説明

Cu−In−Ga三元系焼結合金スパッタリングターゲットおよびその製造方法

【課題】太陽電池の光吸収層を形成するためのCu−In−Ga−Se四元系合金膜を形成するときに使用するCu−In−Ga三元系焼結合金スパッタリングターゲットおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】In:40〜60質量%、Ga:1〜45質量%を含有し、残部がCuからなる成分組成を有するCu−In−Ga三元系焼結合金スパッタリングターゲットであって、このスパッタリングターゲットの素地中に分散しているIn含有合金相の最大粒径が10μm以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、太陽電池の光吸収層を形成するためのCu−In−Ga−Se四元系合金膜を形成するときに使用するCu−In−Ga三元系焼結合金スパッタリングターゲットおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、化合物半導体による薄膜太陽電池が実用に供せられるようになり、この化合物半導体による薄膜太陽電池は、ソーダライムガラス基板の上にプラス電極となるMo電極層を形成し、このMo電極層の上にCu−In−Ga−Se四元系合金膜からなる光吸収層が形成され、このCu−In−Ga−Se四元系合金膜からなるこの光吸収層の上にZnS、CdSなどからなるバッファ層が形成され、このバッファ層の上にマイナス電極となる透明電極層が形成された基本構造を有している。
前記Cu−In−Ga−Se四元系合金膜からなる光吸収層の形成方法として、蒸着法により成膜する方法が知られており、この方法により得られたCu−In−Ga−Se四元系合金膜からなる光吸収層は高いエネルギー変換効率が得られるものの、蒸着法による成膜は速度が遅いためにコストがかかる。そのために、スパッタリング法によってCu−In−Ga−Se四元系合金膜からなる光吸収層を形成する方法が提案されている(特許文献1参照)。
このCu−In−Ga−Se四元系合金膜をスパッタリングにより成膜する方法として、まず、Inターゲットを使用してスパッタリングによりIn膜を成膜し、このIn膜の上にCu−Ga二元系合金ターゲットを使用してスパッタリングすることによりCu−Ga二元系合金膜を成膜し、得られたIn膜およびCu−Ga二元系合金膜からなる積層膜をSe雰囲気中で熱処理してCu−In−Ga−Se四元系合金膜を形成する方法が提案されている。そして、前記Cu−Ga二元系合金ターゲットとしてGa:1〜40重量%を含有し、残部がCuからなる組成を有するCu−Ga二元系合金ターゲットが知られており(特許文献2参照)、このCu−Ga二元系合金ターゲットは一般に鋳造で作製されている。
【特許文献1】特開2003−282908号公報
【特許文献2】特許第3249408号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、太陽電池の変換効率を一層高めるとともに、太陽電池の一層のコストダウンが求められており、そのために前記Cu−In−Ga−Se四元系合金膜を一層効率良く成膜することが求められている。
そこで、本発明者らは、従来法では、Inターゲットを使用してスパッタリングによりIn膜を成膜し、このIn膜の上にCu−Ga二元系合金ターゲットを使用してスパッタリングすることによりCu−Ga二元系合金膜を成膜してIn膜およびCu−Ga二元系合金膜からなる積層膜を形成していたのを、Cu−In−Ga三元系合金ターゲットを使用して一回のスパッタリングによりCu−In−Ga三元系合金膜を成膜すれば、成膜工程を一工程省略することができ、この成膜工程を一工程省略ことにより一層のコストダウンを図ることができるとの考えに基づいて、Cu−In−Ga三元系合金溶湯を作製し、このCu−In−Ga三元系合金溶湯を鋳造することによりCu−In−Ga三元系合金からなる鋳造ターゲットを作製し、このCu−In−Ga三元系合金からなる鋳造ターゲットを用いてスパッタリングすることによりCu−In−Ga三元系合金膜を成膜した。
ところが、このCu−In−Ga三元系合金からなる鋳造ターゲットを用いてスパッタリングすると極端に多くのパーティクルが発生し、太陽電池のCu−In−Ga−Se四元系合金膜からなる光吸収層を形成するためのCu−In−Ga三元系合金膜として供することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、Cu−In−Ga三元系合金からなるターゲットを用いてパーティクルを発生させることなくスパッタリングすることによりCu−In−Ga三元系合金膜を成膜し、このCu−In−Ga三元系合金膜をSe雰囲気中で熱処理してCu−In−Ga−Se四元系合金膜を形成するべくさらに研究を行った。その結果、
(イ)Cu−In−Ga三元系合金からなるターゲットを用いてスパッタリングする際に発生するパーティクルはターゲット素地中に分散しているIn相およびInが拡散している相(以下、In含有相という)の大きさが影響を及ぼし、ターゲット素地中に生成しているIn含有相の粒径が大きなターゲットを用いてスパッタリングすると、スパッタリング中にパーティクルが発生する、
(ロ)鋳造により作製したCu−In−Ga三元系合金からなるターゲットの素地中に分散しているIn含有相は粒径が20μm以上の大きなIn含有相が生成しており、この素地中に粒径が20μm以上の大きなIn含有相を有するターゲットを用いてスパッタリングするとパーティクルが発生する、
(ハ)しかし、ターゲット素地に分散するIn含有相の粒径が微細になるほどスパッタリング中に発生するパーティクルの数が少なくなり、ターゲット素地中に分散しているIn含有相の最大粒径が10μm以下になると、パーティクルの発生が無くなる、
(ニ)素地中に分散するIn含有相の最大粒径が10μm以下のターゲットを得るには、原料として、Ga:20〜50質量%を含有し、残部がCuからなる高Ga含有Cu−Ga二元系母合金、InおよびCuを用意し、これら原料をIn:40〜60質量%、Ga:1〜45質量%を含有し、残部がCuからなる成分組成となるように秤量し溶解して得られた溶湯をガスアトマイズすることによりCu−In−Ga三元系合金粉末を作製し、得られたCu−In−Ga三元系合金粉末を高圧焼結することにより作製することができる、などの研究結果が得られたのである。
【0005】
この発明は、かかる研究結果に基づいてなされたものであって、
(1)In:40〜60質量%、Ga:1〜45質量%を含有し、残部がCuからなる成分組成を有するCu−In−Ga三元系焼結合金スパッタリングターゲットであって、このスパッタリングターゲットの素地中に分散しているIn含有合金相の最大粒径が10μm以下であるCu−In−Ga三元系焼結合金スパッタリングターゲット、
(2)原料として、Ga:20〜50質量%を含有し、残部がCuからなる高Ga含有Cu−Ga二元系母合金、InおよびCuを用意し、これら原料をIn:40〜60質量%、Ga:1〜45質量%を含有し、残部がCuからなる成分組成となるように秤量し、溶解して得られた溶湯をガスアトマイズすることによりCu−In−Ga三元系合金粉末を作製し、得られたCu−In−Ga三元系合金粉末を高圧焼結するCu−In−Ga三元系焼結合金スパッタリングターゲットの製造方法、に特徴を有するものである。
【0006】
この発明のCu−In−Ga三元系焼結合金スパッタリングターゲットに含まれるInの含有量を40〜60質量%に限定した理由は、Inが40質量%未満では焼結性が悪くなると共にターゲット素地中のIn含有相の最大粒径が大きくなり、このターゲットを用いてスパッタリングするとパーティクルが発生するので好ましくなく、一方、Inを60質量%を越えて含有すると、In含有相の最大粒径が大きくなってスパッタリングに際してパーティクルが発生するようになるので好ましくないからである。
また、Gaの含有量を1〜45質量%に限定した理由は、Gaが1質量%未満では焼結性が悪くなると共にターゲット素地中のIn含有相の最大粒径が大きくなってパーティクルが発生するので好ましくなく、一方、Gaが45質量%を越えて含有すると、加工性が悪くなると共にターゲット素地中のIn含有相の最大粒径が大きくなってパーティクルが発生するので好ましくないからである。
【0007】
この発明のIn:40〜60質量%、Ga:1〜45質量%を含有し、残部がCuからなる成分組成を有するCu−In−Ga三元系焼結合金スパッタリングターゲットを製造する際に使用するCu−In−Ga三元系合金粉末は、Ga:20〜50質量%含有するCu−Ga二元系合金原料、Cu原料、In原料を溶解し、得られた溶湯を直径:1〜3mmのノズルから流し出し、この流れ出た溶湯に向かってアルゴンガス、窒素ガスなどの不活性ガスを高圧で吹き付けて3〜125μmの範囲内の粒径を有するCu−In−Ga二元系合金アトマイズ粉末を作製する。この流れ出た溶湯に向かって吹き付ける不活性ガスの圧力を調整することによりアトマイズ粉末の粒径を調節することができる。
Gaは融点(29.780℃)が低いのでGa単独では常温でも液体となって溶解原料としては取り扱いにくい。そのため、Gaを添加するには常温で固体状態を保ち粉砕が可能なGa:20〜50質量%を含有するCu−Ga二元系合金とし、これを原料として添加する。そして溶解して得られたCu−In−Ga三元系合金溶湯に含まれるGaはアトマイズ時に溶湯の流動性を向上させ、ノズル部の詰まりを防止する作用がある。
【発明の効果】
【0008】
この発明によると、Cu−In−Ga−Se四元系合金膜からなる光吸収層をスパッタリングにより形成する際にパーティクルを発生させることなくCu−In−Ga三元系合金膜を成膜することができ、したがって従来のようなIn膜の成膜工程を省略することができるので従来の成膜工程よりも少ない工程でCu−In−Ga−Se四元系合金膜からなる光吸収層を形成することができ、太陽電池のコスト削減に大いに貢献し得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施例
表1に示される成分組成を有するCu−Ga二元系合金原料A〜Gを用意し、さら純Cu原料、純In原料を用意した。
【0010】
【表1】

【0011】
表1に示されるCu−Ga二元系合金原料A〜Gに、純Cu原料およびIn原料を表2に示される成分組成となるようにカーボン坩堝に装入し高周波溶解し、得られた溶湯を坩堝に装着したノズルから流れ出し、アルゴンの高圧ガスを吹き付けて平均粒径:35μmのCu−In−Ga三元系合金粉末を作製した。このCu−In−Ga三元系合金粉末をAr雰囲気中、圧力:196MPa、温度:140℃、30分間保持の条件でホットプレスすることにより表2に示される成分組成を有するCu−In−Ga三元系合金ホットプレス体を作製し、得られたホットプレス体の表面を切削してターゲットに仕上げることにより、本発明Cu−In−Ga三元系焼結合金ターゲット(以下、本発明ターゲットという)1〜7および比較Cu−In−Ga三元系焼結合金ターゲット(以下、比較ターゲットという)1〜5を作製した。
得られた本発明ターゲット1〜7および比較ターゲット1〜5の断面組織を電子プローブマイクロアナライザ(JXA−8500F)(日本電子株式会社製)で観察し、In含有合金相の最大粒径を測定し、その結果を表2に示した。
【0012】
従来例
表1に示される成分組成を有するCu−Ga二元系合金原料Aに、純Cu原料およびIn原料を表2に示される成分組成となるようにカーボン坩堝に装入し高周波溶解し、得られた溶湯を鋳型に鋳造してインゴットを作製し、このインゴットの表面を切削してターゲットに仕上げることにより従来Cu−In−Ga三元系鋳造合金ターゲット(以下、従来ターゲットという)1を作製した。この従来ターゲット1の断面組織を電子プローブマイクロアナライザ(JXA−8500F)(日本電子株式会社製)で観察し、In含有合金相の最大粒径を測定し、その結果を表2に示した。
【0013】
更に、本発明ターゲット1〜7、比較ターゲット1〜5および従来ターゲット1を市販のスパッタリング装置にセットし、
真空到達度:5×10−5Pa、
電力:800W、
雰囲気:Arガス、
ターゲットと基板との距離:70mm、
の条件で1時間スパッタを行い、異常放電回数をアーキングカウンターにて測定し、その結果を表2に示した。
【0014】
【表2】

【0015】
表1〜2に示される結果から、最大粒径:100μmの大きなIn含有相を有する鋳造組織からなる従来ターゲット1は、スパッタリングに際して異常放電回数が格段に多く発生するが、これに対してターゲット素地中に分散しているIn含有相の最大粒径が10μm以下の微細なIn含有相を有する本発明ターゲット1〜7はスパッタリングに際した異常放電は全く発生しないことから、本発明ターゲット1〜7は従来ターゲット1に比べて格段に優れていることがわかる。しかし、成分組成がこの発明から外れた値を有する比較ターゲット1〜4および最大粒径が10μmを越え20μm未満の大きさのIn含有相を有する比較ターゲット5はスパッタリングに際した異常放電が発生するので好ましくないことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
In:40〜60質量%、Ga:1〜45質量%を含有し、残部がCuからなる成分組成を有するCu−In−Ga三元系焼結合金スパッタリングターゲットであって、このスパッタリングターゲットの素地中に分散しているIn相およびInが拡散している相からなるIn含有相の最大粒径が10μm以下であることを特徴とするCu−In−Ga三元系焼結合金スパッタリングターゲット。
【請求項2】
原料として、Ga:20〜50質量%を含有し、残部がCuからなる高Ga含有Cu−Ga二元系母合金、InおよびCuを用意し、これら原料をIn:40〜60質量%、Ga:1〜45質量%を含有し、残部がCuからなる成分組成となるように秤量し溶解して得られた溶湯をガスアトマイズすることによりCu−In−Ga三元系合金粉末を作製し、得られたCu−In−Ga三元系合金粉末を焼結することを特徴とするCu−In−Ga三元系焼結合金スパッタリングターゲットの製造方法。

【公開番号】特開2009−120862(P2009−120862A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292737(P2007−292737)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】