過光の位相差は、π/2より大きく、3π/2より小さいことを特徴とする請求項15に記載の面発光レーザ。
【請求項18】
前記第3の領域の透過光と前記第4の領域の透過光の位相差は、πであることを特徴とする請求項15に記載の面発光レーザ。
【請求項19】
請求項15に記載の面発光レーザを複数配置した面発光レーザアレイと、該面発光レーザアレイからの光により静電潜像を形成する感光体と、該感光体を帯電する帯電器と、該静電潜像を現像する現像器と、を有することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−84909(P2013−84909A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−172011(P2012−172011)
【出願日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】