説明

高周波用伝送線路およびその製造方法

【課題】 比抵抗の低い半導体基板の上であっても、その上に形成した高周波用伝送線路の伝送損失を抑制できるようにする。
【解決手段】 信号線103およびグランド線104と半導体基板101との間に介在する絶縁膜102と、信号線103の両側の半導体基板101に形成された溝105とを備え、信号線103およびグランド線105は、半導体基板101に接している辺より半導体基板101に垂直な隣辺の方が長い長方形状の断面を有する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、半導体基板上に形成された高周波信号を伝搬する高周波用伝送線路およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、未使用周波数帯であるミリ波周波数帯の応用が提唱されている。特に、アンテナやセンサへの展開が注目を集めている。平面形導波路であるコプレーナ線路は、広帯域性や回路素子のマウントの容易さ、さらに寄生素子の影響が少ないことなどの利点を有している。このため、ミリ波周波数帯を利用する半導体デバイスの進歩やマイクロ波回路の集積化の要求に伴い、各種のコプレーナ伝送線路が提案されている。その一つとして、文献1(K.J.Herrick,T.A.Schwarz and L.P.B.Katehi,'Si-Micromachined Copanar Waveguides for Use in High-Freqency Circuits',IEEE Trans.On Microwave Theory and Techniques,Vol.46,No.6,June ,pp762-768(1998))がある。
【0003】この文献1の技術では、図7に示すように、高い比抵抗のシリコン基板701上にコプレーナ伝送線路を形成している。まず、図7(a)に示すように、シリコン基板701上に、金属材料からなる信号線703とグランド線704とを、膜厚1〜2μm程度に形成する。この信号線703とグランド線704とでコプレーナ伝送線路となる。次に、図7(b)に示すように、その信号線703およびグランド線704をマスクとしてシリコン基板701を選択的にエッチングし、溝705を形成する。もしくは、図7(c)に示すように、信号線703およびグランド線704をマスクとしてシリコン基板701を選択的にエッチングし、溝706を形成する。
【0004】コプレーナ伝送線路では、シリコン基板701の存在により、信号線703を伝搬していく高周波信号に伝送損失が発生する。このため、上述したように溝705,706を形成することで、信号線703の周りをシリコン基板701より誘電率の低い空気の層とするようにしている。しかしながら、この文献1の技術では、その溝705,706の大きさが配線の寸法により決定されてしまい、配線の寸法と溝705,706の大きさとを個別に設計できないため、伝送損失を最小にする最適化には限界がある。また、その溝705,706の形状と大きさとが、伝送線路における高周波信号やその伝送特定に影響を与えるが、溝705,706の形状と大きさとを均一にすることがプロセス上困難なため、再現性などに問題がある。
【0005】一方、文献2(M.Hirano, Y.Imai, I.Toyoda, K.Nishikawa, M.Tokumitsu andK.Asai,'Three Dimensional Passive Elements for Compact GaAs MMICs',IEICE Trans. Electron.,Vol.E76-C,No.6 June pp961-967(1993))に記載されているように、信号線とグランド線とをそれぞれ板状に形成する技術がある。これは、図8に示すように、高い比抵抗のGaAsからなる基板801上に、その基板801主面に直交して板状の信号線803およびグランド線804を立たせて配置したものである。また、信号線803およびグランド線804は、基板801主面に垂直な方向に平行な状態で延在している。このようにすることで、信号線803の周囲のほとんどを空気の層とし、伝送損失がより低くなるようにしている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述した従来の技術では、同一基板に高周波用伝送線路を他の素子とともにモノリシックに形成することが困難であるという問題があった。まず、文献1の技術では、溝705,706の形成の再現性に難があるため、アンテナ素子などの他の素子を同時に搭載した場合、伝送線路の良否が装置全体の歩留りに大きく影響してしまう。従って、より高い歩留りで高周波装置を製造しようとすれば、上述したコプレーナ伝送線路と他の素子とを個別に作成することになる。しかし、このように個別に形成していたのでは、小型化や高性能化の要求を満たすことが非常に困難である。
【0007】また、一般に能動素子などは、比抵抗の低い半導体基板上に形成されるため、上述した文献1と文献2の技術のように、基板に比抵抗の高い材料を用いるようにしていると、その基板上に同時に他の素子を形成することが非常に困難であった。この発明は、以上のような問題点を解決するためになされたものであり、比抵抗の低い半導体基板の上であっても、その上に形成した高周波用伝送線路の伝送損失を抑制できるようにすることを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】この発明の高周波用伝送線路は、半導体基板上に形成された金属材料からなる信号線と、半導体基板上に信号線と平行に形成された金属材料からなるグランド線と、信号線およびグランド線と半導体基板との間にそれぞれ介在する絶縁膜と、信号線の両側に隣接して半導体基板に形成された溝とから構成され、信号線およびグランド線は、半導体基板に接している辺より半導体基板に垂直な隣辺の方が長い長方形状の断面を有することを特徴とする。信号線およびグランド線を板状に立てた構造にすることにより、電界の集中が信号線の側壁に集中するようになる。その信号線などの構造に加えて、溝を備えることにより、信号線の周囲にはより多くの空間が存在するようになり、信号線の周囲にある半導体基板の領域が相対的に少ない状態となる。また、絶縁膜を介在させることにより、信号線を伝搬する信号が半導体基板を介してグランド線へ漏洩することを抑制できる。また、グランド線は、信号線両側に溝を挾んで2つ形成されるようにしてもよい。また、半導体基板上に、高周波素子を混載し、その高周波素子を信号線と接続するようにしてもよい。
【0009】また、この発明の高周波用伝送線路の製造方法は、所定の間隔をあけて互いに平行に延在するストライプ状の2つの開口部を備えた酸化膜を半導体基板上に形成し、この酸化膜をマスクとして半導体基板をエッチングすることで、半導体基板上に所定の間隔をあけて互いに平行に延在する2つの溝を形成する第1の工程と、酸化膜を除去した後で2つの溝を犠牲膜で充填して半導体基板表面を実質的に平坦な状態とする第2の工程と、半導体基板表面に絶縁膜を形成する第3の工程と、絶縁膜上に第1の金属薄膜を形成する第4の工程と、第1の金属薄膜上の2つの溝に挾まれた領域および溝の外側に隣接する所定の幅の領域に、溝に沿って平行に延在するストライプ状の第1および第2の開口部を備えた第1のレジストパターンを形成し、第1のレジストパターンの第1および第2の開口部底部に露出した第1の金属薄膜上にメッキにより第1の金属膜を形成して第1および第2の開口部を充填し、溝に挾まれた領域に配置される信号線およびその隣に配置されるグランド線を形成する第5の工程と、第1のレジストパターンを除去した後で第1の金属薄膜の露出している領域を除去する第6の工程と、信号線およびグランド線104をマスクとして絶縁膜の露出している領域を除去する第7の工程と、第7の工程の後で犠牲膜を除去する工程とを少なくとも備え、第5の工程では、第1および第2の開口部底部の幅よりそれぞれ第1および第2の開口部を深く形成することを特徴とする。これにより、信号線両側の半導体基板に溝を備えるようにし、信号線およびグランド線と半導体基板との間に絶縁膜を介在させ、さらに信号線およびグランド線の断面を半導体基板主面に垂直な方向に縦長な形状とすることができる。
【0010】また、第5の工程で、第1のレジストパターンに第3の開口部を同時に形成し、その第3の開口部底部に露出する第1の金属薄膜上に第1の金属膜を同時に形成して信号線およびグランド線とともに高周波素子を形成し、さらに、信号線とグランド線と高周波素子とを覆って表面が実質的に平坦な状態に犠牲層を形成する第8の工程と、信号線および高周波素子上の犠牲層の所定領域にそれぞれ接続口を形成する第9の工程と、接続口内を含む犠牲層上に第2の金属薄膜を形成し、接続口それぞれの間にわたる開口領域を備えた第2のレジストパターンを形成し、開口領域底部に露出した第2の金属薄膜上に選択的にメッキにより第2の金属膜を形成して信号線と高周波素子とを接続する接続部を形成する第10の工程と、第2のレジストパターンを除去した後で第2の金属薄膜の露出している領域を除去する第11の工程とを備え、第11の工程の後で犠牲層とともに犠牲膜を除去するようにしてもよい。
【0011】犠牲膜については、2つの溝が形成された半導体基板上に感光性を有する樹脂膜を形成し、その樹脂膜に選択的に露光光を照射して現像することで溝上部に樹脂膜が残るようにパターニングし、その残った樹脂膜の半導体基板平面上に突出している部分を削除して平坦化することで形成してもよい。こうすることで、溝上部に残った樹脂膜のみを削除すればよくなるので、化学的機械的研磨法により平坦化を行う場合の負担を軽減できる。また、樹脂膜として、感光性ポリイミドを用いてもよい。また、平坦化は、化学的機械的研磨法により行ってもよい。また、絶縁膜については、電子サイクロトロン共鳴法によるプラズマCVD法を用いて形成してもよい。また、メッキでは、電界メッキ法により金を形成してもよい。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して、この発明の実施の形態を詳細に説明する。
〔第1の実施の形態〕図1は、この発明による高周波用伝送線路の第1の実施の形態の構成を示す斜視断面図である。この図に示す半導体基板101は、比抵抗が30〜50Ωcmである低抵抗のシリコンにより構成されている。その半導体基板101上に絶縁膜102を介して、信号線103とグランド線104とからなる伝送線路が形成されている。図1では、信号線103の両側に2本のグランド線104が形成されている。それら信号線103およびグランド線104は、絶縁膜102上に、金属薄膜106を介して配置されている。
【0013】また、信号線103の両側の半導体基板101、すなわち信号線103と各グランド線104との間の半導体基板101に溝105が形成されている。その溝105により、信号線103の周囲に存在する空間が増える。また、信号線103およびグランド線104は、半導体基板101主面に平行な底面よりも、この底面に隣接する側面の方が面積が広くなるように形成されている。言い換えれば、信号線103の延在している方向に対して垂直な断面をみると、底辺よりそれに隣接する辺(高さ)の方が長い長方形となっている。図1では、信号線103は接続部107を介してアンテナ構造体(高周波素子)108と接続された状態となっている。また、半導体基板101の他の領域には、図示していないがマイクロ波回路が形成されている。
【0014】次に、図2および図3を参照して、図1に示した高周波用伝送線路の製造方法を説明する。図2は、この高周波用伝送線路の製造方法を説明するための工程図である。また、図3は、図2に引き続く工程図である。まず、図2(a)に示すように、シリコンからなる半導体基板101上に、熱酸化法により酸化膜201を形成した。次に、図2(b)に示すように、公知のフォトリソグラフィ技術とエッチング技術により酸化膜201をパターニングし、所定の方向に延在するストライプ状の開口部201aを形成した。
【0015】次に、図2(c)に示すように、開口部201aが形成された酸化膜201をマスクとしたウエットエッチングにより、半導体基板101を選択的にエッチングして、深さ10μm程度の溝105を形成した。このウエットエッチングでは、水酸化カリウム水溶液をエッチング液として用いた。次に、酸化膜201をHF(フッ化水素)を用いてエッチング除去して、図2(d)に示すように、半導体基板101に溝105が形成された状態とした。なお、図2では、溝105の断面形状をV字状としたが、これに限るものではなく、空間が形成できればどのような形状であっても良い。次に、図2(e)に示すように、溝105を埋め込むようにポリイミドからなる犠牲膜202を形成した。ここでは、ポリイミドを半導体基板101の表面に塗布することでポリイミド膜を膜厚10μm程度に形成した後、そのポリイミド膜を化学的機械的研磨法により平坦化エッチングすることで形成した。
【0016】次に、図2(f)に示すように、溝105が犠牲膜202で埋め込められた半導体基板101の表面全面に絶縁膜203を形成した。ここでは、ECRプラズマCVD法(electron cycrotron resonance plasma chemical vaper deposition )、すなわち電子サイクロトロン共鳴法によるプラズマCVD法を用いて、300℃以下で膜厚1μm程度のシリコン酸化膜からなる絶縁膜203を形成した。なお、絶縁膜203としてシリコン窒化膜を形成してもよい。ただし、絶縁膜203の形成方法は、ECRプラズマCVD法に限られるものではなく、300℃以下の低温で成膜できる方法であればいかなる形成方法でも良い。また、犠牲膜202をポリイミドなどの有機材料ではなく無機材料で形成すれば、例えば熱酸化法など300℃よりも高い温度で絶縁膜を形成する方法も利用できる。
【0017】次に、図2(g)に示すように、絶縁膜203上にクロムの層と金の層の2層構造とした第1の金属薄膜204を形成し、その金属薄膜204上に第1のレジストパターン205を形成した。その金属薄膜204は、クロムおよび金を0.1μmずつ蒸着法により形成した。また、レジストパターン205は、膜厚10μm程度に形成し、溝105に平行な方向に延在する第1の開口部205a、第2の開口部205bおよび第3の開口部205cが形成されている状態とした。次に、図2(h)に示すように、開口部205a〜205c底部に露出している金属薄膜204表面に、電界メッキ法により金を膜厚10μm程度メッキし、開口部205a〜205cが金膜(第1の金属膜)206で充填されている状態とした。
【0018】次に、レジストパターン205を剥離した後、レジストパターン205下部の金属薄膜204を選択的に除去した。この工程では、まず、ヨウ素,ヨウ化アンモニウム,エタノールの水溶液からなるエッチング液を用いてエッチングすることで、金属薄膜204の上層である金膜部分を除去した。なお、エッチング速度は毎分0.05μm程度であった。次いで、金属薄膜204の下層であるクロム膜部分をウエットエッチングにより除去した。これにより、図3(i)に示すように、絶縁膜203上に金属薄膜106を介して、信号線103、グランド線104およびアンテナ構造体108が形成された。
【0019】次に、信号線103、グランド線104およびアンテナ構造体108をマスクとして、HFを用いて、絶縁膜203の露出している領域をエッチング除去した。これにより、図3(j)に示すように、信号線103、グランド線104およびアンテナ構造体108と半導体基板101との間に、それぞれ絶縁膜102が介在するようになる。
【0020】次に、図3(k)に示すように、まず、信号線103、グランド線104およびアンテナ構造体108を埋め込むように、絶縁物からなる犠牲層301を半導体基板101上に形成した。その犠牲層301としては、ポリイミドを膜厚10μm程度に形成することで構成した。続いて、その犠牲層301の所定箇所に接続口を形成し、その接続口を介して信号線103とアンテナ構造体108とを接続する接続部107を形成した。
【0021】この接続部107の形成方法は、上述した信号線103の形成方法と同様である。まず、接続口を形成した状態で犠牲層301を含む全域に、クロムの層と金の層の2層構造とした第2の金属薄膜を形成し、その上に、接続部107形成領域に溝(開口領域)のある第2のレジストパターンを形成した。続いて、その溝底部に露出している金属薄膜表面に、電界メッキ法により金を10μm程度メッキし、溝がメッキした金膜(第2の金属膜)で充填されている状態とした。次いで、レジストパターンを剥離した後、レジストパターン下部の金属薄膜、すなわちメッキにより形成した金からなる構造体以外の領域の金属薄膜を選択的に除去して、接続部107を形成した。最後に、図3(l)に示すように、犠牲層301および犠牲膜202を除去した。これは、酸素プラズマにより犠牲層301,202をアッシングすることで行える。以上により、図1に示した高周波用伝送線路が得られた。
【0022】図1に示した高周波用伝送線路では、まず、信号線103およびグランド線104の断面を半導体基板101主面に垂直な方向に縦長な形状とし、信号線103およびグランド線104と半導体基板101との間に絶縁膜102を介在させ、信号線103の両側の半導体基板101に溝105を備えるようにした。信号線103およびグランド線104の断面形状を上記のようにして板状に立てた構造にすることにより、電界の集中が板状の信号線103の側壁に集中するようになる。その信号線などの構造に加えて、溝105を形成することにより、信号線103の周囲にはより多くの空間が存在するようになり、信号線103の周囲にある半導体基板101の領域が相対的に少ない状態となる。半導体基板101と比較して高周波的に高抵抗の絶縁膜102を備えるようにしたので、信号線103を伝搬する高周波信号が半導体基板101を介してグランド線104へ漏洩することを抑制できる。この結果、図1に示した高周波用伝送線路によれば、以下に示すように伝送損失を少なくすることができた。
【0023】図4は、図1に示した高周波用伝送線路の伝送特性を示す特性図である。この高周波用伝送線路の半導体基板101は、上述したように、比抵抗が30〜50Ωcmである低抵抗のシリコンにより構成されている。図4には、図1に示した高周波用伝送線路の他に、2つの参考例の伝送特性が示されている。図5は、これら2つの参考例の構成を示す断面図である。参考例Iは、図5(a)に示すように、比抵抗が1kΩcmである高抵抗のシリコン基板501a上に形成された信号線503aおよびグランド線504aからなる伝送線路である。この伝送線路は、従来から用いられているコプレーナ線路である。また、参考例IIは、図5(b)に示すように、信号線103およびグランド線104と半導体基板101との間に絶縁膜102がない点を除いて、図1に示した高周波用伝送線路と同じ構成を有するものである。
【0024】図4に示した特性図の縦軸は減衰率(単位:dB/mm)であり、横軸は周波数(単位:GHz )である。減衰率は各伝送線路1mmあたりの減衰率であり、次式により求めたものである。
(減衰率)=10 log{(入力電力−出力電力)/入力電力}
図1に示した高周波用伝送線路の場合、信号線103およびグランド線104と半導体基板101との間にそれぞれ絶縁膜102が介在しているので、図4からわかるように、直流に対しては減衰率がゼロである。また、高周波領域でも、高抵抗基板上に形成された参考例Iと比較して遜色ない特性が得られる。なお、絶縁膜102を有しない参考例IIとの比較から、絶縁膜102を介在させることにより減衰率を小さくすることができることがわかる。
【0025】このように、図1に示した高周波用伝送線路では、低抵抗基板を用いても、高抵抗基板を用いた場合と同程度に伝送損失を抑制することができる。言い換えれば、LSIなどの機能回路を形成できる半導体基板101上で、損失が少なく伝搬特性に優れた伝送線路を構成できる。これにより、同一基板に伝送線路をアンテナ構造体などの他の素子とともにモノリシックに形成できるので、より高集積な高周波回路素子の構造を容易に実現できるようになる。
【0026】〔第2の実施の形態〕次に、図6を参照して、図1に示した高周波用伝送線路の他の製造方法を説明する。図6は、この高周波用伝送線路の製造方法を説明するための工程図である。この図には、図2および図3とは異なる工程のみが示されている。る。まず、図2(a)から図2(d)で説明したことと同様にして、図6(a)に示すように、基板101に溝105が形成された状態とする。その溝105の深さは、10μm程度とした。次に、図6(b)に示すように、感光性ポリイミドからなる樹脂膜601を全面に膜厚10μm程度に形成した。この感光性ポリイミドは、ポリベンザオキサゾール前駆体からなるベース樹脂に、ポジ型の感光剤を付加して感光性を持たせている。
【0027】次に、図6(c)に示すように、溝105上部に遮光体602を配置した状態で、露光光として紫外線603を照射して、樹脂膜601の溝105上部以外を露光した。そして、この露光した樹脂膜601をアルカリ性の現像液で現像することで、図6(d)に示すように、溝105上に現像パターン601aが形成された状態とした。次に、この現像パターン601aを加熱して熱硬化させた後、現像パターン601aの半導体基板101上に突出している部分を化学的機械的研磨法により切削研磨して平坦化することで、図6(e)に示すように、溝105を埋め込むようにポリイミドからなる犠牲膜202を形成した。
【0028】図2(e)で示した方法では、半導体基板101上に広範囲に形成されたポリイミド膜を化学的機械研磨法によりエッチングする必要があった。これに対して、ここで示した方法では、溝105上に形成された現像パターン601aのみをエッチングすればよいので、化学的機械的研磨で厚い膜をエッチングする負担を軽減することが可能であり、効率良く製造できる利点がある。以降の工程は図2(f)〜図2(h)および図3で説明したことと同様であるから、その説明を省略する。なお、上記第1,第2の実施の形態では、信号線103を挾むようにグランド線104を2つ形成するようにしたが、このグランド線104は1つであっても良い。
【0029】
【発明の効果】以上説明したように、この発明の高周波用伝送線路は、信号線およびグランド線と半導体基板との間に介在する絶縁膜と、信号線の両側の半導体基板に形成された溝とを備えており、信号線およびグランド線の断面は半導体基板主面に垂直な方向に縦長な形状とする。これにより、比抵抗の低い半導体基板の上であっても、その上に形成した伝送線路の伝送損失を抑制できるようになるという優れた効果が得られる。
【0030】また、この発明の高周波用伝送線路の製造方法は、まず半導体基板上に溝を形成し、その溝を犠牲膜で充填した後で絶縁膜を形成し、その絶縁膜上にストライプ状の第1および第2の開口部を備えたレジストパターンを形成し、各開口部に金属膜を形成して信号線およびグランド線を形成し、レジストパターンを除去した後で信号線およびグランド線をマスクとして絶縁膜の露出している領域を除去し、最後に溝に充填された犠牲膜を除去する。この際、レジストパターンの各開口部底部の幅よりそれぞれ各開口部を深く形成する。これにより、上記の高周波用伝送線路を製造できる。
【0031】また、犠牲膜については、溝が形成された半導体基板上に感光性を有する樹脂膜を形成し、その樹脂膜を露光・現像して溝上部に樹脂膜が残るようにパターニングし、その残った樹脂膜の半導体基板平面上に突出している部分を削除して平坦化することで形成する。これにより、化学的機械的研磨法により平坦化を行う場合の負担を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明による高周波用伝送線路の第1の実施の形態の構成を示す斜視断面図である。
【図2】 図1に示した高周波用伝送線路の製造方法を説明するための工程図である。
【図3】 図2に引き続く工程図である。
【図4】 図1に示した高周波用伝送線路の伝送特性を示す特性図である。
【図5】 図4に伝送特性が示されている2つの参考例の構成を示す断面図である。
【図6】 図1に示した高周波用伝送線路の他の製造方法を説明するための工程図である。
【図7】 従来よりある高周波用伝送線路の一形態を示す断面図である。
【図8】 従来よりある高周波用伝送線路の他の形態を示す斜視断面図である。
【符号の説明】
101…半導体基板、102,203…絶縁膜、103…信号線、104…グランド線、105…溝、106,204…金属薄膜、107…接続部、108…アンテナ構造体、201…酸化膜、201a,205a〜205c…開口部、202…犠牲膜、205…レジストパターン、206…金膜、301…犠牲層、601…樹脂膜、601a…現像パターン、602…遮光体、603…紫外線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 半導体基板上に形成された金属材料からなる信号線と、前記半導体基板上に前記信号線と平行に形成された金属材料からなるグランド線と、前記信号線および前記グランド線と前記半導体基板との間にそれぞれ介在する絶縁膜と、前記信号線の両側に隣接して前記半導体基板に形成された溝とから構成され、前記信号線および前記グランド線は、前記半導体基板に接している辺より前記半導体基板に垂直な隣辺の方が長い長方形状の断面を有することを特徴とする高周波用伝送線路。
【請求項2】 請求項1記載の高周波用伝送線路において、前記グランド線は、前記信号線両側に前記溝を挾んで形成されていることを特徴とする高周波用伝送線路。
【請求項3】 請求項1または2記載の高周波用伝送線路において、前記半導体基板上に形成された高周波素子と、前記信号線と前記高周波素子とを接続する接続部とを更に備えたことを特徴とする高周波用伝送線路。
【請求項4】 所定の間隔をあけて互いに平行に延在するストライプ状の2つの開口部を備えた酸化膜を半導体基板上に形成し、この酸化膜をマスクとして前記半導体基板をエッチングすることで、前記半導体基板上に所定の間隔をあけて互いに平行に延在する2つの溝を形成する第1の工程と、前記酸化膜を除去した後で前記2つの溝を犠牲膜で充填して前記半導体基板表面を実質的に平坦な状態とする第2の工程と、前記半導体基板表面に絶縁膜を形成する第3の工程と、前記絶縁膜上に第1の金属薄膜を形成する第4の工程と、前記第1の金属薄膜上の前記2つの溝に挾まれた領域および前記溝の外側に隣接する所定の幅の領域に、前記溝に沿って平行に延在するストライプ状の第1および第2の開口部を備えた第1のレジストパターンを形成し、前記第1のレジストパターンの第1および第2の開口部底部に露出した前記第1の金属薄膜上にメッキにより第1の金属膜を形成して前記第1および第2の開口部を充填し、前記溝に挾まれた領域に配置される信号線およびその隣に配置されるグランド線を形成する第5の工程と、前記第1のレジストパターンを除去した後で前記第1の金属薄膜の露出している領域を除去する第6の工程と、前記信号線および前記グランド線をマスクとして前記絶縁膜の露出している領域を除去する第7の工程と、前記第7の工程の後で前記犠牲膜を除去する工程とを少なくとも備え、前記第5の工程で、前記第1および第2の開口部底部の幅よりそれぞれ前記第1および第2の開口部を深く形成することを特徴とする高周波用伝送線路の製造方法。
【請求項5】 請求項4記載の高周波用伝送線路の製造方法において、前記第5の工程で、前記第1のレジストパターンに第3の開口部を同時に形成し、その第3の開口部底部に露出する前記第1の金属薄膜上に前記第1の金属膜を同時に形成して前記信号線および前記グランド線とともに高周波素子を形成し、前記信号線とグランド線と高周波素子とを覆って表面が実質的に平坦な状態に犠牲層を形成する第8の工程と、前記信号線および前記高周波素子上の前記犠牲層の所定領域にそれぞれ接続口を形成する第9の工程と、前記接続口内を含む前記犠牲層上に第2の金属薄膜を形成し、前記接続口それぞれの間にわたる開口領域を備えた第2のレジストパターンを形成し、前記開口領域底部に露出した前記第2の金属薄膜上に選択的にメッキにより第2の金属膜を形成して前記信号線と前記高周波素子とを接続する接続部を形成する第10の工程と、前記第2のレジストパターンを除去した後で前記第2の金属薄膜の露出している領域を除去する第11の工程とを備え、前記第11の工程の後で前記犠牲層とともに前記犠牲膜を除去することを特徴とする高周波用伝送線路の製造方法。
【請求項6】 請求項4または5に記載の高周波用伝送線路の製造方法において、前記第2の工程で、前記2つの溝が形成された前記半導体基板上に感光性を有する樹脂膜を形成し、その樹脂膜に選択的に露光光を照射して現像することで前記溝上部に前記樹脂膜が残るようにパターニングし、その残った樹脂膜の前記半導体基板平面上に突出している部分を削除して平坦化することで前記犠牲膜を形成することを特徴とする高周波用伝送線路の製造方法。
【請求項7】 請求項6記載の高周波用伝送線路の製造方法において、前記樹脂膜は、感光性ポリイミドからなることを特徴とする高周波用伝送線路の製造方法。
【請求項8】 請求項6または7記載の高周波用伝送線路の製造方法において、前記平坦化は、化学的機械的研磨法により行うことを特徴とする高周波用伝送線路の製造方法。
【請求項9】 請求項4から8のいずれか1項に記載の高周波用伝送線路の製造方法において、前記第3の工程で、電子サイクロトロン共鳴法によるプラズマCVD法を用いて300℃以下で前記絶縁膜を形成することを特徴とする高周波用伝送線路の形成方法。
【請求項10】 請求項4から9のいずれか1項に記載の高周波用伝送線路の製造方法において、前記メッキでは、電界メッキ法により金を形成することを特徴とする高周波用伝送線路の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2001−102815(P2001−102815A)
【公開日】平成13年4月13日(2001.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−281033
【出願日】平成11年10月1日(1999.10.1)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】