説明

飛行時間分析型後方散乱による非破壊3次元ナノメートル分析装置及び飛行時間分析型後方散乱による非破壊3次元ナノメートル分析方法

【課題】集束イオンビームを利用した不純物同定、元素分析、組成、結晶性、表面界面状態をナノメートルオーダーの微小領域で分析可能とする。
【解決手段】3次元可視化する方法として、10nm以下に集束した中エネルギー100〜400keVのイオンを試料に走査照射し、ラザフォード後方散乱されるイオンの飛行時間計測を、2次電子イオンをスタート信号として検出することにより求め、各照射位置に対応したTOF−RBSデータをナノメートル分解能で取得し、時間エネルギー変換により3次元可視化を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集束イオンビームを被測定試料(以下単に試料と記す)に照射した場合に発生する後方散乱イオンの飛行時間(TOF:Time Of Flight)を測定、分析することにより、試料の元素分析や構造分析を行うラザフォード後方散乱分析法(Rutherford Backscattering Spectrometry: 以下RBSと記す)の改良に関する。本発明は、特に微細化が進展している半導体デバイスやその他の微細構造を有する材料表面近傍のナノメートルオーダの領域において、非破壊で、平面(2次元)のみでなく深さ方向も含めた3次元分析が可能な装置に好適である。
【背景技術】
【0002】
不純物同定、元素分布、組成等の計測には、これまで破壊計測法であるSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry 二次イオン質量分析法)等が用いられてきたが、試料の極浅層の計測では深さや濃度の校正が難しく、ビームミキシング等の問題や、破壊計測であることによるスパッタ収量の激減のため、ナノメートルオーダーでの集束イオンビームによる計測は極めて困難であった。一方、SEM(走査型電子顕微鏡)やTEM(透過型電子顕微鏡)のような走査型電子ビーム分析装置では、2次電子像や透過強度像が得られる。しかし、前記の不純物同定、元素分布、組成等の測定を行うためには、EDX(エネルギー分散型X線分析装置)等の電子ビームが励起する2次反応を利用する必要があり、いずれも深さ方向の情報を得るためには破壊計測となってしまうという問題があった。
【0003】
これに対し、集束イオンビームを試料に照射して、そこで後方散乱されるイオンの飛行時間を測定することにより、試料の質量分析を行えるラザフォード後方散乱分析法が知られている。かかる分析法によれば、非破壊で試料の測定を行えるという利点がある。このような飛行時間分析型RBSの一例として、非特許文献1のように連続イオンビームを、通過・不通過を制御するチョッピング手段を用いてパルス状のイオンに変換しており、チョッピング信号を飛行時間の測定基準時刻としていた。これは従来の集束イオンビームの直径が数十ナノメートルであり、ビーム電流の値は30pA以上であり,チョッピング時間幅との関係において実用上連続イオンビームとみなせたからでる。このような方式を、以下の説明では「連続イオンビームのゲートによるパルス化方式」と呼ぶこととする。
【非特許文献1】J.Tajima, S.Kado, Y.K.Park, R.Mimura, and M.Takai. “Medium energy nuclear microprobe with enhanced sensitivity for semiconductor process analysis“, Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 181 (2001)44-48
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
次に本発明との比較対照として別の従来の実施例について、図4を参照して説明する。図4においてイオン源部から発生したイオン、例えばベリリウムイオンは100kVないし200kVが印加された加速電極13によって加速され、図4下方部の試料6を目指して進んで行く。このとき連続イオンビームの進路を偏向させ、パルス状にする目的で設けられたチョッピングプレート72には、図7で示される1MHzの矩形波信号を印加しておく。ここにおいて、チョッピングプレートAとBの電位が同じ場合には、イオンビームは影響を受けず直進し、チョッピングアパーチャ73の中心部に設けられた0.1mm程度の穴を通り抜ける。しかしチョッピングプレートAとBの電位差が一定以上の大きさになると、イオンビームはチョッピングプレートAとBの間の電界の影響を受け進路が偏向され、チョッピングアパーチャ中心部の穴を通過できなくなる。
【0005】
この従来の実施例では1MHz矩形波信号の振幅、立ち上がり時間及び立下り時間を調整することにより1ns幅のゲート時間を作っている。イオン源部から発生したイオンビームは、チョッピングプレートとチョッピングアパーチャ及び1MHzの矩形波信号により、繰り返し周期が500nsで時間幅が1nsのパルス状のイオンとなって試料6に照射される。
【0006】
試料6に照射されたパルス状のイオンは、試料6の表面上で後方散乱されたイオンとなってイオンセンサ51(Micro Channel Plate)に到達し検出される。イオンセンサ51で検出された信号はイオン系増幅器55を通してTOF(飛行時間)計測装置に入力される。図5で示すようにTOF計測装置には内部に高速周波数カウンタであるマルチスケーラが設けられており、チョッピングプレート部からのゲート信号でカウントを開始し、イオンセンサからの信号が到着した時点でカウントを停止するように動作する。
【0007】
図6で示すように、後方散乱されたイオンの飛行時間はTxは、
Tx = Tc−(Ta+Tb)
として計算できる。ここでTaはチョッピングプレート72から試料6までのイオンの飛行時間であり既知の値である。Tbはセンサの遅れ時間でありこれも既知の値である。
以上は一回のイオン照射の説明であるが、実際の分析作業では偏向電極により試料6のX方向、Y方向の所定の場所をスキャンニングして多数のデータを収集し、CPU(コンピュータ)処理により試料6表面近傍の異物等の分布を3次元的に表示部に表示する。
【0008】
この従来の実施例で、ゲート周期を500ns, ゲート時間幅1nsに設定した理由を以下に説明する。表2に、ベリリウムイオンを100kVで加速したイオンビームの場合の、各種金属の後方散乱イオンの飛行時間の例を示す。ゲート周期が被分析元素の飛行時間の最大値よりも短い場合は、ある時刻における後方散乱現象と、それに先行する或は後行する後方散乱現象とが重なってしまう恐れがあり、誤測定を招くこととなる。このためゲート時間としては500nsを選定した。またゲート時間幅は時間分解能の限界を決めることとなるので、実現可能で小さな値として1nsを選定した。
【0009】
【表2】

表2は、BeイオンおよびSiイオンを使用した場合の被分析元素の飛行時間を示す表である。
【0010】
近年においては、例えば半導体回路上のナノメートルオーダの狭い領域における異物などの分析を行いたいという要請がある。かかる要請に応じるべく、イオンビームの太さをナノメートルオーダにまで小さくすると、イオンビーム電流はpA(ピコアンペア)オーダの値となってくる。イオンビーム電流をI[A]とし場合、ベリリウムやシリコン等の一価イオンの電荷量は、
1.6022×10-19[C(クーロン)]
であるので、イオンの平均時間間隔Teは電流値の定義「1A=C/sec」から
Te=1.6022×10-19/I
として表1のように算出される。
【0011】
【表1】

表1は、イオンビーム電流値とイオンの平均時間間隔を示す表である。
【0012】
従来の実施例において、ビームの太さをナノメートルオーダにまで絞ると、表1で示すように、イオンはゲート時間幅1nsとの対比において連続とは見なせず単一化した状態となる。例えばビーム電流が0.3pAの場合には、単一化したイオンの平均時間間隔はほぼ500nsとなる。この状況で分析作業を行うと、即ち「連続イオンビームのゲートによるパルス化方式」で分析作業を行うと、図7及び表1で示すように、1nsのゲート時間内にイオンが一個以上通過するのはビーム電流が160pAよりも大きい場合である。
【0013】
ビーム電流が160pAよりも小さくなると、イオンの平均時間間隔は1nsよりも大きくなり、1nsのゲート時間内に1個以上のイオンが必ず通過するとは限らなくなる。ビーム電流が0.3pAの場合には、単一化したイオンの平均時間間隔はほぼ500nsとなり、またゲート時間とイオンの動きの間には相関関係はないので、1nsのゲート時間内にイオンが通過する確率は1/500となる。これは分析作業の作業効率が1/500となることである。言い方を代えれば分析作業時間が500倍となることであり、従来のようにイオンビーム電流が160pA以上の場合と比較すると、例えば数時間で終了した分析作業が数百時間以上を要することとなり、甚だしい効率低下を招く結果となってしまう。
【0014】
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、測定時間が長くかからず、精度良くラザフォード後方散乱分析法で試料の質量分析を行える分析装置及び分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1の本発明の飛行時間分析型後方散乱による非破壊3次元ナノメートル分析装置は、集束イオンビームを試料に照射することにより、試料から放出された後方散乱イオンの飛行時間に基づいて前記試料の分析を行う分析装置であって、
前記試料から、前記後方散乱イオンと同時に放出される2次電子を検出して第1の検出信号を出力する2次電子検出センサと、
前記試料から放出される前記後方散乱イオンを検出して第2の検出信号を出力する後方散乱イオン検出センサと、
前記第1の検出信号と前記第2の検出信号とを入力し、前記第1の検出信号を入力した時点から、前記第2の検出信号を入力した時点までの時間TDを求め、前記時間TDに基づいて、前記後方散乱イオンの飛行時間を求める演算装置とを有することを特徴とする。
【0016】
第2の本発明の飛行時間分析型後方散乱による非破壊3次元ナノメートル分析方法は、集束イオンビームを試料に照射することにより、試料から放出された後方散乱イオンの飛行時間に基づいて前記試料の分析を行う分析方法であって、
前記試料から、前記後方散乱イオンと同時に放出される2次電子を検出することにより、前記後方散乱イオンの飛行時間を求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、例えば液体金属イオン源からのベリリウム・イオンを集束レンズ系により10ナノメートル以下に集束し、試料上をラスター走査することにより、走査位置からの2次電子と後方散乱イオンをそれぞれ計測することができる。又、2次電子検出センサからの信号をスタートトリガ(基準時刻)として後方散乱イオンの飛行時間を計測することにより、試料中の不純物同定、元素分布、組成、結晶性、表面界面状態等の分析を行うことができる。更に、イオンのラスター走査位置に対応した後方散乱スペクトルデータをコンピュータに上に取り込み、試料中の不純物同定、元素分布、組成、結晶性、表面界面状態等を2次元および3次元分析表示することができる。
【0018】
後方散乱イオンの飛行時間検出には、分析時間の短縮を目的として従来技術の「連続イオンビームのゲートによるパルス化方式」を用いず、イオンが試料表面に照射され、後方散乱された時に同時に発生する2次電子信号をトリガーとして計測する。また測定試料の表面は、2次電子像により観測することができ、狙った局所の3次元計測が可能となる。ここで「飛行時間」とは、集束イオンビームが試料に照射されたことによって生じた後方散乱イオンが放出されたときから、後方散乱イオン検出センサに検出されたときまでをいう。
【0019】
本発明では、後方散乱イオンの飛行時間測定の基準時刻としてゲート時間を使用するのではなく、イオンが試料表面に照射され後方散乱した時に同時に発生する2次電子が2次電子検出センサで検出された時刻を飛行時間測定の基準とする方式とする。この方式によれば、イオン源から発射されたイオンビーム電流のすべてが試料に照射されることとなり、ゲート時間を基準とする従来の方式とほぼ同等の分析時間で分析を実行することができる。
【0020】
従来方式の「連続イオンビームのゲートによるパルス化方式」において、ビーム電流が160pA以上で1時間の分析時間を要した場合比較すると、ビーム電流が0.3pAの場合には500倍の500時間を要することとなり、甚だしい時間の増加をもたらし、実用に耐えないものとなってしまう恐れがある。これに対し、本発明によればビーム電流が0.3pAの場合においても、従来方式とほぼ同レベルの分析時間を実現できる。本発明では単一化したイオンの時間間隔が500ns程度以上である条件で使用可能である。
【0021】
本発明によれば、10ナノメートル以下に集束したイオンビームのラザフォード後方散乱とチャネリング効果を用いたナノメートル分解能の分析装置において、非破壊でナノメートル領域の不純物同定、元素分布、組成、結晶性、表面界面状態等の分析が可能となるばかりでなく、元素分布、組成等については3次元可視化が可能となる。結晶性についても集束イオンのチャネリング軸方向に沿ったラスター走査により、個々の深さのチャネリングコントラスト像を得ることができる。3次元可視化も可能となる。RBS計測は、散乱収量が理論的に決まっており、測定の標準シグナルがあれば絶対測定が可能であり、他の測定法のような深さや濃度の不確定性を含まないという特長を持っている。
【0022】
尚、2次電子の飛行時間をTA、前記2次電子検出センサの応答遅れ時間をTB、前記後方散乱イオン検出センサの応答遅れ時間をTCとしたときに、前記後方散乱イオンの飛行時間TXは以下の式で求めることができる(図3参照)。
TX=(TA+TB+TD)−TC
【0023】
後方散乱イオンは、イオン照射の直進方向に対する後方散乱角度が大きいほど後方散乱後のエネルギーが小さくなる特性を持っている。エネルギーが小さくなることは後方散乱イオンの速度が小さくなることであり、後方散乱後の飛行時間が長くなることを意味する。このため試料上の被測定元素が同一であっても、後方散乱角度が異なると飛行時間が異なることなり、飛行時間から質量を求める分析装置の誤差要因となっている。
【0024】
この後方散乱角度による飛行時間の差は、後方散乱角度が大きく、飛行時間が長くなる場合にはセンサまでの距離を短くし、後方散乱角度が小さく、飛行時間が短くなる場合にはセンサまでの距離を長くすることにより補正するこができる。請求項3の本発明では、イオン検出センサの角度を試料室の外部から調整することにより散乱角度による測定誤差を減少することができる。
【0025】
本発明によれば、標準物質を利用した校正を必要としないナノメートル領域の不純物同定、元素分布、組成、結晶性、表面界面状態等に関する非破壊3次元分析が長時間化せずに可能となるため、ナノメートルオーダにおける構造設計制作のためのプロセスおよび構造分析の唯一の測定手段となるばかりでなく、最先端の半導体集積回路の非破壊局所分析装置として利用できる。特に数百ナノメートル以下の局所部分の表面構造を直接2次元電子像で観測して、狙った局所の非破壊3次元分析が短時間で可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態にかかる分析装置である集束イオンビーム照射装置について説明する。図1は、本実施の形態にかかる集束イオンビーム照射装置の概略構成図である。図1において、CPU39は、操作部37からの操作に応じて、イオン銃9、加速電極13,レンズ系電源部25を駆動制御するためのEOS(電子光学系)制御部31と、ブランキング電極12を駆動制御するためのブランキング制御部33と、偏向電極17を駆動制御するための偏向制御部35と、飛行時間TOFを求めるTOF計測装置41と、試料室4内の真空度を制御する真空系制御部36とを、それぞれ制御し、所定の情報を表示装置38に表示するようになっている。
【0027】
図2は、試料室4内のセンサ近傍を拡大して示す図である。試料室4内においては、イオン照射方向に直交するXY方向に移動可能な試料台5(図1参照)上に、試料6が載置されており、更にその上側にイオンセンサ(後方散乱イオン検出センサ)51と、2次電子検出センサ61が配置されている。イオンセンサ51は、イオン系増幅器55に接続され、後方散乱イオンを検出したことに応じて検出信号(第2の検出信号)をイオン系増幅器55に出力するようになっている。2次電子検出センサ61は、シンチレータとホトマル(光電子増倍管)からなり、2次電子系増幅器65に接続され、2次電子を検出したことに応じて検出信号(第1の検出信号)を2次電子系増幅器65に出力するようになっている。イオン系増幅器55と2次電子系増幅器65は、それぞれ検出信号を増幅して、演算装置としてのTOF計測装置41に入力する。
【0028】
図1に示すように、試料室4の上部に設けられたイオンビームカラム3内において、コンデンサーレンズ15とオブジェクトレンズ19とが高さ方向に沿って離間して設置されており、これらにより不図示の静電レンズの各々の電圧値によって集束イオンビームの焦点位置が制御される。
【0029】
EOS(電子光学系)制御部31は、イオン銃9からイオンを放出させるためのエミッター電源21及び高圧電源22を駆動すると共に、コンデンサーレンズ15とオブジェクトレンズ19を動作するためのレンズ系電源部25を駆動し、更にイオン銃9から放出されたイオンを100〜400keVで加速するための加速電極13に高電圧を印加する高圧電源22を駆動する。
【0030】
ブランキング制御部33は、ブランキング電極12にブランキング回路27を介して電圧を印加することで、イオンを通過させるようにできる。即ち、ここで、試料の分析作業を開始する時点から分析作業の終了時点までの間のみイオンを通過させる動作が行われる。
【0031】
偏向制御部35は、偏向電極17に偏向回路29を介して電圧を印加することで、偏向電極17の間を通過するイオンを付勢して進行方向を変え、これにより試料上をラスター走査できるようになっている。図示されていないが、偏向電極17は直交関係にあるX軸電極とY軸電極から構成され、試料6の表面におけるX軸、Y軸の所定の位置にイオンが照射されるように調整される。
【0032】
次に、本実施の形態にかかる分析方法を説明する。図1において、イオン銃9から放出されたベリリウム・イオン(以下では単にイオンと記す。また図示されていないが、イオン源から下方に延びた破線に沿って下方に進む)は、加速電極13で加速される。尚、ブランキング電極12は、試料の分析作業を行なうときのみ、イオンを通過させるようになっている。
【0033】
その後、コンデンサーレンズ15、オブジェクトレンズ19でイオンの集束等の調整が行われ、偏向電極17により試料室4に配置された試料6表面の所定の位置にイオンが照射される。
【0034】
図2において、試料6表面の所定の位置に向かって放出されたイオンは、そこから後方散乱され、後方散乱イオン52となって、イオンセンサ51に到達し、ここで電気信号に変換される。イオンセンサ51からの電気信号は、更にイオン系増幅器55で増幅された後にTOF計測装置41に入力される。またイオンが試料6表面で後方散乱されると同時に2次電子62が発生する。この2次電子62は2次電子検出センサ61で検出され電気信号に変換される。2次電子検出センサ61からの電気信号は、更に2次電子系増幅器65で増幅された後にTOF計測装置41に入力される。
【0035】
尚、本実施の形態では、2次電子とイオンの移動速度の関係、イオンセンサと2次電子検出センサの配置の関係から、2次電子検出時刻の方がイオン検出時刻よりも必ず早くなるように設計されている。
【0036】
ここで、イオンが試料6に照射されてから、TOF計測装置で測定されるまでの概念を図面を参照して説明する。図3は、イオン照射から、後方散乱イオンの飛行時間計測までのタイムチャートを示す図である。図3において、2次電子飛行時間をTA、2次電子検出センサ61の応答遅れ時間をTB、後方散乱イオン52の飛行時間をTX、イオンセンサ51の応答遅れ時間をTC、TOF計測装置41内のマルチスケーラによる測定値をTDとする。
【0037】
ここで、時間TA,TB,TCは予めデータブック、理論式または実験等により予め求めることができるデータであるので、実際の測定値としてTDが求まれば、後方散乱イオン飛行時間TXは、次式
TX=TA+TB+TD−TC
により求めることができる。ここで、飛行時間TXが短い標的元素(試料)は質量が大きい原子であり、飛行時間TXが長い標的元素は質量が小さい原子であり、即ち飛行時間TXは後方散乱因子で決まる物質固有の値であるので、測定された飛行時間TXより、標的元素の質量分析を行うことができる。
【0038】
また本発明では、後方散乱イオンの散乱角度による飛行時間の差を補正する目的で、
図8に示すように、イオン検出センサ51を試料室外部から操作することのできる角度調整用外部ハンドル53を設けた。角度調整用外部ハンドル53を操作することで、不図示の機構を介して、イオン検出センサ51の後方散乱イオンの散乱角度に対する角度が変わるようになっている。後方散乱イオンは、イオン照射の直進方向に対する後方散乱角度が大きいほど後方散乱後のエネルギーが小さくなる特性を持っている。エネルギーが小さくなることは後方散乱イオンの速度が小さくなることであり、後方散乱後の飛行時間が長くなることを意味する。このため試料上の被測定元素が同一であっても、後方散乱角度が異なると飛行時間が異なることとなり、飛行時間から質量を求める分析装置の誤差要因となっている。
【0039】
この後方散乱角度による飛行時間の差は、イオン検出センサの角度を調整し、後方散乱角度が大きく、飛行時間が長くなる場合にはセンサまでの距離を短くし、後方散乱角度が小さく、飛行時間が短くなる場合にはセンサまでの距離を長くすることにより補正するこができる。本発明によれば、イオン検出センサの角度を試料室の外部から調整することにより、結果として後方散乱角度による測定誤差を減少することができる。
【0040】
以上の説明は、イオン1個あたりの動作について述べたものである。実際の分析作業では、試料6の測定範囲について、イオンビームをラスター走査させることにより、必要量のデータを得ることができる。従来の方法では必要量のデータを得るために長時間例えば数百時間を要したが、本発明によれば短時間例えば数時間で必要量のデータを得ることができる。一旦データが得られれば、コンピュータ処理を加えることにより容易に試料表面と表面近傍物質の三次元分布情報を表示することができる。本発明により、半導体デバイス構造の高集積化、超微細化に伴い半導体表面の極浅不純物分布のナノメートル領域での超高分解能分析が非破壊で短時間で可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本実施の形態にかかる集束イオンビーム照射装置の概略構成図である。
【図2】試料室4内のセンサ近傍を拡大して示す図である。
【図3】イオン照射から、後方散乱イオンの飛行時間計測までのタイムチャートを示す図である。
【図4】従来の実施の形態にかかる集束イオンビーム照射装置の概略構成図である。
【図5】従来の実施の形態の試料室4内のセンサ近傍を拡大して示す図である。
【図6】従来の実施の形態のタイムチャートを示す図である。
【図7】単一化したイオンとゲート時間との関係を示す図である。
【図8】イオン検出センサの角度調整例を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1 イオンビーム
3 イオンビームカラム
4 試料室
5 試料台
6 試料
9 イオン銃
12 ブランキング電極
13 加速電極
15 コンデンサーレンズ
17 偏向電極
19 オブジェクトレンズ
21 エミッター電源
22 高圧電源
25 レンズ系電源部
27 ブランキング回路
29 偏向回路
31 EOS制御部
33 ブランキング制御部
35 偏向制御部
36 真空系制御部
37 操作部
38 表示装置
41 計測装置
51 イオン検出センサ
52 後方散乱イオン
53 角度調整用外部ハンドル
55 イオン系増幅器
61 2次電子検出センサ
62 2次電子
65 2次電子系増幅器
71 チョッピング制御部
72a チョッピングプレートA
72b チョッピングプレートB
73 チョッピングアパーチャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集束イオンビームを試料に照射することにより、試料にて後方散乱された後方散乱イオンの飛行時間に基づいて前記試料の分析を行う質量分析装置であって、
前記試料から、前記後方散乱イオンと同時に放出される2次電子を検出して第1の検出信号を出力する2次電子検出センサと、
前期試料における前記後方散乱イオンを検出して第2の検出信号を出力する後方散乱イオン検出センサと、
前記第1の検出信号と前記第2の検出信号とを入力し、前記第1の検出信号を入力した時点から、前記第2の検出信号を入力した時点までの時間TDを求め、前記時間TDに基づいて、前記後方散乱イオンの飛行時間を求める演算装置とを有することを特徴とする飛行時間分析型後方散乱による非破壊3次元ナノメートル分析装置。
【請求項2】
2次電子の飛行時間をTA、前記2次電子検出センサの応答遅れ時間をTB、前記後方散乱イオン検出センサの応答遅れ時間をTCとしたときに、前記後方散乱イオンの飛行時間TXは以下の式で求められることを特徴とする請求項1に記載の飛行時間分析型後方散乱による非破壊3次元ナノメートル分析装置。
TX=(TA+TB+TD)−TC
【請求項3】
前記後方散乱イオン検出センサのイオン検出面を可変としたことを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の飛行時間分析型後方散乱による非破壊3次元ナノメートル分析装置。
【請求項4】
集束イオンビームを試料に照射することにより、試料にて後方散乱された後方散乱イオンの飛行時間に基づいて前記試料の分析を行う分析方法であって、
前記試料から、前記後方散乱イオンと同時に放出される2次電子を検出することにより、前記後方散乱イオンの飛行時間を求めることを特徴とする飛行時間分析型後方散乱による非破壊3次元ナノメートル分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−241301(P2008−241301A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−78760(P2007−78760)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000127570)株式会社エー・アンド・デイ (136)
【Fターム(参考)】