駆動力配分装置
【課題】応答性を犠牲にせずに小型軽量化を図る。
【解決手段】主駆動軸の動力を副駆動軸に伝達する摩擦クラッチ16、摩擦クラッチ16に対する押付け力を発生するピストン36、ピストン36を軸方向移動自在に収納するシリンダ室35、シリンダ室35の油圧を検出する圧カセンサ70、シリンダ室35に圧油を供給する油圧ポンプ48、油圧ポンプ48を正逆転駆動するモータ42と、車両からの指令と圧カセンサ70からの信号を比較して、モータ42の正逆転駆動を制御するコントローラ40を備える。油圧制御弁ユニット44は、油圧ポンプ48の正回転時にシリンダ室35に圧油を供給し、油圧ポンプ48の正回転停止時にシリンダ室35からの圧油の流出を防止し、更に油圧ポンプ48の逆回転時にシリンダ室35の圧油を強制的に排出する。
【解決手段】主駆動軸の動力を副駆動軸に伝達する摩擦クラッチ16、摩擦クラッチ16に対する押付け力を発生するピストン36、ピストン36を軸方向移動自在に収納するシリンダ室35、シリンダ室35の油圧を検出する圧カセンサ70、シリンダ室35に圧油を供給する油圧ポンプ48、油圧ポンプ48を正逆転駆動するモータ42と、車両からの指令と圧カセンサ70からの信号を比較して、モータ42の正逆転駆動を制御するコントローラ40を備える。油圧制御弁ユニット44は、油圧ポンプ48の正回転時にシリンダ室35に圧油を供給し、油圧ポンプ48の正回転停止時にシリンダ室35からの圧油の流出を防止し、更に油圧ポンプ48の逆回転時にシリンダ室35の圧油を強制的に排出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の前輪若しくは後輪若しくは左右輪への駆動トルクの配分制御を摩擦クラッチで行う駆動力配分装置に関し、特に、モータにより油圧ポンプを駆動してピストンシリンダ機構のピストンに直接圧油を供給してクラッチ伝達トルクを制御する駆動力配分装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータにより油圧ポンプを駆動してピストンシリンダ機構のピストンに直接圧油を供給してクラッチ伝達トルクを制御する4輪駆動車用の駆動力配分装置が各種提案されている。
【0003】
図18は従来の駆動力配分装置を示す(特許文献1,2,3)。図18において、クラッチ制御機構125は、モータ142により油圧ポンプ146を駆動して油圧を発生し、この油圧をシリンダ134に供給してピストン136を直接押して軸方向に移動し、押付圧部材138により摩擦クラッチ116を押付けし、伝達トルクを制御している。トルク制御ユニット(ECU)として知られたコントローラ140が車両状態に基づいて決定したトルク指令値になるようにモータ142の回転数を制御する。
【0004】
また従来の別の駆動力配分装置にあっては、モータの正逆回転によりピストンに供給する油圧を増減して摩擦クラッチの伝達トルクを制御し、このとき油圧ポンプの発生油圧をセンサで検出してピストンに供給する油圧を目標油圧に制御しており、更に、モータを高速で逆転する場合にはピストン室と油圧ポンプの間に設けた急速開放弁機構を動作して圧油を逆流させ、モータを低速で回転した場合には急速開放弁機構は動作せず、これと並列に設けたオリフィスを通して圧油を逆流させるようにしている(特許文献4)。
【特許文献1】特開昭62−50235号公報
【特許文献2】特開2004−19768号公報
【特許文献3】特開2004−19769号公報
【特許文献4】特開2001−206092号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようなモータにより油圧ポンプを駆動してピストンに圧油を供給してクラッチ伝達トルクを制御する従来の駆動力配分装置にあっては、油圧ポンプの内部洩れ、あるいはピストン室と油圧ポンプとの間に設けられたオリフィス等の排油手段からの圧油洩れがあるために、摩擦クラッチの伝達トルクを保持するにはモータに常に電流を流してピストンに圧油を供給し続ける必要があるという問題がある。
【0006】
通常、4輪駆動車では、摩擦クラッチの伝達トルクを最大状態に保持したまま長時間走行できる機能が求められている。この機能を満たすためには、従来装置では連続定格の大きなモータを使う必要があり、システムが大型化して重量も重くなり、コストが高くなるという問題がある。
【0007】
また、小型軽量化のために小さなモータを使用する場合には、油圧ポンプの容量を小さくしなければならず、結果として応答性が悪くなるという間題がある。すなわち、応答性は良いが重く大きいシステムとするか、あるいは応答性は悪いが軽く小さなシステムとするかという2者択一を迫られている。
【0008】
本発明は、応答性を犠牲にせずに小型軽量化、低コスト化を可能とする駆動力配分装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、摩擦クラッチによって動力を伝達する装置であって、
油圧によって摩擦クラッチに対し押し付け力を発生するピストンと、
ピストンを軸方向に移動自在に収納するシリンダ室と、
正転時にシリンダ室に圧油を供給する油圧ポンプと、
油圧ポンプを駆動するモータと、
油圧ポンプとシリンダ室の間にあって、シリンダ室からの圧油の逆流を防止する第1逆流防止弁と、
モータが逆転時に、シリンダ室の圧油を排出する制御弁機構と、
シリンダ室の油圧を検出する圧カセンサと、
外部からの信号により求めた目標伝達トルクと前記圧カセンサからの信号に基づいてモータの正逆転駆動を制御する制御部とを備え、
制御部は、モータが正転時にシリンダ室の油圧を上昇させ、正転から停止させた時に油圧を保持し、逆転時には油圧を低下させるように動作することで、摩擦クラッチの伝達トルクが目標伝達トルクとなるように制御することを特徴とする。
【0010】
ここで、制御弁機構は、
油圧ポンプに設けた2つのポートを、ポンプ正回転時に吐出ポートとなりポンプ逆回転時に吸入ポートとなる第1ポンプポートと、ポンプ正回転時に吸入ポートとなりポンプ逆回転時に吐出ポートとなる第2ポンプポートとした場合、
第1ポンプポートとタンク室との間に配置され、ポンプ正回転時に第1ポンプポートからタンク室への圧油の逆流を防止し、ポンプ逆回転時に開放してタンク室からの油を第1ポンプポート側に供給して吸入させる第2逆流防止弁と、
第2ポンプポートとタンク室との間に配置され、ポンプ正回転時に開放してタンク室からの油を第2ポンプポートに供給して吸入させ、ポンプ逆回転時に閉鎖して第2ポンプポートから圧油を強制開放制御油圧として供給させる第3逆流防止弁と、
シリンダ室とタンク室との間に配置され、ポンプ正回転時に閉鎖してシリンダ室からタンク室への圧油の逆流を防止し、ポンプ逆回転時に第3逆流防止弁の閉鎖で供給される強制開放制御油圧により強制開放してシリンダ室の圧油をタンク室へ排出させる強制開放弁機構と、
を備えたこと特徴とする。
【0011】
強制開放弁機構は、
シリンダ室の圧油を受けてタンク室への排出流路を閉鎖する逆流防止弁と、
ポンプ正回転時に後退して逆流防止弁の弁体の閉鎖位置への移動を許容し、ポンプ逆回転時に第3逆流防止弁の閉鎖で供給される強制開放制御油圧により前進して逆流防止弁の弁体を開放位置に押し出し移動させるスプール弁と、
を備える。
【0012】
強制開放弁機構の逆流防止弁は、軸方向に形成したスプール穴の一端に連通する排出流路の流入側に弁座を形成し、シリンダ室の圧油により押圧されて流路を閉鎖する弁体を弁座に配置し、
スプール弁は、スプール穴に対し逆流防止弁の排出流路からの圧油をタンクに排出するドレインポートと強制制御圧油を供給する制御ポートを設け、スプール穴にスプール弁体を軸方向に自在に配置し、前記スプール弁体は後部に前記制御ポートからの圧油により前進移動させる第1ピストン部を形成すると共に、先端部に逆流防止弁の排出流路内に位置する第2ピストン部を形成し、第2ピストン部は先端側から後方に向けて隙間が変化する形状であり、スプール弁体の前進に応じて排出流量を増加させる。
【0013】
強制開放弁機構は、タンク室への連通路を共通接続して圧油循環系を構成し、共通接続部にストレーナを配置する。
【0014】
制御部は、前記摩擦クラッチの目標トルクを所定のトルクに保持する場合、モータの通電により前記油圧ポンプを正回転した状態で圧力センサの検出圧力が目標トルクに応じた第1設定圧力に達した時にモータ通電を停止してポンプを停止し、ポンプ停止状態で圧力センサの検出圧力が第1設定圧力より低い第2設定圧力に低下する毎に、第1設定圧力に回復するまでモータの通電によるポンプ正回転を繰り返す。
【0015】
また、摩擦クラッチの目標トルクが車両状態に応じて時々刻々変化する場合は、目標トルクとなるようにモータの正逆転を制御する。
【0016】
本発明による制御弁機構の別の形態にあっては、
モータの正回転を油圧ポンプに伝達し、モータの逆回転でフリーとなるポンプ駆動用ワンウェークラッチと、
モータの逆回転を伝達し、モータの正回転でフリーとなる油圧開放用ワンウェークラッチと、
シリンダ室とタンク室との間に配置され、油圧開放用ワンウェークラッチを介して伝達されるモータの逆回転により強制開放してシリンダ室の圧油をタンク室へ排出させる強制開放弁機構と、
を備えたこと特徴とする。
【0017】
本発明による制御弁機構の別の形態にあっては、
油圧ポンプに設けた2つのポートを、ポンプ正回転時に吐出ポートとなりポンプ逆回転時に吸入ポートとなる第1ポンプポートと、ポンプ正回転時に吸入ポートとなりポンプ逆回転時に吐出ポートとなる第2ポンプポートとした場合、
モータの逆回転を伝達し、モータの正回転でフリーとなる油圧開放用ワンウェークラッチと、
シリンダ室とタンク室との間に配置され、油圧開放用ワンウェークラッチを介して伝達されるモータの逆回転により強制開放してシリンダ室の圧油をタンク室へ排出させる強制開放弁機構と、
を備えたこと特徴とする。
【0018】
本発明による制御弁機構の別の形態にあっては、
油圧ポンプに設けた2つのポートを、ポンプ正回転時に吐出ポートとなりポンプ逆回転時に吸入ポートとなる第1ポンプポートと、ポンプ正回転時に吸入ポートとなりポンプ逆回転時に吐出ポートとなる第2ポンプポートとした場合、
第1ポンプポートとタンク室との間に配置され、ポンプ正回転時に第1ポンプポートからタンク室への圧油の逆流を防止し、ポンプ逆回転時に開放して前記タンク室からの油を前記第1ポンプポート側に供給して吸入させる第2逆流防止弁と、
モータの逆回転を伝達し、モータの正回転でフリーとなる油圧開放用ワンウェークラッチと、
シリンダ室と前記タンク室との間に配置され、ワンウェークラッチを介して伝達されるモータの逆回転により強制開放してシリンダ室の圧油を前記タンク室へ排出させる強制開放弁機構と、
を備えたこと特徴とする。
【0019】
ここで、強制開放弁機構は、
シリンダ室の圧油を受けてタンク室への排出流路を閉鎖する逆流防止弁と、
油圧開放用ワンウェークラッチを介して伝達されるモータの逆回転により移動して逆流防止弁の弁体を開放位置に押し出し移動させるスプール弁と、
を備える。
【0020】
更に、駆動力配分装置の制御部は、
車両始動時にモータを逆回転させて強制開放弁機構の作動によりシリンダ室の油圧を開放し、この状態で圧力センサの検出値を読み込んで零点補正値として保存する圧力センサ零点学習部と、
車両の運用中に読み込まれた圧力センサの検出値を零点補正値により補正する検出圧力補正部と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、摩擦クラッチのトルクを最大トルクなどの所定の値に保持する場合にはモータによるポンプ正回転でシリンダ室に供給する圧油が所定の設定圧力に達したらモータ通電を遮断して油圧ポンプを停止し、この状態で強制開放油圧制御弁ユニットによりシリンダ室からの圧油のタンク側への逆流を防止するため、連続定格の短い小さなモータを使った場合にも、摩擦クラッチの伝達トルクを長時間保持することができる。
【0022】
また摩擦クラッチのトルク伝達を解除する際には、モータによるポンプ逆回転で発生する開放制御油圧により油圧制御弁ユニットを動作してシリンダ室の圧油をタンク側に排出しており、モータの逆回転による圧油排出でないことから、連続定格の短い小さなモータに合わせて油圧ポンプの容量を小さくしても、摩擦クラッチのトルク低減時の応答性を高めることができるため、小型軽量、安価にできる。
【0023】
またトルクを保持するためにモータに電流を流し続ける必要がないため、制御部の電流容量を小さくでき、制御部を小さく、安価、耐久性向上ができる。更に、車両としてもモータを駆動するエネルギーが節約でき、燃費を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は本発明による駆動力配分装置を後輪駆動をベースとした四輪駆動車用トランスファーケースに適用した場合の実施形態を示した断面図であり、モータによる油圧ポンプからの圧油によるピストンの駆動で摩擦クラッチの伝達トルクを制御することを特徴とする。
【0025】
図1において、トランスファーケースは、ケース10を有し、ケース10の左側に、エンジンからの回転を自動変速機あるいは手動変速機を介して入力する入力軸12が設けられ、入力軸12は副変速機構11を介して後輪出力軸14に直結されている。
【0026】
副変速機構11は図示しないシフト機構によりシフトギア13がHポジションとLポジションの2段に切替られる。図示のシフトギア13の位置となるHポジションでは入力軸12を後輪出力軸14に直結した状態となり、摩擦クラッチ16を開放した2Hもしくは摩擦クラッチ16により前輪への駆動トルクを制御する4Hオート/ロックを選択することができる。
【0027】
また、シフトギア13をLポジジョンにシフトすると、副変速機構11の遊星歯車機構による減速回転(キャリア回転)を後輪駆動軸に出力し、且つカップリングスリーブ15を15aに示すように前輪側のスプロケットギア28と一体設けたクラッチギアに連結して後輪駆動軸に直結し、4Lロックとしている。
【0028】
後輪出力軸14と同軸には摩擦クラッチ16が設けられる。摩擦クラッチ16はクラッチハブ22を後輪出力軸14に固定し、クラッチドラム24を後輪出力軸14に対し回転自在に設けたスプロケットギア28に連結している。後輪出力軸14と平行には、反対側に動力を取り出す前輪出力軸20がケース10に設けられており、前輪出力軸20にはスプロケットギア30が一体に形成されており、摩擦クラッチ16側のスプロケットギア28との間にチェーンベルト18を掛けて連結している。
【0029】
このようなトランスファーケースにおいて、副変速機構11のシフトギア13をLポジションにシフトした4Lロックの際には、摩擦クラッチ16の制御は行われず、クラッチハブ22とクラッチドラム24間が切り離され、その代わりカップリングスリーブ15の15aに示す位置へのシフトでスプロケットギア28を後輪出力軸14に直結し、後輪出力軸14の駆動力をスプロケットギア28、チェーンベルト18、スプロケットギア30を介して前輪出力軸20に直接伝達している。
【0030】
また副変速機構11のシフトギア13をHポジションにシフトした4Hオート/ロックの際には、摩擦クラッチ16が制御状態となり、入力軸12からの回転を、後輪出力軸14、伝達トルク制御状態にある摩擦クラッチ16、スプロケットギア28、チェーンベルト18、スプロケットギア30を介して前輪出力軸20に伝達する。
【0031】
摩擦クラッチ16に対しては、クラッチハブ22とクラッチドラム24の間に設けた複数枚のクラッチプレート26のクラッチ締結力を制御するクラッチ制御機構が設けられる。このクラッチ制御機構は、モータ42により油圧制御ユニット44に内蔵した油圧ポンプを駆動し、油圧ポンプからの圧油を摩擦クラッチ16の右側に配置したシリンダ34に摺動自在に設けたピストン36の右側のシリンダ室35に供給し、ピストン36を左側にストロークさせ、スラストベアリング32を介して押付け部材38でクラッチプレート26を押し、クラッチ締結力を増加させ、伝達トルクを制御する。
【0032】
モータ42、油圧ポンプを内蔵した油圧制御弁ユニット44、シリンダ34、ピストン36及び押付部材38からなるクラッチ制御機構は、電子制御ユニット(ECU)として知られたコントローラ(制御部)40により制御される。
【0033】
コントローラ40には、プログラムの実行により実現される機能として、圧力センサ零点学習部40a、検出圧力補正部40b及び制御部40cが設けられる。
【0034】
コントローラ40に対しては車両状態センサ46が接続されており、車両状態センサ46としては車速、舵角、2輪/4輪駆動切替え等をセンサ信号E1としてコントローラ40に出力する。
【0035】
また油圧制御弁ユニット44には油圧ポンプからピストン36の右側のシリンダ室に供給している圧油の圧力を検出する圧力センサが内蔵されており、この圧力センサからの圧力検出信号E2がコントローラ40に入力されている。
【0036】
コントローラ40の制御部40cは、車両状態センサ46からの信号に基づく車両の運転モードに応じたクラッチ伝達トルクとなるように駆動信号E3によりモータ42を正逆回転する。
【0037】
図2は、本実施形態における4輪駆動車の運転モードの一覧であり、副変速機構付きの場合、副変速機構における高速と低速の2段切替選択と前後輪間の駆動力配分モードとの組合せとなり、ドライバーが任意に運転モードを選択できる。なお、副変速機構がない場合には、前後輪間の駆動力配分制御モードのみとなる。
【0038】
図2の運転モード一覧における前後輪間の駆動力配分制御モードは次のようになる。
【0039】
(1)2WD
摩擦クラッチ16を切り離した状態で、後輪だけで駆動するモードである。舗装路走行などで、燃費を良くしたい場合に選択する。
【0040】
(2)4WDオート
車両状態検出センサからの信号に基づいて、コントローラ40により前後輪間の駆動力を自動で最適状態に制御するモードである。摩擦クラッチ16の伝達トルクは0〜最大トルクの範囲で時々刻々変化する。ドライバーは路面状態を気にする必要は無く、常時このモードを選択可能である。
【0041】
(3)4WDロック
摩擦クラッチ16の伝達トルクを最大トルクに保持するモードである。悪路走行などで4WDとしての走破性を最大限に発揮したい場合に選択する。
【0042】
このような駆動力配分制御モードに対応して、本実施形態の駆動力伝達装置は次のような動作を行う。
【0043】
(1)2WD
シリンダ室35の圧油を排出した後、モータ42の通電をオフする。
【0044】
(2)4WDオート
コントローラ40は時々刻々変化する目標伝達トルクに対し、摩擦クラッチ16の伝達トルクを一致させるべくモータ42ヘの印加電流を調節する。モータ48は正逆転することでシリンダ室35へ圧油を供給したり、図3に示す強制開放弁機構56の動作で圧油を排出してシリンダ室35の圧力を制御する。
【0045】
(3)4WDロック
コントローラ40は摩擦クラッチ16の伝達トルクが最大となるまでモータ42を正転させた後、モータ42の通電をオフする。シリンダ室35の圧力を常時監視し、所定の圧力より低下した場合には、圧力を回復させるべく再びモータ35を正転させる。この制御の繰返しで、略最大トルクを保持する。
【0046】
図3は図1のモータ42による油圧ポンプ駆動で摩擦クラッチ16の伝達トルクを制御する本発明の油圧制御弁ユニット44の実施形態を示した説明図である。図3において、油圧制御弁ユニット44にはモータ42により正逆転駆動される油圧ポンプ48が設けられている。
【0047】
油圧制御弁ユニット44はモータ42による油圧ポンプ48の正回転時にクラッチ制御機構25のシリンダ室35に圧油を供給し、ピストン36を左方向にストロークさせてスラストベアリング32を介して押付部付38を押すことで摩擦クラッチ16におけるクラッチハブ22とクラッチドラム24の間に設けたクラッチプレート26の締結力を変化させ、クラッチ伝達トルクを制御する。
【0048】
またモータ42による油圧ポンプ48の正回転からの停止時に、シリンダ室35からの圧油の流出を防止し、シリンダ室35に圧油を保持して摩擦クラッチ16におけるクラッチ伝達トルクを保持する。更にモータ42による油圧ポンプ48の逆回転時にシリンダ室35の圧油を強制的に排出する。
【0049】
このような油圧制御弁ユニット44の制御機能を実現するため、油圧ポンプ48に対する油圧回路の構成機器として第1逆流防止弁50、第2逆流防止弁52、第3逆流防止弁54、強制開放弁機構56、ストレーナ66を設けている。強制開放弁機構56は逆流防止弁58とスプール弁60で構成されている。
【0050】
また油圧制御弁ユニット44は図1に示したようにケース10内に収納されており、ケース内にタンク室68を形成し、タンク室68から油圧ポンプ48に対する流入通路の吸い込み部分にストレーナ66を配置している。
【0051】
油圧ポンプ48は第1ポンプポートP1と第2ポンプポートP2を有する。第1ポンプポートP1はモータ42による油圧ポンプ48の正回転時に圧油をシリンダ室35に供給し、一方、逆回転時にはタンク室68側から油を吸入する。これに対し第2ポンプポートP2はモータ42による油圧ポンプ48の正回転時にタンク室68側から油を吸入し、ポンプ逆回転時には圧油を出力する。
【0052】
第1逆流防止弁50は油圧ポンプ48の第1ポンプポートP1とシリンダ室35との間に設けられ、油圧ポンプ48の正回転時に圧油をシリンダ室35に供給し、一方、ポンプ停止時及び逆回転時にはシリンダ室35からの圧油の逆流を阻止する。
【0053】
第2逆流防止弁52は第1ポンプポートP1とタンク室68側に設けたストレーナ66との間に設けられ、油圧ポンプ48の正回転時に第1ポンプポートP1からタンク室68側への圧油の逆流を防止し、ポンプ逆回転時は開放して、タンク室68からの油をストレーナ66を介して第1ポンプポートP1から吸入させる。
【0054】
第3逆流防止弁54は油圧ポンプ48の第2ポンプポートP2とタンク室68側に設けたストレーナ66との間に設けられ、油圧ポンプ48側の正回転時に開放してタンク室68側からの油を第2ポンプポートP2に給油させ、ポンプ逆回転時には閉鎖して第2ポンプポートP2からの圧油を強制開放弁機構56に対し強制開放制御油圧として供給させる。
【0055】
強制開放弁機構56はシリンダ室35とタンク室68との間に配置され、油圧ポンプ48の正回転時にあってはスプール弁60のポートP4に対する強制開放制御油圧が得られないことから、逆流防止弁58を図示のように閉鎖状態としてシリンダ室35からタンク室68への圧油の逆流を防止する。
【0056】
一方、油圧ポンプ48の逆回転時には第3逆流防止弁54の閉鎖で供給される油圧ポンプ48の第2ポンプポートP2からの強制開放制御油圧によりスプール弁60を前進させて逆流防止弁58を強制的に開放し、シリンダ室35の圧油をポートP3からタンク室68に排出させるようにしている。
【0057】
さらに油圧制御弁ユニット44には圧力センサ70が設けられる。圧力センサ70はシリンダ室35に供給されている圧油の圧力を検出し、圧力検出信号E2をコントローラ40に出力している。
【0058】
コントローラ40は、図1の車両状態センサ46からの信号E1に基づく4WDオート時において、車両からの信号により求めた目標トルクとなるようにシリンダ35室の油圧の昇降を制御することが本実施形態の駆動力配分装置の基本機能であるが、その目標トルクの変化は車両の状態によってさまざまである。
【0059】
すなわち、ゆっくり変化させたい場合もあれば、急激に変化させたい場合もある。油圧の上昇は油圧ポンプ48の回転速度で制御するため、ゆっくり変化させる場合にはモータ42の回転速度を少なく、また急激に変化させたい場合は回転速度を早くすることで制御可能である。
【0060】
一方、油圧を低下させる場合は強制開放弁機構56の開閉により制御するが、弁開度があまりにも急激に変化するとシリンダ室35の油圧が急激に低下して制御することが困難になる。そのため、強制開放弁機構56に設けたスプール弁60の排出移動量に対して初期は逆流防止弁58の隙間面積が小さく、排出移動量が増加するに従って隙間面積を増加するようにしている。
【0061】
それにより、目標トルクの変化が少ないときは強制開放弁機構56に設けたスプール弁60の排出移動量が少ない状態で制御され、目標トルクの変化が大きいときは強制開放弁機構56に設けたスプール弁60の排出移動量を大きくすることで、シリンダ室35からの圧油の排出速度を制御することができる。
【0062】
強制開放弁機構56に設けたスプール弁60の移動はモータ42による油圧ポンプ48の逆回転により制御されるが、モータ42ヘの電流量は目標トルクと圧カセンサ70の検出値から求めた現状トルクとの差に基づいてPID制御により決定される。
【0063】
すなわち、目標トルクと現状トルクの差が少ない場合は、モータ42ヘの電流は少なくスプール弁60の排出移動量も小さいため、シリンダ室35からの圧油の排出速度は小さくなり、圧力変化は緩やかになる。
【0064】
また、目標トルクと現状トルクの差が大きい場合にはモータ42ヘの電流は大きくスプール弁60の排出移動量は大きくなるため、シリンダ室35からの圧油の排出速度は大きくなり、素早く目標に近づくことができる。
【0065】
このようにしてコントローラ40は4WDオート時のクラッチ伝達トルクの制御につき、圧力の上昇時、下降時ともモータ42のPID制御により統一的に制御が可能になる。
【0066】
コントローラ40は図1の車両状態センサ46からの信号E1に基づく4WDロックの際には、モータ駆動信号E3によりモータ42を正回転して油圧ポンプ48の第1ポンプポートP1からシリンダ室35に圧油を供給し、このシリンダ室35の圧油が圧力センサ70で検出されて圧力検出信号E2としてコントローラ40にフィードバックされる。
【0067】
コントローラ40は圧力検出信号E2による検出圧力が4WDロックに対応した摩擦クラッチ16の最大伝達トルクに対応した第1圧力設定値TH1としたときにモータ42の正回転を停止する。これによって油圧制御弁ユニット42はシリンダ室35に4WDロックを維持するための最大トルク伝達に必要な圧油を保持する。
【0068】
シリンダ室35に既定の圧油を保持したモータ42の停止中にあっては、シリンダ室35等からのわずかな油の漏洩などにより圧力が低下すると、圧力センサ70からの圧力検出信号E2が第1圧力設定値TH1より低い第2圧力設定値TH2に低下したときにモータ42を正回転して再び元の第1圧力設定値TH1にさせる間欠駆動を繰り返している。
【0069】
その後、コントローラ40に対し車両状態センサ46側から2WDポジションへの切替を指示する信号E2が入力すると、コントローラ40はモータ駆動信号E3によりモータ42を逆回転し、これに伴う油圧ポンプ48の逆回転で強制開放弁機構56によるシリンダ室35の圧油の強制排出が行われ、摩擦クラッチ16のトルク伝達が解除されて2WD状態となる。
【0070】
図4は本実施形態における4WDオート/ロックにおいてシリンダ室の圧力を上昇する場合のモータ正回転時の動作を示した説明図である。図4において、モータ42を正回転すると油圧ポンプ48は第2ポンプポートP2から油を吸入し、第1ポンプポートP1から圧油を出力する。
【0071】
このため油圧ポンプ48による第1ポンプポートP1からの圧油の供給に伴い第3逆流防止弁54が開放し、ストレーナ66から油を吸入させる。また第1ポンプポートP1からの圧油の出力で第1逆流防止弁50が開き、シリンダ室35に矢印Aに示すように圧油を供給する。
【0072】
このとき第2逆流防止弁52は第1ポンプポートP1からの圧油を受けて閉鎖している。また強制開放弁機構56のスプール弁60のポートP4に対する強制開放制御油圧はタンク圧であり、従ってスプール弁60のスプール弁体は矢印で示すように後退し、これによって逆流防止弁58の強制開放が解除され、逆流防止弁58はシリンダ室35に供給する圧油を受けて閉鎖状態となっている。
【0073】
図5は本実施形態における正回転中のモータを停止したときの状態を示した説明図である。図5において、油圧ポンプ48を正回転しているモータ42を停止すると、シリンダ室35に供給した圧油を受けて第1逆流防止弁50が閉鎖し、これによってシリンダ室35からの矢印Bで示すような圧油の逆流を阻止する。同時に強制開放弁機構56の逆流防止弁58も閉鎖しており、シリンダ室35の圧油はモータ42を停止したときの圧力に保持される。
【0074】
図5のモータ42を停止したシリンダ室35の圧油の保持状態にあっては、シリンダ室35等からの圧油の漏洩により時間の経過に伴って徐々に圧力が低下することがある。
【0075】
図6は本実施形態における図5のモータ停止中にシリンダ室の圧油を保持するモータ制御のタイムチャートである。図6(A)はモータ電流であり、図6(B)にシリンダ室35の油圧Pを示している。
【0076】
図6(A)のように時刻t1でモータ42の正回転を開始すると、シリンダ室35の油圧Pはほぼ直線的に増加し、予め設定した第1圧力設定値TH1に達した時にモータ42の正回転を停止し、図5の圧油保持状態とする。
【0077】
その後、時間の経過にともなってシリンダ室35の油圧Pは徐々に低下し、時刻t3で第2圧力設定値TH2に達するとモータ42を再び正回転し、第1圧力設定値TH1に回復させて停止させる。このようなモータ42の間欠的な圧力低下に伴う正回転を繰り返すことでシリンダ室35の油圧Pを4WDロックを維持するための略最大トルクの伝達状態に保持する。
【0078】
このように本実施形態にあってはシリンダ室35の圧油を略最大伝達トルクの圧油に保持する状態で基本的にはモータ42の通電を停止しており、漏洩により低下したときに回復するために一時的にモータ42を回転する動作を繰り返しており、シリンダ室35に圧油を保持するためにモータ42に対し継続的に電流を供給する必要がなく、本実施形態で使用するモータ42としては連続定格の小さい小型のモータを使用することができ、小型化に伴い設置スペースが低減でき、また重量も軽量化され、さらにモータ消費電流が低減することで車両の燃費を改善することもできる。
【0079】
図7は本実施形態におけるモータ逆回転時の動作を示した説明図である。図7において、図5に示したシリンダ室35に圧油を保持した状態からシリンダ室の圧力を低下し、伝達トルクを下げたい場合には、モータ42を逆回転する。
【0080】
これに伴う油圧ポンプ48の逆回転により第1ポンプポートP1から油を吸入して第2ポンプポートP2に出力する。このため第1ポンプポートP1からの油の吸入に伴い、第2逆流防止弁52が開放してストレーナ66側から油を第1ポンプポートP1に吸入させる。
【0081】
このとき第1逆流防止弁50はシリンダ室35からの圧油を受けて閉鎖状態となる。また第3逆流防止弁54は油圧ポンプ48の第2ポンプポートP2からの圧油を受けて閉鎖状態にある。このためストレーナ66及び第2逆流防止弁52を介して第1ポンプポートP1から吸入された油は油圧ポンプ48で加圧されて第2ポンプポートP2に出力され、第3逆流防止弁54が閉鎖している状態から矢印Cに示すように強制開放弁機構56に設けているスプール弁60のポートP4に強制開放制御油圧を供給する。
【0082】
強制開放制御油圧を受けたスプール弁60はスプール弁体64を矢印で示すように前進させ、逆流防止弁58の弁体を押し出して強制的にポートP3に至る排出流路を開放し、このためシリンダ室35の圧油は矢印Dで示す経路をへて排出され、シリンダ室35の圧力は低下し、伝達トルクが低下する。
【0083】
図8は図7のモータ逆回転時のスプール弁60におけるスプール弁移動量Lに対する排出流路の隙間面積Sとの関係を示した特性グラフの説明図である。本実施形態にあってはスプール弁60のスプール弁移動量Lの増加に対し、隙間面積Sは最初は増加割合が低いが、移動量Lが増えると急激に隙間面積Sが増加する特性となっている。
【0084】
本実施形態にあっては、コントローラ40が、図1の車両状態センサ46からの信号E1に基づく4WDオート時において、車両からの信号により求めた目標トルクとなるようにシリンダ35室の油圧の昇降を制御しており、その目標トルクの変化は車両の状態によってさまざまである。
【0085】
すなわち、ゆっくり変化させたい場合もあれば、急激に変化させたい場合もある。油圧の上昇は油圧ポンプ48の回転速度で制御するため、ゆっくり変化させる場合にはモータ42の回転速度を少なく、また急激に変化させたい場合は回転速度を早くすることで制御可能である。
【0086】
一方、油圧を低下させる場合は強制開放弁機構56の開閉により制御するが、弁開度があまりにも急激に変化するとシリンダ室35の油圧が急激に低下して制御することが困難になる。
【0087】
そのため、図8に示すように、強制開放弁機構56に設けたスプール弁60のスプール移動量Lに対して、初期は逆流防止弁58の隙間面積Sが小さく、スプール移動量Lが増加するに従って隙間面積Sを増加するようにしている。
【0088】
それにより、目標トルクの変化が少ないときは強制開放弁機構56に設けたスプール弁60のスプール移動量が少ない状態で制御され、目標トルクの変化が大きいときは強制開放弁機構56に設けたスプール弁60のスプール移動量を大きくすることで、シリンダ室35からの圧油の排出速度を制御することができる。
【0089】
強制開放弁機構56に設けたスプール弁60の移動はモータ42による油圧ポンプ48の逆回転により制御されるが、モータ42ヘの電流量は目標トルクと圧カセンサ70の検出値から求めた現状トルクとの差に基づいてPID制御により決定される。
【0090】
すなわち、目標トルクと現状トルクの差が少ない場合は、モータ42ヘの電流は少なくスプール弁60のスプール移動量も小さいため、シリンダ室35からの圧油の排出速度は小さくなり、圧力変化は緩やかになる。
【0091】
また、目標トルクと現状トルクの差が大きい場合にはモータ42ヘの電流は大きくスプール弁60のスプール移動量は大きくなるため、シリンダ室35からの圧油の排出速度は大きくなり、素早く目標に近づくことができる。
【0092】
このようにしてコントローラ40は4WDオート時のクラッチ伝達トルクの制御につき、圧力の上昇時、下降時ともモータ42のPID制御により統一的に制御が可能になる。
【0093】
図9は本実施形態における強制開放弁機構56の構造と動作を示した説明図である。図9(A)は油圧ポンプ42が正回転時で、スプール弁60のポートP4に油圧ポンプ42の吸入負圧が加わった状態であり、スプール弁体64は右端に当接して後退した位置にあり、スプール弁体64の前方に配置された逆流防止弁58のボール弁体76はバネ78により弁座74に押圧されて排出流路72を閉鎖している。
【0094】
図10は図9のスプール弁体64を取り出して示した説明図である。図10において、スプール弁体64は後部に第1ピストン80を形成し、先端に第2ピストン82を形成している。第2ピストン部82は先端から後方に向けてストレート部84、第1テーパ部86、第2テーパ部88を形成している。
【0095】
ストレート部84は図9(A)の排出流路72との間にわずかな隙間を持っている。第1テーパ部86はストレート部84に続いて緩やかに径を絞っている。第2テーパ部88は第1テーパ部86に続いて急激に径を絞っている。
【0096】
図9(B)(C)(D)はスプール弁60のポートP4に対する強制開放制御油圧を順次増加させてスプール弁体64を前方に移動させたときの動作を示している。図9(B)はスプール弁体64が前進して先端の第2ピストン部82を逆流防止弁58のボール弁体76に当接した状態であり、シリンダ室35に連通しているポートP6からの圧油の排出は行われない。
【0097】
図9(C)はスプール弁64を更に前進させた場合であり、スプール弁体64の先端によりボール弁体76を押し出すことで弁座74から離し、これによって逆流防止弁58の排出流路72が開放し、矢印D1で示すようにポートP6から伝通しているシリンダ室35からの圧油がタンク室に伝通しているポートP3に排出される。
【0098】
このときスプール弁体64の図10に示した第1テーパ部86がボール弁体76の押し出しに伴い排出流路72の流入開口部に位置しており、従って第1テーパ部86の絞込みに伴う隙間面積に応じて排出流量が得られる。
【0099】
図9(D)は更にスプール弁体64を前進してボール弁体76を押し出した状態であり、このとき排出流量72の開口部に図10に示したスプール弁体64の第2テーパ部88が位置しており、隙間面積が最大となって十分な流量で矢印D2で示すようにポートP6が連通しているシリンダ室35からの圧油をタンクに連通しているポートP3に排出することができる。
【0100】
ここでテーパ部は2段に限定することなく、連続的に変化するものでも良い。
【0101】
この図10に示したスプール弁体64を使用した図9に示すスプール弁体64の動きで図8に示すスプール弁体移動量Lに対する隙間面積Sの特性が得られている。
【0102】
このように本実施形態にあっては、シリンダ室35からの圧油の排出を、従来のようにオリフィスからの排出もしくは油圧ポンプの内部の隙間からの排出に頼らず、スプール弁60の動作による逆流防止弁58の強制開放で行っているため、連続定格の短い小型のモータ42の使用に伴い油圧ポンプ48のホンプ容量が小さくなっても、シリンダ室35からの圧油の排出を高速に行うことができ、4WDオート/ロック時の伝達トルク調整の応答性を十分に確保できる。また、4Wロック、4WDオートから2WDへの切替えも素早くできる。
【0103】
図11は本実施形態における逆回転の途中でモータを停止した場合の動作を示した説明図である。図11において、モータ42を逆回転状態から停止すると、スプール弁60に対する油圧ポンプ48の第2ポンプポートP2からの圧油は、ストレーナ66を介したタンク側となる第2逆流防止弁52及び第3逆流防止弁54が共に閉鎖していることからそのときの強制開放制御油圧を保持し、スプール弁60のスプール弁体64は停止時のスプール位置を保つ。このため停止時の排出流路の開口面積に応じた圧油の排出がシリンダ室35からポートP3に対し継続して行われる。
【0104】
ここでモータ42の停止状態でシリンダ室35の圧油を受けてスプール弁体64を右方向に押す力が加わっているため、スプール弁体64の隙間を通って点線の矢印Eに示すように、ポートP4側の強制開放制御圧を持つ圧油が排出され、スプール弁体64は右方向に徐々に後退移動する。
【0105】
従ってシリンダ室35に圧油が残っている状態でモータ42の逆回転を停止したとしても、ある程度の時間はかかるがスプール弁体64のポートP4側の圧油もポートP3に排出されてタンク圧に戻ることができる。
【0106】
図12は本実施形態における油圧制御弁ユニットの油圧回路を実態的に示した説明図であり、図13は図12の回路の具体的な構造を示した説明図である。図12において、それぞれの要素は図3に対応している。
【0107】
図13(A)は断面図を示し、図13(B)は正面図を示している。図13(A)から明らかなように、本実施形態にあっては、油圧制御弁ユニットを三枚のブロック部材92−1,92−2,92−3を重ね合わせて実現している。この3枚のブロック部材92−1〜92−3の重ね合わせにより、図13(B)に示す図2の油圧制御弁ユニット44における各機器の配置とそれらを連結する油路が形成されている。
【0108】
即ち図13(A)の中央のブロック部材92−2の位置に図13(B)におけるギアポンプを用いた油圧ポンプ48が配置され、第1逆流防止弁50、第2逆流防止弁52、第3逆流防止弁54及び強制開放弁機構56に設けている逆流防止弁58及びスプール弁60は、図13(A)の上部のブロック部材92−1内に組み込み配置される。
【0109】
また図13(B)における破線で示す油路は図13(A)の例えば第2逆流防止弁52と第3逆流防止弁54を伝通する油路94に示すように一番下のブロック部材92−3に形成されている。
【0110】
この図13の具体的な実施形態にあっては、本実施形態における油圧制御弁ユニット44は3枚のブロック部材92−1〜92−3の重ね合わせによる回路形成と回路機器の組み込みにより、少ないスペースでコンパクトに作ることができ、全体としての小型軽量化を容易に達成することができる。
【0111】
ここで、本実施形態における実際の組み込み構造は、図13に限定されず、図2に示した油圧制御弁ユニット44の回路及び回路機器を実現する構造であれば適宜の構造とすることができる。
【0112】
図14は2つのワンウェークラッチを使用して制御弁機構の排油動作をモータ逆回転により機械的に行う他の実施形態を示した説明図である。
【0113】
図14におい、本実施形態の油圧制御ユニット44はモータ42の駆動軸45をポンプ駆動用ワンウェークラッチ96を介して油圧ポンプ48に連結しており、また駆動軸45に対して設けた油圧開放用ワンウェークラッチ98により駆動される強制開放弁機構56を設けている。
【0114】
ここでモータ42を後ろ側から見て矢印Fに示す左回転を正回転とし、矢印Gで示す右回転を逆回転とすると、ポンプ駆動用ワンウェークラッチ96及び油圧開放用ワンウェークラッチ98は次のように動作する。
【0115】
モータ42のモータ駆動軸45を矢印Fのように正回転した場合、ポンプ駆動用ワンウェークラッチ96はロック状態となって、モータ駆動軸45の回転を油圧ポンプ48に伝達し、ストレーナ66を介してタンク室側からポートP2により吸入した油を加圧し、ポートP1から第1逆流防止弁50を介して加圧制御機構のシリンダ室35に油圧を供給する。
【0116】
これに対しモータ42を矢印Gに示すように逆回転した場合には、ポンプ駆動用ワンウェークラッチ96はフリーとなり、油圧ポンプ48の逆回転は行われない。
【0117】
一方、油圧開放用ワンウェークラッチ98については、逆にモータ42の矢印Fで示す正回転でフリーとなり、矢印Gで示す逆回転でロック状態となってモータ駆動軸45の回転を伝達し、強制開放弁機56を開放動作させる。
【0118】
図15は油圧開放用ワンウェークラッチ98とこれにより作動される強制開放弁機構56をモータ軸方向から見た状態で示している。
【0119】
図15(A)は油圧開放用ワンウェークラッチ98の初期状態であり、油圧開放用ワンウェークラッチ98のアウターレース側にはカム100が設けられている。
【0120】
カム100は回転角に対し径が直線的に増加するカム形状を備えている。カム100に対してはカムフォロワー104を介して強制開放弁機構56に設けているスプール弁60のスプール弁体64の下部が当接されている。
【0121】
スプール弁60は図3の実施形態と同じであり、より具体的には図9に示したように第1ピストン部80と第2ピストン部82を備え、第2ピストン部82を逆流防止弁50との弁通路に位置させ、第2ピストン部82の形状は図10に示したようにストレート部84、第1テーパ部86及び第2テーパ部88を備えている。
【0122】
更に油圧開放用ワンウェークラッチ98のアウターケース側に取り付けたカム100に対しては、図示の初期位置に戻すためのリターンスプリング105が設けられている。
【0123】
図15(B)は図14でモータ42を逆回転した場合の動作を示している。強制開放弁機構56を作動してシリンダ室35から油圧をタンク室側に配置する場合には、モータ42を矢印Gに示すように逆回転する。
【0124】
この場合には図15(B)に示すようにモータ駆動軸45の矢印Gに示す逆回転で油圧開放用ワンウェークラッチ98がロック状態となり、モータ駆動軸45と一体にカム100が逆回転し、カムフォロワー104を介してスプール弁体64を矢印Hに示すように押し上げる。
【0125】
このためスプール弁体64の第2ピストン部82が逆流防止弁50のポール弁体を押し上げて流路を開き、シリンダ室35からの圧油がポートP6から矢印Iに示すように強制開放された逆流防止弁50を通ってポートP3からタンク室側に排油される。
【0126】
このときのスプール弁体64の移動に対する第2ピストン部82の隙間面積の関係は図8に示した特性となる。
【0127】
図14の実施形態におけるモータ42の制御は図3の実施形態と同様、コントローラ40により行われ、例えば4WDオートの制御を例にとると、シリンダ室35の圧力が目標トルクに対応した目標圧力より小さいときはモータ42は正回転してポンプ駆動用ワンウェークラッチ96を介して油圧ポンプ48を駆動することで圧力を上昇させる。
【0128】
シリンダ室35の圧力が目標圧力より大きいときはモータ42は逆回転し、油圧開放用ワンウェークラッチ98を介してスプール弁体64を押し上げることで強制開放弁機構56を駆動してシリンダ室35の圧油を開放して圧力を低下させる。
【0129】
図16は図14の実施形態における油圧開放用ワンウェークラッチ98による強制開放弁機構56の機械的な駆動の他の実施形態を示している。
【0130】
図16の実施形態にあっては、モータ駆動軸45に設けた油圧開放用ワンウェークラッチ98のアウターケース側にドライブギア106を取付け、ドライブギア106に対し扇形のドリブンギア108を軸110を中心に回転自在に噛み合い配置させ、ドリブンギア108の側端に強制開放弁56に設けたスプール弁体64の下端を搭載させている。
【0131】
またドリブンギア108には図16(A)の初期位置に戻すためのリターンスプリング112が設けられている。
【0132】
図16(B)はモータ逆回転時の油圧開放動作を示している。モータ駆動軸45が矢印Gに示すように逆回転されると、油圧開放用ワンウェークラッチ98がロック状態となり、アウターケース側のドライブギア106も逆回転し、ドリブンギア108が矢印Jに示す方向に回動し、スプール弁体64を押し上げる。
【0133】
このスプール弁体64の押し上げにより逆流防止弁50との連通路に位置している第2ピストン部82がポール弁体を押し上げて隙間面積を増大し、これによってポートP6に接続しているシリンダ室35からの圧油を矢印Iに示すようにポートP3からタンク室側に排出して圧力を下げることができる。
【0134】
図17は油圧開放用ワンウェークラッチのみを使用して制御弁機構の排油動作をモータ逆回転により機械的に行う他の実施形態を示した説明図である。
【0135】
図17の実施形態は図14の実施形態を示したポンプ駆動用ワンウェークラッチ96を取り除いて油圧開放用ワンウェークラッチ98のみとしている。また油圧駆動用ワンウェークラッチを除いたことに伴い、油圧ポンプ48のポートP1、P2の間に第2逆流防止弁52を備えたバイパス回路114を設けている。
【0136】
図17の実施形態の動作は次のようになる。モータ42を矢印Fで示す正回転した場合には、モータ駆動軸45は油圧ポンプ48に直結されていることから油圧ポンプ48が駆動され、ストレーナ部66を介してポートP2から油を吸入し、ポートP1より第1逆流防止弁50を介してシリンダ室35に油圧供給し圧力を増加させる。このとき油圧開放用ワンウェークラッチ98はフリーとなっている。
【0137】
シリンダ室35の圧力を低下させる場合にはモータ42を矢印Gに示すように逆回転する。モータ42の逆回転を行うと油圧開放用ワンウェークラッチ98がロック状態となって図15(B)に示したようにアウターケース側に取り付けたカム100を逆回転させてスプール弁体64を押し上げ、これによって逆流防止弁50の伝通路の隙間面積を増加させ、ポートP6からシリンダ室35の圧油を矢印Iに示すようにポートP3側に排出し、シリンダ室35の圧力を低下させる。
【0138】
このようにシリンダ室35の圧油を排出するためのモータ42の逆回転時油圧ポンプ48の逆回転すると、正回転時とは逆にポートP1側が給油ポート、ポートP2側がタンクポートとなるが、第2逆流防止弁52を備えたバイパス回路114が設けられているため、油圧ポンプ48の逆回転により油はバイパス回路14を介して循環し、油圧ポンプ48の逆回転でポートP1側が真空状態になることは起きない。
【0139】
これに対し第2逆流防止弁52のバイパス回路14を設けていない場合には、油圧ポンプ48の逆回転によりポートP1側から油が吸入されてポートP2に吐出されるため、第1逆流防止弁50とポートP1の間が真空状態に引かれることになる。
【0140】
このためモータ42を逆回転してシリンダ室35の油圧を低下した後に、モータ42を正回転してシリンダ室35の圧力上昇に切り替えた場合、ポートP1側の真空分を埋める油を余分に供給する必要があり、このためシリンダ室35の圧力上昇の応答が遅れることになる。
【0141】
このようなモータ42を逆回転から正回転に切り替えたときのシリンダ室35の圧力上昇の応答遅れは、第2逆流防止弁52を備えたバイパス回路114を設けることで解消されている。
【0142】
図17の実施形態においてもモータ42は図3に示したコントローラ40により制御される。例えばコントローラ40による4WDオートの制御を例にとると、摩擦クラッチの目標伝達トルクに対応した目標圧力に対し、圧力センサ70で検出しているシリンダ室35の圧力が小さいときはモータ42を正回転して油圧ポンプ48を駆動することで圧力を上昇させる。
【0143】
シリンダ室35の圧力が目標圧力より大きいときは、モータ42を逆回転して強制開放弁機構56を駆動してシリンダ室35の圧油を排出することで圧力低下させる。
【0144】
更に本発明の他の実施形態としてモータ42を正回転したときのシリンダ室35の圧力上昇の応答の遅れが許される場合にあっては、図17の実施形態に設けている第2逆流防止弁52付きのバイパス回路114を除いた構成としてもよい。これにより第2逆流防止弁52付きのバイパス回路114を除いた分だけ装置構成を簡単かつ小型化して低コスト化することが可能である。
【0145】
次に図2のコントローラ40に設けた圧力センサ零点学習部40a及び検出圧力補正部40bによる圧力センサ70の零点学習制御を説明する。
【0146】
本実施形態を適用する4輪駆動車において、摩擦クラッチ16の伝達トルク零付近は重要な意味を持つ。すなわち、舗装路のタイトなコーナーリング中のブレーキ現象(タイトコーナーブレーキング)はユーザに不快感を与えるため、この状態では伝達トルクを可能な限り零に近づけたい。
【0147】
しかしながら、本実施形態は圧カセンサ70の圧力検出信号E2の信号電圧をコントローラ40にフィードバックしているため、センサ精度がそのままトルク伝達精度に影響を与える。
【0148】
圧力センサ70の精度はフルスケール値に対する誤差として保証されるため、圧力零付近では実圧力に対する圧力検出信号E2の誤差が最も大きくなる。圧力センサ70の精度を決定する代表的な誤差要因として、固体バラツキ、耐久劣化、温度ドリフトが挙げられる。
【0149】
この問題を解決するため本実施形態にあっては、コントローラ40に圧力センサ零点学習部40aと検出圧力補正部40bを設け、圧力センサ70の零点学習制御を行なって、圧力センサ70バラツキ要因の内の固体バラツキ、耐久劣化を補正する。
【0150】
圧力センサ零点学習部40aは、車両始動時にモータ48を逆回転させて強制開放弁機構56の作動によりシリンダ室35の油圧を開放し、この状態で圧力センサ70の検出値を読み込んで零点補正値ΔPとして保存する。零点補正値ΔPは検出値が零以下であればプラスの値であり、零以上であればマイナスの値となる。
【0151】
検出圧力補正部40bは、圧力センサ零点学習部40aにより零点補正値を保存した後の車両の運用中に読み込まれた圧力センサ70の検出値を零点補正値零点により補正する。
【0152】
図18は本実施形態の圧力センサ零点学習部40aによる圧力センサ零点学習処理を示したフローチャートであり、車両の始動時に毎回実行される。図18において、まずステップS1でモータ48を逆回転させて強制開放弁機構56の作動によりシリンダ室35の油圧を開放させる。
【0153】
続いてステップS2でステップS1のモータ逆転駆動による油圧開放が完全に行なわれる所定時間の経過を待ってステップS3に進み、この状態で圧力センサ70の検出値を読み込んで零点補正値ΔPとして保存し、ステップS4でモータ48を停止して処理を終了する。
【0154】
図19は本実施形態の検出圧力補正部40bによる圧力センサ補正処理を示したフローチャートである。図19において、ステップS1で圧力センサ70の検出値Pが読み込まれると、ステップS2に進み、検出値Pに図18の圧力センサ零点学習処理で得られている零点補正値ΔPを加算して補正する。このため圧力センサ70の検出値の実圧力に対する誤差が補正され、例えば舗装路のタイトなコーナーリング中の伝達トルクを可能な限り零に近づける高精度の制御が可能となり、圧力零点付近の誤差に起因した伝達トルクの発生によるブレーキ現象(タイトコーナーブレーキング)によるユーザの不快感を解消し、適切なコーナーリングの操安性を得ることができる。
【0155】
なお、本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、また上記の示した数値による限定は受けない。
【図面の簡単な説明】
【0156】
【図1】本発明による4輪駆動車用駆動力分配装置の実施形態を示した断面図
【図2】本実施形態における運転モードの一覧を示した説明図
【図3】本発明における油圧制御弁ユニットの実施形態を示した説明図
【図4】本実施形態におけるモータ正回転時の動作を示した説明図
【図5】本実施形態における正回転したモータを停止した時の動作を示した説明図
【図6】本実施形態におけるモータ停止中にシリンダ室の圧油を保持するモータ制御のタイムチャート
【図7】本実施形態におけるモータ逆回転時の動作を示した説明図
【図8】本実施形態におけるスプール弁移動量と隙間面積の関係を示したグラフ図
【図9】本実施形態における強制開放弁機構の構造と動作を示した説明図
【図10】図9のスプール弁体を取り出して示した説明図
【図11】本実施形態における逆回転の途中でモータを停止した場合の動作を示した説明図
【図12】本発明の具体的な実施形態を示した説明図
【図13】本発明の具体的な他の実施形態を示した説明図
【図14】2つのワンウェークラッチを使用して制御弁機構の排油動作をモータ逆回転により機械的に行う他の実施形態を示した説明図
【図15】ワンウェークラッチによりカムを回転して排油する図14の制御弁機構の説明図
【図16】ワンウェークラッチによりギアを回転して排油する図14の制御弁機構の説明図
【図17】単一のワンウェークラッチを使用して制御弁機構の排油動作をモータ逆回転により機械的に行う他の実施形態を示した説明図
【図18】本実施形態における圧力センサ零点学習処理を示したフローチャート
【図19】本実施形態における圧力センサ補正処理を示したフローチャート
【図20】モータによる油圧駆動で摩擦クラッチの伝達トルクを制御する従来のクラッチ制御機構を示した説明図
【符号の説明】
【0157】
10:ケース
11:副変速機構
12:入力軸
14:後輪出力軸
16:摩擦クラッチ
18:チェーンベルト
20:前輪出力軸
22:クラッチハブ
24:クラッチドラム
25:クラッチ制御機構
26:クラッチプレート
28,30:スプロケットギア
32:スラストベアリング
34:シリンダ
35:シリンダ室
36:ピストン
38:押付部材
40:コントローラ
40a:圧力センサ零点学習部
40b:圧力センサ補正部
40c:制御部
42:モータ
44:油圧制御弁ユニット(制御弁機構)
46:車両状態センサ
48:油圧ポンプ
50:第1逆流防止弁
52:第2逆流防止弁
54:第3逆流防止弁
56:強制開放弁機構
58:逆流防止弁
60:スプール弁
62:スプール穴
64:スプール弁体
66:ストレーナ
68:タンク室
70:圧力センサ
72:排出流路
74:弁座
76:ボール弁体
78:バネ
80:第1ピストン部
82:第2ピストン部
84:ストレート部
86:第1テーパ部
88:第2テーパ部
90−1〜90−3,92−1〜92−3:ブロック部材
94:油路
96:ポンプ駆動用ワンウェークラッチ
98:油圧開放用ワンウェークラッチ
100:カム
104:カムフォロワー
105,112:リターンスプリング
106:ドライブギア
108:ドリブンギア
110:回転軸
114:バイパス回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の前輪若しくは後輪若しくは左右輪への駆動トルクの配分制御を摩擦クラッチで行う駆動力配分装置に関し、特に、モータにより油圧ポンプを駆動してピストンシリンダ機構のピストンに直接圧油を供給してクラッチ伝達トルクを制御する駆動力配分装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータにより油圧ポンプを駆動してピストンシリンダ機構のピストンに直接圧油を供給してクラッチ伝達トルクを制御する4輪駆動車用の駆動力配分装置が各種提案されている。
【0003】
図18は従来の駆動力配分装置を示す(特許文献1,2,3)。図18において、クラッチ制御機構125は、モータ142により油圧ポンプ146を駆動して油圧を発生し、この油圧をシリンダ134に供給してピストン136を直接押して軸方向に移動し、押付圧部材138により摩擦クラッチ116を押付けし、伝達トルクを制御している。トルク制御ユニット(ECU)として知られたコントローラ140が車両状態に基づいて決定したトルク指令値になるようにモータ142の回転数を制御する。
【0004】
また従来の別の駆動力配分装置にあっては、モータの正逆回転によりピストンに供給する油圧を増減して摩擦クラッチの伝達トルクを制御し、このとき油圧ポンプの発生油圧をセンサで検出してピストンに供給する油圧を目標油圧に制御しており、更に、モータを高速で逆転する場合にはピストン室と油圧ポンプの間に設けた急速開放弁機構を動作して圧油を逆流させ、モータを低速で回転した場合には急速開放弁機構は動作せず、これと並列に設けたオリフィスを通して圧油を逆流させるようにしている(特許文献4)。
【特許文献1】特開昭62−50235号公報
【特許文献2】特開2004−19768号公報
【特許文献3】特開2004−19769号公報
【特許文献4】特開2001−206092号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようなモータにより油圧ポンプを駆動してピストンに圧油を供給してクラッチ伝達トルクを制御する従来の駆動力配分装置にあっては、油圧ポンプの内部洩れ、あるいはピストン室と油圧ポンプとの間に設けられたオリフィス等の排油手段からの圧油洩れがあるために、摩擦クラッチの伝達トルクを保持するにはモータに常に電流を流してピストンに圧油を供給し続ける必要があるという問題がある。
【0006】
通常、4輪駆動車では、摩擦クラッチの伝達トルクを最大状態に保持したまま長時間走行できる機能が求められている。この機能を満たすためには、従来装置では連続定格の大きなモータを使う必要があり、システムが大型化して重量も重くなり、コストが高くなるという問題がある。
【0007】
また、小型軽量化のために小さなモータを使用する場合には、油圧ポンプの容量を小さくしなければならず、結果として応答性が悪くなるという間題がある。すなわち、応答性は良いが重く大きいシステムとするか、あるいは応答性は悪いが軽く小さなシステムとするかという2者択一を迫られている。
【0008】
本発明は、応答性を犠牲にせずに小型軽量化、低コスト化を可能とする駆動力配分装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、摩擦クラッチによって動力を伝達する装置であって、
油圧によって摩擦クラッチに対し押し付け力を発生するピストンと、
ピストンを軸方向に移動自在に収納するシリンダ室と、
正転時にシリンダ室に圧油を供給する油圧ポンプと、
油圧ポンプを駆動するモータと、
油圧ポンプとシリンダ室の間にあって、シリンダ室からの圧油の逆流を防止する第1逆流防止弁と、
モータが逆転時に、シリンダ室の圧油を排出する制御弁機構と、
シリンダ室の油圧を検出する圧カセンサと、
外部からの信号により求めた目標伝達トルクと前記圧カセンサからの信号に基づいてモータの正逆転駆動を制御する制御部とを備え、
制御部は、モータが正転時にシリンダ室の油圧を上昇させ、正転から停止させた時に油圧を保持し、逆転時には油圧を低下させるように動作することで、摩擦クラッチの伝達トルクが目標伝達トルクとなるように制御することを特徴とする。
【0010】
ここで、制御弁機構は、
油圧ポンプに設けた2つのポートを、ポンプ正回転時に吐出ポートとなりポンプ逆回転時に吸入ポートとなる第1ポンプポートと、ポンプ正回転時に吸入ポートとなりポンプ逆回転時に吐出ポートとなる第2ポンプポートとした場合、
第1ポンプポートとタンク室との間に配置され、ポンプ正回転時に第1ポンプポートからタンク室への圧油の逆流を防止し、ポンプ逆回転時に開放してタンク室からの油を第1ポンプポート側に供給して吸入させる第2逆流防止弁と、
第2ポンプポートとタンク室との間に配置され、ポンプ正回転時に開放してタンク室からの油を第2ポンプポートに供給して吸入させ、ポンプ逆回転時に閉鎖して第2ポンプポートから圧油を強制開放制御油圧として供給させる第3逆流防止弁と、
シリンダ室とタンク室との間に配置され、ポンプ正回転時に閉鎖してシリンダ室からタンク室への圧油の逆流を防止し、ポンプ逆回転時に第3逆流防止弁の閉鎖で供給される強制開放制御油圧により強制開放してシリンダ室の圧油をタンク室へ排出させる強制開放弁機構と、
を備えたこと特徴とする。
【0011】
強制開放弁機構は、
シリンダ室の圧油を受けてタンク室への排出流路を閉鎖する逆流防止弁と、
ポンプ正回転時に後退して逆流防止弁の弁体の閉鎖位置への移動を許容し、ポンプ逆回転時に第3逆流防止弁の閉鎖で供給される強制開放制御油圧により前進して逆流防止弁の弁体を開放位置に押し出し移動させるスプール弁と、
を備える。
【0012】
強制開放弁機構の逆流防止弁は、軸方向に形成したスプール穴の一端に連通する排出流路の流入側に弁座を形成し、シリンダ室の圧油により押圧されて流路を閉鎖する弁体を弁座に配置し、
スプール弁は、スプール穴に対し逆流防止弁の排出流路からの圧油をタンクに排出するドレインポートと強制制御圧油を供給する制御ポートを設け、スプール穴にスプール弁体を軸方向に自在に配置し、前記スプール弁体は後部に前記制御ポートからの圧油により前進移動させる第1ピストン部を形成すると共に、先端部に逆流防止弁の排出流路内に位置する第2ピストン部を形成し、第2ピストン部は先端側から後方に向けて隙間が変化する形状であり、スプール弁体の前進に応じて排出流量を増加させる。
【0013】
強制開放弁機構は、タンク室への連通路を共通接続して圧油循環系を構成し、共通接続部にストレーナを配置する。
【0014】
制御部は、前記摩擦クラッチの目標トルクを所定のトルクに保持する場合、モータの通電により前記油圧ポンプを正回転した状態で圧力センサの検出圧力が目標トルクに応じた第1設定圧力に達した時にモータ通電を停止してポンプを停止し、ポンプ停止状態で圧力センサの検出圧力が第1設定圧力より低い第2設定圧力に低下する毎に、第1設定圧力に回復するまでモータの通電によるポンプ正回転を繰り返す。
【0015】
また、摩擦クラッチの目標トルクが車両状態に応じて時々刻々変化する場合は、目標トルクとなるようにモータの正逆転を制御する。
【0016】
本発明による制御弁機構の別の形態にあっては、
モータの正回転を油圧ポンプに伝達し、モータの逆回転でフリーとなるポンプ駆動用ワンウェークラッチと、
モータの逆回転を伝達し、モータの正回転でフリーとなる油圧開放用ワンウェークラッチと、
シリンダ室とタンク室との間に配置され、油圧開放用ワンウェークラッチを介して伝達されるモータの逆回転により強制開放してシリンダ室の圧油をタンク室へ排出させる強制開放弁機構と、
を備えたこと特徴とする。
【0017】
本発明による制御弁機構の別の形態にあっては、
油圧ポンプに設けた2つのポートを、ポンプ正回転時に吐出ポートとなりポンプ逆回転時に吸入ポートとなる第1ポンプポートと、ポンプ正回転時に吸入ポートとなりポンプ逆回転時に吐出ポートとなる第2ポンプポートとした場合、
モータの逆回転を伝達し、モータの正回転でフリーとなる油圧開放用ワンウェークラッチと、
シリンダ室とタンク室との間に配置され、油圧開放用ワンウェークラッチを介して伝達されるモータの逆回転により強制開放してシリンダ室の圧油をタンク室へ排出させる強制開放弁機構と、
を備えたこと特徴とする。
【0018】
本発明による制御弁機構の別の形態にあっては、
油圧ポンプに設けた2つのポートを、ポンプ正回転時に吐出ポートとなりポンプ逆回転時に吸入ポートとなる第1ポンプポートと、ポンプ正回転時に吸入ポートとなりポンプ逆回転時に吐出ポートとなる第2ポンプポートとした場合、
第1ポンプポートとタンク室との間に配置され、ポンプ正回転時に第1ポンプポートからタンク室への圧油の逆流を防止し、ポンプ逆回転時に開放して前記タンク室からの油を前記第1ポンプポート側に供給して吸入させる第2逆流防止弁と、
モータの逆回転を伝達し、モータの正回転でフリーとなる油圧開放用ワンウェークラッチと、
シリンダ室と前記タンク室との間に配置され、ワンウェークラッチを介して伝達されるモータの逆回転により強制開放してシリンダ室の圧油を前記タンク室へ排出させる強制開放弁機構と、
を備えたこと特徴とする。
【0019】
ここで、強制開放弁機構は、
シリンダ室の圧油を受けてタンク室への排出流路を閉鎖する逆流防止弁と、
油圧開放用ワンウェークラッチを介して伝達されるモータの逆回転により移動して逆流防止弁の弁体を開放位置に押し出し移動させるスプール弁と、
を備える。
【0020】
更に、駆動力配分装置の制御部は、
車両始動時にモータを逆回転させて強制開放弁機構の作動によりシリンダ室の油圧を開放し、この状態で圧力センサの検出値を読み込んで零点補正値として保存する圧力センサ零点学習部と、
車両の運用中に読み込まれた圧力センサの検出値を零点補正値により補正する検出圧力補正部と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、摩擦クラッチのトルクを最大トルクなどの所定の値に保持する場合にはモータによるポンプ正回転でシリンダ室に供給する圧油が所定の設定圧力に達したらモータ通電を遮断して油圧ポンプを停止し、この状態で強制開放油圧制御弁ユニットによりシリンダ室からの圧油のタンク側への逆流を防止するため、連続定格の短い小さなモータを使った場合にも、摩擦クラッチの伝達トルクを長時間保持することができる。
【0022】
また摩擦クラッチのトルク伝達を解除する際には、モータによるポンプ逆回転で発生する開放制御油圧により油圧制御弁ユニットを動作してシリンダ室の圧油をタンク側に排出しており、モータの逆回転による圧油排出でないことから、連続定格の短い小さなモータに合わせて油圧ポンプの容量を小さくしても、摩擦クラッチのトルク低減時の応答性を高めることができるため、小型軽量、安価にできる。
【0023】
またトルクを保持するためにモータに電流を流し続ける必要がないため、制御部の電流容量を小さくでき、制御部を小さく、安価、耐久性向上ができる。更に、車両としてもモータを駆動するエネルギーが節約でき、燃費を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は本発明による駆動力配分装置を後輪駆動をベースとした四輪駆動車用トランスファーケースに適用した場合の実施形態を示した断面図であり、モータによる油圧ポンプからの圧油によるピストンの駆動で摩擦クラッチの伝達トルクを制御することを特徴とする。
【0025】
図1において、トランスファーケースは、ケース10を有し、ケース10の左側に、エンジンからの回転を自動変速機あるいは手動変速機を介して入力する入力軸12が設けられ、入力軸12は副変速機構11を介して後輪出力軸14に直結されている。
【0026】
副変速機構11は図示しないシフト機構によりシフトギア13がHポジションとLポジションの2段に切替られる。図示のシフトギア13の位置となるHポジションでは入力軸12を後輪出力軸14に直結した状態となり、摩擦クラッチ16を開放した2Hもしくは摩擦クラッチ16により前輪への駆動トルクを制御する4Hオート/ロックを選択することができる。
【0027】
また、シフトギア13をLポジジョンにシフトすると、副変速機構11の遊星歯車機構による減速回転(キャリア回転)を後輪駆動軸に出力し、且つカップリングスリーブ15を15aに示すように前輪側のスプロケットギア28と一体設けたクラッチギアに連結して後輪駆動軸に直結し、4Lロックとしている。
【0028】
後輪出力軸14と同軸には摩擦クラッチ16が設けられる。摩擦クラッチ16はクラッチハブ22を後輪出力軸14に固定し、クラッチドラム24を後輪出力軸14に対し回転自在に設けたスプロケットギア28に連結している。後輪出力軸14と平行には、反対側に動力を取り出す前輪出力軸20がケース10に設けられており、前輪出力軸20にはスプロケットギア30が一体に形成されており、摩擦クラッチ16側のスプロケットギア28との間にチェーンベルト18を掛けて連結している。
【0029】
このようなトランスファーケースにおいて、副変速機構11のシフトギア13をLポジションにシフトした4Lロックの際には、摩擦クラッチ16の制御は行われず、クラッチハブ22とクラッチドラム24間が切り離され、その代わりカップリングスリーブ15の15aに示す位置へのシフトでスプロケットギア28を後輪出力軸14に直結し、後輪出力軸14の駆動力をスプロケットギア28、チェーンベルト18、スプロケットギア30を介して前輪出力軸20に直接伝達している。
【0030】
また副変速機構11のシフトギア13をHポジションにシフトした4Hオート/ロックの際には、摩擦クラッチ16が制御状態となり、入力軸12からの回転を、後輪出力軸14、伝達トルク制御状態にある摩擦クラッチ16、スプロケットギア28、チェーンベルト18、スプロケットギア30を介して前輪出力軸20に伝達する。
【0031】
摩擦クラッチ16に対しては、クラッチハブ22とクラッチドラム24の間に設けた複数枚のクラッチプレート26のクラッチ締結力を制御するクラッチ制御機構が設けられる。このクラッチ制御機構は、モータ42により油圧制御ユニット44に内蔵した油圧ポンプを駆動し、油圧ポンプからの圧油を摩擦クラッチ16の右側に配置したシリンダ34に摺動自在に設けたピストン36の右側のシリンダ室35に供給し、ピストン36を左側にストロークさせ、スラストベアリング32を介して押付け部材38でクラッチプレート26を押し、クラッチ締結力を増加させ、伝達トルクを制御する。
【0032】
モータ42、油圧ポンプを内蔵した油圧制御弁ユニット44、シリンダ34、ピストン36及び押付部材38からなるクラッチ制御機構は、電子制御ユニット(ECU)として知られたコントローラ(制御部)40により制御される。
【0033】
コントローラ40には、プログラムの実行により実現される機能として、圧力センサ零点学習部40a、検出圧力補正部40b及び制御部40cが設けられる。
【0034】
コントローラ40に対しては車両状態センサ46が接続されており、車両状態センサ46としては車速、舵角、2輪/4輪駆動切替え等をセンサ信号E1としてコントローラ40に出力する。
【0035】
また油圧制御弁ユニット44には油圧ポンプからピストン36の右側のシリンダ室に供給している圧油の圧力を検出する圧力センサが内蔵されており、この圧力センサからの圧力検出信号E2がコントローラ40に入力されている。
【0036】
コントローラ40の制御部40cは、車両状態センサ46からの信号に基づく車両の運転モードに応じたクラッチ伝達トルクとなるように駆動信号E3によりモータ42を正逆回転する。
【0037】
図2は、本実施形態における4輪駆動車の運転モードの一覧であり、副変速機構付きの場合、副変速機構における高速と低速の2段切替選択と前後輪間の駆動力配分モードとの組合せとなり、ドライバーが任意に運転モードを選択できる。なお、副変速機構がない場合には、前後輪間の駆動力配分制御モードのみとなる。
【0038】
図2の運転モード一覧における前後輪間の駆動力配分制御モードは次のようになる。
【0039】
(1)2WD
摩擦クラッチ16を切り離した状態で、後輪だけで駆動するモードである。舗装路走行などで、燃費を良くしたい場合に選択する。
【0040】
(2)4WDオート
車両状態検出センサからの信号に基づいて、コントローラ40により前後輪間の駆動力を自動で最適状態に制御するモードである。摩擦クラッチ16の伝達トルクは0〜最大トルクの範囲で時々刻々変化する。ドライバーは路面状態を気にする必要は無く、常時このモードを選択可能である。
【0041】
(3)4WDロック
摩擦クラッチ16の伝達トルクを最大トルクに保持するモードである。悪路走行などで4WDとしての走破性を最大限に発揮したい場合に選択する。
【0042】
このような駆動力配分制御モードに対応して、本実施形態の駆動力伝達装置は次のような動作を行う。
【0043】
(1)2WD
シリンダ室35の圧油を排出した後、モータ42の通電をオフする。
【0044】
(2)4WDオート
コントローラ40は時々刻々変化する目標伝達トルクに対し、摩擦クラッチ16の伝達トルクを一致させるべくモータ42ヘの印加電流を調節する。モータ48は正逆転することでシリンダ室35へ圧油を供給したり、図3に示す強制開放弁機構56の動作で圧油を排出してシリンダ室35の圧力を制御する。
【0045】
(3)4WDロック
コントローラ40は摩擦クラッチ16の伝達トルクが最大となるまでモータ42を正転させた後、モータ42の通電をオフする。シリンダ室35の圧力を常時監視し、所定の圧力より低下した場合には、圧力を回復させるべく再びモータ35を正転させる。この制御の繰返しで、略最大トルクを保持する。
【0046】
図3は図1のモータ42による油圧ポンプ駆動で摩擦クラッチ16の伝達トルクを制御する本発明の油圧制御弁ユニット44の実施形態を示した説明図である。図3において、油圧制御弁ユニット44にはモータ42により正逆転駆動される油圧ポンプ48が設けられている。
【0047】
油圧制御弁ユニット44はモータ42による油圧ポンプ48の正回転時にクラッチ制御機構25のシリンダ室35に圧油を供給し、ピストン36を左方向にストロークさせてスラストベアリング32を介して押付部付38を押すことで摩擦クラッチ16におけるクラッチハブ22とクラッチドラム24の間に設けたクラッチプレート26の締結力を変化させ、クラッチ伝達トルクを制御する。
【0048】
またモータ42による油圧ポンプ48の正回転からの停止時に、シリンダ室35からの圧油の流出を防止し、シリンダ室35に圧油を保持して摩擦クラッチ16におけるクラッチ伝達トルクを保持する。更にモータ42による油圧ポンプ48の逆回転時にシリンダ室35の圧油を強制的に排出する。
【0049】
このような油圧制御弁ユニット44の制御機能を実現するため、油圧ポンプ48に対する油圧回路の構成機器として第1逆流防止弁50、第2逆流防止弁52、第3逆流防止弁54、強制開放弁機構56、ストレーナ66を設けている。強制開放弁機構56は逆流防止弁58とスプール弁60で構成されている。
【0050】
また油圧制御弁ユニット44は図1に示したようにケース10内に収納されており、ケース内にタンク室68を形成し、タンク室68から油圧ポンプ48に対する流入通路の吸い込み部分にストレーナ66を配置している。
【0051】
油圧ポンプ48は第1ポンプポートP1と第2ポンプポートP2を有する。第1ポンプポートP1はモータ42による油圧ポンプ48の正回転時に圧油をシリンダ室35に供給し、一方、逆回転時にはタンク室68側から油を吸入する。これに対し第2ポンプポートP2はモータ42による油圧ポンプ48の正回転時にタンク室68側から油を吸入し、ポンプ逆回転時には圧油を出力する。
【0052】
第1逆流防止弁50は油圧ポンプ48の第1ポンプポートP1とシリンダ室35との間に設けられ、油圧ポンプ48の正回転時に圧油をシリンダ室35に供給し、一方、ポンプ停止時及び逆回転時にはシリンダ室35からの圧油の逆流を阻止する。
【0053】
第2逆流防止弁52は第1ポンプポートP1とタンク室68側に設けたストレーナ66との間に設けられ、油圧ポンプ48の正回転時に第1ポンプポートP1からタンク室68側への圧油の逆流を防止し、ポンプ逆回転時は開放して、タンク室68からの油をストレーナ66を介して第1ポンプポートP1から吸入させる。
【0054】
第3逆流防止弁54は油圧ポンプ48の第2ポンプポートP2とタンク室68側に設けたストレーナ66との間に設けられ、油圧ポンプ48側の正回転時に開放してタンク室68側からの油を第2ポンプポートP2に給油させ、ポンプ逆回転時には閉鎖して第2ポンプポートP2からの圧油を強制開放弁機構56に対し強制開放制御油圧として供給させる。
【0055】
強制開放弁機構56はシリンダ室35とタンク室68との間に配置され、油圧ポンプ48の正回転時にあってはスプール弁60のポートP4に対する強制開放制御油圧が得られないことから、逆流防止弁58を図示のように閉鎖状態としてシリンダ室35からタンク室68への圧油の逆流を防止する。
【0056】
一方、油圧ポンプ48の逆回転時には第3逆流防止弁54の閉鎖で供給される油圧ポンプ48の第2ポンプポートP2からの強制開放制御油圧によりスプール弁60を前進させて逆流防止弁58を強制的に開放し、シリンダ室35の圧油をポートP3からタンク室68に排出させるようにしている。
【0057】
さらに油圧制御弁ユニット44には圧力センサ70が設けられる。圧力センサ70はシリンダ室35に供給されている圧油の圧力を検出し、圧力検出信号E2をコントローラ40に出力している。
【0058】
コントローラ40は、図1の車両状態センサ46からの信号E1に基づく4WDオート時において、車両からの信号により求めた目標トルクとなるようにシリンダ35室の油圧の昇降を制御することが本実施形態の駆動力配分装置の基本機能であるが、その目標トルクの変化は車両の状態によってさまざまである。
【0059】
すなわち、ゆっくり変化させたい場合もあれば、急激に変化させたい場合もある。油圧の上昇は油圧ポンプ48の回転速度で制御するため、ゆっくり変化させる場合にはモータ42の回転速度を少なく、また急激に変化させたい場合は回転速度を早くすることで制御可能である。
【0060】
一方、油圧を低下させる場合は強制開放弁機構56の開閉により制御するが、弁開度があまりにも急激に変化するとシリンダ室35の油圧が急激に低下して制御することが困難になる。そのため、強制開放弁機構56に設けたスプール弁60の排出移動量に対して初期は逆流防止弁58の隙間面積が小さく、排出移動量が増加するに従って隙間面積を増加するようにしている。
【0061】
それにより、目標トルクの変化が少ないときは強制開放弁機構56に設けたスプール弁60の排出移動量が少ない状態で制御され、目標トルクの変化が大きいときは強制開放弁機構56に設けたスプール弁60の排出移動量を大きくすることで、シリンダ室35からの圧油の排出速度を制御することができる。
【0062】
強制開放弁機構56に設けたスプール弁60の移動はモータ42による油圧ポンプ48の逆回転により制御されるが、モータ42ヘの電流量は目標トルクと圧カセンサ70の検出値から求めた現状トルクとの差に基づいてPID制御により決定される。
【0063】
すなわち、目標トルクと現状トルクの差が少ない場合は、モータ42ヘの電流は少なくスプール弁60の排出移動量も小さいため、シリンダ室35からの圧油の排出速度は小さくなり、圧力変化は緩やかになる。
【0064】
また、目標トルクと現状トルクの差が大きい場合にはモータ42ヘの電流は大きくスプール弁60の排出移動量は大きくなるため、シリンダ室35からの圧油の排出速度は大きくなり、素早く目標に近づくことができる。
【0065】
このようにしてコントローラ40は4WDオート時のクラッチ伝達トルクの制御につき、圧力の上昇時、下降時ともモータ42のPID制御により統一的に制御が可能になる。
【0066】
コントローラ40は図1の車両状態センサ46からの信号E1に基づく4WDロックの際には、モータ駆動信号E3によりモータ42を正回転して油圧ポンプ48の第1ポンプポートP1からシリンダ室35に圧油を供給し、このシリンダ室35の圧油が圧力センサ70で検出されて圧力検出信号E2としてコントローラ40にフィードバックされる。
【0067】
コントローラ40は圧力検出信号E2による検出圧力が4WDロックに対応した摩擦クラッチ16の最大伝達トルクに対応した第1圧力設定値TH1としたときにモータ42の正回転を停止する。これによって油圧制御弁ユニット42はシリンダ室35に4WDロックを維持するための最大トルク伝達に必要な圧油を保持する。
【0068】
シリンダ室35に既定の圧油を保持したモータ42の停止中にあっては、シリンダ室35等からのわずかな油の漏洩などにより圧力が低下すると、圧力センサ70からの圧力検出信号E2が第1圧力設定値TH1より低い第2圧力設定値TH2に低下したときにモータ42を正回転して再び元の第1圧力設定値TH1にさせる間欠駆動を繰り返している。
【0069】
その後、コントローラ40に対し車両状態センサ46側から2WDポジションへの切替を指示する信号E2が入力すると、コントローラ40はモータ駆動信号E3によりモータ42を逆回転し、これに伴う油圧ポンプ48の逆回転で強制開放弁機構56によるシリンダ室35の圧油の強制排出が行われ、摩擦クラッチ16のトルク伝達が解除されて2WD状態となる。
【0070】
図4は本実施形態における4WDオート/ロックにおいてシリンダ室の圧力を上昇する場合のモータ正回転時の動作を示した説明図である。図4において、モータ42を正回転すると油圧ポンプ48は第2ポンプポートP2から油を吸入し、第1ポンプポートP1から圧油を出力する。
【0071】
このため油圧ポンプ48による第1ポンプポートP1からの圧油の供給に伴い第3逆流防止弁54が開放し、ストレーナ66から油を吸入させる。また第1ポンプポートP1からの圧油の出力で第1逆流防止弁50が開き、シリンダ室35に矢印Aに示すように圧油を供給する。
【0072】
このとき第2逆流防止弁52は第1ポンプポートP1からの圧油を受けて閉鎖している。また強制開放弁機構56のスプール弁60のポートP4に対する強制開放制御油圧はタンク圧であり、従ってスプール弁60のスプール弁体は矢印で示すように後退し、これによって逆流防止弁58の強制開放が解除され、逆流防止弁58はシリンダ室35に供給する圧油を受けて閉鎖状態となっている。
【0073】
図5は本実施形態における正回転中のモータを停止したときの状態を示した説明図である。図5において、油圧ポンプ48を正回転しているモータ42を停止すると、シリンダ室35に供給した圧油を受けて第1逆流防止弁50が閉鎖し、これによってシリンダ室35からの矢印Bで示すような圧油の逆流を阻止する。同時に強制開放弁機構56の逆流防止弁58も閉鎖しており、シリンダ室35の圧油はモータ42を停止したときの圧力に保持される。
【0074】
図5のモータ42を停止したシリンダ室35の圧油の保持状態にあっては、シリンダ室35等からの圧油の漏洩により時間の経過に伴って徐々に圧力が低下することがある。
【0075】
図6は本実施形態における図5のモータ停止中にシリンダ室の圧油を保持するモータ制御のタイムチャートである。図6(A)はモータ電流であり、図6(B)にシリンダ室35の油圧Pを示している。
【0076】
図6(A)のように時刻t1でモータ42の正回転を開始すると、シリンダ室35の油圧Pはほぼ直線的に増加し、予め設定した第1圧力設定値TH1に達した時にモータ42の正回転を停止し、図5の圧油保持状態とする。
【0077】
その後、時間の経過にともなってシリンダ室35の油圧Pは徐々に低下し、時刻t3で第2圧力設定値TH2に達するとモータ42を再び正回転し、第1圧力設定値TH1に回復させて停止させる。このようなモータ42の間欠的な圧力低下に伴う正回転を繰り返すことでシリンダ室35の油圧Pを4WDロックを維持するための略最大トルクの伝達状態に保持する。
【0078】
このように本実施形態にあってはシリンダ室35の圧油を略最大伝達トルクの圧油に保持する状態で基本的にはモータ42の通電を停止しており、漏洩により低下したときに回復するために一時的にモータ42を回転する動作を繰り返しており、シリンダ室35に圧油を保持するためにモータ42に対し継続的に電流を供給する必要がなく、本実施形態で使用するモータ42としては連続定格の小さい小型のモータを使用することができ、小型化に伴い設置スペースが低減でき、また重量も軽量化され、さらにモータ消費電流が低減することで車両の燃費を改善することもできる。
【0079】
図7は本実施形態におけるモータ逆回転時の動作を示した説明図である。図7において、図5に示したシリンダ室35に圧油を保持した状態からシリンダ室の圧力を低下し、伝達トルクを下げたい場合には、モータ42を逆回転する。
【0080】
これに伴う油圧ポンプ48の逆回転により第1ポンプポートP1から油を吸入して第2ポンプポートP2に出力する。このため第1ポンプポートP1からの油の吸入に伴い、第2逆流防止弁52が開放してストレーナ66側から油を第1ポンプポートP1に吸入させる。
【0081】
このとき第1逆流防止弁50はシリンダ室35からの圧油を受けて閉鎖状態となる。また第3逆流防止弁54は油圧ポンプ48の第2ポンプポートP2からの圧油を受けて閉鎖状態にある。このためストレーナ66及び第2逆流防止弁52を介して第1ポンプポートP1から吸入された油は油圧ポンプ48で加圧されて第2ポンプポートP2に出力され、第3逆流防止弁54が閉鎖している状態から矢印Cに示すように強制開放弁機構56に設けているスプール弁60のポートP4に強制開放制御油圧を供給する。
【0082】
強制開放制御油圧を受けたスプール弁60はスプール弁体64を矢印で示すように前進させ、逆流防止弁58の弁体を押し出して強制的にポートP3に至る排出流路を開放し、このためシリンダ室35の圧油は矢印Dで示す経路をへて排出され、シリンダ室35の圧力は低下し、伝達トルクが低下する。
【0083】
図8は図7のモータ逆回転時のスプール弁60におけるスプール弁移動量Lに対する排出流路の隙間面積Sとの関係を示した特性グラフの説明図である。本実施形態にあってはスプール弁60のスプール弁移動量Lの増加に対し、隙間面積Sは最初は増加割合が低いが、移動量Lが増えると急激に隙間面積Sが増加する特性となっている。
【0084】
本実施形態にあっては、コントローラ40が、図1の車両状態センサ46からの信号E1に基づく4WDオート時において、車両からの信号により求めた目標トルクとなるようにシリンダ35室の油圧の昇降を制御しており、その目標トルクの変化は車両の状態によってさまざまである。
【0085】
すなわち、ゆっくり変化させたい場合もあれば、急激に変化させたい場合もある。油圧の上昇は油圧ポンプ48の回転速度で制御するため、ゆっくり変化させる場合にはモータ42の回転速度を少なく、また急激に変化させたい場合は回転速度を早くすることで制御可能である。
【0086】
一方、油圧を低下させる場合は強制開放弁機構56の開閉により制御するが、弁開度があまりにも急激に変化するとシリンダ室35の油圧が急激に低下して制御することが困難になる。
【0087】
そのため、図8に示すように、強制開放弁機構56に設けたスプール弁60のスプール移動量Lに対して、初期は逆流防止弁58の隙間面積Sが小さく、スプール移動量Lが増加するに従って隙間面積Sを増加するようにしている。
【0088】
それにより、目標トルクの変化が少ないときは強制開放弁機構56に設けたスプール弁60のスプール移動量が少ない状態で制御され、目標トルクの変化が大きいときは強制開放弁機構56に設けたスプール弁60のスプール移動量を大きくすることで、シリンダ室35からの圧油の排出速度を制御することができる。
【0089】
強制開放弁機構56に設けたスプール弁60の移動はモータ42による油圧ポンプ48の逆回転により制御されるが、モータ42ヘの電流量は目標トルクと圧カセンサ70の検出値から求めた現状トルクとの差に基づいてPID制御により決定される。
【0090】
すなわち、目標トルクと現状トルクの差が少ない場合は、モータ42ヘの電流は少なくスプール弁60のスプール移動量も小さいため、シリンダ室35からの圧油の排出速度は小さくなり、圧力変化は緩やかになる。
【0091】
また、目標トルクと現状トルクの差が大きい場合にはモータ42ヘの電流は大きくスプール弁60のスプール移動量は大きくなるため、シリンダ室35からの圧油の排出速度は大きくなり、素早く目標に近づくことができる。
【0092】
このようにしてコントローラ40は4WDオート時のクラッチ伝達トルクの制御につき、圧力の上昇時、下降時ともモータ42のPID制御により統一的に制御が可能になる。
【0093】
図9は本実施形態における強制開放弁機構56の構造と動作を示した説明図である。図9(A)は油圧ポンプ42が正回転時で、スプール弁60のポートP4に油圧ポンプ42の吸入負圧が加わった状態であり、スプール弁体64は右端に当接して後退した位置にあり、スプール弁体64の前方に配置された逆流防止弁58のボール弁体76はバネ78により弁座74に押圧されて排出流路72を閉鎖している。
【0094】
図10は図9のスプール弁体64を取り出して示した説明図である。図10において、スプール弁体64は後部に第1ピストン80を形成し、先端に第2ピストン82を形成している。第2ピストン部82は先端から後方に向けてストレート部84、第1テーパ部86、第2テーパ部88を形成している。
【0095】
ストレート部84は図9(A)の排出流路72との間にわずかな隙間を持っている。第1テーパ部86はストレート部84に続いて緩やかに径を絞っている。第2テーパ部88は第1テーパ部86に続いて急激に径を絞っている。
【0096】
図9(B)(C)(D)はスプール弁60のポートP4に対する強制開放制御油圧を順次増加させてスプール弁体64を前方に移動させたときの動作を示している。図9(B)はスプール弁体64が前進して先端の第2ピストン部82を逆流防止弁58のボール弁体76に当接した状態であり、シリンダ室35に連通しているポートP6からの圧油の排出は行われない。
【0097】
図9(C)はスプール弁64を更に前進させた場合であり、スプール弁体64の先端によりボール弁体76を押し出すことで弁座74から離し、これによって逆流防止弁58の排出流路72が開放し、矢印D1で示すようにポートP6から伝通しているシリンダ室35からの圧油がタンク室に伝通しているポートP3に排出される。
【0098】
このときスプール弁体64の図10に示した第1テーパ部86がボール弁体76の押し出しに伴い排出流路72の流入開口部に位置しており、従って第1テーパ部86の絞込みに伴う隙間面積に応じて排出流量が得られる。
【0099】
図9(D)は更にスプール弁体64を前進してボール弁体76を押し出した状態であり、このとき排出流量72の開口部に図10に示したスプール弁体64の第2テーパ部88が位置しており、隙間面積が最大となって十分な流量で矢印D2で示すようにポートP6が連通しているシリンダ室35からの圧油をタンクに連通しているポートP3に排出することができる。
【0100】
ここでテーパ部は2段に限定することなく、連続的に変化するものでも良い。
【0101】
この図10に示したスプール弁体64を使用した図9に示すスプール弁体64の動きで図8に示すスプール弁体移動量Lに対する隙間面積Sの特性が得られている。
【0102】
このように本実施形態にあっては、シリンダ室35からの圧油の排出を、従来のようにオリフィスからの排出もしくは油圧ポンプの内部の隙間からの排出に頼らず、スプール弁60の動作による逆流防止弁58の強制開放で行っているため、連続定格の短い小型のモータ42の使用に伴い油圧ポンプ48のホンプ容量が小さくなっても、シリンダ室35からの圧油の排出を高速に行うことができ、4WDオート/ロック時の伝達トルク調整の応答性を十分に確保できる。また、4Wロック、4WDオートから2WDへの切替えも素早くできる。
【0103】
図11は本実施形態における逆回転の途中でモータを停止した場合の動作を示した説明図である。図11において、モータ42を逆回転状態から停止すると、スプール弁60に対する油圧ポンプ48の第2ポンプポートP2からの圧油は、ストレーナ66を介したタンク側となる第2逆流防止弁52及び第3逆流防止弁54が共に閉鎖していることからそのときの強制開放制御油圧を保持し、スプール弁60のスプール弁体64は停止時のスプール位置を保つ。このため停止時の排出流路の開口面積に応じた圧油の排出がシリンダ室35からポートP3に対し継続して行われる。
【0104】
ここでモータ42の停止状態でシリンダ室35の圧油を受けてスプール弁体64を右方向に押す力が加わっているため、スプール弁体64の隙間を通って点線の矢印Eに示すように、ポートP4側の強制開放制御圧を持つ圧油が排出され、スプール弁体64は右方向に徐々に後退移動する。
【0105】
従ってシリンダ室35に圧油が残っている状態でモータ42の逆回転を停止したとしても、ある程度の時間はかかるがスプール弁体64のポートP4側の圧油もポートP3に排出されてタンク圧に戻ることができる。
【0106】
図12は本実施形態における油圧制御弁ユニットの油圧回路を実態的に示した説明図であり、図13は図12の回路の具体的な構造を示した説明図である。図12において、それぞれの要素は図3に対応している。
【0107】
図13(A)は断面図を示し、図13(B)は正面図を示している。図13(A)から明らかなように、本実施形態にあっては、油圧制御弁ユニットを三枚のブロック部材92−1,92−2,92−3を重ね合わせて実現している。この3枚のブロック部材92−1〜92−3の重ね合わせにより、図13(B)に示す図2の油圧制御弁ユニット44における各機器の配置とそれらを連結する油路が形成されている。
【0108】
即ち図13(A)の中央のブロック部材92−2の位置に図13(B)におけるギアポンプを用いた油圧ポンプ48が配置され、第1逆流防止弁50、第2逆流防止弁52、第3逆流防止弁54及び強制開放弁機構56に設けている逆流防止弁58及びスプール弁60は、図13(A)の上部のブロック部材92−1内に組み込み配置される。
【0109】
また図13(B)における破線で示す油路は図13(A)の例えば第2逆流防止弁52と第3逆流防止弁54を伝通する油路94に示すように一番下のブロック部材92−3に形成されている。
【0110】
この図13の具体的な実施形態にあっては、本実施形態における油圧制御弁ユニット44は3枚のブロック部材92−1〜92−3の重ね合わせによる回路形成と回路機器の組み込みにより、少ないスペースでコンパクトに作ることができ、全体としての小型軽量化を容易に達成することができる。
【0111】
ここで、本実施形態における実際の組み込み構造は、図13に限定されず、図2に示した油圧制御弁ユニット44の回路及び回路機器を実現する構造であれば適宜の構造とすることができる。
【0112】
図14は2つのワンウェークラッチを使用して制御弁機構の排油動作をモータ逆回転により機械的に行う他の実施形態を示した説明図である。
【0113】
図14におい、本実施形態の油圧制御ユニット44はモータ42の駆動軸45をポンプ駆動用ワンウェークラッチ96を介して油圧ポンプ48に連結しており、また駆動軸45に対して設けた油圧開放用ワンウェークラッチ98により駆動される強制開放弁機構56を設けている。
【0114】
ここでモータ42を後ろ側から見て矢印Fに示す左回転を正回転とし、矢印Gで示す右回転を逆回転とすると、ポンプ駆動用ワンウェークラッチ96及び油圧開放用ワンウェークラッチ98は次のように動作する。
【0115】
モータ42のモータ駆動軸45を矢印Fのように正回転した場合、ポンプ駆動用ワンウェークラッチ96はロック状態となって、モータ駆動軸45の回転を油圧ポンプ48に伝達し、ストレーナ66を介してタンク室側からポートP2により吸入した油を加圧し、ポートP1から第1逆流防止弁50を介して加圧制御機構のシリンダ室35に油圧を供給する。
【0116】
これに対しモータ42を矢印Gに示すように逆回転した場合には、ポンプ駆動用ワンウェークラッチ96はフリーとなり、油圧ポンプ48の逆回転は行われない。
【0117】
一方、油圧開放用ワンウェークラッチ98については、逆にモータ42の矢印Fで示す正回転でフリーとなり、矢印Gで示す逆回転でロック状態となってモータ駆動軸45の回転を伝達し、強制開放弁機56を開放動作させる。
【0118】
図15は油圧開放用ワンウェークラッチ98とこれにより作動される強制開放弁機構56をモータ軸方向から見た状態で示している。
【0119】
図15(A)は油圧開放用ワンウェークラッチ98の初期状態であり、油圧開放用ワンウェークラッチ98のアウターレース側にはカム100が設けられている。
【0120】
カム100は回転角に対し径が直線的に増加するカム形状を備えている。カム100に対してはカムフォロワー104を介して強制開放弁機構56に設けているスプール弁60のスプール弁体64の下部が当接されている。
【0121】
スプール弁60は図3の実施形態と同じであり、より具体的には図9に示したように第1ピストン部80と第2ピストン部82を備え、第2ピストン部82を逆流防止弁50との弁通路に位置させ、第2ピストン部82の形状は図10に示したようにストレート部84、第1テーパ部86及び第2テーパ部88を備えている。
【0122】
更に油圧開放用ワンウェークラッチ98のアウターケース側に取り付けたカム100に対しては、図示の初期位置に戻すためのリターンスプリング105が設けられている。
【0123】
図15(B)は図14でモータ42を逆回転した場合の動作を示している。強制開放弁機構56を作動してシリンダ室35から油圧をタンク室側に配置する場合には、モータ42を矢印Gに示すように逆回転する。
【0124】
この場合には図15(B)に示すようにモータ駆動軸45の矢印Gに示す逆回転で油圧開放用ワンウェークラッチ98がロック状態となり、モータ駆動軸45と一体にカム100が逆回転し、カムフォロワー104を介してスプール弁体64を矢印Hに示すように押し上げる。
【0125】
このためスプール弁体64の第2ピストン部82が逆流防止弁50のポール弁体を押し上げて流路を開き、シリンダ室35からの圧油がポートP6から矢印Iに示すように強制開放された逆流防止弁50を通ってポートP3からタンク室側に排油される。
【0126】
このときのスプール弁体64の移動に対する第2ピストン部82の隙間面積の関係は図8に示した特性となる。
【0127】
図14の実施形態におけるモータ42の制御は図3の実施形態と同様、コントローラ40により行われ、例えば4WDオートの制御を例にとると、シリンダ室35の圧力が目標トルクに対応した目標圧力より小さいときはモータ42は正回転してポンプ駆動用ワンウェークラッチ96を介して油圧ポンプ48を駆動することで圧力を上昇させる。
【0128】
シリンダ室35の圧力が目標圧力より大きいときはモータ42は逆回転し、油圧開放用ワンウェークラッチ98を介してスプール弁体64を押し上げることで強制開放弁機構56を駆動してシリンダ室35の圧油を開放して圧力を低下させる。
【0129】
図16は図14の実施形態における油圧開放用ワンウェークラッチ98による強制開放弁機構56の機械的な駆動の他の実施形態を示している。
【0130】
図16の実施形態にあっては、モータ駆動軸45に設けた油圧開放用ワンウェークラッチ98のアウターケース側にドライブギア106を取付け、ドライブギア106に対し扇形のドリブンギア108を軸110を中心に回転自在に噛み合い配置させ、ドリブンギア108の側端に強制開放弁56に設けたスプール弁体64の下端を搭載させている。
【0131】
またドリブンギア108には図16(A)の初期位置に戻すためのリターンスプリング112が設けられている。
【0132】
図16(B)はモータ逆回転時の油圧開放動作を示している。モータ駆動軸45が矢印Gに示すように逆回転されると、油圧開放用ワンウェークラッチ98がロック状態となり、アウターケース側のドライブギア106も逆回転し、ドリブンギア108が矢印Jに示す方向に回動し、スプール弁体64を押し上げる。
【0133】
このスプール弁体64の押し上げにより逆流防止弁50との連通路に位置している第2ピストン部82がポール弁体を押し上げて隙間面積を増大し、これによってポートP6に接続しているシリンダ室35からの圧油を矢印Iに示すようにポートP3からタンク室側に排出して圧力を下げることができる。
【0134】
図17は油圧開放用ワンウェークラッチのみを使用して制御弁機構の排油動作をモータ逆回転により機械的に行う他の実施形態を示した説明図である。
【0135】
図17の実施形態は図14の実施形態を示したポンプ駆動用ワンウェークラッチ96を取り除いて油圧開放用ワンウェークラッチ98のみとしている。また油圧駆動用ワンウェークラッチを除いたことに伴い、油圧ポンプ48のポートP1、P2の間に第2逆流防止弁52を備えたバイパス回路114を設けている。
【0136】
図17の実施形態の動作は次のようになる。モータ42を矢印Fで示す正回転した場合には、モータ駆動軸45は油圧ポンプ48に直結されていることから油圧ポンプ48が駆動され、ストレーナ部66を介してポートP2から油を吸入し、ポートP1より第1逆流防止弁50を介してシリンダ室35に油圧供給し圧力を増加させる。このとき油圧開放用ワンウェークラッチ98はフリーとなっている。
【0137】
シリンダ室35の圧力を低下させる場合にはモータ42を矢印Gに示すように逆回転する。モータ42の逆回転を行うと油圧開放用ワンウェークラッチ98がロック状態となって図15(B)に示したようにアウターケース側に取り付けたカム100を逆回転させてスプール弁体64を押し上げ、これによって逆流防止弁50の伝通路の隙間面積を増加させ、ポートP6からシリンダ室35の圧油を矢印Iに示すようにポートP3側に排出し、シリンダ室35の圧力を低下させる。
【0138】
このようにシリンダ室35の圧油を排出するためのモータ42の逆回転時油圧ポンプ48の逆回転すると、正回転時とは逆にポートP1側が給油ポート、ポートP2側がタンクポートとなるが、第2逆流防止弁52を備えたバイパス回路114が設けられているため、油圧ポンプ48の逆回転により油はバイパス回路14を介して循環し、油圧ポンプ48の逆回転でポートP1側が真空状態になることは起きない。
【0139】
これに対し第2逆流防止弁52のバイパス回路14を設けていない場合には、油圧ポンプ48の逆回転によりポートP1側から油が吸入されてポートP2に吐出されるため、第1逆流防止弁50とポートP1の間が真空状態に引かれることになる。
【0140】
このためモータ42を逆回転してシリンダ室35の油圧を低下した後に、モータ42を正回転してシリンダ室35の圧力上昇に切り替えた場合、ポートP1側の真空分を埋める油を余分に供給する必要があり、このためシリンダ室35の圧力上昇の応答が遅れることになる。
【0141】
このようなモータ42を逆回転から正回転に切り替えたときのシリンダ室35の圧力上昇の応答遅れは、第2逆流防止弁52を備えたバイパス回路114を設けることで解消されている。
【0142】
図17の実施形態においてもモータ42は図3に示したコントローラ40により制御される。例えばコントローラ40による4WDオートの制御を例にとると、摩擦クラッチの目標伝達トルクに対応した目標圧力に対し、圧力センサ70で検出しているシリンダ室35の圧力が小さいときはモータ42を正回転して油圧ポンプ48を駆動することで圧力を上昇させる。
【0143】
シリンダ室35の圧力が目標圧力より大きいときは、モータ42を逆回転して強制開放弁機構56を駆動してシリンダ室35の圧油を排出することで圧力低下させる。
【0144】
更に本発明の他の実施形態としてモータ42を正回転したときのシリンダ室35の圧力上昇の応答の遅れが許される場合にあっては、図17の実施形態に設けている第2逆流防止弁52付きのバイパス回路114を除いた構成としてもよい。これにより第2逆流防止弁52付きのバイパス回路114を除いた分だけ装置構成を簡単かつ小型化して低コスト化することが可能である。
【0145】
次に図2のコントローラ40に設けた圧力センサ零点学習部40a及び検出圧力補正部40bによる圧力センサ70の零点学習制御を説明する。
【0146】
本実施形態を適用する4輪駆動車において、摩擦クラッチ16の伝達トルク零付近は重要な意味を持つ。すなわち、舗装路のタイトなコーナーリング中のブレーキ現象(タイトコーナーブレーキング)はユーザに不快感を与えるため、この状態では伝達トルクを可能な限り零に近づけたい。
【0147】
しかしながら、本実施形態は圧カセンサ70の圧力検出信号E2の信号電圧をコントローラ40にフィードバックしているため、センサ精度がそのままトルク伝達精度に影響を与える。
【0148】
圧力センサ70の精度はフルスケール値に対する誤差として保証されるため、圧力零付近では実圧力に対する圧力検出信号E2の誤差が最も大きくなる。圧力センサ70の精度を決定する代表的な誤差要因として、固体バラツキ、耐久劣化、温度ドリフトが挙げられる。
【0149】
この問題を解決するため本実施形態にあっては、コントローラ40に圧力センサ零点学習部40aと検出圧力補正部40bを設け、圧力センサ70の零点学習制御を行なって、圧力センサ70バラツキ要因の内の固体バラツキ、耐久劣化を補正する。
【0150】
圧力センサ零点学習部40aは、車両始動時にモータ48を逆回転させて強制開放弁機構56の作動によりシリンダ室35の油圧を開放し、この状態で圧力センサ70の検出値を読み込んで零点補正値ΔPとして保存する。零点補正値ΔPは検出値が零以下であればプラスの値であり、零以上であればマイナスの値となる。
【0151】
検出圧力補正部40bは、圧力センサ零点学習部40aにより零点補正値を保存した後の車両の運用中に読み込まれた圧力センサ70の検出値を零点補正値零点により補正する。
【0152】
図18は本実施形態の圧力センサ零点学習部40aによる圧力センサ零点学習処理を示したフローチャートであり、車両の始動時に毎回実行される。図18において、まずステップS1でモータ48を逆回転させて強制開放弁機構56の作動によりシリンダ室35の油圧を開放させる。
【0153】
続いてステップS2でステップS1のモータ逆転駆動による油圧開放が完全に行なわれる所定時間の経過を待ってステップS3に進み、この状態で圧力センサ70の検出値を読み込んで零点補正値ΔPとして保存し、ステップS4でモータ48を停止して処理を終了する。
【0154】
図19は本実施形態の検出圧力補正部40bによる圧力センサ補正処理を示したフローチャートである。図19において、ステップS1で圧力センサ70の検出値Pが読み込まれると、ステップS2に進み、検出値Pに図18の圧力センサ零点学習処理で得られている零点補正値ΔPを加算して補正する。このため圧力センサ70の検出値の実圧力に対する誤差が補正され、例えば舗装路のタイトなコーナーリング中の伝達トルクを可能な限り零に近づける高精度の制御が可能となり、圧力零点付近の誤差に起因した伝達トルクの発生によるブレーキ現象(タイトコーナーブレーキング)によるユーザの不快感を解消し、適切なコーナーリングの操安性を得ることができる。
【0155】
なお、本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、また上記の示した数値による限定は受けない。
【図面の簡単な説明】
【0156】
【図1】本発明による4輪駆動車用駆動力分配装置の実施形態を示した断面図
【図2】本実施形態における運転モードの一覧を示した説明図
【図3】本発明における油圧制御弁ユニットの実施形態を示した説明図
【図4】本実施形態におけるモータ正回転時の動作を示した説明図
【図5】本実施形態における正回転したモータを停止した時の動作を示した説明図
【図6】本実施形態におけるモータ停止中にシリンダ室の圧油を保持するモータ制御のタイムチャート
【図7】本実施形態におけるモータ逆回転時の動作を示した説明図
【図8】本実施形態におけるスプール弁移動量と隙間面積の関係を示したグラフ図
【図9】本実施形態における強制開放弁機構の構造と動作を示した説明図
【図10】図9のスプール弁体を取り出して示した説明図
【図11】本実施形態における逆回転の途中でモータを停止した場合の動作を示した説明図
【図12】本発明の具体的な実施形態を示した説明図
【図13】本発明の具体的な他の実施形態を示した説明図
【図14】2つのワンウェークラッチを使用して制御弁機構の排油動作をモータ逆回転により機械的に行う他の実施形態を示した説明図
【図15】ワンウェークラッチによりカムを回転して排油する図14の制御弁機構の説明図
【図16】ワンウェークラッチによりギアを回転して排油する図14の制御弁機構の説明図
【図17】単一のワンウェークラッチを使用して制御弁機構の排油動作をモータ逆回転により機械的に行う他の実施形態を示した説明図
【図18】本実施形態における圧力センサ零点学習処理を示したフローチャート
【図19】本実施形態における圧力センサ補正処理を示したフローチャート
【図20】モータによる油圧駆動で摩擦クラッチの伝達トルクを制御する従来のクラッチ制御機構を示した説明図
【符号の説明】
【0157】
10:ケース
11:副変速機構
12:入力軸
14:後輪出力軸
16:摩擦クラッチ
18:チェーンベルト
20:前輪出力軸
22:クラッチハブ
24:クラッチドラム
25:クラッチ制御機構
26:クラッチプレート
28,30:スプロケットギア
32:スラストベアリング
34:シリンダ
35:シリンダ室
36:ピストン
38:押付部材
40:コントローラ
40a:圧力センサ零点学習部
40b:圧力センサ補正部
40c:制御部
42:モータ
44:油圧制御弁ユニット(制御弁機構)
46:車両状態センサ
48:油圧ポンプ
50:第1逆流防止弁
52:第2逆流防止弁
54:第3逆流防止弁
56:強制開放弁機構
58:逆流防止弁
60:スプール弁
62:スプール穴
64:スプール弁体
66:ストレーナ
68:タンク室
70:圧力センサ
72:排出流路
74:弁座
76:ボール弁体
78:バネ
80:第1ピストン部
82:第2ピストン部
84:ストレート部
86:第1テーパ部
88:第2テーパ部
90−1〜90−3,92−1〜92−3:ブロック部材
94:油路
96:ポンプ駆動用ワンウェークラッチ
98:油圧開放用ワンウェークラッチ
100:カム
104:カムフォロワー
105,112:リターンスプリング
106:ドライブギア
108:ドリブンギア
110:回転軸
114:バイパス回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦クラッチによって動力を伝達する駆動力配分装置であって、
油圧によって前記摩擦クラッチに対し押し付け力を発生するピストンと、
前記ピストンを軸方向に移動自在に収納するシリンダ室と、
正転時に前記シリンダ室に圧油を供給する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプを駆動するモータと、
前記油圧ポンプとシリンダ室の間にあって、シリンダ室からの圧油の逆流を防止する第1逆流防止弁と、
前記モータが逆転時に、前記シリンダ室の圧油を排出する制御弁機構と、
前記シリンダ室の油圧を検出する圧カセンサと、
外部からの信号により求めた目標伝達トルクと前記圧カセンサからの信号に基づいて前記モータの正逆転駆動を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記モータの正転により前記シリンダ室の油圧を上昇させ、正転から停止させた時に油圧を保持し、逆転により油圧を低下させるように動作することで、前記摩擦クラッチの伝達トルクが目標伝達トルクとなるように制御することを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項2】
請求項1記載の駆動力配分装置に於いて、前記制御弁機構は、
前記油圧ポンプに設けた2つのポートを、ポンプ正回転時に吐出ポートとなりポンプ逆回転時に吸入ポートとなる第1ポンプポートと、ポンプ正回転時に吸入ポートとなりポンプ逆回転時に吐出ポートとなる第2ポンプポートとした場合、
前記第1ポンプポートとタンク室との間に配置され、ポンプ正回転時に前記第1ポンプポートからタンク室への圧油の逆流を防止し、ポンプ逆回転時に開放して前記タンク室からの油を前記第1ポンプポート側に供給して吸入させる第2逆流防止弁と、
前記第2ポンプポートと前記タンク室との間に配置され、ポンプ正回転時に開放して前記タンク室からの油を前記第2ポンプポートに供給して吸入させ、ポンプ逆回転時に閉鎖して前記第2ポンプポートから圧油を強制開放制御油圧として供給させる第3逆流防止弁と、
前記シリンダ室と前記タンク室との間に配置され、ポンプ正回転時に閉鎖して前記シリンダ室からタンク室への圧油の逆流を防止し、ポンプ逆回転時に前記第3逆流防止弁の閉鎖で供給される前記強制開放制御油圧により強制開放して前記シリンダ室の圧油を前記タンク室へ排出させる強制開放弁機構と、
を備えたことを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項3】
請求項2記載の駆動力配分装置に於いて、前記強制開放弁機構は、
前記シリンダ室の圧油を受けて前記タンク室への排出流路を閉鎖する逆流防止弁と、
前記ポンプ正回転時に後退して前記逆流防止弁の弁体の閉鎖位置への移動を許容し、ポンプ逆回転時に前記第3逆流防止弁の閉鎖で供給される前記強制開放制御油圧により前進して前記逆流防止弁の弁体を開放位置に押し出し移動させるスプール弁と、
を備えたことを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項4】
請求項3記載の駆動力配分装置に於いて、
前記逆流防止弁は、軸方向に形成したスプール穴の一端に連通する排出流路の流入側に弁座を形成し、前記シリンダ室の圧油により押圧されて流路を閉鎖する弁体を前記弁座に配置し、
前記スプール弁は、前記スプール穴に対し前記逆流防止弁の排出流路からの圧油をタンクに排出するドレインポートと前記強制制御圧油を供給する制御ポートを設け、前記スプール穴にスプール弁体を軸方向に自在に配置し、前記スプール弁体は後部に前記制御ポートからの圧油により前進移動させる第1ピストン部を形成すると共に、先端部に前記逆流防止弁を押圧して開放する第2ピストン部を形成し、前記第2ピストン部は先端側から後方に向けて隙間が変化する形状であり、前記スプール弁体の前進に応じて前記排出流量を増加させることを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項5】
請求項2記載の駆動力配分装置に於いて、前記強制開放弁機構は、
前記タンク室への連通路を共通接続して圧油循環系を構成し、前記共通接続部にストレーナを配置したことを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項6】
請求項1記載の駆動力配分装置に於いて、前記制御部は、前記摩擦クラッチの目標トルクを所定のトルクに保持する場合、前記モータの通電により前記油圧ポンプを正回転した状態で前記圧力センサの検出圧力が前記所定のトルクに対応した第1設定圧力に達した時に前記モータ通電を停止してポンプを停止し、前記ポンプ停止状態で前記圧力センサの検出圧力が前記第1設定圧力より低い第2設定圧力に低下する毎に、前記第1設定圧力に回復するまでモータの通電によるポンプ正回転を繰り返すことを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項7】
請求項1記載の駆動力配分装置に於いて、前記制御弁機構は、
前記モータの正回転を前記油圧ポンプに伝達し、前記モータの逆回転でフリーとなるポンプ駆動用ワンウェークラッチと、
前記モータの逆回転を伝達し、前記モータの正回転でフリーとなる油圧開放用ワンウェークラッチと、
前記シリンダ室と前記タンク室との間に配置され、前記油圧開放用ワンウェークラッチを介して伝達される前記モータの逆回転により強制開放して前記シリンダ室の圧油を前記タンク室へ排出させる強制開放弁機構と、
を備えたこと特徴とする駆動力配分装置。
【請求項8】
請求項1記載の駆動力配分装置に於いて、前記制御弁機構は、
前記油圧ポンプに設けた2つのポートを、ポンプ正回転時に吐出ポートとなりポンプ逆回転時に吸入ポートとなる第1ポンプポートと、ポンプ正回転時に吸入ポートとなりポンプ逆回転時に吐出ポートとなる第2ポンプポートとした場合、
前記モータの逆回転を伝達し、前記モータの正回転でフリーとなる油圧開放用ワンウェークラッチと、
前記シリンダ室と前記タンク室との間に配置され、前記油圧開放用ワンウェークラッチを介して伝達される前記モータの逆回転により強制開放して前記シリンダ室の圧油を前記タンク室へ排出させる強制開放弁機構と、
を備えたこと特徴とする駆動力配分装置。
【請求項9】
請求項1記載の駆動力配分装置に於いて、前記制御弁機構は、
前記油圧ポンプに設けた2つのポートを、ポンプ正回転時に吐出ポートとなりポンプ逆回転時に吸入ポートとなる第1ポンプポートと、ポンプ正回転時に吸入ポートとなりポンプ逆回転時に吐出ポートとなる第2ポンプポートとした場合、
前記第1ポンプポートとタンク室との間に配置され、ポンプ正回転時に前記第1ポンプポートからタンク室への圧油の逆流を防止し、ポンプ逆回転時に開放して前記タンク室からの油を前記第1ポンプポート側に供給して吸入させる第2逆流防止弁と、
前記モータの逆回転を伝達し、前記モータの正回転でフリーとなる油圧開放用ワンウェークラッチと、
前記シリンダ室と前記タンク室との間に配置され、前記ワンウェークラッチを介して伝達される前記モータの逆回転により強制開放して前記シリンダ室の圧油を前記タンク室へ排出させる強制開放弁機構と、
を備えたこと特徴とする駆動力配分装置。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれかに記載の駆動力配分装置に於いて、前記強制開放弁機構は、
前記シリンダ室の圧油を受けて前記タンク室への排出流路を閉鎖する逆流防止弁と、
前記ワンウェークラッチを介して伝達される前記モータの逆回転により移動して前記逆流防止弁の弁体を開放位置に押し出し移動させるスプール弁と、
を備えたことを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項11】
請求項1記載の駆動力配分装置に於いて、前記制御部は、
車両始動時に前記モータを逆回転させて前記強制開放弁機構の作動により前記シリンダ室の油圧を開放し、この状態で前記圧力センサの検出値を読み込んで零点補正値として保存する圧力センサ零点学習部と、
車両の運用中に読み込まれた前記圧力センサの検出値を前記零点補正値により補正する検出圧力補正部と、
を備えたことを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項1】
摩擦クラッチによって動力を伝達する駆動力配分装置であって、
油圧によって前記摩擦クラッチに対し押し付け力を発生するピストンと、
前記ピストンを軸方向に移動自在に収納するシリンダ室と、
正転時に前記シリンダ室に圧油を供給する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプを駆動するモータと、
前記油圧ポンプとシリンダ室の間にあって、シリンダ室からの圧油の逆流を防止する第1逆流防止弁と、
前記モータが逆転時に、前記シリンダ室の圧油を排出する制御弁機構と、
前記シリンダ室の油圧を検出する圧カセンサと、
外部からの信号により求めた目標伝達トルクと前記圧カセンサからの信号に基づいて前記モータの正逆転駆動を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記モータの正転により前記シリンダ室の油圧を上昇させ、正転から停止させた時に油圧を保持し、逆転により油圧を低下させるように動作することで、前記摩擦クラッチの伝達トルクが目標伝達トルクとなるように制御することを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項2】
請求項1記載の駆動力配分装置に於いて、前記制御弁機構は、
前記油圧ポンプに設けた2つのポートを、ポンプ正回転時に吐出ポートとなりポンプ逆回転時に吸入ポートとなる第1ポンプポートと、ポンプ正回転時に吸入ポートとなりポンプ逆回転時に吐出ポートとなる第2ポンプポートとした場合、
前記第1ポンプポートとタンク室との間に配置され、ポンプ正回転時に前記第1ポンプポートからタンク室への圧油の逆流を防止し、ポンプ逆回転時に開放して前記タンク室からの油を前記第1ポンプポート側に供給して吸入させる第2逆流防止弁と、
前記第2ポンプポートと前記タンク室との間に配置され、ポンプ正回転時に開放して前記タンク室からの油を前記第2ポンプポートに供給して吸入させ、ポンプ逆回転時に閉鎖して前記第2ポンプポートから圧油を強制開放制御油圧として供給させる第3逆流防止弁と、
前記シリンダ室と前記タンク室との間に配置され、ポンプ正回転時に閉鎖して前記シリンダ室からタンク室への圧油の逆流を防止し、ポンプ逆回転時に前記第3逆流防止弁の閉鎖で供給される前記強制開放制御油圧により強制開放して前記シリンダ室の圧油を前記タンク室へ排出させる強制開放弁機構と、
を備えたことを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項3】
請求項2記載の駆動力配分装置に於いて、前記強制開放弁機構は、
前記シリンダ室の圧油を受けて前記タンク室への排出流路を閉鎖する逆流防止弁と、
前記ポンプ正回転時に後退して前記逆流防止弁の弁体の閉鎖位置への移動を許容し、ポンプ逆回転時に前記第3逆流防止弁の閉鎖で供給される前記強制開放制御油圧により前進して前記逆流防止弁の弁体を開放位置に押し出し移動させるスプール弁と、
を備えたことを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項4】
請求項3記載の駆動力配分装置に於いて、
前記逆流防止弁は、軸方向に形成したスプール穴の一端に連通する排出流路の流入側に弁座を形成し、前記シリンダ室の圧油により押圧されて流路を閉鎖する弁体を前記弁座に配置し、
前記スプール弁は、前記スプール穴に対し前記逆流防止弁の排出流路からの圧油をタンクに排出するドレインポートと前記強制制御圧油を供給する制御ポートを設け、前記スプール穴にスプール弁体を軸方向に自在に配置し、前記スプール弁体は後部に前記制御ポートからの圧油により前進移動させる第1ピストン部を形成すると共に、先端部に前記逆流防止弁を押圧して開放する第2ピストン部を形成し、前記第2ピストン部は先端側から後方に向けて隙間が変化する形状であり、前記スプール弁体の前進に応じて前記排出流量を増加させることを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項5】
請求項2記載の駆動力配分装置に於いて、前記強制開放弁機構は、
前記タンク室への連通路を共通接続して圧油循環系を構成し、前記共通接続部にストレーナを配置したことを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項6】
請求項1記載の駆動力配分装置に於いて、前記制御部は、前記摩擦クラッチの目標トルクを所定のトルクに保持する場合、前記モータの通電により前記油圧ポンプを正回転した状態で前記圧力センサの検出圧力が前記所定のトルクに対応した第1設定圧力に達した時に前記モータ通電を停止してポンプを停止し、前記ポンプ停止状態で前記圧力センサの検出圧力が前記第1設定圧力より低い第2設定圧力に低下する毎に、前記第1設定圧力に回復するまでモータの通電によるポンプ正回転を繰り返すことを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項7】
請求項1記載の駆動力配分装置に於いて、前記制御弁機構は、
前記モータの正回転を前記油圧ポンプに伝達し、前記モータの逆回転でフリーとなるポンプ駆動用ワンウェークラッチと、
前記モータの逆回転を伝達し、前記モータの正回転でフリーとなる油圧開放用ワンウェークラッチと、
前記シリンダ室と前記タンク室との間に配置され、前記油圧開放用ワンウェークラッチを介して伝達される前記モータの逆回転により強制開放して前記シリンダ室の圧油を前記タンク室へ排出させる強制開放弁機構と、
を備えたこと特徴とする駆動力配分装置。
【請求項8】
請求項1記載の駆動力配分装置に於いて、前記制御弁機構は、
前記油圧ポンプに設けた2つのポートを、ポンプ正回転時に吐出ポートとなりポンプ逆回転時に吸入ポートとなる第1ポンプポートと、ポンプ正回転時に吸入ポートとなりポンプ逆回転時に吐出ポートとなる第2ポンプポートとした場合、
前記モータの逆回転を伝達し、前記モータの正回転でフリーとなる油圧開放用ワンウェークラッチと、
前記シリンダ室と前記タンク室との間に配置され、前記油圧開放用ワンウェークラッチを介して伝達される前記モータの逆回転により強制開放して前記シリンダ室の圧油を前記タンク室へ排出させる強制開放弁機構と、
を備えたこと特徴とする駆動力配分装置。
【請求項9】
請求項1記載の駆動力配分装置に於いて、前記制御弁機構は、
前記油圧ポンプに設けた2つのポートを、ポンプ正回転時に吐出ポートとなりポンプ逆回転時に吸入ポートとなる第1ポンプポートと、ポンプ正回転時に吸入ポートとなりポンプ逆回転時に吐出ポートとなる第2ポンプポートとした場合、
前記第1ポンプポートとタンク室との間に配置され、ポンプ正回転時に前記第1ポンプポートからタンク室への圧油の逆流を防止し、ポンプ逆回転時に開放して前記タンク室からの油を前記第1ポンプポート側に供給して吸入させる第2逆流防止弁と、
前記モータの逆回転を伝達し、前記モータの正回転でフリーとなる油圧開放用ワンウェークラッチと、
前記シリンダ室と前記タンク室との間に配置され、前記ワンウェークラッチを介して伝達される前記モータの逆回転により強制開放して前記シリンダ室の圧油を前記タンク室へ排出させる強制開放弁機構と、
を備えたこと特徴とする駆動力配分装置。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれかに記載の駆動力配分装置に於いて、前記強制開放弁機構は、
前記シリンダ室の圧油を受けて前記タンク室への排出流路を閉鎖する逆流防止弁と、
前記ワンウェークラッチを介して伝達される前記モータの逆回転により移動して前記逆流防止弁の弁体を開放位置に押し出し移動させるスプール弁と、
を備えたことを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項11】
請求項1記載の駆動力配分装置に於いて、前記制御部は、
車両始動時に前記モータを逆回転させて前記強制開放弁機構の作動により前記シリンダ室の油圧を開放し、この状態で前記圧力センサの検出値を読み込んで零点補正値として保存する圧力センサ零点学習部と、
車両の運用中に読み込まれた前記圧力センサの検出値を前記零点補正値により補正する検出圧力補正部と、
を備えたことを特徴とする駆動力配分装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2008−232368(P2008−232368A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−75879(P2007−75879)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000154347)株式会社ユニバンス (132)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000154347)株式会社ユニバンス (132)
【Fターム(参考)】
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