説明

高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金、蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用螺合部材、および蒸気タービン用配管

【課題】高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金、この蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金を用いて作製された、蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用螺合部材、および蒸気タービン用配管を提供することを目的とする。
【解決手段】高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金は、質量%で、C:0.01〜0.15、Cr:18〜28、Co:10〜15、Mo:8〜12、Al:1.5〜2、Ti:0.1〜3、B:0.001〜0.006、Ta:0.1〜0.7を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温の蒸気が作動流体として流入する蒸気タービンの鍛造部品を構成する材料に係わり、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金、この蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金を用いて作製された、蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用螺合部材、および蒸気タービン用配管に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンを含む火力プラントにおいて、地球環境保護の観点から二酸化炭素の排出量抑制技術が注目されており、また発電の高効率化のニーズが高まっている。
【0003】
蒸気タービンの発電効率を上げるためには、タービン蒸気温度を高温化することが有効であり、近年の蒸気タービンを備える火力発電プラントにおいて、その蒸気温度は600℃以上まで上昇している。将来的には650℃、さらに700℃へと上昇する傾向がみられる。
【0004】
高温の蒸気に晒される蒸気タービンの、動翼、静翼、ボルトなどの螺合部材および配管などは、周囲に高温の蒸気が回流し高温になるとともに、高い応力が発生する。そのため、これらは、高温、高応力に耐える必要があり、これらを構成する材料として、室温から高温度領域において優れた強度、延性、靭性を有するものが求められている。
【0005】
特に、蒸気温度が700℃を超える場合には、従来の鉄系材料では高温強度が不足するため、Ni基合金の適用が検討されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
Ni基合金は、高温強度特性、耐食性に優れていることから、主にジェットエンジンやガスタービン材料として広く適用されてきた。その代表例としてインコネル617合金(スペシャルメタル社製)やインコネル706合金(スペシャルメタル社製)が用いられてきた。
【0007】
Ni基合金の高温強度を強化するメカニズムとして、AlやTiを添加することによりNi基合金の母相材内にガンマプライム相(Ni(Al,Ti))、あるいはガンマダブルプライム相と呼ばれる析出相、それらの両相を析出させて高温強度を確保するものがある。このガンマプライム相あるいはガンマダブルプライム相の両相を析出させて高温強度を確保するものとして、例えばインコネル706合金が挙げられる。
【0008】
一方、インコネル617合金のように、Co、Moを添加することにより、Ni基の母相を強化(固溶強化)して高温強度を確保するものがある。
【特許文献1】特開平7−150277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したように、700℃を超える蒸気タービンのタービンロータの材料として、Ni基合金の適用が検討されているが、さらに高温強度を向上させる余地があると考えられる。また、このNi基合金の高温強度は、Ni基合金の鍛造性や溶接性などを維持しつつ、組成改良等により向上されることが求められている。
【0010】
そこで、本発明は、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金、この蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金を用いて作製された、蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用螺合部材、および蒸気タービン用配管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の一態様によれば、質量%で、C:0.01〜0.15、Cr:18〜28、Co:10〜15、Mo:8〜12、Al:1.5〜2、Ti:0.1〜3、B:0.001〜0.006、Ta:0.1〜0.7を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなることを特徴とする、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金が提供される。
【0012】
また、本発明の一態様によれば、質量%で、C:0.01〜0.15、Cr:18〜28、Co:10〜15、Mo:8〜12、Al:1.5〜2、Ti:0.1〜3、B:0.001〜0.006、Nb:0.1〜0.4を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなることを特徴とする、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金が提供される。
【0013】
さらに、本発明の一態様によれば、質量%で、C:0.01〜0.15、Cr:18〜28、Co:10〜15、Mo:8〜12、Al:1.5〜2、Ti:0.1〜3、B:0.001〜0.006、Ta+2Nb(TaとNbのモル比が1:2):0.1〜0.7を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなることを特徴とする、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金が提供される。
【0014】
また、本発明の一態様によれば、上記したいずれかの、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金を用いて、少なくとも所定部位が鍛造により作製されたことを特徴とする蒸気タービンの動翼が提供される。
【0015】
また、本発明の一態様によれば、上記したいずれかの、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金を用いて、少なくとも所定部位が鍛造により作製されたことを特徴とする蒸気タービンの静翼が提供される。
【0016】
さらに、本発明の一態様によれば、上記したいずれかの、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金を用いて、少なくとも所定部位が鍛造により作製されたことを特徴とする蒸気タービン用螺合部材が提供される。
【0017】
また、本発明の一態様によれば、上記したいずれかの、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金を用いて、少なくとも所定部位が鍛造により作製されたことを特徴とする蒸気タービン用配管が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金、この蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金を用いて作製された、蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用螺合部材、および蒸気タービン用配管によれば、従来のNi基合金よりも高温強度特性に優れ、かつ鍛造性および溶接性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態を説明する。
【0020】
本発明に係る一実施の形態における、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金は、以下に示す組成成分範囲で構成される。なお、以下の説明において組成成分を表す%は、特に明記しない限り質量%とする。
【0021】
(M1)C:0.01〜0.15%、Cr:18〜28%、Co:10〜15%、Mo:8〜12%、Al:1.5〜2%、Ti:0.1〜3%、B:0.001〜0.006%、Ta:0.1〜0.7%を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなるNi基合金。
【0022】
(M2)C:0.01〜0.15%、Cr:18〜28%、Co:10〜15%、Mo:8〜12%、Al:1.5〜2%、Ti:0.1〜3%、B:0.001〜0.006%、Nb:0.1〜0.4%を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなるNi基合金。
【0023】
(M3)C:0.01〜0.15%、Cr:18〜28%、Co:10〜15%、Mo:8〜12%、Al:1.5〜2%、Ti:0.1〜3%、B:0.001〜0.006%、Ta+2Nb:0.1〜0.7%を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなるNi基合金。なお、「Ta+2Nb」は、TaとNbのモル比が1:2を意味する。
【0024】
ここで、上記(M1)〜(M3)のNi基合金における不可避的不純物において、その不可避的不純物のうち、少なくとも、Siが0.1%以下、Mnが0.1%以下に抑制されていることが好ましい。なお、不可避的不純物としては、上記した、SiおよびMnの他に、例えば、Cu、FeおよびSなどが挙げられる。
【0025】
上記した組成成分範囲のNi基合金は、運転時の温度が680〜750℃となる蒸気タービンの鍛造部品を構成する材料として好適である。蒸気タービンの鍛造部品として、例えば、蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用螺合部材、蒸気タービン用配管などが挙げられる。
【0026】
ここで、蒸気タービン用螺合部材として、例えば、タービンケーシングやタービン内部の各種構成部品を固定するボルトやナットなどを例示することができる。また、蒸気タービン用配管として、例えば、蒸気タービンプラントなどに設置され、蒸気タービンに高温高圧の蒸気を供給する配管や、蒸気タービン内部の配管などを例示することができる。蒸気タービン用配管として、具体的には、例えば、ボイラからの蒸気を高圧タービンに導く主蒸気管や、ボイラ再熱器からの蒸気を中圧タービンに導く高温再熱蒸気管などを例示することができる。さらに、蒸気タービン用配管として、蒸気タービンに導入された高温高圧の蒸気をノズルボックスに導く主蒸気導入管などを例示することができる。なお、蒸気タービン用配管は、これらに限定されるものではなく、例えば、温度が680〜750℃の蒸気が流動する配管なども含まれる。
【0027】
上記した蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用螺合部材、蒸気タービン用配管は、いずれも高温高圧の環境に設置され、その中でも、蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用配管などは、高温高圧の蒸気に晒される環境に設置される。
【0028】
なお、上記した蒸気タービンの鍛造部品のすべての部位を上記したNi基合金で構成しても、また、特に高温となる蒸気タービンの鍛造部品の一部の部位を上記したNi基合金で構成してもよい。ここで、蒸気タービンの鍛造部品が高温となるのは、具体的には、例えば、高圧蒸気タービン部の全領域、または高圧蒸気タービン部から中圧蒸気タービン部の一部分までの領域などが挙げられる。さらに、蒸気タービンの鍛造部品が高温となるのは、上記した高温高圧の蒸気を各種蒸気タービンに導く、主蒸気管や高温再熱蒸気管などの配管部が挙げられる。なお、蒸気タービンの鍛造部品が高温となる部分は、これらに限られるものではなく、例えば、温度が680〜750℃程度となる部分であればこれに含まれる。
【0029】
また、上記した組成成分範囲のNi基合金は、従来のNi基合金よりも高温強度特性に優れ、かつ鍛造性および溶接性に優れている。すなわち、このNi基合金を用いて、蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用螺合部材、蒸気タービン用配管などの蒸気タービンの鍛造部品を構成することで、高温環境下においても高い信頼性を有する、蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用螺合部材、蒸気タービン用配管などの鍛造部品を作製することができる。
【0030】
次に、上記した本発明に係るNi基合金における各組成成分範囲の限定理由を説明する。
【0031】
(1)C(炭素)
Cは、強化相であるM23型炭化物の構成元素として有用であり、特に650℃以上の高温環境下では、蒸気タービンの運転中にM23型炭化物を析出させることが合金のクリープ強度を維持させる要因の一つである。また、鋳造時の溶湯の流動性を確保する効果も併せ持つ。Cの含有率が0.01%未満の場合には、炭化物の十分な析出量を確保することができないため、機械的強度(高温強度特性、以下同じ)が低下するとともに、鋳造時の溶湯の流動性が著しく低下する。ここで、本発明に係る鍛造部品用のNi基合金を作製する場合においても、まず、本発明の化学組成範囲にあるNi基合金を溶解し、鋳塊を形成し、圧延などにより鍛造するため、鋳造時の溶湯の流動性が必要となる。一方、Cの含有率が0.15%を超えると、大型鋳塊作製時の成分偏析傾向が増加するとともに脆化相であるMC型炭化物の生成を促進する。そのため、Cの含有率を0.01〜0.15%とした。
【0032】
(2)Cr(クロム)
Crは、Ni基合金の耐酸化性、耐食性および機械的強度を高めるのに不可欠な元素である。さらにM23型炭化物の構成元素として不可欠であり、特に650℃以上の高温環境下では、蒸気タービンの運転中にM23型炭化物を析出させることで、合金のクリープ強度が維持される。また、Crは、高温蒸気環境下における耐酸化性を高める。Crの含有率が18%未満の場合には、耐酸化性が低下する。一方、Crの含有率が28%を超えると、M23型炭化物の析出を著しく促進することによって粗大化傾向を高める。そのため、Crの含有率を18〜28%とした。
【0033】
(3)Co(コバルト)
Coは、Ni基合金において、母相内に固溶して母相の機械的強度を向上させる。しかしながら、Coの含有率が15%を超えると、機械的強度を低下させる金属間化合物相を生成し、機械的強度が低下する。一方、Coの含有率が10%未満の場合には、加工性(鍛造性)が低下し、さらに機械的強度が低下する。そのため、Coの含有率を10〜15%とした。
【0034】
(4)Mo(モリブデン)
Moは、Ni母相中に固溶して母相の機械的強度を向上させる効果を有し、また、M23型炭化物中に一部が置換することによって炭化物の安定性を高める。Moの含有率が8%未満の場合には、上記した効果が発揮されず、Moの含有率が12%を超えると、大型鋳塊作製時の成分偏析傾向が増加するとともに、脆化相であるMC型炭化物の生成を促進する。そのため、Moの含有率を8〜12%とした。
【0035】
(5)Al(アルミニウム)
Alは、Niとともにγ’相(ガンマプライム相:NiAl)を生成し、析出によるNi基合金の機械的強度を向上させる。Alの含有率が1.5%未満の場合には、機械的強度、加工性(鍛造性)ともに従来鋼と比べて向上されず、Alの含有率が2%を超えると、機械的強度は向上するが、加工性(鍛造性)が低下する。そのため、Alの含有率を1.5〜2%とした。
【0036】
(6)Ti(チタン)
Tiは、Alと同様、Niとともにγ’相(ガンマプライム相:NiTi)を生成し、Ni基合金の機械的強度を向上させる。Tiの含有率が0.1%未満の場合には、上記した効果が発揮されず、Tiの含有率が3%を超えると、加工性(鍛造性)が低下する。そのため、Tiの含有率を0.1〜3%とした。
【0037】
(7)B(ホウ素)
Bは、Ni母相中に析出して母相の機械的強度を向上させる効果を有する。Bの含有率が0.001%未満の場合には、母相の機械的強度を向上させる効果が発揮されず、Bの含有率が0.006%を超えると、粒界脆化を招く恐れがある。そのため、Bの含有率を0.001〜0.006%とした。
【0038】
(8)Ta(タンタル)
Taは、γ’相(ガンマプライム相:Ni(Al,Ti))の析出強度を安定させる。Taの含有率が0.1%未満の場合には、上記した効果において従来鋼と比べて向上がみられず、Taの含有率が0.7%を超えると、経済性が損なわれ、製造コストが増加する。そのため、Taの含有率を0.1〜0.7%とした。
【0039】
(9)Nb(ニオブ)
Nbは、Taと同様に、γ’相(ガンマプライム相:Ni(Al,Ti))に固容し強度を高め、析出強度を安定させる。Nbの含有率が0.1%未満の場合には、上記した効果において従来鋼と比べて向上がみられず、Nbの含有率が0.4%を超えると、機械的強度は向上するが、加工性(鍛造性)が低下する。そのため、Nbの含有率を0.1〜0.4%とした。
【0040】
また、上記したTaとNbを、(Ta+2Nb)の含有率が0.1〜0.7%の範囲で含有することで、γ’相(ガンマプライム相:Ni(Al,Ti))の析出強度を向上させる。(Ta+2Nb)の含有率が0.1%未満の場合には、上記した効果において従来鋼と比べて向上がみられず、(Ta+2Nb)の含有率が0.7%を超えると、機械的強度は向上するが、加工性(鍛造性)が低下する。なお、この場合、TaおよびNbは、それぞれ少なくとも0.01以上含有される。
【0041】
Nbの比重は、Taの約1/2(Taの比重:16.6、Nbの比重:8.57)であることからTa単独で添加する場合に比べ、TaとNbを複合添加することで固溶量を増大することができる。また、Taは、戦略物質ということもあり、材料調達が不安定であるが、Nbの埋蔵量はTaの約100倍で安定供給が可能である。Taは、Nbよりも融点が高く(Taの融点:約3000℃、Nbの融点:約2470℃)、より高温におけるγ’相が強化され、また、Nbよりも耐酸化性に優れている。
【0042】
(10)Si(ケイ素)、Mn(マンガン)、Cu(銅)、Fe(鉄)およびS(硫黄)
Si、Mn、Cu、FeおよびSは、本発明に係るNi基合金においては、不可避的不純物に分類されるものである。これらの不可避的不純物は、可能な限りその残存含有率を0%に近づけることが望ましい。また、これらの不可避的不純物のうち、少なくとも、SiおよびMnは、0.1%以下に抑制されることが好ましい。
【0043】
Siは、普通鋼の場合、耐食性を補うため添加される。しかしながら、Ni基合金はCr含有量が多く、十分に耐食性を確保できることから、本発明に係るNi基合金では、Siの残存含有率を0.1%以下とし、可能な限りその残存含有率を0%に近づけることが望ましい。
【0044】
Mnは、普通鋼の場合、脆性に起因するS(硫黄)をMnSとして脆性を防止する。しかしながら、Ni基合金におけるSの含有量は極めて少なく、Mnを添加する必要はない。そのため、本発明に係るNi基合金では、Mnの残存含有率を0.1%以下とし、可能な限りその残存含有率を0%に近づけることが望ましい。
【0045】
上記した本発明に係る蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金は、例えば、Ni基合金を構成する組成成分を真空誘導溶解(VIM)し、その溶湯を所定の型枠に注入して鋳塊を形成し、その鋳塊をソーキング処理し、圧延などによって鍛造し、溶体化処理を施すことで作製される。
【0046】
ソーキング処理では、1050〜1250℃の温度範囲で5〜72時間維持し、溶体化処理では、1100〜1200℃の温度範囲で4〜15時間維持することが好ましい。ここで、溶体化処理温度は、γ’相析出物を均質に固溶化するために行われ、温度が1100℃を下回る温度では十分に固溶されず、1200℃を上回る温度では結晶粒の粗大化により強度が低下する。また、鍛造は、950〜1150℃の温度範囲で行われる。
【0047】
また、本発明に係る、鍛造部品である蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用螺合部材は、例えば次のように作製される。まず、本発明に係る蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金を構成する組成成分を真空誘導溶解(VIM)し、エレクトロスラグ再溶解(ESR)し、減圧雰囲気で所定の型に流し込み鋳塊を作製し、ソーキング処理を施す。そして、この鋳塊を上記鍛造部品の形状に対応する型に配置して圧延などの鍛造処理、溶体化処理を施すことで蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用螺合部材が作製される。すなわち、蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用螺合部材は、型鍛造によって作製される。
【0048】
また、蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用螺合部材は、例えば、本発明に係る蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金を構成する組成成分を真空誘導溶解(VIM)し、真空アーク再溶解(VAR)し、減圧雰囲気で所定の型に流し込み鋳塊を作製し、ソーキング処理を施し、上記した同様の鍛造処理、溶体化処理を施す方法で作製されてもよい。
【0049】
さらに、蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用螺合部材は、例えば、本発明に係る蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金を構成する組成成分を真空誘導溶解(VIM)し、エレクトロスラグ再溶解(ESR)し、真空アーク再溶解(VAR)し、減圧雰囲気で所定の型に流し込み鋳塊を作製し、ソーキング処理を施し、上記した同様の鍛造処理、溶体化処理を施す方法で作製されてもよい。
【0050】
一方、本発明に係る、鍛造部品である蒸気タービン用配管は、例えば次のように作製される。まず、本発明に係る蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金を構成する組成成分を電気炉溶解(EF)し、アルゴン−酸素脱炭(AOD)を行い、鋳塊を作製し、ソーキング処理を施す。この鋳塊を縦型プレスで穿孔しコップ状の素管を作製し、横型プレスでマンドレルとダイスによる加工と再加熱を繰り返し、蒸気タービン用配管の形状に成型することで蒸気タービン用配管が作製される。この加工方法は、エルハルト−プッシュベンチ製管法である。
【0051】
なお、上記した、蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用螺合部材、蒸気タービン用配管を作製する方法は、上記した方法に限定されるものではない。
【0052】
以下に、本発明に係る蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金が、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れていることを説明する。
【0053】
(高温強度特性、鍛造性および溶接性の評価)
ここでは、本発明の化学組成範囲にあるNi基合金が、優れた、高温強度特性、鍛造性および溶接性を有することを説明する。表1は、高温強度特性、鍛造性および溶接性の評価に用いられた試料1〜試料28の化学組成を示す。なお、試料1〜試料6は、本発明の化学組成範囲にあるNi基合金であり、試料7〜試料28は、その組成が本発明の化学組成範囲にないNi基合金であり、比較例である。また、試料7は、従来鋼であるインコネル617相当の化学組成を有する。なお、ここで使用した本発明の化学組成範囲にあるNi基合金には、不可避的不純物として、Si、Mn以外に、Fe、Cu、Sが含まれている。
【0054】
【表1】

【0055】
高温強度特性を引張強度試験によって評価した。引張強度試験では、表1に示す化学組成を有する試料1〜試料28のNi基合金20kgをそれぞれ真空誘導溶解炉にて溶解し、鋳塊を作製した。続いて、この鋳塊に対して、1050℃で5時間ソーキング処理を行った。その後、950〜1100℃(再加熱温度が1100℃)の温度範囲で500kgfハンマー鍛造機にて鍛造し、その後、1180℃で4時間溶体化処理を施して鍛造鋼とした。そして、この鍛造鋼から所定のサイズの試験片を作製した。
【0056】
そして、各試料による試験片に対して、温度が23℃、700℃、800℃の条件でJIS G 0567(鉄鋼材料及び耐熱合金の高温引張試験方法)に基づいて引張強度試験を行い、0.2%耐力を測定した。ここで、引張強度試験における温度条件である700℃、800℃は、蒸気タービンの通常の運転時の温度条件およびそれに安全率を見込んだ温度を考慮して設定した。0.2%耐力の測定結果を表2に示す。
【0057】
また、各試料に対して、鍛造性の評価を行った。鍛造性の評価は、鍛造比(JIS G 0701(鋼材鍛錬作業の鍛錬成形比の表わし方)に基づく鍛造比)が9となるまで鍛造処理を行い、このときの鍛造割れの有無を目視観察した。なお、鍛造処理は、950〜1100℃の範囲で行い、鍛造被対象物である試験片の温度が低下したとき、すなわち鍛造被対象物が硬化してきたときには、再加熱温度1100℃まで再度加熱して鍛造処理を繰り返し行った。鍛造性の評価結果を表2に示す。ここで、表2において、鍛造割れがない場合には「無」と示し、さらに、鍛造性が優れていることを示すため、鍛造性の評価を「○」で示す。一方、鍛造割れがある場合には「有」と示し、さらに、鍛造性が劣ることを示すため、鍛造性の評価を「×」で示す。
【0058】
さらに、各試料に対して、溶接性の評価を行った。溶接性の評価において使用する試験片として、上記した鋳塊から幅が60mm、長さが150mm、厚さが40mmの試験片を製作した。この試験片に、幅が10mm、深さが5mmの溝を、試験片の幅方向のほぼ中心で長さ方向に沿って形成した。そして、その溝部分にTIG溶接のアーク加熱を行った後、試験片を、試験片の幅方向に平行にかつ厚さ方向に切断した。そして、切断面についてJIS Z 2343−1(非破壊試験―浸透探傷試験―第1部:一般通則:浸透探傷試験方法及び浸透指示模様の分類)に基づいて、溶接熱影響部の浸透探傷試験(PT)を行い、溶接割れの有無を目視観察した。溶接性の評価結果を表2に示す。ここで、表2において、溶接割れがない場合には「無」と示し、さらに、溶接性が優れていることを示すため、溶接性の評価を「○」で示す。一方、溶接割れがある場合には「有」と示し、さらに、溶接性が劣ることを示すため、溶接性の評価を「×」で示す。
【0059】
【表2】

【0060】
表2に示すように、試料1〜試料6は、各温度において高い0.2%耐力が得られるとともに、鍛造性および溶接性にも優れていることがわかった。試料1〜試料6において、0.2%耐力が高い値となったのは、析出強化と固溶強化が図られたためと考えられる。
【0061】
一方、例えば、試料18や試料20の従来鋼では、0.2%耐力は高い値を示したが、鍛造性、溶接性が劣っていることがわかった。このように、高温強度特性、鍛造性および溶接性のすべてに優れた従来鋼はなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.01〜0.15、Cr:18〜28、Co:10〜15、Mo:8〜12、Al:1.5〜2、Ti:0.1〜3、B:0.001〜0.006、Ta:0.1〜0.7を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなることを特徴とする、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金。
【請求項2】
質量%で、C:0.01〜0.15、Cr:18〜28、Co:10〜15、Mo:8〜12、Al:1.5〜2、Ti:0.1〜3、B:0.001〜0.006、Nb:0.1〜0.4を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなることを特徴とする、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金。
【請求項3】
質量%で、C:0.01〜0.15、Cr:18〜28、Co:10〜15、Mo:8〜12、Al:1.5〜2、Ti:0.1〜3、B:0.001〜0.006、Ta+2Nb(TaとNbのモル比が1:2):0.1〜0.7を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなることを特徴とする、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金。
【請求項4】
前記不可避的不純物のうち、少なくとも、Siを0.1質量%以下、Mnを0.1質量%以下に抑制したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金を用いて、少なくとも所定部位が鍛造により作製されたことを特徴とする蒸気タービンの動翼。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金を用いて、少なくとも所定部位が鍛造により作製されたことを特徴とする蒸気タービンの静翼。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金を用いて、少なくとも所定部位が鍛造により作製されたことを特徴とする蒸気タービン用螺合部材。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用のNi基合金を用いて、少なくとも所定部位が鍛造により作製されたことを特徴とする蒸気タービン用配管。

【公開番号】特開2010−150586(P2010−150586A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328460(P2008−328460)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】