説明

駆動源の制御装置

【課題】目標エンジン回転数NETおよび実際のエンジン回転数NEの差に応じて設定される、目標エンジントルクの補正量において、エンジンの無駄時間による影響を小さくし、エンジンを精度よく制御する。
【解決手段】第2目標エンジントルクの補正量を算出するために用いられる目標エンジン回転数NETが、エンジンの無駄時間分だけ遅れるように補正される。補正された目標エンジン回転数NETおよび実際のエンジン回転数NEの差に応じて、第2目標エンジントルクの補正量が算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源の制御装置に関し、特に、フィードフォワード制御により設定された駆動源の出力値の目標値およびフィードバック制御により設定された目標値の補正量に応じて駆動源を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、スロットルバルブの開度(以下、スロットル開度とも記載する)などにより、出力トルクの値などが定まるエンジンが知られている。一般的に、スロットル開度は、アクセルペダルの位置(以下、アクセル開度とも記載する)と一義的に対応するように作動する。しかしながら、スロットル開度とアクセル開度とが常に一義的に対応していると、たとえば車両の挙動が乱れた場合などにおいて、車両の駆動力などを運転者の意思と関係なく制御することが困難である。そこで、アクセル開度に依存せずに出力トルクなどを制御することが可能であるように、アクチュエータにより作動する電子スロットルバルブがエンジンに設けられた車両がある。電子スロットルバルブが設けられた車両においては、アクセル開度の他、車両の挙動などに基づいて目標エンジントルクを設定し、実際のエンジントルクが設定された目標エンジントルクになるようにエンジンを制御することが可能である。
【0003】
特開2006−297993号公報(特許文献1)は、運転者のアクセルペダルの操作量に基づいて第1目標駆動力を算出する第1目標駆動力算出部と、車両が一定の車速を保つように、又は、車両周辺対象物に対して所定の相対距離又は相対速度関係を保つように、第2目標駆動力を算出する第2目標駆動力算出部と、運転者の加減速意思を判断する意思判断部と、意思判断部にて判断された運転者の加減速意思を考慮しつつ、第1目標駆動力と第2目標駆動力を駆動力ベースで調停する調停部と、調停部にて調停した目標駆動力に基づいて駆動力発生装置を制御する駆動力制御部とを備える駆動力制御装置を開示する。
【0004】
この公報に記載の駆動力制御装置によれば、駆動力ベースで調停を行ないつつ、運転者の加減速意思に応じた適切な調停が可能である。なお、特開2006−297993号公報においては、駆動力が目標エンジントルクに変換される。
【特許文献1】特開2006−297993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特開2006−297993号公報に記載の駆動力制御装置のように目標駆動力などの目標値に応じて駆動源としてのエンジンを制御する場合、駆動源の実際の出力値と目標値とが一致するとは限らない。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、駆動源の制御精度を向上することができる駆動源の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明に係る駆動源の制御装置は、駆動源の出力軸回転数を検出するための手段と、駆動源の出力軸の目標回転数を設定するための第1の設定手段と、目標回転数に応じて、駆動源の出力軸の回転数とは異なる駆動源の出力値の目標値を設定するための第2の設定手段と、目標回転数および出力軸回転数のうちのいずれか一方を補正するための補正手段と、補正された目標回転数および駆動源の出力軸回転数との差に応じた、目標値の補正量および目標回転数および補正された出力軸回転数との差に応じた、目標値の補正量のうちのいずれか一方を設定するための第3の設定手段と、目標値および補正量に応じて駆動源を制御するための手段とを備える。
【0008】
この構成によると、たとえばフィードフォワード制御により、駆動源の出力軸の目標回転数に応じて、駆動源の出力軸の回転数とは異なる駆動源の出力値の目標値が設定される。駆動源の実際の出力値が目標値により精度よく一致するように、目標回転数および駆動源の出力軸回転数との差に応じた目標値の補正量がフィードバック制御により設定される。ところで、目標回転数に対して、実際の出力軸回転数が必然的に無駄時間だけ遅れて実現されるので、駆動源の無駄時間に起因する目標回転数と出力軸回転数との差を出力値の補正量に反映する必要性は小さい。したがって、駆動源の無駄時間に起因する目標回転数と出力軸回転数との差が排除された状態で目標値の補正量を設定することが望ましい。そこで、目標回転数もしくは出力軸回転数は、たとえば駆動源の無駄時間を考慮して補正される。目標回転数は、無駄時間の分だけ遅れるように補正される。出力軸回転数は、無駄時間の分だけ早まるように補正される。補正された目標回転数および駆動源の出力軸回転数との差に応じた目標値の補正量、もしくは、目標回転数および補正された出力軸回転数との差に応じた目標値の補正量が設定される。これにより、フィードバック制御により目標値の補正量を設定する際に、駆動源の無駄時間などに起因する目標回転数と実際の出力軸回転数との差を小さくすることができる。そのため、無駄時間の影響を小さくして、目標値の補正量を精度よく設定することができる。その結果、駆動源の制御精度を向上することができる駆動源の制御装置を提供することができる。
【0009】
第2の発明に係る駆動源の制御装置おいては、第1の発明の構成に加え、補正手段は、目標回転数が駆動源の無駄時間に応じて遅れるように補正するための手段を含む。第3の設定手段は、補正された目標回転数および駆動源の出力軸回転数との差に応じて、目標値の補正量を設定するための手段を含む。
【0010】
この構成によると、駆動源の無駄時間に応じて遅れるように目標回転数が補正される。補正された目標回転数および駆動源の出力軸回転数との差に応じて、駆動源の出力値の目標値の補正量が設定される。これにより、フィードバック制御に用いられる目標回転数を駆動源の無駄時間の分だけ遅らせることができる。そのため、無駄時間を含む出力軸回転数と目標回転数との差を小さくすることができる。その結果、無駄時間の影響を小さくして、目標値の補正量を精度よく設定することができる。
【0011】
第3の発明に係る駆動源の制御装置においては、第1の発明の構成に加え、補正手段は、出力軸回転数が駆動源の無駄時間に応じて早まるように補正するための手段を含む。第3の設定手段は、目標回転数および補正された出力軸回転数との差に応じて、目標値の補正量を設定するための手段を含む。
【0012】
この構成によると、駆動源の無駄時間に応じて早まるように、検出された出力軸回転数が補正される。目標回転数および補正された出力軸回転数との差に応じて、目標値の補正量が設定される。これにより、フィードバック制御に用いられる出力軸回転数を駆動源の無駄時間の分だけ早めることができる。そのため、無駄時間を含まない目標回転数と出力軸回転数との差を小さくすることができる。その結果、無駄時間の影響を小さくして、目標値の補正量を精度よく設定することができる。
【0013】
第4の発明に係る駆動源の制御装置は、第2または3のいずれかの発明の構成に加え、駆動源の出力軸回転数に応じて無駄時間を算出するための手段をさらに備える。
【0014】
この構成によると、駆動源の出力軸回転数に応じて無駄時間が算出される。これにより、駆動源の運転状態に応じて変化し得る無駄時間を精度よく算出することができる。
【0015】
第5の発明に係る駆動源の制御装置は、第2〜4のいずれかの発明の構成に加え、補正量を設定するために用いられる目標回転数を制限するための手段をさらに備える。
【0016】
この構成によると、補正量を設定するために用いられる目標回転数、すなわちフィードバック制御に用いられる目標回転数が制限される。これにより、補正量を制限することができる。そのため、たとえば駆動源の能力の範囲内で、目標値の補正量を設定することができる。
【0017】
第6の発明に係る駆動源の制御装置においては、第1〜5のいずれかの発明の構成に加え、出力値は出力トルクである。
【0018】
この構成によると、要求される出力トルクを実現するように駆動源を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0020】
<第1の実施の形態>
図1を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る制御装置を搭載した車両について説明する。この車両は、FR(Front engine Rear drive)車両である。なお、FR以外の車両であってもよい。
【0021】
車両は、エンジン1000と、オートマチックトランスミッション2000と、トルクコンバータ2100と、オートマチックトランスミッション2000の一部を構成するプラネタリギヤユニット3000と、オートマチックトランスミッション2000の一部を構成する油圧回路4000と、プロペラシャフト5000と、デファレンシャルギヤ6000と、後輪7000と、ECU(Electronic Control Unit)8000とを含む。
【0022】
エンジン1000は、インジェクタ(図示せず)から噴射された燃料と空気との混合気を、シリンダの燃焼室内で燃焼させる内燃機関である。燃焼によりシリンダ内のピストンが押し下げられて、クランクシャフトが回転させられる。エンジン1000により、オルタネータおよびエアコンディショナーなどの補機1004が駆動される。エンジン1000の出力トルク(エンジントルクTE)は、電子スロットルバルブ8016の作動量、すなわちスロットル開度などに応じて変化する。なお、エンジン1000の代わりにもしくは加えて、動力源にモータを用いるようにしてもよい。また、ディーゼルエンジンを用いるようにしてもよい。ディーゼルエンジンにおいては、インジェクタの開弁時間(作動量)、すなわち燃料噴射量に応じて出力トルクが変化する。
【0023】
オートマチックトランスミッション2000は、トルクコンバータ2100を介してエンジン1000に連結される。オートマチックトランスミッション2000は、所望のギヤ段を形成することにより、クランクシャフトの回転数を所望の回転数に変速する。なお、ギヤ段を形成するオートマチックトランスミッションの代わりに、ギヤ比を無段階に変更するCVT(Continuously Variable Transmission)を搭載するようにしてもよい。さらに、油圧アクチュエータもしくは電動モータにより変速される常時噛合式歯車からなる自動変速機を搭載するようにしてもよい。
【0024】
オートマチックトランスミッション2000から出力されたトルクは、プロペラシャフト5000およびデファレンシャルギヤ6000を介して、左右の後輪7000に伝達される。
【0025】
ECU8000には、シフトレバー8004のポジションスイッチ8006と、アクセルペダル8008のアクセル開度センサ8010と、エアフローメータ8012と、電子スロットルバルブ8016のスロットル開度センサ8018と、エンジン回転数センサ8020と、入力軸回転数センサ8022と、出力軸回転数センサ8024と、油温センサ8026と、水温センサ8028とがハーネスなどを介して接続されている。
【0026】
シフトレバー8004の位置(シフトポジション)は、ポジションスイッチ8006により検出され、検出結果を表す信号がECU8000に送信される。シフトレバー8004の位置に対応して、オートマチックトランスミッション2000のギヤ段が自動で形成される。また、運転者の操作に応じて、運転者が任意のギヤ段を選択できるマニュアルシフトモードを選択できるように構成してもよい。
【0027】
アクセル開度センサ8010は、アクセルペダル8008の開度を検出し、検出結果を表す信号をECU8000に送信する。エアフローメータ8012は、エンジン1000に吸入される空気量を検出し、検出結果を表す信号をECU8000に送信する。
【0028】
スロットル開度センサ8018は、アクチュエータにより開度が調整される電子スロットルバルブ8016の開度を検出し、検出結果を表す信号をECU8000に送信する。電子スロットルバルブ8016により、エンジン1000に吸入される空気量が調整される。
【0029】
なお、電子スロットルバルブ8016の代わりにもしくは加えて、吸気バルブ(図示せず)や排気バルブ(図示せず)のリフト量や開閉する位相を変更する可変バルブリフトシステムにより、エンジン1000に吸入される空気量を調整するようにしてもよい。
【0030】
エンジン回転数センサ8020は、エンジン1000の出力軸(クランクシャフト)の回転数(以下、エンジン回転数NEとも記載する)を検出し、検出結果を表す信号をECU8000に送信する。入力軸回転数センサ8022は、オートマチックトランスミッション2000の入力軸回転数NI(トルクコンバータ2100のタービン回転数NT)を検出し、検出結果を表す信号をECU8000に送信する。出力軸回転数センサ8024は、オートマチックトランスミッション2000の出力軸回転数NOを検出し、検出結果を表す信号をECU8000に送信する。
【0031】
油温センサ8026は、オートマチックトランスミッション2000の作動や潤滑に用いられるオイル(ATF:Automatic Transmission Fluid)の温度(油温)を検出し、検出結果を表す信号をECU8000に送信する。
【0032】
水温センサ8028は、エンジン1000の冷却水の温度(水温)を検出し、検出結果を表わす信号をECU8000に送信する。
【0033】
ECU8000は、ポジションスイッチ8006、アクセル開度センサ8010、エアフローメータ8012、スロットル開度センサ8018、エンジン回転数センサ8020、入力軸回転数センサ8022、出力軸回転数センサ8024、油温センサ8026、水温センサ8028などから送られてきた信号、ROM(Read Only Memory)8002に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、車両が所望の走行状態となるように、機器類を制御する。なおECU8000により実行されるプログラムをCD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)などの記録媒体に記録して市場に流通させてもよい。また、ECU8000を複数のECUに分割するようにしてもよい。
【0034】
本実施の形態において、ECU8000は、シフトレバー8004がD(ドライブ)ポジションであることにより、オートマチックトランスミッション2000のシフトレンジにD(ドライブ)レンジが選択された場合、前進1速〜8速ギヤ段のうちのいずれかのギヤ段が形成されるように、オートマチックトランスミッション2000を制御する。オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とを連結するように、後述する摩擦係合要素(クラッチおよびブレーキ)が予め定められた組合せで係合されることにより、ギヤ段が形成される。前進1速〜8速ギヤ段のうちのいずれかのギヤ段が形成されると、後輪7000にトルクが伝達され得る。なおDレンジにおいて、8速ギヤ段よりも高速のギヤ段を形成可能であるようにしてもよい。形成するギヤ段は、車速とアクセル開度とをパラメータとして実験等により予め作成された変速線図に基づいて決定される。
【0035】
シフトレバー8004がN(ニュートラル)ポジションもしくはP(パーキング)ポジションであることにより、オートマチックトランスミッション2000のシフトレンジにN(ニュートラル)レンジもしくはP(パーキング)レンジが選択された場合、摩擦係合要素が解放され、オートマチックトランスミッション2000はニュートラル状態になる。ニュートラル状態では、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが遮断される。
【0036】
図2を参照して、プラネタリギヤユニット3000について説明する。プラネタリギヤユニット3000は、クランクシャフトに連結された入力軸2102を有するトルクコンバータ2100に接続されている。
【0037】
プラネタリギヤユニット3000は、フロントプラネタリ3100と、リアプラネタリ3200と、C1クラッチ3301と、C2クラッチ3302と、C3クラッチ3303と、C4クラッチ3304と、B1ブレーキ3311と、B2ブレーキ3312と、ワンウェイクラッチ(F)3320とを含む。
【0038】
フロントプラネタリ3100は、ダブルピニオン型の遊星歯車機構である。フロントプラネタリ3100は、第1サンギヤ(S1)3102と、1対の第1ピニオンギヤ(P1)3104と、キャリア(CA)3106と、リングギヤ(R)3108とを含む。
【0039】
第1ピニオンギヤ(P1)3104は、第1サンギヤ(S1)3102および第1リングギヤ(R)3108と噛合っている。第1キャリア(CA)3106は、第1ピニオンギヤ(P1)3104が公転および自転可能であるように支持している。
【0040】
第1サンギヤ(S1)3102は、回転不能であるようにギヤケース3400に固定される。第1キャリア(CA)3106は、プラネタリギヤユニット3000の入力軸3002に連結される。
【0041】
リアプラネタリ3200は、ラビニヨ型の遊星歯車機構である。リアプラネタリ3200は、第2サンギヤ(S2)3202と、第2ピニオンギヤ(P2)3204と、リアキャリア(RCA)3206と、リアリングギヤ(RR)3208と、第3サンギヤ(S3)3210と、第3ピニオンギヤ(P3)3212とを含む。
【0042】
第2ピニオンギヤ(P2)3204は、第2サンギヤ(S2)3202、リアリングギヤ(RR)3208および第3ピニオンギヤ(P3)3212と噛合っている。第3ピニオンギヤ(P3)3212は、第2ピニオンギヤ(P2)3204に加えて、第3サンギヤ(S3)3210と噛合っている。
【0043】
リアキャリア(RCA)3206は、第2ピニオンギヤ(P2)3204および第3ピニオンギヤ(P3)3212が公転および自転可能であるように支持している。リアキャリア(RCA)3206は、ワンウェイクラッチ(F)3320に連結される。リアキャリア(RCA)3206は、1速ギヤ段の駆動時(エンジン1000から出力された駆動力を用いた走行時)に回転不能となる。リアリングギヤ(RR)3208は、プラネタリギヤユニット3000の出力軸3004に連結される。
【0044】
ワンウェイクラッチ(F)3320は、B2ブレーキ3312と並列に設けられる。すなわち、ワンウェイクラッチ(F)3320のアウターレースはギヤケース3400に固定され、インナーレースはリアキャリア(RCA)3206に連結される。
【0045】
図3に、各変速ギヤ段と、各クラッチおよび各ブレーキの作動状態との関係を表した作動表を示す。この作動表に示された組み合わせで各ブレーキおよび各クラッチを作動させることにより、前進1速〜8速のギヤ段と、後進1速および2速のギヤ段が形成される。
【0046】
図4を参照して、油圧回路4000の要部について説明する。なお、油圧回路4000は、以下に説明するものに限られない。
【0047】
油圧回路4000は、オイルポンプ4004と、プライマリレギュレータバルブ4006と、マニュアルバルブ4100と、ソレノイドモジュレータバルブ4200と、SL1リニアソレノイド(以下、SL(1)と記載する)4210と、SL2リニアソレノイド(以下、SL(2)と記載する)4220と、SL3リニアソレノイド(以下、SL(3)と記載する)4230と、SL4リニアソレノイド(以下、SL(4)と記載する)4240と、SL5リニアソレノイド(以下、SL(5)と記載する)4250と、SLTリニアソレノイド(以下、SLTと記載する)4300と、B2コントロールバルブ4500とを含む。
【0048】
オイルポンプ4004は、エンジン1000のクランクシャフトに連結されている。クランクシャフトが回転することにより、オイルポンプ4004が駆動し、油圧を発生する。オイルポンプ4004で発生した油圧は、プライマリレギュレータバルブ4006により調圧され、ライン圧が生成される。
【0049】
プライマリレギュレータバルブ4006は、SLT4300により調圧されたスロットル圧をパイロット圧として作動する。ライン圧は、ライン圧油路4010を介してマニュアルバルブ4100に供給される。
【0050】
マニュアルバルブ4100は、ドレンポート4105を含む。ドレンポート4105から、Dレンジ圧油路4102およびRレンジ圧油路4104の油圧が排出される。マニュアルバルブ4100のスプールがDポジションにある場合、ライン圧油路4010とDレンジ圧油路4102とが連通させられ、Dレンジ圧油路4102に油圧が供給される。このとき、Rレンジ圧油路4104とドレンポート4105とが連通させられ、Rレンジ圧油路4104のRレンジ圧がドレンポート4105から排出される。
【0051】
マニュアルバルブ4100のスプールがRポジションにある場合、ライン圧油路4010とRレンジ圧油路4104とが連通させられ、Rレンジ圧油路4104に油圧が供給される。このとき、Dレンジ圧油路4102とドレンポート4105とが連通させられ、Dレンジ圧油路4102のDレンジ圧がドレンポート4105から排出される。
【0052】
マニュアルバルブ4100のスプールがNポジションもしくはPポジションにある場合、Dレンジ圧油路4102およびRレンジ圧油路4104の両方と、ドレンポート4105とが連通させられ、Dレンジ圧油路4102のDレンジ圧およびRレンジ圧油路4104のRレンジ圧がドレンポート4105から排出される。
【0053】
Dレンジ圧油路4102に供給された油圧は、最終的には、C1クラッチ3301、C2クラッチ3302およびC3クラッチ3303に供給される。Rレンジ圧油路4104に供給された油圧は、最終的には、B2ブレーキ3312に供給される。
【0054】
ソレノイドモジュレータバルブ4200は、ライン圧を元圧とし、SLT4300に供給する油圧(ソレノイドモジュレータ圧)を一定の圧力に調圧する。
【0055】
SL(1)4210は、C1クラッチ3301に供給される油圧を調圧する。SL(2)4220は、C2クラッチ3302に供給される油圧を調圧する。SL(3)4230は、C3クラッチ3303に供給される油圧を調圧する。SL(4)4240は、C4クラッチ3304に供給される油圧を調圧する。SL(5)4250は、B1ブレーキ3311に供給される油圧を調圧する。
【0056】
SLT4300は、アクセル開度センサ8010により検出されたアクセル開度に基づいたECU8000からの制御信号に応じて、ソレノイドモジュレータ圧を調圧し、スロットル圧を生成する。スロットル圧は、SLT油路4302を介して、プライマリレギュレータバルブ4006に供給される。スロットル圧は、プライマリレギュレータバルブ4006のパイロット圧として利用される。
【0057】
SL(1)4210、SL(2)4220、SL(3)4230、SL(4)4240、SL(5)4250およびSLT4300は、ECU8000から送信される制御信号により制御される。
【0058】
B2コントロールバルブ4500は、Dレンジ圧油路4102およびRレンジ圧油路4104のいずれか一方からの油圧を選択的に、B2ブレーキ3312に供給する。B2コントロールバルブ4500に、Dレンジ圧油路4102およびRレンジ圧油路4104が接続されている。B2コントロールバルブ4500は、SLUソレノイドバルブ(図示せず)から供給された油圧とスプリングの付勢力とにより制御される。
【0059】
SLUソレノイドバルブがオンの場合、B2コントロールバルブ4500は、図4において左側の状態となる。この場合、B2ブレーキ3312には、SLUソレノイドバルブから供給された油圧をパイロット圧として、Dレンジ圧を調圧した油圧が供給される。
【0060】
SLUソレノイドバルブがオフの場合、B2コントロールバルブ4500は、図4において右側の状態となる。この場合、B2ブレーキ3312には、Rレンジ圧が供給される。
【0061】
図5を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU8000についてさらに説明する。図5中の「F」は駆動力を、「TE」はエンジントルクを、「N」は回転数を示す。なお、以下に説明するECU8000の各機能は、ハードウエアにより実現するようにしてもよく、ソフトウエアにより実現するようにしてもよい。
【0062】
図5に示すように、ECU8000には、エンジン制御部9000と、パワートレーンマネージャ(PTM: Power Train Manager)9100と、ECT(Electronic Controlled Transmission)部9200と、パワートレーンドライバモデル(PDRM: Power train Driver Model)9300とが実装されている。
【0063】
エンジン制御部9000は、パワートレーンマネージャ9100から入力された目標エンジントルクを実現するように、電子スロットルバルブ8016、点火時期、EGR(Exhaust Gas Recirculation)バルブなど、エンジン1000の出力トルク(エンジントルク)を制御するためにエンジン1000に設けられた機器を制御する。
【0064】
パワートレーンマネージャ9100は、ドライバの操作、車両の挙動およびECT部9200からの要求などに基づいてエンジン1000の目標エンジントルクを設定する。より具体的には、設定部9102において、車両の目標駆動力を考慮して設定される第1目標エンジントルクと、目標エンジン回転数NETを考慮して設定される第2目標エンジントルクとのうちの小さい方の目標エンジントルクを、エンジン制御部9000に対して出力する最終的な目標エンジントルクとして設定する。なお、大きい方の目標エンジントルクを最終的な目標エンジントルクとして設定するようにしてもよい。
【0065】
パワートレーンマネージャ9100は、車両の目標駆動力を考慮した第1目標エンジントルクを設定するために、パワートレーンドライバモデル9300により設定された目標駆動力と、VDIM(Vehicle Dynamics Integrated Management)、制振制御、最高車速制限制御などにより設定された目標駆動力とを駆動力調停部9110において調停する。たとえば、駆動力調停部9110において、最も小さい目標駆動力もしくは最も大きい目標駆動力が選択される。
【0066】
VDIMは、VSC(Vehicle Stability Control)、TRC(TRaction Control)、ABS(Anti lock Brake System)、EPS(Electric Power Steering)などを統合するシステムであって、アクセル、ステアリング、ブレーキの操作量によるドライバの走行イメージと、各種センサ情報による車両挙動との差を算出し、その差を縮めるように車両の駆動力、ブレーキ油圧などを制御する。
【0067】
VSCは、前後輪が横滑りしそうな状態をセンサが検出した場合において、各輪のブレーキ油圧および車両の目標駆動力などを自動的に設定し、車両の安定性を確保する制御である。
【0068】
TRCは、滑りやすい路面での発進時および加速時に、駆動輪の空転をセンサが感知すると、各輪のブレーキ油圧および車両の目標駆動力などを自動的に設定し、最適な駆動力を確保する制御である。
【0069】
ABSは、ブレーキ油圧の最適値を自動的に設定し、車輪のロックを防止する制御システムである。EPSは、電動モータの力によってステアリングホイールの操舵をアシストする制御システムである。
【0070】
制振制御は、車両の実際の駆動力などから、車両モデルを用いて算出される車両のピッチングおよびバウンシングを抑制するための目標駆動力を設定する制御である。車両のピッチングおよびバウンシングを抑制するための駆動力を設定する方法については、従来の技術を利用すればよいため、ここではその詳細な説明は繰り返さない。
【0071】
最高車速制限制御は、車速を予め定められた最高車速以下に制限するための目標駆動力を、たとえば現在の加速度および車速などに応じて設定する制御である。
【0072】
駆動力調停部9110において調停された目標駆動力は、トルク変換部9112において目標エンジントルクに変換される。たとえば、後輪7000の半径、デファレンシャルギヤ6000のギヤ比、オートマチックトランスミッション2000の現在のギヤ比およびトルクコンバータ2100のトルク比などを用いて、駆動力がトルクに変換される。なお、駆動力をトルクに変換する方法は周知の一般的な技術を利用すればよいため、ここではその詳細な説明は繰り返さない。
【0073】
目標駆動力から変換された目標エンジントルクおよびECT部9200により設定された目標エンジントルクのうちのいずれか一方が、第1目標エンジントルクとしてトルク調停部9114において設定される。どちらのエンジントルクが第1目標エンジントルクとして設定されるかは、車両の運転状態およびオートマチックトランスミッション2000の変速状態などに応じて決定される。
【0074】
パワートレーンマネージャ9100は、目標エンジン回転数NETを考慮した第2目標エンジントルクを設定するため、回転数調停部9120において、パワートレーンドライバモデル9300により設定された目標エンジン回転数NETと、ECT部9200により設定された目標エンジン回転数NETとを調停する。どちらの目標エンジントルクが選択されるかは、車両の運転状態などに応じて決定される。回転数調停部9120において調停された目標エンジン回転数NETは、コントローラ9130に入力される。
【0075】
コントローラ9130は、目標エンジン回転数NETを第2目標エンジントルクに変換する。本実施の形態においては、コントローラ9130は、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが遮断された状態、すなわちニュートラル状態である場合に適した第2目標エンジントルクを設定する。これは、コントローラ9130の機能が、特にオートマチックトランスミッション2000のニュートラル状態において、目標エンジン回転数NETに基づいてエンジン1000を制御するものであるからである。
【0076】
図6を参照して、コントローラ9130が目標エンジン回転数NETを目標エンジントルクに変換する方法について説明する。コントローラ9130は、フィードフォワード制御部9132と、フィードバック制御部9134と、トルクガード部9140と、補正部9142と、回転数ガード部9144とを含む。
【0077】
フィードフォワード制御部9132は、エンジン回転数NEを維持するために要するエンジントルクに、エンジン回転数NEが目標エンジン回転数NETまで変化するために要するエンジントルクを加算することにより、目標エンジン回転数NETを第2目標エンジントルクに変換する。
【0078】
本実施の形態においては、エンジン1000自体の摩擦抵抗およびオイルポンプ4004の負荷により損失するエンジントルクと、トルクコンバータ2100の入力軸の回転数を維持するために要するエンジントルクとの和が、エンジン回転数NEを維持するために要するエンジントルクとして算出される。なお、エンジン回転数NEを維持するために要するエンジントルクはこれに限らない。
【0079】
エンジン1000自体の摩擦抵抗およびオイルポンプ4004の負荷により損失するエンジントルクは、たとえば、エンジン回転数NEをパラメータに有し、実験などにより予め作成されたマップに従って算出される。
【0080】
トルクコンバータ2100の入力軸の回転数を維持するために要するエンジントルクは、たとえば、トルクコンバータ2100の速度比e(タービン回転数NT/エンジン回転数NE)によって定まるトルク容量τ(入力軸の回転数維持に要するエンジントルク/エンジン回転数NE2)と、エンジン回転数NEとを用いて算出される。
【0081】
エンジン回転数NEが目標エンジン回転数NETまで変化するために要するエンジントルクは、イナーシャおよび目標エンジン回転数NETの変化率(角加速度)を用いて算出される。イナーシャと目標エンジン回転数NETの変化率との積が、エンジン回転数NEの変化に要するエンジントルクとして算出される。
【0082】
イナーシャには、エンジン1000からオートマチックトランスミッション2000の入力軸までのイナーシャが用いられる。より具体的には、エンジン1000、ドライブプレート、トルクコンバータ2100およびオートマチックトランスミッション2000において、トルクの伝達経路上、フォワードクラッチ(特にC1クラッチ3301)よりもエンジン1000側に位置する部材のイナーシャである。すなわち、オートマチックトランスミッション2000がニュートラル状態(入力軸と出力軸とが遮断された状態)である場合のイナーシャが用いられる。イナーシャは、予めデータとして記憶される。
【0083】
フィードバック制御部9134は、目標エンジン回転数NETと実際のエンジン回転数NEとを用いてフィードバック制御を実行し、第2目標エンジントルクを補正する。より具体的には、目標エンジン回転数NETと実際のエンジン回転数NEとの差に対して、PID(Proportion Integration Differential)制御が実行され、目標エンジン回転数NETと実際のエンジン回転数NEとの差が小さくなるように、第2目標エンジントルクの補正量が設定(算出)される。
【0084】
フィードバック制御は、目標エンジン回転数NETから変換された第2目標エンジントルクが最終的な目標エンジントルクとして設定(選択)された場合に限り実行される。フィードバック制御が開始される際のトルクの補正量の初期値は、たとえば零である。
【0085】
目標エンジン回転数NETと実際のエンジン回転数NEとの差がしきい値以上である場合は、PID制御の積分器は作動されない。すなわち、比例制御および微分制御のみが行なわれる。これは、目標エンジン回転数NETと実際のエンジン回転数NEとの差がしきい値以上である場合は、オートマチックトランスミッション2000がニュートラル状態でない可能性が大きく、目標エンジン回転数NETに基づいてエンジン1000を制御すべき状態にないからである。
【0086】
トルクガード部9140は、フィードフォワード制御部9132およびフィードバック制御部9134により設定された第2目標エンジントルクを制限する。より具体的には、第2目標エンジントルクがトルクガード値より大きい場合、トルクガード値が第2目標エンジントルクに設定される。なお、トルクガード値以下の値を第2目標エンジントルクに設定するようにしてもよい。
【0087】
トルクガード値は、エンジン1000の最大出力トルク、応答性、耐久性などを考慮するために、エンジン回転数NE、スロットル開度、水温などに応じてECU8000により設定される。たとえば、予め作成されたマップに従ってトルクガード値が設定される。
【0088】
ところで、目標エンジン回転数NETはエンジン1000の無駄時間を含まないが、実際に検出されるエンジン回転数NEはエンジン1000の無駄時間を含む。実際のエンジン回転数NEは、目標エンジン回転数NETに対してエンジン1000の無駄時間分だけ遅れて実現されるので、無駄時間に起因する目標エンジン回転数NETとエンジン回転数NEとの差を第2目標エンジントルクの補正量に反映する必要性は小さい。
【0089】
仮に、無駄時間に起因する目標エンジン回転数NETとエンジン回転数NEとの差を含ませて第2目標エンジントルクの補正量を算出すると、補正量は必要以上に大きくなり得る。そのため、図7に示すように、実際のエンジン回転数NEの挙動が不安定になり得る。
【0090】
そこで、本実施の形態においては、補正部9142が、第2目標エンジントルクの補正量を算出するためにフィードバック制御部9134に入力される目標エンジン回転数NETを補正する。より具体的には、図8に示すように、エンジン1000の無駄時間分だけ目標エンジン回転数NETが遅れるように補正される。なお、無駄時間に応じて定められる時間分だけ目標エンジン回転数NETが遅れるように補正してもよい。
【0091】
エンジン1000の無駄時間分だけ目標エンジン回転数NETが遅れるように補正することにより、無駄時間を含むエンジン回転数NEと目標エンジン回転数NETとの差を、無駄時間の分だけ小さくすることができる。そのため、無駄時間による影響を小さくして、第2目標エンジントルクの補正量を精度よく設定することができる。その結果、図8に示すように、目標エンジン回転数NETと実際のエンジン回転数NEとの差が小さくなるように、エンジン1000を精度良く制御することができる。
【0092】
図6に戻って、エンジン1000の無駄時間は、算出部9146において、エンジン回転数NEに応じて算出される。たとえば、エンジン回転数NEをパラメータに有するマップに従って無駄時間が算出される。これにより、エンジン1000に応じて変化し得る無駄時間を、精度よく得ることができる。
【0093】
回転数ガード部9144は、第2目標エンジントルクの補正量を算出するためにフィードバック制御部9134に入力される目標エンジン回転数NETを制限する。より具体的には、目標エンジン回転数NETがトルクガード値に応じて定められる回転数ガード値以下になるように制限される。言い換えると、目標エンジン回転数NETの変化量が、エンジン1000が実現できるエンジントルクの範囲に応じて定められる変化量の範囲内になるように、目標エンジン回転数NETが制限される。
【0094】
回転数ガード値は、たとえば、トルクガード値からエンジン回転数NEを維持するために要するエンジントルクを減算した値を、イナーシャで除算することにより算出される。なお、目標エンジン回転数NETを制限する方法はこれに限らない。
【0095】
第2目標エンジントルクの補正量を算出するために用いられる目標エンジン回転数NETを制限することにより、第2目標エンジントルクの補正量を制限することができる。そのため、エンジン1000の能力の範囲内で、第2目標エンジントルクの補正量を設定することができる。
【0096】
前述したように、コントローラ9130は、オートマチックトランスミッション2000がニュートラル状態である場合に適した第2目標エンジントルクを算出する。したがって、コントローラ9130により算出される第2目標エンジントルクは、オートマチックトランスミッション2000がニュートラル状態であるとき、変速中であるとき、ニュートラル制御を実行中であるときなどにおいて好適である。
【0097】
一方、コントローラ9130により算出される第2目標エンジントルクは、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とがクラッチもしくはブレーキを介して連結され、トルクが後輪7000に伝達可能な状態にあるときなどには不適切である。
【0098】
ところが、車両の目標駆動力を考慮して設定される第1目標エンジントルクがコントローラ9130により算出される第2目標エンジントルクより小さければ、第1目標エンジントルクが最終的な目標エンジントルクとして設定されるため、エンジン1000の制御は乱れない。
【0099】
仮に第2目標エンジントルクが最終的な目標エンジントルクとして設定された場合であっても、より小さい目標エンジントルクが設定されるので、実際のエンジントルクが過剰になることはない。
【0100】
シフトレンジが実際にはドライブレンジであるにもかかわらず誤ってニュートラルレンジと認識された場合にも、エンジントルク(駆動力)が過剰にならない。
【0101】
図5に戻って、ECT部9200は、オートマチックトランスミッション2000の変速制御を行なうとともに、オートマチックトランスミッション2000の状態を制御するために要求するエンジン1000の目標エンジントルクおよび目標エンジン回転数NETを設定する。
【0102】
ECT部9200により設定される目標エンジントルクは、たとえば、変速ショックを低減するためのトルクダウンもしくはトルクアップを実現し得るように設定される。また、ECT部9200は、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが遮断されているか連結しているかに応じて目標エンジン回転数NETを設定する。
【0103】
ECT部9200は、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸との状態を、図9および図10に示す表のように、制御上の状態と実際の状態とを区別して判定する。図9および図10に示すように、ECT部9200は、オートマチックトランスミッション2000の入力軸回転数NI、出力軸回転数NOおよびシフトレンジに基づいて、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが遮断された状態であるか、連結された状態であるかを判定する。
【0104】
また、ECT部9200は、図11に示す表のように、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸との制御上の状態と実際の状態とに応じて目標エンジン回転数NETを設定する。
【0105】
なお、図11において、無効値とは、第1目標エンジントルクおよび第2目標エンジントルクのうちの一方が、他方よりも必ず大きくなるように定められた値を意味する。したがって、無効値が目標駆動力として設定された場合、第1目標エンジントルクは第2目標エンジントルクよりも大きくなる。同様に、無効値が目標エンジン回転数NETとして設定された場合、第2目標エンジントルクは第1目標エンジントルクよりも大きくなる。
【0106】
図11に示すように、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが連結するように制御されており(いずれかのギヤ段が形成されるように制御されており)、かつ、実際に連結している場合、無効値が目標エンジン回転数NETとして設定される。
【0107】
オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが連結するように制御されており、かつ実際には遮断されている場合、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが実際に連結した場合において好適になるように定められた値が目標エンジン回転数として設定される。このときの目標エンジン回転数NETは、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが連結している状態を前提としているため、実際のエンジン回転数NEが過大にならないような値である。
【0108】
これにより、入力軸と出力軸とが実際に結合されていれば、第1目標エンジントルクが最終的な目標エンジントルクとして設定されて、入力軸と出力軸とが実際に連結された状態において好適な制御が可能である。制御に反して入力軸と出力軸とが実際には遮断されている場合には、第2目標エンジントルクが最終的な目標エンジントルクとして設定されて、実際のエンジン回転数NEが過剰にならないようにエンジン1000を制御することができる。
【0109】
また、図11に示すように、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが遮断されるように制御されている場合は、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが実際に遮断された場合において好適になるように定められた値が目標エンジン回転数として設定される。
【0110】
なお、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが実際に連結している場合には好適ではない値が目標エンジン回転数として設定され得るものの、コントローラ9130のフィードバック制御部9134において目標エンジントルクの補正量が制限されるため、制御は破綻しない。
【0111】
その他、ECT部9200は、目標エンジントルクもしくは目標エンジン回転数を設定すべき運転状態でない場合に、無効値を目標エンジントルクもしくは目標エンジン回転数として設定する。したがって、ECT部9200は、目標エンジントルクもしくは目標エンジン回転数を常時設定し、出力する。
【0112】
図5に戻って、パワートレーンドライバモデル9300は、ドライバの操作に基づいて、車両の目標駆動力および目標エンジン回転数NETを設定するために用いられるモデル(関数)である。
【0113】
本実施の形態においては、図12に示すように、実験およびシミュレーションの結果などに基づいて予め定められたマップに従って、アクセル開度から目標駆動力が設定される。さらに、アクセル開度から目標エンジン回転数NETが設定される。
【0114】
目標エンジン回転数NETは、図13に示すように、最終的に到達すべきエンジン回転数NELをアクセル開度に応じて設定し、設定されたエンジン回転数NELを、たとえば、1次遅れの関数で表現されたモデルG(s)を用いてイナーシャによる遅れを考慮して処理することにより得られる。なお、2次遅れの関数で表現されたモデルを用いるようにしてもよい。
【0115】
モデルG(s)では、下記の式1を用いた演算が実行される。
今回のNET=前回のNET+(今回のNEL−前回のNET)/係数・・・(1)
目標エンジン回転数NETの初期値には、制御開始時の実際のエンジン回転数NEが用いられる。
【0116】
これにより、図14に示すように、制御開始時のエンジン回転数NEから、アクセル開度に応じて徐々に変化する目標エンジン回転数NETが得られる。
【0117】
また、ISC(Idle Speed Control)制御との干渉を防止するため、エンジン1000のアイドル時には、無効値が目標エンジン回転数NETとして設定される。アイドル時以外において、目標エンジン回転数NETは、ISC制御の実行時における目標アイドル回転数より低くならないように設定される。
【0118】
さらに、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが連結している状態、より具体的には、連結しているとドライバが認識している状態では、アクセル開度に応じて目標駆動力が設定されるとともに、無効値が目標エンジン回転数NETとして設定される。したがって、ニュートラル制御中、変速中、タービン回転数NTが過剰である状態では、実際には入力軸と出力軸とは連結していないが、アクセル開度に応じて目標駆動力が設定されるとともに、無効値が目標エンジン回転数NETとして設定される。
【0119】
オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが遮断されている状態、より具体的には、遮断されているとドライバが認識している状態では、無効値が目標駆動力として設定されるとともに、アクセル開度に応じて目標エンジン回転数NETが設定される。
【0120】
たとえば、シフトレンジにニュートラルレンジもしくはパーキングレンジが選択されていない場合(ドライブレンジなどの走行レンジが選択されている場合)、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが連結している状態(連結しているとドライバが認識している状態)であると判定される。
【0121】
シフトレンジにニュートラルレンジもしくはパーキングレンジが選択されている場合、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが遮断されている状態(遮断されているとドライバが認識している状態)であると判定される。
【0122】
なお、オートマチックトランスミッション2000の入力軸回転数NIおよび出力軸回転数NOに基づいて、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが遮断された状態であるか、連結された状態であるかを判定するようにしてもよい。
【0123】
その他、パワートレーンドライバモデル9300は、目標駆動力もしくは目標エンジン回転数を設定すべき運転状態でない場合に、無効値を目標駆動力もしくは目標エンジン回転数として設定する。したがって、パワートレーンドライバモデル9300は、目標駆動力もしくは目標エンジン回転数を常時設定し、出力する。
【0124】
以上のように、本実施の形態に係る制御装置によれば、第2目標エンジントルクの補正量を算出するために用いられる目標エンジン回転数NETが、エンジンの無駄時間分だけ遅れるように補正される。補正された目標エンジン回転数NETおよび実際のエンジン回転数NEの差に応じて、第2目標エンジントルクの補正量が算出される。これにより、無駄時間を含むエンジン回転数NEと目標エンジン回転数NETとの差を、無駄時間の分だけ小さくすることができる。そのため、無駄時間による影響を小さくして、第2目標エンジントルクの補正量を精度よく設定することができる。その結果、エンジンを精度良く制御することができる。
【0125】
なお、目標エンジン回転数および目標エンジントルクの代わりに、目標タービン回転数および目標タービントルクを設定するようにしてもよい。すなわち、エンジンとトルクコンバータとにより駆動源が構成されるとみなしてもよい。
【0126】
また、駆動力をトルクに変換せずにエンジン1000を制御するようにしてもよい。
<第2の実施の形態>
以下、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態は、無駄時間分だけ遅れるように補正された目標エンジン回転数NETの代わりに、無駄時間分だけ早まるように補正されたエンジン回転数NEを用いる点で、前述の第1の実施の形態と相違する。その他の構造については、前述の第1の実施の形態と同じである。従って、ここではそれらの詳細な説明は繰り返さない。
【0127】
図15を参照して、本実施の形態においては、補正部9148が、第2目標エンジントルクの補正量を算出するためにフィードバック制御部9134に入力されるエンジン回転数NEを補正する。より具体的には、図16に示すように、エンジン1000の無駄時間分だけエンジン回転数NEが早まるように補正される。なお、無駄時間に応じて定められる時間分だけエンジン回転数NEが早まるように補正してもよい。このようにしても、前述の第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。すなわち、図17に示すように、目標エンジン回転数NETとエンジン回転数NEとの差が小さくなるように、エンジン1000を精度良く制御することができる。
【0128】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】車両のパワートレーンを示す概略構成図である。
【図2】オートマチックトランスミッションのプラネタリギヤユニットを示すスケルトン図である。
【図3】オートマチックトランスミッションの作動表を示す図である。
【図4】オートマチックトランスミッションの油圧回路を示す図である。
【図5】ECUの機能ブロック図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態において、目標エンジン回転数を第2目標エンジントルクに変換するコントローラを示す図である。
【図7】目標エンジン回転数NETおよび目標エンジントルクを示す図(その1)である。
【図8】目標エンジン回転数NETおよび目標エンジントルクを示す図(その2)である。
【図9】オートマチックトランスミッションの制御上の状態を示す図である。
【図10】オートマチックトランスミッションの実際の状態を示す図である。
【図11】目標エンジン回転数NETとして設定される値を示す図である。
【図12】パワートレーンドライバモデルを示す図である。
【図13】目標エンジン回転数NETを設定するために用いられるマップおよびモデルを示す図である。
【図14】目標エンジン回転数NETを示す図である。
【図15】本発明の第2の実施の形態において、目標エンジン回転数を第2目標エンジントルクに変換するコントローラを示す図である。
【図16】目標エンジン回転数NETおよびエンジン回転数NEを示す図(その1)である。
【図17】目標エンジン回転数NETおよびエンジン回転数NEを示す図(その2)である。
【符号の説明】
【0130】
1000 エンジン、1004 補機、2000 オートマチックトランスミッション、2100 トルクコンバータ、4004 オイルポンプ、5000 プロペラシャフト、6000 デファレンシャルギヤ、7000 後輪、8000 ECU、8002 ROM、8004 シフトレバー、8006 ポジションスイッチ、8008 アクセルペダル、8010 アクセル開度センサ、8012 エアフローメータ、8016 電子スロットルバルブ、8018 スロットル開度センサ、8020 エンジン回転数センサ、8022 入力軸回転数センサ、8024 出力軸回転数センサ、8026 油温センサ、8028 水温センサ、9000 エンジン制御部、9100 パワートレーンマネージャ、9102 設定部、9110 駆動力調停部、9112 トルク変換部、9114 トルク調停部、9120 回転数調停部、9130 コントローラ、9132 フィードフォワード制御部、9134 フィードバック制御部、9140 トルクガード部、9142,9148 補正部、9144 回転数ガード部、9146 算出部、9200 ECT部、9300 パワートレーンドライバモデル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源の出力軸回転数を検出するための手段と、
前記駆動源の出力軸の目標回転数を設定するための第1の設定手段と、
前記目標回転数に応じて、前記駆動源の出力軸の回転数とは異なる前記駆動源の出力値の目標値を設定するための第2の設定手段と、
前記目標回転数および前記出力軸回転数のうちのいずれか一方を補正するための補正手段と、
補正された目標回転数および前記駆動源の出力軸回転数との差に応じた、前記目標値の補正量および前記目標回転数および補正された出力軸回転数との差に応じた、前記目標値の補正量のうちのいずれか一方を設定するための第3の設定手段と、
前記目標値および前記補正量に応じて前記駆動源を制御するための手段とを備える、駆動源の制御装置。
【請求項2】
前記補正手段は、前記目標回転数が前記駆動源の無駄時間に応じて遅れるように補正するための手段を含み、
前記第3の設定手段は、補正された目標回転数および前記駆動源の出力軸回転数との差に応じて、前記目標値の補正量を設定するための手段を含む、請求項1に記載の駆動源の制御装置。
【請求項3】
前記補正手段は、前記出力軸回転数が前記駆動源の無駄時間に応じて早まるように補正するための手段を含み、
前記第3の設定手段は、前記目標回転数および補正された出力軸回転数との差に応じて、前記目標値の補正量を設定するための手段を含む、請求項1に記載の駆動源の制御装置。
【請求項4】
前記駆動源の出力軸回転数に応じて前記無駄時間を算出するための手段をさらに備える、請求項2または3のいずれかに記載の駆動源の制御装置。
【請求項5】
前記補正量を設定するために用いられる目標回転数を制限するための手段をさらに備える、請求項2〜4のいずれかに記載の駆動源の制御装置。
【請求項6】
前記出力値は出力トルクである、請求項1〜5のいずれかに記載の駆動源の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−250085(P2009−250085A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97106(P2008−97106)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】