説明

FGF−7産生促進剤、VEGF産生促進剤、IGF−1産生促進剤、HGF産生促進剤、テストステロン5α−リダクターゼ阻害剤及び育毛剤

【課題】優れた作用を有し、安全性の高い、FGF−7産生促進剤、VEGF産生促進剤、IGF−1産生促進剤、HGF産生促進剤、テストステロン5α−リダクターゼ阻害剤及び育毛剤を提供すること。
【解決手段】ε−ビニフェリンを有効成分として含有することを特徴とするFGF−7産生促進剤、VEGF産生促進剤、IGF−1産生促進剤、HGF産生促進剤、テストステロン5α−リダクターゼ阻害剤及び育毛剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FGF−7産生促進剤、VEGF産生促進剤、IGF−1産生促進剤、HGF産生促進剤、テストステロン5α−リダクターゼ阻害剤及び育毛剤に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪の成長は、成長期、退行期、休止期からなる周期的なヘアサイクル(毛周期)に従って成長及び脱落を繰り返している。このヘアサイクルのうち、休止期から成長期へかけての新たな毛包が形成されるステージが、発毛に最も重要であると考えられている。そして、このステージにおける毛包上皮系細胞の増殖・分化に重要な役割を果たしているのが、毛乳頭細胞であると考えられている。毛乳頭細胞は、毛根近傍にある外毛根鞘細胞とマトリックス細胞とからなる毛包上皮系細胞の内側にあって、基底膜に包まれている毛根の根幹部分に位置する細胞であり、毛包上皮系細胞へ働きかけてその増殖を促す等、毛髪への分化に重要な役割を担っている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
線維芽細胞増殖因子−7(FGF−7)は、線維芽細胞増殖因子(FGF)のファミリーのうちの1つであり、KGF(keratinocyte growth factor)とも呼ばれる。FGFには、20種類以上のファミリーが存在することが知られている。
FGFは、中胚葉と神経外胚葉から発生した幅広い細胞の増殖を促進する因子であり、例えば、線維芽細胞、血管内皮細胞、筋芽細胞、軟骨細胞、グリア細胞、骨芽細胞等の分裂・成長を誘導する。FGFは、血管新生作用、コラーゲンやフィブロネクチンの合成抑制作用等を有することや、ヘパリンに対して強い親和性を有することが知られている。
【0004】
また、毛包の毛乳頭細胞において、FGF−7が発現していることが示され(例えば、非特許文献2参照)、FGF−7が毛根の活発化を介した育毛効果を有することが明らかになった。また、ノックアウトマウスを用いた研究により、FGF−7は、毛の伸びる方向に関与することが示唆されている。
これまでに、FGF−7産生の促進作用を有する植物エキスとして、クララ等が知られている(非特許文献3参照)。
【0005】
血管内皮増殖因子(VEGF)は、分子量34〜46kDaの糖蛋白質であり、血管内皮細胞に特異的な増殖因子として脳下垂体の濾胞細胞の培養液から発見され、血管透過性因子(VPF)と同一物質であることがわかった。VEGFは、下垂体細胞以外に、平滑筋細胞、マクロファージ、肺胞上皮細胞、肝細胞、毛乳頭細胞等の正常細胞で産生され、また、グリオーマ(神経膠腫)、乳癌、胃癌、大腸癌等の多くの腫瘍細胞からも産生されることが知られている。VEGFは、血管内皮細胞に働き、細胞の増殖、遊走を促進させたり、血管新生を促進させたりする作用がある。VEGFは、胎生期の心臓の形成時期に、強い発現が認められることが知られている。VEGF遺伝子が欠損すると血管系の異常が起こり、胎生期に死亡することが報告されており、VEGFが、個体の発達、組織形成において極めて重要なはたらきを持つことが示唆されている。最近では、VEGFファミリーの新しいメンバーであるVEGF−Cが、強力なリンパ管新生因子として皮膚におけるリンパ管の成長を仲介していることが報告された。
【0006】
ところで、毛包においては、外毛根鞘細胞及び毛乳頭細胞が、VEGFを産生することが知られている(例えば、非特許文献4、5参照)。毛包においてVEGFの産生を阻害することは、ヘアサイクルの成長期の遅れと毛包サイズの矮小化に繋がることが見出され(例えば、非特許文献6参照)、このことから、毛包の発達や再生にVEGFが重要であることが示された。
【0007】
これまでに、VEGF産生の促進作用を有する植物エキスとして、ヒルガオ科のアサガオカラクサ属植物(例えば、特許文献1参照)、ローヤルゼリー(例えば、特許文献2参照)、L−グルタミン酸又はその塩、L−セリン、PCA(ピロリドンカルボン酸)又はその塩、モノニトログアヤコールナトリウム、クロレラ(Chlorella vulgaris)の抽出物、ユズ(Citrus junos)の果実の抽出物、ウンシュウミカン(Citrus unshiu)の果皮の抽出物、エイジツ(Rosa multiflora)の果実の抽出物、イチョウ(Ginkgo biloba)の葉の抽出物より選択されるもの(例えば、特許文献3参照)等が知られている。
【0008】
インスリン様増殖因子−1(IGF−1)は、インスリンに非常に良く似た構造及び作用を持つ分子量約7,500のペプチドホルモンである。IGF−1は、細胞の分化を促し、細胞の増殖を助ける等、積極的に細胞を健康な状態に維持し(例えば、非特許文献7、8参照)、老化の進行を阻止することが知られている(例えば、非特許文献9参照)。
【0009】
また、毛包の毛乳頭細胞において、IGF−1が発現していることが示され(例えば、非特許文献10参照)、IGF−1が毛根の活発化を介した育毛効果を有することが明らかになった。現在、IGF−1を有効成分とする育毛剤が既に知られている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、IGF−1は動物由来成分であって分子量が大きいために、外用塗布による経皮吸収が困難である等の問題がある。また、IGF−1産生促進作用を示す植物由来抽出物も見つかってはいるが、より優れたIGF−1産生促進作用を有する植物由来の物質が求められている。
【0010】
肝細胞成長因子(HGF)は、肝細胞の増殖を促進する因子として劇症肝炎患者血漿から発見された。HGFは、肝臓に限らず、各臓器由来の上皮細胞、内皮細胞、造血系細胞等の増殖を促進することが知られている。HGFの血中濃度は、肝疾患をはじめ、肺炎、白血病、がん、心筋梗塞等の様々な疾患において上昇することが報告されている。また、HGFは、臓器の障害や線維化を抑制し、再生を促進する効果が認められている。特許文献5には、HGFを肺線維症予防剤の有効成分として利用する技術が開示されている。
【0011】
また、毛包の毛乳頭細胞において、HGFが発現していることが示され(非特許文献2参照)、HGFが毛根の活発化を介した育毛効果を有することが明らかになった。
これまでに、HGF産生の促進作用を有する植物エキスとして、例えば米等が知られている(特許文献6参照)。
【0012】
テストステロン5α−リダクターゼは、男性ホルモンの一種であるテストステロンをジヒドロテストステロン(DHT)に変換し、抜け毛の原因を作り出す酵素である。このDHTと呼ばれる活性型男性ホルモンは、テストロテンの10〜100倍も抜け毛を促進する働きがある。
テストステロン5α−リダクターゼには1型と2型の2種類が存在し、2型は前頭部やヒゲに分布しており、毛母細胞の活動を抑制する信号を出し、抜け毛を進行させる。1型は頭全体に見られ、2型と同様に毛母細胞の活動を抑制し、抜け毛を進行させ、更に皮脂腺に作用して皮脂を大量に分泌させる。
【0013】
アンドロゲンと総称される男性ホルモンは重要なホルモンであるが、それが過度に作用すると、男性型禿頭、多毛症、脂漏症、座瘡、前立腺肥大症、前立腺腫瘍、男児性早熟等、さまざまな好ましくない症状を誘発する。そこで、過剰のアンドロゲンの作用を抑制することによりこれら好ましくない症状を改善する手法が検討されている。具体的には、テストステロン5α−リダクターゼの作用を阻害することにより、活性型5α−DHTの生成を抑制する方法が提案されている。
従来、テストステロン5α−リダクターゼ阻害作用を有する生薬としては、例えばChoerospondias属に属する植物(特許文献7参照)、五斂子(特許文献8参照)、紅豆杉、鳥欖、幌傘楓、穿心蓮(特許文献9参照)等が知られている。
【0014】
以上のように、FGF−7産生促進剤、VEGF産生促進剤、IGF−1産生促進剤、HGF産生促進剤、テストステロン5α−リダクターゼ阻害剤及びこれらの作用及び効果を有する育毛剤に対する需要は極めて高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2003−160503号公報
【特許文献2】特開2003−192541号公報
【特許文献3】特開2005−002068号公報
【特許文献4】特公平4−060567号公報
【特許文献5】特開2006−131649号公報
【特許文献6】特開2004−099503号公報
【特許文献7】特開2003−055162号公報
【特許文献8】特開2002−241296号公報
【特許文献9】特開2002−087976号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】「Trends Genet」,1992年,第8巻,p.56−61
【非特許文献2】アンチエイジングシリーズ(1)、白髪・脱毛・育毛の実際,NTS,p.1−18,2005年
【非特許文献3】J.Derm.Sci.,30,p43−49,2002
【非特許文献4】J.Invest.Dermatol.,106,17−23(1996)
【非特許文献5】Arch.Dermatol.Res.,209,661−668(1998)
【非特許文献6】J.Clin.Invest.,107,409−417(2001)
【非特許文献7】J.Biol.Chem.,271,28853−28860(1996)
【非特許文献8】Dermatology,20,325−329(2002)
【非特許文献9】Am.J.Med.,115,501−502(2003)
【非特許文献10】J.Invest.Dermatol.,99,343−349(1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、優れたFGF−7産生促進作用を有し、安全性の高いFGF−7産生促進剤を提供することを目的とする。また、本発明は、優れたVEGF産生促進作用を有し、安全性の高いVEGF産生促進剤を提供することを目的とする。また、本発明は、優れたIGF−1産生促進作用を有し、安全性の高いIGF−1産生促進剤を提供することを目的とする。また、本発明は、優れたHGF産生促進作用を有し、安全性の高いHGF産生促進剤を提供することを目的とする。また、本発明は、優れたテストステロン5α−リダクターゼ阻害作用を有し、安全性の高いテストステロン5α−リダクターゼ阻害剤を提供することを目的とする。また、本発明は、優れた育毛効果を有し、安全性が高い育毛剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、ε−ビニフェリンが、優れたFGF−7産生促進作用、VEGF産生促進作用、IGF−1産生促進作用、HGF産生促進作用、テストステロン5α−リダクターゼ阻害作用を有することを見出した。また、ヘアサイクルを調節する因子であるFGF−7、VEGF、IGF−1、HGF及びテストステロン5α−リダクターゼに対して、ε−ビニフェリンが前記各作用を有することから、ε−ビニフェリンが育毛剤としての用途に適することを見出した。
【0019】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> ε−ビニフェリンを有効成分として含有することを特徴とする線維芽細胞増殖因子−7(FGF−7)産生促進剤である。
<2> ε−ビニフェリンを有効成分として含有することを特徴とする血管内皮増殖因子(VEGF)産生促進剤である。
<3> ε−ビニフェリンを有効成分として含有することを特徴とするインスリン様増殖因子−1(IGF−1)産生促進剤である。
<4> ε−ビニフェリンを有効成分として含有することを特徴とする肝細胞成長因子(HGF)産生促進剤である。
<5> ε−ビニフェリンを有効成分として含有することを特徴とするテストステロン5α−リダクターゼ阻害剤である。
<6> ε−ビニフェリンを有効成分として含有することを特徴とする育毛剤である。
<7> ε−ビニフェリンからなることを特徴とする線維芽細胞増殖因子−7(FGF−7)産生促進剤である。
<8> ε−ビニフェリンからなることを特徴とする血管内皮増殖因子(VEGF)産生促進剤である。
<9> ε−ビニフェリンからなることを特徴とするインスリン様増殖因子−1(IGF−1)産生促進剤である。
<10> ε−ビニフェリンからなることを特徴とする肝細胞成長因子(HGF)産生促進剤である。
<11> ε−ビニフェリンからなることを特徴とするテストステロン5α−リダクターゼ阻害剤である。
<12> 前記<7>に記載の線維芽細胞増殖因子−7(FGF−7)産生促進剤、
前記<8>に記載の血管内皮増殖因子(VEGF)産生促進剤、
前記<9>に記載のインスリン様増殖因子−1(IGF−1)産生促進剤、
前記<10>に記載の肝細胞成長因子(HGF)産生促進剤、及び
前記<11>に記載のテストステロン5α−リダクターゼ阻害剤
の少なくともいずれかを含有することを特徴とする育毛剤である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のFGF−7産生促進剤によると、従来における諸問題を解決することができ、優れたFGF−7産生促進作用を有し、安全性の高いFGF−7産生促進剤を提供することができる。
本発明のVEGF産生促進剤によると、従来における諸問題を解決することができ、優れたVEGF産生促進作用を有し、安全性の高いVEGF産生促進剤を提供することができる。
本発明のIGF−1産生促進剤によると、従来における諸問題を解決することができ、優れたIGF−1産生促進作用を有し、安全性の高いIGF−1産生促進剤を提供することができる。
本発明のHGF産生促進剤によると、従来における諸問題を解決することができ、優れたHGF産生促進作用を有し、安全性の高いHGF産生促進剤を提供することができる。
本発明のテストステロン5α−リダクターゼ阻害剤によると、従来における諸問題を解決することができ、優れたテストステロン5α−リダクターゼ阻害作用を有し、安全性の高いテストステロン5α−リダクターゼ阻害剤を提供することができる。
本発明の育毛剤によると、従来における諸問題を解決することができ、優れた育毛効果を有し、安全性が高い育毛剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(FGF−7産生促進剤、VEGF産生促進剤、IGF−1産生促進剤、HGF産生促進剤、テストステロン5α−リダクターゼ阻害剤及び育毛剤)
本発明のFGF−7産生促進剤、VEGF産生促進剤、IGF−1産生促進剤、HGF産生促進剤、テストステロン5α−リダクターゼ阻害剤及び育毛剤は、ε−ビニフェリンを含有してなり、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0022】
<ε−ビニフェリン>
ε−ビニフェリン(ε−viniferin)は、分子式C2822、分子量454.478の化合物であり、下記構造式で表される。また、ε−ビニフェリンのIUPAC命名法による化合物名は、5−[(2R,3R)−6−hydroxy−2−(4−hydroxyphenyl)−4−[(E)−2−(4−hydroxyphenyl)ethenyl]−2,3−dihydro−1−benzofuran−3−yl]benzene−1,3−diolである。
【0023】
【化1】

【0024】
ε−ビニフェリンの由来としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。ε−ビニフェリンは、ε−ビニフェリンを含有する植物抽出物から単離・精製することにより製造することもできるし、合成により製造することもできる。なお、合成により製造する場合、その合成方法は特に限定されるものではなく、公知の方法により合成することができる。
【0025】
ε−ビニフェリンを含有する植物抽出物は、植物の抽出に一般に用いられている抽出方法によって得ることができる。ε−ビニフェリンを含有する植物としては、例えば、ブドウ科植物等が挙げられる。ブドウ科植物の中でも、エビヅル(Vitis ficifolia)が特に好ましい。本発明において抽出原料として用いる植物の部位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、葉部、茎部、花(蕾)部、種子等の地上部、根部等の地下部等などが挙げられる。中でも、抽出効率の観点から、地上部が好ましい。
【0026】
前記ε−ビニフェリンを含有する植物抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用い粉砕して溶媒抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用されている乾燥機を用いて行ってもよい。なお、前記抽出原料は、ヘキサン、ベンゼン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。なお、脱脂等の前処理を行うことにより、抽出原料の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0027】
前記抽出に用いる溶媒としては、水、親水性有機溶媒、又はこれらの混合溶媒を室温乃至溶媒の沸点以下の温度で用いることが好ましい。
前記抽出溶媒として使用し得る水としては、例えば、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等の他、これらに各種処理を施したもの等が挙げられる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、ろ過、イオン交換、浸透圧の調整、緩衝化等が含まれる。なお、前記抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0028】
前記親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコール等が挙げられ、これら親水性有機溶媒と水との混合溶媒等を用いることができる。
なお、前記水と親水性有機溶媒との混合溶媒を使用する場合には、低級アルコールの場合は水10質量部に対して1質量部〜90質量部添加することが好ましく、低級脂肪族ケトンの場合は水10質量部に対して1質量部〜40質量部添加することが好ましく、多価アルコールの場合は水10質量部に対して1質量部〜90質量部添加することが好ましい。
【0029】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り、特に制限はなく、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物を更に乾燥すると乾燥物が得られる。
【0030】
以上のようにして得られた抽出液、当該抽出液の濃縮物又は当該抽出液の乾燥物から前記ε−ビニフェリンを単離・精製する方法としては、特に制限はなく、常法により行うことができる。例えば、植物抽出物を濃縮し、多孔性樹脂等を用いたカラムクロマトグラフィーに供して、水、アルコール(メタノール等)の順で溶出させ、アルコール(メタノール等)で溶出される分画物として得る。このとき、前記分画物に対して、更にODS(オクタデシルシリル化シリカゲル)を用いた逆相シリカゲルクロマトグラフィーや再結晶等に供することで、粗精製物を得ることができる。
そして、前記分画物又は粗精製物を、例えば、液体クロマトグラフィー等を用いて分離・精製することにより、精製されたε−ビニフェリンを得ることができる。
【0031】
精製されたε−ビニフェリンの同定方法としては、特に制限はなく、常法により行うことができる。例えば、13C−NMR(Nuclear Magnetic Resonance)分析において、下記の13C−NMRケミカルシフトδ(帰属炭素)を示す場合に、試験化合物がε−ビニフェリンであると同定することができる。
13C−NMRケミカルシフトδ(帰属炭素):
129.9(9−C)、128.7(10、14−C)、116.3(11、13−C)、158.2(12−C)、123.5(7−C)、130.1(8−C)、136.4(1−C)、119.8(2−C)、162.5(3−C)、96.8(4−C)、159.6(5−C)、104.2(6−C)、133.9(1’−C)、127.9(2’、6’−C)、116.1(3’、5’−C)、158.2(4’−C)、94.8(7’−C)、57.1(8’−C)、147.4(9’−C)、102.1(12’−C)、107.0(10’、14’−C)、159.6(11’、13’−C)
【0032】
前記ε−ビニフェリンは、FGF−7産生促進作用、VEGF産生促進作用、IGF−1産生促進作用、HGF産生促進作用、テストステロン5α−リダクターゼ阻害作用及び育毛作用を有しているため、それらの作用を利用して、FGF−7産生促進剤、VEGF産生促進剤、IGF−1産生促進剤、HGF産生促進剤、テストステロン5α−リダクターゼ阻害剤及び育毛剤として用いることができる。なお、抽出処理により得られた植物抽出物は、前記ε−ビニフェリンを含有しており、そのままFGF−7産生促進剤、VEGF産生促進剤、IGF−1産生促進剤、HGF産生促進剤、テストステロン5α−リダクターゼ阻害剤及び育毛剤として使用し得るが、精製してε−ビニフェリンの純度を高めたものを使用することが好ましい。ε−ビニフェリンの純度を高めたものを使用することによって、より一層使用効果に優れたFGF−7産生促進剤、VEGF産生促進剤、IGF−1産生促進剤、HGF産生促進剤、テストステロン5α−リダクターゼ阻害剤及び育毛剤を得ることができる。
前記ε−ビニフェリンを含有する植物抽出物には、前記ε−ビニフェリンを含有する植物を抽出原料として得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0033】
なお、前記FGF−7産生促進剤、VEGF産生促進剤、IGF−1産生促進剤、HGF産生促進剤、テストステロン5α−リダクターゼ阻害剤及び育毛剤の有効成分として、ε−ビニフェリンそのものが含まれていてもよく、その薬理学的に許容される塩が含まれていてもよい。また、ε−ビニフェリン又はその薬理学的に許容される塩の、水和物又は溶媒和物が含まれていてもよい。また、ε−ビニフェリンは、FGF−7産生促進作用、VEGF産生促進作用、IGF−1産生促進作用、HGF産生促進作用、テストステロン5α−リダクターゼ阻害作用及び育毛作用を損なわない限り、修飾又は置換されていてもよい。
【0034】
薬理学的に許容される塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩酸塩、硫酸塩、臭化水素塩、硝酸塩、硫酸水素酸塩、リン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、ヒドロキシマレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、樟脳スルホン酸塩、スルファミン酸塩、マンデル酸塩、プロピオン酸塩、グリコール酸塩、ステアリン酸塩、リンゴ酸塩、アスコルビン酸塩、パモン酸塩、フェニル酢酸塩、グルタミン酸塩、安息香酸塩、サリチル酸塩、スルファニル酸塩、2−アセトキシ安息香酸塩、エタンジスルホン酸塩、シュウ酸塩、イセチオン酸塩、ギ酸塩、トリフルオロ酢酸塩、エチルコハク酸塩、ラクトビオン酸塩、グルコン酸塩、グルコヘプトン酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩、ラウリル硫酸塩、アスパラギン酸塩、アジピン酸塩、ヨウ化水素酸塩、ニコチン酸塩、シュウ酸塩、ピクリン酸塩、チオシアン酸塩、ウンデカン酸塩等が挙げられる。
【0035】
本発明のFGF−7産生促進剤、VEGF産生促進剤、IGF−1産生促進剤、HGF産生促進剤、テストステロン5α−リダクターゼ阻害剤及び育毛剤は、ε−ビニフェリンそのものであってもよいし、ε−ビニフェリンを含有する植物抽出物のみからなるものでもよいし、ε−ビニフェリン又はε−ビニフェリンを含有する植物抽出物を製剤化したものでもよいが、精製してε−ビニフェリンの純度を高めたものを使用することが好ましい。ε−ビニフェリンの純度を高めたものを使用することによって、より一層使用効果に優れたFGF−7産生促進剤、VEGF産生促進剤、IGF−1産生促進剤、HGF産生促進剤、テストステロン5α−リダクターゼ阻害剤及び育毛剤を得ることができる。
【0036】
前記FGF−7産生促進剤、VEGF産生促進剤、IGF−1産生促進剤、HGF産生促進剤、テストステロン5α−リダクターゼ阻害剤及び育毛剤中のε−ビニフェリンの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0037】
<その他の成分>
前記ε−ビニフェリンは、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化して提供することができ、他の組成物(例えば、皮膚化粧料等)に配合して使用できるほか軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味剤、矯臭剤等を用いることができる。
【0038】
前記賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸等が挙げられる。また、前記結合剤としては、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられ、前記崩壊剤としては、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等が挙げられ、前記滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール等が挙げられ、前記安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸等が挙げられ、前記矯味・矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。
【0039】
なお、本発明のFGF−7産生促進剤、VEGF産生促進剤、IGF−1産生促進剤、HGF産生促進剤、テストステロン5α−リダクターゼ阻害剤及び育毛剤は、必要に応じてFGF−7産生促進作用、VEGF産生促進作用、IGF−1産生促進作用、HGF産生促進作用、テストステロン5α−リダクターゼ阻害作用及び育毛作用のいずれかを有する他の天然抽出物等を、前記ε−ビニフェリンとともに配合して有効成分として用いることができる。
【0040】
前記FGF−7産生促進剤は、有効成分として含有されるε−ビニフェリンの作用により、FGF−7産生促進作用を発揮する。
前記VEGF産生促進剤は、有効成分として含有されるε−ビニフェリンの作用により、VEGF産生促進作用を発揮する。
前記IGF−1産生促進剤は、有効成分として含有されるε−ビニフェリンの作用により、IGF−1産生促進作用を発揮する。
前記HGF産生促進剤は、有効成分として含有されるε−ビニフェリンの作用により、HGF産生促進作用を発揮する。
前記テストステロン5α−リダクターゼ阻害剤は、有効成分として含有されるε−ビニフェリンの作用により、テストステロン5α−リダクターゼ阻害作用を発揮する。
前記育毛剤は、有効成分として含有されるε−ビニフェリンの作用により、育毛作用を発揮する。
【0041】
本発明のFGF−7産生促進剤によると、優れたFGF−7産生促進作用を通じて、例えば、線維芽細胞、血管内皮細胞、筋芽細胞、軟骨細胞、グリア細胞、骨芽細胞等の分裂・成長を誘導したり、毛根の活性化を介して育毛を促進したり、脱毛症等を改善乃至治療したりすることができる。ただし、本発明のFGF−7産生促進剤は、これらの用途以外にもFGF−7産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0042】
本発明のVEGF産生促進剤によると、優れたVEGF産生促進作用を通じて、例えば、血管内皮細胞の増殖や遊走、血管新生、血液凝固、血圧調節、皮膚におけるリンパ管の成長等を促進したり、脱毛症、冠動脈疾患、閉塞性末梢動脈硬化症、軟骨損傷、血管形成不全、虚血性脚部疾患等を改善乃至治療したりすることができる。ただし、本発明のVEGF産生促進剤は、これらの用途以外にもVEGF産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0043】
本発明のIGF−1産生促進剤によると、優れたIGF−1産生促進作用を通じて、例えば、細胞全般の分化・増殖・成長、老化の進行抑制、血糖降下、生殖機能の調節、軟骨への硫酸イオンの取込み等を促進したり、脱毛症、皮膚老化、糖尿病、下垂体機能低下症、下垂体性小人症等改善乃至治療したりすることができる。ただし、本発明のIGF−1産生促進剤は、これらの用途以外にもIGF−1産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0044】
本発明のHGF産生促進剤によると、優れたHGF産生促進作用を通じて、例えば、各臓器由来の上皮細胞、内皮細胞、造血系細胞等の増殖を促進したり、臓器の障害や線維化を抑制し、再生を促進したり、脱毛症、線維症、肝臓疾患、閉塞性動脈硬化症等を改善乃至治療したりすることができる。ただし、本発明のHGF産生促進剤は、これらの用途以外にもHGF産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0045】
本発明のテストステロン5α−リダクターゼ阻害剤によると、優れたテストステロン5α−リダクターゼ阻害作用を通じて、例えば男性型脱毛の予防、皮脂分泌の抑制等に好適に利用することができる。ただし、本発明のテストステロン5α−リダクターゼ阻害剤は、これらの用途以外にもテストステロン5α−リダクターゼ阻害作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0046】
本発明の育毛剤によると、優れたFGF−7産生促進作用、VEGF産生促進作用、IGF−1産生促進作用、HGF産生促進作用、テストステロン5α−リダクターゼ阻害作用等を通じて、例えば男性型脱毛症、多毛症、脂漏症、座瘡(ニキビ等)、前立腺肥大症、前立腺腫瘍、男児性早熟等の、疾患や好ましくない症状を予防又は治療するために好適に利用することができる。
なお、本明細書における「育毛剤」とは、毛を発育させること、毛の発育を促進すること、毛の健康状態を保つこと、脱毛を予防すること及び脱毛を低減させることのいずれかの効果を持つ薬剤を意味し、「養毛剤」をも包含する。したがって、本発明の育毛剤は養毛剤としても好適に用いることができる。
【0047】
本発明のFGF−7産生促進剤、VEGF産生促進剤、IGF−1産生促進剤、HGF産生促進剤、テストステロン5α−リダクターゼ阻害剤及び育毛剤は、優れた作用を有するとともに、皮膚に適用した場合の使用感と安全性に優れているため、頭髪用育毛剤、頭髪化粧料等の皮膚外用剤に配合するのに好適である。前記皮膚外用剤の投与部位としては、頭髪、頭髪の毛根、頭皮、頭皮の皮脂腺等の頭部が好ましい。前記皮膚外用剤の剤形としては、軟膏、クリーム、ローション、ゲル、ゾル、スプレー、溶液等が挙げられる。頭髪化粧料としては、例えば、ヘアトニック、ヘアリキッド、シャンプー、ポマード、リンス等が挙げられる。
【0048】
また、本発明のFGF−7産生促進剤、VEGF産生促進剤、IGF−1産生促進剤、HGF産生促進剤、テストステロン5α−リダクターゼ阻害剤及び育毛剤は、優れた作用を有するとともに、消化管で消化されるようなものではないことが確認されているので、美容用飲食品又は経口用医薬に配合するのに好適である。
【0049】
また、本発明のFGF−7産生促進剤、VEGF産生促進剤、IGF−1産生促進剤、HGF産生促進剤、テストステロン5α−リダクターゼ阻害剤及び育毛剤は、優れた作用を有するので、FGF−7、VEGF、IGF−1、HGF、テストステロン5α−リダクターゼの機能の研究や、FGF−7、VEGF、IGF−1、HGF、テストステロン5α−リダクターゼに関連する疾患の研究のための試薬として好適に利用できる。
【0050】
なお、本発明のFGF−7産生促進剤、VEGF産生促進剤、IGF−1産生促進剤、HGF産生促進剤、テストステロン5α−リダクターゼ阻害剤及び育毛剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例】
【0051】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0052】
(製造例1:エビヅル抽出物の製造)
エビヅルの茎を抽出原料として、以下の方法によりエビヅル抽出物を得た。
エビヅルの茎の粉砕物98.6gをメタノール5Lに投入し、穏やかに攪拌しながら3時間、80℃に保った後、ろ過した。再びメタノール5Lを加え、同様の操作を繰り返した。ろ液を40℃で減圧下に濃縮し、さらに減圧乾燥機で乾燥してエビヅル抽出物5.7g(粉末状)を得た。エビヅル抽出物の収率は5.9%であった。
【0053】
(製造例2:ε−ビニフェリンの製造)
得られたエビヅル抽出物5.7gを、クロロホルム:メタノール:水=10:3:1(容量比)の混合溶媒に溶解し、シリカゲル(商品名 シリカゲル 60、メルク株式会社)を充填したガラス製のカラム上部から注入して、シリカゲルに吸着させた。次いで、移動相としてクロロホルム:メタノール:水=10:3:1(容量比)を流し、その溶出液を集め、脱溶媒して、ε−ビニフェリン濃縮物312mgを得た。
得られたε−ビニフェリン濃縮物312mgを下記の条件で高速液体クロマトグラフィーを用いて分画し、175mgのε−ビニフェリンを単離した。
【0054】
<高速液体クロマトグラフィー条件1>
固定相:JAIGEL GS−310(日本分析工業社製)を2本連結
カラム径:20mm
カラム長:500mm
移動相:メタノール
移動相流量:5mL/min
検出:RI
【0055】
<高速液体クロマトグラフィー条件2>
固定相:YMC−Pack ODS−A(YMC製)
カラム径:20mm
カラム長:250mm
移動相:アセトニトリル:水=4:7
移動相流量:9mL/min
検出:RI
【0056】
前記ε−ビニフェリンについて、13C−NMR(Nuclear Magnetic Resonance)分析を行い、単離化合物がε−ビニフェリンであることを確認した。下記にその結果を示す。
【0057】
−ε−ビニフェリン−
13C−NMRケミカルシフトδ(帰属炭素):
129.9(9−C)、128.7(10、14−C)、116.3(11、13−C)、158.2(12−C)、123.5(7−C)、130.1(8−C)、136.4(1−C)、119.8(2−C)、162.5(3−C)、96.8(4−C)、159.6(5−C)、104.2(6−C)、133.9(1’−C)、127.9(2’、6’−C)、116.1(3’、5’−C)、158.2(4’−C)、94.8(7’−C)、57.1(8’−C)、147.4(9’−C)、102.1(12’−C)、107.0(10’、14’−C)、159.6(11’、13’−C)
【0058】
(実施例1:FGF−7、VEGF、IGF−1及びHGFの産生促進試験)
製造例2にて単離したε−ビニフェリンを試料として用い、下記の試験法によりFGF−7、VEGF、IGF−1及びHGFのmRNA発現率を測定した。
【0059】
まず、正常ヒト頭髪毛乳頭細胞(TOYOBO社、CA60205)を毛乳頭細胞増殖培地(TOYOBO社、TPGM−250)を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を2×10個/mLの濃度になるように10%FBS含有DMEM培地で希釈した後、直径60mmシャーレに5mLずつ播種し、一晩培養した。培養終了後、被験試料を添加した無血清DMEM培地に交換し6時間培養した後、ISOGEN(ニッポンジーン社、Cat.No.311−02501)にて総RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計にて測定し、200μg/mLになるように総RNAを調製した。
【0060】
この総RNAを鋳型とし、FGF−7、VEGF、IGF−1、HGF及び内部標準であるGAPDHのmRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Smart Cycler(Cepheid社)を用いて、TaKaRa SYBR PrimeScriptTM RT−PCT Kit(Perfect Real Time)(code No.RR063A)によるリアルタイム2 Step RT−PCR反応により行った。
【0061】
FGF−7、VEGF、IGF−1、HGF及びGAPDHの各遺伝子を検出するために、下記の配列を有するセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを使用した(タカラバイオ社)。
【0062】
FGF−7遺伝子検出用プライマー
センスプライマー :5’−tctgtcgaacacagtggtacctgag−3’(配列番号1)
アンチセンスプライマー:5’−gccactgtcctgatttccatga−3’(配列番号2)
【0063】
VEGF遺伝子検出用プライマー
センスプライマー :5’−gagccttgccttgctgctctac−3’(配列番号3)
アンチセンスプライマー:5’−caccagggtctcgattggatg−3’(配列番号4)
【0064】
IGF−1遺伝子検出用プライマー
センスプライマー :5’−tcttcagttcgtgtgtggagacag−3’(配列番号5)
アンチセンスプライマー:5’−gggtgcgcaatacatctccag−3’(配列番号6)
【0065】
HGF遺伝子検出用プライマー
センスプライマー :5’−tggccatgaatttgacctctatga−3’(配列番号7)
アンチセンスプライマー:5’−ggctgacatttgatgccactctta−3’(配列番号8)
【0066】
GAPDH遺伝子検出用プライマー
センスプライマー :5’−gcaccgtcaaggctgagaac−3’(配列番号9)
アンチセンスプライマー:5’−atggtggtgaagacgccagt−3’(配列番号10)
【0067】
FGF−7、VEGF、IGF−1及びHGFのmRNAの発現量について、同一サンプルにおけるGAPDHの発現量の値で補正を行った後、下記(1)式によりFGF−7、VEGF、IGF−1及びHGFのmRNA発現促進率(%)を算出した。各々の結果を表1〜4に示す。
各遺伝子のmRNA発現促進率(%)= B/A × 100 ・・・(1)
[ただし、前記(1)式中、
A:試料無添加時の補正値、
B:試料添加時の補正値、を表す。]
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
【表4】

【0072】
表1〜4の結果から、ε−ビニフェリンが、高いFGF−7産生促進作用、VEGF産生促進作用、IGF−1産生促進作用及びHGF産生促進作用を有することが認められた。また、ε−ビニフェリンは、これらのヘアサイクル調節因子の中で、特にFGF−7に対して顕著に高い産生促進作用を示し、その作用は濃度依存的であることが認められた。
【0073】
(実施例2:テストステロン5α−リダクターゼ阻害作用試験)
製造例2にて単離したε−ビニフェリンを試料として用い、下記の試験法によりテストステロン5α−リダクターゼ阻害作用試験を行った。
【0074】
まず、蓋付V底試験管にて、プロピレングリコールで調製した4.2mg/mL テストステロン 20μL、1mg/mL NADPH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)含有5mmol/mL Tris−HCl緩衝液(pH7.13)825μLを混合した。これに、エタノール、80%エタノール又は精製水で調製した被験試料80μL及びS−9(オリエンタル酵母工業株式会社) 75μLを加え再び混合し、37℃にて30分反応させた後、塩化メチレン 1mLを加え反応を停止した。これを遠心(1,600×g、10分)し、塩化メチレン層をガスクロマトグラフィーにより分析した。前記ガスクロマトグラフィーの条件は以下の通りである。また、同様の方法で空試験を行った。
なお、前記S−9とは、SDラットの雄に酵素誘導剤(フェノバルビタール、5,6−ベンゾフラボン)を腹腔内投与したのち肝臓をすりつぶして、9,000×gで遠心した上清である。
【0075】
<ガスクロマトグラフィーの条件>
使用機器 :Shimadzu GC−7A
カラム :DB−1701(φ0.53mm×30m、膜厚;1.0μm)
カラム/注入温度:240℃/300℃
検出器 :FID
キャリアガス :窒素ガス
【0076】
あらかじめ、3α−アンドロスタンジオール(SIGMA社)、ジヒドロテストステロン(DHT、東京化成工業株式会社)及びテストステロン(東京化成工業株式会社)の標準品の塩化メチレン溶液をガスクロマトグラフィーにより分析し、これら3化合物の精秤量とピーク面積よりピーク面積あたりの化合物量を算出した。
そして、S−9による反応後の3α−アンドロスタンジオール、ジヒドロテストステロン(DHT)及びテストステロンをガスクロマトグラフィーにより分析し、それぞれのピーク面積あたりの濃度を、下記の(2)式に従って算出した。次に、被験試料の変換率を下記の(3)式に従って算出した。そして、前記変換率に基づいて、テストステロン5α−リダクターゼ活性阻害率を、下記の(4)式に従って算出した。結果を表5に示す。また、50%阻害活性濃度(IC50:μg/mL)を算出した結果を表6に示す。
【0077】
濃度(%)=(被験試料のピーク面積×標準品濃度)/標準品のピーク面積 ・・・(2)
【0078】
変換率(%)=(A+B)/(A+B+C) ・・・(3)
〔ただし、前記(3)式中、
A:3α−アンドロスタンジオールの濃度、
B:ジヒドロテストステロン(DHT)の濃度、
C:テストステロンの濃度、を表す。〕
【0079】
テストステロン5α−リダクターゼ活性阻害率(%)=(1−E/D)×100 ・・・(4)
〔ただし、前記(4)式中、
D:空試験での変換率、
E:被験試料添加での変換率、を表す。〕
【0080】
【表5】

【0081】
【表6】

【0082】
実施例2の結果によれば、ε−ビニフェリンが、テストステロン5α−リダクターゼ阻害作用を有することが示された。また、テストステロン5α−リダクターゼ阻害作用の程度は、ε−ビニフェリンの濃度によって調節できることが示された。
【0083】
(配合例1:育毛用ヘアトニック)
下記組成の育毛用のヘアトニックを常法により製造した。
ε−ビニフェリン 0.1g
塩酸ピリドキシン 0.1g
レゾルシン 0.01g
D−パントテニルアルコール 0.1g
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1g
l−メントール 0.05g
1,3−ブチレングリコール 4.0g
ニンジンエキス 0.5g
エタノール 25.0g
香料 適量
精製水 残部
合計 100.0g

【0084】
(配合例2:育毛用ヘアトニック)
下記組成の育毛用のヘアトニックを常法により製造した。
ε−ビニフェリン 0.1g
酢酸トコフェロール 適量
セファランチン 0.002g
イソプロピルメチルフェノール 0.1g
ヒアルロン酸ナトリウム 0.15g
ビワ葉エキス 1.0g
グリセリン 15g
エタノール 15g
香料 適量
キレート剤(エデト酸ナトリウム) 適量
防腐剤(ヒノキチオール) 適量
可溶化剤(ポリオキシエチレンセチルエーテル) 適量
精製水 残部
合計 100.0g

【0085】
(配合例3:育毛用シャンプー)
下記組成の育毛用の透明シャンプーを常法により製造した。
ε−ビニフェリン 0.1g
ヤシ油脂肪酸メチルタウリンナトリウム 10.0g
ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン 10.0g
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム 20.0g
ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド 4.0g
プロピレングリコール 2.0g
香料 適量
防腐剤(パラオキシ安息香酸メチル) 0.15g
精製水 残部
合計 100.0g

【0086】
(配合例4:育毛用シャンプー)
下記組成の育毛用のコンディショニングシャンプーを常法により製造した。
ε−ビニフェリン 0.1g
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム 30.0g
ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン 30.0g
ヤシ油脂肪酸メチルタウリンナトリウム 20.0g
ヤシ油ジエタノールアミド 3.0g
ジステアリン酸エチレングリコール 2.0g
香料 適量
防腐剤(パラオキシ安息香酸メチル) 0.15g
1,3−ブチレングリコール 3.0g
精製水 残部
合計 100.0g
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のFGF−7産生促進剤、VEGF産生促進剤、IGF−1産生促進剤、HGF産生促進剤、テストステロン5α−リダクターゼ阻害剤及び育毛剤は、優れたFGF−7産生促進作用、VEGF産生促進作用、IGF−1産生促進作用、HGF産生促進作用、テストステロン5α−リダクターゼ阻害作用及び育毛作用を有するので、頭髪化粧料をはじめとする皮膚外用剤に配合したり、美容用化粧品及び医薬に配合したり、研究用の試薬として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ε−ビニフェリンを有効成分として含有することを特徴とする線維芽細胞増殖因子−7(FGF−7)産生促進剤。
【請求項2】
ε−ビニフェリンを有効成分として含有することを特徴とする血管内皮増殖因子(VEGF)産生促進剤。
【請求項3】
ε−ビニフェリンを有効成分として含有することを特徴とするインスリン様増殖因子−1(IGF−1)産生促進剤。
【請求項4】
ε−ビニフェリンを有効成分として含有することを特徴とする肝細胞成長因子(HGF)産生促進剤。
【請求項5】
ε−ビニフェリンを有効成分として含有することを特徴とするテストステロン5α−リダクターゼ阻害剤。
【請求項6】
ε−ビニフェリンを有効成分として含有することを特徴とする育毛剤。

【公開番号】特開2011−241162(P2011−241162A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113700(P2010−113700)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】