説明

AD変換器、無線受信機

【課題】消費電力の増大を招くことなく、受動素子の数を削減しチップ占有面積を小さくして低コスト化を図ることが可能なAD変換回路を提供すること。
【解決手段】n次元ベクトルを表すm(n<m<2n)個のアナログ信号のそれぞれを1ビット以上に量子化してm個並列の量子化信号を生成する量子化部と、このm個並列の量子化信号をそれぞれ復号してm個の復号アナログ信号を生成する復号部と、このm個のアナログ信号のそれぞれと上記m個の復号アナログ信号のそれぞれとの差のそれぞれを定数倍してm個の増幅残差信号を出力する残差増幅部と、を有する変換ステージを複数縦続接続して備えた変換部と、この変換部の変換ステージそれぞれにおけるm個並列の量子化信号を該変換ステージの縦続位置に応じた遅延量を考慮して並列位置ごとに合成し、m個並列のディジタル信号を生成する合成部とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベクトルの(組になった)アナログ信号をAD変換するAD変換器およびこれを用いた無線受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
2005年現在の無線通信分野においては、信号を振幅と位相の両方について変調する方式が多く採用されている。このために多くの場合、同相(In-phase)信号(I信号という)と直交相(Quadrature-phase)信号(Q信号という)と呼ばれる直交2信号を用いている。
【0003】
1995年頃は、例えば集積回路上にフィルタを形成する場合、I信号およびQ信号ともにシングルエンド方式(信号線と接地線間の電圧を信号として扱う回路方式)が採用されることもあった。2000年以降は、I信号およびQ信号ともに差動方式(プラスの信号線とマイナスの信号線との間の電圧を信号として扱う回路方式)が採られることが多くなっている。シングルエンド方式の利点は、差動方式と比較して部品点数が少ないことである。1990年代の通信方式は伝送レートが低く、大きなキャパシタを必要としたため、いくつかのキャパシタは集積回路の外付け部品として回路ボード上に実装されていた。外付け部品の数は可能な限り少ない方が低コストとなるので、シングルエンド方式が望ましい。
【0004】
しかしながらシングルエンド方式では、電源電圧、接地電位とは別にアナログの基準電圧としてアナロググラウンド電位を集積回路内部の各増幅回路に供給する必要がある。この場合、アナロググラウンド電位には信号電流が流れ込むため、電流供給(または電流吸収)能力が高いアナロググラウンド用バッファアンプを用いる必要がある。アナロググラウンド用バッファアンプの出力インピーダンスが高いと、アナロググラウンド電位が信号電流によって変動する。この変動は、例えばI信号からQ信号への信号漏洩の原因となったり、出力から入力への信号漏洩の原因となったりする。後者の信号漏洩は、回路の発振という問題を引き起こす。
【0005】
2000年以降の無線通信方式は高速データ伝送のために広帯域化され、比較的容量の小さいキャパシタを用いるように変化してきた。ほとんどの部品がチップ上に集積可能となり、差動方式が採用されることが多くなった。差動方式はプラス端子とマイナス端子にそれぞれ大きさが等しく、極性が逆の電圧を載せ、増幅などを行う方式である。仮想的にプラス端子とマイナス端子の電圧の平均値がアナロググランド電位の役割を果たすが、プラス端子から出力された電流はマイナス端子に流れ込むため、アナロググラウンド端子を用意する必要はない。シングルエンド方式では必要であったアナロググラウンド用バッファアンプは不要であり、消費電力は差動方式の方が小さくなる。
【0006】
現在では、ほとんど差動方式が採用されている。アナログ信号をディジタル信号に変換する場合についても、米国特許第6031480号明細書、同第6753801号明細書に明示されているように、差動増幅回路を用いることが多い。
【特許文献1】米国特許第6031480号明細書
【特許文献2】米国特許第6853801号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、微細加工技術の進展により半導体チップの面積あたりのコストが上昇するに従って、アナログ回路、特に受動素子がチップ面積の、したがってチップコストの大きな割合を占めるようになってきた。このため受動素子の面積削減がコスト削減のためには重要な課題である。
【0008】
シングルエンド方式は部品点数が少ないという点において、チップ面積とコストの削減に有利ではあるが、アナロググラウンド電位を各回路ブロックに供給するために電流駆動能力が高いバッファアンプを必要とするため、消費電力が増大してしまうという問題がある。この問題を解決するため発明者らはアンプ、フィルタ、周波数変換回路を有するアナログ3相信号処理回路の創案を試みている。
【0009】
同様に、アナログディジタル(AD)変換器についても、電流駆動能力が大きいアナロググラウンド電位を用意する必要がなくかつコスト削減が可能となる方式が必要である。
【0010】
本発明は、消費電力の増大を招くことなく、受動素子の数を削減しチップ占有面積を小さくして低コスト化を図ることが可能なAD変換回路およびこれを用いた無線受信機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係るAD変換器は、n次元ベクトルを表すm(n<m<2n)個のアナログ信号のそれぞれを1ビット以上に量子化してm個並列の第1の量子化信号を生成する第1の量子化部と、前記m個並列の第1の量子化信号をそれぞれ復号してm個の第1の復号アナログ信号を生成する第1の復号部と、前記m個のアナログ信号のそれぞれと前記m個の第1の復号アナログ信号のそれぞれとの差のそれぞれを定数倍してm個の増幅残差信号を出力する第1の残差増幅部とを有する第1の変換ステージと、前記m個の増幅残差信号のそれぞれを1ビット以上に量子化してm個並列の第2の量子化信号を生成する第2の量子化部を有する第2の変換ステージと、前記第1の量子化信号に対する前記第2の量子化信号の遅延分前記第1の量子化信号を遅延させて、前記第1の量子化信号と前記第2の量子化信号とを並列位置ごとに合成し、m個並列のディジタル信号を生成する合成部とを具備する。
【0012】
このAD変換器は、入力が、n次元のベクトルを表すm(n<m<2n)個のアナログ信号となっており、n次元のベクトルをその各成分それぞれの差動信号として扱う場合(入力数2n)に比べて入力数が減少(m<2n)している。したがって、これに応じてAD変換回路で必要となる各素子、特にチップ占有面積割合が大きい受動素子の数を減少することができ低コスト化が実現する。また、m個のアナログ信号は、n次元のベクトルを表す信号でかつそれぞれ差動信号を含んでおり、アナロググラウンド電位を各回路ブロックに供給するために電流駆動能力が高いバッファアンプを必要としない。よって省電力である。このAD変換器内部では、m個のアナログ信号に対してそれぞれいわゆるパイプライン処理により所定のディジタル化がなされ、m個並列のディジタル信号が生成される。
【0013】
また、本発明の別の態様に係るAD変換器は、n次元ベクトルを表すm(n<m<2n)個のアナログ信号のそれぞれを1ビット以上に量子化してm個並列の第1の量子化信号を生成する第1の量子化部と、前記m個並列の第1の量子化信号をそれぞれ復号してm個の第1の復号アナログ信号を生成する第1の復号部と、前記m個のアナログ信号のそれぞれと前記m個の第1の復号アナログ信号のそれぞれとの差のそれぞれを定数倍してm個の第1の増幅残差信号を出力する第1の残差増幅部とを有する第1の変換ステージと、前記m個の第1の増幅残差信号のそれぞれを1ビット以上に量子化してm個並列の第2の量子化信号を生成する第2の量子化部と、前記m個並列の第2の量子化信号をそれぞれ復号してm個の第2の復号アナログ信号を生成する第2の復号部と、前記m個の第1の増幅残差信号のそれぞれと前記m個の第2の復号アナログ信号のそれぞれとの差のそれぞれを定数倍してm個の第2の増幅残差信号を出力する第2の残差増幅部とを有する第2の変換ステージと、前記m個の第2の増幅残差信号を前記m個のアナログ信号の代わりに前記第1の変換ステージに導くスイッチと、前記第1の量子化信号に対する前記第2の量子化信号の遅延分前記第1の量子化信号を遅延させて、前記第1の量子化信号と前記第2の量子化信号とを並列位置ごとに合成し、m個並列のディジタル信号を生成する合成部とを具備する。
【0014】
このAD変換器は、入力が、n次元のベクトルを表すm(n<m<2n)個のアナログ信号となっており、n次元のベクトルをその各成分それぞれの差動信号として扱う場合(入力数2n)に比べて入力数が減少(m<2n)している。したがって、これに応じてAD変換回路で必要となる各素子、特にチップ占有面積割合が大きい受動素子の数を減少することができ低コスト化が実現する。また、m個のアナログ信号は、n次元のベクトルを表す信号でかつそれぞれ差動信号を含んでおり、アナロググラウンド電位を各回路ブロックに供給するために電流駆動能力が高いバッファアンプを必要としない。よって省電力である。このAD変換器内部では、m個のアナログ信号に対してそれぞれいわゆる循環型処理で所定のディジタル化がなされ、m個並列のディジタル信号が生成される。
【0015】
また、本発明のさらに別の態様に係るAD変換器は、n次元ベクトルを表すm(n<m<2n)個のアナログ信号をm個並列のKビットディジタル信号に変換するAD変換器であって、k(0≦k≦K−1)ビット目まで決定済みでかつ(k+1)ビット目以降に仮の値が与えられたm個並列のKビットディジタル値をそれぞれ復号してm個の復号アナログ信号を生成する復号部と、前記m個のアナログ信号のそれぞれと前記m個の復号アナログ信号のそれぞれとを比較してm個並列の1ビット量子化信号を生成する量子化部と、前記m個並列の1ビット量子化信号それぞれの値に基づいて、m個並列のKビットコードそれぞれの(k+1)ビット目をそれぞれ決定し、(k+1)ビット目まで決定済みでかつ(k+2)ビット目以降に仮の値がそれぞれ与えられたm個並列のKビットディジタル値を出力する第1の制御部と、前記kを0からK−1まで変化させたそれぞれの状態で前記復号部、前記量子化部、前記第1の制御部を動作させ、Kビット目まで決定済みのm個並列のKビットディジタル値を前記m個並列のKビットディジタル信号として出力する第2の制御部とを具備する。
【0016】
このAD変換器は、入力が、n次元のベクトルを表すm(n<m<2n)個のアナログ信号となっており、n次元のベクトルをその各成分それぞれの差動信号として扱う場合(入力数2n)に比べて入力数が減少(m<2n)している。したがって、これに応じてAD変換回路で必要となる各素子、特にチップ占有面積割合が大きい受動素子の数を減少することができ低コスト化が実現する。また、m個のアナログ信号は、n次元のベクトルを表す信号でかつそれぞれ差動信号を含んでおり、アナロググラウンド電位を各回路ブロックに供給するために電流駆動能力が高いバッファアンプを必要としない。よって省電力である。このAD変換器内部では、m個のアナログ信号に対してそれぞれいわゆる逐次比較処理(逐次近似処理)で所定のディジタル化がなされ、m個並列のディジタル信号が生成される。
【0017】
また、本発明のさらに別の(第4の)態様に係るAD変換器は、n次元ベクトルを表すm(n<m<2n)個のアナログ信号をm個並列のディジタル信号に変換するAD変換器であって、前記m個並列のディジタル信号をそれぞれ復号してm個の復号アナログ信号を生成する復号部と、前記m個のアナログ信号のそれぞれと前記m個の復号アナログ信号のそれぞれとの差のそれぞれを線形変換してm個の線形変換アナログ信号を出力する線形変換部と、前記m個の線形変換アナログ信号のそれぞれを量子化して、m個並列の1ビット量子化信号を前記m個並列のディジタル信号として生成する量子化部とを具備する。
【0018】
このAD変換器は、入力が、n次元のベクトルを表すm(n<m<2n)個のアナログ信号となっており、n次元のベクトルをその各成分それぞれの差動信号として扱う場合(入力数2n)に比べて入力数が減少(m<2n)している。したがって、これに応じてAD変換回路で必要となる各素子、特にチップ占有面積割合が大きい受動素子の数を減少することができ低コスト化が実現する。また、m個のアナログ信号は、n次元のベクトルを表す信号でかつそれぞれ差動信号を含んでおり、アナロググラウンド電位を各回路ブロックに供給するために電流駆動能力が高いバッファアンプを必要としない。よって省電力である。このAD変換器内部では、m個のアナログ信号に対してそれぞれいわゆるデルタシグマ型の処理で所定のディジタル化がなされ、m個並列のディジタル信号が生成される。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るAD変換回路およびこれを用いた無線受信機によれば、消費電力の増大を招くことなく、受動素子の数を削減しチップ占有面積を小さくして低コスト化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
上記一態様または別の態様における実施態様として、前記nが2であり、前記mが3であり、前記第1、第2の変換ステージの前記第1、第2の量子化部が生成する3つ並列の第1、第2の量子化信号がそれぞれ1ビットであり、前記第1の残差増幅部の前記定数倍がほぼ2倍である、とすることができる。この場合、2次元のベクトル(例えばI(t)成分とQ(t)成分とからなる)を表す3つのアナログ信号が入力信号となる。3つのアナログ信号は、例えば(I/2,−I/4−√3・Q/4,−I/4+√3・Q/4)の各信号とすることができる。また、3つ並列の量子化信号がそれぞれ1ビットであることで、量子化部の構成が最も単純化される。残差増幅部の定数倍は、量子化部が生成する3つ並列の量子化信号がそれぞれ1ビットであることに対応してほぼ2倍となる。
【0021】
ここで、前記第1、第2の変換ステージが、前記第1、第2の量子化部においてそれぞれ、3つのアナログ信号それぞれと参照電圧との比較により3つ並列の1ビット量子化信号を生成し、かつ、該第1、第2の量子化部における前記参照電圧それぞれが、前記3つのアナログ信号を平均化演算することで生成されるように、構成されている、とすることができる。
【0022】
この場合、量子化部は1ビットの量子化を行うのに参照電圧との比較を行い、その参照電圧は、3つのアナログ信号を平均化することで生成されている。これは、3つのアナログ信号が、例えば(I/2,−I/4−√3・Q/4,−I/4+√3・Q/4)の各信号とすれば、平均化信号が、((I/2)+(−I/4−√3・Q/4)+(−I/4+√3・Q/4))/3=0(IQ平面の原点)となり1ビット量子化のための参照電圧として好ましい値となるからである。このような平均化信号を参照電圧として用いれば、3つのアナログ信号に同相ノイズが重畳した場合にも同相ノイズに影響されない量子化が可能である。
【0023】
また、ここで、前記第1、第2の変換ステージが、前記第1、第2の量子化部においてそれぞれ、3つのアナログ信号のうちの2つからなる3つの異なるペア内での該アナログ信号同士の比較により3つ並列の1ビット量子化信号を生成する、とすることもできる。この場合には、参照電圧の生成が不要になる利点があり、かつ、量子化部と復号部との接続構成もより容易になる。
【0024】
また、ここで、前記第1の変換ステージにおける前記第1の復号部および前記第1の残差増幅部が、3つのMDAC(Multiplying D-to-A Converter)からなり、該3つのMDACそれぞれの一部構成である前記第1の残差増幅部が、共通化された、同相除去機能を有する3入力3出力演算増幅回路を含む、とすることができる。この場合、3入力3出力演算増幅回路の3入力信号に同相成分が重畳しても出力側では同相成分が非常に小さくなり好ましい。これにより、その3入力信号に同相成分が含まれることがある程度許容できるので、例えばMDAC全体そしてその構成が簡素化できる。
【0025】
また、ここで、前記第1の変換ステージの前記第1の復号部が、前記3つ並列の第1の1ビット量子化信号がすべて同一値である場合に、前記3つの第1の復号アナログ信号として、前記第1の1ビット量子化信号の2値それぞれに対応するアナログ値の間の値を有する信号を3つ生成する、としてもよい。これは、3つ並列の1ビット量子化信号がすべて同一値である場合の3つの復号アナログ信号が大きな同相成分を持たないようにする工夫である。
【0026】
また、ここで、前記第1の変換ステージの前記第1の復号部が、前記3つの第1の復号アナログ信号として、同相成分の除去された3つのアナログ信号を生成する、としてもよい。これによれば、残差増幅部を通常の1入力1出力演算増幅器による構成とすることも一応可能である。
【0027】
また、上記さらに別の態様における実施態様として、前記nが2であり、前記mが3である、とすることができる。この場合、2次元のベクトル(例えばI(t)成分とQ(t)成分とからなる)を表す3つのアナログ信号が入力信号となる。3つのアナログ信号は、例えば(I/2,−I/4−√3・Q/4,−I/4+√3・Q/4)の各信号とすることができる。
【0028】
また、実施態様として、前記第1の制御部が、前記m個並列の1ビット量子化信号がすべて同一値である場合に、前記m個並列のKビットコードであってkビットまで決定済みでかつ(k+1)ビット目以降に仮の値がそれぞれ与えられたものを前記m個並列のKビットディジタル信号としてさらに出力する、としてもよい。m個並列の1ビット量子化信号がすべて同一値(すべて0またはすべて1)となった場合は、仮の値の与えられたビットの部分を含めたm個並列のKビットコードが、m個のアナログ信号にそれぞれ等しいと言える。そこで、この場合には、さらに逐次比較することなく、AD変換結果を得ることができる。
【0029】
また、上記さらに別の態様(第4の態様)における実施態様として、前記nが2であり、前記mが3である、とすることができる。この場合、2次元のベクトル(例えばI(t)成分とQ(t)成分とからなる)を表す3つのアナログ信号が入力信号となる。3つのアナログ信号は、例えば(I/2,−I/4−√3・Q/4,−I/4+√3・Q/4)の各信号とすることができる。
【0030】
ここで、前記線形変換部が、3つのアナログ信号のそれぞれと3つの復号アナログ信号のそれぞれとの差のそれぞれを線形変換処理するための、共通化された、同相除去機能を有する3入力3出力演算増幅回路を含む、とすることができる。この場合、3入力3出力演算増幅回路の3入力信号に同相成分が重畳しても出力側では同相成分が非常に小さくなり好ましい。
【0031】
また、ここで、前記量子化部が、3つの線形変換アナログ信号それぞれと参照電圧との比較により3つ並列の1ビット量子化信号を生成し、かつ、該量子化部それぞれにおける前記参照電圧が、前記3つの線形変換アナログ信号を平均化演算することで生成されるように構成されている、とすることができる。
【0032】
この場合、量子化部は1ビットの量子化を行うのに参照電圧との比較を行い、その参照電圧は、3つの線形変換アナログ信号を平均化することで生成されている。これは、3つの線形変換アナログ信号が、例えば(I/2,−I/4−√3・Q/4,−I/4+√3・Q/4)の各信号とすれば、平均化信号が、((I/2)+(−I/4−√3・Q/4)+(−I/4+√3・Q/4))/3=0(IQ平面の原点)となり1ビット量子化のための参照電圧として好ましい値となるからである。このような平均化信号を参照電圧として用いれば、3つの線形変換アナログ信号に同相ノイズが重畳した場合にも同相ノイズに影響されない量子化が可能である。
【0033】
また、ここで、前記量子化部が、3つの線形変換アナログ信号のうちの2つからなる3つの異なるペア内での該線形変換アナログ信号同士の比較により3つ並列の1ビット量子化信号を生成する、とすることもできる。この場合には、参照電圧の生成が不要になる利点があり、かつ、復号部の構成をより簡素にすることができる。
【0034】
以上を踏まえ、以下では実施形態を図面を参照しながら説明する。図1は、一実施形態に係るAD変換器の構成を示している。図1に示すように、このAD変換器は、変換部10と合成部20とを有する。変換部10は、変換ステージ11、12、…、1Kの縦続接続からなる。
【0035】
変換部10は、3つのアナログ信号が入力されてそれらそれぞれに対して各変換ステージ11、12、…、1Kで1ビットの量子化を行う。各変換ステージ11、12、…、1Kでは、量子化後の残差アナログ量を次の変換ステージへの3つのアナログ信号として出力する。合成部20は、変換部10の変換ステージそれぞれにおける3つ並列の量子化信号を該変換ステージの縦続位置に応じた遅延量を考慮して並列位置ごとに合成し、3つのディジタル信号を生成する。変換部10および合成部20により、いわゆるパイプライン型AD変換器を構成する。ただし、3つのアナログ信号が入力され、これに応じて3つのディジタル信号が出力される点は特有である。
【0036】
このAD変換器では、各変換ステージ11、12、…、1Kにおいて残差が増幅されるので、後段の変換ステージにいくほど細かい量子化を行っていることになる。また、信号を増幅して伝えるので、各変換ステージ11、12、…、1Kの内部雑音の影響は前段ほど大きく、後段ほど小さい。これらの特徴は通常のパイプライン型AD変換器と同様である。
【0037】
ここで、このAD変換器に入力されるべき3つのアナログ信号について補足する。これらのアナログ信号は、位相平面上の2次元ベクトルを表す信号である。したがって、独立には2つの信号で足りるが、信号処理上等の利点からあえて3つの信号としたものである。位相平面をIQ平面とすると、3つのアナログ信号v0T,v1T,v2Tは、例えば(I/2,−I/4−√3・Q/4,−I/4+√3・Q/4)の各信号に相当する信号である。3つのアナログ信号v0T,v1T,v2Tは、同相成分(v0T+v1T+v2T)/3=vmと、3つの差動成分v0T−vm,v1T−vm,v2T−vmとを有している。ここで3つの差動成分を加えると定義から当然0となる。同相成分vmを0としたとき3つのアナログ信号v0T,v1T,v2Tは、(I/2,−I/4−√3・Q/4,−I/4+√3・Q/4)の各信号に一致する。
【0038】
図2は、図1中に示した変換ステージ11、12、…、1Kの内部構成例を示している。図2に示すように、変換ステージ11は、量子化部101、復号部102、残差増幅部103を有する(他の変換ステージも同様;ただし変換ステージ1Kは復号部102、残差増幅部103を有さなくてもよい)。
【0039】
量子化部101は、入力された3つのアナログ信号をそれぞれ1ビットに量子化して3つ並列の量子化信号を生成する。復号部102は、この3つ並列の量子化信号をそれぞれ復号して3つの復号アナログ信号を生成する。残差増幅部103は、上記3つのアナログ信号のそれぞれと3つの復号アナログ信号のそれぞれとの差のそれぞれを2倍して3つの増幅残差信号を出力する。残差増幅部103は、このため減算器104、105、106と、3入力3出力演算増幅回路107とを有する。3入力3出力演算増幅回路は、同相成分には利得がほとんどなく、差動成分に対して大きな利得がある(後述する)。
【0040】
図3は、図2中に示した量子化部101の内部構成例を示している。図3に示すように、量子化部101は、3つの並列に構成された比較回路101a、101b、101cを有する。比較回路101a、101b、101cそれぞれの一方の入力として3つのアナログ信号が供給され、比較回路101a、101b、101cそれぞれの他方の入力(基準入力)として参照電圧が加えられている。3つのアナログ信号それぞれと参照電圧との大小関係により、比較回路101a、101b、101cの各出力に1ビットの量子化信号が得られる。参照電圧は、量子化部101に入力される3つのアナログ信号の同相成分に相当する電圧としてあらかじめ発生させておく。
【0041】
図4は、図3中に示した比較回路101a(101b、101c)の具体例を示している。この例ではFET(field effect transistor)であるQ1〜Q10により構成している。なお、図4中のクロックの入力端子は、量子化信号を出力するタイミングを与えるためのクロック入力端子である。
【0042】
図5は、図3中に示した比較回路101a(101b、101c)の別の具体例を示している。この例では、参照電圧を発生するため、この量子化部101に入力されている3つのアナログ信号を利用する。図5に示すように、FETであるQ11、Q12、Q13を設け、それらのゲートに3つのアナログ信号をそれぞれ加える。このようにすることで、等価的に、3つのアナログ信号の平均化された値(すなわちそれらの同相成分)が参照電圧となる。したがって、3つのアナログ信号に同相ノイズが重畳した場合(例えば電源電圧変動)にもこのノイズに影響を受けにくい量子化が行える。
【0043】
図6は、図3に示した量子化部101の動作(理想的な場合)を説明するための位相平面を示している。すでに述べたように、3つのアナログ信号はその平均を同相成分し、同相成分とそれぞれの信号電圧との差のそれぞれを3つの差動成分としている。このため、3つのアナログ信号の差動成分の和は0になる。和が0になるという条件の下で、3つのアナログ信号の自由度は2であり、位相平面(IQ平面)上のベクトルと1対1の対応が可能となる。
【0044】
図3に示した量子化部101を誤差がない量子化部と仮定すると、入力アナログ信号は図6に示す破線で区切られた6つの領域に応じて、それぞれ図6に示す2進コードに変換される。コード「000」とコード「111」に相当する領域は存在しない。しかしながら、実際の比較回路101a等はオフセットを持つし、あらかじめ発生させた参照電圧と3つのアナログ信号の同相成分電圧とは必ずしも一致しない。
【0045】
このため、実際には図7に示すように、破線の位置が理想的な場所からずれてしまう。図7における破線で囲まれた中心に近い領域では各比較回路101a、101b、101cの出力は「000」となる。破線のずれ方によっては中心付近にできる領域は「111」になる場合もある。これらの誤差を考慮すると、量子化部101は図8に示す7点に量子化する量子化器とみなすことができる。中心の点は「000」または「111」に相当する。
【0046】
図9は、図2中に示した復号部102および残差増幅部103の具体例を示している。ただし、説明の簡単化のため、1信号分のみの図示である。この回路は全体として、MDAC(Multiplying D-to-A Converter)と呼ばれる回路になっている。図9中に示す3入力3出力演算増幅回路A1は、差動成分に対して高い利得をもち、同相成分に対して小さい利得となる同相成分(共通モード)除去機能を有する(図2中の3入力3出力演算増幅回路107に相当する)。
【0047】
また、3つ並列の1ビットの量子化信号に対しては、デコーダD1が特に「000」、「111」の検出(すなわち3つのアナログ信号が位相平面の中央の点に相当する場合の検出)を行う。この検出がされると、スイッチSW6の切り替え位置はcomとなる。他のコードの場合は、入力されるアナログ信号に対応する量子化信号のハイ/ローに応じて、それぞれVref_P、Vref_Nの切り替え位置となる。comは、Vref_P、Vref_Nの中間の電圧である。復号部102の機能は、デコーダD1、およびスイッチSW6と3つの参照電圧com、Vref_P、Vref_Nとによって実現されている。
【0048】
以上の3入力3出力演算増幅回路A1の性質およびデコーダD1の存在を除けば、このMDACは、シングルエンド方式または差動方式のMDACと同じ回路構成である。一例として3つ並列の1ビットの量子化信号が「001」と「101」の場合について述べる。「001」の場合は、3つのスイッチSW6(他の2信号分の回路におけるSW6を含めて3つ)はそれぞれ、Vref_N、Vref_N、Vref_Pの切り替え位置となる。仮にVref_P−Vref_Nが1Vとすると、同相成分が除去された後の復号アナログ信号(すなわち3入力3出力演算増幅回路A1の出力での換算)はそれぞれ(−1/3,−1/3,2/3)となる。
【0049】
「101」の場合は3つのスイッチSW6はそれぞれ、Vref_P、Vref_N、Vref_Pの接続位置となり、同相成分が除去された後の復号アナログ信号(すなわち3入力3出力演算増幅回路A1の出力での換算)はそれぞれ(1/3,−2/3,1/3)となる。これらの復号アナログ信号が入力のアナログ信号からそれぞれ減算され、さらにその減算結果が3入力3出力演算増幅回路A1でそれぞれ2倍に増幅されて出力される。
【0050】
MDACとしての動作を補足すると、以下である。図示のようにSW1、SW2、SW3が閉じ、SW4、SW5が開いた状態では、入力のアナログ信号に応じた電圧が同一容量のコンデンサC1、C2に充電される。次に、逆にSW1、SW2、SW3が開き、SW4、SW5が閉じた状態になると、3入力3出力演算増幅回路A1の入力ノードが0Vとなるように、3入力3出力演算増幅回路A1の出力からSW4、C1、C2、SW5、SW6を介してVref_P、Vref_N、comのいずれかに流れる電流が発生する。
【0051】
ここで分かりやすくため0Vであるcomに電流が流れるとすると、当初、3入力3出力演算増幅回路A1の入力ノードはC2の充電電圧分だけマイナスの電位となり、これを上記電流でゼロボルトに回復するように電流が流れるのでC1には当初の2倍の電荷まで充電がなされる。したがって、3入力3出力演算増幅回路A1の出力には入力アナログ信号の2倍の電圧が発生する。同様に、Vref_P、Vref_N、comの実際の電圧を考慮すれば減算を込みに考えることができる。
【0052】
図10は、図9中に示した3入力3出力演算増幅回路A1の具体例を示している。この例では、FETであるQ21〜Q29と、定電流源I1〜I4、抵抗R1〜R3、演算増幅回路A2とにより構成している。基本的にいわゆるフォールデッドカスコード型増幅器となっている。このタイプの増幅器は共通モード(同相成分)の入力許容範囲が広いという利点がある。
【0053】
抵抗R1〜R3および演算増幅回路A2は、これらにより同相成分フィードバック回路を構成し、出力側の同相成分が同相成分基準電圧Vcomに等しくなるように電流源回路のFETであるQ24、Q25、Q26のゲート電圧を制御する。出力側の同相成分は、図示するように、一方がそれぞれ増幅器の出力に接続された値の等しい抵抗R1〜R3のスター接続の共通ノード電圧として生成され得る。
【0054】
図11は、信号が存在する領域を考慮したときの回路動作に必要な範囲を位相平面上で示している。以上説明したAD変換器では、位相平面上に存在する信号を6角形の外延を有する範囲内に収めるように回路設計を行うことで、4角形の外延を有する範囲内に収める場合(すなわち通常の2相の処理)より回路動作上の利点が得られる。すなわち、図11に示すように、位相平面上の円で示される範囲31に信号が存在するならば、この範囲31をカバーする4角形の範囲32より6角形の範囲33の方が円の範囲31からのはみ出し面積が小さい。したがって、無駄なバイアス電流を流す必要が小さく済み省電力化できる。
【0055】
図12は、図2中に示した復号部102および残差増幅部103の別の具体例を示している(図9と同様に1信号分の図示)。図9に示したように3入力3出力演算増幅回路A1の同相成分除去比が十分高い場合には、図9に示したMDACで足りる。そうでない場合は、復号部102の出力に相当する段階で同相成分が発生しないように工夫するのが好ましい。そこで、図12に示すように、各容量C1、C2を分割してそれぞれC11およびC12と、C21およびC22とにすることで、Vref_P/2とVref_N/2とを作ることができる。これらの1/2の電圧を発生させる場合には、デコーダD2でそのような場合を検出し、検出結果によりSW51、SW52のいずれか一方を閉じた状態にする。
【0056】
図12に示すような工夫を行えば、「001」や「101」に対応する復号アナログ信号を、(−0.5,−0.5,1.0)や(0.5,−1.0,0.5)のように同相成分を除去した形(3つの復号アナログ信号を加えるとゼロ)で作ることが可能となる。
【0057】
以上説明したように、この実施形態のAD変換器によれば、電流駆動能力が大きいアナロググラウンド電位を用意する必要がなくかつコスト削減が可能となる。これは処理する信号が、同相成分と3つの差動成分とを有する3つのアナログ信号となっており、基本的に差動成分が信号となっていて電流駆動能力が大きいアナロググラウンド電位を用意する必要がないからである。さらに3つのアナログ信号を処理するので、I、Q信号それぞれを差動信号とする場合に比べて必要な容量素子の数が3/4となる。したがって、チップ面積が減少しコスト削減が実現する。また、基本的にはパイプライン型のAD変換器であることから高いサンプルレートとする場合にも向いている。
【0058】
次に、上記説明の実施形態の変形例を図13ないし図16を参照して説明する。図13は、図2中に示した量子化部101の内部構成の別の例を示している。図13に示すように、この量子化部101Aは、3つの並列に構成された比較回路101d、101e、101fを有する。比較回路101d、101e、101fそれぞれの一方の入力には、3つのアナログ信号のうちのひとつが供給され、他方の入力には3つのアナログ信号のうちの別のひとつが供給される。それぞれの入力ペアは互いに異なる。
【0059】
入力されるアナログ信号同士の大小関係により、比較回路101d、101e、101fの各出力に1ビットの量子化信号が得られる。比較回路101d、101e、101fの具体的回路としては図4と同様に構成することができる。ただし、参照電圧は入力されず、他方の入力にもアナログ信号が供給される。すなわち、この量子化部101Aでは図3に示した量子化部101では必要であった参照電圧の供給が不要である。このため回路を簡素化でき、より小さいチップ面積のAD変換器が実現する。
【0060】
図14は、図13に示した量子化部101Aの動作(理想的な場合)を説明するための位相平面を示している。図13に示した量子化部101Aは3つのアナログ信号の差成分を1ビットに量子化するので、比較回路101d、101e、101fでの誤差がない場合には、図14に示すように領域の境界線と3つのアナログ信号の軸とは一致する。比較回路101d、101e、101fに誤差がある場合には、図15に示すように、「111」または「000」に相当する領域が存在することになる。
【0061】
図16は、図13に示した量子化部101Aに対応する場合の復号部102Aおよび残差増幅部103Aの具体例を示している。ただし、説明の簡単化のため、1信号分のみの図示である。この回路は全体として、図9、図12と同様、MDACである。ここで図9、図12中に示した構成要素と同じものには同一符号を付してある。その部分の説明は省略する。図16に示すように、この回路では、図12に示した回路では必要な、Vref_PとVref_Nとの中間電圧comを必要としない。また、スイッチSW61、SW62を制御する信号はデコーダD2を介さずに比較回路101d、101e、101fの出力信号をそのまま利用できる。さらにSW51、SW52は不要である。
【0062】
「111」信号がこのMDACに入力された場合、SW61とSW62のうちのどちらかがVref_Pに接続され、他方がVref_Nに接続されるので、互いに打ち消しあう信号入力となる。このため、コンデンサC21とコンデンサC22とが図12における中間電圧comに接続された状態と等しくなる。また「000」信号が入力された場合には、図16のコンデンサC21とコンデンサC22とは「111」の場合とはそれぞれ逆の電圧に接続され、結果として互いに打ち消しあう信号入力となる。このため特にデコーダD2を用いることなく、「111」と「000」は出力「0」に相当する信号として復号される。デコーダD2が必要ないので、回路が簡略化できるのみならず、より高速動作に適した回路となる。
【0063】
なお、以上の各AD変換器では、2次元のベクトルを表す3つのアナログ信号を入力とする場合について述べたが、一般的にn次元ベクトルを表すm(n<m<2n)個のアナログ信号をAD変換する場合も同様である。また、量子化部101は各1ビットの量子化信号を出力する以外に、各2ビット以上とすることも可能である。この場合そのビット数に応じて残差増幅部の定数倍の値を変える。例えば各2ビットであれば定数倍は4倍とする。
【0064】
次に、別の実施形態について図17を参照して説明する。図17は、別の実施形態に係るAD変換器の構成を示している。図17において図1中に示した構成要素と同一のものには同一符号を付してある。このAD変換器は、変換ステージ11、12、合成部20A、スイッチ61、62、63を有する。
【0065】
スイッチ61、62、63は、3つのアナログ入力信号が変換ステージ11に入力される前に介在する。スイッチ61、62、63の他方の入力端子にはそれぞれ変換ステージ12からの出力アナログ信号が供給される(これにより変換ステージ11、12の循環接続がされる)。合成部20Aは、変換ステージ11、12それぞれにおける3つ並列の量子化信号を該変換ステージ11、12の縦続位置および循環位置に応じた遅延量を考慮して並列位置ごとに合成し、3つのディジタル信号を生成する。
【0066】
以上の構成により、このAD変換器は、いわゆる循環型AD変換器となっている。ただし、3つのアナログ信号が入力され、これに応じて3つのディジタル信号が出力される点は特有である。動作としては、スイッチ61、62、63が当初、入力信号である3つのアナログ信号を変換ステージ11に導き、これにより変換ステージ11、12が作動し、次に、変換ステージ12の出力が変換ステージ11に導かれるようにスイッチ61、62、63が切り換わり、これによりさらに変換ステージ11、12が作動し、以下同様に所定のビット数が得られるまで循環接続の状態が維持される。所定のビット数が得られたらスイッチ61、62、63が入力信号である3つのアナログ信号を変換ステージ11に導くように切り換わり次のAD変換動作に移行する。
【0067】
ほかの動作の点は、すでに述べた上記の実施形態についての説明で尽きている。すなわち、変換ステージ11、12の内部構成やその動作については、図2ないし図12または図13ないし図16を参照した説明と同様である。したがって、この実施形態でも、電流駆動能力が大きいアナロググラウンド電位を用意する必要がなくかつコスト削減が可能となる。さらに3つのアナログ信号を処理するので、I、Q信号それぞれを差動信号とする場合に比べて必要な容量素子の数が3/4となる。よって、チップ面積が減少しコスト削減が実現する。なお、上記の実施形態(図1)と比較しても、回路規模がより小さいためさらにコスト低減になるが、変換ステージ11、12を循環して動作させるためAD変換のサンプルレートは劣る。この実施形態も、一般的なn次元ベクトルを表すm(n<m<2n)個のアナログ信号をAD変換する場合に適用できる。
【0068】
次に、さらに別の実施形態について図18を参照して説明する。図18は、さらに別の実施形態に係るAD変換器の構成を示している。同図に示すように、このAD変換器は、サンプルホールド部71、量子化部72、制御部73、復号部74を有する。
【0069】
サンプルホールド部71は、3つの入力のアナログ信号をそれぞれAD変換のサンプルレートに応じてサンプルホールドし、そのホールドされた信号を量子化部72に導く。量子化部72は、ホールドされた3つのアナログ信号のそれぞれと、復号部74からの3つの復号アナログ信号のそれぞれとを比較して3つ並列の1ビット量子化信号を生成する。生成された1ビット量子化信号は制御部73に導かれる。制御部73は、3つ並列の1ビット量子化信号それぞれの値に基づいて、3つのKビットコードそれぞれの(k+1)ビット目をそれぞれ決定し(1≦k+1≦K)、(k+1)ビット目まで決定済みでかつ(k+2)ビット目以降に仮の値がそれぞれ与えられた3つ並列のKビットディジタル値を出力する。出力された3つ並列のKビットディジタル値は復号部74に導かれる。
【0070】
復号部74は、この3つ並列のKビットディジタル値をそれぞれ復号して3つの復号アナログ信号を生成する。制御部73は、さらに、kを0からK−1まで変化させたそれぞれの状態で復号部74、量子化部72を動作させ、Kビット目まで決定済みの3つ並列のKビットディジタル値を3つ並列のKビットディジタル信号として出力する。この3つ並列のKビットディジタル信号が、ひとつのサンプルタイミングにおけるAD変換出力になる。このAD変換器は、いわゆる逐次比較型(逐次近似型)のAD変換器である。ただし、3つのアナログ信号が入力され、これに応じて3つのディジタル信号が出力される点は特有である。
【0071】
上記を概略的に述べると、サンプルホールド部71の出力と復号部74の出力との比較結果により量子化部72で1ビット量子化がなされ、その量子化の値に基づき制御部73の出力ディジタルコードが書き換えられる。制御部73の出力ディジタルコードは復号部74に入力され、次回の比較に利用される。
【0072】
図19は、図18中に示した量子化部72の具体例を示している。ただし、説明の簡単化のため、1信号分のみの図示である。この回路は、すでに説明した図4の比較回路と同様の構成である。すなわち、FETであるQ1〜Q10により構成し、図中のクロックの入力端子にクロックを加えることで、量子化信号を出力するタイミングを与える。Q10のゲートには復号アナログ信号を加える。
【0073】
図18に示した3入力のAD変換器の動作の前提として、通常のスカラー入力をAD変換する場合について図20を参照して説明する。図20は、図18中に示した制御部73の動作を数直線上で示しており、同時に通常の逐次比較型AD変換器の動作を説明するものでもある。入力アナログ信号を黒四角、ある段階の制御部73の出力に応じた復号部74の出力を黒丸で示す。この比較の結果では入力アナログ信号の方が大きいので、制御部73の出力が修正されて矢印131で示すように復号部74の出力が増加する。
【0074】
次に比較すると、図の通り、まだ復号部74出力より入力アナログ入力の方が大きいので、制御部73の出力の修正により矢印132のように復号部74出力が大きくなる。さらに次に比較すると、今度は入力アナログ信号の方が小さいので矢印133のように復号部74出力を減らすように制御部73の出力が修正・書き換えられる。このアルゴリズムは2分探査とも呼ばれている。
【0075】
図21は、図18中に示した制御部73の動作を位相平面上で示している。入力アナログ信号を黒四角、ある段階の制御部73の出力に応じた復号部74の出力を黒丸で示す。図示するように、この3入力のAD変換器では、量子化部72の出力において、単なるスカラーごとの大小ではなく残差ベクトルの向きが検出できる。すなわち、量子化部72の出力が例えば「100」である場合は、入力アナログ信号(ベクトル)が位相平面上で右側60度の扇型領域にあると判定される(図8も参照できる)。これにより制御部73の出力が修正されて矢印141で示すように復号部74の出力(ベクトル)が修正される。
【0076】
次に、修正後の復号ベクトルと入力アナログベクトルとの残差ベクトルを量子化部72で量子化することで残差ベクトルをこの場合「110」と求めることができる。これにより、制御部73は矢印142に相当するように出力のディジタルコードを修正する。さらに次に矢印143のように徐々に入力ベクトルと復号ベクトルとの差が小さくなるように修正を繰り返すことで最も近い復号ベクトルとこれに相当するディジタルコードを決定することができる。
【0077】
なお、量子化部72の出力がすべて同一の値(すべて0またはすべて1)になった場合には、制御部73はそれ以上の出力コードの修正を行わない。この時点で3つの入力アナログ信号に対応するディジタル信号が制御部73の出力に得られているとみることができるからである(これは図8を参照しても分かる)。この点は、図18に示すAD変換回路がスカラー用の3つのAD変換回路を単に並列に構成したものと異なる点である。
【0078】
この実施形態でも、電流駆動能力が大きいアナロググラウンド電位を用意する必要がなくかつコスト削減が可能となる。さらに3つのアナログ信号を処理するので、I、Q信号それぞれを差動信号とする場合に比べて必要な容量素子の数が3/4となる。よって、チップ面積が減少しコスト削減が実現する。また、上記のパイプライン型のAD変換器(図1)との比較では、回路規模が小さいためさらにコスト低減になる。また、循環型のAD変換器(図17)との比較では、増幅動作が不要なので消費電力が小さい。ただし、パイプライン型AD変換器に比較すると、逐次比較するためAD変換のサンプルレートは劣る。なお、この実施形態も、一般的なn次元ベクトルを表すm(n<m<2n)個のアナログ信号をAD変換する場合に適用できる。
【0079】
次に、さらに別の(第4の)実施形態に係るAD変換器について図22を参照して説明する。図22は、さらに別の(第4の)実施形態に係るAD変換器の構成を示している。同図に示すように、このAD変換器は、線形変換部81、量子化部82、復号部83を有する。
【0080】
線形変換部81は、AD変換の入力である3つのアナログ信号のそれぞれと復号部83からの3つの復号アナログ信号のそれぞれとの差のそれぞれを線形変換して3つの線形変換アナログ信号を出力する。線形変換アナログ信号は量子化部82に供給される。量子化部82は、3つの線形変換アナログ信号のそれぞれを量子化して、3つ並列の1ビット量子化信号を3つ並列のディジタル信号として生成する。復号部83は、3つ並列のディジタル信号をそれぞれ復号して3つの復号アナログ信号を生成する。3つの復号アナログ信号は線形変換部81に導かれる。
【0081】
以上の構成により、このAD変換器は、いわゆるデルタシグマ型AD変換器となっている。ただし、3つのアナログ信号が入力され、これに応じて3つのディジタル信号が出力される点は特有である。なお、量子化部82には、図3に示した量子化部101と同様のものを用いることができる。したがって、その内部構成である比較回路101a等は図4や図5に示したものが具体例となる。
【0082】
線形変換部81について補足すると、線形変換部81は、AD変換の入力である3つのアナログ信号のそれぞれと復号部83からの3つの復号アナログ信号のそれぞれとの差を入力とするが、この入力から出力までの伝達特性はある周波数特性を持った線形の伝達特性である。この線形変換部81が有する周波数特性によって量子化雑音の周波数分布を制御することが可能である。よって粗い分解能の量子化部82を用いて、狭い周波数範囲であれば精度が高いAD変換が可能となる。これらの点は従来のスカラー信号をAD変換するデルタシグマ型AD変換器と同様である。
【0083】
図23は、図22中に示した線形変換部81の具体例を示している。ただし、説明の簡単化のため、1信号分の図示である。この線形変換部81Aはスイッチトキャパシタ積分器を用いる。図示の各スイッチの状態においてはサンプリング容量C71にアナログ入力信号に相当する電荷が蓄積される。次に、各スイッチの状態が反転すると、サンプリング容量C71に蓄えられた電荷が積分容量C72に転送され、前回までに蓄えられた電荷に加算されることにより積分の動作がなされる。
【0084】
このとき、サンプリング容量C71には復号部83により復号されたアナログ信号が印加され、積分容量C72から復号アナログ信号に相当する電荷が吸い出される。結果として、アナログ入力と復号アナログ信号の差に相当する電荷が積分容量C72に蓄積されることになる。なお、演算増幅回路A3については、同相成分除去のため図9中に示したような3入力3出力演算増幅回路A1(具体的回路例は図10)を用いるのが好ましい。
【0085】
線形変換部81Aにおいて、アナログ入力信号をx、復号アナログ信号をv、線形変換部81の出力をyとしたとき、図23に示す回路の入出力関係は、
【数1】

となる。ただし、Cはサンプリング容量C71の容量値、Cは積分容量C72の容量値である。6入力、3出力全体の入出力関係は、
【数2】

となる、ただし、
【数3】

である。
【0086】
図23では線形変換部81の構成としてスイッチトキャパシタ積分器を用いる場合を示したが、スイッチトキャパシタフィルタとしては、積分器のような低域通過特性のみでなく、帯域通過特性や高域通過特性が実現できることはよく知られている。また、スカラー信号用の通常のデルタシグマ型AD変換器では高次のフィルタを用いた試作報告が多数あるので、これらの高次フィルタを本実施形態用に拡張して用いることは可能である。
【0087】
なお、量子化部82としては、図13に示した量子化部101Aを用いることも可能である。この場合に対応する復号部83は、図24に示すような簡単なスイッチ回路による構成の復号部83Aとすることができる。3つの復号信号は、スイッチSW80、SW81、SW82による選択により、正の参照電圧Vref_Pまたは負の参照電圧Vref_Nのいずれかとなる。スイッチSW80、SW81、SW82の制御には、量子化信号をそのまま利用することができる。すなわち、量子化信号からスイッチSW80、SW81、SW82を制御する信号に変換するデコーダを必要としない。このため高速動作に適しているのみならず、回路規模を小さくできるので、それだけチップ面積や消費電力を削減可能である。
【0088】
図13に示した量子化部101Aおよび図24に示した復号部83Aに対応する線形変換部81の具体例を示す回路が図25である。ここでは説明の簡単化のため、1信号分の図示である。この線形変換部81Bは、図23に示したものと同様、スイッチトキャパシタ積分器を用いる。図示の各スイッチの状態においてはサンプリング容量C701、C702にアナログ入力信号に相当する電荷が蓄積される。
【0089】
次に、各スイッチの状態が反転すると、サンプリング容量C701、C702に蓄えられた電荷が積分容量C72に転送され、前回までに蓄えられた電荷に加算されることにより積分の動作がなされる。このとき、サンプリング容量C701、C702には復号部83Aにより復号されたアナログ信号が印加され、積分容量C72から復号アナログ信号に相当する電荷が吸い出される。結果として、アナログ入力と復号アナログ信号の差に相当する電荷が積分容量C72に蓄積されることになる。なお、演算増幅回路A3については、同相成分除去のため3入力3出力演算増幅回路A1(図10)を用いるのが好ましい。
【0090】
図26は、図24に示したような参照電圧を利用する復号部83Aの代わりに用いる、参照電流を用いる構成の復号部83Bを示している。この場合に対応する量子化部は、やはり図13に示した構成である。この場合の復号部83Bは構成が単純であり、この点は図24に示した参照電圧を用いる復号部83Aの場合と共通する。図26において、3つの参照電流は、量子化信号0、1、2によって出力先が選択される。復号信号は電流信号としてそれぞれ出力される。
【0091】
この復号部83BではスイッチSW90、SW91、SW92の制御に量子化信号をそのまま利用することができるので、量子化信号からスイッチSW90、SW91、SW92を制御する信号に変換するデコーダを必要としない。このため高速動作に適しているのみならず、回路規模を小さくできるので、それだけチップ面積や消費電力を削減可能である。
【0092】
図27は、図26に示した復号部83Bと組み合わせて用いる線形変換部81の具体例を示している。ただし、説明の簡単化のため、1信号分の図示である。この線形変換部81Cは連続時間積分器(RC積分器)である。電圧入力信号は抵抗R71によって電流に変換され、電流型の復号部83Bから供給される電流復号信号と合成される。正常な動作範囲においては入力信号と復号成分は互いに打ち消しあい、誤差分だけが積分容量C72に蓄積される。AD変換器として電流入力型とする場合には抵抗R71も省略可能である。なお、演算増幅回路A3については、同相成分除去のため3入力3出力演算増幅回路A1(図10)を用いるのが好ましい。
【0093】
次に、図28は、図22中に示した線形変換部81のさらに別の具体例を示している。この線形変換部81Dは、その構成として、抵抗R81〜R98、容量C81〜C82、3入力3出力演算増幅回路A4、A5(これらの具体例として図10に示したものを用いることができる)を有する。これらの構成により、図示するようにRCフィルタが内在している。したがって、3相信号経路にRCの信号パスがあり、式2の行列において0であった要素(3相信号間の相互結合を示す要素)にも特定の周波数特性を有する式が現れる。このような場合でも本実施形態のAD変換回路を実現できる。
【0094】
図22に示す実施形態でも、電流駆動能力が大きいアナロググラウンド電位を用意する必要がなくかつコスト削減が可能となる。さらに3つのアナログ信号を処理するので、I、Q信号それぞれを差動信号とする場合に比べて必要な容量素子の数が3/4となる。よって、チップ面積が減少しコスト削減が実現する。また、上記のパイプライン型のAD変換器との比較では、回路規模が小さいためさらにコスト低減になる。なお、この実施形態も、一般的なn次元ベクトルを表すm(n<m<2n)個のアナログ信号をAD変換する場合に適用できる。
【0095】
次に、以上説明した各AD変換器を無線受信機に応用した場合の実施形態について図29を参照して説明する。図29は、図1、図17、図18、または図22に示したAD変換器を使用した無線受信機の構成を示している。図29に示すように、この無線受信機は、アンテナ45、低雑音増幅器46、周波数変換器47、低域通過フィルタ48、可変利得増幅回路49、ベクトルAD変換器50、3相2相変換器51、処理部52を有する。ベクトルAD変換器50は上記で説明したいずれかのAD変換器である。
【0096】
この無線受信機の動作を説明する。搬送波に搬送された信号はアンテナ45によって電気信号に変換され、低雑音増幅器46にて増幅された後、周波数変換回路(ダウンコンバータ)47によって3相ベースバンド信号に変換される。周波数変換回路47の復調軸は、IQ位相平面上の互いに120°の角度をもって原点で交わる3つの軸である。周波数変換回路47の出力は3相フィルタによって不要信号(高調波成分)が除去され、可変利得増幅回路49によってAD変換器50の入力として都合のよい振幅にまで増幅される。
【0097】
AD変換器50の出力はディジタル信号ではあるが、上記のように3相信号(3つ並列のディジタル信号)である。以後の処理では、ディジタル信号処理は、実部、虚部の2成分として扱うことが多いので、3相2相変換器51で2相に変換された後に処理部52に供給される。処理部52では、2つのディジタル信号に対して所定に処理を行う。
【0098】
このような無線受信機の構成により、ベースバンドアナログ部が3相信号処理回路に統一される。3相信号処理回路はシングルエンド方式において必要としたアナロググランド用バッファアンプを必要とせず低消費電力化に適しており、かつI信号およびQ信号のような複素信号を増幅することが可能でありながら、必要な回路素子の数は通常の差動方式に比較して少ない。したがって、半導体チップ上の占有面積を小さくすることができる。受信機ベースバンドアナログ部を3相信号処理回路に統一することによってこの効果は最大となり、それだけ集積回路製造の低コスト化が可能となる。さらに3相信号と直交信号への変換をディジタル部で行えるので、アナログ的な誤差の影響を回避できる利点もある。
【0099】
なお、本発明は上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】一実施形態に係るAD変換器の構成を示すブロック図。
【図2】図1中に示した変換ステージの内部構成例を示すブロック図。
【図3】図2中に示した量子化部の内部構成例を示すブロック図。
【図4】図3中に示した比較回路の具体例を示す回路図。
【図5】図3中に示した比較回路の別の具体例を示す回路図。
【図6】図3に示した量子化部の動作(理想的な場合)を説明するための位相平面図。
【図7】図3に示した量子化部の動作(実際的な場合)を説明するための位相平面図。
【図8】図3に示した量子化部の動作を位相平面上で示す説明図。
【図9】図2中に示した復号部および残差増幅部の具体例を示す回路図。
【図10】図9中に示した3入力3出力演算増幅回路の具体例を示す回路図。
【図11】信号が存在する領域を考慮したときの回路動作に必要な範囲を位相平面上で示す説明図。
【図12】図2中に示した復号部および残差増幅部の別の具体例を示す回路図。
【図13】図2中に示した量子化部の内部構成の別の例を示すブロック図。
【図14】図13に示した量子化部の動作(理想的な場合)を説明するための位相平面図。
【図15】図13に示した量子化部の動作(実際的な場合)を説明するための位相平面図。
【図16】図2中に示した復号部および残差増幅部のさらに別の具体例を示す回路図。
【図17】別の実施形態に係るAD変換器の構成を示すブロック図。
【図18】さらに別の実施形態に係るAD変換器の構成を示すブロック図。
【図19】図18中に示した量子化部の具体例を示す回路図。
【図20】図18中に示した制御部の動作を数直線上で示す説明図。
【図21】図18中に示した制御部の動作を位相平面上で示す説明図。
【図22】さらに別の(第4の)実施形態に係るAD変換器の構成を示すブロック図。
【図23】図22中に示した線形変換部の具体例を示す回路図。
【図24】図22中に示した復号部の一具体例を示す回路図。
【図25】図22中に示した線形変換部の別の具体例を示す回路図。
【図26】図22中に示した復号部の別の具体例を示す回路図。
【図27】図22中に示した線形変換部のさらに別の具体例を示す回路図。
【図28】図22中に示した線形変換部のさらに別の具体例を示す回路図。
【図29】図1、図17、図18、図23に示したAD変換器を使用した無線受信機の構成を示すブロック図。
【符号の説明】
【0101】
10…変換部、11,12,1K…変換ステージ、20,20A…合成部、31…信号存在領域、32…2相信号を処理するのに必要な範囲、33…3相信号を処理するのに必要な範囲、45…アンテナ、46…低雑音増幅器、47…周波数変換器、48…低域通過フィルタ、49…可変利得増幅回路、50…ベクトルAD変換器、51…3相2相変換器、52…処理部、61,62,63…スイッチ、71…サンプルホールド部、72…量子化部、73…制御部、74…復号部、81,81A,81B,81C,81D…線形変換部、82…量子化部、83,83A,83B…復号部、101,101A…量子化部、101a,101b,101c,101d,101e,101f…比較回路、102,102A…復号部、103,103A…残差増幅部、104,105,106…減算器、107…3入力3出力演算増幅回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n次元ベクトルを表すm(n<m<2n)個のアナログ信号のそれぞれを1ビット以上に量子化してm個並列の第1の量子化信号を生成する第1の量子化部と、前記m個並列の第1の量子化信号をそれぞれ復号してm個の第1の復号アナログ信号を生成する第1の復号部と、前記m個のアナログ信号のそれぞれと前記m個の第1の復号アナログ信号のそれぞれとの差のそれぞれを定数倍してm個の増幅残差信号を出力する第1の残差増幅部とを有する第1の変換ステージと、
前記m個の増幅残差信号のそれぞれを1ビット以上に量子化してm個並列の第2の量子化信号を生成する第2の量子化部を有する第2の変換ステージと、
前記第1の量子化信号に対する前記第2の量子化信号の遅延分前記第1の量子化信号を遅延させて、前記第1の量子化信号と前記第2の量子化信号とを並列位置ごとに合成し、m個並列のディジタル信号を生成する合成部と
を具備することを特徴とするAD変換器。
【請求項2】
n次元ベクトルを表すm(n<m<2n)個のアナログ信号のそれぞれを1ビット以上に量子化してm個並列の第1の量子化信号を生成する第1の量子化部と、前記m個並列の第1の量子化信号をそれぞれ復号してm個の第1の復号アナログ信号を生成する第1の復号部と、前記m個のアナログ信号のそれぞれと前記m個の第1の復号アナログ信号のそれぞれとの差のそれぞれを定数倍してm個の第1の増幅残差信号を出力する第1の残差増幅部とを有する第1の変換ステージと、
前記m個の第1の増幅残差信号のそれぞれを1ビット以上に量子化してm個並列の第2の量子化信号を生成する第2の量子化部と、前記m個並列の第2の量子化信号をそれぞれ復号してm個の第2の復号アナログ信号を生成する第2の復号部と、前記m個の第1の増幅残差信号のそれぞれと前記m個の第2の復号アナログ信号のそれぞれとの差のそれぞれを定数倍してm個の第2の増幅残差信号を出力する第2の残差増幅部とを有する第2の変換ステージと、
前記m個の第2の増幅残差信号を前記m個のアナログ信号の代わりに前記第1の変換ステージに導くスイッチと、
前記第1の量子化信号に対する前記第2の量子化信号の遅延分前記第1の量子化信号を遅延させて、前記第1の量子化信号と前記第2の量子化信号とを並列位置ごとに合成し、m個並列のディジタル信号を生成する合成部と
を具備することを特徴とするAD変換器。
【請求項3】
前記nが2であり、前記mが3であり、前記第1、第2の変換ステージの前記第1、第2の量子化部が生成する3つ並列の第1、第2の量子化信号がそれぞれ1ビットであり、前記第1の残差増幅部の前記定数倍がほぼ2倍であることを特徴とする請求項1記載のAD変換器。
【請求項4】
前記nが2であり、前記mが3であり、前記第1、第2の変換ステージの前記第1、第2の量子化部が生成する3つ並列の第1、第2の量子化信号がそれぞれ1ビットであり、前記第1、第2の残差増幅部の前記定数倍がそれぞれほぼ2倍であることを特徴とする請求項2記載のAD変換器。
【請求項5】
前記第1、第2の変換ステージが、前記第1、第2の量子化部においてそれぞれ、3つのアナログ信号それぞれと参照電圧との比較により3つ並列の1ビット量子化信号を生成し、かつ、該第1、第2の量子化部における前記参照電圧それぞれが、前記3つのアナログ信号を平均化演算することで生成されるように、構成されていることを特徴とする請求項3記載のAD変換器。
【請求項6】
前記第1、第2の変換ステージが、前記第1、第2の量子化部においてそれぞれ、3つのアナログ信号それぞれと参照電圧との比較により3つ並列の1ビット量子化信号を生成し、かつ、該第1、第2の量子化部における前記参照電圧それぞれが、前記3つのアナログ信号を平均化演算することで生成されるように、構成されていることを特徴とする請求項4記載のAD変換器。
【請求項7】
前記第1、第2の変換ステージが、前記第1、第2の量子化部においてそれぞれ、3つのアナログ信号のうちの2つからなる3つの異なるペア内での該アナログ信号同士の比較により3つ並列の1ビット量子化信号を生成することを特徴とする請求項3記載のAD変換器。
【請求項8】
前記第1、第2の変換ステージが、前記第1、第2の量子化部においてそれぞれ、3つのアナログ信号のうちの2つからなる3つの異なるペア内での該アナログ信号同士の比較により3つ並列の1ビット量子化信号を生成することを特徴とする請求項4記載のAD変換器。
【請求項9】
前記第1の変換ステージにおける前記第1の復号部および前記第1の残差増幅部が、3つのMDACからなり、該3つのMDACそれぞれの一部構成である前記第1の残差増幅部が、共通化された、同相除去機能を有する3入力3出力演算増幅回路を含むことを特徴とする請求項3記載のAD変換器。
【請求項10】
前記第1の変換ステージにおける前記第1の復号部および前記第1の残差増幅部が、第1の3つのMDACからなり、該第1の3つのMDACそれぞれの一部構成である前記第1の残差増幅部が、共通化された、同相除去機能を有する第1の3入力3出力演算増幅回路を含み、
前記第2の変換ステージにおける前記第2の復号部および前記第2の残差増幅部が、第2の3つのMDACからなり、該第2の3つのMDACそれぞれの一部構成である前記第2の残差増幅部が、共通化された、同相除去機能を有する第2の3入力3出力演算増幅回路を含むこと
を特徴とする請求項4記載のAD変換器。
【請求項11】
前記第1の変換ステージの前記第1の復号部が、前記3つ並列の第1の1ビット量子化信号がすべて同一値である場合に、前記3つの第1の復号アナログ信号として、前記第1の1ビット量子化信号の2値それぞれに対応するアナログ値の間の値を有する信号を3つ生成することを特徴とする請求項3記載のAD変換器。
【請求項12】
前記第1の変換ステージの前記第1の復号部が、前記3つ並列の第1の1ビット量子化信号がすべて同一値である場合に、前記3つの第1の復号アナログ信号として、前記第1の1ビット量子化信号の2値それぞれに対応するアナログ値の間の値を有する信号を3つ生成し、
前記第2の変換ステージの前記第2の復号部が、前記3つ並列の第2の1ビット量子化信号がすべて同一値である場合に、前記3つの第2の復号アナログ信号として、前記第2の1ビット量子化信号の2値それぞれに対応するアナログ値の間の値を有する信号を3つ生成すること
を特徴とする請求項4記載のAD変換器。
【請求項13】
前記第1の変換ステージの前記第1の復号部が、前記3つの第1の復号アナログ信号として、同相成分の除去された3つのアナログ信号を生成することを特徴とする請求項3記載のAD変換器。
【請求項14】
前記第1の変換ステージの前記第1の復号部が、前記3つの第1の復号アナログ信号として、同相成分の除去された3つのアナログ信号を生成し、
前記第2の変換ステージの前記第2の復号部が、前記3つの第2の復号アナログ信号として、同相成分の除去された3つのアナログ信号を生成すること
を特徴とする請求項4記載のAD変換器。
【請求項15】
2次元ベクトルを表す信号で変調された搬送波をダウンコンバートして前記2次元ベクトルを表すベースバンド信号として3つのアナログ信号を生成する周波数変換器と、
前記3つのアナログ信号のそれぞれを1ビット以上に量子化して3並列の第1の量子化信号を生成する第1の量子化部と、前記3つ並列の第1の量子化信号をそれぞれ復号して3つの第1の復号アナログ信号を生成する第1の復号部と、前記3つのアナログ信号のそれぞれと前記3つの第1の復号アナログ信号のそれぞれとの差のそれぞれを定数倍して3つの増幅残差信号を出力する第1の残差増幅部とを有する第1の変換ステージと、前記3つの増幅残差信号のそれぞれを1ビット以上に量子化して3つ並列の第2の量子化信号を生成する第2の量子化部を有する第2の変換ステージと、前記第1の量子化信号に対する前記第2の量子化信号の遅延分前記第1の量子化信号を遅延させて、前記第1の量子化信号と前記第2の量子化信号とを並列位置ごとに合成し、3つ並列のディジタル信号を生成する合成部とを備えたAD変換器と、
前記3つ並列のディジタル信号から、2次元ベクトルを表す前記信号として、2つ並列のディジタル信号を生成する3相2相変換器と、
前記2つ並列のディジタル信号をディジタル処理する処理部と
を具備することを特徴とする無線受信機。
【請求項16】
2次元ベクトルを表す信号で変調された搬送波をダウンコンバートして前記2次元ベクトルを表すベースバンド信号として3つのアナログ信号を生成する周波数変換器と、
前記3つのアナログ信号のそれぞれを1ビット以上に量子化して3つ並列の第1の量子化信号を生成する第1の量子化部と、前記3つ並列の第1の量子化信号をそれぞれ復号して3つの第1の復号アナログ信号を生成する第1の復号部と、前記3つのアナログ信号のそれぞれと前記3つの第1の復号アナログ信号のそれぞれとの差のそれぞれを定数倍して3つの第1の増幅残差信号を出力する第1の残差増幅部とを有する第1の変換ステージと、前記3つの第1の増幅残差信号のそれぞれを1ビット以上に量子化して3つ並列の第2の量子化信号を生成する第2の量子化部と、前記3つ並列の第2の量子化信号をそれぞれ復号して3つの第2の復号アナログ信号を生成する第2の復号部と、前記3つの第1の増幅残差信号のそれぞれと前記3つの第2の復号アナログ信号のそれぞれとの差のそれぞれを定数倍して3つの第2の増幅残差信号を出力する第2の残差増幅部とを有する第2の変換ステージと、前記3つの第2の増幅残差信号を前記3つのアナログ信号の代わりに前記第1の変換ステージに導くスイッチと、前記第1の量子化信号に対する前記第2の量子化信号の遅延分前記第1の量子化信号を遅延させて、前記第1の量子化信号と前記第2の量子化信号とを並列位置ごとに合成し、3つ並列のディジタル信号を生成する合成部とを備えたAD変換器と、
前記3つ並列のディジタル信号から、2次元ベクトルを表す前記信号として、2つ並列のディジタル信号を生成する3相2相変換器と、
前記2つ並列のディジタル信号をディジタル処理する処理部と
を具備することを特徴とする無線受信機。
【請求項17】
n次元ベクトルを表すm(n<m<2n)個のアナログ信号をm個並列のKビットディジタル信号に変換するAD変換器であって、
k(0≦k≦K−1)ビット目まで決定済みでかつ(k+1)ビット目以降に仮の値が与えられたm個並列のKビットディジタル値をそれぞれ復号してm個の復号アナログ信号を生成する復号部と、
前記m個のアナログ信号のそれぞれと前記m個の復号アナログ信号のそれぞれとを比較してm個並列の1ビット量子化信号を生成する量子化部と、
前記m個並列の1ビット量子化信号それぞれの値に基づいて、m個並列のKビットコードそれぞれの(k+1)ビット目をそれぞれ決定し、(k+1)ビット目まで決定済みでかつ(k+2)ビット目以降に仮の値がそれぞれ与えられたm個並列のKビットディジタル値を出力する第1の制御部と、
前記kを0からK−1まで変化させたそれぞれの状態で前記復号部、前記量子化部、前記第1の制御部を動作させ、Kビット目まで決定済みのm個並列のKビットディジタル値を前記m個並列のKビットディジタル信号として出力する第2の制御部と
を具備することを特徴とするAD変換器。
【請求項18】
前記nが2であり、前記mが3であることを特徴とする請求項17記載のAD変換器。
【請求項19】
前記第1の制御部が、前記m個並列の1ビット量子化信号がすべて同一値である場合に、前記m個並列のKビットコードであってkビットまで決定済みでかつ(k+1)ビット目以降に仮の値がそれぞれ与えられたものを前記m個並列のKビットディジタル信号としてさらに出力することを特徴とする請求項17記載のAD変換器。
【請求項20】
2次元ベクトルを表す信号で変調された搬送波をダウンコンバートして前記2次元ベクトルを表すベースバンド信号として3つのアナログ信号を生成する周波数変換器と、
前記3つのアナログ信号を3つ並列のKビットディジタル信号に変換するAD変換器であって、k(0≦k≦K−1)ビット目まで決定済みでかつ(k+1)ビット目以降に仮の値が与えられた3つのKビットディジタル値をそれぞれ復号して3つの復号アナログ信号を生成する復号部と、前記3つのアナログ信号のそれぞれと前記3つの復号アナログ信号のそれぞれとを比較して3つ並列の1ビット量子化信号を生成する量子化部と、前記3つ並列の1ビット量子化信号それぞれの値に基づいて、3つ並列のKビットコードそれぞれの(k+1)ビット目をそれぞれ決定し、(k+1)ビット目まで決定済みでかつ(k+2)ビット目以降に仮の値がそれぞれ与えられた3つ並列のKビットディジタル値を出力する第1の制御部と、前記kを0からK−1まで変化させたそれぞれの状態で前記復号部、前記量子化部、前記第1の制御部を動作させ、Kビット目まで決定済みの3つ並列のKビットディジタル値を前記3つ並列のKビットディジタル信号として出力する第2の制御部とを備えたAD変換器と、
前記3つ並列のKビットディジタル信号から、2次元ベクトルを表す前記信号として、2つ並列のディジタル信号を生成する3相2相変換器と、
前記2つ並列のディジタル信号をディジタル処理する処理部と
を具備することを特徴とする無線受信機。
【請求項21】
n次元ベクトルを表すm(n<m<2n)個のアナログ信号をm個並列のディジタル信号に変換するAD変換器であって、
前記m個並列のディジタル信号をそれぞれ復号してm個の復号アナログ信号を生成する復号部と、
前記m個のアナログ信号のそれぞれと前記m個の復号アナログ信号のそれぞれとの差のそれぞれを線形変換してm個の線形変換アナログ信号を出力する線形変換部と、
前記m個の線形変換アナログ信号のそれぞれを量子化して、m個並列の1ビット量子化信号を前記m個並列のディジタル信号として生成する量子化部と
を具備することを特徴とするAD変換器。
【請求項22】
前記nが2であり、前記mが3であることを特徴とする請求項21記載のAD変換器。
【請求項23】
前記線形変換部が、3つのアナログ信号のそれぞれと3つの復号アナログ信号のそれぞれとの差のそれぞれを線形変換処理するための、共通化された、同相除去機能を有する3入力3出力演算増幅回路を含むことを特徴とする請求項22記載のAD変換器。
【請求項24】
前記量子化部が、3つの線形変換アナログ信号それぞれと参照電圧との比較により3つ並列の1ビット量子化信号を生成し、かつ、該量子化部それぞれにおける前記参照電圧が、前記3つの線形変換アナログ信号を平均化演算することで生成されるように構成されていることを特徴とする請求項22記載のAD変換器。
【請求項25】
前記量子化部が、3つの線形変換アナログ信号のうちの2つからなる3つの異なるペア内での該線形変換アナログ信号同士の比較により3つ並列の1ビット量子化信号を生成することを特徴とする請求項22記載のAD変換器。
【請求項26】
2次元ベクトルを表す信号で変調された搬送波をダウンコンバートして前記2次元ベクトルを表すベースバンド信号として3つのアナログ信号を生成する周波数変換器と、
2次元ベクトルを表す3つのアナログ信号を3つ並列のディジタル信号に変換するAD変換器であって、前記3つ並列のディジタル信号をそれぞれ復号して3つの復号アナログ信号を生成する復号部と、前記3つのアナログ信号のそれぞれと前記3つの復号アナログ信号のそれぞれとの差のそれぞれを線形変換して3つの線形変換アナログ信号を出力する線形変換部と、前記3つの線形変換アナログ信号のそれぞれを量子化して、3つ並列の1ビット量子化信号を前記3つ並列のディジタル信号として生成する量子化部を備えたAD変換器と、
前記3つ並列のディジタル信号から、2次元ベクトルを表す前記信号として、2つ並列のディジタル信号を生成する3相2相変換器と、
前記2つ並列のディジタル信号をディジタル処理する処理部と
を具備することを特徴とする無線受信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2008−35008(P2008−35008A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204140(P2006−204140)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】