説明

駆動装置

【課題】昇圧コンバータのリアクトルの電流を検出する電流センサに異常が生じているときに、より適正に対処する。
【解決手段】リアクトルの電流を検出する電流センサに異常が生じているときには(S120)、電流センサに異常が生じていないときの許容上限電圧VHlim1より低い許容上限電圧VHlim2で駆動電圧系の目標電圧VHtagを制限して駆動電圧系の電圧指令VH*を設定し(S160)、電圧センサからの電圧(駆動電圧系の電圧)VHと電圧指令VH*とを用いたフィードバック制御によって目標デューティ比Duty*を設定し(S170)、設定した目標デューティ比Duty*を用いて昇圧コンバータを制御する(S180)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動装置に関し、詳しくは、第1の電圧系に接続されたバッテリと、第2の電圧系に接続されたモータと、リアクトルとスイッチング素子とを有し第1の電圧系の電力を昇圧して第2の電圧系に供給可能な昇圧コンバータと、第2の電圧系の電圧を平滑するためのコンデンサと、コンデンサの電圧を検出する電圧センサと、リアクトルの電流を検出する電流センサと、を備える駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンからの動力を用いて発電したりエンジンを始動したりする第1のモータジェネレータと、第1のモータジェネレータを駆動するための第1のインバータと、車両の駆動トルクを発生可能な第2のモータジェネレータと、第2のモータジェネレータを駆動するための第2のインバータと、バッテリと、バッテリからの電力を昇圧して第1,第2のインバータに供給可能な昇圧コンバータとを備える装置において、第2のモータジェネレータの回転数が制限値を超えて第2のモータジェネレータのトルク指令値を値0とするときには、第1,第2のインバータの入力電圧の電圧指令を所定量だけ低減させる駆動装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、こうした処理により、第2のモータジェネレータのトルク低減制御に伴って発生し得る第1,第2のインバータの入力電圧の過電圧を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2006/095497号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、昇圧コンバータのリアクトルに流れる電流を電流センサによって検出して昇圧コンバータの制御に用いることが考えられている。これは、リアクトルに流れる電流が正の値から値0を跨いで負の値になる際における第1,第2のインバータに作用するサージ電圧の上昇による第1,第2のインバータの入力電圧の上昇を抑制して、昇圧コンバータのスイッチング素子などを保護することと第1,第2のインバータの入力電圧の指令値を高くすることとの両立を図るためである。この場合、電流センサが正常であればよいが、電流センサに異常が生じると、リアクトルの電流を昇圧コンバータの制御に用いることができなくなるため、どのように対処するかが課題となる。
【0005】
本発明の駆動装置は、昇圧コンバータのリアクトルの電流を検出する電流センサに異常が生じているときに、より適正に対処することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の駆動装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の駆動装置は、
第1の電圧系に接続されたバッテリと、第2の電圧系に接続されたモータと、リアクトルとスイッチング素子とを有し前記第1の電圧系の電力を昇圧して前記第2の電圧系に供給可能な昇圧コンバータと、前記第2の電圧系の電圧を平滑するためのコンデンサと、前記コンデンサの電圧を検出する電圧センサと、前記リアクトルの電流を検出する電流センサと、前記コンデンサの目標電圧を第1の許容上限電圧で制限して該コンデンサの電圧指令を設定し、該設定した電圧指令と前記検出されたコンデンサの電圧とを用いたフィードバック制御によって前記リアクトルの目標電流を設定し、該設定した目標電流と前記検出されたリアクトルの電流とを用いたフィードバック制御によって目標デューティ比を設定し、該設定した目標デューティ比を用いて前記昇圧コンバータを制御する制御手段と、を備える駆動装置において、
前記制御手段は、前記電流センサに異常が生じているときには、前記コンデンサの目標電圧を前記第1の許容上限電圧より低い第2の許容上限電圧で制限して該コンデンサの電圧指令を設定し、該設定した電圧指令と前記検出されたコンデンサの電圧とを用いたフィードバック制御によって目標デューティ比を設定し、該設定した目標デューティ比を用いて前記昇圧コンバータを制御する手段である、
ことを特徴とする駆動装置。
【0008】
この本発明の駆動装置では、コンデンサの目標電圧を第1の許容上限電圧で制限してコンデンサの電圧指令を設定し、設定した電圧指令と電圧センサによって検出されたコンデンサの電圧とを用いたフィードバック制御によってリアクトルの目標電流を設定し、設定した目標電流と電流センサによって検出されたリアクトルの電流とを用いたフィードバック制御によって目標デューティ比を設定し、設定した目標デューティ比を用いて昇圧コンバータを制御するものにおいて、電流センサに異常が生じているときには、コンデンサの目標電圧を第1の許容上限電圧より低い第2の許容上限電圧で制限してコンデンサの電圧指令を設定し、設定した電圧指令と電圧センサによって検出されたコンデンサの電圧とを用いたフィードバック制御によって目標デューティ比を設定し、設定した目標デューティ比を用いて昇圧コンバータを制御する。電流センサによって検出されたリアクトルの電流を用いて昇圧コンバータを制御する場合、リアクトルの電流を用いずに昇圧コンバータを制御するときに比して昇圧コンバータの制御性の向上を図ることができるため、コンデンサの電圧指令をより高くすることが可能となる。一方、電流センサに異常が生じてリアクトルの電流を用いずに昇圧コンバータを制御するときに、電流センサに異常が生じていないときと同一の電圧をコンデンサの電圧指令とすると、コンデンサの電圧変動によってコンデンサの電圧が過電圧となる可能性がある。本発明の駆動装置では、電流センサに異常が生じているときには、異常が生じていないときの第1の許容上限電圧より低い第2の許容上限電圧を用いてコンデンサの電圧指令を設定することにより、リアクトルの電流を用いずに昇圧コンバータを制御する場合にコンデンサの電圧が過電圧となるのを抑制することができ、昇圧コンバータの各素子やコンデンサの保護をより図ることができる。即ち、電流センサに異常が生じているときに、より適正に対処することができると言える。ここで、「第1の許容上限電圧」は、リアクトルの電流を用いて昇圧コンバータを制御する場合にコンデンサの電圧が昇圧コンバータの各素子やコンデンサの耐圧を超えない範囲で設定されてなる、ものとすることもできる。また、「第2の許容上限電圧」は、第1の許容上限電圧より低く、且つ、リアクトルの電流を用いずに昇圧コンバータを制御する場合にコンデンサの電圧が昇圧コンバータの各素子やコンデンサの耐圧を超えない範囲で設定されてなる、ものとすることもできる。
【0009】
こうした本発明の駆動装置において、前記制御手段は、前記モータに要求される要求トルクの減少時において、前記電流センサに異常が生じているときには、前記電流センサに異常が生じていないときに比して前記要求トルクに緩やかに追従するトルクが前記モータから出力されるよう該モータを制御する手段である、ものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例としての駆動装置を搭載する電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】電機駆動系の構成の概略を示す構成図である。
【図3】電子制御ユニット50により実行される昇圧制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図4】目標デューティ比Duty*に基づくデューティ信号,トランジスタT31,T32のオンオフ状態,上アームおよび下アームのオンオフ状態の時間変化の様子の一例を示す説明図である。
【図5】異常判定フラグF,駆動電圧系電力ライン42の電圧VH,電圧指令VH*との時間変化の様子の一例を示す説明図である。
【図6】電流センサ41に異常が生じているときの要求トルクTr*,モータ32のトルク指令Tm*,駆動電圧系電力ライン42の電圧VHの時間変化の様子の一例を示す説明図である。
【図7】変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【図8】変形例のハイブリッド自動車220の構成の概略を示す構成図である。
【図9】変形例のハイブリッド自動車320の構成の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0012】
図1は、本発明の一実施例としての駆動装置を搭載する電気自動車20の構成の概略を示す構成図であり、図2は、電機駆動系の構成の概略を示す構成図である。実施例の電気自動車20は、図1に示すように、駆動輪26a,26bにデファレンシャルギヤ24を介して接続された駆動軸22に動力を入出力可能なモータ32と、モータ32を駆動するためのインバータ34と、例えばリチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ36と、インバータ34が接続された電力ライン(以下、駆動電圧系電力ラインという)42とバッテリ36が接続された電力ライン(以下、電池電圧系電力ラインという)44とに接続されて駆動電圧系電力ライン42の電圧VHを調節すると共に駆動電圧系電力ライン42と電池電圧系電力ライン44との間で電力のやりとりを行なう昇圧コンバータ40と、車両全体をコントロールする電子制御ユニット50と、を備える。
【0013】
モータ32は、永久磁石が埋め込まれたロータと三相コイルが巻回されたステータとを備える周知の同期発電電動機として構成されている。インバータ34は、図2に示すように、6つのスイッチング素子としてのトランジスタT11〜T16と、トランジスタT11〜T16に逆方向に並列接続された6つのダイオードD11〜D16と、により構成されている。トランジスタT11〜T16は、駆動電圧系電力ライン42の正極母線と負極母線とに対してソース側とシンク側となるよう2個ずつペアで配置されており、対となるトランジスタ同士の接続点の各々にモータ32の三相コイル(U相,V相,W相)の各々が接続されている。したがって、インバータ34に電圧が作用している状態でトランジスタT11〜T16のオン時間の割合を調節することにより、三相コイルに回転磁界を形成でき、モータ32を回転駆動することができる。駆動電圧系電力ライン42の正極母線と負極母線とには平滑用のコンデンサ46が接続されている。
【0014】
昇圧コンバータ40は、図2に示すように、2つのトランジスタT31,T32とトランジスタT31,T32に逆方向に並列接続された2つのダイオードD31,D32とリアクトルLとからなる昇圧コンバータとして構成されている。2つのトランジスタT31,T32は、それぞれ駆動電圧系電力ライン42の正極母線,駆動電圧系電力ライン42および電池電圧系電力ライン44の負極母線に接続されており、トランジスタT31,T32同士の接続点と電池電圧系電力ライン44の正極母線とにはリアクトルLが接続されている。したがって、トランジスタT31,T32をオンオフすることにより、電池電圧系電力ライン44の電力を昇圧して駆動電圧系電力ライン42に供給したり、駆動電圧系電力ライン42の電力を降圧して電池電圧系電力ライン44に供給したりすることができる。電池電圧系電力ライン44の正極母線と負極母線とには平滑用のコンデンサ48が接続されている。以下、トランジスタT31とダイオードD31とをまとめて上アーム、トランジスタT32とダイオードD32とをまとめて下アームと称することがある。
【0015】
電子制御ユニット50は、CPU52を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU52の他に処理プログラムを記憶するROM54と、データを一時的に記憶するRAM56と、図示しない入出力ポートと、を備える。電子制御ユニット50には、モータ32のロータの回転位置を検出する回転位置検出センサ32aからのモータ32のロータの回転位置θmや、モータ32の三相コイルのV相,W相に流れる相電流を検出する電流センサ33U,33Vからの相電流Iu,Iv,バッテリ36の端子間に取り付けられた電圧センサ37aからの端子間電圧Vb,バッテリ36の出力端子に取り付けられた電流センサ37bからの充放電電流Ib,バッテリ36に取り付けられた温度センサ37cからの電池温度Tb,昇圧コンバータ30のトランジスタT31,T32同士の接続点とリアクトルLとの間に取り付けられた電流センサ41からのリアクトル電流IL(電池電圧系電力ライン44側からトランジスタT31,T32同士の接続点側に流れるときを正とする),コンデンサ46の端子間に取り付けられた電圧センサ46aからのコンデンサ46の電圧(駆動電圧系電力ライン42の電圧)VH,コンデンサ48の端子間に取り付けられた電圧センサ48aからのコンデンサ48の電圧(電池電圧系電力ライン44の電圧)VL,イグニッションスイッチ60からのイグニッション信号,シフトレバー61の操作位置を検出するシフトポジションセンサ62からのシフトポジションSP,アクセルペダル63の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ64からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル65の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ66からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ68からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。実施例では、電流センサ37bと電流センサ41とについては、電流センサ37bの方が検出精度が高く、電流センサ41の方が応答性が高くなるよう設計されているものとした。電子制御ユニット50からは、インバータ34のトランジスタT11〜T16へのスイッチング制御信号や昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32へのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力されている。なお、電子制御ユニット50は、回転位置検出センサ32aにより検出されたモータ32のロータの回転位置θmに基づいてモータ32のロータの電気角θeや回転数Nmを演算したり、電流センサ37bにより検出されたバッテリ36の充放電電流Ibに基づいてそのときのバッテリ36から放電可能な電力量の全容量に対する割合である蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいてバッテリ36を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算したりしている。
【0016】
こうして構成された実施例の電気自動車20では、電子制御ユニット50は、アクセル開度Accと車速Vとに応じて駆動軸22に出力すべき要求トルクTr*を設定し、設定した要求トルクTr*に対してレート処理やなまし処理などの緩変化処理を施してモータ32から出力すべきトルクの仮の値としての仮トルクTmtmpを設定し、バッテリ36の入出力制限Win,Woutをモータ32の回転数Nmで除してモータ32から出力してもよいトルクの上下限としてのトルク制限Tmin,Tmaxを設定し、仮トルクTmtmpをトルク制限Tmin,Tmaxで制限してモータ32から出力すべきトルクとしてのトルク指令Tm*を設定する。そして、インバータ34については、設定したトルク指令Tm*でモータ32が駆動されるようトランジスタT11〜T16をスイッチング制御する。また、昇圧コンバータ40については、トルク指令Tm*と回転数Nmとを用いて図3に例示する昇圧制御ルーチンを実行することによって制御する。このルーチンは、所定時間毎(例えば、数msec毎)に繰り返し実行される。
【0017】
昇圧制御ルーチンが実行されると、電子制御ユニット50は、まず、モータ32のトルク指令Tm*や回転数Nm,電圧センサ46aからの駆動電圧系電力ライン42の電圧VH,電圧センサ48aからの電池電圧系電力ライン44の電圧VL,電流センサ41からのリアクトルLの電流IL,電流センサ41に異常が生じているか否かを示す異常判定フラグFなど制御に必要なデータを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、異常判定フラグFは、初期値として値0が設定され、電流センサ41に異常が生じていると判定されたときに値1が設定されるフラグである。なお、電流センサ41に異常が生じているとの判定は、昇圧コンバータ40を駆動停止してインバータ34によってモータ32を駆動している状態で電流センサ41により検出されるリアクトルLの電流ILと電流センサ37bにより検出される充放電電流Ibとの差分が許容範囲より大きいときや、電流センサ41からリアクトルLの電流ILが所定時間に亘って入力されないときなどに行なうことができる。
【0018】
こうしてデータを入力すると、入力したモータ32のトルク指令Tm*と回転数Nmとに基づいて駆動電圧系電力ライン42の目標電圧VHtagを設定する(ステップS110)。ここで、目標電圧VHtagは、実施例では、モータ32のトルク指令Tm*と回転数Nmとからなる目標駆動点でモータ32を駆動できる電圧を設定するものとした。
【0019】
続いて、入力した異常判定フラグFの値を調べ(ステップS120)、異常判定フラグFが値0のときには、電流センサ41に異常は生じていないと判断し、駆動電圧系電力ライン42の目標電圧VHtagを許容上限電圧VHlim1で制限して駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定し(ステップS130)、設定した駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*と駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと電池電圧系電力ライン44の電圧VLとコンデンサ46の静電容量Cと本ルーチンの実行間隔Δt(電圧VHの取得周期,電圧指令VH*の設定周期)とを用いて次式(1)によりリアクトルLの電流指令IL*を設定し(ステップS140)、設定したリアクトルLの電流指令IL*とリアクトルLの電流ILと電池電圧系電力ライン44の電圧VLと駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*とを用いて式(2)により昇圧コンバータ40の目標デューティ比Duty*を設定し(ステップS150)、設定した目標デューティ比Duty*を用いて昇圧コンバータ40を制御して(ステップS180)、本ルーチンを終了する。ここで、式(1)は、駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*と電圧VHとを用いたフィードバック制御における関係式であり、右辺第1項はフィードバック項における比例項であり、右辺第2項はフィードバック項における積分項である。また、式(2)は、リアクトルLの電流指令IL*とリアクトルLの電流ILとを用いたフィードバック制御における関係式であり、右辺第1項はフィードフォワード項であり、右辺第2項はフィードバック項における比例項であり、右辺第3項はフィードバック項における積分項である。式(1),(2)中、「Kp1」,「Kp2」は比例項のゲインであり、「Ki1」,「Ki2」は積分項のゲインである。また、式(1)中、右辺第1項や第2項の「Kp1」や「Ki1」を除く部分は、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHの調整に要する単位時間当たりのエネルギ(「C/2」と「VH*」の二乗との積と、「C/2」と「VH」の二乗との積と、の差分を「Δt」で除したもの)を「VL」で除して電流値に換算したものに相当する。以下、駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*と電圧VHとを用いたフィードバック制御によってリアクトルLの電流指令IL*を設定すると共にリアクトルLの電流指令IL*と電流ILとを用いたフィードバック制御によって昇圧コンバータ40の目標デューティ比Duty*を設定する一連の処理を電圧電流FB処理という。上述の許容上限電圧VHlim1は、リアクトルLの電流ILを用いて(電圧電流FB処理を用いて)昇圧コンバータ40を制御する場合に駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが昇圧コンバータ40の各素子やコンデンサ46の耐圧を超えない範囲で比較的高い値を設定するものとした。この許容上限電圧VHlim1は、例えば、リアクトルLの電流ILを用いて昇圧コンバータ40を制御する場合に想定される駆動電圧系電力ライン42の最大電圧変動(昇圧コンバータ40の下アームや駆動電圧系電力ライン42に作用するサージ電圧を含む)などを実験や解析などによって求めて、求めた最大電圧変動と昇圧コンバータ40の各素子やコンデンサ46の仕様などとを踏まえて設定することができる。昇圧コンバータ40の制御は、実施例では、目標デューティ比Duty*に基づくデューティ信号(トランジスタT31,T32のスイッチング周期のうち目標デューティ比Duty*に相当する時間についてはオンとなり、スイッチング周期のうち残余の時間についてはオフとなる信号)を用いて、デッドタイム(駆動電圧系電力ライン42が短絡しないようにトランジスタT31,T32を共にオフとする時間)を考慮してトランジスタT31,T32をスイッチングすることによって行なうものとした。
【0020】
【数1】

【0021】
図4は、目標デューティ比Duty*に基づくデューティ信号,トランジスタT31,T32のオンオフ状態,上アームおよび下アームのオンオフ状態の時間変化の様子の一例を示す説明図である。図4では、目標デューティ比Duty*が値0.5のときについて示した。また、この図4では、トランジスタT31,T32のオンオフ切替時に、目標デューティ比Duty*の値0.1に相当する時間をデッドタイムとして設けるものとした。図4から分かるように、上アームの実際のデューティ比Duty(トランジスタT31,T32のスイッチング周期に対する上アームに電流が流れる時間の割合)は、リアクトルLの電流ILが正のとき(電池電圧系電力ライン44側からトランジスタT31,T32同士の接続点側に電流が流れるとき)には目標デューティ比Duty*に比して大きくなり(図4では値0.6となり)、リアクトルLの電流ILが負のときには目標デューティ比Duty*に比して小さくなる(図4では値0.4となる)。これは、リアクトルLの電流ILが正のときには、デッドタイムにダイオードD31に電流が流れるが、リアクトルLの電流ILが負のときには、デッドタイムにダイオードD31に電流が流れないためである。
【0022】
図3の昇圧制御ルーチンの説明に戻る。ステップS110で異常判定フラグFが値1のときには、電流センサ41に異常が生じていると判断し、駆動電圧系電力ライン42の目標電圧VHtagを許容上限電圧VHlim1より低い許容上限電圧VHlim2で制限して駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定し(ステップS160)、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*と電池電圧系電力ライン44の電圧VLとを用いて次式(3)により昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32のスイッチングに用いる目標デューティ比Duty*を設定し(ステップS170)、設定した目標デューティ比Duty*を用いて昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32をスイッチング制御して(ステップS180)、本ルーチンを終了する。ここで、式(3)は、駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*と電圧VHとを用いたフィードバック制御における関係式でであり、右辺第1項はフィードフォワード項であり、右辺第2項はフィードバック項における比例項であり、右辺第3項はフィードバック項における積分項である。式(3)中、「Kp3」は比例項のゲインであり、「Ki3」は積分項のゲインである。以下、駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*と電圧VHとを用いたフィードバック制御によって昇圧コンバータ40の目標デューティ比Duty*を設定する処理を電圧FB処理という。許容上限電圧VHlim2は、上述の許容上限電圧VHlim1より低く且つリアクトルLの電流ILを用いずに(電圧FB処理を用いて)昇圧コンバータ40を制御する場合に駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが昇圧コンバータ40の各素子やコンデンサ46の耐圧を超えない範囲で比較的高い値を設定するものとした。この許容上限電圧VHlim2は、例えば、リアクトルLの電流ILを用いずに昇圧コンバータ40を制御する場合に想定される駆動電圧系電力ライン42の最大電圧変動(昇圧コンバータ40の下アームや駆動電圧系電力ライン42に作用するサージ電圧を含む)などを実験や解析などによって求めて、求めた最大電圧変動と昇圧コンバータ40の各素子やコンデンサ46の仕様などとを踏まえて設定することができる。電流センサ41に異常が生じているときには、このように駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと電圧指令VH*とを用いて目標デューティ比Duty*を設定して昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32をスイッチング制御することにより、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHを調節することができる。以下、電流センサ41に異常が生じているとき(電圧FB処理を用いて昇圧コンバータ40を制御するとき)に、電流センサ41に異常が生じていないとき(電圧電流FB処理を用いて昇圧コンバータ40を制御するとき)の許容上限電圧VHlim1より低い許容上限電圧VHlim2を用いて電圧指令VH*を設定する理由について説明する。
【0023】
【数2】

【0024】
上述したように、上アームの実際のデューティ比Duty(トランジスタT31,T32のスイッチング周期に対する上アームに電流が流れる時間の割合)は、リアクトルLの電流ILが正のとき(電池電圧系電力ライン44側からトランジスタT31,T32同士の接続点側に電流が流れるとき)には目標デューティ比Duty*に比して大きくなり、リアクトルLの電流ILが負のときには目標デューティ比Duty*に比して小さくなる。昇圧コンバータ40では、上アームの実際のデューティ比Dutyが小さいほど駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが高くなる傾向があることから、リアクトルLの電流ILが正の値から値0を跨いで負の値になる際には、上アームの実際のデューティ比Dutyの減少によって昇圧コンバータ40の下アームや駆動電圧系電力ライン42に作用するサージ電圧が上昇し、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが上昇すると考えられる。電流センサ41に異常が生じていないとき(電圧電流FB処理を用いて昇圧コンバータ40を制御するとき)には、リアクトルLの電流ILが負の値になると、式(2)から分かるように、目標デューティ比Duty*が大きくなり、これにより、上アームの実際のデューティ比Dutyの減少が抑制されるから、サージ電圧の上昇による駆動電圧系電力ライン42の電圧VHの上昇はそれほど大きくならないと考えられる。このため、許容上限電圧VHlim1として比較的高い値を用いることができる。一方、電流センサ41に異常が生じているとき(電圧FB処理を用いて昇圧コンバータ40を制御するとき)には、リアクトルLの電流ILが負になったことを把握することができないため、上アームの実際のデューティ比Dutyの減少により、サージ電圧の増加による駆動電圧系電力ライン42の電圧VHの上昇の程度が比較的大きくなる(電圧電流FB処理を用いて昇圧コンバータ40を制御する場合に比して大きくなる)と考えられる。実施例では、このことを踏まえて、電流センサ41に異常が生じているときには、電流センサ41に異常が生じていないときの許容上限電圧VHlim1より低い許容上限電圧VHlim2で駆動電圧系電力ライン42の目標電圧VHtagを制限して得られる電圧指令VH*を用いて昇圧コンバータ40を制御するものとした。これにより、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが過電圧となるのを抑制することができ、昇圧コンバータ40の各素子やコンデンサ46をより保護することができる。なお、異常判定フラグF,駆動電圧系電力ライン42の電圧VH,電圧指令VH*との時間変化の様子の一例を図5に示す。
【0025】
以上説明した実施例の電気自動車20によれば、電流センサ41に異常が生じているときには、電流センサ41に異常が生じていないときの許容上限電圧VHlim1より低い許容上限電圧VHlim2で駆動電圧系電力ライン42の目標電圧VHtagを制限して駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定し、電圧センサ46aからのコンデンサ46の電圧(駆動電圧系電力ライン42の電圧)VHと駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*とを用いたフィードバック制御によって目標デューティ比Duty*を設定し、設定した目標デューティ比Duty*を用いて昇圧コンバータ40を制御するから、電流センサ41からのリアクトルLの電流ILを用いずに昇圧コンバータ40を制御する場合に、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが過電圧となるのを抑制することができ、昇圧コンバータ40の各素子やコンデンサ46をより保護することができる。
【0026】
実施例の電気自動車20では、要求トルクTr*に対してレート処理やなまし処理などの緩変化処理を施してモータ32の仮トルクTmtmpを設定し、設定した仮トルクTmtmpをトルク制限Tmin,Tmaxで制限してモータ32のトルク指令Tm*を設定し、設定したトルク指令Tm*でモータ32が駆動されるようインバータ34のトランジスタT11〜T16をスイッチング制御するものとしたが、この緩変化処理における変化の程度を電流センサ41に異常が生じていないか否か(電圧電流FB処理と電圧FB処理とのうちいずれを用いて昇圧コンバータ40を制御するか)によって変えるものとしてもよい。この場合、例えば、要求トルクTr*の減少時において、電流センサ41に異常が生じているとき(電圧FB処理を用いて昇圧コンバータ40を制御するとき)には、電流センサ41に異常が生じていないとき(電圧電流FB処理を用いて昇圧コンバータ40を制御するとき)に比して緩やかに変化するよう仮トルクTmtmpを設定するものとしてもよい。図6は、電流センサ41に異常が生じているときの要求トルクTr*,モータ32のトルク指令Tm*,駆動電圧系電力ライン42の電圧VHの時間変化の様子の一例を示す説明図である。図中、一点鎖線は電流センサ41に異常が生じていないときと同一の緩変化処理でトルク指令Tm*を変化させる比較例の様子を示し、実線は電流センサ41に異常が生じていないときより緩やかにトルク指令Tm*を変化させる実施例の様子を示す。トルク指令Tm*の減少時には、昇圧コンバータ40によって電池電圧系電力ライン44側から駆動電圧系電力ライン42側に供給される電力の一部がモータ32の消費電力の減少によってコンデンサ46に充電されやすく、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが上昇しやすい。特に、トルク指令Tm*の減少率が大きいほど(急峻に減少するほど)駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが上昇しやすいと考えられる。また、上述したように、リアクトルLの電流ILが正の値から値0を跨いで負の値になるときには、昇圧コンバータ40の下アームや駆動電圧系電力ライン42に作用するサージ電圧の上昇によって駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが上昇しやすい。この変形例では、これらを踏まえて、電流センサ41に異常が生じているときには、図中の実線に示すように、電流センサ41に異常が生じていないとき(トルク指令Tm*の一点鎖線参照)に比して緩やかにトルク指令Tm*を変化させるものとした。これにより、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHの上昇を抑制することができる。この結果、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが過電圧となるのをより抑制することができ、昇圧コンバータ40の各素子やコンデンサ46をより保護することができる。
【0027】
実施例の電気自動車20では、電流センサ41に異常が生じていないときには、駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*と電圧VHとを用いた上述の式(2)によるフィードバック制御によってリアクトルL電流指令IL*を設定するものとしたが、駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*と電圧VHとを用いた次式(4)によるフィードバック制御によってリアクトルLの電流指令IL*を設定するものとしてもよい。式(4)中、「Kp4」は比例項のゲインであり、「Ki4」は積分項のゲインである。
【0028】
【数3】

【0029】
実施例では、駆動輪26a,26bに連結された駆動軸22に動力を入出力可能なモータ32を備える電気自動車20に適用するものしたが、例えば、図7の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、遊星歯車機構126を介して駆動軸22に接続されたエンジン122およびモータ124と、駆動軸22に動力を入出力可能なモータ32と、を備えるハイブリッド自動車120に適用するものとしてもよいし、図8の変形例のハイブリッド自動車220に例示するように、エンジン122と、エンジン122のクランクシャフトに接続されたインナーロータ232と駆動輪26a,26bに連結された駆動軸22に接続されたアウターロータ234とを有しエンジン122からの動力の一部を駆動軸22に伝達すると共に残余の動力を電力に変換する対ロータ電動機230と、駆動軸22に動力を入出力可能なモータ32と、を備えるハイブリッド自動車220に適用するものとしてもよいし、図9の変形例のハイブリッド自動車320に例示するように、駆動軸22に変速機330を介してモータ32を取り付けると共にモータ32の回転軸にクラッチ229を介してエンジン122を接続する構成とし、エンジン122からの動力をモータ32の回転軸と変速機330とを介して駆動軸22に出力すると共にモータ32からの動力を変速機330を介して駆動軸22に出力するハイブリッド自動車320に適用するものとしてもよい。
【0030】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、バッテリ36が「バッテリ」に相当し、モータ32が「モータ」に相当し、昇圧コンバータ40が「昇圧コンバータ」に相当し、コンデンサ46が「コンデンサ」に相当し、電圧センサ46aが「電圧センサ」に相当し、電流センサ41が「電流センサ」に相当し、電子制御ユニット50が「制御手段」に相当する。
【0031】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0032】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、駆動装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0034】
20 電気自動車、22 駆動軸、24 デファレンシャルギヤ、26a,26b 駆動輪、32 モータ、32a 回転位置検出センサ、33U,33v 電流センサ、34 インバータ、36 バッテリ、37a 電圧センサ、37b 電流センサ、37c 温度センサ、40 昇圧コンバータ、41 電流センサ、42 駆動電圧系電力ライン、44 電池電圧系電力ライン、46,48 コンデンサ、46a,48a 電圧センサ、50 電子制御ユニット、52 CPU、54 ROM、56 RAM、60 イグニッションスイッチ、61 シフトレバー、62 シフトポジションセンサ、63 アクセルペダル、64 アクセルペダルポジションセンサ、65 ブレーキペダル、66 ブレーキペダルポジションセンサ、68 車速センサ、120,220,320 ハイブリッド自動車、122 エンジン、124 モータ、126 遊星歯車機構、329 クラッチ、330 変速機、D11〜D16,D31,D32 ダイオード、L リアクトル、T11〜T16,T31,T32 トランジスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電圧系に接続されたバッテリと、第2の電圧系に接続されたモータと、リアクトルとスイッチング素子とを有し前記第1の電圧系の電力を昇圧して前記第2の電圧系に供給可能な昇圧コンバータと、前記第2の電圧系の電圧を平滑するためのコンデンサと、前記コンデンサの電圧を検出する電圧センサと、前記リアクトルの電流を検出する電流センサと、前記コンデンサの目標電圧を第1の許容上限電圧で制限して該コンデンサの電圧指令を設定し、該設定した電圧指令と前記検出されたコンデンサの電圧とを用いたフィードバック制御によって前記リアクトルの目標電流を設定し、該設定した目標電流と前記検出されたリアクトルの電流とを用いたフィードバック制御によって目標デューティ比を設定し、該設定した目標デューティ比を用いて前記昇圧コンバータを制御する制御手段と、を備える駆動装置において、
前記制御手段は、前記電流センサに異常が生じているときには、前記コンデンサの目標電圧を前記第1の許容上限電圧より低い第2の許容上限電圧で制限して該コンデンサの電圧指令を設定し、該設定した電圧指令と前記検出されたコンデンサの電圧とを用いたフィードバック制御によって目標デューティ比を設定し、該設定した目標デューティ比を用いて前記昇圧コンバータを制御する手段である、
ことを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
請求項1記載の駆動装置であって、
前記制御手段は、前記モータに要求される要求トルクの減少時において、前記電流センサに異常が生じているときには、前記電流センサに異常が生じていないときに比して前記要求トルクに緩やかに追従するトルクが前記モータから出力されるよう該モータを制御する手段である、
駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−17270(P2013−17270A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147107(P2011−147107)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】