説明

EUVリソグラフィ用反射光学素子

特にEUVリソグラフィ装置用の応力低減型反射光学素子を構成する軟X線及び極端紫外線波長域内の作業波長用の反射光学素子であり、前記反射光学素子は、基板(2)上に前記作業波長で屈折率の異なる実数部を有する少なくとも2つの交互材料(41,42)からなる第1の多層膜系(4)を備え、該多層膜系が前記基板(2)に層応力を及ぼし、前記基板(2)上に周期的に交互の少なくとも2つの材料(61,62)からなる第2の多層膜系(6)を備え、該多層膜系が前記第1の多層膜系(4)と前記基板(2)との間に配置され、前記基板(2)に反対方向の層応力を及ぼし、前記第2の多層膜系(6)の前記少なくとも2つの材料の第1の材料(61)が、前記第2の多層膜系(6)の少なくとも1つの他の材料(62)の1nmまでの厚さの層によって、前記第1の材料(61)がアモルファス状態で存在するような間隔で遮断されている。第2の実施例では、前記第2の多層膜系(6)の一つの材料はニッケル又はニッケル合金である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟X線及び極端紫外線波長域内の作業波長用で、特にEUVリソグラフィ装置用の反射光学素子であって、基板上に作業波長で屈折率の異なる実数部を有する少なくとも2つの交互材料からなる第1の多層膜系を備え、該第1の多層膜系が前記基板に層応力を及ぼし、場合により、前記基板上に周期的に交互の少なくとも2つの材料からなる第2の多層膜系を備え、該第2の多層膜系が前記第1の多層膜系と前記基板との間に配置され、前記基板に反対方向の層応力を及ぼすように構成された反射光学素子に関する。更に、本発明は、少なくとも一つの上述した反射光学素子を備える特にEUVリソグラフィ装置用の投影系、少なくとも一つの上述した反射光学素子を備える特にEUV装置用の照明系、少なくとも一つの上述した反射光学素子を備える特にEUVリソグラフィ装置用のビーム成形系、及び少なくとも一つの上述した反射光学素子を備える特にEUVリソグラフィ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
EUVリソグラフィ装置においては、フォトマスクやミラーなどの極端紫外線(EUV)又は軟X線波長域(例えば約5nm〜20nmの波長)用の反射光学素子が半導体コンポーネントのリソグラフィ処理に使用されている。EUVリソグラフィ装置は通常複数の反射光学素子を有するため、十分な総合反射率を保障するためにそれらは最高級の反射率を有するものとしなければならない。複数の反射光学素子は通常EUVリソグラフィ装置内に直列に配置されるため、各反射光学素子の僅かな反射率の悪化がEUVリソグラフィ装置の総合反射率に大きな影響を与えることになる。
【0003】
EUV及び軟X線波長域用の反射光学素子は通常多層膜の形の高反射性コーティングを備える。これらのコーティングは、作業波長で高い屈折率実数部を有する材料の層(スペーサ層とも称される)と低い屈折率実数部を有する材料の層(吸収層とも称される)が交互に塗布されたものであり、1つの吸収層−スペーサ層対が1つの積層体又は1つの周期を形成する。これは本質的には結晶を模造し、その格子面は吸収層に相当し、この面でブラッグ反射が生じる。個々の層並びにそれぞれの積層体の厚さは多層膜系全体に亘って一定にすることができ、また達成すべき反射プロフィールに応じて変化させることもできる。
【0004】
早ければコーティングプロセス中に、多層膜系内の応力が増加し、下側の基板に影響を及ぼし、基板を変形して対応する反射光学素子上の光学的決像が相当程度妨害され得る。応力のタイプは特に積層体又は周期内のスペーサ層及び吸収層として使用される材料及びその厚さの比に依存する。通常、高反射性の多層膜系と基板との間に、反射多層膜系により及ばされる膜応力と反対方向の膜応力を有する挿入コーティングが設けられ、このコーティングも異なる材料の交互層からなる多層膜系として形成することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高反射性コーティングから生じる応力を低減し得る軟X線及び極端紫外線波長域の作業波長用の反射光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、軟X線及び極端紫外線波長域内の作業波長用で、特にEUVリソグラフィ装置用の反射光学素子であって、基板上に前記作業波長で屈折率の異なる実数部を有する少なくとも2つの交互材料からなる第1の多層膜系を備え、該第1の多層膜系が前記基板に層応力を及ぼし、前記基板上に周期的に交互の少なくとも2つの材料からなる第2の多層膜系を備え、該第2の多層膜系が前記第1の多層膜系と前記基板との間に配置され、前記基板に反対方向の層応力を及ぼすように構成され、前記第2の多層膜系(6)の前記少なくとも2つの材料の第1の材料(61)が、前記第2の多層膜系(6)の少なくとも1つの他の材料(62)の1nmまでの厚さの層によって、前記第1の材料(61)がアモルファス状態で存在するような間隔で遮断されている反射光学素子によって、達成される。
【0007】
使用する層の材料及びコーティング方法により決まる一定の層厚から出発すると、問題の層は結晶化し始めることが周知である。層厚が増加するにつれて、層全体が結晶質状態になる程度まで結晶成長する。これは各層の表面の微小粗さの増加を生じ、その上の層へも続き得る。本発明では、第2の多層膜系の第1の材料として、第1の多層膜系により及ぼされる膜応力と反対の膜応力を基本的に達成できる材料を選択し、この材料内に、いわば停止層として、一以上の材料の層を、第1の材料が(最大10eVまでの通常のエネルギーの層形成粒子を用いる)スパッタリング又は電子ビーム蒸着などの標準のコーティング方法で塗布される際に、この材料ができるだけアモルファス状態で存在するような間隔又は第1の材料の層の十分に低い微小粗さがEUVリソグラフィに対して維持される低い結晶子含有量を有するような間隔で挿入することを提案する。特に、40eV又はそれをはるかに上回る高エネルギーの層形成粒子を用いるレーザパルスコーティング方法などの費用のかかる特別なコーティング方法を使用する必要はない。
【0008】
好ましくは、RMS(二乗平均平方根)粗さは0.25nmまで、特に好ましくは0.20nmまでとすることができる。RMS粗さは、平均領域に対する表面上の測定点の偏差の二乗の平均から計算される(ここで平均領域は平均領域に関する偏差の和が最小になるように表面内に位置する)。特に、EUVリソグラフィ用の光学素子に対しては、0.1μm〜200μmの空間波長域における粗さがこれらの光学素子の光学特性への悪影響を避けるために特に重要である。
【0009】
第2の多層膜系の少なくとも2つの材料は周期的に交互に配置し、第2の多層膜系の1つの周期の全厚に対する第2の多層膜系の1つの周期内の第1の材料の層の厚さの比Gを0.80より大きくするのが有利である。これらの手段によって、第2の多層膜系によって発生される応力が主として第1の材料によって決まり、薄い層が第1の材料の結晶成長を阻止するように作用することが達成される。
【0010】
好適実施例では、第1の材料はモリブデン、ニッケル及びニッケル合金からなる群から選ばれる。好適なニッケル合金は、例えばニッケル−シリコン、ニッケル−ホウ素、ニッケル−モリブデン、ニッケル−シリコン−ホウ素又はニッケル−バナジウムである。これらの材料は通常EUV又は軟X線波長域の波長用に使用されるので、反射多層膜系により生じる膜応力を補償するために特に適している。
【0011】
他の好適な実施例では、薄い層の材料は、炭化ホウ素、炭素、炭化シリコン、窒化シリコン、シリコン、クロム及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる。これらの材料は薄い層として塗布するのに特に適している。
【0012】
好ましくは、少なくとも一つの他の材料の薄い層の厚さは、膜応力への影響をできるだけ小さく維持するために0.8nm未満である。この厚さは、第1の材料のローカルドーピングといえるような低い値に減少させることができる。
【0013】
更に、前記目的は、軟X線及び極端紫外線波長域内の作業波長用で、特にEUVリソグラフィ装置用の反射光学素子であって、基板上に前記作業波長で屈折率の異なる実数部を有する少なくとも2つの交互材料からなる第1の多層膜系を備え、該第1の多層膜系が前記基板に層応力を及ぼし、前記基板上に周期的に交互の少なくとも2つの材料からなる第2の多層膜系を備え、該第2の多層膜系が前記第1の多層膜系と前記基板との間に配置され、前記基板に反対方向の層応力を及ぼすように構成され、前記第2の多層膜系の材料の一つがニッケル又はニッケル合金であり、前記第2の多層膜系の1周期の全厚に対する前記第2の多層膜系の1周期内のニッケル又はニッケル合金層の全厚の比Gが少なくとも0.25である反射光学素子によって、達成される。
【0014】
ニッケル及びニッケル合金は、EUV域の波長に対して最適化される反射多層膜系によって発生される膜応力を補償するのに特に適している。特に、例えばニッケル−シリコン、ニッケル−ホウ素、ニッケル−モリブデン、ニッケル−シリコン−ホウ素又はニッケル−バナジウムが好適である。
【0015】
好適実施例では、第2の多層膜系は、ニッケル又はニッケル合金の層及び第1の多層膜系の作業波長で屈折率の異なる実数部を有する材料の少なくとも2つの層の周期からなる。第1の多層膜系の材料を第2の多層膜系にも使用することによって全体のコーティング方法を簡単化することができる。
【0016】
他の好適実施例では、第2の多層膜系は、良好な応力補償を達成するために、2つの交互層に配置された2つの材料のうち一つはニッケル合金の層である2つの層の周期と、第3の材料の層とからなる。
【0017】
良好な応力補償のためには、ニッケル又はニッケル合金の第1の層と他の金属の第2の層の周期で第2の多層膜系を構成するのが有利であることが確かめられた。
【0018】
有利には、第2の多層膜系の少なくとも一つの他の材料は、モリブデン、シリコン、炭素、窒化シリコン、クロム及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選ばれる。これらの材料は、EUV又は軟X線波長域の波長用に好適な第1の多層膜系の膜応力を補償するためにニッケル又はニッケル合金と組み合わせると特に好適であることが確かめられた。
【0019】
更に、前記目的は、少なくとも一つの上述した反射光学素子を備える特にEUVリソグラフィ装置用の投影系によって、少なくとも一つの上述した反射光学素子を備える特にEUV装置用の照明系によって、少なくとも一つの上述した反射光学素子を備える特にEUVリソグラフィ装置用のビーム成形系によって、及び少なくとも一つの上述した反射光学素子を備える特にEUVリソグラフィ装置によって、達成される。有利な実施形態は従属請求項に見られる。
【0020】
本発明を好適な模範的実施例について以下に詳細にする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】EUVリソグラフィ装置の一実施例を概略的に示す。
【図2】反射光学素子の様々な実施例の構造を示す。
【図3】反射光学素子の様々な実施例の構造を示す。
【図4】反射光学素子の様々な実施例の構造を示す。
【図5】反射光学素子の様々な実施例の構造を示す。
【図6】反射光学素子の様々な実施例の構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1はEUVリソグラフィ装置100を概略的に示す。その重要コンポーネントはビーム成形系110、照明系120、フォトマスク130及び投影系140である。
【0023】
例えば、プラズマ源が、またシンクロトロンでさえも、放射源111として機能することができる。5nm〜12nmの波長域に対しては、特にX線レーザ(X−FEL)も放射源として適切である。放射された放射は最初に集光ミラー112で収束される。更に、入射角を変化させて動作波長を取り出すためにモノクロメータ13が使用される。上述の波長域では、集光ミラー112及びモノクロメータ113は、作業波長の放射の反射を達成するために作業波長で屈折率の異なる実数部を有する少なくとも2つの交互材料からなる多層膜系を有する反射光学素子として通常形成される。集光ミラーは収束又はコリメーティング作用を達成するために通常皿型の反射光学素子である。集光ミラー112もモノクロメータ113も以下に詳細に説明されるように応力低減型の反射光学素子として形成される。放射源の選択及び集光ミラーの構造に応じてモノクロメータは省略することもできる。
【0024】
ビーム成形系110内で波長及び空間分布に関して処理された動作ビームは照明系120に供給される。EUVリソグラフィ装置100の変形例では、ビーム成形系110は照明系120内に組み込むこともできる。図1に示す例では、照明系120は2つの応力低減型反射光学素子として設計された2つのミラー121,122を有する。ミラー121,122はビームをウェハ150に結像すべき構造を有するフォトマスク130に方向づける。フォトマスク130もEUV及び何X線波長域に対して反射光学素子であり、製造プロセスに応じて交換される。投影系140はフォトマスク130により反射されたビームをウェハ150上に投影し、フォトマスクの構造をウェハ上に結像するために使用される。図に示す例では、投影系140は2つのミラー141,142を有し、これらのミラーも本例では応力低減型反射光学素子とすることができる。投影系140及び照明系120はたった1つのミラー又は3つ、4つ及び5つ以上のミラーを有することもできる。
【0025】
図1に示す例では、すべてのミラー121,122,141,142が、以下に詳細に説明するように、応力低減型反射光学素子である。必要に応じ、フォトマスク130も応力低減型反射光学素子とすることができる。たった1つ又は複数の反射光学素子を応力低減型反射光学素子とすることができることに注意されたい。特に投影系において良好な決像特性が重要であるため、応力低減型反射光学素子は投影系140内に配置するのが好ましい。
【0026】
図2〜図6は、特にEUVリソグラフィ装置の、例えば投影系又は照明系のミラーとして、又はフォトマスク、集光ミラー又はモノクロメータとしても使用される、極端紫外線及び軟X線波長域用の様々な応力低減反射光学素子を例示的に図式的にのみ示している。ここに示されるすべての例では、反射光学素子1は多層膜系4及び基板2を備える。
【0027】
多層膜系4は本質的に多数の反復積層体又は周期40からなる。多数の反復の結果として特に作業周波数で十分高い反射をもたらす周期40の基本層41,42は、屈折率の低い実数部を有する材料の所謂吸収層41及び屈折率の高い実数部を有する材料の所謂スペーサ層42である。これは本質的には結晶を模造し、吸収層41が各スペーサ層によって決まる相互間隔を有する結晶内の格子面に相当し、これらの格子面で入射EUV又は軟X線放射の反射が起こる。これらの層の厚さは、反射光学素子の高い反射率を達成するために各吸収層41で反射される放射が所定の作業周波数で積極的に干渉するように選択される。個別層41,42の厚さ並びに反復積層体40の厚さは多層膜系の全体に亘って一定にすることができ、また達成すべき反射プロフィールに応じて変化させることもできる。特に、多層膜系は所定の波長に対して最適化し、その波長で最大反射率及び/又は反射帯域幅が最適化されてない多層膜系より大きくなるようにすることができる。それぞれの反射光学素子1は例えばEUVリソグラフィにおいてこの所定の周波数に対して使用され、それゆえ、それぞれの反射素子1が最適化されるこの所定の波長は作業波長とも称される。
【0028】
汚染などの外部妨害から保護する保護層3が図示の例では多層膜系4上に更に塗布され、この層はいくつかの異なる材料層からなるものとすることができる。更に、ここには示されていないが、多層膜系4の熱力学的及び熱的安定性を高める中間層を吸収層及びスペーサ層の間に拡散障壁層として設けることもできる。
【0029】
図2〜図6に示す反射光学素子のすべての実施例は高反射性の第1の多層膜系4と基板2との間に第2の多層膜系6を含み、この多層膜系6は基板2上の第1の多層膜系4により生じる膜応力をできるだけ補償するように作用する。第2の多層膜系6は、図示の例では、交互層の周期60として構成される。
【0030】
明瞭のために、ここで説明する例では極めて少数の周期40,60のみが示されている。第1の多層膜系4の周期40の数はその都度、特に第1の多層膜系4の所望の光学的特性に依存して決定される。第2の多層膜系6の周期60の数は、特に補償すべき第1の多層膜系4の膜応力に依存して決定される。
【0031】
図2に示す実施例では、反射光学素子1は複数の周期60を有し、各周期は2つの材料61,62からなる。ここでは、第1の材料の層61がアモルファス状態で存在するような間隔で遮断されるように、第1の材料の層61は1nmまでの厚さ、好ましくは0.3nm〜0.8nmの厚さを有する層62で遮断される。特に、第1の材料の層61の厚さは、1周期60の全厚に対する第1材料の層61の全厚の比Gが0.80より大きくなるように選択される。図2に示す実施例における層61の好適な材料は、例えばモリブデン、ニッケル又はニッケル合金である。図2に示す実施例における層62の好適材料は、例えば炭化ホウ素、炭素、炭化シリコン、シリコン、クロム又はそれらの組み合わせである。
【0032】
例えば、第1の多層膜系がスペーサ層42としてのシリコン層と吸収層41としてのモリブデン層の交互層で構成され、例えば12nm〜14nmにおける高い反射率に適するように、4nmのシリコン、拡散障壁層としての0.5nmの炭素及び2.4nmのモリブデンからなる周期を50回含む構造である場合には、その膜応力は、例えば等に次の第2の多層膜系60によって補償することができる。
【0033】
第2の多層膜系6の第1の材料としてモリブデンを主成分とする第1の例では、周期60は2.1nmのモリブデン層と0.5nmの炭化ホウ素層を含み、この場合には190の周期が必要とされる。
【0034】
第2の多層膜系6の第1の材料としてモリブデンを主成分とする第2の例では、周期60は2.1nmのモリブデン層と0.5nmの炭素層を含み、この場合には170の周期が必要とされる。
【0035】
炭化ホウ素及び炭素に加えて、例えばシリコン、クロム、炭化シリコン及び窒化シリコンも、モリブデン層がアモルファス状態で存在するような間隔で2つのモリブデン層間に停止層として配置される層の材料として適している。モリブデン層の代わりにニッケル層又はニッケル合金の層を設けることもできる。
【0036】
第2の多層膜系6の第1の材料としてニッケル−バナジウムを主成分とする他の例では、周期60は2.7nmのニッケル−バナジウム層と0.5nmの炭素層を含み、この場合には85の周期が必要とされる。この例の変形例として、ニッケル−バナジウムの代わりにニッケル−シリコン−ホウ素を、炭素の代わりにクロムを設けることもできる。
【0037】
炭素の代わりに、例えばシリコン、クロム、窒化シリコン、炭化シリコン又は炭化ホウ素の薄い層を、ニッケル又はニッケル合金、例えばニッケル−シリコン、ニッケル−ホウ素、ニッケル−モリブデン、ニッケル−シリコン−ホウ素又はニッケル−バナジウムを主成分とする厚い層の間に、これらの厚い層がアモルファス状態で存在するような間隔で配置することもできる。特に、ニッケル−バナジウムは、3.5nm以上の層でもアモルファス状態で存在し得る利点を有する。第1の多層膜系の膜応力は、例えば周期60が3.5nm〜10nmの厚さのニッケル−バナジウム層と0.5nm〜2nmの厚さの炭化ホウ素又は炭化シリコン層を含む第2の多層膜系6によって補償することもでき、この場合には炭化ホウ素層に対して100〜350周期が必要とされ、炭化シリコン層に対して100〜300周期が必要とされる。他のニッケル合金又はニッケルももっと大きな層厚においてアモルファス状態で存在し得る。
【0038】
停止層として機能する層62の厚さももっと薄くすることができることに留意されたい。しかしながら、コーティングプロセス中に層厚を制御するために、厚さが少なくとも0.3nm〜0.4nmである場合には、作業波長域内の反射放射を用いることによって実際の層厚を良い精度で決定することができるようにするのが有利である。上述の例においても、以下の例においても、層61のために、ニッケル−バナジウムの代わりに他のニッケル又はニッケル合金、特にニッケル−シリコン、ニッケル−ホウ素、ニッケル−モリブデン又はニッケル−シリコン−ホウ素を使用することができる。
【0039】
反射光学素子1の図3に示す実施例では、層61の材料はニッケル又はニッケル合金であり、その厚さは周期60の厚さに対するその厚さの比Gが0.25〜0.7になるように選択される。
【0040】
第1の多層膜系4の上述の例を基礎とする場合、その膜応力は、例えば特に以下の第2の多層膜系6によって補償することができる。
【0041】
第2の多層膜系6の第1の材料としてニッケル−バナジウムを基礎とする第1の例では、周期60は2.7nmのニッケル−バナジウム層と2.7nmのシリコン層を含み、この場合には48周期が必要とされる。
【0042】
第2の多層膜系6の第1の材料としてニッケル−バナジウムを基礎とする第2の例では、周期60は0.5nm〜4nmのニッケル−バナジウム層と0.5nm〜4nmのモリブデン層を含み、この場合には40〜80周期が必要とされる。層厚は比Gが0.6〜0.67になるように選択される。
【0043】
これらの2つの例の変更例として、第2の多層膜系6のために特に好適な材料の組み合わせはニッケル−シリコン層とモリブデン層、ニッケル−ホウ素層とモリブデン層、ニッケル−モリブデン層とシリコン層又はニッケル−シリコン−ホウ素層とクロム層含む複数の周期である。
【0044】
図3に示す実施例の変更例が図4に示されている。ここでは、第2の多層膜系6において、中間層63が第2の多層膜系6のすべての層61,62の間に配置される。他の実施例では、これらの中間層はもっぱら吸収層からスペーサ層への界面又はスペーサ層から吸収層への界面に配置することができる。中間層63は、反射光学素子1が軟X線又はEUV放射で照射される動作時に周期60の圧縮を制限するので、投影系より熱負荷が高いEUVリソグラフィ装置のビーム形成系又は照明系のミラーに対して特に有益である。中間層63は拡散障壁として層61,62の過剰な混合も阻止し得る。全体として、中間層63は多層膜系内の実際の層厚の良好な制御を可能にする。中間層63は別のコーティングステップで塗布することができる。適切なイオンによるイオンビームを用いる場合には、中間層は、例えば研磨プロセス中に吸収層又はスペーサ層の後処理と同時に挿入することもできる。
【0045】
第2の多層膜系6の第1の材料としてニッケル又はニッケル合金を主成分とする多くの例のうちの一つの例では、周期60は2.7nmのニッケル−バナジウム層、2.1nmのシリコン層及び中間層としての0.5nmの炭素層を含み、この場合には上述の多層膜系4の膜応力を補償するために65の周期が必要とされる。
【0046】
図5は反射光学素子1の他の模範的な実施例を示す。ここに示す例では、周期60はニッケル又はニッケル合金の層61及び第1の多層膜系4の作業波長で屈折率の異なる実数部を有する材料の少なくとも2つの層64,65からなる。ここに示す例では、層64は吸収層41の材料からなり、層65はスペーサ層42の材料からなる。更に、中間層63は層61とそう64又は65との間に配置される。
【0047】
第2の多層膜系6の第1の材料としてニッケル又はニッケル合金を主成分とする多くの例のうちの一つの例では、周期60は2.7nmのニッケル−バナジウム層、0.5nmの炭素層、2.1nmのモリブデン層、0.5nm〜4nmのシリコン層及び0.5nmの炭素層を含み、この場合には上述の多層膜系4の膜応力を補償するために、シリコン層の厚さに応じて80〜110の周期が必要とされる。変形例では、特に炭素を窒化シリコンと置き換えることもできる。
【0048】
図6は反射光学素子1の他の模範的な実施例を示す。ここに示す例では、第2の多層膜系6の周期60はニッケル又はニッケル合金層61及び異なる材料の層67の周期68と第3の材料の層66とからなる。
【0049】
第2の多層膜系6の第1の材料としてニッケル又はニッケル合金を主成分とする多くの例のうちの一つの例では、周期60は0.5nmのニッケル−バナジウム層及び0.5nmのシリコン層からなる5つの周期68と2.1nmのモリブデン層を含み、この例では上述の多層膜系4の膜応力を補償するために190の周期が必要とされる。
【0050】
ここに示す例では、特に、モリブデン含有層及びニッケル含有層従来のマグネトロンスパッタリングによって塗布した。2.1nmのモリブデン層及び2.7nm以上のニッケル−バナジウム層はアモルファス状態で存在した。僅かに厚い層厚も依然として十分にアモルファスな層をもたらし、選択可能である。
【0051】
上述の例では、ニッケル−バナジウムの代わりに、ニッケル又は他のニッケル合金、例えばニッケル−シリコン、ニッケル−ホウ素、ニッケル−モリブデン又はニッケル−シリコン−ホウ素を使用することができることに注意されたい。これらのニッケル化合物も厚めの層厚にてアモルファス状態で存在する。
【0052】
所望の反射光学素子、特に第1の反射多層膜系4の各膜応力に応じて、第2の応力補償用多層膜系の材料及び層厚を最良の応力補償が得られるように変化させることができる。
【符号の説明】
【0053】
1 反射光学素子
2 基板
3 保護層
4 第1の多層膜系
40 周期
41 吸収層
42 スペーサ層
6 第2の多層膜系
60 周期
61−67 第2の多層膜系の層
100 EUVリソグラフィ装置
110 ビーム成形系
111 放射源
112 集光ミラー
113 モノクロメータ
120 照明系
121,122 ミラー
130 フォトマスク
140 投影系
141,142 ミラー
150 ウェハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟X線及び極端紫外線波長域内の作業波長用で、特にEUVリソグラフィ装置用の反射光学素子であって、基板上に前記作業波長で屈折率の異なる実数部を有する少なくとも2つの交互材料からなる第1の多層膜系を備え、該第1の多層膜系が前記基板に層応力を及ぼし、前記基板上に周期的に交互の少なくとも2つの材料からなる第2の多層膜系を備え、該第2の多層膜系が前記第1の多層膜系と前記基板との間に配置され、前記基板に反対方向の層応力を及ぼすように構成され、前記第2の多層膜系(6)の前記少なくとも2つの材料の第1の材料(61)が、前記第2の多層膜系(6)の少なくとも1つの他の材料(62)の1nmまでの厚さの層によって、前記第1の材料(61)がアモルファス状態で存在するような間隔で遮断されている、ことを特徴とする反射光学素子。
【請求項2】
前記第2の多層膜系(6)の前記少なくとも2つの材料(61,62)は周期的に交互に配置され、前記第2の多層膜系(6)の1つの周期(60)の全厚に対する前記第2の多層膜系の1つの周期内の第1の材料の層(61)の全厚の比(G)が0.80より大きい、請求項1記載の反射光学素子。
【請求項3】
前記第1の材料(61)は、モリブデン、ニッケル及びニッケル合金からなる群から選ばれる、請求項1又は2記載の反射光学素子。
【請求項4】
前記少なくとも一つの他の材料の層(62)は、炭化ホウ素、炭素、炭化シリコン、窒化シリコン、シリコン及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる、請求項1−3のいずれかに記載の反射光学素子。
【請求項5】
前記少なくとも一つの他の材料の層(62)の厚さは0.8nm未満である、請求項1−4のいずれかに記載の反射光学素子。
【請求項6】
軟X線及び極端紫外線波長域内の作業波長用で、特にEUVリソグラフィ装置用の反射光学素子であって、基板上に前記作業波長で屈折率の異なる実数部を有する少なくとも2つの交互材料からなる第1の多層膜系を備え、該第1の多層膜系が前記基板に層応力を及ぼし、前記基板上に周期的に交互の少なくとも2つの材料からなる第2の多層膜系を備え、該第2の多層膜系が前記第1の多層膜系と前記基板との間に配置され、前記基板に反対方向の層応力を及ぼし、前記第2の多層膜系の材料の一つがニッケル又はニッケル合金であり、前記第2の多層膜系の1つの周期の全厚に対する前記第2の多層膜系の1つの周期内のニッケル又はニッケル合金層の全厚の比(G)が少なくとも0.25である、反射光学素子。
【請求項7】
前記第2の多層膜系は、ニッケル又はニッケル合金の層(61)と前記第1の多層膜系(4)の作業波長で屈折率の異なる実数部を有する材料の少なくとも2つの層(64,65)の周期からなる、請求項6記載の反射光学素子。
【請求項8】
前記第2の多層膜系(6)は、交互層(61,67)に配置された2つの材料のうち一つはニッケル合金である2つの層の周期(68)と第3の材料の層(68)とからなる、請求項6記載の反射光学素子。
【請求項9】
前記第2の多層膜系は、ニッケル又はニッケル合金の第1の層(61)と他の金属の第2の層(62)の周期(60)からなる、請求項6記載の反射光学素子。
【請求項10】
前記第2の多層膜系の前記少なくとも一つの他の材料(62,64,65,66)は、モリブデン、シリコン、炭素、窒化シリコン及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選ばれる、請求項6−9のいずれかに記載の反射光学素子。
【請求項11】
請求項1−10のいずれかに記載の少なくとも一つの反射光学素子(121,122)を備える、特にEUVリソグラフィ装置用の投影系(120)。
【請求項12】
請求項1−10のいずれかに記載の少なくとも一つの反射光学素子(141,142)を備える、特にEUVリソグラフィ装置用の照明系(140)。
【請求項13】
請求項1−10のいずれかに記載の少なくとも一つの反射光学素子(112,113,121,122,141,142)を備える、特にEUVリソグラフィ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−513961(P2013−513961A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543669(P2012−543669)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069553
【国際公開番号】WO2011/073157
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(503263355)カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー (435)
【Fターム(参考)】