説明

駆動制御装置

【課題】構造変更や配置変更による熱対策を施すことなしに電動ポンプ用モータのドライバを保護する駆動制御装置を提供する。
【解決手段】駆動力源11に駆動連結された入力部材3の回転駆動力による動作する機械式ポンプMPと、機械式ポンプを補助する電動ポンプEPと、電動ポンプのモータに対する駆動電流を制御する電動ポンプドライバ28とを備えた駆動装置のための駆動制御装置。電動ポンプドライバの温度を評価するドライバ温度評価手段50と、電動ポンプドライバの動作中に前記ドライバ温度評価手段が前記電動ポンプドライバの温度に関する状態で規定された第1警戒状態にあると判定した場合に前記電動ポンプドライバの電源を遮断する電動ポンプ制御手段31とが備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動動力源に駆動連結された入力部材と、前記入力部材の回転駆動力による動作する機械式ポンプと、前記機械式ポンプを補助する電動ポンプと、前記電動ポンプのモータに対する駆動電流を制御する電動ポンプドライバとを備えた駆動装置のための駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術としては、例えば特許文献1に開示されているように、エンジン及びモータ・ジェネレータ(特許文献1の図2の5,6)を駆動力源として備えた車両用駆動装置の駆動制御装置が知られている。特許文献1の駆動制御装置では、エンジンの回転数が所定回転数以下になり、その結果、機械式ポンプの機能が不十分となると、電動オイルポンプ(特許文献1の図2の11)を駆動させ、この電動オイルポンプからの圧油を油圧制御装置(特許文献1の図2の9)に供給して、自動変速機構(特許文献1の図2の8)のクラッチ(特許文献1の図3のC1)の係合等ができるように構成されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−172444号公報(段落番号「0114」〜「0118」、図2,図3,図4,図6,参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1で開示されているような駆動装置では、電動オイルポンプが機械式ポンプを補完する重要な構成要素として用いられている。このような電動オイルポンプはモータの回転駆動力を利用して油圧供給能力を作り出しているが、そのモータの制御のためにモータ駆動電流を供給するモータ用ドライバが使用されている。このドライバには大きな電流が流れるので、相当な自己発熱があり、さらに駆動源等の外部からも熱を受ける。特に、駆動装置が自動車などの車両に搭載されている場合、その駆動源であるエンジンが高負荷運転を行った後に停止した時などでは、走行冷却風も途絶えるので、モータ用ドライバが動作不良を引き起こすような高熱にさらされる可能性がある。また、アイドルストップを実施する車両の場合、アイドルストップ時にはエンジンファンも停止するので、エンジン熱によりエンジン周辺が一時的にかなりの高温となり、やはりモータ用ドライバにとって厳しい熱条件となる。しかしながら、このような厳しい熱条件下におかれる可能性のあるモータ用ドライバに対して構造変更による熱対策や配置変更による熱対策を施すには、コスト上やスペース上の負担が生じる。
上述した実情に鑑み、本発明の目的は、構造変更や配置変更による熱対策を施すことなしに電動ポンプ用モータのドライバを保護する駆動制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための本発明に係る、駆動力源に駆動連結された入力部材と、前記入力部材の回転駆動力による動作する機械式ポンプと、前記機械式ポンプを補助する電動ポンプと、前記電動ポンプのモータに対する駆動電流を制御する電動ポンプドライバとを備えた駆動装置のための駆動制御装置の特徴構成は、前記電動ポンプドライバの温度を評価するドライバ温度評価手段と、前記電動ポンプドライバの動作中に前記ドライバ温度評価手段が前記電動ポンプドライバの温度に関する状態で規定された第1警戒状態にあると判定した場合に前記電動ポンプドライバの電源を遮断する電動ポンプ制御手段とが備えられた点にある。
なお、本願では、駆動力源とは、エンジンや回転電機を含むものであり、さらに「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
【0006】
この特徴構成によれば、ドライバ温度評価手段が電動ポンプドライバの温度状態を評価し、その温度状態が第1警戒状態にあると判定すると、電動ポンプ制御手段がポンプドライバの電源を遮断する。これにより、電動ポンプドライバが自己発熱することがなくなり、電動ポンプドライバの温度がそれ以上上昇して、動作不良を引き起こすようなことが回避される。このように電動ポンプドライバが警戒すべき温度状態になると、制御的にポンプドライバの電源が遮断される構成を採用することにより、頻度の少ない高温発生の対策のための構造変更や配置変更といったハード的な熱対策を不要としたので、無用なコストアップ等の問題を避けることができる。
【0007】
ここで、前記ドライバ温度評価手段が前記第1警戒状態にあると判定した場合に、前記電動ポンプドライバの電源遮断に先立って、前記機械式オイルポンプを駆動させると好適である。電動ポンプドライバの電源遮断にともって電動ポンプが停止することで油圧供給が不能となるが、この構成によれば、電動ポンプの停止の前に、機械式オイルポンプを駆動して油圧供給を行うので、油圧が途切れることがない。つまり、電動ポンプによる油圧供給が行われているときに、第1警戒状態の判定に基づく電動ポンプドライバの電源遮断が起こっても、油圧の供給不足による不都合が回避される。
【0008】
また、上述した第1警戒状態よりも低い温度状態で規定される第2警戒状態を設定しておき、前記ドライバ温度評価手段が、電動ポンプ動作中にその第2警戒状態にあると判定した場合に、前記機械式ポンプを駆動させるとともに前記電動ポンプのモータを停止させることも好適である。この構成によれば、第1警戒状態と判定されるほどの緊急性はないとしも、注意を要する温度状態であると判定されると、電動ポンプのモータを停止させることで、電動ポンプドライバの自己発熱を抑制することができる。その結果、電動ポンプドライバの電源を遮断することなく、電動ポンプドライバの温度状態が第1警戒状態の状態にまで悪化することを回避できる可能性が高くなる。つまり、電動ポンプドライバの電源を遮断するといった非常事態に陥る頻度を少なくすることができる。なお、この場合でも、電動ポンプのモータを停止させた際には、機械式ポンプを駆動させているので、電動ポンプによる油圧供給を機械式ポンプで補完することができる。
【0009】
また、前記電動ポンプドライバの内部温度の検出値に基づいて警戒状態を判定するように前記ドライバ温度評価手段を構成することは好適である。この構成では、電動ポンプドライバの内部温度を直接検出することで、電動ポンプドライバの温度に関する警戒すべき状態を正確に判定することができる。
【0010】
しかしながら、電動ポンプドライバの内部温度を直接検出することが困難な場合がある。また、駆動装置が自動車のような車両に組み込まれたケースでは、電動ポンプドライバの内部温度との間に対応関係がある種々の環境温度(電動ポンプドライバから離れた場所での温度)を検出する温度センサからの検出値を利用できる可能性がある。従って、環境温度に基づいて前記電動ポンプドライバの内部温度の推定値を算定し、当該推定内部温度に基づいて前記警戒状態にあると判定するように前記ドライバ温度評価手段構成することも好適である。特に、元々備わっている温度センサによる検出値を利用する場合には、電動ポンプドライバの内部温度の検出するための機構が不必要となるのでコスト上の利点が大きい。
【0011】
駆動装置が自動車のような車両に組み込まれているとすれば、前記環境温度を、外気温度、前記駆動力源の冷却水温度、前記駆動力源の油温のいずれか又はそれらの組み合わせとすることができる。つまり、電動ポンプドライバの温度を直接検出するのではなく、その他の場所での温度から電動ポンプドライバの内部温度を推定し、この推定された内部温度に基づいて第1警戒状態や第2警戒状態の判定が行われる。特に、回帰分析などの統計的な手法で作成された条件テーブルを用いて複数の環境温度の組み合わせから、推定内部温度を導出するようにすると、高い信頼度で推定内部温度を得ることができ、その結果、高い信頼度で第1警戒状態や第2警戒状態の判定を行うことができる。なお、駆動力源の油温としては、エンジンオイルの油温やトランスアクスルの油温などが含まれる。
【0012】
また、前記ドライバ温度評価手段は、前記電動ポンプドライバの内部温度(上述のように推定される内部温度も含まれる)が前記電動ポンプドライバの動作可能温度未満に設定された警戒領域に達した段階で前記第1警戒状態にあると判定すると好適である。この構成では、電動ポンプドライバの動作可能温度未満で電動ポンプドライバの電源が遮断され、自己発熱が生じなくなるので、多少の温度検出誤差などが生じても電動ポンプドライバを確実に保護することができる。
【0013】
上述したような、本発明による駆動制御装置による電動ポンプドライバ保護機能により電動ポンプドライバが熱害から確実に保護されるので、温度条件が厳しい場所、例えば、駆動源を収容する駆動源収容室に配置することができる。これにより、電動ポンプドライバの配置自在性が向上した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[駆動装置の全体構成]
以下、本発明に係る駆動制御装置を、ハイブリッド車両走行駆動装置のための駆動制御装置として適用された実施態様を例として説明する。まず、図1に基づいて駆動装置1の概略構成について説明する。図1は、駆動装置1及び油圧制御系2の概略構成の模式図を示す。なお、図1において、実線は駆動力の伝達経路を示し、破線は作動油の供給経路を示す。
【0015】
図1に示すように、駆動装置1は、車両駆動用の駆動力源13としてエンジン11と回転電機12とを備え、エンジン11が伝動クラッチ16を介して入力部材3と連結され、この入力部材3に回転電機12が連結されている。これにより、エンジン11と回転電機12とが伝達クラッチ16を介して直列に連結されて、パラレル方式のハイブリッド車両用の駆動装置1が構成されている。
【0016】
回転電機12は、バッテリーやキャパシタ等の蓄電装置(図示せず)と電気的に接続されており、電力の供給を受けると動力を発生するモータ(電動機)として機能するとともに、動力の供給を受けると電力を発生するジェネレータ(発電機)としても機能するように構成されている。エンジン11と回転電機12との間には、エンジン11からの動力を断接可能な伝達クラッチ16が設けられており、この伝達クラッチ16は、後述するライン圧P1の作動油の供給を受けて、油圧制御弁(図示せず)により制御されて動作する。
【0017】
この駆動装置1では、車両の発進時や低速走行時には、伝達クラッチ16が解放されるとともに、エンジン11が停止状態とされ、回転電機12の回転駆動力のみが車輪18に伝達されて走行する。このとき、回転電機12は、図示しない蓄電装置からの電力の供給を受けて駆動力を発生する。そして、回転電機12の回転速度(すなわち車両の走行速度)が一定以上となった状態で、伝達クラッチ16が係合状態とされることにより、エンジン11がクランキングされて始動される。エンジン11の始動後は、エンジン11及び回転電機12の双方の回転駆動力が車輪18に伝達されて走行する。この際、回転電機12は、蓄電装置の充電状態により、エンジン11の回転駆動力により発電する状態と、蓄電装置から供給される電力により駆動力を発生する状態のいずれともなり得る。また、車両の減速時には、伝達クラッチ16が解放されるとともに、エンジン11が停止状態とされ、回転電機12は、車輪18から伝達される回転駆動力により発電する状態となる。回転電機12で発電された電力は、蓄電装置に蓄えられる。車両の停止時には、エンジン11及び回転電機12はいずれも停止され、伝動クラッチ16は解放される。
【0018】
駆動力源13の伝動下流側には、トルクコンバータ14が設けられている。トルクコンバータ14は、入力部材3に連結された入力側回転部材としてのポンプインペラ14aと、変速機構15に連結された出力側回転部材としてのタービンランナ14bと、これらの間に設けられ、ワンウェイクラッチを備えたステータ14cとを備えて構成されており、トルクコンバータ14の内部に充填された作動油を介して、駆動側のポンプインペラ14aと従動側のタービンランナ14bとの間で駆動力の伝達を行う。
【0019】
トルクコンバータ14には、ロックアップクラッチ19が設けられており、ロックアップクラッチ19の係合状態では、作動油を介さずに、駆動力源13の駆動力が直接変速機構15に伝達される。ロックアップクラッチ19を含むトルクコンバータ14には、後述する調整圧P2の作動油が供給される。
【0020】
変速機構15の変速段の切り替え時には、ロックアップクラッチ19が解放されて、作動油を介した駆動力の伝達が行われ、車両の発進時には、ロックアップクラッチ19は係合状態のままで、回転電機12の駆動力による車両の発進が行われる。これにより、車両の発進時に、ロックアップクラッチ19を係合してトルクコンバータ14の滑りを抑制することができ、車両の発進加速性能を高めるとともに、トルクコンバータ14内の作動油の発熱を抑えてエネルギ効率を高めることができる。
【0021】
トルクコンバータ14の伝動下流側には、変速機構15が連結されており、この変速機構15により、トルクコンバータ14を介して伝達される駆動力源13からの動力の回転を、所定の変速比で変速して車輪18側へ伝達できる。変速機構15は、有段の自動変速機で構成されており、各変速段の変速比を生成する歯車機構の回転要素の係合又は解放を行うクラッチやブレーキ等の摩擦係合要素を備えて構成されている。これらの変速機構15の摩擦係合要素は、後述するライン圧P1の作動油の供給を受けて、変速制御用の油圧制御弁29により制御されて動作する。なお、変速機構15を無段の自動変速機で構成してもよく、この場合、ライン圧P1の作動油を供給して、無段の自動変速機における駆動側及び従動側の各プーリを動作させ、無段の自動変速機の変速動作を行う。
【0022】
変速機構15の伝動下流側には、出力部材4が連結され、この出力部材4にディファレンシャル装置17を介して車輪18が接続されている。これにより、駆動力源13から入力部材3に伝達された回転駆動力が変速機構15により変速されて出力部材4に伝達され、この出力部材4に伝達された回転駆動力がディファレンシャル装置17を介して車輪18に伝達されるように構成されている。
【0023】
[油圧制御系の構成]
図1及び図2に基づいて油圧制御系2の構成について説明する。図2は、駆動装置1のための駆動制御装置5における本発明に関連している機能や構成要素を示したブロック図である。図1に示すように、油圧制御系2は、駆動装置1の各部に供給するための油圧源として、機械式ポンプMPと電動ポンプEPの2種類のポンプを備えて構成されている。機械式ポンプMPは、駆動力源13の駆動力により動作するオイルポンプであり、この実施形態では、機械式ポンプMPは、トルクコンバータ14のポンプインペラ14aに連結され、回転電機12の回転駆動力又はエンジン11及び回転電機12の双方の回転駆動力により駆動される。
【0024】
図1及び図2に示すように、電動ポンプEPは、駆動力源13の駆動力とは無関係に、電動モータ20の駆動力により動作するオイルポンプであり、機械式ポンプMPを補助するポンプであって、車両の低速走行中や車両の停止時等において、機械式ポンプMPから必要な流量の作動油が供給されない状態で動作する。
【0025】
また、機械式ポンプMP及び電動ポンプEPから供給される作動油の圧力を所定圧に調整するための圧力調整弁として、第1調整弁(プライマリ・レギュレータ・バルブ)PVと、第2調整弁(セカンダリ・レギュレータ・バルブ)SVとが備えられている。第1調整弁PVは、機械式ポンプMP及び電動ポンプEPから供給される作動油の圧力を所定のライン圧P1に調整する圧力調整弁であり、リニアソレノイド弁SLTから供給される所定の信号圧に基づいて、ライン圧P1(駆動装置2の基準油圧となる圧)を調整する。第2調整弁SVは、第1調整弁PVからの余剰油の油圧を所定の調整圧P2に調整する圧力調整弁であり、リニアソレノイド弁SLTから供給される信号圧に基づいて、第1調整弁PVから排出された余剰油を、その一部をオイルパンにドレンしながら調整圧P2に調整する。
【0026】
リニアソレノイド弁SLTは、第1調整弁PVによる調整後のライン圧P1の作動油の供給を受けるとともに、駆動制御装置5から出力される制御指令値(以下「SLT指令値」という)に応じて弁の開度を調整することにより、SLT指令値に応じた所定の信号圧の作動油を、第1調整弁PV及び第2調整弁SVに出力する。第1調整弁PVにより調整されたライン圧P1の作動油は、変速機構15が備えるクラッチやブレーキ等の摩擦係合要素、伝達クラッチ16等に供給され、第2調整弁SVにより調整された調整圧P2の作動油は、変速機構15の潤滑油路、トルクコンバータ14、ロックアップクラッチ19の制御用のロックアップ制御弁(ロックアップ・コントロール・バルブ)CV等に供給される。
【0027】
ロックアップ制御弁CVは、ロックアップクラッチ19の係合又は解放を行う動作制御用の弁であり、第2調整弁SVによる調整後の調整圧P2の作動油の供給を受けており、ロックアップ制御用のリニアソレノイド弁SLUからの所定の信号圧に応じて弁を開閉することにより、第2調整弁SVにより調整された調整圧P2の作動油をロックアップクラッチ19の油圧室に供給し、ロックアップクラッチ19の係合又は解放の動作を制御する。
【0028】
[駆動制御装置の構成]
次に駆動制御装置5を図2に基づいて説明する。駆動制御装置5には、本発明に特に関係するものとして、各種センサの状態を管理するセンサ管理コントローラ5A、電動ポンプEPの動作を制御する電動ポンプコントローラ5B、各種油圧機器への制御信号を生成出力する油圧制御コントローラ5C、回転電機12の動作を制御する回転電機コントローラ5Dが含まれている。これらの各コントローラは、それぞれ通信機能を有するコンピュータによって構成され、ネットワークを通じて互いにデータ伝送可能となっている。
【0029】
センサ管理コントローラ5Aには、回転数センサ22、圧力センサ23、油温センサ24と、モータ温度センサ25などが接続されている。回転数センサ22は機械式ポンプMPの回転数を検出するために機械式ポンプMPの入力部に取り付けられている。この回転数センサ22により機械式ポンプMPの入力部の回転数を検出する。圧力センサ23は、機械式ポンプMPの吐出口に接続された油路と電動ポンプEPの吐出口に接続された油路とを合流する合流油路に設けられており、この圧力センサ23により機械式ポンプMP及び電動ポンプEPから供給される作動油の圧力を検出する。この実施の形態では、油温センサ24は第1調整弁PVの内部に設けられており、この油温センサ24により機械式ポンプMP及び電動ポンプEPから吐出される作動油(例えば電動ポンプEPのみが駆動している状態では、電動ポンプEPから吐出される作動油)の油温がトランスアクスルの油温として検出される。なお、油温センサ24を異なる位置に接続してもよく、例えば電動ポンプEPの吐出口に接続された油路、電動ポンプEPの内部、又は電動ポンプEPの吐出口に油温センサ24を接続してもよい。モータ温度センサ25は、電動ポンプを駆動するための電動モータ20の温度を検出するものであり、例えば電動モータ20の表面の温度を検出するように構成することができる。さらに、エンジンオイル、エンジン冷却水、回転電機12の冷却媒体などの各種温度を検出する温度センサ群26もセンサ管理コントローラ5Aに接続されている。センサ管理コントローラ5Aは、これらのセンサからの検出値を処理して、そのままあるいは所定のアルゴリズムで判定処理など通じて得られた結果を他のコントローラに送る。
【0030】
回転電機コントローラ5Dには、制御回路を含む回転電機12が接続されており、回転電機コントローラ5Dからの制御信号により、回転電機12の駆動制御が行われる。
【0031】
油圧制御コントローラ5Cには、リニアソレノイド弁SLT及びロックアップ制御用のリニアソレノイド弁SLUが接続されている。リニアソレノイド弁SLTの制御信号となるSLT指令値は、走行負荷やアクセル開度等の各種の車両情報に基づいて、油圧制御コントローラ5Cで決定され、対応する制御信号がリニアソレノイド弁SLTに対して出力される。リニアソレノイド弁SLUは、駆動制御装置5から出力される制御指令値に応じて弁の開度を調整することにより、この制御指令値に応じた所定の信号圧の作動油をロックアップ制御弁CVに対して出力する。
【0032】
電動ポンプコントローラ5Bには、電動ポンプEPを駆動する電動機としての電動モータ20に対する駆動電流を制御する電動ポンプドライバ28が接続されている。この電動ポンプドライバ28はリレー28aを介して蓄電装置と電気的に接続されている。リレー28aの開閉動作は電動ポンプコントローラ5Bからの制御信号により行われる。電動ポンプコントローラ5Bがリレー28aを閉状態にし、電動ポンプドライバ28へ駆動信号を送ることにより、蓄電装置からの電力が電動モータ20に供給されて電動ポンプEPが駆動する。リレー28aが開状態にされると、蓄電装置から電動ポンプドライバ28への給電が遮断されると、電動ポンプEPが停止するが、電動ポンプドライバ28への給電も停止するので、電動ポンプドライバ28における自己発熱もなくなる。また、この実施の形態では、電動ポンプドライバ28には、電動ポンプドライバ28の内部温度を検出するドライバ温度センサ27が組み込まれている。このドライバ温度センサ27による内部温度の検出値は電動ポンプコントローラ5Bに送られる。
【0033】
電動ポンプコントローラ5Bには、ドライバ温度センサ27からの内部温度検出値に基づいて電動ポンプドライバ28の温度を評価するドライバ温度評価手段50と、このドライバ温度評価手段50の評価結果に基づいて電動ポンプEPの駆動を停止させたり、リレー28aを開状態にして電動ポンプドライバ28の電源を遮断したりする電動ポンプ制御手段51とが構築されている。
【0034】
この実施形態では、ドライバ温度評価手段50は、電動ポンプドライバ28の動作可能温度(保証限界温度)から低温側に所定範囲の幅をもつ第1警戒温度領域と、さらにこの第1警戒温度領域の低温側に所定範囲の幅をもつ第2警戒温度領域とを設定している。そして、ドライバ温度センサ27によって検出された内部温度が第1警戒温度領域内に入った場合、ドライバ温度評価手段50は、「第1警戒状態にある」と判定する。また、ドライバ温度センサ27によって検出された内部温度が第2警戒温度領域内に入った場合、ドライバ温度評価手段50は、「第2警戒状態にある」と判定する。つまり、第1警戒状態と第2警戒状態は、電動ポンプドライバ28の温度に関する状態で規定された状態である。電動ポンプ制御手段51は、ドライバ温度評価手段50による評価結果に基づいて種々の制御を行う。
【0035】
ドライバ温度センサ27によって検出された内部温度に基づく電動ポンプコントローラ5Bの制御の流れを図3、図4、図5を用いて説明する。図3は、主にドライバ温度評価手段50における判定処理の動作ルーチンを示しており、図4と図5はドライバ温度評価手段50による評価結果に基づく電動ポンプ制御手段51の緊急割り込み動作ルーチンを示している。
まず、ドライバ温度センサ27から電動ポンプドライバ28の内部温度が取得される(#01)。取得された内部温度に基づいて電動ポンプドライバ28の状態が評価される(#02)。その評価結果に基づいて、まず、内部温度が第1警戒温度領域に入っており、「第1警戒状態にある」と判定されたかどうかがチェックされる(#03)。「第1警戒状態にある」と判定されなかった場合(#03No分岐)、さらに内部温度が第2警戒温度領域に入っており、「第2警戒状態にある」と判定されたかどうかがチェックされる(#04)。このチェックで、「第2警戒状態にある」とも判定されなかった場合(#04No分岐)、電動ポンプドライバ28の温度状態は警戒すべきものではないとして、再び、ステップ#01に戻る。ステップ#04のチェックで「第2警戒状態にある」と判定された場合(#04Yes分岐)、第2警戒割り込みコマンドを発生させて(#05)、ステップ#01に戻る。ステップ#03のチェックで「第1警戒状態にある」と判定された場合(#03Yes分岐)、第1警戒割り込みコマンドを発生させて(#06)、ステップ#01に戻る。
【0036】
第2警戒割り込みコマンドが発生すると、電動ポンプ制御手段51は、図4に示されたような第2警戒割り込み処理を行う。この第2警戒割り込み処理におけるタイムチャート図が図6に示されている。この処理では、まず、リレー28aが開状態で電動ポンプドライバ28の電源が遮断されているかどうかチェックされる(#51)。電動ポンプドライバ28の電源が遮断されている場合(#51Yes分岐)、リレー28aを閉状態にして、電動ポンプドライバ28と電源をつないでおく(#52)。さらに、電動ポンプ20が駆動中であるかどうかがチェックされる(#53)。電動ポンプ20が停止している場合(#04No分岐)、そのままこの処理を終了する。電動ポンプ20が駆動している場合(#04Yes分岐)、機械式ポンプMPを駆動させる(#54)。所定時間後に機械式ポンプMPが所定の回転数に達すると、電動ポンプドライバ28に制御信号を与えて、電動ポンプ20を停止させる(#55)。この電動ポンプ20の停止により、電動ポンプドライバ28の内部温度が低下して、警戒すべき領域から脱している様子が、図6に示されている。
【0037】
また、第1警戒割り込みコマンドが発生すると、電動ポンプ制御手段51は、図5に示されたような第1警戒割り込み処理を行う。この第1警戒割り込み処理におけるタイムチャート図が図7に示されている。この処理では、まず、「機械式ポンプMPが停止中」でかつ「電動ポンプが駆動中」であるかどうかがチェックされる(#61)。「機械式ポンプMPが停止中」でかつ「電動ポンプが駆動中」の場合(#61Yes分岐)、機械式ポンプMPを駆動させる(#62)。次いで、リレー28aを開状態にして、電動ポンプドライバ28の電源を遮断する(#63)。「機械式ポンプMPが停止中」でかつ「電動ポンプが駆動中」でない場合(#61No分岐)、そのまま、ステップ#63に進んで、電動ポンプドライバ28の電源を遮断する。この電動ポンプドライバ28の電源を遮断することにより、電動ポンプドライバ28の自己発熱がなくなるので、電動ポンプドライバ28の内部温度が低下して、緊急領域から脱している様子が、図7に示されている。
【0038】
図7のタイムチャートは、第1警戒割り込みコマンドの発生の前に第2警戒割り込みコマンドが発生しているとの前提で示されており、実際にはそのような制御の流れとなるが、第2警戒域状態、つまり第2警戒温度領域が設定されておらず、第2警戒割り込みコマンドが発生しないような別な実施形態では、とにかく、第1警戒割り込みコマンドが発生すると、この第1警戒割り込みコマンドが解除されるまで、リレー28aが開状態にされ、電動ポンプドライバ28の電源を遮断されることになる。この様子を示すタイムチャートが図8に示されている。
【0039】
この駆動制御装置5によれば、ドライバ温度評価手段50が「第1警戒状態にある」と判定した場合に、必要に応じて機械式オイルポンプMPを駆動させてから電動ポンプドライバ28の電源を遮断して、電動ポンプドライバ28の内部温度を迅速に低下させる。また、第2警戒域状態が設定されている実施形態では、電動ポンプ動作中に、ドライバ温度評価手段50が「第2警戒状態にある」と判定した場合に、機械式ポンプMPを駆動させるように命令するとともに、電動ポンプドライバ28に制御信号を与えて、電動ポンプEPの電動モータ20を停止させ、電動ポンプドライバ28の内部温度の上昇を抑制する。
【0040】
上述した実施の形態では、電動ポンプドライバ28の内部温度は、ドライバ温度センサ27によって直接検出されていたが、これに代えて、ドライバ温度評価手段50が、モータ温度センサ25による電動モータ20の温度や環境温度に基づいて電動ポンプドライバ28の内部温度の推定値を算定し、この推定内部温度に基づいて「第1警戒状態にある」又は「第2警戒状態にある」と判定するように構成してもよい。そのような実施形態では、図9に示すように、ドライバ温度評価手段50に内部温度推定部50aが構築され、この内部温度推定部50aは、センサ管理コントローラ5Aに接続された、外気温センサ26a、エンジン冷却水温センサ26b、エンジン油温センサ26cなどの環境温度センサのうちの少なくとも1つからの検出値を受け取る。内部温度推定部50aは、例えば、外気温度をta、エンジン冷却水温度をtb、エンジン油温をtcとし、これらをパラメータとして推定内部温度:T0を導く、以下に示す回帰式:F、
T0=F(ta,tb,tc)をテーブル化して格納しておくことで、推定内部温度を簡単に算出することができる。このような回帰式:Fは、予め、回帰分析など統計的な手法で求めておくことができる。もちろん、同様に、モータ温度センサ25による電動モータ20の温度をtmとすると、
T0=G(tm)

T0=J(tm,ta,tb,tc)
といった回帰式で推定内部温度を算出する方法を採用することも可能である。
これにより、ドライバ温度評価手段50は、電動モータ20の温度、外気温度、エンジン冷却水温度、エンジン油温などの検出値の組み合わせから推定内部温度を算出し、この推定内部温度に基づいて電動ポンプドライバ28の警戒状態の判定を行うことができる。
【0041】
上述した実施の形態では、各種センサの多くは、センサ管理コントローラ5Aに接続されており、そこから必要なコントローラに送られていたが、このような構成に代えて、各種センサをその検出値が必要なコントローラに直接接続する構成を採用してもよい。また、ドライバ温度センサ27をセンサ管理コントローラ5Aに接続して、そこから電動ポンプコントローラ5Bに送る構成を採用してもよい。
【0042】
上述した実施の形態では、本発明に係る車両用制御装置を、ハイブリッド車両に適用した例を示したが、本発明に係る駆動制御装置の適用範囲はこのようなものに限定されるものではなく、ハイブリッド車両以外の車両、例えば、回転電機12のみを駆動力源とする電動車両や、エンジンのみを駆動力源とする車両等にも適用することも可能である。特に、回転電気12を備えず、車両停止時にエンジンを停止し、電動ポンプEPを駆動して油圧供給するアイドリングストップ車両に好適である。また、定置式の駆動装置に本発明に係る駆動制御装置を適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】駆動装置及び油圧制御系の概略構成を示す模式図
【図2】駆動制御装置のブロック図
【図3】電動ポンプドライバの状態を評価する処理の流れを示すフローチャート
【図4】第2警戒割り込み処理の流れを示すフローチャート
【図5】第1警戒割り込み処理の流れを示すフローチャート
【図6】第2警戒割り込み処理におけるタイムチャート図
【図7】第1警戒割り込み処理におけるタイムチャート図
【図8】別実施形態での第1警戒割り込み処理におけるタイムチャート図
【図9】別実施形態での駆動制御装置のブロック図
【0044】
1 駆動装置
2 油圧制御系
3 入力部材
4 出力部材
5 駆動制御装置
5B 電動ポンプコントローラ
5C 油圧制御コントローラ
5D 回転電機コントローラ
11 エンジン(駆動源)
12 回転電機(駆動源)
20 電動モータ(モータ)
27 ドライバ温度センサ
28 電動ポンプドライバ
28a リレー
50 ドライバ温度評価手段
50a 内部温度推定部
51 電動ポンプ制御部
MP 機械式ポンプ
EP 電動ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源に駆動連結された入力部材と、
前記入力部材の回転駆動力による動作する機械式ポンプと、
前記機械式ポンプを補助する電動ポンプと、
前記電動ポンプのモータに対する駆動電流を制御する電動ポンプドライバと、
を備えた駆動装置のための駆動制御装置において、
前記電動ポンプドライバの温度を評価するドライバ温度評価手段と、前記電動ポンプドライバの動作中に前記ドライバ温度評価手段が前記電動ポンプドライバの温度に関する状態で規定された第1警戒状態にあると判定した場合に前記電動ポンプドライバの電源を遮断する電動ポンプ制御手段とを備えた駆動制御装置。
【請求項2】
前記ドライバ温度評価手段が前記第1警戒状態にあると判定した場合に、前記電動ポンプドライバの電源遮断に先立って、前記機械式オイルポンプを駆動させる請求項1に記載の駆動制御装置。
【請求項3】
前記ドライバ温度評価手段が、電動ポンプ動作中に、前記第1警戒状態よりも低い温度状態で規定された第2警戒状態にあると判定した場合に、前記機械式ポンプを駆動させるとともに前記電動ポンプのモータを停止させる請求項1又は2に記載の駆動制御装置。
【請求項4】
前記ドライバ温度評価手段は、前記電動ポンプドライバの内部温度の検出値に基づいて警戒状態を判定する請求項1から3のいずれか一項に記載の駆動制御装置。
【請求項5】
前記ドライバ温度評価手段は、環境温度に基づいて前記電動ポンプドライバの内部温度の推定値を算定し、当該推定内部温度に基づいて前記警戒状態にあると判定する請求項1から3のいずれか一項に記載の駆動制御装置。
【請求項6】
前記環境温度が、外気温度、前記駆動力源の冷却水温度、前記駆動力源の油温のいずれか又はそれらの組み合わせである請求項5に記載の駆動制御装置。
【請求項7】
前記ドライバ温度評価手段は、前記電動ポンプドライバの内部温度が前記電動ポンプドライバの動作可能温度未満に設定された警戒領域に達した段階で前記第1警戒状態にあると判定する請求項1から6のいずれか一項に記載の駆動制御装置。
【請求項8】
前記電動ポンプドライバが前記駆動源を収容する駆動源収容室に配置されている請求項1から7のいずれか一項に記載の駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−243498(P2009−243498A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87884(P2008−87884)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】