説明

MEMSデバイスおよびMEMS発振器

【課題】温度変化に対し安定した周波数特性を有するMEMSデバイスを提供する。
【解決手段】基板100と、基板100の表面に形成された第1ベース層30と、第1ベース層30の表面に固定された固定電極80と、基板100の表面に形成された第2ベース層40と、固定電極80と対向する梁部91を備え、梁部91を支持し第2ベース層40の表面に固定されたアンカー部92とを備えた可動電極と、を含み、第2ベース層40は第1ベース層30よりも熱膨張係数の大きい材料で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMSデバイスおよびMEMS発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)は、微小構造体形成技術の一つで、例えば、ミクロンオーダーの微細な電子機械システムを作る技術やその製品のことをいう。
【0003】
非特許文献1には、固定電極および可動電極を有し、両電極間に発生する静電力により可動電極を駆動させるMEMS振動子が開示されている。このMEMS振動子の駆動周波数は、可動電極の固有周波数によって決まる。またMEMS振動子が駆動する環境の温度が変化した場合、MEMS振動子の周波数は温度が上がるに従って低くなることが記されている。
【0004】
一方、非特許文献2には、MEMS振動子の周波数は、駆動条件によって変化することが開示されている。これによると周波数の変化量は駆動電圧、固定電極と可動電極との交差面積、および固定電極と可動電極との間隔によって決まる。また固定電極と可動電極の間隔および寸法が一定である場合、電圧が高くなるに従い周波数は低くなることが記されている。
【0005】
これらから、温度変化によって振動子の周波数が変化した場合、周波数変化を補正するため駆動電圧を変化させることは容易に推測することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Clark T.−C.Nguyen、“Micro mechanical Resonators for Oscillators and Filters、”Proceedings of the 1995 IEEE International Ultrasonics Sypoisium、1995、pp.489−499
【非特許文献2】Frank D.Bannon,III,John R,Clark,Clark T.−C.Nguyen,“High−QHF Micro electr mechanical Filters、”IEEE Journal of Solid−State Circuits、Vol.35、No.4、2000、pp.512−526
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
MEMS振動子などのMEMSデバイスにおいて周波数精度が必要な場合には、温度変化に対する周波数変化を補正するために、駆動電圧を変化させる専用の回路を付加する必要がある。このため、温度による周波数の補正をせずに利用できる、周波数変化の少ないMEMSデバイスが要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]本適用例のMEMSデバイスは、基板と、前記基板の表面に形成された第1ベース層と、前記第1ベース層の表面に固定された固定電極と、前記基板の表面に形成された第2ベース層と、前記固定電極の第1面と対向する第2面を有する梁部、前記梁部を支持し前記第2ベース層の表面に固定されたアンカー部を備えた可動電極と、を含み、前記第2ベース層は前記第1ベース層よりも熱膨張係数の大きい材料で形成されていることを特徴とする。
【0010】
本適用例によれば、第2ベース層は第1ベース層に比べ熱膨張係数が大きいため、固定電極と可動電極との間隔は温度によって変化し、その結果駆動電圧の影響が変わり温度変化に対する周波数変化を低減することができる。
【0011】
[適用例2]上記適用例のMEMSデバイスは、前記第1ベース層は窒化物層で形成され、前記第2ベース層は導電性をもつ半導体材料で形成されていることが望ましい。
【0012】
本適用例によれば、第1ベース層は窒化物層で形成され、第2ベース層は導電性をもつ半導体材料、例えばポリシリコンで形成されている。一般的にポリシリコンの熱膨張係数は窒化物の膜に比べ大きいため、外部より熱が加わると第2ベース層のほうがより膨張する。その結果温度変化に対して固定電極と駆動電極との間隔が変化し、駆動電圧の影響が変わり温度変化に対する周波数変化を低減することができる。
【0013】
[適用例3]上記適用例のMEMSデバイスは、前記第1ベース層は窒化物層で形成され、前記第2ベース層はAl、Mo、Wから選択される金属材料で形成されていることが望ましい。
【0014】
本適用例によれば、第1ベース層は窒化物層で形成され、第2ベース層はAl、Mo、Wから選択される金属材料で形成されている。これらの金属材料の熱膨張係数は窒化物の膜に比べ大きいため、外部より熱が加わると第2ベース層のほうがより膨張する。その結果温度変化に対して固定電極と駆動電極との間隔が変化し、駆動電圧の影響が変わり温度変化に対する周波数変化を低減することができる。
【0015】
[適用例4]本適用例のMEMS発振器は、上記MEMSデバイスを含むことを特徴とする。
【0016】
本適用例の構成によれば、温度による周波数変化の少ないMEMSデバイスを用いていることから、周波数を補正する専用回路を付加する必要がない。また、回路規模を小さく設計でき、発振器の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態1に係るMEMSデバイスの構成を示す平面図。
【図2】図1のA−A切断面を示す断面図。
【図3】実施形態1に係るMEMSデバイスの主要な製造工程を示す断面図。
【図4】実施形態1に係るMEMSデバイスの振動子部を示す断面図。
【図5】駆動電極と固定電極の間隔と周波数の関係を示す図。
【図6】実施形態2に係るMEMS発振器の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の寸法の割合を適宜変更している。
(実施形態1)
【0019】
図1は、実施形態1に係るMEMS振動子の構成を示す平面図、図2は、図1のA−A切断面を示す断面図である。
図1、図2において、MEMS振動子10は、XY平面に展在される基板100と、基板100の一部表面に形成される第1ベース層30と、第1ベース層30とは異なる箇所で基板100の表面に形成される第2ベース層40と、固定電極80と、梁部91とアンカー部92とから形成される駆動電極90と、から構成されている。
【0020】
基板100はシリコンなどの半導体基板が用いられる。
第1ベース層30は材料としてSi34などの窒化物が用いられ、第2ベース層40の材料として第1ベース層30の窒化物よりも熱膨張係数の大きい例えば、ポリシリコン、SiCなどの誘電性をもつ半導体材料や、Al、Mo、Wなどの金属材料が用いられる。
また、固定電極80および駆動電極90はポリシリコンにて構成されている。
【0021】
駆動電極90は、アンカー部92で第2ベース層40に接続され、−X方向に延在された梁部91を有する片持ち梁構造である。
【0022】
駆動電極90は、固定電極80の表面と空間55(図3参照)を有し、駆動電極90と固定電極80との距離dを隔てて形成されており、梁部91の先端部がZ方向に振動可能である。
【0023】
(MEMS振動子の製造方法)
続いて、本実施形態のMEMS振動子10の製造方法について図面を参照して説明する。図3は、本実施形態に係るMEMS振動子の主要な製造工程を示す断面図である。なお、図3は、図1のA−A切断面を表している。また、図1、図2も参照して説明する。
【0024】
まず、図3(a)に示すように、基板100の表面全体にCVD法(Chemical Vapor Deposition)、またはPVD 法(Physical Vapor Deposition)などの膜形成手段を用いて窒化物層を成膜し、エッチング法を用いて第1ベース層30を形成する。
【0025】
次に、図3(b)に示すように、CVD法、またPVD法などの膜形成手段を用いて第1ベース層よりも熱膨張係数の大きな材料を成膜し、エッチング法を用いて第2ベース層40を形成する。
【0026】
次に、図3(c)に示すように、第1ベース層30の表面全体に固定電極80となるポリシリコン層85をCVD法またはPVD法等の膜形成手段を用いて形成する。
【0027】
次に、図3(d)に示すように、エッチング法を用いて固定電極80を形成する。
【0028】
次に、図3(e)に示すように、犠牲層50を固定電極80の表面をCVD法、またはPVD法を用いて形成する。犠牲層50の厚さは、空間55のd寸法(図2、参照)に相当する。
【0029】
次に、図3(f)に示すように、固定電極80周辺以外にある犠牲層50をエッチング法を用いて取除く。
【0030】
次に、図3(g)に示すように、ポリシリコン層95を犠牲層50の表面全体及び第1ベース層30、第2ベース層40にCVD法、またはPVD 法を用いて形成する。
【0031】
次に、図3(h)に示すように、露光工程、エッチング工程の順に加工処理し、梁部91およびアンカー部92を形成する。
【0032】
続いて、図3(I)に示すように、犠牲層50を除去する。この工程は、基板100をエッチング液に浸漬することで行われる。よって、駆動電極90の下部に形成された犠牲層50が除去されて、図2に示すような駆動電極90と固定電極80とが立体形成される。
【0033】
(MEMSデバイスの温度変化に伴う動作)
次に、実施形態1に係るMEMS振動子10の温度変化に伴う変化について説明する。
【0034】
始めに駆動電極と固定電極の間隔dが温度によって変わることを、図4を参照して説明する。図4は固定電極と駆動電極との周辺を拡大した説明図である。
【0035】
固定電極80下面は第1ベース層30である窒化物層であり、駆動電極90のアンカー部92の下面は第2ベース層40である。第2ベース層40は窒化物層に比べ熱膨張係数が大きい材料を用いる。表1はMEMSで使われる材料の熱膨張係数を表している。ここから第2ベース層40は窒化物層より大きい材料、例えばポリシリコン(Polysilicon)、SiCやアルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)などが挙げられる。
【0036】
【表1】

【0037】
第2ベース層40に窒化物層より熱膨張係数が大きな材料を用いることで、温度変化に伴い第2ベース層40も膨張し、その結果、駆動電極90と固定電極80の間隔dが変わる。つまり、温度が高くなるに従い駆動電極90と固定電極80の間隔dは広くなる。
【0038】
ところで、MEMS振動子の駆動腕の共振周波数は、次式で計算することができる。
【0039】
【数1】

【0040】
ここで、共振周波数をf、駆動電極の機械的ばね定数をkm、駆動電極の電気的ばね定数をke、駆動電極の有効質量をmrで表す。さらに、例えば片持ち梁の場合、機械的ばね定数kmおよび電気的ばね定数keは、次式で計算することができる。
【0041】
【数2】

【0042】
【数3】

【0043】
ここで、駆動電極のヤング率をE、駆動電極の断面二次モーメントをI、駆動腕の長さをl、駆動電極と固定電極間の誘電率をε、駆動電極と固定電極の交差面積をA、駆動電圧をV、駆動電極と固定電極の間隔をdで表す。
【0044】
断面二次モーメントI は駆動電極の断面形状によって決定される。たとえば、駆動電極の断面形状が厚さt、幅wの長方形状の場合断面二次モーメントIは次式で計算することができる。
【0045】
【数4】

【0046】
駆動電極の有効質量mrは、エネルギー保存則から計算することができ、例えば片持ち梁の場合、次式で計算することができる。
【0047】
【数5】

【0048】
ここでmは片持ち梁全体の質量であり、長さlと、幅wと、厚みtと、の積である。
【0049】
これらの関係から駆動電極が片持ち梁と想定し、長さl、幅w、厚みt、駆動電圧Vを一定とすると、図5に示すように駆動電極と固定電極の間隔が広くなるに従い共振周波数は高くなる。
【0050】
以上述べたように、本実施形態に係るMEMS振動子10によれば、温度が高くなるに従い駆動電極90と固定電極80の間隔dは広くなり、周波数は高くなる。
また、一方でMEMS振動子の周波数は、印加する駆動電圧が高くなるに従い周波数は低くなる。
この結果、温度と駆動電圧の影響が相殺され、温度変化に対する周波数変化を低減することができる。
(実施形態2)
【0051】
次に、本実施形態に係る発振器について、図面を参照しながら説明する。図6は、本実施形態に係る発振器の構成を示すブロック図である。
【0052】
MEMS発振器200は、図6に示すように、本発明に係るMEMS振動子10と、発振回路210と、を含む。
【0053】
発振回路210は、MEMS振動子10と電気的に接続されている。発振回路210からMEMS振動子10の電極間に電圧が印加されると、梁部91は、電極間に発生する静電力により振動することができる。そして、発振回路210によって、MEMS振動子10は、共振周波数で発振することができる。
【0054】
MEMS発振器200によれば、温度による周波数変化の少ないMEMS振動子10を用いていることから、周波数を補正する専用回路を付加する必要がない。また、回路規模を小さく設計でき、MEMS発振器200の小型化を図ることができる。
【0055】
なお、上述した実施形態は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、各実施形態を適宜組み合わせることも可能である。
【0056】
上記のように、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できよう。したがって、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0057】
10…MEMS振動子、30… 第1ベース層、40…第2ベース層、55…空間、80…固定電極、90…駆動電極、91…梁部、92…アンカー部、100…基板、200…MEMS発振器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板の表面に形成された第1ベース層と、前記第1ベース層の表面に固定された固定電極と、前記基板の表面に形成された第2ベース層と、前記固定電極の第1面と対向する第2面を有する梁部、前記梁部を支持し前記第2ベース層の表面に固定されたアンカー部を備えた可動電極と、を含み、
前記第2ベース層は前記第1ベース層よりも熱膨張係数の大きい材料で形成されていることを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項2】
請求項1に記載のMEMSデバイスにおいて、前記第1ベース層は窒化物層で形成され、前記第2ベース層は誘電性をもつ半導体材料で形成されていることを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項3】
請求項1に記載のMEMSデバイスにおいて、前記第1ベース層は窒化物層で形成され、前記第2ベース層はAl、Mo、Wから選択される金属材料で形成されていることを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のMEMSデバイスを含むことを特徴とするMEMS発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−18093(P2013−18093A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154510(P2011−154510)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】