説明

Al基合金スパッタリングターゲット

【課題】低配線抵抗と耐ヒロック性に優れた金属薄膜の形成に有用であり、好ましくはスパッタリング時のスプラッシュの発生を抑制することができるAl基合金スパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】本発明のAl基合金スパッタリングターゲットは、Feを0.0010〜0.4質量%と、Siを0.0010〜0.50質量%含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイなどのフラットパネルディスプレイに用いられる配線膜や電極膜を形成するのに有用なAl基合金スパッタリングターゲットに関するものである。以下では、液晶ディスプレイを中心に説明するが、本発明の用途をこれに限定する趣旨ではない。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの一つである液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)は、従来の表示機器であるブラウン管を使用したものよりも薄型化、軽量化、低消費電力化を図ることができ、しかも高解像度が得られるという利点があるため、最近では表示機器として主流となってきている。かかるLCDには、画素スイッチとなる薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)が組み込まれたTFT液晶が主に用いられている。
【0003】
このTFTの一部として使用される薄膜状の電極およびこれに連なる配線を構成する金属薄膜には種々の特性が要求され、特に近年のLCDの大型化あるいは高精細化の動きにより、信号の遅延を防止するために低配線抵抗化が重要な特性になりつつある。
【0004】
かかる低配線抵抗の金属薄膜材料としては、純Alが挙げられる。しかしながら、純Alは耐熱性が十分ではないため、純Alを用いた金属薄膜では、LCDの製造段階における絶縁膜の成膜工程等で200〜400℃程度の熱履歴を受けると、基板と薄膜との熱膨張係数の違いに起因する圧縮応力が機動力となって、ヒロックといわれる微小な凹凸が表面に生じて、配線間での短絡や断線を引き起こす場合があった。
【0005】
そこで、これまで、かかるヒロック発生の問題を解決するために種々の技術が開示されており、例えば特許文献1には、Nd等の希土類元素を1.0〜15原子%含むAl合金よりなる半導体用電極が開示されている。また、特許文献2には、Feや希土類元素等を1.0〜10原子%含有するAl基合金で形成される配線膜や電極膜が開示されている。さらに、特許文献3には、Feを0.1〜3.0原子%、Siを0.5〜3.0原子%含有するAl基合金薄膜が開示されている。しかしながら、これらの文献に開示されるAl基合金は、合金元素の含有率が高いため、液晶パネルの大型化に伴う、さらなる低配線抵抗化(特に、熱処理後の配線抵抗の低減化)に対応できない場合があった。
【0006】
一方、特許文献4には、薄膜電極や薄膜配線等の形成に用いられるAl合金スパッタリングターゲットとして、Fe、Siをそれぞれ0.001〜0.01質量%、及びCuを0.0001〜0.01質量%含有し、平均結晶粒径が5mm以下のAl合金スパッタリングターゲットが開示されている。かかるスパッタリングターゲットを用いて得られる金属薄膜は、上記特許文献1〜3に記載の金属薄膜に比して合金元素量が少ないため、配線抵抗を低減することができる一方で、合金元素量を低減したことにより耐ヒロック性が低下する場合があった。また、結晶粒径を小さくして(5mm以下)スパッタリング時のスプラッシュの発生を抑制するために、Fe及びSiに加えてCuを必須成分としている。
【0007】
さらに、特許文献5には、スパッタリング時のスプラッシュの発生抑制技術として、Ti、Zr、Cr等の高融点金属を含むAl基合金スパッタリングターゲットにおいて、硬度が低い方(Hv≦25)がスプラッシュを抑制できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2733006号公報
【特許文献2】特許第2727967号公報
【特許文献3】特許第4009165号公報
【特許文献4】特開2007−63621号公報
【特許文献5】特許第3410278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の様な事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、低配線抵抗(300℃程度の熱履歴を受けた後の配線抵抗が3.7μΩcm以下)と耐ヒロック性に優れた金属薄膜の形成に有用であり、好ましくはさらにスパッタリング時のスプラッシュの発生を抑制することができる、Fe及びSi含有Al基合金スパッタリングターゲットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決し得た本発明のAl基合金スパッタリングターゲットは、Feを0.0010〜0.4質量%と、Siを0.0010〜0.50質量%含有することを特徴とする。
【0011】
上記のAl基合金スパッタリングターゲットにおいて、硬度(Hv)が26以上であることや、Mn,Cr,Mo,およびNbよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を0.001〜0.1質量%含むものは、本発明の好ましい実施態様である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のAl基合金スパッタリングターゲットは、合金元素(FeやSi等)の含有量が適度に調整されているため、優れた低配線抵抗(300℃程度の熱履歴を受けた後の配線抵抗が3.7μΩcm以下)と耐ヒロック性とを兼ね備えた金属薄膜を形成することができる。また、Al基合金スパッタリングターゲットの硬度(Hv)を26以上とすることにより、スパッタリング時のスプラッシュの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のAl基合金スパッタリングターゲット(以下、単に「ターゲット」と称する場合がある)は、Feを0.0010〜0.4質量%と、Siを0.0010〜0.50質量%含有することを特徴とする。
【0014】
本発明にかかるターゲットの組成を、前述した特許文献3と比べると、特許文献3ではSiの下限を0.5%原子%(≒0.52質量%)にしている点で、Siの含有率の上限を0.50質量%以下とする本発明と相違する。以下に詳述するように、本発明者らの検討結果によれば、FeとSiとを本発明で規定する範囲内に制御することにより、特に熱処理後の配線抵抗を一層低減できると共に、優れた耐ヒロック性をも兼ね備えた金属薄膜を提供し得るターゲットが得られることが判明した。また、本発明にかかるターゲットの組成を前述の特許文献4と比べると、特許文献4ではFe、Siの上限をいずれも0.01質量%と極低減化し、かつCuをほぼ同程度添加している点で、Cuを添加しない本発明と相違している。また、特許文献4では、Fe、Si、及びCuの微量添加により結晶粒径を微細化して、特にスパッタリング時のスプラッシュの発生を抑制しているが、本発明者らの検討によれば、Cuを添加しなくとも、好ましくはターゲットの硬度(Hv)を適切に制御する(Hv≧26)ことによって、スプラッシュの発生を効果的に抑えられることが判明した。すなわち、特許文献4において、本発明のような極微量のFeおよびSiを含むターゲットにおいて、スプラッシュの発生抑制に有効な硬度(Hv)は確立されていない。
【0015】
本発明のターゲットにおいて、合金元素(FeやSi)の含有量を従来公知のターゲットに比して低減あるいは調整することにより、得られる金属薄膜の低配線抵抗化が図れるのみならず、耐ヒロック性を向上することができるメカニズムは明確ではないが、以下のように推察される。
【0016】
一般に、Al基合金の低配線抵抗化は
(1)成膜過程(150〜180℃近傍)で過飽和に固溶していた合金元素の後工程での析出、および
(2)結晶粒成長による粒径の粗大化
という膜組織の変化によってもたらされ、このうち特に(1)の固溶元素の析出(固溶状態にある元素の総固溶量の低減)の影響が大きいことが知られている。
【0017】
また、ヒロック抑制には、成膜過程(150〜180℃近傍)で一定量以上の固溶元素が結晶粒内で固溶状態を維持することが必要になることが知られている。
【0018】
このため、低配線抵抗と高ヒロック耐性を併せ持つ金属薄膜を得るためには、成膜過程(150〜180℃近傍)で一定量以上の固溶元素の固溶状態を維持するとともに、LCDの製造段階における絶縁膜の成膜工程等(200〜400℃)で固溶元素の析出を促すことが必要となる。
【0019】
ところで、本発明者らは、Al基合金において合金元素であるFeは220〜250℃において析出し、またSiは結晶粒の成長を抑制する効果があること、そして、合金元素としてFeとSiを併用することにより、低温域で成膜しても配線抵抗を低減できることを見出している(特許文献3参照)。というのも、合金元素の析出は、固溶した原子が粒界まで拡散する体拡散の過程と粒界を通じて粒界三重点などに凝集する過程があるが、低温域(200℃近傍)では特に体拡散速度が律速となる。そこで、結晶粒成長を抑制して、固溶元素の粒界までの拡散距離を低下させることにより、合金元素は速やかに析出することとなるからである。
【0020】
一方で、本発明者らがさらに検討を進めたところ、FeとSiとを併用することにより、ヒロック耐性が低下する場合があることを見出した。これは、FeがSiと反応してFeSi系複合物を形成して成膜過程で析出してしまって、一定量以上の固溶元素の固溶状態を維持することができなかったためと推定された。
【0021】
以上のことから、本発明では、Al基合金におけるSiの含有率を、特許文献3に比べてさらに低減することにより、Siと反応して成膜過程で析出するFe量が低下して、固溶元素の固溶状態を維持することができ、ヒロック耐性の悪化を抑制できたものと考えられる。また、析出に供されるFe量が減少するため、添加するFe量を低減しても一定量以上の固溶Fe量を確保できることとなる。このため、Al基合金中の合金元素量を全体的に低減することができ、優れたヒロック耐性を維持したまま、低配線抵抗化を図ることができたと考えられる。
【0022】
以下、Siを0.0010〜0.50質量%と、Feを0.0010〜0.4質量%含有することを特徴とする本発明のAl基合金スパッタリングターゲットについて詳細に説明する。
【0023】
(合金元素)
本発明のターゲットに含まれるSiは、上述の通り、結晶粒の成長を抑制して、他の固溶元素(Feや、後述するMn等)の析出を促す働きがあるが、Siの含有率を0.0010〜0.50質量%とすることによって、上記作用を効果的に発揮することができる。また、FeがFeSi系複合物を形成して析出するのを防ぐことができる。
【0024】
Siの含有率が0.0010質量%未満では、絶縁膜の成膜等の後工程での熱履歴を経ても固溶元素の析出を促すことができず、得られる金属薄膜の配線抵抗が低下しない場合がある。また、金属薄膜中の固溶成分量が少なくなり過ぎて、成膜過程で一定量以上の固溶元素の固溶状態を維持することができず、かえってヒロック耐性を低下させる場合がある。一方、Siの含有率が0.50質量%を超えると、Siと併用されるFeの析出が促進されて、成膜過程で一定量以上の固溶元素の固溶状態を維持できずに、金属薄膜のヒロック耐性が低下する場合がある。また、金属薄膜中の合金成分量が多くなって、配線抵抗の上昇を招く場合がある。Siの含有率は、0.01質量%以上(より好ましくは0.03質量%以上)であることが好ましく0.25質量%以下(より好ましくは0.1質量%以下)であることが好ましい。
【0025】
本発明のターゲットに含まれるFeは、上述の通り、成膜過程で固溶状態を維持することができるため、得られる金属薄膜の耐ヒロック性を向上させる。また、220〜250℃において析出し、それに伴って結晶粒の成長も促すことによって、低配線抵抗化にも寄与する。Feの含有率を0.0010〜0.4質量%とすることによって、上記作用を効果的に発揮することができる。
【0026】
Feの含有率が0.0010質量%未満では、成膜過程で一定量の固溶元素を確保することができずに、得られる金属薄膜のヒロック耐性が低下する場合がある。Feの含有率が0.4質量%を超えると、金属薄膜中の合金元素量が多くなるため、配線抵抗が低下しない場合がある。Feの含有率は、0.01質量%以上(より好ましくは0.05質量%以上)であることが好ましく、0.38質量%以下(より好ましくは0.35質量%以下)であることが好ましい。
【0027】
上述の通り、本発明のターゲットは、特許文献3に比べて合金成分であるSiとFeの添加量を全体的に低下させ、金属薄膜中の合金成分量を低減しているため、さらなる配線抵抗の低減を実現することができる。
【0028】
本発明のターゲットは、合金元素として、上記のSiおよびFeの他に、さらにMn,Cr,Mo,およびNbよりなる群から選択される少なくとも1種の元素(以下、単に「M元素」と称する場合がある)を含んでもよい。これらの元素は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。M元素は、Feと同様に金属薄膜の耐ヒロック性を向上させることができる。また、低温での拡散が速いことから成膜工程時に析出し易く、成膜時(または成膜後)の熱処理によって配線抵抗の低下を促すことができる。さらに、Alへの固溶限が小さいため、たとえ固溶元素(M元素)が金属薄膜に残存しても配線抵抗の上昇に寄与し難い。
【0029】
M元素の含有率(単独の場合は単独量、2種以上を含む場合はこれらの合計量)は、0.1質量%以下(より好ましくは0.03質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以下)であることが好ましい。M元素の含有率が0.1質量%を超える場合には、金属薄膜中の合金成分量が多くなって、配線抵抗の上昇を招くおそれがある。M元素の含有率の下限については、特に限定されるものではないが、上記作用を効果的に発揮させるために、0.001質量%以上(より好ましくは0.002質量%以上)とすることが好ましい。
【0030】
本発明のターゲットは、さらに、TiやBを合金元素として含んでもよい。これにより、ターゲット製造時における鋳造工程での割れを防止したり、鋳造組織の微細化を図ることができる。Tiの含有率は0.0005質量%以上(より好ましくは0.002質量%以上)が好ましく、0.05質量%以下(より好ましくは0.03質量%以下)が好ましい。また、Bの含有率は0.0001質量%以上(より好ましくは0.0004質量%以上)が好ましく、0.01質量%以下(より好ましくは0.006質量%以下)が好ましい。
【0031】
本発明のターゲットは、SiとFeを所定量含み、残部がAl及び不可避不純物であるAl基合金や、SiとFeと、さらにM元素を所定量含み、残部がAl及び不可避不純物であるAl基合金、あるいは、SiとFeとM元素と、さらにTiおよび/またはBとを所定量含み、残部がAl及び不可避不純物であるAl基合金であってもよい。
【0032】
(硬度)
本発明のターゲットは、硬度(Hv)が26以上であることが好ましい。これにより、スパッタリング時のスプラッシュを抑制することができる。
【0033】
一般に、ターゲット中の不純物(合金元素等)量が0.01質量%以上である場合には、スプラッシュが発生し易いことが知られているが、本発明のFeおよびSiを含むAl基合金ターゲットによれば、ターゲットの硬度(Hv)を26以上にすることにより、ターゲット中の不純物量が0.01質量%以上となってもスパッタリング時のスプラッシュを抑制できることを見出した。このように、硬度(Hv)が26以上の場合にスプラッシュを抑制できるメカニズムは明確ではないものの、Mo−W合金と同様に、機械加工後の表面粗度が影響している可能性があると推測される。
【0034】
本発明のターゲットの硬度(Hv)は、28以上であることがより好ましい。また、硬度(Hv)の上限は特に限定されないが、添加元素量の少ない低合金系において硬度(Hv)を60超とすることは技術的に難しい。好ましい上限は50(より好ましくは40)である。
【0035】
(スパッタリングターゲットの製造方法)
本発明のターゲットの製造方法としては、特に限定されず、例えばスプレイフォーミング法や溶解鋳造法等が挙げられるが、特に硬度(Hv)が26以上のターゲットを作製するために、また、製造コスト低減のため、溶解鋳造法で作製することが好ましい。
【0036】
より詳細には、本発明のターゲットは、一般的な溶解鋳造の後、均熱工程、粗熱間圧延工程、仕上熱間圧延工程、(必要に応じて巻き取り工程、巻き戻し工程、ストレッチャー工程)、切断工程、(必要に応じて冷間加工工程)、ターゲット加工工程をこの順で経ることによって製造することができる。また、所定の硬度(Hv)を確保するためには、上記各工程において、圧延温度の低温化や巻き取り温度の低温化、ストレッチャー量の調整、冷間加工時の冷延率の調整を行うことが好ましい。上記の必要に応じて行う工程もしくは制御を1つ、あるいは2つ以上を適宜組み合わせて行うことによって、硬度(Hv)が26以上のターゲットを作製することができる。特に、本発明では、圧延温度や巻き取り温度を、従来(おおむね500℃以上)に比べて低温化していることに特徴を有する。なお、本発明のターゲットは、特許文献4と異なり切断後の焼鈍工程を省略することができる。以下、本発明に用いられる好ましい製造方法について、工程毎に詳細に説明する。
【0037】
(溶解鋳造工程)
溶解鋳造工程は特に限定されず、ターゲットの製造に通常用いられる工程を適宜採用することができる。例えば鋳造方法として、代表的にはDC(半連続)鋳造、薄板連続鋳造(双ロール式、ベルトキャスター式、プロペルチ式、ブロックキャスター式など)などが挙げられる。
【0038】
(均熱工程)
均熱工程では、硬度確保のために、均熱温度を350〜500℃程度にすることが好ましく、上限を450℃とすることがより好ましい。また、均熱時間は、1〜8時間程度に制御することが好ましい。
【0039】
(粗熱間圧延工程)
上記の均熱を行なった後、粗熱間圧延を行なう。硬度確保のために、粗熱間圧延開始温度を350〜500℃程度にすることが好ましく、上限を450℃にすることがより好ましい。また、総圧下率を50〜95%程度に制御することが好ましい。
【0040】
(仕上熱間圧延工程)
本発明では、粗熱間圧延の後、仕上熱間圧延を行う。硬度確保のために、仕上熱間圧延開始温度を200〜500℃程度にすることが好ましく、上限を400℃にすることがより好ましい。また、総圧下率を50〜90%程度に制御することが好ましい。
【0041】
(巻き取り工程、巻き戻し工程)
本発明では、仕上熱間圧延の後、必要に応じて巻き取り、及び巻き戻し作業を行ってもよい。巻き取り温度は200〜450℃程度にすることが好ましく、上限を400℃にすることがより好ましい。
【0042】
(ストレッチャー工程)
本発明では、仕上熱間圧延の後(あるいは巻き取り工程、及び巻き戻し工程の後)、必要に応じてストレッチャーを行ってもよい。ストレッチャーは室温で行えばよい。また加工率は1%以上にすることが好ましい。
【0043】
(冷間加工工程)
本発明では、上記工程を経て得られたターゲットを適度な大きさに切断した後、硬度確保のために、必要に応じて冷間加工を行ってもよい。加工率は5〜50%に制御することが好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは全て本発明の技術的範囲に包含される。
【0045】
先ず、実験例で用いた評価方法について、以下説明する。
【0046】
(硬度)
スパッタリングターゲットの硬度(ビッカース硬さ:Hv)は、ビッカース硬度計(株式会社明石製作所製、AVK−G2)を用いて測定した。
【0047】
(ヒロック耐性)
スパッタリングターゲットを用い、Siウェーハ基板(サイズ:直径100.0mm×厚さ0.50mm)に対し、株式会社島津製作所製「スパッタリングシステムHSR−542S」のスパッタリング装置によってDCマグネトロンスパッタリングを行った。スパッタリング条件は、以下の通りである。
背圧:3.0×10-6Torr以下
Arガス圧:2.25×10-3Torr
Arガス流量:30sccm、スパッタリングパワー:150W
極間距離:51.6mm
基板温度:室温
【0048】
得られた薄膜表面上に、フォトリソグラフィーによってポジ型フォトレジスト(ノボラック系樹脂:東京応化工業製のTSMR−8900,厚さ1.0μm、線幅10μmのラインアンドスペース)を形成した後、CVD装置内の減圧窒素雰囲気(圧力:1Pa)で、270℃で15分、あるいは320℃で30分保持する熱処理を行なった。
【0049】
次に、ストライプパターン表面部分およびパターンの横断面部分(サイド部)に発生するヒロック(半球状の突起物)数を、10000倍の電子顕微鏡(SEM)で確認するとともに、光学顕微鏡にて対物レンズ50倍、接眼レンズ10倍の倍率でノルマルスキレンズによる微分干渉にて視野内のヒロック個数を測定し、ヒロック密度(単位面積当たりのヒロック数)を求めた。
【0050】
ヒロック耐性の判定基準は、ヒロック密度が3.0×109個/m2未満の場合を◎、(3.0〜9.0)×109個/m2の場合を○、9.0×109個/m2を超える場合を×とした。
【0051】
(配線抵抗)
上記ヒロック耐性測定用サンプルの作製法と同様の方法で、線幅100μmのストライプパターン形状に加工した後、ウェットエッチングにより、線幅100μm、線長10mmの配線抵抗測定用パターン状に加工した。ウェットエッチングにはH3PO4:HNO3:H2O=75:5:20の混合液を用いた。これに熱履歴を与えるため、前記エッチング処理後に、ヒロック測定と同じくCVD装置内の減圧窒素雰囲気(圧力:1Pa)で、上記薄膜に270℃で15分、あるいは320℃で30分保持する熱処理を行なった。その後、4探針法により比抵抗値を室温にて測定した。
【0052】
(スプラッシュ)
上記条件でスパッタリングを行なったときに発生するスプラッシュ(初期スプラッシュ)の個数を測定した。
【0053】
スパッタリングターゲット1枚につき、16枚の薄膜を形成した。従って、スパッタリングは、81(秒間)×16(枚)=1296秒間行なった。
【0054】
パーティクルカウンター(株式会社トプコン製:ウェーハ表面検査装置WM−3)を用い、上記薄膜の表面に認められたパーティクルの位置座標、サイズ(平均粒径)、および個数を計測した。ここでは、サイズが3μm以上のものをパーティクルとみなしている。その後、この薄膜表面を光学顕微鏡観察(倍率:1000倍)し、形状が半球形のものをスプラッシュとみなし、単位面積当たりのスプラッシュの個数を計測した。
【0055】
詳細には、上記薄膜1枚につき、上記のスパッタリングを行なう工程を、Siウェーハ基板を差し替えながら、連続して、薄膜16枚について同様に行い、スプラッシュの個数の平均値を「初期スプラッシュの発生数」とした。本実験例では、このようにして得られた初期スプラッシュの発生数が20個/cm2以下のものを○、21個/cm2以上のものを×と評価した。
【0056】
(実験例1〜11)
表1に示す種々のAl基合金(残部がAl及び不可避不純物)を用意し、厚み500mmの鋳塊をDC鋳造法によって造塊した後、450℃で2時間均熱処理し、次いで450℃、圧下量90%で粗熱間熱延し、続いて400℃、圧下量70%で仕上圧延し、350℃でコイルに巻き取った。その後、巻き戻し、ストレチャーで3%加工し、切断後、スパッタリングターゲット(圧延板)を作製した。なお、実験例6については、冷間加工を行った。その際、圧下率は20%に制御した。
【0057】
得られたスパッタリングターゲットを用いて、上記の方法により、硬度およびスプラッシュを評価した。また、金属薄膜としたときのヒロック耐性および配線抵抗を評価した。評価結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
当該結果によれば、Feを0.0010〜0.4質量%とSiを0.0010〜0.50質量%含有する本発明のターゲットは、270℃または320℃のいずれの熱処理後もヒロック耐性に優れ、配線抵抗が低く、スパッタリング時のスプラッシュの発生も低減されていることが分る(実験例1〜6)。特に、合金成分としてM元素をさらに含むターゲットは、ヒロック耐性に一層優れることが分る(実験例4〜6)。これに対し、FeとSiの含有率が低すぎるターゲットでは、ヒロック耐性が低下することが分る(実験例7)。また、FeあるいはSiのいずれかの含有率が本発明の範囲外にある場合には、配線抵抗が高くなることが分る(実験例8〜11)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feを0.0010〜0.4質量%と、Siを0.0010〜0.50質量%含有することを特徴とするAl基合金スパッタリングターゲット。
【請求項2】
硬度(Hv)が26以上である請求項1に記載のAl基合金スパッタリングターゲット。
【請求項3】
Mn,Cr,Mo,およびNbよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を0.001〜0.1質量%含む請求項1または2に記載のAl基合金スパッタリングターゲット。


【公開番号】特開2011−94216(P2011−94216A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251398(P2009−251398)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000130259)株式会社コベルコ科研 (174)
【Fターム(参考)】