説明

黒煙発生抑制装置及び黒煙発生抑制方法

【課題】大気圧に基いて燃料噴射量を制限し、黒煙の発生と始動不良を防止する。
【解決手段】回転数に応じてコントロールラック27位置を制御するガバナレバー24と、アクセル操作量に応じた付勢力をガバナレバー24に加えるテンションレバー25とを備える、機械式ガバナ20を有するエンジン1の黒煙発生抑制装置30は、大気圧を検出する大気圧センサと、テンションレバー25に直接又は間接に接触することによって、コントロールラック27の可動範囲を、通常範囲又は通常範囲よりも燃料の減量側に設定される減量範囲に設定する高地ソレノイド32と、キースイッチと、検出された大気圧に応じて、空気過剰率の減少を抑制するように、高地ソレノイド32を作動させる制御装置と、を有しており、制御装置は、キースイッチがON位置からスタート位置に切り換えられたことを検出した後に、高地ソレノイド32を作動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
回転数に応じてコントロールラック位置を制御するガバナレバーと、ガバナレバーに弾性部材を介して連結されるテンションレバーとを備える、機械式ガバナを有するエンジンの黒煙発生抑制装置及び黒煙発生抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械式燃料噴射ポンプを使用した無過給ディーゼルエンジンでは、バネやリンク機構を用いて構成されたガバナ機構により、エンジン回転数、負荷に応じた燃料噴射量制御が行われている。
【0003】
上記エンジンが気圧の低い高地で使用される場合、空気の密度が低下するにも関わらず、燃料噴射量は一定に保たれるため、空気過剰率が低下する。この結果、排ガス中の黒煙が増加する。特許文献1、2、及び3に開示される技術は、このような気圧低下による黒煙の発生を防止することを目的としている。これらの技術は、機械式ガバナを備えるエンジンにおいて、気圧が低下した場合に燃料噴射量を減少させる。
【0004】
特許文献1において、テンションレバー30に連動する操作部材32の回動範囲は、位置変動部材により制限されている。位置変動部材50の位置は、気圧計によって検出される気圧に応じて、変動する。気圧計は、真空に保たれたベローズ48によって構成されている。
【0005】
特許文献2において、スプリング入力レバー14の回動範囲は、燃料制限ピン4によって制限されている。燃料制限ピン4の位置は、気圧計によって検出される気圧に応じて、変動する。気圧計は、真空に保たれたベローズ31によって構成されている。
【0006】
特許文献3において、メカニカルガバナ2の駆動は、手動選択装置20の操作量に応じて制限されている。手動選択装置20は、2000m等の高度に応じて設定された複数の切換位置を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−232687号公報
【特許文献2】特開平9−42014号公報
【特許文献3】特開2004−132197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エンジンの始動時に大気圧に基づいて燃料噴射量を制限した場合、出力の不足によりエンジンが始動できない可能性がある。そこで、本発明は、大気圧に基づいて燃料噴射量を制限することによって空気過剰率の減少による黒煙の発生を防止しながら、始動不良の発生を防止できる、黒煙発生抑制装置及び黒煙発生抑制方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、回転数に応じてコントロールラック位置を制御するガバナレバーと、アクセル操作量に応じた付勢力をガバナレバーに加えるテンションレバーとを備える、機械式ガバナを有するエンジンの黒煙発生抑制装置において、大気圧を検出する大気圧センサと、テンションレバーに直接又は間接に接触することによって、コントロールラックの可動範囲を、通常範囲又は通常範囲よりも燃料の減量側に設定される減量範囲に設定するソレノイドと、スタータを始動させるスタータ始動指令及びスタータを停止させるスタータ停止指令を入力するスタータ操作器と、検出された大気圧に応じて空気過剰率の減少を抑制するようにソレノイドを作動させると共に、スタータ始動指令及びスタータ停止指令の入力を検出できる制御装置と、を有しており、制御装置は、スタータ停止指令を検出した後に、ソレノイドを作動させる、ことを特徴とするエンジンの黒煙発生抑制装置を提供する。
【0010】
(a)好ましくは、スタータ停止指令の検出時点から、制御装置がソレノイドの作動を指令する時点までの間に、一定の待機時間が設けられている。
【0011】
(b)好ましくは、スタータ停止指令の検出時点から、制御装置がソレノイドの作動を指令する時点までの間に、可変の待機時間が設けられており、可変の待機時間は、スタータ始動指令の検出時点からスタータ停止指令の検出時点までのスタータ作動時間の増大に応じて増大する。
【0012】
(c)好ましくは、制御装置は、エンジンの運転中において定期的又は不定期に繰り返し、ソレノイドを作動させる。
【0013】
(d)好ましくは、更に、気温を検出する気温センサを備えており、制御装置は、検出された大気圧だけでなく、検出された気温に応じて、空気過剰率の減少を抑制するように、ソレノイドを作動させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、大気圧に基づいて燃料噴射量を制限することによって空気過剰率の減少による黒煙の発生を防止しながら、始動不良の発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】エンジンの構成を示す図である。
【図2】機械式ガバナ及び黒煙発生抑制装置の構成を示す図である。
【図3】黒煙発生抑制制御のフロー図である。
【図4】エンジン停止時における高地ソレノイド及びストップソレノイドを示す図である。
【図5】始動時制御及び低地制御における高地ソレノイド及びストップソレノイドを示す図である。
【図6】高地制御における高地ソレノイド及びストップソレノイドを示す図である。
【図7】高地ソレノイド及びストップソレノイドのタイムチャートの一例を示す図である。
【図8】黒煙発生抑制制御のフロー図である(第2実施形態)。
【図9】エンジンの構成を示す図である(第4実施形態)。
【図10】黒煙発生抑制制御のフロー図である(第4実施形態)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
図1は、エンジン1の構成を示す図である。エンジン1は、シリンダ2、ピストン3、クランク軸4、吸気菅5、排気管6、インジェクタ8、アクセルレバー9、及び機械式ガバナ20を備えている。アクセルレバー9の操作により、機械式ガバナ20を介してインジェクタ8からの燃料噴射量が変更される。ここで、機械式ガバナ20は、アクセルレバー9の操作量だけでなくクランク軸4の回転数に応じて、インジェクタ8からの燃料噴射量を調整する。
【0017】
また、エンジン1は、始動制御装置としての制御装置10、キースイッチ11、及びスタータモータ12を備えている。制御装置10は、キースイッチ11の操作に基づいて、スタータモータ12の作動を制御する。
【0018】
また、エンジン1は、大気圧センサ13を備えている。大気圧センサ13は、大気圧を検出する。大気圧センサ13は、後述の黒煙発生抑制装置30の一部を構成している。
【0019】
エンジン1は、コントロールパネル15を備えている。キースイッチ11、及び大気圧センサ13は、コントロールパネル15に配置されている。
【0020】
図2は、機械式ガバナ20及び黒煙発生抑制装置30の構成を示す図である。図2において、機械式ガバナ20は、ガバナシャフト21、フライウェイト22、ガバナスリーブ23、ガバナレバー24、テンションレバー25、スプリング26、コントロールラック27、及び燃料プランジャ28を備えている。ガバナシャフト21は、クランク軸4に連結されている。ガバナレバー24及びテンションレバー25は、支持軸29周りに回転自在に設けられている。支持軸29は、機械式ガバナ20のケーシングに支持されている。ガバナレバー24の一端部及びテンションレバー25の一端部は、スプリング26を介して連結されている。ガバナレバー24の他端部は、リンクを介してコントロールラック27に連結されている。テンションレバー25の他端部は、リンクを介してアクセルレバー9に連結されている。燃料プランジャ28は、燃料配管を介してインジェクタ8に接続されている。
【0021】
ガバナシャフト21は、クランク軸4に連動する。フライウェイト22は、ガバナシャフト21の回転が生み出す遠心力により広がる。この結果、フライウェイト22がガバナスリーブ23を押し出すので、ガバナスリーブ23がガバナシャフト21の軸方向外側に突出する。ガバナレバー24がガバナスリーブ23の突出により傾くと、コントロールラック27の位置が変更される。コントロールラック27の位置の変更により、燃料プランジャ28内に燃料を供給する通路の開口面積が変更される。この結果、燃料噴射量が変更される。一方、アクセルレバー8はユーザーによって操作される部材であり、アクセルレバー8によるアクセルの操作量に応じて、テンションレバー25が傾く。ガバナレバー24はスプリング26を介してテンションレバー25に連結されているので、テンションレバー25に連動してガバナレバー24も傾く。この結果、ガバナレバー24は、エンジンの回転数及びアクセルの操作量に応じて、燃料噴射量を調整する。
【0022】
図1、図2を参照して、黒煙発生抑制装置30を説明する。黒煙発生抑制装置30は、空気過剰率の減少を抑制するように、燃料噴射量の制限を実行又は解除する。
【0023】
図1、図2において、黒煙発生抑制装置30は、制御装置10、キースイッチ11、大気圧センサ13、ストッパ31、高地ソレノイド32、及び高地出力調整ボルト33を備えている。制御装置10、キースイッチ11、及び大気圧センサ13は、図1に示されている。ストッパ31、高地ソレノイド32、及び高地出力調整ボルト33は、図2に示されている。
【0024】
ストッパ31は、機械式ガバナ20のケーシングに対して回転自在に支持されている。高地ソレノイド32及び高地出力調整ボルト33は、ストッパ31の回動範囲を制限するように配置されている。高地ソレノイド32の芯軸32aは、ストッパ31に接触可能に配置されている。高地出力調整ボルト33は、ストッパ31に接触可能に配置されている。また、ストッパ31は、テンションレバー25に接触可能に配置されている。このため、高地ソレノイド32及び高地出力調整ボルト33は、ストッパ31の可動範囲を制限できる。したがって、高地ソレノイド32及び高地出力調整ボルト33は、テンションレバー25及びガバナレバー24を介して、コントロールラック27の可動範囲を制限する。
【0025】
制御装置10は、大気圧センサ13によって検出される大気圧に基づいて、高地ソレノイド32の駆動を制御する。制御装置10は、高地ソレノイド32内のHoldコイル及びPullコイルの通電を制御することによって、芯軸32aの位置を制御する。芯軸32aの取り得る位置は、プッシュ位置及びプル位置である。プッシュ位置は、プル位置よりもテンションレバー25側に設定されている。
【0026】
制御装置10は、キースイッチ11の切換操作及び切換操作時点からの経過時間に基づいて、高地ソレノイド32の駆動を制御する。キースイッチ11の切換操作及び切換操作時点からの経過時間は、エンジンの駆動状態をある程度対応している。ユーザーは、キースイッチ11内にキーを挿入し、該キーを操作することによって、キースイッチ11を操作できる。キースイッチ11の取りうる位置は、OFF位置、ON位置(イグニッションON位置)、スタート位置(エンジンスタート位置)である。
【0027】
キースイッチ11は、スタータモータ11を始動させるスタータ始動指令及びスタータを停止させるスタータ停止指令を入力するスタータ操作器である。キースイッチ11のOFF位置からON位置への切換操作は、スタータ始動指令の制御装置10への入力である。キースイッチ11のON位置からスタート位置への切換操作は、スタータ停止指令の制御装置10への入力である。制御装置10は、スタータ始動指令の入力及びスタータ停止指令の入力を検出できる。また、制御装置10は、スタータ始動指令の検出時点からスタータ停止指令の検出時点までの時間(スタータ作動時間)を検出できる。
【0028】
図2において、機械式ガバナ20は、エンジン停止時におけるテンションレバー25の制限機構を備えている。テンションレバー25の制限機構は、制御装置10、キースイッチ11、及びストップソレノイド40からなっている。ストップソレノイド40は、テンションレバー25の回動範囲を制限するように配置されている。ストップソレノイド40の芯軸40aは、テンションレバー25に接触可能に配置されている。このため、ストップソレノイド40は、テンションレバー25の可動範囲を制限できる。この結果、コントロールラック27の可動範囲も制限されるが、この制限された可動範囲内において燃料噴射量を最小から最大まで変更できる。つまり、ストップソレノイド40は、燃料噴射量を制限しない。
【0029】
制御装置10は、キースイッチ11の切換操作及び切換操作時点からの経過時間に基づいて、ストップソレノイド40の駆動を制御する。
【0030】
図3から図7を参照して、黒煙発生抑制制御を説明する。黒煙発生抑制制御は、制御装置10による高地ソレノイド32の制御を指している。図3は、黒煙発生抑制制御のフロー図である。まず、基本的に、図3に示されるフローにしたがって、黒煙発生抑制制御の説明を行う。
【0031】
図4は、エンジン停止時における高地ソレノイド32及びストップソレノイド40を示す図である。図4に示されるように、エンジン停止時において、高地ソレノイド32の芯軸32aはプッシュ位置PH32にあり、ストップソレノイド40の芯軸40aはプル位置PL40にある。このとき、テンションレバー25は燃料減量側FDに傾いており、コントロールラック27も燃料減量側FDにある。
【0032】
図2のステップS1において、制御装置10は、キースイッチ11がOFF位置からON位置に切り換えられたことを認識すると、スタータモータ12を作動させる。この結果、エンジン1の始動が開始される。
【0033】
ステップS1の次に、ステップS2が実行される。ステップS2において、制御装置10は、始動時制御を開始する。始動時制御において、コントロールラック27の可動範囲が、通常範囲に設定される。通常範囲において、燃料噴射量の変更可能な範囲は基本的に制限されていない。
【0034】
図5は、始動時制御及び低地制御における高地ソレノイド32及びストップソレノイド40を示す図である。始動時制御の開始に伴って、制御装置10は、高地ソレノイド32の芯軸32aをプッシュ位置PH32からプル位置PL32に移動させ、ストップソレノイド40の芯軸40aをプル位置PL40からプッシュ位置PH40に移動させる。始動時制御の実行中、制御装置10は、高地ソレノイド32の芯軸32aをプル位置PL32に保ち、ストップソレノイド40の芯軸40aをプッシュ位置PH40に保つ。始動時制御において、コントロールラック27の可動範囲は、ストップソレノイド40によってのみ制限される通常範囲内にあるため、燃料噴射量の変更可能な範囲は制限されない。
【0035】
ステップS2の次に、ステップS3が実行される。ステップS3において、制御装置10は、キースイッチ11がON位置からスタート位置に切り換えられたことを認識すると、スタータモータ12の作動を停止させる。
【0036】
ステップS3の次に、ステップS4が実行される。ステップS4において、制御装置10は、スタート位置への切換時点から一定の待機時間wが経過したことを検出すると、ステップS5の判定処理を実行する。待機時間wは、例えば、5秒に設定されている。
【0037】
ステップS5において、制御装置10は、大気圧Pが、所定の閾値αよりも小さいか否かを判定する。大気圧Pが閾値αよりも小さい場合、制御装置10は、ステップS6を実行する。大気圧Pが閾値α以上である場合、制御装置10は、ステップS7を実行する。
【0038】
閾値αは、例えば、90kPaに設定されている。1気圧は、約101.3kPaである。つまり、閾値αは、約0.9気圧に設定されている。
【0039】
ステップS6において、制御装置10は、高地制御を開始する。高地制御において、コントロールラック27の可動範囲が、減量範囲に設定される。減量範囲は、通常範囲よりも燃料の減量側に設定されている。
【0040】
図6は、高地制御における高地ソレノイド32及びストップソレノイド40を示す図である。高地制御の開始に伴って、制御装置10は、高地ソレノイド32の芯軸32aをプル位置PL32からプッシュ位置PH32に移動させ、ストップソレノイド40の芯軸40aをプッシュ位置PH40からプル位置PL40に移動させる。始動時制御の実行中、制御装置10は、高地ソレノイド32の芯軸32aをプッシュ位置PH32に保ち、ストップソレノイド40の芯軸40aをプル位置PL40に保つ。始動時制御において、コントロールラック27の可動範囲は、高地ソレノイド32によって制限される減量範囲にあるため、燃料噴射量の変更可能な範囲は減量側に制限されている。
【0041】
ステップS7において、制御装置10は、低地制御を開始する。低地制御において、コントロールラック27の可動範囲が、通常範囲に設定される。低地制御は、始動時制御と同じ制御であり、ステップS5からステップS7に処理が進んだ場合、低地制御において、制御装置10は、高地ソレノイド32及びストップソレノイド40を始動時制御の実行中と同じ状態に保つ。
【0042】
図5に示されるように、低地制御の実行中、制御装置10は、高地ソレノイド32の芯軸32aをプル位置PL32に保ち、ストップソレノイド40の芯軸40aをプッシュ位置PH40に保つ。
【0043】
図7を参照して、黒煙発生抑制制御の一例を示す。図7は、高地ソレノイド32及びストップソレノイド40のタイムチャートの一例を示す図である。図7には、高地ソレノイド32及びストップソレノイド40のそれぞれについて、Holdコイルの通電状態、Pullコイルの通電状態、及び芯軸の位置が記載されている。制御装置10は、高地ソレノイド32及びストップソレノイド40について、Holdコイルの通電状態及びPullコイルの通電状態を制御する。その結果、高地ソレノイド32及びストップソレノイド40の芯軸の位置が制御される。
【0044】
時刻t0は、キースイッチ11がOFF位置からON位置に切り換えられた時刻を示している。時刻t0以前は、エンジン1の停止時を示している。図4に示されるように、エンジン1の停止時において、高地ソレノイド32の芯軸32aはプッシュ位置PH32に保たれており、ストップソレノイド40の芯軸40aはプル位置PL40に保たれている。
【0045】
時刻t1は、キースイッチ11がON位置からスタート位置に切り換えられた時刻を示している。時刻t0から時刻t1までは、エンジン1の始動時を示している。図5に示されるように、エンジン1の始動時において、高地ソレノイド32の芯軸32aはプル位置PL32に保たれており、ストップソレノイド40の芯軸40aはプッシュ位置PH40に保たれている。
【0046】
時刻t2は、時刻t1から待機時間wが経過した時刻を示している。また、時刻t3は、高地制御が開始される時刻を示している。時刻t2から時刻t3の間に、制御装置10は、ステップS5の処理を実行する。つまり、制御装置10は、検出された大気圧P0に基づいて大気圧Pを算出し、大気圧Pと閾値αとの比較を行う。
【0047】
時刻t3以後は、高地制御の実行中を示している。図6に示されるように、高地制御の実行中において、高地ソレノイド32の芯軸32aはプッシュ位置PH32に保たれており、ストップソレノイド40の芯軸40aはプル位置PL40に保たれている。
【0048】
第1実施形態は、次の作用、効果を有している。第1実施形態では、検出された大気圧に応じて、空気過剰率の減少を抑制するように、コントロールラック27の可動範囲が、通常範囲又は通常範囲よりも燃料の減量側に設定される減量範囲に設定される。また、第1実施形態では、始動開始から待機時間wが経過した後に、コントロールラック27の可動範囲の制御が実行される。つまり、エンジン1の始動が完了するまで、燃料噴射量が制限されない。このため、第1実施形態は、大気圧に基づいて燃料噴射量を制限することによって空気過剰率の減少による黒煙の発生を防止しながら、始動不良の発生を防止できる。
【0049】
(第2実施形態)
第2実施形態は、制御フローの内容において、第1実施形態と相違している。エンジン1の構成は、第1実施形態及び第2実施形態において共通している。したがって以下では、第2実施形態における制御フローを説明する。
【0050】
図8は、黒煙発生抑制制御のフロー図である。第2実施形態の制御フローは、第1実施形態の制御フローの構成に加えて、ステップS8を更に備えている。
【0051】
上述したように、ステップS6において高地制御が開始され、ステップS7において低地制御が開始される。ステップS6又はステップS7の開始後に、ステップS8が実行される。ステップS8において、制御装置10は、高地制御又は低地制御の開始時刻から一定時間が経過したことを検出すると、再度ステップS5を実行する。この結果、一定時間毎に、ステップS5の判定処理が実行され、高地制御又は低地制御が新たに開始される。
【0052】
第2実施形態は、次の作用、効果を有している。第2実施形態では、一定時間毎に、検出された大気圧に応じて高地ソレノイド32が作動される。つまり、空気密度が低いときは空気過剰率の減少を防止するために出力が抑制され、空気密度が高いときは出力の制限が解除される。このため、第2実施形態は、大気圧の変化に応じて、黒煙の発生を抑制しながら出力を最大限発揮できる。
【0053】
なお、ステップS5は、一定時間毎に定期的に再実行されるだけでなく、不定期に再実行されても良い。
【0054】
(第3実施形態)
第3実施形態は、待機時間wの構成において、第1及び第2実施形態と相違している。以下では、第3実施形態における待機時間wを説明する。
【0055】
第3実施形態では、一定の待機時間wではなく、可変の待機時間wが採用されている。可変の待機時間wは、スタータモータ12の通電時間の長さに基づいて決定される。スタータモータ12の通電時間tsは、概ね、キースイッチ11のOFF位置からON位置への切換操作時点からキースイッチ11のON位置からスタート位置への切換操作時点までの時間に相当する。
【0056】
(1)ts≦5(秒)の場合、待機時間w=5(秒)に設定される。
(2)5<ts≦10(秒)の場合、待機時間w=10(秒)に設定される。
(3)10(秒)<tsの場合、待機時間w=15(秒)に設定される。
【0057】
第3実施形態は、次の作用、効果を有している。第3実施形態では、エンジン1の始動に要した時間が長くなるにつれて、コントロールラックの可動範囲の制御の開始時刻が遅らされている。このため、第1実施形態は、より一層、始動不良の発生を防止できる。
【0058】
(第4実施形態)
第4実施形態は、空気過剰率の減少を抑制するために、大気圧だけでなく気温に基づいて、高地ソレノイド32の駆動を制御している。一方、第1から第3実施形態は、大気圧のみに基づいて高地ソレノイド32の駆動を制御している。以下では、第1実施形態と第4実施形態との相違点を説明する。
【0059】
図9は、エンジン1の構成を示す図である。エンジン1は、更に、気温センサ14を備えている。気温センサ14は、コントロールパネル15に配置されている。気温センサ14は、気温を検出する。気温センサ14は、第4実施形態における黒煙発生抑制装置30の一部を構成している。
【0060】
図9、図2において、黒煙発生抑制装置30は、制御装置10、キースイッチ11、大気圧センサ13、気温センサ14、ストッパ31、高地ソレノイド32、及び高地出力調整ボルト33を備えている。制御装置10、キースイッチ11、大気圧センサ13、及び気温センサ14は、図9に示されている。ストッパ31、高地ソレノイド32、及び高地出力調整ボルト33は、図2に示されている。
【0061】
図10は、黒煙発生抑制制御のフロー図である。第4実施形態におけるフロー図(図10)は、ステップS5の構成において、第1実施形態におけるフロー図(図3)と異なっている。
【0062】
ステップS5において、制御装置10は、気温補正後の大気圧Pが、所定の閾値αよりも小さいか否かを判定する。気温補正後の大気圧Pが閾値αよりも小さい場合、制御装置10は、ステップS6を実行する。気温補正後の大気圧Pが閾値α以上である場合、制御装置10は、ステップS7を実行する。
【0063】
気温補正後の大気圧Pは、例えば、(1)式で与えられる。
P=T/(273+25)×P0・・・(1)
ここで、Tは気温(K)であり、P0は大気圧(kPa)である。第1項の分母(273+25)は、摂氏0度と絶対零度との温度差+所定の基準温度を指している。ここでは、基準温度は25度に設定されている。上述したように、大気圧P0は大気圧センサ13によって検出され、気温Tは気温センサ14によって検出される。制御装置10は、検出された大気圧P0及び気温Tに基づいて、気温補正後の大気圧Pを算出できる。
【0064】
ステップS5において、制御装置10は、検出された大気圧P0及び気温Tに基づいて気温補正後の大気圧Pを算出し、気温補正後の大気圧Pと閾値αとの比較を行う。
【0065】
第4実施形態は、次の作用、効果を有している。第4実施形態では、検出された大気圧及び気温に応じて、空気過剰率の減少を抑制するように、コントロールラック27の可動範囲が、通常範囲又は通常範囲よりも燃料の減量側に設定される減量範囲に設定される。このため、第4実施形態は、大気圧の低下だけでなく気温の上昇による空気密度の低下に基づいて燃料噴射量を制限することにより、空気過剰率の増大による黒煙の発生をより正確に防止できる。
【符号の説明】
【0066】
1 エンジン
10 制御装置
12 スタータモータ
13 大気圧センサ
14 気温センサ
20 機械式ガバナ
24 ガバナレバー
25 テンションレバー
27 コントロールラック
30 黒煙発生抑制装置
32 高地ソレノイド
P 気温補正後の大気圧
P0 検出された大気圧
T 検出された気温

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転数に応じてコントロールラック位置を制御するガバナレバーと、アクセル操作量に応じた付勢力をガバナレバーに加えるテンションレバーとを備える、機械式ガバナを有するエンジンの黒煙発生抑制装置において、
大気圧を検出する大気圧センサと、
テンションレバーに直接又は間接に接触することによって、コントロールラックの可動範囲を、通常範囲又は通常範囲よりも燃料の減量側に設定される減量範囲に設定するソレノイドと、
スタータを始動させるスタータ始動指令及びスタータを停止させるスタータ停止指令を入力するスタータ操作器と、
検出された大気圧に応じて空気過剰率の減少を抑制するようにソレノイドを作動させると共に、スタータ始動指令及びスタータ停止指令の入力を検出できる制御装置と、を有しており、
制御装置は、スタータ停止指令を検出した後に、ソレノイドを作動させる、ことを特徴とするエンジンの黒煙発生抑制装置。
【請求項2】
スタータ停止指令の検出時点から、制御装置がソレノイドの作動を指令する時点までの間に、一定の待機時間が設けられている、請求項1に記載のエンジンの黒煙発生抑制装置。
【請求項3】
スタータ停止指令の検出時点から、制御装置がソレノイドの作動を指令する時点までの間に、可変の待機時間が設けられており、
可変の待機時間は、スタータ始動指令の検出時点からスタータ停止指令の検出時点までのスタータ作動時間の増大に応じて増大する、請求項1に記載のエンジンの黒煙発生抑制装置。
【請求項4】
制御装置は、エンジンの運転中において定期的又は不定期に繰り返し、ソレノイドを作動させる、請求項1から3のいずれか1つに記載のエンジンの黒煙発生抑制装置。
【請求項5】
更に、気温を検出する気温センサを備えており、
制御装置は、検出された大気圧だけでなく、検出された気温に応じて、空気過剰率の減少を抑制するように、ソレノイドを作動させる、請求項1から4のいずれか1つに記載のエンジンの黒煙発生抑制装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−117461(P2012−117461A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268399(P2010−268399)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】