MEMS素子、可動式ミラー、および光スイッチ装置
【課題】面内プルインの発生をより確実に抑制できるMEMS素子、ならびにこれを用いた可動式ミラーおよび光スイッチ装置を提供すること。
【解決手段】所定の間隔を有して配置された固定櫛歯電極と可動櫛歯電極とを備え、前記可動櫛歯電極が可動基準面に対して角度をなす方向に移動するMEMS素子であって、前記固定櫛歯電極および前記可動櫛歯電極の静電引力作用面が、前記可動基準面内において円弧形状を有している。好ましくは、前記静電力作用面の円弧形状の中心が、前記可動基準面内において前記可動櫛歯電極が回転する際の回転軸と一致する。
【解決手段】所定の間隔を有して配置された固定櫛歯電極と可動櫛歯電極とを備え、前記可動櫛歯電極が可動基準面に対して角度をなす方向に移動するMEMS素子であって、前記固定櫛歯電極および前記可動櫛歯電極の静電引力作用面が、前記可動基準面内において円弧形状を有している。好ましくは、前記静電力作用面の円弧形状の中心が、前記可動基準面内において前記可動櫛歯電極が回転する際の回転軸と一致する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定櫛歯電極と可動櫛歯電極とを有するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems、微小電気機械システム)素子、ならびにこれを用いた可動式ミラーおよび光スイッチ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光伝送システムにおいて、波長分割多重(Wavelength Division Multiplexing:WDM)光信号の経路を切り替えるために、光スイッチ装置が使用されている(たとえば特許文献1参照)。このような光スイッチ装置には、光信号の経路を切り替えるために、光の反射方向を変えることができる可動式ミラーが用いられる。そして、このような可動式ミラーでは、静電アクチュエータとしてのMEMS素子を用いてミラーを可動している。
【0003】
静電アクチュエータとしてのMEMS素子には、平行電極構造のもの(たとえば特許文献2参照)や、垂直櫛歯電極構造のもの(たとえば非特許文献1参照)などがある。垂直櫛歯電極構造とは、櫛歯電極の延伸方向および配列方向とは垂直の方向に厚さを有している固定櫛歯電極と可動櫛歯電極とが、所定の間隔を隔てて噛み合うように配置された噛み合わせ構造を有し、電極間に作用する静電引力による可動の方向と、固定櫛歯電極の配列方向とが、角度をなしているものである。垂直櫛歯電極構造のMEMS素子は、電極間に作用する静電引力が強く、また面外プルインが起こりにくいとされている。なお、面外プルインとは、固定櫛歯電極の延伸方向と配列方向とがなす面を可動基準面として、この可動基準面に対して角度をなす方向(すなわち、面外方向)において、MEMS素子を作用させるための復元力を超えて静電引力が作用し、可動櫛歯電極が固定櫛歯電極に吸着してしまう現象のことである。
【0004】
また、垂直櫛歯電極構造のMEMS素子では、面内プルインが問題となる場合がある。面内プルインとは、上述した可動基準面内の方向において可動櫛歯電極が固定櫛歯電極に吸着してしまう現象のことである。このような面内プルインは、可動櫛歯電極および固定櫛歯電極が、MEMS素子の回転軸の軸方向に配列されている場合に問題となりやすい。その理由は、以下の通りである。すなわち、光スイッチ装置において、WDM光信号を構成する各光信号の空間的分離量が数百μm程度であるため、各光信号を反射させるための可動式ミラーの幅も数百μmとされる。そのため、可動式ミラーにおける可動櫛歯電極および固定櫛歯電極が、MEMS素子の回転軸の軸方向に配列されている場合は、この数百μmの幅の中に多数の可動櫛歯電極および固定櫛歯電極を配列するためには、両者の間の間隔を狭くしなければならないためである。
【0005】
これに対して、面内プルインが発生しにくい垂直櫛歯電極構造のMEMS素子が開示されている(たとえば、特許文献3、非特許文献2参照)。特許文献3、非特許文献2に開示される垂直櫛歯電極構造は、Fishbone型の垂直櫛歯電極構造と称される。このFishbone型のMEMS素子では、可動櫛歯および固定櫛歯が、MEMS素子の回転軸と垂直方向に配列しているために、面内プルインの発生を抑制することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−276487号公報
【特許文献2】米国特許第7302131号明細書
【特許文献3】特開2006−162663号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Jin-Ho Lee ,et al., ”Bonding of silicon scanning mirror having vertical comb fingers” J. Micromech. Microeng. Vol.12(2002)pp.644-649
【非特許文献2】Norinao Kouma ,et al., ”Fishbone-shaped vertical comb actuator for dual-axis 1-D analog micromirror array” The 13th International Conference on Solid-State Sensors, Actuators and Microsystems, 2005, 2E4.132
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のFishbone型のMEMS素子においても、可動櫛歯電極を含む可動部が面内で意図せぬ回転をした場合に、可動櫛歯電極と固定櫛歯電極との距離に非対称性が発生してしまい、面内プルインが発生する場合があるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、面内プルインの発生をより確実に抑制できるMEMS素子、ならびにこれを用いた可動式ミラーおよび光スイッチ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るMEMS素子は、所定の間隔を有して配置された固定櫛歯電極と可動櫛歯電極とを備え、前記可動櫛歯電極が可動基準面に対して角度をなす方向に移動するMEMS素子であって、前記固定櫛歯電極および前記可動櫛歯電極の静電引力作用面が、前記可動基準面内において円弧形状を有していることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るMEMS素子は、上記の発明において、前記静電力作用面の円弧形状の中心が、前記可動基準面内において前記可動櫛歯電極が回転する際の回転軸と一致することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るMEMS素子は、上記の発明において、複数の組の前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極とを備え、複数の前記静電力作用面の円弧形状の中心が全て同一であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るMEMS素子は、上記の発明において、前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極とが、前記可動基準面に垂直な方向においてギャップを有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るMEMS素子は、上記の発明において、前記固定櫛歯電極に対して固定され前記可動櫛歯電極の移動の軸となる軸体と、前記軸体に支持され、前記可動櫛歯電極が設けられた可動アームとを備え、前記静電力作用面の円弧形状の中心は、前記軸体と前記可動アームとの交点と一致することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るMEMS素子は、上記の発明において、前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極との間隔が、前記軸体からの離隔距離に応じて大きくなっていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る可動式ミラーは、上記の発明のいずれか一つに記載のMEMS素子と、前記MEMS素子の前記可動櫛歯電極に対して固定されたミラーと、を備えることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る光スイッチ装置は、上記の発明に記載の可動式ミラーを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、固定櫛歯電極および可動櫛歯電極の静電力作用面が、可動基準面内において円弧形状を有しているので、面内プルインの発生をより確実に抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、実施の形態1に係るMEMS素子を備えた可動式ミラーの模式図である。
【図2】図2は、図1に示す可動式ミラーの模式的な平面図である。
【図3】図3は、図2に示す可動式ミラーのA−A線断面図である。
【図4】図4は、図1に示す可動式ミラーの動作を説明する説明図である。
【図5】図5は、図1に示す可動式ミラーの各櫛歯電極の形状を説明する説明図である。
【図6】図6は、比較例として従来の可動式ミラーにおいて面内回転が発生した場合について説明する説明図である。
【図7】図7は、図1に示す可動式ミラーにおいて面内回転が発生した場合について説明する説明図である。
【図8】図8は、図1に示す可動式ミラーの製造方法を説明する説明図である。
【図9】図9は、図1に示す可動式ミラーの製造方法を説明する説明図である。
【図10】図10は、図1に示す可動式ミラーの製造方法を説明する説明図である。
【図11】図11は、図1に示す可動式ミラーの製造方法を説明する説明図である。
【図12】図12は、実施の形態2に係る可動式ミラーの構成および動作を説明する説明図である。
【図13】図13は、実施の形態3に係る可動式ミラーの構成および動作を説明する説明図である。
【図14】図14は、実施の形態4に係る光スイッチ装置の構成を示すブロック図である。
【図15】図15は、図14に示す光スイッチ装置の動作を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して本発明に係るMEMS素子、可動式ミラー、および光スイッチ装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。さらに、図面は模式的なものであり、各層の厚みと幅との関係、各層の比率などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る、静電アクチュエータとしてのMEMS素子を備えた可動式ミラー100の模式図である。また、図2は、図1に示す可動式ミラー100の模式的な平面図である。また、図3は、図2に示す可動式ミラー100のA−A線断面図である。
【0022】
図1〜図3を用いて可動式ミラー100の構成について説明する。まず、図1に示すように、この可動式ミラー100は、SOI(Silicon On Insulator)基板を材料にして形成された3層からなる基板を利用して形成されている。その3層基板は、Siからなる裏面導電層としての支持層L1、SiO2からなる絶縁層としてのBox(Buried oxide)層L2、Siからなる表面導電層としての活性層L3で構成される。なお、各層の厚さについては、支持層L1が140μm、Box層L2が1μm、活性層L3が60μmであるが、特に限定はされない。
【0023】
そして、可動式ミラー100は、固定基部10と、可動部20とを備えている。固定基部10は、支持層L1、Box層L2、および活性層L3の積層構造からなる。一方、可動部20は活性層L3のみからなる。
【0024】
つぎに、図2に示すように、固定基部10は、2つの固定アーム11aを有するコの字型の支持部11と、支持部11の2つの固定アーム11aの内側に、それぞれ6本ずつ設けられた固定櫛歯電極12と、2つの固定アーム11aの先端部間に架け渡すように設けられた軸体としてのトーションバー13とを備える。トーションバー13のサイズは、たとえば長さ約75μm、幅約5μm、厚さ約4μmであるが、特に限定はされない。なお、固定櫛歯電極12のサイズは、たとえば全体の幅約10μm、長さ約60μmであるが、その形状については後述する。
【0025】
また、可動部20は、トーションバー13に支持され、トーションバー13から2つの固定アーム11aに略平行に延伸した可動アーム21と、可動アーム21の一端側の両側に6本ずつ設けられた可動櫛歯電極22と、可動アーム21の他端側に設けられたミラー部23とを備える。なお、可動櫛歯電極22のサイズは、たとえば全体の幅約10μm、長さ約60μmであるが、その形状については後述する。
【0026】
また、図3に示すように、可動櫛歯電極22は、固定櫛歯電極12と所定の間隔G1を有して噛み合うように配置されている。間隔G1の値はたとえば10μmである。ミラー部23の幅は約100μm、長さは約500μmである。また、ミラー部23の上面23aには金ミラーが成膜されている(以下、金ミラー面23aと称する)。
【0027】
すなわち、この可動式ミラー100は、固定櫛歯電極12を備える固定基部10と可動櫛歯電極22を備える可動部20とからなるMEMS素子に、可動櫛歯電極22に対して固定された金ミラー面23aが形成されることによって、可動式ミラーとして構成されている。
【0028】
なお、以下では、固定櫛歯電極12の延伸方向と配列方向がなす面およびこれに平行な面、すなわち、図2における紙面に平行な面を可動基準面とし、図3のように符号Sで示すものとする。固定櫛歯電極12と前記可動櫛歯電極22とは、可動基準面Sに垂直な方向において、Box層L2の厚さの分だけギャップを有しており、段差櫛歯構造を形成している。
【0029】
つぎに、この可動式ミラー100の動作について説明する。図4は、可動式ミラー100の動作を説明する説明図である。なお、図4は、可動式ミラー100を側面側からみたものである。
【0030】
まず、Box層L2により絶縁されている活性層L3と支持層L1との間に電圧信号を印加する。すると、活性層L3からなる可動櫛歯電極22と、固定櫛歯電極12との間に静電引力が作用する。なお、この静電引力は、特に、各固定櫛歯電極12の側面である静電引力作用面12aと、これに対向する各可動櫛歯電極22の側面である静電引力作用面22aと間に作用する。これによって、可動櫛歯電極22は固定櫛歯電極12に引き寄せられる。
【0031】
ここで、可動櫛歯電極22が設けられた可動アーム21は、固定櫛歯電極12に対して固定されたトーションバー13に支持されている。その結果、可動櫛歯電極22が引き寄せられると、ミラー部23も含めた可動部20の全体がトーションバー13を軸として、矢印Ar1が示す方向に、所定の角度範囲内で回転する。この回転の角度は、活性層L3と支持層L1との間に印加する電圧信号の大きさに応じたものとなる。なお、図4中の破線で示した要素は、可動部20が4度だけ回転するように動作させた状態における、可動櫛歯電極22およびミラー部23の位置を示したものである。このように、可動櫛歯電極22は可動基準面Sに対して角度をなす方向に移動する。
【0032】
また、可動部20が回転した際には、トーションバー13はねじれるため、内部応力を蓄える。したがって、電圧信号の印加を止めると、可動部20は、トーションバー13の内部応力を復元力として電圧信号印加前の位置へと復元する。このようにして、この可動式ミラー100は、固定櫛歯電極12と可動櫛歯電極22とを備えるMEMS素子の静電アクチュエータとしての作用によって、金ミラー面23aの角度を所望の角度に可動することができる。
【0033】
つぎに、固定櫛歯電極12および可動櫛歯電極22の形状について説明する。図5は、可動式ミラー100の各櫛歯電極の形状を説明する説明図である。なお、図5において、可動式ミラー100は可動基準面Sに垂直な方向からみたものである。図5に示すように、各固定櫛歯電極12と各可動櫛歯電極22とは、いずれも、可動基準面S内において、トーションバー13と可動アーム21との交点を中心Oとした各同心円Cに沿って、等幅であり、かつ円弧形状を有するように形成されている。これによって、この可動式ミラー100は、面内プルインの発生をより確実に抑制できるものとなっている。
【0034】
以下、具体的に説明する。まず、本実施の形態1に係る可動式ミラー100のような構造では、活性層L3と支持層L1との間に電圧信号を印加したときに、その構造のわずかな非対称性や摂動などによって、可動部20が可動基準面S内で回転(面内回転)する場合がある。この場合、回転軸は、たとえばトーションバー13と可動アーム21との交点となる。
【0035】
図6は、比較例として、可動式ミラー100と略同様の構造であるが、固定櫛歯電極および可動櫛歯電極が直線状であるような従来の可動式ミラーにおいて、面内回転が発生した場合について説明する説明図である。図6に示すように、固定アーム71に設けられた固定櫛歯電極72に対して、可動櫛歯電極82が設けられた可動アーム81が、破線で示したようにわずかでも面内回転すると、固定櫛歯電極72の静電引力作用面72aと可動櫛歯電極82の静電引力作用面82aとの間隔が近づく。その結果、静電引力はその回転をますます強める方向に働くこととなり、さらに可動櫛歯電極82と可動アーム81とを回転させる。すなわち、静電引力によって面内回転に正のフィードバックが働くため、可動櫛歯電極82は固定櫛歯電極72にますます近づき、面内プルインが発生しやすくなる。
【0036】
これに対して、図7は、可動式ミラー100において面内回転が発生した場合について説明する説明図である。図7に示すように、固定アーム11aに設けられた固定櫛歯電極12の静電引力作用面12aと、可動アーム21に設けられた可動櫛歯電極22の静電引力作用面22aとは、いずれも図5に示す中心Oを中心とする同心円に沿った円弧形状を有している。
【0037】
したがって、固定櫛歯電極12に対して、可動櫛歯電極22および可動アーム21が、破線で示したように面内回転しても、静電引力作用面22aは、当該同心円上を移動するだけである。このため、静電引力作用面12aと静電引力作用面22aとの間隔G1は殆ど変化しない。その結果、静電引力によって回転に正のフィードバックが働かないため、可動櫛歯電極22が固定櫛歯電極12にますます近づくようなことは発生しないので、面内プルインの発生がより確実に抑制されるのである。
【0038】
なお、この可動式ミラー100の活性層L3と支持層L1との間に200Vの電圧を印加するシミュレーション計算を行なったところ、可動部20は、トーションバー13を中心軸として、実用的な回転角度である約6度だけ回転し、可動櫛歯電極22は最大で40μm程度移動した。これに対して、可動基準面Sにおける可動櫛歯電極22の変位は最大で1μm程度であり、面内回転は殆ど起こっていないことが確認された。
【0039】
以上説明したように、本実施の形態1に係る可動式ミラー100は、面内プルインの発生をより確実に抑制できるものとなる。
【0040】
なお、本実施の形態1では、固定櫛歯電極12および可動櫛歯電極22を等幅の形状としているので、櫛歯をより多数、高密度で配置することができるため、小型化が可能である。また、櫛歯が先細形状となっている場合と比較して先端部に欠けが発生しにくいため、製造歩留まりがより高いものとなる。
【0041】
(製造方法)
つぎに、本実施の形態1に係る可動式ミラー100の製造方法の一例について説明する。ここでは、金ミラー面23aの成膜について記載しないが、必要に応じて適宜そのプロセスを行う。以下では、図3に示す可動式ミラー100のA−A線断面の端面に則して説明を行なうものとする。
【0042】
図8〜図11は、可動式ミラー100の製造方法を説明する説明図である。はじめに、図8に示すように、Siからなる支持層L1、SiO2からなるBox層L2、およびSiからなる活性層L3を備える、たとえば直径4インチ(101.6mm)のSOI基板Sを準備する。つぎに、支持層L1、活性層L3の表面に、たとえば厚さ1.5μm程度の酸化膜O1、O2をそれぞれ形成する。以下、活性層L3側の表面を上面、支持層L1側の表面を下面と適宜記載する。
【0043】
つぎに、上面にポジ型のレジストを塗布し、露光用マスクを用いて露光および現像を行う。そのレジストパターンを利用して、上面の酸化膜O2のSiO2エッチングを行う。そして、上面に塗布したレジストを剥離する。図9の上側の図は、上面に塗布したレジストの剥離後のSOI基板Sを示している。このとき、酸化膜O2をエッチングする領域は、トーションバー13を形成すべき付近の領域である。
【0044】
同様に、下面にポジ型のレジストを塗布し、露光用マスクを用いて露光および現像を行う。そのレジストパターンを利用して、下面の酸化膜O1のSiO2エッチングを行う。そして、下面に塗布したレジストを剥離する。図9の下側の図は、下面に塗布したレジストの剥離後のSOI基板Sを示している。このとき、酸化膜O1をエッチングする際は、固定櫛歯電極12と固定基部10の領域の酸化膜O1が残るようにする。
【0045】
つぎに、図10に示すように、上面に再びポジ型のレジストを塗布し、露光用マスクを用いて露光および現像を行い、レジストパターンR1を形成する。つぎに、このレジストパターンR1を利用して、上面の酸化膜O2のSiO2エッチングを行う。このとき、酸化膜O2をエッチングする際は、支持部11とトーションバー13と可動アーム21と可動櫛歯電極22とミラー部23の領域の酸化膜O2が残るようにする。
【0046】
つぎに、先ほどのレジストパターンR1を利用して、活性層L3のドライエッチングを行い、レジストパターンR1を剥離する。なお、ドライエッチングについては、サイドエッチングを防止するために、反応性ガスとしてSF6ガスやCF系ガスを用いた誘起結合プラズマによる反応性イオンエッチング(Inductively Coupled Plasma-Reactive Ion Etching、ICP−RIE)を用いることが好ましい。また、反応性ガスにO2ガスを加えるいわゆるBosch法を用いれば、サイドエッチングがさらに防止され、パターン孔を高精度で形成できるのでさらに好ましい。
【0047】
つぎに、図11に示すように、上面の酸化膜O2のパターンを用いて、トーションバー13が所望の厚さになるように活性層L3のドライエッチングを行う。ここでは、トーションバー13に該当する領域の活性層L3がエッチングされる。
【0048】
つぎに、下面の酸化膜O1のパターンを用いて、支持層L1のドライエッチングを行う。そして、上面の酸化膜O2と、下面の酸化膜O1と、Box層L2の外に露出している領域のSiO2をエッチングし、余分な酸化膜の除去と可動部分のリリースを行う。以上説明したプロセスによって、本実施の形態1に係る可動式ミラー100を製造することができる。
【0049】
(実施の形態2)
つぎに、本発明の実施の形態2に係る可動式ミラーについて説明する。本実施の形態2に係る可動式ミラーは、実施の形態1に係る可動式ミラー100と略同様の構成を有するが、固定櫛歯電極と可動櫛歯電極との数が多く、かつ固定櫛歯電極と可動櫛歯電極との間隔が、回転軸となるトーションバーからの離隔距離に応じて大きくなっている点が異なるものである。以下では、かかる相違点について説明する。
【0050】
図12は、本実施の形態2に係る可動式ミラー200の構成および動作を説明する説明図である。なお、図12は、可動式ミラー200を側面側からみたものである。図12に示すように、この可動式ミラー200では、可動部の回転軸となるトーションバー31に近い固定櫛歯電極32−1と可動櫛歯電極33−1との間隔G2は10μmである。そして、固定櫛歯電極32と可動櫛歯電極33との間隔はトーションバー31からの離隔距離に略比例して大きくなっており、トーションバー31からもっとも遠い固定櫛歯電極32−11と可動櫛歯電極33−11との間隔G3は15μmとなっている。
【0051】
この可動式ミラー200は、可動式ミラー100と同様に、電圧信号を印加して動作させると、可動部がトーションバー31を回転軸として回転し、可動櫛歯電極33が、矢印Ar2が示す方向に、可動基準面Sに対して角度をなすように移動する。なお、図12中の破線で示した要素は、可動部が4度だけ回転するように動作させた状態における、可動櫛歯電極33の位置を示したものである。
【0052】
ここで、可動櫛歯電極33は、トーションバー31から離隔した位置にあるものほど、より長い弧を描くように移動するため、トーションバー31側に位置する固定櫛歯電極32に対してより近づくように移動する。これに対して、この可動式ミラー200では、固定櫛歯電極32と可動櫛歯電極33との間隔がトーションバー31からの離隔距離に略比例して大きくなっているので、動作時の固定櫛歯電極32と可動櫛歯電極33との間隔を、トーションバー31からの距離によらず同程度とすることができる。その結果、固定櫛歯電極32と可動櫛歯電極33との間に、位置によらず均等な静電引力を作用させることができる。
【0053】
したがって、本実施の形態2に係る可動式ミラー200は、面内プルインの発生をより確実に抑制できるとともに、面外プルインもより確実に抑制できるものとなる。
【0054】
(実施の形態3)
つぎに、本発明の実施の形態3に係る可動式ミラーについて説明する。本実施の形態3に係る可動式ミラーは、実施の形態1、2に係る可動式ミラー100、200とは異なり、固定櫛歯電極と可動櫛歯電極とが、可動基準面に垂直な方向においてギャップを有さないような段差櫛歯構造を有するMEMS素子を備えるものである。
【0055】
図13は、本実施の形態3に係る可動式ミラー300の構成および動作を説明する説明図である。なお、図13は、可動式ミラー300を側面側からみたものである。図13の上側の図に示すように、この可動式ミラー300は、固定櫛歯電極41と可動櫛歯電極42とが、可動基準面Sに垂直な方向においてギャップを有さないような段差櫛歯構造を有するMEMS素子を備えるものである。なお、この可動式ミラー300は、可動基準面Sに垂直な方向から見ると、図2に示す可動式ミラー100と同様な構造を有している。
【0056】
つぎに、この可動式ミラー300の動作について説明する。この可動式ミラー300は、電圧信号を印加して動作させると、可動櫛歯電極42が、矢印Ar3が示す方向に、可動基準面Sに対して略垂直の角度をなすように平行移動する。すると、可動櫛歯電極42とを設けられた可動アームは、トーションバーにより支持されているために、固定基部に固定されたトーションバーの部分を支点として回転運動をする。その結果、金ミラー面43aを有し可動アームに接続したミラー部43も矢印Ar4が示す方向に回転し、可動櫛歯電極42の最大変位時には、図13の下側の図に示すような状態となる。
【0057】
したがって、このような段差櫛歯構造を有する可動式ミラー300も、面内プルインの発生をより確実に抑制できるものとなる。
【0058】
(実施の形態4)
つぎに、本発明の実施の形態4に係る光スイッチ装置について説明する。本実施の形態4に係る光スイッチ装置は、入力した波長多重光信号から所定の波長の光信号を選択し、その光信号の波長ごとに経路を切り換えて出力する波長選択光スイッチ装置である。
【0059】
図14は、本実施の形態4に係る光スイッチ装置の構成を示すブロック図である。図14に示すように、この光スイッチ装置1000は、紙面奥行き方向に配列し、各々が異なる経路の光ファイバ伝送路に接続した4本の入出力光ファイバ51〜54と、入出力光ファイバ51〜54に対して順次配置された、アナモルフィックプリズムペア55と、回折格子56と、集光レンズ57と、λ/4波長板58と、実施の形態1に係る可動式ミラー100と同様の構成を有し、アレイ状に配置された3つの可動式ミラー102〜104とを備えている。さらに、この光スイッチ装置1000は、3つの可動式ミラー102〜104を制御するためのモニタ素子59と制御回路60とを備えている。なお、実際には回折格子56において光路は曲げられるので、アナモルフィックプリズムペア55から可動式ミラー102〜104までの各素子は回折格子56の前後で角度を持って配置されるが、図14においては、簡略化のために直列に配置して示している。
【0060】
つぎに、光スイッチ装置1000の動作について説明する。図15は、図14に示す光スイッチ装置1000の動作を説明する説明図である。なお、図15は、光スイッチ装置1000を図14の方向とは垂直の方向から見た図である。はじめに、入出力光ファイバ51は、或る光ファイバ伝送路を伝送して入力した波長多重光信号OS1をアナモルフィックプリズムペア55に出力する。アナモルフィックプリズムペア55は、波長多重光信号OS1のビーム径を、回折格子56の格子の配列方向に広げて、波長多重光信号OS1が多くの格子に当たるように、波長選択の分解能を高めるようにしている。回折格子56は、入射した波長多重光信号OS1に含まれる所定の波長の光信号OS1aを所定の角度に出力する。集光レンズ57は、λ/4波長板58を通して、光信号OS1aを可動式ミラー102に集光する。
【0061】
可動式ミラー102はそのミラー面によって、集光した光信号OS1aを反射させる。このときの反射光は、反射光信号OS2として、λ/4波長板58、集光レンズ57、回折格子56、アナモルフィックプリズムペア55を順次経由して、入出力光ファイバ52へと入力し、入出力光ファイバ52に接続した光ファイバ伝送路へと出力する。なお、λ/4波長板58は、光信号OS1aと反射光信号OS2との光の偏光状態が互いに直交するように、その偏光状態を変化させる。これによって、アナモルフィックプリズムペア55および回折格子56の偏波依存性を補償するようにしている。
【0062】
また、回折格子56は、波長多重光信号OS1に含まれる他の所定の波長の光信号OS1b、OS1cをそれぞれ他の所定の角度に出力する。各光信号OS1b、OS1cは、それぞれ可動式ミラー103、104で反射され、反射光信号OS3または反射光信号OS4として、λ/4波長板58、集光レンズ57、回折格子56、アナモルフィックプリズムペア55を順次経由して、入出力光ファイバ53または入出力光ファイバ54へと入力し、入出力光ファイバ53または入出力光ファイバ54に接続した光ファイバ伝送路へと出力する。
【0063】
ここで、可動式ミラー102〜104は、モニタ素子59が反射光信号OS2〜OS4の一部を分岐した光の波長および強度をモニタし、このモニタの結果をもとに可動式ミラー102〜104の各ミラー部を独立に可動させることによって、それぞれの反射光信号OS2〜OS4の反射角度が最適になるように制御される。反射光信号OS2〜OS4の分岐は、たとえば入出力光ファイバ51〜54の一部に分岐カプラを設けたり、光スイッチ装置1000内の適当な位置に分岐用のミラーを設けたりすることによって行うことができる。なお、モニタ素子59は、たとえばAWG(Arrayed Waveguide Grating)素子と複数のフォトダイオードとから構成される。
【0064】
この光スイッチ装置1000は、実施の形態1に係る可動式ミラー100と同様の構成を有する可動式ミラー102〜104を備えているので、面内プルインの発生をより確実に抑制できるものとなる。
【0065】
なお、上記実施の形態では、MEMS素子を形成するための材料として、SOI基板を用いているが、絶縁層を介して積層した2つの半導体層を有する他の半導体基板を用いてもよい。また、本発明は、櫛歯電極を噛み合わせた他の構造を形成する場合にも適用することができる。また、基板の材料も他の半導体、金属等の導電性の材質からなるものを用いてもよい。
【0066】
また、上記実施の形態では、MEMS素子は固定櫛歯電極と可動櫛歯電極を複数備えているが、その数は限定されず、固定櫛歯電極と可動櫛歯電極とを少なくとも1組備えていればよい。
【0067】
また、上記実施の形態では、可動基準面を、固定櫛歯電極の延伸方向と配列方向がなす面により規定しているが、可動基準面の規定はこれに限定されず、たとえばMEMS素子を形成するための材料としての基板の主表面により規定したり、固定櫛歯電極の静電引力作用面に垂直な任意の面により規定したりしてもよい。
【0068】
また、上記実施の形態では、固定櫛歯電極と可動櫛歯電極とがいずれも等幅に形成されているが、各櫛歯電極は等幅のものに限らず、櫛歯電極間の静電引力作用面が、可動基準面内において円弧形状を有していればよい。また、各櫛歯電極の円弧形状の中心は、MEMS素子の構造に応じて、可動櫛歯電極の面内回転が発生する際の軸となる部分と一致させることが好ましい。
【0069】
また、上記実施の形態は、可動式ミラーに係るものであるが、本発明に係るMEMS素子は可動式ミラーに限定されず、他の用途にも適用できる。
【0070】
また、上記実施の形態により本発明が限定されるものではない。上記各実施形態の各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。たとえば、実施の形態4に係る光スイッチ装置に、実施の形態2、3に係る可動式ミラーを適用してもよい。
【符号の説明】
【0071】
10 固定基部
11 支持部
11a 固定アーム
12、32、41 固定櫛歯電極
12a、22a 静電引力作用面
13、31 トーションバー
20 可動部
21 可動アーム
22、33、42 可動櫛歯電極
23、43 ミラー部
23a、43a 金ミラー面
51〜54 入出力光ファイバ
55 アナモルフィックプリズムペア
56 回折格子
57 集光レンズ
58 λ/4波長板
59 モニタ素子
60 制御回路
100〜300、102〜104 可動式ミラー
1000 光スイッチ装置
Ar1〜Ar4 矢印
E1〜E4 領域
C 同心円
G1〜G3 間隔
H 貫通パターン孔
L1 支持層
L2 BOX層
L3 活性層
M アラインメントマーク
O 中心
O1、O2 熱酸化膜
OS1 波長多重光信号
OS1a〜OS1c 光信号
OS2〜OS4 反射光信号
R1〜R7 レジスト
S SOI基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定櫛歯電極と可動櫛歯電極とを有するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems、微小電気機械システム)素子、ならびにこれを用いた可動式ミラーおよび光スイッチ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光伝送システムにおいて、波長分割多重(Wavelength Division Multiplexing:WDM)光信号の経路を切り替えるために、光スイッチ装置が使用されている(たとえば特許文献1参照)。このような光スイッチ装置には、光信号の経路を切り替えるために、光の反射方向を変えることができる可動式ミラーが用いられる。そして、このような可動式ミラーでは、静電アクチュエータとしてのMEMS素子を用いてミラーを可動している。
【0003】
静電アクチュエータとしてのMEMS素子には、平行電極構造のもの(たとえば特許文献2参照)や、垂直櫛歯電極構造のもの(たとえば非特許文献1参照)などがある。垂直櫛歯電極構造とは、櫛歯電極の延伸方向および配列方向とは垂直の方向に厚さを有している固定櫛歯電極と可動櫛歯電極とが、所定の間隔を隔てて噛み合うように配置された噛み合わせ構造を有し、電極間に作用する静電引力による可動の方向と、固定櫛歯電極の配列方向とが、角度をなしているものである。垂直櫛歯電極構造のMEMS素子は、電極間に作用する静電引力が強く、また面外プルインが起こりにくいとされている。なお、面外プルインとは、固定櫛歯電極の延伸方向と配列方向とがなす面を可動基準面として、この可動基準面に対して角度をなす方向(すなわち、面外方向)において、MEMS素子を作用させるための復元力を超えて静電引力が作用し、可動櫛歯電極が固定櫛歯電極に吸着してしまう現象のことである。
【0004】
また、垂直櫛歯電極構造のMEMS素子では、面内プルインが問題となる場合がある。面内プルインとは、上述した可動基準面内の方向において可動櫛歯電極が固定櫛歯電極に吸着してしまう現象のことである。このような面内プルインは、可動櫛歯電極および固定櫛歯電極が、MEMS素子の回転軸の軸方向に配列されている場合に問題となりやすい。その理由は、以下の通りである。すなわち、光スイッチ装置において、WDM光信号を構成する各光信号の空間的分離量が数百μm程度であるため、各光信号を反射させるための可動式ミラーの幅も数百μmとされる。そのため、可動式ミラーにおける可動櫛歯電極および固定櫛歯電極が、MEMS素子の回転軸の軸方向に配列されている場合は、この数百μmの幅の中に多数の可動櫛歯電極および固定櫛歯電極を配列するためには、両者の間の間隔を狭くしなければならないためである。
【0005】
これに対して、面内プルインが発生しにくい垂直櫛歯電極構造のMEMS素子が開示されている(たとえば、特許文献3、非特許文献2参照)。特許文献3、非特許文献2に開示される垂直櫛歯電極構造は、Fishbone型の垂直櫛歯電極構造と称される。このFishbone型のMEMS素子では、可動櫛歯および固定櫛歯が、MEMS素子の回転軸と垂直方向に配列しているために、面内プルインの発生を抑制することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−276487号公報
【特許文献2】米国特許第7302131号明細書
【特許文献3】特開2006−162663号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Jin-Ho Lee ,et al., ”Bonding of silicon scanning mirror having vertical comb fingers” J. Micromech. Microeng. Vol.12(2002)pp.644-649
【非特許文献2】Norinao Kouma ,et al., ”Fishbone-shaped vertical comb actuator for dual-axis 1-D analog micromirror array” The 13th International Conference on Solid-State Sensors, Actuators and Microsystems, 2005, 2E4.132
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のFishbone型のMEMS素子においても、可動櫛歯電極を含む可動部が面内で意図せぬ回転をした場合に、可動櫛歯電極と固定櫛歯電極との距離に非対称性が発生してしまい、面内プルインが発生する場合があるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、面内プルインの発生をより確実に抑制できるMEMS素子、ならびにこれを用いた可動式ミラーおよび光スイッチ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るMEMS素子は、所定の間隔を有して配置された固定櫛歯電極と可動櫛歯電極とを備え、前記可動櫛歯電極が可動基準面に対して角度をなす方向に移動するMEMS素子であって、前記固定櫛歯電極および前記可動櫛歯電極の静電引力作用面が、前記可動基準面内において円弧形状を有していることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るMEMS素子は、上記の発明において、前記静電力作用面の円弧形状の中心が、前記可動基準面内において前記可動櫛歯電極が回転する際の回転軸と一致することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るMEMS素子は、上記の発明において、複数の組の前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極とを備え、複数の前記静電力作用面の円弧形状の中心が全て同一であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るMEMS素子は、上記の発明において、前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極とが、前記可動基準面に垂直な方向においてギャップを有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るMEMS素子は、上記の発明において、前記固定櫛歯電極に対して固定され前記可動櫛歯電極の移動の軸となる軸体と、前記軸体に支持され、前記可動櫛歯電極が設けられた可動アームとを備え、前記静電力作用面の円弧形状の中心は、前記軸体と前記可動アームとの交点と一致することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るMEMS素子は、上記の発明において、前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極との間隔が、前記軸体からの離隔距離に応じて大きくなっていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る可動式ミラーは、上記の発明のいずれか一つに記載のMEMS素子と、前記MEMS素子の前記可動櫛歯電極に対して固定されたミラーと、を備えることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る光スイッチ装置は、上記の発明に記載の可動式ミラーを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、固定櫛歯電極および可動櫛歯電極の静電力作用面が、可動基準面内において円弧形状を有しているので、面内プルインの発生をより確実に抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、実施の形態1に係るMEMS素子を備えた可動式ミラーの模式図である。
【図2】図2は、図1に示す可動式ミラーの模式的な平面図である。
【図3】図3は、図2に示す可動式ミラーのA−A線断面図である。
【図4】図4は、図1に示す可動式ミラーの動作を説明する説明図である。
【図5】図5は、図1に示す可動式ミラーの各櫛歯電極の形状を説明する説明図である。
【図6】図6は、比較例として従来の可動式ミラーにおいて面内回転が発生した場合について説明する説明図である。
【図7】図7は、図1に示す可動式ミラーにおいて面内回転が発生した場合について説明する説明図である。
【図8】図8は、図1に示す可動式ミラーの製造方法を説明する説明図である。
【図9】図9は、図1に示す可動式ミラーの製造方法を説明する説明図である。
【図10】図10は、図1に示す可動式ミラーの製造方法を説明する説明図である。
【図11】図11は、図1に示す可動式ミラーの製造方法を説明する説明図である。
【図12】図12は、実施の形態2に係る可動式ミラーの構成および動作を説明する説明図である。
【図13】図13は、実施の形態3に係る可動式ミラーの構成および動作を説明する説明図である。
【図14】図14は、実施の形態4に係る光スイッチ装置の構成を示すブロック図である。
【図15】図15は、図14に示す光スイッチ装置の動作を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して本発明に係るMEMS素子、可動式ミラー、および光スイッチ装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。さらに、図面は模式的なものであり、各層の厚みと幅との関係、各層の比率などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る、静電アクチュエータとしてのMEMS素子を備えた可動式ミラー100の模式図である。また、図2は、図1に示す可動式ミラー100の模式的な平面図である。また、図3は、図2に示す可動式ミラー100のA−A線断面図である。
【0022】
図1〜図3を用いて可動式ミラー100の構成について説明する。まず、図1に示すように、この可動式ミラー100は、SOI(Silicon On Insulator)基板を材料にして形成された3層からなる基板を利用して形成されている。その3層基板は、Siからなる裏面導電層としての支持層L1、SiO2からなる絶縁層としてのBox(Buried oxide)層L2、Siからなる表面導電層としての活性層L3で構成される。なお、各層の厚さについては、支持層L1が140μm、Box層L2が1μm、活性層L3が60μmであるが、特に限定はされない。
【0023】
そして、可動式ミラー100は、固定基部10と、可動部20とを備えている。固定基部10は、支持層L1、Box層L2、および活性層L3の積層構造からなる。一方、可動部20は活性層L3のみからなる。
【0024】
つぎに、図2に示すように、固定基部10は、2つの固定アーム11aを有するコの字型の支持部11と、支持部11の2つの固定アーム11aの内側に、それぞれ6本ずつ設けられた固定櫛歯電極12と、2つの固定アーム11aの先端部間に架け渡すように設けられた軸体としてのトーションバー13とを備える。トーションバー13のサイズは、たとえば長さ約75μm、幅約5μm、厚さ約4μmであるが、特に限定はされない。なお、固定櫛歯電極12のサイズは、たとえば全体の幅約10μm、長さ約60μmであるが、その形状については後述する。
【0025】
また、可動部20は、トーションバー13に支持され、トーションバー13から2つの固定アーム11aに略平行に延伸した可動アーム21と、可動アーム21の一端側の両側に6本ずつ設けられた可動櫛歯電極22と、可動アーム21の他端側に設けられたミラー部23とを備える。なお、可動櫛歯電極22のサイズは、たとえば全体の幅約10μm、長さ約60μmであるが、その形状については後述する。
【0026】
また、図3に示すように、可動櫛歯電極22は、固定櫛歯電極12と所定の間隔G1を有して噛み合うように配置されている。間隔G1の値はたとえば10μmである。ミラー部23の幅は約100μm、長さは約500μmである。また、ミラー部23の上面23aには金ミラーが成膜されている(以下、金ミラー面23aと称する)。
【0027】
すなわち、この可動式ミラー100は、固定櫛歯電極12を備える固定基部10と可動櫛歯電極22を備える可動部20とからなるMEMS素子に、可動櫛歯電極22に対して固定された金ミラー面23aが形成されることによって、可動式ミラーとして構成されている。
【0028】
なお、以下では、固定櫛歯電極12の延伸方向と配列方向がなす面およびこれに平行な面、すなわち、図2における紙面に平行な面を可動基準面とし、図3のように符号Sで示すものとする。固定櫛歯電極12と前記可動櫛歯電極22とは、可動基準面Sに垂直な方向において、Box層L2の厚さの分だけギャップを有しており、段差櫛歯構造を形成している。
【0029】
つぎに、この可動式ミラー100の動作について説明する。図4は、可動式ミラー100の動作を説明する説明図である。なお、図4は、可動式ミラー100を側面側からみたものである。
【0030】
まず、Box層L2により絶縁されている活性層L3と支持層L1との間に電圧信号を印加する。すると、活性層L3からなる可動櫛歯電極22と、固定櫛歯電極12との間に静電引力が作用する。なお、この静電引力は、特に、各固定櫛歯電極12の側面である静電引力作用面12aと、これに対向する各可動櫛歯電極22の側面である静電引力作用面22aと間に作用する。これによって、可動櫛歯電極22は固定櫛歯電極12に引き寄せられる。
【0031】
ここで、可動櫛歯電極22が設けられた可動アーム21は、固定櫛歯電極12に対して固定されたトーションバー13に支持されている。その結果、可動櫛歯電極22が引き寄せられると、ミラー部23も含めた可動部20の全体がトーションバー13を軸として、矢印Ar1が示す方向に、所定の角度範囲内で回転する。この回転の角度は、活性層L3と支持層L1との間に印加する電圧信号の大きさに応じたものとなる。なお、図4中の破線で示した要素は、可動部20が4度だけ回転するように動作させた状態における、可動櫛歯電極22およびミラー部23の位置を示したものである。このように、可動櫛歯電極22は可動基準面Sに対して角度をなす方向に移動する。
【0032】
また、可動部20が回転した際には、トーションバー13はねじれるため、内部応力を蓄える。したがって、電圧信号の印加を止めると、可動部20は、トーションバー13の内部応力を復元力として電圧信号印加前の位置へと復元する。このようにして、この可動式ミラー100は、固定櫛歯電極12と可動櫛歯電極22とを備えるMEMS素子の静電アクチュエータとしての作用によって、金ミラー面23aの角度を所望の角度に可動することができる。
【0033】
つぎに、固定櫛歯電極12および可動櫛歯電極22の形状について説明する。図5は、可動式ミラー100の各櫛歯電極の形状を説明する説明図である。なお、図5において、可動式ミラー100は可動基準面Sに垂直な方向からみたものである。図5に示すように、各固定櫛歯電極12と各可動櫛歯電極22とは、いずれも、可動基準面S内において、トーションバー13と可動アーム21との交点を中心Oとした各同心円Cに沿って、等幅であり、かつ円弧形状を有するように形成されている。これによって、この可動式ミラー100は、面内プルインの発生をより確実に抑制できるものとなっている。
【0034】
以下、具体的に説明する。まず、本実施の形態1に係る可動式ミラー100のような構造では、活性層L3と支持層L1との間に電圧信号を印加したときに、その構造のわずかな非対称性や摂動などによって、可動部20が可動基準面S内で回転(面内回転)する場合がある。この場合、回転軸は、たとえばトーションバー13と可動アーム21との交点となる。
【0035】
図6は、比較例として、可動式ミラー100と略同様の構造であるが、固定櫛歯電極および可動櫛歯電極が直線状であるような従来の可動式ミラーにおいて、面内回転が発生した場合について説明する説明図である。図6に示すように、固定アーム71に設けられた固定櫛歯電極72に対して、可動櫛歯電極82が設けられた可動アーム81が、破線で示したようにわずかでも面内回転すると、固定櫛歯電極72の静電引力作用面72aと可動櫛歯電極82の静電引力作用面82aとの間隔が近づく。その結果、静電引力はその回転をますます強める方向に働くこととなり、さらに可動櫛歯電極82と可動アーム81とを回転させる。すなわち、静電引力によって面内回転に正のフィードバックが働くため、可動櫛歯電極82は固定櫛歯電極72にますます近づき、面内プルインが発生しやすくなる。
【0036】
これに対して、図7は、可動式ミラー100において面内回転が発生した場合について説明する説明図である。図7に示すように、固定アーム11aに設けられた固定櫛歯電極12の静電引力作用面12aと、可動アーム21に設けられた可動櫛歯電極22の静電引力作用面22aとは、いずれも図5に示す中心Oを中心とする同心円に沿った円弧形状を有している。
【0037】
したがって、固定櫛歯電極12に対して、可動櫛歯電極22および可動アーム21が、破線で示したように面内回転しても、静電引力作用面22aは、当該同心円上を移動するだけである。このため、静電引力作用面12aと静電引力作用面22aとの間隔G1は殆ど変化しない。その結果、静電引力によって回転に正のフィードバックが働かないため、可動櫛歯電極22が固定櫛歯電極12にますます近づくようなことは発生しないので、面内プルインの発生がより確実に抑制されるのである。
【0038】
なお、この可動式ミラー100の活性層L3と支持層L1との間に200Vの電圧を印加するシミュレーション計算を行なったところ、可動部20は、トーションバー13を中心軸として、実用的な回転角度である約6度だけ回転し、可動櫛歯電極22は最大で40μm程度移動した。これに対して、可動基準面Sにおける可動櫛歯電極22の変位は最大で1μm程度であり、面内回転は殆ど起こっていないことが確認された。
【0039】
以上説明したように、本実施の形態1に係る可動式ミラー100は、面内プルインの発生をより確実に抑制できるものとなる。
【0040】
なお、本実施の形態1では、固定櫛歯電極12および可動櫛歯電極22を等幅の形状としているので、櫛歯をより多数、高密度で配置することができるため、小型化が可能である。また、櫛歯が先細形状となっている場合と比較して先端部に欠けが発生しにくいため、製造歩留まりがより高いものとなる。
【0041】
(製造方法)
つぎに、本実施の形態1に係る可動式ミラー100の製造方法の一例について説明する。ここでは、金ミラー面23aの成膜について記載しないが、必要に応じて適宜そのプロセスを行う。以下では、図3に示す可動式ミラー100のA−A線断面の端面に則して説明を行なうものとする。
【0042】
図8〜図11は、可動式ミラー100の製造方法を説明する説明図である。はじめに、図8に示すように、Siからなる支持層L1、SiO2からなるBox層L2、およびSiからなる活性層L3を備える、たとえば直径4インチ(101.6mm)のSOI基板Sを準備する。つぎに、支持層L1、活性層L3の表面に、たとえば厚さ1.5μm程度の酸化膜O1、O2をそれぞれ形成する。以下、活性層L3側の表面を上面、支持層L1側の表面を下面と適宜記載する。
【0043】
つぎに、上面にポジ型のレジストを塗布し、露光用マスクを用いて露光および現像を行う。そのレジストパターンを利用して、上面の酸化膜O2のSiO2エッチングを行う。そして、上面に塗布したレジストを剥離する。図9の上側の図は、上面に塗布したレジストの剥離後のSOI基板Sを示している。このとき、酸化膜O2をエッチングする領域は、トーションバー13を形成すべき付近の領域である。
【0044】
同様に、下面にポジ型のレジストを塗布し、露光用マスクを用いて露光および現像を行う。そのレジストパターンを利用して、下面の酸化膜O1のSiO2エッチングを行う。そして、下面に塗布したレジストを剥離する。図9の下側の図は、下面に塗布したレジストの剥離後のSOI基板Sを示している。このとき、酸化膜O1をエッチングする際は、固定櫛歯電極12と固定基部10の領域の酸化膜O1が残るようにする。
【0045】
つぎに、図10に示すように、上面に再びポジ型のレジストを塗布し、露光用マスクを用いて露光および現像を行い、レジストパターンR1を形成する。つぎに、このレジストパターンR1を利用して、上面の酸化膜O2のSiO2エッチングを行う。このとき、酸化膜O2をエッチングする際は、支持部11とトーションバー13と可動アーム21と可動櫛歯電極22とミラー部23の領域の酸化膜O2が残るようにする。
【0046】
つぎに、先ほどのレジストパターンR1を利用して、活性層L3のドライエッチングを行い、レジストパターンR1を剥離する。なお、ドライエッチングについては、サイドエッチングを防止するために、反応性ガスとしてSF6ガスやCF系ガスを用いた誘起結合プラズマによる反応性イオンエッチング(Inductively Coupled Plasma-Reactive Ion Etching、ICP−RIE)を用いることが好ましい。また、反応性ガスにO2ガスを加えるいわゆるBosch法を用いれば、サイドエッチングがさらに防止され、パターン孔を高精度で形成できるのでさらに好ましい。
【0047】
つぎに、図11に示すように、上面の酸化膜O2のパターンを用いて、トーションバー13が所望の厚さになるように活性層L3のドライエッチングを行う。ここでは、トーションバー13に該当する領域の活性層L3がエッチングされる。
【0048】
つぎに、下面の酸化膜O1のパターンを用いて、支持層L1のドライエッチングを行う。そして、上面の酸化膜O2と、下面の酸化膜O1と、Box層L2の外に露出している領域のSiO2をエッチングし、余分な酸化膜の除去と可動部分のリリースを行う。以上説明したプロセスによって、本実施の形態1に係る可動式ミラー100を製造することができる。
【0049】
(実施の形態2)
つぎに、本発明の実施の形態2に係る可動式ミラーについて説明する。本実施の形態2に係る可動式ミラーは、実施の形態1に係る可動式ミラー100と略同様の構成を有するが、固定櫛歯電極と可動櫛歯電極との数が多く、かつ固定櫛歯電極と可動櫛歯電極との間隔が、回転軸となるトーションバーからの離隔距離に応じて大きくなっている点が異なるものである。以下では、かかる相違点について説明する。
【0050】
図12は、本実施の形態2に係る可動式ミラー200の構成および動作を説明する説明図である。なお、図12は、可動式ミラー200を側面側からみたものである。図12に示すように、この可動式ミラー200では、可動部の回転軸となるトーションバー31に近い固定櫛歯電極32−1と可動櫛歯電極33−1との間隔G2は10μmである。そして、固定櫛歯電極32と可動櫛歯電極33との間隔はトーションバー31からの離隔距離に略比例して大きくなっており、トーションバー31からもっとも遠い固定櫛歯電極32−11と可動櫛歯電極33−11との間隔G3は15μmとなっている。
【0051】
この可動式ミラー200は、可動式ミラー100と同様に、電圧信号を印加して動作させると、可動部がトーションバー31を回転軸として回転し、可動櫛歯電極33が、矢印Ar2が示す方向に、可動基準面Sに対して角度をなすように移動する。なお、図12中の破線で示した要素は、可動部が4度だけ回転するように動作させた状態における、可動櫛歯電極33の位置を示したものである。
【0052】
ここで、可動櫛歯電極33は、トーションバー31から離隔した位置にあるものほど、より長い弧を描くように移動するため、トーションバー31側に位置する固定櫛歯電極32に対してより近づくように移動する。これに対して、この可動式ミラー200では、固定櫛歯電極32と可動櫛歯電極33との間隔がトーションバー31からの離隔距離に略比例して大きくなっているので、動作時の固定櫛歯電極32と可動櫛歯電極33との間隔を、トーションバー31からの距離によらず同程度とすることができる。その結果、固定櫛歯電極32と可動櫛歯電極33との間に、位置によらず均等な静電引力を作用させることができる。
【0053】
したがって、本実施の形態2に係る可動式ミラー200は、面内プルインの発生をより確実に抑制できるとともに、面外プルインもより確実に抑制できるものとなる。
【0054】
(実施の形態3)
つぎに、本発明の実施の形態3に係る可動式ミラーについて説明する。本実施の形態3に係る可動式ミラーは、実施の形態1、2に係る可動式ミラー100、200とは異なり、固定櫛歯電極と可動櫛歯電極とが、可動基準面に垂直な方向においてギャップを有さないような段差櫛歯構造を有するMEMS素子を備えるものである。
【0055】
図13は、本実施の形態3に係る可動式ミラー300の構成および動作を説明する説明図である。なお、図13は、可動式ミラー300を側面側からみたものである。図13の上側の図に示すように、この可動式ミラー300は、固定櫛歯電極41と可動櫛歯電極42とが、可動基準面Sに垂直な方向においてギャップを有さないような段差櫛歯構造を有するMEMS素子を備えるものである。なお、この可動式ミラー300は、可動基準面Sに垂直な方向から見ると、図2に示す可動式ミラー100と同様な構造を有している。
【0056】
つぎに、この可動式ミラー300の動作について説明する。この可動式ミラー300は、電圧信号を印加して動作させると、可動櫛歯電極42が、矢印Ar3が示す方向に、可動基準面Sに対して略垂直の角度をなすように平行移動する。すると、可動櫛歯電極42とを設けられた可動アームは、トーションバーにより支持されているために、固定基部に固定されたトーションバーの部分を支点として回転運動をする。その結果、金ミラー面43aを有し可動アームに接続したミラー部43も矢印Ar4が示す方向に回転し、可動櫛歯電極42の最大変位時には、図13の下側の図に示すような状態となる。
【0057】
したがって、このような段差櫛歯構造を有する可動式ミラー300も、面内プルインの発生をより確実に抑制できるものとなる。
【0058】
(実施の形態4)
つぎに、本発明の実施の形態4に係る光スイッチ装置について説明する。本実施の形態4に係る光スイッチ装置は、入力した波長多重光信号から所定の波長の光信号を選択し、その光信号の波長ごとに経路を切り換えて出力する波長選択光スイッチ装置である。
【0059】
図14は、本実施の形態4に係る光スイッチ装置の構成を示すブロック図である。図14に示すように、この光スイッチ装置1000は、紙面奥行き方向に配列し、各々が異なる経路の光ファイバ伝送路に接続した4本の入出力光ファイバ51〜54と、入出力光ファイバ51〜54に対して順次配置された、アナモルフィックプリズムペア55と、回折格子56と、集光レンズ57と、λ/4波長板58と、実施の形態1に係る可動式ミラー100と同様の構成を有し、アレイ状に配置された3つの可動式ミラー102〜104とを備えている。さらに、この光スイッチ装置1000は、3つの可動式ミラー102〜104を制御するためのモニタ素子59と制御回路60とを備えている。なお、実際には回折格子56において光路は曲げられるので、アナモルフィックプリズムペア55から可動式ミラー102〜104までの各素子は回折格子56の前後で角度を持って配置されるが、図14においては、簡略化のために直列に配置して示している。
【0060】
つぎに、光スイッチ装置1000の動作について説明する。図15は、図14に示す光スイッチ装置1000の動作を説明する説明図である。なお、図15は、光スイッチ装置1000を図14の方向とは垂直の方向から見た図である。はじめに、入出力光ファイバ51は、或る光ファイバ伝送路を伝送して入力した波長多重光信号OS1をアナモルフィックプリズムペア55に出力する。アナモルフィックプリズムペア55は、波長多重光信号OS1のビーム径を、回折格子56の格子の配列方向に広げて、波長多重光信号OS1が多くの格子に当たるように、波長選択の分解能を高めるようにしている。回折格子56は、入射した波長多重光信号OS1に含まれる所定の波長の光信号OS1aを所定の角度に出力する。集光レンズ57は、λ/4波長板58を通して、光信号OS1aを可動式ミラー102に集光する。
【0061】
可動式ミラー102はそのミラー面によって、集光した光信号OS1aを反射させる。このときの反射光は、反射光信号OS2として、λ/4波長板58、集光レンズ57、回折格子56、アナモルフィックプリズムペア55を順次経由して、入出力光ファイバ52へと入力し、入出力光ファイバ52に接続した光ファイバ伝送路へと出力する。なお、λ/4波長板58は、光信号OS1aと反射光信号OS2との光の偏光状態が互いに直交するように、その偏光状態を変化させる。これによって、アナモルフィックプリズムペア55および回折格子56の偏波依存性を補償するようにしている。
【0062】
また、回折格子56は、波長多重光信号OS1に含まれる他の所定の波長の光信号OS1b、OS1cをそれぞれ他の所定の角度に出力する。各光信号OS1b、OS1cは、それぞれ可動式ミラー103、104で反射され、反射光信号OS3または反射光信号OS4として、λ/4波長板58、集光レンズ57、回折格子56、アナモルフィックプリズムペア55を順次経由して、入出力光ファイバ53または入出力光ファイバ54へと入力し、入出力光ファイバ53または入出力光ファイバ54に接続した光ファイバ伝送路へと出力する。
【0063】
ここで、可動式ミラー102〜104は、モニタ素子59が反射光信号OS2〜OS4の一部を分岐した光の波長および強度をモニタし、このモニタの結果をもとに可動式ミラー102〜104の各ミラー部を独立に可動させることによって、それぞれの反射光信号OS2〜OS4の反射角度が最適になるように制御される。反射光信号OS2〜OS4の分岐は、たとえば入出力光ファイバ51〜54の一部に分岐カプラを設けたり、光スイッチ装置1000内の適当な位置に分岐用のミラーを設けたりすることによって行うことができる。なお、モニタ素子59は、たとえばAWG(Arrayed Waveguide Grating)素子と複数のフォトダイオードとから構成される。
【0064】
この光スイッチ装置1000は、実施の形態1に係る可動式ミラー100と同様の構成を有する可動式ミラー102〜104を備えているので、面内プルインの発生をより確実に抑制できるものとなる。
【0065】
なお、上記実施の形態では、MEMS素子を形成するための材料として、SOI基板を用いているが、絶縁層を介して積層した2つの半導体層を有する他の半導体基板を用いてもよい。また、本発明は、櫛歯電極を噛み合わせた他の構造を形成する場合にも適用することができる。また、基板の材料も他の半導体、金属等の導電性の材質からなるものを用いてもよい。
【0066】
また、上記実施の形態では、MEMS素子は固定櫛歯電極と可動櫛歯電極を複数備えているが、その数は限定されず、固定櫛歯電極と可動櫛歯電極とを少なくとも1組備えていればよい。
【0067】
また、上記実施の形態では、可動基準面を、固定櫛歯電極の延伸方向と配列方向がなす面により規定しているが、可動基準面の規定はこれに限定されず、たとえばMEMS素子を形成するための材料としての基板の主表面により規定したり、固定櫛歯電極の静電引力作用面に垂直な任意の面により規定したりしてもよい。
【0068】
また、上記実施の形態では、固定櫛歯電極と可動櫛歯電極とがいずれも等幅に形成されているが、各櫛歯電極は等幅のものに限らず、櫛歯電極間の静電引力作用面が、可動基準面内において円弧形状を有していればよい。また、各櫛歯電極の円弧形状の中心は、MEMS素子の構造に応じて、可動櫛歯電極の面内回転が発生する際の軸となる部分と一致させることが好ましい。
【0069】
また、上記実施の形態は、可動式ミラーに係るものであるが、本発明に係るMEMS素子は可動式ミラーに限定されず、他の用途にも適用できる。
【0070】
また、上記実施の形態により本発明が限定されるものではない。上記各実施形態の各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。たとえば、実施の形態4に係る光スイッチ装置に、実施の形態2、3に係る可動式ミラーを適用してもよい。
【符号の説明】
【0071】
10 固定基部
11 支持部
11a 固定アーム
12、32、41 固定櫛歯電極
12a、22a 静電引力作用面
13、31 トーションバー
20 可動部
21 可動アーム
22、33、42 可動櫛歯電極
23、43 ミラー部
23a、43a 金ミラー面
51〜54 入出力光ファイバ
55 アナモルフィックプリズムペア
56 回折格子
57 集光レンズ
58 λ/4波長板
59 モニタ素子
60 制御回路
100〜300、102〜104 可動式ミラー
1000 光スイッチ装置
Ar1〜Ar4 矢印
E1〜E4 領域
C 同心円
G1〜G3 間隔
H 貫通パターン孔
L1 支持層
L2 BOX層
L3 活性層
M アラインメントマーク
O 中心
O1、O2 熱酸化膜
OS1 波長多重光信号
OS1a〜OS1c 光信号
OS2〜OS4 反射光信号
R1〜R7 レジスト
S SOI基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔を有して配置された固定櫛歯電極と可動櫛歯電極とを備え、前記可動櫛歯電極が可動基準面に対して角度をなす方向に移動するMEMS素子であって、
前記固定櫛歯電極および前記可動櫛歯電極の静電引力作用面が、前記可動基準面内において円弧形状を有していることを特徴とするMEMS素子。
【請求項2】
前記静電力作用面の円弧形状の中心が、前記可動基準面内において前記可動櫛歯電極が回転する際の回転軸と一致することを特徴とする請求項1に記載のMEMS素子。
【請求項3】
複数の組の前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極とを備え、複数の前記静電力作用面の円弧形状の中心が全て同一であることを特徴とする請求項2に記載のMEMS素子。
【請求項4】
前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極とが、前記可動基準面に垂直な方向においてギャップを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のMEMS素子。
【請求項5】
前記固定櫛歯電極に対して固定され前記可動櫛歯電極の移動の軸となる軸体と、前記軸体に支持され、前記可動櫛歯電極が設けられた可動アームとを備え、前記静電力作用面の円弧形状の中心は、前記軸体と前記可動アームとの交点と一致することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のMEMS素子。
【請求項6】
前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極との間隔が、前記軸体からの離隔距離に応じて大きくなっていることを特徴とする請求項5に記載のMEMS素子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一つに記載のMEMS素子と、
前記MEMS素子の前記可動櫛歯電極に対して固定されたミラーと、
を備えることを特徴とする可動式ミラー。
【請求項8】
請求項7に記載の可動式ミラーを備えることを特徴とする光スイッチ装置。
【請求項1】
所定の間隔を有して配置された固定櫛歯電極と可動櫛歯電極とを備え、前記可動櫛歯電極が可動基準面に対して角度をなす方向に移動するMEMS素子であって、
前記固定櫛歯電極および前記可動櫛歯電極の静電引力作用面が、前記可動基準面内において円弧形状を有していることを特徴とするMEMS素子。
【請求項2】
前記静電力作用面の円弧形状の中心が、前記可動基準面内において前記可動櫛歯電極が回転する際の回転軸と一致することを特徴とする請求項1に記載のMEMS素子。
【請求項3】
複数の組の前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極とを備え、複数の前記静電力作用面の円弧形状の中心が全て同一であることを特徴とする請求項2に記載のMEMS素子。
【請求項4】
前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極とが、前記可動基準面に垂直な方向においてギャップを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のMEMS素子。
【請求項5】
前記固定櫛歯電極に対して固定され前記可動櫛歯電極の移動の軸となる軸体と、前記軸体に支持され、前記可動櫛歯電極が設けられた可動アームとを備え、前記静電力作用面の円弧形状の中心は、前記軸体と前記可動アームとの交点と一致することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のMEMS素子。
【請求項6】
前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極との間隔が、前記軸体からの離隔距離に応じて大きくなっていることを特徴とする請求項5に記載のMEMS素子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一つに記載のMEMS素子と、
前記MEMS素子の前記可動櫛歯電極に対して固定されたミラーと、
を備えることを特徴とする可動式ミラー。
【請求項8】
請求項7に記載の可動式ミラーを備えることを特徴とする光スイッチ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−180534(P2011−180534A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47120(P2010−47120)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】
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