説明

駆動装置

【課題】モータの制御性を高くすることや車両の挙動をより適正なものとする。
【解決手段】カットオフ周波数Fc以上の周波数成分を減衰させるローパスフィルタ処理を電流センサにより検出されたバッテリの充放電電流Ibに施して得られるフィルタ後電流FIbをモータの制御に用いるものにおいて、モータの回転数Nmが昇圧コンバータを含む回路の共振回転数領域(下限回転数N1〜上限回転数N2の領域)外のときには(S110)、所定周波数Fc1をカットオフ周波数Fcに設定する(S120)。一方、モータの回転数Nmが共振回転数領域内のときには(S110)、所定周波数Fc1より小さな所定周波数Fc2または所定周波数Fc3をカットオフ周波数Fcに設定する(S130〜S150)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動装置に関し、詳しくは、モータと、バッテリと、リアクトルを有しバッテリが接続された電池電圧系の電力を昇圧してモータが接続された駆動電圧系に供給可能な昇圧コンバータと、駆動電圧系に取り付けられた駆動電圧系コンデンサと、電池電圧系に取り付けられた電池電圧系コンデンサと、を備える駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンコーダの出力パルスを位置検出信号として用いるモータMG1,MG2のデジタル位置制御において、低速域ではエンコーダの出力パルスの時間間隔の逆数,高速域では単位時間あたりのエンコーダの出力パルス数をモータの速度として用いて、且つ、速度対応可変ローパスフィルタにおいて、モータの速度に対応してカット周波数を変化させる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この技術では、こうした処理により、時間間隔法による低速域における速度検出精度の高さを損なわずに高速域における量子化ノイズを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−236772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モータと、バッテリと、リアクトルを有しバッテリ側の電力を昇圧してモータ側に供給可能な昇圧コンバータと、昇圧コンバータよりモータ側,バッテリ側にそれぞれ取り付けられた2つのコンデンサと、バッテリの入出力電流を検出する電流センサと、を備える駆動装置に上述の技術を適用しようとすると、例えば、カットオフ周波数より大きな周波数の周波数成分を減衰させるローパスフィルタ処理を電流センサの検出値に施して得られるフィルタ後電流を用いてモータの制御に用いることが考えられる。この場合、ローパスフィルタのカットオフ周波数に比較的小さな値を用いると、バッテリの入出力電流の変化時に、その変化に対するフィルタ後電流の追従性が低いことによってモータの制御性の低下を招く場合が生じ、ローパスフィルタのカットオフ周波数に比較的大きな値を用いると、モータの回転数が昇圧コンバータを含む回路の共振回転数領域内のときにフィルタ後電流の変動が比較的大きくなってその影響が車両の挙動に現われる場合が生じる、と考えられる。
【0005】
本発明の駆動装置は、モータの制御性を高くすることや車両の挙動をより適正なものとすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の駆動装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の駆動装置は、
モータと、バッテリと、リアクトルを有し前記バッテリが接続された電池電圧系の電力を昇圧して前記モータが接続された駆動電圧系に供給可能な昇圧コンバータと、前記駆動電圧系に取り付けられた駆動電圧系コンデンサと、前記電池電圧系に取り付けられた電池電圧系コンデンサと、前記バッテリから入出力されるバッテリ電流を検出する電流センサと、カットオフ周波数より大きな周波数の周波数成分を減衰させるローパスフィルタ処理を前記電流センサにより検出されたバッテリ電流に施して得られるフィルタ後電流を考慮して前記モータのトルク指令を設定すると共に該設定したトルク指令で前記モータが駆動されるよう該モータを制御する制御手段と、を備える駆動装置であって、
前記制御手段は、前記モータの回転数が前記昇圧コンバータを含む回路の共振回転数領域内のときには、前記モータの回転数が前記共振回転数領域外のときに比して小さな周波数を前記カットオフ周波数とする手段である、
ことを要旨とする。
【0008】
この本発明の駆動装置では、カットオフ周波数より大きな周波数の周波数成分を減衰させるローパスフィルタ処理を電流センサにより検出されたバッテリ電流に施して得られるフィルタ後電流を考慮してモータのトルク指令を設定すると共に設定したトルク指令でモータが駆動されるようモータを制御するものにおいて、モータの回転数が昇圧コンバータを含む回路の共振回転数領域内のときには、モータの回転数が共振回転数領域外のときに比して小さな周波数をカットオフ周波数とする。これにより、モータの回転数が共振回転数領域外のときには、電流センサによる検出値に対するフィルタ後電流の追従性を高くしてモータの制御性を高くすることができ、モータの回転数が共振回転数領域内のときには、フィルタ後電流の脈動(リプル成分)が大きくなってその影響が車両の挙動に現われるのを抑制することができる。
【0009】
こうした本発明の駆動装置において、前記制御手段は、前記モータの回転数が前記共振回転数領域内のときにおいて、前記バッテリの温度が予め定められた所定温度より高いときには、前記バッテリの温度が前記所定温度以下のときに比して小さな周波数を前記カットオフ周波数とする手段である、ものとすることもできる。これは、バッテリの温度が高いときには、バッテリの内部抵抗が小さくなり、バッテリ電流のリプル成分が大きくなりやすい、という理由に基づく。
【0010】
また、本発明の駆動装置において、前記制御手段は、前記フィルタ後電流を用いて演算される前記バッテリの蓄電割合と前記バッテリの温度とに応じて前記バッテリの入出力制限を設定し、該設定した入出力制限を前記モータの回転数で除して得られるトルク制限の範囲で前記モータのトルク指令を設定する手段である、ものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例としての駆動装置を搭載する電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】モータ32を含む電機駆動系の構成の概略を示す構成図である。
【図3】バッテリ36の充放電電流Ibとフィルタ後電流FIbとの時間変化の様子の一例を示す説明図である。
【図4】実施例の電子制御ユニット50により実行されるカットオフ周波数設定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図5】変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【図6】変形例のハイブリッド自動車220の構成の概略を示す構成図である。
【図7】変形例のハイブリッド自動車320の構成の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0013】
図1は、本発明の一実施例としての駆動装置を搭載する電気自動車20の構成の概略を示す構成図であり、図2は、モータ32を含む電機駆動系の構成の概略を示す構成図である。実施例の電気自動車20は、図1に示すように、駆動輪26a,26bにデファレンシャルギヤ24を介して接続された駆動軸22に動力を入出力可能なモータ32と、モータ32を駆動するためのインバータ34と、例えばリチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ36と、インバータ34が接続された電力ライン(以下、駆動電圧系電力ラインという)42とバッテリ36が接続された電力ライン(以下、電池電圧系電力ラインという)44とに接続されて駆動電圧系電力ライン42の電圧VHを調節すると共に駆動電圧系電力ライン42と電池電圧系電力ライン44との間で電力のやりとりを行なう昇圧コンバータ40と、車両全体をコントロールする電子制御ユニット50と、を備える。
【0014】
モータ32は、永久磁石が埋め込まれたロータと三相コイルが巻回されたステータとを備える周知の同期発電電動機として構成されている。インバータ34は、図2に示すように、6つのスイッチング素子としてのトランジスタT11〜T16と、トランジスタT11〜T16に逆方向に並列接続された6つのダイオードD11〜D16と、により構成されている。トランジスタT11〜T16は、駆動電圧系電力ライン42の正極母線と負極母線とに対してソース側とシンク側となるよう2個ずつペアで配置されており、対となるトランジスタ同士の接続点の各々にモータ32の三相コイル(U相,V相,W相)の各々が接続されている。したがって、インバータ34に電圧が作用している状態でトランジスタT11〜T16のオン時間の割合を調節することにより、三相コイルに回転磁界を形成でき、モータ32を回転駆動することができる。駆動電圧系電力ライン42の正極母線と負極母線とには平滑用のコンデンサ46が接続されている。
【0015】
昇圧コンバータ40は、図2に示すように、2つのトランジスタT31,T32とトランジスタT31,T32に逆方向に並列接続された2つのダイオードD31,D32とリアクトルLとからなる昇圧コンバータとして構成されている。2つのトランジスタT31,T32は、それぞれ駆動電圧系電力ライン42の正極母線,駆動電圧系電力ライン42および電池電圧系電力ライン44の負極母線に接続されており、トランジスタT31,T32同士の接続点と電池電圧系電力ライン44の正極母線とにはリアクトルLが接続されている。したがって、トランジスタT31,T32をオンオフすることにより、電池電圧系電力ライン44の電力を昇圧して駆動電圧系電力ライン42に供給したり、駆動電圧系電力ライン42の電力を降圧して電池電圧系電力ライン44に供給したりすることができる。電池電圧系電力ライン44の正極母線と負極母線とには平滑用のコンデンサ48が接続されている。
【0016】
電子制御ユニット50は、CPU52を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU52の他に処理プログラムを記憶するROM54と、データを一時的に記憶するRAM56と、図示しない入出力ポートと、を備える。電子制御ユニット50には、駆動輪26a,26bの回転数を検出する回転数センサ28a,28bからの駆動輪26a,26bの回転数Nwl,Nwr,モータ32のロータの回転位置を検出する回転位置検出センサ32aからのモータ32のロータの回転位置θmや、モータ32の三相コイルのV相,W相に流れる相電流を検出する電流センサ33U,33Vからの相電流Iu,Iv,バッテリ36の端子間に取り付けられた電圧センサ37aからの端子間電圧Vb,バッテリ36の出力端子に取り付けられた電流センサ37bからの充放電電流Ib,バッテリ36に取り付けられた温度センサ37cからの電池温度Tb,コンデンサ46の端子間に取り付けられた電圧センサ46aからのコンデンサ46の電圧(駆動電圧系電力ライン42の電圧)VH,コンデンサ48の端子間に取り付けられた電圧センサ48aからのコンデンサ48の電圧(電池電圧系電力ライン44の電圧)VL,イグニッションスイッチ60からのイグニッション信号,シフトレバー61の操作位置を検出するシフトポジションセンサ62からのシフトポジションSP,アクセルペダル63の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ64からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル65の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ66からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ68からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。電子制御ユニット50からは、インバータ34のトランジスタT11〜T16へのスイッチング制御信号や昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32へのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力されている。なお、電子制御ユニット50は、回転位置検出センサ32aにより検出されたモータ32のロータの回転位置θmに基づいてモータ32のロータの電気角θeや回転角速度ωm,回転数Nmを演算したり、電流センサ37bにより検出されたバッテリ36の充放電電流Ibに基づいてそのときのバッテリ36から放電可能な電力量の全容量に対する割合である蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいてバッテリ36を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算したりしている。実施例では、カットオフ周波数Fcより大きな周波数の周波数成分を減衰させるローパスフィルタ(LPF)処理をバッテリ36の充放電電流Ibに施してフィルタ後電流FIbを演算すると共に演算したフィルタ後電流FIbの積算値に応じた値としてバッテリ36の蓄電割合SOCを演算するものとした。図3は、バッテリ36の充放電電流Ibとフィルタ後電流FIbとの時間変化の様子の一例を示す説明図である。バッテリ36の入出力制限Win,Woutは、こうして得られたバッテリ36の蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいて演算される。
【0017】
こうして構成された実施例の電気自動車20では、電子制御ユニット50は、アクセル開度Accと車速Vとに応じて駆動軸22に出力すべき要求トルクTr*を設定し、バッテリ36の入出力制限Win,Woutをモータ32の回転数Nmで除してモータ32から出力してもよいトルクの上下限としてのトルク制限Tmin,Tmaxを設定し、要求トルクTr*をトルク制限Tmin,Tmaxで制限してモータ32から出力すべきトルクとしてのトルク指令Tm*を設定し、設定したトルク指令Tm*でモータ32が駆動されるようインバータ34のトランジスタT11〜T16をスイッチング制御する。また、モータ32のトルク指令Tm*とモータ32の回転数Nmとに応じて駆動電圧系電力ライン42の目標電圧VHtagを設定し、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが目標電圧VHtagとなるよう昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32をスイッチング制御する。
【0018】
次に、こうして構成された実施例の電気自動車20の動作、特に、カットオフ周波数Fcを設定する処理について説明する。図4は、実施例の電子制御ユニット50により実行されるカットオフ周波数設定ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、繰り返し実行される。
【0019】
カットオフ周波数設定ルーチンが実行されると、電子制御ユニット50のCPU52は、まず、モータ32の回転数Nmや温度センサ37cからの電池温度Tbを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、モータ32の回転数Nmは、回転位置検出センサ32aにより検出されたモータ32のロータの回転位置θmに基づいて演算されたものを入力するものとした。
【0020】
こうしてデータを入力すると、入力したモータ32の回転数Nmを、昇圧コンバータ40とコンデンサ46とコンデンサ48とからなる回路で共振を生じさせる共振回転数領域の下限回転数N1および上限回転数N2と比較する(ステップS110)。ここで、下限回転数N1や上限回転数N2は、リアクトルLのインダクタンスやコンデンサ46やコンデンサ48の容量に応じて定めることができる。下限回転数N1は、例えば、900rpmや1000rpm,1100rpmなどを用いることができ、上限回転数N2は、例えば、1900rpmや2000rpm,2100rpmなどを用いることができる。モータ32の回転数Nmが共振回転数領域内のときには、モータ32の回転数Nmが共振回転数領域外のときに比してバッテリ36の充放電電流Ibのリプル成分(共振ゲイン)が大きくなりやすい。ステップS110の判定は、モータ32の回転状態がバッテリ36の充放電電流Ibのリプル成分が大きくなりやすい回転状態であるか否かを判定する処理である。
【0021】
モータ32の回転数Nmが下限回転数N1未満のときや上限回転数N2より大きいときには、モータ32の回転数Nmは共振回転数領域外であると判断し、所定周波数Fc1をカットオフ周波数Fcに設定して(ステップS120)、本ルーチンを終了する。ここで、所定周波数Fc1は、モータ32の制御性を高くするために、比較的大きな周波数を用いるものとした。この所定周波数Fc1は、例えば、900Hzや1000Hzや1100Hzなどを用いることができる。
【0022】
ステップS110でモータ32の回転数Nmが下限回転数N1以上で上限回転数N2以下のときには、モータ32の回転数Nmが共振回転数領域内であると判断し、バッテリ36の電池温度Tbを閾値Tbrefと比較する(ステップS130)。バッテリ36の電池温度Tbが高いときには、バッテリ36の電池温度Tbが低いとき(通常の温度範囲のとき)に比してバッテリ36の内部抵抗が小さくなりバッテリ36の充放電電流Ibのリプル成分(共振ゲイン)が大きくなりやすい。閾値Tbrefは、バッテリ36の温度状態がバッテリ36の充放電電流Ibのリプル成分(共振ゲイン)が大きくなりやすい温度状態であるか否かを判定するために用いられるものであり、例えば、60℃や65℃などを用いることができる。
【0023】
バッテリ36の電池温度Tbが閾値Tbref以下のときには、所定周波数Fc1より小さな所定周波数Fc2をカットオフ周波数Fcに設定して(ステップS140)、本ルーチンを終了し、バッテリ36の電池温度Tbが閾値Tbrefより高いときには、所定周波数Fcより小さな所定周波数Fc3をカットオフ周波数Fcに設定して(ステップS150)、本ルーチンを終了する。ここで、所定周波数Fc2は、例えば、400Hzや500Hz,600Hzなどを用いることができ、所定周波数Fc3は、例えば、80Hzや100Hz,120Hzなどを用いることができる。
【0024】
上述の図3を用いて、モータ32の回転数Nmや電池温度Tbに応じてカットオフ周波数Fcを設定する理由について説明する。まず、実施例では、上述したように、電流センサ37bにより検出されたバッテリ36の充放電電流Ibにローパスフィルタ処理を施してフィルタ後電流FIbを演算すると共にそのフィルタ後電流FIbの積算値に応じて蓄電割合SOCを演算し、その蓄電割合SOCと電池温度Tbとに応じてバッテリ36の入出力制限Win,Woutを設定し、バッテリ36の入出力制限Win,Woutの範囲でトルク指令Tm*を設定してモータ32を駆動制御する(インバータ34をスイッチング制御する)。
【0025】
モータ32の回転数Nmや電池温度Tbに拘わらず比較的大きな固定値(例えば、所定周波数Fc1など)をローパスフィルタ処理におけるカットオフ周波数Fcとして用いる場合、フィルタ後電流FIbとしては、バッテリ36の充放電電流Ibのうち比較的大きな周波数の周波数成分まで残る(減衰しない)ことになる。このため、バッテリ36の充放電電流Ibの変化に対するフィルタ後電流FIbの追従性が高くなり、バッテリ36の入出力制限Win,Woutの追従性が高くなり、モータ32の制御性を高くすることができるものの、バッテリ36の充放電電流Ibの脈動(リプル成分)が大きいときにはフィルタ後電流FIbのリプル成分も大きくなりやすく、それに応じてバッテリ36の入出力制限Win,Woutが変動し、その影響が車両の挙動に現われる可能性がある。
【0026】
一方、モータ32の回転数Nmや電池温度Tbに拘わらず比較的小さな固定値(例えば、所定周波数Fc3など)をカットオフ周波数Fcとして用いる場合、フィルタ後電流FIbとしては、バッテリ36の充放電電流Ibのうち比較的小さな周波数の周波数成分だけが残ることになる。このため、フィルタ後電流FIbのリプル成分が大きくなるのが抑制され、バッテリ36の充放電電流Ibのリプル成分が大きいときでもその影響が車両に現われるのを抑制することができるものの、バッテリ36の充放電電流Ibの変化に対するフィルタ後電流FIbの追従性が低くなり、モータ32の制御性が低下する可能性がある。
【0027】
実施例では、これらを踏まえて、モータ32の回転数Nmが共振回転数領域外のとき,モータ32の回転数Nmが共振回転数領域内でバッテリ36の電池温度Tbが閾値Tbref以下のとき,モータ32の回転数Nmが共振回転数領域内でバッテリ36の電池温度Tbが閾値Tbrefより高いときの順にカットオフ周波数Fcを小さくする、即ち、バッテリ36の充放電電流Ibのリプル成分が大きくなりやすいほどカットオフ周波数Fcを小さくするものとした。これにより、モータ32の回転数Nmが共振回転数領域外のとき、即ち、バッテリ36の充放電電流Ibのリプル成分がそれほど大きくならないときには、バッテリ36の充放電電流Ibに対するフィルタ後電流FIbの追従性を高くしてモータ32の制御性を高くすることができる。また、モータ32の回転数Nmが共振回転数領域内でバッテリ36の電池温度Tbが閾値Tbrefより高いとき、即ち、バッテリ36の充放電電流Ibのリプル成分が大きくなりやすいときには、フィルタ後電流FIbのリプル成分が大きくなるのを抑制することができ、その影響が車両の挙動に現われるのを抑制することができる。
【0028】
以上説明した実施例の電気自動車20によれば、カットオフ周波数Fcより大きな周波数の周波数成分を減衰させるローパスフィルタ処理を電流センサ37bにより検出されたバッテリ36の充放電電流Ibに施して得られるフィルタ後電流FIbをモータ32の制御に用いるものにおいて、モータ32の回転数Nmが昇圧コンバータ40を含む回路の共振回転数領域(下限回転数N1〜上限回転数N2の領域)外のときには所定周波数Fc1をカットオフ周波数Fcに設定し、モータ32の回転数Nmが共振回転数領域内のときには所定周波数Fc1より小さな所定周波数Fc2または所定周波数Fc3をカットオフ周波数Fcに設定するから、モータ32の回転数Nmが共振回転数領域外のときには、バッテリ36の充放電電流Ibに対するフィルタ後電流FIbの追従性を高くしてモータ32の制御性を高くすることができ、モータ32の回転数Nmが共振回転数領域内のときには、フィルタ後電流FIbのリプル成分が大きくなるのを抑制することができ、フィルタ後電流FIbのリプル成分の影響が車両の挙動に現われるのを抑制することができる。
【0029】
また、実施例の電気自動車20によれば、モータ32の回転数Nmが共振回転数領域内のときにおいて、バッテリ36の電池温度Tbが閾値Tbref以下のときには所定周波数Fc2をカットオフ周波数Fcに設定し、バッテリ36の電池温度Tbが閾値Tbrefより高いときには所定周波数Fc2より小さな所定周波数Fc3をカットオフ周波数Fcに設定するから、バッテリ36の電池温度Tbに応じて、モータ32の制御性を高くしたり車両の挙動をより適正にしたりすることができる。
【0030】
実施例の電気自動車20では、モータ32の回転数Nmが共振回転数領域内のときには、バッテリ36の電池温度Tbが閾値Tbref以下のときには所定周波数Fc2をカットオフ周波数Fcに設定し、バッテリ36の電池温度Tbが閾値Tbrefより高いときには所定周波数Fc2より小さな所定周波数Fc3をカットオフ周波数Fcに設定するものとしたが、電池温度Tbに拘わらず、所定周波数Fc2または所定周波数Fc3をカットオフ周波数Fcに設定するものとしてもよい。
【0031】
実施例では、駆動輪26a,26bに接続された駆動軸22に動力を入出力可能なモータ32を備える電気自動車20に適用するものしたが、例えば、図5の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、遊星歯車機構126を介して駆動軸22に接続されたエンジン122およびモータ124と、駆動軸22に動力を入出力可能なモータ32と、を備えるハイブリッド自動車120に適用するものとしてもよい。また、図6の変形例のハイブリッド自動車220に例示するように、エンジン122のクランクシャフトに接続されたインナーロータ232と駆動輪26a,26bに連結された駆動軸22に接続されたアウターロータ234とを有しエンジン122からの動力の一部を駆動軸22に伝達すると共に残余の動力を電力に変換する対ロータ電動機230を備えるものとしてもよい。さらに、図7の変形例のハイブリッド自動車320に例示するように、駆動軸22に変速機330を介してモータ32を取り付けると共に、モータ32の回転軸にクラッチ329を介してエンジン122を接続する構成とし、エンジン122からの動力をモータ32の回転軸と変速機330とを介して駆動軸22に出力すると共にモータ32からの動力を変速機330を介して駆動軸22に出力するハイブリッド自動車320に適用するものとしてもよい。これらのハイブリッド自動車120,220,320では、バッテリ36の充放電電流Ibにローパスフィルタ処理を施して得られるフィルタ後電流FIbとバッテリ36の端子間電圧Vbとの積としてバッテリ36の充放電電力Pbを演算すると共に、演算したバッテリ36の充放電電力Pbがバッテリ36の蓄電割合SOCに応じて設定されるバッテリ36の充放電要求パワーPb*になるようモータ32(図5の例ではモータ32およびモータ124)を制御してバッテリ36の充放電制御を行なうものとしてもよい。この場合、実施例と同様に、モータ32の回転数Nmやバッテリ36の電池温度Tbに応じてカットオフ周波数Fcを設定することにより、実施例と同様の効果を奏することができる。
【0032】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、モータ32が「モータ」に相当し、バッテリ36が「バッテリ」に相当し、昇圧コンバータ40が「昇圧コンバータ」に相当し、コンデンサ46が「駆動電圧系コンデンサ」に相当し、コンデンサ48が「電池電圧系コンデンサ」に相当し、電流センサ37bが「電流センサ」に相当し、図4のカットオフ周波数設定ルーチンを実行する電子制御ユニット50が「制御手段」に相当する。
【0033】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0034】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、駆動装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0036】
20 電気自動車、22 駆動軸、24 デファレンシャルギヤ、26a,26b 駆動輪、32 モータ、32a 回転位置検出センサ、33U,33V 電流センサ、34 インバータ、36 バッテリ、37a 電圧センサ、37b 電流センサ、37c 温度センサ、40 昇圧コンバータ、42 駆動電圧系電力ライン、44 電池電圧系電力ライン、46,48 コンデンサ、46a,48a 電圧センサ、50 電子制御ユニット、52 CPU、54 ROM、56 RAM、60 イグニッションスイッチ、61 シフトレバー、62 シフトポジションセンサ、63 アクセルペダル、64 アクセルペダルポジションセンサ、65 ブレーキペダル、66 ブレーキペダルポジションセンサ、68 車速センサ、120,220,320 ハイブリッド自動車、122 エンジン、124 モータ、126 遊星歯車機構、230 対ロータ電動機、232 インナーロータ、234 アウターロータ、329 クラッチ、330 変速機、D11〜D16,D31,D32 ダイオード、L リアクトル、T11〜T16,T31,T32 トランジスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、バッテリと、リアクトルを有し前記バッテリが接続された電池電圧系の電力を昇圧して前記モータが接続された駆動電圧系に供給可能な昇圧コンバータと、前記駆動電圧系に取り付けられた駆動電圧系コンデンサと、前記電池電圧系に取り付けられた電池電圧系コンデンサと、前記バッテリから入出力されるバッテリ電流を検出する電流センサと、カットオフ周波数より大きな周波数の周波数成分を減衰させるローパスフィルタ処理を前記電流センサにより検出されたバッテリ電流に施して得られるフィルタ後電流を考慮して前記モータのトルク指令を設定すると共に該設定したトルク指令で前記モータが駆動されるよう該モータを制御する制御手段と、を備える駆動装置であって、
前記制御手段は、前記モータの回転数が前記昇圧コンバータを含む回路の共振回転数領域内のときには、前記モータの回転数が前記共振回転数領域外のときに比して小さな周波数を前記カットオフ周波数とする手段である、
駆動装置。
【請求項2】
請求項1記載の駆動装置であって、
前記制御手段は、前記モータの回転数が前記共振回転数領域内のときにおいて、前記バッテリの温度が予め定められた所定温度より高いときには、前記バッテリの温度が前記所定温度以下のときに比して小さな周波数を前記カットオフ周波数とする手段である、
駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−99177(P2013−99177A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241718(P2011−241718)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】