説明

高出力レーザ加工ヘッド及び高出力レーザ加工方法

【課題】加工対象物から生ずるスパッタの蓄積をプローブビームを用いて監視する機能を有する高出力レーザ加工ヘッドにおいて、プローブビーム位置のずれの影響を抑え、かつ、低周波ノイズの影響を少なくして、精度及び感度の高い検出を可能とする。
【解決手段】100Hz乃至10000Hzの一定周波数で出力変調された加工用レーザ光3を加工対象物上に集光させる集光レンズ1と、集光レンズ1と加工対象物4との間の位置に配置された保護ガラス5と、保護ガラス5に向けてプローブビーム6を照射する光源8と、保護ガラス5を透過、または、反射したプローブビーム6の偏向方向を検出する位置センサ7と、位置センサ7からの出力信号より加工用レーザ光3の変調周波数を中心とする周波数成分を抽出する信号処理回路とを備え、抽出された信号の振幅を保護ガラス5に付着した吸収不純物の量として評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工対象物から生ずるスパッタの蓄積を監視する機能を有する高出力レーザ加工ヘッド及び高出力レーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属板等をレーザビームにより加工するためのレーザ加工ヘッドが提案されている。このレーザ加工ヘッドは、図11に示すように、集光レンズ101を有し、この集光レンズ101によりレーザビーム102を収束させて加工用レーザ103とし、この加工用レーザ103を加工対象物104上に集光させるように構成されている。
【0003】
このようなレーザ加工ヘッドを用いて金属板などの加工対象物104を加工する場合においては、加工対象物104からは、スパッタが発生する。そのため、このレーザ加工ヘッドにおいては、集光レンズ101と加工対象物104との間となる位置に、保護ガラス105が設けられている。この保護ガラス105は、透明材料からなり、加工対象物104から生ずるスパッタから集光レンズ101を保護する。
【0004】
加工対象物104から生ずるスパッタは、保護ガラス105の表面に付着し、蓄積する。蓄積したスパッタは、加工用レーザ103を吸収し、また、散乱させる。加工用レーザ103が吸収され、散乱されると、熱レンズ現象により加工焦点がずれてしまい、レーザ加工の品質が低下する。また、スパッタの蓄積は、保護ガラス105に機能的障害が生じてしまうこともある。したがって、レーザ加工ヘッドにおいては、スパッタに曝される保護ガラス105の表面を監視する必要がある。
【0005】
スパッタの蓄積を監視する方法として、特許文献1及び特許文献2には、蓄積したスパッタによる光の散乱を検出することが記載されている。この監視方法は、保護ガラス105を透過した加工用レーザ103の散乱状態を光学素子により検出するものである。しかし、この監視方法においては、加工対象物104による散乱光や保護ガラス105における反射光により、正確な検出ができない虞がある。
【0006】
加工対象物104による散乱光や保護ガラス105における反射光に影響を受けない監視方法としては、蓄積したスパッタが加工用レーザ103を吸収することにより生ずる熱を監視する方法が提案されている。この監視方法は、熱の影響、主に熱レンズ現象の発生を監視するうえでも有効である。
【0007】
スパッタの蓄積による保護ガラス105の発熱を検出する方法としては、保護ガラス105の周縁部の近くに、例えば熱電対などの温度センサを配置し、この温度センサにより検出することが考えられる。しかし、この検出方法においては、発熱源と測定点とが離れてしまうため、正確な測定を行うことは困難である。
【0008】
また、保護ガラス105の発熱を検出する方法としては、保護ガラス105から熱放射を検出する方法が考えられる。この検出方法においては、非接触での測定が可能であるが、常温に近い温度を測定する場合には、周囲からのノイズや放射率の誤差による影響を受け易いため、高精度の検出は困難であり、また、検出感度も低い。
【0009】
さらに、保護ガラス105の発熱を検出する方法としては、保護ガラス105の温度勾配による光の吸収率及び屈折率の変化を検出する方法が考えられる。すなわち、保護ガラス105にプローブビームを透過させ、このプローブビームの偏向方向を測定することにより、保護ガラス105の温度勾配を検出する方法である。この検出方法においては、非接触での測定が可能であり、前述した検出方法に比較して、高精度の検出が可能であり、また、検出感度も高い。
【0010】
すなわち、図11に示すように、保護ガラス105にプローブビーム106を照射し、このプローブビーム106を保護ガラス105内に入射させ、保護ガラス105において内面反射させる。そして、この反射光を、位置センサ107に入射させる。位置センサ107は、複数に分割された受光領域を有する受光素子であり、各受光領域における受光量を比較することによって、プローブビーム106の入射位置が検出できるようになっている。プローブビーム106の位置センサ107における入射位置を検出することにより、保護ガラス105における吸収及び屈折による偏向角度を検出することができ、この偏向角度の変化により、保護ガラス105の温度勾配の変化を測定することができる。
【0011】
このように、保護ガラス105を透過したプローブビーム106の偏向角度を検出することにより、保護ガラス105の温度勾配の変化を測定する場合には、光学ノイズ及び電子ノイズにより、測定精度及び測定感度が影響を受ける虞がある。
【0012】
そこで、光学ノイズ及び電子ノイズの影響を回避するためには、プローブビーム106の出力を一定周期で変調することが考えられる。プローブビーム106の出力を変調することにより、信号対ノイズ比(SNR)を改善することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−361451号公報
【特許文献2】特開2002−361452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、前述のように、保護ガラス105を透過したプローブビーム106の偏向角度を検出することにより、保護ガラス105の温度勾配の変化を測定する場合には、プローブビーム106の位置センサ107における入射位置は、保護ガラス105の温度勾配の変化以外の要因で移動する虞がある。
【0015】
すなわち、図12中の(A)に示すように、保護ガラス105における光の吸収率は、経時変化により、徐々に増加してゆく。そして、プローブビーム106の位置センサ107における入射位置は、図12中の(B)に示すように、加工用レーザ103がない場合でも、光の吸収率の値以外の種々の要因で変化する。例えば、初期のプローブビーム106の調整のばらつきや、アシストガスの流量変化、または、機械的な取付け部の緩みなど、それぞれの影響により、プローブビーム106の入射位置の変化が生じる。
【0016】
したがって、プローブビーム106の位置センサ107における入射位置は、図12中の(C)に示すように、これらの要因が全て重なった結果であり、誤差が加算され、信頼性の低下をきたす。したがって、スパッタの付着や不純物による加熱以外の現象の影響を受けない方法が必要である。
【0017】
さらに、プローブビーム106の位置センサ107における入射位置の変化の確度は、低周波ノイズに影響される。すなわち、図13中の(A)に示すように、スパッタの付着が生じて保護ガラス105の吸収率に変化が生じたとき、位置センサ107の出力信号においては、図13中の(B)に示すように、保護ガラス105の吸収率の変化に対応した変化と低周波ノイズとが重なった変化が生ずる。光の吸収率の変化を正確に測定するためには、低周波ノイズの影響を抑える必要があるので、変化の前後の平均値を求めて比較する。しかし、低周波ノイズの場合には、平均値を求めるための積分可能な範囲が狭く限定されるので、精度が劣化してしまう。
【0018】
また、前述した従来の測定方法においては、光の吸収率及び屈折率の絶対値よりも、光の吸収率及び屈折率の変化を測定していることになるので、大きな変化が生じないと測定することができない。したがって、レーザ加工のときにスパッタに曝される保護ガラス105の光の吸収率及び屈折率が徐々に増大することを監視するためには、より高い精度及び感度を示す測定技術が求められる。
【0019】
そして、加工品質が悪くなる前に保護ガラス105を交換するためには、オンラインで保護ガラス105の状態を監視でき、かつ、リアルタイムで判断できることが必要である。
【0020】
そこで、本発明は、前述の課題を解決するために提案されるものであって、加工対象物から生ずるスパッタの蓄積をプローブビームを用いて監視する機能を有する高出力レーザ加工ヘッドにおいて、プローブビームの位置のずれの影響が抑えられ、かつ、低周波ノイズの影響が少なくなされ、精度及び感度の高い検出が可能な高出力レーザ加工ヘッド及び高出力レーザ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に係る高出力レーザ加工ヘッドは、以下の構成のいずれか一を有するものである。
【0022】
〔構成1〕
100Hz乃至10000Hzの一定周波数で出力変調された加工用レーザ光を加工対象物上に集光させる集光レンズと、集光レンズと加工対象物との間の位置に配置された保護ガラスと、保護ガラスに向けてプローブビームを照射する光源と、保護ガラスを透過し、または、反射されたプローブビームの偏向方向を検出する位置センサと、位置センサからの出力信号より加工用レーザ光の変調周波数を中心とする周波数成分を抽出する信号処理回路とを備え、信号処理回路が抽出した信号の振幅を保護ガラスに付着した吸収不純物の量として評価することを特徴とするものである。
【0023】
〔構成2〕
100Hz乃至10000Hzの一定周波数で出力変調された加工用レーザ光を加工対象物上に集光させる集光レンズと、集光レンズと加工対象物との間の位置に配置された保護ガラスと、保護ガラスの表面近傍に表面に平行にプローブビームを照射する光源と、プローブビームの偏向方向を検出する位置センサと、位置センサからの出力信号より、加工用レーザ光の変調周波数を中心とする周波数成分を抽出する信号処理回路とを備え、信号処理回路が抽出した信号の振幅を、保護ガラスに付着した吸収不純物の量として評価することを特徴とするものである。
【0024】
また、本発明に係る高出力レーザ加工方法は、以下の構成のいずれか一を有するものである。
【0025】
〔構成3〕
100Hz乃至10000Hzの一定周波数で出力変調された加工用レーザ光を加工対象物上に集光させ、集光レンズと加工対象物との間の位置に保護ガラスを配置し、保護ガラスに向けてプローブビームを照射し、保護ガラスを透過し、または、反射されたプローブビームの偏向方向を検出し、プローブビームの偏向方向の検出結果より、加工用レーザ光の変調周波数を中心とする周波数成分を抽出し、抽出した信号の振幅を、保護ガラスに付着した吸収不純物の量として評価することを特徴とするものである。
【0026】
〔構成4〕
100Hz乃至10000Hzの一定周波数で出力変調された加工用レーザ光を加工対象物上に集光させ、集光レンズと加工対象物との間の位置に保護ガラスを配置し、保護ガラスの表面近傍に表面に平行にプローブビームを照射し、プローブビームの偏向方向を検出し、プローブビームの偏向方向の検出結果より、加工用レーザ光の変調周波数を中心とする周波数成分を抽出し、抽出した信号の振幅を、保護ガラスに付着した吸収不純物の量として評価することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る高出力レーザ加工ヘッド及び高出力レーザ加工方法においては、保護ガラスを透過し、または、反射され、あるいは、保護ガラスの表面近傍に表面に平行に照射されたプローブビームの偏向方向を検出する位置センサからの出力信号より抽出された加工用レーザ光の変調周波数を中心とする周波数成分の振幅を、保護ガラスに付着した吸収不純物の量として評価するので、プローブビーム位置のずれの影響を受けずに、吸収不純物の量を検出することができる。
【0028】
また、この高出力レーザ加工ヘッド及び高出力レーザ加工方法においては、低周波ノイズの影響を受けずに、吸収不純物の量を、高精度及び高感度に検出することができる。
【0029】
すなわち、本発明は、加工対象物から生ずるスパッタの蓄積をプローブビームを用いて監視する機能を有する高出力レーザ加工ヘッド及び高出力レーザ加工方法において、プローブビームの位置のずれの影響が抑えられ、かつ、低周波ノイズの影響が少なくされ、精度及び感度の高い検出が可能な高出力レーザ加工ヘッド及び高出力レーザ加工方法を提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る高出力レーザ加工ヘッドの第1の実施形態における構成を示す側面図である。
【図2】本発明に係る高出力レーザ加工ヘッドの第1の実施形態における構成を示す側面図及びプローブビームの入射位置を示すグラフである。
【図3】本発明に係る高出力レーザ加工ヘッドの第1の実施形態におけるプローブビームの入射位置の検出方法を示すグラフである。
【図4】本発明に係る高出力レーザ加工ヘッドの第1の実施形態における保護ガラスへのプローブビームの入射状態を示す側面図及び平面図である。
【図5】本発明に係る高出力レーザ加工ヘッドの第1の実施形態におけるスパッタが付着した保護ガラスへのプローブビームの入射状態を示す側面図及び平面図である。
【図6】プローブビームの位置センサへの入射位置の変動を検出するためのロックイン増幅器の構成を示すブロック図である。
【図7】本発明に係る高出力レーザ加工ヘッドの第1の実施形態において、保護ガラスへの不純物の付着がない場合に、測定されたプローブビームの偏向の振幅を示すグラフである。
【図8】本発明に係る高出力レーザ加工ヘッドの第1の実施形態において、保護ガラスへの不純物の付着がある場合に、測定されたプローブビームの偏向の振幅を示すグラフである。
【図9】本発明に係る高出力レーザ加工ヘッドの第2の実施形態における構成を示す側面図である。
【図10】本発明に係る高出力レーザ加工ヘッドの第3の実施形態における構成を示す側面図である。
【図11】従来のレーザ加工ヘッドの構成を示す側面図である。
【図12】従来のレーザ加工ヘッドにおけるプローブビームの入射位置を示すグラフである。
【図13】従来のレーザ加工ヘッドにおけるプローブビームの入射位置の検出方法を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0032】
図1は、本発明に係る高出力レーザ加工ヘッドの第1の実施形態における構成を示す側面図である。
【0033】
本発明に係る高出力レーザ加工ヘッドは、図1に示すように、集光レンズ1を有し、この集光レンズ1によりレーザビーム2を収束させて加工用レーザ3とし、この加工用レーザ3を加工対象物4上に集光させるように構成されている。
【0034】
このようなレーザ加工ヘッドを用いて金属板などの加工対象物4を加工する場合においては、加工対象物4からは、スパッタが発生する。そのため、このレーザ加工ヘッドにおいては、集光レンズ1と加工対象物4との間となる位置に、保護ガラス5が設けられている。この保護ガラス5は、透明材料からなり、加工対象物4から生ずるスパッタから集光レンズ1を保護する。
【0035】
加工対象物4から生ずるスパッタは、保護ガラス5の表面に付着し、蓄積する。蓄積したスパッタは、加工用レーザ3を吸収し、また、散乱させる。加工用レーザ3が吸収され、散乱されると、熱レンズ現象により加工焦点がずれてしまい、レーザ加工の品質が低下する。また、スパッタの蓄積は、保護ガラス5に機能的障害が生じてしまうこともある。したがって、レーザ加工ヘッドにおいては、スパッタに曝される保護ガラス5の表面を監視する必要がある。
【0036】
このレーザ加工ヘッドにおいては、保護ガラス5へのスパッタの付着、蓄積を、保護ガラス5の発熱を測定することによって検出する。保護ガラス5の発熱の測定は、保護ガラス5の温度勾配による光の吸収率及び屈折率の変化を検出することによって行う。すなわち、保護ガラス5にプローブビーム6を透過させ、このプローブビーム6の偏向方向を測定することにより、保護ガラス5の温度勾配を検出する。
【0037】
すなわち、光源8から発したプローブビーム6を保護ガラス5に照射し、このプローブビーム6を保護ガラス5内に入射させ、保護ガラス5において内面反射させる。そして、この反射光を、位置センサ7に入射させる。位置センサ7は、複数に分割された受光領域(例えば、4象限)を有する受光素子であり、各受光領域における受光量を比較することによって、プローブビーム6の入射位置が検出できるようになっている。プローブビーム6の位置センサ7における入射位置を検出することにより、保護ガラス5における吸収及び屈折による偏向角度を検出することができ、この偏向角度の変化により、保護ガラス5の温度勾配の変化を測定することができる。プローブビーム6は、連続波であり、コリメート光(平行光)である。光源8としては、半導体レーザ、あるいは、HeNeレーザなどを使用することができる。
【0038】
本発明は、プローブビーム6の位置センサ7における入射位置がレーザ光の吸収以外の要因で移動してしまうこと、及び、低周波ノイズの影響により測定精度が低下することを回避することを目的として提案されたものである。そのため、このレーザ加工ヘッドにおいては、加工用レーザ3の出力を所定の周波数f(100Hz〜10000Hz程度)で変調させている。
【0039】
図2は、本発明に係る高出力レーザ加工ヘッドの第1の実施形態における構成を示す側面図及びプローブビームの入射位置を示すグラフである。
【0040】
保護ガラス5表面の不純物は、加工用レーザ3からの出力の一部を吸収し、保護ガラス5の内部の屈折率の変調を引き起こす熱波を発生する。これにより、プローブビーム6も周波数fで周期的偏向が生じる。この偏向は、位置センサ7により監視される。
【0041】
プローブビーム6の位置センサ7における入射位置は、図2中の(B)に示すように、レーザ光の吸収以外の要因によっても移動する。時刻A、B、Cにおける入射位置の変動に応じて、位置センサ7からの出力信号も変動する。しかし、このレーザ加工ヘッドにおいては、加工用レーザ3の出力が周波数fで変調されているため、プローブビーム6の位置センサ7における入射位置も、保護ガラス5の内部の温度勾配の結果として、周波数fで振動する。この周波数fでの振動は、レーザ光の吸収以外の要因による入射位置の移動には影響されない。また、図2中の(C)に示すように、位置センサ7に線形性があるため、レーザ光の吸収以外の要因により入射位置が移動しても、位置センサ7の出力信号が吸収された出力だけに比例する。
【0042】
図3は、本発明に係る高出力レーザ加工ヘッドの第1の実施形態におけるプローブビームの入射位置の検出方法を示すグラフである。
【0043】
このレーザ加工ヘッドにおいて、図3中の(A)に示すように、保護ガラス5にスパッタが付着し、光の吸収率に変化が生じた場合には、図3中の(B)に示すように、位置センサ7からの出力信号には、変動深さ(変動幅)の変化も起こる。このレーザ加工ヘッドにおいては、従来のレーザ加工ヘッドと違い、吸収の信号はリアルタイムで取れる。なお、ノイズは変調周波数fでのノイズレベルで決まる。図3中の(C)に示すように、典型的なノイズスペクトラムにおいては、周波数fでは、低い周波数に比べてノイズが少ない。つまり、電流、電圧スペクトラムが高周波数領域ではノイズレベルが低い。なお、図3中の(C)は、両軸とも対数目盛で示している。
【0044】
図4は、本発明に係る高出力レーザ加工ヘッドの第1の実施形態における保護ガラスへのプローブビームの入射状態を示す側面図及び平面図である。
【0045】
このレーザ加工ヘッドにおいて、保護ガラス5におけるプローブビームの入射位置は、図4中の(a)(b)に示すように、加工用レーザ3の保護ガラス5への入射位置の中心から、加工用レーザ3のビーム半径aの半分だけ離れた位置とすることが好ましい。
【0046】
何故ならば、保護ガラス5の光の吸収率の分布が空間的に均一である場合には、また、加工用レーザ3の変調周波数が高い場合には、保護ガラス5の温度特性は、加工用レーザ3の強度特性と同じになる。ガウシャン特性を想定すると、保護ガラス5の温度勾配は、加工用レーザ3の中心からビーム半径aの半分だけ離れた位置において最大値をとる。したがって、この位置にプローブビーム6を入射させたときに、最も高い感度が得られる。この場合、プローブビーム6の偏向は、図4中のX−Z平面内で起こる。
【0047】
図5は、本発明に係る高出力レーザ加工ヘッドの第1の実施形態におけるスパッタが付着した保護ガラスへのプローブビームの入射状態を示す側面図及び平面図である。
【0048】
そして、保護ガラス5の温度上昇が、保護ガラス5に付着したスパッタの影響によって起こる場合には、つまり、光の吸収率の分布が均一でない場合は、保護ガラス5の温度特性は、図5中の(a)(b)に示すように、ランダムなものとなる。この場合、プローブビーム6の偏向は、図5中のX−Z平面内のみならず、X−Yの平面内でも起こる。
【0049】
図6は、プローブビームの位置センサへの入射位置の変動を検出するためのロックイン増幅器の構成を示すブロック図である。
【0050】
このレーザ加工ヘッドにおいて、プローブビーム6の偏向(位置センサ7への入射位置の変動)を検出するには、位置センサ7からの光検出器信号から、周波数fを中心とする周波数成分を、図6に示すように、ロックイン増幅器を使用して抽出する。ロックイン増幅器を使用すると、プローブビーム6の偏向の振幅を抽出することができる。信号の振幅は、保護ガラス5の表面上に生じる吸収の量に比例する。
【0051】
すなわち、位置センサ7として4象限(4セル)検出器を用いて、4つのセル(受光領域)C,C,C,Cがそれぞれ、電圧V、V、V及びVを出力するものとすると、これらは、各セルに入射するプローブビーム6の光量に比例している。4象眼光検出器の位置は、最初に、各セルC,C,C,Cが等しい信号を出力するように、つまり、V=V=V=Vとなるように調節する。偏向信号は、2つの隣接するセル対の間の信号差、つまり、
〔V=V+V〕−〔V=V+V〕(添字Uは上部象限、Dは下部象限を示す)
または、
〔V=V+V〕−〔V=V+V〕(添字Lは左部象限、Rは右部象限を示す)
から得られ、これにより、2つの直交する方向の偏向を測定することができる。これらは、加算器9,10及びOPアンプ11によって得られ、ロックイン増幅器12に送られる。ロックイン増幅器12においては、周波数fで変調された信号の成分が抽出される。
【0052】
ロックイン増幅器12に入力される基準信号は、トランジスタ−トランジスタ論理回路(transistor-transistor-logic:TTL)信号、例えば、0Vか5Vであり、加工用レーザ3の変調を駆動するためにも使用される。ロックイン増幅器12の出力の信号は、基準信号により同位相及び直角位相(90°の位相ずれ)の両方で測定され、保護ガラス5内部に発生する熱に比例した、プローブビーム6の偏向信号のモジュラスを抽出する。
【0053】
なお、ロックイン増幅器の機能は、以下の部材を使用して実現することができる。すなわち、位置センサ7からの出力信号を電子増幅器により増幅し、アナログ−デジタル・コンパータにより、デジタル信号とする。そして、このデジタル信号について、信号処理装置により、所定の計算アルゴリズムを実行する。この計算アルゴリズムは、以下のものである。
【0054】
(1)基準信号(0V〜5VのTTL周期信号)の平均値2.5Vを、TTL信号から差し引く〔(−2.5V−2.5V):R(t)〕。
【0055】
(2)位置センサ7の増幅出力S(t)を、1秒程度の持続時間で2値化する。
【0056】
(3)次の式のように、積S(t)×R(t)を計算し、1秒程度の時間Tにわたって積分する。
=(1/T)∫t=0S(t)×R(t)dt
【0057】
(4)さらに、R(t)の基準信号を90°の位相をずらして、R(t)、積S(t)×R(t)を計算し、1秒程度の時間Tにわたって積分する。
=(1/T)∫t=0S(t)×R(t)dt
【0058】
(5)モジユラスIは、I=√(I+I)で計算する。
【0059】
(6)測定結果は、全信号により次のように正規化することができる。
〈S〉=(1/T)∫t=0S(t)dt
【0060】
このレーザ加工ヘッドにおけるプローブビーム6の偏向の測定感度は、以下の理由から、従来のレーザ加工ヘッドと比較して大幅に高めらている。すなわち、測定は、2つの隣接する検出器セルの間の信号差に基づくので、光熱信号が存在しない場合には、この信号差はゼロである。そのため、電子的に増幅されて得られる信号のノイズは、最小になる。また、変調周波数、例えばf=1kHzにおける電子及び光学的ノイズは、図3中の(C)に示すように、低周波数の場合よりもかなり低い。さらに、プローブビーム6の検出出力、または、ビーム方向の変動は、位置センサ7に入射する全光量の出力を測定することにより追跡するので、較正を必要としない。
【0061】
そして、金属のスパッタが保護ガラス5表面上に蓄積すると、保護ガラス5の発熱量が増えて、信号の振幅が大きくなる。信号の振幅がある所定の闘値を超えた場合には、保護ガラス5を交換しなければならないことを指示するため、アラーム(警報)信号をオペレータに送るなどの処理を行う。
【0062】
図7は、本発明に係る高出力レーザ加工ヘッドの第1の実施形態において、保護ガラスへの不純物の付着がない場合に、測定されたプローブビームの偏向の振幅を示すグラフである。
【0063】
図8は、本発明に係る高出力レーザ加工ヘッドの第1の実施形態において、保護ガラスへの不純物の付着がある場合に、測定されたプローブビームの偏向の振幅を示すグラフである。
【0064】
このレーザ加工ヘッドにおいて得られた測定値は、保護ガラス5を経たプローブビーム6の偏向量に比例しており、結果として、保護ガラス5ヘの不純物の付着による熱吸収の影響が入射光量の変化、すなわち、偏向として確認される。
【0065】
なお、この場合には、スパッタの付着による発熱が生じていない場合の、プローブビーム6を受光した信号の変調の振幅は、図7に示すように、ゼロではないベースライン(基準)信号となる。なお、図7においては、加工用レーザ3が0.5kw、1.0kw、1.5kw、2.0kwの場合のベースライン信号を示しており、これら各信号は重なって表示されている。そして、保護ガラス5にスパッタが付着し、吸収誘起加熱が生ずると、ベースライン信号は、図8に示すように、変化を生ずる。このようなベースライン信号のレベルの変化量を測定することにより、スパッタの付着による発熱を正確に知ることができる。図8においては、加工用レーザ3が0.5kw、1.0kw、1.5kw、2.0kwの場合のベースライン信号の変化を示している。
【0066】
前述のように、本発明に係る高出力レーザ加工ヘッドにおいては、高い信号対ノイズ比(SNR)により保護ガラス5における吸収を検出することができるので、短時間に大きな変化が生じるときだけでなく、定常状態操作時を含むレーザ加工が実行されるときにはいつでも、保護ガラス5へのスパッタの付着を監視することが可能になる。
【0067】
本発明は、レーザ出力変調が、100Hz〜10000Hzまでの周波数範囲の加工用レーザに適用される。材料加工条件がCW(連続)レーザ用に最適化されている場合には、レーザ出力の変動深さは、材料加工の切断品質に影響を与えないようにする必要がある。
【0068】
〔第2の実施の形態〕
本発明に係る高出力レーザ加工ヘッドは、前述の実施の形態のように、プローブビーム6を保護ガラス5で内面反射させる構成に限定されず、図9に示すように、プローブビーム6を保護ガラス5を透過させて、位置センサ7によって受光するように構成してもよい。
【0069】
この場合にも、位置センサ7からの出力信号を前述の実施の形態と同様に処理することにより、保護ガラス5へのスパッタの付着を監視することができる。
【0070】
〔第3の実施の形態〕
本発明に係る高出力レーザ加工ヘッドは、前述の各実施の形態における構成に限定されず、図10に示すように、プローブビーム6を保護ガラス5の表面近傍に表面に平行に通過させて位置センサ7によって受光するようにして、保護ガラス5の近傍の空中の温度勾配を調べるように構成してもよい。
【0071】
この場合にも、位置センサ7からの出力信号を前述の実施の形態と同様に処理することにより、保護ガラス5へのスパッタの付着を監視することができる。しかしながら、プローブビーム6が保護ガラスを透過または反射するわけではないので、監視は間接的にならざるを得ない。また、保護ガラスの温度勾配が、空間を経てプローブビーム6に影響を及ぼすとしても、アシストガス等の外乱で、監視の結果は相殺される危険性がある。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、光学素子の監視装置を有する高出力レーザ加工ヘッドに適用される。
【符号の説明】
【0073】
1 集光レンズ
2 レーザビーム
3 加工用レーザ
4 加工対象物
5 保護ガラス
6 プローブビーム
7 位置センサ
8 光源
12 ロックイン増幅器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100Hz乃至10000Hzの一定周波数で出力変調された加工用レーザ光を加工対象物上に集光させる集光レンズと、
上記集光レンズと上記加工対象物との間の位置に配置された保護ガラスと、
前記保護ガラスに向けてプローブビームを照射する光源と、
上記保護ガラスを透過し、または、反射された上記プローブビームの偏向方向を検出する位置センサと、
上記位置センサからの出力信号より、上記加工用レーザ光の変調周波数を中心とする周波数成分を抽出する信号処理回路と
を備え、
上記信号処理回路が抽出した信号の振幅を、保護ガラスに付着した吸収不純物の量として評価する
ことを特徴とする高出力レーザ加工ヘッド。
【請求項2】
100Hz乃至10000Hzの一定周波数で出力変調された加工用レーザ光を加工対象物上に集光させる集光レンズと、
上記集光レンズと上記加工対象物との間の位置に配置された保護ガラスと、
前記保護ガラスの表面近傍に表面に平行にプローブビームを照射する光源と、
上記プローブビームの偏向方向を検出する位置センサと、
上記位置センサからの出力信号より、上記加工用レーザ光の変調周波数を中心とする周波数成分を抽出する信号処理回路と
を備え、
上記信号処理回路が抽出した信号の振幅を、保護ガラスに付着した吸収不純物の量として評価する
ことを特徴とする高出力レーザ加工ヘッド。
【請求項3】
100Hz乃至10000Hzの一定周波数で出力変調された加工用レーザ光を加工対象物上に集光させ、
上記集光レンズと上記加工対象物との間の位置に保護ガラスを配置し、
前記保護ガラスに向けてプローブビームを照射し、
上記保護ガラスを透過し、または、反射された上記プローブビームの偏向方向を検出し、
上記プローブビームの偏向方向の検出結果より、上記加工用レーザ光の変調周波数を中心とする周波数成分を抽出し、抽出した信号の振幅を、保護ガラスに付着した吸収不純物の量として評価する
ことを特徴とする高出力レーザ加工方法。
【請求項4】
100Hz乃至10000Hzの一定周波数で出力変調された加工用レーザ光を加工対象物上に集光させ、
上記集光レンズと上記加工対象物との間の位置に保護ガラスを配置し、
前記保護ガラスの表面近傍に表面に平行にプローブビームを照射し、
上記プローブビームの偏向方向を検出し、
上記プローブビームの偏向方向の検出結果より、上記加工用レーザ光の変調周波数を中心とする周波数成分を抽出し、抽出した信号の振幅を、保護ガラスに付着した吸収不純物の量として評価する
ことを特徴とする高出力レーザ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−240389(P2011−240389A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116138(P2010−116138)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(390014672)株式会社アマダ (548)
【Fターム(参考)】