説明

騒音低減部材

【課題】省スペースで効率よくモータおよび/または一対のギアの騒音を低減することができる騒音低減部材を提供する。
【解決手段】騒音低減ブラケット60においては、第1板部材61、第2板部材62および閉塞部材65により空間が形成される。第1板部材61に一対のギア30,40に面する空間に連通するように複数の貫通孔71が設けられる。それにより、第1板部材61、第2板部材62および閉塞部材65により形成された空間により空気層を形成することができる。また、第1板部材61に設けられた複数の貫通孔71と空気層とが、共鳴器として作用し、一対のギア30,40の騒音を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータおよびモータの回転力を伝達する一対のギアにより生じる騒音等を低減する騒音低減部材に関する。
【背景技術】
【0002】
DVD(Digital Versatile Disc)、AV(Audio Visual)機器、HDD(Hard Disk Drive)またはOA(Office Automation)機器等には、高速回転するモータや歯車が用いられている。
【0003】
近年、これらのモータや歯車の回転をさらに高速化することで、AV、OA機器の高性能化および高機能化が実現されているが、これに伴う振動の増大は、DVDの読取精度の悪化や機器から発生する騒音の増大に繋がっている。このため、高速に回転するモータ等により生じる振動騒音を低減することが望まれている。
【0004】
特にモータのみならず、歯車(ギア)の噛合いによる騒音もある。このギアの噛合いによる騒音は、一対のギアにおける相互の歯の接触による加振力によって生じる。このギアの騒音自体を低減するための対策として、ギアの歯形修正等があるが、歯形寸法の向上には限界があり、ギア騒音のさらなる低減方法の開発が望まれている。
【0005】
例えば、特許文献1には、騒音の低減が図れる像担持体駆動ユニットおよびこれを用いた画像形成装置について開示されている。特許文献1に開示された像担持体駆動ユニット等によれば、モータの回転やギア部で発生する騒音低減のために共鳴器を新たに備えて騒音低減を実現している。
【0006】
また、特許文献2には、ギア部での騒音を低減することができるレーザプリンタ装置について開示されている。特許文献2に開示されたレーザプリンタ装置によれば、ギア部を被包する防音カバーおよび消音機を新たに備えてギア部の騒音低減を実現している。
【特許文献1】特開2002−244380号公報
【特許文献2】特開平04−000469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および特許文献2記載のいずれの装置においても、共鳴器または大掛かりな防音カバー、消音機等を新たに設ける必要があり、スペースの狭い構造に適用することができないという課題があった。
【0008】
また、モータ、ギアの騒音は点音源として放射状に広がるため、共鳴器により消音させる場合、なるべく音源に近接した位置、かつ吸音面を大きくしなければならないという課題があった。
【0009】
本発明の目的は、省スペースで効率よくモータおよび/または一対のギアの騒音を低減することができる騒音低減部材を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、簡易構造による省スペース化および低コスト化と、吸音面積の増加による高効率化とを図るとともに、モータおよび/または一対のギアの騒音源に極力近づけて設置することができる騒音低減部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)
本発明に係る騒音低減部材は、モータまたはモータからの回転力を伝達する一対のギアによる騒音を低減するために設けられた騒音低減部材であって、騒音低減部材は、モータおよび一対のギアのうち少なくともいずれか一方に対向するように配設されるとともに、複数の貫通孔が設けられた第1板部材と、第1板部材に並行に配設されることにより第1板部材との間に空間を形成することができる第2板部材と、を含むものである。
【0012】
本発明に係る騒音低減部材においては、第1板部材および第2板部材により空間が形成され、第1板部材の複数の貫通孔が、モータおよび一対のギアのうち少なくともいずれか一方に対向するように配設される。
【0013】
この場合、第1板部材および第2板部材により形成された空間(空気層)と、第1板部材に設けられた複数の貫通孔とが、共鳴器として作用し、モータまたは一対のギアの騒音を低減することができる。すなわち、音波が入射されると複数の貫通孔における空気と内部の空間(空気層)で共鳴が起こり、貫通孔部の空気が激しく振動する。その結果、貫通孔壁面で摩擦減衰が生じ、音のエネルギーが熱のエネルギーに変換されて音低減を図ることができる。
【0014】
(2)
第1板部材は、モータに対向して配設されてもよい。
【0015】
この場合、複数の貫通孔が大きな吸音面を形成するのでモータの騒音を好適に低減することができる。
【0016】
(3)
第1板部材は、一対のギアに対向して配設されてもよい。
【0017】
この場合、この場合、複数の貫通孔が大きな吸音面を形成するので一対のギアの騒音を好適に低減することができる。
【0018】
(4)
第1板部材の貫通孔の開口率、第1板部材の貫通孔の孔径、第1板部材の板厚、第1板部材および第2板部材の並行部材間距離は、貫通孔の開口率をβとし、貫通孔の孔径をdとし、第1板部材の板厚をtとし、第1板部材および第2板部材の並行部材間距離をLとし、音速cとした場合の、下記式(2)で決定される設計周波数f0がモータまたは一対のギアの騒音周波数fと一致または近似するように設計されることが好ましい。
【数2】

【0019】
この場合、設計周波数f0がモータまたは一対のギアの騒音周波数fと一致または近似するように設計されるので、モータまたは一対のギアの騒音を最も有効に低減することができる。特に、モータまたは一対のギアの騒音は単一周波数であるので、当該単一周波数を低減させることができ、確実に騒音を低減することができる。
【0020】
(5)
第1板部材および第2板部材により形成される空間に第1板部材および第2板部材に略直交して設けられる1または複数の芯材をさらに含み、1または複数の芯材は、モータおよび/または一対のギアの騒音周波数fの波長の1/2未満の間隔で設けられてもよい。
【0021】
この場合、騒音周波数fの波長の1/2未満の間隔で芯材を設けることにより、音波が第1板部材と垂直に進行しやすくなるので、共鳴効果を向上させることができる。その結果、騒音低減を好適に図ることができる。
【0022】
(6)
第1板部材および第2板部材が、モータと一対のギアとの間の空間領域に設けられてもよい。
【0023】
この場合、モータおよび一対のギアのうち少なくとも一方の騒音を効率よく低減することができる。また、モータと一対のギアとの間の設計上やむ得なく生じる空きスペース(デッドスペース)を有効に利用することができる。その結果、省スペース化を図ることができる。
【0024】
(7)
第1板部材に並行に配設された第3板部材をさらに含み、第3板部材は、複数の貫通孔が設けられてもよい。
【0025】
この場合、第1板部材の複数の貫通孔に加えて、第3板部材の複数の貫通孔が形成される。また、第1板部材、第2板部材および第3板部材により複数の空間(空気層)が形成される。その結果、複数の周波数に対する共鳴器として作用し、複数の騒音を低減することができる。すなわち、モータまたは一対のギアの騒音をより確実に低減することができる。
【0026】
(8)
第3板部材は、第1板部材および第2板部材の間に形成された空間内に設けられ、当該空間を複数に分割してもよい。
【0027】
この場合、第1板部材と第2板部材との間に複数の空間(空気層)を設けることができ、複数の共鳴周波数を有する共鳴器が形成できる。それにより複数の騒音を効率よく、低減することができる。
【0028】
(9)
第3板部材は、第2板部材に対向して設けられた第1板部材とは異なる方向に設けられ、第1板部材および第2板部材により形成された空間と異なる空間を第2板部材および第3板部材により形成してもよい。すなわち、第2板部材を中心として第1板部材と逆側(反対側)に第3板部材を設けてもよい。
【0029】
この場合、第1板部材および第2板部材により形成された空間(空気層)とは別に、第2板部材および第3板部材により別個の空間(空気層)を設けることができる。その結果、モータと一対のギアとのそれぞれに対向した共鳴器を形成することができ、モータおよび一対のギアの複数の騒音を同時に低減することができる。具体的には、第1板部材を一対のギアに対向させ、第3板部材をモータに対向させることにより、またはその逆の配置により、モータおよび一対のギアの複数の騒音を効率よく低減することができる。
【0030】
(10)
第3板部材は、第1板部材に対向して配設された第2板部材とは異なる方向に設けられ、第1板部材および第2板部材により形成された空間と異なる空間を第1板部材および第3板部材により形成してもよい。すなわち、第1板部材を中心として第2板部材と逆側(反対側)に第3板部材を設けてもよい。
【0031】
この場合、第1板部材および第2板部材により形成された空間(空気層)とは別に、第1板部材および第3板部材により別個の空間(空気層)を設けることができる。その結果、モータと一対のギアとのいずれか一方に特化した共鳴器を形成することができ、騒音を確実に低減することができる。
【0032】
(11)
第3板部材は、1または複数の板部材からなってもよい。
【0033】
この場合、複数の共鳴周波数を有する共鳴器を設けることができる。その結果、複数の周波数を有する複数の騒音を同時に低減することができる。
【0034】
(12)
モータおよび/または一対のギアの騒音周波数に一致または近似するように、第1板部材、第2板部材、第3板部材により形成された複数の空間と、第1板部材および第3板部材により形成された複数の貫通孔と、により複数の自由度共振系を有する共鳴器が等価的に形成されてもよい。
【0035】
この場合、複数の空間(空気層)を介して第3板部材をN枚にすることで、貫通孔における空気の塊がN個、複数の空間(空気層)によるバネがN+1個になり、N+1自由度の共振系を形成し、N+1個の周波数を吸音することができる。
【0036】
その結果、空間(空気層)の大きさおよび複数の貫通孔の径等の各パラメータを変化させることによりモータおよび/または一対のギアの騒音周波数に一致または近似する共鳴器を形成することができ、確実に騒音を低減することができる。
【0037】
(13)
第1板部材、第2板部材および第3板部材により形成された複数の空間の少なくとも一部に第1板部材、第2板部材および第3板部材に略直交して設けられる1または複数の芯材をさらに含み、1または複数の芯材は、モータおよび/または一対のギアの騒音周波数fの波長の1/2未満の間隔で設けられてもよい。
【0038】
この場合、騒音周波数fの波長の1/2未満の間隔で芯材を設けることにより、音波が第1板部材および/または第3部材と垂直に進行しやすくなるので、共鳴効果を向上させることができる。その結果、騒音低減を好適に図ることができる。
【0039】
(14)
閉塞部材をさらに含み、閉塞部材は、複数の空間のうち少なくとも一の空間を密閉可能にすることができるように配設されてもよい。
【0040】
この場合、第1板部材および第2板部材により形成される空間(空気層)を密閉空間とすることができ、また、第1板部材、第2板部材および第3板部材により形成される空間(空気層)を密閉空間とすることができる。それにより、空気層における音の拡散をさらに防止することができ、モータおよび一対のギアの騒音を確実に低減することができる。なお、完全に密閉しない状態っであっても、基本的に騒音低減を図ることができるが、完全に密閉することにより確実に騒音低減を図ることができる。
【0041】
(15)
第1板部材、第2板部材および第3板部材は、モータと一対のギアとの間の空間領域に設けられてもよい。
【0042】
この場合、モータまたは一対のギアのいずれか一方の騒音、またはモータおよび一対のギアの騒音を同時に効率よく低減することができる。また、モータと一対のギアとの間の設計上やむ得なく生じる空きスペース(デッドスペース)を有効に利用することができる。その結果、省スペース化を図ることができる。
【0043】
(16)
閉塞部材は、モータおよび/または一対のギアのうち少なくとも一方を支持するように設けられたブラケット機能を有してもよい。
【0044】
この場合、閉塞部材は、ブラケット機能を有するので、モータおよび/またはギアを固持するブラケットに共鳴器の機能を設けることとなる。そのため、新たな共鳴器を設けることなく音源近傍に共鳴器による大きな吸音面を配置することができる。その結果、省スペースで効率よくモータおよび/または一対のギアの騒音を低減することができる。
【0045】
(17)
閉塞部材は、一対のギアおよび/またはモータのうち少なくとも一方を包囲するように設けられたカバー機能を有してもよい。
【0046】
この場合、閉塞部材は、カバー機能を有するので、一対のギアを包囲するカバーに共鳴器の機能を設けることとなる。そのため、新たな共鳴器を設けることなく音源近傍に共鳴器による大きな吸音面を配置することができる。その結果、省スペースで効率よくモータおよび/または一対のギアの騒音を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、本発明に係る実施の形態について説明する。以下、本発明に係る騒音低減部材の一例として第1から第4の実施の形態において騒音低減ブラケットを含む駆動装置を例に挙げて説明し、第5から第8の実施の形態において騒音低減カバーを含む駆動装置を例に挙げて説明する。
【0048】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係る騒音低減ブラケットを用いた駆動装置100の一例を示す模式的断面図である。
【0049】
図1の駆動装置100は、モータ10、駆動軸20、一対のギア30,40,伝達軸50および騒音低減ブラケット60を含む。
【0050】
騒音低減ブラケット60は、モータ10を支持する支持部(図示せず)を有し、モータ10を包囲するように配設されている。さらに、板状からなる第1板部材61、板状からなる第2板部材62および第1板部材61および第2板部材62の周縁を連結する閉塞部材65を含む。なお、本発明における包囲とは、囲うまたは覆うという状態を意味し、全体を包囲するものに限定されず、一部を囲うまたは覆うという状態も含まれる。
【0051】
第1板部材61および第2板部材62は互いに略平行に距離L1の間隔で配置される。第1板部材61および第2板部材62は共に鉄、アルミニウム等の金属または樹脂等、その他様々な任意の素材からなってもよい。なお第1板部材61および第2板部材62の材質が同一素材からなることが好ましい。また、閉塞部材65は、第1板部材61および第2板部材62と同一素材からなることが好ましい。
【0052】
このように、第1板部材61、第2板部材62および閉塞部材65により空間が形成される。以下、この空間を空気層と呼ぶ。
【0053】
図1に示すように、第1板部材61には、一対のギア30,40に対向するように配設されており、複数の貫通孔71が設けられている。それにより、一対のギア30,40の周囲は、複数の貫通孔71を介して空気層に連通している。
【0054】
第1の実施の形態においては、例えば第1板部材61の板厚t1は、0.3mm以上3mm以下であり、第2板部材62の板厚t2は0.3mm以上3mm以下であり、閉塞部材65の板厚t5は0.3mm以上3mm以下であり、第1板部材61に設けられた貫通孔71の孔径(直径φ)d1は、0.3mm以上15mm以下であり、第1板部材61に設けられた貫通孔の開口率β1は0.1%以上10%以下であり、第1板部材61および第2板部材62との並行部材間距離L1は1mm以上50mm以下である。
【0055】
次いで、図1の駆動装置100の動作について説明する。モータ10が回転することにより駆動軸20が回転する。それにより、駆動軸20に設けられたギア30が回転し、同時にギア30に噛合って設けられたギア40が従属回転する。それにより、ギア40に設けられた伝達軸50が回転する。この場合、モータ10からはモータ10音が発生し、一対のギア30,40においても相互の歯の噛合いによるギアの音が発生する。
【0056】
ここで、第1の実施の形態においては、モータ10の騒音よりもギアの騒音の方が大きい音であり、ギアの騒音を低減する場合を考える。このギアの騒音の周波数fに対して、以下の式を満たす設計周波数f0となるように各パラメータが設定される。
【0057】
【数3】

ここで、β1は第1板部材61の貫通孔の開口率を示し、d1は第1板部材61の貫通孔の孔径を示し、t1は第1板部材61の板厚を示し、L1は第1板部材61および第2板部材62の並行部材間距離を示し、cは音速を示す。
【0058】
このように、ギアの騒音の周波数fに一致するまたは近似するように設計周波数f0が設けられるので、ギアの騒音を低減することができる。
【0059】
すなわち、第1板部材61に形成された複数の貫通孔における空気の塊が仮想的な質量系を形成し、第1板部材61、第2板部材62および閉塞部材65により形成された空気層が仮想的なバネ系を形成する。したがって、一対のギア30,40の近傍に1自由度共振系を形成することができる。
【0060】
この仮想的質量mは、第1板部材61の厚みt1、複数の貫通孔71の孔径φd1、開口率β1および空気密度ρにより決定され、仮想的バネ系kは、並行部材間距離L1、空気密度ρおよび音速cにより決定される。
【0061】
よって、これらの仮想的質量mおよび仮想的バネ系kの各パラメータを調整することにより一対のギア30,40の騒音の共振周波数に一致または近似させた共鳴器を形成することができる。したがって、一対のギア30,40の騒音が複数の貫通孔71を介して空気層内に侵入する際に共鳴現象が生じて吸音される。
【0062】
以上のことにより、第1の実施の形態に係る騒音低減ブラケット60においては、第1板部材61、第2板部材62および閉塞部材65により形成された空間により空気層が形成され、第1板部材61に設けられた複数の貫通孔71と合わさって、共鳴器として作用し、一対のギア30,40の騒音を低減することができる。
【0063】
また、複数の貫通孔71が一対のギア30,40に対向して設けられているので、大きな吸音面を形成し、一対のギア30,40の騒音を好適に低減することができる。
【0064】
さらに、第1の実施の形態に係る騒音低減ブラケット60においては、モータ10を固持するブラケットに共鳴器を設けて騒音低減を図ることができるので、新たに共鳴器等を設けることなく、モータ10と一対のギア30,40との間の設計上やむ得なく生じる空きスペース(デッドスペース)で、かつ音源の近傍に大きな吸音面を有する騒音低減ブラケット60を配置することができる。その結果、省スペースで効率よくモータ10または一対のギア30,40の騒音を低減することができる。
【0065】
また、上述したように空気層の厚みL1および第1板部材61の複数の貫通孔71の径d1等の各パラメータにより設定される設計周波数f0が一対のギア30,40の騒音周波数fと一致または近似するように設けられるので、一対のギア30,40の騒音を最も有効に低減することができる。特に、一対のギア30,40の騒音は単一周波数であるので、複数の貫通孔71および空気層の構成により、当該単一周波数を低減させることができ、確実に騒音を低減することができる。
【0066】
なお、上記実施の形態においては、第1板部材61、第2板部材62および閉塞部材65をそれぞれ別部材として構成しているが、これに限定されず、第1板部材61、第2板部材62および閉塞部材65のうちいずれか複数、または全てを一の部材から形成してもよい。
【0067】
(第2の実施の形態)
次に、第2の実施の形態に係る駆動装置100aについて説明する。図2は、第2の実施の形態に係る騒音低減ブラケットを用いた駆動装置100aの一例を示す模式的断面図である。
【0068】
第2の実施の形態に係る駆動装置100aが第1の実施の形態に係る駆動装置100と相違するのは以下の点である。
【0069】
第2の実施の形態に係る駆動装置100aは、第1の実施の形態に係る駆動装置100の騒音低減ブラケット60の代わりに騒音低減ブラケット60aを備える。騒音低減ブラケット60aは、騒音低減ブラケット60に1または複数の第3板部材63をさらに含む。なお、第2の実施の形態においては、第3板部材63が1つの場合について説明する。
【0070】
この第3板部材63は、第1板部材61および第2板部材62の間に設けられる。なお、第3板部材63は、鉄、アルミニウム等の金属または樹脂等、その他様々な任意の素材からなってもよい。なお第1板部材61、第2板部材62および第3板部材63の材質が同一素材からなることが好ましい。また、閉塞部材65は、第1板部材61、第2板部材62および第3板部材63と同一素材からなることが好ましい。
【0071】
図2に示すように、第1板部材61、第3板部材63および閉塞部材65により囲まれた空間と、第3板部材63、第2板部材62および閉塞部材65により囲まれた空間との2個の空気層が形成される。
【0072】
第1板部材61には複数の貫通孔71が形成されており、第3板部材63にも複数の貫通孔73が形成されている。それにより、ギア30,40の周囲は、複数の貫通孔71を介して第3板部材63および第1板部材61により囲まれた空気層に連通し、複数の貫通孔73を介して第2板部材62および第3板部材63により囲まれた空気層に連通している。
【0073】
第2の実施の形態においては、例えば第1板部材61の板厚t1は、0.3mm以上3mm以下であり、第2板部材62の板厚t2は0.3mm以上3mm以下であり、第3板部材63の板厚t3は0.3mm以上3mm以下であり、閉塞部材65の板厚tは0.3mm以上3mm以下であり、第1板部材61に設けられた貫通孔71の孔径(直径φ)d1は、0.3mm以上15mm以下であり、第1板部材61に設けられた貫通孔の開口率β1は0.1%以上10%以下であり、第3板部材63に設けられた貫通孔の孔径(直径φ)d3は、0.3mm以上15mm以下であり、第3板部材63に設けられた貫通孔の開口率β3は0.1%以上10%以下であり、第2板部材62および第3板部材63との並行部材間距離L2は1mm以上50mm以下であり、第1板部材61および第3板部材63との並行部材間距離L3は1mm以上50mm以下である。
【0074】
第2の実施の形態においては、第1の実施の形態と同様に、モータ10の騒音よりも一対のギア30,40の騒音の方が大きい音であり、一対のギア30,40の騒音を低減する場合を考える。
【0075】
すなわち、第1板部材61に形成された複数の貫通孔71における空気の塊が仮想的な質量系m1を形成し、第3板部材63に形成された複数の貫通孔73における空気の塊が仮想的な質量系m3を形成し、第2板部材62、第3板部材63および閉塞部材65により形成された空気層が仮想的なバネ系k23を形成し、第1板部材61、第3板部材63および閉塞部材65により形成された空気層が仮想的なバネ系k13を形成する。したがって、一対のギア30,40の近傍に2自由度共振系を形成することができる。
【0076】
この仮想的質量m1は、第1板部材61の厚みt1、複数の貫通孔71の孔径φd1、開口率β1および空気密度ρにより決定され、仮想的質量m3は、第3板部材63の厚みt3、複数の貫通孔73の孔径φd3、開口率β3および空気密度ρにより決定され、仮想的バネ系k23は、並行部材間距離L2、空気密度ρおよび音速cにより決定され、仮想的バネ系k13は、並行部材間距離L3、空気密度ρおよび音速cにより決定される。
【0077】
よって、これらの仮想的質量m1,m3および仮想的バネ系k23,k13の各パラメータを調整することにより一対のギア30,40のみならず、隣接する他のギア(図示せず)の騒音の周波数に一致または近似させた複数の共振周波数を持つ共鳴器を形成することができる。したがって、一対のギア30,40および他ギアによる他の周波数の騒音が複数の貫通孔71,73の空気と空気層において共鳴現象が生じて吸音される。
【0078】
以上のことにより、第2の実施の形態に係る騒音低減ブラケット60aにおいては、第1板部材61、第2板部材62、第3板部材63および閉塞部材65により形成された空間により2個の空気層が形成され、複数の貫通孔71および複数の貫通孔73と合わさって、複数の周波数の共振周波数を有する共鳴器として作用し、一対のギア30,40および他ギアの騒音を有効に低減することができる。
【0079】
また、複数の貫通孔71および複数の貫通孔73が一対のギア30,40に対向して設けられているので、大きな吸音面を形成し一対のギア30,40の騒音を好適に低減することができる。
【0080】
さらに、第2の実施の形態に係る騒音低減ブラケット60aにおいては、モータ10を固持するブラケットに複数の共振周波数を有する共鳴器を設けて騒音低減を図ることができるので、新たに共鳴器等を設けることなく、モータ10と一対のギア30,40との間の設計上やむ得なく生じる空きスペース(デッドスペース)で、かつ音源の近傍に大きな吸音面を有する騒音低減ブラケット60aを配置することができる。その結果、省スペースで効率よくモータ10または一対のギア30,40の騒音を低減することができる。
【0081】
また、空気層の厚みL2,L3および複数の貫通孔71,73の径等の各パラメータにより設定される設計周波数f0が一対のギア30,40の騒音周波数f、および隣接する他のギアの騒音周波数f2と一致または近似するように設けられるので、一対のギア30,40および隣接するギアの騒音を低減することができる。
【0082】
なお、上記実施の形態においては、第1板部材61、第2板部材62、第3板部材63および閉塞部材65をそれぞれ別部材として構成しているが、これに限定されず、第1板部材61、第2板部材62、第3板部材63および閉塞部材65のうちいずれか複数、または全てを一の部材から形成してもよい。
さらに閉塞部材65は2つの空気層の1つのみ密閉するようにしてもよいが、2つの空気層を密閉することが好ましい。
【0083】
(第3の実施の形態)
次いで、本発明に係る第3の実施の形態に係る駆動装置100bについて説明する。図3は、第3の実施の形態に係る騒音低減ブラケットを用いた駆動装置100bの一例を示す模式的断面図である。第3の実施の形態に係る駆動装置100bが第1の実施の形態に係る駆動装置100と相違するのは、以下の点である。
【0084】
第3の実施の形態は、第1の実施の形態に係る駆動装置100の騒音低減ブラケット60の代わりに騒音低減ブラケット60bを備える。騒音低減ブラケット60bは、図3に示すように、第1板部材61がモータ10側に設けられ、第1板部材61に複数の貫通孔71が形成される。それにより、モータ10の周囲は、複数の貫通孔71を介して第1板部材61、第2板部材62および閉塞部材65により囲まれた空気層に連通している。
【0085】
第3の実施の形態においては、例えば第1板部材61の板厚t1は、0.3mm以上3mm以下であり、第2板部材62の板厚t2は0.3mm以上3mm以下であり、閉塞部材65の板厚tは0.3mm以上3mm以下であり、第1板部材61に設けられた貫通孔71の孔径d1は、0.3mm以上15mm以下であり、第1板部材61に設けられた貫通孔の開口率β1は0.1%以上10%以下であり、第1板部材61および第2板部材62との並行部材間距離L4は1mm以上50mm以下である。
【0086】
第3の実施の形態においては、第1の実施の形態と異なり、ギアの騒音よりもモータ10の騒音の方が大きい音であり、モータ10の騒音を低減する場合を考える。したがって、モータ10の騒音の周波数fに一致するまたは近似するように設計周波数f0を設ける(式3参照)。
【0087】
すなわち、第1板部材61に形成された複数の貫通孔71における空気の塊が仮想的な質量系m1を形成し、第1板部材61および第2板部材62により形成された空気層が仮想的なバネ系k1を形成する。したがって、モータ10の近傍に1自由度共振系を形成することができる。
【0088】
この仮想的質量m1は、第1板部材61の厚みt1、複数の貫通孔71の孔径φd1、開口率β1および空気密度ρにより決定され、仮想的バネ系k1は、並行部材間距離L4、空気密度ρおよび音速cにより決定される。
【0089】
よって、これらの仮想的質量m1および仮想的バネ系k1の各パラメータを調整することによりモータ10の騒音の共振周波数に一致または近似させた共鳴器を形成することができる。したがって、モータ10の騒音が複数の貫通孔71を介して空気層内に侵入する際に共鳴現象が生じて吸音される。
【0090】
以上のことにより、第3の実施の形態に係る騒音低減ブラケット60bにおいては、第1板部材61、第2板部材62および閉塞部材65により形成された空間により空気層が形成され、第1板部材61に設けられた複数の貫通孔71と合わさって、共鳴器として作用し、モータ10の騒音を低減することができる。
【0091】
また、複数の貫通孔71がモータ10に対向して設けられているので、大きな吸音面を形成し、モータ10の騒音を好適に低減することができる。
【0092】
さらに、本発明に係る騒音低減ブラケット60bにおいては、モータ10を固持するブラケットに共鳴器を設けて騒音低減を図ることができるので、新たに共鳴器等を設けることなく、モータ10と一対のギア30,40との間の設計上やむ得なく生じる空きスペース(デッドスペース)で、かつ音源の近傍に大きな吸音面を有する騒音低減ブラケット60bを配置することができる。その結果、省スペースで効率よくモータ10の騒音を低減することができる。
【0093】
また、空気層の厚みL4および第1板部材61の複数の貫通孔71の径等の各パラメータにより設定される設計周波数f0がモータ10の騒音周波数fと一致または近似するように設けられるので、モータ10の騒音を最も有効に低減することができる。特に、モータ10の騒音は単一周波数であるので、複数の貫通孔71および空気層の構成により、当該単一周波数を低減させることができ、確実に騒音を低減することができる。
【0094】
なお、上記実施の形態においては、第1板部材61、第2板部材62および閉塞部材65をそれぞれ別部材として構成しているが、これに限定されず、第1板部材61、第2板部材62および閉塞部材65のうちいずれか複数、または全てを一の部材から形成してもよい。
【0095】
(第4の実施の形態)
次いで、本発明に係る第4の実施の形態に係る駆動装置100cについて説明する。図4は、第4の実施の形態に係る騒音低減ブラケットを用いた駆動装置100cの一例を示す模式的断面図である。
【0096】
第4の実施の形態に係る駆動装置100cが第1の実施の形態に係る駆動装置100と相違するのは、以下の点である。
【0097】
第4の実施の形態の騒音低減ブラケット60cは、第1の騒音低減ブラケット60にさらに芯材80を備える。
【0098】
第1板部材61、第2板部材62および芯材80は共に鉄、アルミニウム等の金属または樹脂等、その他様々な任意の素材からなってもよい。なお第1板部材61、第2板部材62および芯材80の材質が同一素材からなることが好ましい。
【0099】
芯材80は、第1板部材61および第2板部材62により形成された空気層を複数に分割するように設けられる。図4に示すように、本実施の形態における芯材80は、第1板部材61および第2板部材62の断面に略垂直に設けられる。
【0100】
図4に示すように、第1板部材61には、ギア30,40に対する面に複数の貫通孔71が設けられている。それにより、ギア30,40の周囲は、複数の貫通孔71を介して芯材80により区切られた各空気層に連通している。
【0101】
第4の実施の形態においては、例えば第1板部材61の板厚t1は、0.3mm以上3mm以下であり、第2板部材62の板厚t2は0.3mm以上3mm以下であり、第1板部材61に設けられた貫通孔の孔径(直径φ)d1は、0.3mm以上15mm以下であり、第1板部材61に設けられた貫通孔の開口率β1は0.1%以上10%以下であり、芯材80の板厚t8は0.3mm以上3mm以下であり、第1板部材61および第2板部材62との並行部材間距離L5は1mm以上50mm以下であり、芯材80の配置間隔L8は1mm以上50mm以下である。
【0102】
続いて、芯材80の形成方法について説明する。図5は図4で示した騒音低減ブラケット60cの製造方法の一例を示す図である。図5(a)は図4に示したように芯材80を別部材として空気層を形成した場合を示し、図5(b),(c)は複数の貫通孔71が既に形成された2枚の金属板をプレス加工により曲げ加工することにより芯材80を形成した場合を示す。
【0103】
図5(a)で示すように、ブラケット60c内に新たに芯材80を設ける場合、接着等の方法を採用する必要があるため手間がかかり、製造コストが増加する傾向にあった。
【0104】
しかし、図5(b)に示すように、第1板部材61に複数の貫通孔71が形成され、第2板部材62が形成された二重構造の板部材に対して、矢印X2の方向で第1板部材61に対してプレス加工をすることにより容易に芯材80を形成することができる。
【0105】
同様に、図5(c)に示すように、第1板部材61に複数の貫通孔71が形成され、第2板部材62が形成された二重構造の板部材に対して、矢印X3の方向で第2板部材62に対してプレス加工をすることにより容易に芯材80を形成してもよい。
【0106】
この結果、容易に第1板部材61および第2板部材62に芯材80を形成することができる。
【0107】
第4の実施の形態においては、第1の実施の形態と同様に、モータ10の騒音よりも一対のギア30,40の騒音の方が大きい音であり、一対のギア30,40の騒音を低減する場合を考える。したがって、第1の実施の形態と同様に一対のギア30,40の騒音の周波数fに一致するまたは近似するように設計周波数f0を設ける(式3参照)。
【0108】
すなわち、第1板部材61に形成された複数の貫通孔71における空気の塊が仮想的な質量系m1を形成し、第1板部材61、第2板部材62および芯材80により形成された空気層が仮想的なバネ系k81を形成する。この仮想的質量m1は、第1板部材61の厚みt1、複数の貫通孔71の孔径φd1、開口率β1および空気密度ρにより決定され、仮想的バネ系k8は、並行部材間距離L5、芯材80の配置間隔L8、空気密度ρおよび音速cにより決定される。
【0109】
よって、これらの仮想的質量m1および仮想的バネ系k8の各パラメータを調整することにより一対のギア30,40の騒音の共振周波数に一致または近似させた共鳴器を形成することができる。したがって、一対のギア30,40の騒音が複数の貫通孔71を介して空気層内に侵入する際に共鳴現象が生じて吸音される。第1板部材61および第2板部材62の間に設けられる複数の芯材80をさらに含み、隣接する芯材80は、一対のギア30,40の騒音周波数fの波長の1/2未満の間隔で設けられているので、騒音低減を好適に図ることができる。
【0110】
さらに、複数の貫通孔71が、一対のギア30,40に対向して設けられているので、大きな吸音面を形成し、一対のギア30,40の騒音を好適に低減することができる。
【0111】
さらに、第4の実施の形態に係る騒音低減ブラケット60cにおいては、モータ10を固持するブラケットに共鳴器を設けて騒音低減を図ることができるので、新たに共鳴器等を設けることなく、モータ10と一対のギア30,40との間の設計上やむ得なく生じる空きスペース(デッドスペース)で、かつ音源の近傍に大きな吸音面を有する騒音低減ブラケット60cを配置することができる。その結果、省スペースで効率よくモータ10または一対のギアの騒音を低減することができる。
【0112】
また、空気層の厚みL5、芯材の配置間隔L8および第1板部材61の複数の貫通孔71の径等の各パラメータにより設定される設計周波数f0が一対のギア30,40の騒音周波数fと一致または近似するように設けられるので、一対のギア30,40の騒音を最も有効に低減することができる。特に、一対のギア30,40の騒音は単一周波数であるので、複数の貫通孔71および空気層の構成により、当該単一周波数を低減させることができ、確実に騒音を低減することができる。
【0113】
(第5の実施の形態)
図6は、第1の実施の形態に係る騒音低減カバーを用いた駆動装置100dの一例を示す模式的断面図である。
【0114】
図6の駆動装置100dは、モータ10、駆動軸20、一対のギア30,40,伝達軸50および騒音低減カバー90を含む。
【0115】
騒音低減カバー90は、一対のギア30,40を包囲するように配設され、一対のギア30,40を支持する支持部(図示せず)を有し、さらに、板状からなる第1板部材91、板状からなる第2板部材92および第1板部材91および第2板部材92の周縁を連結する閉塞部材95を含む。なお、本発明における包囲とは、囲うまたは覆うという状態を意味し、全体を包囲するものに限定されず、一部を囲うまたは覆うという状態も含まれる。
【0116】
第1板部材91および第2板部材92は互いに略平行に距離L1の間隔で配置される。第1板部材91および第2板部材92は共に鉄、アルミニウム等の金属または樹脂等、その他様々な任意の素材からなってもよい。なお第1板部材91および第2板部材92の材質が同一素材からなることが好ましい。また、閉塞部材95は、第1板部材91および第2板部材92と同一素材からなることが好ましい。
【0117】
このように、第1板部材91、第2板部材92および閉塞部材95により空間が形成される。以下、この空間を空気層と呼ぶ。
【0118】
図6に示すように、第1板部材91には、一対のギア30,40に対する面に複数の貫通孔71が設けられている。それにより、一対のギア30,40の周囲は、複数の貫通孔71を介して空気層に連通している。また、第1板部材91は、一対のギア30,40の駆動軸20および伝達軸50を支持できる形状を有する。
【0119】
第5の実施の形態においては、例えば第1板部材91の板厚t1は、0.3mm以上3mm以下であり、第2板部材92の板厚t2は0.3mm以上3mm以下であり、閉塞部材95の板厚t5は0.3mm以上3mm以下であり、第1板部材91に設けられた貫通孔71の孔径(直径φ)d1は、0.3mm以上15mm以下であり、第1板部材91に設けられた貫通孔の開口率β1は0.1%以上10%以下であり、第1板部材91および第2板部材92との並行部材間距離L1は1mm以上50mm以下である。
【0120】
次いで、図6の駆動装置100dの動作について説明する。モータ10が回転することにより駆動軸20が回転する。それにより、駆動軸20に設けられたギア30が回転し、同時にギア30に噛合って設けられたギア40が従属回転する。それにより、ギア40に設けられた伝達軸50が回転する。この場合、モータ10からはモータ10音が発生し、一対のギア30,40においても相互の歯の噛合いによるギアの音が発生する。
【0121】
ここで、第5の実施の形態においては、モータ10の騒音よりもギア30,40の騒音の方が大きい音であり、ギア30,40の騒音を低減する場合を考える。このギア30,40の騒音の周波数fに対して、以下の式を満たす設計周波数f0となるように各パラメータが設定される。
【0122】
【数4】

ここで、β1は第1板部材91の貫通孔の開口率を示し、d1は第1板部材91の貫通孔の孔径を示し、t1は第1板部材91の板厚を示し、L1は第1板部材91および第2板部材92の並行部材間距離を示し、cは音速を示す。
【0123】
このように、ギア30,40の騒音の周波数fに一致するまたは近似するように設計周波数f0が設けられるので、ギア30,40の騒音を低減することができる。
【0124】
すなわち、第1板部材91に形成された複数の貫通孔における空気の塊が仮想的な質量系を形成し、第1板部材91、第2板部材92および閉塞部材95により形成された空気層が仮想的なバネ系を形成する。したがって、一対のギア30,40の近傍に1自由度共振系を形成することができる。
【0125】
この仮想的質量mは、第1板部材91の厚みt1、複数の貫通孔71の孔径φd1、開口率β1および空気密度ρにより決定され、仮想的バネ系kは、並行部材間距離L1、空気密度ρおよび音速cにより決定される。
【0126】
よって、これらの仮想的質量mおよび仮想的バネ系kの各パラメータを調整することにより一対のギア30,40の騒音の共振周波数に一致または近似させた共鳴器を形成することができる。したがって、一対のギア30,40の騒音が複数の貫通孔71を介して空気層内に侵入する際に共鳴現象が生じて吸音される。
【0127】
以上のことにより、第5の実施の形態に係る騒音低減カバー90においては、第1板部材91、第2板部材92および閉塞部材95により形成された空間により空気層が形成され、第1板部材91に設けられた複数の貫通孔71と合わさって、共鳴器として作用し、一対のギア30,40の騒音を低減することができる。
【0128】
また、複数の貫通孔71が一対のギア30,40に対向して設けられているので、大きな吸音面を形成し、一対のギア30,40の騒音を好適に低減することができる。
【0129】
さらに、第5の実施の形態に係る騒音低減カバー90においては、一対のギア30,40を包囲するカバーに共鳴器を設けて騒音低減を図ることができるので、新たに共鳴器等を設けることなく、モータ10と一対のギア30,40との間の設計上やむ得なく生じる空きスペース(デッドスペース)で、かつ音源の近傍に大きな吸音面を有する騒音低減カバー90を配置することができる。その結果、省スペースで効率よくモータ10または一対のギア30,40の騒音を低減することができる。
【0130】
また、上述したように空気層の厚みL1および第1板部材91の複数の貫通孔71の径d1等の各パラメータにより設定される設計周波数f0が一対のギア30,40の騒音周波数fと一致または近似するように設けられるので、一対のギア30,40の騒音を最も有効に低減することができる。特に、一対のギア30,40の騒音は単一周波数であるので、複数の貫通孔71および空気層の構成により、当該単一周波数を低減させることができ、確実に騒音を低減することができる。
【0131】
なお、上記実施の形態においては、第1板部材91、第2板部材92および閉塞部材95をそれぞれ別部材として構成しているが、これに限定されず、第1板部材91、第2板部材92および閉塞部材95のうちいずれか複数、または全てを一の部材から形成してもよい。
さらに閉塞部材95は2つの空気層の1つのみ密閉するようにしてもよいが、2つの空気層を密閉することが好ましい。
【0132】
(第6の実施の形態)
次に、第6の実施の形態に係る駆動装置100eについて説明する。図7は、第6の実施の形態に係る騒音低減カバーを用いた駆動装置100eの一例を示す模式的断面図である。
【0133】
第6の実施の形態に係る駆動装置100eが第5の実施の形態に係る駆動装置100dと相違するのは以下の点である。
【0134】
第6の実施の形態に係る駆動装置100eは、第5の実施の形態に係る駆動装置100dの騒音低減カバー90の代わりに騒音低減カバー90aを備える。騒音低減カバー90aは、騒音低減カバー90に1または複数の第3板部材93をさらに含む。なお、第6の実施の形態においては、第3板部材93が1つの場合について説明する。
【0135】
この第3板部材93は、第1板部材91および第2板部材92の間に設けられる。なお、第3板部材93は、鉄、アルミニウム等の金属または樹脂等、その他様々な任意の素材からなってもよい。
【0136】
図7に示すように、第1板部材91、第3板部材93および閉塞部材95により囲まれた空間と、第3板部材93、第2板部材92および閉塞部材95により囲まれた空間との2個の空気層が形成される。
【0137】
第1板部材91には複数の貫通孔71が形成されており、第3板部材93にも複数の貫通孔73が形成されている。それにより、ギア30,40の周囲は、複数の貫通孔71を介して第3板部材93および第1板部材91により囲まれた空気層に連通し、複数の貫通孔73を介して第2板部材92および第3板部材93により囲まれた空気層に連通している。
【0138】
第6の実施の形態においては、例えば第1板部材91の板厚t1は、0.3mm以上3mm以下であり、第2板部材92の板厚t2は0.3mm以上3mm以下であり、第3板部材93の板厚t3は0.3mm以上3mm以下であり、閉塞部材95の板厚tは0.3mm以上3mm以下であり、第1板部材91に設けられた貫通孔71の孔径(直径φ)d1は、0.3mm以上15mm以下であり、第1板部材91に設けられた貫通孔の開口率β1は0.1%以上10%以下であり、第3板部材93に設けられた貫通孔の孔径(直径φ)d3は、0.3mm以上15mm以下であり、第3板部材93に設けられた貫通孔の開口率β3は0.1%以上10%以下であり、第2板部材92および第3板部材93との並行部材間距離L2は1mm以上50mm以下であり、第1板部材91および第3板部材93との並行部材間距離L3は1mm以上50mm以下である。
【0139】
第6の実施の形態においては、第5の実施の形態と同様に、モータ10の騒音よりも一対のギア30,40の騒音の方が大きい音であり、一対のギア30,40の騒音を低減する場合を考える。
【0140】
すなわち、第1板部材91に形成された複数の貫通孔71における空気の塊が仮想的な質量系m1を形成し、第3板部材93に形成された複数の貫通孔73における空気の塊が仮想的な質量系m3を形成し、第2板部材92、第3板部材93および閉塞部材95により形成された空気層が仮想的なバネ系k23を形成し、第1板部材91、第3板部材93および閉塞部材95により形成された空気層が仮想的なバネ系k13を形成する。したがって、一対のギア30,40の近傍に2自由度共振系を形成することができる。
【0141】
この仮想的質量m1は、第1板部材91の厚みt1、複数の貫通孔71の孔径φd1、開口率β1および空気密度ρにより決定され、仮想的質量m3は、第3板部材93の厚みt3、複数の貫通孔73の孔径φd3、開口率β3および空気密度ρにより決定され、仮想的バネ系k23は、並行部材間距離L2、空気密度ρおよび音速cにより決定され、仮想的バネ系k13は、並行部材間距離L3、空気密度ρおよび音速cにより決定される。
【0142】
よって、これらの仮想的質量m1,m3および仮想的バネ系k23,k13の各パラメータを調整することにより一対のギア30,40のみならず、隣接する他のギア(図示せず)の騒音の周波数に一致または近似させた複数の共振周波数を持つ共鳴器を形成することができる。したがって、一対のギア30,40および他ギアによる他の周波数の騒音が複数の貫通孔71,73の空気と空気層において共鳴現象が生じて吸音される。
【0143】
以上のことにより、第6の実施の形態に係る騒音低減カバー90aにおいては、第1板部材91、第2板部材92、第3板部材93および閉塞部材95により形成された空間により2個の空気層が形成され、複数の貫通孔71および複数の貫通孔73と合わさって、複数の周波数の共振周波数を有する共鳴器として作用し、一対のギア30,40および他ギアの騒音を有効に低減することができる。
【0144】
また、複数の貫通孔71および複数の貫通孔73が一対のギア30,40に対向して設けられているので、大きな吸音面を形成し一対のギア30,40の騒音を好適に低減することができる。
【0145】
さらに、第6の実施の形態に係る騒音低減カバー90aにおいては、一対のギア30,40を包囲するカバーに複数の共振周波数を有する共鳴器を設けて騒音低減を図ることができるので、新たに共鳴器等を設けることなく、モータ10と一対のギア30,40との間の設計上やむ得なく生じる空きスペース(デッドスペース)で、かつ音源の近傍に大きな吸音面を有する騒音低減カバー90aを配置することができる。その結果、省スペースで効率よくモータ10または一対のギア30,40の騒音を低減することができる。
【0146】
また、空気層の厚みL2,L3および複数の貫通孔71,73の径等の各パラメータにより設定される設計周波数f0が一対のギア30,40の騒音周波数f、および隣接する他のギアの騒音周波数f2と一致または近似するように設けられるので、一対のギア30,40および隣接するギアの騒音を低減することができる。
【0147】
なお、上記実施の形態においては、第1板部材91、第2板部材92、第3板部材93および閉塞部材95をそれぞれ別部材として構成しているが、これに限定されず、第1板部材91、第2板部材92、第3板部材93および閉塞部材95のうちいずれか複数、または全てを一の部材から形成してもよい。
【0148】
(第7の実施の形態)
次いで、本発明に係る第7の実施の形態に係る駆動装置100fについて説明する。図8は、第7の実施の形態に係る騒音低減カバーを用いた駆動装置100fの一例を示す模式的断面図である。第7の実施の形態に係る駆動装置100fが第5の実施の形態に係る駆動装置100dと相違するのは、以下の点である。
【0149】
第7の実施の形態は、第5の実施の形態に係る駆動装置100dの騒音低減カバー90の代わりに騒音低減カバー90bを備える。騒音低減カバー90bは、図8に示すように、第1板部材91がモータ10側に設けられ、第1板部材91に複数の貫通孔71が形成される。それにより、モータ10の周囲は、複数の貫通孔71を介して第1板部材91、第2板部材92および閉塞部材95により囲まれた空気層に連通している。
【0150】
第7の実施の形態においては、例えば第1板部材91の板厚t1は、0.3mm以上3mm以下であり、第2板部材92の板厚t2は0.3mm以上3mm以下であり、閉塞部材95の板厚tは0.3mm以上3mm以下であり、第1板部材91に設けられた貫通孔71の孔径d1は、0.3mm以上15mm以下であり、第1板部材91に設けられた貫通孔の開口率β1は0.1%以上10%以下であり、第1板部材91および第2板部材92との並行部材間距離L4は1mm以上50mm以下である。
【0151】
第7の実施の形態においては、第5の実施の形態および第6の実施の形態と異なり、ギアの騒音よりもモータ10の騒音の方が大きい音であり、モータ10の騒音を低減する場合を考える。したがって、モータ10の騒音の周波数fに一致するまたは近似するように設計周波数f0を設ける(式4参照)。
【0152】
すなわち、第1板部材91に形成された複数の貫通孔71における空気の塊が仮想的な質量系m1を形成し、第1板部材91および第2板部材92により形成された空気層が仮想的なバネ系k1を形成する。したがって、モータ10の近傍に1自由度共振系を形成することができる。
【0153】
この仮想的質量m1は、第1板部材91の厚みt1、複数の貫通孔71の孔径φd1、開口率β1および空気密度ρにより決定され、仮想的バネ系k1は、並行部材間距離L4、空気密度ρおよび音速cにより決定される。
【0154】
よって、これらの仮想的質量m1および仮想的バネ系k1の各パラメータを調整することによりモータ10の騒音の共振周波数に一致または近似させた共鳴器を形成することができる。したがって、モータ10の騒音が複数の貫通孔71を介して空気層内に侵入する際に共鳴現象が生じて吸音される。
【0155】
以上のことにより、第7の実施の形態に係る騒音低減カバー90bにおいては、第1板部材91、第2板部材92および閉塞部材95により形成された空間により空気層が形成され、第1板部材91に設けられた複数の貫通孔71と合わさって、共鳴器として作用し、モータ10の騒音を低減することができる。
【0156】
また、複数の貫通孔71がモータ10に対向して設けられているので、大きな吸音面を形成し、モータ10の騒音を好適に低減することができる。
【0157】
さらに、本発明に係る騒音低減カバー90fにおいては、一対のギア30,40を包囲するカバーに共鳴器を設けて騒音低減を図ることができるので、新たに共鳴器等を設けることなく、モータ10と一対のギア30,40との間の設計上やむ得なく生じる空きスペース(デッドスペース)で、かつ音源の近傍に大きな吸音面を有する騒音低減カバー90fを配置することができる。その結果、省スペースで効率よくモータ10の騒音を低減することができる。
【0158】
また、空気層の厚みL4および第1板部材91の複数の貫通孔71の径等の各パラメータにより設定される設計周波数f0がモータ10の騒音周波数fと一致または近似するように設けられるので、モータ10の騒音を最も有効に低減することができる。特に、モータ10の騒音は単一周波数であるので、複数の貫通孔71および空気層の構成により、当該単一周波数を低減させることができ、確実に騒音を低減することができる。
【0159】
なお、上記実施の形態においては、第1板部材91、第2板部材92および閉塞部材95をそれぞれ別部材として構成しているが、これに限定されず、第1板部材91、第2板部材92および閉塞部材95のうちいずれか複数、または全てを一の部材から形成してもよい。
【0160】
(第8の実施の形態)
次いで、本発明に係る第8の実施の形態に係る駆動装置100gについて説明する。図9は、第8の実施の形態に係る騒音低減カバーを用いた駆動装置100gの一例を示す模式的断面図である。
【0161】
第8の実施の形態に係る駆動装置100gが第5の実施の形態に係る駆動装置100dと相違するのは、以下の点である。
【0162】
第8の実施の形態の騒音低減カバー90cは、第5の騒音低減カバー90にさらに芯材80を備える。
【0163】
第1板部材91、第2板部材92および芯材80は共に鉄、アルミニウム等の金属または樹脂等、その他様々な任意の素材からなってもよい。なお第1板部材91、第2板部材92および芯材80の材質が同一素材からなることが好ましい。
【0164】
芯材80は、第1板部材91および第2板部材92により形成された空気層を複数に分割するように設けられる。図9に示すように、本実施の形態における芯材80は、第1板部材91および第2板部材92の断面に略垂直に設けられる。
【0165】
図9に示すように、第1板部材91には、ギア30,40に対する面に複数の貫通孔71が設けられている。それにより、ギア30,40の周囲は、複数の貫通孔71を介して芯材80により区切られた各空気層に連通している。
【0166】
第8の実施の形態においては、例えば第1板部材91の板厚t1は、0.3mm以上3mm以下であり、第2板部材92の板厚t2は0.3mm以上3mm以下であり、第1板部材91に設けられた貫通孔の孔径(直径φ)d1は、0.3mm以上15mm以下であり、第1板部材91に設けられた貫通孔の開口率β1は0.1%以上10%以下であり、芯材80の板厚t8は0.3mm以上3mm以下であり、第1板部材91および第2板部材92との並行部材間距離L5は1mm以上50mm以下であり、芯材80の配置間隔L8は1mm以上50mm以下である。
【0167】
続いて、芯材80の形成方法について説明する。図10は図9で示した騒音低減カバー90cの製造方法の一例を示す図である。図10(a)は図9に示したように芯材80を別部材として空気層を形成した場合を示し、図10(b),(c)は複数の貫通孔71が既に形成された2枚の金属板をプレス加工により曲げ加工することにより芯材80を形成した場合を示す。
【0168】
図10(a)で示すように、カバー90c内に新たに芯材80を設ける場合、接着等の方法を採用する必要があるため手間がかかり、製造コストが増加する傾向にあった。
【0169】
しかし、図10(b)に示すように、第1板部材91に複数の貫通孔71が形成され、第2板部材92が形成された二重構造の板部材に対して、矢印X2の方向でプレス加工をすることにより容易に芯材80を形成することができる。
【0170】
同様に、図10(c)に示すように、第1板部材91に複数の貫通孔71が形成され、第2板部材92が形成された二重構造の板部材に対して、矢印X3の方向でプレス加工をすることにより容易に芯材80を形成してもよい。
【0171】
この結果、容易に第1板部材91および第2板部材92に芯材80を形成することができる。
【0172】
第8の実施の形態においては、第5の実施の形態と同様に、モータ10の騒音よりも一対のギア30,40の騒音の方が大きい音であり、一対のギア30,40の騒音を低減する場合を考える。したがって、第5の実施の形態と同様に一対のギア30,40の騒音の周波数fに一致するまたは近似するように設計周波数f0を設ける(式4参照)。
【0173】
すなわち、第1板部材91に形成された複数の貫通孔71における空気の塊が仮想的な質量系m1を形成し、第1板部材91、第2板部材92および芯材80により形成された空気層が仮想的なバネ系k81を形成する。この仮想的質量m1は、第1板部材91の厚みt1、複数の貫通孔71の孔径φd1、開口率β1および空気密度ρにより決定され、仮想的バネ系k8は、並行部材間距離L5、芯材80の配置間隔L8、空気密度ρおよび音速cにより決定される。
【0174】
よって、これらの仮想的質量m1および仮想的バネ系k8の各パラメータを調整することにより一対のギア30,40の騒音の共振周波数に一致または近似させた共鳴器を形成することができる。したがって、一対のギア30,40の騒音が複数の貫通孔71を介して空気層内に侵入する際に共鳴現象が生じて吸音される。第1板部材91および第2板部材92の間に設けられる複数の芯材80をさらに含み、芯材80は、一対のギア30,40の騒音周波数fの波長の1/2未満の間隔で設けられているので、騒音低減を好適に図ることができる。
【0175】
さらに、複数の貫通孔71が、一対のギア30,40に対向して設けられているので、大きな吸音面を形成し、一対のギア30,40の騒音を好適に低減することができる。
【0176】
さらに、第8の実施の形態に係る騒音低減カバー90cにおいては、一対のギア30,40を包囲するカバーに共鳴器を設けて騒音低減を図ることができるので、新たに共鳴器等を設けることなく、モータ10と一対のギア30,40との間の設計上やむ得なく生じる空きスペース(デッドスペース)で、かつ音源の近傍に大きな吸音面を有する騒音低減カバー90cを配置することができる。その結果、省スペースで効率よくモータ10または一対のギアの騒音を低減することができる。
【0177】
また、空気層の厚みL5、芯材の配置間隔L8および第1板部材91の複数の貫通孔71の径等の各パラメータにより設定される設計周波数f0が一対のギア30,40の騒音周波数fと一致または近似するように設けられるので、一対のギア30,40の騒音を最も有効に低減することができる。特に、一対のギア30,40の騒音は単一周波数であるので、複数の貫通孔71および空気層の構成により、当該単一周波数を低減させることができ、確実に騒音を低減することができる。
【0178】
なお、上記実施の形態においては、第1板部材91、第2板部材92および閉塞部材95をそれぞれ別部材として構成しているが、これに限定されず、第1板部材91、第2板部材92および閉塞部材95のうちいずれか複数、または全てを一の部材から形成してもよい。
さらに閉塞部材95は2つの空気層の1つのみ密閉するようにしてもよいが、2つの空気層を密閉することが好ましい。
【0179】
(他の例)
図11は、第1から第4の実施の形態に係る騒音低減ブラケットおよび第5から第8の実施の形態に係る騒音低減カバーとを一体化した場合を説明するための模式図である。
【0180】
図11に示す騒音低減部材100hは、モータ10および一対のギア30,40の間に第2板部材62が設けられ、第2板部材62の片側に対向して第1板部材61が設けられ、第2板部材62の反対側に対向して第3板部材63が設けられる。
【0181】
第1板部材61および第3板部材63には、複数の貫通孔71,73が設けられている。それにより、一対のギア30,40の周囲は、複数の貫通孔73を介して空気層に連通して設けられ、モータ10の周囲は、複数の貫通孔71を介して空気層に連通して設けられる。
【0182】
すなわち、第1板部材61に形成された複数の貫通孔71における空気の塊が仮想的な質量系m1を形成し、第3板部材63に形成された複数の貫通孔73における空気の塊が仮想的な質量系m3を形成し、第2板部材62、第3板部材63および閉塞部材65により形成された空気層が仮想的なバネ系k23を形成し、第1板部材61、第3板部材63および閉塞部材65により形成された空気層が仮想的なバネ系k13を形成する。したがって、一対のギア30,40の近傍に1自由度共振系を形成することができ、モータ10の近傍に1自由度共振系を形成することができる。
【0183】
この仮想的質量m1は、第1板部材61の厚みt1、複数の貫通孔71の孔径φd1、開口率β1および空気密度ρにより決定され、仮想的質量m3は、第3板部材63の厚みt3、複数の貫通孔73の孔径φd3、開口率β3および空気密度ρにより決定され、仮想的バネ系k23は、並行部材間距離L12、空気密度ρおよび音速cにより決定され、仮想的バネ系k13は、並行部材間距離L13、空気密度ρおよび音速cにより決定される。
【0184】
よって、これらの仮想的質量m1,m3および仮想的バネ系k23,k13の各パラメータを調整することにより一対のギア30,40およびモータ10の両方の騒音の周波数に一致または近似させた複数の共振周波数を持つ共鳴器を形成することができる。したがって、一対のギア30,40およびモータ10による複数の周波数の騒音が複数の貫通孔71,73の空気と空気層において共鳴現象によって吸音される。
【0185】
以上のことにより、騒音低減部材においては、、第1板部材61、第2板部材62、第3板部材63および閉塞部材65により形成された空間により2個の空気層が形成され、複数の貫通孔71および複数の貫通孔73と合わさって、複数の周波数の共振周波数を有する共鳴器として作用し、一対のギア30,40およびモータ10の騒音を有効に低減することができる。
【0186】
また、複数の貫通孔71がモータ10に対向して設けられ、複数の貫通孔73が一対のギア30,40に対向して設けられているので、大きな吸音面を形成しモータ10および一対のギア30,40の騒音を好適に低減することができる。
【0187】
さらに、騒音低減部材においては、モータ10を固持するブラケットおよびギアの周囲を包囲するカバーに複数の共振周波数を有する共鳴器を設けて騒音低減を図ることができるので、新たに共鳴器等を設けることなく、モータ10と一対のギア30,40との間の設計上やむ得なく生じる空きスペース(デッドスペース)で、かつ音源の近傍に大きな吸音面を有する騒音低減部材を配設することができる。その結果、省スペースで効率よくモータ10または一対のギア30,40およびモータ10の騒音を低減することができる。
【0188】
また、空気層の厚みおよび複数の貫通孔71,73の径等の各パラメータにより設定される設計周波数f0が一対のギア30,40の騒音周波数f、およびモータ10の騒音周波数f2と一致または近似するように設けられるので、一対のギア30,40およびモータ10の騒音を低減することができる。
【0189】
なお、上記他の例においては、第1板部材61、第2板部材62、第3板部材63および閉塞部材65をそれぞれ別部材として構成しているが、これに限定されず、第1板部材61、第2板部材62、第3板部材63および閉塞部材65のうちいずれか複数、または全てを一の部材から形成してもよい。
【0190】
さらに、第1板部材61および第2板部材62から形成される空気層に芯材80を設けてもよく、第2板部材62および第3板部材63から形成される空気層に芯材80を設けてもよい。
【0191】
上記第1から第8の実施の形態においては、モータ10がモータ10に相当し、ギア30,40が一対のギアに相当し、騒音低減ブラケット60,60a,60b,60cが騒音低減部材およびブラケット機能に相当し、騒音低減カバー90,90a,90b,90cが騒音低減部材およびカバー機能に相当し、閉塞部材65,95が閉塞部材に相当し、第1板部材61,91が第1板部材に相当し、第2板部材62,92が第2板部材に相当し、複数の貫通孔71,72,73が複数の貫通孔に相当し、貫通孔の開口率β,β1,β3が貫通孔の開口率に相当し、貫通孔の孔径(直径φ)d,d1,d3が貫通孔の孔径に相当し、第1板部材、第2板部材および閉塞部材の板厚t1,t2、tが板厚に相当し、並行部材間距離L1,〜,L5,L12,L13が第1板部材、第2板部材および第3板部材のうちいずれか2つの並行部材間距離に相当し、設計周波数f0が設計周波数に相当し、騒音周波数fが騒音周波数に相当し、芯材80が芯材に相当する。
【0192】
本発明は、上記の好ましい第1から第8の実施の形態に記載されているが、本発明はそれだけに制限されない。本発明の精神と範囲から逸脱することのない様々な実施形態が他になされることは理解されよう。さらに、本実施形態において、本発明の構成による作用および効果を述べているが、これら作用および効果は、一例であり、本発明を限定するものではない。
【0193】
例えば、モータ10および一対のギア30,40の間に、第1板部材61、第2板部材62、第3板部材63および閉塞部材65により形成される空気層および複数の貫通孔の配置は、以下の例1〜例8の場合であってもよい。なお、以下の例1〜例8においても、第2板部材62には、複数の貫通孔を設けず、第1板部材61および第3板部材63に複数の貫通孔を設ける場合について説明する。
【0194】
(例1)
モータ10、第1板部材61、第2板部材62および一対のギア30,40の順に配置する。
【0195】
(例2)
モータ10、第2板部材62、第1板部材61および一対のギア30,40の順に配置する。
【0196】
(例3)
モータ10、第1板部材61、第2板部材62、第3板部材63および一対のギア30,40の順に配置する。
【0197】
(例4)
モータ10、第1板部材61、複数枚の第3板部材63、第2板部材62および一対のギア30,40の順に配置する。
【0198】
(例5)
モータ10、第2板部材62、第1板部材61、複数枚の第3板部材63および一対のギア30,40の順に配置する。
【0199】
(例6)
モータ10、第1板部材61、第2板部材62、複数枚の第3板部材63および一対のギア30,40の順に配置する。
【0200】
(例7)
モータ10、複数枚の第3板部材63、第2板部材62、第1板部材61および一対のギア30,40の順に配置する。
【0201】
(例8)
モータ10、複数枚の第1板部材61、第2板部材62、複数枚の第3板部材63および一対のギア30,40の順に配置する。
【0202】
以上の例1から例8までに示したような第1板部材61,第2板部材および第3板部材の配置であってもよい。なお、第1板部材61,第2板部材62および第3板部材63の代わりに、第1板部材91,第2板部材92および第3板部材93を用いてもよい。この場合においても、省スペースで効率よくモータ10または一対のギア30,40の騒音を低減することができる。
【0203】
<実施例>
上記の実施の形態に係る駆動装置を製作し、騒音低減について測定を行なった。以下、説明する。
【0204】
(実施例1)
実施例1においては、図1に示す騒音低減ブラケット60を備える駆動装置100を製作した。第1板部材61の板厚t1は、1mmであり、第2板部材62の板厚t2は1mmであり、第1板部材61に設けられた貫通孔の孔径dは、φ4mmであり、第1板部材61に設けられた貫通孔の開口率βは0.4%であり、第1板部材61および第2板部材62の平行間隔距離Lは5mmである。騒音低減ブラケット60は、ギア30,40から1mm離れた部分に設けた。
【0205】
(実施例2)
次いで、実施例2においては、図2に示す騒音低減ブラケット60aを備える駆動装置100aを製作した。第1板部材61の板厚t1は、1mmであり、第2板部材62の板厚t2は1mmであり、第3板部材63の板厚t3は1mmであり、第1板部材61に設けられた貫通孔の孔径(直径φ)d1は4mmであり、第1板部材61に設けられた貫通孔の開口率β1は0.3%であり、第3板部材63に設けられた貫通孔の孔径(直径φ)d3は、4mmであり、第3板部材63に設けられた貫通孔の開口率β3は0.1%である。騒音低減ブラケット60aは、ギア30,40から1mm離れた部分に設けた。
【0206】
(比較例1)
比較例1においては、実施例1で製作した騒音低減ブラケット60の第1板部材61の複数の貫通孔71を形成しない部分を除いて、実施例1と同様の駆動装置を製作した。騒音低減ブラケットは、ギア30,40から1mm離れた部分に設けた。
【0207】
(比較例2)
比較例2においては、次の駆動装置を作成した。図12は比較例2の駆動装置を示す図である。図12に示すように、比較例2においては、モータ10およびギア30,40の間にブラケット60を設け、ギア30,40に面したブラケットの一面に厚みt(5mm,64kg/m)のグラスウール90を形成した。騒音低減ブラケットは、ギア30,40から1mm離れた部分に設けた。
【0208】
(評価1)
図13は、実施例1および比較例1におけるギアの噛合い騒音を測定した結果を示す図である。図13の縦軸は騒音レベル(dB(A))を示し、横軸は周波数(Hz)を示す。
【0209】
図13に示すように、周波数800Hzにおいて、比較例1では騒音レベルが40dB(A)の状態であるが、実施例1では騒音レベルが35dB(A)まで低減されている。すなわち、その他の周波数領域においては、騒音レベルを低下させることはできないが、最も大きな騒音である周波数800Hzにおけるギア30,40の騒音レベルを約5dBも低減することができた。それにより、ギア30,40の最も大きな騒音を低減することができることが分かった。
【0210】
(評価2)
図14は実施例1、実施例2および比較例2における吸音率の測定結果を示す図である。図14の縦軸は吸音率を示し、横軸は周波数(Hz)を示す。
【0211】
図14に示すように比較例1におけるグラスウールの吸音率は、周波数0Hzから2KHzの間において0.2以下を示した。
【0212】
一方、実施例1における騒音低減ブランケット60の吸音率は、周波数が約800Hzの場合においてほぼ1.0の吸音率を示した。
【0213】
また、実施例2における騒音低減ブランケット60aの吸音率は、周波数が約450Hzおよび約1020Hzの場合においてほぼ0.9の吸音率を示した。
【0214】
したがって、実施例1の場合には1個の空気層において、周波数が約800Hzの騒音を完全に低減することができ、実施例2の場合には2個の空気層において約450Hzおよび約1020Hzの騒音をほぼ低減できることがわかった。したがって、設計周波数の調整により複数の騒音を低減できることが分かった。
【0215】
本発明は、上記の好ましい第1から第8の実施の形態に記載されているが、本発明はそれだけに制限されない。本発明の精神と範囲から逸脱することのない様々な実施形態が他になされることは理解されよう。さらに、本実施形態において、本発明の構成による作用および効果を述べているが、これら作用および効果は、一例であり、本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0216】
【図1】第1の実施の形態に係る騒音低減ブラケットを用いた駆動装置の一例を示す模式的断面図
【図2】第2の実施の形態に係る騒音低減ブラケットを用いた駆動装置の一例を示す模式的断面図
【図3】第3の実施の形態に係る騒音低減ブラケットを用いた駆動装置の一例を示す模式的断面図
【図4】第4の実施の形態に係る騒音低減ブラケットを用いた駆動装置の一例を示す模式的断面図
【図5】図4で示した騒音低減ブラケットの製造方法の一例を示す図
【図6】第5の実施の形態に係る騒音低減ブラケットを用いた駆動装置の一例を示す模式的断面図
【図7】第6の実施の形態に係る騒音低減ブラケットを用いた駆動装置の一例を示す模式的断面図
【図8】第7の実施の形態に係る騒音低減ブラケットを用いた駆動装置の一例を示す模式的断面図
【図9】第8の実施の形態に係る騒音低減ブラケットを用いた駆動装置の一例を示す模式的断面図
【図10】図9で示した騒音低減ブラケットの製造方法の一例を示す図
【図11】騒音低減ブラケットおよび騒音低減カバーを含む騒音低減部材の一例を示す模式図
【図12】比較例2の駆動装置を示す図
【図13】実施例1および比較例1におけるギアの噛合い騒音を測定した結果を示す図
【図14】実施例1、実施例2および比較例2における吸音率の測定結果を示す図
【符号の説明】
【0217】
10 モータ10
30,40 ギア
60,60a,60b,60c 騒音低減ブラケット
61 第1板部材
62 第2板部材
65 閉塞部材
71,72,73 複数の貫通孔
80 芯材
d 貫通孔の孔径
f 騒音周波数
f0 設計周波数
L1,〜,L5,L12,L13 並行部材間距離
t 板厚
β 貫通孔の開口率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータまたは前記モータからの回転力を伝達する一対のギアによる騒音を低減するために設けられた騒音低減部材であって、
前記騒音低減部材は、
前記モータおよび前記一対のギアのうち少なくともいずれか一方に対向するように配設されるとともに、複数の貫通孔が設けられた第1板部材と、
前記第1板部材に並行に配設されることにより前記第1板部材との間に空間を形成することができる第2板部材と、を含むことを特徴とする騒音低減部材。
【請求項2】
前記第1板部材は、
前記モータに対向して配設されたことを特徴とする請求項1記載の騒音低減部材。
【請求項3】
前記第1板部材は、
前記一対のギアに対向して配設されたことを特徴とする請求項1記載の騒音低減部材。
【請求項4】
前記第1板部材の貫通孔の開口率、前記第1板部材の前記貫通孔の孔径、前記第1板部材の板厚、前記第1板部材および前記第2板部材の並行部材間距離は、
前記貫通孔の開口率をβとし、前記貫通孔の孔径をdとし、前記第1板部材の板厚をtとし、前記第1板部材および前記第2板部材の並行部材間距離をLとし、音速cとした場合の、下記式(1)で決定される設計周波数f0が前記モータまたは前記一対のギアの騒音周波数fと一致または近似するように設計されたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の騒音低減部材。
【数1】

【請求項5】
前記第1板部材および前記第2板部材により形成される空間に前記第1板部材および前記第2板部材に略直交して設けられる1または複数の芯材をさらに含み、
前記1または複数の芯材は、前記モータおよび/または前記一対のギアの騒音周波数fの波長の1/2未満間隔で設けられたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の騒音低減部材。
【請求項6】
前記第1板部材および前記第2板部材が、前記モータと前記一対のギアとの間の空間領域に設けられたことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の騒音低減部材。
【請求項7】
前記第1板部材に並行に配設された第3板部材をさらに含み、
前記第3板部材は、複数の貫通孔が設けられたことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の騒音低減部材。
【請求項8】
前記第3板部材は、
前記第1板部材および前記第2板部材の間に形成された空間内に設けられ、当該空間を複数に分割することを特徴とする請求項7記載の騒音低減部材。
【請求項9】
前記第3板部材は、
前記第2板部材に対向して設けられた前記第1板部材とは異なる方向に設けられ、前記第1板部材および前記第2板部材により形成された空間と異なる空間を前記第2板部材および前記第3板部材により形成することを特徴とする請求項7記載の騒音低減部材。
【請求項10】
前記第3板部材は、
前記第1板部材に対向して配設された前記第2板部材とは異なる方向に設けられ、前記第1板部材および前記第2板部材により形成された空間と異なる空間を前記第1板部材および前記第3板部材により形成することを特徴とする請求項7記載の騒音低減部材。
【請求項11】
前記第3板部材は、
1または複数の板部材からなることを特徴とする請求項7から請求項10のいずれか1項に記載の騒音低減部材。
【請求項12】
前記モータおよび/または一対のギアの騒音周波数に一致または近似するように、
前記第1板部材、第2板部材、第3板部材により形成された複数の空間と、
前記第1板部材および第3板部材により形成された複数の貫通孔と、により複数の自由度共振系を有する共鳴器が等価的に形成されたことを特徴とする請求項7から請求項11のいずれか1項に記載の騒音低減部材。
【請求項13】
前記第1板部材、前記第2板部材および前記第3板部材により形成された複数の空間の少なくとも一部に前記第1板部材、前記第2板部材および前記第3板部材に略直交して設けられる1または複数の芯材をさらに含み、
前記1または複数の芯材は、前記モータおよび/または前記一対のギアの騒音周波数fの波長の1/2未満間隔で設けられたことを特徴とする請求項7から請求項12のいずれか1項に記載の騒音低減部材。
【請求項14】
閉塞部材をさらに含み、
前記閉塞部材は、前記複数の空間のうち少なくとも一の空間を密閉可能にすることができるように配設されたことを特徴とする請求項12または請求項13に記載の騒音低減部材。
【請求項15】
前記第1板部材、前記第2板部材および前記第3板部材は、前記モータと前記一対のギアとの間の空間領域に設けられたことを特徴とする請求項7から請求項14のいずれか1項に記載の騒音低減部材。
【請求項16】
前記閉塞部材は、
前記モータおよび/または前記一対のギアのうち少なくとも一方を支持するように設けられたブラケット機能を有することを特徴とする請求項14または請求項15に記載の騒音低減部材。
【請求項17】
前記閉塞部材は、
前記一対のギアおよび/または前記モータのうち少なくとも一方を包囲するように設けられたカバー機能を有することを特徴とする請求項14または請求項15に記載の騒音低減部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−199692(P2008−199692A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29139(P2007−29139)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】