説明

鞍乗り型車両

【課題】互いに別軸の一対のメインシャフト及びクラッチを有するツインクラッチ式トランスミッションを備えたパワーユニットを搭載する鞍乗り型車両において、コンパクトな軸配置を可能にしてユニット及びその周辺の小型化を図る。
【解決手段】第一メインシャフト31の軸中心(第一メイン軸線C3)がクランクシャフト21の軸中心(クランク軸線C2)よりも後方かつカウンタシャフト35の軸中心(カウンタ軸線C5)よりも前方に配置され、第二メインシャフト32の軸中心(第二メイン軸線C4)がカウンタシャフト35の軸中心(カウンタ軸線C5)よりも後方かつピボット軸27の軸中心(ピボット軸線C7)よりも前方に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに別軸のメインシャフト及びクラッチを有するツインクラッチ式トランスミッションを備えたパワーユニットを搭載する鞍乗り型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、相互に平行に配置される一対のメインシャフトと、それらのメインシャフトと平行な軸線を有するカウンタシャフトとの間に、選択的に確立される複数変速段のギヤ列を備えると共に、前記一対のメインシャフトには、クランクシャフトからの動力伝達を断・接するクラッチをそれぞれ同軸に備えたツインクラッチ式トランスミッションを具備する車両用パワーユニットが知られている(例えば、特許文献1参照。)。これは、一対のクラッチを同軸に重ねて配置する場合と比べて、パワーユニットの軸方向幅の増加を抑える点で有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−303939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来技術の如く一対の別軸のメインシャフト及びクラッチを持つものは、各メインシャフト及び各クラッチを同一軸線上に持つものと比べて、各シャフトの配置スペースが増大する傾向にあるため、自動二輪車等の小型車両(鞍乗り型車両)のパワーユニットとして用いる場合には車体サイズに影響するという課題がある。
また、自動二輪車等の鞍乗り型車両においては、クランクケースの後方にてスイングアームの前部がピボット軸を介して上下にスイング可能に取り付けられ、その後部に駆動輪たる後輪が軸支されているが、二つのメインシャフトを持つパワーユニットはクランクシャフトからピボット軸までの距離が長くなり易く、かつこれを防ぐためにメインシャフトの一方を上側、他方を下側に寄せて配置すると周辺部品の配置自由度を低下させるという課題がある。
【0005】
そこで本発明は、互いに別軸の一対のメインシャフト及びクラッチを有するツインクラッチ式トランスミッションを備えたパワーユニットを搭載する鞍乗り型車両において、コンパクトな軸配置を可能にしてユニット及びその周辺の小型化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決手段として、請求項1に記載した発明は、
クランクシャフト(21)と、前記クランクシャフト(21)側から順に配置される第一及び第二メインシャフト(31,32)と、前記各メインシャフト(31,32)に跨って係合する単一のカウンタシャフト(35)と、前記クランクシャフト(21)、前記各メインシャフト(31,32)及び前記カウンタシャフト(35)を相互に平行かつ回転自在に支承するクランクケース(14)と、前記各メインシャフト(31,32)の一端部にそれぞれ配設されて前記クランクシャフト(21)から前記各メインシャフト(31,32)への回転動力の伝達を個別に断・接する第一及び第二クラッチ(33,34)と、前記各メインシャフト(31,32)と前記カウンタシャフト(35)とにあり前記各シャフト(31,32,35)と平行なシフトドラム(52)の回転によって選択的に確立される複数変速段のギヤ列と(36a,36c,36e,37b,37d,37f)、を具備し、前記各クラッチ(33,34)の持ち替えにより変速段の切り替えを行うと共に、前記カウンタシャフト(35)の前記クランクケース(14)からの突出端部から駆動輪(11)へ動力を伝達するパワーユニット(10)を備えると共に、
後部に前記駆動輪(11)を支持するスイングアーム(9)と、前記クランクケース(14)の後方で前記各シャフト(31,32,35)と平行をなして前記スイングアーム(9)の前部を上下揺動可能に支持するピボット軸(27)とを備える鞍乗り型車両(1)において、
前記第一メインシャフト(31)の軸中心(C3)が前記クランクシャフト(21)の軸中心(C2)よりも後方かつ前記カウンタシャフト(35)の軸中心(C5)よりも前方に配置され、前記第二メインシャフト(32)の軸中心(C4)が前記カウンタシャフト(35)の軸中心(C5)よりも後方かつ前記ピボット軸(27)の軸中心(C7)よりも前方に配置されることを特徴とする。
なお、前記鞍乗り型車両には、運転者が車体を跨いで乗車する車両全般が含まれ、自動二輪車(スクータ型車両を含む)のみならず、三輪(前一輪かつ後二輪の他に、前二輪かつ後一輪の車両も含む)又は四輪の車両も含まれる。
請求項2に記載した発明は、
前記第一メインシャフト(31)の軸中心(C3)が前記クランクシャフト(21)及び前記ピボット軸の各軸中心(C2,C7)よりも下方に配置され、前記第二メインシャフト(32)の軸中心(C4)が前記クランクシャフト(21)及びピボット軸(27)の各軸中心(C2,C7)よりも上方に配置されることを特徴とする。
請求項3に記載した発明は、
前記カウンタシャフト(35)の軸中心(C5)が前記ピボット軸(27)の軸中心(C7)よりも上方に配置されることを特徴とする。
請求項4に記載した発明は、
前記各シャフト(31,32,35)は、後方に行くに従い上方に位置するように配置されることを特徴とする。
請求項5に記載した発明は、
前記クランクケース(14)の後部における前記第二クラッチ(34)の収容部分の少なくとも一部が、前記ピボット軸(27)の上方に配置されることを特徴とする。
請求項6に記載した発明は、
前記第二クラッチ(34)の少なくとも一部が、前記ピボット軸(27)の上方に配置されることを特徴とする。
請求項7に記載した発明は、
前記第二クラッチ(34)の外径の少なくとも一部が、前記カウンタシャフト(35)の軸中心(C5)よりも前方に配置されることを特徴とする。
請求項8に記載した発明は、
前記クランクシャフト(14)の軸中心(C2)と前記ピボット軸(27)の軸中心(C7)とを結んだライン(BL)に対して、前記各メインシャフト(31,32)の各軸中心(C3,C4)の一方(C4)が上方、他方(C3)が下方にそれぞれ配置され、
前記各クラッチ(33,34)が、少なくとも一部同士を上下に重ねるように配置されることを特徴とする。
請求項9に記載した発明は、
前記シフトドラム(52)が、前記第一クラッチ(33)の上方かつ前記第二クラッチ(34)の前方に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載した発明によれば、一対のメインシャフト及びクラッチを有するパワーユニットにおいて、各メインシャフト及び各クラッチを前後に振り分けてクランクケースの高さ寸法を抑えることが可能となり、クランクケース上方に吸気系等の配置スペースを確保し易く、かつクランクケース下方への張り出しを抑えることができる。
請求項2に記載した発明によれば、クランクシャフト及びピボット軸の間で各メインシャフト及び各クラッチを上下に振り分けて配置でき、クランクシャフトからピボット軸までの距離を短縮してパワーユニット周辺(ひいては完成車の車体)を前後方向でコンパクトに形成できる。
請求項3に記載した発明によれば、カウンタシャフトからユニット外方に動力を取り出す際にも、その出力部とピボット軸とを近付け易く、スイングアームの揺動量の確保を容易にできる。
請求項4〜6に記載した発明によれば、クランクケースの後部でクランクシャフトと同等の高さにピボット軸を配置し易くすることができる。
請求項7に記載した発明によれば、第二クラッチをカウンタシャフト側に寄せて配置することで、クランクケースの前後長さを抑えることができる。
請求項8に記載した発明によれば、各クラッチの収容空間ひいてはクランクケースの前後長を短縮することができ、かつクランクシャフトからピボット軸までの距離を短縮することができる。
請求項9に記載した発明によれば、上下に変位した各クラッチとシフトドラムとをコンパクトに配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態における自動二輪車の右側面図である。
【図2】上記自動二輪車のパワーユニットの右側面図である。
【図3】上記パワーユニットのクランクシャフト及び第一メインシャフト周辺の軸線と平行な断面図である。
【図4】上記パワーユニットの第二メインシャフト周辺の軸線と平行な断面図である。
【図5】上記パワーユニットのクラッチアクチュエータを含む右側面図である。
【図6】図5のS6−S6断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明における前後左右等の向きは、特に記載が無ければ以下に説明する車両における向きと同一とする。また以下の説明に用いる図中適所には、車両前方を示す矢印FR、車両左方を示す矢印LH、車両上方を示す矢印UPが示されている。
【0010】
図1に示す自動二輪車(鞍乗り型車両)1において、その前輪2を軸支するフロントフォーク3の上部は、ステアリングステム4を介して車体フレーム5の前端部のヘッドパイプ6に操舵可能に枢支される。ヘッドパイプ6からはメインフレーム7が斜め下後方に延び、このメインフレーム7の後端部にピボットフレーム8の上端部が接続される。ピボットフレーム8の上下中間部にはスイングアーム9の前端部が上下揺動可能に枢支され、このスイングアーム9の後端部には後輪11が軸支される。スイングアーム9の前部と車体フレーム5の後部との間にはクッションユニット12が介設される。なお、図中符号27はスイングアーム9の揺動軸であるピボット軸を、符号7aはメインフレーム7の前部下側から斜め下後方に延びるダウンフレームを、符号7bはダウンフレーム7aの先端部に取り付けられたハンガーブラケットをそれぞれ示す。
【0011】
車体フレーム5には、自動二輪車1の動力機関であるパワーユニット10が搭載される。
図2を併せて参照し、パワーユニット10は、その前部を構成する空冷単気筒エンジン(以下、単にエンジンという)13と、その後方に連なるツインクラッチ式トランスミッション(以下、単にトランスミッションという)23とを一体的に有する。
【0012】
エンジン13は、そのクランクケース14上にシリンダ15を、鉛直方向に対して前傾した起立姿勢に設けた基本構成を有する。なお、図中符号C1はシリンダ15の起立方向に沿うシリンダ軸線を示す。パワーユニット10は、クランクケース14の前端部の上下がダウンフレーム7a及びハンガーブラケット7bの下端部にそれぞれボルト締結等により取り付けられ、クランクケース14の後端部の上下がピボットフレーム8の上下にそれぞれボルト締結等により取り付けられることで、車体フレーム5に固定的に支持される。なお、図中符号M1,M2はクランクケース14前端部上下の前フレーム固定部を、符号M3,M4はクランクケース14後端部上下の後フレーム固定部をそれぞれ示す。
【0013】
シリンダ15は、クランクケース14側から順にシリンダ本体16、シリンダヘッド17及びヘッドカバー17a(図5参照)を有する。シリンダヘッド17の後部(吸気側)には吸気系部品が、シリンダヘッド17の前部(排気側)には排気系部品がそれぞれ接続される(何れも不図示)。
シリンダ本体16内には、シリンダ軸線C1に沿って往復動するピストン18が嵌装され、このピストン18の往復動が、コネクティングロッド19を介してクランクシャフト21の回転動に変換される。
【0014】
図2,3に示すように、クランクシャフト21は、クランクピン21aを支持する左右一対のクランクウェブ21bと、これら左右クランクウェブ21bから左右外側に突出する左右ジャーナル部21cと、これら左右ジャーナル部21cからさらに左右外側に延出する左右支持軸21dとを有する。左支持軸21dには不図示のオルタネータのロータが一体回転可能に支持される。右支持軸21dには、トランスミッション23への動力伝達用のプライマリドライブギヤ22が一体回転可能に支持される。
【0015】
なお、図3中符号C2はクランクシャフト21(左右ジャーナル部21c)における左右方向に沿う回転中心軸線(クランク軸線)を、符号24は左右ジャーナル部21cをクランクケース14の左右側壁部14aに回転自在に支持する左右ラジアルボールベアリングを、符号25は左クランクウェブ21bと左ジャーナル部21cとの間でこれらと一体回転可能に支持されるオイルポンプドライブギヤを、符号26は右ジャーナル部21cとプライマリドライブギヤ22との間でこれらと一体回転可能に支持されるカムドライブスプロケットをそれぞれ示す。
【0016】
また、図2中符号27はスイングアーム9の前端部を支持する左右方向に沿うピボット軸を、符号C7はピボット軸27における左右方向に沿う揺動中心軸線(ピボット軸線)を、符号28はクランクケース14内でクランクシャフト21の下方に配設されたオイルポンプを、符号29はクランクケース14の前端部下側に取り付けられたスタータモータをそれぞれ示す。
【0017】
図2を参照し、クランクケース14の後部内には、エンジン13と駆動輪との間の動力伝達経路中に設けられるトランスミッション23、及びこのトランスミッション23の変速段を切り替えるチェンジ機構51が収納される。クランクシャフト21の回転動力は、トランスミッション23を介してクランクケース14の後部左側に出力された後、例えばチェーン式の伝動機構を介して後輪11に伝達される。
【0018】
図3,4を併せて参照し、トランスミッション23は、互いに平行かつ別軸をなして左右方向に沿って延在する第一及び第二メインシャフト31,32と、各メインシャフト31,32の右端部にそれぞれ同軸支持される第一及び第二クラッチ33,34と、各メインシャフト31,32と平行かつ別軸をなして左右方向に沿って延在する単一のカウンタシャフト35と、第一メインシャフト31及びカウンタシャフト35に跨って設けられる第一変速ギヤ群36と、第二メインシャフト32及びカウンタシャフト35に跨って設けられる第二変速ギヤ群37とを有する。第一変速ギヤ群36は奇数変速段用の複数のギヤ列(ギヤ対)からなり、第二変速ギヤ群37は偶数変速段用の複数のギヤ列(ギヤ対)からなる。なお、図中符号C3,C4,C5は各メインシャフト31,32及びカウンタシャフト35における左右方向に沿う回転中心軸線(第一メイン軸線、第二メイン軸線、カウンタ軸線)をそれぞれ示す。
【0019】
トランスミッション23は、前記各ギヤ列の何れかを選択的に用いた動力伝達が可能であり、変速段一定の通常運転時には、前記各クラッチ33,34の一方を接続状態とすると共に他方を切断状態とし、前記接続状態にあるクラッチに連結されたギヤ列の何れかを用いて動力伝達を行うと共に、前記切断状態にあるクラッチに連結されたギヤ列の中から予め選定したギヤ列を用いての動力伝達が可能な状態を作り出し、この状態から前記接続状態にあるクラッチを切断状態とすると共に前記切断状態にあるクラッチを接続状態とすることで(各クラッチ33,34を持ち替えることで)、奇数変速段及び偶数変速段間の変速段を切り替える。
【0020】
図3,4を参照し、各クラッチ33,34は、その軸方向で交互に重なる複数のクラッチ板41を有する湿式多板クラッチであり、クランクケース14の右側部内(クラッチ室14c内)に収納される。なお、図中符号14bはクラッチ室14cを覆うクラッチカバーを示す。
【0021】
各クラッチ33,34は、それぞれ個別のクラッチアクチュエータ57,58(図5,6参照)から受ける押圧力により各クラッチ板41を摩擦係合させる機械式とされる。なお、図示都合上、図3,4ではクラッチアクチュエータ57,58の図示を略す。
【0022】
各クラッチ33,34は、側面視で互いにラップしないように配置されることで、パワーユニット10の左右幅を抑えている(図2参照)。各クラッチ33,34は、側面視でクランクシャフト21のジャーナル部21cやピボット軸27を避けるように配置されている。各クラッチ33,34は、エンジンオイルの掻き上げを抑えるべく極力高位置に配置されている。
【0023】
クランクケース14の後部に位置する第二クラッチ34は、その斜め下後方にピボット軸27を配置可能とし、かつユニット全体の前後長を抑えるために、カウンタシャフト35に対して大きく上方に変位し、かつ前端部がカウンタシャフト35の軸線C5よりも前方に位置するように配置される。ピボット軸27の上方には、クランクケース14の後部における第二クラッチ34を収容する部位が第二クラッチ34と共に張り出している。
【0024】
第一クラッチ33の後部と第二クラッチ34の前部とは、前後方向位置を互いにラップさせており、第一クラッチ33の上部と第二クラッチ34の下部とは、上下方向位置を互いにラップさせている。
また、第二クラッチ34の後部とピボット軸27の前部とは、前後方向位置を互いにラップさせており、第二クラッチ34の下部とピボット軸27の上部とは、上下方向位置を互いにラップさせている。
【0025】
トランスミッション23は、各変速段に対応する駆動ギヤと従動ギヤとが常に噛み合った常時噛み合い式とされる。各ギヤは、自身を支持するシャフトに対して相対回転自在なフリーギヤと、前記シャフトに対してスプライン嵌合するスライドギヤとに大別される。各ギヤは、前記チェンジ機構51の作動により前記スライドギヤを軸方向移動させることで、何れかの変速段に応じたギヤ列を用いた動力伝達に切り替わる。
【0026】
図2を参照し、第一メインシャフト31は、その軸線C3がクランク軸線C2の後方かつやや下方に位置するように配置される。詳細には、第一メイン軸線C3は、側面視でクランク軸線C2とピボット軸線C7とを結ぶ略水平な基準直線BLよりも下方であって、この基準直線BLに自身の上端部を交差させるまで近接して配置される。
【0027】
第二メインシャフト32は、その軸線C4が第一メイン軸線C3の斜め後上方に位置すると共に、ピボット軸線C7の斜め前上方に位置するように配置される。詳細には、第二メイン軸線C4は、側面視で基準直線BLよりも上方であって、第二クラッチ34の外形線を基準直線BLから離間させる高さに配置される。
【0028】
カウンタシャフト35は、その軸線C5が第一メイン軸線C3の後方かつやや上方に位置するように配置される。詳細には、カウンタ軸線C5は、側面視で基準直線BLよりも上方であって、この基準直線BLに自身の下端部を交差させるまで近接して配置される。
【0029】
カウンタ軸線C5は、側面視で各メイン軸線C3,C4同士を結んだ後上がりの傾斜線SLよりもその直交方向で下方に位置するように配置される。各シャフト31,32,35は、クランクシャフト21から後方に向けて、第一メインシャフト31、カウンタシャフト35及び第二メインシャフト32の順に配置され、かつクランクシャフト21から後方に離間するほど上方に位置するように配置される。なお、図中符号VSLは側面視でカウンタ軸線C5を通り傾斜線SLと直交する傾斜直交線を示す。この傾斜直交線VSLは傾斜線SLの垂直二等分線に相当する。
【0030】
このように、クランクシャフト21から後方に離間してクランクケース14の後部に配置される第二メインシャフト32及び第二クラッチ34を比較的高位置に配置することで、ピボット軸27をクランクシャフト21と同等の上下方向位置でクランクケース14の後方下側に配置可能とし、かつピボット軸27を可及的に前方(クランクシャフト21側)に配置すること(すなわち、ピボット軸27とクランクシャフト21との軸間距離を短縮すること)が可能となる。
【0031】
ここで、側面視でピボット軸線C7とカウンタ軸線C5とを結んだ後下がりの第二傾斜線SL2に対し、第一メイン軸線C3は下方、第二メイン軸線C4は上方にそれぞれ配置される。同様に、側面視でクランク軸線C2とカウンタ軸線C5とを結んだ後上がりの第三傾斜線SL3に対し、第一メイン軸線C3は下方、第二メイン軸線C4は上方にそれぞれ配置される。
第一メインシャフト31の上方かつ第二メインシャフト32の前方には、前記チェンジ機構51のシフトドラム52が配置される。
【0032】
チェンジ機構51は、各シャフト31,32,35と平行な中空円筒状のシフトドラム52と、このシフトドラム52の外周に形成された四本のリード溝(不図示)にそれぞれ係合する四つのシフトフォーク53a〜53dとを有する。各シフトフォーク53a〜53dは、シフトドラム52の回転により前記各リード溝のパターンに応じて個別に軸方向移動し、トランスミッション23の後述する各シフタ40a〜40dを個別に軸方向移動させる。これにより、トランスミッション23における各メインシャフト31,32の一方とカウンタシャフト35との間の動力伝達に用いるギヤが適宜選択される(動力伝達要素として確立される)。
【0033】
なお、図中符号C6はシフトドラム52における左右方向に沿う回転中心軸線(ドラム軸線)を示す。ドラム軸線C6は、側面視で前記傾斜線SLよりもその直交方向で上方に位置するように配置される。ドラム軸線C6は、カウンタ軸線C5と共に側面視で前記傾斜直交線VSL上に位置する。ドラム軸線C6は、カウンタ軸線C5よりも傾斜線SLから離間する。各シフトフォーク53a〜53dは、側面視で傾斜直交線VSLに関して概ね線対称に設けられている。
【0034】
図3を参照し、第一メインシャフト31の左端部は、左ラジアルニードルベアリング55aを介してクランクケース14の左側壁部14aに回転自在に支持され、第一メインシャフト31の右端部は、右ラジアルボールベアリング55bを介してクランクケース14の右側壁部14aに回転自在に支持される。第一メインシャフト31における右ラジアルボールベアリング55bよりも右方への延出部分には、第一クラッチ33が同軸支持される。
【0035】
図4を参照し、第二メインシャフト32の左端部は、左ラジアルニードルベアリング56aを介してクランクケース14の左側壁部14aに回転自在に支持され、第二メインシャフト32の右端部は、右ラジアルボールベアリング56bを介してクランクケース14の右側壁部14aに回転自在に支持される。第二メインシャフト32における右ラジアルボールベアリング56bよりも右方への延出部分には、第二クラッチ34が同軸支持される。
【0036】
図3を参照し、第一クラッチ33は、第一メインシャフト31と同軸の有底円筒状をなすと共に第一メインシャフト31に相対回転自在に支持されてクランクシャフト21との間で常時回転動力の伝達を行うクラッチアウタ42と、クラッチアウタ42と同様の有底円筒状をなしてその内周側に同軸配置されると共に第一メインシャフト31に一体回転可能に支持されるクラッチインナ43と、クラッチアウタ42及びクラッチインナ43の各円筒壁間で軸方向に積層される前記複数のクラッチ板41と、クラッチインナ43の開放側に同軸配置されて前記積層された各クラッチ板41(以下、クラッチ板群41ということがある)を左方に押圧するプレッシャーユニット44とを有する。
【0037】
クラッチアウタ42の底壁の左側には、この底壁よりも大径の大径伝動ギヤ(プライマリドリブンギヤ)45がダンパー45aを介して取り付けられる。大径伝動ギヤ45には、クランクシャフト21の右端部に設けられた前記プライマリドライブギヤ22が噛み合う。大径伝動ギヤ45の内周側の左方には、比較的小径の小径伝動ギヤ46が一体形成される。小径伝動ギヤ46には、カウンタギヤの右端部に回転自在に支持されたアイドルギヤ47が噛み合う。アイドルギヤ47には、後述の第二クラッチ34の大径伝動ギヤ45も噛み合っている。
【0038】
クラッチアウタ42の円筒壁の内周側には、各クラッチ板41におけるクラッチアウタ42に支持されるもの(クラッチディスク41a)が一体回転可能かつ軸方向移動可能に支持される。クラッチインナ43の円筒壁の外周側には、各クラッチ板41におけるクラッチインナ43に支持されるもの(クラッチプレート41b)が一体回転可能かつ軸方向移動可能に支持される。クラッチインナ43の底壁外周には、左押圧フランジ43aが一体形成され、この左押圧フランジ43aが、クラッチ板群41の左側面の左方に隣接する。
【0039】
一方、クラッチ板群41の右側面の右方には、プレッシャーユニット44の右押圧フランジ44aが隣接し、この右押圧フランジ44aが、後述するクラッチアクチュエータ57,58の作動により左方に移動する。これにより、左右押圧フランジ43a,44a間でクラッチ板群41が挟圧されて一体的に摩擦係合し、クラッチアウタ42及びクラッチインナ43間でトルク伝達が可能なクラッチ接続状態となる。一方、右押圧フランジ44aが右方に移動することで、前記摩擦係合が解除されて前記トルク伝達が不能となったクラッチ切断状態となる。
【0040】
プレッシャーユニット44は、クラッチインナ43と一体回転可能な前記右押圧フランジ44aと、この右押圧フランジ44aの右端部内周に配置されてクラッチスプリング48を介して右押圧フランジ44aを左方に押圧可能な押圧リング44bと、押圧リング44bの内周にラジアルボールベアリング44dを介して相対回転自在に係合すると共に押圧リング44bを左方に押圧可能な押圧キャップ44cとを有する。
【0041】
押圧キャップ44cの右方には、後述するクラッチアクチュエータ57,58の回動軸59a(カム軸)が配置され、この回動軸59aが押圧キャップ44c,押圧リング44b及び右押圧フランジ44aを左方に押圧することで、クラッチ板群41を摩擦係合させる。一方、前記押圧が解除されると、右押圧フランジ44aとクラッチインナ43との間に設けたリターンスプリング49の作用により右押圧フランジ44aが右方に移動し、前記摩擦係合を解除する。
【0042】
なお、第二クラッチ34も第一クラッチ33と同様の構成を有しており(図4参照)、同一部分に同一符号を付してその詳細説明は省略する。
【0043】
図2〜4を参照し、第一クラッチ33のクラッチアウタ42には、その大径伝動ギヤ45にプライマリドライブギヤ22(クランクシャフト21)から回転動力が入力される。
一方、第二クラッチ34のクラッチアウタ42には、クランクシャフト21の回転動力がプライマリドライブギヤ22、第一クラッチ33の大径伝動ギヤ45、第一クラッチ33の小径伝動ギヤ46、アイドルギヤ47、第二クラッチ34の小径伝動ギヤ46、及び第二クラッチ34の大径伝動ギヤ45の順にこれらを介して伝達される。
【0044】
各変速ギヤ群36,37は、計六速分の変速段を構成する。
第一変速ギヤ群36は、奇数段(一、三、五速)に対応する一速、三速及び五速ギヤ列36a,36c,36eを構成し、第一メインシャフト31及びカウンタシャフト35の各右側部間に渡って設けられる。
一方、第二変速ギヤ群37は、偶数段(二、四、六速)に対応する二速、四速及び六速ギヤ列37b,37d,37fを構成し、第二メインシャフト32及びカウンタシャフト35の各左側部間に渡って設けられる。
【0045】
これら各変速ギヤ群36,37の何れかのギヤ列が択一的に確立されることで、各メインシャフト31,32の何れかに入力されたクランクシャフト21の回転動力が、所定の減速比で減速された上でカウンタシャフト35に伝達される。
【0046】
一速ギヤ列36aは、第一メインシャフト31の左端部(クランクケース14に支持される左ジャーナル部31a)の右方に隣接して一体回転可能に支持される一速ドライブギヤ38aと、カウンタシャフト35の左端部(クランクケース14に支持される左ジャーナル部35a)の右方に隣接して相対回転可能に支持される一速ドリブンギヤ39aとからなる。
【0047】
第一メインシャフト31の右端部は、クランクケース14に支持される右ジャーナル部31bを形成すると共に、クランクケース14右側のクラッチ室14c内に突出し、この突出部分に第一クラッチ33が取り付けられる。
また、カウンタシャフト35の左端部(左ジャーナル部35a)はクランクケース14外に突出し、この突出部分に前記伝動機構の駆動部(図ではドライブスプロケット)35cが取り付けられる。
【0048】
一速ドリブンギヤ39aの右方には、カウンタシャフト35と一体回転可能かつ軸方向移動可能な第一シフタ40aが隣接する。この第一シフタ40aの軸方向移動により、これが一速ドリブンギヤ39aに一体回転可能に係合することで、第一メインシャフト31に入力されたクランクシャフト21の回転動力が一速ギヤ列36aを介して減速されてカウンタシャフト35に伝達される。
【0049】
二速ギヤ列37bは、第二メインシャフト32の右端部(クランクケース14に支持される右ジャーナル部32b)の左方に隣接して例えば一体形成された二速ドライブギヤ38bと、カウンタシャフト35の右端部(クランクケース14に支持される右ジャーナル部35b)の左方に隣接して相対回転可能に支持された二速ドリブンギヤ39bとからなる。
【0050】
第二メインシャフト32の右端部(右ジャーナル部32b)はクラッチ室14c内に突出し、この突出部分に第二クラッチ34が取り付けられる。
また、カウンタシャフト35の右端部(右ジャーナル部35b)はクラッチ室14c内に突出し、この突出部分にアイドルギヤ47が相対回転自在に支持される。
第二メインシャフト32の左端部は、クランクケース14に支持される左ジャーナル部32aを形成している。
【0051】
二速ドリブンギヤ39bの左方には、カウンタシャフト35と一体回転可能かつ軸方向移動可能な第二シフタ40bが隣接する。この第二シフタ40bの軸方向移動により、これが二速ドリブンギヤ39bに一体回転可能に係合することで、第二メインシャフト32に入力されたクランクシャフト21の回転動力が二速ギヤ列37bを介して減速されてカウンタシャフト35に伝達される。
【0052】
三速ギヤ列36cは、第一メインシャフト31の左右ジャーナル部31a,31b間の部位(ギヤ支持部)の左右中間部の左寄りに一体回転可能に支持された三速ドライブギヤ38cと、カウンタシャフト35の左右ジャーナル部35a,35b間の部位(ギヤ支持部)の左右中間部の左寄りに相対回転可能に支持された三速ドリブンギヤ39cとからなる。
【0053】
三速ドリブンギヤ39cは、第一メインシャフト31に一体回転可能かつ軸方向移動可能に支持された第三シフタ40cの外周右側に一体形成される。
三速ドリブンギヤ39cの左方には第一シフタ40aが隣接し、この第一シフタ40aの軸方向移動により、これが三速ドリブンギヤ39cに一体回転可能に係合することで、第一メインシャフト31に入力されたクランクシャフト21の回転動力が三速ギヤ列36cを介して減速されてカウンタシャフト35に伝達される。
【0054】
三速ドライブギヤ38cは、左クランクウェブ21bと同一の左右方向位置にある。左クランクウェブ21bの最外周位置には、三速ドライブギヤ38cを避けるべく切り欠きcutが形成され(図3参照)、もって第一メインシャフト31とクランクシャフト21との可及的な近接を可能とする。
【0055】
四速ギヤ列37dは、第二メインシャフト32の左右ジャーナル部32a,23b間の部位(ギヤ支持部)の左右中間部の右寄りに一体回転可能に支持された四速ドライブギヤ38dと、カウンタシャフト35のギヤ支持部の左右中間部の右寄りに相対回転可能に支持された四速ドリブンギヤ39dとからなる。
四速ドライブギヤ38dは、第二メインシャフト32に一体回転可能かつ軸方向移動可能に支持された第四シフタ40dの外周左側に一体形成される。
【0056】
四速ドリブンギヤ39dの右方には第二シフタ40bが隣接し、この第二シフタ40bの軸方向移動により、これが四速ドリブンギヤ39dに一体回転可能に係合することで、第二メインシャフト32に入力されたクランクシャフト21の回転動力が四速ギヤ列37dを介して減速されてカウンタシャフト35に伝達される。
【0057】
五速ギヤ列36eは、第一メインシャフト31に一速ドライブギヤ38aの右方に隣接して相対回転可能に支持された五速ドライブギヤ38eと、カウンタシャフト35に一速ドリブンギヤ39aの右方に隣接して一体回転可能に支持された五速ドリブンギヤ39eとからなる。
【0058】
五速ドリブンギヤ39eは、第一シフタ40aの外周左側に一体形成される。
五速ドライブギヤ38eの右方には第三シフタ40cが隣接し、この第三シフタ40cの軸方向移動により、これが五速ドライブギヤ38eに一体回転可能に係合することで、第一メインシャフト31に入力されたクランクシャフト21の回転動力が五速ギヤ列36eを介して減速されてカウンタシャフト35に伝達される。
【0059】
五速ドライブギヤ38eは、第一変速ギヤ群36の第一メインシャフト31に支持されるものの中で最も大径であり、かつ左クランクベアリング24と同一の左右方向位置にある。左クランクベアリング24の外周側は、その左方の発電機室GR及び右方のクランクウェブ21bよりも小径であり、この左クランクベアリング24の外周側に比較的大径の五速ドライブギヤ38eが配置されることで、第一メインシャフト31とクランクシャフト21との近接が可能である。
【0060】
六速ギヤ列37fは、第二メインシャフト32に二速ドライブギヤ38bの左方に隣接して相対回転可能に支持された六速ドライブギヤ38fと、カウンタシャフト35に二速ドリブンギヤ39bの左方に隣接して一体回転可能に支持された六速ドリブンギヤ39fとからなる。
【0061】
六速ドリブンギヤ39fは、第二シフタ40bの外周右側に一体形成される。
六速ドライブギヤ38fの左方には第四シフタ40dが隣接し、この第四シフタ40dの軸方向移動により、これが六速ドライブギヤ38fに一体回転可能に係合することで、第二メインシャフト32に入力されたクランクシャフト21の回転動力が六速ギヤ列37fを介して減速されてカウンタシャフト35に伝達される。
【0062】
各ドライブギヤ38a〜38fは一速から六速の順に径が小さくなり、各ドリブンギヤ39a〜39fは一速から六速の順に径が大きくなる。
すなわち、二速ドライブギヤ38bは一速ドライブギヤ38aよりも径が小さく、四速ドライブギヤ38dは三速ドライブギヤ38cよりも径が小さく、六速ドライブギヤ38fは五速ドライブギヤ38eよりも径が小さい。
また、二速ドリブンギヤ39bは一速ドリブンギヤ39aよりも径が大きく、四速ドリブンギヤ39dは三速ドリブンギヤ39cよりも径が大きく、六速ドリブンギヤ39fは五速ドリブンギヤ39eよりも径が大きい。
【0063】
以上から、奇数段のドライブギヤ38a,38c,38eは偶数段のドライブギヤ38b,38d,38fに比べて全体的に小径であるといえる。
そして、このような奇数段のドライブギヤ38a,38c,38eをクランクシャフト21に近接する第一メインシャフト31に支持することで、偶数段のドライブギヤ38b,38d,38fを第一メインシャフト31に支持する場合と比べて、第一メインシャフト31ひいてはトランスミッション23がクランクシャフト21に可及的に近付き、パワーユニット10のコンパクト化が図られる。
【0064】
クランクケース14の上部内側(第一メインシャフト31の上方かつ第二メインシャフト32の前方)には、前記チェンジ機構51におけるシフトドラム52が回転自在に支承される。シフトドラム52外周の前記各リード溝には、第一〜第四シフトフォーク53a〜53dの基端部がそれぞれ係合する。
【0065】
各シフトフォーク53a〜53dは、その先端側が末広がりに形成され、これら各シフトフォーク53a〜53dの先端部が、各シフタ40a〜40dにそれぞれ係合する。これら各シフトフォーク53a〜53d及び各シフタ40a〜40dが、シフトドラム52の回転により前記各リード溝のパターンに応じて軸方向移動することで、各ギヤ列の何れかが択一的に確立される。
【0066】
トランスミッション23の制御装置としてのECU(不図示)は、各種センサによる検知情報に基づき、各クラッチ33,34及びシフトドラム52を作動制御することで、トランスミッション23の変速段(シフトポジション)を変化させる。
【0067】
具体的には、トランスミッション23は、各クラッチ33,34の一方のみを接続状態とし、このクラッチに連係する何れかの変速ギヤ列を用いて動力伝達を行うと共に、各クラッチ33,34の他方に連係する変速ギヤ列の中から次に確立するものを予め選定し、この状態から前記一方のクラッチの切断と前記他方のクラッチの接続とを同時に行うことで、前記予め選定した変速ギヤ列を用いた動力伝達に切り替わり、もってトランスミッション23のシフトアップ又はシフトダウンがなされる。
【0068】
トランスミッション23において、自動二輪車1のエンジン始動後かつ停車時には、各クラッチ33,34が切断状態に保たれると共に、自動二輪車1の発進準備として、何れかの変速ギヤ列による動力伝達を不能にしたニュートラル状態から、一速ギヤ(発進ギヤ、一速ギヤ列36a)を確立させた一速状態となる。この状態から、例えばエンジン回転数が上昇することで、第一クラッチ33が半クラッチを経て接続状態となって、自動二輪車1を発進させる。
【0069】
トランスミッション23は、自動二輪車1の走行時には、現在のシフトポジションに対応する一方のクラッチのみを接続状態としながら、切断状態にある他方のクラッチに連結される何れかの変速ギヤ列の中から、車両運転情報等に基づき、次のシフトポジションに対応する変速ギヤ列を予め確立させる。
【0070】
具体的には、現在のシフトポジションが奇数段(又は偶数段)にあれば、次のシフトポジションは偶数段(又は奇数段)となるので、接続状態にある第一クラッチ33(又は第二クラッチ34)を介して第一メインシャフト31(又は第二メインシャフト32)にクランクシャフト21の回転動力が入力される。このとき、第二クラッチ34(又は第一クラッチ33)は切断状態にあるので、第二メインシャフト32(又は第一メインシャフト31)にはクランクシャフト21の回転動力が入力されない。
【0071】
この後、前記ECUがシフトタイミングに達したと判断した際には、接続状態にある第一クラッチ33(又は第二クラッチ34)を切断状態とすると共に、切断状態にある第二クラッチ34(又は第一クラッチ33)を接続状態とすることのみで、予め確立させた次のシフトポジションに対応する変速ギヤ列を用いた動力伝達に切り替わる。これにより、変速時のタイムラグや動力伝達の途切れを生じさせない迅速かつスムーズな変速がなされる。
【0072】
図5,6を参照し、クランクケース14の右外側面には、各クラッチ33,34に個別に押圧力(係合力)を付与する第一及び第二クラッチアクチュエータ57,58の各押圧機構59がそれぞれ設けられる。なお、図6は第一クラッチ33に対応する第一クラッチアクチュエータ57を示すが、第二クラッチ34に対応する第二クラッチアクチュエータ58も同様の構成を有するものとする。
【0073】
各クラッチアクチュエータ57,58はそれぞれ、メイン軸線C3と直交しかつ鉛直方向に沿うように配置される回動軸59aを具備する押圧機構59と、回動軸59aと平行に配置されてこれに回転動力を付与する電動モータ61と、回動軸59aと電動モータ61とを連結する減速ギヤ機構62とを有する。なお、図中符号C8は回動軸59aの延在方向に沿う回動中心軸線を、符号C9は電動モータ61における回動中心軸線C8と平行な駆動中心軸線をそれぞれ示す。
【0074】
押圧機構59の回動軸59aは、クラッチカバー14bに一体形成された円筒状の機構収容部14d内に回転自在に支持される。回動軸59aは、メイン軸線C3と交差する部位に設けられる偏心軸59bと、この偏心軸59bに同軸支持される偏心ローラ59cとを有する。偏心ローラ59cは、その外周面を第一クラッチ33の押圧キャップ44cの右端面に当接させる。偏心軸59b及び偏心ローラ59cが右側に変位した際には、クラッチ板群41が挟圧されずにクラッチ切断状態となり、偏心軸59b及び偏心ローラ59cが左側に変位した際には、クラッチ板群41が挟圧されてクラッチ接続状態となる。
【0075】
電動モータ61は、そのモータ本体61aから駆動軸61bの先端部を下方に突出させる。駆動軸61bの先端部はピニオンギヤ61cを形成し、このピニオンギヤ61cが回動軸59aの上端部に同軸に取り付けた従動ギヤ59dと略同一高さに位置する。
【0076】
ピニオンギヤ61c及び従動ギヤ59d間を連結する減速ギヤ機構62は、大小の平歯車を一体形成した三つのリダクションギヤ軸62a〜62cをケーシング62d内に回転自在に支持してなる。減速ギヤ機構62及び電動モータ61は、シリンダ15の後方にてクランクケース14の上方に張り出すように設けられる。なお、図中符号63は駆動軸61bの上方に同軸配置された回動センサ(クラッチ断・接センサ)を、符号CLはパワーユニット10及び自動二輪車1の左右中心線をそれぞれ示す。
【0077】
以上説明したように、上記実施形態における自動二輪車1は、クランクシャフト21と、クランクシャフト21側から順に配置される第一及び第二メインシャフト31,32と、各メインシャフト31,32に跨って係合する単一のカウンタシャフト35と、クランクシャフト21、各メインシャフト31,32及びカウンタシャフト35を相互に平行かつ回転自在に支承するクランクケース14と、各メインシャフト31,32の一端部にそれぞれ配設されてクランクシャフト21から各メインシャフト31,32への回転動力の伝達を個別に断・接する第一及び第二クラッチ33,34と、各メインシャフト31,32とカウンタシャフト35との間にあり選択的に確立される複数変速段のギヤ列36a,36c,36e,37b,37d,37fと、を具備し、各クラッチ33,34の持ち替えにより変速段の切り替えを行うパワーユニット10を備えると共に、
駆動輪(後輪11)を支持するスイングアーム9と、前記各シャフト31,32,35と平行をなしてスイングアーム9を上下揺動可能に支持するピボット軸27とを備えるものにおいて、
第一メインシャフト31の軸中心(第一メイン軸線C3)がクランクシャフト21の軸中心(クランク軸線C2)よりも後方かつカウンタシャフト35の軸中心(カウンタ軸線C5)よりも前方に配置され、第二メインシャフト32の軸中心(第二メイン軸線C4)がカウンタシャフト35の軸中心(カウンタ軸線C5)よりも後方かつピボット軸27の軸中心(ピボット軸線C7)よりも前方に配置されるものである。
【0078】
この構成によれば、一対のメインシャフト31,32及びクラッチ33,34を有するパワーユニット10において、各メインシャフト31,32及び各クラッチ33,34を前後に振り分けてクランクケース14の高さ寸法を抑えることが可能となり、クランクケース14上方に吸気系等の配置スペースを確保し易く、かつクランクケース14下方への張り出しを抑えることができる。
【0079】
また、上記自動二輪車1は、第一メインシャフト31の軸中心(第一メイン軸線C3)がクランクシャフト21及びピボット軸27の各軸中心(クランク軸線C2、ピボット軸線C7)よりも下方に配置され、第二メインシャフト32の軸中心(第二メイン軸線C4)がクランクシャフト21及びピボット軸27の各軸中心(クランク軸線C2、ピボット軸線C7)よりも上方に配置されることで、クランクシャフト21及びピボット軸27の間で各メインシャフト31,32及び各クラッチ33,34を上下に振り分けて配置でき、クランクシャフト21からピボット軸27までの距離を短縮してパワーユニット10周辺を前後方向でコンパクトに形成できる。
【0080】
また、上記自動二輪車1は、カウンタシャフト35の軸中心(カウンタ軸線C5)がピボット軸27の軸中心(ピボット軸線C7)よりも上方に配置されることで、カウンタシャフト35からユニット外方に動力を取り出す際にも、その出力部とピボット軸27とを近付け易く、スイングアーム9の揺動量の確保を容易にできる。
【0081】
なお、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、前記パワーユニットのエンジンには、空冷単気筒エンジンのみならず、水冷エンジンはもちろん、並列又はV型等の複数気筒エンジンや、クランク軸を車両前後方向に沿わせた縦置きエンジン等、各種形式のレシプロエンジンも含まれる。
また、前記鞍乗り型車両には、運転者が車体を跨いで乗車する車両全般が含まれ、自動二輪車(スクータ型車両を含む)のみならず、三輪(前一輪かつ後二輪の他に、前二輪かつ後一輪の車両も含む)又は四輪の車両も含まれる。
そして、上記実施形態における構成は本発明の一例であり、当該発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 自動二輪車(鞍乗り型車両)
9 スイングアーム
10 パワーユニット(車両用パワーユニット)
11 後輪(駆動輪)
14 クランクケース
21 クランクシャフト
C2 クランク軸線(軸中心)
27 ピボット軸
C7 ピボット軸線(軸中心)
31 第一メインシャフト
C3 第一メイン軸線(軸中心)
32 第二メインシャフト
C4 第二メイン軸線(軸中心)
33 第一クラッチ
34 第二クラッチ
35 カウンタシャフト
C5 カウンタ軸線(軸中心)
36a 一速ギヤ列(ギヤ列)
36c 三速ギヤ列(ギヤ列)
36e 五速ギヤ列(ギヤ列)
37b 二速ギヤ列(ギヤ列)
37d 四速ギヤ列(ギヤ列)
37f 六速ギヤ列(ギヤ列)
52 シフトドラム



【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフト(21)と、前記クランクシャフト(21)側から順に配置される第一及び第二メインシャフト(31,32)と、前記各メインシャフト(31,32)に跨って係合する単一のカウンタシャフト(35)と、前記クランクシャフト(21)、前記各メインシャフト(31,32)及び前記カウンタシャフト(35)を相互に平行かつ回転自在に支承するクランクケース(14)と、前記各メインシャフト(31,32)の一端部にそれぞれ配設されて前記クランクシャフト(21)から前記各メインシャフト(31,32)への回転動力の伝達を個別に断・接する第一及び第二クラッチ(33,34)と、前記各メインシャフト(31,32)と前記カウンタシャフト(35)とにあり前記各シャフト(31,32,35)と平行なシフトドラム(52)の回転によって選択的に確立される複数変速段のギヤ列と(36a,36c,36e,37b,37d,37f)、を具備し、前記各クラッチ(33,34)の持ち替えにより変速段の切り替えを行うと共に、前記カウンタシャフト(35)の前記クランクケース(14)からの突出端部から駆動輪(11)へ動力を伝達するパワーユニット(10)を備えると共に、
後部に前記駆動輪(11)を支持するスイングアーム(9)と、前記クランクケース(14)の後方で前記各シャフト(31,32,35)と平行をなして前記スイングアーム(9)の前部を上下揺動可能に支持するピボット軸(27)とを備える鞍乗り型車両(1)において、
前記第一メインシャフト(31)の軸中心(C3)が前記クランクシャフト(21)の軸中心(C2)よりも後方かつ前記カウンタシャフト(35)の軸中心(C5)よりも前方に配置され、前記第二メインシャフト(32)の軸中心(C4)が前記カウンタシャフト(35)の軸中心(C5)よりも後方かつ前記ピボット軸(27)の軸中心(C7)よりも前方に配置されることを特徴とする鞍乗り型車両。
【請求項2】
前記第一メインシャフト(31)の軸中心(C3)が前記クランクシャフト(21)及び前記ピボット軸の各軸中心(C2,C7)よりも下方に配置され、前記第二メインシャフト(32)の軸中心(C4)が前記クランクシャフト(21)及びピボット軸(27)の各軸中心(C2,C7)よりも上方に配置されることを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り型車両。
【請求項3】
前記カウンタシャフト(35)の軸中心(C5)が前記ピボット軸(27)の軸中心(C7)よりも上方に配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の鞍乗り型車両。
【請求項4】
前記各シャフト(31,32,35)は、後方に行くに従い上方に位置するように配置されることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の鞍乗り型車両。
【請求項5】
前記クランクケース(14)の後部における前記第二クラッチ(34)の収容部分の少なくとも一部が、前記ピボット軸(27)の上方に配置されることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の鞍乗り型車両。
【請求項6】
前記第二クラッチ(34)の少なくとも一部が、前記ピボット軸(27)の上方に配置されることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の鞍乗り型車両。
【請求項7】
前記第二クラッチ(34)の外径の少なくとも一部が、前記カウンタシャフト(35)の軸中心(C5)よりも前方に配置されることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の鞍乗り型車両。
【請求項8】
前記クランクシャフト(14)の軸中心(C2)と前記ピボット軸(27)の軸中心(C7)とを結んだライン(BL)に対して、前記各メインシャフト(31,32)の各軸中心(C3,C4)の一方(C4)が上方、他方(C3)が下方にそれぞれ配置され、
前記各クラッチ(33,34)が、少なくとも一部同士を上下に重ねるように配置されることを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の鞍乗り型車両。
【請求項9】
前記シフトドラム(52)が、前記第一クラッチ(33)の上方かつ前記第二クラッチ(34)の前方に配置されることを特徴とする請求項1から8の何れか1項に記載の鞍乗り型車両。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−210856(P2012−210856A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77074(P2011−77074)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】