説明

鞍乗型車両の制振装置

【課題】車体フレームの剛性を確保することが容易であり,構造が簡素化できて,配置箇所の自由度も向上する鞍乗型車両の制振装置を提供する。
【解決手段】車体フレーム20に,車両の停止時には相対的に変位せず車両の走行時に相対的に変位し得る相対向する少なくとも一対の面61,62を設け,一対の面61,62の間に,各面61,62に固着されかつ車両の停止時には荷重がかからない減衰部材63を設ける。一方の面61は左右一対のメインフレーム30L,30Rのうちの一方のメインフレーム30L側に,他方の面62は他方のメインフレーム30R側に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,鞍乗型車両の制振装置に関する。より詳しくは,ウィーブ,ウォブル,チャタリングなどの振動挙動を減衰できる自動二輪車等の鞍乗型車両における制振技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来,鞍乗型車両の制振装置として,例えば特許文献1,特許文献2に見られるように,低周波の振動を低減すべく,車体フレームを構成する部材同士を弾性部材を介在させて連結したものが知られている。
また,特許文献3に見られるように,チャタリングなどの原因となる車体の振動を減衰できるように,外部からの入力に対してストロークするピストンロッド(120)及びピストン(130)と,流体(例えば,オイル)が封入されるインナーチューブ(140)と,インナーチューブ(140)の周囲を覆う筒状のアウターチューブ(160)とを備えたダンパー装置を設けたものも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−137287号公報
【特許文献2】特開2007−145268号公報
【特許文献3】特開号2009−190454公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1,2に記載のものは,いずれも,車体フレームを構成する上で荷重を受ける(荷重を担う)部材同士が弾性部材を介して連結されているから,車体フレームの剛性を確保することが困難である。
特許文献3に記載のものは,ダンパー装置自体の構造が複雑であるばかりか,ピストンのストローク方向と振動の方向とが合わなければ効果的な減衰が得られないため,配置箇所が制限されるという難点がある。
したがって,本発明が解決しようとする課題は,車体フレームの剛性を確保することが容易であり,構造が簡素化できて,配置箇所の自由度も向上する鞍乗型車両の制振装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明の鞍乗型車両の制振装置は,車体フレームを備えた鞍乗型車両の制振装置であって,
前記車体フレームに,前記車両の停止時には相対的に変位せず車両の走行時に相対的に変位し得る相対向する少なくとも一対の面を設け,該一対の面の間に,各面に固着されかつ前記車両の停止時には荷重がかからない減衰部材を設けたことを特徴とする。
望ましくは,前記車体フレームは,左右一対のメインフレームを有しており,前記一対の面のうちの一方の面が前記左右一対のメインフレームのうちの一方のメインフレーム側に,他方の面が他方のメインフレーム側に設けられている構成とする。
前記左右一対のメインフレームの後部に,前記車両の後輪を回転可能に支持するスイングアームを上下方向に揺動可能に支持する,左右一対のスイングアーム支持部が設けられている場合には,前記一方の面を前記左右一対のスイングアーム支持部のうちの一方のスイングアーム支持部側に,他方の面を他方のスイングアーム支持部側に設ける。
また望ましくは,前記車両がエンジンの搭載される車両である場合には,前記車体フレームに,前記エンジンの前部に垂下されてエンジンの前部が固定される前側エンジンハンガー部と,前記エンジンの後部に垂下されてエンジンの後部が固定される後側エンジンハンガー部と,これら前側エンジンハンガー部と後側エンジンハンガー部とを連結するサブフレームとを設け,前記一対の面のうちの一方の面を前記サブフレーム側に,他方の面を前記前側エンジンハンガー部側または後側エンジンハンガー部側に設ける。
また望ましくは,前記車体フレームが,前後方向に延びるメインフレームと,このメインフレームから後方に延び,乗員が着座するシートを支持するシートレールとを有し手いる場合には,前記一対の面のうちの一方の面を前記メインフレーム側に,他方の面を前記シートレール側に設ける。
また望ましくは,前記車体フレームが,前後方向に延びるメインフレームと,このメインフレームから後方に延び,乗員が着座するシートを支持する左右一対のシートレールと,これらシートレールを連結するシートレール連結部とを有している場合には,前記一対の面のうちの一方の面を前記左右一対のシートレールのうちの少なくとも一方のシートレール側に,他方の面を前記シートレール連結部側に設ける。
また望ましくは,前記車体フレームが,前後方向に延びるメインフレームと,このメインフレームから後方に延び,乗員が着座するシートを支持する左右一対のシートレールとを有している場合には,前記一対の面のうちの一方の面を前記左右一対のシートレールのうちの一方のシートレール側に,他方の面を他方のシートレール側に設ける。
また,上記課題を解決するために本発明の鞍乗型車両の制振装置は,車体フレームと,この車体フレームに取り付けられたエンジンとを備えた鞍乗型車両の制振装置であって,
前記車体フレームと前記エンジンとの間において,前記エンジンおよび車両の停止時には相対的に変位せずエンジン作動時または車両の走行時に相対的に変位し得る相対向する少なくとも一対の面を設け,その対をなす面のうちの一方の面を車体フレーム側に,他方の面を前記エンジン側に設け,それらの面の間に,各面に固着されかつ前記エンジンおよび車両の停止時には荷重がかからない減衰部材を設けたことを特徴とする。
望ましくは,前記減衰部材は,前記各面同士の相対的平行移動で剪断力が作用する板状の高減衰ゴムで構成する。
【0006】
なお,本願において「車両の停止時には荷重がかからない」という意味は,車体フレームを作製する上で生じる誤差や,車両に乗員が乗ることによって前記減衰部材に初期的に荷重が作用する状態についてはこれを含むという意味である。前記一対の面およびその各面に固着される減衰部材を作製する上で,製造誤差は必ず生じ,その誤差に起因して減衰部材にも初期的に僅かな荷重は必ず作用する。それに加え,車両に乗員が乗れば,そのことによっても減衰部材には僅かな荷重は作用する。したがって,「車両の停止時には荷重がかからない」という意味は,「車両の停止時には荷重がかからない」状態には,上記誤差や乗員の乗車に起因する荷重がかかる状態についてはそれが含まれるという意味である。「エンジンおよび車両の停止時には荷重がかからない」という意味についても同様である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の鞍乗型車両の制振装置によれば,車体フレームにおいて,車両の走行時に相対的に変位し得る相対向する少なくとも一対の面の間に,各面に固着された減衰部材が設けられているので,車両の走行によって,前記一対の面が相対的に変位する振動が発生した場合,その振動が減衰部材によって減衰させられることとなる。すなわち,車体フレームの制振効果が得られることとなる。
そして,車両の停止時には前記一対の面は相対的に変位せず,かつ,該一対の面の間において各面に固着された減衰部材には車両の停止時には荷重がかからず,該一対の面が相対的に変位する振動が発生した場合に減衰部材に荷重(動荷重)が作用するから,減衰部材による振動の減衰が効果的になされる。すなわち,仮に,車両の停止時においても減衰部材に荷重が初期的に作用しているとすると,その分,減衰部材が本来的に有している減衰能力が損なわれるため,減衰部材に荷重(動荷重)が作用した際の減衰作用は低減されるが,この発明においては,減衰部材に初期的荷重は作用していないから,振動発生時には効果的な減衰作用が得られることとなる。
また,前記一対の面の間において各面に固着された減衰部材に車両の停止時に荷重がかからないということは,この減衰部材は車体フレームの剛性に直列ばねとしては関与しないということである。したがって,この発明の制振装置によれば,前記減衰部材が並列ばねとして関与することとなり,剛性の低い弾性部材を用いた場合でも車体フレームの剛性を確保することが容易になる。
さらに,この発明の制振装置は,車体フレームに,車両の停止時には相対的に変位せず車両の走行時に相対的に変位し得る相対向する少なくとも一対の面を設け,該一対の面の間に,各面に固着されかつ前記車両の停止時には荷重がかからない減衰部材を設けることで構成できるから,構造を簡素化でき,配置箇所の自由度も向上する。
すなわち,この発明に係る鞍乗型車両の制振装置によれば,車体フレームの剛性を確保することが容易であり,構造が簡素化できて,配置箇所の自由度も向上するという効果が得られる。しかも,振動発生時には効果的な減衰作用が得られることとなる。
また,前記車体フレームは,左右一対のメインフレームを有しており,前記一対の面のうちの一方の面が前記左右一対のメインフレームのうちの一方のメインフレーム側に,他方の面が他方のメインフレーム側に設けられている構成とすることにより,左右一対のメインフレームによって車体フレームの剛性を向上させることができる。
このように,車体フレームが左右一対のメインフレームを有していると,車両走行時,左右のメインフレームにそれぞれ異なる振動が発生する場合がある。
これに対し,前記一方の面を前記左右一対のメインフレームのうちの一方のメインフレーム側に,他方の面を他方のメインフレーム側に設けることで,左右のメインフレームに生じた上記振動を有効に減衰させることができる。
ここで,前記左右一対のメインフレームの後部に,前記車両の後輪を回転可能に支持するスイングアームを上下方向に揺動可能に支持する,左右一対のスイングアーム支持部が設けられている場合には,前記一方の面を前記左右一対のスイングアーム支持部のうちの一方のスイングアーム支持部側に,他方の面を他方のスイングアーム支持部側に設けることにより,左右のスイングアーム支持部において互い違いに生じやすい振動を有効に減衰させることができる。
また,前記車両がエンジンの搭載される車両である場合には,前記車体フレームに,前記エンジンの前部に垂下されてエンジンの前部が固定される前側エンジンハンガー部と,前記エンジンの後部に垂下されてエンジンの後部が固定される後側エンジンハンガー部と,これら前側エンジンハンガー部と後側エンジンハンガー部とを連結するサブフレームとを設け,前記一対の面のうちの一方の面を前記サブフレーム側に,他方の面を前記前側エンジンハンガー部側または後側エンジンハンガー部側に設けることにより,エンジンから発生する振動を有効に減衰させることができる。
また,前記車体フレームが,前後方向に延びるメインフレームと,このメインフレームから後方に延び,乗員が着座するシートを支持するシートレールとを有し手いる場合には,前記一対の面のうちの一方の面を前記メインフレーム側に,他方の面を前記シートレール側に設けることにより,乗員の体重を受けた状態でのシートレールおよびメインフレームに生じる振動を有効に減衰させることができる。
また,前記車体フレームが,前後方向に延びるメインフレームと,このメインフレームから後方に延び,乗員が着座するシートを支持する左右一対のシートレールと,これらシートレールを連結するシートレール連結部とを有している場合には,前記一対の面のうちの一方の面を前記左右一対のシートレールのうちの少なくとも一方のシートレール側に,他方の面を前記シートレール連結部側に設けることにより,シートレール連結部によってシートレールの剛性を向上させることができると同時に,シートレール自体に生じる振動を有効に減衰させることができる。
また,前記車体フレームが,前後方向に延びるメインフレームと,このメインフレームから後方に延び,乗員が着座するシートを支持する左右一対のシートレールとを有している場合には,前記一対の面のうちの一方の面を前記左右一対のシートレールのうちの一方のシートレール側に,他方の面を他方のシートレール側に設けることにより,左右一対のシートレール自体に生じる振動を有効に減衰させることができる。
上記課題を解決するための本発明の鞍乗型車両の制振装置によれば,車体フレームとエンジンとの間において,車両の走行時またはエンジン作動時に相対的に変位し得る相対向する少なくとも一対の面の間に,各面に固着された減衰部材が設けられているので,エンジンの作動または車両の走行によって,前記一対の面が相対的に変位する振動が発生した場合,その振動が減衰部材によって減衰させられることとなる。前記一対の面は車体フレームとエンジンとの間に設けられているので,エンジンから車体フレームへと伝達される振動が特に有効に減衰させられる。すなわち,エンジンおよび車体フレームの制振効果が得られることとなる。
そして,エンジンおよび車両の停止時には前記一対の面は相対的に変位せず,かつ,該一対の面の間において各面に固着された減衰部材にはエンジンおよび車両の停止時には荷重がかからず,該一対の面が相対的に変位する振動が発生した場合に減衰部材に荷重(動荷重)が作用するから,減衰部材による振動の減衰が効果的になされる。すなわち,仮に,エンジンおよび車両の停止時においても減衰部材に荷重が初期的に作用しているとすると,その分,減衰部材が本来的に有している減衰能力が損なわれるため,減衰部材に荷重(動荷重)が作用した際の減衰作用は低減されるが,この発明においては,減衰部材に初期的荷重は作用していないから,振動発生時には効果的な減衰作用が得られることとなる。
また,前記一対の面の間において各面に固着された減衰部材にエンジンおよび車両の停止時に荷重がかからないということは,この減衰部材はエンジンを含む車体フレーム構造の剛性に直列ばねとしては関与しないということである。したがって,この発明の制振装置によれば,前記減衰部材が並列ばねとして関与することとなり,剛性の低い弾性部材を用いた場合でもエンジンを含む車体フレーム構造の剛性を確保することが容易になる。
さらに,この発明の制振装置は,車体フレームとエンジンとの間に,エンジンおよび車両の停止時には相対的に変位せずエンジン作動時または車両の走行時に相対的に変位し得る相対向する少なくとも一対の面を設け,該一対の面の間に,各面に固着されかつ前記エンジンおよび車両の停止時には荷重がかからない減衰部材を設けることで構成できるから,構造を簡素化でき,配置箇所の自由度も向上する。
すなわち,この発明に係る鞍乗型車両の制振装置によれば,車体フレームの剛性を確保することが容易であり,構造が簡素化できて,配置箇所の自由度も向上するという効果が得られる。しかも,振動発生時には効果的な減衰作用が得られることとなる。
また,前記減衰部材は,前記各面同士の相対的平行移動で剪断力が作用する板状の高減衰ゴムで構成することにより,板状の減衰部材が高減衰ゴムで構成されていることに加え,その板状の高減衰ゴムにおける広い面同士の間に剪断力が作用するから,効果的な減衰作用が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る鞍乗型車両の制振装置の一実施の形態が適用された鞍乗型車両の一例である自動二輪車を示す左側面図。
【図2】車体フレーム20の主要部分を斜め後方から見た斜視図。
【図3】車体フレーム20の平面図。
【図4】(a)(b),(c)(d),(e)(f)はそれぞれこの実施の形態の制振装置の基本構成を示す概略図で,(a)は基本構成の一形態の正面図,(b)はその側面図,(c)は他の形態の正面図,(d)はその側面図,(e)はさらに他の形態の正面図,(f)はその側面図。
【図5】図3における部分省略V−V拡大断面図。
【図6】図2における部分省略VI−VI拡大断面図。
【図7】(a)は前側エンジンハンガー部32と後側エンジンハンガー部33とをサブフレーム40で連結した状態を示す斜視図,(b)は図(a)における部分省略b−b拡大断面図。
【図8】メインフレーム(30L,30R)とシートレール(50L,50R)との連結部を示す図で,(a)は連結部を斜め後方から見た斜視図,(b)は図(a)の部分省略側面図。
【図9】一方のシートレール50Lとシートレール連結部51との連結部を示す斜視図。
【図10】図3における部分省略X−X拡大断面図。
【図11】他の実施の形態を示す要部の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下,本発明に係る鞍乗型車両の制振装置の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明に係る鞍乗型車両の制振装置の一実施の形態が適用された鞍乗型車両の一例である自動二輪車を示す左側面図である。
この自動二輪車10は,車体をなすフレーム(車体フレーム)20と,この車体フレーム20に取り付けられたエンジン14とを有している。車体フレーム20の前端を構成するヘッドパイプ21に回動自在に操舵装置STが取り付けられている。操舵装置STはフロントフォーク11と,このフロントフォーク11の上部に取り付けられたバーハンドル12とを有している。フロントフォーク11の下端には前輪13Fが回転自在に取り付けられている。車体フレーム20の後部には,スイングアーム15がピボット軸15pで上下スイング自在に取り付けられており,このスイングアーム15の後端部に駆動輪である後輪13Rが回転可能に取り付けられている。後輪13Rは,エンジン14との間に配置されたドライブシャフト16を介して駆動される。
【0010】
図2は車体フレーム20の主要部分を斜め後方から見た斜視図,図3は車体フレーム20の平面図である。
図1〜図3に示すように,車体フレーム20は,上記ヘッドパイプ21から一体的に左右後方へ向かって延びていて車体の左右に配置される一対のメインフレーム30L,30Rを有している。
左右一対のメインフレーム30L,30Rの後部には,スイングアーム15を上下方向に揺動可能に支持するスイングアーム支持部31L,31Rがそれぞれ一体的に設けられている。
【0011】
メインフレーム30L,30Rの前部には,それぞれエンジン14の前部に垂下されてエンジン14の前部が固定される前側エンジンハンガー部32,32が一体に設けられ,メインフレーム30L,30Rの後部には,それぞれエンジン14の後部に垂下されてエンジン14の後部が固定される後側エンジンハンガー部33,33が一体に設けられている。前記スイングアーム支持部31L,31Rは後側エンジンハンガー部33で構成されている。図1に示すように,前側エンジンハンガー部32と後側エンジンハンガー部33はサブフレーム40で連結される。
【0012】
図1,図3に示すように,車体フレーム20は,メインフレーム30L,30Rから後方に延び,乗員が着座するシート17を支持する左右一対のシートレール50L,50Rと,これらシートレール50L,50Rを連結するシートレール連結部51とを有している。
ヘッドパイプ21,左右一対のメインフレーム30L,30R,スイングアーム支持部31L,31R,前側エンジンハンガー部32,32,および後側エンジンハンガー部33,33は,アルミ合金製のダイヤモンドフレームで構成できる。この実施の形態では,そのダイヤモンドフレームにエンジン14を配置しエンジンハンガー部32,33にて吊り下げている。図2おいて20eがエンジン14の取付部である。
【0013】
スイングアーム15と車体フレーム20とは,公知のクッションユニット22および公知のリンク機構23を介して連結されている。クッションユニット22の上端はアッパクロスメンバ34U(図2)に設けた支持部34bに回動可能に取り付けられ,クッションユニット22の下端はリンク機構23に連結されている。リンク機構23の一端は,後側エンジンハンガー部33の下部を一体に連結するロアクロスメンバ34Lに設けた支持部33cに回動可能に連結される。なお,図2において20sはシートレール50L,50R(図1,図3)の取付部である。
【0014】
この実施の形態の制振装置は,例えば以上のような車体フレーム20において,適所に設けることができる。
図4(a)(b),(c)(d),(e)(f)はそれぞれこの実施の形態の制振装置の基本構成を示す概略図である。(a)は基本構成の一形態の正面図,(b)はその側面図,(c)は他の形態の正面図,(d)はその側面図,(e)はさらに他の形態の正面図,(f)はその側面図である。
【0015】
これらの図に示すように,この実施の形態の制振装置60は,車体フレーム20に,前記車両10の停止時には相対的に変位せず車両10の走行時に相対的に変位し得る相対向する少なくとも一対の面61,62を設け,該一対の面61,62の間に,各面61,62に固着されかつ車両10の停止時には荷重がかからない減衰部材63を設けた基本構成を有している。
【0016】
車両10の停止時における面61と62との間の間隔gを,自由状態における減衰部材63の厚さtと等しくする(設計上等しく設計する)ことによって,車両10の停止時に減衰部材63に荷重(この場合,圧縮力,引っ張り力)がかからないようにすることができる。
減衰部材63の面61,62への固着時および車両10の停止時に,面61と面62との間においてその面61,62と平行方向(図4における矢印s方向)への相対移動が生じないようにすることで,車両10の停止時に減衰部材63に荷重(この場合,剪断力,捩り力)がかからないようにすることができる。
【0017】
すなわち,車両10の停止時における面61と62との間の間隔gを,自由状態における減衰部材63の厚さtと等しくするとともに,減衰部材63の面61,62への固着時および車両10の停止時における面61と面62との間の面61,62と平行方向sへの相対移動を防止することで,車両10の停止時に減衰部材63に荷重(圧縮力,引っ張り力,剪断力,捩り力)がかからないようにすることができる。
減衰部材63の面61,62への固着は,公知の固着手段(例えば接着剤による接着,加硫接着等)を用いることができる。
【0018】
面61,62は図(a)(b)に示すように,車体フレーム20自体の側面等の面で構成することもできるし,図(c)(d)に示すように,車体フレーム20に一体的に設けた部材61b,62bの側面等によって構成することもできる。また,図(e)(f)に示すように,一方の面(例えば面61)を車体フレーム20自体の側面等の面で構成し,他方の面(例えば面62)を車体フレーム20に一体的に設けた部材(例えば62b)の上面等で構成することもできる。
【0019】
このような鞍乗型車両10の制振装置60によれば,車体フレーム20において,車両10の走行時に相対的に変位し得る相対向する少なくとも一対の面61,62の間に,各面61,62に固着された減衰部材63が設けられているので,車両10の走行によって,前記一対の面61,62が相対的に変位する振動が発生した場合,その振動が減衰部材63によって減衰させられることとなる。すなわち,車体フレーム20の制振効果が得られることとなる。
【0020】
そして,車両10の停止時には前記一対の面61,62は相対的に変位せず,かつ,該一対の面61,62の間において各面61,62に固着された減衰部材63には車両10の停止時には荷重がかからず,該一対の面61,62が相対的に変位する振動が発生した場合に減衰部材63に荷重(動荷重)が作用するから,減衰部材63による振動の減衰が効果的になされる。すなわち,仮に,車両10の停止時においても減衰部材63に荷重が初期的に作用しているとすると,その分,減衰部材63が本来的に有している減衰能力が損なわれるため,減衰部材63に荷重(動荷重)が作用した際の減衰作用は低減されるが,この実施の形態においては,減衰部材63に初期的荷重は作用していないから,振動発生時には効果的な減衰作用が得られることとなる。
【0021】
また,前記一対の面61,62の間において各面61,62に固着された減衰部材63に車両10の停止時に荷重がかからないということは,この減衰部材63は車体フレームの剛性に直列ばねとしては関与しないということである。したがって,この制振装置60によれば,前記減衰部材63が並列ばねとして関与することとなり,剛性の低い弾性部材を用いた場合でも車体フレーム20の剛性を確保することが容易になる。
【0022】
さらに,この制振装置60は,車体フレーム20に,車両10の停止時には相対的に変位せず車両10の走行時に相対的に変位し得る相対向する少なくとも一対の面61,62を設け,該一対の面61,62の間に,各面61,62に固着されかつ前記車両10の停止時には荷重がかからない減衰部材63を設けることで構成できるから,構造を簡素化でき,配置箇所の自由度も向上する。
【0023】
減衰部材63は,前記各面61,62同士の相対的平行移動(図4における矢印s方向への相対移動)で剪断力が作用する板状の高減衰ゴムで構成することが望ましい。
このように構成すると,板状の減衰部材63が高減衰ゴムで構成されていることに加え,その板状の高減衰ゴムにおける広い面同士の間に剪断力が作用するから,効果的な減衰作用が得られる。
【0024】
以上のような制振装置60は,例えば,以下に説明する箇所に設けることができる。その設置状態を設置例として説明する。なお,以下に括弧付きの番号を付して掲げる設置箇所(設置例)は,図1〜図3においても適宜括弧付きの番号で示してある。また,以下に説明する設置例において上述した基本構成と対応する部位ないし部材には同一の符号を付してある。制振装置60は以下に設置例として説明する設置箇所の全ての箇所または1箇所または任意の複数箇所に設置することができる。
【0025】
(1)設置例(1):図2,図3,図5参照
制振装置60は,車体フレーム20における左右一対のメインフレーム30L,30Rの間に設けることができる(図2,図3,図5参照)。
図5は図3における部分省略V−V拡大断面図である。
図5に示すように,前記一対の面61,62のうちの一方の面61を前記左右一対のメインフレーム30L,30Rのうちの一方のメインフレーム(図示のものでは左方のメインフレーム30L)側に,他方の面62を他方のメインフレーム(図示のものでは右方のメインフレーム30R)側に設け,これら一対の面61,62の間に,各面61,62に固着されかつ車両10の停止時には荷重がかからない減衰部材63を設けることによって,制振装置60を構成することができる。
【0026】
面61は,基部61cをボルト61dで左方のメインフレーム30Lに一体的に固定した断面U字形の部材61bの上面で構成することができ,面62は,基部62cをボルト62dで右方のメインフレーム30Rに一体的に固定した断面U字形の部材62bの下面で構成することができる。
【0027】
図2に示すように,左右一対のメインフレーム30L,30Rは,ヘッドパイプ21の直ぐ後方において上部がクロスメンバ30mで一体に連結され,ヘッドパイプ21の直ぐ後方において下部が連結プレート30pで一体に連結され,後部垂下部への屈曲部30c同士がアッパクロスメンバ34Uで一体に連結され,垂下部下端同士がロアクロスメンバ34Lで一体に連結され,前側エンジンハンガー部32の下端同士がフロントクロスメンバ30fで連結されていることによって,車体フレーム20の剛性が保たれている。
したがって,車両停止時に上記部材61b,62b間に荷重がかからない(部材61b,62b,および減衰部材63に荷重を担わせない)ようにすることが可能である。
【0028】
車体フレーム20に左右一対のメインフレーム30L,30Rを設けると,車体フレーム20の剛性を向上させることができる。しかし,車体フレーム20が左右一対のメインフレームを有していると,車両走行時,左右のメインフレーム30L,30Rにそれぞれ異なる振動が発生する場合がある。
これに対し,一方の面61を左右一対のメインフレームのうちの一方のメインフレーム(例えば30L)側に,他方の面62を他方のメインフレーム(例えば30R)側に設けることで,左右のメインフレーム30L,30Rに生じた上記振動を有効に減衰させることができる。
【0029】
より具体的に説明すると,車体フレーム20の振動モードの中にはウィーブモード等,左右一対のメインフレーム30L,30Rが変形するモードが多くある。
その変形モードの内,メインフレーム30L,30Rが左右に曲がるモード(ヨー方向の変形モード),メインフレーム30L,30Rが左右にねじれるモード(ロール方向の変形モード)が生じると,左右のメインフレーム30L,30Rが互い違いに揺動し互いの距離に変化が生じる。
この設置例では,上記の構成とすることで,左右のメインフレーム30L,30Rが上記のモードで振動した場合,減衰部材63が主にせん断方向に変形する。
その結果,車体フレーム20の振動が効果的に減衰する。
【0030】
なお,ウィーブモードは,走行中の二輪車固有の振動現象の一つで,横方向運動,ヨー運動,ロール運動が連成した複雑な運動(振動モード)である。振動数は1〜4Hzで,車速の増加に伴い振動の強さも増加傾向を示す。ウィーブモードが生じると,左右のメインフレーム30L,30Rには上記モードの振動が生じるから,この設置例によると,ウィーブモードを早く収斂させることが可能となる。
また,この設置例では,制振装置60はメインフレームの前後方向に関してヘッドパイプ21よりに設けてあるので,前輪13Fから操舵装置STおよびヘッドパイプ21を通じて左右一対のメインフレーム30L,30Rに伝達される振動も有効に減衰させることができる。
【0031】
(2)設置例(2):図2,図6参照
制振装置60は,左右一対のメインフレーム30L,30Rの後部に設けられた左右一対のスイングアーム支持部31L,31Rの間に設けることができる(図2,図6参照)。
図6は図2における部分省略VI−VI拡大断面図である。
図2,図6に示すように,前記一対の面61,62のうちの一方の面61を前記左右一対のスイングアーム支持部31(メインフレーム30L,30Rでもある)のうちの一方のスイングアーム支持部(図示のものでは左方のスイングアーム支持部31L)側に,他方の面62を他方のスイングアーム支持部(図示のものでは右方のスイングアーム支持部31R)側に設け,これら一対の面61,62の間に,各面61,62に固着されかつ車両10の停止時には荷重がかからない減衰部材63を設けることによって,制振装置60を構成することができる。
【0032】
面61は部材61bの下面で構成することができ,面62は部材62bの上面で構成することができる。
部材61bは,第1部材61b1と,この第1部材61b1に対してボルト61dで一体に固定された平板状の第2部材61b2とで構成することができ,第2部材61b2の下面で面61を形成することができる。
第1部材61b1は,クッションユニット22の上端を支持する支持部34bが設けられたアッパクロスメンバ34Uの上部において,左方のスイングアーム支持部31L(左方のメインフレーム30Lでもある)の内面から内方に向かって一体に設けた突片状(板状)の取付部35Lにボルト35b(図2)で一体に固定されている。
【0033】
部材62bは,第1部材62b1と,この第1部材62b1に対してボルト62dで一体に固定された平板状の第2部材62b2とで構成することができ,第2部材62b2の上面で面62を形成することができる。
第1部材62b1は,アッパクロスメンバ34Uの上部において,右方のスイングアーム支持部31R(右方のメインフレーム30Rでもある)の内面から内方に向かって一体に設けた突片状(板状)の取付部35Rにボルト35bで一体に固定されている。
車体フレーム20の剛性保持構造は上述した通りであるから,車両停止時に上記部材61b,62b間に荷重がかからないようにすることが可能である。
【0034】
この設置例の制振装置60によると,左右のスイングアーム支持部31L,31Rにおいて互い違いに生じやすい振動を有効に減衰させることができる。
【0035】
より具体的に説明すると,例えば上述したウィーブモードのような主にヨーイングとローリングの連成振動が発生した場合,車体フレーム20における左右のスイングアーム支持部31L,31Rは互い違いに前後方向に揺動する。
そこでそのような動きにより,減衰部材63に剪断方向の力が作用するように,減衰部材63を平板状の部材61b2,62b2で挟んだ構成とすることにより,上記連成振動を有効に減衰させることができる。
なお,車体フレーム20を上述したアルミ合金製のダイヤモンドフレームで構成して,この例(2)を用い,高減衰ゴムで構成した減衰部材63に,せん断方向に振幅0.1mm,変動荷重+−200N,周波数3Hzの振動を作用させた場合に発生する減衰力を約100Nに設定することで,ウィーブモードの収斂性向上に効果が確認された。
【0036】
(3)設置例(3):図1,図7参照
制振装置60は,サブフレーム40と前側エンジンハンガー部32との間および/または後側エンジンハンガー部33との間に設けることができる(図1,図7参照)。
図7は前側エンジンハンガー部32と後側エンジンハンガー部33とをサブフレーム40で連結した状態を示す図で,(a)は斜視図,(b)は図(a)における部分省略b−b拡大断面図である。
【0037】
図7に示すように,前記一対の面61,62のうちの一方の面61をサブフレーム40側に,他方の面62を前側エンジンハンガー部32側に設け,これら一対の面61,62の間に,各面61,62に固着されかつ車両10の停止時およびエンジン14の停止時には荷重がかからない減衰部材63を設けることによって,制振装置60を構成することができる。同様にして制振装置60はサブフレーム40と後側エンジンハンガー部33との間に構成することもできる。また,制振装置60は左右いずれかのサブフレーム40とエンジンハンガー部との間に設けることもできるし,左右両方のサブフレーム40とエンジンハンガー部との間に設けることもできる。
【0038】
面61は部材61bの内面(車幅方向内側の面)で構成することができ,面62は部材62bの外面で構成することができる。
部材61bは,サブフレーム40の先端(41f)にボルト61dで一体に固定された平板状の部材で構成することができ,部材62bは前側エンジンハンガー部32の下端32bにボルト62dで一体に固定された平板状の部材で構成することができる。
【0039】
サブフレーム40は,前後方向に延びる連結フレーム41と,この連結フレーム41から一体にU字形に垂下された垂下フレーム42とを有し,連結フレーム41の一端(図示のものは後端41r)が後側エンジンハンガー部33にボルト41bで締結され,垂下フレーム42の下部に設けられた固定部20eがエンジン14にボルト42b(図1)で締結されている。連結フレーム41の他端(図示のものは前端41f)は,前側エンジンハンガー部32には締結されておらず,前側エンジンハンガー部32との間に上述した制振装置60が介装されている。
【0040】
したがって,サブフレーム40は車体フレーム20を補強するという役割は果たさないが,サブフレーム40の一部(図示のものは垂下フレーム42)がエンジン14に固定され,かつサブフレーム40とエンジンハンガー部32および/または33との間に制振装置60が設けられていることにより,エンジン14から発生する振動を,制振装置60の作用によって有効に減衰させることができる。
【0041】
(4)設置例(4):図1,図8参照
制振装置60は,メインフレーム(図示のものは左右一対のメインフレーム30L,30R)と,シートレール(図示のものは左右一対のシートレール50L,50R)との間に設けることができる(図1,図8参照)。制振装置60は,図示のように左右両方のシートレールに設けてもよいし,いずれか一方のシートレール50Lまたは50Rと一方のメインフレーム30Lまたは30Rとの間にのみ設けてもよい。
【0042】
図8はメインフレーム(30L,30R)とシートレール(50L,50R)との連結部を示す図で,(a)は連結部を斜め後方から見た斜視図,(b)は図(a)の部分省略側面図である。
図8に示すように,前記一対の面61,62のうちの一方の面61をメインフレーム(30L,30R)側に,他方の面62をシートレール(50L,50R)側に設け,これら一対の面61,62の間に,各面61,62に固着されかつ車両10の停止時には荷重がかからない減衰部材63を設けることによって,制振装置60を構成することができる。
【0043】
面61は基部61cをボルト35bでメインフレーム(30L,30R)に一体的に固定した側面視C字形の部材61bの上面(シートレールとの対向面)で構成することができ,面62は,シートレール(50L,50R)の下面にボルト62dで一体的に固定した平板状の部材62bの下面(メインフレームとの対向面)で構成することができる。面62は,部材62bを介することなく,シートレール(50L,50R)の下面自体で構成することも可能である。なお,図8に示すように,部材61bは前述した設置例(1)における部材61b1または62b1とともにメインフレーム(30L,30R)における取付部35(L,R)にボルト61dで共締めで固定することができる。
【0044】
図1に示すように,シートレール(50L,50R)はその前部が二股に分かれた側面視Y字形の部材であり,その二股に分かれた部分52,53の先端52c,53cが,それぞれボルト54(図8参照)でメインフレーム(30L,30R)における取付部20sに締結固定されている。
したがって,車両停止時,シートレール(50L,50R)に作用する力は取付部20sで受けられるため,部材61b,62b間すなわち減衰部材63に外力が作用しないように構成することができる。
【0045】
この設置例によると,乗員の体重を受けた状態でのシートレール(50L,50R)およびメインフレーム(30L,30R)に生じる振動を有効に減衰させることができる。
シートレールは乗員の体重の多くと積載物の重量を保持する部材である。
したがって,車両走行時,シートレールには,上記の重量(乗員の体重等)が加わった状態で車幅方向に揺動する振動モードが発生する。この振動モードには,シートレールが連結されたメインフレームの振動と連成されるものもある。
この設置例によると,車幅方向に延びる薄板状の減衰部材63を設けることで,メインフレーム(30L,30R)に対してシートレール(50L,50R)が車幅方向へ揺動する振動を有効に減衰させることができる。
【0046】
(5)設置例(5):図3,図9参照
制振装置60は,シートレール(50L,50R)と,シートレール連結部51との間に設けることができる。制振装置60は,図3に示すように左右両方のシートレール50L,50Rとシートレール連結部51とのに設けてもよいし,いずれか一方のシートレール50Lまたは50Rとシートレール連結部51との間にのみ設けてもよい。
【0047】
図9は一方のシートレール50Lとシートレール連結部51との連結部を示す斜視図である。
図9に示すように,前記一対の面61,62のうちの一方の面61をシートレール50L側に,他方の面62をシートレール連結部51側に設け,これら一対の面61,62の間に,各面61,62に固着されかつ車両10の停止時には荷重がかからない減衰部材63を設けることによって,制振装置60を構成することができる。
【0048】
面61は基部61cをボルト61dでシートレール50Lに一体的に固定した平板状の部材61bの下面で構成することができ,面62は,シートレール連結部51の上面にボルト62dで一体的に固定した平板状の部材62bの上面で構成することができる。面62は,部材62bを介することなく,シートレール連結部51の上面自体で構成することも可能である。
【0049】
図3に示すように,左右一対のシートレール50L,50Rは,前後方向における中間部が前述したシートレール連結部51で一体に連結され,後部が後部連結部55で一体に連結され,二股部の下部53同士が下部連結部56で一体に連結されていることで剛性が確保され,前述したように,二股に分かれた部分52,53の先端52c,53cが,それぞれボルト54でメインフレーム(30L,30R)における取付部20sに締結固定されていることによって,車体フレーム20全体としての剛性が確保されている。
したがって,車両停止時に上記部材61b,62b間に荷重がかからないようにすることが可能である。
【0050】
この設置例によると,シートレール連結部51によってシートレール全体の剛性を向上させることができると同時に,シートレール自体に生じる振動を有効に減衰させることができる。
前述したように,シートレールは乗員の体重の多くと積載物の重量を保持する部材である。
積載物の重量は,その都度変化するから,多様の質量付加状態の振動固有値やそのモードを車体フレーム20の剛性でコントロールすることは困難である。
一般に,シートレールの縦(重力)方向に関しては強度および剛性を確保する構造を採る必要がある。一方,シートレールの車幅方向に関しては,剛性を低く抑えてメインフレームとの振動連成を避けることが望ましい。
そのため,車両が高速で走行する場合,特に,シートレール後端に荷物を積載して高速走行する場合,シートレールの車幅方向の振動固有値とそのモードは車両速度と積載状態により大きく変化する。
これに対し,この設置例によると,シートレールとシートレール連結部51との間に車幅方向に延びる薄板状の減衰部材63を設けることにより,シートレール,特にその後端が車幅方向へ揺動する振動を有効に減衰させることができる。
【0051】
(6)設置例(6):図3,図10参照
制振装置60は,車体フレーム20における左右一対のシートレール50L,50Rの間に設けることができる(図2,図3,図5参照)。
図10は図3における部分省略X−X拡大断面図である。
図10に示すように,前記一対の面61,62のうちの一方の面61を前記左右一対のシートレール50L,50Rのうちの一方のシートレール(図示のものでは右方のシートレール50R)側に,他方の面62を他方のシートレール(図示のものでは左方のシートレール50L)側に設け,これら一対の面61,62の間に,各面61,62に固着されかつ車両10の停止時には荷重がかからない減衰部材63を設けることによって,制振装置60を構成することができる。
【0052】
面61は,基部61cをボルト61dで右方のシートレール50Rに一体的に固定した断面U字形の部材61bの上面で構成することができ,面62は,基部62cをボルト62dで左方のシートレール50Lに一体的に固定した断面U字形の部材62bの下面で構成することができる。
シートレール50L,50Rの剛性は上述したようにして保たれているから,車両停止時に上記部材61b,62b間に荷重がかからないようにすることが可能である。
【0053】
車体フレーム20に左右一対のシートレール50L,50Rを設けると,車両走行時,左右のシートレール50L,50Rにそれぞれ異なる振動が発生する場合がある。
これに対し,一方の面61を左右一対のシートレール50L,50Rのうちの一方のシートレール(50R)側に,他方の面62を他方のシートレール(50L)側に設けることで,左右のシートレール50L,50Rに生じる上記振動を有効に減衰させることができる。
【0054】
上述したように,シートレールには多様な振動モードが存在する。
その中でも,車体前後方向に延びるシートレール50L,50Rが左右に曲がるモード(ヨー方向の変形モード),シートレール50L,50Rが左右にねじれるモード(ロール方向の変形モード)が生じると,左右のシートレール50L,50Rが互い違いに揺動し互いの距離に変化が生じる。
この設置例では,上記の構成とすることで,左右のシートレール50L,50Rが上記のモードで振動した場合,減衰部材63が主にせん断方向に変形する。
その結果,シートレール50L,50R(したがって車体フレーム20)の振動が効果的に減衰する。
【0055】
図11は他の実施の形態を示す要部の斜視図である。同図において上述した実施の形態と同一部分ないし相当する部分には同一の符号を付してある。
上述した実施の形態が車体フレーム20に制振装置60を設けたものであったのに対し,この実施の形態は,車体フレーム20とエンジン14との間に制振装置60を設けたものである。
【0056】
この実施の形態は,車体フレーム20とエンジン14との間において,エンジン14および車両10の停止時には相対的に変位せずエンジン作動時または車両の走行時に相対的に変位し得る相対向する少なくとも一対の面61,62を設け,その対をなす面61,62のうちの一方の面61を車体フレーム20側に,他方の面62をエンジン14側に設け,それらの面61,62の間に,各面61,62に固着されかつエンジン14および車両10の停止時には荷重がかからない減衰部材63を設けたものである。
図4に示した制振装置60の基本構成は,図4に示した構造における一方の車体フレーム20をエンジン14に置き換えることによってこの実施の形態にも適用できる。
【0057】
この鞍乗型車両の制振装置60によれば,車体フレーム20とエンジン14との間において,車両10の走行時またはエンジン作動時に相対的に変位し得る相対向する少なくとも一対の面61,62の間に,各面61,62に固着された減衰部材63が設けられているので,エンジン14の作動または車両10の走行によって,一対の面61,62が相対的に変位する振動が発生した場合,その振動が減衰部材63によって減衰させられることとなる。一対の面61,62は車体フレーム20とエンジン14との間に設けられているので,エンジン14から車体フレーム20へと伝達される振動が特に有効に減衰させられる。すなわち,エンジン14および車体フレーム20の制振効果が得られることとなる。
【0058】
そして,エンジン14および車両20の停止時には一対の面61,62は相対的に変位せず,かつ,該一対の面61,62の間において各面61,62に固着された減衰部材63にはエンジン14および車両10の停止時には荷重がかからず,該一対の面61,62が相対的に変位する振動が発生した場合に減衰部材63に荷重(動荷重)が作用するから,減衰部材63による振動の減衰が効果的になされる。その理由は前述した通りである。
【0059】
また,一対の面61,62の間において各面61,62に固着された減衰部材63にエンジン14および車両10の停止時に荷重がかからないということは,この減衰部材63はエンジン14を含む車体フレーム構造の剛性に直列ばねとしては関与しないということである。したがって,この制振装置60によれば,前記減衰部材63が並列ばねとして関与することとなり,剛性の低い弾性部材を用いた場合でもエンジン14を含む車体フレーム構造の剛性を確保することが容易になる。
【0060】
さらに,この制振装置60は,車体フレーム20とエンジン14との間に,エンジン14および車両10の停止時には相対的に変位せずエンジン作動時または車両の走行時に相対的に変位し得る相対向する少なくとも一対の面61,62を設け,該一対の面61,62の間に,各面61,62に固着されかつエンジン14および車両10の停止時には荷重がかからない減衰部材63を設けることで構成できるから,構造を簡素化でき,配置箇所の自由度も向上する。
すなわち,この鞍乗型車両の制振装置60によれば,車体フレーム20の剛性を確保することが容易であり,構造が簡素化できて,配置箇所の自由度も向上するという効果が得られる。しかも,振動発生時には効果的な減衰作用が得られることとなる。
【0061】
図11はこの実施の形態の一つの設置例を示している。
同図に示すように,面61は,車体フレーム20におけるヘッドパイプ21直後の連結プレート30pの下面に固定した平板状の部材61bの下面で構成することができ,面62は,基部62cをエンジン14の適所に一体に固定したU字形の部材62bの上面で構成することができる。
エンジン14は前述したようにエンジンハンガー部32,33に固定されているから,エンジン停止時および車両停止時に上記部材61b,62b間に荷重がかからないようにすることが可能である。
【0062】
走行する自動二輪車には,エンジン14のさまざまな振動が原因で車体フレーム20に強制振動が加わる。
この設置例では,上記の構成とすることで,エンジン14および車体フレーム20の振動を減衰させることができる。
【0063】
また,エンジン14の振動は,ヘッドパイプ21に回動可能に取り付けられた操舵装置STの縦(前後,上下)方向の振動と連成しチャタリングという現象を引き起こすことがある。
この設置例によると,制振装置60はヘッドパイプ21の直ぐ後方に設けられているので,チャタリングも有効に抑制することができる。
【0064】
なお,上述したように,図4に示した制振装置60の基本構成は,図4に示した構造における一方の車体フレーム20をエンジン14に置き換えることによってこの実施の形態にも適用できるから,制振装置60は車体フレーム20とエンジン14との間の適所に設けることが可能である。図7に示した設置例(3)も,本実施の形態の一設置例と見ることができる。
【0065】
以上,本発明の実施の形態について説明したが,本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく,本発明の要旨の範囲内において適宜変形実施可能である。
例えば部材61b,部材62bによって面61,62を構成する場合,これらの部材61b,62b,および減衰部材63からなる制振装置60をオプション品として構成することも可能である。
【符号の説明】
【0066】
10 自動二輪車(車両)
14 エンジン
15 スイングアーム
17 シート
20 車体フレーム
30L,30R メインフレーム
31L,31R スイングアーム支持部
32 前側エンジンハンガー部
33 後側エンジンハンガー部
40 サブフレーム
50L,50R シートレール
51 シートレール連結部
60 制振装置
61,62 一対の面
63 減衰部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームを備えた鞍乗型車両の制振装置であって,
前記車体フレームに,前記車両の停止時には相対的に変位せず車両の走行時に相対的に変位し得る相対向する少なくとも一対の面を設け,該一対の面の間に,各面に固着されかつ前記車両の停止時には荷重がかからない減衰部材を設けたことを特徴とする鞍乗型車両の制振装置。
【請求項2】
前記車体フレームは,左右一対のメインフレームを有しており,前記一対の面のうちの一方の面が前記左右一対のメインフレームのうちの一方のメインフレーム側に,他方の面が他方のメインフレーム側に設けられていることを特徴とする請求項1記載の鞍乗型車両の制振装置。
【請求項3】
前記左右一対のメインフレームの後部には,前記車両の後輪を回転可能に支持するスイングアームを上下方向に揺動可能に支持する,左右一対のスイングアーム支持部が設けられており,前記一方の面が前記左右一対のスイングアーム支持部のうちの一方のスイングアーム支持部側に,他方の面が他方のスイングアーム支持部側に設けられていることを特徴とする請求項2記載の鞍乗型車両の制振装置。
【請求項4】
前記車両はエンジンが搭載される車両であるとともに,前記車体フレームは,前記エンジンの前部に垂下されてエンジンの前部が固定される前側エンジンハンガー部と,前記エンジンの後部に垂下されてエンジンの後部が固定される後側エンジンハンガー部と,これら前側エンジンハンガー部と後側エンジンハンガー部とを連結するサブフレームとを有し,前記一対の面のうちの一方の面が前記サブフレーム側に,他方の面が前記前側エンジンハンガー部側または後側エンジンハンガー部側に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の鞍乗型車両の制振装置。
【請求項5】
前記車体フレームは,前後方向に延びるメインフレームと,このメインフレームから後方に延び,乗員が着座するシートを支持するシートレールとを有し,前記一対の面のうちの一方の面が前記メインフレーム側に,他方の面が前記シートレール側に設けられていることを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の鞍乗型車両の制振装置。
【請求項6】
前記車体フレームは,前後方向に延びるメインフレームと,このメインフレームから後方に延び,乗員が着座するシートを支持する左右一対のシートレールと,これらシートレールを連結するシートレール連結部とを有し,前記一対の面のうちの一方の面が前記左右一対のシートレールのうちの少なくとも一方のシートレール側に,他方の面が前記シートレール連結部側に設けられていることを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか一項に記載の鞍乗型車両の制振装置。
【請求項7】
前記車体フレームは,前後方向に延びるメインフレームと,このメインフレームから後方に延び,乗員が着座するシートを支持する左右一対のシートレールとを有し,前記一対の面のうちの一方の面が前記左右一対のシートレールのうちの一方のシートレール側に,他方の面が他方のシートレール側に設けられていることを特徴とする請求項1〜6のうちいずれか一項に記載の鞍乗型車両の制振装置。
【請求項8】
車体フレームと,この車体フレームに取り付けられたエンジンとを備えた鞍乗型車両の制振装置であって,
前記車体フレームと前記エンジンとの間において,前記エンジンおよび車両の停止時には相対的に変位せずエンジン作動時または車両の走行時に相対的に変位し得る相対向する少なくとも一対の面を設け,その対をなす面のうちの一方の面を車体フレーム側に,他方の面を前記エンジン側に設け,それらの面の間に,各面に固着されかつ前記エンジンおよび車両の停止時には荷重がかからない減衰部材を設けたことを特徴とする鞍乗型車両の制振装置。
【請求項9】
前記減衰部材は,前記各面同士の相対的平行移動で剪断力が作用する板状の高減衰ゴムで構成したことを特徴とする請求項1〜8のうちいずれか一項に記載の鞍乗型車両の制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−189875(P2011−189875A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59143(P2010−59143)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】