説明

GaN単結晶基板及びその製造方法並びに光デバイス

【課題】 面積が広く反りが少なく自立できるGaN単結晶基板を提供すること。
【解決手段】 GaAs(111)基板の上に千鳥型窓やストライプ窓を有するマスクを形成し、HVPE法またはMOC法により低温でGaNバッファ層を形成し、HVPE法により高温でGaNエピタキシャル層を厚く形成し、GaAs基板を除去する。GaNの自立膜を種結晶としてHVPE法でGaNを厚付けしGaNインゴットを作る。これをスライサーによって切断して透明無色の反りの少ないGaNウエハを作る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III-V族窒化物化合物半導体(GaN系)を用いた発光ダイオード(LED)やレ−ザダイオード(LD)など青色発光素子用のGaN単結晶基板およびその製造方法並びに光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開平5−183189号
【特許文献2】特開平6−260680号
【特許文献3】特願平10−078333号
【非特許文献1】J.J.Appl.Phys.Vol.37, Part2, No.3B(1988),ppL309−L312
【非特許文献2】Appl. Phys.Lett.Vol.71, No.17(1997)
【非特許文献3】電子情報通信学会論文誌C−II,vol.J81−C−II,p58〜64
【0003】
図1はGaN成長のための基板となりうる材料のGaNに対する格子定数と熱膨張率の比を示す。サファイヤ(Al)、SiC、Si、GaAs、ZnOなどが比較衡量される。窒化物系半導体発光デバイス或いはGaN系発光デバイスは従来サファイヤ基板の上にGaN薄膜などをエピタキシャル成長して作られていた。サファイヤ(Al)基板は化学的に安定であるし耐熱性もある。GaNと格子定数は16%程度異なるもののバッファ層を形成することによりGaNがその上にエピタキシャル成長する。このような利点があるからサファイヤ基板を使う。GaNなどの薄膜を付けたあともサファイヤ基板は付いたままLED、LDとして用いられる。つまりサファイヤとGaNの複合的な素子である。これは実用的な素子であって、サファイヤ基板上のGaN系LEDは市販されている。またGaN系LDも近く市販されるだろうと言われている。
サファイヤとGaNの格子定数は食い違う。それにも拘らずサファイヤ基板上には実用的なGaN素子が成長する。それは格子定数の緩和が滑らかに起こるからである。図2はサファイヤ上のGaNの膜厚と、格子定数変化の関係を示すグラフである。膜厚の変化に従って格子定数がゆっくりと変化してゆく。いまなお基板としてサファイヤがもっとも優れている。現在量産されているものは全てGaN/Al構造を持つ。このような構造は例えば特許文献1,2に説明されている。
【0004】
ところがサファイヤ基板にもなお問題がある。サファイヤ基板上のGaNエピタキシャル層の欠陥密度は極めて高い。これは格子のミスマッチからくるのであろうか。なんと10cm−2もの欠陥密度がある。いわば欠陥だらけと言って良い。しかしそれにも拘らずGaNLEDは長寿命である。不思議な材料である。だから高密度欠陥というのは結晶学的には問題であろうが実際にはあまり問題でないとも言える。
【0005】
しかしサファイヤにはもうひとつ機械的な難点がある。サファイヤ(Al)は化学的に安定で硬度が高い。化学的に安定ということは良いようであるがそうでもない。GaNを残し、基板だけをエッチング除去できない。最も困るのは劈開性がないということである。それに硬い。GaN/サファイヤ基板をLEDチップに分割するときのダイシング加工が難しい。自然劈開がないから刃物状のものを押し当てて破壊切断する。破損することもあり歩留まりは低い。なお、GaN/サファイヤ基板から、サファイヤをポリッシュで除去して、実験した例が非特許文献1に報告されている。がいまだ実験室レベルのものである。
【0006】
ダイシングを容易に行うためにSiCのような劈開性のある材料を基板にすることが考えられた。SiC基板GaN素子は例えば非特許文献2に提案されている。しかしSiCにも問題がある。化学的に安定であり、作製のための処理温度が1500℃以上にもなる。SiC基板自体の製造が難しい。ために高価な基板となり、GaN発光素子がコスト高になる。実際にはSiCはGaN発光素子の基板として利用されていない。SiC/GaN素子は量産規模では製造されていない。
いずれにしても従来のGaN素子は、異種基板の上にGaNを成長させたもので基板を除去しないから、サファイヤが付いたままである。複合デバイスである。
【0007】
基板上にGaNをエピタキシャル成長させるには基板を1000℃以上の高温に加熱しなければならない。このような高温でないと気相反応が起こらない。GaNなどのエピタキシャル層を成長させた後温度を下げると薄膜と基板との熱膨張係数の違いによる影響が現れる。熱膨張係数は温度の関数であって一定でない。だから簡単に比較はできないがあらましの比較をすると次のようである。GaNの熱膨張係数を1とすると、GaAsは約1.08倍、SiCは0.87倍、サファイヤは1.36倍の熱膨張係数を持つ。
【0008】
薄膜、基板間の熱膨張係数の違いによる第1の問題は、GaN薄膜に熱応力が発生しGaN薄膜に欠陥やマイクロクラックなどが入ってしまう事である。熱膨張係数相違による第2の問題は、冷却時に反りが発生するということである。ウエハ−の全体が反りによる変形を受ける。第3の問題は大きい複合GaN基板ができないということである。サファイヤ基板にGaNの薄膜を載せた複合物はGaN基板と言えない事はない。しかし薄膜・基板間に熱膨張係数の差による熱応力や反りが大きいために大型複合基板とすることができない。高々数mm角のGaN/サファイヤによるGaN複合体が報告されていただけである。とても工業的に利用可能な大きさでない。
【0009】
振り返ってみれば、GaAsを基板として、GaNを成長させる試みが1970年代に精力的に推進された。GaAsとGaNの熱膨張率の差異はこれらの候補の中でもっとも小さい。熱膨張係数差が小さいので反りや欠陥も少ないはずである。しかしこれらの勇敢な試みはことごとく失敗に終わった。GaAsにうまくGaNが付かなかった。GaNが単結晶でないとか欠陥密度が高すぎる、GaNが剥離するとかで、良質の複合GaN基板は作製できなかった。その理由ははっきりしない。いくつもの原因があったのであろう。ひとつには成長時の高温中でのGaAsのAsの蒸発や、NHとの反応のために、良いGaN結晶が成長できず、GaAs基板上のGaN成長はほとんど有望視されていなかった。また格子定数がGaAsとGaNとでかなり違うからであろうか。GaNの格子定数を1とすると、GaAsは1.25である。約5/4も違う。SiCの格子定数は、1.03倍でGaNに近い値である。サファイヤの格子定数はGaNの0.86倍である。格子定数で言えばGaAsは、GaNに最も遠い。GaN/GaAsという複合デバイスはすでに20年も前に試みられ諦められた組み合わせであった。
【0010】
現在も生き残っているのはGaN/サファイヤの素子だけである。であるからサファイヤ基板法をより純化する、というのがひとつの開発のあり方になろう。いくら転位密度が高くても良い、LEDは長寿命だといっても、転位密度が低ければもっと長寿命かもしれない。それに青色LDはいまだ満足できる寿命でない。それはやはり高密度に存在する欠陥のせいかもしれない。サファイヤ基板でより低欠陥のGaNを成長させるという試みがさらになされる。
非特許文献3はサファイヤ基板にストライプ状(縞状)のマスクをつけその上にGaNを厚膜成長させたものである。縦縞(ストライプ)によって横方向には分離された面からGaNが成長しやがてストライプを越えて合体する。そのようなストライプ成長によって欠陥密度が大幅に減退したと報告している。欠陥密度が減ったのであれば一つの成果である。しかしサファイヤ基板上ストライプ成長法は他の問題に対して沈黙している。あくまでサファイヤ上の成長で、サファイヤ基板が付いたままである。頑固な無劈開の問題を解決していない。無劈開だからダイシング工程が難しく歩留まりが悪い。サファイヤがついたままであるから熱膨張係数の差のため、GaN単結晶に転位、マイクロクラックが多数導入される。また反りが無視できない。反りのためウエハ−プロセスに不適である、という問題もある。
【0011】
熱膨張係数の差、格子定数の差は異種材料を使う限り常につきまとう。最も理想的な基板はGaN基板である。なんといってもGaN基板である。しかし広いGaN基板が存在しない。ウエハ−として半導体製造工程に適するのは1インチ径以上、好ましくは2インチ径以上のものが必要である。けれどもそんな大きいGaN基板はない。
【0012】
大型結晶を成長させるにはチョコラルスキー法、ブリッジマン法などがあるがいずれも原料融液から固体を凝固させる。融液から出発できるから大きい単結晶を製造することができる。しかしGaNは加熱しただけでは融液にならない。昇華して気体になってしまう。Gaに少量のGaNを添加して、数万気圧の超高圧を掛け加熱してGa−GaN融液とすることはできる。しかし超高圧にできる空間は極極狭い。狭い空間で大きい結晶を作ることはできない。大型の超高圧装置を製造するというのでは余りにコスト高になって現実的でない。大型結晶を製造する方法が適用できないから、これまで大型のGaN結晶ができず、GaN基板も存在しなかった。
【0013】

GaN薄膜は薄膜成長法により作られる。これらはいずれも気相から固相への反応である。サファイヤ基板の上に、GaN薄膜を成長させるため以下の4つの方法が知られている。
1.HVPE法(ハイドライド気相成長法:Hydride
Vapor Phase Epitaxy)
2.MOC法(有機金属塩化物気相成長法:metallorganic
chloride method)
3.MOCVD法(有機金属CVD法:metallorganic
chemical vapor deposition)
4.昇華法
【0014】
MOC法は、トリメチルガリウムTMGなどGaの有機金属と、HClガスをホットウオール型の炉内で反応させ一旦GaClを合成し、これと基板付近に流したアンモニアNHと反応させ、加熱した基板の上にGaN薄膜を成長させるものである。実際には水素をキャリヤガスとして、有機金属ガス、HClガスの輸送を行う。Ga原料として有機金属を用いるから炭素がGaNの中に不純物として混入する。炭素のために黄色を呈する。無色透明のGaN結晶を得ることは困難である。炭素のためにキャリヤ濃度(自由電子)が増加し、電子移動度が低下する。炭素のために電気特性も悪くなる。有機金属塩化物気相製法は優れた方法であるが、なおこのような欠点がある。
【0015】
MOCVD法はGaN薄膜成長法として最も頻用される。コールドウオール型の反応炉において、TMGなどGaの有機金属とアンモニアNHを水素ガスとともに、加熱された基板上に吹き付ける。基板上でTMGとNHが反応しGaN薄膜ができる。この方法は大量のガスを用いるので、原料ガス収率が低い。発光層のように薄い層を形成する場合には、大きな問題にならないかも知れない。しかし本願のように、厚いGaN基板を作ろうとするとこの問題は深刻な難点になる。またMOC法と同じように炭素混入の問題がある。黄色に着色する。電気特性が HVPE法はGa原料として金属Gaを使う。ホットウオール型反応炉にGa溜を設けGa金属を入れておく。Gaは融点が低いので30℃以上でGa融液になる。そこへ水素ガス、HClガスを吹き付けると、塩化ガリウムGaClができる。GaClがキャリヤガスHによって基板の付近へ運ばれ、アンモニアと反応してGaNが基板表面に堆積する。この方法は金属Gaを使い炭素を原料中に含まない。炭素が薄膜に混入しないから着色しない。電子移動度も低下しない、などの利点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
GaN発光素子を作製する基板はGaN単結晶が最も適する。大型GaN基板がこれまで存在しなかった。基板にできるような広い面積をもち自立できるGaN結晶を提供することが本発明の第1の目的である。反りがないGaN基板を提供する事が本発明の第2の目的である。炭素を含まず無色透明のGaN基板を提供する事が本発明の第3の目的である。但し成長条件によっては、蒸気圧の高いAsがGaN単結晶中に取り込まれて薄い茶色を呈する場合もある。GaN単結晶インゴットを製造しこれを薄く切断することによって複数のウエハ−を製造する方法を提供する事が本発明の第4の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
GaAs(111)単結晶基板の上に[11−2]方向に等間隔で並び[−110]方向にも等間隔で分布する窓を有するマスクをつけ、マスクの窓の部分に低温でGaNバッファ層を成長させ、ついで高温にしてGaN層をバッファ層の上とマスクの上にHVPE法によってエピタキシャル成長させ、GaAs基板を除去してGaN単結晶基板を製造する。これは1枚の基板を作る方法である。あるいはこの単結晶基板を種結晶として、さらにその上にGaNエピタキシャル層を厚く形成して、少なくとも10mmの厚みを有するGaNインゴットとし、これを切断或いは劈開して複数のGaN基板とする。これが本発明のGaN基板の製造方法である。GaAs基板は王水でエッチングすることによって除去できる。さらにGaNの表面は研磨して平滑にする。このように薄膜の製造方法であるエピタキシャル成長法を利用して大型結晶を作ってしまう。
【0018】
本発明のGaN結晶の最大の特徴はその大きさにある。本発明ではGaN基板の直径は1インチ以上、好ましくは2インチ径以上とする。LEDなどの発光素子を工業的に低コストで製造するためにはGaN基板が広い方が良い。それで20mm角以上好ましくは1インチ(25mm)以上、さらに好ましくは2インチ以上とするのである。出発材料であるGaAs基板が広ければ大面積のGaN結晶を製造できる。
GaN基板の厚みは自立できハンドリングに不便がないようなものでなければならない。そのためには50μm〜1mm程度がよい。1mmを越えても半導体素子を製造できるがウエハ−自体の価格が高くなってしまう。50μm以下の厚みだと自らの形状を保持できない。より好ましくは70μm〜1mmという厚みである。
【0019】
HVPE法を採用するのは、炭素が原料に含まれないようにするためである。炭素がGaNに含まれないから黄色に殆ど着色しない。炭素によって電子がキャリヤとして加わり電子移動度を下げるということもない。炭素が入らないからGaNは無色透明のウエハ−になる。実際本発明のGaNウエハ−を文字の上におくと、下地の文字が透けて見える。まるでガラスのようである。原料からの混入はない。しかし、GaAs基板側から蒸発したAsなどの混入によりうすい黄色、薄茶色、暗灰色を帯びる場合もある。しかしマスク層とバッファ層がGaAs基板からのAsの蒸発を防ぐのでGaN中へのAsの混入量は極めて少ない。その量は1017個cm−3以下である。Asの量が多いとGaNの結晶性が乱れる。LEDとした場合はAsが特性を劣化させる。しかしHVPE法によればその恐れはない。
【発明の効果】
【0020】
本発明は大型のGaN単結晶ウエハを提供する。ラテラル成長法によるからGaN結晶中の転位等の欠陥が少ない。炭素を使わない手法によってGaNを厚付けするから透明度の高いウエハとなる。ラテラル成長であるから内部応力が小さく抑えられ反りも少ない。反りが僅かでフォトリソグラフィなどの既存のウエハプロセスを使うことができる。このGaN単結晶ウエハをGaN発光素子の基板として利用することができる。薄膜部分と基板が同一であるから反りが出ない。内部応力も小さい。したがって転位密度も少なくなる。発光効率が上がる。GaNLED、GaNLDの寿命が伸びる。
【0021】
本発明のGaN製造はGaAs基板から出発する。サファイヤではない。サファイヤ基板は後から除去できない。ところがGaAsは王水で時間を掛けて除去することができる。先に説明したようにGaAs基板は1970年代に盛んに試みられ一旦は見込み無しとして見捨てられた手法であった。それをなぜにいまになって取り上げるのか?ラテラル成長法という有力な薄膜成長法を本発明者が新たに見いだしたからである。これは島状の窓を有するマスクによってGaAs基板を覆い、孤立した窓からGaNを独立に成長させる手法である。本発明者等が開発したこの手法がGaAs基板上のGaNを現実的な意味あるものにしたのである(特許文献3)。
【0022】
GaNは六方晶系である。(0001)面は六回対称性がある。GaAsは立方晶系であるから(100)や(110)面は3回対称性を持たない。そこでGaAs(111)A面或いはB面を基板として用いる。これは三回対称性のある軸に直交する面である。A面というのはGa原子が露出している面である。B面はAs原子の露呈している面である。
【0023】
図3はラテラル成長に使うマスクの一部を示す。マスクは直接にはGaNが付かないようなSiやSiOなどが良い。マスク厚みは100nm〜数100nmである。等間隔に窓を有するマスクである。窓は小さい正方形である。数μm直径の小さな窓である。これは別段丸でも三角でも楕円、六角形などでも良い。微細な加工であるから丸や楕円の方が加工しやすい。配列が重要である。[11−2]方向に列をなして並ぶ。間隔をLとする。それと直交する[−110]方向に隣接する列は半ピッチずれている。隣接列との距離をdとする。好ましくはd=31/2L/2とする。つまり正三角形の頂点に窓が配置されるのが最も良い。例えば窓を1辺2μmの正方形とし、窓ピッチLを6μm、列間隔dを5μmと言うようにすることもできる。そのような正三角形分布の窓が良いのは、図5のように隣接窓から成長したGaNが同時に境界を接するようになるからである。しかしながら、dやLが多少上記の式から外れても良い。
またストライプ状の窓を有するマスクでもGaNを成長させることはできる。ストライプ状の窓を用いると、マスク面全面がGaNで覆われるまでの時間が短いという長所がある。ただしやはり欠陥が多く反りの大きくなる傾向がある。
【0024】
窓付きのマスク越しにGaNを成長させるラテラル成長法はつぎのような意味を持つ。マスクとGaNが直接には結合しないから下地のGaAsと薄膜GaNが結合するのは窓の部分だけである。通常のGaN成長の場合には、バッファ層上で、数多くの核生成がなされ、互いに犇めき合って成長して行く。その際多くの欠陥が導入される。本発明のようにマスクがある場合は、マスクからはみ出して横方向に成長する分を妨害するものはない。妨害がないから殆ど欠陥なく成長すると考えられる。接合面積が狭いから高温で成長後、温度を下げても熱応力が緩和される。全面積で密合している場合に比較して窓だけでつながっているラテラル成長層は熱応力がよほど小さくなる。それだけだとどのような配列分布の窓でも良い事になる。そうではなくて、図5のように正六角形が同時に接触し、以後均等な厚みに成長する可能性があるような窓分布が望ましいのである。なお図4、5の正六角形は、六角錐の底部の形状を示したものである。
【0025】
マスクをつけるにはGaAs基板の全体にマスク材料を被覆し、フォトリソグラフィによって等間隔に窓を開けるようにする。同じ状態を図6(1)に断面によって示している。
【0026】
この後比較的低温450℃〜500℃程度で、HVPE法によって数10nm〜100nm程度の薄いGaNバッファ層を形成する。マスクより薄いから、バッファ層は窓内に孤立して存在する。図6(2)はその状態を示している。
【0027】
800℃〜1050℃程度の高温にして、HVPE法でGaNエピタキシャル層を形成する。この時バッファ層は結晶化する。図4のように孤立した窓で核発生したGaN結晶は通常六角錐を形成する。核発生後、六角錐が高さ方向と底部側方に次第に成長する。底面は六角形状に広がり窓を埋める。やがてGaNはマスクをこえて広がる。それも六角錐の形状を保持したままである。図5のように隣接窓からの結晶と接触し上に向けて成長する。このエピタキシャル成長層の厚みによって基板結晶の大きさが決まる。1枚のウエハ−は70μm〜1mmの厚みをもつのでその程度の厚みであれば良い。これが図6(3)の状態である。上記のような成長過程をとるので、成長表面は荒れていて擦りガラス状である。透明とするためには研磨しなければならない。
【0028】
さらに王水によってGaAs部分をエッチング除去する。マスクの部分は研磨によって除く。図6(4)の状態になる。これは1枚のGaN結晶である。透明であり自立している。1枚のウエハ−だけを作るのであればこれで終わりである。
【0029】
さらに複数のウエハ−を製造したいのであれば、この基板を種結晶として、さらにエピタキシャル成長させる。図7はこれを示す。図7(1)はGaN基板の上にHVPE法によってさらに厚くGaNをエピタキシャル成長したものを示す。円柱径のGaNインゴットになる。厚みは10mm以上とする。側面に支持部材を固定し、内周刃スライサーなどによって1枚1枚ウエハ−に切り出して行く。図7(2)はこれを示す。アズカットウエハ−を研磨して図7(3)のように透明平滑なGaNウエハ−ができる。この場合、AsはGaN結晶に混入しない。
【0030】
本発明においてエピタキシャル成長に用いるHVPE法を図8によって説明する。縦長の反応炉1を円筒形のヒ−タ2が取り囲んでいる。反応炉1の上頂部には原料ガス導入口3、4がある。原料ガス導入口3からはHCl+Hの原料ガスが導入される。Hはキャリヤガスである。その直下にはGa溜5がある。ここには金属Gaを収容しておく。融点が低いからヒ−タ2によって加熱されGa融液6になる。HClがGa融液に吹き付けられるから、Ga+HCl→GaClという反応が起こり塩化ガリウムGaClができる。このGaClとキャリヤガスHの混合ガスが反応炉中の空間を下方に運ばれる。原料ガス導入口4はより下方に開口する。アンモニアNH+水素Hの混合ガスがここから反応炉内に導入される。GaClとNHにより、GaCl+NH→GaNの反応が起こる。
【0031】
サセプタ7はシャフト8によって回転昇降自在に設けられる。サセプタ7の上にはGaAs基板9またはGaN基板が取り付けられる。基板は加熱されているから気相反応した生成物GaNが基板の上に付着する。排ガスは排ガス出口10から排出される。HVPE法はGa金属を原料として使う。そしてGaClを中間生成物として作る。これが特徴である。
【0032】
エピタキシャル成長は原料を気体にしなければならないがGaを含む気体というものはない。Ga自体は30℃以上で液体である。気体にするため有機金属を使うのがMOC法、MOCVD法である。気体にはなるが炭素を含むからGaN結晶に炭素が不純物として混入してしまう。HVPE法はGaを加熱して液体にし、HClと反応させGaClにする。優勢な水素ガスによって気体として運ばれるのである。有機金属を使わないから炭素が不純物として結晶中に入らない、という長所がある。
【0033】
本発明によって作られたGaN単結晶基板は、ノンドープであるがn型である。キャリヤ濃度は1×1016cm−3程度である。n型の伝導性を与えるものは原料ガスに微量含まれる酸素であることを本発明者は見いだした。HVPE法炉中の酸素分圧を制御することによってキャリヤ濃度を1×1016cm−3〜1×1020cm−3の範囲で制御できる。酸素分圧を制御することによって、電子移動度は80cm/Vs〜800cm/Vsの範囲に調整できる。比抵抗は1×10−4Ωcm〜1×10Ωcmの範囲で制御可能である。キャリヤ濃度は5×1017cm−3〜1019cm−3の範囲が望ましく、比抵抗は5×10−2Ωcm以下の範囲がさらに望ましい。
【0034】
こうして作られたGaN基板は優れた特徴がある。広い。自立膜である。透明である。無色である、などの性質である。ただし成長条件により黄色、薄茶色、暗灰色である。光デバイス用基板としては光の吸収が少ないことが要件である。だから無色透明であることが要求される。GaN基板として重要なことである。基板の透明度はLambert-Beer則により記述され次の式で与えられる。
I = Iexp(−αx)
ここでIは入射光の強度、Iは観測光の強度、αは吸収係数、xは基板の厚さである。αが小さいほど光の透過度が高く透明であることを示している。本発明によって得られたGaN基板の吸収係数は、400nm〜600nmにわたって低く、GaN基板はこれらの波長の光に対し高い透明度を有している。両面を研磨したGaN基板について吸収係数を測定した。本発明によれば、この波長帯で吸収係数が120cm−1以下のものを容易に得ることができた。さらに吸収係数が80cm−1以下のものをも作製できた。光デバイス用基板としては吸収係数が小さければ小さい程よい。
しかしながらそれだけでは不十分である。まだまだ問題がある。それはなにか?歪と内部応力の問題である。内部応力が大きいと反りが甚だしくなりフォトリソグラフィなどウエハ−プロセスに支障を来す。
【0035】
加熱したGaAs基板の上にGaNを成長させて常温に下ろして装置から複合体を取り出す。熱膨張係数が違うから、降温することによって歪が異なる。図9のようにGaN/GaAs複合体が撓む。GaNには応力が発生している。GaAsにも反対向きの応力が発生している。応力には2種類のものがある。熱応力と真性応力である。熱応力は熱膨張係数の異なる二つの異質材料が張り合わされているときに温度変化があることによって発生するものである。
【0036】
もしも熱応力だけだとすると、GaAs基板を除去すると熱応力も消失する。それゆえ図10のようにGaNは平坦になる筈である。真性応力があるとそうはいかない。GaAs基板を取り外しても尚GaNに残留する応力がある。そのために図11のようにGaN自体が歪む。この反りはGaAsとは無関係に表面と裏面の応力の相違、厚み方向の応力の傾斜のために現れる。
【0037】
1970年代にGaAs基板上にGaNを巧みに成長させることができなかったのは真性応力が大きかった事も原因している。熱応力も含めた内部応力が大きすぎてGaNが多大の欠陥をもち剥落したりした。真性の内部応力を減らすための工夫が実は先述のマスクを用いるラテラル成長法である。孤立した窓を多数マスクに作っておき、ここからGaNバッファ層を成長させさらにエピタキシャル層を重ねて成長させる。内部応力の原因は転位などの欠陥にあると考えている。転位から切り離されているのでマスク上に成長した部分が低欠陥化しており、これによって内部応力を減らすことができる。
【0038】
それはいいのであるが、やはりなにがしかの内部応力が残留する。ためにGaN基板が反る。反りが大きいとウエハ−プロセスにかからない。反りを評価し許容される反りの上限を決めなければならない。
【0039】
図12に反りの測定法あるいは表現法の定義をしめす。一定直径のウエハ−にして平坦なテーブルの上において、中心の隆起Hを測定する。例えば2インチ直径のウエハ−に換算して、中心の浮き上がりHを求める。Hが一つの測定法であり表現法である。
【0040】
反りはウエハ−の曲がりの曲率ξ或いは曲率半径Rによっても定義でき表現できる。R=D2/8Hあるいは、ξ=8H/D2によって換算できる。Dはウエハ−の直径である。2インチウエハ−の場合はD=50mmである。
【0041】
反りまたは撓みというものは外部に現れる現象であるから直接に測定することができる。内部応力は内在的なポテンシャルであるから簡単に測定できない。
【0042】
円板が曲率δで撓むときの内部応力は

【0043】
【数1】

【0044】
によって与えられる。σは内部応力、Eは剛性率、νはポアソン比、bは基板の厚さ、dは薄膜厚さ、Iは基板直径、δは撓み(Hに当たる)である。I=50mmとした場合は、上の定義でδ=Hに当たる。これは薄膜の内部応力を撓みから計算するStoneyの式という。薄膜だけにしてしまうので(GaN単層であるから)d=bとして、
【0045】

【数2】

【0046】

この式によって、撓みδからσを計算した。反りと、曲率半径と内部応力の関係はつぎのようである。基板厚さが一定の時、内部応力が大きくなればなるほど、反りは大きく、曲率半径は小さくなる。内部応力が一定の場合、基板厚さが厚くなればなるほど、反りは低減し、曲率半径は大きくなる。本発明者らによるGaN基板については、基板上へのデバイスプロセスの容易さ、基板強度を勘案し、反り、曲率半径、内部応力の許容範囲を検討した。
【0047】
ウエハの厚さによって適当な値が変わるのであるが、一般的にいうと、
1.曲率半径R 600mm以上(曲率が1.67×10-3mm-1以下)
2.反りH(50mm直径で) 0.55mm以下
3.内部応力σ
7MPa以下
【0048】
つまり、本発明者がウエハに課した条件は、R≧600mm、H≦0.55mm、σ≦7MPaである。さらに内部応力は3MPaであるとより好ましい。曲率半径は750mm以上であるとさらに良い。
【0049】
本発明において、1枚のGaN基板を製造する方法の他に、GaN基板を種結晶としてその上にGaNを厚くエピタキシャル成長させ単結晶インゴットを製造する方法も採用している。その場合は厚みを10ミリ以上にして、数十枚のウエハを切り出すようにする。インゴットが厚いから反りは小さい。反りが少ないから精度良くスライスできる。厚さが大きいので低転位化が進んでいる。スライスして切り出したウエハも低転位である。そのため反りも少ない。
【実施例1】
【0050】
[実施例1(HVPE法ラテラル成長によるGaN単結晶1枚の作製)]
GaAs(111)A基板を反応容器内に設置した。基板サイズは30mm径の円形基板とした。常圧(大気圧)CVD装置でGaAs基板上に、Si層を厚さ0.1μmになるように形成した。これに規則的な分布をする窓をフォトリソグラフィによって開けた。窓は3種類のものを採用した。図3に示す千鳥ドット窓と、<11−2>ストライプ窓、<1−10>ストライプ窓の3種である。
1.千鳥ドット窓…図3〜5に示すように、GaAs<11−2>に平行な直線上に並び隣接する窓群が半ピッチずれている。d=3.5μm、L=4μm。
2.<11−2>ストライプ窓…<11−2>方向に平行な長窓(ストライプ)のマスク。ストライプの幅が2μm、間隔2μm、ピッチ4μm。
3.<1−10>ストライプ窓…<11−2>方向に平行な長窓(ストライプ)のマスク。ストライプの幅が2μmで間隔が6μm。ピッチは8μmである。
【0051】
このような窓を開けたSiをマスクとして使って、GaNバッファ層とエピタキシャル層を成長させる。
(1)GaNバッファ層の形成

周期的な窓を有するマスクによって覆われたGaAs基板をHVPE装置の中に設置した。HVPE装置を真空に引いてGaAs基板を約500℃に加熱した。石英のGa溜を850℃以上に加熱しGa融液とする。原料ガス導入口から水素ガスHと塩化水素ガスHClの混合ガスをGa溜に導き、塩化ガリウムGaClを合成した。別の原料ガス導入口から水素HとアンモニアNHの混合ガスを導入し、500℃に加熱された基板近傍でGaCl+NH→GaNの反応を起こさせGaAs基板に、GaNを堆積させる。これによってGaAs基板上に約70nmのGaNバッファ層を形成する。SiはGaN成長抑制作用がありSiマスクの上にはGaNは堆積しない。バッファ層(70nm)はマスク(100nm)より薄い。だから窓のGaAsの部分だけにGaNバッファ層ができる。
【0052】
(2)GaNエピタキシャル層の形成
HClの導入を停止した。基板温度を500℃から約1000℃まで上げた。再びHClをGa溜に向けて導入する。以前の工程と同じように、GaとHClの反応によって塩化ガリウムGaClを合成する。水素ガスがキャリヤとして流れているからGaClは下方へともに流れる。アンモニアNHとGaClが加熱された基板の近傍で反応しGaNができる。これが窓の中のバッファ層の上にエピタキシャル成長する。マスク厚み(100nm)を越えるとマスクの上にGaN結晶が正六角形状に広がって行く。ただしマスク全面がGaNで覆われるまでは、GaN結晶は六角錐である。図4、図5は六角錐の底面部の状況を模式的に示したものである。窓は正三角形の頂点位置にあるからそこから正六角形状に広がったGaNは隣接窓から広がってきた結晶と丁度きびすを接することになる。成長速度は等しいので正六角錐の結晶は隈無く接触する。GaN結晶層がマスクの上面を隈無く覆い尽くすと、今度は上方へGaNが堆積してゆく。成長速度は50μm/Hである。約100μmの厚みのエピタキシャル層を成長させた。このように無数の小さい窓から独立に核発生させ結晶成長させる(ラテラル成長)のでGaNの中の内部応力を大幅に低減することができる。表面は擦りガラス状であった。
【0053】
(3)GaAs基板の除去
次に試料をエッチング装置の中に設置した。王水によって約10時間エッチングした。GaAs基板が完全に除去された。GaNだけの結晶になった。両面を研磨してGaN単結晶基板とした。これは自立膜であった。マスクの窓寸法と窓ピッチL、隣接列との距離dを変えその他はほぼ同じ条件で3つの試料についてGaN成長させた。試料1は千鳥ドット窓(窓2μm角、L=4μm、d=3.5μm)。試料2は<11−2>ストライプマスクである。試料3は<1−10>ストライプマスクである。
【0054】
【表1】

【0055】
ノンドープなのであるがn型の電子伝導型である。結晶性の維持を考えるとキャリヤ濃度は低い方が良く、電子移動度は高い方が良い。しかし比抵抗は高い方が良いのである。これら電気的特性は成長条件により変化する。ストライプマスクは内部応力低減という点で不完全である。これらサンプルは透明な薄茶色である。波長400nm〜600nmでの吸収係数は、40cm−1〜80cm−1であった。Asの含有量を調べたところ、9×1016cm−3であった。
【実施例2】
【0056】
[実施例2(HVPEラテラル成長GaN種結晶、HVPE法GaN厚付け)]
2インチ径のGaAs(111)A面を基板とした。その上にSiOの絶縁膜を形成した。フォトリソグラフィによって図3のような窓を設けた。
(1)GaNバッファ層の形成
【0057】
マスクを有するGaAs基板をHVPE装置に設置した。図8の装置を使うが、Ga溜5は800℃に加熱した。原料ガスとしては、H+HClをGa溜に導き、H+NHは基板に直接に導いた。約500℃(基板温度)の低温において、GaNバッファ層を形成した。バッファ層厚みは80nmである。
(2)エピタキシャル層の形成
ついで基板温度を1000℃に上げた。同じ原料ガスを使って、GaNエピタキシャル層80μmを形成した。
(3)GaAsの除去
GaN/GaAs基板をHVPE装置から取りだした。鏡面状にGaN連続膜が生成されていることを確認した。これを王水中でGaAs基板をエッチング除去した。
【0058】
(4)GaNの厚付け
これを十分に洗浄した。図6(4)のような状態になる。GaNだけになったものをふたたびHVPE装置にセットした。基板温度を1020℃として、HVPE法によってGaNを厚付けしGaNのインゴットを得た。図7(1)に示す状態である。このインゴットは中央部が少し窪んだ形状であった。最低高さは約20mm、外径55mmのインゴットであった。
【0059】
(5)スライサーによるウエハ−の切り出し
円周刃スライサーによってインゴットを軸方向に直角な方向に切りだした。図7(2)に示すようである。外径約50mm、厚み350μmのGaN単結晶基板20枚を得た。GaNを分析したところ、As、炭素ともにバックグランドのレベルであった。ひ素(As)、炭素が、GaNのなかに殆ど含有されていない事が分かる。
【0060】
(6)研磨
さらにラッピング研磨、仕上げ研磨をした。図7(3)のような透明ウエハ−である。機械加工をしているため基板には反りは無かった。
【0061】
(7)電気的特性の測定
インゴットの上端(成長終期の分)から取ったウエハ−の電気的特性を測定した。n型でキャリヤ濃度は5×1018cm−3であった。電子移動度は200cm/Vsであった。比抵抗は0.017Ωcmであった。
【0062】
インゴットの下端(成長初期の分)から取ったウエハ−の電気的特性はつぎのようであった。n型でキャリヤ濃度は1018cm−3、電子移動度は150cm/Vsであった。比抵抗は0.01Ωcmであった。これは両極端の部位の電気的特性である。中間部は中間的な値になるであろう。
【0063】
(8)光吸収の測定
これらのウエハは透明であり暗灰色か無色であった。波長400nm〜600nmにおける吸収係数は20cm−1〜40cm−1であった。
(9)LEDの作製
GaN基板ができたので、その上にInGaNを発光層とするLEDを作製した。従来のサファイヤ基板のものと比較して、発光輝度が約5倍に向上した。発光輝度が向上した理由は、転位の減少による。従来のサファイヤ基板LEDでは活性層内に多くの貫通転位が存在していたが、GaN基板の本発明のLEDは貫通転位が大きく減少しているからである。
【実施例3】
【0064】
[実施例3(MOCラテラル成長GaN種結晶、HVPEGaN厚付け)]
GaAs(111)B面を基板として用いた。SiOを基板に付けフォトリソグラフィによって[1−10]方向に延びるストライプ窓を形成した。
【0065】
(1)GaNバッファ層の形成
有機金属塩化物気相成長法(MOC法)によって約490℃の低温で基板上に90nmの厚みのGaNバッファ層を形成した。
【0066】
(2)GaNエピタキシャル層の形成
同じ装置において、基板温度を約970℃に上げて、GaNエピタキシャル層を25μmの厚さに形成した。
(3)GaAs基板の除去
MOC装置からGaN/GaAs試料を取りだした。鏡面のGaN単結晶が成長していた。ストライプマスクの方向は、GaNの[11−20]方向であった。つまりGaAsの[1−10]方向にGaNの[11−20]方向が成長するということである。王水によってGaAs基板を溶解除去した。
【0067】
(4)GaNの厚付け成長
25μm厚みのGaNを種結晶として、HVPE装置にセットした。1000℃に加熱しHVPE法によってGaNを厚くエピタキシャル成長させた。円柱状で最低高さが約3センチのGaNインゴットを育成した。
【0068】
(5)内周刃スライサーによるウエハ−切り出し
内周刃スライサーによってインゴットを軸直角方向に400μmの厚みに切り出した。25枚のアズカットウエハ−を切り出すことができた。
【0069】
(6)研磨
切り出したウエハ−をラッピング研磨、仕上げ研磨した。製品としてのGaN単結晶ウエハ−を得た。
(7)電気特性の測定
ウエハ−の電気的特性を測定した。n型であって、電子移動度は250cm/Vsであった。比抵抗は0.05Ωcmであった。
【0070】
この実施例ではGaN自体を種結晶として、GaN単結晶を厚く成長させている。厚い単結晶GaNを成長させこれをスライサーで切断しているから一挙に25枚もの基板が作製できる。製造コストは、1枚1枚GaAsから成長させる場合に比較して64%に低下した。基板の製造を低コスト化できる。品質管理も含めた1枚当たりの製造時間も大きく短縮できた。GaNを分析したところ砒素(As)、炭素(C)ともにバックグランドのレベルであった。
【0071】
マスクの窓は正三角形の頂点にある位置に窓を穿つマスクが最も良い。しかしストライプ(縞状)の窓をもつものであっても良い。それなりの内部応力低減の効果がある。マスク上のラテラル成長によって、結晶内の低欠陥化が進み内部応力が低減される共にGaAsとGaNの接触面積が減り内部応力を緩和できる。ために温度変化が大きいにもかかわらず反りの発生を抑制することができる。
【実施例4】
【0072】
[実施例4(総流量と表面モフォロジー・内部応力の関係)]
[1−100]ストライプマスク、[11−2]ストライプマスク、ドットマスクを使いHVPE法によってGaNウエハを作製した。原料ガスはH+NHとH+HClである。原料ガスの総流量を増やすと表面モフォロジーが改善される。しかし内部応力は増える傾向が認められた。

【0073】
【表2】

【0074】
これらのうち、イ、ロ、ニ、ホ、ト、チ、の6つはAグループであり、ハ、ヘ、リ、ヌ、ルの5つはBグループである。
(A)Ga分圧は1kPa(10-2atm)である。970℃でバッファ層・マスクの上にGaNを1時間成長させ、1030℃でさらに3時間GaNを成長させた。合計4時間のエピタキシャル成長である。図13に白丸○によってその結果をしめす。6個の試料がある。これらは表面は平坦でありモフォロジーは良好である。ところが内部応力は大きい。クラックが発生した試料もある。図13において横軸は膜厚(μm)である。膜厚は5μm〜120μmに分布している。縦軸は内部応力(GPa)である。○の試料は内部応力が2MPa〜40MPaである。ほとんどが10MPaより大きい内部応力を呈する。しかし内部応力は7MPa以下(7×10−3GPa)が好ましい。
(B)Ga分圧は2kPaである。970℃でバッファ層・マスクの上にGaNを6時間エピタキシャル成長させた。試料の数は10個である。図13に同じように示す。膜厚は70μm〜300μmの間に分布する。GaN試料の表面は粗い。Rmaxは約20μmである。GaN基板寸法は20mm×20mmである。表面状態は悪いが内部応力は小さい。内部応力は図13に黒丸によって示すように1MPa〜10MPaである。目標は7MPa以下であるからこれを充たすことができる。しかし同じ条件であるのに膜厚に広いばらつき(70μm〜300μm)がある。反りの曲率半径RはR=780mm〜1500mmである。
【実施例5】
【0075】
[実施例5(曲率半径の関係)]
前例と同じ(A)の試料6枚と、(B)5枚の試料について膜厚と曲率半径の関係について調べた。触針法によって反りを評価した。図14にその結果を示す。横軸は膜厚(μm)である。縦軸は曲率半径である。曲率半径は600mm以上が好ましい。
(A)970℃1時間+1030℃3時間成長の試料Aは膜厚が薄く表面は平坦であるが反りが大きい。曲率半径は200mm以下である。曲率半径の望ましい範囲は600mm以上である。6個の試料の全てが目標に達しない。
(B)970℃6時間成長の試料Bは膜厚が厚く、表面は粗面化しているが、内部応力が小さく、反りも小さい。5個のB試料のすべては600mmという望ましい範囲をこえている。マスクなし成長では、曲率半径が極めて小さくて反りが大きい。1970年代のGaAs基板の試みが失敗したのはそのような理由にもよる。
【実施例6】
【0076】
[実施例6(研磨)]
試料Aは研磨に失敗した。試料Bのうち、膜厚150μm、内部応力4MPa、曲率半径1030mm、Rmax20μmの試料について研磨した。研磨により膜厚は80μmに減った。曲率半径は研磨後650mmに減っている。研磨によって表面粗さはRmax7.2nm、Ra2nmに減少した。研磨は表面を平滑にしているが、反りを増大させる場合もある。
【実施例7】
【0077】
[実施例7(ウエハ内の内部応力の異方性)]
ストライプマスクを使用してGaN成長した場合と、ドットマスクを使用してGaN成長した場合の内部応力を比較した。図15に示したのは、マスクと内部応力の関係を示すグラフである。
(1)GaAsウエハ上に、<1−10>方向に伸びるストライプマスクを作製し平均膜厚(膜の厚さはバラツキがあるのでこれを平均化したもの)120μmのGaNを成長させたもの、
(2)実施例1と同様のドットマスクを使用し、平均膜厚160μmのGaNを成長させたもの、
を使用した。
成長の条件はいずれも、Ga分圧1×10−2atm(1kPa)、NH分圧0.24atm(24kPa)、成長時間970℃、成長時間240分である。成長の後、冷却してGaAs基板を除去した。GaN自立膜としGaNの内部応力をX線によって調べた。その結果を図15に示す。ドットマスクを使用して製造したGaN基板は、異方性が極めて少なく内部応力も小さい。それに反してストライプマスクを使用して製造したGaN基板は、ストライプ方向とそれに直交する方向に異方性がある。とくにストライプに平行な方向に大きい反りが現れる。垂直方向に比較して10倍もある。図15の方位はGaN結晶に関する方位である。GaAsの<1−10>はGaNの<11−20>に、GaAsの<11−2>は、GaNの<1−100>に対応する。GaNの<11−20>と<1−100>は直交する。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】GaN結晶を成長させるための基板材料とGaNとの熱膨張係数、格子定数の差を、x、y座標に示すグラフ。
【図2】サファイヤ基板上にGaNエピタキシャル成長させた場合に、GaN膜厚が変化することによって格子定数が滑らかに変化することを示すグラフ。
【図3】千鳥型点状窓マスクをGaAs(111)A面に固定したものの平面図。
【図4】マスク窓から露呈した部分にGaNバッファ層をエピタキシャル成長させた状態の平面図。
【図5】GaNをマスク、バッファ層の上にさらにエピタキシャル成長させ隣接窓からの結晶が相会した時に状態を示す平面図。
【図6】GaAs基板の上にマスクを載せてGaNバッファ層、GaNエピタキシャル層を成長させ、GaAs基板をエッチング除去する工程を示す工程図。(1)はGaAs(111)基板上にマスクを形成した工程の図。(2)はマスクによって覆われていない部分にバッファ層を成長させた工程の図。(3)はバッファ層、マスクの上にGaNエピタキシャル層を成長させた工程の図。(4)はGaAs基板を除去しGaNの自立膜となった状態を示す図。
【図7】GaN基板の上にさらにGaNを厚く成長させてGaNインゴットを作りこれを切断してウエハにする工程を示す図。(1)はGaN基板に厚付けしたGaNインゴットの図。(2)はインゴットを内周刃スライサーでアズカットウエハに切断している状況を示す図。(3)は切り出されたウエハの図。
【図8】HVPE装置の概略断面図。
【図9】GaAs基板の上にGaNを成長させた複合基板が熱応力のために反っている状態を示す断面図。
【図10】もしも内部応力が0であれば、GaAsを除去した後のGaNは平坦になることを示す断面図。
【図11】もしもGaN自体のなかに内部応力が存在するならばGaAsを除去しても尚歪みが残ることを示す断面図。
【図12】GaNウエハの反りの定義を示す図。50mm直径のウエハの中央部の盛り上がりHによって反りを表現する。
【図13】ガス流量を(A)1800sccm〜900sccmの一群と(B)900sccmの一群について、膜厚と内部応力の測定値の分布を示す図。黒丸が表面粗くてB群である。白丸が表面平滑でA群である。
【図14】同じA群試料(30枚)とB群試料(9枚)について、膜厚と曲率半径の分布を示す図。黒丸がB群、白丸がA群である。
【図15】ストライプマスクとドットマスク使用時の内部応力の異方性を測定した結果をしめすグラフ。
【符号の説明】
【0079】

1 反応炉
2 ヒ−タ
3 原料ガス導入口
4 原料ガス導入口
5 Ga溜
6 Ga融液
7 サセプタ
8 シャフト
9 GaAs基板またはGaN基板
10 ガス排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20mm以上の直径を有し、0.07mm以上の厚さを有し、自立しており、撓み量が長さ2インチ(50mm)について0.55mm以下であり、キャリヤ濃度1×1016〜1×1020cm-3、電子移動度80cm/Vs〜800cm/Vs、比抵抗1×10−4〜1×10Ωcmであることを特徴とするGaN単結晶基板。
【請求項2】
キャリヤが酸素であることを特徴とする請求項1に記載のGaN単結晶基板。
【請求項3】
成長表面を荒らしたまま成長することで、内部応力を7MPa以下にしたことを特徴とするGaN単結晶基板。
【請求項4】
内部応力7MPa以下のGaN単結晶基板を成長させる方法において、成長表面を荒らしたまま成長することを特徴とするGaN単結晶基板の製造方法。
【請求項5】
HVPEを用いてGaN結晶を成長した後、得られたGaN結晶の少なくとも1面にラッピング研磨、仕上げ研磨を施すことにより、20mm以上の直径を有し、0.07mm以上の厚さを有し、自立しており、撓み量が長さ2インチ(50mm)について0.55mm以下であるGaN単結晶基板を得ることを特徴とするGaN単結晶基板の製造方法。
【請求項6】
(111)GaAs基板の上に[11−2]方向に一定間隔をおいて並び[−110]方向に半ピッチずれた点状の窓を有するマスク又は[11−2]方向に伸びるストライプ状の窓を有するマスク若しくは[−110]方向に伸びるストライプ状の窓を有するマスクを形成し、GaNバッファ層を設け、HVPE法によりGaNをエピタキシャル成長させGaAs基板を除去することで、20mm以上の直径を有し、0.07mm以上の厚さを有し、自立しており、撓み量が長さ2インチ(50mm)について0.55mm以下のGaN単結晶基板を得ることを特徴とするGaN単結晶基板の製造方法。
【請求項7】
(111)GaAs基板の上に[11−2]方向に一定間隔をおいて並び[−110]方向に半ピッチずれた点状の窓を有するマスク又は[11−2]方向に伸びるストライプ状の窓を有するマスク若しくは[−110]方向に伸びるストライプ状の窓を有するマスクを形成し、GaNバッファ層を設け、HVPE法によりGaNをエピタキシャル成長させ、GaAs基板を除去してGaN基板を得て、そのGaN基板の上にHVPE法によってGaN単結晶をエピタキシャル成長せしめ、エピタキシャル成長したGaNインゴットから、切断又は劈開により分断することで、20mm以上の直径を有し、0.07mm以上の厚さを有し、自立しており、撓み量が長さ2インチ(50mm)について0.55mm以下のGaN単結晶基板を得ることを特徴とするGaN単結晶基板の製造方法。
【請求項8】
20mm以上の直径を有し、0.07mm以上の厚さを有し、自立しており、撓み量が長さ2インチ(50mm)について0.55mm以下であり、キャリヤ濃度1×1016〜1×1020cm-3、電子移動度80cm/Vs〜800cm/Vs、比抵抗1×10−4〜1×10Ωcmであることを特徴とするGaN単結晶基板の上に作製した光デバイス。
【請求項9】
前記の光デバイスがLEDもしくはLDであることを特徴とする請求項8に記載の光デバイス。













【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−148159(P2006−148159A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−34698(P2006−34698)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【分割の表示】特願平10−171276の分割
【原出願日】平成10年6月18日(1998.6.18)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】