説明

III族窒化物系化合物半導体の製造方法

【課題】半導体結晶の膜厚を均一にすると共に、その結晶性を高く均一にする方法を提供する。
【解決手段】昇温開始後、混合フラックス中の窒素(N,N2)が過飽和近くに達するまでの20時間、坩堝を40rpmの回転数で、それぞれ1分の正回転期間と、1分の負回転期間とで2分を1周期として、回転方向を切り換える。半導体結晶の成長工程においては、漸増期間、正回転期間、漸減期間、停止期間、漸増期間、負回転期間、漸減期間、停止期間を1周期として、回転速度が制御される。この様な攪拌処理によって、雰囲気中の窒素成分(N2またはN)が混合フラックス中に常時十分に取り込まれる。また、フラックスの種結晶基板面上の速度分布が変化するために、面上に成長する半導体結晶の厚さが均一一様となる。また、回転を切り換えるときに、フラックスの乱流が発生しないため、結晶粒界が大きくなり、結晶転位密度を低減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属を有する混合フラックスの中で、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)又はインジウム(In)の III族元素と窒素(N)とを反応させることによって、 III族窒化物系化合物半導体を結晶成長させる半導体結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、従来のNaフラックス法においては、坩堝内に原料として、Ga,Na,Cを投入して、高温、高圧下で、フラックスにNまたはN2 を溶解させて結晶成長を行っている。その際に、坩堝を一方向に回転させたり、或いは坩堝を揺動させたりして、フラックスの攪拌を結晶成長過程において行っている。
【特許文献1】特開2007−254161
【特許文献2】特開2007−277055
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の従来技術においては、目的の半導体結晶の厚さや結晶性が均一にならないと言う問題があった。この原因を究明するために、各種の実験を行った。坩堝を同一方向に回転させて、GaNを成長させた場合には、種結晶基板に成長する結晶の厚さが基板面上において、均一にはならなかった。そこで、GaNの結晶中において、正方向の回転と負方向との回転とを、瞬時的に、交互に切り換えて成長実験を行った。この場合には、基板面上において、均一な厚さの結晶成長が見られた。しかし、この成長結晶は、結晶粒界が小さく、したがって、結晶転位密度が大きいことが分かった。
そこで、本発明の目的は、アルカリ金属を有する混合フラックスの中で、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)又はインジウム(In)の III族元素と窒素(N)とを反応させることによって、 III族窒化物系化合物半導体を結晶成長させる半導体結晶の製造方法において、種結晶基板の面上において、一様な厚さで結晶成長させ、且つ、結晶粒界の大きな、すなわち、結晶転位密度の小さな結晶を成長させることである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題を解決するためには、以下の手段が有効である。
即ち、第1の発明は、アルカリ金属を有する混合フラックスの中で、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)又はインジウム(In)の III族元素と窒素(N)とを反応させることによって、 III族窒化物系化合物半導体を結晶成長させる半導体結晶の製造方法において、半導体結晶の結晶成長工程において、混合フラックスを有する坩堝の回転を、正回転と、負回転とを交互に切り換え、回転を切り換える場合には、混合フラックスの流速が最大流速の0.1以下に低下した後のタイミングで、反転させることを特徴とする半導体結晶の製造方法である。
【0005】
本発明者らは、坩堝の回転方向を急激に切り換えることにより、坩堝中のフラックスの流れが、整然と流れていた状態から、急激に流れが変化するため、切り換え後のしばらくの間、乱流となる結果、結晶粒界が小さくなることを見出した。したがって、その回転方向の切り換え時に、フラックスの乱流が発生しないようにして、回転を切り換えることで、結晶粒界を大きくでき、したがって、結晶転位密度を低減させることができることを、本発明者らは、着想した。
【0006】
回転の切り換え時に、フラックスの乱流の発生を防止する一つの方法として、混合フラックスの流速が最大流速の0.1以下に低下した後のタイミングで、坩堝の回転方向を反転させる方法がある。最も望ましいのは、フラッスクの流速が零となってから、坩堝の回転方向を反転させることである。
【0007】
また、回転を切り換える場合には、回転を停止させる期間を設けてもよい。この回転を停止する期間を設けることで、坩堝中の混合フラックスの流速を、最大流速の0.1以下にすることができる。
【0008】
また、正回転と負回転との間には、徐々に回転速度を低下させる漸減区間と、徐々に回転速度を増加させる漸増期間とを設けるようにしても良い。混合フラッスクの流速が徐々に低下し、徐々に回転速度が増加することから、回転方向を切り換えても、乱流の発生を防止できる。この結果、成長させる半導体結晶の結晶性を向上させることができる。
【0009】
第2の発明は、アルカリ金属を有する混合フラックスの中で、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)又はインジウム(In)の III族元素と窒素(N)とを反応させることによって、 III族窒化物系化合物半導体を結晶成長させる半導体結晶の製造方法において、半導体結晶の結晶成長工程において、混合フラックスを有する坩堝を回転させる回転期間と、その回転を停止する回転停止期間とを、交互に切り換えることを特徴とする半導体結晶の製造方法である。
【0010】
本発明は、坩堝の回転方向を反転させるのではなく、一方向に回転させるが、回転停止期間を設けることを特徴とする。もしも、半導体結晶の成長工程中の全期間において、坩堝を一定方向にのみ定速度で回転させた場合には、坩堝中の混合フラックスの種結晶の基板面に対する流速分布は、変化しないものとなる。この結果、基板面上において、成長する半導体の厚さが均一で一様にはならない。そこで、本発明のように、回転停止期間を設けると、坩堝の中の混合フラックスの流れは、減速して、停止近くになるか、停止する。そして、停止期間の経過の後に、坩堝を回転させることで、再度、混合フラックスの種結晶基板面に対する流速分布が、最初から、形成される。この結果、この流速分布は、前回の回転期間における流速分布とは異なったものとなる。この結果として、種結晶基板面上において、均一且つ一様な厚さの半導体結晶が得られる。
【0011】
この第2の発明において、回転期間と停止期間との間には、徐々に回転速度を低下させる漸減区間を、停止期間と回転期間との間には、徐々に回転速度を増加させる漸増期間を設けるのが望ましい。この場合には、回転期間から停止期間にかけて坩堝の回転速度は、徐々に低下するので、停止期間を経過した後、回転期間に至るまで、徐々に回転速度が増加するので、坩堝中の混合フラックスに乱流が発生することが防止され、成長する半導体結晶の結晶粒界を大きくできる。すなわち、半導体結晶の厚さを均一一様にした状態で、結晶転位密度を低減させることができる。
【0012】
第1の発明及び第2の発明において、回転の速度は、15rpm以上、50rpm以下で行うことが望ましい。この範囲の時に、成長する半導体結晶の厚さを均一一様にして、且つ、結晶転位密度を低減させることができる。
【0013】
また、第1の発明及び第2の発明において、混合フラックスに対して窒素が過飽和状態に達する前に、半導体結晶の成長過程における回転を実施することが望ましい。混合フラックスへの窒素の導入の開始後、窒素がフラッスクに均一に溶け込むまでに、20時間程度の時間を要する。そして、窒素が過飽和状態となると、半導体が種結晶基板上に成長し始める。そこで、窒素が過飽和に達する前に、第1の発明又は第2の発明の半導体結晶の成長過程における回転モードを実施することで、成長する半導体の厚さを均一一様にして、且つ、結晶転位密度を低減させることができる。
【0014】
また、第1の発明及び第2の発明において、混合フラックスに対して窒素が過飽和状態に達する前の工程においては、半導体結晶の結晶成長工程における回転の速度よりも高い速度で、坩堝の回転を、正回転と、負回転とで交互に切り換えることが望ましい。すなわち、半導体結晶が種結晶基板上に成長を開始する前であれば、混合フラックスに乱入を生じても問題は発生しない。そこで、この結晶成長期間の前の工程においては、混合フラックスを、結晶成長工程の回転速度よりは高速度とすることで、混合フラックスを構成する元素である、Ga、Na、Nなどの元素を、より、均一に分散させることができる。この結果、半導体結晶の成長が開始し始める時には、元素が均一な分布となり、より良質な結晶を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上の本発明の手段によって得られる効果は以下の通りである。
即ち、本発明の第1の発明によれば、結晶成長過程において、フラックスを有する坩堝は、定期的にその回転方向が逆転されるので、フラックスのなかの各元素が均一に混合されて、結晶成長の速さや結晶性に偏りがなくなり、しかも、成長する結晶の厚さが種結晶基板面上において、均一一様となる。この均一化の作用・効果は、従来の揺動運動による攪拌処理に比べると格段に顕著である。また、回転方向の逆転動作は、フラックスの流速が、最大流速の0.1に低下した後のタイミングで行うことで、フラックスの乱流の発生を防止することができる。このため、種結晶基板上やフラックス中に雑結晶が形成されることが防止され、高品質の半導体結晶を成長させることができる。また、フラックスの乱流の発生が防止される結果、結晶粒界を大きくでき、したがって、結晶転位密度を低減させることができる。
【0016】
また、本発明の第2の発明によると、坩堝の回転は、回転期間と停止期間とを有している。この結果として、フラックスを構成する元素が均一に分散すると共に、フラックスの種結晶基板面に対する流速分布を、変化させることができる。この結果として、成長する半導体結晶の厚さを種結晶基板面上において、均一且つ一様にすることができる。また、坩堝の逆転を行っていないので、フラックスの乱流の発生が防止でき、その結果、結晶粒界を大きくでき、したがって、結晶転位密度を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を、以下、実施例に基づいて説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
種結晶の少なくとも一部にサファイア基板を用いる場合に、サファイア基板の結晶成長面上にバッファ層を形成する方法や、そのバッファ層の上にGaN層などを種結晶として積層する方法としては、通常はMOVPE法などを用いることが多いが、一般にこの成膜方法は任意でよい。また、種結晶や下地基板の製造方法としては、その他にも例えばフラックス法、HVPE法、MBE法などが有効である。また、上記のバッファ層は、低温成長させることが望ましく、また、その膜厚は、10〜200nm程度が望ましい。また、これらのバッファ層は、多層構造または複層構造などに形成してもよい。また、高温状態におけるスパッタリングによってバッファ層を形成してもよい。
【0018】
また、フラックス中における III族元素と窒素との反応温度は、500℃以上1100℃以下がより望ましく、更に望ましくは、850℃〜900℃程度がよい。また、窒素含有ガスの雰囲気圧力は、0.1MPa以上6MPa以下が望ましく、更に望ましくは、4.0MPa〜5.0MPa程度がよい。また、アンモニアガス(NH3 )を使用すると、雰囲気圧力を低減できる場合がある。また、用いる窒素ガスは、プラズマ状態のものでも良い。
【0019】
また、所望の III族窒化物系化合物半導体結晶の中に添加する不純物として、当該混合フラックス中に、ボロン(B)、タリウム(Tl)、カルシウム(Ca)、カルシウム(Ca)を含む化合物、珪素(Si)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、炭素(C)、酸素(O)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、アルミナ(Al2 3 )、窒化インジウム(InN)、窒化珪素(Si3 4 )、酸化珪素(SiO2 )、酸化インジウム(In2 3 )、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化マグネシウム(MgO)、またはゲルマニウム(Ge)などを含有させてもよい。これらの不純物は、1種類だけを含有させても良いし、同時に複数種類を含有させても良いし、また、必ずしも含有させなくてもよい。即ち、これらの選択や組み合わせは任意で良い。これらの不純物の添加によって、目的の半導体結晶のバンドギャップや電気伝導性や格子定数などを所望の特性値に調整することができる。
【0020】
また、フラックス法に基づく目的の結晶成長の開始以前に、下地基板の一部である種結晶( III族窒化物系化合物半導体結晶)が、フラックス中に溶融することを緩和したり防止したりするために、例えばCa3 2 ,Li3 N,NaN3 ,BN,Si3 4 ,InNなどの窒化物を予めフラックス中に含有させておいてもよい。これらの窒化物をフラックス中に含有させておくことによって、フラックス中の窒素濃度が上昇するため、目的の結晶成長開始以前の種結晶のフラックス中への融解を未然に防止したり緩和したりすることが可能となる。
【0021】
また、用いる結晶成長装置としては、フラックス法が実施可能なものであれば任意でよく、例えば、上記の特許文献に記載されているもの等を適用又は応用することができる。ただし、フラックス法に従って結晶成長を実施する際の結晶成長装置の反応室の温度は、1000℃程度にまで任意に昇降温制御できることが望ましい。また、反応室の気圧は、約100気圧(約1.0×107 Pa)程度にまで任意に昇降圧制御できることが望ましい。また、これらの結晶成長装置の電気炉、ステンレス容器(反応容器)、原料ガスタンク、及び配管などは、例えば、ステンレス系(SUS系)材料やアルミナ系材料等の耐熱性及び耐圧性の高い材料によって形成することが望ましい。
また、略同様の理由から、坩堝は、W、Mo、アルミナ、またはPBNなどの金属、窒化物、または酸化物から形成することが望ましい。
【0022】
なお、種結晶や下地基板の大きさや厚さは任意で良いが、工業的な実用性を考慮すると、直径20〜100mm程度の円形のものや角形などがより望ましい。また、種結晶や下地基板の結晶成長面の曲率半径は大きいほど望ましい。
【0023】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。
ただし、本発明の実施形態は、以下に示す個々の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
以下、フラックス法に基づいた結晶成長に係わる本実施例1の製造工程について説明する。
1.下地基板の作成
図1は、本実施例1で用いる下地基板(テンプレート10)の作成工程における断面図である。この工程では、まず、MOVPE法に従う結晶成長によって、c面を主面とする、直径約50mm、厚さ約450μmのサファイア基板11の上にAlNから成るバッファ層12を20nmの厚さに積層し、更にその上に単結晶のGaN層13を約10μmの厚さに積層する。このGaN層13は、所望の半導体結晶のフラックス法による成長が開始されるまでの間に、幾らかはフラックスに溶け出す場合があるので、その際に消失されない厚さに積層しておく。その結果、GaN層13の結晶成長面、即ちバッファ層12に接していない側の面はGa面となった。
【0025】
2.結晶成長装置の構成
図2に、本実施例1で用いる結晶成長装置20の構成を示す。この結晶成長装置20は、フラックス法に基づく結晶成長処理を実行するためのものであり、高温、高圧の窒素ガス(N2 )を供給するための給気管21と、窒素ガスを排気するための排気管22とを有する圧力容器25の中には、ヒーターHと、断熱材23と、ステンレス容器からなる反応室24が具備されている。圧力容器25、給気管21、排気管22等は、耐熱性、耐圧性、反応性などを考慮し、ステンレス系(SUS系)またはアルミナ系の材料から形成されている。
【0026】
そして、ステンレス製の反応室24の中には、坩堝26(反応容器)がセットされている。この坩堝26は、例えば、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、窒化ボロン(BN)、熱分解窒化ボロン(PBN)、またはアルミナ(Al2 3 )などから形成することができる。
【0027】
略円板形状のターンテーブル27は坩堝26の台座である。ターンテーブル27は、それに接合した鉛直方向に延びる軸28によって、回転される。軸28は、モータ31により回転され、モータ31の回転方向、速度、回転期間は、制御装置32により制御される。回転速度は、制御装置32により、0rpmから40rpmまでの間の任意の速度で、制御されるように構成されている。このようにして、坩堝26は、鉛直方向を回転軸として上記の範囲の任意の回転数で回転させることができ、正転、逆転も自在となる。
【0028】
また、圧力容器25内の温度は、1000℃以下の範囲内で任意に昇降温制御することができる。また、ステンレス容器24の中の結晶雰囲気圧力は、1.0×107 Pa以下の範囲内で任意に昇降圧制御することができる。
【0029】
3.結晶成長工程
以下、上記の結晶成長装置を用いた本実施例1の結晶成長工程について説明する。
(1)まず、反応容器(坩堝26)の中に、90gのナトリウム(Na)と105gのガリウム(Ga)と0.25gの炭素(C)とを入れ、その反応容器(坩堝26)を結晶成長装置の反応室24の中に配置してから、該反応室の中のガスを排気する。
ただし、これらの作業を空気中で行うとNaがすぐに酸化してしまうため、基板や原材料を反応容器にセットする作業は、Arガスなどの不活性ガスで満たされたグローブボックス内で実施する。
【0030】
(2)次に、この坩堝26の温度を約880℃に調整しつつ、この温度調整工程と並行して、結晶成長装置の反応室24には、新たに窒素ガス(N2 )を、給気管21を介して、送り込み、これによって、この反応室24の窒素ガス(N2 ,N)のガス圧を約4.5MPaに維持する。この時、上記のテンプレート10は、その全体を上記の昇温の結果生成される融液(混合フラックス)中に浸す。即ち、結晶成長面(GaN単結晶13)は、混合フラックス中に常時浸されるようにする。
【0031】
上記の昇温開始後、混合フラックス中の窒素(N,N2 )が過飽和近くに達するまでの20時間、坩堝26を回転数40rpm、正回転と負回転の期間を、それぞれ、1分、正回転と負回転とで構成される1周期を2分として、交互に、正回転と負回転とで切り換える。
【0032】
この様な攪拌処理によって、反応室24内の雰囲気中の窒素成分(N2 またはN)が混合フラックス中に常時十分に取り込まれる。そして、これらの攪拌作用によれば、結晶成長の原料となる各元素(Na,Ga,N,C)に分布ムラがなくなるため、厚さや結晶性が均一な半導体結晶を成長させることができる。
また、混合フラックスの攪拌により、所望の半導体結晶の成長速度を向上させることができる。
【0033】
(3)混合フラックスにおいて、窒素が過飽和に達する前に、上記の回転モードから、半導体結晶の成長工程における回転モードに切り換えられる。
図3−Aは、半導体結晶の成長工程における回転モードを示している。1分間の漸増期間A、10秒間の正回転期間B、1分間の漸減期間C、30秒間の停止期間D、1分間の漸増期間A、10秒間の負回転期間E、1分間の漸減期間C、30秒間の停止期間Dから成る5分20秒の期間を、制御の1周期としている。この周期の繰り返しにより、坩堝26は、回転を制御される。正回転期間B、負回転期間Eの回転速度は、20rpmである。また、漸増期間Aの加速度、漸減期間Cの減速度は、共に、20rpm/分となる。このモードで制御すると、回転方向を変化させるタイミングでは、フラックスの流速は、最大流速の0.1以下とすることができる。
【0034】
以上の様な条件設定により、種結晶の結晶成長面付近は、継続的に III族窒化物系化合物半導体の材料原子(GaとN)の過飽和状態となり、更に各元素の分布が略均一になるので、所望の半導体結晶(GaN単結晶)をテンプレート10(図1)の結晶成長面上、均一一様な厚さで、結晶転位密度の低い良質な結晶を得ることができる。
【0035】
4.フラックスの除去
次に、結晶成長装置の反応室を30℃以下にまで降温してから、成長したGaN単結晶(所望の半導体結晶)を取り出し、その周辺も30℃以下に維持して、そのGaN単結晶の周りに付着したフラックス(Na)をエタノールを用いて除去する。
以上の各工程を順次実行することによって、高品質の半導体単結晶(成長したGaN単結晶)を低コストで製造することができる。この半導体単結晶は、図1の最初のサファイア基板11と略同等の面積で、c軸方向の厚さがは約2mmであり、割れ、クラックは発生しなかった。
【実施例2】
【0036】
本実施例2では、先の実施例1と同じ手順で半導体結晶をフラックス法によって、製造する。ただし、半導体結晶の成長工程におけるターンテーブル27の回転モードが、実施例1とは異なる。
本実施例では、ターンテーブル27は、図3−Bに示すように、30秒間の停止期間D、10秒間の正回転期間B、30秒間の停止期間D、10秒間の負回転期間Eの1分20秒の期間を1周期とする回転モードで、制御される。正回転期間Bは負回転期間Eの回転速度は、20rpm/分である。このモードで制御すると、回転方向を変化させるタイミングでは、フラックスの流速は、最大流速の0.1以下とすることができる。この場合も、30秒間の十分な停止期間Dの後に、回転方向が反転するために、坩堝26中のフラックスに乱流は発生しない。この結果として、種結晶基板面上において、一様な厚さを維持した状態で結晶粒界を大きくして、結晶転位密度を低減させることができる。
【実施例3】
【0037】
本実施例3では、先の実施例1、2と同じ手順で半導体結晶をフラックス法によって、製造する。ただし、半導体結晶の成長工程におけるターンテーブル27の回転モードが、実施例1、2とは異なる。
本実施例では、図3−Cに示されているように、1分間の漸増期間A、10秒間の正回転期間B、1分間の漸減期間C、30秒間の停止期間Dの2分40秒を1周期とする回転モードで、ターンテーブル27の回転は、制御される。正回転期間Bはの回転速度は、20rpm/分である。ここの実施例では、負回転期間がなく、一方向の回転だけであるが、漸減期間、停止期間、漸増期間を有している。この場合も、1分間の十分な漸減期間と、30秒間の十分な停止期間と、1分間の十分な漸増期間が設けられているので、坩堝26中のフラックスに乱流は発生しない。また、回転方向を反転させなくとも、回転を一旦、停止させて、再度、回転させるので、種結晶基板面上におけるフラッスクの流速分布は、前回の回転期間に対して変化したものとなる。したがって、種結晶基板面上において、一様で均一な厚さの半導体結晶を得ることができる。また、回転の停止、回転の開始に際して、漸減期間と漸増期間とを設けているので、種結晶基板面上におけるフラックスの乱流が生じることがないので、結晶粒界を大きくして、結晶転位密度を低減させることができる。
【0038】
上記の実施例1、3において、漸増期間Aや漸減期間Cを設ける場合には、その期間の長さは、回転期間B、Eの長さの6倍に設定しているが、1倍以上、12倍以下に設定することが望ましい。1倍よりも小さいと、フラックスの乱流を完全に防止することができなくなり、12倍以上に長くすると、回転速度が遅い状態で結晶成長する割合が大きくなるため望ましくない。また、実施例2の場合に、停止期間Dは、回転期間B、Eの長さの3倍としているが、2倍以上、12倍以下が望ましい。2倍よりも小さいと、フラックスの回転が最大速度の0.1以下にならないので望ましくない。また、12倍より大きくすると、回転速度が遅い状態で結晶成長する割合が大きくなるため望ましくない。また、実施例1〜3において、回転期間B、Eの長さは、最大回転速度をVrpmとするとき、V/2秒に設定したが、これを、3V秒以下、V/4秒以上の範囲に設定するのが望ましい。また、この回転期間B、Eの回転数は2回転以上が望ましい。時間で言えば、120/V秒以上に設定するのが望ましい。また、漸増期間A、漸減期間Cの長さは、3V秒に設定しているが、これを1V秒以上、9V秒以下に設定するのが望ましい。また、実施例1、3の停止期間Dは、3V/2秒に設定したが、これを、V/2秒以上、3V秒以下に設定するのが望ましい。また、実施例2のように、漸増期間と漸減期間とを設けない場合には、固定期間の長さを3V/2秒に設定したが、これをV秒以上、6V秒以下に設定するのが望ましい。
【0039】
〔その他の変形例〕
上記の実施例1〜3の回転モードは、窒素がフラックスに対して過飽和に近いが過飽和となる前の段階、すなわち、種結晶上に半導体が成長しない状態で、開始される。もちろん、昇温当初から、この回転モードで制御するようにしても良い。また、半導体結晶の成長工程に入る前であれば、その工程の回転速度よりは、高速、例えば、1.5倍〜3倍の範囲の回転速度としても良い。また、この場合には、正方向回転と負方向回転とで切り換えても良いが、一方向回転と、停止期間とを設けるものであっても良い。
【0040】
また、所望の半導体結晶を構成する III族窒化物系化合物半導体の組成式においては、 III族元素(Al,Ga,In)の内の少なくとも一部をボロン(B)またはタリウム(Tl)等で置換したり、或いは、窒素(N)の少なくとも一部をリン(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)などで置換したりすることもできる。
【0041】
また、p形の不純物(アクセプター)としては、例えばアルカリ土類金属(例:マグネシウム(Mg)やカルシウム(Ca)等)などを添加することができる。また、n形の不純物(ドナー)としては、例えば、シリコン(Si)や、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、或いはゲルマニウム(Ge)等のn形不純物を添加することができる。また、これらの不純物(アクセプター又はドナー)は、同時に2元素以上を添加しても良いし、同時に両形(p形とn形)を添加しても良い。即ち、これらの不純物は、例えばフラックス中に予め溶融させておくこと等により、所望の半導体結晶中に添加することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、 III族窒化物系化合物半導体からなる半導体結晶を用いた半導体デバイスの製造になど有用である。また、これらの半導体デバイスとしては、例えばLEDやLDなどの発光素子や受光素子等以外にも、例えばFETなどのその他一般の半導体デバイスを挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1のテンプレート10の作成工程における断面図
【図2】実施例1で用いる結晶成長装置20の構成図
【図3−A】実施例1での結晶成長工程におけるターンテーブル27の回転モードを示したグラフ
【図3−B】実施例2での結晶成長工程におけるターンテーブル27の回転モードを示したグラフ
【図3−C】実施例3での結晶成長工程におけるターンテーブル27の回転モードを示したグラフ
【符号の説明】
【0044】
20 : 結晶成長装置
21 : 給気管
22 : 排気管
23 : 断熱材
24 : ステンレス容器(反応室)
25 : 圧力容器
26 : 坩堝(反応容器)
27 : ターンテーブル
28 : 軸
H : ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属を有する混合フラックスの中で、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)又はインジウム(In)の III族元素と窒素(N)とを反応させることによって、 III族窒化物系化合物半導体を結晶成長させる半導体結晶の製造方法において、
前記半導体結晶の結晶成長工程において、前記混合フラックスを有する坩堝の回転を、正回転と、負回転とを交互に切り換え、
回転を切り換える場合には、混合フラックスの流速が最大流速の0.1以下に低下した後のタイミングで、反転させることを特徴とする半導体結晶の製造方法。
【請求項2】
前記回転を切り換える場合には、回転を停止させる期間を設けることを特徴とする請求項1に記載の半導体結晶の製造方法。
【請求項3】
前記正回転と前記負回転との間には、徐々に回転速度を低下させる漸減区間と、徐々に回転速度を増加させる漸増期間とを有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導体結晶の製造方法。
【請求項4】
アルカリ金属を有する混合フラックスの中で、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)又はインジウム(In)の III族元素と窒素(N)とを反応させることによって、 III族窒化物系化合物半導体を結晶成長させる半導体結晶の製造方法において、
前記半導体結晶の結晶成長工程において、前記混合フラックスを有する坩堝を回転させる回転期間と、その回転を停止する回転停止期間とを、交互に切り換えることを特徴とする半導体結晶の製造方法。
【請求項5】
前記回転期間と前記停止期間との間には、徐々に回転速度を低下させる漸減区間と、徐々に回転速度を増加させる漸増期間とを有することを特徴とする請求項4に記載の半導体結晶の製造方法。
【請求項6】
前記回転の速度は、15rpm以上、50rpm以下で行うことを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の半導体結晶の製造方法。
【請求項7】
前記混合フラックスに対して窒素が過飽和状態に達する前に、前記半導体結晶の成長過程における前記回転を実施することを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の半導体結晶の製造方法。
【請求項8】
前記混合フラックスに対して窒素が過飽和状態に達する前の工程においては、前記半導体結晶の結晶成長工程における前記回転の速度よりも高い速度で、前記坩堝の回転を、正回転と、負回転とで交互に切り換えることを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の半導体結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3−A】
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【図3−B】
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【図3−C】
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【公開番号】特開2010−83711(P2010−83711A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254679(P2008−254679)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】